• 虚動

【虚動】蜃気楼の果実

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/14 19:00
完成日
2014/12/21 04:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ――本当の事を言うと。それは師弟関係なんて上等な物ではなかった。

 二人が出会ったのは、単純に行動範囲がバッティングしていただけ。目的も立場も違うのなら、運命と呼ぶのは憚られる。
 錬金術士組合に所属してまだ駆け出しだったハイデマリー・アルムホルムは、その日もいつものようにフィールドワークに出かけていた。
 彼方此方の森を旅して偶然辿り着いたその場所で男は切り株に腰掛け、真剣な面持ちで考えに耽っていた。
 白い肌、長い耳。若々しく凛々しい横顔は、しかしきっと年季が入っている。エルフでは珍しくない、外見不相応に影を帯びた横顔だった。
「……不躾であるな、人間。この場に置いては我が先客。挨拶の一つも出来ぬとは高が知れるぞ」
 すっと、冷たい眼差しが活字から女へと向けられた。ハイデマリーは僅かにきょとんとした後。
「ごめんなさい。確かにじろじろ見過ぎたわ。それに関しては謝罪する」
「ほう。物分かりは良いと見える。その謝罪、受け入れるぞ。心置きなく立ち去るがよい」
 もう会話は充実の終了を見せたと言わんばかりに笑みを浮かべ視線を本に戻す男。ハイデマリーは頬を掻き。
「あの。私、その切り株に用があるんだけど」
「馬鹿にしているのか? そんな事は百も承知である。だから先んじて通告したであろう。“我が先客である”と。今日は我が先であった。譲れ」
「本を読むだけならどこでもいいじゃない。私はその切り株の状態を記録したいの。退いて」
「前言を撤回するぞ。話のわからぬ小娘よ。それが人に物を頼む態度であるか?」
「どいてください、おねがいします」
「たわけ。この我を動かそうというのだ。相応の対価を支払うのが道理であるぞ。さあ小娘、貴様は何を貢ぐ? 肉か、虫か、或いはその愚かなる血か。闇と親和するこの黒き肌を恐れぬと言うのならば見せてみよ」
 ハイデマリーの目は死んだ魚のようになっていた。正直、めんどっちかった。
 男はテンション上がってるが、だって肌白いし。黒くないし。なんかもう何言ってるのかわかんないし。邪魔だし。すごく残念。
 溜息を零し、嫌々鞄から取り出したのは今日の昼食。チーズとトマトを挟んだだけのシンプルなサンドイッチだった。
 男は真顔でハイデマリーを見つめる。腕を組み、暫し考えこみ、それから何か一人でブツブツ言った後、手を伸ばし。
「良かろう。これは我の陣地であるが、今回に限り小娘に譲る」
 そんな事を言って笑った。

「あなた、ここで何してたの?」
「小娘には理解も及ばぬ崇高な儀式である……むぐむぐ。そう言う貴様は何をしている?」
「この切り株の調査。この木はこの間雑魔の影響を受けたから、切ってしまったの。だけどそれは対処療法で、根本的に浄化出来たわけではないから」
「そんな自明の理、何を辛気臭い顔をして呟いているのか。全く理解に苦しむな」
「いいでしょなんだって。私はこの木を浄化したいんだから」
「――は! 浄化? 人間である貴様がか?」
 むすっとして振り返ると男はニヤリと笑って言った。
「全く人間の技術という物はエルフのそれよりも数世代は遅れている。貴様の言う浄化等、我がとうに通過しておる」
「……あなたが? 浄化?」
「なんだその目は。出来るとも。植物浄化の技術などとっくに完成させた。我にとっては過去の技術であるが、後にも先にも我以上の術者は現れるまいよ」
 正直まーったく信じていなかった。しかし男はそんな考えを見透かすように眉をひくつかせながら笑い。
「良かろう。戯れである。小娘、貴様に我の力がどれほどの物であるか教授してやろう。無礼な門外漢に秘伝を授けるつもりはないが、まあ、なんだ。貴様の力を見てやる。どのようにこの切り株を浄化するつもりなのか、我に聞かせて見よ」
「いえ、結構です」
「聞かせよと言っているのだ! ええい、早くせんか!」
 渋々軽く説明した所でハイデマリーは認識を改めた。男は直ぐにハイデマリーが何に躓き、どんな解決策を模索しているのかを言い当て、更にそれを一瞬で解き明かして見せた。
「鉱物性マテリアルの力を使うという発想は悪くない。問題は指向性だ。小娘も精霊の加護を受けているのなら、やって出来ない事も無かろう」
「あなた……一体なんなの?」
「闇を渡る孤高の天才……とでも言ってこうか」
「浮浪者って事?」
「自殺願望者ならばわかりやすくそう言え。その蛮勇に免じて速やかに冥土に送ってやるぞ」

 それから研究を重ね、ハイデマリーは再び森を訪れた。
 真空管に鉱物性マテリアルの結晶を詰め込んだ杭のような装置を手に切り株の前に立つ女。その視線の先にはまたあの奇妙な先客が座っていた。
「待っていたわけではない。これは偶然である。さて小娘、よもや我が助言を受けてなんら成果も示せぬような無様ではあるまいな?」
「やってみないとわからないけど」
「は。それこそ自明の理であろうが」
 目を瞑り笑って男は何かを投げた。空を舞う赤い光は女の掌にすとんと落ちる。
 それは真っ赤なリンゴ。それから会う度、“師匠”はわけのわからない事を言って、挨拶代わりにこの果実を投げ渡すのであった。



「……あれが魔動アーマーね」
 錬魔院のヤン・ビットマンとはコネがある。ここらで貸しを作っておくのは悪い話ではなかった。
 帝国と辺境の国境。荒野のど真ん中で黒煙を上げて停止する魔動アーマーを目視し、トラックの荷台でハイデマリーは立ち上がった。
「暇潰しに話したけど……私の話なんて聞いて面白かったのかしら? まあ、あの人は凄く変な人だったというのは保証するけど」
 辺境のCAM実験場を目指し出発した魔動アーマーのうち何機が辿りつけたものやら。見ればアーマーの運転席では運転手が白旗を振っていた。
 トラックの荷台では特に他にする事もなく、ハンター達は順番に雑談を巡らせていた。ハイデマリーの話が終わるか終わらないかと言う頃、彼らは目的に到達する。
「錬魔院からの依頼で救助に来たわ。無茶もいいけど、この有り様はちょっとあんまりじゃない?」
 停車したトラックから降りたハンター達に混じり魔動アーマーを見つめるハイデマリー。
 ヤンの予想通り関節部がイカれてもう走れないときた。そうわかっていたのなら止めてやれよと思いながら、応急処置の為に積んできた資材を手を伸ばした時だ。
 騒音が気に触ったのか、それとも動けない獲物に狙いを定めたのか。動けない魔動アーマーを取り囲むように、複数の狼の雑魔が出現していた。
「ひ、ひいい! 雑魔だ! 助けてくれぇ!」
「安心しなさい、助けるから。こういう事もあろうかとハンターがいるんだから、ね?」
 ハイデマリーはガンケースからライフルを取り出し、震える運転手にリンゴを投げ渡す。
「お仕事よ。行きましょう」
 声をかけられたハンターは頷き、得物を手に雑魔の前に立ちふさがった。

リプレイ本文


「とりあえず出鼻は挫かせて貰おうか。防人、明影! 奴らを寄せ付けるなよ!」
「了解。これより迎撃を開始する」
「……やれやれ。この程度の状況で狼狽えるとは」
 シュタール・フラム(ka0024)の掛け声で君島 防人(ka0181)と弥勒 明影(ka0189)がそれぞれ銃を構える。
 三人はこちらへ接近しようとする狼へ発砲、その動きを抑えこむ。三人共銃の狙いは正確で、威力も申し分ない。最初に飛び出す姿勢を見せた個体が一瞬で撃ち抜かれた事で、狼達も二の足を踏んでいる。
「良い流れですね。これならば一気に妨害出来ます」
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)は目を瞑り、抱きかかえるように構えたメイスに声を響かせる。音紋がきらりと広がると、狼の集団の中央にスリープクラウドの煙が湧き上がった。
「元が獣なら、火で追い払えるかもしれない。護身用に持っておきな」
 魔導アーマーの傍らで怯える研究者達にたいまつを手渡すルオ(ka1272)。スリープクラウドで行動不能に陥った狼を目指し、槍を片手に駆け出した。
「まずは寝てない奴から!」
 マテリアルの光を帯びた槍を片手でくるくると回しながら駆け寄り、身体を回転させると同時に薙ぎ払う。狼は悲鳴を上げ、呆気無く大地を転がった。
「どうやら大した相手ではなさそうね」
「でも数だけは多いからねー。油断は禁物だよ」
 あっという間に四体の狼を片付けたハンター達。ハイデマリーの言う通り敵の強さそのものは大した事はないが、問題はその数だ。
 オキクルミ(ka1947)はルオが向かった方向とは反対側で斧を構える。魔導アーマーを中心に展開された狼の包囲網は、片側が劣勢でも問題なく機能した。
 飛びかかる無数の狼をハイデマリーが銃で牽制。オキクルミは片手斧を振り回し敵の接近を阻止する。
「時間さえ稼げば反対側からぐるっと皆が殲滅してくれそうだしね……っと!」
 飛びかかる牙に斧を食い込ませ、力いっぱい吹っ飛ばす。別段魔導アーマーの貴重性を理解しない狼は、獲物の捕食を邪魔するオキクルミに狙いを定める。
 ルオとオキクルミが主に敵の狙いを惹きつけ、遠距離攻撃が可能なハンターがその行動を支援するという形で、すぐに戦況は安定し始めた。
 彼らを無視してわざわざ魔導アーマーやその側にいる研究者を狙いに行く敵は居ない。それでも研究者二人は今にも消え入りそうな様子で怯えていた。
「そう怯えなくても大丈夫だ。いざとなったら障壁で守ってやるし、どうやら俺達も想像以上に強くなってるみたいだしな」
「命中確認――――成る程、練成工房の機導師は腕が良いな。威力が格段に違う」
 ウィンクするシュタールの言葉の通り、ハンター達は以前より格段に強くなっている。正直この程度の雑魔ではどうしようもない。
 防人も錬成工房で改造を施した愛用銃の威力には驚いていた。どういう理屈で銃の威力が高まるのか、異世界出身の彼には不思議だったろうが、その結果は素直に受け止めているようだ。
「高みを目指し、切磋琢磨した先に光明は待つ。熱意とは現実に打ち勝つ為の起爆剤だ。だが、覚悟なき想いは独り善がりな児戯に過ぎんぞ」
 ぷかぷか紫煙を吐き出しながら呆れた様子で引き金を引く明影。研究者達はしゅんとした様子で膝を抱えている。
「この程度の攻撃、どうって事もないな!」
 飛びかかる狼の爪を槍で払い、光を帯びた切っ先で怯んだ狼を貫く。仲間の援護もあり、ルオは次々に敵を撃破する。
「ファンタジーな戦闘にもだいぶ慣れてきたな……。俺も経験を積んできたって事なのかな?」
「ぶん回すよ、下がってて!」
 鉞を振るい狼を牽制するオキクルミ。メトロノームは緑色に発光する風を纏い、ハイデマリーと並ぶ。
「魔導アーマーには近づけさせません……!」
 ウィンドスラッシュは的確に狼の体を引き裂いた。ハイデマリーの銃弾もまた狼を行動不能に追いやる。
「うんうん、いい感じいい感じ!」
 敵の攻撃が集中するオキクルミだが、殆どの攻撃が彼女を傷つけるには至らない上、ハイデマリーから障壁の支援、そしてメトロノームの風の加護もある。
 無視して魔導アーマーを攻撃するような頭もない狼故に、狙いは自分に集中する。なら別に避けても構わないので、見た目以上に余裕を持って戦えているようだ。
 残り五頭ほどになると、もう明らかに勝ち目がないと見たのか情けなく鳴きながら狼達は逃げ出し始める。その背中も遠距離攻撃が命中し、呆気無く狼達は全滅した。
「死体が消えない所を見ると、やっぱり雑魔化したと言っても程度は軽かったようね」
 銃を下ろし息を吐くハイデマリー。それから片目を瞑り微笑む。
「それにしても驚いた。こんなに早く片付くとは思わなかったわ」
「武器を新調したばかりだったしな。調子はまずまず、手を入れた甲斐があったよ」
 白い歯を見せて笑うシュタール。ルオは腕を回しながら歩いてくる。
「どうです、君島さん。俺も少しは成長してますかね?」
「ああ。お陰で敵を殆ど寄せ付けずに済んだ」
「ま、それも援護射撃あってこそですけどね」
「早々に雑魔を殲滅出来たのは僥倖。これも天啓であろう。そういう事ならば、別の行いにたっぷり時間をかけるとしようか」
 明影の言葉に同意するように頷く君島。ルオはどす黒いオーラを立ち上らせる二人の間で不思議そうに首をかしげた。



「愚か者どもが! 兵器はお前達の自尊心や好奇心を満たす為の玩具では無いぞ! お前達の未熟と自分勝手がこの結果だ、我々が来なかったらどうなっていたか想像くらいは出来るだろう!」
 荒野に響く防人の怒号。二人の研究者は土の上に正座させられ、身を縮こまらせていた。
「お前達も素人で無いなら、自らの研究の信頼性ぐらい見極めろ! 未完の兵器に乗せられた兵士の心境を考えた事があるか? お前達の成果はお前達だけの物ではないのだぞ!」
「全く、帝国の技術者は皆この様なのか……。おまえ達はここに何をしに来たのだ。醜態を晒し、危険意識の低さ故に“死にたくない”と怯え、余所者に救われる。そんな様で一体何を示せるというのだ」
 明影は腕を組み呆れたように語りかける。そんな二人の様子にメトロノームは何やらおろおろしているが、ルオは苦笑を浮かべ。
「……君島さんって“軍曹”って感じだからなぁ。軍曹っていうのはああいうものなんだよ。あの感じだと弥勒さんもなんかの軍属だったみたいだし」
「そ、そうなのですか……?」
「一応俺も軍人だからね。ま、この状況はちょっと擁護出来ないし」
 耳打ちするルオの言葉に心配そうに口元に手を当て見守るメトロノーム。明影は肩を竦め。
「“あの”皇帝陛下なら赦してくれると楽観している。己が蒙る不利益など微塵も考えない。過日に救った者達もそれだった。余り他者を嘗めるなよ。我も人、彼も人。故対等――基本であろうが」
「思い入れがあるのは判るが、出来る事と出来ない事を読み違えるってのは宜しくねぇなぁ」
 シュタールは魔導アーマーに歩み寄り、傾いたその装甲をゴツンと叩く。
「壊れたのが脚だけなら直しようも改善の余地もある。だが無茶してお前さん達が命を落としちまったら、誰がこいつの面倒を見るんだ?」
「先日、別の開発者の方とお話する機会がありました。この度の行動の理由も多少なりとも理解しているつもりです。無謀に過ぎた事は事実ですが、もう反省もしているようですし……それに、魔導アーマーは無事だったのですから、良しとしませんか?」
 メトロノームの言葉に頷くシュタール。そして正座していた男は頷き。
「……あなた達の言う通りだ。僕達は自分の事ばかり考えて、大切な事を忘れていたのかもしれない」
 勿論魔導アーマーは皆の夢だった。一生懸命追いかけ、作り上げてきた未来だった。
 けれどそれ以前にこれは前線の兵士を守り、皇帝の理想を助ける為の夢だったはずなのに。
「魔導アーマーを守るあなた達を見て思ったんだ。これじゃあ逆じゃないか、って……」
 青年は立ち上がり、倒れた魔導アーマーを見つめる。その瞳には以前とは違う熱意が宿ったように見えた。
「は~いはい。それじゃあ怪我もないみたいだし、いつまでもそうしてないで修理しないと。ちゃっちゃと終わらせて帰ろっか」
 手を叩きながら声をあげるオキクルミ。確かにここで立ち往生は避けたい所だ。また雑魔に絡まれる前に引き上げる為、魔導アーマーの修理が開始された。

 魔導アーマーの修理にはシュタールも協力を名乗り出た。ハイデマリーと二人の開発者が脚部の修理に当たる間、オキクルミは岩の上に腰掛け周囲を警戒。明影は岩にもたれかかるようにして寝転がり、帽子を顔に目深に被り紫煙を空に昇らせている。
 青空の下、人影も見えない荒野で修理は一時間程続いた。オキクルミは岩場の上から声をかける。
「ハイデマリー君、まだかかりそう?」
「そうね……もうちょっとかな」
「ボクが手伝える事とかあるかな? 機械は分からないけど持ち上げたり工具を渡したり位なら出来るよー?」
「ありがとう。でも、これが私への依頼だしね」
 機械油で汚れた手で汗を拭うと顔まで黒くなる。それでもハイデマリーはどこか楽しげだ。
「前にお前の依頼を受けたのが四ヶ月前か。あれから汚染浄化の研究は進んでいるのか?」
「正直、あまり。というのも、これ以上前に進むにはより高純度なマテリアル結晶の回収か、もっと画期的な理論の構築が必要みたいなの。どちらにせよ凄くお金かかるから、こうしてバイト中」
「此方はエルフハイムとの接触を試みている。維新派エルフとの協調が取れれば、其方の方向からの浄化も進むと見ている」
「そう。私はエルフは少し苦手だから」
「そうだったのですか? ハイデマリーさんのお話に出てきた方はエルフだったようですが……」
「あなたの事も含め、エルフが嫌いってわけじゃないの。そうじゃないんだけどね」
 煮え切らない返答に首を傾げるメトロノーム。ルオはポンと手を叩き。
「その師匠の協力があれば研究はもっと早く進むんじゃないのか?」
「師匠はもう居ないわ。どこかへ行ってしまったから。エルフって人生長いから、気まぐれに寄り道したりするものなのよ。それで何も言わずにいなくなってしまう……勝手よね」
 そう呟いたハイデマリーの横顔は懐かしむような、寂しげな……しかし穏やかな笑顔だった。
「私の側に居たエルフは、皆勝手にいなくなってしまった。だから嫌いなんじゃなくて、好きになるのが怖いだけよ」
 それきり作業に集中し始めたハイデマリーにハンター達も声をかけなかった。
 作業はそれから三十分ほどして何とか完了にこぎ着けた。シュタールは満足そうに立ち上がった魔導アーマーを眺めている。
「いやぁ、いい勉強になったぜ。こんな時じゃなきゃ中々こうして直に触れられないからな」
「直ったんなら少し動かさせてくれよ。ちょっとぐらいはいいだろ、減るもんじゃないし。何を隠そう、俺は元CAMパイロットだしな!」
「構わないよ。ただ、扱いが難しいから気をつけてくれよ」
 許可をもらって喜んで飛び乗るルオ。しかし次の瞬間目を丸くする。
「円形のハンドルに、これは……アクセル、ブレーキ……クラッチ……いや乗り方分かっていいけど、これただの車じゃないか」
「ああ。ほとんどの操作系は魔導トラックと変わらないよ。左右に腕を動かす操縦桿があるだけだ」
「方向転換しながら両腕動かせないじゃん!」
 えっちらおっちら走り出したアーマーだが、バランスが悪く何度も横転しそうになる。シュタールは慌てて並走する。
「おおおい、もうちょっと慎重にやってくれ! また壊れたら事だぞ! 脚の関節が極端に悪いんだ、そんなに走るな!」
「走らないと帰れないじゃないですかー!?」
 その様子をじっと見守るメトロノーム。オキクルミはけらけら笑いながらハイデマリーに問う。
「でもあれ、暴走したりすれば汚染を撒き散らすんだよね?」
「厳密にはあれそのものではなく、マテリアル変換機構が暴走するとね。機導エンジンは鉱物性マテリアルからエネルギーを抽出し変換する機構だけど、例えば変換している途中で動作が中断されたりすると、何にも使い道のない、自然界に存在しない汚染マテリアルが発生してしまう」
「なんかよくわかんないけど、魔導アーマーじゃなくて機導エンジンが問題って事?」
「おおまかには」
「ふーん。それが悪用されたら大変だよね。いざとなったら、ボク達が闘う時も来るのかもね」
 試運転から戻ってきたルオ。ふらふら歩いているのは、妙にあのアーマーが揺れるからだ。
「どうだ、調子は」
「このまま魔導アーマーの研究が進むのを待っていたんじゃ生きてるうちに地球には帰れないかも……」
「そうか」
「サルヴァトーレ・ロッソから技術提供とかできないもんかな。機密だなんだと言っている状況じゃないと思うんだが……」
 防人に頭をわしわし掻きながら応えるルオ。
「こいつは足回りによっぽどタフな機構を組むか、さもなきゃ長距離移動は別の手段を考えた方が良いかもなぁ」
「検証も良いが、そろそろ発たねば日が暮れる。そう何度も雑魔とやりあっている暇はないぞ」
 明影の声に頷くハンター達。それぞれが帰り支度を進める中、青年は明影に歩み寄り。
「今回の事で、自分達の未熟さを痛感しました」
「無断で兵器を持ち出せば、俺達の法では極刑となる。この国の規律は甘い……だが、俺はそれは翻して信頼の証と捉える。信じているからこそ、皇帝はその行動を見守っているのではないのか?」
「僕……他の魔導アーマー派の皆とも話してみます。今の僕達じゃCAMには敵わないけど、でも、何か僕達なりに出来る事はあると思うんです」
「……ならば、せいぜい行動せよ。信頼も成果も、一つ一つ積み重ねる物なのだからな」
「兵器とは、兵士の命を預かる装置だ。彼らの命を救うも殺すも、お前達の腕にかかっている。それは決して忘れるな」
 防人の言葉に頷き、青年は魔導アーマーに走って行く。その背中を見つめ明影は目を瞑り。
「少しは火が入ったか」
 銃を担ぎ直し踵を返す防人。ハンター達はトラックに乗り込み、魔導アーマーと共に荒野を走り出す。
「ハイデマリーさん、またお話を聞かせていただけませんか?」
 風になびく髪を片手で抑え、メトロノームが言う。
「……所で、先程の林檎は何の趣向だ? 彼らに渡していた様だが」
「特に意味はないわ。私別にリンゴが好きなわけでもないしね。じゃあ、何かあるとすぐにリンゴを持ってきて、“これが対価だ”とか言って人から食料品を無心していた、変な浮浪者の話でもしましょうか……」
 ゆっくりと、荒野に茜色の光が降り注ぐ。
 土煙を上げて走るトラックとその後ろに続く魔導アーマー。その速度はゆっくりだから、また雑談を一巡させるくらいの時間はありそうだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 護りの弾丸
    シュタール・フラム(ka0024
    ドワーフ|29才|男性|機導師
  • 歴戦の教官
    君島 防人(ka0181
    人間(蒼)|25才|男性|猟撃士
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 帰還への一歩
    ルオ(ka1272
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談の卓、です
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/12/14 15:57:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/10 20:19:10