蹄は巨大なメイスのよう。
　脚はＣＡＭよりも太く。
　体格の割に大きな顔はドラゴンじみて凶悪だ。
　これがケルピー。
　グラズヘイム王国の貴族領２つを荒らし回る大型歪虚である。

●２つの敗退
　ケルピーが大きく口を開ける。
　肉食獣よりなお凶悪な歯がぬらりと光り、負の気配に満ちた水が口内に満ちる。
「盾構え！」
　重装兵が列を崩さず盾を構える。
　厚さ数十センチの鉄製盾は半端な城壁よりも強靱だ。
　水が溢れ、汚れたブレスとなって襲いかかっても、誰一人倒れず一歩も引かない。
「助祭殿！」
　後列からクルセイダーが飛び出しヒールを連打する。
　鎧の中で血を吐いていた重装兵が戦う力を取り戻し、戦闘後にデートに誘おうと決心しつつ歪虚を睨み続ける。
「弓は！」
「準備完了しました」
「よしっ」
　再度の水ブレス。
　今度は２人後ろに吹き飛ばされたが残る重装兵が間隔を詰めて盾の壁を維持する。
「３、２、避けろ！」
　重装兵とクルセイダーが左右に分かれる。
　その表情は水ブレスが飛んできているときより真剣だ。
「打て！」
　バリスタじみた弓が一斉に矢を放つ。
　狙いは甘く半数以上外れてしまう。
　２本が矢羽根まで埋まり衝撃が巨体を突き抜ける。
　ケルピーが魂消た悲鳴をあげ地団駄を踏む。
　街道を砕くその響きは、何かの合図のようにも聞こえた。
「隊長、北から」
　軽快な足音が近づいて来る。
　巨大なケルピーと比べると随分とすらりとした、しかしねじ曲がった印象の馬が斜め後方から近づいて来る。
「野生馬……な訳があるかっ。弓兵は隠れろ！」
　部隊の５時方向から８時方向へ移動しながら、馬が奇妙に人間くさい仕草で唾を吐く。
　その唾に見える何かはかなり鋭利であり、薄い鎧の後衛達を大勢傷つける。
　人間側の混乱に気づいた大ケルピーは冷静さを取り戻し、３度目にして最大の水ブレスを吐こうと腹に力を込めた。
「舐めるな畜生共！　構わんポーションを全部飲み干せ。虎の子の矢も全部使え、全部だ！」
　領主から全戦力を預けられた覚醒者が目を血走らせて吼える。
　高価なポーションが瞬く間に飲み尽くされ、さらに高価な矢が大型の弓につがえられる。
「死ねぇ！」
　殺意も悪意も歪虚を上回っている。
　予算的な意味でも流血しながら猛攻を加えると、巨大なケルピーも細見のケルピーも泡を食って逃げ出した。
　もちろん撃退程度で満足できない。
　１キロ、２キロと追撃を続け、浅い川と崖に追い詰めたところであることに気づく。
「あっ」
「あっ、どうも」
　同じような編成の部隊が、同じような構成の歪虚を追っていた。
　よくよく周囲を確かめてみると、隣領との境、ぎりぎりであった。

●討伐依頼
「そんな感じでぐだぐだになって歪虚に撃退されたらしいです」
　オフィス職員が乾いた声で笑っている。
　越境したり他領主の部下に流れ弾が当たると仁義無き抗争が始まってしまうので、仕方が無いと言えないこともない。
「予め話を通しておけば余裕で勝ててたはずです」
　ハッ、と鼻で笑う。
　どちらもこっそり歪虚を討った後で自慢するつもりだった。
　結果は両者敗退だ。幸いなことに戦死者０だが両者とも再攻撃する余力は無い。
「そういうわけで歪虚討伐の依頼が出ています。あれが依頼票ですね」
　所在なげに浮かんでいた３Ｄディスプレイが勢いよく寄ってくる。
　表示されているのは地図と２種類の歪虚。
「両方の領主から通行と戦闘の許可が出ています。許可無しで歪虚を潰しても文句言われる筋合いないんですけどねー」
　大型ケルピーは鈍重だが非常に頑丈そうだ。
　サイズはＣＡＭ並、ブレスは長射程が可能で円錐型。
　ただしブレスの溜めに数十秒かかるし近接戦闘と溜めを同時にする器用さはなさそうだ。
　小型の方はとにかく速い。
　皮膚も肉も薄めで防御は薄そうだが、かなりの確率で躱すし大型の援護をする程度の知能はある。
「今回ユニットも使えます。時代遅れの王国人にいろいろ教育してやってください！」
　私怨９割で騒ぐ職員の肩を軽く叩く手が２つ。
　上司と聖堂教会からの出向クルセイダーが、青筋を立てオフィス職員を引きずっていった。
　処分は、お説教５時間と減給３ヶ月であった。

・巨大ケルピー
　サイズ３。全長８メートル。移動力２。計２頭
　回避と受けは低く、生命力と抵抗がかなり高い。
　ブレスは最低３ラウンド、最高１０ラウンドの溜めが必要で、チャージするほど射程が長く範囲も広くなります。
　待ち受けてブレスを使う戦術を好みます。
　崖の通り抜け不可

・ケルピー
　サイズ１。体格は小柄な馬程度。移動力７。計２０頭
　回避は個体毎に異なり５０～７０。抵抗は普通で、他の能力は軒並み低めです
　近接戦闘は下手。射程１～３スクエアの水弾だけはそこそこ威力があり、毎ラウンド使用可能です
　巨大ケルピーとの連携を重視します。
　崖の通り抜けの際移動力半減

・地図
　ａｂｃｄｅｆｇｈ
あ□□□□□８□ハ　□＝平原。縦横それぞれ５０メートル。移動にペナルティ無し
い□崖崖崖崖崖崖崖　崖＝平原。高さ２０メートル前後の崖があります。あａ側が上
う崖崖深浅浅浅浅浅　深＝川。深い。巨大ケルピーが１頭います。最深部は１０メートル
え浅浅深□□□□４　浅＝川。浅い。移動にペナルティなし。流れは東から西。穏やか
お□４□□□４□□　８＝平原。ケルピー８頭がのんびり中。ハンターに気づいていません
か□□□□□□□□　４＝平原。ケルピー４頭が警戒中
きハハハハハハハハ　ハ＝平原。ハンター初期位置。各人好きな位置を選択可能

　尻尾は魚っぽいです