ゲスト
(ka0000)
ストリクス・エッジ
マスター:瀬川綱彦

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/12/14 19:00
- 完成日
- 2014/12/21 17:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
おかしいと思ったのは、森の中を歩いたときに獣の亡骸が散見されるようになったからだ。
農家の主人が山菜採りのために森の中へと足をのばすと、食い荒らされた獣の死骸が転がっていたのである。
獣もとうぜん狩りをする。死体自体は別段に珍しいことはないものであった。それでも男が薄気味悪いものを感じたのは、なにも獣の死体にショックを受けたからではなかった。うち捨てられた獣の姿が、あまりにも多く目についたのである。
鳥の死骸が散乱し、時が経つようになるに連れて、大型の獣の亡骸すら転がるようになっていた。この周辺で何十年と生活していて、男はこのように獣の死体が散見する経験は一度としてなかった。
森の中で夕暮れを迎えたとき、男は背後から視線を感じることが多々あった。振り返っても、自分以外に人はいない。妻と息子は家で待っているはずで、森の中にやってくることはほとんどないのだ。
けれど、視線を感じる。舐めるように、自分を見聞するような、静かな気配だ。
男は怖くなって、森に入ることはなくなった。
そして数日後、家畜の羊が食い殺された。
夜、柵の中に囲っていた羊が何頭も死体となって転がっており、白い羊毛はどす黒い紅に染まっていた。
男は、番犬をつけることにした。
その日の夜から、羊の警備として番犬があてがわれた。羊の放牧にはよく用いていた、大型の牧羊犬だった。岩を貼り付けたような筋骨隆々とした躯つきは大の大人でも吠えられれば近寄ることを躊躇し、腕を噛みつかれたらその強靱な顎の力に悲鳴をあげることになるだろうと容易に想像させる力強さがあった。
外見の番犬然とした姿とは裏腹に、その犬は農家の子供には特に好かれていた。与えられた仕事をこなすためには戦意を剥き出しにするが、常は重ねた齢のためか物静かで利口な犬であったからだ。
だから夜中に子供が目を覚ましてしまったのは、窓の外からそんな愛犬の鳴き声が聞こえたからだった。
いつもの音の塊で鼓膜を叩くような声ではない。夜でなければ気づけなかったかもしれないほど、弱々しい鳴き声だ。
どうしたのだろう。
その少年が疑問に思ってしまったのは、真っ当な流れであった。
そっとベッドから抜け出すとランプを手に外に出る。
「ひっ」
喉を締め付けられたような声が出た。
そこには、腹を食い破られた犬の亡骸が転がっていた。
犬の首を刃物のような鉤爪で締め上げて、のしかかる影がひとつ。肉に爪を立てる影がひとつ。
少年のランプの灯りに舐めあげられて、ぐるりと首が回転した。四つの瞳と目が合った。
二匹の梟が、愛犬の血にぬれた相貌で少年を見ていた。
●
「以上が事件について、農家から寄せられた被害のあらましです」
眼鏡をかけた受付嬢が読み上げた資料をカウンターに置くと、ハンターの面々を見回した。
ハンターオフィスの一画で、今回の依頼に関する概要を語っていたのである。
「ある農家の運営する放牧地周辺の森に雑魔が住み着き、近隣に被害をもたらしているとのことです。未だに人的被害こそ発生してはおりませんが、状況を鑑みるに、いずれ人に危害を及ぼす可能性は十二分に考えられます。早急に撃破をお願いします」
なお、雑魔は大型化した梟といった風情であり、生態もそれに類するものと予想される。そのため、放牧地に再び現れるのは月明かり以外の光源のない深い夜の帳が降りてからになるだろう。
「また、雑魔は放牧地の家畜の味を覚え、再度標的として狙ってくるものと見られます。みなさんはそこを迎え撃っていただく形となります。雑魔の撃破が最優先ですが、家畜の被害は最小限にとどめていただきたいとのご要望です」
家畜は農家の財産である。雑魔の撃破が最優先だが、これ以上に資産への被害が増えるというのも看過できる問題ではないのだろう。それもまた農家にとっては切実な要望であった。
「それでは、よろしくお願いいたします」
そうして受付嬢は頭をさげ、説明を終えた。
おかしいと思ったのは、森の中を歩いたときに獣の亡骸が散見されるようになったからだ。
農家の主人が山菜採りのために森の中へと足をのばすと、食い荒らされた獣の死骸が転がっていたのである。
獣もとうぜん狩りをする。死体自体は別段に珍しいことはないものであった。それでも男が薄気味悪いものを感じたのは、なにも獣の死体にショックを受けたからではなかった。うち捨てられた獣の姿が、あまりにも多く目についたのである。
鳥の死骸が散乱し、時が経つようになるに連れて、大型の獣の亡骸すら転がるようになっていた。この周辺で何十年と生活していて、男はこのように獣の死体が散見する経験は一度としてなかった。
森の中で夕暮れを迎えたとき、男は背後から視線を感じることが多々あった。振り返っても、自分以外に人はいない。妻と息子は家で待っているはずで、森の中にやってくることはほとんどないのだ。
けれど、視線を感じる。舐めるように、自分を見聞するような、静かな気配だ。
男は怖くなって、森に入ることはなくなった。
そして数日後、家畜の羊が食い殺された。
夜、柵の中に囲っていた羊が何頭も死体となって転がっており、白い羊毛はどす黒い紅に染まっていた。
男は、番犬をつけることにした。
その日の夜から、羊の警備として番犬があてがわれた。羊の放牧にはよく用いていた、大型の牧羊犬だった。岩を貼り付けたような筋骨隆々とした躯つきは大の大人でも吠えられれば近寄ることを躊躇し、腕を噛みつかれたらその強靱な顎の力に悲鳴をあげることになるだろうと容易に想像させる力強さがあった。
外見の番犬然とした姿とは裏腹に、その犬は農家の子供には特に好かれていた。与えられた仕事をこなすためには戦意を剥き出しにするが、常は重ねた齢のためか物静かで利口な犬であったからだ。
だから夜中に子供が目を覚ましてしまったのは、窓の外からそんな愛犬の鳴き声が聞こえたからだった。
いつもの音の塊で鼓膜を叩くような声ではない。夜でなければ気づけなかったかもしれないほど、弱々しい鳴き声だ。
どうしたのだろう。
その少年が疑問に思ってしまったのは、真っ当な流れであった。
そっとベッドから抜け出すとランプを手に外に出る。
「ひっ」
喉を締め付けられたような声が出た。
そこには、腹を食い破られた犬の亡骸が転がっていた。
犬の首を刃物のような鉤爪で締め上げて、のしかかる影がひとつ。肉に爪を立てる影がひとつ。
少年のランプの灯りに舐めあげられて、ぐるりと首が回転した。四つの瞳と目が合った。
二匹の梟が、愛犬の血にぬれた相貌で少年を見ていた。
●
「以上が事件について、農家から寄せられた被害のあらましです」
眼鏡をかけた受付嬢が読み上げた資料をカウンターに置くと、ハンターの面々を見回した。
ハンターオフィスの一画で、今回の依頼に関する概要を語っていたのである。
「ある農家の運営する放牧地周辺の森に雑魔が住み着き、近隣に被害をもたらしているとのことです。未だに人的被害こそ発生してはおりませんが、状況を鑑みるに、いずれ人に危害を及ぼす可能性は十二分に考えられます。早急に撃破をお願いします」
なお、雑魔は大型化した梟といった風情であり、生態もそれに類するものと予想される。そのため、放牧地に再び現れるのは月明かり以外の光源のない深い夜の帳が降りてからになるだろう。
「また、雑魔は放牧地の家畜の味を覚え、再度標的として狙ってくるものと見られます。みなさんはそこを迎え撃っていただく形となります。雑魔の撃破が最優先ですが、家畜の被害は最小限にとどめていただきたいとのご要望です」
家畜は農家の財産である。雑魔の撃破が最優先だが、これ以上に資産への被害が増えるというのも看過できる問題ではないのだろう。それもまた農家にとっては切実な要望であった。
「それでは、よろしくお願いいたします」
そうして受付嬢は頭をさげ、説明を終えた。
リプレイ本文
愛らしい外見でも、中身もそうとは限らない。
闇夜に目を光らせる猛禽もまたそれであった。
音もなく、木の枝に止まる大柄な影があった。月明かりも、まるでコーヒーにミルクでも垂らしたかのようにかき消え、その影を照らすには至らない。
しかし、気配もなくその影はあった。二羽であった。成人男性と同じかそれ以上の大きさの、鳥とは思えぬ巨体が森の中に誰に悟られることなく忍んでいた。
彼らの漆黒の双眸が、遠く農家の柵の中を見ていた。雑魔と化し、森の獲物では物足りなくなった彼らにとって、極上の餌がそこにはあった。
ぶわっ、とマントを広げるように肉食獣の両翼は木々の合間で広がった。
●
雑魔は見逃していた。梟は狩人であるが、今宵の闇にはもうひとつのハンターが潜んでいたのだということを。
(――来た)
最初に雑魔の接近に勘づいたのは、森側を見張っていたナル(ka3448)であった。
彼女はあらかじめ森の木々に当たりを付け、監視していたのである。そのため、いち早く雑魔の接近を察知することができたのだ。
放牧地に点在する樹木にいる可能性も考慮したが、あちらは他に遮蔽物がないからだろう。彼らは森より襲来した。
続いて気づいたのは、鋭敏な視覚を持つ鵤(ka3319)だった。森の奥から飛来する巨大な気配を感じ取り、備える。
そんなハンターたちといえど、来ることがわかっていなければ気づけなかったかもしれない。その自然が生んだ闇夜の捕食者は、今ハンターたちと接敵しつつあった――。
雑魔の襲来を悟ったハンターたちがいっせいに動き出していた。
二羽の梟が森から飛び出したとき、雑魔襲来を知らせる合図を受けて身構えていたハンターたちの手は動いた。
柵間際の枝に止まり、すぐさま勢いよく飛び出したふたつの影が柵の中へと身を躍らせる。
瞬間、一筋の光が月夜を裂いた。
風を切る奇妙な音を捉え、ふたつの影は翼を羽撃かせて左右に散った。
「さすがにまだ当たりませんか」
光り輝く弓を構えたクオン・サガラ(ka0018)が結果を確認してつぶやく。
先程まで布につつんでいた弓を構えて即座に放った第一射、それは暗闇で狙いをつけるのは困難だった。
元より、初弾を当てる気はない。クオンが射ったのは夜までの間に即席で用意した鏑矢だ。おのれの知識を動員して自作した木材細工を取り付けたそれは軌道がぶれるが、音は想像通りに鳴り響く。
鏑矢は風を切り異音を発し、それは戦いの嚆矢となった。
「――小さき火よ」
梟の出鼻をくじいた隙に、シエラ・R・スパーダ(ka3139)が放つ火球が柵内に設置した焚火台に火を付けた。
篝火の赤々とした炎が柵内に瞬いていくなかを征く梟の心境ははたしてどうだったか。
それらは、ハンターたちが事前に柵内に設置していた照明装置だった。
「自信作っすよ!」
神楽(ka2032)がにやりと笑う。火をともせるよう製作し、布や草でカモフラージュしたそれらは梟の目を欺くのに会心の出来であった。
ハンターたちが設置していた仕掛けに火を灯していき農家の柵内に光源が灯っていく。
まだ心許ない光の中で、しかし闇という利点は、雑魔より失われつつあった。
●
――安心してください! 羊さんは最大限、僕達が守ります!
そう農家の人間に宣言したうちのひとりが三日月 壱(ka0244)だった。
笑顔でそう宣言したのは、それが仕事であるから余計な面倒を起こしたくないという理由も強かったが――。
壱は眠っている羊の周辺に潜んでいた。敵が現れた際にすぐ対応できるように潜伏していた彼は物陰から飛び出し、柵の隅へと寄せられた羊たちの前に躍り出る。
「猛禽類ごときが人の飯の種に手ェつけるんじゃねえよ!」
火を灯したランタンを地に置き、紅く光った目で敵をにらみ付ける。その眼光はまさに相手と同じく夜に牙を研ぐ獣のそれであった。
構えた魔導銃を梟に向けてトリガーを引き、マテリアルの光弾が梟の腹部をえぐり取る。梟は甲高く声をあげて巨大な翼を振り乱し、旋回し左右に散った。
雑魔と化し大型化した梟の運動性能が高いのか、力強く風を叩いて飛翔する。だがここは森の中ではなく、彼らが息を休める止まり木はない。初撃の奇襲が失敗した今、流れはハンターにあった。
それでも空は梟の領域、夜空を往くふたつの影にむかってスティリア(ka3277)がチャクラムを振りかぶる。
「人に仇なす害悪よ――落ちろ」
円形の刃が月光にひらめいた。
それは梟の翼を切り裂き、朱に染まった羽毛が飛び散る。
「この期に及んで逃がすと思って?」
悠然と杖を掲げるシエラが、森に退避しようとした梟に向けて魔法を放つ。刃物のように鋭い風の刃がかまいたちの如く吹き荒れた。
間一髪で身をひるがえした雑魔の鼻先をかすめていく。梟たちは悟る。退却する間はないと。
決断した獣の動きははやい。彼らは逃げるのを諦め、家畜の側にいたハンターに狙いを定めて加速した。
「やっと降りてきましたか。これで、斬れます」
二振りの剣を手にした女性、フランシスカ(ka3590)が梟の前に立ちはだかり、すれ違いざまに剣を振るった。
二条の銀閃が梟の躯を裂き、猛禽の鋭利な爪がフランシスカの肩肉を切り裂く。
「……鉤爪は厄介ですね」
再び空に舞い上がってヒットアンドアウェイといった様子で仕掛けてくる梟に注意を払いながら、フランシスカは自身に回復を施していく。
「羊に手を出されると面倒だしな、とっとと叩き堕としてやる」
壱と神楽が魔導銃で梟を牽制しながら、神楽は回復中のフランシスカをかばうように立って、もう一方の梟と相対する仲間に声をかけた。
「とにかくこっちは任せるっすよ~」
「あまり声を上げると羊たちが目を覚ますぞ」
傍らに駆けつけたスティリアが低く抑えた声でいうと、再び襲いかかろうと月をバックにした梟に備え、ナックルを構えた。マテリアルを流し込まれたヴァリアブル・デバイドの形状が獣の顎の形に展開。それはさながら狩猟をおこなう猛獣のようであった。
「次がこちらが狩られる恐怖を教える番だ」
●
「さーて、それじゃあお仕事といきますか。いやあ、おじさんの躯じゃ二回続けての夜勤は堪えるんだよねえ、さっさと終わらせるとしましょうか」
梟に気づかれないよう息を潜めていたためか、鵤は窮屈さから解放されて肩をまわした。軽い口調ではあるが、一息つけば即座に弓を執り矢をつがえている。
シエラが放つ疾風をすり抜けながら急降下してくる梟に向けて矢が放たれた。
一矢が梟の腹部に突き刺さる。空を飛ぶ狩猟者とはいえ、巨大化し相応の重量を得てしまった梟では降下中に突然軌道を変えることができなかったのだ。
だが梟はひるまない。ハンターのひとりに掴みかかろうと突進し、選んだのは四人の中で一番小柄なナルだった。
数多の獲物を仕留めてきた鉤爪が振り下ろされる。次の瞬間には爪はナルの柔肌を裂き、刃は血を浴びていた。
だが、実際に斬ったのは虚空だった。
梟の動きは素早い。しかしその直線的な動きにナルは身軽さをもってすぐさま反応していた。
「甘いのよ!」
回避運動から流れるように梟の横合いに滑り込んだナルが梟へ魔導拳銃を向け、死角外から続けざまに放つ――。
ぎゅるりっ、と梟の頭が真横にねじれ、ナルと目を合わせた。
幾度か引き絞ったトリガー、何発かが雑魔の羽毛を舞わせるが、致命傷を与える前に既に敵は離脱していた。
「さすがに目も耳も良いみたい。……でもいきなりこっち向かれると不気味ね」
自前のLEDライトも使用して出来るだけ周囲を明るくしているとはいえ、目を黒々と輝かせる梟と目を合わせるのは、気味が悪いとしか言いようがない。
「一度動きを止めないと埒があきませんね」
上空の梟を見てクオンは牽制がてら後方から矢を射る。最初は鏑矢で聴覚の攪乱を狙っていたが、期待できそうになかったので今は通常の矢を使っていた。
灯りをつけた作戦が功を奏し、ハンターたちの視界は戦闘に耐えうるものとなっているが、そもそも視界や聴覚、それに自由に空を飛べる能力は敵の方が勝っているという状況である。
ならば、それを止めてやればいい。
「地面に引き摺りおろしてしまえばこちらものよ」
答えるとシエラは杖の石突きで地面を叩いた。
「――風よ」
穏やかだった放牧地の風が旋風を巻き起こし、擦過音をあげ幾重もの颶風となって雑魔に放たれた。
刃物と同様と化した疾風を、空で生きる雑魔は即座に感じ取る。激しく翼で中空を叩き、避ける――が、避けきれぬ刃が容赦なく梟の躯から鮮血を散らせる。
「いつまでも頭上で飛び回られていると迷惑なのよ」
魔法での攻撃を仕掛けてくるシエラを脅威と判断し、梟が長身のエルフにめがけて飛び込んでいく。
その先に鵤が割り込んでいた。
「悪いけど、おたくの相手はシエラちゃんじゃなくておじさんなんだよねぇ」
梟が繰り出す爪を、鵤が腕をかざして光の防御壁を展開して受け止める。
生き物の肉を容易に切り裂く雑魔の爪と光の壁がぶつかり合い、夜空の下に紅い火花が咲き乱れた。
そして鵤がデバイスで放った電流が梟の躯に流れ込んだ。
魔導機械を通じての雷撃が梟を貫き、自然界ではけして受けることのなかった類いの苦痛に梟は形容しがたい悲鳴をあげる。ハンターが鼓膜に突き刺さる声に気を取られた一瞬に梟は防御壁を蹴った。光の壁は粉々に砕け散り闇に飲み込まれるようにして消え去っていく。
そして蹴りの反動を利用して飛翔しようとして、梟は躯が思い通りに動かないことに気づいた。感電しているのだ。
「痛ててて……。どうやら結構効いてるみたいだね」
防御壁を破られた拍子に裂かれた腕を気遣いながらも鵤は口元に笑みを浮かべた。
梟は上空に飛び上がろうとするが、躯が思うように動かず中空でばたついていた。
悶えながらハンターたちの手の届かないところに飛ぼうとする梟に、クオンがスクリューナックルを構えて肉迫していた。
「同じ物はこちらにもありますよ」
高速回転する刃が梟の分厚い胸板を裂き、電流が躯を貫く。
躯を痙攣させ飛び損ねた梟との距離をナルも既にゼロとしていた。
「いくら雑魔でも、翼がダメになったら飛べないでしょう?」
至近距離から魔導拳銃による銃撃が、避け損なった梟の翼を撃ち貫く。
――オオオオオオ!!!
鼓膜に突き刺さったと錯覚するほど高い悲鳴をあげて雑魔は狂ったように翼を振り回す。
勝負はつきつつあった。
●
家畜である羊の側で戦っていたハンターたちは、その護衛対象のために難しい戦いを強いられていた。
羊たちは臆病な生き物である。様々な習性を利用しているとはいえ、群れを成しているにも関わらず自分たちよりもずっと小さな犬に吠えられただけで逃げて誘導されてしまうからだ。今も柵の隅に羊がかたまって寝ているのも、農家が飼育している別の牧羊犬によって事前に誘導された結果である。
故に、下手に羊を刺激するとあっという間に柵の中にあふれかえり、戦闘に支障を来す可能性があった。
「ちっ、仕方ねえな」
幾度目かの梟の襲撃に、壱が舌を打って前にでた。彼の背後には羊の姿があった。
風を切り掴みかかる梟の鉤爪を魔導銃の銃身が遮る。フランシスカのプロテクションで光をにじませる武器が爪と擦れて嫌な音を立てた。
――一度ハンターとの戦闘となれば梟は家畜を狩ろうとはしなかった。だが、ハンターたちは羊を下手に刺激されたくもない。そこに雑魔はつけいったのだ。
よって、ハンターたちは羊を庇いに入り生傷が絶えない状態だった。雑魔たちは狡猾であり、獲物の味を、仕留め方を学習していた。
梟ののっぺりとして、闇を塗り込んだような黒一色の不気味な瞳が抵抗するハンターを冷たく見おろしていた。
壱に襲いかかった梟を横合いからスティリアの拳が殴りつけた。手を被う刃が梟を引き裂き、悲鳴をあげて梟が離脱する。
「まだやれるか?」
「もちろん。ったく、やりにくいったらありゃしねえ」
「あ痛たた……面倒な相手っすね~。でもウールやジンギスカンの元をやらせるわけにもいかねーっす!」
壱と同じく梟の攻撃をナイフでやり過ごしていた神楽にも裂傷があちこちに刻まれていた。
「敵とて無傷ではない。もう一押しだ」
スティリアがヴァリアブル・デバイドに付着した血を腕を振って払う。雑魔の躯には、いくつもの浅からぬ傷が見て取れた。あちらには飛行できる利点があるが、接近しなければ攻撃できないのは道理。四人のハンターは着実に梟の体力を奪っていた。
フランシスカが傷ついたふたりに回復魔法を使用し、援護に気を遣う。羊が負傷したときのためにも回復魔法の余力を残しておきたいが、味方の援護は惜しまなかった。
「羊さんに手を出される前に、斬ります」
「来るぞ!」
壱の警告。遠方より聞こえた梟の悲鳴に反応し、家畜側にいた雑魔も怒ったように翼を激しくばたつかせて突撃してきた。
壱と神楽が共に魔導銃から手を離し、即座に鞭とナイフを構える。ふたりの霊闘士の肢体に力がみなぎり、獰猛に襲来する獣を迎え撃った。
「こっちくんなっすよ!」
祖霊の力が宿ったナイフを雑魔に突き出す。黒き刀身が梟の足を貫いた。
「手羽先いただきっす!」
足に一撃を食らった梟の体勢が乱れ、そこに畳みかけるのは壱だ。
「おらっ、逃がすかよ」
壱の鞭が雑魔のもう一方の足にからみつく。上空に飛び上がろうと翼を激しくばたつかせる力強さに、壱は手に込める力を強めた。
飛行の利点を妨害すればこちらのものと、フランシスカはこの機を逃さず二刀の刃を振り上げていた。敵の失態を待ち、その機には一息に攻めると備えていた躯の動きは弾かれたように早く。
「……眠りなさい」
弧を描いた太刀筋は、狙い違わず雑魔の躯を切り捨てた。
●
決着がついてみれば、結果的に羊の被害は一頭も出ていなかった。
逆にいえば、密集した状況で羊が犠牲になれば一気に恐慌状態に陥る。羊を庇うことを優先していなければもっと被害がでていたことだろう。
雑魔の亡骸も今はもうない。元はつがいだったのだろう、最後まで二羽で行動を共にしていた事実だけが、この世に残された彼らの最後の残滓であった。
「……怪我はないみたいですね」
戦場の近くにいた羊の何頭かをかがみ込んで見聞していたフランシスカが報告する。彼女の両手はふわふわとした羊の羊毛に埋まっていた。
メー、メー、と鳴き声をあげる羊たちは、先程まで戦いの目と鼻の先にいたとは思えない呑気さに見えた。
「ま、なにはともあれ」
羊の頭を撫でてなだめていた鵤が火を付けていない煙草を口に銜えて。
「今日は泊めてもらうとしようじゃない。夜はまだまだ長いしさ」
そうして放牧地の夜は安らかに過ぎていった。
闇夜に目を光らせる猛禽もまたそれであった。
音もなく、木の枝に止まる大柄な影があった。月明かりも、まるでコーヒーにミルクでも垂らしたかのようにかき消え、その影を照らすには至らない。
しかし、気配もなくその影はあった。二羽であった。成人男性と同じかそれ以上の大きさの、鳥とは思えぬ巨体が森の中に誰に悟られることなく忍んでいた。
彼らの漆黒の双眸が、遠く農家の柵の中を見ていた。雑魔と化し、森の獲物では物足りなくなった彼らにとって、極上の餌がそこにはあった。
ぶわっ、とマントを広げるように肉食獣の両翼は木々の合間で広がった。
●
雑魔は見逃していた。梟は狩人であるが、今宵の闇にはもうひとつのハンターが潜んでいたのだということを。
(――来た)
最初に雑魔の接近に勘づいたのは、森側を見張っていたナル(ka3448)であった。
彼女はあらかじめ森の木々に当たりを付け、監視していたのである。そのため、いち早く雑魔の接近を察知することができたのだ。
放牧地に点在する樹木にいる可能性も考慮したが、あちらは他に遮蔽物がないからだろう。彼らは森より襲来した。
続いて気づいたのは、鋭敏な視覚を持つ鵤(ka3319)だった。森の奥から飛来する巨大な気配を感じ取り、備える。
そんなハンターたちといえど、来ることがわかっていなければ気づけなかったかもしれない。その自然が生んだ闇夜の捕食者は、今ハンターたちと接敵しつつあった――。
雑魔の襲来を悟ったハンターたちがいっせいに動き出していた。
二羽の梟が森から飛び出したとき、雑魔襲来を知らせる合図を受けて身構えていたハンターたちの手は動いた。
柵間際の枝に止まり、すぐさま勢いよく飛び出したふたつの影が柵の中へと身を躍らせる。
瞬間、一筋の光が月夜を裂いた。
風を切る奇妙な音を捉え、ふたつの影は翼を羽撃かせて左右に散った。
「さすがにまだ当たりませんか」
光り輝く弓を構えたクオン・サガラ(ka0018)が結果を確認してつぶやく。
先程まで布につつんでいた弓を構えて即座に放った第一射、それは暗闇で狙いをつけるのは困難だった。
元より、初弾を当てる気はない。クオンが射ったのは夜までの間に即席で用意した鏑矢だ。おのれの知識を動員して自作した木材細工を取り付けたそれは軌道がぶれるが、音は想像通りに鳴り響く。
鏑矢は風を切り異音を発し、それは戦いの嚆矢となった。
「――小さき火よ」
梟の出鼻をくじいた隙に、シエラ・R・スパーダ(ka3139)が放つ火球が柵内に設置した焚火台に火を付けた。
篝火の赤々とした炎が柵内に瞬いていくなかを征く梟の心境ははたしてどうだったか。
それらは、ハンターたちが事前に柵内に設置していた照明装置だった。
「自信作っすよ!」
神楽(ka2032)がにやりと笑う。火をともせるよう製作し、布や草でカモフラージュしたそれらは梟の目を欺くのに会心の出来であった。
ハンターたちが設置していた仕掛けに火を灯していき農家の柵内に光源が灯っていく。
まだ心許ない光の中で、しかし闇という利点は、雑魔より失われつつあった。
●
――安心してください! 羊さんは最大限、僕達が守ります!
そう農家の人間に宣言したうちのひとりが三日月 壱(ka0244)だった。
笑顔でそう宣言したのは、それが仕事であるから余計な面倒を起こしたくないという理由も強かったが――。
壱は眠っている羊の周辺に潜んでいた。敵が現れた際にすぐ対応できるように潜伏していた彼は物陰から飛び出し、柵の隅へと寄せられた羊たちの前に躍り出る。
「猛禽類ごときが人の飯の種に手ェつけるんじゃねえよ!」
火を灯したランタンを地に置き、紅く光った目で敵をにらみ付ける。その眼光はまさに相手と同じく夜に牙を研ぐ獣のそれであった。
構えた魔導銃を梟に向けてトリガーを引き、マテリアルの光弾が梟の腹部をえぐり取る。梟は甲高く声をあげて巨大な翼を振り乱し、旋回し左右に散った。
雑魔と化し大型化した梟の運動性能が高いのか、力強く風を叩いて飛翔する。だがここは森の中ではなく、彼らが息を休める止まり木はない。初撃の奇襲が失敗した今、流れはハンターにあった。
それでも空は梟の領域、夜空を往くふたつの影にむかってスティリア(ka3277)がチャクラムを振りかぶる。
「人に仇なす害悪よ――落ちろ」
円形の刃が月光にひらめいた。
それは梟の翼を切り裂き、朱に染まった羽毛が飛び散る。
「この期に及んで逃がすと思って?」
悠然と杖を掲げるシエラが、森に退避しようとした梟に向けて魔法を放つ。刃物のように鋭い風の刃がかまいたちの如く吹き荒れた。
間一髪で身をひるがえした雑魔の鼻先をかすめていく。梟たちは悟る。退却する間はないと。
決断した獣の動きははやい。彼らは逃げるのを諦め、家畜の側にいたハンターに狙いを定めて加速した。
「やっと降りてきましたか。これで、斬れます」
二振りの剣を手にした女性、フランシスカ(ka3590)が梟の前に立ちはだかり、すれ違いざまに剣を振るった。
二条の銀閃が梟の躯を裂き、猛禽の鋭利な爪がフランシスカの肩肉を切り裂く。
「……鉤爪は厄介ですね」
再び空に舞い上がってヒットアンドアウェイといった様子で仕掛けてくる梟に注意を払いながら、フランシスカは自身に回復を施していく。
「羊に手を出されると面倒だしな、とっとと叩き堕としてやる」
壱と神楽が魔導銃で梟を牽制しながら、神楽は回復中のフランシスカをかばうように立って、もう一方の梟と相対する仲間に声をかけた。
「とにかくこっちは任せるっすよ~」
「あまり声を上げると羊たちが目を覚ますぞ」
傍らに駆けつけたスティリアが低く抑えた声でいうと、再び襲いかかろうと月をバックにした梟に備え、ナックルを構えた。マテリアルを流し込まれたヴァリアブル・デバイドの形状が獣の顎の形に展開。それはさながら狩猟をおこなう猛獣のようであった。
「次がこちらが狩られる恐怖を教える番だ」
●
「さーて、それじゃあお仕事といきますか。いやあ、おじさんの躯じゃ二回続けての夜勤は堪えるんだよねえ、さっさと終わらせるとしましょうか」
梟に気づかれないよう息を潜めていたためか、鵤は窮屈さから解放されて肩をまわした。軽い口調ではあるが、一息つけば即座に弓を執り矢をつがえている。
シエラが放つ疾風をすり抜けながら急降下してくる梟に向けて矢が放たれた。
一矢が梟の腹部に突き刺さる。空を飛ぶ狩猟者とはいえ、巨大化し相応の重量を得てしまった梟では降下中に突然軌道を変えることができなかったのだ。
だが梟はひるまない。ハンターのひとりに掴みかかろうと突進し、選んだのは四人の中で一番小柄なナルだった。
数多の獲物を仕留めてきた鉤爪が振り下ろされる。次の瞬間には爪はナルの柔肌を裂き、刃は血を浴びていた。
だが、実際に斬ったのは虚空だった。
梟の動きは素早い。しかしその直線的な動きにナルは身軽さをもってすぐさま反応していた。
「甘いのよ!」
回避運動から流れるように梟の横合いに滑り込んだナルが梟へ魔導拳銃を向け、死角外から続けざまに放つ――。
ぎゅるりっ、と梟の頭が真横にねじれ、ナルと目を合わせた。
幾度か引き絞ったトリガー、何発かが雑魔の羽毛を舞わせるが、致命傷を与える前に既に敵は離脱していた。
「さすがに目も耳も良いみたい。……でもいきなりこっち向かれると不気味ね」
自前のLEDライトも使用して出来るだけ周囲を明るくしているとはいえ、目を黒々と輝かせる梟と目を合わせるのは、気味が悪いとしか言いようがない。
「一度動きを止めないと埒があきませんね」
上空の梟を見てクオンは牽制がてら後方から矢を射る。最初は鏑矢で聴覚の攪乱を狙っていたが、期待できそうになかったので今は通常の矢を使っていた。
灯りをつけた作戦が功を奏し、ハンターたちの視界は戦闘に耐えうるものとなっているが、そもそも視界や聴覚、それに自由に空を飛べる能力は敵の方が勝っているという状況である。
ならば、それを止めてやればいい。
「地面に引き摺りおろしてしまえばこちらものよ」
答えるとシエラは杖の石突きで地面を叩いた。
「――風よ」
穏やかだった放牧地の風が旋風を巻き起こし、擦過音をあげ幾重もの颶風となって雑魔に放たれた。
刃物と同様と化した疾風を、空で生きる雑魔は即座に感じ取る。激しく翼で中空を叩き、避ける――が、避けきれぬ刃が容赦なく梟の躯から鮮血を散らせる。
「いつまでも頭上で飛び回られていると迷惑なのよ」
魔法での攻撃を仕掛けてくるシエラを脅威と判断し、梟が長身のエルフにめがけて飛び込んでいく。
その先に鵤が割り込んでいた。
「悪いけど、おたくの相手はシエラちゃんじゃなくておじさんなんだよねぇ」
梟が繰り出す爪を、鵤が腕をかざして光の防御壁を展開して受け止める。
生き物の肉を容易に切り裂く雑魔の爪と光の壁がぶつかり合い、夜空の下に紅い火花が咲き乱れた。
そして鵤がデバイスで放った電流が梟の躯に流れ込んだ。
魔導機械を通じての雷撃が梟を貫き、自然界ではけして受けることのなかった類いの苦痛に梟は形容しがたい悲鳴をあげる。ハンターが鼓膜に突き刺さる声に気を取られた一瞬に梟は防御壁を蹴った。光の壁は粉々に砕け散り闇に飲み込まれるようにして消え去っていく。
そして蹴りの反動を利用して飛翔しようとして、梟は躯が思い通りに動かないことに気づいた。感電しているのだ。
「痛ててて……。どうやら結構効いてるみたいだね」
防御壁を破られた拍子に裂かれた腕を気遣いながらも鵤は口元に笑みを浮かべた。
梟は上空に飛び上がろうとするが、躯が思うように動かず中空でばたついていた。
悶えながらハンターたちの手の届かないところに飛ぼうとする梟に、クオンがスクリューナックルを構えて肉迫していた。
「同じ物はこちらにもありますよ」
高速回転する刃が梟の分厚い胸板を裂き、電流が躯を貫く。
躯を痙攣させ飛び損ねた梟との距離をナルも既にゼロとしていた。
「いくら雑魔でも、翼がダメになったら飛べないでしょう?」
至近距離から魔導拳銃による銃撃が、避け損なった梟の翼を撃ち貫く。
――オオオオオオ!!!
鼓膜に突き刺さったと錯覚するほど高い悲鳴をあげて雑魔は狂ったように翼を振り回す。
勝負はつきつつあった。
●
家畜である羊の側で戦っていたハンターたちは、その護衛対象のために難しい戦いを強いられていた。
羊たちは臆病な生き物である。様々な習性を利用しているとはいえ、群れを成しているにも関わらず自分たちよりもずっと小さな犬に吠えられただけで逃げて誘導されてしまうからだ。今も柵の隅に羊がかたまって寝ているのも、農家が飼育している別の牧羊犬によって事前に誘導された結果である。
故に、下手に羊を刺激するとあっという間に柵の中にあふれかえり、戦闘に支障を来す可能性があった。
「ちっ、仕方ねえな」
幾度目かの梟の襲撃に、壱が舌を打って前にでた。彼の背後には羊の姿があった。
風を切り掴みかかる梟の鉤爪を魔導銃の銃身が遮る。フランシスカのプロテクションで光をにじませる武器が爪と擦れて嫌な音を立てた。
――一度ハンターとの戦闘となれば梟は家畜を狩ろうとはしなかった。だが、ハンターたちは羊を下手に刺激されたくもない。そこに雑魔はつけいったのだ。
よって、ハンターたちは羊を庇いに入り生傷が絶えない状態だった。雑魔たちは狡猾であり、獲物の味を、仕留め方を学習していた。
梟ののっぺりとして、闇を塗り込んだような黒一色の不気味な瞳が抵抗するハンターを冷たく見おろしていた。
壱に襲いかかった梟を横合いからスティリアの拳が殴りつけた。手を被う刃が梟を引き裂き、悲鳴をあげて梟が離脱する。
「まだやれるか?」
「もちろん。ったく、やりにくいったらありゃしねえ」
「あ痛たた……面倒な相手っすね~。でもウールやジンギスカンの元をやらせるわけにもいかねーっす!」
壱と同じく梟の攻撃をナイフでやり過ごしていた神楽にも裂傷があちこちに刻まれていた。
「敵とて無傷ではない。もう一押しだ」
スティリアがヴァリアブル・デバイドに付着した血を腕を振って払う。雑魔の躯には、いくつもの浅からぬ傷が見て取れた。あちらには飛行できる利点があるが、接近しなければ攻撃できないのは道理。四人のハンターは着実に梟の体力を奪っていた。
フランシスカが傷ついたふたりに回復魔法を使用し、援護に気を遣う。羊が負傷したときのためにも回復魔法の余力を残しておきたいが、味方の援護は惜しまなかった。
「羊さんに手を出される前に、斬ります」
「来るぞ!」
壱の警告。遠方より聞こえた梟の悲鳴に反応し、家畜側にいた雑魔も怒ったように翼を激しくばたつかせて突撃してきた。
壱と神楽が共に魔導銃から手を離し、即座に鞭とナイフを構える。ふたりの霊闘士の肢体に力がみなぎり、獰猛に襲来する獣を迎え撃った。
「こっちくんなっすよ!」
祖霊の力が宿ったナイフを雑魔に突き出す。黒き刀身が梟の足を貫いた。
「手羽先いただきっす!」
足に一撃を食らった梟の体勢が乱れ、そこに畳みかけるのは壱だ。
「おらっ、逃がすかよ」
壱の鞭が雑魔のもう一方の足にからみつく。上空に飛び上がろうと翼を激しくばたつかせる力強さに、壱は手に込める力を強めた。
飛行の利点を妨害すればこちらのものと、フランシスカはこの機を逃さず二刀の刃を振り上げていた。敵の失態を待ち、その機には一息に攻めると備えていた躯の動きは弾かれたように早く。
「……眠りなさい」
弧を描いた太刀筋は、狙い違わず雑魔の躯を切り捨てた。
●
決着がついてみれば、結果的に羊の被害は一頭も出ていなかった。
逆にいえば、密集した状況で羊が犠牲になれば一気に恐慌状態に陥る。羊を庇うことを優先していなければもっと被害がでていたことだろう。
雑魔の亡骸も今はもうない。元はつがいだったのだろう、最後まで二羽で行動を共にしていた事実だけが、この世に残された彼らの最後の残滓であった。
「……怪我はないみたいですね」
戦場の近くにいた羊の何頭かをかがみ込んで見聞していたフランシスカが報告する。彼女の両手はふわふわとした羊の羊毛に埋まっていた。
メー、メー、と鳴き声をあげる羊たちは、先程まで戦いの目と鼻の先にいたとは思えない呑気さに見えた。
「ま、なにはともあれ」
羊の頭を撫でてなだめていた鵤が火を付けていない煙草を口に銜えて。
「今日は泊めてもらうとしようじゃない。夜はまだまだ長いしさ」
そうして放牧地の夜は安らかに過ぎていった。
依頼結果
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相談卓 三日月 壱(ka0244) 人間(リアルブルー)|14才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/12/14 15:56:14 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/10 23:02:19 |