ゲスト
(ka0000)
【幻兆】滑走のヴォイドレディ
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/03 12:00
- 完成日
- 2018/05/17 14:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――時は少し遡る。
「ねぇ、お前達。あのお方の評価をずどーんと上げるような何かはないかい?」
ヴォイドレディとも呼ばれるトーチカ・J・ラロッカは、己の根城で部下のモルッキーとセルトポへ問いかけた。
ビックマーの命令でチュプ大神殿の機能などを調査していたトーチカ一味。
大神殿に侵入しようと試みるも迷子になったり、目覚めた大神殿の防御機能に弾かれたりで結局思うように進んでいなかった。
このままではビックマーへ顔向けできない……!
それどころか寵愛を失ってしまう……!
元々寵愛があるかどうかも疑問なのであるが、ともあれ彼らには『怠惰王の役に立った』という実績が必要なのだ。
「うーん。そうねえ……そういえば、ハンター達が白龍の幼体を目覚めさせる為に龍園に行ったらしいわよ」
「白龍の幼体かい?」
「そうよぉ。何か知らないけどずっと眠ったままなんですって。その方が都合がいいってビックマー様が言ってたわ」
思い出すように言うモルッキー。セルトポがポン、と手を打つ。
「じゃあ、それを邪魔してやればいいでおますな」
「そ れ だ ! 白龍が起きるのを邪魔すれば、あのお方からの評価もうなぎのぼり! ニート生活も夢じゃない……!! さあ、お前達龍園へ行くよ! 奴らに吠え面かかせてやるんだ!」
「「アイアイサッサー!」」
トーチカの号令にビシッと敬礼を返すモグラ達。
――歪虚の中でもトップクラスのバカッぷりを誇る彼ら。
この時点で誰も気付いていなかった。
そう。歪虚は転移門を使えない。
要するに、龍園まで歩いて行くしかないのだ!
いきなり波乱の幕開けです!!
●
リグ・サンガマにある聖地の一つ『龍のへそ』。
通常よりも高濃度のマテリアルが噴き出すこの場所は、龍園の民にとっても大切な場所である。龍にとっても癒しの場所として知られており、眠り続ける白龍のヘレにとって成長を促す場所として最適である。ここへ辺境の巫女リムネラ(kz0018)がマテリアルを増幅させる祈りを捧げる手筈になっている。少しでも早くヘレに目覚めて欲しい一念なのだろう。
――だが。
それの行為は、龍園周辺にいる歪虚達を刺激することとなり……。
ハンター達はヘレが目覚めるまでの間、龍のへそに張り巡らされた結界を維持しなければならなかった。
「俺達が護衛するのはこの場所でいいんだな?」
「……そうだ。それ以外の三方は透とシャンカラ、ヨアキムが護衛に回ってくれている……」
ハンター達の問いに頷くバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
彼らはリムネラが張った結界の東側に布陣していた。
ここで死守しなければならないのは、結界構築に必要な『要石』と呼ばれる拳大の石。この要石は結界の四方に置かれており、破壊されれば結界が破れ、歪虚達が聖域へなだれ込む結果となる。
その最悪の事態を防ぐために、ハンター達とバタルトゥは駆け付けたのだが……。
彼らの前に現れたのは、ヨレヨレになったモグラの歪虚2匹と、ソファーの上で怒っている女歪虚だった。
「ちょっとお前達! 龍園がこんなに遠いなんて聞いてないよ!」
「あたしだって知らなかったのよぉ! っていうか姐さんはずっとソファーに座ってたでしょ!?」
「姐さん……。モルッキー……。わい、お腹ぺこぺこでおます。もう動けないでおます……」
目の前で内輪もめを始める歪虚達。
ハンターもバタルトゥもこの歪虚達を知っている。
ビックマーの配下のトーチカ一味だ。
……彼らと関わるとロクな目に遭わない。
出来ることならスルーしたい……。が、こうして目の前に現れられてしまってはそう言う訳にもいかない。
顔を見合わせるハンター達。意を決して声をかける。
「……おい。トーチカ。モルッキーもセルトポもこんなとこで何やってんだ?」
「あっ!? ハンターじゃないか! 何でこんなとこにいるのさ!」
「いえ、それを聞きたいのはこちらの方なんですけど……一体何しにいらしたんです?」
「聞いて驚くんじゃないよ! 白龍の幼体の成長を阻止しにきたのさ!」
「きゃー! 姐さんカッコいー!」
「…………」
ビシィ! と煙管を天に掲げるトーチカに、黄色い声をあげるモルッキー。
普段であればセルトポが『痺れるでおますー!』とか続くのだろうが、腹ペコで喋る元気がないらしい。
ハンターはうんざりとした目でトーチカを見る。
「悪いがお前達を構ってる時間はない。見逃してやるからとっとと失せろ」
「そう言われて帰る馬鹿がどこにいるのさ!」
「そこにいますよね」
「キイイイイ!! モルッキー! こいつらを黙らせておやり!」
「アイアイサッサー! 今回の『ビックリドッキリアイテム★』は『凍らせちゃうクマ1号』よぉ~!」
説明しよう! 『凍らせちゃうクマ1号』は、見た目はファンシーなクマのぬいぐるみだが、口から強力な冷凍ビームを発射して当たったものを氷漬けにするのだ!!
「「「「「「な、なんだってーーーー!?」」」」」」
「という訳で、皆氷漬けになっちゃうといいのよぉ~☆」
驚くハンター達に目掛けて、クマのぬいぐるみを構えるモルッキー。
カッコよくポーズを決めた途端――。
「あ、コケた」
「ぬいぐるみの首がもげましたけど大丈夫ですかね……」
続くハンター達の実況。
首がもげた『ビックリドッキリアイテム★』はあまり大丈夫ではなかったらしい。
地面の上ですごい勢いで回転し、周囲に冷気を撒き散らし始めた。
「ちょっ。モルッキー何やってんのさ!!」
「ああああ! やっちゃったわああああ」
歪虚達の悲鳴に近い声。地上からもくもくと巻き上がる白い煙――。
自分達に影響がないことを覚ると、ハンターが鼻で笑う。
「ご自慢のアイテムも壊れちまったみたいd……うおあっ!?」
突然足を取られて転ぶハンター。地面に手をつくととても冷たい。良く見ると、地面が白いもので覆われている。
「……何だこれ、氷か……?」
「や、やだちょっとこれ滑るんですけど!?」
ハンター達から上がる悲鳴に、モルッキーが笑い出す。
「ちょっと狙ってたのとは違うけど結果オーライよね姐さん?」
「そうだねえ。ハンター達の妨害が出来りゃいいさね。さあ、じゃあ白龍の幼体を捕まえにいこうかねえ」
「……姐さんどこいくのぉ?」
「……えっ。アレ? ちょっと!?」
ソファーを抱えたパペットマンごと滑っていくトーチカ。
目が虚ろになるハンター達。
地面に張り巡らされた氷。
氷がないところに移動……と思ったが、それは果てしなく続いている。
その上つるつる滑って立っているのもままならない。
しかし、目の前の歪虚は排除しないといけない訳で……。
「だからこいつらと関わるの嫌だったんだよ!!」
ハンターの叫びに頷くバタルトゥと仲間達。
しかしこうなってしまった以上は、何とかするしかない……!
なし崩しに、トーチカ一味とのバトルが始まった。
「ねぇ、お前達。あのお方の評価をずどーんと上げるような何かはないかい?」
ヴォイドレディとも呼ばれるトーチカ・J・ラロッカは、己の根城で部下のモルッキーとセルトポへ問いかけた。
ビックマーの命令でチュプ大神殿の機能などを調査していたトーチカ一味。
大神殿に侵入しようと試みるも迷子になったり、目覚めた大神殿の防御機能に弾かれたりで結局思うように進んでいなかった。
このままではビックマーへ顔向けできない……!
それどころか寵愛を失ってしまう……!
元々寵愛があるかどうかも疑問なのであるが、ともあれ彼らには『怠惰王の役に立った』という実績が必要なのだ。
「うーん。そうねえ……そういえば、ハンター達が白龍の幼体を目覚めさせる為に龍園に行ったらしいわよ」
「白龍の幼体かい?」
「そうよぉ。何か知らないけどずっと眠ったままなんですって。その方が都合がいいってビックマー様が言ってたわ」
思い出すように言うモルッキー。セルトポがポン、と手を打つ。
「じゃあ、それを邪魔してやればいいでおますな」
「そ れ だ ! 白龍が起きるのを邪魔すれば、あのお方からの評価もうなぎのぼり! ニート生活も夢じゃない……!! さあ、お前達龍園へ行くよ! 奴らに吠え面かかせてやるんだ!」
「「アイアイサッサー!」」
トーチカの号令にビシッと敬礼を返すモグラ達。
――歪虚の中でもトップクラスのバカッぷりを誇る彼ら。
この時点で誰も気付いていなかった。
そう。歪虚は転移門を使えない。
要するに、龍園まで歩いて行くしかないのだ!
いきなり波乱の幕開けです!!
●
リグ・サンガマにある聖地の一つ『龍のへそ』。
通常よりも高濃度のマテリアルが噴き出すこの場所は、龍園の民にとっても大切な場所である。龍にとっても癒しの場所として知られており、眠り続ける白龍のヘレにとって成長を促す場所として最適である。ここへ辺境の巫女リムネラ(kz0018)がマテリアルを増幅させる祈りを捧げる手筈になっている。少しでも早くヘレに目覚めて欲しい一念なのだろう。
――だが。
それの行為は、龍園周辺にいる歪虚達を刺激することとなり……。
ハンター達はヘレが目覚めるまでの間、龍のへそに張り巡らされた結界を維持しなければならなかった。
「俺達が護衛するのはこの場所でいいんだな?」
「……そうだ。それ以外の三方は透とシャンカラ、ヨアキムが護衛に回ってくれている……」
ハンター達の問いに頷くバタルトゥ・オイマト(kz0023)。
彼らはリムネラが張った結界の東側に布陣していた。
ここで死守しなければならないのは、結界構築に必要な『要石』と呼ばれる拳大の石。この要石は結界の四方に置かれており、破壊されれば結界が破れ、歪虚達が聖域へなだれ込む結果となる。
その最悪の事態を防ぐために、ハンター達とバタルトゥは駆け付けたのだが……。
彼らの前に現れたのは、ヨレヨレになったモグラの歪虚2匹と、ソファーの上で怒っている女歪虚だった。
「ちょっとお前達! 龍園がこんなに遠いなんて聞いてないよ!」
「あたしだって知らなかったのよぉ! っていうか姐さんはずっとソファーに座ってたでしょ!?」
「姐さん……。モルッキー……。わい、お腹ぺこぺこでおます。もう動けないでおます……」
目の前で内輪もめを始める歪虚達。
ハンターもバタルトゥもこの歪虚達を知っている。
ビックマーの配下のトーチカ一味だ。
……彼らと関わるとロクな目に遭わない。
出来ることならスルーしたい……。が、こうして目の前に現れられてしまってはそう言う訳にもいかない。
顔を見合わせるハンター達。意を決して声をかける。
「……おい。トーチカ。モルッキーもセルトポもこんなとこで何やってんだ?」
「あっ!? ハンターじゃないか! 何でこんなとこにいるのさ!」
「いえ、それを聞きたいのはこちらの方なんですけど……一体何しにいらしたんです?」
「聞いて驚くんじゃないよ! 白龍の幼体の成長を阻止しにきたのさ!」
「きゃー! 姐さんカッコいー!」
「…………」
ビシィ! と煙管を天に掲げるトーチカに、黄色い声をあげるモルッキー。
普段であればセルトポが『痺れるでおますー!』とか続くのだろうが、腹ペコで喋る元気がないらしい。
ハンターはうんざりとした目でトーチカを見る。
「悪いがお前達を構ってる時間はない。見逃してやるからとっとと失せろ」
「そう言われて帰る馬鹿がどこにいるのさ!」
「そこにいますよね」
「キイイイイ!! モルッキー! こいつらを黙らせておやり!」
「アイアイサッサー! 今回の『ビックリドッキリアイテム★』は『凍らせちゃうクマ1号』よぉ~!」
説明しよう! 『凍らせちゃうクマ1号』は、見た目はファンシーなクマのぬいぐるみだが、口から強力な冷凍ビームを発射して当たったものを氷漬けにするのだ!!
「「「「「「な、なんだってーーーー!?」」」」」」
「という訳で、皆氷漬けになっちゃうといいのよぉ~☆」
驚くハンター達に目掛けて、クマのぬいぐるみを構えるモルッキー。
カッコよくポーズを決めた途端――。
「あ、コケた」
「ぬいぐるみの首がもげましたけど大丈夫ですかね……」
続くハンター達の実況。
首がもげた『ビックリドッキリアイテム★』はあまり大丈夫ではなかったらしい。
地面の上ですごい勢いで回転し、周囲に冷気を撒き散らし始めた。
「ちょっ。モルッキー何やってんのさ!!」
「ああああ! やっちゃったわああああ」
歪虚達の悲鳴に近い声。地上からもくもくと巻き上がる白い煙――。
自分達に影響がないことを覚ると、ハンターが鼻で笑う。
「ご自慢のアイテムも壊れちまったみたいd……うおあっ!?」
突然足を取られて転ぶハンター。地面に手をつくととても冷たい。良く見ると、地面が白いもので覆われている。
「……何だこれ、氷か……?」
「や、やだちょっとこれ滑るんですけど!?」
ハンター達から上がる悲鳴に、モルッキーが笑い出す。
「ちょっと狙ってたのとは違うけど結果オーライよね姐さん?」
「そうだねえ。ハンター達の妨害が出来りゃいいさね。さあ、じゃあ白龍の幼体を捕まえにいこうかねえ」
「……姐さんどこいくのぉ?」
「……えっ。アレ? ちょっと!?」
ソファーを抱えたパペットマンごと滑っていくトーチカ。
目が虚ろになるハンター達。
地面に張り巡らされた氷。
氷がないところに移動……と思ったが、それは果てしなく続いている。
その上つるつる滑って立っているのもままならない。
しかし、目の前の歪虚は排除しないといけない訳で……。
「だからこいつらと関わるの嫌だったんだよ!!」
ハンターの叫びに頷くバタルトゥと仲間達。
しかしこうなってしまった以上は、何とかするしかない……!
なし崩しに、トーチカ一味とのバトルが始まった。
リプレイ本文
「なるほど。戦場を一変させてしまうほどの科学力……敵は随分頭脳派で技巧派なのですね」
「そうですね。その筈なんですが……何か全然脅威に感じませんね。蜜鈴姐様、あいつらいつもこんな感じなんです?」
「うむ。アレが通常通りじゃな。のうミィナや」
「うん。ととさん達、わざわざコントしに来たみたいなのん」
瞬く間に広がった氷。凍り付いた地面。その上で滑りながら言い合っているトーチカ一味を大真面目に観察するフィロ(ka6966)。
小首を傾げる花厳 刹那(ka3984)に即答した蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。頷いたミィナ・アレグトーリア(ka0317)さんのコメントからしても大分お察しなワケですが。
――ブチッ。
あれ? 今 クレール・ディンセルフ(ka0586)さんから変な音聞こえませんでした?
あー。何かと思ったらブチ切れる音でしたかー。
「この年増女ーーーっ!! いい加減にしなさいよーーー!!」
「誰が年増だって!!? ……ん? 誰かと思えばまな板娘じゃないのさ。こんなとこまで来るなんて……さてはお前、あたしのファンだね?」
「ハァ!!? まな板じゃないし! っていうかアンタのファンとかどういう思考回路してたらそうなるのよ! 馬鹿じゃないの!?」
「誰が馬鹿だってぇ!?」
「うるさいのよBBA!! 毎度毎度毎度状況を面倒にして!! もう怒ったからね!!!」
ギャーギャーと罵り合うクレールとトーチカ。
そのいつもの光景を打ち破ったのは、腰を直角に折り曲げてお辞儀をしたキャリコ・ビューイ(ka5044)だった。
「ドーモ、トーチカ=サン。キャリコ・ビューイデス」
「……え。ちょっとお前、それ蔵倫的に大丈夫かい?」
「挨拶には挨拶で返せ! スゴイ・シツレイだぞ!!」
「そーよ、姐さん。そこは『ドーモ、キャリコ=サン』って言わないと」
「だからそれヤバいやつだって言ってるだろ!?」
キャリコとモルッキーにツッコむトーチカ。その直後に飛ぶキャリコ。若干滑ったが計算のうちだ。彼はトーチカ一味目掛けて丸い物体を投げつける。
「いったぁい! 何これ! ニンニクじゃない!!」
「ああー! 食べ物でおますう!!」
悲鳴をあげるモルッキー。反してセルトポは物体の正体に気付くと迷わずにかぶりついた。
「辛いけど美味しいでごわすぅ……!」
「そうだろう。匂いはきついが疲労回復に効果がある」
「ふおおお! 有り難いでおますうう!!」
「あの……。それは敵に塩を送ることになりませんか」
「ん? 塩もくれるでおますか?」
恐る恐る声をかけるフィロ。低知能のセルトポにはことわざも通じない。
混沌と化す場。その場に乗じて蜜鈴はキッチリ仕事をこなしていた。
「蜜鈴さんごめんなのん。うっかりアースウォール持って来るの忘れちゃったのん」
「なーに、構わぬ。これだけでも何とかなろう。こやつもおることじゃしな。……という訳じゃ、バタルトゥ。要石の護衛は任せたぞえ」
「……ああ。力の及ぶ限りは」
要石を守るように土の壁を立てた蜜鈴。ぺこぺこと頭を下げるミィナを宥めつつ、友である部族会議の大首長に目線を送る。
頷くバタルトゥは双剣を構えて臨戦態勢。そそり立つ壁がある上に、この仏頂面が控えているとなると要石まで到達するのは大分ハードルが高くなる。
まあ、それ以前にトーチカを始めとした歪虚達は全く自分達の動きを制御出来ていない訳ですが!!
「弱いトコを全力で叩くのが勝利への近道……と、偉い人が言っていたような言っていなかったような! ともかくどっかーんと行きますよ!」
「いくらもふもふと可愛らしいモグラ型であっても、敵である以上容赦はできません。お覚悟を」
「あらーん。ちょっとあたしの好みから外れるけどカワイコちゃん達ねぇ~ん」
「ちなみに好みって何です?」
「そりゃもう女子中学生の皆さんに決まってるじゃないのぉ~」
「ジョシチューガクセイ……?」
「フィロさん、とにかくこいつ最低って意味ですから。深く気にしちゃダメです!」
刹那の問い掛けにクネクネと恥ずかしがりながら滑って行くモルッキー。
真顔で首を傾げたフィロに、彼女はぶんぶんと手を振る。
そんな2人の前をモルッキーが高速で横切って行く。
「お相手してあげたいんだけどごめんなさいねえ。自力じゃ止まれないのよぉ」
「大丈夫ですよ。止まって戴く必要はないです」
「ええ、その点はきちんとフォローさせて戴きますので」
次の瞬間、感じた水の気。フィロが一直線に放ったマテリアルが、モルッキーの頭を掠める。
「あら。外してしまいましたか」
「残念ですね。あともうちょっとだったのに」
「ちょっとお!? 危ないでしょおおお!?」
「ですから、容赦できないと申し上げたはずですが?」
「遠慮なく死んで戴いていいんですよ?」
猛抗議するモルッキーに、にーっこりと笑みを返すフィロと刹那。
――あ。ヤバい。この人達ガチだ。
「イヤアアアア! 全国の女子中学生の皆さんの為にもあたしはまだ死ねないのよォおおおお!」
「……逃げましたね?」
「あらやだ。逃げられると思ってるんですかね。うふふ……」
瞬時に判断して方向転換を試みるモルッキー。フィロと刹那は凄惨な笑みを浮かべて――。
皆―! モルッキーとの追いかけっこタイムがはーじまーるよー!!
2人と1匹による地獄の追いかけっこが繰り広げられている間、クレールと蜜鈴、ミィナはそこらを勝手に走り回るパペットマンを潰して回っていた。
勝手に走り回る、と言ってもトーチカの指示ではない。
本人は自分の制御すらままならない状態なので! パペットマンに構っている暇などないですので!
放って置かれたパペットマンはどうなったかと言うと、氷の上でボーーッと棒立ちになったまま、己の進む方向に任せるままになっている。
1体1体は弱いし何もしてこないのだが、加速して突っ込んで来るというのはなかなか厄介であった。
言った傍からミィナが突っ込んできたパペットマンを避け切れずに転んだ。
「んもー! 何するのん! 痛いのんー!」
「ミィナや、大丈……」
その悲鳴に振り返って固まる蜜鈴。
無理もない。可憐なミィナが怒りの表情でぶつかって来たパペットマンにバックドロップをぶちかましているのを見てしまったのだ。
人は見かけによらないって言うか、あんな技どこで覚えて来たんだろうとか色々ツッコミたいところはあったが、とりあえず彼女は大丈夫そうだし歪虚の排除に戻ろうそうしよう。
「クレール! そっちに行ったぞえ!」
「了解! うおりゃあああ!!」
蜜鈴の短い叫び。ハイヒールからマテリアルを噴出してとうっ! とジャンプするクレール。
輝く火竜の紋章。彼女のカリスマリス・クレールから光の刃が伸びて、パペットマンを両断する。
その勢いで、地面が抉れて氷に穴が開いた。
「よしッ! パペットマン討ち取ったり!」
「……しかしあやつら、どんどん速くなっておらんか?」
塵に還るパペットマンにガッツポーズをするクレール。
蜜鈴の呟きにこくりと頷く。
「そうなの! あいつら滑る限りはどんどん加速して行くみたい!」
「パペットマン達、スピードもだけど方向も制御しないみたいなのん」
「ふむ。あの勢いで要石に突っ込まれたら厄介じゃな」
ミィナの声に考え込む蜜鈴。
クレールは2人の話を聞きながらハッとした。
――ん? 滑る限り加速は続く? ということは……。
「蜜鈴さん、ミィナさん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……」
一方その頃、セルトポはキャリコから貰った恵方巻を一心不乱に食べていた。
――否、正確に言うと、キャリコは恵方巻をあげたつもりはない。
嫌がらせと攻撃の手段としてトーチカ一味にぶつけただけだった――実際トーチカとモルッキーは大分嫌がっていたのであるが、セルトポだけは食べ物に対して異常なガッツを見せ、彼が投げた食べ物を全部拾って食べるという行動に出ていた。
食べたことで元気を取り戻したように見えたセルトポだったが、氷の上を滑って行く食べ物を追いかけて右往左往した結果、再び疲労困憊する結果となった。
まさに本末転倒である。やったね低知能!
「ううう。美味しいでおます。力が戻って来たような気がするでおます……!」
「ふむ……。助けるつもりは皆無だったのだが……というかお前、更にボロボロになってないか」
「お腹いっぱいで幸せでおます!」
「まあ、困っている人を助けないのは腰抜けと(ぴーーー)が言っていたしな……」
唸るキャリコ。実際セルトポは人ではなくてモグラ、しかも歪虚なのだが……。
というかあれだけの量、しかもキンキンに冷えたもの食べてお腹壊さないんだろうか。
そもそも歪虚って食事必要ないんじゃないのか? おかしいと思いませんか? あなた。
既にボロボロだがお腹が満ちたのか満足そうなセルトポ。肩で息をしながら感涙に潤んだ目でキャリコを見上げる。
「沢山ごはんくれて、あんさんいい人でおます。兄貴って呼んでいいでおますか?」
「兄貴、か。俺としてもお前をゴートゥー・アノヨするのは簡単だが……よし分かった。お前にはセイシンテキが足りない。修行をつけてやろう」
「ヨロコンデー! でおます!」
がっちりと握手をするキャリコとセルトポ。
キャリコが持ち込んだネタのお陰で大分アレな言い回しが増えているが、残念ながらツッコミが不在だ!
こういう時は深く考えてはいけない。備えよう。
氷の上をひたすら滑走するモルッキー。
すぐ後ろにはスピードスケートの如く素晴らしい滑走フォームのフィロが全速力で迫って来ている。
刹那もまた昔取った杵柄で華麗な滑りを見せているが、主に上半身の成長による変化でバランスが取り難そうだ。
双方一歩も譲らぬ鬼ごっこ。次の瞬間異変が起きた。
果てしなく続いているはずの地面の氷に穴が開いていたのだ!
「ちょっ!? いやあん!!」
「えっ」
「あら……?」
穴に足を取られて盛大にすっころんだモグラ。その後ろを滑走していた刹那とフィロは止まり切れずにモルッキーに突っ込み――1匹と2人は絡み合って氷の上に投げ出された。
「いたたたた……。フィロさん大丈夫です?」
「はい。こちらは問題ありません。刹那様は大事ありませんか?」
「大丈夫……だけど、フィロさんその……手退けてもらえませんか……?」
「……? 私は何もしておりませんが……?」
「あらーん。貴女おしとやかな顔して立派なモノ持ってるのねぇん♪」
下から聞こえた声。刹那のたわわな双丘を持ち上げているものの正体がモグラの歪虚であることに気付いて、2人の目がスッと細くなる。
「……コロス。こいつ絶対コロスーーー!!!」
「なるほど。女性の敵……と。データ更新完了。刹那様に同意。これより排除に移行します」
アッ。これモルッキーさん終了のお知らせですね!
ところで、キャリコさんとセルトポさんはどうなりましたかね?
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
……何か盛り上がってるみたいですね。
さて、肝心のトーチカだが。パペットマンは数えるほどになり、頼みのモルッキーとセルトポはハンターに足止めされていて大ピンチを迎えていた。
そこに容赦なくやって来る紫色の光。重力波がトーチカと彼女のソファーを支えているパペットマンを襲った。
「ちょっといきなり何すんのさ!」
「うるさいのん! もー! 前も! 今日も! ととさんが来なければこんな事にならないのん!」
技の主であるミィナに抗議するトーチカ。だが、えへへ……と笑うミィナの目が完全に据わっている。
彼女はつーーとトーチカに近づくと、杖をフルスイングした。
「ちょっ。痛いだろ!」
「こないだ変なモノ見せられたのもととさんのせいなのん!」
「痛ッ! あれはモルッキーのアイテムのせいだろ!?」
「今日アースウォール忘れたのも! 転んだのも! 全部ととさんのせいなのん!!」
「それはあたしと関係な……痛っ!!」
「……責任、取ってもらうのん」
怒気を孕み杖で殴打し続けるミィナ。
これはまさに、キャリコ氏が言うところの『ヴォイド、シスベシ! ジヒハナイ!』だ!
「お前達、逃げるよ!!」
号令をかけるトーチカ。ソファーを支えるパペットマン達は方向転換したものの、重力に縛り付けられて上手く動けない。
そんな折、空中に咲く紅い花。紅蓮の炎が炸裂し、トーチカの髪を焼いた。
「ぎゃああああ! 危ないじゃないのさ!!」
「以前は洞窟であった故遠慮しておったが……此度は平原じゃ。これを放っても崩れる心配はないのう。妾の謡は其れこそが呪い……童話に聴く海の魔女ようであろ?」
扇をパチリと鳴らしつつ笑う蜜鈴。
――アッ。どう頑張っても逃げられないですねこれ。
その音に反応して、トーチカは思わずその場に正座する。
「な、何でアンタがここにいるのさ……!」
「ん? 妾は龍の巫女で在り魔女……そして守護者じゃ。妾が来ない訳がなかろうが?」
続いた蜜鈴の言葉に絶望するトーチカ。
ここに来た時点で正座説教が約束された未来だったなんて知りたくなかった!!
蜜鈴はふぅ、とため息をつくとヴォイドレディの顔を覗き込む。
「ほんにおんしはロクなことはせぬが、憎めぬ奴じゃ。……のう、トーチカよ。そろそろお縄に着いてみよるも如何かの?」
「ダメダメ! 捕まったらビックマー様のお役に立てないじゃないのさ!!」
「……捕まらんでも結果は同じじゃと思うがのう。……だそうじゃ、クレール。もう良いぞ」
「オッケー! 皆避けててねーーー!!」
ひょい、と避けた蜜鈴とミィナ。その後ろから武器を括りつけたシールドに乗ったクレールが現れる。
ありとあらゆる手段でマテリアルを注ぎこんだそれは加速を続け、風になった彼女。全て追い越しトーチカに突撃する――!
「あはははは! 吹き飛べ年増女ーーー!! ホォォォムランッ!!」
「アアアアアア! 覚えておいでええええ!!」
捨て台詞を吐いたトーチカ。
クレールに吹き飛ばされてお星さまになった(合掌)。
「ああああ! 待ってぇ! 姐さん置いてかないでぇ!!」
「兄貴、今日はありがとうでおます! オタッシャデー! でおます!」
「うむ! サラバ!!」
刹那とフィロに毛を毟られて一層貧相になったモルッキー。キャリコに直角のお辞儀をしたセルトポも慌ててトーチカの後を追い……龍のへその東側は静けさを取り戻した。
こうして、ハンター達の活躍により、トーチカ一味は撤退した。
刹那がセクハラ被害に遭い『もうお嫁にいけない』とさめざめと泣く場面はあったが……要石は無事に守り切った。君達は立派だった!
そして、眠り続けていたヘレが目覚めたという報せが届いたのは、それからまもなくのことだった。
「そうですね。その筈なんですが……何か全然脅威に感じませんね。蜜鈴姐様、あいつらいつもこんな感じなんです?」
「うむ。アレが通常通りじゃな。のうミィナや」
「うん。ととさん達、わざわざコントしに来たみたいなのん」
瞬く間に広がった氷。凍り付いた地面。その上で滑りながら言い合っているトーチカ一味を大真面目に観察するフィロ(ka6966)。
小首を傾げる花厳 刹那(ka3984)に即答した蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。頷いたミィナ・アレグトーリア(ka0317)さんのコメントからしても大分お察しなワケですが。
――ブチッ。
あれ? 今 クレール・ディンセルフ(ka0586)さんから変な音聞こえませんでした?
あー。何かと思ったらブチ切れる音でしたかー。
「この年増女ーーーっ!! いい加減にしなさいよーーー!!」
「誰が年増だって!!? ……ん? 誰かと思えばまな板娘じゃないのさ。こんなとこまで来るなんて……さてはお前、あたしのファンだね?」
「ハァ!!? まな板じゃないし! っていうかアンタのファンとかどういう思考回路してたらそうなるのよ! 馬鹿じゃないの!?」
「誰が馬鹿だってぇ!?」
「うるさいのよBBA!! 毎度毎度毎度状況を面倒にして!! もう怒ったからね!!!」
ギャーギャーと罵り合うクレールとトーチカ。
そのいつもの光景を打ち破ったのは、腰を直角に折り曲げてお辞儀をしたキャリコ・ビューイ(ka5044)だった。
「ドーモ、トーチカ=サン。キャリコ・ビューイデス」
「……え。ちょっとお前、それ蔵倫的に大丈夫かい?」
「挨拶には挨拶で返せ! スゴイ・シツレイだぞ!!」
「そーよ、姐さん。そこは『ドーモ、キャリコ=サン』って言わないと」
「だからそれヤバいやつだって言ってるだろ!?」
キャリコとモルッキーにツッコむトーチカ。その直後に飛ぶキャリコ。若干滑ったが計算のうちだ。彼はトーチカ一味目掛けて丸い物体を投げつける。
「いったぁい! 何これ! ニンニクじゃない!!」
「ああー! 食べ物でおますう!!」
悲鳴をあげるモルッキー。反してセルトポは物体の正体に気付くと迷わずにかぶりついた。
「辛いけど美味しいでごわすぅ……!」
「そうだろう。匂いはきついが疲労回復に効果がある」
「ふおおお! 有り難いでおますうう!!」
「あの……。それは敵に塩を送ることになりませんか」
「ん? 塩もくれるでおますか?」
恐る恐る声をかけるフィロ。低知能のセルトポにはことわざも通じない。
混沌と化す場。その場に乗じて蜜鈴はキッチリ仕事をこなしていた。
「蜜鈴さんごめんなのん。うっかりアースウォール持って来るの忘れちゃったのん」
「なーに、構わぬ。これだけでも何とかなろう。こやつもおることじゃしな。……という訳じゃ、バタルトゥ。要石の護衛は任せたぞえ」
「……ああ。力の及ぶ限りは」
要石を守るように土の壁を立てた蜜鈴。ぺこぺこと頭を下げるミィナを宥めつつ、友である部族会議の大首長に目線を送る。
頷くバタルトゥは双剣を構えて臨戦態勢。そそり立つ壁がある上に、この仏頂面が控えているとなると要石まで到達するのは大分ハードルが高くなる。
まあ、それ以前にトーチカを始めとした歪虚達は全く自分達の動きを制御出来ていない訳ですが!!
「弱いトコを全力で叩くのが勝利への近道……と、偉い人が言っていたような言っていなかったような! ともかくどっかーんと行きますよ!」
「いくらもふもふと可愛らしいモグラ型であっても、敵である以上容赦はできません。お覚悟を」
「あらーん。ちょっとあたしの好みから外れるけどカワイコちゃん達ねぇ~ん」
「ちなみに好みって何です?」
「そりゃもう女子中学生の皆さんに決まってるじゃないのぉ~」
「ジョシチューガクセイ……?」
「フィロさん、とにかくこいつ最低って意味ですから。深く気にしちゃダメです!」
刹那の問い掛けにクネクネと恥ずかしがりながら滑って行くモルッキー。
真顔で首を傾げたフィロに、彼女はぶんぶんと手を振る。
そんな2人の前をモルッキーが高速で横切って行く。
「お相手してあげたいんだけどごめんなさいねえ。自力じゃ止まれないのよぉ」
「大丈夫ですよ。止まって戴く必要はないです」
「ええ、その点はきちんとフォローさせて戴きますので」
次の瞬間、感じた水の気。フィロが一直線に放ったマテリアルが、モルッキーの頭を掠める。
「あら。外してしまいましたか」
「残念ですね。あともうちょっとだったのに」
「ちょっとお!? 危ないでしょおおお!?」
「ですから、容赦できないと申し上げたはずですが?」
「遠慮なく死んで戴いていいんですよ?」
猛抗議するモルッキーに、にーっこりと笑みを返すフィロと刹那。
――あ。ヤバい。この人達ガチだ。
「イヤアアアア! 全国の女子中学生の皆さんの為にもあたしはまだ死ねないのよォおおおお!」
「……逃げましたね?」
「あらやだ。逃げられると思ってるんですかね。うふふ……」
瞬時に判断して方向転換を試みるモルッキー。フィロと刹那は凄惨な笑みを浮かべて――。
皆―! モルッキーとの追いかけっこタイムがはーじまーるよー!!
2人と1匹による地獄の追いかけっこが繰り広げられている間、クレールと蜜鈴、ミィナはそこらを勝手に走り回るパペットマンを潰して回っていた。
勝手に走り回る、と言ってもトーチカの指示ではない。
本人は自分の制御すらままならない状態なので! パペットマンに構っている暇などないですので!
放って置かれたパペットマンはどうなったかと言うと、氷の上でボーーッと棒立ちになったまま、己の進む方向に任せるままになっている。
1体1体は弱いし何もしてこないのだが、加速して突っ込んで来るというのはなかなか厄介であった。
言った傍からミィナが突っ込んできたパペットマンを避け切れずに転んだ。
「んもー! 何するのん! 痛いのんー!」
「ミィナや、大丈……」
その悲鳴に振り返って固まる蜜鈴。
無理もない。可憐なミィナが怒りの表情でぶつかって来たパペットマンにバックドロップをぶちかましているのを見てしまったのだ。
人は見かけによらないって言うか、あんな技どこで覚えて来たんだろうとか色々ツッコミたいところはあったが、とりあえず彼女は大丈夫そうだし歪虚の排除に戻ろうそうしよう。
「クレール! そっちに行ったぞえ!」
「了解! うおりゃあああ!!」
蜜鈴の短い叫び。ハイヒールからマテリアルを噴出してとうっ! とジャンプするクレール。
輝く火竜の紋章。彼女のカリスマリス・クレールから光の刃が伸びて、パペットマンを両断する。
その勢いで、地面が抉れて氷に穴が開いた。
「よしッ! パペットマン討ち取ったり!」
「……しかしあやつら、どんどん速くなっておらんか?」
塵に還るパペットマンにガッツポーズをするクレール。
蜜鈴の呟きにこくりと頷く。
「そうなの! あいつら滑る限りはどんどん加速して行くみたい!」
「パペットマン達、スピードもだけど方向も制御しないみたいなのん」
「ふむ。あの勢いで要石に突っ込まれたら厄介じゃな」
ミィナの声に考え込む蜜鈴。
クレールは2人の話を聞きながらハッとした。
――ん? 滑る限り加速は続く? ということは……。
「蜜鈴さん、ミィナさん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……」
一方その頃、セルトポはキャリコから貰った恵方巻を一心不乱に食べていた。
――否、正確に言うと、キャリコは恵方巻をあげたつもりはない。
嫌がらせと攻撃の手段としてトーチカ一味にぶつけただけだった――実際トーチカとモルッキーは大分嫌がっていたのであるが、セルトポだけは食べ物に対して異常なガッツを見せ、彼が投げた食べ物を全部拾って食べるという行動に出ていた。
食べたことで元気を取り戻したように見えたセルトポだったが、氷の上を滑って行く食べ物を追いかけて右往左往した結果、再び疲労困憊する結果となった。
まさに本末転倒である。やったね低知能!
「ううう。美味しいでおます。力が戻って来たような気がするでおます……!」
「ふむ……。助けるつもりは皆無だったのだが……というかお前、更にボロボロになってないか」
「お腹いっぱいで幸せでおます!」
「まあ、困っている人を助けないのは腰抜けと(ぴーーー)が言っていたしな……」
唸るキャリコ。実際セルトポは人ではなくてモグラ、しかも歪虚なのだが……。
というかあれだけの量、しかもキンキンに冷えたもの食べてお腹壊さないんだろうか。
そもそも歪虚って食事必要ないんじゃないのか? おかしいと思いませんか? あなた。
既にボロボロだがお腹が満ちたのか満足そうなセルトポ。肩で息をしながら感涙に潤んだ目でキャリコを見上げる。
「沢山ごはんくれて、あんさんいい人でおます。兄貴って呼んでいいでおますか?」
「兄貴、か。俺としてもお前をゴートゥー・アノヨするのは簡単だが……よし分かった。お前にはセイシンテキが足りない。修行をつけてやろう」
「ヨロコンデー! でおます!」
がっちりと握手をするキャリコとセルトポ。
キャリコが持ち込んだネタのお陰で大分アレな言い回しが増えているが、残念ながらツッコミが不在だ!
こういう時は深く考えてはいけない。備えよう。
氷の上をひたすら滑走するモルッキー。
すぐ後ろにはスピードスケートの如く素晴らしい滑走フォームのフィロが全速力で迫って来ている。
刹那もまた昔取った杵柄で華麗な滑りを見せているが、主に上半身の成長による変化でバランスが取り難そうだ。
双方一歩も譲らぬ鬼ごっこ。次の瞬間異変が起きた。
果てしなく続いているはずの地面の氷に穴が開いていたのだ!
「ちょっ!? いやあん!!」
「えっ」
「あら……?」
穴に足を取られて盛大にすっころんだモグラ。その後ろを滑走していた刹那とフィロは止まり切れずにモルッキーに突っ込み――1匹と2人は絡み合って氷の上に投げ出された。
「いたたたた……。フィロさん大丈夫です?」
「はい。こちらは問題ありません。刹那様は大事ありませんか?」
「大丈夫……だけど、フィロさんその……手退けてもらえませんか……?」
「……? 私は何もしておりませんが……?」
「あらーん。貴女おしとやかな顔して立派なモノ持ってるのねぇん♪」
下から聞こえた声。刹那のたわわな双丘を持ち上げているものの正体がモグラの歪虚であることに気付いて、2人の目がスッと細くなる。
「……コロス。こいつ絶対コロスーーー!!!」
「なるほど。女性の敵……と。データ更新完了。刹那様に同意。これより排除に移行します」
アッ。これモルッキーさん終了のお知らせですね!
ところで、キャリコさんとセルトポさんはどうなりましたかね?
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
……何か盛り上がってるみたいですね。
さて、肝心のトーチカだが。パペットマンは数えるほどになり、頼みのモルッキーとセルトポはハンターに足止めされていて大ピンチを迎えていた。
そこに容赦なくやって来る紫色の光。重力波がトーチカと彼女のソファーを支えているパペットマンを襲った。
「ちょっといきなり何すんのさ!」
「うるさいのん! もー! 前も! 今日も! ととさんが来なければこんな事にならないのん!」
技の主であるミィナに抗議するトーチカ。だが、えへへ……と笑うミィナの目が完全に据わっている。
彼女はつーーとトーチカに近づくと、杖をフルスイングした。
「ちょっ。痛いだろ!」
「こないだ変なモノ見せられたのもととさんのせいなのん!」
「痛ッ! あれはモルッキーのアイテムのせいだろ!?」
「今日アースウォール忘れたのも! 転んだのも! 全部ととさんのせいなのん!!」
「それはあたしと関係な……痛っ!!」
「……責任、取ってもらうのん」
怒気を孕み杖で殴打し続けるミィナ。
これはまさに、キャリコ氏が言うところの『ヴォイド、シスベシ! ジヒハナイ!』だ!
「お前達、逃げるよ!!」
号令をかけるトーチカ。ソファーを支えるパペットマン達は方向転換したものの、重力に縛り付けられて上手く動けない。
そんな折、空中に咲く紅い花。紅蓮の炎が炸裂し、トーチカの髪を焼いた。
「ぎゃああああ! 危ないじゃないのさ!!」
「以前は洞窟であった故遠慮しておったが……此度は平原じゃ。これを放っても崩れる心配はないのう。妾の謡は其れこそが呪い……童話に聴く海の魔女ようであろ?」
扇をパチリと鳴らしつつ笑う蜜鈴。
――アッ。どう頑張っても逃げられないですねこれ。
その音に反応して、トーチカは思わずその場に正座する。
「な、何でアンタがここにいるのさ……!」
「ん? 妾は龍の巫女で在り魔女……そして守護者じゃ。妾が来ない訳がなかろうが?」
続いた蜜鈴の言葉に絶望するトーチカ。
ここに来た時点で正座説教が約束された未来だったなんて知りたくなかった!!
蜜鈴はふぅ、とため息をつくとヴォイドレディの顔を覗き込む。
「ほんにおんしはロクなことはせぬが、憎めぬ奴じゃ。……のう、トーチカよ。そろそろお縄に着いてみよるも如何かの?」
「ダメダメ! 捕まったらビックマー様のお役に立てないじゃないのさ!!」
「……捕まらんでも結果は同じじゃと思うがのう。……だそうじゃ、クレール。もう良いぞ」
「オッケー! 皆避けててねーーー!!」
ひょい、と避けた蜜鈴とミィナ。その後ろから武器を括りつけたシールドに乗ったクレールが現れる。
ありとあらゆる手段でマテリアルを注ぎこんだそれは加速を続け、風になった彼女。全て追い越しトーチカに突撃する――!
「あはははは! 吹き飛べ年増女ーーー!! ホォォォムランッ!!」
「アアアアアア! 覚えておいでええええ!!」
捨て台詞を吐いたトーチカ。
クレールに吹き飛ばされてお星さまになった(合掌)。
「ああああ! 待ってぇ! 姐さん置いてかないでぇ!!」
「兄貴、今日はありがとうでおます! オタッシャデー! でおます!」
「うむ! サラバ!!」
刹那とフィロに毛を毟られて一層貧相になったモルッキー。キャリコに直角のお辞儀をしたセルトポも慌ててトーチカの後を追い……龍のへその東側は静けさを取り戻した。
こうして、ハンター達の活躍により、トーチカ一味は撤退した。
刹那がセクハラ被害に遭い『もうお嫁にいけない』とさめざめと泣く場面はあったが……要石は無事に守り切った。君達は立派だった!
そして、眠り続けていたヘレが目覚めたという報せが届いたのは、それからまもなくのことだった。
依頼結果
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【質問卓】教えてバタルトゥ 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/05/01 01:47:50 |
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【相談卓】要石を護れ 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/05/02 22:17:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/29 21:13:15 |