ゲスト
(ka0000)
【CF】紅の世界の生誕劇?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/17 07:30
- 完成日
- 2014/12/24 06:40
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
12月、リアルブルーでは多くの街がどこもかしこもクリスマスに染まるこの時期、クリムゾンウェストでもまた同じようにクリスマスムードに包まれる。
それはここ、崖上都市「ピースホライズン」でも変わらない。
むしろどこもかしこも華やかに、賑やかにクリスマス準備が進められていて。
リアルブルーの街に輝くという電飾の代わりに、ピースホライズンを彩るのは魔導仕掛けのクリスマス・イルミネーション。
立ち並ぶ家や街の飾りつけも、あちらこちらが少しずつクリスマスの色に染まっていく。
特に今年は、去年の秋に漂着したサルヴァトーレ・ロッソによって今までになく大量に訪れたリアルブルーからの転移者たちが、落ち着いて迎えられる初めてのクリスマス。
ハンターとして活躍している者も多い彼らを目当てにしてるのか、少しばかり変わった趣向を凝らす人々もいるようで。
果たして今年はどんなクリスマスになるのか、楽しみにしている人々も多いようだった。
●
「クリスマス、か」
青年は一人呟いた。
異世界でこんなにクリスマスらしいクリスマスを送れるとは、夢にも思っていなかった――いかにもそんな顔で。
息を吐けば、白く曇った。
胸に下げているペンダントは十字の形。
……チャーリーという名のその青年は、クリスチャンだった。
クリスマスはミサに行き、そして家でターキーを食べてみんなで祝う。
それはチャーリーのそれまでのごく普通のクリスマスの姿であり、それがいつまでも続くと思っていた。ここに来るまでは。
「クリスマスを祝う気持ちは、どこでもさして変わらないのだな」
思わず口に上るのはそんな言葉、彼はそう言ってから苦笑を浮かべる。
「……そう言えば、あれも懐かしいな」
毎年クリスマス恒例の、生誕劇。
クリムゾンウェストには、存在するのだろうか。
●
――いっしょに劇を作りませんか。
チャーリーはペンを走らせる。
――リアルブルーのクリスマスではよく上演される、聖人の生誕を再現した劇です。
――でもリアルブルーの劇をそのままやっても、皆さんは面白くないでしょう。
――クリムゾンウェストの人々なら『聖人の生誕』と聞いてどんな話を思い浮かべますか。
――僕は、皆さんが思う『生誕劇』を作りたいと思うのです。
――いっしょに、劇を作りませんか。
青年はそう書いて小さく笑った。
どんなに見当違いでも、心がこもっていればそれは確かに生誕劇と等しくなるに違いない。クリムゾンウェストの人々の解釈はきっと異なるだろうから、むしろその違いを自分の目で見てみたくなったのだ。
エクラとは似て非なるリアルブルーの宗教劇。
一体どう、変化するのか。
チャーリーは、案外チャレンジャーなのだった。
それはここ、崖上都市「ピースホライズン」でも変わらない。
むしろどこもかしこも華やかに、賑やかにクリスマス準備が進められていて。
リアルブルーの街に輝くという電飾の代わりに、ピースホライズンを彩るのは魔導仕掛けのクリスマス・イルミネーション。
立ち並ぶ家や街の飾りつけも、あちらこちらが少しずつクリスマスの色に染まっていく。
特に今年は、去年の秋に漂着したサルヴァトーレ・ロッソによって今までになく大量に訪れたリアルブルーからの転移者たちが、落ち着いて迎えられる初めてのクリスマス。
ハンターとして活躍している者も多い彼らを目当てにしてるのか、少しばかり変わった趣向を凝らす人々もいるようで。
果たして今年はどんなクリスマスになるのか、楽しみにしている人々も多いようだった。
●
「クリスマス、か」
青年は一人呟いた。
異世界でこんなにクリスマスらしいクリスマスを送れるとは、夢にも思っていなかった――いかにもそんな顔で。
息を吐けば、白く曇った。
胸に下げているペンダントは十字の形。
……チャーリーという名のその青年は、クリスチャンだった。
クリスマスはミサに行き、そして家でターキーを食べてみんなで祝う。
それはチャーリーのそれまでのごく普通のクリスマスの姿であり、それがいつまでも続くと思っていた。ここに来るまでは。
「クリスマスを祝う気持ちは、どこでもさして変わらないのだな」
思わず口に上るのはそんな言葉、彼はそう言ってから苦笑を浮かべる。
「……そう言えば、あれも懐かしいな」
毎年クリスマス恒例の、生誕劇。
クリムゾンウェストには、存在するのだろうか。
●
――いっしょに劇を作りませんか。
チャーリーはペンを走らせる。
――リアルブルーのクリスマスではよく上演される、聖人の生誕を再現した劇です。
――でもリアルブルーの劇をそのままやっても、皆さんは面白くないでしょう。
――クリムゾンウェストの人々なら『聖人の生誕』と聞いてどんな話を思い浮かべますか。
――僕は、皆さんが思う『生誕劇』を作りたいと思うのです。
――いっしょに、劇を作りませんか。
青年はそう書いて小さく笑った。
どんなに見当違いでも、心がこもっていればそれは確かに生誕劇と等しくなるに違いない。クリムゾンウェストの人々の解釈はきっと異なるだろうから、むしろその違いを自分の目で見てみたくなったのだ。
エクラとは似て非なるリアルブルーの宗教劇。
一体どう、変化するのか。
チャーリーは、案外チャレンジャーなのだった。
リプレイ本文
●
(生誕劇……そういやぁ、そんな時期なんですねぃ)
今回の依頼は『クリスマスの生誕劇』――だが、ここは異世界クリムゾンウェスト。参加している他のハンターは『生誕劇』なるものをそもそも知らない中、唯一リアルブルー出身の春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)は何となくその響きを懐かしく感じた。
「げきの台本なんて、はじめてかきまさぁ! たのしみですねぃ!」
無邪気に笑っているのは鬼百合(ka3667)、『鬼』を自称する小生意気な少年である。紫苑を姉とも慕う鬼百合は、彼女の側をついて回っていかにも楽しそう。
「ふむ、劇、な。折角だし、楽しんでほしいものだが……」
けれども、聖者がすなわち特別なものと感じてはほしくない。
レオン=G=ノゥフェイス(ka3507)はぼんやりと、そんなことを考える。
だって、人は努力次第で自らも人を導くことのできるような存在になり得るのだと、そう思っているから。
(……それに、気づいてほしいものだな)
渋いおっさんは、そんなことを思いながら話を聞く。
そんな中でアリア(ka2394)がうんうんと悩んでいるのでチャーリーがそっと問いかけると、
「いや、そもそもさ、きりすと……ってどんな人なんだろ? って思って」
クリスマスというものは知っているけれど、その由来を知るものはなかなかこの世界にはいない。そんな中でアリアは、生誕劇に出てくる子どもがそんな名前だといずこからか聞いたらしい。それを説明していると長くなるが、チャーリーはにこやかに応えた。
「この世界でもあるような、信仰のよりどころとなった人ですよ。ただ、もううんと昔の人ですから、ほんとうはどんな人だったのか、それはわかりませんけれどね」
必要以上の先入観を抱かせないように心配りをした、チャーリーの言葉。
「へぇ、蒼の世界ではいろいろなクリスマスがあるとは聞いているけれど……おわったらちゃんと調べてみるのも面白そうだな」
そんなことを考えているのは真面目な気質の青年、シメオン・E・グリーヴ(ka1285)だ。
「ま、とにかく頑張って役を務めるよー!」
親を知らない彼女が演じるのは母親役。経験のないものを演じるのは、やはり緊張するというものだ。
(……私くらいで結婚した子もいるのかな?)
そんなことをちらりと考えるけれど、あまり意味のないことだ。
●
「それなりにリアルブルーの文化もわかっちゃいるつもりだったが……俺様もまだまだだな! まさかセーター劇なんつうマニアックな文化がありやがるたぁ……未来に生きてやがるな、リアルブルー」
『生誕劇』を激しく誤解しているのはジャック・J・グリーヴ(ka1305)、俺様気質かつ生きることの不器用な青年だ。ちなみにシメオンは彼のできた弟だったりする。かなり楽さが激しい気がするが、まあこれも個性という奴だろう。
……というかジャック、絶対何かをこじらせている感じがする。
「生誕劇、なんですけどねぃ」
紫苑がぼそりと呟くが、そんなものはどこ吹く風。
「セーター劇……セーターへの愛を語りゃ良いのか……? まあ俺様はオンリーワンの存在だから、他と考えていることが違ってもしゃあねぇが、ある程度はあわせてやらねぇとな……」
根本から間違っているのだが、それをこれ以上突っ込む勇気はさすがにあまりない。
「でも、生誕劇のあらすじってこんな感じで良いのかな」
シメオンが首をかしげながら、チャーリー、そして仲間たちに見せる。
「配役的にはこれで全部……か、そういやぁ、この劇には母親が出てきやすけど、父親は入れなくていいんですかぃ?」
アイデアを書きとめていた紫苑が、ちらとそんなことを口に出す。
「うーん、特に入れてはいけないって言う決まりはないけれど、必要以上の役を付け加えても逆に混乱しちゃうかも知れないかも」
アリアも首をぐるっとひねる。
「うーん、お話考えるのって、思っている以上に大変なのだ……」
考えつかれたのだろうか、黒の夢(ka0187)がちょっぴりぐったり気味。
どんどん出てきたアイデアを元に、シメオンと紫苑、それぞれにペンを走らせながら、それぞれの思う『生誕劇』をかたちにする――
「歌やおどりもまぜちまいやしょうぜ。そのほうがたのしくなりまさぁ」
鬼百合が楽しそうにそんなことを提案すれば、それもいいなあと誰かが頷く。
既成の概念にとらわれないそれは、きっととても夢のある行為。そしてきっと、夢のある劇に仕上がることになるだろう。
『ふふー、この劇は必ず成功させるの、ですっ!』
そう楽しそうに、寡黙なるシスター――メイ=ロザリンド(ka3394)がスケッチブックに書いて、ピンクプラチナの髪をゆらした。
●
――以下は、彼らの作り上げたエチュード(即興芝居)である。
これを記していたのは紫苑だ。リアルブルーの生誕劇にある先入観を見事に取っ払ったこの『クリムゾンウェスト版生誕劇』を記録するのは、興味深く面白いことだったと、後に語ってくれた。レオンは出演と同時に、舞台照明なども担当している。
ナレーションはシメオン。優しい声遣いの説明は、耳に心地よく染み渡るものであった。
●
あるところに、穏やかな婦人(=アリア)がおりました。
人柄も良く、優しげな笑顔を浮かべる彼女は周囲からも慕われておりました。
その女性は、やがて子ども(=鬼百合)をもうけます。それは、こんな季節の、寒い晩のことでありました。この日こそ、後にクリスマス・イブと呼ばれる日でありました。
「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
元気な男の子です。母親は、嬉しそうに目を細めて息子の誕生を喜びます。
「これはとても元気な子ね……どうか、幸せになってほしいものだけれど」
子どもの誕生を祝って、たくさんの人が、祝福に来てくれました。
人によってはその子どもは、聖人の素養を持つと言ってことさらな祝福を与えました。
むろん母親は、決して息子がたいそうな存在になってほしいと思っているわけではありません。そんな役目を背負って本当に幸せなのか、考えてしまうからです。ささやかな幸せを手にしている、そんな存在であれば良いと、そう思っているのです。
――けれど、ただ一人、母親になったばかりのその女性とその赤ん坊に、冷たい眼差しを向ける女がおりました。
その女は、黒い肌と黒い髪、金の瞳を持った魔女(=黒の夢)でありました。
魔女は、森の奥に一人暮らし。世捨て人でもあったのです。
その見た目のせいか、魔女はいつも一人。怖いうわさもたくさんありましたが、ほんとうはとても寂しい女性でした。けれども、彼女のほんとうに求めるものを与えてくれる人はいませんでした。長い間、ずっとずっと。
「……おや? おやおやおや、これはこれは……何ともまあ、……憎たらしいこと」
ですから、愛情を溢れさせる幸せな母親に、愛憎含む感情を抱いていたのです。
その眼差しはひどくすさんでいて、言葉もとても厳しいものでした。
しかし魔女の思いは、母親になったばかりの喜びに溢れている女性にはわかりません。
「まあ、魔女様。お祝いに来てくださったのですね、どうかこの子に祝福をお願いいたします」
そう言って、優しく優しく笑むのです。ほんとうは、魔女の気持ちをわかっているのかも知れませんが、母親はその笑顔を崩すことはありません。
「……まあ、なんと言うこと。それではこの子にまじないをかけてやりましょうか。――二度と笑えぬように、二度と愛されぬように――」
そして、二度三度と光が瞬いたかと思うと、それまで無邪気に笑っていた幼い子どもは目をぱちくりさせるばかりになってしまったのです。
子どもは、笑うと言うことを忘れてしまったのです。
これこそが、魔女のかけた恐ろしいまじないの力なのでした。
子どもが笑わなくなったことを知った母親は、しかしそれでも気丈にふるまい、そして子どもに微笑みかけます。
「どうか、この子がいつか笑えるようになりますように、運命に負けませんように――」
そう、いつも祈りながら、子どもを寝かしつけて。
そう、いつも願いながら、子どもにご飯を与えるのです。
それでも、子どもは笑うことはありません。
生まれた時にもやってきた賢人たちは、この子どもが笑ってくれるように、自分の心をさらけ出すことのできるように、集まって考えることになりました。
むろん、彼らも子どもが笑わなくなってしまったいきさつを知っています。
だからこそ、かの子どもによりいっそうの祝福を与えたいとそう感じていました。
そして思いついたのです。
もう一度、たくさんの祝福を与えられるような、その子の誕生を祝う誕生会をすることを。
北の賢者(=ジャック)は、指を鳴らしながらやってきました。
「俺様は北の国からやってきた賢者、Oh,yeah
北は寒ぃからセーター大好きだぜ Hey,come on
ガキが笑えねぇと聞いてすかさず俺様参上やる気も三乗 Check it out
このセーター見ろよもこもこだろ?
てめえにやる笑顔になれよ Smile,come on
歌えや踊れや今夜は Party Night!」
賢者はずいぶんノリノリです。曰く、
「ガキのための劇ならこのくらいノリが良くてちょうど良いだろ」
だそうですが、確かにそんなものなのかも知れません。
賢人の一人(=レオン)は、笑顔を浮かべながら子どもを優しく撫でてやります。
「この子の素質は素晴らしいだろう――いや、子どもは誰しもそうだと言えようが、聖者となり得るのではないかな?」
深い紫色を宿した瞳は、たしかに賢人と呼ばれるに値する輝きをもっておりました。たとえ、見た目が少し冴えないようなおじさんでも、賢人の賢人たるゆえんは見た目ではなくその心にあるのですから。
そう、賢い人というのは見た目でわかるものではないのです。それはある意味、ジャックが証明しているようなものですけれど。
そう、聖人というのは生まれながらの存在ではない――のかもしれません。
生まれたばかりのいのちはみな等しくて、だからこそ誰もがそのいのちをいとおしく思うのです。
だって、ただの子どものところには聖人も天使もこないだなんて、それはあんまりにも贔屓がすぎるじゃありませんか。
(――まったく、神様だってそんな贔屓をするために、聖人を産むわけじゃあねぇですから、ねぇ?)
記し手でもある紫苑はそんなことを思いながら、紡ぎ続けます。
また、もう一人の賢人(=シメオン)は、子どもにそっと白い花の花束をわたします。
「冬に生まれた、祝福の子へ、これを」
花束には、赤い実とギザギザした葉の植物も添えられていて、それは柊というのですが、リアルブルーでは魔除けの葉っぱなのだそうです。
「この魔除けの植物が、きっとあなたの運命を開いてくれるでしょう」
若く穏やかな雰囲気の三人目の賢人は、そう微笑みを絶やさぬままに優しく頭をなでました。
まだ幼い子どもにはこういった賢者たちの思いが伝わったのか、それはわかりません。でも、少し困ったような顔をして、うなずきます。
と、そこへふわりと一人の少女(=メイ)がやって来ました。
祝福するかのように、少女は微笑みながらポインセチアとフクジュソウを使った花冠を差し出すと、子供の頭にそっとのせてやります。そしてすうっと息を大きく吸うと、そっと言葉をつむぎはじめました。――いいえ、それは言葉ではありません。歌でした。
「どうか どうか
あなたの持つ素晴らしいものをときはなって
あなたの 笑顔を見せて――」
鈴のように澄んだソプラノは、世界の果てまで届きそうなほどに伸びていきます。
足元に広がる金色の輪は、ふわふわりと少女の周囲を包んでいきます。
――少女の本当の正体は、天からの使い、天使だったのです。普段は声を封じられている彼女ですが、ほんとうに必要なとき、その声は歌としてつむぐことができるのです。
歌え、踊れ、声高らかに。
歌は、踊りは、世界を鮮やかにしてくれるのですから。と――
くす、くすっ……
あはははは……
笑い声が、歌に合わせるようにして、聞こえ始めました。
それは、笑顔を失った、あのとうとい子どもの声でした。
「笑った」
「笑ったぞ」
集まった人々は声を上げて喜びました。母親も、我が子をよりいっそう強く抱きしめます。
けれども、幼子の瞳はそのさらに向こう、影からそっと様子をうかがっている魔女へ向けられていました。
「いっしょにうたいやしょうぜ? こんどは、オレが返すばんですねぃ!」
その笑顔は見ているだけで暖かで、誰もが胸をきゅんとさせます。
「笑顔にはちからがあるんですぜぃ、魔女のおねーさんも一緒に」
すると魔女はおずおずと近づいてきて、小さな声で尋ねます。
「我輩も、いいのであるか?」
「あたりまえでさ!」
幼子は満足そうな笑みを浮かべてうなずきました。
そして歌がひびきます。
誰もが歌い、笑顔を浮かべます。やわらかなクリスマスキャロルが流れていきます。
それは、きっとすべての人が、幸せを感じた瞬間なのでした。
●
「こんな感じでしょうかねぃ」
シメオンと相談しながら書き留めていた紫苑は、満足そうに笑みを浮かべる。
クリムゾンウェストの生誕劇は、リアルブルーのそれとは随分と異なっているが、しかし幸せのために作られた物語なのは間違いない。
「チャーリーさんも、これで喜んでくれるといいですけれど」
シメオンが首をひねると、兄であるジャックはニヤリと笑う。
「大丈夫だぜ、シメオン。ガキが見る様の劇なら、これくらいノリが良くてちょうどいいだろ。むしろ完璧すぎるぜ」
「たしかに、子どもにはわかりやすい話がいいだろうな」
以前教会で働いていたこともあるというレオンがそう言って頷くと、タイミングよく依頼人――チャーリーがやってきた。
「あっ、チャーリーさん! どうかな。子どもたち、喜ぶかな?」
母親役を務め上げたアリアが顔を赤くして問う。
「ええ、とても良かったですよ、影から見せてもらいましたし」
チャーリーは笑ってその出来栄えを褒め称えると、
「本番もこのくらい、出来るといいですね」
そう言ってまたにこやかな笑みをうかべた。
「え……本番は別の人がやるのだと、そう思っていたのだ」
黒の夢が、目をパチクリさせる。
「まさか。私ははじめから、皆さんに本番を演じてもらうつもりでお願いしていたんですよ?」
チャーリーが言うと、クスっとメイが笑顔をこぼした。
『ふふ~、いっそう楽しみになったの、ですっ!』
そう――クリスマスは、子どもだけでなく、みんなが幸せになる日なのだから。
(生誕劇……そういやぁ、そんな時期なんですねぃ)
今回の依頼は『クリスマスの生誕劇』――だが、ここは異世界クリムゾンウェスト。参加している他のハンターは『生誕劇』なるものをそもそも知らない中、唯一リアルブルー出身の春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)は何となくその響きを懐かしく感じた。
「げきの台本なんて、はじめてかきまさぁ! たのしみですねぃ!」
無邪気に笑っているのは鬼百合(ka3667)、『鬼』を自称する小生意気な少年である。紫苑を姉とも慕う鬼百合は、彼女の側をついて回っていかにも楽しそう。
「ふむ、劇、な。折角だし、楽しんでほしいものだが……」
けれども、聖者がすなわち特別なものと感じてはほしくない。
レオン=G=ノゥフェイス(ka3507)はぼんやりと、そんなことを考える。
だって、人は努力次第で自らも人を導くことのできるような存在になり得るのだと、そう思っているから。
(……それに、気づいてほしいものだな)
渋いおっさんは、そんなことを思いながら話を聞く。
そんな中でアリア(ka2394)がうんうんと悩んでいるのでチャーリーがそっと問いかけると、
「いや、そもそもさ、きりすと……ってどんな人なんだろ? って思って」
クリスマスというものは知っているけれど、その由来を知るものはなかなかこの世界にはいない。そんな中でアリアは、生誕劇に出てくる子どもがそんな名前だといずこからか聞いたらしい。それを説明していると長くなるが、チャーリーはにこやかに応えた。
「この世界でもあるような、信仰のよりどころとなった人ですよ。ただ、もううんと昔の人ですから、ほんとうはどんな人だったのか、それはわかりませんけれどね」
必要以上の先入観を抱かせないように心配りをした、チャーリーの言葉。
「へぇ、蒼の世界ではいろいろなクリスマスがあるとは聞いているけれど……おわったらちゃんと調べてみるのも面白そうだな」
そんなことを考えているのは真面目な気質の青年、シメオン・E・グリーヴ(ka1285)だ。
「ま、とにかく頑張って役を務めるよー!」
親を知らない彼女が演じるのは母親役。経験のないものを演じるのは、やはり緊張するというものだ。
(……私くらいで結婚した子もいるのかな?)
そんなことをちらりと考えるけれど、あまり意味のないことだ。
●
「それなりにリアルブルーの文化もわかっちゃいるつもりだったが……俺様もまだまだだな! まさかセーター劇なんつうマニアックな文化がありやがるたぁ……未来に生きてやがるな、リアルブルー」
『生誕劇』を激しく誤解しているのはジャック・J・グリーヴ(ka1305)、俺様気質かつ生きることの不器用な青年だ。ちなみにシメオンは彼のできた弟だったりする。かなり楽さが激しい気がするが、まあこれも個性という奴だろう。
……というかジャック、絶対何かをこじらせている感じがする。
「生誕劇、なんですけどねぃ」
紫苑がぼそりと呟くが、そんなものはどこ吹く風。
「セーター劇……セーターへの愛を語りゃ良いのか……? まあ俺様はオンリーワンの存在だから、他と考えていることが違ってもしゃあねぇが、ある程度はあわせてやらねぇとな……」
根本から間違っているのだが、それをこれ以上突っ込む勇気はさすがにあまりない。
「でも、生誕劇のあらすじってこんな感じで良いのかな」
シメオンが首をかしげながら、チャーリー、そして仲間たちに見せる。
「配役的にはこれで全部……か、そういやぁ、この劇には母親が出てきやすけど、父親は入れなくていいんですかぃ?」
アイデアを書きとめていた紫苑が、ちらとそんなことを口に出す。
「うーん、特に入れてはいけないって言う決まりはないけれど、必要以上の役を付け加えても逆に混乱しちゃうかも知れないかも」
アリアも首をぐるっとひねる。
「うーん、お話考えるのって、思っている以上に大変なのだ……」
考えつかれたのだろうか、黒の夢(ka0187)がちょっぴりぐったり気味。
どんどん出てきたアイデアを元に、シメオンと紫苑、それぞれにペンを走らせながら、それぞれの思う『生誕劇』をかたちにする――
「歌やおどりもまぜちまいやしょうぜ。そのほうがたのしくなりまさぁ」
鬼百合が楽しそうにそんなことを提案すれば、それもいいなあと誰かが頷く。
既成の概念にとらわれないそれは、きっととても夢のある行為。そしてきっと、夢のある劇に仕上がることになるだろう。
『ふふー、この劇は必ず成功させるの、ですっ!』
そう楽しそうに、寡黙なるシスター――メイ=ロザリンド(ka3394)がスケッチブックに書いて、ピンクプラチナの髪をゆらした。
●
――以下は、彼らの作り上げたエチュード(即興芝居)である。
これを記していたのは紫苑だ。リアルブルーの生誕劇にある先入観を見事に取っ払ったこの『クリムゾンウェスト版生誕劇』を記録するのは、興味深く面白いことだったと、後に語ってくれた。レオンは出演と同時に、舞台照明なども担当している。
ナレーションはシメオン。優しい声遣いの説明は、耳に心地よく染み渡るものであった。
●
あるところに、穏やかな婦人(=アリア)がおりました。
人柄も良く、優しげな笑顔を浮かべる彼女は周囲からも慕われておりました。
その女性は、やがて子ども(=鬼百合)をもうけます。それは、こんな季節の、寒い晩のことでありました。この日こそ、後にクリスマス・イブと呼ばれる日でありました。
「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
元気な男の子です。母親は、嬉しそうに目を細めて息子の誕生を喜びます。
「これはとても元気な子ね……どうか、幸せになってほしいものだけれど」
子どもの誕生を祝って、たくさんの人が、祝福に来てくれました。
人によってはその子どもは、聖人の素養を持つと言ってことさらな祝福を与えました。
むろん母親は、決して息子がたいそうな存在になってほしいと思っているわけではありません。そんな役目を背負って本当に幸せなのか、考えてしまうからです。ささやかな幸せを手にしている、そんな存在であれば良いと、そう思っているのです。
――けれど、ただ一人、母親になったばかりのその女性とその赤ん坊に、冷たい眼差しを向ける女がおりました。
その女は、黒い肌と黒い髪、金の瞳を持った魔女(=黒の夢)でありました。
魔女は、森の奥に一人暮らし。世捨て人でもあったのです。
その見た目のせいか、魔女はいつも一人。怖いうわさもたくさんありましたが、ほんとうはとても寂しい女性でした。けれども、彼女のほんとうに求めるものを与えてくれる人はいませんでした。長い間、ずっとずっと。
「……おや? おやおやおや、これはこれは……何ともまあ、……憎たらしいこと」
ですから、愛情を溢れさせる幸せな母親に、愛憎含む感情を抱いていたのです。
その眼差しはひどくすさんでいて、言葉もとても厳しいものでした。
しかし魔女の思いは、母親になったばかりの喜びに溢れている女性にはわかりません。
「まあ、魔女様。お祝いに来てくださったのですね、どうかこの子に祝福をお願いいたします」
そう言って、優しく優しく笑むのです。ほんとうは、魔女の気持ちをわかっているのかも知れませんが、母親はその笑顔を崩すことはありません。
「……まあ、なんと言うこと。それではこの子にまじないをかけてやりましょうか。――二度と笑えぬように、二度と愛されぬように――」
そして、二度三度と光が瞬いたかと思うと、それまで無邪気に笑っていた幼い子どもは目をぱちくりさせるばかりになってしまったのです。
子どもは、笑うと言うことを忘れてしまったのです。
これこそが、魔女のかけた恐ろしいまじないの力なのでした。
子どもが笑わなくなったことを知った母親は、しかしそれでも気丈にふるまい、そして子どもに微笑みかけます。
「どうか、この子がいつか笑えるようになりますように、運命に負けませんように――」
そう、いつも祈りながら、子どもを寝かしつけて。
そう、いつも願いながら、子どもにご飯を与えるのです。
それでも、子どもは笑うことはありません。
生まれた時にもやってきた賢人たちは、この子どもが笑ってくれるように、自分の心をさらけ出すことのできるように、集まって考えることになりました。
むろん、彼らも子どもが笑わなくなってしまったいきさつを知っています。
だからこそ、かの子どもによりいっそうの祝福を与えたいとそう感じていました。
そして思いついたのです。
もう一度、たくさんの祝福を与えられるような、その子の誕生を祝う誕生会をすることを。
北の賢者(=ジャック)は、指を鳴らしながらやってきました。
「俺様は北の国からやってきた賢者、Oh,yeah
北は寒ぃからセーター大好きだぜ Hey,come on
ガキが笑えねぇと聞いてすかさず俺様参上やる気も三乗 Check it out
このセーター見ろよもこもこだろ?
てめえにやる笑顔になれよ Smile,come on
歌えや踊れや今夜は Party Night!」
賢者はずいぶんノリノリです。曰く、
「ガキのための劇ならこのくらいノリが良くてちょうど良いだろ」
だそうですが、確かにそんなものなのかも知れません。
賢人の一人(=レオン)は、笑顔を浮かべながら子どもを優しく撫でてやります。
「この子の素質は素晴らしいだろう――いや、子どもは誰しもそうだと言えようが、聖者となり得るのではないかな?」
深い紫色を宿した瞳は、たしかに賢人と呼ばれるに値する輝きをもっておりました。たとえ、見た目が少し冴えないようなおじさんでも、賢人の賢人たるゆえんは見た目ではなくその心にあるのですから。
そう、賢い人というのは見た目でわかるものではないのです。それはある意味、ジャックが証明しているようなものですけれど。
そう、聖人というのは生まれながらの存在ではない――のかもしれません。
生まれたばかりのいのちはみな等しくて、だからこそ誰もがそのいのちをいとおしく思うのです。
だって、ただの子どものところには聖人も天使もこないだなんて、それはあんまりにも贔屓がすぎるじゃありませんか。
(――まったく、神様だってそんな贔屓をするために、聖人を産むわけじゃあねぇですから、ねぇ?)
記し手でもある紫苑はそんなことを思いながら、紡ぎ続けます。
また、もう一人の賢人(=シメオン)は、子どもにそっと白い花の花束をわたします。
「冬に生まれた、祝福の子へ、これを」
花束には、赤い実とギザギザした葉の植物も添えられていて、それは柊というのですが、リアルブルーでは魔除けの葉っぱなのだそうです。
「この魔除けの植物が、きっとあなたの運命を開いてくれるでしょう」
若く穏やかな雰囲気の三人目の賢人は、そう微笑みを絶やさぬままに優しく頭をなでました。
まだ幼い子どもにはこういった賢者たちの思いが伝わったのか、それはわかりません。でも、少し困ったような顔をして、うなずきます。
と、そこへふわりと一人の少女(=メイ)がやって来ました。
祝福するかのように、少女は微笑みながらポインセチアとフクジュソウを使った花冠を差し出すと、子供の頭にそっとのせてやります。そしてすうっと息を大きく吸うと、そっと言葉をつむぎはじめました。――いいえ、それは言葉ではありません。歌でした。
「どうか どうか
あなたの持つ素晴らしいものをときはなって
あなたの 笑顔を見せて――」
鈴のように澄んだソプラノは、世界の果てまで届きそうなほどに伸びていきます。
足元に広がる金色の輪は、ふわふわりと少女の周囲を包んでいきます。
――少女の本当の正体は、天からの使い、天使だったのです。普段は声を封じられている彼女ですが、ほんとうに必要なとき、その声は歌としてつむぐことができるのです。
歌え、踊れ、声高らかに。
歌は、踊りは、世界を鮮やかにしてくれるのですから。と――
くす、くすっ……
あはははは……
笑い声が、歌に合わせるようにして、聞こえ始めました。
それは、笑顔を失った、あのとうとい子どもの声でした。
「笑った」
「笑ったぞ」
集まった人々は声を上げて喜びました。母親も、我が子をよりいっそう強く抱きしめます。
けれども、幼子の瞳はそのさらに向こう、影からそっと様子をうかがっている魔女へ向けられていました。
「いっしょにうたいやしょうぜ? こんどは、オレが返すばんですねぃ!」
その笑顔は見ているだけで暖かで、誰もが胸をきゅんとさせます。
「笑顔にはちからがあるんですぜぃ、魔女のおねーさんも一緒に」
すると魔女はおずおずと近づいてきて、小さな声で尋ねます。
「我輩も、いいのであるか?」
「あたりまえでさ!」
幼子は満足そうな笑みを浮かべてうなずきました。
そして歌がひびきます。
誰もが歌い、笑顔を浮かべます。やわらかなクリスマスキャロルが流れていきます。
それは、きっとすべての人が、幸せを感じた瞬間なのでした。
●
「こんな感じでしょうかねぃ」
シメオンと相談しながら書き留めていた紫苑は、満足そうに笑みを浮かべる。
クリムゾンウェストの生誕劇は、リアルブルーのそれとは随分と異なっているが、しかし幸せのために作られた物語なのは間違いない。
「チャーリーさんも、これで喜んでくれるといいですけれど」
シメオンが首をひねると、兄であるジャックはニヤリと笑う。
「大丈夫だぜ、シメオン。ガキが見る様の劇なら、これくらいノリが良くてちょうどいいだろ。むしろ完璧すぎるぜ」
「たしかに、子どもにはわかりやすい話がいいだろうな」
以前教会で働いていたこともあるというレオンがそう言って頷くと、タイミングよく依頼人――チャーリーがやってきた。
「あっ、チャーリーさん! どうかな。子どもたち、喜ぶかな?」
母親役を務め上げたアリアが顔を赤くして問う。
「ええ、とても良かったですよ、影から見せてもらいましたし」
チャーリーは笑ってその出来栄えを褒め称えると、
「本番もこのくらい、出来るといいですね」
そう言ってまたにこやかな笑みをうかべた。
「え……本番は別の人がやるのだと、そう思っていたのだ」
黒の夢が、目をパチクリさせる。
「まさか。私ははじめから、皆さんに本番を演じてもらうつもりでお願いしていたんですよ?」
チャーリーが言うと、クスっとメイが笑顔をこぼした。
『ふふ~、いっそう楽しみになったの、ですっ!』
そう――クリスマスは、子どもだけでなく、みんなが幸せになる日なのだから。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 6人 |
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- 任侠姐さん
春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)
重体一覧
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サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/16 22:33:39 |
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相談卓 ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/17 02:12:14 |