ゲスト
(ka0000)
実験畑の研究日誌2頁目
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/20 15:00
- 完成日
- 2014/12/28 17:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
農業魔術研究機関、ジェオルジ前領主ルーベンが実験畑の一角に陣取った研究機関。
畑と管理棟とは名ばかりの小屋が幾つも並ぶ中、深夜まで明かりの灯っている建物が一つあった。
「――……つまり?」
厳しい声が尋ねる。
「より強く動物を惹き付ける苗があれば、そちらに害獣は引き寄せられます」
「続けて」
若い研究生がごくりと喉を鳴らし、古い論文や何枚もの資料を広げて説明を続けた。
ランプが燃え尽きそうになった頃、漸く話は終わる。
「……だから、同じ作物で、片方にこの魔術を掛けた場合、害獣は全てそちらに行きます。僕がやりたい実験は、畑の一箇所だけこの魔術を掛けて、見張っておくというものです」
教授は白髪の交じり始めた髪を掻き上げ、気怠げに溜息を吐いた。そしてやはり厳しい声で告げる。
「見張りは? 1人でやるのかね」
「や、やります」
研究生が裏返った声で答え、真っ直ぐに視線を向けて頷くと、教授はこめかみを押さえ、髪を掻き毟り、深々と溜息を吐く。
「じゃ、やってみなさい――私が使っている畑が1つ開いている。北の端の畑を好きにしなさい。実験が終わったら、植えている芋を収穫しておくこと」
いいね、と言って教授は研究生を追い出して研究棟の鍵を掛けた。
広い構内を歩いて帰途に就くと、彼の目にポップな書体でカラフルなポスターが飛び込んでくる。
ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を貸しましょう!
害獣の駆除なんて、駆け出しハンターさんのいい経験です!
荒んだ戦いの日々を送るハンターさんに、癒やしの農村ライフな一時を!
片隅が剥がれ、夜露で文字を滲ませたそこに「ハンターオフィス」の文字を見つけると、教授はすぐに連絡を取った。
●
「害獣駆除の依頼ですか? 山の近くは大変ですからね!」
早とちりをして笑うのは、ポスターを貼った受付嬢。ハンターの案内人を自称する彼女は身を乗り出して、依頼にはしゃぐ。
仏頂面の教授が投げ寄越したのは、研究生が持ち込んできた古い論文だった。
「私が……若い頃に書いたものだ。実験もした。成功したが、失敗もして死にかけた」
彼女はパラパラとページを捲る。
「難しいことは、分かりませんが……害獣駆除の魔術です、よね?」
「まったく。今になって引っ張り出してこられるとは思わなかったよ」
これには大きな問題がある、と教授は言った。
山から下りてきて魔術の掛かった作物に引き寄せられた獣は、それを食い荒らしきった後どうなるか。本来の目当ての作物に行ってくれればまだマシなのだ。
「見張りをしていた私に突っ込んできたんだ、あのイノシシは」
その時の傷だと、そこだけ凹んだこめかみを押さえた。
論文として提出した時は、魔術の要素と構成のみを纏めたため、実験の結果は記載していない。研究生だった彼が当時師事していた教授に「難あり」と訴えたが、師はそれを付記せぬまま「今後の参考に」と論文を残してしまった。
そして年を経て、彼自身の弟子に渡ったというわけで。
「彼が同じ実験を……幾らか構成は変えているらしいが、誘引と退却の要因を与え……つまり、これを食べたら山に帰ると思わせる作用が有る。1つの苗で満足すれば、それだけ獣が2つ目の苗以外に目を向ける機会が増えると言うことだ」
分かるかと尋ねられると、単調な言葉に微睡んでいた案内人が姿勢を崩す。
「は、はいっ。見張りをしているお弟子さんの見張りですね! お任せ下さい」
集められたハンターは、日暮れ前に件の芋畑から少し離れた小屋に招かれた。
老齢に近い教授は筋張った頬の無精髭を撫でて彼らを見回す。分厚い眼鏡を直すと、世話を掛けると項垂れるように深く頭を垂れた。
「若い研究生の……拙い文集のようなものなんだよ、あの論文は。だから、その中の1人2人の名前が落丁していたところで、困ることなど無かったんだ」
無名の若い研究者の成果に、その著者を目の前にして、要旨のまとめ問題提起から解決策まで講じて見せた弟子を思って溜息を零す。自分でキッチリ直しておけばと、数十年前のことを今更に。
「――何故、彼を止め無いのかって?」
教授はこめかみの傷に触れた。
「私を襲ったイノシシを体当たりで弾き飛ばして、オレの時は余計に獣を呼び寄せて追い払うのに畑を焼いたさ、と、私の先生だった人に言われたからね」
脈々と継がれる研究の最先端が彼なのだから、それを止めることなどできないさと、眩しげに目を細めた。
農業魔術研究機関、ジェオルジ前領主ルーベンが実験畑の一角に陣取った研究機関。
畑と管理棟とは名ばかりの小屋が幾つも並ぶ中、深夜まで明かりの灯っている建物が一つあった。
「――……つまり?」
厳しい声が尋ねる。
「より強く動物を惹き付ける苗があれば、そちらに害獣は引き寄せられます」
「続けて」
若い研究生がごくりと喉を鳴らし、古い論文や何枚もの資料を広げて説明を続けた。
ランプが燃え尽きそうになった頃、漸く話は終わる。
「……だから、同じ作物で、片方にこの魔術を掛けた場合、害獣は全てそちらに行きます。僕がやりたい実験は、畑の一箇所だけこの魔術を掛けて、見張っておくというものです」
教授は白髪の交じり始めた髪を掻き上げ、気怠げに溜息を吐いた。そしてやはり厳しい声で告げる。
「見張りは? 1人でやるのかね」
「や、やります」
研究生が裏返った声で答え、真っ直ぐに視線を向けて頷くと、教授はこめかみを押さえ、髪を掻き毟り、深々と溜息を吐く。
「じゃ、やってみなさい――私が使っている畑が1つ開いている。北の端の畑を好きにしなさい。実験が終わったら、植えている芋を収穫しておくこと」
いいね、と言って教授は研究生を追い出して研究棟の鍵を掛けた。
広い構内を歩いて帰途に就くと、彼の目にポップな書体でカラフルなポスターが飛び込んでくる。
ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を貸しましょう!
害獣の駆除なんて、駆け出しハンターさんのいい経験です!
荒んだ戦いの日々を送るハンターさんに、癒やしの農村ライフな一時を!
片隅が剥がれ、夜露で文字を滲ませたそこに「ハンターオフィス」の文字を見つけると、教授はすぐに連絡を取った。
●
「害獣駆除の依頼ですか? 山の近くは大変ですからね!」
早とちりをして笑うのは、ポスターを貼った受付嬢。ハンターの案内人を自称する彼女は身を乗り出して、依頼にはしゃぐ。
仏頂面の教授が投げ寄越したのは、研究生が持ち込んできた古い論文だった。
「私が……若い頃に書いたものだ。実験もした。成功したが、失敗もして死にかけた」
彼女はパラパラとページを捲る。
「難しいことは、分かりませんが……害獣駆除の魔術です、よね?」
「まったく。今になって引っ張り出してこられるとは思わなかったよ」
これには大きな問題がある、と教授は言った。
山から下りてきて魔術の掛かった作物に引き寄せられた獣は、それを食い荒らしきった後どうなるか。本来の目当ての作物に行ってくれればまだマシなのだ。
「見張りをしていた私に突っ込んできたんだ、あのイノシシは」
その時の傷だと、そこだけ凹んだこめかみを押さえた。
論文として提出した時は、魔術の要素と構成のみを纏めたため、実験の結果は記載していない。研究生だった彼が当時師事していた教授に「難あり」と訴えたが、師はそれを付記せぬまま「今後の参考に」と論文を残してしまった。
そして年を経て、彼自身の弟子に渡ったというわけで。
「彼が同じ実験を……幾らか構成は変えているらしいが、誘引と退却の要因を与え……つまり、これを食べたら山に帰ると思わせる作用が有る。1つの苗で満足すれば、それだけ獣が2つ目の苗以外に目を向ける機会が増えると言うことだ」
分かるかと尋ねられると、単調な言葉に微睡んでいた案内人が姿勢を崩す。
「は、はいっ。見張りをしているお弟子さんの見張りですね! お任せ下さい」
集められたハンターは、日暮れ前に件の芋畑から少し離れた小屋に招かれた。
老齢に近い教授は筋張った頬の無精髭を撫でて彼らを見回す。分厚い眼鏡を直すと、世話を掛けると項垂れるように深く頭を垂れた。
「若い研究生の……拙い文集のようなものなんだよ、あの論文は。だから、その中の1人2人の名前が落丁していたところで、困ることなど無かったんだ」
無名の若い研究者の成果に、その著者を目の前にして、要旨のまとめ問題提起から解決策まで講じて見せた弟子を思って溜息を零す。自分でキッチリ直しておけばと、数十年前のことを今更に。
「――何故、彼を止め無いのかって?」
教授はこめかみの傷に触れた。
「私を襲ったイノシシを体当たりで弾き飛ばして、オレの時は余計に獣を呼び寄せて追い払うのに畑を焼いたさ、と、私の先生だった人に言われたからね」
脈々と継がれる研究の最先端が彼なのだから、それを止めることなどできないさと、眩しげに目を細めた。
リプレイ本文
●
教授は「まずは彼を紹介しよう」と、ハンター達を連れて小屋を出た。
無舗装の通路を数歩も行かぬうちに、ロニ・カルディス(ka0551)はこちらを向いて驚いた顔で目を見張った青年と目が合う。
「彼か?」
「ええ。君、ちょっと」
ハンター達の前に立たされた青年は、背負っていた芋の籠を下ろし、戸惑いながらも会釈をする。
ふと、ハル・シャイナー(ka0729)の頬が綻んだ。
1人で見張れと言われたところに装備を整えたハンター達を紹介されれば、それは戸惑うのだろう。彼には厳しく言いながら、自分たちに見せた柔い表情を思って目を細めた。
「よろしくお願いしますね、俺、魔法は全然わかんないけど、すごいと思うなぁ」
ハルの言葉に青年はまた目を見張って、首を傾がせる。彼の耳に覗える特徴がエルフのそれなら、人より魔術に明るくなかっただろうかと。
「それは偏見だと思います!」
ハルが肩を竦めてからりと笑う。猫と犬を傍らに連れ、エリオット・ウェスト(ka3219)が遮るように前に出た。
「僕は興味あるよ――エリオット・ウェスト。よろしく、だね。早速だけどさ、どうやって誘導しているの? これって魔法?」
知識欲が旺盛な彼は青い瞳をきらきらと輝かせる。青年に食い付いていく主人に、犬がぱたりと尻尾を振った。
ハルの連れた犬が友達だろうかとそちらを向いて、くんと鳴く。
「――畑の方を見せて頂けますか?」
若い声で交わされる楽しげな議論に口を挟めずにいた教授に、神代 誠一(ka2086)が声を掛けて促す。
「ふむ、そうでござるな。拙者も、日のある内に近くに潜んでおくでござる」
藤林みほ(ka2804)が頷き、トランシーバーの調子を確かめる。
「畑の側か?」
通信を確かめながらロニが尋ね、藤林は頷きながら、
「土に潜って草を被るでござる」
そう答えた。身を潜められそうな岩や木は山中へ入らなければ見付からない。迷彩のペイントが上手く溶け込むだろうかと、地面を眺めて腕を組んだ。
畑を、彼らを見守るように眺めながら、藤田 武(ka3286)はゆっくりと教授の後に続く。
「嬉しいことなんでしょうね」
研究を引き継いで貰うことは、とぽつり零れた独り言に、ハンター達に遅れながら着いてきた案内人が首を傾げた。その手の先にカンテラが揺れる。
藤田は独り言だとそっと首を横に、老いた教授の細い背を見詰めた。
畑近くの狭い小屋の中、小さな机が1つと植え替えの分だけ収穫した芋が籠に半分。
「では、行って参る。有事の折は連絡するので、頼んだでござる――参るぞ」
藤林が犬を連れて小屋を出る。ロニと藤田が頷き、ハルとエリオットと彼らの連れた犬が見送る。
かつての世界の教え子達と同じ年頃ながらも頼もしい相貌に、神代は「気を付けて」と声を掛けた。
研究生、教授、案内人と順に視線を移していった藤田が、「さて」と声を添えて息を吐く。
「私は、皆様の安全を第一に優先させたいと思います」
その言葉に、エリオットと議論を重ねていた研究生が弾かれたように振り返る。その視線は畑の一角へ。先刻、芋を植え替えた辺りに向いた。
「そうだな。邪魔をするつもりは無いが、出来るだけおまえの近くで待機させて貰いたい」
ロニが視線を上げると、鋭く向けられた双眸に研究生が唇を結んで頷く。
控えめに手を上げたハルが、ライラと呼ぶ彼の犬を傍らに寄せて撫でながら、それならと声を掛ける。
「魔術を使っていない方は僕が見てるよ。なるべく無事のままにしておきたいよね?」
勿論、そっちも気に掛けておくけれど。そう言って、研究生が小さく頷くとまたにこりと微笑む。
動物は光を嫌うだろうとライトをいつでも取り出せるように携え、神代は外を眺める。片手に束ねた得物も刃のないものを選んだ。
「血は流さない方が良いでしょう」
「ええ、遺骸が別の獣を呼ばないとも限りませんから」
藤田が頷き、同じライトを手にローブの袖をばさりと捲る。
「――埋葬も、出来れば場所を離した方が良いかも知れません……」
話の最中、トランシーバーに藤林が畑の側に身を潜めたという声が届いた。
最初の連絡から暫し、猫を膝に研究生と論文を広げて議論していたエリオットが、かくりと首を揺らした。
「ふわぁ、ぁあ……眠い、なぁ」
猫を片腕に立ち上がって背筋を伸ばすと、窓から畑を覗った。稚い欠伸の声に研究生が小さく笑った。口を尖らせながら、彼の緊張が解けたような笑顔を黒い窓を介して眺める。
「しょうがないよ、僕はまだ子供なんだから」
そうですね、と研究生が小屋のランプへ手を掛けた。
「そろそろここの明かりも……」
外は十分静まった、後は山を下りてきた動物を観察するだけだ。
明かりの零れる小屋があっては警戒されてしまうかも知れない。
「うん。頑張るよ――動物の行動は、さっき話した通り、だよね?」
エリオットが復唱するように研究生に尋ねると、藤林からの2度目の連絡が入った。
「――何か、出たか」
ロニがトランシーバーを取る。
「……警戒しておこう」
短く切れた通信は、兎の目撃と、その逃走。気付かれた様子は無いとのことだ。
「他の動物に追われたのかも知れないね」
何かあったら頼むよ、とハルは屈んで連れる犬の頭を撫でる。
「外、見てきますね」
ハルは藤林が潜む側の対角を指す。外を覗ってから、ライラ、と犬を呼んで出ていった。
「僕たちも――行きましょうか」
神代が小屋のドアを押さえ、夜闇の中畑へと向かうハンターを見送り、最後に資料を束ねた研究生と小屋を出た。
「実際使えるかどうかは試さないと分かりません。良いことだと思いますよ」
暗い畑を眺め研究生に告げる。瞬いて見上げ嬉しげに頬を掻いた彼を連れて畑へ向かう。
彼を待っていたロニと共に実験中の苗を眺めた。
3人の背を眺めるように教授は佇んで腕を組む。湿気た土を踏んでその横へ。藤田が教授に声を掛ける。
「痛い目に合うことも経験の一つと、伝わるとよろしいですね」
その声に教授は視線が留まっていた研究生の背から、はっと顔を上げて藤田の顔を見上げる。
「……捕獲できればですけれど。狼の尿を撒くことでも効果が期待できると思いますよ」
藤田が畑を見回し提案すると、教授も深く1つ頷いた。
「――ああ、確かに……その臭いを継続的に散布して……」
痩せた頬を撫でて考え込むように瞼を伏せ、今夜捕獲できるだろうかと、真っ暗な山を覗った。
エリオットは視界に研究生を保ち、たいまつを手に案内人を招く。光を抑えたカンテラとの距離を測り、すぐに灯せるように構える。
片腕に猫の温かな身体を抱え直すと、フリーと呼び暴れるなよと窘めた。
暗い畑から空を見上げる。暗闇の中、冬の星が眩しい程に煌めいている。
まだ現れていないのか、向こうに引き寄せられているのか、ハルが眺める辺りに動物の気配はない。時折、夜風に芋の蔓が揺れる微かな音を聞くばかりだった。
●
微かな動物の臭いを風が運ぶ。穴を数カ所掘ってみたが、一度苗を食ませなければならない実験のため、捕らえるための罠は使えない。
藤林が側に寄せた犬が警戒を示し、彼女も目を光らせて山を覗う。畑へ走った影を見つけ、すぐにトランシーバーを取った。
「降りてきたようでござる――畑に向かった……猪でござるな。拙者はまだ隠れておくでござる」
観察が目的、今追い払ってはいけないでござる……彼女の知る動物の姿よりも無警戒に畑へ走る猪を見詰め、その先に植えられた苗を覗う。どうやら誘う効果はあったようだ。
その後も集まって来る動物に釣られた研究生や教授が前へ出すぎないように、ハンター達は腕を翳して畑の前で留まらせる。
「上手くいった……のかな」
数匹の集団が捌けた跡を眺めて頬を紅潮させた研究生が呟いた。
ハルが振り返って、こっち側には来ていないと手を振った。
その成果に安堵が見え始めた瞬間、畑へ向かおうとする研究生の腕を、片手にトランシーバーを握ったロニが強く掴んだ。
「――また来ているらしい、もう少し下がっていてくれ」
「……え、でも、もう」
畑へ向けた視線、植えた苗は全て食われている。それを囓った動物は、猪も鹿も山へ引き返して行く様を確かに見た。
同じく藤林からの連絡を聞いた藤田も教授に確認する。
実験とは無関係に降りてきたものかも知れない。それなら仕方ないと溜息交じりに言って、小屋へ下がろうとした。その足を遮るように、同じ道を走って畑へ向かったと、藤林の声を聞く。
「それは……厄介なことに、なったのかも知れない」
教授の言葉に頷き、藤田は畑へ視線を向けた。
藤林の声は続く。見えた動物を猪、鹿、鹿とトランシーバーから伝え、実験継続の是非を尋ねた。
「――どっちもやらないといけないのが、つらいところでござる」
退治は過剰な動物のみ、研究生達は守らなければ。
ライラと呼んで傍らの犬に警戒させ、自身も周囲に目を凝らしてハルは藤田を振り返る。
「こっち側に来る動物はいないみたいだよ。苗の効果、続いてないかな?」
トランシーバーからの声と違わぬ動物たちが畑へ至る。そこに既に失せた物を探すように地面を嗅ぎ見つけた芋の蔓に食い付いた。
それを見つけたロニと神代が研究生へ視線を向けると、肩を震わせて唇を噛み、しゃがみ込みながら実験の中止を告げた。
その声に重なって、藤林とハルの声が響く。
「――狼が3匹そちらへ走ったでござる!」
「こっちにも何か来たみたいだよ!」
神代と藤田がライトを灯す。エリオットがたいまつを灯して猫を下ろした。震える片手には小さな銃を握っている。
ロニが槍を振りかざし、マテリアルを巡らせる光を灯して前に突き出した。
「ん……? おい!」
神代が宥めて立たせ、下がらせようとする研究生を振り返る。
光の切っ先が指す地面には食いちぎられた葉や茎が散らばっている様が窺えた。
「回収しないとっ」
慌てて飛び出そうとする研究生を腕で遮り、神代が背後へ視線を向ける。
「飛び出したら、先生が心配されますよ?」
教授の側にいた藤田と、案内人と共に合流したエリオットが左右を照らしている。
突然灯り四方を照らした光に目を眩ませ、動物たちは怯んでいる。先に追い払った方が良いだろう。
「今は下がっていてくれ」
ロニは彼らを庇える距離を測って告げた。
神代に手を借りながら研究生は教授と合流する。
見つけた何かの影が近付くにつれ、こちらへ向かって走る狼だと知ると、ハルは急いでその狼と、集まった護衛対象の間へ走った。
「間に合った、大丈夫?」
金色に染めた瞳で研究生を見詰める。脛に絡むように紋章が浮かんで消えた。
マテリアルを巡らせ、ナイフを取る。脅して追い払えたら良い、と吠え掛かる狼を睨んだ。
「うう……」
エリオットがかたかたと震える手の先、向けた銃口の狙いを定めず、ぱん、ぱんと打ち鳴らす。その音に一度は跳ね退いた狼が再び地面を蹴って飛び掛かってくる。
「うわ! うわわ――!」
装填の全てを撃ち尽くし、それでも止まらない狼に目を瞑る。マテリアルを走らせ防御の体勢を取ろうと覚醒し、背後に幻影を浮かばせるが狼の足が一歩速い。
がん、と硬い音を聞いた。目を開くと、ハルの鎧に食い付いた狼が呻りながら睨んでいる。
「良かったー……狼は、本当に危ないからね」
鎧越しに軽く衝撃が伝わったのか脇腹をさすって、ハルが安堵の息を吐いた。
唸る狼はすぐ側にいる。デバイスを介してマテリアルを走らせた。怯懦を抑え込んで狼を見据えると、背後の幻影も狼を見る。
「ガッツ!」
呼んだ犬が吠える声に合わせるように、狼へ電撃を叩き込んで、麻痺した狼が倒れると、緊張に握り締めていたたいまつを持ち直してほっと息を吐いた。
神代の得物が撓り動物の進路を薙ぐ。
「威嚇だけで済めば良いのですが……」
風を裂く高い音を鳴らし、再度動物の胴体へ叩き付けるように振り下ろす。打ち据えてしまう寸前に引き、後退する空間で振り上げる。
怯んで尚、角を揺らし突っ込もうとする鹿の傍らへ、藤田がロッドを構えて光の衝撃を落とした。
「殺してこれ以上狼を呼び寄せては事ですからね」
その光に跳ね退いた鹿が山の方へ走るのを見届け、それでも尚引かないもう1匹の鹿と猪、そしてそれを、あるいはハンター達を狙う狼へ杖を向け直す。
「抑えています。もう一度、当てないように、お願いできますか」
「ええ……そちらに集中しましょう」
背後に庇った研究生達も、ここを抑えて、逃がしきれば無事だろう。肩越しに一度振り返ってから、藤田は神代の言葉に頷いた。
藤林はぎりぎりまで山の様子を覗っていたが、灯った幾筋の光の中戦う声に被っていた草を退ける。
これだけ騒いでいればそうそう降りてくる動物もいないだろうと、騒ぎなか狼へ狙いを定める。
「……仕留めすぎるのは、良くないな」
刃の鋭い武器を見詰め呟いた。追い払わないわけにはいかないが、戦況に急ぎ仕留めるべき敵もなさそうだ。指を伸ばして風向きを探り、風下へと走った。
犬の毛並みを梳いて、ハンター達の様子を覗う。知識の中からタイミングを探り、合図を送って走らせる。
現れた犬の声に動物たちが気を取られた瞬間、棍が地面を打つ音と衝撃が、光の眩さが狼の動きを止めた。
ロニは光を灯したままの槍を横に後退し、3人の護衛に徹する。視界無いには新たな動物の姿は見えない。
「――こちらも、出てくる気配は薙いでござる」
「分かった。ここを追い払ったら……」
藤林は了解を告げ、山への警戒を保ったまま合流した。
しぶとく猪を狙っていた狼と、狙われてにらみ合っていた猪が山へ逃げると、倒れていた狼も目を覚まし、再装填された銃声に怯み、山へと走って行った。
動物の去った畑で、踏み荒らされた地面の葉や茎を回収し、芋を掘ったばかりの柔い土に植えられていた苗を根から全て引き抜いていく。
「手伝います……経験から学ばせることは大切なんですよね。でも、やっぱり教え子が大切で、心配で」
神代が何も言わずに研究生の作業を見ている教授を振り返り、研究生に柔和な笑みを向け、隣へ屈む。
「いつか……笑い話になってるといいね」
教授がハンター達に話したように、彼もいつか、彼の弟子に。このことを話す頃にはきっと。ハルは教授の横顔を見詰めて穏やかに告げる。
「今後役に立つ技術に進展してほしいですね」
怪我人はいないかと確認し終えた藤田が頷く。
「日が昇ったら、芋も掘るか」
守り切った畑を眺めてロニが呟く。
「そうですね、人手が増えて困ることはないでしょう?」
神代に問われ、好きにしなさいと教授が研究生へ告げる声は、言葉と裏腹にとても柔らかなものだった。
教授は「まずは彼を紹介しよう」と、ハンター達を連れて小屋を出た。
無舗装の通路を数歩も行かぬうちに、ロニ・カルディス(ka0551)はこちらを向いて驚いた顔で目を見張った青年と目が合う。
「彼か?」
「ええ。君、ちょっと」
ハンター達の前に立たされた青年は、背負っていた芋の籠を下ろし、戸惑いながらも会釈をする。
ふと、ハル・シャイナー(ka0729)の頬が綻んだ。
1人で見張れと言われたところに装備を整えたハンター達を紹介されれば、それは戸惑うのだろう。彼には厳しく言いながら、自分たちに見せた柔い表情を思って目を細めた。
「よろしくお願いしますね、俺、魔法は全然わかんないけど、すごいと思うなぁ」
ハルの言葉に青年はまた目を見張って、首を傾がせる。彼の耳に覗える特徴がエルフのそれなら、人より魔術に明るくなかっただろうかと。
「それは偏見だと思います!」
ハルが肩を竦めてからりと笑う。猫と犬を傍らに連れ、エリオット・ウェスト(ka3219)が遮るように前に出た。
「僕は興味あるよ――エリオット・ウェスト。よろしく、だね。早速だけどさ、どうやって誘導しているの? これって魔法?」
知識欲が旺盛な彼は青い瞳をきらきらと輝かせる。青年に食い付いていく主人に、犬がぱたりと尻尾を振った。
ハルの連れた犬が友達だろうかとそちらを向いて、くんと鳴く。
「――畑の方を見せて頂けますか?」
若い声で交わされる楽しげな議論に口を挟めずにいた教授に、神代 誠一(ka2086)が声を掛けて促す。
「ふむ、そうでござるな。拙者も、日のある内に近くに潜んでおくでござる」
藤林みほ(ka2804)が頷き、トランシーバーの調子を確かめる。
「畑の側か?」
通信を確かめながらロニが尋ね、藤林は頷きながら、
「土に潜って草を被るでござる」
そう答えた。身を潜められそうな岩や木は山中へ入らなければ見付からない。迷彩のペイントが上手く溶け込むだろうかと、地面を眺めて腕を組んだ。
畑を、彼らを見守るように眺めながら、藤田 武(ka3286)はゆっくりと教授の後に続く。
「嬉しいことなんでしょうね」
研究を引き継いで貰うことは、とぽつり零れた独り言に、ハンター達に遅れながら着いてきた案内人が首を傾げた。その手の先にカンテラが揺れる。
藤田は独り言だとそっと首を横に、老いた教授の細い背を見詰めた。
畑近くの狭い小屋の中、小さな机が1つと植え替えの分だけ収穫した芋が籠に半分。
「では、行って参る。有事の折は連絡するので、頼んだでござる――参るぞ」
藤林が犬を連れて小屋を出る。ロニと藤田が頷き、ハルとエリオットと彼らの連れた犬が見送る。
かつての世界の教え子達と同じ年頃ながらも頼もしい相貌に、神代は「気を付けて」と声を掛けた。
研究生、教授、案内人と順に視線を移していった藤田が、「さて」と声を添えて息を吐く。
「私は、皆様の安全を第一に優先させたいと思います」
その言葉に、エリオットと議論を重ねていた研究生が弾かれたように振り返る。その視線は畑の一角へ。先刻、芋を植え替えた辺りに向いた。
「そうだな。邪魔をするつもりは無いが、出来るだけおまえの近くで待機させて貰いたい」
ロニが視線を上げると、鋭く向けられた双眸に研究生が唇を結んで頷く。
控えめに手を上げたハルが、ライラと呼ぶ彼の犬を傍らに寄せて撫でながら、それならと声を掛ける。
「魔術を使っていない方は僕が見てるよ。なるべく無事のままにしておきたいよね?」
勿論、そっちも気に掛けておくけれど。そう言って、研究生が小さく頷くとまたにこりと微笑む。
動物は光を嫌うだろうとライトをいつでも取り出せるように携え、神代は外を眺める。片手に束ねた得物も刃のないものを選んだ。
「血は流さない方が良いでしょう」
「ええ、遺骸が別の獣を呼ばないとも限りませんから」
藤田が頷き、同じライトを手にローブの袖をばさりと捲る。
「――埋葬も、出来れば場所を離した方が良いかも知れません……」
話の最中、トランシーバーに藤林が畑の側に身を潜めたという声が届いた。
最初の連絡から暫し、猫を膝に研究生と論文を広げて議論していたエリオットが、かくりと首を揺らした。
「ふわぁ、ぁあ……眠い、なぁ」
猫を片腕に立ち上がって背筋を伸ばすと、窓から畑を覗った。稚い欠伸の声に研究生が小さく笑った。口を尖らせながら、彼の緊張が解けたような笑顔を黒い窓を介して眺める。
「しょうがないよ、僕はまだ子供なんだから」
そうですね、と研究生が小屋のランプへ手を掛けた。
「そろそろここの明かりも……」
外は十分静まった、後は山を下りてきた動物を観察するだけだ。
明かりの零れる小屋があっては警戒されてしまうかも知れない。
「うん。頑張るよ――動物の行動は、さっき話した通り、だよね?」
エリオットが復唱するように研究生に尋ねると、藤林からの2度目の連絡が入った。
「――何か、出たか」
ロニがトランシーバーを取る。
「……警戒しておこう」
短く切れた通信は、兎の目撃と、その逃走。気付かれた様子は無いとのことだ。
「他の動物に追われたのかも知れないね」
何かあったら頼むよ、とハルは屈んで連れる犬の頭を撫でる。
「外、見てきますね」
ハルは藤林が潜む側の対角を指す。外を覗ってから、ライラ、と犬を呼んで出ていった。
「僕たちも――行きましょうか」
神代が小屋のドアを押さえ、夜闇の中畑へと向かうハンターを見送り、最後に資料を束ねた研究生と小屋を出た。
「実際使えるかどうかは試さないと分かりません。良いことだと思いますよ」
暗い畑を眺め研究生に告げる。瞬いて見上げ嬉しげに頬を掻いた彼を連れて畑へ向かう。
彼を待っていたロニと共に実験中の苗を眺めた。
3人の背を眺めるように教授は佇んで腕を組む。湿気た土を踏んでその横へ。藤田が教授に声を掛ける。
「痛い目に合うことも経験の一つと、伝わるとよろしいですね」
その声に教授は視線が留まっていた研究生の背から、はっと顔を上げて藤田の顔を見上げる。
「……捕獲できればですけれど。狼の尿を撒くことでも効果が期待できると思いますよ」
藤田が畑を見回し提案すると、教授も深く1つ頷いた。
「――ああ、確かに……その臭いを継続的に散布して……」
痩せた頬を撫でて考え込むように瞼を伏せ、今夜捕獲できるだろうかと、真っ暗な山を覗った。
エリオットは視界に研究生を保ち、たいまつを手に案内人を招く。光を抑えたカンテラとの距離を測り、すぐに灯せるように構える。
片腕に猫の温かな身体を抱え直すと、フリーと呼び暴れるなよと窘めた。
暗い畑から空を見上げる。暗闇の中、冬の星が眩しい程に煌めいている。
まだ現れていないのか、向こうに引き寄せられているのか、ハルが眺める辺りに動物の気配はない。時折、夜風に芋の蔓が揺れる微かな音を聞くばかりだった。
●
微かな動物の臭いを風が運ぶ。穴を数カ所掘ってみたが、一度苗を食ませなければならない実験のため、捕らえるための罠は使えない。
藤林が側に寄せた犬が警戒を示し、彼女も目を光らせて山を覗う。畑へ走った影を見つけ、すぐにトランシーバーを取った。
「降りてきたようでござる――畑に向かった……猪でござるな。拙者はまだ隠れておくでござる」
観察が目的、今追い払ってはいけないでござる……彼女の知る動物の姿よりも無警戒に畑へ走る猪を見詰め、その先に植えられた苗を覗う。どうやら誘う効果はあったようだ。
その後も集まって来る動物に釣られた研究生や教授が前へ出すぎないように、ハンター達は腕を翳して畑の前で留まらせる。
「上手くいった……のかな」
数匹の集団が捌けた跡を眺めて頬を紅潮させた研究生が呟いた。
ハルが振り返って、こっち側には来ていないと手を振った。
その成果に安堵が見え始めた瞬間、畑へ向かおうとする研究生の腕を、片手にトランシーバーを握ったロニが強く掴んだ。
「――また来ているらしい、もう少し下がっていてくれ」
「……え、でも、もう」
畑へ向けた視線、植えた苗は全て食われている。それを囓った動物は、猪も鹿も山へ引き返して行く様を確かに見た。
同じく藤林からの連絡を聞いた藤田も教授に確認する。
実験とは無関係に降りてきたものかも知れない。それなら仕方ないと溜息交じりに言って、小屋へ下がろうとした。その足を遮るように、同じ道を走って畑へ向かったと、藤林の声を聞く。
「それは……厄介なことに、なったのかも知れない」
教授の言葉に頷き、藤田は畑へ視線を向けた。
藤林の声は続く。見えた動物を猪、鹿、鹿とトランシーバーから伝え、実験継続の是非を尋ねた。
「――どっちもやらないといけないのが、つらいところでござる」
退治は過剰な動物のみ、研究生達は守らなければ。
ライラと呼んで傍らの犬に警戒させ、自身も周囲に目を凝らしてハルは藤田を振り返る。
「こっち側に来る動物はいないみたいだよ。苗の効果、続いてないかな?」
トランシーバーからの声と違わぬ動物たちが畑へ至る。そこに既に失せた物を探すように地面を嗅ぎ見つけた芋の蔓に食い付いた。
それを見つけたロニと神代が研究生へ視線を向けると、肩を震わせて唇を噛み、しゃがみ込みながら実験の中止を告げた。
その声に重なって、藤林とハルの声が響く。
「――狼が3匹そちらへ走ったでござる!」
「こっちにも何か来たみたいだよ!」
神代と藤田がライトを灯す。エリオットがたいまつを灯して猫を下ろした。震える片手には小さな銃を握っている。
ロニが槍を振りかざし、マテリアルを巡らせる光を灯して前に突き出した。
「ん……? おい!」
神代が宥めて立たせ、下がらせようとする研究生を振り返る。
光の切っ先が指す地面には食いちぎられた葉や茎が散らばっている様が窺えた。
「回収しないとっ」
慌てて飛び出そうとする研究生を腕で遮り、神代が背後へ視線を向ける。
「飛び出したら、先生が心配されますよ?」
教授の側にいた藤田と、案内人と共に合流したエリオットが左右を照らしている。
突然灯り四方を照らした光に目を眩ませ、動物たちは怯んでいる。先に追い払った方が良いだろう。
「今は下がっていてくれ」
ロニは彼らを庇える距離を測って告げた。
神代に手を借りながら研究生は教授と合流する。
見つけた何かの影が近付くにつれ、こちらへ向かって走る狼だと知ると、ハルは急いでその狼と、集まった護衛対象の間へ走った。
「間に合った、大丈夫?」
金色に染めた瞳で研究生を見詰める。脛に絡むように紋章が浮かんで消えた。
マテリアルを巡らせ、ナイフを取る。脅して追い払えたら良い、と吠え掛かる狼を睨んだ。
「うう……」
エリオットがかたかたと震える手の先、向けた銃口の狙いを定めず、ぱん、ぱんと打ち鳴らす。その音に一度は跳ね退いた狼が再び地面を蹴って飛び掛かってくる。
「うわ! うわわ――!」
装填の全てを撃ち尽くし、それでも止まらない狼に目を瞑る。マテリアルを走らせ防御の体勢を取ろうと覚醒し、背後に幻影を浮かばせるが狼の足が一歩速い。
がん、と硬い音を聞いた。目を開くと、ハルの鎧に食い付いた狼が呻りながら睨んでいる。
「良かったー……狼は、本当に危ないからね」
鎧越しに軽く衝撃が伝わったのか脇腹をさすって、ハルが安堵の息を吐いた。
唸る狼はすぐ側にいる。デバイスを介してマテリアルを走らせた。怯懦を抑え込んで狼を見据えると、背後の幻影も狼を見る。
「ガッツ!」
呼んだ犬が吠える声に合わせるように、狼へ電撃を叩き込んで、麻痺した狼が倒れると、緊張に握り締めていたたいまつを持ち直してほっと息を吐いた。
神代の得物が撓り動物の進路を薙ぐ。
「威嚇だけで済めば良いのですが……」
風を裂く高い音を鳴らし、再度動物の胴体へ叩き付けるように振り下ろす。打ち据えてしまう寸前に引き、後退する空間で振り上げる。
怯んで尚、角を揺らし突っ込もうとする鹿の傍らへ、藤田がロッドを構えて光の衝撃を落とした。
「殺してこれ以上狼を呼び寄せては事ですからね」
その光に跳ね退いた鹿が山の方へ走るのを見届け、それでも尚引かないもう1匹の鹿と猪、そしてそれを、あるいはハンター達を狙う狼へ杖を向け直す。
「抑えています。もう一度、当てないように、お願いできますか」
「ええ……そちらに集中しましょう」
背後に庇った研究生達も、ここを抑えて、逃がしきれば無事だろう。肩越しに一度振り返ってから、藤田は神代の言葉に頷いた。
藤林はぎりぎりまで山の様子を覗っていたが、灯った幾筋の光の中戦う声に被っていた草を退ける。
これだけ騒いでいればそうそう降りてくる動物もいないだろうと、騒ぎなか狼へ狙いを定める。
「……仕留めすぎるのは、良くないな」
刃の鋭い武器を見詰め呟いた。追い払わないわけにはいかないが、戦況に急ぎ仕留めるべき敵もなさそうだ。指を伸ばして風向きを探り、風下へと走った。
犬の毛並みを梳いて、ハンター達の様子を覗う。知識の中からタイミングを探り、合図を送って走らせる。
現れた犬の声に動物たちが気を取られた瞬間、棍が地面を打つ音と衝撃が、光の眩さが狼の動きを止めた。
ロニは光を灯したままの槍を横に後退し、3人の護衛に徹する。視界無いには新たな動物の姿は見えない。
「――こちらも、出てくる気配は薙いでござる」
「分かった。ここを追い払ったら……」
藤林は了解を告げ、山への警戒を保ったまま合流した。
しぶとく猪を狙っていた狼と、狙われてにらみ合っていた猪が山へ逃げると、倒れていた狼も目を覚まし、再装填された銃声に怯み、山へと走って行った。
動物の去った畑で、踏み荒らされた地面の葉や茎を回収し、芋を掘ったばかりの柔い土に植えられていた苗を根から全て引き抜いていく。
「手伝います……経験から学ばせることは大切なんですよね。でも、やっぱり教え子が大切で、心配で」
神代が何も言わずに研究生の作業を見ている教授を振り返り、研究生に柔和な笑みを向け、隣へ屈む。
「いつか……笑い話になってるといいね」
教授がハンター達に話したように、彼もいつか、彼の弟子に。このことを話す頃にはきっと。ハルは教授の横顔を見詰めて穏やかに告げる。
「今後役に立つ技術に進展してほしいですね」
怪我人はいないかと確認し終えた藤田が頷く。
「日が昇ったら、芋も掘るか」
守り切った畑を眺めてロニが呟く。
「そうですね、人手が増えて困ることはないでしょう?」
神代に問われ、好きにしなさいと教授が研究生へ告げる声は、言葉と裏腹にとても柔らかなものだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/15 20:01:08 |
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若気の至り ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/20 12:48:14 |