• 虚動

【虚動】実験記録

マスター:石田まきば

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/14 07:30
完成日
2014/12/21 09:25

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●長老会からの指令

「なんだか久しぶりだね、エクゼント君」
 言葉のわりに軽い口調で話すのはシャイネ・エルフハイム(kz0010)。定期的に帰郷し、書きためた詩集やら、祖度で見つけた珍しいものを持ち帰る。この行為は今も変わらず欠かさずに行っているが、オプストハイムに戻ってくるのはなんだか久しぶりのように感じていた。
「お帰りシャイネ。この前ナデルに来たというのは聞いてるぞ」
 さっそく窓口として動けているみたいだな、とどこかしんみりとした顔でエクゼント。心なしか、彼ご自慢のリーゼントもゆらゆら揺れている。
「狙い通りに動けているようで何よりだ。俺も手伝っている甲斐があるってもんだぜ」
「エクゼント君」
 小さく身振りだけで制するシャイネ。
「すまん、つい、な。……で、今回の土産は何だ?」
「ツナの缶詰だよ♪ 随分と日持ちがいいみたいだから、そういうの好きな子にどうかなって」
「中身は?」
「海で獲れる魚の身の、確か油漬けだったかな」
「「……」」
 エルフハイムは森に囲まれている。水源はあるが、淡水魚くらいしかいるわけがない。
「食い慣れてそうな奴が居ねぇな」
「そこは君の人脈でなんとかよろしく♪」
「仕方ねぇ……妹に料理させてみる」
「それ、僕も食べに行っていいかい?」
 久々に顔を見たいね、とにこやかな笑顔のシャイネに、エクゼントは小さくため息をはいた。
「好きにしろ」

「シャイネ。お前に上から頼みごとがあるそうなんだが、受けるだろう?」
 エクゼントの言う『上』とはすなわち長老会に他ならない。
「断る理由がないね♪ どんな話だい?」
 長老会からの認識を『いい子』で保っておくことはシャイネのハンター生活において非常に重要な事として位置づけられている。オプストハイムにある実家を出てハンターとしてリゼリオで生活を始めてからも、近況報告を兼ねて頻繁に帰郷しているのはそのためだ。
 またシャイネが実際に書き溜めている詩集は、文字の上では真面目に纏まっているおかげで、本職の図書館勤めのエルフが書き溜めたものほどではないしてもそれなりに良い扱いを受けている。そして役人であり長老達からも『いい子』とされているエクゼントを親友に持っているおかげで、シャイネは今も『いい子』の地位を維持し続けていた。
 それらの積み重ねはシャイネがハンターとして多少派手な活動をしていても『エルフハイム』の姓を名乗ったままで居られている理由となっていた。
(ユレイテル君の手伝いをしたくらいでは、揺るがなかったようで何よりだね)
 維新派の若手筆頭の活動にも、あくまでもハンターとして手伝っている、と主張してきたことは無駄ではなかったようだ。長老会から頼み事が来るということは、『いい子』の証拠でもあるからだ。
「帝国が大きな軍事活動をする、とかいう話……きゃ、きゃむ? だったか?」
「ああ、CAMの事かい?」
「それだそれ。それを視察して、報告しろってことなんだが」
 シャイネがAPVの一人として所属していて、顔役のタングラムとも親しいことは知られている。それを鑑みた上でシャイネに白羽の矢が立ったという事らしいのだが。
「エクゼント君、僕、猟撃士なんだけど」
「そうだな」
 したり顔で頷かれる。
「機導術だか、錬金術だったか、そういうのが関係してるっていうのは知ってるのかな?」
「知らないはずがないだろう、帝国の事なんだから」
 錬磨院を特に目の敵にしている年配のエルフは多い。
「報告出来る程の情報が得られるかどうかは……まあ、やってみるしかないよね」
 機導師ではない者でもわかるような報告でなければならない、ともとれる。奥が深い。
「俺が言うのもなんだが、頑張ってこい」
「エクゼント君、だから今日はご相伴にあずかろうとする僕を止めなかったんだね?」
「……頑張ってこい」
「やれるだけはやって来るよ」

●APV

「タングラム君、CAMの起動実験だったっけ、それにハンターを呼ぶ仕事ってあるのかな?」
「シャイネ、珍しく乗り気ですねー?」
「君も相当だと思うけど、ね?」
 タングラムの執務室にはCAMのパーツに似せたガラクタが増えていた。どう見てもレプリカで、多分置物として手に入れたのだろうけれどもそのうちまた適当な山に埋もれて忘れ去られてしまいそうだ。
 それはともかく。
「視察が出来そうな仕事だと、特に助かるんだけど、それに混ぜてもらえないかな?」
「ジジイとババアが言ってきたですか」
「そんなところだね」
「そうですねー、実験に視察として参加する陛下の護衛とかありますけど?」
「それ、君の仕事じゃないのかい?」
「もちろん私も行きますけどね、ルミナちゃんはハンター大好きっ子ですから、ハンターも呼ぶようにってお達しが来てるんですよ」
「えぇっ、タングラム様出張されるんですか!?」
 お茶を持ってきたフクカンがこの世の終わりみたいな悲鳴を上げているが、タングラムもシャイネもいつもの事なので気にせず会話を続けた。大体タングラムが仕事で居なくなるのなんてしょっちゅうだろうに。
「人数は結構多いのかな? それなら混ざってもいいかなって思うんだけど」
 帝国の権力者に積極的に近づくことも、出来れば避けたいと思っているシャイネである。
「強いとは言っても国家元首ですからねー、結構な数の募集ですよ。それじゃ登録を、フクカン! 止まってないで仕事しろこのボケが!」
「はっ、はいぃぃぃ!」
 お茶を置いてから、真面目な顔のタングラムに見とれていたフクカンが慌てて仕事に戻っていった。

●???

 ……
「蒼き世界の技術を我に調べろと言うのか、陽に当たる事さえも厭うこの黒き我に」
 目深にかぶった被り物の下から時折除く肌の色は、黒くはない。むしろ抜けるように白い。青白いと言ってもいいだろう。しかし当人は思い込んでおり、だからこそ肌を見せないよう、常に多く着込んでいる。
 ……
 いつもの事なので、相対するモノは男の戯言に耳を貸さない。ただ、命じられた言葉を紡いでいる。
「次の剣機の参考にもなる、だと?」
 ……
 頷く。
「あれの命なら仕方ない、我もあれには頭が上がらぬ。しかし今からでは急ぎ仕立ての同胞しか使えぬぞ」
 ……
 再び、頷く。そして続く言葉を確かめるように含めていく。
「誰に物を言うておる、我は研究者ぞ。陽の元に出ずとも全容を見据えているに決まっておろう」
 ……
 念を押す。この男は言い回しこそ独特だが、言葉にしたことは守る。
「両方取り掛かっておいてやろう。次の貢物を忘れるな」
 貢物とはつまり、新たな研究材料のことだ。男は研究者だから、被検体を常に必要としている。
 ……
「次の貢物はなんであろうか……楽しみにしているぞ」

「植物では目も口も無いではないか。新たに与えてやることもできるだろうが……残された時間は僅か、検体もない……であれば……」
 窓の外にうつる、灰色がかった空を仰いだ。

リプレイ本文



 開けた場所というのは便利だが、それだけ視界を広くとらなければならない。警戒すべき範囲がやたら広いのだ。
 警備に割かれる人数は多く、ハンター達は自分達がそのほんの一部なのだとわかる。それだけの規模を想定した実験が行われる証拠でもあるから、おのずと期待と不安が高まる。
「「実験、うまくいくと良いよね」」
 マコト・タツナミ(ka1030)とアイビス・グラス(ka2477)の声が重なる。息のあった連携が出来そうだと互いに笑みを交わした。
((今は警備に集中しなきゃ))
 見学への意欲も同様で、しかし仕事できているのだからと意識を切り替えようとしているところも揃っていた。
 CAMや魔導アーマーと研究者達、視察に来る要人……全てはまだ揃っていない。早いうちに会場全体の警備体制を整える事が彼らの行動予定に含まれていた。
(剣魔が狙ってきた位だから、他の歪虚が来ない保証なんてない)
 先日戦ったスケルトンを思いだしその考えに至ったアイビスは、この場所で歪虚の動きがある方が自然だと考えていた。だからこそ、その時にも守った魔導エンジンを再び守るためにこの場に居るのだ。
「聞こえる?」
 魔導アーマー推進派が最終稼働チェックを行っていることを確認し、マコトが伝話で連絡を取る。ノイズが入った様子はなかった。

 通信を終えた守原 由有(ka2577)は、機能を切らずに行動を再開。警備担当者や技術者達に協力を要請するために奔走しているのだ。
 伝話の使用範囲を会場全体に広げれば、特性を利用した索敵網を構成することができる。警備兵には方法を説明し伝話の所持と使用を求め、自分達とも通信が可能にして連携が取れるよう頼み込んで回る。技術者にも機械由来ではないノイズが起こった場合の連絡がもらえるよう頼み込む。できれば未着の後続班にも認識を広めて欲しい旨も添えた。
「可能な範囲で構わない。伝話の通信可能範囲だけでも構わないから、周囲と連絡を取れるようにしてほしい」
 歪虚の発見から対処までの時間をどれだけ短縮できるか。それは実験の正否だけではなく、彼らの技術の結晶を守るためでもあるのだから。
(技術ってのは向こうもこっちも変わらずすげえな)
 春日 啓一(ka1621)は心のうちだけで感心していた。
 傍にはハスキーを控えさせ、会場上空はイヌワシに、定期的に回るよう言いつける。自分でも周辺確認を怠るつもりはないが、動物的な本能で感じ取るであろう何かを期待して警戒態勢とするのだ。
(特に魔導アーマーが見れたら儲けものだ)
 CAMの事ならば多少はわかっている。
「……ロボットってのは悪くねえな」
 ロッソに乗っていたのは修行のためだし、自分のガラじゃないけれど、それでも。

「妹から噂は聞いているよ~」
 解説役を買ってでたアーシュラ・クリオール(ka0226)はシャイネと行動することに。
 既に索敵網が展開され始めているお陰で警戒はしやすい。歩兵として警戒も嗜みつつレクチャーに勤しむ。
「確認だけど、どの程度知ってるのかな?」
「名前と武装兵器ということくらいかな」
 見るのも今回が初めてだという。
「じゃあ外観からかな」
 調整中のドミニオンを示しながら、機密に影響のない情報を選び取っていく。
「人型になっているのは多様性があるからなんだ」
 攻撃に特化するだけなら別に効率の良い機械だってある。速さだってそうだ。しかし何種類も別個に特化した機械を用意するより、多用途に使えて一定の性能が保証できる機械が一つある方が効率がいい状況だってある。ロッソはまさにその極みだった。
「宇宙空間でも、地上でも活動できるからな」
 Charlotte・V・K(ka0468)も加わる。ヴィルヘルミナが合流するまではと、Charlotteと組む満月美華(ka0515)も近くで周辺の警戒を行っていた。
(ついにCAMが、この世界の争いに巻き込まれていくか……)
 軍属だったころの記憶が脳裏をよぎりかけたのだが、首を傾げたシャイネの様子で別の思考が浮かび上回った。
(オーバーテクノロジーというのは、大抵ロクな事にならなそうだがねぇ)
 宇宙という概念の説明から始めるのでは時間ばかりかかりそうだ。しかしここは紅界だ。その知識が必要かと問われれば、否だろう。
「しかしシャイネ君、エルフハイムは面白くない所ではないんじゃないか?」
 選挙でエルフに対して歩み寄ったかと思った矢先にこの実験演習だ。
「僕に調査の依頼が来るくらいだから、そうなのかもしれないね」
 目を細めるシャイネは長老会の真意を測りかねているように見えた。
「これからの歪虚との戦いに必要なのかもしれないが」
 CAMと魔導アーマーが参入することで、確かに戦力は強化されるだろう。しかしすぐにとは言わないが、魔導汚染が更に深刻になっていくことも想定される。エルフハイムの懸念はやはりそこにあるのではないかとCharlotteは思う。
「……陛下も、どういう考えなのだろうね」
 歪虚の殲滅のみを優先していくのだろうか。可能性は浮かぶがそれまでだ。本人に確認をとったわけではない。
「直接、聞いてしまえばいいんじゃないかしら」
 美華の提案に、聞いていた者がぎょっとした顔を向けた。
「話したいと思っていれば教えてくれるでしょう? 悩むよりいいと思うわ」
 それはそうなのだが。



 由有が策敵網の采配を終えた頃、カールスラーエ要塞からヴィルヘルミナが到着し本来の仕事が始まった。
 歪虚が情報入手に来るとしたらどんな形で来るか、それが彼らハンター達の行動の基盤として存在している。実験会場は広く、歪虚は雑魔までも含めればその外見的な傾向は多種多様だ。その方面から絞り込むことは難しい。
 しかし季節を理由にすれば話は別だった。冬のこの時期に活動的な動植物をあらかじめ想定しておけば、それ以外の存在は不自然とわかる。行動特性がわかっていればそこから違和感を感じ取ることもできる。
 何より、これから行われるのは武装兵器の稼働実験だ。普通の動物であればまず近寄ってくる事さえ珍しい行動にとれる筈だった。物見遊山の一般人や、彼ら見物客を相手にした屋台営業などの部外者も入り乱れ人の数も多い。辺境の自然に馴染んだ生き物であればそれだけでこの騒がしい空気を避けるはずだ。人間以外の存在はそれこそ違和感を感じるに値するのだった。

「何もないのが一番だけど」
 口調や立ち振る舞いからはそうと見て取れないのだが、美華の五感は常に周囲へと向けられている。定期的に連絡する時もその調子は崩れないため、ある意味鉄の心臓と言えるだろう。
「こちらは問題ないわ」
 流石に守りが堅いからだろうか、魔導アーマーやCAMを近くで見たいからと迷いなく歩を進める陛下に付き従いいつでも盾になれるように心構えもしているが、気配らしいものも感じ取れない。現政権に反対する一派も居るとは聞いていたから、対人警戒もしていたのだけれど。
「強さも見て取れるからかしら」
 腕っぷしも良いヴィルヘルミナは確かに簡単には怪我を負いそうにない。隙があるように、とっつきやすいように見えるのは見せかけだけだと思った。
(興味津々なのは間違いない)
 それを隠さないところが陛下の面白いところだと思う。美華に言われたとおり尋ねることも考えたが、さてどうするか。Charlotteにしてみれはその思考を想像することも一つの楽しみ方なのだ。想像して、推測して一つの可能性を見つけてから聞く方がきっと面白い。自分では思いつかない、自分とは違う切り口の考え方をしている存在は見ていて飽きない。
(すぐに答えを得るよりは、そうだな)
 もう少し、この警備の合間くらいは様子をうかがっていてもいいだろう。
(実験が終わるまではまだ時間がある)
 空を流れるのは真白い雲。今のところ、めぼしい鳥は飛んでいない。

「陛下はCAMを見学中みたい」
 伝話からの報告をアイビスに伝えるその口調はうらやむ響きが含まれている。
(私もずっと見ていたい)
 この仕事をつつがなく終わらせて、技術の発展につながればいくらでも見る機会はあるのだからと本心をねじ伏せているのだ。
 拾っておいた小石を空いた手の内で転がしながら周囲に目を走らせるマコト。その耳が異音をとらえた。
「由有さんに繋いで」
「わかった。ほんの一瞬みたい……うん、今から抑えに行くね」
 察したアイビスがすぐに情報を伝え、由有の指示を仰ぐ。
「居たっ」
 見上げた空に黒い翼を見つけてマコトがどちらの通信にも聞こえるよう鋭い声を発した。啓一のイヌワシよりは小柄に見えるそれを、二人は追っていく。

「鴉らしいわね」
 一羽だけではないだろう。すぐに周知させなければならない。由有がリストをもとに伝話とトランシーバーを同時に使い始める。伝えるだけならば一度にした方が早い。その由有の前に啓一も手持ちの機器を並べた。
「数ある方が早いんだろ」
 既に通信を始めているため視線だけで感謝を告げる。すぐに別の場所へと繋いでいく。
「こちら警備担当の守原。鴉型の歪虚を一体発見。他にも同種が居ると想定されます。上空の警備も留意願います」
 ……ジジッ
「これ、どこと繋がってる!? おいあんた、あんた今どこにいる?」
 微かに異音が混じった一機を啓一が引っ掴み尋ねる。
「……情報回覧と、発見時の報告は重ねて連絡願います」
 二羽目の発見報告を終えた由有が通信を終え、啓一の補助に回った。
「そこは警備班だから、そのまま退治に行ってもらって」
 多分相手の方が歪虚に近いだろうから。

「相手が絞りこめたみたいだね」
 由有からの通信はアーシュラの解説を受けているシャイネにも届いている。解説者に質問する生徒のように自然な空気で会話する。あくまでも見学者のふるまいを続けることは打ち合わせてあった。
「あたし達には対応しやすい相手かな」
 遠距離攻撃の方が得意な二人である。勿論鴉に限らず、他の歪虚の可能性も忘れていない。
「それで、見所なんだけど」
 はっきりと聞こえるように意識したおかげかアーシュラの声が良く響いた。CAMを指し示した様子に微笑んだままシャイネが頷く。
(しばらくは雑談になるかな)
 歪虚にどれだけの判断能力があるかはわからない。重要な話を聞かれた後に存在に気付くのでは遅い。そう考えたところでシャイネの持つ伝話に異音が混じる。どこから話そうかと考えるそぶりで視線を巡らせる間にも異音は続く。近くに留まっている確信を得たところで、アーシュラの目が一羽捉えた。
「伝えるには時間がかかるかな、と」
「もちろん付き合うよ、頼んだのは僕だからね」
 目配せで合図を送る。釣り上げた標的を逃すつもりはなかった。



「美華君、タイミングを合わせられるかい」
 両翼に当てたいと告げるCharlotteは魔導銃をその手に構えている。
「やってみますね」
 短いやり取りの後、美華もワンドを構える。
「5、4、3、……っ!」
 合図に合わせ、共に赤い光と矢が左右の翼めがけ飛んでいく。後方からの襲撃に避けきれなかったらしく、鴉の体が傾ぐ。
「由有君、一羽そちらに行ったよ」
 止めはよろしく。そう告げて陛下の傍に戻るCharlotte。その横では美華が首を傾げていた。
「あらあら?」
「どうしたんだい」
 狙い通り追い込めた事に満足していたのだが。気になって視線を追えば、美華はまだ飛び去ろうとする鴉を視ている。
「私達が狙ったのは翼なのに、頭が重そうにみえますね」
 ふらついたような飛び方は確かに翼のダメージによるものだろうが、滑空しているようにも見えた。
「逃げきれなくなった、という意味で成功だろう。それに後で理由もわかるだろうさ」

 小石を投げる必要はなかった。
「歪虚発見! 危険ですので一般の方は下がっていて下さい!」
 アイビスが手裏剣で仕掛ける瞬間にあわせてマコトが声を張り上げた。空を飛べる相手だ、気付かれる可能性を考慮した結果、警告はギリギリのタイミングになってしまった。
「簡単に情報は持って行かせないから!」
 ガチンッ!
 頭部に吸い込まれるように向かって入った手裏剣が跳ね返されたような音。
(見た目通り堅い!)
 鴉の頭部は機械のパーツで覆われていた。目元にはレンズのようなものまで見える。黒い羽と同じ黒い部品で構成されているおかげで遠目にはわかりにくかったが、スキルを設定していたおかげで先に気付けた。明らかに自然の動物ではない証だ。
「うまく胴が狙えればよかったんだけどっ」
 すまなそうなアイビスの声。
「堅いって分かるのは収穫だよっ」
 逃がす訳にはいかない、まずは撃ち落さなければ。短時間で決着をつけることが重要で、初撃で狙いを定めるのは難しい。後で伝えようと思いながらマコトはハンマーから放つ雷撃を撃ちこむ。ごめんなさいの呟きは心の中でしておいた。
「エレクトリックハンマー!」
 足に当たったおかげか鴉がバランスを崩す。痺れがあるのか見た目よりも撃たれ弱いのか、そのまま落ちてきそうだ。
「後は任せて!」
 落下先を予測したアイビスが素早く向かっていく。マコトも再びハンマーを構えた。

「うまくいったみたいでよかった」
 解説役を装い続けたおかげで奇襲を成功させたアーシュラの手元には、鴉に施されていた機械の部品が残っている。レンズの他にコードもあった。記録媒体は見当たらないが、消えてしまった可能性もある。歪虚の機械的な部品は残る場合も消える場合もあると聞いたことがあるように思う。
「自分で調べたいけど、仕事中だし」
 多分後で回収されるのだろう。せっかくだから今のうちに見ておきたいのが本音だ。
「事後報告で申し訳ないね、一羽倒せたよ」
 シャイネが仲間への報告を終えたら、改めて見所を伝えなくてはと意識を切り替える。
 上手い人の見分け方や、CAMの強み。弱点はどうしようか。
(一緒に戦うのなら、共有したほうがいいとは思うけど)
 シャイネの認識を聞くに、彼に指示をした長老達はそれ以前の段階だろう。どんなものかという一点を重視しようと決めた。

 傍らのハスキーが吠える。
(来たか)
 高度が下がってもなお飛ぼうとする鴉。啓一のナックルでも仕掛けられる高さだ。
「機械の部品付きらしいから、強化歪虚ってことよね」
 情報を纏めた由有の言葉に引っかかるのは少し前帝国であった歪虚作戦の事だ。
「なんつーか剣機を思い出すな」
「案外関係者だったりしてね」
 由有も拳銃を構える、射程に入ったその時が勝負の始まりだ。既に弱っている歪虚が二人に倒されるのは時間の問題だった。

 機械の部品が4セット一か所に集められた頃、会場にも実験を盛り上げる役者たちが揃い始めていた。
 しかし本格的な実験が始まる前会場にもたらされたのは、押し寄せる雑魔の群、その警告情報だった。

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MVP一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオールka0226
  • スカイブルーゲイル
    マコト・タツナミka1030
  • 銀紫の蜘蛛
    守原 由有ka2577

重体一覧

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • 《潜在》する紅蓮の炎
    半月藍花(ka0515
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • スカイブルーゲイル
    マコト・タツナミ(ka1030
    人間(蒼)|21才|女性|機導師
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 銀紫の蜘蛛
    守原 由有(ka2577
    人間(蒼)|22才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 警備・見学相談室
守原 由有(ka2577
人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/12/14 07:27:42
アイコン 質問卓
Charlotte・V・K(ka0468
人間(リアルブルー)|26才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/12/11 10:14:34
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/09 23:40:57