歌を教えて~まずは腹式呼吸とリズム感だ!

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2018/04/26 22:00
完成日
2018/05/10 15:55

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●時を止める少年~音痴すぎるがゆえに~

 辺境ハンターオフィスの職員・モリスは、沈痛な面持ちで過去の報告書と向き合っていた。
 蒼界で起こった強化人間暴走の件は、モリスの耳にも届いている。
 というより、オフィスにいれば自然と知り得てしまうのだが。
 心を痛めているのは、事件の悲惨さのせいばかりではなかった。

 モリスは【界冥】作戦の折、ぐうたらな少年聖導士・香藤 玲(kz0220)を、幾度か強引に蒼界へ派遣していた。
 派遣した先で、玲は強化人間達との共同作戦にあたり、それなりに親しくなった者もいる。
 そんな玲が、一連の事件を知ったらどう思うか――
 事件の報告書の中に、玲と親しくなった強化人間達の名前は見つかっていないが、それでも何かしら思うところはあるだろう。
 勤勉とは言い難い玲は、自らすすんで上がってきた報告書に目を通すタチではないので、今のところ事件のことを知らずにいる。
「……オフィスにいる以上、いつ知ってしまってもおかしくないけれど」
 ぐうたらで口は減らないし、妙にこまっしゃくれたところのある玲だが、まだ10代半ばの少年だ。いっそ知らないままいてくれたらと願いながら、モリスは玲が参加した【界冥】作戦の報告書をめくった。

 が。

 報告書の中に"ある一文"を見つけ、彼女の眉がみるみるつり上がっていく。
「っっ何じゃこりゃああぁぁーーーー!?」



 モリスは件の報告書を手に、玲のところへすっ飛んでいった。
「なんなのよアンタ、この報告書はーっ!?」
 オフィスの休憩所で昼休憩をとっていた玲は、何を言われているか分からずきょとん。
「なーにモリスさん、そんな前の報告書持ち出して」
「『なーに』じゃないわよ、何よコレ!?」
 モリスは玲の鼻先に報告書を突きつけ、問題の一文をびしっと指差した。
 そこには、玲が聖導士のスキル・レクイエムを使用した際、あまりの音痴さで敵はおろか味方の動きまで止めてしまったと書かれている。
 言葉に詰まり、視線を泳がせる玲。
「し、仕方ないじゃん? レクイエムを使う聖導士が全員歌上手いとは限らないしぃ」
「全然仕方なくないわよ、味方にBSかけてどうすんのよ。ってかどんだけ下手なのよ?」
「BSって酷くない!? そこまで酷くは、」
「ならちょっと歌ってみなさいよ」
「えー……」
 有無を言わさぬモリスの気迫に押され、玲はしぶしぶ適当な歌を一節。

 終わってみればモリスはおろか、周囲で歓談していたハンターや他の職員が軒並み硬直し、肩をぴくぴくと震わせていた。
 モリスは絶望しきった顔で玲を凝視する。
「……本気なの? ねぇアンタどっから声出してるの? 腹式呼吸って知ってる?」
「聞いたコトはあるけどさ。だって息吸うの肺だよ? 胸でしょ? お腹で呼吸ってムリじゃない?」
 モリス、愕然。
「……リズムって単語聞いたことある? 子供の頃、手遊び歌とかしなかった?」
「あれムリだよねー! 幸せなら手をたたいたっていつの間にかズレちゃうし、結んでひらいたって気づけばワケわかんなくて開きっぱなしになっちゃうんだよねぇ」
 玲はけろりと笑って手を振った。紅界出身のモリスに日本の手遊び歌の知識はないが、相当酷いらしい事だけは分かった。テーブルに突っ伏し、顔を覆う。
「あたしよりによってこんな凶悪なBS使いをサポーターとして送り込んでたワケ? マズイどころの話じゃないわ、事案よ事案ッ」
「ちょ、失礼過ぎない!?」
 喚く玲を無視し、一通り周囲に頭を下げて回ったモリスは、ある決意をした。
「このままアンタを依頼に送り込むのは非常にマズイわ。下手したらあたしまで責任を問われかねない」
「僕、別に依頼に行きたかないんだよ? そっとしといてくれてイインダヨ?」
 玲の反論など耳に入っていないモリスは、バァンッとテーブルを叩き立ち上がる。
「先生をお呼びしよう!」
「『先生』?」
「ハンターさんには、歌唱や楽器演奏が得意な方が少なくないわ。そういう方達に講師役をお願いして、アンタのそのひっどい歌をマシにしてもらうのよ!」
「ひっどいのはモリスさんの言い草だよ?」
「こうなったらあたしのポケットマネー叩いてでも! 事故は未然に防がなきゃ!」
「案件だの事故だの、僕をなんだと思ってるのさ!? やだよ僕、やらないからね!」


 玲は随分抵抗したものの、数時間後、オフィスに依頼が貼り出された。

『音痴を改善してくれるハンター、切に求む』


リプレイ本文


 抵抗虚しく、モリスさんに押し込まれたレッスン場。
 どんな鬼講師が待ってるのかと思いきや――

「こんにちは」
「やっほー♪」

 ――扉の向こうは、(見た目)キレイなおねーさんがいっぱいの天国だった。




 今日は僕の音痴を改善するため、6人が集まってくれた。皆美人さんばっかで不謹慎にもちょっとやる気が出た事はナイショにしておこうと思う。
 部屋に入るなり、スチパンチックなドレス姿の友達、シエル・ユークレース(ka6648)がとてとて駆けてくる。
「玲くんが特訓するって聞いて来ちゃった♪」
 シエルが動く度、ドレスの歯車みたいなパーツがカチコチ鳴って、柑橘系の香りがする。……シエル、いつも香水つけてたっけ? 顔色も良くないような。じっと見てると、シエルは視線を振り切るよう早口に言う。
「あんまり乗り気じゃない感じ? でも、頑張ってる玲くんは素敵だよ。ちょっとだけ一緒に頑張ろ? みんなも手伝ってくれるし、ボクも玲くんとしたいなっ」
 素敵だなんて言われて舞い上がっちゃったけど、何かごまかされたような。
 その後ろで会釈してくれたのはサフィーア(ka6909)おねーさん。
「香藤さんとは件の依頼以来かしら。レクイエムはああいうものなのかと考察していたけれど、どうやら異なるのね」
 そう。シエルもサフィーアさんも、例の依頼で僕の歌を聞いていた。
「あ、はは、あの時はゴメンネ」
 いやホントごめんと思ってる。
 ミルキーブルーのドレスが似合うツインテールのおねーさんは、
「私の名前は七夜・真夕(ka3977)。アイドルよ。よろしくね!」
 聞けば、真夕おねーさんも蒼界出身なんだって。親近感感じてると、
「得手不得手は誰にでもあるものだけれど、被害が出るなら少しは改善しないと、か」
 被害の単語にぐっさり胸を抉られる。ヨ、ヨロシクお願いシマス……
 その隣で、THE・紅界美人な銀髪の子が手を振った。
「初めまして! あたしはユリアよ。よろしくね、玲ちゃん♪」
 ユリア・クレプト(ka6255)さん。僕と同じ歳位に見えるけど、堂々としててやたらセクシー。
 と、
「玲さん、ごめんなさい!」
 突然横から謝られた。びっくりして振り向き更に驚く。だって見るからに重体なおねーさんが!
「だ、大丈夫!?」
「怪我する予定はなかったんですけど……でも、玲さんとレッスンするのが楽しみだったので、来ちゃいました」
 すまなさそうにぺこりとするエステル・クレティエ(ka3783)さんに、言葉が詰まる。こんな傷負ってるのに、楽しみにして来てくれたなんて……
「ビシビシ鍛える事は出来ないですけど、頑張るので是非お付き合いください。ちょっと痛みが酷くなったらヒール、お願いして良いですか?」
「いくらでもするから頭上げてえぇっ」
 この時点で僕の脱走計画は早々に頓挫した。だって放っておけないじゃない。
「あれ、あとひとりは?」
 首を捻った時、優しい香りが漂ってきた。見れば壁際で、何かに火を灯してるエルフのおねーさんが。近寄ってみると、おねーさんの手あったのはインセンススティックだった。立ち上る煙は甘すぎず程良い香り。思わずすんすん嗅いでると、同じように香りを味わっていたおねーさんと目が合った。
「お気に召しましたか?」
「良い匂い!」
「それは何より。……ユメリア(ka7010)です」
 そう言ってうっすら目を細めたユメリアさんは、名前の通り夢みたいにキレイで。

 自己紹介が終わると、サフィーアさんが懐中時計の蓋をパチンと閉めた。
「時間も限られているし、始めましょうか」
 レッスンについてけるかは不安だけど、深々とお辞儀した。


 で、今。
 僕らはころころと仰向けに転がっている。サボってるワケじゃなく、ユメリアさんによる腹式呼吸のレッスン中だ。今回は指導分担されていて、教え役につかない人は僕と一緒にレッスンを受ける事にしたんだって。なので皆でころんころん。何か楽しい。
 ユメリアさんはお香片手に僕の横へ座った。
「腹式呼吸は肺に大きく空気を入れることで、横隔膜を押し下げてお腹が膨らむのです。たくさん空気を吸い込むことで身体に空気が行きわたり、マテリアルを体内に取り込むことにもなります」
 穏やかなユメリアさんの声と甘い匂い。す、睡魔が……はっ、ダメダメ! 教わった通り鼻から吸って口から吐く、を繰り返す。でもやたらとリラックスできて、余計に眠くなってきたり。と、ユメリアさんが僕の顔にお香を近寄せてきた。意図が分からずぽかんと口を開けると、煙が口へ流れてくる。
「見えましたか? 今は口で息していましたね。香りを嗅ぐのだと思い、ゆっくり鼻から吸い込んでみてください」
 なるほど、それでお香。香りもいいし、煙の流れで息が視覚化できて分かりやすいかも。いい香りをいっぱい吸って、吐いて……ユメリアさんが僕のお腹に手を添えた。
「自身のお腹が動いているのに気づきましたか?」
「え!?」
 自分でもお腹に手を当て、もっかい吸ってみる。
「動いたっ」
「良かったわね玲ちゃん」
「やるじゃない。はい、ご褒美♪」
 真夕さんが一口サイズのマカロンを笑顔で差し出してくれた。モリスさんに僕の好物を聞いて、買ってきてくれたんだって。うう、何て優しいおねーさんだっ。
 お腹で呼吸できた事、それに真夕さんの気遣いに感激してると、サフィーアさんが窓の外を目で示した。
「お香を使った興味深い指導だったと思考するわ。……ではコツを掴んだところで、外へ行きましょうか」
 耳を疑った。脱走を警戒されてもおかしくないと思ってたから(実際そのつもりだったし)。
「勿論レッスンの一環としてよ。モリスさんの許可は得ているわ」
 よくモリスさんもOKしたなと思っていると、
「玲さーん」
 重症のエステルさんが弱々しく呼ぶ。起き上がるのも一苦労みたいで、ユリアさんと一緒に抱え起こす。そのまま肩を貸し、外へ。
「ありがとうございます」
 至近距離で可憐に微笑まれちゃったら、そりゃあ逃げられるワケなかったよね。


 外はぽかぽかいい天気。
 エステルさんを乗せたヴァニーユと皆で小径を行く。僕の右手は、シエルの左手にしっかり繋がれていた。って言うのもシエルが、
「手を繋いでほしいなって、だめ? 手を繋ぐの好きだから」
 って。見た目金髪美少女なシエルに上目遣いでお願いされたら、そりゃあ繋ぐしかないワケで。
 美人さん揃いの講師陣に甘え上手な友達、プラス甘味。僕が逃走を放棄するより前から、完璧な包囲網が敷かれていたような気がしてならない。

 新芽萌える原っぱに着くと、今度の講師はユリアさん。
「青空授業の開始よ♪」
 草の上に転がり、指示通り膝を立てる。馬から降りたエステルさんも、
「腹式呼吸は怪我にも良いかなって。所謂深呼吸は気持ち良いですよね」
 あ、これ深呼吸か。今更気づいて、一緒に深呼吸。
「ユメリアが言っていたのと同じね。鼻で吸って、口から吐く。腹式呼吸は横隔膜という筋肉を使う呼吸よ」
 おっと難しい単語が出てきたぞ? そんな僕にユリアさんは笑顔で言う。
「横隔膜がどこかって? 焼肉のハラミね」
「ハラミ」
「この呼吸法をマスターすれば、歌う時に役立つ以外にリラックスやダイエットにも効果があるわ♪」
「ダイエット」
 よしやろう!
「お臍の指3本下の丹田ってトコに手を当てて……」
 ユリアさんの具体的な説明と、ユメリアさんにコツを教わってたお陰で、案外呼吸自体はすんなりできた。言われるまま手を押し返すように息吸って……
「『ツー』って発音しながら30秒位で吐き切って。何度か練習してみましょ?」
 これがロングトーンってモノらしい。一定の量で吐き続けるのはなかなか大変で、途中で声がブレてしまう。苦戦してるとユメリアさんがアドバイスをくれた。
「声出しに夢中になり、また胸に吸っているようです。胸式と腹式で出す声の違いを実践して見せましょう」
 息を吸うと彼女の肩が上がった。これが胸式。僕には綺麗な声に聞こえるけど……もう一度吸うと今度はお腹が膨らんだ。出てきたのはもっと伸びやかで凛とした声。
「……ね?」
「わかった、意識してみるね」
 ツー。ツー。
「玲くんイイ感じっ♪」
 ツー。ツー。……ふあぁ。
「お腹は膨らんだけど、今のは欠伸ね」
 真夕さんがくすりと笑うと、ユリアさんはポンと手を叩いた。
「じゃあここで休憩にしましょう♪」

 そこから皆は早かった。レッスンはあっという間にピクニックへ様変わり。
「ストレートの紅茶、干した果物を混ぜたフレーバーティーにミルクティー。お好きなものをどうぞ」
 エステルさんが紅茶を淹れてくれる。怪我人の彼女に代わり、配ってくれるのはユメリアさん。フレーバーティーは砂糖を入れなくても、果実の風味で充分甘い。
「僕こんな美味しい紅茶飲んだの初めて!」
「ふふ、おかわりありますよ」
 遠慮なくおかわりしたミルクティーもこっくり濃厚で。ユリアさんはお菓子を取り出す。
「これはバクラバ、ナッツ入りの焼き菓子よ。あと蜂蜜クッキー」
「蜂蜜は喉に良さそうです♪」
「マカロンもまだあるわ」
 真夕さんも色とりどりのマカロンを並べ、
「宜しければ」
 ユメリアさんは自分でアレンジしたっていう桜餅を出してくれた。甘酸っぱい桜の葉の香りが堪らない。サフィーアさんは飴とチョコを取り出し、
「以前。依頼の後日に、チョコレートを贈ってくれたでしょう。貴方の好物と推測していたのだけれど……違うかしら」
 小首を傾げる。勢い込んで頷くと、表情を動かさない彼女の口許がちょっぴり綻んだような。気のせいかな?

 紅茶とお菓子を囲み、ガールズトーク(僕含め一部notガールだけども)に花が咲く。
「玲が歌を好きになってくれればそれは嬉しい事だし、それで、いつか一緒に歌えれは最高よね」
 真夕さんが言えば、良いですねとエステルさんが身を乗り出す。ユメリアさんは風にそよぐ梢を見上げ、
「みな違う人生なれど、奇遇にも今合わさっている。音楽も音の出会いと重なり。どちらも大切なのは和合する気持ち。世界と和合することを知れば、どんな音楽性も輝くことができる――そう思います」
 ユリアさんは大きく頷いた。
「ジプシーを50年近くやってきて、色んな人と出会ってきたから分かる気がするわ」
 ん? 一斉にユリアさんを見る。彼女は10代にしか見えない顔でさらりと言った。
「こー見えて今年で20歳になる孫がいるの」
 サフィーアさんの手からバクラバが落ちた。
 僕の口から桜餅が落ちた。
 ってか目ン玉転げ落ちそう。
 でも強心臓のシエルは動じない。
「お肌キレー♪」
「ありがとー♪」
 ……蒼界では若く見える女性を"美魔女”って呼んだりしてたけど、紅界の美魔女は更ナリと思いマシタ。

 人心地つくと、サフィーアさんが唇に指を当てる。
「香藤さん。……あの虫の声、規則正しく聞こえないかしら」
 草の間から、キーコロロって虫の声。首を捻っていると、シエルが指揮者みたいに腕を振った。虫達の音頭を取るように、ドレスの歯車が小刻みに鳴る。……一定のリズムがあるっぽいって事はわかったけど、速くてついていけないゾ。
 すると真夕さんが、シエルが鳴らす音の2回に1回、手を打った。この手拍子にならなんとかついて行けそ。
 こうして寛いだ空気の中、リズム取りの授業が始まった。生徒役の皆が手拍子を引き継ぐと、真夕さんはハープを抱える。
「まずはゆっくり、正確なリズムを刻めるようにしましょう」
 皆の手拍子に合わせ、手遊び歌のメロディを爪弾く。
「うう、曲が入ると難しー」
 手拍子に合わせて手を叩くのはできても、曲が入ると混乱しちゃう。ズレると焦るし、焦ると音が聞き取れなくなってますますズレていく。あわあわしてると、エステルさんがふんわり笑った。
「例えリズムが外れても、それはそれでリズムなんですよね。怖い事は、きっとないです」
 外しても怖くない? だって音楽の授業中、外すと先生に睨まれるわ級友にイジられるわで散々だったけど……蒼界での事を思い出し萎縮してると、サフィーアさんがヴァニーユを目で示す。
「虫の音、馬が草を食む音……これらは自然のリズムと言えるのではないかしら。ならリズムとはそう特別なものでも、怖ろしいものでもないと考察できる。少なくとも、ここに香藤さんを嘲笑う人はいないわ」
「そうそうっ。それにリズムは玲くんの中にもあるよ?」
 シエルは僕の手を取り、ドレスの胸元に当てがった。
「あら大胆♪」
「違っ、シエルは可愛いけど男の子だから!」
 慌てて否定すると、誰かがガタッてした。ワカル……もとい。掌にシエルの鼓動が伝わってくる。
「ほら、怖くないよ♪」
 ユメリアさんも頷く。
「香藤さんは独特の音楽性をお持ちなだけ」
「大変だろうけど頑張って。私達も良くなるまで付き合ってあげるから。歌があった方が言葉で合わせやすい?」
 真夕さんは自ら歌でリードしてくれる。その歌声は流石奏唱士さんで、つい聞き入りそうになっちゃうほど。その上僕が飽きないよう、即興で替え歌を作ってくすりとさせてくれたり。だんだん安定して手拍子が打てるようになってくると、
「今度は二人一組でキャッチボールをしましょう」
 エステルさん、ボールを手ににっこり。う、運動?
「ワンバウンドさせて1、2のリズムでゆっくりと」
 運動じゃなくリズム取りだと思えば何とか……と思ってたのに、もやしっ子の僕は何度か顔面でキャッチしてしまった事はナイショに以下略。

 嫌だと思ってたレッスンだけど、楽しく過ごしている間にどんどん時間が過ぎた。気付けば陽が傾きかけていて。
「そろそろ戻りましょうか」
「もう時間?」
「エステルちゃん手を貸すわ?」
「荷物お持ちます」
 僕がぼやぼやしてる内に片付けは終わり。今度は僕の方からシエルと手を繋いだ。びっくりした顔のシエルにこっそり耳打ち。
「今日おとなしくない? まさかシエルも怪我して、」 
「んー? えへへ」
 笑ってごまかされたけど。サフィーアさんが貸してくれた時計を耳に当て、ヴァニーユの蹄の音に合わせて、皆で行進するみたいに帰った。



 いざ試験。
 緊張はするけど怖くはなかった。だって誰も笑わないもん。ハープやフルートの音に合わせて、レッスンを思い出しながらお腹から声だして、手を打って――

 やり終えて、モリスさんの言葉を待つ。僕だけじゃなくて、皆も一緒にどきどきしてくれてるみたいだった。
 モリスさんは眼鏡を外して目許を拭う。
「あのひっっどかった歌をよくここまで……死にそうな怪鳥みたいな声じゃなくなったし、リズムも外してない」
「言い方」
「文句なしに合格!」
 思わず飛び上がって喜ぼうとしたけど、皆の方が早かった。
「やったぁ♪」
「おめでとうございます」
「頑張ったわね」
 皆が祝ってくれていると、

「次は音程ね」
 モリスさんが、ぼそっと。
「は?」


 ……続く、の?

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重体一覧

参加者一覧

  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプト(ka6255
    人間(紅)|14才|女性|格闘士
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
  • その歩みは、ココロと共に
    サフィーア(ka6909
    オートマトン|21才|女性|魔術師
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士

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依頼相談掲示板
アイコン レッスン相談
サフィーア(ka6909
オートマトン|21才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/04/26 21:39:51
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/04/25 10:43:14