• 幻兆

【幻兆】Hello ex-boss

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/05/03 07:30
完成日
2018/05/16 19:07

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 薄暗い部屋の奥。
 深い緑青色の柄を持つ一本の槍が、静かに煌めいていた。
 柄には幾つもの傷が見られるが、刃は新品同様に鋭く研がれている。よく手入れされた様子が持ち主の生真面目さを窺わせ、ダルマ(kz0251)は思わず苦笑した。

「変わらねぇなァ」

 この鋭利な穂先が竜の喉許抉るのを、何度目にしたことか。
 輝きも鋭さも、手入れが行き届いた様も、あの頃と何も変わらない。

 ――ただ、負のマテリアルの残滓を纏っていることを除いては。


 この槍の主は、元龍騎士のドラグーン、アルフォンソという。
 堅物で信仰心厚い男だったとダルマは記憶している。
 だがいつしかその信仰心は、
『青龍様以外の龍など不要』
『龍園以外の国も制圧し、青龍様の統治下に置くべき』
 などという危険なものへ変わっていった。
 アルフォンソが歪んだ思想に傾倒していくと、彼に近しい龍騎士達も感化されていき、やがて隊を二分する事態となった。事を重く見た先代龍騎士隊隊長――シャンカラ(kz0226)の前の隊長にあたる――を筆頭とする、従来の信仰を貫く龍騎士と、アルフォンソ率いる過激派の間で武力衝突が起こったのだ。
 結果、彼らを龍園から追放することに成功したものの、残った龍騎士隊も少なくない犠牲を払ってしまった。また、アルフォンソ自身も、彼を取り巻く者達も手練が多く、隊の戦力は大幅に低下した。


 ダルマが当時に思い馳せていると、軽く扉が叩かれ、シャンカラが顔を覗かせた。
「ダルマさん、ここにいたんだ。巫女様のお支度が整ったようだから、僕達も……」
 言いかけて、シャンカラはダルマが"彼"の槍を見ていた事に気づく。
「……来るかな、"彼"」
「ああ、間違いなくな」
 ダルマはきっぱりと断言した。
 これから、白龍・ヘレを目覚めさせるべく、ある儀式が行われようとしている。
 リグ・サンガマにある聖地のひとつ、通称『龍のへそ』。高濃度のマテリアルが噴き出すそこにヘレを連れていき、成長と目覚めを促そうというのだ。辺境の巫女であるリムネラ(kz0018)が聖地に結界を張り、祈りを捧げる手筈になっている。
 護衛のため、ハンターや辺境の戦士達が集っているが、龍騎士隊も是非加えて欲しいと志願していた。

 白龍と青龍、崇める龍は違えど、龍を奉ずる仲間として――というのは無論の事。
 襲撃してくるだろう者達は元龍騎士、いわば身内である。
 彼らは先日、巡礼路を辿っていた白龍の巫女達を襲撃している。幸い、護衛していたハンターの活躍で巫女達は無事だったが。
 率先して護衛に参加することで、龍騎士隊が白龍の巫女達に友好的である事を示しておかねばならなかったし、何より、身内がこれ以上外部の人々へ危害を加えることは避けなければならない。

 シャンカラは顔を伏せ、両手を握りしめる。
「本当ならこうなる前に……龍園の外の方々に危害が及ぶ前に、龍騎士隊が彼らを抑えなければいけなかったのに。隊長の僕が至らないせいで……皆さんに申し訳なくて」
 先達ての異界調査の際、シャンカラは感情に任せ行動したばかりか、止めに入ったハンターを誤って傷つけるという愚行を犯したばかり。そこへ、この追放龍騎士達の騒動だ。
 項垂れたシャンカラの肩を、ダルマの大きな手が叩いた。
「連中が追ン出されたのは、お前がまだ入隊するかしねェかって頃だったろ。これは俺らの世代が残しちまった負の遺産だ、そう気に病むな」
「…………」
「だが身内は身内。連中が他所様に迷惑かけンのは食い止めねェとな。打ち合わせ通り、お前にも前線に立ってもらう事になる。しっかり頼むぜ、"隊長殿"」
「……はい。行きましょう、ダルマさん」
 隊長の顔つきと口調になったシャンカラと連れ立って、ダルマは部屋を後にする。去り際、もう一度アルフォンソの槍を一瞥。それにこびりつく負のマテリアルを確認すると、大きな音を立て扉を閉じた。



 聖地北。リムネラが張った結界の北側へ、龍騎士達は布陣していた。
 ここで彼らが死守しなければならないのは、結界構築に必要な『要石』と呼ばれる拳大の石。この要石は結界の四方に置かれており、破壊されれば結界が破れ、アルフォンソ達はヘレを殺害せんと聖域へなだれ込むだろう。
 それだけは何としても防がなければ。
 布陣する龍騎士は手練ばかりだが、8名と少ない。何故なら、半端な力量の者がアルフォンソ達の前に立ったところで、たちまち撃破されてしまうからだ。追放されたとは言え、戦場に立ってきた経験はダルマ同等かそれ以上。死ぬと分かっていてむざむざ出すわけにはいかなかった。

 要石のそばで待つことしばし。
 風に乗り、怒号と剣戟の音とが聞こえてきた。別の要石が襲われたのだ。
「来ましたね」
 迫る気配を察知し、シャンカラがいち早く大剣を抜く。地吹雪の向こうから現れたのは、アルフォンソ率いる10名の追放龍騎士だった。ダルマは軽く口笛を吹く。
「おーおー、見た顔ばっかじゃねェか」
 アルフォンソは、軽口を叩くダルマと、当代の隊長であるシャンカラを交互に見た。
「……ダルマか。また隊長になれなかったばかりか、そんな若造の下についているとは情けない」
「どうせ尻に敷かれンなら、オッサンの尻より若ェモンの尻のがマシだろ?」
 あんまりな言い方にシャンカラが横目で睨んだが、ダルマは気にする風もない。アルフォンソが「茶番だ」と吐き捨てると、それを機に連中が襲いかかってきた。龍騎士達はその場から動かず迎撃する。交わす言葉はもはやない。現役龍騎士達は正規の龍騎士としての誇りをかけ、追放龍騎士達は歪だが一途な信仰心にかけて、激しく斬り結ぶ。
 数の不利をおして、徐々に龍騎士達が優位に立った。後退を余儀なくされる追放龍騎士達を追い、とどめを刺すべく打って出る。

 だが。
「――かかったな」
 アルフォンソが不敵に笑う。彼が高々と片手を挙げると、突如として別の部隊が出現。龍騎士達が前に打って出たことで、要石との間に空白ができてしまっていた。そこを狙われたのだ。別働隊出現と同時に、アルフォンソ達は苛烈な攻めで龍騎士達を押し返し始める。
「俺達が姿を見せれば、貴様らが食いついてくるのは分かっていたからな」
 嗤うアルフォンソへ戦斧を叩きつけ、ダルマもにやりと歯を剥きだした。
「そりゃァこっちも同じだぜ、"先輩"。俺らが出りゃ必ずアンタが抑えに来る、追放された連中の主力を連れてな」
「何?」
 その時、一際甲高い指笛が響いた。シャンカラだ。間を置かず、大きな影が一行の頭上を横切った。
「あれは……」
 人員運送に長けた大型の飛龍だ。後部に付けられたカーゴから、次々に飛び降り現れたのは――
「ハンターか」

 そう。手練の龍騎士さえ歯牙にもかけぬアルフォンソが、今最も危険視している存在――ハンター達だった。

リプレイ本文


 戦場を9条の光矢が奔る。8条は迫りくる別働隊へ、残りは龍騎士隊と交戦中の敵聖導士へ。
 思いがけぬ登場でハンター達が機先を制した。口火を切ったのは、現代の龍盟の戦士と自負する藤堂研司(ka0569)。初手からリトリビューションで9条もの矢を放つという離れ業を披露した研司は、残心もそこそこに通信機を引っ掴む。
「龍騎士隊、敵に聞かれないよう小声で話すから聞こえた人が展開してくれ」
 誰かが応答しようとしたようだが、スピーカーからは激しくかち合う金属音ばかりが響いた。
「今のは脅しだ、俺はこれ以上撃てんが敵主力はそれを知らない以上こちらを見ざるをえない、集中を欠くはずだ。こっちは何とかする、そちらも健闘と生還を祈る!」
『……、』
 ご武運を。相手の祈りは剣戟の音に掻き消された。
「向こうは何て?」
 古代兵装バリスタを構えたコロラ・トゥーラ(ka5954)が尋ねる。研司は首を横に振った。
「そう……あら」
 照準器を覗き込んだ彼女の紫灰眼が、怪訝気に細められる。別働隊に放った8条の内、敵へ刺さったのはわずか3条だったのだ。研司の腕は確かだ。それだけ敵が回避に秀でている証左か。
「当たったのは前列の槍の男と杖持ち女、後列の契約者か。待てよ、手応えの割に杖持ちの彼女だけいやにダメージが少なくないか?」
「被矢の瞬間、何かの術が発動したように見えたわ。結界術の類ではなさそうだけど」
「衝撃が緩和されたならアンチボディか? 彼女が聖導士……?」
「可能性はあるわね。狙ってみるわ」
 コロラはバリスタへ装填した8矢を、惜しみなく前列の杖持ち女へ注ぐ。他を巻き込む事はできなかったが、それでも成功すれば聖導士と思しき者を行動不能へ陥れられる。回復手を早期に抑える意義は大きい。
 研司のリトリビューション、更に制圧射撃の効果で回避力を大きく削がれた女は、コロラの矢を思う様喰らった。だが――
「……弾かれた!?」
 女は止まらない。
 リトリビューションの行動阻害効果は一度きり、回避を阻害した時点で解除される。次いで制圧射撃の効果により、与えるダメージと引き代えに行動不能を付与するが、これは相手の抵抗の機会まで奪うものではない。リトリビューションの阻害効果は解除されているので、相手は自前の高い抵抗力で抗う事ができた。
 行動不能を付与すべくダメージと引き代えているので、相手に負傷もない。"ダメージと引き代えに何らかのBSを与える術"は、"命中させる事ができても、相手に抵抗されればダメージもBSも与えることができない"という事。
 そういった術を、回避力・抵抗力ともに高いと予想されていた者達へ向けるという事は。
「おっとぉ?」
 研司の背に嫌な汗が伝う。猟撃士には"そういった術"が多い。そして今回参戦した猟撃士3名は、全員がそれらの術を備えて来ていた。
 そこでニーロートパラ(ka6990)が動く。
「こちらの狙いを読まれないよう、撹乱します」
 光を纏う弾丸は前列の契約者へ飛んだ。追放龍騎士の中に聖導士がいれば優先して狙う手筈だが、あえて契約者を撃つ事で油断を誘おうというのだ。
 被弾の瞬間、弾丸は友人の祈りを受け大きく威力を増した。行動阻害効果も相まって回避を許さず、契約者の胴へ風穴を穿つ。大量の血液と臓物が垂れ、瀕死なのは明らかだが、それでも契約者は構わず向かってくる。そのおぞましい姿に、ニーロは眉を顰めた。
「負の力を借りてまでこのようなことをする輩に、情けは無用でしょう」
 幽き蓮の香が、わずかに濃く香った。

「奴らの狙いはどこだ?」
 矢を受けた槍の男が顔を歪める。前衛を担うだけあり守りは堅いが、研司の強力な矢で1/3程の体力を削がれていた。同じく大ダメージを受けた杖持ちの女が淡々と告げる。
「回復手がいるなら早くに潰したいのは彼らも同じ。私が聖導士だと明らかにすれば、狙いは私に集中するでしょう」
 ファーストエイドでフルリカバリーを用い、これ見よがしに槍の男を全快させる。
「悪いな、骨は拾うぜ」
 同時に槍の男の術が発動し、聖導士の傷も残らず癒えた。
「コンバートライフ……前列の槍使い様は霊闘士のようですね」
 同じ霊闘士のファリン(ka6844)が呟く。これにより前列の追放龍騎士2名のクラスが明らかになった。と、
「今どこ向けて撃ったぁ!? アル様に怪我させたらケツから槍突っ込んでガタガタ言う前に死なすぞゴルァ!」
 中列にいた槍持ちの女が叫ぶや、猛然と前列へ躍り出てくる。
「ニャナ、目的を忘れんな」
「私から離れていなさい」
 聖導士の指示で敵は更に散開、前進する。移動に手番を費やす事になったが、聖導士と霊闘士はファースト・リアクションで術を使用したため、遅れをとる事はなかった。

 一方、本隊のアルフォンソは龍騎士隊の攻撃をいなしつつ、ハンター達を注視していた。
「あの距離からこちらを狙う者がいるか、うっとおしい。とっとと片付けるぞ」
 手堅い戦い方を捨て、龍騎士殲滅にシフトしたアルフォンソの四肢から、負のマテリアルが激しく燃え上がった。

 その間研司砲が火を吹き、再びトリトビューションを見舞っていた。再び聖導士と霊闘士に命中、回復された以上のダメージを与える。ニーロが撃った者以外の契約者達にも被弾し、それぞれ深手を負わせた。
「闇属性に弱いって事はなさそうだ」
 研司は属性に対する情報を仲間達へ共有する。コロラも再度聖導士へ制圧射撃。
「そう何度も幸運が続くと思わないで」
 今度は行動不能に貶めたが、ダメージと引き代えた為に、弱った聖導士はなお立ち続けていた。

 ここまでの流れを経てようやく、迎撃に出たハンター達と敵との射程が交わった。



 少し時を遡る。
 狙撃手達以外の者達は、要石と別働隊との間に降り立った。
 龍騎士隊へ、可能な限り状況連絡をと要請した夜桜 奏音(ka5754)だったが、通信機は『了解』の一言以降沈黙してしまった。向こうもそれだけ必死なのだろう。
「リムネラさんがヘレを起こすまで要石は壊させません。龍騎士隊の方が主力部隊を抑えてくれている間にさっさと倒しましょうか」
 その横でファリンは、負傷にも怯まぬ騎士達の姿に目を伏せる。
「最初はただ青龍様が好きで、大切だっただけなのでしょう。それがここまで堕ちてしまうのですね……とても悲しいです。――ですが、」
 毅然と顔を上げ、大刀を握る手に力を込める。
「手加減はいたしません。私は、私が守りたいと思うものを全力でお守りします」
「過激なファンは迷惑なだけよ」
 辛口に切り捨てたのはトリエステ・ウェスタ(ka6908)。同じ元龍騎士でも、謎めく置き手紙を残し自ら隊を辞した彼女と、武力衝突の末に龍園を追われた彼らとでは全く立場が異なる。
「青龍様の評判が悪くなっても嫌だし、さっさとお帰り願いましょうか」
 けれど3人は、鐙を蹴る事はできなかった。騎乗した3人に対し――撃破か防衛か、どちらに重きを置いたかに因るものか――今回前線維持の要になると目された、強固な鎧に身を包むクラン・クィールス(ka6605)、そして高強度の移動不能付与術を持つ氷雨 柊(ka6302)は、騎乗せず自らの脚で立っていた。
 もとよりハンターが先手を取った事で、最も速く、最も長い射程の術を持つ奏音が前進していたとしても、初手で敵に術を届かす事はできない。なので1stラウンド中に敵に与うるダメージ量に変わりはないのだが、本来戦線を押し上げられた者達も足並みを揃えた事で、要石から大きく離れる事なく接敵するに至った。これが後に響く事となる。

 そして現在。
「まずはこの一撃をお見舞いしましょうか。闇属性が弱点ではないなら、これは如何です?」
 燐光を纏う奏音の手から、煌めく5枚の符が放たれる。狙いは聖導士。だが既に巻き込みを警戒し散開されていたため、符はコロラの狙撃で動きを止めた彼女のみを取り囲んだ。白熱の閃光が堕ちた聖導士を灼き染め、屠った。しかし光属性に弱いといった風でもない。
 柊は迫りくる侍姿の契約者を哀しげに見据える。ニーロの銃弾で右脚を吹き飛ばされてもなお、鞘を杖にして猛進してくる。痛みを感じていないかのような様は人外めいているが、纏った着物は彼が東方の人間である事を示していた。
「……こんなところでなければ文化についてとか、色々聞いてみたかった気もしますねぇ」
 柊は深く息を吸い、気を落ち着けてからマテリアルを練り上げる。
「……ここで躊躇すれば、味方に被害が出る。だから、人に刃を向けることに……躊躇しちゃいけない。でも、操られている可能性があるのなら……!」
 生み出した影の塊を、左脚めがけ放つ。めきょ、という嫌な音と共に、膝が後ろへ折れ曲がった。両足を奪われた侍は為す術なく這いつくばる。
「そのまま動かないでくださいねぇ」
 耳にこびり付く嫌な音を振り払い、柊は半ば祈るように告げた。
 そんな彼女を横目に見、クランは霊闘士の進路を塞ぐよう立つ。次いで、徐々に後退を余儀なくされている龍騎士隊を見やる。猶予はない。それから改めて霊闘士を睨み据えた。
「一途な信仰心、と言えば聞こえは良いがな……あまりに浅慮で短絡に過ぎるだろう。あまり時間をかけてもいられない。悪いが、さっさとご退場願おう」
「やってみろ!」
 クランはまだ刃の間合いにない男へ、莫邪宝剣を振り下ろす。放たれた衝撃波は男の手甲に亀裂を入れた。
「チッ、浅いか」
「援護するわ」
 クランの後ろへ隠れていたトリエステの歌が、一層艷やかに響く。このまま奴が突進してきてクランと斬り結べば、堅い防御を大幅に下げられる。だが、
「こんな時に何で歌なんざ……何かの術か?」
 警戒した霊闘士は足を止めた。これでは歌の範囲に入らない。トリエステが歯噛みした時、男の幻影の腕がクランを掴む! 己の間合いに引き寄せ、クランへ連撃を浴びせた。
「この程度か」
 しかしクランもまた堅い。受けきり不敵に笑う。
「こいつは任せて大丈夫そうね。それなら」
 トリエステはクランのガウスジェイルの領域から外れぬよう、後列の杖持ちの青年へ狙いを定める。まだ距離があるが、ブリザードの範囲の端に引っかける事で、青年の体力を半減させる事に成功した。
「どけどけーッ!」
 一方ニャナと呼ばれた槍持ちの女は、手番を終えた奏音の脇をすり抜け突破を試みていた。だが、
「させませんっ」
 ゴースロンで割り込んだファリンがノックバックを決め、退ける。
「兎耳が可愛いからって調子乗んなよ?!」
「少々意味が分かりかねますっ」
 繰り出された槍を大刀で受ける。弾ききれず、ファリンの腕に血が伝う。だが彼女の高い抵抗力が、しかと何かを跳ね除けた。
「これは、毒? 貴女はまさか、」
 ニャナの唇がニィッと釣り上がる。奏音は狙撃手達へ呼びかけた。
「槍の女は疾影士です! 突破を警戒してくださいっ」
「ねえ、ボクの事忘れてナイ?」
 不服そうな声がした。トリエステの吹雪を喰らった杖持ちの青年だ。青年は奏音からトリエステに目を移すと、彼女の手首の鱗に気づいた。
「さっきは痛かったヨ。キミも後輩? お名前は?」
「自分から名乗るべきよ、先輩」
「アハハ、ボク気の強いコ大好き。ボクはハリ」 
 ハリは腕を戒める霜をものともせず魔力を繰る。杖の先端に焔、そして氷の気が収束していく。
「ダブルキャスト!? 来るわ、皆備えて!」
 トリエステはカウンターマジックを用意していたが、ブリザードでもぎりぎりの距離にいるハリは射程外。ニーロの妨害射撃なら届くが、魔法攻撃なので止める事はできない。その間にも竜頭を模した杖の先にマテリアルが集まっていく。その膨大な量にトリエステの喉が鳴った。
「で、お名前は?」
「……トリエステよ」
「トリエステちゃん、生きてたらヨロシクネ」
 刹那、焔と氷が同時に放たれる。焔はクランを中心にトリエステと柊を飲み込み、吹雪が奏音とファリンを襲う。
「くっ……!」
「きゃあっ」
 いかなガウスジェイルでも、範囲攻撃に巻き込まれる対象を護る事は不可能。トリエステは意識を手放し、ニャナを牽制するのに注力していたファリンも深手を負ってしまう。奏音が回復を試みるが、覚醒状態を保てない程の深手で、治癒する事は叶わなかった。
 妨害がなくなり、ニャナが再び要石めがけ走り出す。
「待て!」
 被弾しつつも軽傷で済ませたクラン、追おうとしたが幻影の腕が解けない。その上、共に焔に巻き込まれた霊闘士が、今なお立ち続けている。
「お前堅ぇな!」
「言いたくないがお前もな……柊、無事か!?」
 大怪我をした柊だったが、辛うじて覚醒状態を保っていた。
「何とかぁ。今その人を引き剥がしますよぅ」
「――柊、後ろ!」
「え?」
 幻影の腕を伸ばし、クランから霊闘士を引き剥がそうとした柊は、自らの内側から湿った音がするのを聞いた。途端に意識が混濁し、倒れ込む。先程情けをかけた契約者が腕のみで這い寄り、柊の胸へ刀を突き立てたのだ。
「柊――ッ!」
 クランの身を切るような叫びが響いた。



 爆炎と氷嵐。事態は龍騎士隊にも察せられた。シャンカラは通信機で飛龍の御者を呼び出す。
「至急ハンターさん方を……!」
 注意の逸れた彼へ刃が振り下ろされたが、ダルマが割り込みカバーした。
「ハンターさん方を連れ離脱して下さい!」
「後衛は撤退の援護に回れェ!」
 指示を飛ばす二人の背後へ、アルフォンソが忍び寄る。
「脆弱な貴様らに、余所者を案じる暇があるのか?」
 強烈な刺突は、シャンカラの急所を貫きそのままダルマを穿った。崩折れたふたりを一瞥し、アルフォンソは踵を返す。しかしその足首へ絡むものがあった。友人の加護により、紙一重で重体を免れたシャンカラだ。
「行かせ、ません」
 しかし無慈悲な穂先がその背を刺す。ふたりの脱落により、龍騎士隊の戦線が崩壊した。

「何て事……!」
 猟撃士達は決断を強いられた。味方の重体者は3名、いずれも敵魔術師の射程内。即離脱させなければ危険な状態だが、要石を狙う疾影士ニャナはすぐ傍へ迫っている。
 コロラが動いた。リトリビューションでより近い者達へ射掛けていく。これにより契約者達が残らず沈んだ。流れるように研司が威嚇射撃を引き受け、ニャナへ見舞う。――しかし。
「どーもぉ、これでもっかい動けるわ」
 運は彼女に味方した。矢弾をすり抜けると、瞬影で手番を増やし要石へ肉薄。しかしニーロが食い下がる。至近距離からの妨害射撃で抗うが――

 パキン、と音をたて、要石が砕け散った。

「あっははは! アル様やりましたよぉ!」

 哄笑が響くと同時、カーゴを引く飛龍が飛来した。
「さ、お互い撤収撤収♪」
 追放龍騎士達は悠々と別の石へ向かう。
 石を砕かれた以上、仲間の命が最優先。ハンター達は苦い思いでその背を見送り、負傷者の保護へ走った。


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MVP一覧

重体一覧

  • 一握の未来へ
    氷雨 柊ka6302
  • 淡雪の舞姫
    ファリンka6844
  • 龍園降臨★ミニスカサンタ
    トリエステ・ウェスタka6908

参加者一覧

  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 弓師
    コロラ・トゥーラ(ka5954
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • 一握の未来へ
    氷雨 柊(ka6302
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 淡雪の舞姫
    ファリン(ka6844
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 龍園降臨★ミニスカサンタ
    トリエステ・ウェスタ(ka6908
    ドラグーン|21才|女性|魔術師
  • 碧蓮の狙撃手
    ニーロートパラ(ka6990
    ドラグーン|19才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
トリエステ・ウェスタ(ka6908
ドラグーン|21才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/05/02 22:11:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/04/28 11:30:00
アイコン 質問卓
夜桜 奏音(ka5754
エルフ|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2018/04/30 11:45:51