• 戦闘

繋がれた猟犬

マスター:窓林檎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2017/07/07 07:30
リプレイ完成予定
2017/07/16 07:30

オープニング

 一人の老人が、山深い樹林の中を歩いている。
 極限まで肉が削げ落ちた骨と皮に等しい禿頭の輪郭、最早一種の妖鬼さえ連想させる皺だらけの容貌、折れ曲がり、不気味に揺れる、杖に全身を預ける身体、浮浪者が纏う襤褸も同然の長衣――。
 その背に死神を負っているのではないかと思わせるほどに、濃厚な死の気配を漂わせる男。
 独りでここまで歩んだこと自体が尋常ではない有り様だが、その瞳だけは炯炯と輝いていた。この男から常軌を逸脱した狂気を感じることは、容易であるどころか、当然ですらあった。
「――アジン」
 にわかにその歩みを止めた老人が、カラカラに乾いた粘土のようにしわがれた声でボソリと呟く。
「ドゥ……トレ、チャール! ウー……ロク!」
 知らぬ者が聞いたら、魔境における呪いの言葉だと聞かされても得心してしまうであろうほどに、意味不明な言葉の羅列。
 しかし、この男『にだけ』は明確に見えている。
 今しがた唱えた『名前』――己の命よりも愛してやまぬ愛犬が、この山中を駆け、恣に獲物を狩り尽くし、野生の王として君臨する姿が。
 信頼していた部下と共に妻が逃げ出し、共に心中してから数十年。
 人間の一切に疑心と憎悪を抱くこの老人は、自らの屋敷の中に蟄居し、決して己を裏切らぬ飼い犬をのみ偏愛し続けた。
 そしてある時、己の死期を悟った彼は、自らの魂の如き愛犬の全てを躊躇なく打ち殺した。
 今現在、彼を支えるその杖には、自ら殺した愛犬の血が黒々とこびりついている。
 理由はただ一つ――解き放つため。
 己が死に、下らぬ愚物たる人間どもの手に堕ちるくらいなら、己の手で純粋なる魂へと還り、永遠に野を駆ける方が余程幸福だと、一も二もなく彼らは同意してくれるに違いなかったため――そうじゃないことなど、有り得ない。
「我が……我が、魂の片割れどぼごぉ!」
 喀血しながらの、不協和音の如き叫び。
 死期を目前にした人間には余りにも酷な身体的負担が爆発したように血を吐き出し、崩れ落ちるように地に膝を付ける。
 それでもなお、男は叫ぶことを止めない。
 むしろ、己に残る生命の全てを、その叫びに費やした。
「駆けよ! ――そして、全てを支配せよぉ!」
 叫び終わると同時に、男は崩れ落ち、絶命した。
 それからまもなく――男と、血にまみれた杖の周囲を、禍々しい気配が漂い始めた。

 ※

「はぁ……勘弁してくれよ、こんな山の奥まで徘徊老人の捜索とか」
「無駄口を叩くな。黙って歩け」
「でも嫌になりません? 成金一族の、当主の弟の気狂いジジィの相手とか」
「無礼だぞ! 口を慎め!」
「無礼もなにも、先輩以外誰も聞いちゃいませんよ」
「ともかく、文句を言うな、真面目に――」
「はいはい……お駄賃分はやりますよ、先輩」
「――――」
「あーあ、俺も力さえありゃ、ハンターにでもなって大儲け……」
 どさり。
「? 先ぱ――」
 ――――。
「え? な、なんで……喉笛掻っ切られて――!」
 …………。
「い、犬? 野良か? ……何で首輪が――」
 …………。
「え、こ、これ……まさか、雑、魔?」
 ウオォン!
「ひっ!」
 ウオォン!  ウォオン!
オオオン! ォオン!
  オオウォン!
「な……なんだよぉ! どうなってんだよぉ!」
 すたっ、
「ひいぃ!」
 すたっ、すたっ……、
「く、来るな! 来るな来るな!」
 すたっ、すたっ、すたっ、すたっ……。
「う、うわあああ! 誰かァ――!」
 血しぶき。

 ※

「え、えー、本日はお日柄も良く……」
 野暮ったい丸眼鏡に、無造作な後ろ留めの髪。
 垢抜けない女性の新人と言った風貌の職員が、しどろもどろに言葉を連ねる。
「……そもそもカレーライスにおける受け攻め論争は、ライスが受けでルーが攻めというのが学会における定説……え? 依頼の話をしろって? ……し、しぃつれぇっました!」
 ああ……やっぱり私見たいなコミュ障にこの仕事は無理なんだぁ……ああ、邦に帰りたい、星になりたい、次元を超越したい……。
 ぶつぶつと自己嫌悪に引きこもる職員に、誰かが咎めるような咳払いをする。
 それを潮に、職員は粛々とこちらの世界に戻ってきて――職員の瞳に、理知の気配が宿る。
「……それでは、本案件の説明を致します」
 その声色は存外、ハッとする程に凛としていた。
「約二週間前、貿易商を営むチェイン家、本件のクライアントである一族当主の弟であるアイゲン氏が失踪しました。チェイン家は専属の警備兵を狩り出し、目撃情報のあった北方の山奥を探索したのですが、そこで雑魔に遭遇。数名の犠牲者が出たのを鑑みて、依頼届けを提出しました」
 皆様には、雑魔の討伐、及びアイゲンの安否確認、生存していた場合の保護をお願いします。
 そう語る職員の態度は、先ほどまでの狼狽えが嘘であるかのように堂々たるものだった。
「雑魔はドーベルマンを彷彿とさせる犬型。具体数は未確定ですが、呼応した雄叫びの数から推測するに六から八体程度。生存した警備兵の証言によると、不意をつき、急所を狙うそうですが……どうもこの雑魔には、『行動範囲が限られている』節があるようです」
 曰く、とある勇気ある警備兵が試したところでは、唐突に追ってこなくなり、こちらを睥睨する雑魔にそっと近づいてみたところ、やはり一定の範囲に入ったところで攻撃してきたそうだ。
「しかし、その警備兵が投石を試みたところ、雑魔は瞬く間に身を翻し、森の奥へ姿を眩ませたそうです」
 雑魔の敏感さは並ではなく、『石を投げようと腕を動かしただけ』で反応したらしい。
 警戒心が強い上に、動きも俊敏――雑魔とは言え、厄介な相手かもしれない。
「チェイン家としてはアイゲン氏の安否が確認出来れば十分との意向ですが、雑魔を放置するわけにはいきません。断固として討伐をお願いします」
 しかし、そのアイゲン氏なのですが……と、職員は言葉を続ける。
「私の所見では、クライアント側は氏の生存を諦めている節が見受けられます。そもそも目撃情報によると、氏が向かった先が、ちょうど雑魔が出現している方角だと言うのもあるのですが……」
 ここまで淡々と語っていた職員の表情に、わずかに陰が降りる。
「どうやらアイゲン氏は、長年に渡り精神に極度の異常をきたしていたらしく、氏は死んだも同然の扱いだったそうです。曰く、氏の妻が部下と心中自殺をしたのが原因だそうで。それ以来彼は数十年間、自らの館に籠もり、愛犬に耽溺する生活を送り続けたそうです」
 そしてある警備兵の証言によると、雑魔には首輪が施されていたそうです。
 犬の形をしているというだけで、飼い主などあり得ないはずの雑魔に――。
「いずれにせよ、アイゲン氏の探索もして頂くこと自体は変わりありません。以上を踏まえた上で、本案件を受ける場合、こちらの契約書にサインをお願いします」

解説

●依頼概要
 山間部に出現した犬型雑魔の討伐及び、アイゲンの安否の確認。

●討伐対象
 犬型雑魔×六から八体程度
 PC情報:ドーベルマンの姿をした雑魔。一目で雑魔と分かる禍々しい雰囲気。機動力が非常に高く、警戒心も強い。森林等の遮蔽物を利用した奇襲を基本戦術としている。この雑魔は『行動範囲が限られている』節があり、その範囲から抜けると、例え追跡や攻撃の最中でも行動を中止する。
 PL情報:雑魔には各自の『縄張り』があり、基本的に各自単独で行動する。雑魔が一体死ぬ度に、その雑魔が持っていた『縄張り』の分だけ各雑魔の行動範囲が広くなる。ただし、各個撃破が続く場合は複数での行動を開始する可能性がある。雑魔の行動範囲には『中心点』が存在しており、雑魔の行動範囲はそこから半径数キロメートルと推定される。

●当該地域
 北方の山間部の奥深く。森が深々と生い茂り、昼間でも薄暗い。

●特記事項(以下、全てPL情報)
 上記『中心点』には、アイゲンの遺体がある。血まみれの杖に寄りかかり、立ち尽くしているような出で立ちで、禍々しい気配を放つ。そもそもこの雑魔は『アイゲンの飼い犬への歪んだ愛情』が形を成したものであり、こちらが本体である。アイゲンの死体を攻撃すると残存する雑魔は全て消滅するが、アイゲンの遺体の百メートル以内に近づくと、残存する全ての雑魔がそちらに向かって急襲する。
 必然的にアイゲンは死亡していることになるが、当のクライアントは端からアイゲンの生存を諦めているため、成功度には全く影響しないものとする。

マスターより

どうも、犬派の窓林檎です。
「忠犬ハチ公的な感動動物モノのシナリオ書きたいなぁ」と思ってシナリオを作ろうとしたらこんなシナリオが出来上がりました……お、俺は悪くねえ!
蝶のように舞い、蜂のように刺す、を地で行くようなタイプの雑魔が相手です。
一体ずつ真っ向から倒していくか、一網打尽を狙って本体を叩くか――どちらを取るかは皆様次第です。
なかなか厄介なゲリラ戦ですが、ハンターの皆様方の奮闘を期待します。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2017/07/18 03:23

参加者一覧

  • 豪傑!ちみドワーフ姐さん
    レーヴェ・W・マルバス(ka0276
    ドワーフ|13才|女性|猟撃士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 祓魔執行
    央崎 枢(ka5153
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • 遊演の銀指
    レオナ(ka6158
    エルフ|20才|女性|符術師
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/05 08:10:09
アイコン 討伐及び捜索のご相談
レオナ(ka6158
エルフ|20才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/07/06 21:13:30