ゲスト
(ka0000)
【虚動】潜み観る者
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/17 09:00
- 完成日
- 2014/12/25 06:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
辺境の諸部族は、連合宙軍のCAM機動実験への協力を決めた。
『赤き大地』と呼ばれる辺境のとある平野に、いまや連合宙軍の試験部隊が招き入れられ、現場では急ピッチの準備作業が始まった。
何台ものトレーラーが連なり、うなりを上げて乾いた大地を往来すると、瞬く間に四角いプレハブ小屋が立ち並び、用途を想像さえできないような棒や箱状の機材が円陣を組みながら、実験場、そして仮設基地の機能を確保する。
軍服、戦闘服、白衣、作業着といった、辺境では見慣れない格好の人間が忙しく立ち回り、その場はさながらリアルブルーに迷い込んだと思わせるような光景を見せていた。
「……軍曹、軍曹、ちょっと、こっち! こっち来て」
「なんじゃいロレンス、俺ァいま搬入用車両の受け入れと搬入物の検査と警戒人員の掌握と伝達系統管理とその他諸々の仕事をブン投げられて頭が沸騰しそうなんだ、下らねぇ用事なら余所へ当たれ」
「いやいやいや、下らなくねぇんですよこれが」
仮設基地の警備に当たっている、戦闘員らしき二人の兵士の会話。
ロレンスと呼ばれた兵士は、軍曹をつれて小走りに、巨大なコンテナが積み上げられた区画へと向かう。
『許可された者以外の立入禁止』と書かれた赤標識を素通りしてから、ロレンスはあるコンテナの前で脚を止めた。
「これっす。見て下さい」
「これの何が…………ゲッ」
ロレンスの指さした、コンテナの底付近を見て、軍曹は目を見開いた。
穴があいていた。
ただの穴ではない。動物の爪の様な何かで、ずたずたに引き裂かれた穴。丈夫な合成素材でできている筈の輸送用コンテナが、だ。
「中身は」軍曹はすかさず訊ねた。
「無事っす。幸い、中身は防弾の内箱で保護されてまして、そっちが少し傷つけられただけ……たぶん、電装系の演算ユニットかなんかだと思います」
「そうか、なら…………いや、よくねぇ。全ッ然よくねえぞ、こりゃ」
軍曹は、大きく溜息を吐いた。
実害は少ないが、問題はそこではない。
基地の警備が破られた事、そうまでして荷物に手をつける様な『何か』が、仮設基地内にいる事。
異常事態と認めるには十分過ぎる。
「……報告、あげなきゃダメっすかねぇ」
ロレンスが呟く。
軍曹はヘルメットを外して、頭をかきむしった。
「クソッ、頭が沸騰通り越して蒸発しそうだぜ!」
◆
「……で、儂を呼び戻したと」
「はい……貴方なら、何か知っているかと思いまして」
その翌日、辺境要塞ノアーラ・クンタウにて。
要塞最高責任者であるヴェルナー・プロスフェルト(kz0032)の執務室には彼とともに、その麾下にある対歪虚部隊、山岳猟団の老兵シバ(kz0048)の姿があった。
「文書としてこちらに回った報告の後にも、基地内の数カ所で同種の案件が起きている様です。その際には、子供の様な笑い声と、小さな足跡をみつけた証言もあります。狙われているのは、一様に『せんさー』『えんざんき』『つうしんき』と……これは、よく判りませんが」
「…………」シバは黙したまま、ただ瞼を細く狭める。
「この件について、混乱や士気低下を避けるため秘密裏に、捜査に協力をしてほしい、と連合宙軍から要望が来ています。山岳猟団には現在、実験場周辺の哨戒に当たって貰っていますので、審問隊を動かそうかとも思ったのですが……」
「くく、まぁ、できんわな。あの騎士殿達には『赤き大地』の土地柄など何も知らぬ故に」
渡された書類に目を通しつつ、シバは嘲笑った。
ヴェルナーは、あくまで柔和に受け答える。
「この地をよく知る者……辺境出身者の知識が必要です。帝国が連合宙軍の信頼を損ねない為にも。率直に訊きますが……この歪虚に、心当たりは?」
「うむ、わからん」
「……え?」空気が、一瞬止まった。
「わからん。そんな歪虚は儂も聞いたことが無い」と、真顔のシバ。
「あの前振りで、ですか」
態度は穏やかなまま、ヴェルナーの声のトーンが僅かに下がる。老人は、悪戯っぽく苦笑した。
「儂にだってわからん事くらいある。だが……」
少し間をおいてから……シバは再び、口を開く。
「人であれ歪虚であれ、それは同じ事。見慣れた環境にある日突然異質なモノが飛込んで来たら……その正体を確かめずには居られんものよ。だとすればこりゃぁ、止めねばならん。止めねば、洒落にならん」
「……」
相手の沈黙を意に介さず、シバは話を続けた。
「ところで、捜索にはハンターも連れ出していいか? 儂一人ではたぶん、手がたらんじゃろ」
「どうぞ。予算は用意します」
「ついでに連合宙軍にも話を通しておいてくれよ。『好きに』基地内を歩き回れる様にな」
ヴェルナーの表情が、ぴくりと動いたが……すぐに、元に戻った。
「……では、皆さんを『見学者』として手配する事にしましょう。それでも、言動には注意してください。CAMとその関係施設は、向こうにとっての虎の子です」
「……ああ。それでいい。それで、万全じゃ」
シバは満足げに頷くと、要塞内のハンターズソサエティへと向かう為に部屋を出る。
残されたヴェルナーは、その背を見送って……何かを考え込む様に、目を伏せた。
辺境の諸部族は、連合宙軍のCAM機動実験への協力を決めた。
『赤き大地』と呼ばれる辺境のとある平野に、いまや連合宙軍の試験部隊が招き入れられ、現場では急ピッチの準備作業が始まった。
何台ものトレーラーが連なり、うなりを上げて乾いた大地を往来すると、瞬く間に四角いプレハブ小屋が立ち並び、用途を想像さえできないような棒や箱状の機材が円陣を組みながら、実験場、そして仮設基地の機能を確保する。
軍服、戦闘服、白衣、作業着といった、辺境では見慣れない格好の人間が忙しく立ち回り、その場はさながらリアルブルーに迷い込んだと思わせるような光景を見せていた。
「……軍曹、軍曹、ちょっと、こっち! こっち来て」
「なんじゃいロレンス、俺ァいま搬入用車両の受け入れと搬入物の検査と警戒人員の掌握と伝達系統管理とその他諸々の仕事をブン投げられて頭が沸騰しそうなんだ、下らねぇ用事なら余所へ当たれ」
「いやいやいや、下らなくねぇんですよこれが」
仮設基地の警備に当たっている、戦闘員らしき二人の兵士の会話。
ロレンスと呼ばれた兵士は、軍曹をつれて小走りに、巨大なコンテナが積み上げられた区画へと向かう。
『許可された者以外の立入禁止』と書かれた赤標識を素通りしてから、ロレンスはあるコンテナの前で脚を止めた。
「これっす。見て下さい」
「これの何が…………ゲッ」
ロレンスの指さした、コンテナの底付近を見て、軍曹は目を見開いた。
穴があいていた。
ただの穴ではない。動物の爪の様な何かで、ずたずたに引き裂かれた穴。丈夫な合成素材でできている筈の輸送用コンテナが、だ。
「中身は」軍曹はすかさず訊ねた。
「無事っす。幸い、中身は防弾の内箱で保護されてまして、そっちが少し傷つけられただけ……たぶん、電装系の演算ユニットかなんかだと思います」
「そうか、なら…………いや、よくねぇ。全ッ然よくねえぞ、こりゃ」
軍曹は、大きく溜息を吐いた。
実害は少ないが、問題はそこではない。
基地の警備が破られた事、そうまでして荷物に手をつける様な『何か』が、仮設基地内にいる事。
異常事態と認めるには十分過ぎる。
「……報告、あげなきゃダメっすかねぇ」
ロレンスが呟く。
軍曹はヘルメットを外して、頭をかきむしった。
「クソッ、頭が沸騰通り越して蒸発しそうだぜ!」
◆
「……で、儂を呼び戻したと」
「はい……貴方なら、何か知っているかと思いまして」
その翌日、辺境要塞ノアーラ・クンタウにて。
要塞最高責任者であるヴェルナー・プロスフェルト(kz0032)の執務室には彼とともに、その麾下にある対歪虚部隊、山岳猟団の老兵シバ(kz0048)の姿があった。
「文書としてこちらに回った報告の後にも、基地内の数カ所で同種の案件が起きている様です。その際には、子供の様な笑い声と、小さな足跡をみつけた証言もあります。狙われているのは、一様に『せんさー』『えんざんき』『つうしんき』と……これは、よく判りませんが」
「…………」シバは黙したまま、ただ瞼を細く狭める。
「この件について、混乱や士気低下を避けるため秘密裏に、捜査に協力をしてほしい、と連合宙軍から要望が来ています。山岳猟団には現在、実験場周辺の哨戒に当たって貰っていますので、審問隊を動かそうかとも思ったのですが……」
「くく、まぁ、できんわな。あの騎士殿達には『赤き大地』の土地柄など何も知らぬ故に」
渡された書類に目を通しつつ、シバは嘲笑った。
ヴェルナーは、あくまで柔和に受け答える。
「この地をよく知る者……辺境出身者の知識が必要です。帝国が連合宙軍の信頼を損ねない為にも。率直に訊きますが……この歪虚に、心当たりは?」
「うむ、わからん」
「……え?」空気が、一瞬止まった。
「わからん。そんな歪虚は儂も聞いたことが無い」と、真顔のシバ。
「あの前振りで、ですか」
態度は穏やかなまま、ヴェルナーの声のトーンが僅かに下がる。老人は、悪戯っぽく苦笑した。
「儂にだってわからん事くらいある。だが……」
少し間をおいてから……シバは再び、口を開く。
「人であれ歪虚であれ、それは同じ事。見慣れた環境にある日突然異質なモノが飛込んで来たら……その正体を確かめずには居られんものよ。だとすればこりゃぁ、止めねばならん。止めねば、洒落にならん」
「……」
相手の沈黙を意に介さず、シバは話を続けた。
「ところで、捜索にはハンターも連れ出していいか? 儂一人ではたぶん、手がたらんじゃろ」
「どうぞ。予算は用意します」
「ついでに連合宙軍にも話を通しておいてくれよ。『好きに』基地内を歩き回れる様にな」
ヴェルナーの表情が、ぴくりと動いたが……すぐに、元に戻った。
「……では、皆さんを『見学者』として手配する事にしましょう。それでも、言動には注意してください。CAMとその関係施設は、向こうにとっての虎の子です」
「……ああ。それでいい。それで、万全じゃ」
シバは満足げに頷くと、要塞内のハンターズソサエティへと向かう為に部屋を出る。
残されたヴェルナーは、その背を見送って……何かを考え込む様に、目を伏せた。
リプレイ本文
●
基地に到着したハンター七人はまず、『研修者』として警備部隊の事務所へと通された。
警備部隊の隊員達はハンターの本当の役目を知っていたが、彼らは表向き、通常体制の警備を続行していた。
「混乱で実験日程が遅れるのを避ける為なんだ。まぁ、上手くやってくれ」
そう語る現場責任者の気怠そうな表情に、真田 天斗(ka0014)は苦笑した。
襟元の階級章は軍曹。分隊長なら典型的中間管理職だ……元軍人の天斗には、苦労が手に取る様に判った。
「CAMですか……懐かしいですね。軍人時代を思い出します」
誰に向けてか、天斗はぽつりと呟く。かつてはあの機械仕掛の鎧の、ごくごく近くで戦っていたのだ。
「CAMって実はよく知らないのですが、響きはかわいいですよね。カム……かむかむ……」
「いや、『きゃむ』って発音するらしいよ、アレ」
唐突に呟いたメープル・マラカイト(ka0347)に、エルデ・ディアマント(ka0263)がツッコミをいれる。
「あら」と首をかしげたエルフの魔術師の仕草に、ドワーフの少女は屈託なく笑った。
そのままくるりと頭を回して、エルデは隣の天斗を見上げる。
「ねぇねぇ、お仕事終わったら、CAM見学させて貰えるかな?」
職人気質な種族の血か、機導師としての好奇心か。仕組みが気になって仕方がないらしい。
どうでしょう……と、天斗がまた苦笑する傍ら、八島 陽(ka1442)が腕を組み、唸った。
「狙われてるのは電装系ばっかりなんだろ。元工学系の学生としちゃあ、放っとけないね」
昔取った杵柄、持ち合わせている知識で考えても、心当たりは既にある。
「見知らぬ物には誰でも怯えとともに好奇心を抱くもの……それは雑魔も同じ、ということ……?」
フェリア(ka2870)もまた、首を僅かに傾け、小さく吐息を漏らした。
状況を考えれば、相手が雑魔……歪虚なのはまず間違いない。
そしてそれは、歪虚がCAMを……『敵』が『我』の情報を知ろうとしている可能性をも示唆する。
「であれば、止めなければならない、か。面倒臭いが仕方無いな……」
ヒースクリフ(ka1686)がそう言って、やや鈍めな足取りで事務所を出ていく。
他の者達も、すぐ後に続いた。
「この雰囲気、懐かしいなぁ……」
歩きながら美作さくら(ka2345)は、仮設基地の光景を、複雑な想いで眺めていた。
離れて久しい地球の空気に郷愁が募り……しかし、そこに微かな違和感も感じてしまう。
『こちら』に来てから積み重ねた物が余りに多い事を、改めてさくらは自覚する。
それは、帰りたくなくなった、という事でなく、寧ろその逆。
いつかその時に、後悔しないようにと……
「……今日もしっかりやろうっ」
少女はぐっと、拳を握りしめた。
●
ハンター達は、まず被害を受けた貨物を調査する事にした。
「夜の巡回中に、子供の笑い声と、裸足みたいな足音が聞こえたんだ。不審に思って近づいたら、コンテナが壊されてた、と」
そのコンテナを見つけた隊員の言葉。軍曹は、事情を知っている警備隊員を案内に付けてくれていた。
最初に質問したのは、エルデだ。
「声と足音を聞いたのは、コンテナの回りだけ?」
「ああ。俺は、な。だが、足跡は離れた場所でもみつかってるぜ」
「それだけじゃ、何もはっきりしないなぁ……他に、気になったことってある?」
エルデは眉を顰めながら、質問を続けた。
「足跡は、俺がコンテナに近づいてから聞こえてた。俺に気づいて逃げた、とかかもな」
兵士は、必死に記憶を呼び起こしている様子だった。
「……ちなみに、無線機の電源は?」と尋ねたのは、天斗。
「あー、つけてました。一応、最初に軍曹に報告の通信をしております」
隊員は首を縦に振った。彼が天斗に対してだけ敬語なのは、相手が退役したとはいえ元士官であったからだ。同じCAM関連部隊なら、どこかで一緒に仕事をした可能性さえある。
「歪虚が軍用無線機の通信を傍受してるとは考えづらいですが……」
考え込んだ天斗と入れ替わりに、今度は陽が気になっていたことを尋ねた。
「ところで、同じ機材が、二回以上狙われたりは?」
「いや、してねぇな。どれもこれも一回きりだ」
陽の問いに、隊員が即答した。
「……狙われた部品から、何か電波が出てたりは?」
「事件の当日、運び込まれてすぐに、動作テストを……あっ」
そこまで言って、隊員も陽の言わんとする事を理解する。
「私は機械に詳しい訳じゃないけど……それってやっぱり、電波を感知してるのかなぁ?」
さくらが、絞り出す様に呟いた。頭の中では、故郷で学生をしていた頃に見聞きした知識を総動員している状態だ。
「あとは、なんて言ったっけ、デジタルが読めちゃうとか」
「電波の中の信号まで? いや、まさか」
陽が腕組む。可能性は低い、だが、もしも其れが可能なら……
「……ねぇ、コンテナの中身は、見せて貰えないかしら」
場に流れかけた沈黙を、フェリアが遮った。まずは、調べられる所から調べた方がいい。
コンテナの中身を見せて貰うと、事前に知らされた通り、中身はセンサーや演算器、無線通信機等の類……詰まり、『電波を発する機械』ばかりだった。
だが、いずれも防弾の内箱に守られ、傷つけられてはいない。
「ずいぶん沢山、それに色々あるのね。どうやって運び込んだの?」
異世界の技術の結晶を前に、フェリアは素直に感嘆の息を漏らしながら、隊員に尋ねた。
「全部、陸路で。東の海岸沿いを、あの大型輸送車でだな」
隊員が、連合宙軍の輸送車を指差す。
「……どこかで輸送隊を見た歪虚が、ついてきたのかも」
「それで基地に忍び込んで、今も隠れ続けられる様な相手なら……見つけるのは、骨が折れそうだな」
フェリアの推論に、ヒースクリフがぼやいた。
彼はずっと、荷物の隙間や角などの物陰を重点的に見て回っていたが……
「隠れるつもりがあるなら、随分と雑な手口だ」
現場の柔らかい土にうっすらと遺された素足の形の足跡に、ヒースクリフは気づく。
注意深くみれば、物陰やコンテナの周囲に、その足跡が多数残っていたのだ。
「現場に忍び込んで、箱に何かをしようとして、でもすぐ諦めた……ううん、邪魔をされた?」
「……メープル?」
地面に屈み込んで、メープルがなにやら呟いている。ヒースクリフが、彼女を振り返った。
「いま、何と?」
「足跡がですね、一直線に遠ざかっているんですよ。この現場から、迷わずに。理由は判りませんけど」
メープルは、足跡が形作る一見無秩序な動線を、細い指先でゆっくりなぞっていく。
「本当に人間の子供みたいな形と、大きさ。動きも気まぐれです」
「でも、この爪痕は……」
さくらが、コンテナにあいた穴の、断面を見た。
動物の爪に似た傷痕だが、合成素材の外板はずたずたに引き裂かれている。
「人間の手じゃ、なさそうですよね……獣でも、力が強すぎますけど」
「下半身だけ人の子供で、上半身は熊みたいな獣なのかも」「えええ」
さくらの顔がひきつると、メープルはしれっとした顔で「冗談です」と付け足す。
それはさておき、そこまでの調査でハンター達は、おおよそ共有できる仮説を得た。
『歪虚は電波を感知でき、電波を発した事のある機材を狙っている』……この推測を元に、ハンター達は歪虚を探しだす事にした。
●
夜になって、ハンターは三手に分かれ巡回の態勢を作った。
天斗・陽・フェリアと、ヒース・エルデ・メープルの二班は、それぞれが巡回。
さくらは、同行していた辺境帝国軍のシバと共に、警備隊員の事務所で魔導短伝話による通信の中継。
山岳猟団の即応員となっているさくらにとって、シバは顔馴染みだ。
待機開始からかなり長い時間を共に過ごして、苦にならない程度には親しい。
「シバさん。この前はありがとうございましたっ」
さくらがついこの間の依頼の事を切り出すと、シバはおおらかに微笑んだ。
「世話になっとるのは儂の方よ。お主達ハンターの力は、今や猟団、赤き大地に欠かせぬでな。否、これからは更に……」
そう語ったシバの表情は……いつになく、どこか神妙な気がして。
何かを感じたさくらが、次の言葉を切り出そうとした、その時だ。
『こちらメープル、目標らしき何かと接触しました。場所は……』
魔導短伝話に通信が入った。
さくらとシバは顔を見合わせ、椅子から立ち上がった。
●
時間は、少し遡る。
天斗・陽・フェリアの班は、まだ襲われていない機材を重点的に見回っていた。
陽が基地内の機材の位置を調べ上げたので、狙われそうな機材にある程度の予測をつける事ができた。
「特に狙われたらマズイのは、この大型センサーだ……車両で牽引する奴だから、防護する物がない」
「逆に言うと、それは歪虚が狙い易いということでもありますね」
陽の言葉を受けて、車輪のついた、円筒形のセンサーを見上げる天斗。
今日の昼、動作試験を行ったばかりの機材だ。同じ物が、基地の数カ所にある。
「人目を避ける知性があるのなら、既に近くに潜んで機を伺っている可能性も高いわ。注意しましょう」
フェリアが、周囲を見渡しながら物陰を注意深く探索する。
時々、物陰に件の足跡が見つかる物の、笑い声や足音などは聞こえない。
連絡手段である魔導短伝話の他に、釣餌としてトランシーバーも用意し、電源も入れたが、これも反応なし。
そうして、何も起こらぬまま、かなりの時間が過ぎた。
事が動いた時、それを見つけたのは、エルデだった。
彼女とメープル、ヒースクリフ達の班も、もう一班とは別のエリアで事件の起きていない電装品の周囲を巡回していた。
異変に気づいたのは、同じ路地を三回目に通った時だ。
見つけた新たな足跡は、何台がある例の大型センサーのうちの一つに近づくように動線を描いていた。
「掛かったみたいだね。さてさて、犯人はどんな姿をしてるのかな?」
三人が急いで車両のある場所へ戻ると……
『くすくす……くすくす……』
子供……少年の様な、しかしそれは、確かに歪虚だった。
全身は青白い肌で、腕先だけは猛禽の様な鉤爪の形をしている。そして、頭には角状の突起。
その鉤爪を今まさに、センサーの表面に突き立てようとする直前で、三人は現場に踏み込んだ。
振り向いた歪虚は、白目だけの瞳を見開いた。
そのまま、身を翻して逃げ出す。
「逃すか」
すかさずヒースクリフが駆け出すと同時に、後ろに続いたメープルは魔導短伝話を握った。
『こちらメープル、目標らしき何かと接触しました。場所は……』
目標の位置と動きを付け加えた報告は、連絡役を介して別班へも伝わる。
連絡役を含む三つの班は、歪虚を包囲する様に動ける筈だ。
「待てーっ!」
エルデが魔導銃を構えると、銃口からは弾丸の代わりに稲妻が迸る。
エレクトリックショックを受けて、歪虚はあっさりと足を止めた。
次いで、燃え盛る炎の矢が突き刺さる。メープルのファイアアロー。詠唱しながら、既に歪虚の側面に回りこんでいる。
なおも歪虚は逃げようと、三人に背を向けているが、それは能わず。
「間に合いましたねっ」
路地の反対側、歪虚を挟撃する様に現れたのは、さくらとシバだった。事務所の直近だったのが、幸いした。
出会い頭にさくらは、渾身の意思力を込めて歪虚を睨みつけていた。霊闘士のブロウビートは、相手の精神を直接に狂わせる。
程なくして別班の三人も合流、歪虚の包囲網が完成した。
「もう追いかける必要もないな……ここで確実に仕留める!」
陽が機動砲を放って牽制すると同時に、天斗はランアウトで一気に相手の間合いに飛び込んだ。
「……っ」
相手の容姿を見て僅かに躊躇った様にも見えた天斗だが、それも一瞬の事。
スラッシュエッジを繰り出し、脇腹を抉る様なショートフックを叩き込む。
追い詰められた歪虚は、足掻くように鉤爪を天斗に向け、その胸元を切り裂いた。
そのまま手当たり次第に周囲のハンターへ斬りかかるが、抵抗は、そう長く続かない。
いつのまにか霧の様な雲が周囲を満たし、やがて歪虚は、その場にパタリと倒れこんでしまった。
フェリアの、スリープクラウドだ。
「もう少し早く効いてくれれば、よかったのだけれど」
眠りに落ちた歪虚は、既に俎上の鯉も同然である。
「私からの手向けだ……受け取れ!」
ヒースクリフが攻性強化と共に、手にした剣を斧へと変化させ、一直線に振り下ろす。
歪虚は衝撃に激しく身を震わせ……それきり、動かなくなった。
●
多少の騒動はあったものの、殆どの人間は新たに歪虚の存在を知ることは無かった。
機材が無事に守られた事で、ハンター達の行動は連合宙軍から一定の評価を得た様だった。
「これ……アンテナか?」
事件から一夜明け、回収された歪虚の骸を見て、陽は唖然とした。
歪虚の頭部の角状の突起は、皮膚と融合していながらしかし、リアルブルーの無線機のアンテナに酷似していたのだ。
「じゃ、じゃあ……ほんとに電波を、そのまんま受信してたって事ですか?」
さくらは目を丸くして、その結合部分を恐る恐る覗き込んでいる。
「進化……したのかもしれない。異世界の、異質な技術に触れて」
フェリアが、静かに口を開いた。それは考えるほどに恐ろしい、最悪の可能性。
「それで、警備隊の通信を受信し、避けながら機械を調べようとしていた、と……でも、私達もトランシーバーの電源をつけていましたが」
メープルは、その青い瞳を虚空に向けて、考えこむ様に呟く。
彼女の言葉で、陽がハッと気づいた。
「いや……そうか。トランシーバーは自分が喋る時しか電波を出さないんだ。俺達は電源はつけてたけど、それで会話はしてない」
一切電波を出さなかったことで、逆に歪虚の感知を避けることができたのだ。
だから、あんなにあっさりと包囲が成功した。
「……やれやれ、寧ろこれからが、面倒かもしれんな」
ヒースクリフはまた、ぼやく様に呟いた。
歪虚もまた、人と同じように進化する……その、事実を悟って。
一方、こちらはシバと天斗の会話。
「ほう、猟団の即応員になってくれると」
「これも何かの縁ですから」
天斗の申し出を、シバは願ってもないと受け入れた。
(「この御老人、飄々としていますが中々興味深いですね」)
そう考えながら、天斗はシバの表情を読……もうとして、それは現れたエルデに阻まれた。
「ねぇねぇねぇ、CAMはまだ来ないのっ? 仕事は終わったし、CAM本体も見学していいんでしょ?」
目を輝かす少女に気圧されつつ、シバが答える。
「あ、ああ。昨晩の内に話をつけておいたでな……」
「ホント? やった! くぅー、早く間近で見たいなぁ」
はしゃいだエルデは足取り軽く、その場を去っていく。
残された天斗とシバは、微かに苦笑を浮かべつつ、互いの顔を見合わせた。
基地に到着したハンター七人はまず、『研修者』として警備部隊の事務所へと通された。
警備部隊の隊員達はハンターの本当の役目を知っていたが、彼らは表向き、通常体制の警備を続行していた。
「混乱で実験日程が遅れるのを避ける為なんだ。まぁ、上手くやってくれ」
そう語る現場責任者の気怠そうな表情に、真田 天斗(ka0014)は苦笑した。
襟元の階級章は軍曹。分隊長なら典型的中間管理職だ……元軍人の天斗には、苦労が手に取る様に判った。
「CAMですか……懐かしいですね。軍人時代を思い出します」
誰に向けてか、天斗はぽつりと呟く。かつてはあの機械仕掛の鎧の、ごくごく近くで戦っていたのだ。
「CAMって実はよく知らないのですが、響きはかわいいですよね。カム……かむかむ……」
「いや、『きゃむ』って発音するらしいよ、アレ」
唐突に呟いたメープル・マラカイト(ka0347)に、エルデ・ディアマント(ka0263)がツッコミをいれる。
「あら」と首をかしげたエルフの魔術師の仕草に、ドワーフの少女は屈託なく笑った。
そのままくるりと頭を回して、エルデは隣の天斗を見上げる。
「ねぇねぇ、お仕事終わったら、CAM見学させて貰えるかな?」
職人気質な種族の血か、機導師としての好奇心か。仕組みが気になって仕方がないらしい。
どうでしょう……と、天斗がまた苦笑する傍ら、八島 陽(ka1442)が腕を組み、唸った。
「狙われてるのは電装系ばっかりなんだろ。元工学系の学生としちゃあ、放っとけないね」
昔取った杵柄、持ち合わせている知識で考えても、心当たりは既にある。
「見知らぬ物には誰でも怯えとともに好奇心を抱くもの……それは雑魔も同じ、ということ……?」
フェリア(ka2870)もまた、首を僅かに傾け、小さく吐息を漏らした。
状況を考えれば、相手が雑魔……歪虚なのはまず間違いない。
そしてそれは、歪虚がCAMを……『敵』が『我』の情報を知ろうとしている可能性をも示唆する。
「であれば、止めなければならない、か。面倒臭いが仕方無いな……」
ヒースクリフ(ka1686)がそう言って、やや鈍めな足取りで事務所を出ていく。
他の者達も、すぐ後に続いた。
「この雰囲気、懐かしいなぁ……」
歩きながら美作さくら(ka2345)は、仮設基地の光景を、複雑な想いで眺めていた。
離れて久しい地球の空気に郷愁が募り……しかし、そこに微かな違和感も感じてしまう。
『こちら』に来てから積み重ねた物が余りに多い事を、改めてさくらは自覚する。
それは、帰りたくなくなった、という事でなく、寧ろその逆。
いつかその時に、後悔しないようにと……
「……今日もしっかりやろうっ」
少女はぐっと、拳を握りしめた。
●
ハンター達は、まず被害を受けた貨物を調査する事にした。
「夜の巡回中に、子供の笑い声と、裸足みたいな足音が聞こえたんだ。不審に思って近づいたら、コンテナが壊されてた、と」
そのコンテナを見つけた隊員の言葉。軍曹は、事情を知っている警備隊員を案内に付けてくれていた。
最初に質問したのは、エルデだ。
「声と足音を聞いたのは、コンテナの回りだけ?」
「ああ。俺は、な。だが、足跡は離れた場所でもみつかってるぜ」
「それだけじゃ、何もはっきりしないなぁ……他に、気になったことってある?」
エルデは眉を顰めながら、質問を続けた。
「足跡は、俺がコンテナに近づいてから聞こえてた。俺に気づいて逃げた、とかかもな」
兵士は、必死に記憶を呼び起こしている様子だった。
「……ちなみに、無線機の電源は?」と尋ねたのは、天斗。
「あー、つけてました。一応、最初に軍曹に報告の通信をしております」
隊員は首を縦に振った。彼が天斗に対してだけ敬語なのは、相手が退役したとはいえ元士官であったからだ。同じCAM関連部隊なら、どこかで一緒に仕事をした可能性さえある。
「歪虚が軍用無線機の通信を傍受してるとは考えづらいですが……」
考え込んだ天斗と入れ替わりに、今度は陽が気になっていたことを尋ねた。
「ところで、同じ機材が、二回以上狙われたりは?」
「いや、してねぇな。どれもこれも一回きりだ」
陽の問いに、隊員が即答した。
「……狙われた部品から、何か電波が出てたりは?」
「事件の当日、運び込まれてすぐに、動作テストを……あっ」
そこまで言って、隊員も陽の言わんとする事を理解する。
「私は機械に詳しい訳じゃないけど……それってやっぱり、電波を感知してるのかなぁ?」
さくらが、絞り出す様に呟いた。頭の中では、故郷で学生をしていた頃に見聞きした知識を総動員している状態だ。
「あとは、なんて言ったっけ、デジタルが読めちゃうとか」
「電波の中の信号まで? いや、まさか」
陽が腕組む。可能性は低い、だが、もしも其れが可能なら……
「……ねぇ、コンテナの中身は、見せて貰えないかしら」
場に流れかけた沈黙を、フェリアが遮った。まずは、調べられる所から調べた方がいい。
コンテナの中身を見せて貰うと、事前に知らされた通り、中身はセンサーや演算器、無線通信機等の類……詰まり、『電波を発する機械』ばかりだった。
だが、いずれも防弾の内箱に守られ、傷つけられてはいない。
「ずいぶん沢山、それに色々あるのね。どうやって運び込んだの?」
異世界の技術の結晶を前に、フェリアは素直に感嘆の息を漏らしながら、隊員に尋ねた。
「全部、陸路で。東の海岸沿いを、あの大型輸送車でだな」
隊員が、連合宙軍の輸送車を指差す。
「……どこかで輸送隊を見た歪虚が、ついてきたのかも」
「それで基地に忍び込んで、今も隠れ続けられる様な相手なら……見つけるのは、骨が折れそうだな」
フェリアの推論に、ヒースクリフがぼやいた。
彼はずっと、荷物の隙間や角などの物陰を重点的に見て回っていたが……
「隠れるつもりがあるなら、随分と雑な手口だ」
現場の柔らかい土にうっすらと遺された素足の形の足跡に、ヒースクリフは気づく。
注意深くみれば、物陰やコンテナの周囲に、その足跡が多数残っていたのだ。
「現場に忍び込んで、箱に何かをしようとして、でもすぐ諦めた……ううん、邪魔をされた?」
「……メープル?」
地面に屈み込んで、メープルがなにやら呟いている。ヒースクリフが、彼女を振り返った。
「いま、何と?」
「足跡がですね、一直線に遠ざかっているんですよ。この現場から、迷わずに。理由は判りませんけど」
メープルは、足跡が形作る一見無秩序な動線を、細い指先でゆっくりなぞっていく。
「本当に人間の子供みたいな形と、大きさ。動きも気まぐれです」
「でも、この爪痕は……」
さくらが、コンテナにあいた穴の、断面を見た。
動物の爪に似た傷痕だが、合成素材の外板はずたずたに引き裂かれている。
「人間の手じゃ、なさそうですよね……獣でも、力が強すぎますけど」
「下半身だけ人の子供で、上半身は熊みたいな獣なのかも」「えええ」
さくらの顔がひきつると、メープルはしれっとした顔で「冗談です」と付け足す。
それはさておき、そこまでの調査でハンター達は、おおよそ共有できる仮説を得た。
『歪虚は電波を感知でき、電波を発した事のある機材を狙っている』……この推測を元に、ハンター達は歪虚を探しだす事にした。
●
夜になって、ハンターは三手に分かれ巡回の態勢を作った。
天斗・陽・フェリアと、ヒース・エルデ・メープルの二班は、それぞれが巡回。
さくらは、同行していた辺境帝国軍のシバと共に、警備隊員の事務所で魔導短伝話による通信の中継。
山岳猟団の即応員となっているさくらにとって、シバは顔馴染みだ。
待機開始からかなり長い時間を共に過ごして、苦にならない程度には親しい。
「シバさん。この前はありがとうございましたっ」
さくらがついこの間の依頼の事を切り出すと、シバはおおらかに微笑んだ。
「世話になっとるのは儂の方よ。お主達ハンターの力は、今や猟団、赤き大地に欠かせぬでな。否、これからは更に……」
そう語ったシバの表情は……いつになく、どこか神妙な気がして。
何かを感じたさくらが、次の言葉を切り出そうとした、その時だ。
『こちらメープル、目標らしき何かと接触しました。場所は……』
魔導短伝話に通信が入った。
さくらとシバは顔を見合わせ、椅子から立ち上がった。
●
時間は、少し遡る。
天斗・陽・フェリアの班は、まだ襲われていない機材を重点的に見回っていた。
陽が基地内の機材の位置を調べ上げたので、狙われそうな機材にある程度の予測をつける事ができた。
「特に狙われたらマズイのは、この大型センサーだ……車両で牽引する奴だから、防護する物がない」
「逆に言うと、それは歪虚が狙い易いということでもありますね」
陽の言葉を受けて、車輪のついた、円筒形のセンサーを見上げる天斗。
今日の昼、動作試験を行ったばかりの機材だ。同じ物が、基地の数カ所にある。
「人目を避ける知性があるのなら、既に近くに潜んで機を伺っている可能性も高いわ。注意しましょう」
フェリアが、周囲を見渡しながら物陰を注意深く探索する。
時々、物陰に件の足跡が見つかる物の、笑い声や足音などは聞こえない。
連絡手段である魔導短伝話の他に、釣餌としてトランシーバーも用意し、電源も入れたが、これも反応なし。
そうして、何も起こらぬまま、かなりの時間が過ぎた。
事が動いた時、それを見つけたのは、エルデだった。
彼女とメープル、ヒースクリフ達の班も、もう一班とは別のエリアで事件の起きていない電装品の周囲を巡回していた。
異変に気づいたのは、同じ路地を三回目に通った時だ。
見つけた新たな足跡は、何台がある例の大型センサーのうちの一つに近づくように動線を描いていた。
「掛かったみたいだね。さてさて、犯人はどんな姿をしてるのかな?」
三人が急いで車両のある場所へ戻ると……
『くすくす……くすくす……』
子供……少年の様な、しかしそれは、確かに歪虚だった。
全身は青白い肌で、腕先だけは猛禽の様な鉤爪の形をしている。そして、頭には角状の突起。
その鉤爪を今まさに、センサーの表面に突き立てようとする直前で、三人は現場に踏み込んだ。
振り向いた歪虚は、白目だけの瞳を見開いた。
そのまま、身を翻して逃げ出す。
「逃すか」
すかさずヒースクリフが駆け出すと同時に、後ろに続いたメープルは魔導短伝話を握った。
『こちらメープル、目標らしき何かと接触しました。場所は……』
目標の位置と動きを付け加えた報告は、連絡役を介して別班へも伝わる。
連絡役を含む三つの班は、歪虚を包囲する様に動ける筈だ。
「待てーっ!」
エルデが魔導銃を構えると、銃口からは弾丸の代わりに稲妻が迸る。
エレクトリックショックを受けて、歪虚はあっさりと足を止めた。
次いで、燃え盛る炎の矢が突き刺さる。メープルのファイアアロー。詠唱しながら、既に歪虚の側面に回りこんでいる。
なおも歪虚は逃げようと、三人に背を向けているが、それは能わず。
「間に合いましたねっ」
路地の反対側、歪虚を挟撃する様に現れたのは、さくらとシバだった。事務所の直近だったのが、幸いした。
出会い頭にさくらは、渾身の意思力を込めて歪虚を睨みつけていた。霊闘士のブロウビートは、相手の精神を直接に狂わせる。
程なくして別班の三人も合流、歪虚の包囲網が完成した。
「もう追いかける必要もないな……ここで確実に仕留める!」
陽が機動砲を放って牽制すると同時に、天斗はランアウトで一気に相手の間合いに飛び込んだ。
「……っ」
相手の容姿を見て僅かに躊躇った様にも見えた天斗だが、それも一瞬の事。
スラッシュエッジを繰り出し、脇腹を抉る様なショートフックを叩き込む。
追い詰められた歪虚は、足掻くように鉤爪を天斗に向け、その胸元を切り裂いた。
そのまま手当たり次第に周囲のハンターへ斬りかかるが、抵抗は、そう長く続かない。
いつのまにか霧の様な雲が周囲を満たし、やがて歪虚は、その場にパタリと倒れこんでしまった。
フェリアの、スリープクラウドだ。
「もう少し早く効いてくれれば、よかったのだけれど」
眠りに落ちた歪虚は、既に俎上の鯉も同然である。
「私からの手向けだ……受け取れ!」
ヒースクリフが攻性強化と共に、手にした剣を斧へと変化させ、一直線に振り下ろす。
歪虚は衝撃に激しく身を震わせ……それきり、動かなくなった。
●
多少の騒動はあったものの、殆どの人間は新たに歪虚の存在を知ることは無かった。
機材が無事に守られた事で、ハンター達の行動は連合宙軍から一定の評価を得た様だった。
「これ……アンテナか?」
事件から一夜明け、回収された歪虚の骸を見て、陽は唖然とした。
歪虚の頭部の角状の突起は、皮膚と融合していながらしかし、リアルブルーの無線機のアンテナに酷似していたのだ。
「じゃ、じゃあ……ほんとに電波を、そのまんま受信してたって事ですか?」
さくらは目を丸くして、その結合部分を恐る恐る覗き込んでいる。
「進化……したのかもしれない。異世界の、異質な技術に触れて」
フェリアが、静かに口を開いた。それは考えるほどに恐ろしい、最悪の可能性。
「それで、警備隊の通信を受信し、避けながら機械を調べようとしていた、と……でも、私達もトランシーバーの電源をつけていましたが」
メープルは、その青い瞳を虚空に向けて、考えこむ様に呟く。
彼女の言葉で、陽がハッと気づいた。
「いや……そうか。トランシーバーは自分が喋る時しか電波を出さないんだ。俺達は電源はつけてたけど、それで会話はしてない」
一切電波を出さなかったことで、逆に歪虚の感知を避けることができたのだ。
だから、あんなにあっさりと包囲が成功した。
「……やれやれ、寧ろこれからが、面倒かもしれんな」
ヒースクリフはまた、ぼやく様に呟いた。
歪虚もまた、人と同じように進化する……その、事実を悟って。
一方、こちらはシバと天斗の会話。
「ほう、猟団の即応員になってくれると」
「これも何かの縁ですから」
天斗の申し出を、シバは願ってもないと受け入れた。
(「この御老人、飄々としていますが中々興味深いですね」)
そう考えながら、天斗はシバの表情を読……もうとして、それは現れたエルデに阻まれた。
「ねぇねぇねぇ、CAMはまだ来ないのっ? 仕事は終わったし、CAM本体も見学していいんでしょ?」
目を輝かす少女に気圧されつつ、シバが答える。
「あ、ああ。昨晩の内に話をつけておいたでな……」
「ホント? やった! くぅー、早く間近で見たいなぁ」
はしゃいだエルデは足取り軽く、その場を去っていく。
残された天斗とシバは、微かに苦笑を浮かべつつ、互いの顔を見合わせた。
依頼結果
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- 真実を見通す瞳
八島 陽(ka1442)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/13 14:41:46 |
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仕事の時間です 真田 天斗(ka0014) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/12/17 00:04:53 |