ゲスト
(ka0000)
墓場を徘徊するものたち
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/04 15:00
- 完成日
- 2018/05/06 23:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●埋葬
その日、ある村で葬儀がしめやかに行われた。
死者は村に立ち寄っていた旅人たちだった。
村に立ち寄った当初から皆顔色が悪く、病人のようだった彼らは、そのまま回復することなく全員衰弱死した。
身寄りもなく、出生地も確認できなかったので、遺体を故郷に帰してやることもできず、結局旅人たちは誰にも見送られることもなく、村の共同墓地に葬られた。
それからしばらくして、村の中に密かに不気味な噂が流れ始めた。
いわく、夜中になると共同墓地の方から不審な物音がする。
いわく、共同墓地の墓の中で何かの呻き声が聞こえた。
いわく、墓の一部が暴かれていた。
多くは荒唐無稽な噂だったが、一部の噂については見逃せない要素があった。
死体が雑魔になって動き出すというのは実際にあることなのだ。
しかし、噂が流れているだけで実際の姿を見た者はおらず、伝聞ばかりが広まるとあって、村長はこれ以上無駄に村人たちの不安を煽ることを嫌い、緘口令を敷いた。
そして、自ら村人たちの中から立候補を募り、墓場で真相を確かめることにした。
だが誰も立候補してこない。
皆すっかり墓場で何が起きているかに怯え、怖気付いてしまっていたのだ。
一般人で、しかも戦える者もろくにいない村では無理もないことだった。
「仕方ない……。ワシ一人でも行くぞ!」
村人たちは絶対に止めた方がいいと止めたが、意固地になった村長は夜になるとスコップと松明を抱えて墓場へ向かってしまった。
●村長は見た
墓場というものは、たとえ訪れた時期が昼であっても、不思議な不気味さというべきものがある。
それはおそらく、墓場という存在そのものが、明確に死というものを意識させるからだろう。
リアルブルーの西洋式に近い墓は一つ一つが小さく、それで視界を遮られるということはなかったが、それ故に何か異常があればすぐ気付けてしまう。
さすがにこれ見よがしに人魂が浮いていたり死体が出歩いていたりなどということはなかったが、夜の墓地というのは殊更に不気味で、長くいたいと思えるような場所ではない。
出かけた当初の勇ましさはどこへやら、村長はすっかり萎縮してビクビクしながら墓地を見て回っている。
「ない、ない、ない、何も無いぞ……何も無いに決まっとる。この村はワシが幼い頃から過ごした村なんじゃ。異常なんてあるものか」
ぶつぶつと呟きながら、村長は歩く。
暖かくなってきたとはいえまだまだ夜は肌寒く、長い間外にいたら風邪を引いてしまうかもしれない。
嫌な目に遭ってなおかつ体調を崩しては踏んだり蹴ったりだ。
村長はさっさと見回りを終えて家に帰りたいと思うようになっていた。
次第に早足になる村長の耳に、何か重いものを手で叩いたかのような、小さな物音がした。
びくりと身体を震わせた村長が松明をかざして周りを見回すものの、揺らめく火が照らす範囲に不審な点は見られない。
いや、よく見れば、いくつか違う箇所があった。
旅人たちを埋葬した墓の、ちょうど棺を埋めた場所の土に、それぞれ割れ目ができている。
獣などに掘り返されないように固く踏み固められた地面にできた割れ目は、まるで中で誰かが這い出ようともがいた跡であるかのようだった。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な、そんなことあるわけがない……! この平和な村に、こんな異常なんか……!」
事実を認めることを恐れた村長は、その異常を見なかったことにしてしまった。
●ひび割れた地面
自らが見たものを誰にも話さなかった村長だが、翌日には村中に噂が広まっていた。
よく考えれば当然の話で、共同墓地は管理者がおり、その管理者は村長ではない。
村長が秘密にしていても、朝になって墓地の様子に管理者が気付けば同じことだった。
口止めしておくべきだったと後悔するも、もう遅い。
この間埋葬した旅人たちの死体を確認するべきだという意見と、地面をもう一度踏み固めておくべきだという意見に、村は真っ二つに別れた。
共同墓地の管理者は確認派で村長は踏み固めておく派。本来なら協力して事態解決に動くべき二人の意見が、見事に食い違ってしまった。
これでは意見など纏まらない。
「もうこんな話し合いなどしていられるものか! 俺は掘り返すぞ!」
管理者が痺れを切らして強行しようとすれば、村長も力尽くで止めようとする。
「止めるんじゃ! 出ようとしているものを掘り起こしてどうする! ここは出れないようにしておくべきじゃろう!」
村人たちも村長と管理者の二人にそれぞれ別々に賛同するので、余計意見が纏まらない。
「掘り返すなら協力するぜ!」
「上に墓石をもう一つ乗せておくのはどうだ! きっと出れないんじゃないのか!?」
結局意見は最後まで纏まらず、村全体としての方針は固まらなかった。
そして再び夜が来た。
●墓穴から這い出るもの
真夜中、村長と管理者が共同墓地の前で睨み合っていた。
もはや当初の目的を見失い、いかに相手の足を引っ張るかをばかり考えている。
だがいつまでもこうしているわけにはいかないことも二人は理解しており、お互いを強く睨むと、嫌々ながらともに墓地に足を踏み入れた。
以前に見た時と変わらない、暗い墓地。
村長も管理者も、お互いの息遣いにすら怯えながら、必要以上に辺りを警戒して歩いている。
「何じゃ! 今の音は!」
「おい、今何か横切らなかったか!」
夜という暗闇に支配された不確かな視界は村長と管理者に思い込みを与え、あるはずもないものを、あたかも実際にいるかのように思い込ませ始める。
半分駆け足のようになりながら、村長と管理者は旅人たちを埋葬した墓に着いた。
土の下から何かを叩く音がする。
土の下から掘り進めているかのような音までする。
思わずといった様子で管理者が後退り、村長もそれに続く。
ついに、ぼこりと音を立てて腕が突き出た。
一本、二本と出た腕は、地面を引っかきさらに掘り崩していく。
白く濁った眼球と、土気色の肌が見えた。
回りを見渡せば、旅人たちの墓全てから、同じように死者が這い出てきている。
「ぎゃああああああああ!」
「うわああああああああ!」
今度こそ、村長と管理者は仲良く逃げ帰り、ハンターズソサエティに一報を入れたのだった。
●ハンターズソサエティ
いつものように依頼を整理していた受付嬢が、新規の依頼に手をつけ読み始めたかと思うと、立ち上がってハンターたちの下へとやってきた。
こういうパターンの場合は、緊急性の高い依頼を斡旋されることがある。
大いにハンターたちは身構えた。
「事件です。とある村の墓地に雑魔が発生しました。発生した雑魔は、いわゆるゾンビと呼ばれるものです。元は身元不明の旅人たちで、死んだと判断され埋葬された後で転化したようですね。早急に赴き、退治してください」
それは大変だと、複数のハンターたちが立ち上がった。
その日、ある村で葬儀がしめやかに行われた。
死者は村に立ち寄っていた旅人たちだった。
村に立ち寄った当初から皆顔色が悪く、病人のようだった彼らは、そのまま回復することなく全員衰弱死した。
身寄りもなく、出生地も確認できなかったので、遺体を故郷に帰してやることもできず、結局旅人たちは誰にも見送られることもなく、村の共同墓地に葬られた。
それからしばらくして、村の中に密かに不気味な噂が流れ始めた。
いわく、夜中になると共同墓地の方から不審な物音がする。
いわく、共同墓地の墓の中で何かの呻き声が聞こえた。
いわく、墓の一部が暴かれていた。
多くは荒唐無稽な噂だったが、一部の噂については見逃せない要素があった。
死体が雑魔になって動き出すというのは実際にあることなのだ。
しかし、噂が流れているだけで実際の姿を見た者はおらず、伝聞ばかりが広まるとあって、村長はこれ以上無駄に村人たちの不安を煽ることを嫌い、緘口令を敷いた。
そして、自ら村人たちの中から立候補を募り、墓場で真相を確かめることにした。
だが誰も立候補してこない。
皆すっかり墓場で何が起きているかに怯え、怖気付いてしまっていたのだ。
一般人で、しかも戦える者もろくにいない村では無理もないことだった。
「仕方ない……。ワシ一人でも行くぞ!」
村人たちは絶対に止めた方がいいと止めたが、意固地になった村長は夜になるとスコップと松明を抱えて墓場へ向かってしまった。
●村長は見た
墓場というものは、たとえ訪れた時期が昼であっても、不思議な不気味さというべきものがある。
それはおそらく、墓場という存在そのものが、明確に死というものを意識させるからだろう。
リアルブルーの西洋式に近い墓は一つ一つが小さく、それで視界を遮られるということはなかったが、それ故に何か異常があればすぐ気付けてしまう。
さすがにこれ見よがしに人魂が浮いていたり死体が出歩いていたりなどということはなかったが、夜の墓地というのは殊更に不気味で、長くいたいと思えるような場所ではない。
出かけた当初の勇ましさはどこへやら、村長はすっかり萎縮してビクビクしながら墓地を見て回っている。
「ない、ない、ない、何も無いぞ……何も無いに決まっとる。この村はワシが幼い頃から過ごした村なんじゃ。異常なんてあるものか」
ぶつぶつと呟きながら、村長は歩く。
暖かくなってきたとはいえまだまだ夜は肌寒く、長い間外にいたら風邪を引いてしまうかもしれない。
嫌な目に遭ってなおかつ体調を崩しては踏んだり蹴ったりだ。
村長はさっさと見回りを終えて家に帰りたいと思うようになっていた。
次第に早足になる村長の耳に、何か重いものを手で叩いたかのような、小さな物音がした。
びくりと身体を震わせた村長が松明をかざして周りを見回すものの、揺らめく火が照らす範囲に不審な点は見られない。
いや、よく見れば、いくつか違う箇所があった。
旅人たちを埋葬した墓の、ちょうど棺を埋めた場所の土に、それぞれ割れ目ができている。
獣などに掘り返されないように固く踏み固められた地面にできた割れ目は、まるで中で誰かが這い出ようともがいた跡であるかのようだった。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な、そんなことあるわけがない……! この平和な村に、こんな異常なんか……!」
事実を認めることを恐れた村長は、その異常を見なかったことにしてしまった。
●ひび割れた地面
自らが見たものを誰にも話さなかった村長だが、翌日には村中に噂が広まっていた。
よく考えれば当然の話で、共同墓地は管理者がおり、その管理者は村長ではない。
村長が秘密にしていても、朝になって墓地の様子に管理者が気付けば同じことだった。
口止めしておくべきだったと後悔するも、もう遅い。
この間埋葬した旅人たちの死体を確認するべきだという意見と、地面をもう一度踏み固めておくべきだという意見に、村は真っ二つに別れた。
共同墓地の管理者は確認派で村長は踏み固めておく派。本来なら協力して事態解決に動くべき二人の意見が、見事に食い違ってしまった。
これでは意見など纏まらない。
「もうこんな話し合いなどしていられるものか! 俺は掘り返すぞ!」
管理者が痺れを切らして強行しようとすれば、村長も力尽くで止めようとする。
「止めるんじゃ! 出ようとしているものを掘り起こしてどうする! ここは出れないようにしておくべきじゃろう!」
村人たちも村長と管理者の二人にそれぞれ別々に賛同するので、余計意見が纏まらない。
「掘り返すなら協力するぜ!」
「上に墓石をもう一つ乗せておくのはどうだ! きっと出れないんじゃないのか!?」
結局意見は最後まで纏まらず、村全体としての方針は固まらなかった。
そして再び夜が来た。
●墓穴から這い出るもの
真夜中、村長と管理者が共同墓地の前で睨み合っていた。
もはや当初の目的を見失い、いかに相手の足を引っ張るかをばかり考えている。
だがいつまでもこうしているわけにはいかないことも二人は理解しており、お互いを強く睨むと、嫌々ながらともに墓地に足を踏み入れた。
以前に見た時と変わらない、暗い墓地。
村長も管理者も、お互いの息遣いにすら怯えながら、必要以上に辺りを警戒して歩いている。
「何じゃ! 今の音は!」
「おい、今何か横切らなかったか!」
夜という暗闇に支配された不確かな視界は村長と管理者に思い込みを与え、あるはずもないものを、あたかも実際にいるかのように思い込ませ始める。
半分駆け足のようになりながら、村長と管理者は旅人たちを埋葬した墓に着いた。
土の下から何かを叩く音がする。
土の下から掘り進めているかのような音までする。
思わずといった様子で管理者が後退り、村長もそれに続く。
ついに、ぼこりと音を立てて腕が突き出た。
一本、二本と出た腕は、地面を引っかきさらに掘り崩していく。
白く濁った眼球と、土気色の肌が見えた。
回りを見渡せば、旅人たちの墓全てから、同じように死者が這い出てきている。
「ぎゃああああああああ!」
「うわああああああああ!」
今度こそ、村長と管理者は仲良く逃げ帰り、ハンターズソサエティに一報を入れたのだった。
●ハンターズソサエティ
いつものように依頼を整理していた受付嬢が、新規の依頼に手をつけ読み始めたかと思うと、立ち上がってハンターたちの下へとやってきた。
こういうパターンの場合は、緊急性の高い依頼を斡旋されることがある。
大いにハンターたちは身構えた。
「事件です。とある村の墓地に雑魔が発生しました。発生した雑魔は、いわゆるゾンビと呼ばれるものです。元は身元不明の旅人たちで、死んだと判断され埋葬された後で転化したようですね。早急に赴き、退治してください」
それは大変だと、複数のハンターたちが立ち上がった。
リプレイ本文
●戦闘開始
付近の街の転移門から村に急行し、墓場に到着したハンターたちは、迷わず四手に分かれる。
ハンターズソサエティから現場であるこの村に到着するまでの間に、既に打ち合わせを終えてあるのだ。
後は行動あるのみである。
「手はず通りいきましょう! ヴァイスさん、よろしくお願いします!」
「ああ、前衛は任せろ! 俺の後ろには一匹たりとも通さんよ!」
北側に向かうのはマリエル(ka0116)とヴァイス(ka0364)の二名だ。
「わたくしたちもさっさと向かいやがりますよ! 迷える魂に救いの鉄拳をお見舞いしやがるです!」
「わわ、待ってください! 今灯りを用意しますから!」
東側を担当するシレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)の凸凹コンビが賑やかに、しかし迷いなく墓場に突入していった。
「レイア、私たちも行くわよ。さっさと倒してさっさと帰るに限るわ」
「私が先行しよう。真夕は後ろから周囲を照らしてくれ」
凛々しい二人組み七夜・真夕(ka3977)とレイア・アローネ(ka4082)は、急ぎながらも冷静に回りを警戒しながら西へと向かう。
「要はゾンビを倒して墓場の掃除をすればいいんでしょ? そんなの簡単よ」
「さーて、俺らは南側やな。エリちゃん、よろしゅうになー」
残るエリ・ヲーヴェン(ka6159)とスマイリー・ドク(ka7082)も、自分たちが担当する南へと踏み込んでいく。
アイテムや魔法によって生み出されたいくつもの光源が、闇を照らし四方へと散っていった。
後はただ、墓場には静寂と静かな闘争の気配が漂うのみ。
さあ、戦いの始まりだ!
●墓場北側の戦い
しばらく歩いたマリエルとヴァイスだったが、急いできた割には中々ゾンビと遭遇しなかった。
灯りがあり、ある程度見晴らしがいいとはいっても、それなりに死角は存在するので一つ一つ確認するのに時間がかかるのだ。
「うひゃっ! で、出ましたぁ!」
「慌てるな、俺が始末してやる!」
さっそく見つけた一匹目を、走り寄ったヴァイスがその勢いのままに七支槍で刺し貫く。
ゾンビにというより夜の墓場という雰囲気に怯えるマリエルに対し、対処するヴァイスは落ち着いたものだ。
マリエルが援護する間もない早業で、それだけでヴァイスの高い技量が窺える。
対応の速さに差があるのは両者の性格の違いというのももちろんあるが、この場合はそれよりも同行者の怖がり様を見ているのでかえって冷静になっているというのが、理由としてはより近いかもしれない。
「残るは一匹か。近くにはいるはずなんだが……」
「どこですか、ゾンビさ……」
己の刀の切っ先に光を灯し、それを光源としていたマリエルの言葉が途切れる。
墓石の影からぬっと顔を出す腐った死体と目が合ったのだ。ゾンビ自体は怖くないとはいっても、不意討ちでいきなり腐った顔面を見せつけられたら普通は驚く。
光がゾンビの腐った顔面を煌々と照らし出した。
「はにゃああああああああ!?」
「ちっ、逆を突かれたか!」
驚いて奇声を上げるマリエルを追い抜き、ヴァイスがゾンビとマリエルの間に割り込む。
「一度距離を取れ、マリエル!」
身体から立ち上る紅蓮のオーラをいっそう激しく燃え上がらせ、それによってゾンビたちの注意を引きつけたヴァイスが叫ぶ。
しかし、反射的にマリエルが選んだのは攻撃だった。
「擬似接続開始。コード「天照」。イミテーション『トツカノツルギ』!」
目をぐるぐるにしながらも、虚空に浮かんだ幻影のキーボードのキーをタッチして入力する。
それによって生み出された光を纏った巨大な剣が周囲をなぎ払い、ゾンビだけを斬り払った。
残されたのは灰が散るように消えていくゾンビの死骸と、すぐ側でゾンビの気を引いていたために、攻撃の余波で飛び散ったゾンビの腐敗した諸々を浴びたヴァイスだった。
●墓場東側の戦い
索敵中に、突然シレークスが妙なことを口走った。
「サクラ。わたくしは猛烈に嫌な予感がしやがります」
「えっ。どういうことですかシレークスさん」
驚くサクラにシレークスは答えない。
当然だ。シレークスとて、確たるものがあったわけではない。ただ、たった今誰かが酷い目に遭って、自分もこれから酷い目に遭う、そんな気がしただけだ。
普段なら近付いてボコボコ、もとい接近戦を挑むところだが、そうすれば予感が現実となるのは自明の理。
彼女の身体は炎のようなオーラに包まれている。この輝きで、ゾンビを釣り出す作戦である。
しかしそれは諸刃の剣でもあるのだ。
今回はどうしたものかとへの字口になったシレークスの頭上に、何か生暖かい液体が降り掛かった。
脅威は全く感じられない。ただ猛烈に臭いのみである。
遠距離から飛んできたゾンビのゲロを頭から浴びたのだと気付いたシレークスが、それはそれは美しい聖母のような微笑みを浮かべた。
その笑顔を見たサクラは何故か絶句している。
「えぇい、きたねぇもんを撒き散らすんじゃねぇです!」
「ぼ、墓石を投げるのはダメですううううう!」
頭にきたシレークスが近くにあった墓石を引っこ抜こうとするのを、サクラは必死に止めた。
なおも飛んでくるゲロを、シレークスは盾で受けて防ぐ。
「サクラ、行きやがりますよ! 飛んできた方向で位置はバレバレです!」
「シレークスさん、速攻で倒してお風呂に入りましょう……。この臭いは不快すぎます……!」
走り出すシレークスの後を、サクラは鼻を押さえて追いかける。
辺りにはゾンビが飛ばしてきた腐ったゲロによる悪臭が漂っている。そして、サクラとしては言い辛いが、ゲロを浴びたシレークスからも同じ臭いがする。
二人の目に映ったのは、今にも新たなゲロを放とうとしている二匹のゾンビだった。
「くたばりやがれえええええええ!」
「物理的なダメージより、これは精神的ダメージの方が強い気がしますね……!」
機甲拳鎚で放った鉄拳がゾンビの胸元に吸い込まれ、その背中にシレークス自慢の光のシンボルを浮かび上がらせ、偽りの生を停止させる。
おしとやかさをかなぐり捨てているシレークスの言動に驚くこともなく、サクラは残る一匹を魔法で生み出した光り輝く聖なる弾で撃ち抜いた。
●墓場西側の戦い
西側ではシチュエーションに若干ワクワクしている表情の真夕と、げんなりしているレイアの表情が対照的だった。
「夜中のお墓……それに相手がゾンビとか出てくれって言わんばかりよね」
「全くだな。それはそれとして、以前似たような汚れ仕事をした気がするんだが、気のせいか」
突然飛び出して掴み掛かってきたゾンビを、真夕は素早く飛び退いてかわした。
同時にレイアが体内のマテリアルを活性化させてオーラを炎上させ、その眩い輝きでゾンビの目を引き付ける。
その隙に、真夕は現れたゾンビから距離を取った。
「危ない危ない。捕まったら何されるか分かったものじゃないし、油断大敵ね」
間一髪だったとでもいうように額の汗を拭う仕草をする真夕だが、ゾンビの動作は鈍く、明らかに真夕の態度には余裕があった。
それこそ、ゾンビに対して大きく距離を開けることが可能なほどに。
「真夕? 襲われかけた後で警戒するのは当然だが、ちょっと後ろに離れ過ぎてはいないか?」
背後にジト目を送るレイアだが、真夕はにっこりと微笑むばかりだ。
「気のせいよ。私、援護するから相手お願いね」
「……うむ」
何だか釈然としない面持ちながらも、レイアは意識を戦闘用に切り替え、ゾンビと相対した。
レイアがその気になれば、ゾンビなど敵ではない。
その時、レイアの鋭敏な感覚が、暗がりに潜むゾンビを捉える。
「そこの墓石の影にもう一体いるぞ。気をつけろ」
「え!? 本当だ! あんなところにも!」
魔法で生み出した小さな光を向けた真夕が驚き、警戒する。
最初に襲ってきたゾンビはレイアに注意を引き付けられており、後からレイアが発見したゾンビは真夕を狙いの対象に絞る。
のろのろとした動きで近寄ってきても二人は冷静さを崩さない。
見た目と臭いによる嫌悪感は強いが、経験を積んだハンターならばゾンビは敵としての格が正直な話低い相手だ。
とはいえあまり長い間相手にしたい敵でもないので、レイアは意識を攻めに注力して一気に勝負を仕掛ける。
嫌な臭いが鼻につくも、真夕が巻き起こす風が臭いを吹き飛ばす。
レイアのオーラの輝きに引き寄せられるゾンビを真夕が炎の矢で射抜き炎上させ、その真夕に這い寄るゾンビへレイアが魔導剣を振り上げ頭部に渾身の一撃を叩き込んだ。
●墓場南側の戦い
エリとドクのコンビは、二匹のゾンビのうち一匹を発見していた。
そのゾンビは既に二人に気付いていて、ゲロにしか見えない胃酸混じりの腐った消化液を口から噴射して二人に浴びせようとしてくる。
もちろん、不意討ちでなければそう簡単に当たるものではないが、着弾箇所や飛まつから立ち上る臭いだけはどうしようもない。
「汚い! ありえないわ、こんなの! 最低の気分よ!!!」
「場末の居酒屋とかでゲロの臭いは嗅ぎなれとるけど……それ以上にキッツイのう。腐っとるからやろか」
ブチ切れ始めたエリの横で、ドクはスマイリーというその名に相応しく微笑んだように見える顔立ちのまま、どこか暢気に口元を緩ませている。
軽い口調のドクをエリがぎろりと睨んだ。
「ドク! さっさと片付けるわよ! 援護しなさい!」
「へいへいっと。仰せのままに、お嬢様」
あくまで軽い口調や表情は崩さずに、しかしドクの笑顔が凄みを帯びる。臨戦態勢に入ったのだ。
しかし何かに気付いたドクはハッとした表情を浮かべると先行するエリを追いかけ始めた。
当然、前を行くエリもドクに気付いて言い合いになる。
「って、何前出てきてんのよ! ドクの役割は後方支援だってば! 前衛は私に任せなさい!」
「せやかて、横、横!」
振り向いたエリの側面に、いつの間にか二匹目のゾンビが現れていた。
どうやら、地面に倒れていて後から立ち上がったため、気付くのが遅れたようだ。
慌てて回避行動を取ろうとするエリだが間に合わず、ゾンビに抱きつかれる。
横を見ればドクが一匹目のゾンビをメイスで殴打するも仕留めきれずに、顔面を舐め回された挙句同じように拘束されていた。
そしてガパッと開けられる二匹のゾンビの口。
自分たちの未来を悟って青褪めるエリとドクの顔色。
おろおろおろおろと緑と茶色が交じり合った謎の液体が二人にぶっ掛けられた。
「あんぎゃあああああああああ!?」
「おわあああああああああああ!?」
エリにとっては被害は皆無といっていいが、あくまでそれは肉体的なものである。
精神的にはかなりの被害を被った。
そしてドクにとっては、肉体的にも結構痛い。
すぐに振り解いたドクだったが、エリはゲロを浴びせられたショックで魂が抜けているかのように呆然としていて、抜け出す様子を見せない。
傷を庇いながら必死にドクが一人で応戦していたところに、救いの手が差し伸べられた。
担当するゾンビたちを倒し終えた仲間たちが応援に現れたのだ。
ヴァイスの刺突が、シレークスの拳が、サクラの光の弾が、真夕の炎の矢が、レイアの魔法剣がゾンビ二匹に襲い掛かる。
同時にマリエルがエリを救助し、ドクの傷を治療させた。
復讐の炎を瞳に灯したエリが遅れてたまるかとばかりにランスを構えて再突撃し、その背をやれやれと苦笑しながら快癒したドクが守りに行く。
こうして二匹のゾンビはハンターたちによって始末され、騒動は集結を迎えたのである。
●戦闘終了
死者の供養等後始末を終えてハンターズソサエティに戻ってきた一行を、受付嬢の営業スマイルが出迎えた。
「お疲れ様でした。共同浴場の手配、終わってますよ。今日一日貸し切りにしてありますので、皆さんでゆっくりしてらしたら如何でしょうか」
マリエルがヴァイスに申し訳なさそうな視線を向けた。
ゾンビを狙った攻撃の余波で、ヴァイスにゾンビの汚物を浴びせてしまったためだ。
「……ええと、ごめんなさい」
「いや、いい。こんなもの、洗えば落ちる」
対するヴァイスは気にした様子を見せない。
取り繕っているのではなく、本心だった。
現に、ゾンビの肉片などといったものは雲散霧消し、ヴァイスに残っているのはせいぜいが染みと臭いくらいで、ヴァイスは全く気にしていない。
そんなことよりも、蔓延るゾンビたちを退治できたか。そちらの方が大切なのだ。
「さっさと汚れを流しやがります! いい加減臭いが! 臭いが!」
「共同浴場、今日だけは私たちの貸切ですって。良かったです」
嘆くシレークスとは反対に、サクラは少し嬉しそうだ。
広い共同浴場を、八人で独占できるのである。
しかも、男女別に分かれているから、実質的には二つの浴場を六人と二人だ。女性の方が多いが、それでも十分だろう。
「これで、死んだ旅人の方々も、安らかに眠れるでしょうね……良かったわ」
真夕は犠牲になった人々の安寧を願い、祈りを捧げる。
それと同じくらい、真夕は真剣にお風呂を楽しみにしていたりするが、まあ年頃の少女なので仕方ない。
「あの受付嬢、酷い臭いにも眉一つ顰めなかったぞ。それでうさんくさく見えるのが謎だな……」
呆れた表情で、レイアが呻く。
レイアは戻ってきた自分たちの惨状に、もし受付嬢が引いた素振りを見せればジト目で睨もうと思っていたのだが、全くそんな素振りが見られなかったので当てが外れたのだ。
「こんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかった」
呪詛のように呟くエリは、頭からゾンビの吐いたゲロのような腐った消化液を浴び続けたおかげで全身酷い惨状になっていた。
服は念入りな洗濯が必要だろうし、装備も丸洗いする必要があるだろう。何より身体に染み付いた臭いを消すのに、どれほどの時間が必要だろうか。
あれほどの攻撃を受け続けても、肉体的には全く問題ないのがまた憎たらしい。
「まあ、俺たちはまだまだ修行が足らんちゅうこったな」
軽い口調で自らの惨状を笑い飛ばすドクはあっけらかんとしている。
ドクもまたエリと同じように中々の惨状に加え、肉体的にもかなり負傷したのだが、それはマリエルの治療もあって全快しているし、戦闘中でも自分で応急処置はしていた。
汚れに関してはあまり気にしていない。精神的苦痛よりも、肉体的苦痛の方が痛かったくらいだ。
そしてドクが前途有望なハンターであることも間違いない。エリがショックで行動不能になっている間、皆が来るまでドクが場を支え続けたのは確かなのだから。
多少の蛇足を挟み、今回の依頼は終わりを迎える。
八人のハンターたちは、ハンターズソサエティを出て共同浴場へと向かっていった。
付近の街の転移門から村に急行し、墓場に到着したハンターたちは、迷わず四手に分かれる。
ハンターズソサエティから現場であるこの村に到着するまでの間に、既に打ち合わせを終えてあるのだ。
後は行動あるのみである。
「手はず通りいきましょう! ヴァイスさん、よろしくお願いします!」
「ああ、前衛は任せろ! 俺の後ろには一匹たりとも通さんよ!」
北側に向かうのはマリエル(ka0116)とヴァイス(ka0364)の二名だ。
「わたくしたちもさっさと向かいやがりますよ! 迷える魂に救いの鉄拳をお見舞いしやがるです!」
「わわ、待ってください! 今灯りを用意しますから!」
東側を担当するシレークス(ka0752)とサクラ・エルフリード(ka2598)の凸凹コンビが賑やかに、しかし迷いなく墓場に突入していった。
「レイア、私たちも行くわよ。さっさと倒してさっさと帰るに限るわ」
「私が先行しよう。真夕は後ろから周囲を照らしてくれ」
凛々しい二人組み七夜・真夕(ka3977)とレイア・アローネ(ka4082)は、急ぎながらも冷静に回りを警戒しながら西へと向かう。
「要はゾンビを倒して墓場の掃除をすればいいんでしょ? そんなの簡単よ」
「さーて、俺らは南側やな。エリちゃん、よろしゅうになー」
残るエリ・ヲーヴェン(ka6159)とスマイリー・ドク(ka7082)も、自分たちが担当する南へと踏み込んでいく。
アイテムや魔法によって生み出されたいくつもの光源が、闇を照らし四方へと散っていった。
後はただ、墓場には静寂と静かな闘争の気配が漂うのみ。
さあ、戦いの始まりだ!
●墓場北側の戦い
しばらく歩いたマリエルとヴァイスだったが、急いできた割には中々ゾンビと遭遇しなかった。
灯りがあり、ある程度見晴らしがいいとはいっても、それなりに死角は存在するので一つ一つ確認するのに時間がかかるのだ。
「うひゃっ! で、出ましたぁ!」
「慌てるな、俺が始末してやる!」
さっそく見つけた一匹目を、走り寄ったヴァイスがその勢いのままに七支槍で刺し貫く。
ゾンビにというより夜の墓場という雰囲気に怯えるマリエルに対し、対処するヴァイスは落ち着いたものだ。
マリエルが援護する間もない早業で、それだけでヴァイスの高い技量が窺える。
対応の速さに差があるのは両者の性格の違いというのももちろんあるが、この場合はそれよりも同行者の怖がり様を見ているのでかえって冷静になっているというのが、理由としてはより近いかもしれない。
「残るは一匹か。近くにはいるはずなんだが……」
「どこですか、ゾンビさ……」
己の刀の切っ先に光を灯し、それを光源としていたマリエルの言葉が途切れる。
墓石の影からぬっと顔を出す腐った死体と目が合ったのだ。ゾンビ自体は怖くないとはいっても、不意討ちでいきなり腐った顔面を見せつけられたら普通は驚く。
光がゾンビの腐った顔面を煌々と照らし出した。
「はにゃああああああああ!?」
「ちっ、逆を突かれたか!」
驚いて奇声を上げるマリエルを追い抜き、ヴァイスがゾンビとマリエルの間に割り込む。
「一度距離を取れ、マリエル!」
身体から立ち上る紅蓮のオーラをいっそう激しく燃え上がらせ、それによってゾンビたちの注意を引きつけたヴァイスが叫ぶ。
しかし、反射的にマリエルが選んだのは攻撃だった。
「擬似接続開始。コード「天照」。イミテーション『トツカノツルギ』!」
目をぐるぐるにしながらも、虚空に浮かんだ幻影のキーボードのキーをタッチして入力する。
それによって生み出された光を纏った巨大な剣が周囲をなぎ払い、ゾンビだけを斬り払った。
残されたのは灰が散るように消えていくゾンビの死骸と、すぐ側でゾンビの気を引いていたために、攻撃の余波で飛び散ったゾンビの腐敗した諸々を浴びたヴァイスだった。
●墓場東側の戦い
索敵中に、突然シレークスが妙なことを口走った。
「サクラ。わたくしは猛烈に嫌な予感がしやがります」
「えっ。どういうことですかシレークスさん」
驚くサクラにシレークスは答えない。
当然だ。シレークスとて、確たるものがあったわけではない。ただ、たった今誰かが酷い目に遭って、自分もこれから酷い目に遭う、そんな気がしただけだ。
普段なら近付いてボコボコ、もとい接近戦を挑むところだが、そうすれば予感が現実となるのは自明の理。
彼女の身体は炎のようなオーラに包まれている。この輝きで、ゾンビを釣り出す作戦である。
しかしそれは諸刃の剣でもあるのだ。
今回はどうしたものかとへの字口になったシレークスの頭上に、何か生暖かい液体が降り掛かった。
脅威は全く感じられない。ただ猛烈に臭いのみである。
遠距離から飛んできたゾンビのゲロを頭から浴びたのだと気付いたシレークスが、それはそれは美しい聖母のような微笑みを浮かべた。
その笑顔を見たサクラは何故か絶句している。
「えぇい、きたねぇもんを撒き散らすんじゃねぇです!」
「ぼ、墓石を投げるのはダメですううううう!」
頭にきたシレークスが近くにあった墓石を引っこ抜こうとするのを、サクラは必死に止めた。
なおも飛んでくるゲロを、シレークスは盾で受けて防ぐ。
「サクラ、行きやがりますよ! 飛んできた方向で位置はバレバレです!」
「シレークスさん、速攻で倒してお風呂に入りましょう……。この臭いは不快すぎます……!」
走り出すシレークスの後を、サクラは鼻を押さえて追いかける。
辺りにはゾンビが飛ばしてきた腐ったゲロによる悪臭が漂っている。そして、サクラとしては言い辛いが、ゲロを浴びたシレークスからも同じ臭いがする。
二人の目に映ったのは、今にも新たなゲロを放とうとしている二匹のゾンビだった。
「くたばりやがれえええええええ!」
「物理的なダメージより、これは精神的ダメージの方が強い気がしますね……!」
機甲拳鎚で放った鉄拳がゾンビの胸元に吸い込まれ、その背中にシレークス自慢の光のシンボルを浮かび上がらせ、偽りの生を停止させる。
おしとやかさをかなぐり捨てているシレークスの言動に驚くこともなく、サクラは残る一匹を魔法で生み出した光り輝く聖なる弾で撃ち抜いた。
●墓場西側の戦い
西側ではシチュエーションに若干ワクワクしている表情の真夕と、げんなりしているレイアの表情が対照的だった。
「夜中のお墓……それに相手がゾンビとか出てくれって言わんばかりよね」
「全くだな。それはそれとして、以前似たような汚れ仕事をした気がするんだが、気のせいか」
突然飛び出して掴み掛かってきたゾンビを、真夕は素早く飛び退いてかわした。
同時にレイアが体内のマテリアルを活性化させてオーラを炎上させ、その眩い輝きでゾンビの目を引き付ける。
その隙に、真夕は現れたゾンビから距離を取った。
「危ない危ない。捕まったら何されるか分かったものじゃないし、油断大敵ね」
間一髪だったとでもいうように額の汗を拭う仕草をする真夕だが、ゾンビの動作は鈍く、明らかに真夕の態度には余裕があった。
それこそ、ゾンビに対して大きく距離を開けることが可能なほどに。
「真夕? 襲われかけた後で警戒するのは当然だが、ちょっと後ろに離れ過ぎてはいないか?」
背後にジト目を送るレイアだが、真夕はにっこりと微笑むばかりだ。
「気のせいよ。私、援護するから相手お願いね」
「……うむ」
何だか釈然としない面持ちながらも、レイアは意識を戦闘用に切り替え、ゾンビと相対した。
レイアがその気になれば、ゾンビなど敵ではない。
その時、レイアの鋭敏な感覚が、暗がりに潜むゾンビを捉える。
「そこの墓石の影にもう一体いるぞ。気をつけろ」
「え!? 本当だ! あんなところにも!」
魔法で生み出した小さな光を向けた真夕が驚き、警戒する。
最初に襲ってきたゾンビはレイアに注意を引き付けられており、後からレイアが発見したゾンビは真夕を狙いの対象に絞る。
のろのろとした動きで近寄ってきても二人は冷静さを崩さない。
見た目と臭いによる嫌悪感は強いが、経験を積んだハンターならばゾンビは敵としての格が正直な話低い相手だ。
とはいえあまり長い間相手にしたい敵でもないので、レイアは意識を攻めに注力して一気に勝負を仕掛ける。
嫌な臭いが鼻につくも、真夕が巻き起こす風が臭いを吹き飛ばす。
レイアのオーラの輝きに引き寄せられるゾンビを真夕が炎の矢で射抜き炎上させ、その真夕に這い寄るゾンビへレイアが魔導剣を振り上げ頭部に渾身の一撃を叩き込んだ。
●墓場南側の戦い
エリとドクのコンビは、二匹のゾンビのうち一匹を発見していた。
そのゾンビは既に二人に気付いていて、ゲロにしか見えない胃酸混じりの腐った消化液を口から噴射して二人に浴びせようとしてくる。
もちろん、不意討ちでなければそう簡単に当たるものではないが、着弾箇所や飛まつから立ち上る臭いだけはどうしようもない。
「汚い! ありえないわ、こんなの! 最低の気分よ!!!」
「場末の居酒屋とかでゲロの臭いは嗅ぎなれとるけど……それ以上にキッツイのう。腐っとるからやろか」
ブチ切れ始めたエリの横で、ドクはスマイリーというその名に相応しく微笑んだように見える顔立ちのまま、どこか暢気に口元を緩ませている。
軽い口調のドクをエリがぎろりと睨んだ。
「ドク! さっさと片付けるわよ! 援護しなさい!」
「へいへいっと。仰せのままに、お嬢様」
あくまで軽い口調や表情は崩さずに、しかしドクの笑顔が凄みを帯びる。臨戦態勢に入ったのだ。
しかし何かに気付いたドクはハッとした表情を浮かべると先行するエリを追いかけ始めた。
当然、前を行くエリもドクに気付いて言い合いになる。
「って、何前出てきてんのよ! ドクの役割は後方支援だってば! 前衛は私に任せなさい!」
「せやかて、横、横!」
振り向いたエリの側面に、いつの間にか二匹目のゾンビが現れていた。
どうやら、地面に倒れていて後から立ち上がったため、気付くのが遅れたようだ。
慌てて回避行動を取ろうとするエリだが間に合わず、ゾンビに抱きつかれる。
横を見ればドクが一匹目のゾンビをメイスで殴打するも仕留めきれずに、顔面を舐め回された挙句同じように拘束されていた。
そしてガパッと開けられる二匹のゾンビの口。
自分たちの未来を悟って青褪めるエリとドクの顔色。
おろおろおろおろと緑と茶色が交じり合った謎の液体が二人にぶっ掛けられた。
「あんぎゃあああああああああ!?」
「おわあああああああああああ!?」
エリにとっては被害は皆無といっていいが、あくまでそれは肉体的なものである。
精神的にはかなりの被害を被った。
そしてドクにとっては、肉体的にも結構痛い。
すぐに振り解いたドクだったが、エリはゲロを浴びせられたショックで魂が抜けているかのように呆然としていて、抜け出す様子を見せない。
傷を庇いながら必死にドクが一人で応戦していたところに、救いの手が差し伸べられた。
担当するゾンビたちを倒し終えた仲間たちが応援に現れたのだ。
ヴァイスの刺突が、シレークスの拳が、サクラの光の弾が、真夕の炎の矢が、レイアの魔法剣がゾンビ二匹に襲い掛かる。
同時にマリエルがエリを救助し、ドクの傷を治療させた。
復讐の炎を瞳に灯したエリが遅れてたまるかとばかりにランスを構えて再突撃し、その背をやれやれと苦笑しながら快癒したドクが守りに行く。
こうして二匹のゾンビはハンターたちによって始末され、騒動は集結を迎えたのである。
●戦闘終了
死者の供養等後始末を終えてハンターズソサエティに戻ってきた一行を、受付嬢の営業スマイルが出迎えた。
「お疲れ様でした。共同浴場の手配、終わってますよ。今日一日貸し切りにしてありますので、皆さんでゆっくりしてらしたら如何でしょうか」
マリエルがヴァイスに申し訳なさそうな視線を向けた。
ゾンビを狙った攻撃の余波で、ヴァイスにゾンビの汚物を浴びせてしまったためだ。
「……ええと、ごめんなさい」
「いや、いい。こんなもの、洗えば落ちる」
対するヴァイスは気にした様子を見せない。
取り繕っているのではなく、本心だった。
現に、ゾンビの肉片などといったものは雲散霧消し、ヴァイスに残っているのはせいぜいが染みと臭いくらいで、ヴァイスは全く気にしていない。
そんなことよりも、蔓延るゾンビたちを退治できたか。そちらの方が大切なのだ。
「さっさと汚れを流しやがります! いい加減臭いが! 臭いが!」
「共同浴場、今日だけは私たちの貸切ですって。良かったです」
嘆くシレークスとは反対に、サクラは少し嬉しそうだ。
広い共同浴場を、八人で独占できるのである。
しかも、男女別に分かれているから、実質的には二つの浴場を六人と二人だ。女性の方が多いが、それでも十分だろう。
「これで、死んだ旅人の方々も、安らかに眠れるでしょうね……良かったわ」
真夕は犠牲になった人々の安寧を願い、祈りを捧げる。
それと同じくらい、真夕は真剣にお風呂を楽しみにしていたりするが、まあ年頃の少女なので仕方ない。
「あの受付嬢、酷い臭いにも眉一つ顰めなかったぞ。それでうさんくさく見えるのが謎だな……」
呆れた表情で、レイアが呻く。
レイアは戻ってきた自分たちの惨状に、もし受付嬢が引いた素振りを見せればジト目で睨もうと思っていたのだが、全くそんな素振りが見られなかったので当てが外れたのだ。
「こんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかったこんなはずじゃなかった」
呪詛のように呟くエリは、頭からゾンビの吐いたゲロのような腐った消化液を浴び続けたおかげで全身酷い惨状になっていた。
服は念入りな洗濯が必要だろうし、装備も丸洗いする必要があるだろう。何より身体に染み付いた臭いを消すのに、どれほどの時間が必要だろうか。
あれほどの攻撃を受け続けても、肉体的には全く問題ないのがまた憎たらしい。
「まあ、俺たちはまだまだ修行が足らんちゅうこったな」
軽い口調で自らの惨状を笑い飛ばすドクはあっけらかんとしている。
ドクもまたエリと同じように中々の惨状に加え、肉体的にもかなり負傷したのだが、それはマリエルの治療もあって全快しているし、戦闘中でも自分で応急処置はしていた。
汚れに関してはあまり気にしていない。精神的苦痛よりも、肉体的苦痛の方が痛かったくらいだ。
そしてドクが前途有望なハンターであることも間違いない。エリがショックで行動不能になっている間、皆が来るまでドクが場を支え続けたのは確かなのだから。
多少の蛇足を挟み、今回の依頼は終わりを迎える。
八人のハンターたちは、ハンターズソサエティを出て共同浴場へと向かっていった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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ゾンビは剣で斬れ! レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/05/04 04:46:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/02 08:09:29 |