ゲスト
(ka0000)
【RH】一葉の盾
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/17 19:00
- 完成日
- 2018/05/01 23:07
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※本シナリオは連動シナリオとなります。同日に出された【RH】タグの依頼との同時参加は出来ません。重複参加が認められた場合、本シナリオでの判定・描写は行いますが、近藤SD、及び凪池MSのイベントシナリオでは描写の対象外となります。ご了承ください。
●声無き慟哭
アスガルドに所属する強化人間達の失踪。
この事件は慈恵院明法を名乗る歪虚によって、事態は急展開を迎える。
「……アスガルドの子供達が蜂起したのは慈恵院と名乗るVOIDが原因なのだな?」
「そのような犯行声明がありました。事実とみて問題ないかと……」
執務室で世話役兼補佐役のユーキ・ソリアーノに青い瞳を向けるトモネ・ムーンリーフ。
小さく安堵のため息を漏らして、大きな椅子に身を沈める。
「VOIDに操られていたとなれば、子供達に罪はない。そういう方向に持って行ける。それならば救ってやれるな」
「…………」
「ユーキ。何故黙っている」
「残念ですが、総帥。逃亡した強化人間達が抵抗を続けている事実は変わっておりません。……一般市民が暮らす場所に、被害が及んでいます」
「だからそれは、VOIDに操られているからだろう? ならば……」
「VOIDに操られているとはいえ、彼らは軍に起用された『戦力』です。それが反旗を翻し、市井に被害を齎したとなれば……厳しく対処しなければ、軍の威信に関わるのですよ」
「……!」
「その証拠に、子供達の排除命令は撤回されておりません。その上、アスガルドの機密が外に漏れたものとして……外に出た『アスガルド』に関する全ての記録、全ての記憶を破棄する命令を下しました。……それがどういう意味か、総帥ならお分かり頂けるかと」
「バカな! あの子たちは何も知らぬ! 軍の機密の知識など持っておらぬではないか!」
「ええ。そうです。仰る通りですが……。あの子達の存在そのものが世にとっては『機密』なのですよ」
淡々としたユーキの声。
それを否定したくて……否定の言葉が出てこなくて、トモネは顔を覆う。
「……ユーキ。すまぬが1人で考えたい。席を外してくれ」
「……かしこまりました」
トモネの気持ちを察したのか。ユーキは深く腰を折ると音もなくその場を立ち去る。
1人残ったトモネは、顔を覆ったまま思考を巡らせる。
――あの子達が一体何をした?
ただただ必死に日々を生きていただけではないか。
それなのに、歪虚によって誑かされ。
大人の勝手な都合で消されようとしている。
何故こんな不条理が許される?
ああ、この世に神など居はしないのか……。
否。今縋るべきは神ではない。
私の立場で出来ることは何だ?
――考えろ。考えろ……!
――ふと、目に入る一枚の写真。
その中には、アスガルドの子供達の輝く笑顔があって……。
……トモネからは出たのは名案ではなく。大粒の涙だった。
●一葉の盾
「ランカスターが歪虚と強化人間達によって制圧されました。彼らを鎮圧しに行きます。ハンターさんも同行してください」
今回もがっちりと武装したレギ(kz0229)の姿に目を伏せるハンター達。
事態は一刻を争うのだと察して、すぐに顔を上げる。
「慈恵院っていう歪虚は別動隊が対応してるよな。俺達は何をすればいいんだ」
「敵はラズモネ・シャングリラに対して三方から迫ってきています。その少し後方になるんですが、分隊が待機していまして……どうやら退路を確保する為に、兵を置いているようなんです。僕達はそこを叩きます」
「兵の構成は?」
「正確な数は分かっていませんが、コンフェッサーが1機確認されています。あとは歩兵が数名と言ったところでしょうか」
「コンフェッサーに乗ってるってことは少なくともパイロットは強化人間か。歩兵については?」
「……恐らく、強化人間の子供達だと思います」
「そう……。でも、あの子達あの慈恵院っていう歪虚に操られていたのよね? だったら捕らえることさえ出来れば助けられるかしら」
「……それは、難しいかと思います」
「どういうことだ?」
「軍は本件に関わった強化人間の処分を決定しました。これまでの『アスガルド』に関する全ての記録、全ての記憶を破棄せよと……そういう通達がなされています」
「どうして……!? 歪虚に操られていたのよ!?」
「呪法に操られていたところで、反旗を翻した事実は消せない。向かってくる以上、対処せざるを得ないんです」
吐き出すように言うレギ。
――その事実を語る彼も辛いのだろう。
返す言葉を失くしたハンター。レギは深くため息をつく。
「……トモネ様はアスガルドのことは何とかする。時間を稼ぐとは仰っていましたが、正直どうなるか……」
「トモネは諦めていないんだな?」
「え? あ、はい。……子供達を助けたいとは、仰っていました」
「そう。それなら……もうちょっと足掻いてみるのもいいんじゃない?」
「喧嘩は最後まで立ってた方が勝ちなんだぜ、レギ」
「皆さん、諦めが悪いんですね……。きちんと仕事はして戴かないと困るんですが……」
「分かってるよ。『鎮圧』すりゃいいんだろ」
ニヤリと笑うハンター。
含みのあるそれに、ずっと厳しいままだったレギの表情が、少し和らいで……。
ハンター達とレギは頷き合うと、現場に急行する。
ランカスターの市内。金色に輝き、六本の腕を持つ仏像が遠目に見える場所。
市街の外へと通じる大通りに、1つの分隊が展開を始めていた。
中心には赤いコンフェッサーが。
そしてその近くにある武装トラック『ブロート』から、滑るような動きで強化人間達が出て来る。
彼らはすぐさま武装トラックや、建物の陰に隠れるように身を潜めた。
『……敵の凶行により、多くの仲間が失われた。彼らの仇を取るが良い。決してここから先へ敵を通すな。……もしもの時は、腰にある箱のボタンを押せ。諸君を涅槃へと導いてくれるだろう』
脳裏に響く声。
――そうだ。仇を取らなくちゃ。
沢山の仲間が死んだ。
そして杏も……。
コンフェッサーの中で震えるユニス。
――この機体は、杏が使っていたものだ。
ユニス自身、ユニットを使うのはあまり好きにはなれなかったけれど。
この機体に乗れば、杏が近くにいてくれるような気がして……。
「……逃げろって言われたけど、やっぱり一緒にいればよかった……。寂しいよ、杏……」
己の身体を抱きしめるように腕を回すユニス。
ふと目を閉じて……元気だったトモダチの姿を思い出す。
「皆と一緒に杏の仇は必ず取るから……。だから、まってて。……全部殺すから……」
虚ろな目で呟くユニス。
――そう。ぜんぶ。殺さなきゃ。
――どうして?
――だって、あのお方がそう言うから。
――あのお方って誰だっけ?
――あのお方は、私達を助けてくれるって……それに戦えば、トモネ様も褒めてくれる。
操縦桿を手にしたユニス。
視界に入る敵性生物に、銃を向けた。
●声無き慟哭
アスガルドに所属する強化人間達の失踪。
この事件は慈恵院明法を名乗る歪虚によって、事態は急展開を迎える。
「……アスガルドの子供達が蜂起したのは慈恵院と名乗るVOIDが原因なのだな?」
「そのような犯行声明がありました。事実とみて問題ないかと……」
執務室で世話役兼補佐役のユーキ・ソリアーノに青い瞳を向けるトモネ・ムーンリーフ。
小さく安堵のため息を漏らして、大きな椅子に身を沈める。
「VOIDに操られていたとなれば、子供達に罪はない。そういう方向に持って行ける。それならば救ってやれるな」
「…………」
「ユーキ。何故黙っている」
「残念ですが、総帥。逃亡した強化人間達が抵抗を続けている事実は変わっておりません。……一般市民が暮らす場所に、被害が及んでいます」
「だからそれは、VOIDに操られているからだろう? ならば……」
「VOIDに操られているとはいえ、彼らは軍に起用された『戦力』です。それが反旗を翻し、市井に被害を齎したとなれば……厳しく対処しなければ、軍の威信に関わるのですよ」
「……!」
「その証拠に、子供達の排除命令は撤回されておりません。その上、アスガルドの機密が外に漏れたものとして……外に出た『アスガルド』に関する全ての記録、全ての記憶を破棄する命令を下しました。……それがどういう意味か、総帥ならお分かり頂けるかと」
「バカな! あの子たちは何も知らぬ! 軍の機密の知識など持っておらぬではないか!」
「ええ。そうです。仰る通りですが……。あの子達の存在そのものが世にとっては『機密』なのですよ」
淡々としたユーキの声。
それを否定したくて……否定の言葉が出てこなくて、トモネは顔を覆う。
「……ユーキ。すまぬが1人で考えたい。席を外してくれ」
「……かしこまりました」
トモネの気持ちを察したのか。ユーキは深く腰を折ると音もなくその場を立ち去る。
1人残ったトモネは、顔を覆ったまま思考を巡らせる。
――あの子達が一体何をした?
ただただ必死に日々を生きていただけではないか。
それなのに、歪虚によって誑かされ。
大人の勝手な都合で消されようとしている。
何故こんな不条理が許される?
ああ、この世に神など居はしないのか……。
否。今縋るべきは神ではない。
私の立場で出来ることは何だ?
――考えろ。考えろ……!
――ふと、目に入る一枚の写真。
その中には、アスガルドの子供達の輝く笑顔があって……。
……トモネからは出たのは名案ではなく。大粒の涙だった。
●一葉の盾
「ランカスターが歪虚と強化人間達によって制圧されました。彼らを鎮圧しに行きます。ハンターさんも同行してください」
今回もがっちりと武装したレギ(kz0229)の姿に目を伏せるハンター達。
事態は一刻を争うのだと察して、すぐに顔を上げる。
「慈恵院っていう歪虚は別動隊が対応してるよな。俺達は何をすればいいんだ」
「敵はラズモネ・シャングリラに対して三方から迫ってきています。その少し後方になるんですが、分隊が待機していまして……どうやら退路を確保する為に、兵を置いているようなんです。僕達はそこを叩きます」
「兵の構成は?」
「正確な数は分かっていませんが、コンフェッサーが1機確認されています。あとは歩兵が数名と言ったところでしょうか」
「コンフェッサーに乗ってるってことは少なくともパイロットは強化人間か。歩兵については?」
「……恐らく、強化人間の子供達だと思います」
「そう……。でも、あの子達あの慈恵院っていう歪虚に操られていたのよね? だったら捕らえることさえ出来れば助けられるかしら」
「……それは、難しいかと思います」
「どういうことだ?」
「軍は本件に関わった強化人間の処分を決定しました。これまでの『アスガルド』に関する全ての記録、全ての記憶を破棄せよと……そういう通達がなされています」
「どうして……!? 歪虚に操られていたのよ!?」
「呪法に操られていたところで、反旗を翻した事実は消せない。向かってくる以上、対処せざるを得ないんです」
吐き出すように言うレギ。
――その事実を語る彼も辛いのだろう。
返す言葉を失くしたハンター。レギは深くため息をつく。
「……トモネ様はアスガルドのことは何とかする。時間を稼ぐとは仰っていましたが、正直どうなるか……」
「トモネは諦めていないんだな?」
「え? あ、はい。……子供達を助けたいとは、仰っていました」
「そう。それなら……もうちょっと足掻いてみるのもいいんじゃない?」
「喧嘩は最後まで立ってた方が勝ちなんだぜ、レギ」
「皆さん、諦めが悪いんですね……。きちんと仕事はして戴かないと困るんですが……」
「分かってるよ。『鎮圧』すりゃいいんだろ」
ニヤリと笑うハンター。
含みのあるそれに、ずっと厳しいままだったレギの表情が、少し和らいで……。
ハンター達とレギは頷き合うと、現場に急行する。
ランカスターの市内。金色に輝き、六本の腕を持つ仏像が遠目に見える場所。
市街の外へと通じる大通りに、1つの分隊が展開を始めていた。
中心には赤いコンフェッサーが。
そしてその近くにある武装トラック『ブロート』から、滑るような動きで強化人間達が出て来る。
彼らはすぐさま武装トラックや、建物の陰に隠れるように身を潜めた。
『……敵の凶行により、多くの仲間が失われた。彼らの仇を取るが良い。決してここから先へ敵を通すな。……もしもの時は、腰にある箱のボタンを押せ。諸君を涅槃へと導いてくれるだろう』
脳裏に響く声。
――そうだ。仇を取らなくちゃ。
沢山の仲間が死んだ。
そして杏も……。
コンフェッサーの中で震えるユニス。
――この機体は、杏が使っていたものだ。
ユニス自身、ユニットを使うのはあまり好きにはなれなかったけれど。
この機体に乗れば、杏が近くにいてくれるような気がして……。
「……逃げろって言われたけど、やっぱり一緒にいればよかった……。寂しいよ、杏……」
己の身体を抱きしめるように腕を回すユニス。
ふと目を閉じて……元気だったトモダチの姿を思い出す。
「皆と一緒に杏の仇は必ず取るから……。だから、まってて。……全部殺すから……」
虚ろな目で呟くユニス。
――そう。ぜんぶ。殺さなきゃ。
――どうして?
――だって、あのお方がそう言うから。
――あのお方って誰だっけ?
――あのお方は、私達を助けてくれるって……それに戦えば、トモネ様も褒めてくれる。
操縦桿を手にしたユニス。
視界に入る敵性生物に、銃を向けた。
リプレイ本文
ランカスターの市内全土が戦場になっているのだろうか。
あちこちから交戦している音が聞こえる。
その中に時折、子供の悲鳴が混じっているような気がして……エステル・ソル(ka3983)は耳を覆いたくなるのをぐっと堪える。
「エステルちゃん、大丈夫?」
「はい! 大丈夫です! わたくしより、レギさんの方がツライです」
顔を覗き込んで来たリューリ・ハルマ(ka0502)に慌てるエステル。
突然話を振られて、レギが目を瞬かせる。
「何か毎回心配して貰っちゃってますね。ありがとうございます。大丈夫ですよ。僕がレディの前で失態を晒す訳ないでしょう?」
「でも……」
「そういうことにしておいてあげなさいな」
心配そうなエステルを宥める鍛島 霧絵(ka3074)。
――どんなに辛くても、気が進まなくても。軍に所属した以上、仕事と割り切ってやらなくてはいけないことがある。
己の信念に基づいて行動できるのは、ある意味幸せなことなのだと……元軍人である霧江は思う。
そんな彼女を、相棒のユグディラが見上げているのに気づいて、そっとその頭を撫でる。
「……こんな形であなたを子供達に会わせる事になるとは思わなかったわ」
「にゃ?」
「子供達にね、あなた達の話をしたのよ」
先日、アスガルドを訪れた際にクリムゾンウェストに住む幻獣達について子供達に話して聞かせた。
――素敵……! 今度会わせて欲しい!
――ふふふ。いいわよ。
思い出す子供達の笑顔。交わした約束。
――出来ることなら、違う形で果たしてやりたかった。
目を伏せた霧江。その横で、アルスレーテ・フュラー(ka6148)が憂鬱そうにため息を漏らす。
「いやはや……。今回現れた歪虚ね。実刑……じゃない。地毛……違う」
「慈恵院?」
「そう、それ!! 趣味が悪いというかセコいというか。趣味の悪いことするわねー、子供たちを盾にしてさ」
リューリの助け舟に手を打つアルスレーテ。そのままうーん、と考え込んで腕を組む。
「……いや、盾というより、餌かしら? 私たちを誘き寄せる為の」
「どういうこと?」
「強化人間とハンターがまともにやりあった場合、間違いなくハンターが勝つわ。その辺の力量差を理解していないとは思えないのよ。アスガルドの子供達だけでは私達を止められない。その上で、何か策を用意している気がしてね……」
「私達が子供達を助けようとするのも、慈恵院さんの手の内ってこと? でも、子供達を助けない訳にいかないよね」
「そうなのよ。そこまで理解しているのなら、相当イヤらしい敵よ。あの地毛院っていうハゲ」
「違うよ。慈恵院だよ」
アルスレーテとリューリのやり取りにエステルは唇を噛む。
「軍の人達は、それもあって子供達を処分したいんでしょうか。でも、子供たちに責任を押し付けても、失った信頼は取り戻せないですのに」
「そう……なんですけどね。そうしなければいけない理由があるんですよ」
「……レギさん?」
「強化人間って、そもそも何のために作られたかご存知ですか?」
「……歪虚に対抗する為、ですよね」
「そうです。そして、その担い手は殆どは年端もいかぬ子供達です」
エステルの言葉に頷きつつ、続けるレギ。
歪虚への対抗策を持たぬリアルブルーが、ハンターの代替品として作り出したのが『強化人間』だ。
そして、強化人間になるには『適性』が必要となる。
ドリスキルのような大人が適性を見せるのは稀。それ故、大半はレギのような若年層が中心となり――。
強化人間の養成計画が発表された折、人体を使った実験だと、うら若い少年少女を戦場に送るのかと、あちこちから反発があった。
それ故に、これは『世界を守る為の力』だと、必要以上に清らかさを謳う必要があった。
そうすることでようやっと反発を抑えて進めていた事業だったのだ。
「そんな矢先に、その『世界を守る為の清らかな力』だった筈のものが反旗を翻したら――どうなると思います?」
「自分達を守る為に存在していたものが、こちらに牙を剥くとなれば……強化人間自体の弾圧に繋がり兼ねないわね」
考えながら呟く霧江。それにレギがこくりと頷く。
「そうです。だからこそ、全てを『アスガルド』のせいにして、切り捨てる必要があるんです」
「そんな……! 強化人間さん達、何一つ悪くないです!」
「……皆がエステルさんみたいに思ってくれたらよかったんですけどね」
「……そう思えるのも、私達が強化人間の子達を知っているからよ。よく分からない力というのは、力を持たない人達には十分な恐怖になるわ。恐怖を感じるものは、排除したいと思うものよ」
涙目になるエステルに悲しそうな顔をするレギ。吐き捨てるようアルスレーテが続ける。
――恐怖を感じるものは排除をしてもいいのか?
自分達の都合で生み出しておいて、都合が悪くなったら消し去るなんてそんな勝手が許されるのか?
今すぐどうこう出来ることではないけれど……少なくとも、今ここにいる子供達を救い出さなくては。
軍の思い通りになどさせるものか……!
決意を固めるハンター達。リューリはレギの背中をぽんぽん、と励ますように叩く。
「レギ君、頑張ろうね! 男の子だから強がりたいのも分かるけど、無理だったら無理って言ってね!」
「……はい。ありがとうございます」
「こちら『ふぃじかる☆あるすん』。視界良好。いつでも動けるけど……本当にいいのね?」
「こちらエステルです。はい。アルスさんに大分無理させちゃいますが、予定変更でお願いできますか?」
「OK! お姉さんに任せなさい!」
「ありがとうです! 今アンチボディをかけます! 絶対無理はしないでくださいです!」
「大丈夫よー! 肉弾戦なら負けないわよー!」
アルスレーテの言葉に力強さを感じつつ、精霊に祈りを捧げ、輝く障壁を生み出すエステル。
コンフェッサー同士で肉弾戦というのもどうかと思うが……まあ、最終的に操縦者を引きずり出さなければならないことを考えると止む無しか。
――初手で強化人間が操るコンフェッサーに火球を打ち込むことを考えていたエステルだったが、何しろあのスキルは派手だ。
スキルを見慣れない子供達が驚いたり、コンフェッサーが倒されたと勘違いする可能性もある。
一応レギにコンフェッサーの構造なども聞いたし、威力の調整も行うつもりもあるが、それも完璧ではないし『うっかりオーバーキル』したら笑えない。
そして前回、エステルが参加した強化人間の制圧戦では、子供達は想定より早く撤退を始め、数人逃す結果となった。
勿論、強化人間である杏の采配が的確だったこともあるが……もし、攻撃の要であるコンフェッサーが先に倒されるようなことがあれば、今回も逃亡を図るであろうことは容易に想像できた。
今回何を優先すべきか、と考えた時。1人でも多く子供達を保護したい、となる訳で。
行動の順番を入れ替えるのが最良だと言う結論に至った。
正直囮を買って出てくれているアルスレーテが心配ではあるが、ここは彼女を信じるしかない。
「それじゃ、エステルちゃん。私達も出るね」
「随時状況を報告するわ。そちらも気を付けてね」
「はいです! 皆さん頑張りましょう!」
リューリと霧江の声に元気に返事をするエステル。
アルスレーテのふぃじかる☆あるすんの発進音が、戦端を開く合図となった。
リアルブルーのアニメに出て来そうないで立ちのアルスレーテのコンフェッサー。
少女のような愛らしいカスタマイズが施されているのだが、強化人間の子供達にはどう見えているのだろうか……。
マテリアル製のバルーンを生み出した彼女は、風のような速さで強引に前に出る。
突然の動きに驚いたのか、後退するコンフェッサー。その様子をアルスレーテは注意深く観察する。
――相手が踏み込んできたくらいで驚くなんて。実戦は積んでなかったのかしら。
それならば。動きを封じるのは難しいことではないかもしれない……。
その思考を中断する数発の銃弾。アルスレーテの機体に被弾するが、バルーンが盾となりダメージはない。
子供達は大きな敵を脅威に感じたのか、自分を目標と定めたようだ。
まさに、これが狙い。銃撃された方角から子供達の居場所が特定できる。
「こちら『ふぃじかる☆あるすん』。皆聞こえる?」
「こちらリューリ! 聞こえるよ!」
「子供達を見つけたわ。ここから1時方向に1人。3時方向に2人。10時方向に1人。他にまだ3人くらい潜んでいるとは思うけど方角まではちょっと分からないわ」
「分かったよ! 残りの子も探してみる! レギ君行こう!」
「……ちょっと待って。腰に変なモノつけてるわ」
レギを伴い、移動を始めようとしたリューリ。続いたアルスレーテの言葉に、霧江の動きが止まる。
「こちら霧江よ。その変なモノの詳細は分かる?」
「何かははっきりとは分からないけど、箱みたいな形してるわね。レギ、心当たりある?」
「レギ君も良く分からないって」
「こちらエステルです。皆さん、不明な箱については注意して対応するです!」
アルスレーテの問いに代わりに答えたリューリ。エステルは漠然とした不安を抱えたままイェジドを走らせる。
「……こっちにいるみたい。レギ君ついてきて」
流石のレギもこの状況では口説き文句は出ないらしい。素直に従う彼に、笑顔を返すリューリ。
彼とて多感な年ごろの少年だ。こんなところでまで強がっている方が心配になる。
レギの為にも、早く子供達を見つけて捕まえないと……。
精霊の力を宿らせ、聴覚と嗅覚を飛躍的に上昇させた彼女はレギを伴い、隠れた子供達を探していた。
本当はイェジドを連れて来るつもりだったのだが、うっかり忘れてしまい……まあ、結果的に静かに忍び寄ることが出来るようになったので結果オーライか。
耳を澄ますリューリ。聞こえるのは銃器を操る音。そして浅い呼吸。
――怯えているせいだろうか。必死に息を殺そうとしているのに上手く行っていないのが手に取るように分かって……。
建物の隙間。アルスレーテのコンフェッサーに向けて必死に銃撃している子供が見て取れた。
「……いましたね」
「うん。私が一気に近づいて捕まえるから、レギ君は支援お願い出来る?」
「はい。こちらに注意を引けばいいですかね」
「そだね。そうして貰えると楽かな」
頷き合うレギとリューリ。
短い合図。駆け出すリューリ。レギが空に向かって銃撃を放つ。
その音に気付いた子供が標的をこちらに切り替えた。
「この、歪虚め……! 殺してやる……!」
怯えながらも必死で抵抗する少年。滅茶苦茶に撃った銃弾がレギの肩を掠める。
「レギ君!」
「僕は大丈夫です! 早くその子を!」
案じるリューリ。レギの必死の声。彼女は頷くと、強く踏み込んで一気に距離を詰める。
「ごめんね……!」
彼女の短い謝罪と同時に振われる杖。続く轟音。衝撃波が少年の自由を奪う。
「これで大丈夫で……」
「レギ君後ろ!」
その声に振り返るレギ。後方から現れた少女。続いた砲撃の音。リューリは彼を突き飛ばし……銃弾が腹を掠めて顔を顰める。
血が流れるのも構わず距離を詰める彼女。少女の顔に絶望が宿る。
腰の箱に手をやる少女。リューリは咄嗟にその箱を弾き飛ばし……感じた匂いに違和感を感じて、彼女は叫ぶ。
「……! レギ君! それ投げて! 早く!!」
その声に緊急性を感じ取り、素早く動くレギ。彼が箱を放り投げた一瞬後。響く轟音。地面の焼けた匂いが辺りに充満する。
「……爆弾?」
「大変! 皆に知らせなきゃ! レギ君子供達お願い!」
頷くレギ。リューリは大急ぎで魔導スマホを手にして――。
「……はい。分かったです。リューリさんも気を付けてくださいです」
「あの歪虚、本当にロクなことをしないわね……」
通信を切って眉根を寄せるエステル。霧江の呟きにこくりと頷く。
リューリから齎された子供達の腰につけられた箱の正体。
それが爆弾であったことにショックを隠せない。
しかも、その起動スイッチを子供自らの手で押したと言っていた。
操られて周囲がきちんと認識出来ていない子供達が、自らの意志でそんなことをするとは思えない。
――慈恵院という歪虚は、『子供達の救済』などという体のいい言葉を使ってはいるが、やっていることは畜生にも劣る。所詮は子供達は捨て駒に過ぎないのだ。
「許せないです。こんな……こんなこと……」
「そうね。悪夢から早く解放してあげましょう」
霧江の静かな声に、もう一度頷くエステル。
零れそうになる涙。泣くのなんて後からでも出来る。
そこに聞こえてきた銃声。建物の陰から射撃を続けている子供を見つけて、霧江はライフルを構える。
スコープ越しに見える子供達の怯えた表情。彼女は目を反らさずに見つめる。
――脳裏に過る子供達の笑顔。出来れば傷つけたくない。
否、今の自分に出来ることは、この事態を一刻も早く収束すること。
それが一番、子供達の為になる。その為の覚悟も決めて来た。
「……待っていて、今助けるわ」
狙いを定める霧江。こちらに狙いを定める子供。手にした銃から放たれる砲撃。その瞬間、瞬時に撃ち抜き、砲撃が弾かれる。
「エステルさん! 今よ!」
「はいです! アレクさん回避お願いしますです!!」
エステルの指示で弾丸のように飛び出す漆黒のイェジド。
短い詠唱。青白い雲状のガスが広がり、子供の身体から力が抜けて倒れ込む。
銃の射程範囲内であればどこからでも妨害が出来る霧江と、離れた位置からスリープクラウドで子供達を眠らせることの出来るエステルは、子供達の保護という点で非常に相性が良かった。
極力傷つけず、怖がらせることもなく保護することに成功していた。
「エステルさんのスキルなら起きることはないとは思うけれど、万が一ってことがあるわね。可哀想だけれど縛らせてもらいましょ。あ、腰の箱は没収しちゃって頂戴」
「はいです! ……こんなもの、子供達には不要です!」
「本当忌々しいわね。いっそ投げ捨ててやりたいところだけど……」
「そーっと、慎重に……あううう。手がぷるぷるしますー」
そんな会話をしつつ、霧江とエステルはテキパキと眠る子供達を拘束していく。
――そんなことを何度繰り返しただろうか。
ハンター達は銃で撃たれ、怪我を負いながらも何とかこの場所に潜んでいる子供達の拘束に成功していた。
……それと言うのも、『ふぃじかる☆あるすん』が、子供達の救出中にずっと強化人間の操るコンフェッサーを引き付けていてくれたからなのだが。
アルスレーテはコンフェッサーの肩に描かれた可愛らしい音符がずっと気になっていた。
肩の模様からしても、パイロットは女の子なのだろうか……。
無駄の多い動き。それなのに逃げずに食らいついて来る。
一体何をこんなに必死に……ああ。そうか。この子は仲間の仇討ちにきているのか。
だから不利と分かっていても逃げない。元より生きて帰るつもりなどないのかもしれない。
子供を操るだけでも腹が立つのに、こういう『誰かを思う気持ち』すらも利用するのか……!
「嫌ね。あの地毛院ってやつ、今度会ったらボッコボコにしてやるわ」
「アルスレーテさん、だから慈恵院だよ」
呟く彼女。魔導スマホから聞こえてきたリューリの声にアルスレーテはくすりと笑う。
「あら。そっちはもう終わったの?」
「うん! 全員保護完了したよ!」
「それは良かったわ。いい加減この子の装甲が焦げそうだったし」
熟練のアルスレーテからすれば、この程度の相手は本気を出すまでもなく一瞬で制圧出来るのだが、今回は時間を稼がないとならなかった為、防戦に徹していた。
そろそろそれも限界だろうと思っていた矢先の通信だった。
「エステル! それじゃもうシメに入って大丈夫ね!?」
「はいです! 残るはコンフェッサーの中のパイロットだけです!」
「了解! じゃあ例のアレお願いね!!」
「分かったです! アルスレーテさんちょっと下がっててくださいです!」
エステルの通信に合わせて、距離を取る『ふぃじかる☆あるすん』。
追い縋る音符マークのコンフェッサー。
蒼い髪の乙女は、全神経を集中する。
――蒼の戦女神は紅き衣を纏い、情熱の唇に清澄の旋律を以て命じる。花開け……!
舞い散る火球。続く爆音。充満する焼け焦げた匂い。
装甲を剥がされたコンフェッサーは大きくバランスを崩す。
「貰った!!」
刹那。切り返し、狙いすました攻撃で足払いを仕掛けた『ふぃじかる☆あるすん』。
巻き上がる上がる砂埃。大きな音を立てて倒れるコンフェッサー。
そのままスキルトレースで抑え込みに入る。
「早く! 今のうちにパイロット引きずりだして!!」
聞こえるアルスレーテの声。操縦席に食らいつく仲間達。
無理矢理こじ開けたハッチ。その中には、見覚えがある少女がいた。
「……ユニス! あなたユニスね?」
「VOID……! 許さない! よくも杏を……! 杏を殺したお前達を殺す……!」
「わあああ! ユニスちゃんも爆弾つけてるーって、それ起動しちゃダメ!!」
「早く、早く外すです……!」
操縦席にいた少女に目を丸くする霧江。リューリとエステルが慌てて爆弾を外して放り投げて……。
数秒の後に起きる爆発。身体を伏せて爆風を避ける。
――そして、その間も霧江は暴れるユニスを抱きしめ続けていた。
「ユニス。分かる? 私よ」
「放せ! お前達は敵だ……! 私はぜんぶ……ぜんぶ、殺さなきゃ。あのお方が……ああ、杏。杏が死んでしまったって……」
「聞いて、ユニス。杏は生きてる。今は眠っているけど……回復したらきっと会えるわ」
「……杏、どこ? 会いたい……あ、あ……でも、あのお方の命令は……」
「そんな命令、聞かなくていいんだよ。ユニスちゃんも疲れたよね、ちょっと休もう?」
慈恵院の術式が思いの他根深いのか、呼びかけに応えぬユニス。
霧江とリューリの目配せに、エステルは頷いて……眠りを誘う雲を作り出す。
「もう、大丈夫です。……おやすみなさいです、ユニスさん」
こうして、ハンター達の尽力により、この戦場にいたアスガルドの子供達7人全員を制圧、保護することに成功した。
なお、保護された7名については、先にアスガルドに収容されてる子供達同様、昏睡状態が続いている。
これもまた、慈恵院の術式によるものなのだろうか……?
――今回の作戦も、多くのアスガルドの子供達が死んだ。
やるせなさと怒り。そして思い出を抱えて……ハンター達は進んで行く。
あちこちから交戦している音が聞こえる。
その中に時折、子供の悲鳴が混じっているような気がして……エステル・ソル(ka3983)は耳を覆いたくなるのをぐっと堪える。
「エステルちゃん、大丈夫?」
「はい! 大丈夫です! わたくしより、レギさんの方がツライです」
顔を覗き込んで来たリューリ・ハルマ(ka0502)に慌てるエステル。
突然話を振られて、レギが目を瞬かせる。
「何か毎回心配して貰っちゃってますね。ありがとうございます。大丈夫ですよ。僕がレディの前で失態を晒す訳ないでしょう?」
「でも……」
「そういうことにしておいてあげなさいな」
心配そうなエステルを宥める鍛島 霧絵(ka3074)。
――どんなに辛くても、気が進まなくても。軍に所属した以上、仕事と割り切ってやらなくてはいけないことがある。
己の信念に基づいて行動できるのは、ある意味幸せなことなのだと……元軍人である霧江は思う。
そんな彼女を、相棒のユグディラが見上げているのに気づいて、そっとその頭を撫でる。
「……こんな形であなたを子供達に会わせる事になるとは思わなかったわ」
「にゃ?」
「子供達にね、あなた達の話をしたのよ」
先日、アスガルドを訪れた際にクリムゾンウェストに住む幻獣達について子供達に話して聞かせた。
――素敵……! 今度会わせて欲しい!
――ふふふ。いいわよ。
思い出す子供達の笑顔。交わした約束。
――出来ることなら、違う形で果たしてやりたかった。
目を伏せた霧江。その横で、アルスレーテ・フュラー(ka6148)が憂鬱そうにため息を漏らす。
「いやはや……。今回現れた歪虚ね。実刑……じゃない。地毛……違う」
「慈恵院?」
「そう、それ!! 趣味が悪いというかセコいというか。趣味の悪いことするわねー、子供たちを盾にしてさ」
リューリの助け舟に手を打つアルスレーテ。そのままうーん、と考え込んで腕を組む。
「……いや、盾というより、餌かしら? 私たちを誘き寄せる為の」
「どういうこと?」
「強化人間とハンターがまともにやりあった場合、間違いなくハンターが勝つわ。その辺の力量差を理解していないとは思えないのよ。アスガルドの子供達だけでは私達を止められない。その上で、何か策を用意している気がしてね……」
「私達が子供達を助けようとするのも、慈恵院さんの手の内ってこと? でも、子供達を助けない訳にいかないよね」
「そうなのよ。そこまで理解しているのなら、相当イヤらしい敵よ。あの地毛院っていうハゲ」
「違うよ。慈恵院だよ」
アルスレーテとリューリのやり取りにエステルは唇を噛む。
「軍の人達は、それもあって子供達を処分したいんでしょうか。でも、子供たちに責任を押し付けても、失った信頼は取り戻せないですのに」
「そう……なんですけどね。そうしなければいけない理由があるんですよ」
「……レギさん?」
「強化人間って、そもそも何のために作られたかご存知ですか?」
「……歪虚に対抗する為、ですよね」
「そうです。そして、その担い手は殆どは年端もいかぬ子供達です」
エステルの言葉に頷きつつ、続けるレギ。
歪虚への対抗策を持たぬリアルブルーが、ハンターの代替品として作り出したのが『強化人間』だ。
そして、強化人間になるには『適性』が必要となる。
ドリスキルのような大人が適性を見せるのは稀。それ故、大半はレギのような若年層が中心となり――。
強化人間の養成計画が発表された折、人体を使った実験だと、うら若い少年少女を戦場に送るのかと、あちこちから反発があった。
それ故に、これは『世界を守る為の力』だと、必要以上に清らかさを謳う必要があった。
そうすることでようやっと反発を抑えて進めていた事業だったのだ。
「そんな矢先に、その『世界を守る為の清らかな力』だった筈のものが反旗を翻したら――どうなると思います?」
「自分達を守る為に存在していたものが、こちらに牙を剥くとなれば……強化人間自体の弾圧に繋がり兼ねないわね」
考えながら呟く霧江。それにレギがこくりと頷く。
「そうです。だからこそ、全てを『アスガルド』のせいにして、切り捨てる必要があるんです」
「そんな……! 強化人間さん達、何一つ悪くないです!」
「……皆がエステルさんみたいに思ってくれたらよかったんですけどね」
「……そう思えるのも、私達が強化人間の子達を知っているからよ。よく分からない力というのは、力を持たない人達には十分な恐怖になるわ。恐怖を感じるものは、排除したいと思うものよ」
涙目になるエステルに悲しそうな顔をするレギ。吐き捨てるようアルスレーテが続ける。
――恐怖を感じるものは排除をしてもいいのか?
自分達の都合で生み出しておいて、都合が悪くなったら消し去るなんてそんな勝手が許されるのか?
今すぐどうこう出来ることではないけれど……少なくとも、今ここにいる子供達を救い出さなくては。
軍の思い通りになどさせるものか……!
決意を固めるハンター達。リューリはレギの背中をぽんぽん、と励ますように叩く。
「レギ君、頑張ろうね! 男の子だから強がりたいのも分かるけど、無理だったら無理って言ってね!」
「……はい。ありがとうございます」
「こちら『ふぃじかる☆あるすん』。視界良好。いつでも動けるけど……本当にいいのね?」
「こちらエステルです。はい。アルスさんに大分無理させちゃいますが、予定変更でお願いできますか?」
「OK! お姉さんに任せなさい!」
「ありがとうです! 今アンチボディをかけます! 絶対無理はしないでくださいです!」
「大丈夫よー! 肉弾戦なら負けないわよー!」
アルスレーテの言葉に力強さを感じつつ、精霊に祈りを捧げ、輝く障壁を生み出すエステル。
コンフェッサー同士で肉弾戦というのもどうかと思うが……まあ、最終的に操縦者を引きずり出さなければならないことを考えると止む無しか。
――初手で強化人間が操るコンフェッサーに火球を打ち込むことを考えていたエステルだったが、何しろあのスキルは派手だ。
スキルを見慣れない子供達が驚いたり、コンフェッサーが倒されたと勘違いする可能性もある。
一応レギにコンフェッサーの構造なども聞いたし、威力の調整も行うつもりもあるが、それも完璧ではないし『うっかりオーバーキル』したら笑えない。
そして前回、エステルが参加した強化人間の制圧戦では、子供達は想定より早く撤退を始め、数人逃す結果となった。
勿論、強化人間である杏の采配が的確だったこともあるが……もし、攻撃の要であるコンフェッサーが先に倒されるようなことがあれば、今回も逃亡を図るであろうことは容易に想像できた。
今回何を優先すべきか、と考えた時。1人でも多く子供達を保護したい、となる訳で。
行動の順番を入れ替えるのが最良だと言う結論に至った。
正直囮を買って出てくれているアルスレーテが心配ではあるが、ここは彼女を信じるしかない。
「それじゃ、エステルちゃん。私達も出るね」
「随時状況を報告するわ。そちらも気を付けてね」
「はいです! 皆さん頑張りましょう!」
リューリと霧江の声に元気に返事をするエステル。
アルスレーテのふぃじかる☆あるすんの発進音が、戦端を開く合図となった。
リアルブルーのアニメに出て来そうないで立ちのアルスレーテのコンフェッサー。
少女のような愛らしいカスタマイズが施されているのだが、強化人間の子供達にはどう見えているのだろうか……。
マテリアル製のバルーンを生み出した彼女は、風のような速さで強引に前に出る。
突然の動きに驚いたのか、後退するコンフェッサー。その様子をアルスレーテは注意深く観察する。
――相手が踏み込んできたくらいで驚くなんて。実戦は積んでなかったのかしら。
それならば。動きを封じるのは難しいことではないかもしれない……。
その思考を中断する数発の銃弾。アルスレーテの機体に被弾するが、バルーンが盾となりダメージはない。
子供達は大きな敵を脅威に感じたのか、自分を目標と定めたようだ。
まさに、これが狙い。銃撃された方角から子供達の居場所が特定できる。
「こちら『ふぃじかる☆あるすん』。皆聞こえる?」
「こちらリューリ! 聞こえるよ!」
「子供達を見つけたわ。ここから1時方向に1人。3時方向に2人。10時方向に1人。他にまだ3人くらい潜んでいるとは思うけど方角まではちょっと分からないわ」
「分かったよ! 残りの子も探してみる! レギ君行こう!」
「……ちょっと待って。腰に変なモノつけてるわ」
レギを伴い、移動を始めようとしたリューリ。続いたアルスレーテの言葉に、霧江の動きが止まる。
「こちら霧江よ。その変なモノの詳細は分かる?」
「何かははっきりとは分からないけど、箱みたいな形してるわね。レギ、心当たりある?」
「レギ君も良く分からないって」
「こちらエステルです。皆さん、不明な箱については注意して対応するです!」
アルスレーテの問いに代わりに答えたリューリ。エステルは漠然とした不安を抱えたままイェジドを走らせる。
「……こっちにいるみたい。レギ君ついてきて」
流石のレギもこの状況では口説き文句は出ないらしい。素直に従う彼に、笑顔を返すリューリ。
彼とて多感な年ごろの少年だ。こんなところでまで強がっている方が心配になる。
レギの為にも、早く子供達を見つけて捕まえないと……。
精霊の力を宿らせ、聴覚と嗅覚を飛躍的に上昇させた彼女はレギを伴い、隠れた子供達を探していた。
本当はイェジドを連れて来るつもりだったのだが、うっかり忘れてしまい……まあ、結果的に静かに忍び寄ることが出来るようになったので結果オーライか。
耳を澄ますリューリ。聞こえるのは銃器を操る音。そして浅い呼吸。
――怯えているせいだろうか。必死に息を殺そうとしているのに上手く行っていないのが手に取るように分かって……。
建物の隙間。アルスレーテのコンフェッサーに向けて必死に銃撃している子供が見て取れた。
「……いましたね」
「うん。私が一気に近づいて捕まえるから、レギ君は支援お願い出来る?」
「はい。こちらに注意を引けばいいですかね」
「そだね。そうして貰えると楽かな」
頷き合うレギとリューリ。
短い合図。駆け出すリューリ。レギが空に向かって銃撃を放つ。
その音に気付いた子供が標的をこちらに切り替えた。
「この、歪虚め……! 殺してやる……!」
怯えながらも必死で抵抗する少年。滅茶苦茶に撃った銃弾がレギの肩を掠める。
「レギ君!」
「僕は大丈夫です! 早くその子を!」
案じるリューリ。レギの必死の声。彼女は頷くと、強く踏み込んで一気に距離を詰める。
「ごめんね……!」
彼女の短い謝罪と同時に振われる杖。続く轟音。衝撃波が少年の自由を奪う。
「これで大丈夫で……」
「レギ君後ろ!」
その声に振り返るレギ。後方から現れた少女。続いた砲撃の音。リューリは彼を突き飛ばし……銃弾が腹を掠めて顔を顰める。
血が流れるのも構わず距離を詰める彼女。少女の顔に絶望が宿る。
腰の箱に手をやる少女。リューリは咄嗟にその箱を弾き飛ばし……感じた匂いに違和感を感じて、彼女は叫ぶ。
「……! レギ君! それ投げて! 早く!!」
その声に緊急性を感じ取り、素早く動くレギ。彼が箱を放り投げた一瞬後。響く轟音。地面の焼けた匂いが辺りに充満する。
「……爆弾?」
「大変! 皆に知らせなきゃ! レギ君子供達お願い!」
頷くレギ。リューリは大急ぎで魔導スマホを手にして――。
「……はい。分かったです。リューリさんも気を付けてくださいです」
「あの歪虚、本当にロクなことをしないわね……」
通信を切って眉根を寄せるエステル。霧江の呟きにこくりと頷く。
リューリから齎された子供達の腰につけられた箱の正体。
それが爆弾であったことにショックを隠せない。
しかも、その起動スイッチを子供自らの手で押したと言っていた。
操られて周囲がきちんと認識出来ていない子供達が、自らの意志でそんなことをするとは思えない。
――慈恵院という歪虚は、『子供達の救済』などという体のいい言葉を使ってはいるが、やっていることは畜生にも劣る。所詮は子供達は捨て駒に過ぎないのだ。
「許せないです。こんな……こんなこと……」
「そうね。悪夢から早く解放してあげましょう」
霧江の静かな声に、もう一度頷くエステル。
零れそうになる涙。泣くのなんて後からでも出来る。
そこに聞こえてきた銃声。建物の陰から射撃を続けている子供を見つけて、霧江はライフルを構える。
スコープ越しに見える子供達の怯えた表情。彼女は目を反らさずに見つめる。
――脳裏に過る子供達の笑顔。出来れば傷つけたくない。
否、今の自分に出来ることは、この事態を一刻も早く収束すること。
それが一番、子供達の為になる。その為の覚悟も決めて来た。
「……待っていて、今助けるわ」
狙いを定める霧江。こちらに狙いを定める子供。手にした銃から放たれる砲撃。その瞬間、瞬時に撃ち抜き、砲撃が弾かれる。
「エステルさん! 今よ!」
「はいです! アレクさん回避お願いしますです!!」
エステルの指示で弾丸のように飛び出す漆黒のイェジド。
短い詠唱。青白い雲状のガスが広がり、子供の身体から力が抜けて倒れ込む。
銃の射程範囲内であればどこからでも妨害が出来る霧江と、離れた位置からスリープクラウドで子供達を眠らせることの出来るエステルは、子供達の保護という点で非常に相性が良かった。
極力傷つけず、怖がらせることもなく保護することに成功していた。
「エステルさんのスキルなら起きることはないとは思うけれど、万が一ってことがあるわね。可哀想だけれど縛らせてもらいましょ。あ、腰の箱は没収しちゃって頂戴」
「はいです! ……こんなもの、子供達には不要です!」
「本当忌々しいわね。いっそ投げ捨ててやりたいところだけど……」
「そーっと、慎重に……あううう。手がぷるぷるしますー」
そんな会話をしつつ、霧江とエステルはテキパキと眠る子供達を拘束していく。
――そんなことを何度繰り返しただろうか。
ハンター達は銃で撃たれ、怪我を負いながらも何とかこの場所に潜んでいる子供達の拘束に成功していた。
……それと言うのも、『ふぃじかる☆あるすん』が、子供達の救出中にずっと強化人間の操るコンフェッサーを引き付けていてくれたからなのだが。
アルスレーテはコンフェッサーの肩に描かれた可愛らしい音符がずっと気になっていた。
肩の模様からしても、パイロットは女の子なのだろうか……。
無駄の多い動き。それなのに逃げずに食らいついて来る。
一体何をこんなに必死に……ああ。そうか。この子は仲間の仇討ちにきているのか。
だから不利と分かっていても逃げない。元より生きて帰るつもりなどないのかもしれない。
子供を操るだけでも腹が立つのに、こういう『誰かを思う気持ち』すらも利用するのか……!
「嫌ね。あの地毛院ってやつ、今度会ったらボッコボコにしてやるわ」
「アルスレーテさん、だから慈恵院だよ」
呟く彼女。魔導スマホから聞こえてきたリューリの声にアルスレーテはくすりと笑う。
「あら。そっちはもう終わったの?」
「うん! 全員保護完了したよ!」
「それは良かったわ。いい加減この子の装甲が焦げそうだったし」
熟練のアルスレーテからすれば、この程度の相手は本気を出すまでもなく一瞬で制圧出来るのだが、今回は時間を稼がないとならなかった為、防戦に徹していた。
そろそろそれも限界だろうと思っていた矢先の通信だった。
「エステル! それじゃもうシメに入って大丈夫ね!?」
「はいです! 残るはコンフェッサーの中のパイロットだけです!」
「了解! じゃあ例のアレお願いね!!」
「分かったです! アルスレーテさんちょっと下がっててくださいです!」
エステルの通信に合わせて、距離を取る『ふぃじかる☆あるすん』。
追い縋る音符マークのコンフェッサー。
蒼い髪の乙女は、全神経を集中する。
――蒼の戦女神は紅き衣を纏い、情熱の唇に清澄の旋律を以て命じる。花開け……!
舞い散る火球。続く爆音。充満する焼け焦げた匂い。
装甲を剥がされたコンフェッサーは大きくバランスを崩す。
「貰った!!」
刹那。切り返し、狙いすました攻撃で足払いを仕掛けた『ふぃじかる☆あるすん』。
巻き上がる上がる砂埃。大きな音を立てて倒れるコンフェッサー。
そのままスキルトレースで抑え込みに入る。
「早く! 今のうちにパイロット引きずりだして!!」
聞こえるアルスレーテの声。操縦席に食らいつく仲間達。
無理矢理こじ開けたハッチ。その中には、見覚えがある少女がいた。
「……ユニス! あなたユニスね?」
「VOID……! 許さない! よくも杏を……! 杏を殺したお前達を殺す……!」
「わあああ! ユニスちゃんも爆弾つけてるーって、それ起動しちゃダメ!!」
「早く、早く外すです……!」
操縦席にいた少女に目を丸くする霧江。リューリとエステルが慌てて爆弾を外して放り投げて……。
数秒の後に起きる爆発。身体を伏せて爆風を避ける。
――そして、その間も霧江は暴れるユニスを抱きしめ続けていた。
「ユニス。分かる? 私よ」
「放せ! お前達は敵だ……! 私はぜんぶ……ぜんぶ、殺さなきゃ。あのお方が……ああ、杏。杏が死んでしまったって……」
「聞いて、ユニス。杏は生きてる。今は眠っているけど……回復したらきっと会えるわ」
「……杏、どこ? 会いたい……あ、あ……でも、あのお方の命令は……」
「そんな命令、聞かなくていいんだよ。ユニスちゃんも疲れたよね、ちょっと休もう?」
慈恵院の術式が思いの他根深いのか、呼びかけに応えぬユニス。
霧江とリューリの目配せに、エステルは頷いて……眠りを誘う雲を作り出す。
「もう、大丈夫です。……おやすみなさいです、ユニスさん」
こうして、ハンター達の尽力により、この戦場にいたアスガルドの子供達7人全員を制圧、保護することに成功した。
なお、保護された7名については、先にアスガルドに収容されてる子供達同様、昏睡状態が続いている。
これもまた、慈恵院の術式によるものなのだろうか……?
――今回の作戦も、多くのアスガルドの子供達が死んだ。
やるせなさと怒り。そして思い出を抱えて……ハンター達は進んで行く。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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- 部族なき部族
エステル・ソル(ka3983)
重体一覧
参加者一覧
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依頼相談掲示板 | |||
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【相談】『鎮圧』するために エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/04/17 17:56:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/12 22:01:10 |
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質問卓 アルスレーテ・フュラー(ka6148) エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/04/14 16:28:20 |