ゲスト
(ka0000)
【初心】藤棚の妖蜂
マスター:竜桐水仙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/28 09:00
- 完成日
- 2018/05/07 04:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある民家の庭にて
それは、言葉にならないほど見事な藤棚だった。
蔦の部分だけでも雨宿りできるほど生い茂っており、時期が来ればその密度に相応しい数の花房が、さながらオーロラのごとく垂れ下がる。
さらに、藤特有の香りが一面を濃密に満たすのも、毎年の楽しみとなっていた。
様々な生き物がその藤棚を訪れ、それぞれに楽しんで帰っていく。
蜂、鳥、ネズミ……。もちろん家主を含めた人間たちも、毎年その藤を待ち望んでいた。
そんなこんなで、藤色のカーテンがかかる季節には、近所の住人たちを呼んで盛大に宴会を開くというのが、その家の恒例行事となっていた。
ちょうどその日も、大勢の人が集まり、宴を催しているところだった。
様々な人が、思い思いの格好で、好きなように藤を愛でている。
「いい香りだねぇ」
「香りもいいがやっぱりこの花が壮観なんだよなぁ」
「バカだなー。どっちもなくちゃ、藤を見てる気がしないじゃん」
「「違いない!」」
酒など入って、若干知能指数の下がった会話が交わされる。
優しく、そして華々しい空気が、その空間を満たしていた。
異変が起きたのは、太陽がてっぺんを通り過ぎ、眠気を催した人々のために空気が弛緩しはじめた頃。
「あれっ?」
酒精で頬を赤らめた若い女性が、宙の一点を見詰め、首を傾げている。
「どうしたよぉ」
「あれ……。なんか、変じゃない?」
そう言って、視線の先を指差す。
その指を辿っていくと、妙に大きな蜂が、ぶんぶんと羽音を鳴らしながら庭を漂っていた。
黄色い頭に産毛を生やし、真っ黒い腹をあちこちに向けて、脈絡もなく飛び回っている。
その体長はどう見積もっても五十センチを優に超える。
その配色も相まって、見る者に不吉な印象を植え付ける姿だ。
さすがに住人たちも酔いを覚ました。
「おいおい、なんか雰囲気が妖しくねぇか」
「あんなでっかい虫が、いるもんかよ?」
「やだやだ、ただでさえ虫は嫌いなのに。あんなおっきいの、見るのもやだわ」
数多いる女性の一人が、席を離れていった。
続いて席を離れる者が少数。
それでいて、蜂に近づく者も多くいた。
「おーい、蜂さんやい」
「妙に図体がでかいが、何食ったらそんなにおっきくなったね」
「一緒に藤を見ないかい」
彼らと蜂との距離が、四~五メートルを切る。
その瞬間。
ブン
蜂の複眼が、先頭の男に向いた。
一瞬のうちに体当たりを仕掛ける妖蜂。
先頭の男は蜂の勢いに負け、尻餅をついて倒れる。
惨劇はそこからだった。
その巨体による突進は、只人にとってはそれだけでも十分に驚異である。
しかしそれだけに飽き足らず、人々の真ん中に躍り出た妖蜂は、唖然として動けないでいる人々に、毒針をかざして襲いかかった。
刺された人は、あまりの痛さに患部を抑えて転げ回る。
恐慌がその場を支配する。
「に、にげろぉぉぉ!!」
「あれは普通の蜂じゃないわ!」
「歪虚にちがいねぇ!!」
宴の参加者たちは、背中を向けて走り出す。
そんな彼らに、絶望が追い打ちを掛ける。
ヴヴヴヴヴ
今まで暴れまわっていた蜂の他に、もう五匹、同じような蜂が姿を現した。
今度こそ人々は、算を乱して逃げ始めた。
思い思いに飛び回り、庭に均等に散っていく妖蜂たち。
いっそ無機質なほど淡々と、妖蜂たちは近くの生き物を襲っていた。
●ハンターオフィスにて
依頼を探しに来たハンターたちに、職員たる女性が一枚の書面を提示する。
「ごく最近発注された依頼になるのですが、これなど初心者の皆さまでも比較的受けやすいのではないでしょうか」
必要な箇所を指差しながら、説明を始める。
「依頼内容は、蜂型雑魔六体の討伐。虫型に分類される雑魔なので、一体毎の生命力が低く、討伐の難易度自体は低いです。ただし、雑魔の出現場所が大切な藤棚であるので、戦闘に際して、可能な限り藤棚の破壊は避けていただきたいとのこと」
基本的に、戦略は各個撃破になるでしょう、と彼女は言う。
「行動パターンもだいたい分かっておりまして、雑魔から半径六メートル以内に足を踏み入れると突撃してきて、半径四メートル以内に入ると毒針で攻撃してきます。自発的に二メートル以上移動する様子は確認されていないので、遠目の間合いから踏み込んで攻撃したり、魔法や射撃などの遠距離攻撃が有効かと思います」
続けて言葉を紡いでいく。
「この依頼には、ベテラン猟撃士のエイソスさんがついていってくださいます。とはいえ彼も親切な方ではないので、基本的には皆さんで頑張っていただき、どうしても危険だったり依頼が失敗しそうなときだけ手を出す、という形のサポートになるでしょうね」
「だーれが親切じゃないって?」
唐突に後ろから浴びせかけられる、男性の声。
説明をしていた職員の顔が歪んだ。
「あ、エイソスさん……」
「どーもこんにちは。親切じゃない先輩の、エイソスだよ」
ニヤニヤと意地悪く笑いながら、皮肉を飛ばす男。猟銃を担ぎ、比較的整った顔の下半分を薄い髭で覆っている。雰囲気は若いが見た目は中年男性じみた感じのする、年齢不詳の男だった。
「まぁ、オレはサポートでついていくんだから、基本的にいないものとして扱ってくれよ。その方があんたらも達成感あるだろ? 後ろの方で好き勝手してるからさ、オレのことは気にせずそちらも好き勝手しなよ」
ウィンクなど決めながら、軽い調子でいう。
「討伐がうまいこといったら、依頼主が宴会を開いてくれるらしいから、それも楽しみだよなぁ」
笑いながら去っていくエイソス。
ため息をこぼしてから、職員はハンターたちの顔を覗き込んだ。
「ああいう胡散臭い先輩ですが、基本的には不干渉です。あの調子だと宴が開かれたら会場のどこかにはいるでしょう、声を掛けたらなにがしか話してくれるでしょうね。彼のこと抜きにしても美味しい依頼ですから、受注してみてはいかがでしょうか?」
それは、言葉にならないほど見事な藤棚だった。
蔦の部分だけでも雨宿りできるほど生い茂っており、時期が来ればその密度に相応しい数の花房が、さながらオーロラのごとく垂れ下がる。
さらに、藤特有の香りが一面を濃密に満たすのも、毎年の楽しみとなっていた。
様々な生き物がその藤棚を訪れ、それぞれに楽しんで帰っていく。
蜂、鳥、ネズミ……。もちろん家主を含めた人間たちも、毎年その藤を待ち望んでいた。
そんなこんなで、藤色のカーテンがかかる季節には、近所の住人たちを呼んで盛大に宴会を開くというのが、その家の恒例行事となっていた。
ちょうどその日も、大勢の人が集まり、宴を催しているところだった。
様々な人が、思い思いの格好で、好きなように藤を愛でている。
「いい香りだねぇ」
「香りもいいがやっぱりこの花が壮観なんだよなぁ」
「バカだなー。どっちもなくちゃ、藤を見てる気がしないじゃん」
「「違いない!」」
酒など入って、若干知能指数の下がった会話が交わされる。
優しく、そして華々しい空気が、その空間を満たしていた。
異変が起きたのは、太陽がてっぺんを通り過ぎ、眠気を催した人々のために空気が弛緩しはじめた頃。
「あれっ?」
酒精で頬を赤らめた若い女性が、宙の一点を見詰め、首を傾げている。
「どうしたよぉ」
「あれ……。なんか、変じゃない?」
そう言って、視線の先を指差す。
その指を辿っていくと、妙に大きな蜂が、ぶんぶんと羽音を鳴らしながら庭を漂っていた。
黄色い頭に産毛を生やし、真っ黒い腹をあちこちに向けて、脈絡もなく飛び回っている。
その体長はどう見積もっても五十センチを優に超える。
その配色も相まって、見る者に不吉な印象を植え付ける姿だ。
さすがに住人たちも酔いを覚ました。
「おいおい、なんか雰囲気が妖しくねぇか」
「あんなでっかい虫が、いるもんかよ?」
「やだやだ、ただでさえ虫は嫌いなのに。あんなおっきいの、見るのもやだわ」
数多いる女性の一人が、席を離れていった。
続いて席を離れる者が少数。
それでいて、蜂に近づく者も多くいた。
「おーい、蜂さんやい」
「妙に図体がでかいが、何食ったらそんなにおっきくなったね」
「一緒に藤を見ないかい」
彼らと蜂との距離が、四~五メートルを切る。
その瞬間。
ブン
蜂の複眼が、先頭の男に向いた。
一瞬のうちに体当たりを仕掛ける妖蜂。
先頭の男は蜂の勢いに負け、尻餅をついて倒れる。
惨劇はそこからだった。
その巨体による突進は、只人にとってはそれだけでも十分に驚異である。
しかしそれだけに飽き足らず、人々の真ん中に躍り出た妖蜂は、唖然として動けないでいる人々に、毒針をかざして襲いかかった。
刺された人は、あまりの痛さに患部を抑えて転げ回る。
恐慌がその場を支配する。
「に、にげろぉぉぉ!!」
「あれは普通の蜂じゃないわ!」
「歪虚にちがいねぇ!!」
宴の参加者たちは、背中を向けて走り出す。
そんな彼らに、絶望が追い打ちを掛ける。
ヴヴヴヴヴ
今まで暴れまわっていた蜂の他に、もう五匹、同じような蜂が姿を現した。
今度こそ人々は、算を乱して逃げ始めた。
思い思いに飛び回り、庭に均等に散っていく妖蜂たち。
いっそ無機質なほど淡々と、妖蜂たちは近くの生き物を襲っていた。
●ハンターオフィスにて
依頼を探しに来たハンターたちに、職員たる女性が一枚の書面を提示する。
「ごく最近発注された依頼になるのですが、これなど初心者の皆さまでも比較的受けやすいのではないでしょうか」
必要な箇所を指差しながら、説明を始める。
「依頼内容は、蜂型雑魔六体の討伐。虫型に分類される雑魔なので、一体毎の生命力が低く、討伐の難易度自体は低いです。ただし、雑魔の出現場所が大切な藤棚であるので、戦闘に際して、可能な限り藤棚の破壊は避けていただきたいとのこと」
基本的に、戦略は各個撃破になるでしょう、と彼女は言う。
「行動パターンもだいたい分かっておりまして、雑魔から半径六メートル以内に足を踏み入れると突撃してきて、半径四メートル以内に入ると毒針で攻撃してきます。自発的に二メートル以上移動する様子は確認されていないので、遠目の間合いから踏み込んで攻撃したり、魔法や射撃などの遠距離攻撃が有効かと思います」
続けて言葉を紡いでいく。
「この依頼には、ベテラン猟撃士のエイソスさんがついていってくださいます。とはいえ彼も親切な方ではないので、基本的には皆さんで頑張っていただき、どうしても危険だったり依頼が失敗しそうなときだけ手を出す、という形のサポートになるでしょうね」
「だーれが親切じゃないって?」
唐突に後ろから浴びせかけられる、男性の声。
説明をしていた職員の顔が歪んだ。
「あ、エイソスさん……」
「どーもこんにちは。親切じゃない先輩の、エイソスだよ」
ニヤニヤと意地悪く笑いながら、皮肉を飛ばす男。猟銃を担ぎ、比較的整った顔の下半分を薄い髭で覆っている。雰囲気は若いが見た目は中年男性じみた感じのする、年齢不詳の男だった。
「まぁ、オレはサポートでついていくんだから、基本的にいないものとして扱ってくれよ。その方があんたらも達成感あるだろ? 後ろの方で好き勝手してるからさ、オレのことは気にせずそちらも好き勝手しなよ」
ウィンクなど決めながら、軽い調子でいう。
「討伐がうまいこといったら、依頼主が宴会を開いてくれるらしいから、それも楽しみだよなぁ」
笑いながら去っていくエイソス。
ため息をこぼしてから、職員はハンターたちの顔を覗き込んだ。
「ああいう胡散臭い先輩ですが、基本的には不干渉です。あの調子だと宴が開かれたら会場のどこかにはいるでしょう、声を掛けたらなにがしか話してくれるでしょうね。彼のこと抜きにしても美味しい依頼ですから、受注してみてはいかがでしょうか?」
リプレイ本文
●庭に臨んで作戦会議
ハンターたちは庭の入り口で作戦の最終確認を行う。
最初に玲瓏(ka7114)が藤棚周辺を見て回った結果を報告。
「ここから見ても分かる通り、左手の藤棚が奥まで続いており、広い場所は右手に広がっている6メートル程度の幅を持つ芝生地帯のみです。この庭は横幅よりも奥行きの方が深いですので、この入り口に引き寄せて来るよりも、奥にどんどん進んでいく方が良いでしょう」
それを受けて、既に先輩らしいリーダーシップを(意図するかしないかは別にして)発揮している時雨 凪枯(ka3786)が、全体に持ちかける。
「それじゃ、この芝生部分に蜂どもを引っ張ってくるんでいいかい?」
全員が首肯する。
「念のため、頭から一つずつ確認していこうか」
順を追って1人ずつに語りかける。
「まずあたしと玲瓏ちゃんが、ドクちゃんのプロテクションなんかを受けて雑魔を芝生の方へ誘導。フィアちゃんがこれを迎え撃つ。そうだね?」
「そうですね」
「肯定」
「せやな! ……とはいえ、オレの取り柄ちゅうたら支援とヒールしかないんやけどね♪」
フィア(ka6940)とスマイリー・ドク(ka7082)そして玲瓏が頷いた。
「そしてあたし達引きつけ役は、フィアちゃんの邪魔にならないよう横に退いて、コウちゃんとアテナちゃんが蜂の退路を断つ」
「そうだな!」
「おう!」
玄武坂 コウ(ka5750)と姫之宮 アテナ(ka7145)の両名が、瞳を覗き込んでくる凪枯に力強く頷いた。
「そして今まで名前の出てきていない源弥ちゃんと珀音ちゃんは、引きつけ役のついていない蜂の生命力を遠距離攻撃で削っていく、と」
「そうだな。1匹でも減らせれば、その分楽だろ」
「できることをしていきたいと思います」
残波源弥(ka2825)と和住 珀音 (ka6874)も異議なしと首肯する。
と、そこでコウが手を上げた。
「討伐に時間がかかるようなら、俺と姫之宮で引きつけなしに敵を叩きに行こうと思う。あくまで引き剥がしは藤を守るためだからな」
「そうだな。藤を傷つけずに早急に雑魔を討伐するのが今回の依頼だ」
全員大きく頷く。
ハンターたちは、それぞれの持ち場に散っていった。
●作戦開始
入り口から入ってすぐ、珀音と源弥は攻撃態勢を整える。
珀音は桜花屍を、源弥はヴォロンテAC47をそれぞれ構え、射線から藤を外して、近くの雑魔から攻撃を加えていく。
「虫に無粋とか言っても詮ないことだ。花があるから来ているのだろうけど。ま、これも仕事だ」
引き金を引く。
パパパ
3点バーストでアサルトライフルが火を噴くが、雑魔はそれを軽々と回避。
「狙いは悪くなかったな。回避が厄介か……」
「次、私が参ります」
ぼやく源弥に次いで、珀音が攻撃を試みる。
「風雷陣!」
符を投げ上げるとそれが稲妻へと変じ、雑魔に襲いかかる。
雑魔はそれを回避しようと試みるもタイミングを逃し、稲妻が直撃した。
たかが一撃で、すんなりと焼け落ちる。
「あっさりと逝きましたね……」
「やはり回避さえなんとかすれば、一撃で下せるようだ。自分達は数を減らしていこう」
「そうですね」
次の雑魔に狙いをつけるため、2人は足を踏み出した。
源弥達の攻撃開始と同時に、他の面々も準備を進める。
最初は凪枯。
髪が白く変色し、頭には狐耳が、背後には2本の狐の尾が、それぞれ現れる。狐火が周囲を漂い、目尻の紅をほのかに照らす。
覚醒した凪枯が玲瓏にレジストを施した。
「俺のも受け取ってや!」
ドクが追加でプロテクションを施す。
光が二重に玲瓏を覆い、玲瓏の能力を底上げする。
「ありがとうございます。行ってきます」
軽く頭を下げると、玲瓏は移動を開始した。
「俺達も行くか」
「そうだな、あたしらも持ち場に向かおうぜ」
コウとアテナが、フィアに言った。
「了承。玲瓏の引きつけ先にて待機する」
3人は玲瓏の後を追って走り始める。
それを凪枯とドクの2人が見送った。
「戦闘中にナンなんやけど、あの3人の掛け合いは見ててほっこりするっちゅーか相性がええっちゅーか……」
「元気な子と寡黙な子って意外と気が合うからねぇ」
「戦いが終わったらおもっきり宴会たのしませたらなな!」
「面倒なことは好きじゃないんだが……。とりあえずこの戦いをさっさと済ませてしまおう」
「はは、ほなプロテクション掛けるで」
「あぁ、ありがとう」
ドクのプロテクションを受けた凪枯も、玲瓏の向こうに回り込むべく移動する。
「さーて、次はコウちゃんにプロテクションかけたらななぁ」
ドクはコウの後を追って走り出した。
その頃玲瓏は、雑魔の反応が起こらないギリギリのラインで足を止めたところだった。
その近くで足を止めたコウとフィア、アテナの3人は、それぞれ引き寄せに反応する準備を整える。
「うっし、気張っていくかー!」
アテナは腕をぐりぐり回して準備運動。
コウは全身にマテリアルを纏い、金剛を発動。防御が厚くなり、簡単には攻撃を受けつけないようになる。
そこから少し離れた所にいるフィアは、ボソリと呟きながら瞬脚を始動した。
「始動」
脚部にマテリアルが集中する。
雑魔を倒すべく、じっとチャンスを待つ。
そんな中、玲瓏は歌を謡い始めた。
「♪~。♪~~♪♪、♪~」
レクイエムが負の存在たる雑魔の行動を阻害する。
混元傘を構え、雑魔のテリトリーに一歩、踏み入った。
迎え撃つフィア達3人に緊張感が漂う。
雑魔は警戒網に引っ掛かった玲瓏に襲いかかろうとするも、レクイエムの効果で動きが鈍い。なんとか彼女の方に向かってくるのを、玲瓏は颯爽と受け流した。
雑魔はその勢いで藤棚から飛び出る。
「加速」
すかさずフィアがランアウトとアサルトディスタンスを発動。雑魔に攻撃を仕掛ける。
雑魔は回避に失敗し、攻撃に備えるものの、元々低い生命力がアダとなり一撃で沈んだ。
他の雑魔は攻撃範囲内にいなかったので、フィアは数を減らしに他の雑魔の所へ向かう。
そんなフィアとすれ違った凪枯は、自身にレジストを掛け、雑魔のテリトリーに踏み入ったところだった。
雑魔は凪枯に毒針で突きかかり、凪枯はそれを躱し損ねてしまう。
しかし彼女のステータスが支援も含めてそれなりに高いため、毒もダメージもなかったことにしてしまう。そのまま凪枯は、引きつけを開始。
玲瓏がもう1匹を釣り出し、芝生の方へ誘導し始めているのが目の端に映る。
その玲瓏は再びレクイエムを発動し、凪枯の連れている雑魔にも行動阻害を掛けた。
コウとアテナは頷き合い、アテナが凪枯の方へと走り寄り、コウはそのフォローができる位置に立ちつつ、玲瓏の方へも向かえるように待機。
「っしゃ行くぜー!」
先程のフィアの勇姿に触発されたアテナが、その心とは裏腹にヒッティングを活用して攻撃をあてる。
雑魔はそれを回避できず、威力が落ちているにもかかわらず絶命した。
それを見届けて即座に玲瓏の方へと駆け出すコウ。
その標的に向けて、稲妻が飛んだ。
珀音の風雷陣による同時攻撃だ。
標的にした2匹共に回避されるものの、回避さえクリアすれば敵が落ちることは分かっている。
焦らずに打てる手を打ち続ける。
事実、その前には源弥が、1回の攻撃で1匹完全に仕留めた。
残るは玲瓏がおびき出しコウが駆け寄っていく1匹と、ノーマークのもう1匹。
源弥がノーマークの雑魔に撃ち掛けるが、華麗に弾丸を回避される。
珀音の火炎符でも同じ事だった。
フィアがイフリータで射撃。
これも避ける。
アテナが近くまでやってきた。
コウが玲瓏の誘き出した雑魔に落燕を打ち込む。見事命中。
残るは1匹。
そのまま移動をかけ、雑魔の真横につくコウ。
玲瓏がレクイエムを発動し、雑魔を弱体化させた。
凪枯は遠すぎたため、攻撃できる範囲まで近づけない。
ドクはコウにプロテクションを掛けようとするも、コウが激しく動き回るため、支援が掛けられる位置まで近づけないでいる。
雑魔が一番近いコウに襲いかかる。
ドクが息を呑んだ。
コウの足に毒針が突き立つ。
「ぐっ?!」
かろうじて防具がある所。ダメージを受けずに切り抜ける。
さらに毒の抵抗にも成功した!
奇跡的にノーダメージで切り抜けたこの局面。
しかし雑魔を倒さなければ終わらない。
最後の1匹にフィアが突っ込む。
雑魔は避ける。
源弥が撃ち掛ける。
これも避ける。
アテナがヒッティングを利用して打ちかかる。
「うろちょろすんじゃねー、あたんねーじゃねーか!」
しかしその攻撃も、あえなく回避された。
全員が焦りを抱く中、コウが落燕を打ち込んだ。
揃えられた指先が、雑魔に迫る。
息を呑むハンター達。
あと10センチ。
あと5センチ。
残り1センチ……。
捉えた!
粘りに粘った雑魔は、呆気ないほど簡単に、その身を塵と変えていった。
「「「やったっ!」」」
全員が思わずガッツポーズ。
アテナやフィアとハイタッチを繰り返しているコウに、ドクが飛び込んできた。
「すまねぇっ!」
目を白黒させるコウ。
「プロテクションを掛けようと思ってたんだが、追いつけなかった……。刺されたときにはヒヤッとしたぜ!」
「あぁ、悪かった。作戦で頭がいっぱいになってて……」
ドクの背中を叩きながらそう言ったコウは、ふと視線を入り口近くで腕を組んでいる付き添い人――エイソスに向ける。
それに気付いたエイソスは、ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
全員がそちらを見る。
向かい合う。
コウが口を開いた。
「まぁ、ざっとこんなもんさ」
その口許には、不敵な笑み。
エイソスが頷いた。
「藤棚に被害ゼロとは恐れ入ったぜ。しかも全員ノーダメージ。手を出そうって気すら起こらねえ」
あごを撫でつつ言う。
「よくやったよ、お前さんたち」
全員の顔に笑顔が浮かんだ。
●感謝の宴
「ささ、花見や花見や」
依頼主のご婦人を手伝うドクが、芝生の上に組み立てられた簡単な机の上に料理やお菓子を配る。
もちろん酒やジュースと言った飲み物も既に準備され、芝生の上にあった。
近所の人々も雑魔討伐の知らせを受けて続々と顔を覗かせる。
ドク以外のハンターたちはというと、ドクに押し切られ、手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。
「……とりあえず、これを広げようか」
そう言った凪枯は、風呂敷包みを広げる。
その中にあったのは4段重ねのお重。
1段目には甘いだし巻き卵、2段目には春筍の土佐煮風、3段目にはアスパラの肉巻き、4段目にはおにぎりが、それぞれ詰められている。
「「「うわぁ……!」」」
覗き込んだ他の面々から、歓声が上がった。
「あたしはこれを持ってきたぜ!」
対抗するようにアテナが見せたのはエビフライ。
カリカリの衣が、見るものの食欲を誘う。
「私は白玉と苺のポンチを持ってきました。冷たい方がさっぱりするかな、と。最後のデザートとして食べましょう」
玲瓏が通りかかったご婦人に炭酸を預け、冷やしてもらうよう頼む。
周囲の近隣住民達が既に宴会を始めていたので、そのままなし崩しで宴会が始まった。
雑魔の死体はすぐに消えるものだが万が一があっては困る、などと庭を回ってきた源弥が、その場の流れを見て手に提げていた袋を揺らす。
「缶ビールを持ち込んだ。飲むのなら1人1本までな」
そう言って辺りを見回すものの……。
薄茶に上生の練り切りが食べたい、とのたまう凪枯。
持参したワインを周りに配ろうとしている珀音。
上の空な様子で辺りを見回しているフィア。
ティーンエイジャーにしか見えないコウに、エビフライをひたすら勧めるアテナ。
この場を見る限り、飲みそうな人間がいない。
残念そうに自分の分を取り出す源弥だが……。
「私もいただきましょうか」
どう見たって十代後半の玲瓏が、にっこり笑みを浮かべて手を差し出してきた。
「……大丈夫なのか?」
その質問の意図を正しくくみ取り、玲瓏は苦笑を浮かべる。
「こう見えて私、29なのですよ」
2人でビールを開け、玲瓏の持ってきたあられをつまみに飲み始める。
そんな2人に凪枯が声を掛ける。
「何か食べるかい」
「それでは私は、好物の筍からいただきましょうか」
「……自分はアスパラの肉巻を」
筍とアスパラを取り分けた皿を差し出した。
それを見ていたアテナがアスパラを自分の皿に取り、食いついて目を輝かせる。
「これうめーな! お礼にエビフライをむさぼれー!」
凪枯の口にエビフライを突っ込み、凪枯が目を白黒させた。
その横でそれを止めようとオロオロするコウだが、その口はだし巻き卵が詰まっており、意味のある言葉になっていない。
その騒動から珀音が玲瓏に気づき、ワインを勧めていた。
楽しい混沌がその場を包む。
それを遠くから眺めているのは、準備に奔走していたドク。
庭の隅に腰を下ろし、静かに杯をあおる。
若干様子のおかしいフィアをそれとなく見ながらも、気持ちのいい風に気分を任せて酒を飲んだ。
ハンター達の集まるその場所に、依頼人のご婦人が挨拶に来た。
「本当にありがとうございました。おかげさまで藤も無傷で……」
彼女は目に涙を溜めて、お礼の言葉を述べる。
「この藤はこの町内でも有名なのですよ。なにやら受け継がれてきたいわくみたいなものもあるようですがね。私からしたら、毎年ご近所さんが楽しみにしてるこの藤が見られなくなる方が悲しくてねぇ」
その言葉に、フィアが反応した。
「疑問。この木に価値があるわけじゃない?」
ご婦人は、目を丸くして言葉を続ける。
「もちろんこれだけ大きい藤なんてそんなにないし、ご先祖様から伝わってきた由来なんてものもあるから、この木そのものにも価値はある」
だけど、とご婦人。
「私にとってはこの木の価値よりも、あなた方ハンターさんを含めたこの場に集まってくれたみんながこの木を愛してくれることの方が、価値あるように感じられたのよ」
その言葉を受けて、フィアは改めて辺りを見回す。
さっきまで戦場だった場所で、楽しそうに飲み食いする大勢の人たち。
この木が守れたからこそ、この場のこの感情があるわけで。
フィアは鼻がむずむずするのを感じた。
胸がくしゃくしゃするような、胸を張りたいような。
彼女は湧き上がってくるその感情に、誇りという名を付けられないでいた。
そして宴もたけなわ。飲みに飲んだ玲瓏は、ぼうっと庭を眺め渡しながらふいと口ずさむ。
「そよぐ風 藤の波間に垣間見や 変わらぬ香も今や遠きと」
「随分風流なことだね」
凪枯が言葉を返した。
「昔を思い出すなんて、もうおばさんですね」
恥ずかしそうに、玲瓏は笑った。
ハンターたちは庭の入り口で作戦の最終確認を行う。
最初に玲瓏(ka7114)が藤棚周辺を見て回った結果を報告。
「ここから見ても分かる通り、左手の藤棚が奥まで続いており、広い場所は右手に広がっている6メートル程度の幅を持つ芝生地帯のみです。この庭は横幅よりも奥行きの方が深いですので、この入り口に引き寄せて来るよりも、奥にどんどん進んでいく方が良いでしょう」
それを受けて、既に先輩らしいリーダーシップを(意図するかしないかは別にして)発揮している時雨 凪枯(ka3786)が、全体に持ちかける。
「それじゃ、この芝生部分に蜂どもを引っ張ってくるんでいいかい?」
全員が首肯する。
「念のため、頭から一つずつ確認していこうか」
順を追って1人ずつに語りかける。
「まずあたしと玲瓏ちゃんが、ドクちゃんのプロテクションなんかを受けて雑魔を芝生の方へ誘導。フィアちゃんがこれを迎え撃つ。そうだね?」
「そうですね」
「肯定」
「せやな! ……とはいえ、オレの取り柄ちゅうたら支援とヒールしかないんやけどね♪」
フィア(ka6940)とスマイリー・ドク(ka7082)そして玲瓏が頷いた。
「そしてあたし達引きつけ役は、フィアちゃんの邪魔にならないよう横に退いて、コウちゃんとアテナちゃんが蜂の退路を断つ」
「そうだな!」
「おう!」
玄武坂 コウ(ka5750)と姫之宮 アテナ(ka7145)の両名が、瞳を覗き込んでくる凪枯に力強く頷いた。
「そして今まで名前の出てきていない源弥ちゃんと珀音ちゃんは、引きつけ役のついていない蜂の生命力を遠距離攻撃で削っていく、と」
「そうだな。1匹でも減らせれば、その分楽だろ」
「できることをしていきたいと思います」
残波源弥(ka2825)と和住 珀音 (ka6874)も異議なしと首肯する。
と、そこでコウが手を上げた。
「討伐に時間がかかるようなら、俺と姫之宮で引きつけなしに敵を叩きに行こうと思う。あくまで引き剥がしは藤を守るためだからな」
「そうだな。藤を傷つけずに早急に雑魔を討伐するのが今回の依頼だ」
全員大きく頷く。
ハンターたちは、それぞれの持ち場に散っていった。
●作戦開始
入り口から入ってすぐ、珀音と源弥は攻撃態勢を整える。
珀音は桜花屍を、源弥はヴォロンテAC47をそれぞれ構え、射線から藤を外して、近くの雑魔から攻撃を加えていく。
「虫に無粋とか言っても詮ないことだ。花があるから来ているのだろうけど。ま、これも仕事だ」
引き金を引く。
パパパ
3点バーストでアサルトライフルが火を噴くが、雑魔はそれを軽々と回避。
「狙いは悪くなかったな。回避が厄介か……」
「次、私が参ります」
ぼやく源弥に次いで、珀音が攻撃を試みる。
「風雷陣!」
符を投げ上げるとそれが稲妻へと変じ、雑魔に襲いかかる。
雑魔はそれを回避しようと試みるもタイミングを逃し、稲妻が直撃した。
たかが一撃で、すんなりと焼け落ちる。
「あっさりと逝きましたね……」
「やはり回避さえなんとかすれば、一撃で下せるようだ。自分達は数を減らしていこう」
「そうですね」
次の雑魔に狙いをつけるため、2人は足を踏み出した。
源弥達の攻撃開始と同時に、他の面々も準備を進める。
最初は凪枯。
髪が白く変色し、頭には狐耳が、背後には2本の狐の尾が、それぞれ現れる。狐火が周囲を漂い、目尻の紅をほのかに照らす。
覚醒した凪枯が玲瓏にレジストを施した。
「俺のも受け取ってや!」
ドクが追加でプロテクションを施す。
光が二重に玲瓏を覆い、玲瓏の能力を底上げする。
「ありがとうございます。行ってきます」
軽く頭を下げると、玲瓏は移動を開始した。
「俺達も行くか」
「そうだな、あたしらも持ち場に向かおうぜ」
コウとアテナが、フィアに言った。
「了承。玲瓏の引きつけ先にて待機する」
3人は玲瓏の後を追って走り始める。
それを凪枯とドクの2人が見送った。
「戦闘中にナンなんやけど、あの3人の掛け合いは見ててほっこりするっちゅーか相性がええっちゅーか……」
「元気な子と寡黙な子って意外と気が合うからねぇ」
「戦いが終わったらおもっきり宴会たのしませたらなな!」
「面倒なことは好きじゃないんだが……。とりあえずこの戦いをさっさと済ませてしまおう」
「はは、ほなプロテクション掛けるで」
「あぁ、ありがとう」
ドクのプロテクションを受けた凪枯も、玲瓏の向こうに回り込むべく移動する。
「さーて、次はコウちゃんにプロテクションかけたらななぁ」
ドクはコウの後を追って走り出した。
その頃玲瓏は、雑魔の反応が起こらないギリギリのラインで足を止めたところだった。
その近くで足を止めたコウとフィア、アテナの3人は、それぞれ引き寄せに反応する準備を整える。
「うっし、気張っていくかー!」
アテナは腕をぐりぐり回して準備運動。
コウは全身にマテリアルを纏い、金剛を発動。防御が厚くなり、簡単には攻撃を受けつけないようになる。
そこから少し離れた所にいるフィアは、ボソリと呟きながら瞬脚を始動した。
「始動」
脚部にマテリアルが集中する。
雑魔を倒すべく、じっとチャンスを待つ。
そんな中、玲瓏は歌を謡い始めた。
「♪~。♪~~♪♪、♪~」
レクイエムが負の存在たる雑魔の行動を阻害する。
混元傘を構え、雑魔のテリトリーに一歩、踏み入った。
迎え撃つフィア達3人に緊張感が漂う。
雑魔は警戒網に引っ掛かった玲瓏に襲いかかろうとするも、レクイエムの効果で動きが鈍い。なんとか彼女の方に向かってくるのを、玲瓏は颯爽と受け流した。
雑魔はその勢いで藤棚から飛び出る。
「加速」
すかさずフィアがランアウトとアサルトディスタンスを発動。雑魔に攻撃を仕掛ける。
雑魔は回避に失敗し、攻撃に備えるものの、元々低い生命力がアダとなり一撃で沈んだ。
他の雑魔は攻撃範囲内にいなかったので、フィアは数を減らしに他の雑魔の所へ向かう。
そんなフィアとすれ違った凪枯は、自身にレジストを掛け、雑魔のテリトリーに踏み入ったところだった。
雑魔は凪枯に毒針で突きかかり、凪枯はそれを躱し損ねてしまう。
しかし彼女のステータスが支援も含めてそれなりに高いため、毒もダメージもなかったことにしてしまう。そのまま凪枯は、引きつけを開始。
玲瓏がもう1匹を釣り出し、芝生の方へ誘導し始めているのが目の端に映る。
その玲瓏は再びレクイエムを発動し、凪枯の連れている雑魔にも行動阻害を掛けた。
コウとアテナは頷き合い、アテナが凪枯の方へと走り寄り、コウはそのフォローができる位置に立ちつつ、玲瓏の方へも向かえるように待機。
「っしゃ行くぜー!」
先程のフィアの勇姿に触発されたアテナが、その心とは裏腹にヒッティングを活用して攻撃をあてる。
雑魔はそれを回避できず、威力が落ちているにもかかわらず絶命した。
それを見届けて即座に玲瓏の方へと駆け出すコウ。
その標的に向けて、稲妻が飛んだ。
珀音の風雷陣による同時攻撃だ。
標的にした2匹共に回避されるものの、回避さえクリアすれば敵が落ちることは分かっている。
焦らずに打てる手を打ち続ける。
事実、その前には源弥が、1回の攻撃で1匹完全に仕留めた。
残るは玲瓏がおびき出しコウが駆け寄っていく1匹と、ノーマークのもう1匹。
源弥がノーマークの雑魔に撃ち掛けるが、華麗に弾丸を回避される。
珀音の火炎符でも同じ事だった。
フィアがイフリータで射撃。
これも避ける。
アテナが近くまでやってきた。
コウが玲瓏の誘き出した雑魔に落燕を打ち込む。見事命中。
残るは1匹。
そのまま移動をかけ、雑魔の真横につくコウ。
玲瓏がレクイエムを発動し、雑魔を弱体化させた。
凪枯は遠すぎたため、攻撃できる範囲まで近づけない。
ドクはコウにプロテクションを掛けようとするも、コウが激しく動き回るため、支援が掛けられる位置まで近づけないでいる。
雑魔が一番近いコウに襲いかかる。
ドクが息を呑んだ。
コウの足に毒針が突き立つ。
「ぐっ?!」
かろうじて防具がある所。ダメージを受けずに切り抜ける。
さらに毒の抵抗にも成功した!
奇跡的にノーダメージで切り抜けたこの局面。
しかし雑魔を倒さなければ終わらない。
最後の1匹にフィアが突っ込む。
雑魔は避ける。
源弥が撃ち掛ける。
これも避ける。
アテナがヒッティングを利用して打ちかかる。
「うろちょろすんじゃねー、あたんねーじゃねーか!」
しかしその攻撃も、あえなく回避された。
全員が焦りを抱く中、コウが落燕を打ち込んだ。
揃えられた指先が、雑魔に迫る。
息を呑むハンター達。
あと10センチ。
あと5センチ。
残り1センチ……。
捉えた!
粘りに粘った雑魔は、呆気ないほど簡単に、その身を塵と変えていった。
「「「やったっ!」」」
全員が思わずガッツポーズ。
アテナやフィアとハイタッチを繰り返しているコウに、ドクが飛び込んできた。
「すまねぇっ!」
目を白黒させるコウ。
「プロテクションを掛けようと思ってたんだが、追いつけなかった……。刺されたときにはヒヤッとしたぜ!」
「あぁ、悪かった。作戦で頭がいっぱいになってて……」
ドクの背中を叩きながらそう言ったコウは、ふと視線を入り口近くで腕を組んでいる付き添い人――エイソスに向ける。
それに気付いたエイソスは、ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
全員がそちらを見る。
向かい合う。
コウが口を開いた。
「まぁ、ざっとこんなもんさ」
その口許には、不敵な笑み。
エイソスが頷いた。
「藤棚に被害ゼロとは恐れ入ったぜ。しかも全員ノーダメージ。手を出そうって気すら起こらねえ」
あごを撫でつつ言う。
「よくやったよ、お前さんたち」
全員の顔に笑顔が浮かんだ。
●感謝の宴
「ささ、花見や花見や」
依頼主のご婦人を手伝うドクが、芝生の上に組み立てられた簡単な机の上に料理やお菓子を配る。
もちろん酒やジュースと言った飲み物も既に準備され、芝生の上にあった。
近所の人々も雑魔討伐の知らせを受けて続々と顔を覗かせる。
ドク以外のハンターたちはというと、ドクに押し切られ、手持ち無沙汰に立ち尽くしていた。
「……とりあえず、これを広げようか」
そう言った凪枯は、風呂敷包みを広げる。
その中にあったのは4段重ねのお重。
1段目には甘いだし巻き卵、2段目には春筍の土佐煮風、3段目にはアスパラの肉巻き、4段目にはおにぎりが、それぞれ詰められている。
「「「うわぁ……!」」」
覗き込んだ他の面々から、歓声が上がった。
「あたしはこれを持ってきたぜ!」
対抗するようにアテナが見せたのはエビフライ。
カリカリの衣が、見るものの食欲を誘う。
「私は白玉と苺のポンチを持ってきました。冷たい方がさっぱりするかな、と。最後のデザートとして食べましょう」
玲瓏が通りかかったご婦人に炭酸を預け、冷やしてもらうよう頼む。
周囲の近隣住民達が既に宴会を始めていたので、そのままなし崩しで宴会が始まった。
雑魔の死体はすぐに消えるものだが万が一があっては困る、などと庭を回ってきた源弥が、その場の流れを見て手に提げていた袋を揺らす。
「缶ビールを持ち込んだ。飲むのなら1人1本までな」
そう言って辺りを見回すものの……。
薄茶に上生の練り切りが食べたい、とのたまう凪枯。
持参したワインを周りに配ろうとしている珀音。
上の空な様子で辺りを見回しているフィア。
ティーンエイジャーにしか見えないコウに、エビフライをひたすら勧めるアテナ。
この場を見る限り、飲みそうな人間がいない。
残念そうに自分の分を取り出す源弥だが……。
「私もいただきましょうか」
どう見たって十代後半の玲瓏が、にっこり笑みを浮かべて手を差し出してきた。
「……大丈夫なのか?」
その質問の意図を正しくくみ取り、玲瓏は苦笑を浮かべる。
「こう見えて私、29なのですよ」
2人でビールを開け、玲瓏の持ってきたあられをつまみに飲み始める。
そんな2人に凪枯が声を掛ける。
「何か食べるかい」
「それでは私は、好物の筍からいただきましょうか」
「……自分はアスパラの肉巻を」
筍とアスパラを取り分けた皿を差し出した。
それを見ていたアテナがアスパラを自分の皿に取り、食いついて目を輝かせる。
「これうめーな! お礼にエビフライをむさぼれー!」
凪枯の口にエビフライを突っ込み、凪枯が目を白黒させた。
その横でそれを止めようとオロオロするコウだが、その口はだし巻き卵が詰まっており、意味のある言葉になっていない。
その騒動から珀音が玲瓏に気づき、ワインを勧めていた。
楽しい混沌がその場を包む。
それを遠くから眺めているのは、準備に奔走していたドク。
庭の隅に腰を下ろし、静かに杯をあおる。
若干様子のおかしいフィアをそれとなく見ながらも、気持ちのいい風に気分を任せて酒を飲んだ。
ハンター達の集まるその場所に、依頼人のご婦人が挨拶に来た。
「本当にありがとうございました。おかげさまで藤も無傷で……」
彼女は目に涙を溜めて、お礼の言葉を述べる。
「この藤はこの町内でも有名なのですよ。なにやら受け継がれてきたいわくみたいなものもあるようですがね。私からしたら、毎年ご近所さんが楽しみにしてるこの藤が見られなくなる方が悲しくてねぇ」
その言葉に、フィアが反応した。
「疑問。この木に価値があるわけじゃない?」
ご婦人は、目を丸くして言葉を続ける。
「もちろんこれだけ大きい藤なんてそんなにないし、ご先祖様から伝わってきた由来なんてものもあるから、この木そのものにも価値はある」
だけど、とご婦人。
「私にとってはこの木の価値よりも、あなた方ハンターさんを含めたこの場に集まってくれたみんながこの木を愛してくれることの方が、価値あるように感じられたのよ」
その言葉を受けて、フィアは改めて辺りを見回す。
さっきまで戦場だった場所で、楽しそうに飲み食いする大勢の人たち。
この木が守れたからこそ、この場のこの感情があるわけで。
フィアは鼻がむずむずするのを感じた。
胸がくしゃくしゃするような、胸を張りたいような。
彼女は湧き上がってくるその感情に、誇りという名を付けられないでいた。
そして宴もたけなわ。飲みに飲んだ玲瓏は、ぼうっと庭を眺め渡しながらふいと口ずさむ。
「そよぐ風 藤の波間に垣間見や 変わらぬ香も今や遠きと」
「随分風流なことだね」
凪枯が言葉を返した。
「昔を思い出すなんて、もうおばさんですね」
恥ずかしそうに、玲瓏は笑った。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 8人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/27 19:35:18 |
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打ち合わせの場 時雨 凪枯(ka3786) 人間(リアルブルー)|24才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/04/28 06:56:50 |