厄介なことになった――そんな言葉がドナテロ・バガニーニ（kz0213）の頭の中をグルグルを回っていた。
　火星クラスタはついに地球圏に迫りつつあった。……が、何故か地球に降下してくることはなく、一定の距離を保ったまま配下のVOIDを送り込んでくる。
　その規模はこれまでの襲撃とは比べ物にならない。宇宙で、そして地上で……はたまたクリムゾンウェストでも攻撃を受けているという。
　これには世界各国の首脳陣も大慌てで、統一連合議会も混乱を極めていた。
　誰の責任かということはもはや追及しているゆとりのある状況ではなかったが、ドナテロはやり玉にあげられ、しかしそれを何とか躱し続けている。
「我ながらこういった時に言い感じに堪えることだけは天才的であるな」
　しかし、今回の一件はそもそも地球統一連合宙軍の暴走によるところが大きい。
　その背後には統一地球連合議会の指示があったはずだが、確かにあったはずの指令書がどれだけ探しても見つからない。
　こういった保身や責任逃れの能力に関して超一流であるドナテロが調査してつかめないのだから、相当の事態に違いない。
「こうなってしまった以上、強化人間に活躍してもらうしかないか……」
　ドナテロは強化人間の事をよく知らない。自分の直属の部下である天王洲レヲナがそうであったことすらつい先日耳にした。
　確かに超人運動会を開催し強化人間を大々的に知らしめ、リアルブルー人の不安を払拭しようと考えたのは自分だ。
　だが、そうせざるを得ない状況に追い込まれた際の苦肉の策であったことは否めない。
　ここで強化人間たちが世界中を救えば、彼らは異世界人と同じ“ヒーロー”と認知され、広く肯定されるだろう。
　それはまさに望むところなのだが……。
「なんだか事がうまく転がりすぎている気がして不安である。何か、大きな流れに飲み込まれていくような……」
　そうは言っても事態は急を要する。ため息交じりに立ち上がったドナテロは受話器を手に取った。

「W型アブソーバー？」
　クリムゾンウェストのハンターオフィスには、また各地での戦闘依頼が舞い込んできていた。
　これまで目撃情報が少なかったはずのリアルブルー型VOID、狂気の眷属が世界各地で事件を起こしているのだ。
　幸い各地のハンターが対応できる範囲に収まっているが、対処は相談しなければならない。
『リアルブルーへ派遣するハンターには、このW型アブソーバーを用いてあるデータを集めてもらいたい。時に、スノードニアの戦いを覚えておるか？』
「あぁ～、イギリスの。確かVOIDが環境を汚染していないかどうかのデータをハンターに集めさせておったな」
『その環境データじゃが、単にスノードニアを調査する為だけのものではなくてな。ベアトリクスの眷属が発生させる負のマテリアルサンプルを回収する意味もあったのじゃ』
　モニターの中のトマーゾ・アルキミア（kz0214）は手のひら大の小さな装置を取り出す。
『こいつがあの時のデータを元に開発したW型アブソーバーじゃ。VOIDとの交戦時にこいつを持って行ってほしい。上手くいけば敵を倒した時に、負のマテリアルを吸着させるじゃろう』
「はあ。なんだかよくわからぬが、ハンターの転移先の座標で渡してくれればよいじゃろう」
『ベアトリクスの負のマテリアルと眷属の負のマテリルはほぼ同じじゃ。火星クラスタと言う巨大な一つの歪虚から分かたれたものだからな。こいつを集めておけば、火星クラスタ攻略時に役に立つ。ついでと言っては何だが、先日から開発を進めていた新兵器のテストも頼みたい』
「新兵器？　覚醒者の限界を超えるための力……とかなんとか言っておったやつか？」
『実はまだ未完成のスキルが使えるようになるものでな。そのスキルのテストも頼みたい。ので、データの入ったW型アブソーバーを持ってきてくれたら交換しよう』
「え～～集めないとダメなの？　ケチ！」
『ケチではない全員分ないんじゃ！！　コストかかるんだからタダでもらえると思うな！　そもそもある程度力のあるハンターが使わんとテストにならんので、テスターは厳選させてもらう』

　こうしてハンターは引き続きリアルブルーにも出撃することになった。
　火星クラスタを攻略するために必要だという「W型アブソーバー」を用いてデータを集めつつ、各地のVOIDを撃破する。
　今はまだ沈黙を守っている火星クラスタが動き出す前に、この戦いを終わらせなければならない。
　それは少々大袈裟に、しかし間違いなく、地球を守るための戦いであった。

※当シナリオはハントシステムとなります。ＧＭによるリプレイの執筆は行われません。
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