ゲスト
(ka0000)
【猫譚】誰もが幸せになれる道
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
関連ユニオン
アム・シェリタ―揺籃館―- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加人数
- 現在6人 / 4~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- プレイング締切
- 2016/10/24 22:00
- リプレイ完成予定
- 2016/11/02 22:00
オープニング
※このシナリオは原則として戦闘が発生しない日常的なシナリオとして設定されています。
●
その存在は、如何なる書物にも記されてはいないと、システィーナ・グラハム(kz0020)は確信をもって言える。千年王国の二つ名は飾りではない。それでも、システィーナは《彼女》を知らなかった。
柔らかく敷かれた草のベッド。雨露をしのぐように工夫された枝々。自らに傅くユグディラ達の情愛に包まれて、身を横たえている――否。今は、其の身を僅かに起こしてシスティーナを見つめている、高貴なるユグディラを。
王女の胸の裡で、思考が巡る。千年と、次の千年を背負う王女にとって、その懸念は無視できないものだ。
(……彼女の存在を、誰も知らなかった……?)
違う、と。システィーナは根拠無く、そう思った。それは、《彼女》の視線に籠められた、確かな感情に引き出された、彼女の直感である。
もし、それが正しいのならば。
「……お初にお目にかかります。私は、グラズヘイム王国、アレクシウス王が第一王女、システィーナ・グラハムと申します」
正しく、礼をして、システィーナはその視線に応えた。そうして、待つ。
《妾は》
殷々と、音を曳いて――確かに、聞こえた。脳裏に響く、威厳ある女性の声。
《妾は、『女王』》《この世界に在る、放浪猫たちの『女王』》
その身体は、弱り切っているように見えた。それでも、その声には確かな力を感じた。旧くより生きる、大樹のような深い音色だった。
《グラハムに連なる人の仔よ》《よく、此処まで来た》
――もし、自分の直感が正しいのならば。
再び礼をしながら、システィーナは、こう思った。
(……隠蔽されていたんですね。貴女の存在は)
そのことが少女の薄い胸の奥で沈殿していくのを感じた。この先で、自分は何かを知ることになる、という苦い確信を。
●
《システィーナ・グラハム》《王女たるそなたに、妾はまず、伝えねばならぬ》
猫にしてはやや大柄な彼女は、それでも、やせ細っているように見えた。細い体毛のしたで薄い肋骨がその呼吸に合わせて上下しているさまが見て取れる。
「……はい」
どうか、無理をなさらないで。
そう伝えたかった。でも、それは出来ない。そのためにシスティーナは此処に来たのではなく、そのために、《女王》はシスティーナと対話の機会を設けたわけではない。
これから、未来の話をする。そのために、彼女たちは此処に居るのだから。
《――伝える》《理解せよ》
「きゃっ!」
瞬後のことだった。
王女の頭の中で、何かが弾けた。いや、爆発に近しい。奔流だった。思考と、文字と、光景と――感情が激流となって《システィーナ・グラハム》をかき乱す。
「……こ、……これっ、は……っ?」
断片となった映像の連なりを意識する。システィーナはそれを識っている。知っていく。連続される風景に、いつしか言葉が添えられていた。自らの裡から湧き出る言葉に、システィーナは思わず、自らの身体をかき抱いた――が、その感覚が、今は途絶えている。
「……痛い」
その痛みすらも、知らないはずなのに、識っている。
《自分》が、システィーナ・グラハムかどうかが、わから―――――。
《消えたい》《消えたい》《消えたい》
《――消えたくない》
●
大海に沈み込んでいるようだ、と少女は思った。何もないはずなのに、手を伸ばせば、そこに何かがある。身体を包むナニカはきっと、長い長い時の中でこの世界に刻まれてきた、悠けきもの。
――識ったことは、決して多くはない。伝えられたことは、恐らく全てではない。
理解したうえで、システィーナは、目を開いた。夜天の星々のように明滅する種々の光の中で、自らの裡の知識を辿っていく。
《百九十年前、妾は誓約した》
ユグディラの女王。彼女は、【女王】を『継いだ』後、王国の民と接した。その詳細は、敢えて伏せられているのかもしれない。ただ、柔らかい香りと、郷愁に似た感傷だけが、印象に残った。
《【麦と蜂蜜の秘術/キャロル・テー】》《そなたらの国を包む術理のための誓約を》
その術理を、システィーナは巡礼陣という名で知っていた。王国を覆う、巨大な法術陣。
《かの術は茫漠な器に他ならぬ》《しかし、形無く虚ろなる器よ》《器に満ちるものが残らず消え果てれば、術に過ぎぬ器そのものも壊れてしまうほどに、儚い》《故に、必要としていたのが――》
「……それが、貴女」
《古き者どもはいずれもそれを拒んだ》《妾はそれを受け容れた》《誓約のもとに》
巡礼陣と女王の関係を、システィーナは理解していた。法術の一つに過ぎぬ巡礼陣は、その存在を支えるために、常にマテリアルを必要としている。
枯渇したら、陣そのものが乱れてしまう。故に、常にマテリアルを供給する存在が、必要だった。国を覆う、茫漠なマテリアルを。
そして、王国はそれを使用したのだ。巡礼陣に蓄えられた、マテリアルを。かつての戦場で。
いや、ひょっとしたら、その前から。
《妾は、刻が来た事を知った》《汝らがかの秘術を必要とする刻が》
するとどうなる。巡礼陣そのものを支えるためのマテリアルを、誰かが供すことになる。
誰が? 考えるまでもない。
眼前の弱りきった、《女王》がだ。
《故に、聞こう》《故に、問おう》《誓約に基づいて》《システィーナ・グラハム》《グラハムらの仔よ》
《妾は、消えるべきか、如何か》
《――妾は消えたい》
●
そこで、システィーナは回想から我に返った。ほう、と淡く、息をはく。
「…………困りました」
胸中をありのままに言葉にすれば、そうなった。
状況を、整理してみる。
一つ。巡礼陣内のマテリアルは、現在、限りなく乏しい状態にある。
一つ。女王はその術を支えるため、マテリアルを供給し続けている。
ここからが、システィーナの心を悩ませていることだった。
一つ。大幻獣に相当する《女王》をもってしても、このマテリアルの供給は激しい苦痛を伴う。
一つ。《女王》は誓約の達成を望んでいる。即ち――《女王》は自らの全てをマテリアルと化して、巡礼陣を満たすことを望んでいる。
彼女はこう言っていた。
《妾は願う》《痛みなき消滅を》《意義ある消滅を》、と。
永き時を生きてきた人智を越えた存在が、それを望んでいる事実が――システィーナ自身がそれに触れたからこそ、ただただ痛ましかった。
だからこそ、反射的に口をついてしまったのは、過ちだったのかもしれない、とも思ってしまうのだった。
『マテリアルの供給が負担になるのなら、みんなで頑張ればいいんです』
負担の短期集中が『女王』を苦しめる。
なら、それを分散して負担することで充填効率も落とさず、女王の命も見捨てない。その選択だって、出来るのでは――と。
分かっている。問題の、先延ばしにすぎないことは。
柔らかな草のソファに身を埋めながら、システィーナは組んだ手を額に押し付けて、呟いた。
「……わたくしは……誰もが幸せになれる道を……」
●
その存在は、如何なる書物にも記されてはいないと、システィーナ・グラハム(kz0020)は確信をもって言える。千年王国の二つ名は飾りではない。それでも、システィーナは《彼女》を知らなかった。
柔らかく敷かれた草のベッド。雨露をしのぐように工夫された枝々。自らに傅くユグディラ達の情愛に包まれて、身を横たえている――否。今は、其の身を僅かに起こしてシスティーナを見つめている、高貴なるユグディラを。
王女の胸の裡で、思考が巡る。千年と、次の千年を背負う王女にとって、その懸念は無視できないものだ。
(……彼女の存在を、誰も知らなかった……?)
違う、と。システィーナは根拠無く、そう思った。それは、《彼女》の視線に籠められた、確かな感情に引き出された、彼女の直感である。
もし、それが正しいのならば。
「……お初にお目にかかります。私は、グラズヘイム王国、アレクシウス王が第一王女、システィーナ・グラハムと申します」
正しく、礼をして、システィーナはその視線に応えた。そうして、待つ。
《妾は》
殷々と、音を曳いて――確かに、聞こえた。脳裏に響く、威厳ある女性の声。
《妾は、『女王』》《この世界に在る、放浪猫たちの『女王』》
その身体は、弱り切っているように見えた。それでも、その声には確かな力を感じた。旧くより生きる、大樹のような深い音色だった。
《グラハムに連なる人の仔よ》《よく、此処まで来た》
――もし、自分の直感が正しいのならば。
再び礼をしながら、システィーナは、こう思った。
(……隠蔽されていたんですね。貴女の存在は)
そのことが少女の薄い胸の奥で沈殿していくのを感じた。この先で、自分は何かを知ることになる、という苦い確信を。
●
《システィーナ・グラハム》《王女たるそなたに、妾はまず、伝えねばならぬ》
猫にしてはやや大柄な彼女は、それでも、やせ細っているように見えた。細い体毛のしたで薄い肋骨がその呼吸に合わせて上下しているさまが見て取れる。
「……はい」
どうか、無理をなさらないで。
そう伝えたかった。でも、それは出来ない。そのためにシスティーナは此処に来たのではなく、そのために、《女王》はシスティーナと対話の機会を設けたわけではない。
これから、未来の話をする。そのために、彼女たちは此処に居るのだから。
《――伝える》《理解せよ》
「きゃっ!」
瞬後のことだった。
王女の頭の中で、何かが弾けた。いや、爆発に近しい。奔流だった。思考と、文字と、光景と――感情が激流となって《システィーナ・グラハム》をかき乱す。
「……こ、……これっ、は……っ?」
断片となった映像の連なりを意識する。システィーナはそれを識っている。知っていく。連続される風景に、いつしか言葉が添えられていた。自らの裡から湧き出る言葉に、システィーナは思わず、自らの身体をかき抱いた――が、その感覚が、今は途絶えている。
「……痛い」
その痛みすらも、知らないはずなのに、識っている。
《自分》が、システィーナ・グラハムかどうかが、わから―――――。
《消えたい》《消えたい》《消えたい》
《――消えたくない》
●
大海に沈み込んでいるようだ、と少女は思った。何もないはずなのに、手を伸ばせば、そこに何かがある。身体を包むナニカはきっと、長い長い時の中でこの世界に刻まれてきた、悠けきもの。
――識ったことは、決して多くはない。伝えられたことは、恐らく全てではない。
理解したうえで、システィーナは、目を開いた。夜天の星々のように明滅する種々の光の中で、自らの裡の知識を辿っていく。
《百九十年前、妾は誓約した》
ユグディラの女王。彼女は、【女王】を『継いだ』後、王国の民と接した。その詳細は、敢えて伏せられているのかもしれない。ただ、柔らかい香りと、郷愁に似た感傷だけが、印象に残った。
《【麦と蜂蜜の秘術/キャロル・テー】》《そなたらの国を包む術理のための誓約を》
その術理を、システィーナは巡礼陣という名で知っていた。王国を覆う、巨大な法術陣。
《かの術は茫漠な器に他ならぬ》《しかし、形無く虚ろなる器よ》《器に満ちるものが残らず消え果てれば、術に過ぎぬ器そのものも壊れてしまうほどに、儚い》《故に、必要としていたのが――》
「……それが、貴女」
《古き者どもはいずれもそれを拒んだ》《妾はそれを受け容れた》《誓約のもとに》
巡礼陣と女王の関係を、システィーナは理解していた。法術の一つに過ぎぬ巡礼陣は、その存在を支えるために、常にマテリアルを必要としている。
枯渇したら、陣そのものが乱れてしまう。故に、常にマテリアルを供給する存在が、必要だった。国を覆う、茫漠なマテリアルを。
そして、王国はそれを使用したのだ。巡礼陣に蓄えられた、マテリアルを。かつての戦場で。
いや、ひょっとしたら、その前から。
《妾は、刻が来た事を知った》《汝らがかの秘術を必要とする刻が》
するとどうなる。巡礼陣そのものを支えるためのマテリアルを、誰かが供すことになる。
誰が? 考えるまでもない。
眼前の弱りきった、《女王》がだ。
《故に、聞こう》《故に、問おう》《誓約に基づいて》《システィーナ・グラハム》《グラハムらの仔よ》
《妾は、消えるべきか、如何か》
《――妾は消えたい》
●
そこで、システィーナは回想から我に返った。ほう、と淡く、息をはく。
「…………困りました」
胸中をありのままに言葉にすれば、そうなった。
状況を、整理してみる。
一つ。巡礼陣内のマテリアルは、現在、限りなく乏しい状態にある。
一つ。女王はその術を支えるため、マテリアルを供給し続けている。
ここからが、システィーナの心を悩ませていることだった。
一つ。大幻獣に相当する《女王》をもってしても、このマテリアルの供給は激しい苦痛を伴う。
一つ。《女王》は誓約の達成を望んでいる。即ち――《女王》は自らの全てをマテリアルと化して、巡礼陣を満たすことを望んでいる。
彼女はこう言っていた。
《妾は願う》《痛みなき消滅を》《意義ある消滅を》、と。
永き時を生きてきた人智を越えた存在が、それを望んでいる事実が――システィーナ自身がそれに触れたからこそ、ただただ痛ましかった。
だからこそ、反射的に口をついてしまったのは、過ちだったのかもしれない、とも思ってしまうのだった。
『マテリアルの供給が負担になるのなら、みんなで頑張ればいいんです』
負担の短期集中が『女王』を苦しめる。
なら、それを分散して負担することで充填効率も落とさず、女王の命も見捨てない。その選択だって、出来るのでは――と。
分かっている。問題の、先延ばしにすぎないことは。
柔らかな草のソファに身を埋めながら、システィーナは組んだ手を額に押し付けて、呟いた。
「……わたくしは……誰もが幸せになれる道を……」
解説
●解説
●目的
システィーナ・グラハムと言葉を交わしてください。
●解説
王国を巡る『巡礼陣』(後述および特設ページ参照)。
そこに、ユグディラの『女王』がマテリアルを供していたことが明らかになった。
先般の事件(【審判】や【聖呪】の発端となった典礼)より、女王はその身を犠牲にしながら、マテリアルを供給し続けている。その苦痛は女王をもってしても精神を苛むほどであり、女王は自らの犠牲と共に――おそらくは彼女自身の【誓約】、【麦と蜂蜜の秘術/キャロル・テー】にもとづいて――巡礼陣を満たし、王国を護るための礎と成らんと欲している。
とっさに下した王女の決断は「王国全土で定期的な祭典を催す事でマテリアル供給を高める」こと。
しかし、これには欠点もあることを、王女は自覚していた。
一つは効率の問題。巡礼陣へのマテリアルの供給は、恐らくそれだけでは不足しているであろうこと。
もう一つは、『女王』自身の問題。女王の希望は明確に提示されている。『誓約の存在』は覆せず、『苦痛を完全に取り除くこと』も出来はしない。そして、『いつか女王に王国のための犠牲を強いること』を選択する事態は、避けがたいこと。
それらを理由に、システィーナは懊悩中ですが、各地に指示をするために諸々働きまわっています。
皆さんは、王女達と共にこの島に来訪しています。お好きにお言葉をかけてあげてください。
***
法術陣:法術的なアプローチから陣を構築して正のマテリアルを活用した結界を作り上げ、効能を発揮する。
巡礼陣:法術陣を王国全土に展開した、超弩級の術式。敷設された理由も由来も経緯も不明。現在明らかなことは、巡礼路よりマテリアルを陣に貯留することで茫漠なマテリアルを貯留することが出来る、ということ。
***
マスターより
お世話になっております、ムジカ・トラスです。
『【猫譚】麦と蜂蜜と少女と猫と』と対になるシナリオ、です。(よろしければご参照ください)
あちらがユグディラ女王編で、こちらは、王女編です。
現実は厳しいもので、女王の問いかけ、解決困難な事柄は少女の胸に茨となって彼女を縛り、痛みを生んでいます。
彼女の傍らに立つ友人として、人生の先達として、あるいは、もっと別な何者かとして、彼女と会話をしてみませんか。
別に答えが得られなくてもいい。何か特別な道筋を拓く必要もありません。
勿論、それらを試みても良いでしょう。どんな形でも、価値あるものになると思います。
どうか、ご自由に、お楽しみください。そんなシナリオです。
『【猫譚】麦と蜂蜜と少女と猫と』と対になるシナリオ、です。(よろしければご参照ください)
あちらがユグディラ女王編で、こちらは、王女編です。
現実は厳しいもので、女王の問いかけ、解決困難な事柄は少女の胸に茨となって彼女を縛り、痛みを生んでいます。
彼女の傍らに立つ友人として、人生の先達として、あるいは、もっと別な何者かとして、彼女と会話をしてみませんか。
別に答えが得られなくてもいい。何か特別な道筋を拓く必要もありません。
勿論、それらを試みても良いでしょう。どんな形でも、価値あるものになると思います。
どうか、ご自由に、お楽しみください。そんなシナリオです。
リプレイ公開中
リプレイ公開日時 2016/11/02 06:19
参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 レイレリア・リナークシス(ka3872) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/10/22 21:27:22 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/10/19 22:38:45 |