• 戦闘

優しさが招いた悲劇

マスター:Lute

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在8人 / 4~8人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2016/07/26 15:00
リプレイ完成予定
2016/08/04 15:00

オープニング

 少女は優しかった。
 両親や村人にばかりではない、家畜や植物、時には虫にまで、その思いやりは及んだ。
 そんな彼女が、薄汚れたズタボロのそれを見て、同情心を抱いてしまったことを、誰が責められるだろう。
 体毛に隠れて目立たないが、横たわるその生き物の体躯は、枯れ枝のように痩せ細っている。
 地面に四肢を投げ出し、ピクリとも動かない。
「あ、あの……」
 恐る恐る声をかけると、僅かに耳が動いた。
 生きているのだ。少女が安堵すると同時に、毛むくじゃらが地面に手をつく。
 だが、身体を半分ほど持ち上げたところで、再び倒れ伏してしまった。
 どうやら、起き上がる力すら残っていないらしい。
 ぐる、と音が鳴った。ぐるるるるる。威嚇の声ではない、それは生き物の腹から聞こえる。つまり、空腹を知らせるサインだ。
「よ、良かった! まだ息がある! 待っててね、すぐに食べ物を持ってくるから」
 家から持ち出した食料を与えると、毛むくじゃらは無我夢中で食らいついた。
 今にも潰えそうな命を救う。そんな使命感に駆られ、少女は大人達に隠れ、野良犬に餌をあげるように、食べ物を調達し続けた。
 それから数日間で、毛むくじゃらはみるみる回復した。
 目には生気が宿り、干からびた身体は張りを取り戻し、元気に跳ねまわるようにさえなっていった。
 そこでようやく、少女は違和感を覚えた。始めは野良犬だと思っていた、それの正体についてだ。
 顔は犬のものと大差は無いが、細長い手足を器用に使い、二つの足で立ち、歩く。鳴き声は独特で、どこか規則性すら感じさせる。
 都市部から離れた、平穏な、田舎の農村に生まれ育った少女は、コボルドの姿形、そして習性について、全く無知であった。

●月日は流れ
 少女は、コボルドを物置に匿っていた。
 長らく使われていないそこなら、人目につくこともないだろう。そう考えての事だった。
 一週間ほど経って、コボルドが自力で動き回れるようになると、数日後、その姿は消えていた。
 初めの内、少女は悲しんだが、すぐに気を取りなおした。
 野に帰れるほどに元気になったのだ、ということを喜び、それからしばらくの間は、今まで通りの生活を続けた。
 コボルド達が大群で押し寄せる、その日までは。

 少女が匿っていたコボルドは、体力を回復させると、元の群れへと戻っていった。
 以前その殆どを討伐され、生き残っていたのは数匹に過ぎない。
 しかし、その数匹は全て『身籠って』いた。
 時が経つと、その数は倍以上に膨れ上がった。いずれも既に成長し、立派に『狩り』を行えるようになっている。
 だが、数が増えたことで、彼らは飢えに苦しむこととなった。
 周辺に生息する、少ない野生動物を狩って、これまで食い繋いできたが、それも限界が近い。
 そうした飢餓の中で、群れの一匹は思い出した。思い出してしまった。
 食料を分けてくれたあの少女と、村のことを。

「う、嘘……違う、私、こんなの!」
 自らの起こした惨劇に、少女はその場に座り込み、動けないでいた。
 目の前では、無数の血と悲鳴とが散乱している。
「家の中に隠れろ! 早く!」「バリケードを作れ!」
「お父さん! お母さーん!」「嫌、助けてえ!」「畜生、なんだってこんなことに!」
 余りにも突然の出来事だった。
 数えるのも億劫になる程の、夥しいコボルドの群れが、村中の作物を、家畜を、あらゆる食料を漁ったのが始まりだ。
 村人達がそれを止めようとすれば、コボルド達は彼らに牙を剥き、襲いかかった。
 それから先は、一方的な略奪だ。
 のどかな農村に、戦いに長けた人物など居なかった。村人達は皆、自宅に閉じこもり、バリケード、と呼ぶには余りにも粗末な防護柵を張り、自分達に被害が及ばぬよう、ただ祈ることしか出来ない。
「私……ごめんなさい、私のせいだ、ごめんなさい!」
「落ち着きなさい! さあリゼ、家の中へ入るんだ」
 泣き喚く少女も、その中の一人だ。彼女は両親に連れられ、家族と共に家の中へと逃げ込んだ。外では無慈悲な殺戮が続いている。
 全て自分の責任だ、と少女は思った。
 あの時見つけた一匹に、食料を与えなければ、こんなことにはならなかった。村が襲われることも、大勢の人々が死ぬことも、そして自身が恐怖に怯えることも、無かった筈だ。
 しかし、幼い少女はこうも思った。
 この惨状が、全て自分の招いた事であるならば、自分は、ここでこうしてただ震えているだけでいいのだろうか。
 家の外では今も誰かが傷付いているかも知れない。
 コボルド達に踏み入られ、略奪を受けている家族も居るかも知れない。
 今こうしている間にも、仲良くしていた子供たちが、優しくしてくれた大人達が、危険に脅かされているのだ。
 だとすれば。
 考えるや否や、少女は両親の静止も振り切り、家を飛び出していた。
 血に濡れた土の上を、叫びながらひた走る。
 状況を打破出来る力など、当然持っていない。
 だが、助けを求めることぐらいは、自分にも出来る筈だ。なら、やらなければ。それが償いになるとは思っていなかったが、それでも少女は、何かをせずには居られなかった。

 走り続けた少女が町に辿り着き、ハンターズソサエティに依頼を出したのは、それから三日後のことだ。

解説

●目的
 村中に入り込んだ、大量のコボルドの駆除が目的です。
 その数は、確認出来ているだけで三十匹以上。まともに相手をすると苦労するかも知れません。
 早く問題を解決すれば、その分被害は食い止められます。逆に時間がかかり過ぎれば、コボルド達を倒しても、住民は全滅、ということにもなりかねません。

●状況
 ・村の面積はとても小さく、探索するだけなら三十分程度で回れます。
 ・コボルドは数匹で固まって行動しています。最低五匹で動いているので、一匹ずつおびき寄せる、ということは難しそうです。
 ・村は既に半壊しています。廃墟となった家が数軒あり、そこは既にコボルドの住処となっています。
 ・コボルド達の主な拠点、司令塔となっているのは、少女が最初に匿っていた物置きです。当然そこには、他より多くのコボルドがひしめいています。
 ・家屋は全て木造で、大して頑丈ではありません。まだ襲われていない民家の中には、立て籠もった村人達が居ます。
 ・ハンター達の後ろから、依頼主の少女が同行します。戦闘能力は皆無ですが、攻撃を受けることもありません。

マスターより

初めまして。
新しくマスターを努めさせていただくことになりました、Luteと申します。

今回の依頼は、「一匹見たら三十匹は居ると思え」でお馴染みの、コボルド達が相手です。
最初は「一匹見たら~」の下りをタイトルにしようと思ってたんですが、予想外にオープニングがシリアスになったので、急遽取りやめました。

いくらコメディを書こうとしても、内容が重くなっていく傾向にあります。
どうにかライトな物も書けるようになりたいので、これから精進していきます。

どうぞ、よろしくお願い致します。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2016/08/04 00:28

参加者一覧

  • ガーディアン
    那月 蛍人(ka1083
    人間(蒼)|25才|男性|聖導士
  • 狂戦士
    バルバロス(ka2119
    ドワーフ|75才|男性|霊闘士
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェル(ka3590
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 無類の猫好き
    鹿島 雲雀(ka3706
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 刃の先に見る理想
    ブレナー ローゼンベック(ka4184
    人間(蒼)|14才|男性|闘狩人
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/23 13:34:29
アイコン 作戦相談卓
玉兎 小夜(ka6009
人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/07/26 01:19:48