ゲスト
(ka0000)
Family Ties
マスター:くさのうえのひよこ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/22 12:00
- 完成日
- 2018/05/02 00:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
人里離れた森の奥に、立派な洋館が建っていた。
そこでは、とある一家が静かに幸せに暮らしていた。
「アハハッ、アドリー! こっちだよ!」
綺麗に手入れされた庭で、金髪の少年とアドリーと呼んだ犬が走り回っている。
耳の垂れた黒い毛並みの大型犬のアドリーは少年に追いつき、じゃれるように飛びついた。
「わっ、やめろよ! くすぐったいだろっ」
「アドリー、ケインお兄様を放して差し上げて」
少女が声を掛けると、アドリーはスッとケインと呼ばれた少年から離れて少女の側に寄り、クゥーンと鼻を鳴らした。
「アドリーは、アンが大好きなんだな」
「森で怪我をしていたところを私が見つけて助けたんですもの。私が精一杯愛情を注いで育ててあげないと」
「アンは優しいな」
ケインは、そう言うと妹であるアンの頭をくしゃっと撫でた。
ふふ、とアンは嬉しそうに笑う。
「お母様がクッキーと紅茶を用意して下さっているそうよ。お兄様、早く行きましょう」
「ああ。そうしよう」
アンの横で、再びクゥンと短く鳴くアドリー。
そんなアドリーを見つめて、アンは微笑む。
「アドリー、お砂糖抜きのあなたのクッキーもあるんですって」
ワンッ!
アドリーは嬉しそうに高い声で吠えた。
●
その日は、朝から厚くて黒い雲が空を覆っていた。
「雨が降りそうね。用事で街へ出掛けたお父様とお母様が雨に遭わないと良いのだけれど」
「そうだね」
アンは二階の窓から外を覗いた。
「あれは、何かしら?」
屋敷から少し離れた森の奥で、白い煙が上がっているのが見えた。
ケインは窓に飛びついた。
「街の方角だ」
「えっ、お父様とお母様は……!?」
ケインは椅子に掛けてあったコートを羽織り、外に出かける支度を始める。
「……僕は、あの場所を確認しに行く。アンは、この屋敷から出てはいけないよ」
「お兄様! 私も一緒に行きます!」
「ダメだ、アンはここにいるんだ。アドリー、アンを守ってくれ」
アドリーにアンを託し、ケインは洋館を出ていった。
●
「……嫌な予感がします。お兄様、早く戻って来て下さい……」
アンは窓に向かって、目を閉じて神に祈った。
部屋の中は、シンと静まっている。
――ワンワンッ! ワンワンッ!
けたたましく吠え、アドリーはアンの服の袖を噛んで引っ張る。
「……アドリー? どこへ行くの?」
――ワンッ!
アンはアドリーに引っ張られ、慌てて階段を下りた。
「えっ、ここに隠れるの? せ、狭い……」
●街の医療施設にて
ケインはベッドの上で目を覚ました。
少しぼんやりとした頭で、一生懸命に自分の記憶を遡ってみる。
「――僕は館にアンとアドリーを残して、煙が立ち上っていた場所まで様子を見に行った」
「必死に父と母を探したけれど、会えなかった」
「森を進むと、豚の顔をした三体の化け物と出会った……それで」
「……それで? どうしたんだろう、思い出せない」
ケインは重く痛む頭を抱えて、必死に思い出そうとした。
すると、隣から声が聞こえた。
「君は、その豚の化け物にやられたんだろうね。茂みで倒れているところを、偶然あの森にいた木こりに助けられた」
ベッドの横に白衣を着た、医師であろう細身の男がいる。
ケインは慌てて身を起こした。
「父は、母はっ!? アンは無事なんですかっ!? ――痛っ」
「怪我をしているのだから無理をしてはいけない。君の家というのは、あの森の奥の洋館のことか?」
「ええ、それが何か?」
「ハンターズソサエティの調査団によると、洋館の周辺に豚の顔をした化け物がうろついているとのことだ」
医師は、目を伏せて言った。
「被害状況については現在調査中のようだが、外に化け物がいるとなると、洋館にいる君の妹さんについても極めて危ない状況だ」
「アンは……アンは、アドリーが守ってくれている! だから、絶対に大丈夫なんだ!」
●ハンターオフィスにて
「洋館に住んでいた一家が、森に現れたオーク型雑魔に襲われました」
職員は慌てて依頼書をオフィスの机に広げた。
「雑魔は今、洋館の庭にいると報告が入っています。斧と槍、それと魔法を使うオークが一体ずつ、合計三体のようです」
「森で行方不明になっている一家のお父様とお母様については、こちらで捜索を進めます」
続けて、職員は早口でハンターたちに伝えた。
「また、現在も末娘と愛犬が洋館に取り残されています。二階に居ると聞いていたのですが、窓から人影は確認できなかったようです」
「調査団は雑魔が庭にいるため近付けず、それ以上の事はわかりません。生存していれば、保護をお願いしたいです」
「では、よろしくお願い致します」
人里離れた森の奥に、立派な洋館が建っていた。
そこでは、とある一家が静かに幸せに暮らしていた。
「アハハッ、アドリー! こっちだよ!」
綺麗に手入れされた庭で、金髪の少年とアドリーと呼んだ犬が走り回っている。
耳の垂れた黒い毛並みの大型犬のアドリーは少年に追いつき、じゃれるように飛びついた。
「わっ、やめろよ! くすぐったいだろっ」
「アドリー、ケインお兄様を放して差し上げて」
少女が声を掛けると、アドリーはスッとケインと呼ばれた少年から離れて少女の側に寄り、クゥーンと鼻を鳴らした。
「アドリーは、アンが大好きなんだな」
「森で怪我をしていたところを私が見つけて助けたんですもの。私が精一杯愛情を注いで育ててあげないと」
「アンは優しいな」
ケインは、そう言うと妹であるアンの頭をくしゃっと撫でた。
ふふ、とアンは嬉しそうに笑う。
「お母様がクッキーと紅茶を用意して下さっているそうよ。お兄様、早く行きましょう」
「ああ。そうしよう」
アンの横で、再びクゥンと短く鳴くアドリー。
そんなアドリーを見つめて、アンは微笑む。
「アドリー、お砂糖抜きのあなたのクッキーもあるんですって」
ワンッ!
アドリーは嬉しそうに高い声で吠えた。
●
その日は、朝から厚くて黒い雲が空を覆っていた。
「雨が降りそうね。用事で街へ出掛けたお父様とお母様が雨に遭わないと良いのだけれど」
「そうだね」
アンは二階の窓から外を覗いた。
「あれは、何かしら?」
屋敷から少し離れた森の奥で、白い煙が上がっているのが見えた。
ケインは窓に飛びついた。
「街の方角だ」
「えっ、お父様とお母様は……!?」
ケインは椅子に掛けてあったコートを羽織り、外に出かける支度を始める。
「……僕は、あの場所を確認しに行く。アンは、この屋敷から出てはいけないよ」
「お兄様! 私も一緒に行きます!」
「ダメだ、アンはここにいるんだ。アドリー、アンを守ってくれ」
アドリーにアンを託し、ケインは洋館を出ていった。
●
「……嫌な予感がします。お兄様、早く戻って来て下さい……」
アンは窓に向かって、目を閉じて神に祈った。
部屋の中は、シンと静まっている。
――ワンワンッ! ワンワンッ!
けたたましく吠え、アドリーはアンの服の袖を噛んで引っ張る。
「……アドリー? どこへ行くの?」
――ワンッ!
アンはアドリーに引っ張られ、慌てて階段を下りた。
「えっ、ここに隠れるの? せ、狭い……」
●街の医療施設にて
ケインはベッドの上で目を覚ました。
少しぼんやりとした頭で、一生懸命に自分の記憶を遡ってみる。
「――僕は館にアンとアドリーを残して、煙が立ち上っていた場所まで様子を見に行った」
「必死に父と母を探したけれど、会えなかった」
「森を進むと、豚の顔をした三体の化け物と出会った……それで」
「……それで? どうしたんだろう、思い出せない」
ケインは重く痛む頭を抱えて、必死に思い出そうとした。
すると、隣から声が聞こえた。
「君は、その豚の化け物にやられたんだろうね。茂みで倒れているところを、偶然あの森にいた木こりに助けられた」
ベッドの横に白衣を着た、医師であろう細身の男がいる。
ケインは慌てて身を起こした。
「父は、母はっ!? アンは無事なんですかっ!? ――痛っ」
「怪我をしているのだから無理をしてはいけない。君の家というのは、あの森の奥の洋館のことか?」
「ええ、それが何か?」
「ハンターズソサエティの調査団によると、洋館の周辺に豚の顔をした化け物がうろついているとのことだ」
医師は、目を伏せて言った。
「被害状況については現在調査中のようだが、外に化け物がいるとなると、洋館にいる君の妹さんについても極めて危ない状況だ」
「アンは……アンは、アドリーが守ってくれている! だから、絶対に大丈夫なんだ!」
●ハンターオフィスにて
「洋館に住んでいた一家が、森に現れたオーク型雑魔に襲われました」
職員は慌てて依頼書をオフィスの机に広げた。
「雑魔は今、洋館の庭にいると報告が入っています。斧と槍、それと魔法を使うオークが一体ずつ、合計三体のようです」
「森で行方不明になっている一家のお父様とお母様については、こちらで捜索を進めます」
続けて、職員は早口でハンターたちに伝えた。
「また、現在も末娘と愛犬が洋館に取り残されています。二階に居ると聞いていたのですが、窓から人影は確認できなかったようです」
「調査団は雑魔が庭にいるため近付けず、それ以上の事はわかりません。生存していれば、保護をお願いしたいです」
「では、よろしくお願い致します」
リプレイ本文
●
最初に言葉を発したのは、ソティス=アストライア(ka6538)。
「豚が魔法を使うとはなぁ……まぁいい、焼き尽くすのみだ」
ほぅ、とため息を吐きつつも、眼は敵を燃やす事を求めていた。
ソティスの隣で、オフィスのカウンターに広げられた調書を読んでいるのは玉兎 小夜(ka6009)。
「今度は豚か! 豚は消毒よ!」
窓際にいた時音 ざくろ(ka1250)は、うんうんと頷きながらも、強い口調で言った。
「取り残されている子、きっと怖い思いをしている……何としても助けて、幸せな生活を取り戻してあげなくちゃ!」
「俺もそれが気掛かりだ。個人的には、取り残されているアンとアドリーの捜索に一人割きたいな」
固く拳を握り、そう提案するヴァイス(ka0364)。
「声が届く場所にいるかわからないし、戦闘音でパニックになったり、助けがきたと判断して思いがけない行動をとる可能性もあるからな」
「確かに、それは危ないね」
こくりとヴァイスの意見に頷き、ざくろは全員の顔を見渡しながら、
「ざくろ、捜索に回ろうか?」
と、提案した。
するとソティスは、ざくろの肩をポンと叩きつつ言う。
「私の最大火力を以てしても倒れんのだ、なぁに、ざくろなら心配なぞいらん……だろう?」
ざくろは柔らかく微笑み、「任せて」と答えた。
そして、職員に尋ねる。
「引き返した調査団が見た光景、あと洋館の間取り、取り残されている子の特徴などが分かれば教えて貰えたら」
「ああ、忘れておりました」
職員は、手書きで間取りが書かれたメモをざくろに手渡した。
「これは、依頼主であるケイン少年が書いてくれた洋館の間取り図です。それから、取り残されたアンとアドリーの写真も預かっています。お渡ししておきますね」
皆興味があるのか、写真を覗き込む。
「ふわふわ柔らかい金髪で碧眼の少女と耳の垂れた黒い大型犬だね」
「アドリーは賢く、アンが大好きとのことなので、一緒にいてきっと彼女を守っているはずです」
職員は言葉を続けた。
「また、調査団の話では、オークたちは洋館の中に特別興味を抱いていた様子は無かったみたいですよ」
「無事に隠れてくれていればいいが……。怪我をしている場合もある。速やかに行動しよう」
ヴァイスがそう言うと、全員が力強く頷いた。
●
その庭には、バラが一面に咲き乱れていた。
そしてバラに守られるようにガゼボが佇んでいる。
噴水からこぼれた水しぶきがキラキラと跳ね、一層庭を輝かせ美しく感じさせる。
映る景色全てが、優しく、美しい――豚面の雑魔以外は。
(出たな、豚……!)
小夜が早速庭へ踏み込もうとするが、それをざくろに止められる。
「ホシノ、今ざくろ達の絆は結ばれた! ファミリアズアイ!」
ふわふわとした羽毛のモフロウのホシノは、バサバサと翼を羽ばたかせ大空に舞い上がった。
ホシノの眼を通して見えたものをざくろは皆に伝える。
「一番手前の噴水の側に斧を持ったオーク、そのすぐ近くに槍を持ったオーク、斧オークの奥に杖を持ったオークがいるよ」
「敵の位置は分かった、ありがとう。俺に隠れながら建物へ向かえ。奴らは決して洋館には近付かせない」
ヴァイスは穂先に鉤状の突起がある大きな長槍を構え、戦闘に備えた。
ざくろは頷き、ホシノを呼び戻そうとする。
「気付かれた――!」
「洋館へ走れ! ざくろ!」
ざくろの元へ戻ろうとするホシノの後から、斧を持ったオークと、槍を持ったオークが追いかけてくる。
間に、小夜が割って入った。
「豚どもよ! 兎がやってきたよ!」
その小夜の大声で、三匹のオーク全てが小夜に注目し、襲い掛かる。
(ざくろさん、今のうちに)
小夜はざくろに目配せし、ざくろはヴァイスの後ろに隠れながら洋館へ移動を開始した。
「――これは喰らいつく顎。龍からは命を、勇士へは首を!」
突如空間に現れた斬撃が、オークの身体を無情に斬り刻む。
「グァァァァアアア!」
かなりのダメージとなったようで、オークたちは怒りの眼で小夜を睨んだ。
「流石は安心と信頼の兎だ。心配はいらんな」
瞼を閉じるソティス。
「前は任せた。ゆえに後ろは任せよ」
そして、閉じていた眼を開いた。
「グラビティホール!」
槍と魔法のオークが、その紫色の光の渦に飲み込まれていく。
「……一匹逃したか。まぁいい、足止めにはなっただろう」
ヴァイスに隠れながら移動していたざくろは、洋館まであと十歩というところに居た。
同行していたドーベルマンを脇に抱え、
(ヴァイス、小夜、ソティ……ここは頼んだよ)
囁くように呟くと、素早く、オークたちに見つかることなく洋館に入ることに成功した。
●
「無事に、ざくろは中へ入ったようだな」
ソティスは安堵の息を吐く。
敵への警戒を解いたその一瞬の隙をついて、魔法を使うオークは両手を挙げて、ソティスに魔法の矢を飛ばす。
「――ッ」
「狼さん!」
矢はソティスの頬をかすめて通過する。
ツ、と血が滴る。
血の付いた頬を拳の裏で擦り、ぺろりとその拳を舐めるソティス。
「オーク風情が調子に乗るなよ?」
瞳が静かに怒りの色に変わる。
スウ、と右手を前に出した。
「……戯けが、魔法とはこうやって撃つのだ!」
右手からは、庭に咲くバラが透けて見える程純度が高く細い氷の矢が生み出される。
その氷の矢が魔法のオーク向かって発射された。
矢を見届けた小夜は、自身に牙を向ける近接のオークたちに見向きもせず、ソティスを傷つけた魔法のオークのみを狙って漆黒の魔刃を振り上げた。
「兎よりも狼を狙うとは! 至極道理なり! けれど、残念。この首刈兎からは逃げられないのだ!」
二夜――前の月、後の月――刃を二度振り抜き、その弧は宙で輝いて二つの月となる。
氷と月に襲われた魔法のオークは、あっけなくその姿を塵へと変えた。
ヴァイスはガゼボを背中に背負い、守るように位置を取る。
「決して、庭を荒らさせはしない! 徹刺!」
小夜を狙う斧と槍のオークが直線上に並んだのを見計らい、大きく踏み込んで二体を刺突する。
その矛先には眩いばかりの真紅の光が溢れ、オークの腕を貫いた。
「斧の方には回避されたか……では、俺は槍の方を担おう」
「わかった、私は斧のやつを積極的に狙うね。狼さんのために二匹纏めるよう動くよ!」
小夜がそう叫んだ途端、目の前で斧が振り下ろされる。
(私が避けたら、後ろの噴水が――)
小夜は避けなかった。
続けて、ヴァイスも槍の攻撃を避けずに受けた――槍の穂先で受け止め、押し返して突き刺す。
「グウゥ」
意表を突かれた槍のオークが、苦し気に小さく呻いた。
「この庭を、家族を――守る。誰の笑顔も壊させやしない……!」
「ヴァイスさん、こっち――」
小夜は叫びながら、噴水とガゼボから離れた場所に向かって走った。
「ここなら、狼さんも思い切りぶっ放せる」
「……助かる。私も丁度、燃やしたいと思ったところだ」
●
洋館の中は、シンと静まっていた。
「荒らされた様子はない……ということは、敵は館内にはまだ手を付けていなさそうだね」
アンとアドリーが危険な状況ではないと判断したざくろは、ホッと息を吐いた。
ポケットにしまっていた洋館の間取り図を広げる。
「ここは裏口か。まずは一階のこの広いエントランスホールまで移動しよう」
程なくしてエントランスへ辿り着く。
エントランスから、一階二階全ての部屋の扉が見渡せる構造になっている。
ざくろは人差し指を唇に当てて、うーん、と考えた。
「兄と別れた時はアンは二階の自室にいた。けれど――今はその部屋の扉が開きっぱなしになっているということは、どこかに移動したんだよね」
間取り図とアンの写真を見つめるざくろ。
「ん……これだけ小柄な子なら、どこにでも隠れられそう……」
間取り図と洋館を交互に見つつ、ざくろは考えを進めた。
「――あれ? あの端っこの扉、きちんと閉まってない」
一階の隅にある部屋の扉が、二センチ程度開いている。
ざくろは間取り図を見た――どうやら、キッチンのようだ。
そっと扉の隙間から中を覗いた。
(荒らされている気配は無い。あれ、あの辺だけ物が乱雑に……変だな?)
整頓されたキッチンの中で、不自然に床に瓶や野菜が散らばっている。
横には床下収納の扉がある。
ざくろは閃いた。
(きっと、その床下にいるはずだ――でも、驚かせたら飛び出して行ってしまうかも)
ざくろは、外に漏れない程度の大きさの声で優しく呼びかけた。
「……助けに来たよ、外で大きな音してるけどここは安全だから、落ち着いてそっと出てきて」
――ガタッ。
音が聞こえた。
と、同時に、大型の耳の垂れた犬が床下から扉を押し上げて飛び出してきた。
「ワワン、ワンッ!」
「――しっ、静かに。大丈夫だよ、ざくろは味方だよ」
「みか、た……?」
床下から、綺麗な金髪に少し埃をかぶった少女が恐る恐る顔を出す。
金髪で碧眼の少女――アンであった。
ざくろと目が合うと同時に、飛び出して抱きつき、しがみついて泣き出した。
「よく頑張ったね。ここからはざくろが二人を守るから安心してね」
●
そっと屋敷を出たざくろは、魔法を唱え始めた。
背中にはアンがしがみついており、その横にはアンを守ろうとアドリーが鋭い眼光でオークたちを睨んでいた。
「聖なる光よ、悪しき者を裁き賜え――デルタレイ!」
ざくろが長い柄のメイスを空にかざすと、宙に三角の光が現れ、そこから光の線が伸びてオークたちの頭を貫いた。
その攻撃で、ざくろに気付いた皆がアンとアドリーの無事を知る。
「無事だったみたいだな、良かった。……憂いも消えたここからが本番だ、覚悟はいいな」
ヴァイスの槍を握る拳に力が篭る。
「――灯火」
そう唱えると、大雀の穂先に暖かく優しい灯火のようなオーラが灯る。
優しいけれど強い、ヴァイスの意思の表れであるかのように――。
「敵を貫き徹す――!」
真紅の光を放ち、飛ぶ。
それは、槍を持ったオークの脇腹を貫いた。
「ほらほら、豚さんこっちだよ!」
小夜は斧を持ったオークに向って挑発しつつ、漆黒の刃を振り回す。
斧のオークは小夜に翻弄され、くるくると踊るように小夜を追いかける。
「狼さん、焼き尽くしたそうだね。ほら、好きなだけ燃やしたらいいよ」
そう言うと、小夜はオークから離れた。
ソティスの口角がふっと上がる。
「狩りの時間だ、豚共はウェルダンがお好みかね……!!」
嬉しそうに、オーク二体に照準を定める。
「――敵は燃やす。徹底的に燃やす。焼いて燃やして滅してくれよう」
青白い炎を纏った狼が複数体魔法陣から現れ、狼は火球を吐き出す。
それは、宙で爆散し、オークたちの上に無慈悲な火の雨を降らせた。
「グォォ!?」
身体が焦げる感覚に包まれたオークは、戸惑い、狼狽える。
そして、訳もわからぬまま、槍を持ったオークは、霧となって消えた。
同時に、青白い炎を纏った狼も、霧に紛れて何事もなかったかのように消えていく。
――その場には何も残らなかった。
「残り、豚は一匹だな」
ヴァイスがそう言うと、斧を持ったオークは突如身を翻して逃走を試みる。
「っ、逃がすか!」
「大丈夫だ――逃げられない。私の力を以てすれば、な」
ソティスが手を挙げると同時にオークの足元に紫の球体が現れ、それは見る見る間に大きくなり、オークの体を飲み込んだ。
「その重力波は、そう易々と解けることはない。皆、ゆっくり料理してやってくれ」
デルタの聖なる光が斧を持ったオークの右腕を貫き、それに交差するように真紅のオーラを纏った穂先が左腕を貫く。
そして……。
「そっくび、もらったああああ」
ざくろとヴァイスの攻撃が交差する真ん中から、小夜が躍り出る。
再び、昼間の空に浮かび上がる二つの月。
小夜の漆黒の刃は、オークの首を掻き斬った。
「――知らないのか、兎からは逃げられない」
苦しむ声も上げられぬまま、斧を持ったオークは塵となり風と共に消えた。
●
オフィスへ戻ると、ケインがいた。
アンの姿を見付けるや否や彼女に駆け寄り抱きしめる。
その傍らで、アドリーが尻尾を振りながら二人を見つめていた。
「アンを守ってくれたんだな、アドリー偉いぞ」
ケインに誉められ、アドリーは、ワンッ、と高らかに吠えた。
その時、オフィスの職員が、身形のきちんとした紳士的な男性と、アンによく似た顔立ちの金髪の女性を連れてやって来た。
「――父上、母上! 無事だったのですね!」
「心配を掛けてすまなかった。私たちは何とか逃げて無事だったんだよ」
「洋館には戻れないと止められて……私たち、ここへ貴方たちの救出をお願いに来たの――ケイン? 貴方怪我をしているの?」
「大丈夫です。それよりも、」
ケインは手のひらをスッとハンターたちの方へ向けた。
「この方たちが、あの豚の化け物を倒し、アンとアドリーを無事に連れて来て下さったのです」
「……まぁ! この度は本当に、何とお礼を申し上げたらいいのか……」
父親と母親、そして隣にいたケインも深々と頭を下げた。
アンは「そうだわ!」と手を叩いた。
「ねぇお母様、この方たちをお茶会にお誘いしたらどうかしら?」
しかし、母親が答える前に、ソティスが答えた。
「いや、私たちは遠慮しよう」
アンは「どうして?」と首を傾げる。
すると、小夜が真面目な顔をして答えた。
「この後、狼さんをもふもふしてだらん、としたいんだ」
「え? もふ……?」
アンは不思議そうに、更に首を傾げた。
「――こっちの話だ、気にするな。そうさな、今度また日を改めてお邪魔するよ」
「ようやく家族の平和な時間を取り戻せたんだ。俺も、今日くらいは家族水入らずがいいと思うぜ」
ヴァイスもその意見に賛成する。
「アン、また遊びに来るからね」
ざくろがそう言うと、アンはふわふわの金髪を揺らしながら全力の笑顔で「うんっ」と応えた。
●
ハンターオフィスを出たソティスは、突然振り返った。
「――豚を焼いた後だ。焼豚……ラーメン……うむ、飯にでも行くか」
その提案に、全員が頭上に豆電球を光らせる。
「ラーメンいいね、チャーシューメンを食べに行こう!」
「ざくろも行きたいな! 追加で半熟玉子が欲しい!」
「俺もあの敵を見た時から、ずっと焼豚を食べたいと思っていた。同行しても良いか?」
驚くほど、全員の意見が一致した。
――焼いた豚を見た後は、焼豚を食べないと。
財布を開き、手持ちで足りるか数え始めたソティスに、小夜がポンと肩を叩いて言った。
「狼さんは兎のおごりで構わぬよ。じゃないと狼さん破産するし」
「兎のおごりとはなかなか嬉しい、お言葉に甘えるとしよう」
ふふ、と微笑むソティスに、抱きつく小夜。
――焼豚をたらふく食べた後は心ゆくまでもふらせてもらおう。今夜は良い夢が見られそうだ。
最初に言葉を発したのは、ソティス=アストライア(ka6538)。
「豚が魔法を使うとはなぁ……まぁいい、焼き尽くすのみだ」
ほぅ、とため息を吐きつつも、眼は敵を燃やす事を求めていた。
ソティスの隣で、オフィスのカウンターに広げられた調書を読んでいるのは玉兎 小夜(ka6009)。
「今度は豚か! 豚は消毒よ!」
窓際にいた時音 ざくろ(ka1250)は、うんうんと頷きながらも、強い口調で言った。
「取り残されている子、きっと怖い思いをしている……何としても助けて、幸せな生活を取り戻してあげなくちゃ!」
「俺もそれが気掛かりだ。個人的には、取り残されているアンとアドリーの捜索に一人割きたいな」
固く拳を握り、そう提案するヴァイス(ka0364)。
「声が届く場所にいるかわからないし、戦闘音でパニックになったり、助けがきたと判断して思いがけない行動をとる可能性もあるからな」
「確かに、それは危ないね」
こくりとヴァイスの意見に頷き、ざくろは全員の顔を見渡しながら、
「ざくろ、捜索に回ろうか?」
と、提案した。
するとソティスは、ざくろの肩をポンと叩きつつ言う。
「私の最大火力を以てしても倒れんのだ、なぁに、ざくろなら心配なぞいらん……だろう?」
ざくろは柔らかく微笑み、「任せて」と答えた。
そして、職員に尋ねる。
「引き返した調査団が見た光景、あと洋館の間取り、取り残されている子の特徴などが分かれば教えて貰えたら」
「ああ、忘れておりました」
職員は、手書きで間取りが書かれたメモをざくろに手渡した。
「これは、依頼主であるケイン少年が書いてくれた洋館の間取り図です。それから、取り残されたアンとアドリーの写真も預かっています。お渡ししておきますね」
皆興味があるのか、写真を覗き込む。
「ふわふわ柔らかい金髪で碧眼の少女と耳の垂れた黒い大型犬だね」
「アドリーは賢く、アンが大好きとのことなので、一緒にいてきっと彼女を守っているはずです」
職員は言葉を続けた。
「また、調査団の話では、オークたちは洋館の中に特別興味を抱いていた様子は無かったみたいですよ」
「無事に隠れてくれていればいいが……。怪我をしている場合もある。速やかに行動しよう」
ヴァイスがそう言うと、全員が力強く頷いた。
●
その庭には、バラが一面に咲き乱れていた。
そしてバラに守られるようにガゼボが佇んでいる。
噴水からこぼれた水しぶきがキラキラと跳ね、一層庭を輝かせ美しく感じさせる。
映る景色全てが、優しく、美しい――豚面の雑魔以外は。
(出たな、豚……!)
小夜が早速庭へ踏み込もうとするが、それをざくろに止められる。
「ホシノ、今ざくろ達の絆は結ばれた! ファミリアズアイ!」
ふわふわとした羽毛のモフロウのホシノは、バサバサと翼を羽ばたかせ大空に舞い上がった。
ホシノの眼を通して見えたものをざくろは皆に伝える。
「一番手前の噴水の側に斧を持ったオーク、そのすぐ近くに槍を持ったオーク、斧オークの奥に杖を持ったオークがいるよ」
「敵の位置は分かった、ありがとう。俺に隠れながら建物へ向かえ。奴らは決して洋館には近付かせない」
ヴァイスは穂先に鉤状の突起がある大きな長槍を構え、戦闘に備えた。
ざくろは頷き、ホシノを呼び戻そうとする。
「気付かれた――!」
「洋館へ走れ! ざくろ!」
ざくろの元へ戻ろうとするホシノの後から、斧を持ったオークと、槍を持ったオークが追いかけてくる。
間に、小夜が割って入った。
「豚どもよ! 兎がやってきたよ!」
その小夜の大声で、三匹のオーク全てが小夜に注目し、襲い掛かる。
(ざくろさん、今のうちに)
小夜はざくろに目配せし、ざくろはヴァイスの後ろに隠れながら洋館へ移動を開始した。
「――これは喰らいつく顎。龍からは命を、勇士へは首を!」
突如空間に現れた斬撃が、オークの身体を無情に斬り刻む。
「グァァァァアアア!」
かなりのダメージとなったようで、オークたちは怒りの眼で小夜を睨んだ。
「流石は安心と信頼の兎だ。心配はいらんな」
瞼を閉じるソティス。
「前は任せた。ゆえに後ろは任せよ」
そして、閉じていた眼を開いた。
「グラビティホール!」
槍と魔法のオークが、その紫色の光の渦に飲み込まれていく。
「……一匹逃したか。まぁいい、足止めにはなっただろう」
ヴァイスに隠れながら移動していたざくろは、洋館まであと十歩というところに居た。
同行していたドーベルマンを脇に抱え、
(ヴァイス、小夜、ソティ……ここは頼んだよ)
囁くように呟くと、素早く、オークたちに見つかることなく洋館に入ることに成功した。
●
「無事に、ざくろは中へ入ったようだな」
ソティスは安堵の息を吐く。
敵への警戒を解いたその一瞬の隙をついて、魔法を使うオークは両手を挙げて、ソティスに魔法の矢を飛ばす。
「――ッ」
「狼さん!」
矢はソティスの頬をかすめて通過する。
ツ、と血が滴る。
血の付いた頬を拳の裏で擦り、ぺろりとその拳を舐めるソティス。
「オーク風情が調子に乗るなよ?」
瞳が静かに怒りの色に変わる。
スウ、と右手を前に出した。
「……戯けが、魔法とはこうやって撃つのだ!」
右手からは、庭に咲くバラが透けて見える程純度が高く細い氷の矢が生み出される。
その氷の矢が魔法のオーク向かって発射された。
矢を見届けた小夜は、自身に牙を向ける近接のオークたちに見向きもせず、ソティスを傷つけた魔法のオークのみを狙って漆黒の魔刃を振り上げた。
「兎よりも狼を狙うとは! 至極道理なり! けれど、残念。この首刈兎からは逃げられないのだ!」
二夜――前の月、後の月――刃を二度振り抜き、その弧は宙で輝いて二つの月となる。
氷と月に襲われた魔法のオークは、あっけなくその姿を塵へと変えた。
ヴァイスはガゼボを背中に背負い、守るように位置を取る。
「決して、庭を荒らさせはしない! 徹刺!」
小夜を狙う斧と槍のオークが直線上に並んだのを見計らい、大きく踏み込んで二体を刺突する。
その矛先には眩いばかりの真紅の光が溢れ、オークの腕を貫いた。
「斧の方には回避されたか……では、俺は槍の方を担おう」
「わかった、私は斧のやつを積極的に狙うね。狼さんのために二匹纏めるよう動くよ!」
小夜がそう叫んだ途端、目の前で斧が振り下ろされる。
(私が避けたら、後ろの噴水が――)
小夜は避けなかった。
続けて、ヴァイスも槍の攻撃を避けずに受けた――槍の穂先で受け止め、押し返して突き刺す。
「グウゥ」
意表を突かれた槍のオークが、苦し気に小さく呻いた。
「この庭を、家族を――守る。誰の笑顔も壊させやしない……!」
「ヴァイスさん、こっち――」
小夜は叫びながら、噴水とガゼボから離れた場所に向かって走った。
「ここなら、狼さんも思い切りぶっ放せる」
「……助かる。私も丁度、燃やしたいと思ったところだ」
●
洋館の中は、シンと静まっていた。
「荒らされた様子はない……ということは、敵は館内にはまだ手を付けていなさそうだね」
アンとアドリーが危険な状況ではないと判断したざくろは、ホッと息を吐いた。
ポケットにしまっていた洋館の間取り図を広げる。
「ここは裏口か。まずは一階のこの広いエントランスホールまで移動しよう」
程なくしてエントランスへ辿り着く。
エントランスから、一階二階全ての部屋の扉が見渡せる構造になっている。
ざくろは人差し指を唇に当てて、うーん、と考えた。
「兄と別れた時はアンは二階の自室にいた。けれど――今はその部屋の扉が開きっぱなしになっているということは、どこかに移動したんだよね」
間取り図とアンの写真を見つめるざくろ。
「ん……これだけ小柄な子なら、どこにでも隠れられそう……」
間取り図と洋館を交互に見つつ、ざくろは考えを進めた。
「――あれ? あの端っこの扉、きちんと閉まってない」
一階の隅にある部屋の扉が、二センチ程度開いている。
ざくろは間取り図を見た――どうやら、キッチンのようだ。
そっと扉の隙間から中を覗いた。
(荒らされている気配は無い。あれ、あの辺だけ物が乱雑に……変だな?)
整頓されたキッチンの中で、不自然に床に瓶や野菜が散らばっている。
横には床下収納の扉がある。
ざくろは閃いた。
(きっと、その床下にいるはずだ――でも、驚かせたら飛び出して行ってしまうかも)
ざくろは、外に漏れない程度の大きさの声で優しく呼びかけた。
「……助けに来たよ、外で大きな音してるけどここは安全だから、落ち着いてそっと出てきて」
――ガタッ。
音が聞こえた。
と、同時に、大型の耳の垂れた犬が床下から扉を押し上げて飛び出してきた。
「ワワン、ワンッ!」
「――しっ、静かに。大丈夫だよ、ざくろは味方だよ」
「みか、た……?」
床下から、綺麗な金髪に少し埃をかぶった少女が恐る恐る顔を出す。
金髪で碧眼の少女――アンであった。
ざくろと目が合うと同時に、飛び出して抱きつき、しがみついて泣き出した。
「よく頑張ったね。ここからはざくろが二人を守るから安心してね」
●
そっと屋敷を出たざくろは、魔法を唱え始めた。
背中にはアンがしがみついており、その横にはアンを守ろうとアドリーが鋭い眼光でオークたちを睨んでいた。
「聖なる光よ、悪しき者を裁き賜え――デルタレイ!」
ざくろが長い柄のメイスを空にかざすと、宙に三角の光が現れ、そこから光の線が伸びてオークたちの頭を貫いた。
その攻撃で、ざくろに気付いた皆がアンとアドリーの無事を知る。
「無事だったみたいだな、良かった。……憂いも消えたここからが本番だ、覚悟はいいな」
ヴァイスの槍を握る拳に力が篭る。
「――灯火」
そう唱えると、大雀の穂先に暖かく優しい灯火のようなオーラが灯る。
優しいけれど強い、ヴァイスの意思の表れであるかのように――。
「敵を貫き徹す――!」
真紅の光を放ち、飛ぶ。
それは、槍を持ったオークの脇腹を貫いた。
「ほらほら、豚さんこっちだよ!」
小夜は斧を持ったオークに向って挑発しつつ、漆黒の刃を振り回す。
斧のオークは小夜に翻弄され、くるくると踊るように小夜を追いかける。
「狼さん、焼き尽くしたそうだね。ほら、好きなだけ燃やしたらいいよ」
そう言うと、小夜はオークから離れた。
ソティスの口角がふっと上がる。
「狩りの時間だ、豚共はウェルダンがお好みかね……!!」
嬉しそうに、オーク二体に照準を定める。
「――敵は燃やす。徹底的に燃やす。焼いて燃やして滅してくれよう」
青白い炎を纏った狼が複数体魔法陣から現れ、狼は火球を吐き出す。
それは、宙で爆散し、オークたちの上に無慈悲な火の雨を降らせた。
「グォォ!?」
身体が焦げる感覚に包まれたオークは、戸惑い、狼狽える。
そして、訳もわからぬまま、槍を持ったオークは、霧となって消えた。
同時に、青白い炎を纏った狼も、霧に紛れて何事もなかったかのように消えていく。
――その場には何も残らなかった。
「残り、豚は一匹だな」
ヴァイスがそう言うと、斧を持ったオークは突如身を翻して逃走を試みる。
「っ、逃がすか!」
「大丈夫だ――逃げられない。私の力を以てすれば、な」
ソティスが手を挙げると同時にオークの足元に紫の球体が現れ、それは見る見る間に大きくなり、オークの体を飲み込んだ。
「その重力波は、そう易々と解けることはない。皆、ゆっくり料理してやってくれ」
デルタの聖なる光が斧を持ったオークの右腕を貫き、それに交差するように真紅のオーラを纏った穂先が左腕を貫く。
そして……。
「そっくび、もらったああああ」
ざくろとヴァイスの攻撃が交差する真ん中から、小夜が躍り出る。
再び、昼間の空に浮かび上がる二つの月。
小夜の漆黒の刃は、オークの首を掻き斬った。
「――知らないのか、兎からは逃げられない」
苦しむ声も上げられぬまま、斧を持ったオークは塵となり風と共に消えた。
●
オフィスへ戻ると、ケインがいた。
アンの姿を見付けるや否や彼女に駆け寄り抱きしめる。
その傍らで、アドリーが尻尾を振りながら二人を見つめていた。
「アンを守ってくれたんだな、アドリー偉いぞ」
ケインに誉められ、アドリーは、ワンッ、と高らかに吠えた。
その時、オフィスの職員が、身形のきちんとした紳士的な男性と、アンによく似た顔立ちの金髪の女性を連れてやって来た。
「――父上、母上! 無事だったのですね!」
「心配を掛けてすまなかった。私たちは何とか逃げて無事だったんだよ」
「洋館には戻れないと止められて……私たち、ここへ貴方たちの救出をお願いに来たの――ケイン? 貴方怪我をしているの?」
「大丈夫です。それよりも、」
ケインは手のひらをスッとハンターたちの方へ向けた。
「この方たちが、あの豚の化け物を倒し、アンとアドリーを無事に連れて来て下さったのです」
「……まぁ! この度は本当に、何とお礼を申し上げたらいいのか……」
父親と母親、そして隣にいたケインも深々と頭を下げた。
アンは「そうだわ!」と手を叩いた。
「ねぇお母様、この方たちをお茶会にお誘いしたらどうかしら?」
しかし、母親が答える前に、ソティスが答えた。
「いや、私たちは遠慮しよう」
アンは「どうして?」と首を傾げる。
すると、小夜が真面目な顔をして答えた。
「この後、狼さんをもふもふしてだらん、としたいんだ」
「え? もふ……?」
アンは不思議そうに、更に首を傾げた。
「――こっちの話だ、気にするな。そうさな、今度また日を改めてお邪魔するよ」
「ようやく家族の平和な時間を取り戻せたんだ。俺も、今日くらいは家族水入らずがいいと思うぜ」
ヴァイスもその意見に賛成する。
「アン、また遊びに来るからね」
ざくろがそう言うと、アンはふわふわの金髪を揺らしながら全力の笑顔で「うんっ」と応えた。
●
ハンターオフィスを出たソティスは、突然振り返った。
「――豚を焼いた後だ。焼豚……ラーメン……うむ、飯にでも行くか」
その提案に、全員が頭上に豆電球を光らせる。
「ラーメンいいね、チャーシューメンを食べに行こう!」
「ざくろも行きたいな! 追加で半熟玉子が欲しい!」
「俺もあの敵を見た時から、ずっと焼豚を食べたいと思っていた。同行しても良いか?」
驚くほど、全員の意見が一致した。
――焼いた豚を見た後は、焼豚を食べないと。
財布を開き、手持ちで足りるか数え始めたソティスに、小夜がポンと肩を叩いて言った。
「狼さんは兎のおごりで構わぬよ。じゃないと狼さん破産するし」
「兎のおごりとはなかなか嬉しい、お言葉に甘えるとしよう」
ふふ、と微笑むソティスに、抱きつく小夜。
――焼豚をたらふく食べた後は心ゆくまでもふらせてもらおう。今夜は良い夢が見られそうだ。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/18 19:37:00 |
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作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/04/21 21:10:44 |