ゲスト
(ka0000)
彼女と彼の恋愛事情
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/20 22:00
- 完成日
- 2018/04/26 00:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●彼女の書置き
拝啓、母上様。父上様。
突然ですが、わたくし、恋をしてしまいました。
通りすがりのハンターの方です。
まさかわたくしのような女でも助けていただけるなんて思わず、とても感激してしまいましたの。
思わず抱きついてしまって、すぐに我に返って恥ずかしくなって、思わず突き飛ばして逃げてしまいました。
気を悪くしていないといいのですけれど……。
それからは仲良くさせていただきましたのよ。
あの方はわたくしの悩みを親身になって聞いてくださり、まるで自分のことのように共感してくださいました。
依頼を受けて世界中を移動するのがハンターですから、彼も見聞に優れていまして、様々な話をしてくださいました。
わたくしは彼の話を、毎日楽しく聞かせていただきましたの。
そんな日々が終わってしまったのは、あの方が、別の女の方と歩いているのを見てしまってから。
その方も、ハンターでした。
当然ですわね。ハンターである彼に、ハンターである女性の知り合いがいても、全くおかしくありませんもの。
彼はとても、その方と親しくしておいででした。
わたくしとのやり取りなど、おままごとでしかなかったと思わされるくらい。
それからわたくし、三日三晩ほど寝ないで考えましたのよ。
日々のお稽古事でも失敗して大事な花瓶を握り潰してしまうくらい悩んで、決めましたの。
わたくし、彼を探そうと思います。
だって、あの方は、まさにわたくしの理想の殿方。
今を逃してしまったら、きっと二度と出会うことは叶わない、そんなお方。
あの方をわたくしは必ず手に入れます。
ずっと奥手でお父様が必死に選んで下さった見合い写真も全て粉砕してしまったわたくしですけれど、箱入り娘は卒業いたしますわ。
これよりわたくしは愛に生きる女となるのです。
ああ、可愛らしいお方。肉食系の女はお嫌いかしら?
待ってて下さいね。お母様にも、お父様にも、きっと彼と連れ添うわたくしの姿をお見せしますから。
娘より、永遠の敬愛をこめて。
●彼の日記
人助けなんてするもんじゃない。
このことを、今日ほど噛み締めたことはない。
初めは、ただの善意だったんだ。
女性が雑魔に襲われていたから、その雑魔を退治した。本当にそれだけ。
襲われていた彼女は、思い描いていたものとはちょっと、いや、かなり違っていた。
助けなんて必要なさそうだったとはいえ、それでも女性であることに違いないし、紳士的に振る舞って家まで送ってあげたんだ。
他意はない。本当だ。
確かに彼女の悩みは他人事のようには思えなくて、俺もらしくなく熱くなっちゃったりもしたけど、そういうつもりは全くなかった。
タイプじゃなかったし、彼女も俺のことを同じように感じていると思っていた。
俺たちは、お互いのコンプレックスを刺激される組み合わせだったから。
でも違った。
彼女は俺を待ち伏せていた。しかも、曲がり角に隠れて出会い頭に強烈なタックルを仕掛けてきたんだ。
油断をしていたというわけではないけれど、正直予想外で気付くのが遅れた点は否めない。
でも迎撃しようとして、彼女を見て武器に伸びる手を止めてしまった。
当然だろ。悪人でもない、契約者でもない、ましてや歪虚でもない、それもどちらかといえば善人と呼べる性格の女性に、武器なんて向けられるわけがない。
……今思えば、ここで無理にでも武器を向けて、彼女に諦めてもらえば良かったのか。
彼女は、俺のことを色々聞いてきた。
冒険や戦い、探索、調査、色んな依頼の話を、目をキラキラして聞いていたんだ。そんなところだけは、本当に可愛らしい人だった。
興奮すると俺に手や足を出してくるのが少し、いや結構、困りものだったけど。
関係が変わったのは、俺が知り合いのハンターと一緒にいたところを見られてから。
そのハンターはやたらとベタベタしてくる子で、その子が抱きついてキスを迫ってくるところを見られた。
大きな音がして、そっちを見たら、彼女が無表情で俺を見ていた。
側にはハンターオフィスの建物の壁。その壁の一部が拳の形に凹んでて、放射状に皹が入っていた。
うん。彼女は、覚醒者になる素質があるんだ。でも、両親が彼女を溺愛してて本格的に学ぶのを許してくれなかったらしい。たぶん上流階級の子で、箱入り娘だったんだろう。
彼女にそんな光景を見られてしまった。
それからしばらく、彼女は俺に会いに来なかった。
そして次に俺が彼女と会った時、彼女は家を飛び出してハンターになってクラスまで獲得していた。
信じられるかい? ありゃ、クラスは格闘士か霊闘士だな、きっと。
俺のストーカーと化した彼女は、俺がどこに逃げても追ってきた。
今も、彼女が俺のことを探している。
日記を見た者よ。どうか、俺を助けてくれ。報酬は払う。
●ハンターズソサエティにて
受付嬢が今日も人気がない依頼を斡旋しにハンターたちの元へやってくる。
「事件です。依頼人が複数絡む案件です。その分報酬も増額されています。お得ですよ」
盛んに呼びかける受付嬢だったが、ハンターたちは誰も信じなかった。
確かに、報酬は良いのだろう。基本的に受付嬢が嘘偽りを述べることはない。
しかし人気がないのはそれ相応の理由があるからであり、高額な報酬以上の何か受けたくない理由があるからこそ、誰も受けたがらないのだ。
「一つは家出して行方不明になった娘を探して欲しいというもの。こちらについてはある程度足取りが掴めていて、ハンターズソサエティを訪れてハンターになった記録が残っています。彼女が残したと思われる両親あての書置きも書き写したものがありますので後でお配りします」
次に、受付嬢は懐から日記帳を取り出した。
手帳タイプの日記帳で、リゼリオで手に入る有り触れたもの。
「もう一つは、この日記の主を発見することです。関連性があると判断され、本人が出したものとしてハンターズソサエティの権限で依頼が出されました」
日記を再び懐にしまった受付嬢は、先の書置きの写しと合わせて、日記の最後のページの写しをハンターたちに配り始める。
「この方についてはハンターズソサエティ内での会話を覚えていた方がおりまして、失踪した経緯は分かっています。行方不明になった娘にストーカーされていて逃げ回っているようです」
配り終えた受付嬢は、かけた眼鏡を中指でくいと持ち上げた。
「聞き込みの結果大よその現在地は特定できています。容姿の方ですが、角刈りお下げ髪黒髪茶目の中年男性が娘で、ショートカットの金髪碧眼美少女の方が男だそうです。なんというか、あべこべな二人ですね」
受付嬢は、最後に再び営業スマイルを浮かべる。
「書置きや日記を読む限りでは、お互いを嫌い合っているわけではないようです。それではよろしくお願いいたします」
お辞儀をして去っていった。
拝啓、母上様。父上様。
突然ですが、わたくし、恋をしてしまいました。
通りすがりのハンターの方です。
まさかわたくしのような女でも助けていただけるなんて思わず、とても感激してしまいましたの。
思わず抱きついてしまって、すぐに我に返って恥ずかしくなって、思わず突き飛ばして逃げてしまいました。
気を悪くしていないといいのですけれど……。
それからは仲良くさせていただきましたのよ。
あの方はわたくしの悩みを親身になって聞いてくださり、まるで自分のことのように共感してくださいました。
依頼を受けて世界中を移動するのがハンターですから、彼も見聞に優れていまして、様々な話をしてくださいました。
わたくしは彼の話を、毎日楽しく聞かせていただきましたの。
そんな日々が終わってしまったのは、あの方が、別の女の方と歩いているのを見てしまってから。
その方も、ハンターでした。
当然ですわね。ハンターである彼に、ハンターである女性の知り合いがいても、全くおかしくありませんもの。
彼はとても、その方と親しくしておいででした。
わたくしとのやり取りなど、おままごとでしかなかったと思わされるくらい。
それからわたくし、三日三晩ほど寝ないで考えましたのよ。
日々のお稽古事でも失敗して大事な花瓶を握り潰してしまうくらい悩んで、決めましたの。
わたくし、彼を探そうと思います。
だって、あの方は、まさにわたくしの理想の殿方。
今を逃してしまったら、きっと二度と出会うことは叶わない、そんなお方。
あの方をわたくしは必ず手に入れます。
ずっと奥手でお父様が必死に選んで下さった見合い写真も全て粉砕してしまったわたくしですけれど、箱入り娘は卒業いたしますわ。
これよりわたくしは愛に生きる女となるのです。
ああ、可愛らしいお方。肉食系の女はお嫌いかしら?
待ってて下さいね。お母様にも、お父様にも、きっと彼と連れ添うわたくしの姿をお見せしますから。
娘より、永遠の敬愛をこめて。
●彼の日記
人助けなんてするもんじゃない。
このことを、今日ほど噛み締めたことはない。
初めは、ただの善意だったんだ。
女性が雑魔に襲われていたから、その雑魔を退治した。本当にそれだけ。
襲われていた彼女は、思い描いていたものとはちょっと、いや、かなり違っていた。
助けなんて必要なさそうだったとはいえ、それでも女性であることに違いないし、紳士的に振る舞って家まで送ってあげたんだ。
他意はない。本当だ。
確かに彼女の悩みは他人事のようには思えなくて、俺もらしくなく熱くなっちゃったりもしたけど、そういうつもりは全くなかった。
タイプじゃなかったし、彼女も俺のことを同じように感じていると思っていた。
俺たちは、お互いのコンプレックスを刺激される組み合わせだったから。
でも違った。
彼女は俺を待ち伏せていた。しかも、曲がり角に隠れて出会い頭に強烈なタックルを仕掛けてきたんだ。
油断をしていたというわけではないけれど、正直予想外で気付くのが遅れた点は否めない。
でも迎撃しようとして、彼女を見て武器に伸びる手を止めてしまった。
当然だろ。悪人でもない、契約者でもない、ましてや歪虚でもない、それもどちらかといえば善人と呼べる性格の女性に、武器なんて向けられるわけがない。
……今思えば、ここで無理にでも武器を向けて、彼女に諦めてもらえば良かったのか。
彼女は、俺のことを色々聞いてきた。
冒険や戦い、探索、調査、色んな依頼の話を、目をキラキラして聞いていたんだ。そんなところだけは、本当に可愛らしい人だった。
興奮すると俺に手や足を出してくるのが少し、いや結構、困りものだったけど。
関係が変わったのは、俺が知り合いのハンターと一緒にいたところを見られてから。
そのハンターはやたらとベタベタしてくる子で、その子が抱きついてキスを迫ってくるところを見られた。
大きな音がして、そっちを見たら、彼女が無表情で俺を見ていた。
側にはハンターオフィスの建物の壁。その壁の一部が拳の形に凹んでて、放射状に皹が入っていた。
うん。彼女は、覚醒者になる素質があるんだ。でも、両親が彼女を溺愛してて本格的に学ぶのを許してくれなかったらしい。たぶん上流階級の子で、箱入り娘だったんだろう。
彼女にそんな光景を見られてしまった。
それからしばらく、彼女は俺に会いに来なかった。
そして次に俺が彼女と会った時、彼女は家を飛び出してハンターになってクラスまで獲得していた。
信じられるかい? ありゃ、クラスは格闘士か霊闘士だな、きっと。
俺のストーカーと化した彼女は、俺がどこに逃げても追ってきた。
今も、彼女が俺のことを探している。
日記を見た者よ。どうか、俺を助けてくれ。報酬は払う。
●ハンターズソサエティにて
受付嬢が今日も人気がない依頼を斡旋しにハンターたちの元へやってくる。
「事件です。依頼人が複数絡む案件です。その分報酬も増額されています。お得ですよ」
盛んに呼びかける受付嬢だったが、ハンターたちは誰も信じなかった。
確かに、報酬は良いのだろう。基本的に受付嬢が嘘偽りを述べることはない。
しかし人気がないのはそれ相応の理由があるからであり、高額な報酬以上の何か受けたくない理由があるからこそ、誰も受けたがらないのだ。
「一つは家出して行方不明になった娘を探して欲しいというもの。こちらについてはある程度足取りが掴めていて、ハンターズソサエティを訪れてハンターになった記録が残っています。彼女が残したと思われる両親あての書置きも書き写したものがありますので後でお配りします」
次に、受付嬢は懐から日記帳を取り出した。
手帳タイプの日記帳で、リゼリオで手に入る有り触れたもの。
「もう一つは、この日記の主を発見することです。関連性があると判断され、本人が出したものとしてハンターズソサエティの権限で依頼が出されました」
日記を再び懐にしまった受付嬢は、先の書置きの写しと合わせて、日記の最後のページの写しをハンターたちに配り始める。
「この方についてはハンターズソサエティ内での会話を覚えていた方がおりまして、失踪した経緯は分かっています。行方不明になった娘にストーカーされていて逃げ回っているようです」
配り終えた受付嬢は、かけた眼鏡を中指でくいと持ち上げた。
「聞き込みの結果大よその現在地は特定できています。容姿の方ですが、角刈りお下げ髪黒髪茶目の中年男性が娘で、ショートカットの金髪碧眼美少女の方が男だそうです。なんというか、あべこべな二人ですね」
受付嬢は、最後に再び営業スマイルを浮かべる。
「書置きや日記を読む限りでは、お互いを嫌い合っているわけではないようです。それではよろしくお願いいたします」
お辞儀をして去っていった。
リプレイ本文
●集まったハンターたち
依頼を受注した四人はまず同じ依頼を受けた仲間たちと顔合わせを行った。
ハンターは横の繋がりが強く、今回も友人知人が集まったようだ。
「マリエルといいます。よろしくお願いしますね」
「セレスティアといいます。よろしくお願いしますね」
涼やかな声が唱和した。
茶髪に茶瞳のハンターであるマリエル(ka0116)と金髪青眼のハンターであるセレスティア(ka2691)は友人同士での参加らしい。
「あっ、挨拶が揃いました」
「凄い。幸先良いですね」
相手も同じハンターとはいえ、街中の依頼ということで、二人とも普段よりはリラックスしており、今も偶然挨拶が揃ったという他愛無い理由で喜んでいる。
二人で向き合って両手を繋ぎ、はしゃいでいる姿は、歴戦のハンターとは思えないくらい無邪気で可愛らしい。
今も、ハンターズソサエティの見知らぬハンターたちや見知らぬ依頼人の目を釘付けにしている。
しかし当人たちはその視線に全く気付いておらず、また気付いていたとしても特に気にはしなかっただろう。
元気で明るく好奇心旺盛なマリエルに、穏やかで真面目なセレスティアと性格に違いはあるものの、ともに華やかな雰囲気の持ち主なので、元から目立つことには慣れているのだ。
一方で、場違いな場所に来てしまったという気持ちが拭えない者もいた。
黒髪に青の瞳の女剣士、レイア・アローネ(ka4082)である。
彼女本人は戦闘者で、剣士というよりも戦士だと自負するくらい生き延びることに特化した才能を持つ技巧者だ。
そんな彼女がどうしてこの依頼を引き受けたかというと、まあ彼女も恋愛事には興味があって、早い話が血迷ったのである。
「自分で引き受けてからいうのも何だが……私は一体何をしているのだろうか……」
引き受けた後で我に帰り、思わず蹲っている姿は普段の凛々しく颯爽とした姿とは違ってコミカルだ。
「どうすればいいのだ……」
いつもは凛とした態度を取り、最前線で戦って仲間を引っ張るレイアも、今回ばかりは勝手が違うようで、顔を赤くしてまるで少女のように悩んでいる様子が見て取れる。
そして、どの依頼でも割と万能な対応を見せるのが依頼を受けたハンターのうちの最後の一人、金髪緑眼のエメラルド・シルフィユ(ka4678)だ。
「ふむ……ストーカー化しているなら一筋縄ではいかなそうだな。……大丈夫だろうか?」
ただ彼女の場合元々の性格は優しく生真面目なのだが、色々脇が甘いというか、隠れているだけで実は欠点が多いというか、意外性が多々ありその本質が注目されることはあまりない。
もっとも、彼女の場合その欠点が愛嬌となっているので、一概にそれが悪いことだとはいえないのであるが。
完璧な美人よりも、親しみやすい美人の方が好まれるとは、よくいったものである。
とはいえ司教を目指し聖堂騎士としても修行中である身に相応しく、その本質が謙虚な人間であることは疑いようもなく、エメラルド自身祖国であるグラズヘイム王国と聖堂教会に強い忠誠と信仰心を持っている人間だ。
「会うのが怖いようなそうでないような……。いや待て、決して楽しみなわけではないぞ?」
しかし彼女の場合、素の行動が自然と笑いを取るのでその本質は親しい間柄の人間にしか知られていないのだった。
●班分け
話し合った結果、二手に分かれてそれぞれの対象に接触してみることにした。
マリエルとレイアがベラ・クーリ、セレスティアとエメラルドがエル・フラスにそれぞれ対応する。
特にセレスティアは現在進行形で婚約をしている恋人がおり、そういう意味でも解決に向けたアドバイスが期待できた。
話が纏まりかけたところで、マリエルの一言が前提を覆す。
「ところで、ベラさんとエルさんは、どこにいるんですか?」
しばらく宙を見つめて考え込んだセレスティアは、首を傾げてレイアに話を降った。
「確かに、リゼリオ内といっても広いですからね。あなた知ってます?」
「知らん。逆に聞くが、何故私が知っていると思ったのだ?」
興味はあるが恋愛事に疎いレイアは、勝手の違う依頼にそこまで頭が回っていなかったことを自覚し苦い表情で首を横に振った。
「もちろん私も知らないぞ!」
何故か堂々と自信満々に宣言するのはエメラルドだ。
四人はどうしようという思いで一致した視線をかわす。
「……誰かに聞いてみるというのはどうでしょうか?」
「それがいいと思います。貰った書置きと日記の写しにも居場所に繋がる記述はないようですし」
マリエルの提案に、セレスティアが真っ先に同意した。
「そういえば、受付嬢が聞き込みの結果大体の居場所は特定できているといっていたな」
依頼を受けた時のことを思い出してレイアが告げると、エメラルドがポンと手を叩いた。
「おお! そうだったな! さっそく聞きに行こう!」
意見が一致した四人は、連れ立って受付嬢の下へ行った。
受付嬢は今日も営業スマイルを輝かせ、テキパキと依頼受付カウンターで通常業務を行っている。
淀みなく無駄のないその仕事ぶりを見た四人は、口々に思いついた感想を述べた。
「……これはうさんくさいです」
「ええ、うさんくさいですね」
思わず口に出てしまったという感じのマリエルに、何故か若干警戒している様子のセレスティアの態度は、受付嬢とはほぼ初対面なので仕方ないかもしれない。
「否定できないうさんくささだな」
「物凄くうさんくさいぞ!」
しかしレイアとエメラルドは以前の依頼で面識があるせいか、本気半分冗談半分でそう思っているようだ。
「仕事してるだけなのに酷くありませんか?」
聞きつけた受付嬢が文句をいうが、その間も営業スマイルを崩そうとせずうさんくさいままなので、どう考えても受付嬢が悪い。
しかもこの受付嬢の場合普段から意識してそうしている節もある。
割と自業自得だった。
うさんくさい受付嬢から二人の居場所を聞き出した四人は、改めて現場に向かった。
●どうしてこうなった
よく考えれば相手も生きている人間である以上、移動しているのは当然で、受付嬢から得た情報と、道すがら出会った通行人に尋ねて回ったことで得た情報から対象者の行方を追った一行は、最終的に人一人がすっぽり入りそうな大きさのゴミ箱が無数に並ぶとある路地でばったり再会した。
「あら? セレスティアとエメラルドさん?」
フライングスレッドの飛行機能を用い、マテルアルをジェット噴射させながら空を飛んで現れたマリエルに、セレスティアは苦笑を浮かべた。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね。あなたたちも」
気のせいだろうか、セレスティアの表情には誰に対するものか分からないが呆れが見える。
「私たちはベラを追ってきたんだが、おまえたちはどうしてここに?」
エメラルドが尋ねると、呆れの表情を濃くしたセレスティアが立ち並ぶゴミ箱に目を向けた。
どうやら呆れの表情を向けた先は依頼対象に対してらしい。
「実はそこのゴミ箱の中のどれかに、エルが隠れていてな」
困った様子のレイアが、マリエルとエメラルドに事情を説明する。
とはいえ、実際に見れば一目瞭然だった。
何故ならば、巨漢の角刈りお下げのオカマ女にしか見えないベラ・クーリが、女にしては野太い声で甘ったるくお嬢様言葉を使いながら、一つ一つゴミ箱の蓋を開けて中身を確認しているのだから。
「うふふー。ここにもいませんね。もう、エルったら焦らすのが上手いんですからぁー。でも私から逃げようなんて、甘いですよぉー?」
しかも、ベラから一番遠いゴミ箱だけガタガタ揺れているのだから、もう一人の依頼対象者がどこにいるのかも分かり切っている。
目をぱちくりさせて一部始終を確認したマリエルが、愕然とした表情で叫ぶ。
「絶対絶命じゃないですか!」
「私たちが接触しようとした直後に、あの人『ベラの気配がする!』とか言い出して隠れてしまって」
どうやらセレスティアも本当に困っているらしい。無理もない。
「そうしたら本当に来たわけだ……。何というか、動物的な感だよ、どちらも」
レイアは戸惑った様子で、もったいぶってエルがいるゴミ箱だけを避けて探しているベラを見つめている。
彼女は彼女でベラがわざとエルがいるゴミ箱を避けている理由に思い至っていないようだった。
恋愛事に疎い弊害がここで出ている。
「このままだとろくに話が通じなさそうだな!」
困ったようにいうエメラルドからは相反して、あまり困っていそうな感情は見受けられなかった。
「とりあえず、早く引き離した方がいいんじゃないですか?」
「そうですね。こちらは四人いますし、さっさと取り押さえてしまいましょう」
マリエルとセレスティアに対し、レイアは自分の出番だと歩み出た。
「荒事なら任せてくれ」
ベラの監視を続けているエメラルドが感じたことを報告する。
「街中だから、それほど抵抗はしないと思うぞ。しばらく見ていたが、彼女、普段は割と理性的そうだ」
同じハンターとはいえ、熟練者四人掛かりでは新米ハンターなどろくな抵抗ができず、黒髪茶瞳角刈りお下げの女ハンター、ベラ・クーリはマリエルとエメラルドに牽制された挙句、ゴミ箱に隠れるエルを庇うセレスティアの張った結界であっさりとゴミ箱から引き剥がされ、レイアによって拘束された。
●事情聴取と説得
ゴミ箱から顔を覗かせたのは、美少女にしか見えない金髪碧眼の男だった。
ハンターにしては線が細く、全体的なシルエットがほっそりとしているので、男だと分かっていても男に見えない。
ショートカットでも女にしか見えないのは哀れという他ない。
「……ベラはどうなった?」
警戒と心配が半々になった態度で。エルはベラの姿を探している。
「あっちで取り押さえられてますよ」
セレスティアが手でベラの居場所を示した。
エメラルドも胸を張ってエルに笑いかける。
「うむ! 私たちの仲間がしっかり見張ってるからもう心配ないぞ!」
取り押さえられたベラは早々に抵抗を諦め、女座りで座って文句を口にする。
「もう! いいところでしたのに! 何ですのあなたたちは!」
口惜しがるベラを、マリエルは可愛らしく叱った。
「ご両親から依頼を受けて家出したあなたを探しに来たんです。ご両親を心配させたら駄目ですよ」
ベラを取り押さえることで活躍したレイアが語る。
「他にも、エル・フラスが残していた日記からハンターズソサエティ名義で捜索依頼が出ている。私たちはそれらの依頼を受けたハンターだ」
いつの間にかレイアの戸惑いは抜けていた。
どうやら慣れ親しんだ闘争の気配に少しなりとも触れたことで、落ち着きを取り戻したらしい。
「そうか。迷惑をかけたな。礼をいう」
美少女は割と豪快な動作でゴミ箱から出てきた。やはり女らしいのは見た目だけなようだ。
事情聴取の準備が整ったので、まずはベラ・クーリから聞き取りが行われた。
担当するのはマリエルとエメラルドの二人だ。
事情を聞いたマリエルは真摯にベラを説得する。
「物事には順序ってあると思うんです。ベラさんの想いは凄く伝わってきます。けれども、それはベラさんも想いを練って時間をかけてたどり着いた想いではないですか? それならば、その想いを受け取る方にも時間がいると思うんです。だからこそ、こんな形で駄目にしちゃいけないと思いますよ」
「ですけれど、他の女に取られるくらいなら、わたくしは……!」
「ま、まあ待て、とりあえずは落ち着け。私達は君に害をなそうという訳ではない。むしろ君の味方になってもいいと思っている。彼も男だ。情熱的なのは悪くはないが、一方的に話を進められては立場があるまい? あるいは誤解があるかもしれない。まずは落ち着いて話をしてみてはどうかな?」
激昂しそうになるベラを、エメラルドがだらだら冷や汗をかきながら押し留める。
何しろ二人とも聖導師だ。相手は駆け出しの格闘士とはいえ、暴れられると少々面倒くさいことになる。
続いて、エル・フラスからセレスティアとレイアが事情を聞き出した。
「なるほど……。知り合いの女ハンターから女友達に接するように悪戯されていた場面を見られてしまったのですか。その女ハンターに対しては、エルさんも友人知人以上の関係ではないと。では、ベラ・クーリさんについてはどう思っているのですか?」
尋ねるセレスティアはさすがというべきか恋愛に詳しく、的確に聞くべきことを聞いている。
「申し訳ないが、その女ハンターに同意してしまいそうだ……。男だと分かっていても男には見えん。いや、悪いとは思っているのだが、どうにもな……。むしろそのなりで何故男なのだと思ってしまう。本当にここまでとは思わなかった。気を悪くさせてしまったならすまない」
謝罪するレイアに首を横に振って気にしていないことを伝え、エルはセレスティアに自分の胸の内を明かした。
「いや、いい。女扱いには慣れている。俺自身、男扱いされたのはベラが初めてだったんだ。それが嬉しくて、ベラのことが好きになった。本来好きなタイプではなかったのだがな」
呆然としてエルを見るベラに、エルは気恥ずかしそうに告白した。
「と、いうわけだ。俺は、どうも君のことが好きらしい。このまま疎遠になりたくはない。どうか、誤解を解いてはもらえないだろうか」
●一件落着
話を聞いた受付嬢は、依頼報酬を手渡しながら四人に尋ねた。
「それで、その後はどうなったんです?」
「ベラ・クーリは喜び、誤解も解けて、カップルとまではいきませんが元通り仲の良い親友という感じに落ち着きましたよ。見てて羨ましくなる仲の良さでした」
おすそ分けされた甘い雰囲気に当てられたか、報告を行うマリエルは苦笑している。
「結構最後の方は甘い雰囲気になっていましたから、案外あともう一押しがあれば完全にくっついたかもしれませんね」
セレスティアは恋愛の先輩風を吹かせられたのが良かったのか、やけに機嫌が良い。
終わってみれば、レイアも良い気分転換になったようだ。
「いつもの依頼とは勝手が違ったから戸惑いも多かったものの、これはこれで悪くない。良い経験になった。ちょうど良いリフレッシュにもなったしな」
伸びをしたエメラルドが、気持ち良さそうな声を上げる。
「最初はどうなることかと思ったが、最後の方は恋のキューピッドになった気持ちだったぞ! 良いことをした後は気持ちがいいな!」
ハンターズソサエティに楽しげな笑い声が響く。
こうして四人の懐は暖まり、ベラとエルは仲直りして、ベラは家に無事に帰った。
大団円を迎えたといえるだろう。
ここに、彼女と彼の恋愛事情は終わりを迎えた。
いずれは続きが語られるかもしれないが、今はまだその時ではない。
それまでは、ここを幕引きとしよう。
依頼を受注した四人はまず同じ依頼を受けた仲間たちと顔合わせを行った。
ハンターは横の繋がりが強く、今回も友人知人が集まったようだ。
「マリエルといいます。よろしくお願いしますね」
「セレスティアといいます。よろしくお願いしますね」
涼やかな声が唱和した。
茶髪に茶瞳のハンターであるマリエル(ka0116)と金髪青眼のハンターであるセレスティア(ka2691)は友人同士での参加らしい。
「あっ、挨拶が揃いました」
「凄い。幸先良いですね」
相手も同じハンターとはいえ、街中の依頼ということで、二人とも普段よりはリラックスしており、今も偶然挨拶が揃ったという他愛無い理由で喜んでいる。
二人で向き合って両手を繋ぎ、はしゃいでいる姿は、歴戦のハンターとは思えないくらい無邪気で可愛らしい。
今も、ハンターズソサエティの見知らぬハンターたちや見知らぬ依頼人の目を釘付けにしている。
しかし当人たちはその視線に全く気付いておらず、また気付いていたとしても特に気にはしなかっただろう。
元気で明るく好奇心旺盛なマリエルに、穏やかで真面目なセレスティアと性格に違いはあるものの、ともに華やかな雰囲気の持ち主なので、元から目立つことには慣れているのだ。
一方で、場違いな場所に来てしまったという気持ちが拭えない者もいた。
黒髪に青の瞳の女剣士、レイア・アローネ(ka4082)である。
彼女本人は戦闘者で、剣士というよりも戦士だと自負するくらい生き延びることに特化した才能を持つ技巧者だ。
そんな彼女がどうしてこの依頼を引き受けたかというと、まあ彼女も恋愛事には興味があって、早い話が血迷ったのである。
「自分で引き受けてからいうのも何だが……私は一体何をしているのだろうか……」
引き受けた後で我に帰り、思わず蹲っている姿は普段の凛々しく颯爽とした姿とは違ってコミカルだ。
「どうすればいいのだ……」
いつもは凛とした態度を取り、最前線で戦って仲間を引っ張るレイアも、今回ばかりは勝手が違うようで、顔を赤くしてまるで少女のように悩んでいる様子が見て取れる。
そして、どの依頼でも割と万能な対応を見せるのが依頼を受けたハンターのうちの最後の一人、金髪緑眼のエメラルド・シルフィユ(ka4678)だ。
「ふむ……ストーカー化しているなら一筋縄ではいかなそうだな。……大丈夫だろうか?」
ただ彼女の場合元々の性格は優しく生真面目なのだが、色々脇が甘いというか、隠れているだけで実は欠点が多いというか、意外性が多々ありその本質が注目されることはあまりない。
もっとも、彼女の場合その欠点が愛嬌となっているので、一概にそれが悪いことだとはいえないのであるが。
完璧な美人よりも、親しみやすい美人の方が好まれるとは、よくいったものである。
とはいえ司教を目指し聖堂騎士としても修行中である身に相応しく、その本質が謙虚な人間であることは疑いようもなく、エメラルド自身祖国であるグラズヘイム王国と聖堂教会に強い忠誠と信仰心を持っている人間だ。
「会うのが怖いようなそうでないような……。いや待て、決して楽しみなわけではないぞ?」
しかし彼女の場合、素の行動が自然と笑いを取るのでその本質は親しい間柄の人間にしか知られていないのだった。
●班分け
話し合った結果、二手に分かれてそれぞれの対象に接触してみることにした。
マリエルとレイアがベラ・クーリ、セレスティアとエメラルドがエル・フラスにそれぞれ対応する。
特にセレスティアは現在進行形で婚約をしている恋人がおり、そういう意味でも解決に向けたアドバイスが期待できた。
話が纏まりかけたところで、マリエルの一言が前提を覆す。
「ところで、ベラさんとエルさんは、どこにいるんですか?」
しばらく宙を見つめて考え込んだセレスティアは、首を傾げてレイアに話を降った。
「確かに、リゼリオ内といっても広いですからね。あなた知ってます?」
「知らん。逆に聞くが、何故私が知っていると思ったのだ?」
興味はあるが恋愛事に疎いレイアは、勝手の違う依頼にそこまで頭が回っていなかったことを自覚し苦い表情で首を横に振った。
「もちろん私も知らないぞ!」
何故か堂々と自信満々に宣言するのはエメラルドだ。
四人はどうしようという思いで一致した視線をかわす。
「……誰かに聞いてみるというのはどうでしょうか?」
「それがいいと思います。貰った書置きと日記の写しにも居場所に繋がる記述はないようですし」
マリエルの提案に、セレスティアが真っ先に同意した。
「そういえば、受付嬢が聞き込みの結果大体の居場所は特定できているといっていたな」
依頼を受けた時のことを思い出してレイアが告げると、エメラルドがポンと手を叩いた。
「おお! そうだったな! さっそく聞きに行こう!」
意見が一致した四人は、連れ立って受付嬢の下へ行った。
受付嬢は今日も営業スマイルを輝かせ、テキパキと依頼受付カウンターで通常業務を行っている。
淀みなく無駄のないその仕事ぶりを見た四人は、口々に思いついた感想を述べた。
「……これはうさんくさいです」
「ええ、うさんくさいですね」
思わず口に出てしまったという感じのマリエルに、何故か若干警戒している様子のセレスティアの態度は、受付嬢とはほぼ初対面なので仕方ないかもしれない。
「否定できないうさんくささだな」
「物凄くうさんくさいぞ!」
しかしレイアとエメラルドは以前の依頼で面識があるせいか、本気半分冗談半分でそう思っているようだ。
「仕事してるだけなのに酷くありませんか?」
聞きつけた受付嬢が文句をいうが、その間も営業スマイルを崩そうとせずうさんくさいままなので、どう考えても受付嬢が悪い。
しかもこの受付嬢の場合普段から意識してそうしている節もある。
割と自業自得だった。
うさんくさい受付嬢から二人の居場所を聞き出した四人は、改めて現場に向かった。
●どうしてこうなった
よく考えれば相手も生きている人間である以上、移動しているのは当然で、受付嬢から得た情報と、道すがら出会った通行人に尋ねて回ったことで得た情報から対象者の行方を追った一行は、最終的に人一人がすっぽり入りそうな大きさのゴミ箱が無数に並ぶとある路地でばったり再会した。
「あら? セレスティアとエメラルドさん?」
フライングスレッドの飛行機能を用い、マテルアルをジェット噴射させながら空を飛んで現れたマリエルに、セレスティアは苦笑を浮かべた。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね。あなたたちも」
気のせいだろうか、セレスティアの表情には誰に対するものか分からないが呆れが見える。
「私たちはベラを追ってきたんだが、おまえたちはどうしてここに?」
エメラルドが尋ねると、呆れの表情を濃くしたセレスティアが立ち並ぶゴミ箱に目を向けた。
どうやら呆れの表情を向けた先は依頼対象に対してらしい。
「実はそこのゴミ箱の中のどれかに、エルが隠れていてな」
困った様子のレイアが、マリエルとエメラルドに事情を説明する。
とはいえ、実際に見れば一目瞭然だった。
何故ならば、巨漢の角刈りお下げのオカマ女にしか見えないベラ・クーリが、女にしては野太い声で甘ったるくお嬢様言葉を使いながら、一つ一つゴミ箱の蓋を開けて中身を確認しているのだから。
「うふふー。ここにもいませんね。もう、エルったら焦らすのが上手いんですからぁー。でも私から逃げようなんて、甘いですよぉー?」
しかも、ベラから一番遠いゴミ箱だけガタガタ揺れているのだから、もう一人の依頼対象者がどこにいるのかも分かり切っている。
目をぱちくりさせて一部始終を確認したマリエルが、愕然とした表情で叫ぶ。
「絶対絶命じゃないですか!」
「私たちが接触しようとした直後に、あの人『ベラの気配がする!』とか言い出して隠れてしまって」
どうやらセレスティアも本当に困っているらしい。無理もない。
「そうしたら本当に来たわけだ……。何というか、動物的な感だよ、どちらも」
レイアは戸惑った様子で、もったいぶってエルがいるゴミ箱だけを避けて探しているベラを見つめている。
彼女は彼女でベラがわざとエルがいるゴミ箱を避けている理由に思い至っていないようだった。
恋愛事に疎い弊害がここで出ている。
「このままだとろくに話が通じなさそうだな!」
困ったようにいうエメラルドからは相反して、あまり困っていそうな感情は見受けられなかった。
「とりあえず、早く引き離した方がいいんじゃないですか?」
「そうですね。こちらは四人いますし、さっさと取り押さえてしまいましょう」
マリエルとセレスティアに対し、レイアは自分の出番だと歩み出た。
「荒事なら任せてくれ」
ベラの監視を続けているエメラルドが感じたことを報告する。
「街中だから、それほど抵抗はしないと思うぞ。しばらく見ていたが、彼女、普段は割と理性的そうだ」
同じハンターとはいえ、熟練者四人掛かりでは新米ハンターなどろくな抵抗ができず、黒髪茶瞳角刈りお下げの女ハンター、ベラ・クーリはマリエルとエメラルドに牽制された挙句、ゴミ箱に隠れるエルを庇うセレスティアの張った結界であっさりとゴミ箱から引き剥がされ、レイアによって拘束された。
●事情聴取と説得
ゴミ箱から顔を覗かせたのは、美少女にしか見えない金髪碧眼の男だった。
ハンターにしては線が細く、全体的なシルエットがほっそりとしているので、男だと分かっていても男に見えない。
ショートカットでも女にしか見えないのは哀れという他ない。
「……ベラはどうなった?」
警戒と心配が半々になった態度で。エルはベラの姿を探している。
「あっちで取り押さえられてますよ」
セレスティアが手でベラの居場所を示した。
エメラルドも胸を張ってエルに笑いかける。
「うむ! 私たちの仲間がしっかり見張ってるからもう心配ないぞ!」
取り押さえられたベラは早々に抵抗を諦め、女座りで座って文句を口にする。
「もう! いいところでしたのに! 何ですのあなたたちは!」
口惜しがるベラを、マリエルは可愛らしく叱った。
「ご両親から依頼を受けて家出したあなたを探しに来たんです。ご両親を心配させたら駄目ですよ」
ベラを取り押さえることで活躍したレイアが語る。
「他にも、エル・フラスが残していた日記からハンターズソサエティ名義で捜索依頼が出ている。私たちはそれらの依頼を受けたハンターだ」
いつの間にかレイアの戸惑いは抜けていた。
どうやら慣れ親しんだ闘争の気配に少しなりとも触れたことで、落ち着きを取り戻したらしい。
「そうか。迷惑をかけたな。礼をいう」
美少女は割と豪快な動作でゴミ箱から出てきた。やはり女らしいのは見た目だけなようだ。
事情聴取の準備が整ったので、まずはベラ・クーリから聞き取りが行われた。
担当するのはマリエルとエメラルドの二人だ。
事情を聞いたマリエルは真摯にベラを説得する。
「物事には順序ってあると思うんです。ベラさんの想いは凄く伝わってきます。けれども、それはベラさんも想いを練って時間をかけてたどり着いた想いではないですか? それならば、その想いを受け取る方にも時間がいると思うんです。だからこそ、こんな形で駄目にしちゃいけないと思いますよ」
「ですけれど、他の女に取られるくらいなら、わたくしは……!」
「ま、まあ待て、とりあえずは落ち着け。私達は君に害をなそうという訳ではない。むしろ君の味方になってもいいと思っている。彼も男だ。情熱的なのは悪くはないが、一方的に話を進められては立場があるまい? あるいは誤解があるかもしれない。まずは落ち着いて話をしてみてはどうかな?」
激昂しそうになるベラを、エメラルドがだらだら冷や汗をかきながら押し留める。
何しろ二人とも聖導師だ。相手は駆け出しの格闘士とはいえ、暴れられると少々面倒くさいことになる。
続いて、エル・フラスからセレスティアとレイアが事情を聞き出した。
「なるほど……。知り合いの女ハンターから女友達に接するように悪戯されていた場面を見られてしまったのですか。その女ハンターに対しては、エルさんも友人知人以上の関係ではないと。では、ベラ・クーリさんについてはどう思っているのですか?」
尋ねるセレスティアはさすがというべきか恋愛に詳しく、的確に聞くべきことを聞いている。
「申し訳ないが、その女ハンターに同意してしまいそうだ……。男だと分かっていても男には見えん。いや、悪いとは思っているのだが、どうにもな……。むしろそのなりで何故男なのだと思ってしまう。本当にここまでとは思わなかった。気を悪くさせてしまったならすまない」
謝罪するレイアに首を横に振って気にしていないことを伝え、エルはセレスティアに自分の胸の内を明かした。
「いや、いい。女扱いには慣れている。俺自身、男扱いされたのはベラが初めてだったんだ。それが嬉しくて、ベラのことが好きになった。本来好きなタイプではなかったのだがな」
呆然としてエルを見るベラに、エルは気恥ずかしそうに告白した。
「と、いうわけだ。俺は、どうも君のことが好きらしい。このまま疎遠になりたくはない。どうか、誤解を解いてはもらえないだろうか」
●一件落着
話を聞いた受付嬢は、依頼報酬を手渡しながら四人に尋ねた。
「それで、その後はどうなったんです?」
「ベラ・クーリは喜び、誤解も解けて、カップルとまではいきませんが元通り仲の良い親友という感じに落ち着きましたよ。見てて羨ましくなる仲の良さでした」
おすそ分けされた甘い雰囲気に当てられたか、報告を行うマリエルは苦笑している。
「結構最後の方は甘い雰囲気になっていましたから、案外あともう一押しがあれば完全にくっついたかもしれませんね」
セレスティアは恋愛の先輩風を吹かせられたのが良かったのか、やけに機嫌が良い。
終わってみれば、レイアも良い気分転換になったようだ。
「いつもの依頼とは勝手が違ったから戸惑いも多かったものの、これはこれで悪くない。良い経験になった。ちょうど良いリフレッシュにもなったしな」
伸びをしたエメラルドが、気持ち良さそうな声を上げる。
「最初はどうなることかと思ったが、最後の方は恋のキューピッドになった気持ちだったぞ! 良いことをした後は気持ちがいいな!」
ハンターズソサエティに楽しげな笑い声が響く。
こうして四人の懐は暖まり、ベラとエルは仲直りして、ベラは家に無事に帰った。
大団円を迎えたといえるだろう。
ここに、彼女と彼の恋愛事情は終わりを迎えた。
いずれは続きが語られるかもしれないが、今はまだその時ではない。
それまでは、ここを幕引きとしよう。
依頼結果
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縁結び…? レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/04/20 18:03:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/19 10:31:59 |