ゲスト
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扉の向こうへ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/05/10 19:00
- 完成日
- 2018/05/16 00:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●南方大陸のどこか
とある湾岸にあるリザードマンの部落は、大騒ぎだった。
いきなり空の一角から大量の砂が流れ落ちてきたのだ。
「何だ」
「何だ、あれは何だ」
砂の流れは最初細かったが、見る見るに太く大きくなっていった。天が崩れそうなほどの轟音を立てて落ちてくる。時折何か四角い物も交ざって落ちてくる。
リザードマンたちは、ただそれを見守ることしか出来なかった。
砂は一日かけて湾の内外をきれいに埋立ててしまった――そこにあったあらゆるものを下敷きにして。
●ユニオン保養所建設地区
自由都市同盟領内にある、寂れた炭鉱町。
今そこでは、ユニオン保養所建設のための再開発工事が進んでいる。
「だいぶ出来上がってきたなー」
と作業員の一人は言った。
「そうだな」
ともう一人が応じた。
彼らは貸し出された農業機械を操り、広いさら地を行ったり来たりしている。土を砕き耕し滑らかにし、そこへ種を撒いていく。
指定された場所を緑化して行くのが与えられた仕事だ。
もう任されたほとんどの部分が、青々とした芝に覆われている。
その芝の上に見慣れぬ遊具が次々据え付けられていく。
「ここが完成しちまえば、おれたちまた仕事がなくなるな」
「そういう契約だからしょうがねえ。そろそろ新しい口を探しておかなきゃなんねえな。このままユニオン市民にならねえんだとしたら」
「お前は市民になる気はねえのかい?」
「うーん……お前はどうだ?」
「おれか。おれは……迷うところなんだよな。家族を持っちゃいかんていうんだろ。俺はまだ結婚してねえけど、それでも将来的なことを考えると、最後まで独身で通すのはなあ……叶うなら嫁も欲しいし、子供も欲しいしなあ。お前はどうだい?」
「俺は市民になってもいいかなって思ってるよ。女と付き合っちゃいかんてわけじゃないし、死ぬまで生活の面倒見てくれるっていうことだしな。正味今の労働条件よりいい勤め先なんかねえだろ? 一日6時間働いて週休2日でよ、十二分に食ってける所、他にあるか?」
「……確かにそれはあるけどな。でもお前、市民てのはコボルドしかいねえんだぜ。コボルドに交じって暮らすのは人間としてちょっと嫌じゃねえか」
「……そこはまあ思うところがないでもないけどよ。でもやっぱり俺は安定を取るぜ。いつ食えなくなるかとびくびくするような暮らしは、もうしたくねえんだよなあ」
●開通させよう
南向きの山肌にそい、白いブロックを詰んだような建造物が多数作られている。
ユニゾン島から保養所建設の定期巡回にやってきたマゴイは、そこから工事現場全体を見下ろした。
赤茶けていた大地は緑に変わり、遊具施設が備えられ、歩道に沿って街路樹と花が植えられている。
『……作業は順調……外部委託労働者も適切な労働をしている……』
この先ワーカーの福利厚生が改善されることに大きな満足感を覚えつつ、一人ごちる。
『……これなら次の長期休暇に間に合いそう……さて……そろそろ島とこの保養所を……繋いでおかないと……』
保養所はユニオンの一部である。一部であるからには、市民は負担なく自由に行き来出来るようにならなければならない。それが彼女の考えだ。
θから聞いた話によれば、一月ほど後にジェオルジで郷祭をやるらしい。ワーカーたちはそれに参加したがっている。だからそれまでには、是非ちゃんと繋いでおきたい。前のように自分と一緒に転移させるやり方だと、どうしても多く力を消耗してしまう。
『……とはいえここと島では格段に距離が開くから……調整には少し手間取りそうね……』
建造物の壁を擦り抜け地上に降りてきたマゴイは、建設地の一角に向かう。
そこにはぽつんと黒い板が立っていた。全面すべすべ、とっかかりというものがない。
近くにいた作業員が近づいてくる彼女に気づき、挨拶をした。
「あ、マゴイ様いらしてたんですか。送られてきた壁の据え付けが終わりましたが――どうしましょうか」
『……ご苦労様……ここからの調整は私がするので……あなたは休憩をとってちょうだい……』
そう言ってマゴイは板に手を当てた。
方形の幾何学模様が板の全面に浮かび上がる。
『……まず大まかなポイント合わせを……座標軸894……3……7……8……』
板の表面に切れ込みが入る。こちら側から向こう側に向かって開いて行く。
マゴイはそこから顔を出し、首を傾げた。
『……ン……?』
●クリムゾンウェストの南方大陸のどこか
『……それでは皆さん……私についてきて……』
保養所建設現場に呼び出されたハンターたちはマゴイについて、黒い扉をくぐった。
その先にあったのは――見渡す限り一面の砂丘。
砂漠かと思ったが、それにしては空気に若干の湿り気がある。第一さほど暑くもない。
カチャが聞く。
「ここはー……どこなんですか?」
『クリムゾンウェスト……の南方大陸のどこか……』
「大ざっぱですね」
『……仕方ないのよ……これまでのデータにはなかった土地だから……』
「なかったって?」
『……多分この土地は……エバーグリーンからこの世界に、新しく取り込まれたのだと思う……この星のガイアエレメントが引き込んだものと……』
そこで砂丘の向こうから頭が現れた。
続いてもう1つ更にもう1つ。総勢20。耳も髪もない尖った顔。全身を覆う緑色の鱗。裂けた口。長い尻尾。リザードマンだ。
手に手に石槍を構え近づいてきた。口々にキュ、キッと言う高い鳴き声を立てて。
「えっと、なんだかあの人たち怒ってません?」
『……どうもそのようね……』
何か言っているらしいが分からない。マゴイはウォッチャーを出した。
『……ウォッチャー……彼らの言語体系をスキャンして……』
《承知いたしました、マゴイ》
ウォッチャーはスキャンする。リザードマンの言葉を翻訳する。
すると、大体こういう意味のことを言っているのが判明した。
「我々の部落に砂を降らせた悪い魔法使いは、お前たちか!」
「孵化場埋もれた、今年の卵全部埋もれた、どうしてくれる!」
とある湾岸にあるリザードマンの部落は、大騒ぎだった。
いきなり空の一角から大量の砂が流れ落ちてきたのだ。
「何だ」
「何だ、あれは何だ」
砂の流れは最初細かったが、見る見るに太く大きくなっていった。天が崩れそうなほどの轟音を立てて落ちてくる。時折何か四角い物も交ざって落ちてくる。
リザードマンたちは、ただそれを見守ることしか出来なかった。
砂は一日かけて湾の内外をきれいに埋立ててしまった――そこにあったあらゆるものを下敷きにして。
●ユニオン保養所建設地区
自由都市同盟領内にある、寂れた炭鉱町。
今そこでは、ユニオン保養所建設のための再開発工事が進んでいる。
「だいぶ出来上がってきたなー」
と作業員の一人は言った。
「そうだな」
ともう一人が応じた。
彼らは貸し出された農業機械を操り、広いさら地を行ったり来たりしている。土を砕き耕し滑らかにし、そこへ種を撒いていく。
指定された場所を緑化して行くのが与えられた仕事だ。
もう任されたほとんどの部分が、青々とした芝に覆われている。
その芝の上に見慣れぬ遊具が次々据え付けられていく。
「ここが完成しちまえば、おれたちまた仕事がなくなるな」
「そういう契約だからしょうがねえ。そろそろ新しい口を探しておかなきゃなんねえな。このままユニオン市民にならねえんだとしたら」
「お前は市民になる気はねえのかい?」
「うーん……お前はどうだ?」
「おれか。おれは……迷うところなんだよな。家族を持っちゃいかんていうんだろ。俺はまだ結婚してねえけど、それでも将来的なことを考えると、最後まで独身で通すのはなあ……叶うなら嫁も欲しいし、子供も欲しいしなあ。お前はどうだい?」
「俺は市民になってもいいかなって思ってるよ。女と付き合っちゃいかんてわけじゃないし、死ぬまで生活の面倒見てくれるっていうことだしな。正味今の労働条件よりいい勤め先なんかねえだろ? 一日6時間働いて週休2日でよ、十二分に食ってける所、他にあるか?」
「……確かにそれはあるけどな。でもお前、市民てのはコボルドしかいねえんだぜ。コボルドに交じって暮らすのは人間としてちょっと嫌じゃねえか」
「……そこはまあ思うところがないでもないけどよ。でもやっぱり俺は安定を取るぜ。いつ食えなくなるかとびくびくするような暮らしは、もうしたくねえんだよなあ」
●開通させよう
南向きの山肌にそい、白いブロックを詰んだような建造物が多数作られている。
ユニゾン島から保養所建設の定期巡回にやってきたマゴイは、そこから工事現場全体を見下ろした。
赤茶けていた大地は緑に変わり、遊具施設が備えられ、歩道に沿って街路樹と花が植えられている。
『……作業は順調……外部委託労働者も適切な労働をしている……』
この先ワーカーの福利厚生が改善されることに大きな満足感を覚えつつ、一人ごちる。
『……これなら次の長期休暇に間に合いそう……さて……そろそろ島とこの保養所を……繋いでおかないと……』
保養所はユニオンの一部である。一部であるからには、市民は負担なく自由に行き来出来るようにならなければならない。それが彼女の考えだ。
θから聞いた話によれば、一月ほど後にジェオルジで郷祭をやるらしい。ワーカーたちはそれに参加したがっている。だからそれまでには、是非ちゃんと繋いでおきたい。前のように自分と一緒に転移させるやり方だと、どうしても多く力を消耗してしまう。
『……とはいえここと島では格段に距離が開くから……調整には少し手間取りそうね……』
建造物の壁を擦り抜け地上に降りてきたマゴイは、建設地の一角に向かう。
そこにはぽつんと黒い板が立っていた。全面すべすべ、とっかかりというものがない。
近くにいた作業員が近づいてくる彼女に気づき、挨拶をした。
「あ、マゴイ様いらしてたんですか。送られてきた壁の据え付けが終わりましたが――どうしましょうか」
『……ご苦労様……ここからの調整は私がするので……あなたは休憩をとってちょうだい……』
そう言ってマゴイは板に手を当てた。
方形の幾何学模様が板の全面に浮かび上がる。
『……まず大まかなポイント合わせを……座標軸894……3……7……8……』
板の表面に切れ込みが入る。こちら側から向こう側に向かって開いて行く。
マゴイはそこから顔を出し、首を傾げた。
『……ン……?』
●クリムゾンウェストの南方大陸のどこか
『……それでは皆さん……私についてきて……』
保養所建設現場に呼び出されたハンターたちはマゴイについて、黒い扉をくぐった。
その先にあったのは――見渡す限り一面の砂丘。
砂漠かと思ったが、それにしては空気に若干の湿り気がある。第一さほど暑くもない。
カチャが聞く。
「ここはー……どこなんですか?」
『クリムゾンウェスト……の南方大陸のどこか……』
「大ざっぱですね」
『……仕方ないのよ……これまでのデータにはなかった土地だから……』
「なかったって?」
『……多分この土地は……エバーグリーンからこの世界に、新しく取り込まれたのだと思う……この星のガイアエレメントが引き込んだものと……』
そこで砂丘の向こうから頭が現れた。
続いてもう1つ更にもう1つ。総勢20。耳も髪もない尖った顔。全身を覆う緑色の鱗。裂けた口。長い尻尾。リザードマンだ。
手に手に石槍を構え近づいてきた。口々にキュ、キッと言う高い鳴き声を立てて。
「えっと、なんだかあの人たち怒ってません?」
『……どうもそのようね……』
何か言っているらしいが分からない。マゴイはウォッチャーを出した。
『……ウォッチャー……彼らの言語体系をスキャンして……』
《承知いたしました、マゴイ》
ウォッチャーはスキャンする。リザードマンの言葉を翻訳する。
すると、大体こういう意味のことを言っているのが判明した。
「我々の部落に砂を降らせた悪い魔法使いは、お前たちか!」
「孵化場埋もれた、今年の卵全部埋もれた、どうしてくれる!」
リプレイ本文
●初接触
マルカ・アニチキン(ka2542)はクラルテマントと隠の輩を使い、場から姿を消した。
リザードマンは『悪い魔法使い』という単語を口にした。であれば魔術師の格好をした自分は、彼らを刺激するもととなるかもしれないと気を回して(ちなみにクラルテマントを着ても消せない影については、多由羅(ka6167)の背後に回ることで誤魔化す)。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)はマゴイを問いただした。
「μ、確認するがこれはお前がオフィスに歪虚を転送した時のような恣意的な転送なり転送事故なりではない、全くお前が関わっていない話だということで間違いないな」
『……ええ……私がしたことではない……必要ならウォッチャーを通じて……市民生産機関の転移セクション使用記録を取り寄せてもいいけど……』
「お前は齟齬はあっても嘘はつかん。お前を信じる」
リザードマンたちの目に宿るのは警戒と不審だけ。
天竜寺 詩(ka0396)は、彼らが感じているであろう心の痛みを思いやり、マゴイに囁く。
「マゴイ、この人たちの中のリーダーは誰だか分かる?」
『……あの真ん中にいる……尻尾の先が裂けている人…「大きな山」という名前らしいわ……』
メイム(ka2290)は風を切るような音、もとい声を聞く。
いつのまにか先程リザードマン一隊が現れた砂丘に、また多数のリザードマンが出てきていた。皆、原始的な弓に矢をつがえている。
それとなく後方の砂丘にも意識を向けてみれば、やはりそこにも同じような一団が見え隠れ。
エルバッハ・リオン(ka2434)が一人ごちる。
「囲まれましたかね」
姿を消しているマルカは、はらはらしながら様子を見守る。
ルベーノは早速リザードマンに事の次第を説明した。堂々と、ストレートに(* 以下、報告書内では、訳されたリザードマンたちの言葉をカタカナ表記で表す)
「お前たちの卵が全滅したことについては深く哀悼の意を表す。だがやったのは俺達ではない」
「デハ、ダレダ」
「ダレガ砂フラセタ」
「先日大精霊同士の争いがあり、取り込まれた世界の一部がここに流れ込んだと聞く」
「大精霊ガ災ヲ引キ起コシタト言ウノカ」
「ヒドイ言イ逃レダ」
石の鏃をつけた弓矢が飛んできた。全て砂に刺さったところを見ると威嚇のための射撃らしいが……。
「えーと、雰囲気悪くなってないですか?」
と前後を見回すカチャ。
リオンが声を潜め、周囲に言う。
「ファイアーボールを撃ちましょうか?」
詩はそれに待ったをかけた。
「こんな時だもの、誰だって神経質になるよ」
覚醒を行う。金色のオーラが頭上に光輪を、左の背中に翼を現出させる。
その変化にリザードマンたちは目を見張る。
詩は彼らを落ち着かせようと、静かに静かに語りかけた。
「私達は悪い魔法使いじゃないよ。信じて。まず、生まれてこれなかった命のために、お祈りさせて」
そして、サルヴェイションを乗せた鎮魂歌を歌う。
歌詞の意味は分からなくても、真摯な内容のものであると感じ取ったのだろう。リザードマンのリーダーはいくらか態度を和らげた。槍の穂先を下げる。
他のリザードマンも、同じようにした。
弓を持ったリザードマンたちはそれに習い、つがえていた矢を降ろす。
メイムがマゴイに耳打ちする。
「マゴイ、今回の件は技術不足もあった事故であること説明して、リザードマンに謝罪しよう」
マゴイは得心いかない顔で言った。
『……私が事故を起こしたわけではないのだから……私が謝罪するのはおかしいわ』
「まあ理屈としてはそうかも知れないけどさ……でもここに流れてきたのはかつてユニオンがあった土地なんだよね? マゴイはそこにあるかもしれない遺物を持って帰りたいんだよね? なら島の責任者として、形だけでも謝っておかないと」
ルベーノも、マゴイの説得に加わる。
「μ、彼等にとってのウテルスがこの災害で破壊されたのだ。彼等の混乱と哀しみが想像できるなら、今回は自重してくれ。多分、彼等とユニゾンは今後長い付き合いになる筈だ」
彼らが話し合いをしている間多由羅は、ゆっくりとリザードマンの前に出て行く。
(部族間の諍いは難しい……異種族であれば尚更でしょうね……)
十尺を越える愛刀『祢々切丸』を腰から外し、足元に置く。言葉が容易に通じない相手に対しては、行動で害意がないことを示すべきだろう、と。
微動にせず多由羅の動きを見つめていたリザードマンのリーダーは、手にしていた槍を砂に突き立てる。一応敵では無さそうだと認識してくれたらしい。
相手の気が少し落ち着いたのを機にマルカは、こっそり姿を現す。最初からそこにいたような顔をして。
詩は改めてリザードマンたちに、砂が落ちてきた原因を説明する。
リザードマンたちは最終的に、砂を降らせたのがハンターたちではないことを理解してくれた。狼狽と消沈のうちに。
「大精霊ガ我々ノ卵ヲ潰シタ……」
「我々大精霊ニ対シ何カ至ラヌ所ガアッタダロウカ……」
そこにマゴイが近づいてきて、リーダーに言う。
『……あなたがたの孵化施設が破壊されたことについては……哀悼の意を表明する……私は事実関係における加害者ではないので法的責任は負えない……けれど落下物の関係者として道義的な責任は負える……ので……ユニオン法に基づき事故処理並びに復旧の救援をあなたたちに申し出たい……そのための契約をすることに同意していただけるかしら……?』
「……ソレハツマリドウイウコトナノダ?」
マゴイの言わんとするところが理解されていないと見て、ルベーノが意訳する。
「お前たちの孵化場を掘り起こす手伝いをする代わりに、この近辺を調査する許可を貰えないか、ということだ」
「……ソウカ。分カッタ。マズ掘リ出シ手伝エ。調査ソノ後ニシロ」
かくて衝突は避けられた。
胸を撫で下ろした詩は、こそっとマゴイに提案する。
「ユニオンの遺物が幾つか落ちてきてるかもしれないんだよね? その内彼らの役に立ちそうな物を一つ進呈するのはどうかな?」
『……それはよいことね……使えそうなものがあるといいけれど……』
●捜索
ハンターたちは、リザードマンたちと共に地面をひたすら掘る。
数時間かけてようやく、孵化場が掘り出された。
両手で抱えるほどの大きさをした卵は全部壊れてしまっていた。無事なものは1つもなかった。
卵の残骸が地上に上げられるたびリザードマンの間から、きゅうきゅう悲しげな声が漏れる。
ルベーノは、割れた卵を見つめているマゴイに話しかけた。
「なあμ……ウテルスが動くようになったらの話だが。卵の遺伝子からリザードマンを生み出すことは可能か?」
『……可能よ……彼らにそれを言ってあげたほうがいいかしら……』
会話を聞いていたカチャは、マゴイに異を唱えた。
「それはやめた方がいいですよ」
『……どうして?』
「どうしてって、今卵をなくしたばかりの所で、すぐさま新しい卵の話をするというのは――こう、人情的に反発を招く恐れがあるというか……」
メイムもまた異を唱える。マゴイよりもルベーノに対して。
「朱に交わればなんとやらだけど、ルベーノさん。最近マゴイに感化されてない? 半年くらい前ならだれよりも否定していたと思うのにー」
「人の胎から生まれようが機械の胎から生まれようが、1度限りの人生であることに変わりはない貴賤もない。大事なのは、その命が教育と望む生き方を選べるかだけだ。人の胎から生まれようが他人と見比べ悔やみ羨むのは変わりない。だから俺は、ウテルスを直すこと自体は問題だと思わん。問題は、その後に生まれた命をどう生かすかと言う点だけだからな」
「ウテルスっていうのは望む生き方を限定する手段として開発されたものじゃなかったっけ。とにかく今、その話は向こうに通訳しないようにした方がいいよ」
やり取りを傍らで聞いている多由羅には、ルベーノの意見が正しいのかメイムの意見が正しいのか決めかねた。
しかしとりあえずマゴイは、今この時点でリザードマンたちにウテルスの話を伝えることを断念したらしい。それ以上話を進めなかった。
詩とはマルカは卵の欠片を布に包んでいるリザードマンのところへ行き、尋ねる。
「この子たちのお弔いは、どうしたらいいの?」
「お墓を作られるのでしたら、お手伝い致しますが……」
リザードマンのリーダーは言った。
「死ンダ者ハ海ニ流スノダ。波ニ乗リ洗ワレ、再ビ戻ッテコラレルヨウニ」
多由羅の脳裏に、東方において行われる灯籠流しの光景が浮かんだ。
死者の弔いというのは、どこでも共通するものがあるのかもしれない。
「私たちにも供養をさせていただけませんか? もちろんお許しがあれば、ですが……」
「……部族デナイモノハ儀式ニ参加出来ヌ決マリ。サレドオ前達ハ卵ヲ見ツケルノニ随分協力シタ……ソノ点ニツイテコレカラ部族会議スルトシヨウ……」
マルカはワンドにマジックフライトをかけた。
「では私、ひとまず空から調査してみますね」
と言ってワンドに乗り、ふわりと上昇して行く。
それを見たリザードマンたちは驚き騒ぐ。
続けてマゴイが、するすると砂の中に入って行く。
『……それでは私は……地下から調査してみましょう……』
そこで初めてリザードマンたちは、彼女が実体の無い存在であることを知った。
マルカが飛んだこと以上に驚き騒ぐ。
●調査
「全体としてはこんな感じでした……」
と言いながらマルカは、マッピングセットを使って記録した湾の全体像を詩に提示した。
「もともとあったらしき部分は緑色、砂の部分は黄色に塗り分けて区別しやすいようにしてみました」
Uの字型だった土地は埋め立ての影響で扇形へと変じてしまっている。
「内海が全部なくなっちゃったんだね。これだけ環境が変わると、リザードマンたちも大変だなあ……」
詩は目の前にあるものを見上げる。
砂に半分埋もれた砂色の立方体。大きさ5m×5m×5m。窓らしき四角い穴と、入り口らしき四角い穴。彼女の飼い犬である牡丹は、その壁にマーキングをしている。
マルカは窓に近づき覗きこんでみた。
中は――がらんどうで何もない。
「……ところで詩さん、これは何でしょうか?」
「さあ、詳しくは分かんないんだけど……形からしてユニオンの産物であることは間違いないんだよね。見つけたのはこれで8つ目かな」
トランシーバーでの交信を終えたリオンが、PDAをいじりながら追加情報を出してくる。
「メイムさんたちも似たようなものを、もう10ほど発見しているそうですよ」
随分数が多い。一体これは何なのか。
皆して首をひねっているところ、折よくマゴイが地下調査を終え出てきた。
『……おー……ここにも……』
詩は早速問う。
「マゴイ、この箱は何?」
『……これは簡易住宅……屋外活動の拠点として……とても重宝……』
「なんでそんなものがあるの?」
『……多分ここは……ユニオンの海浜保養所があった場所ではないかと思う……そこには……これがたくさん置かれていた……市民で賑わっていた……』
懐かしむように立方体を撫でるマゴイ。
そこに誰か近づいてきた。
「おーい……」
見れば四方に穴が空いた四角柱――推定4メートル――を運んでくるメイム、カチャ、ルベーノ、多由羅の姿。
ルベーノと多由羅は1本の柱を前後2人肩に乗せ、バランスよく担いでいる。もともと筋力に恵まれた彼らにはこの荷運び、さして苦でもない。
しかしカチャとメイムは違う。前方のメイムはドローミーの鎖を絡め引きずっているが、後方のカチャは担いでいる。従って重みはすべて後方にかかる。そしてカチャは、ルベーノたちほど筋力に優れているわけでは断じてない。
「メイムさんずるい、ちゃんと持ってくださいよ!」
「まあまあ、これも修行の一環だと思って。マゴイ、遺跡物だけ運ぶの? それともこの転送されてきた土地も運ぶの?」
『……土地までは私の手に余るから……運ぶのは遺跡物だけよ……でも全部ではないわ……』
「この柱はどうする?」
『……それは持って帰るのよ……新しい保養所に設置したいから……簡易住宅はいささか大きいので……扉を通れない……だから私が島へ……転移させることにしましょう……』
「だってさ、カチャさん。さー、モノリスのあるところまで頑張ろう!」
「えー。どうせならこれも送りにしましょうよー……」
多由羅はふとマルカの顔を見て、思い出したように言った。
「貴女…前にどこかで逢った気が致しますね…?」
「え? ええ? そ、そうですか?」
●贈答
リザードマンのリーダーは調査を終え戻って来たハンターたちを集落に呼び、重々しく告げた。
『会議ノ結果、オ前達ニモ列席ヲユルスコトトシタ。ツイテハオ前タチニ、部族ノ名ヲ与エルコトトスル」
まずマルカが命名される。
「飛ブ者」
次に詩。
「光ル翼」
メイム。
「鈍色ノ鎖」
リオン。
「赤イ花」
多由羅。
「猛ル剣」
ルベーノ。
「岩ノ拳」
マゴイ。
「白イ精霊」
カチャ。
「荷ヲ運ブ者」
「ちょっ、私だけ何かすんごい適当じゃないですか!?」
「ソンナコトハナイ。皆祖霊ニ伺イヲ立テ決メタ名前。トコロデ――」
言葉を切ってリーダーは、集落近くに置かれた3つの簡易住宅を見やる。
「コレハ何カ?」
マゴイは説明する。
『……あなたがたに……これを進呈する……この中に卵を入れておけば……今回のような事が起きても安心安全……たとえ攻撃されても……』
その言葉を受け、ルベーノが拳を壁にたたき込む。多由羅が次元斬で縦横無尽に切りつける。リオンがファイアーボールと風雷陣を炸裂させる。
轟音と衝撃波と閃光と爆風が過ぎさった後簡易住宅は――平然と場に立っていた。ひびも入っていなければ、凹みもしていない。
『……この通り……』
メイムが一言付け加える。
「『祓いしもの』で浄化したしパルムに確認もさせたから、衛生面も大丈夫だよ」
リザードマンたちは驚嘆の声を上げた。
リーダーは感に堪えない様子で両瞼を閉じ、言った。
「ヨイ贈リ物……感謝スル」
●葬送
リザードマンたちはハンターたちを伴い、新しく出来た海岸線に出た。
リーダーが小さな舟に乗せた卵の欠片を、水面に浮かせる。
寄せては返す波がそれをさらい沖へと運んで行く。
リオンは自分が渡した酒が死者へのはなむけとして海に撒かれることを、惜しく感じた。
あれはカチャに飲ませたかったのだがと思いながら、そのカチャの横顔を眺める。
妙な空想が沸き起こってきたので、視線をそらす。
(……私最近、ちょっと変ですね)
そこに雪が降り始めた。いや、雪の幻影が降り始めた。
マルカがスノーホワイトを使ったのである。
真っ青な海と降りしきる雪――相反する要素をない交ぜにして、生まれてこられなかった者たちへの弔いは静かに進行していく。
マルカ・アニチキン(ka2542)はクラルテマントと隠の輩を使い、場から姿を消した。
リザードマンは『悪い魔法使い』という単語を口にした。であれば魔術師の格好をした自分は、彼らを刺激するもととなるかもしれないと気を回して(ちなみにクラルテマントを着ても消せない影については、多由羅(ka6167)の背後に回ることで誤魔化す)。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)はマゴイを問いただした。
「μ、確認するがこれはお前がオフィスに歪虚を転送した時のような恣意的な転送なり転送事故なりではない、全くお前が関わっていない話だということで間違いないな」
『……ええ……私がしたことではない……必要ならウォッチャーを通じて……市民生産機関の転移セクション使用記録を取り寄せてもいいけど……』
「お前は齟齬はあっても嘘はつかん。お前を信じる」
リザードマンたちの目に宿るのは警戒と不審だけ。
天竜寺 詩(ka0396)は、彼らが感じているであろう心の痛みを思いやり、マゴイに囁く。
「マゴイ、この人たちの中のリーダーは誰だか分かる?」
『……あの真ん中にいる……尻尾の先が裂けている人…「大きな山」という名前らしいわ……』
メイム(ka2290)は風を切るような音、もとい声を聞く。
いつのまにか先程リザードマン一隊が現れた砂丘に、また多数のリザードマンが出てきていた。皆、原始的な弓に矢をつがえている。
それとなく後方の砂丘にも意識を向けてみれば、やはりそこにも同じような一団が見え隠れ。
エルバッハ・リオン(ka2434)が一人ごちる。
「囲まれましたかね」
姿を消しているマルカは、はらはらしながら様子を見守る。
ルベーノは早速リザードマンに事の次第を説明した。堂々と、ストレートに(* 以下、報告書内では、訳されたリザードマンたちの言葉をカタカナ表記で表す)
「お前たちの卵が全滅したことについては深く哀悼の意を表す。だがやったのは俺達ではない」
「デハ、ダレダ」
「ダレガ砂フラセタ」
「先日大精霊同士の争いがあり、取り込まれた世界の一部がここに流れ込んだと聞く」
「大精霊ガ災ヲ引キ起コシタト言ウノカ」
「ヒドイ言イ逃レダ」
石の鏃をつけた弓矢が飛んできた。全て砂に刺さったところを見ると威嚇のための射撃らしいが……。
「えーと、雰囲気悪くなってないですか?」
と前後を見回すカチャ。
リオンが声を潜め、周囲に言う。
「ファイアーボールを撃ちましょうか?」
詩はそれに待ったをかけた。
「こんな時だもの、誰だって神経質になるよ」
覚醒を行う。金色のオーラが頭上に光輪を、左の背中に翼を現出させる。
その変化にリザードマンたちは目を見張る。
詩は彼らを落ち着かせようと、静かに静かに語りかけた。
「私達は悪い魔法使いじゃないよ。信じて。まず、生まれてこれなかった命のために、お祈りさせて」
そして、サルヴェイションを乗せた鎮魂歌を歌う。
歌詞の意味は分からなくても、真摯な内容のものであると感じ取ったのだろう。リザードマンのリーダーはいくらか態度を和らげた。槍の穂先を下げる。
他のリザードマンも、同じようにした。
弓を持ったリザードマンたちはそれに習い、つがえていた矢を降ろす。
メイムがマゴイに耳打ちする。
「マゴイ、今回の件は技術不足もあった事故であること説明して、リザードマンに謝罪しよう」
マゴイは得心いかない顔で言った。
『……私が事故を起こしたわけではないのだから……私が謝罪するのはおかしいわ』
「まあ理屈としてはそうかも知れないけどさ……でもここに流れてきたのはかつてユニオンがあった土地なんだよね? マゴイはそこにあるかもしれない遺物を持って帰りたいんだよね? なら島の責任者として、形だけでも謝っておかないと」
ルベーノも、マゴイの説得に加わる。
「μ、彼等にとってのウテルスがこの災害で破壊されたのだ。彼等の混乱と哀しみが想像できるなら、今回は自重してくれ。多分、彼等とユニゾンは今後長い付き合いになる筈だ」
彼らが話し合いをしている間多由羅は、ゆっくりとリザードマンの前に出て行く。
(部族間の諍いは難しい……異種族であれば尚更でしょうね……)
十尺を越える愛刀『祢々切丸』を腰から外し、足元に置く。言葉が容易に通じない相手に対しては、行動で害意がないことを示すべきだろう、と。
微動にせず多由羅の動きを見つめていたリザードマンのリーダーは、手にしていた槍を砂に突き立てる。一応敵では無さそうだと認識してくれたらしい。
相手の気が少し落ち着いたのを機にマルカは、こっそり姿を現す。最初からそこにいたような顔をして。
詩は改めてリザードマンたちに、砂が落ちてきた原因を説明する。
リザードマンたちは最終的に、砂を降らせたのがハンターたちではないことを理解してくれた。狼狽と消沈のうちに。
「大精霊ガ我々ノ卵ヲ潰シタ……」
「我々大精霊ニ対シ何カ至ラヌ所ガアッタダロウカ……」
そこにマゴイが近づいてきて、リーダーに言う。
『……あなたがたの孵化施設が破壊されたことについては……哀悼の意を表明する……私は事実関係における加害者ではないので法的責任は負えない……けれど落下物の関係者として道義的な責任は負える……ので……ユニオン法に基づき事故処理並びに復旧の救援をあなたたちに申し出たい……そのための契約をすることに同意していただけるかしら……?』
「……ソレハツマリドウイウコトナノダ?」
マゴイの言わんとするところが理解されていないと見て、ルベーノが意訳する。
「お前たちの孵化場を掘り起こす手伝いをする代わりに、この近辺を調査する許可を貰えないか、ということだ」
「……ソウカ。分カッタ。マズ掘リ出シ手伝エ。調査ソノ後ニシロ」
かくて衝突は避けられた。
胸を撫で下ろした詩は、こそっとマゴイに提案する。
「ユニオンの遺物が幾つか落ちてきてるかもしれないんだよね? その内彼らの役に立ちそうな物を一つ進呈するのはどうかな?」
『……それはよいことね……使えそうなものがあるといいけれど……』
●捜索
ハンターたちは、リザードマンたちと共に地面をひたすら掘る。
数時間かけてようやく、孵化場が掘り出された。
両手で抱えるほどの大きさをした卵は全部壊れてしまっていた。無事なものは1つもなかった。
卵の残骸が地上に上げられるたびリザードマンの間から、きゅうきゅう悲しげな声が漏れる。
ルベーノは、割れた卵を見つめているマゴイに話しかけた。
「なあμ……ウテルスが動くようになったらの話だが。卵の遺伝子からリザードマンを生み出すことは可能か?」
『……可能よ……彼らにそれを言ってあげたほうがいいかしら……』
会話を聞いていたカチャは、マゴイに異を唱えた。
「それはやめた方がいいですよ」
『……どうして?』
「どうしてって、今卵をなくしたばかりの所で、すぐさま新しい卵の話をするというのは――こう、人情的に反発を招く恐れがあるというか……」
メイムもまた異を唱える。マゴイよりもルベーノに対して。
「朱に交わればなんとやらだけど、ルベーノさん。最近マゴイに感化されてない? 半年くらい前ならだれよりも否定していたと思うのにー」
「人の胎から生まれようが機械の胎から生まれようが、1度限りの人生であることに変わりはない貴賤もない。大事なのは、その命が教育と望む生き方を選べるかだけだ。人の胎から生まれようが他人と見比べ悔やみ羨むのは変わりない。だから俺は、ウテルスを直すこと自体は問題だと思わん。問題は、その後に生まれた命をどう生かすかと言う点だけだからな」
「ウテルスっていうのは望む生き方を限定する手段として開発されたものじゃなかったっけ。とにかく今、その話は向こうに通訳しないようにした方がいいよ」
やり取りを傍らで聞いている多由羅には、ルベーノの意見が正しいのかメイムの意見が正しいのか決めかねた。
しかしとりあえずマゴイは、今この時点でリザードマンたちにウテルスの話を伝えることを断念したらしい。それ以上話を進めなかった。
詩とはマルカは卵の欠片を布に包んでいるリザードマンのところへ行き、尋ねる。
「この子たちのお弔いは、どうしたらいいの?」
「お墓を作られるのでしたら、お手伝い致しますが……」
リザードマンのリーダーは言った。
「死ンダ者ハ海ニ流スノダ。波ニ乗リ洗ワレ、再ビ戻ッテコラレルヨウニ」
多由羅の脳裏に、東方において行われる灯籠流しの光景が浮かんだ。
死者の弔いというのは、どこでも共通するものがあるのかもしれない。
「私たちにも供養をさせていただけませんか? もちろんお許しがあれば、ですが……」
「……部族デナイモノハ儀式ニ参加出来ヌ決マリ。サレドオ前達ハ卵ヲ見ツケルノニ随分協力シタ……ソノ点ニツイテコレカラ部族会議スルトシヨウ……」
マルカはワンドにマジックフライトをかけた。
「では私、ひとまず空から調査してみますね」
と言ってワンドに乗り、ふわりと上昇して行く。
それを見たリザードマンたちは驚き騒ぐ。
続けてマゴイが、するすると砂の中に入って行く。
『……それでは私は……地下から調査してみましょう……』
そこで初めてリザードマンたちは、彼女が実体の無い存在であることを知った。
マルカが飛んだこと以上に驚き騒ぐ。
●調査
「全体としてはこんな感じでした……」
と言いながらマルカは、マッピングセットを使って記録した湾の全体像を詩に提示した。
「もともとあったらしき部分は緑色、砂の部分は黄色に塗り分けて区別しやすいようにしてみました」
Uの字型だった土地は埋め立ての影響で扇形へと変じてしまっている。
「内海が全部なくなっちゃったんだね。これだけ環境が変わると、リザードマンたちも大変だなあ……」
詩は目の前にあるものを見上げる。
砂に半分埋もれた砂色の立方体。大きさ5m×5m×5m。窓らしき四角い穴と、入り口らしき四角い穴。彼女の飼い犬である牡丹は、その壁にマーキングをしている。
マルカは窓に近づき覗きこんでみた。
中は――がらんどうで何もない。
「……ところで詩さん、これは何でしょうか?」
「さあ、詳しくは分かんないんだけど……形からしてユニオンの産物であることは間違いないんだよね。見つけたのはこれで8つ目かな」
トランシーバーでの交信を終えたリオンが、PDAをいじりながら追加情報を出してくる。
「メイムさんたちも似たようなものを、もう10ほど発見しているそうですよ」
随分数が多い。一体これは何なのか。
皆して首をひねっているところ、折よくマゴイが地下調査を終え出てきた。
『……おー……ここにも……』
詩は早速問う。
「マゴイ、この箱は何?」
『……これは簡易住宅……屋外活動の拠点として……とても重宝……』
「なんでそんなものがあるの?」
『……多分ここは……ユニオンの海浜保養所があった場所ではないかと思う……そこには……これがたくさん置かれていた……市民で賑わっていた……』
懐かしむように立方体を撫でるマゴイ。
そこに誰か近づいてきた。
「おーい……」
見れば四方に穴が空いた四角柱――推定4メートル――を運んでくるメイム、カチャ、ルベーノ、多由羅の姿。
ルベーノと多由羅は1本の柱を前後2人肩に乗せ、バランスよく担いでいる。もともと筋力に恵まれた彼らにはこの荷運び、さして苦でもない。
しかしカチャとメイムは違う。前方のメイムはドローミーの鎖を絡め引きずっているが、後方のカチャは担いでいる。従って重みはすべて後方にかかる。そしてカチャは、ルベーノたちほど筋力に優れているわけでは断じてない。
「メイムさんずるい、ちゃんと持ってくださいよ!」
「まあまあ、これも修行の一環だと思って。マゴイ、遺跡物だけ運ぶの? それともこの転送されてきた土地も運ぶの?」
『……土地までは私の手に余るから……運ぶのは遺跡物だけよ……でも全部ではないわ……』
「この柱はどうする?」
『……それは持って帰るのよ……新しい保養所に設置したいから……簡易住宅はいささか大きいので……扉を通れない……だから私が島へ……転移させることにしましょう……』
「だってさ、カチャさん。さー、モノリスのあるところまで頑張ろう!」
「えー。どうせならこれも送りにしましょうよー……」
多由羅はふとマルカの顔を見て、思い出したように言った。
「貴女…前にどこかで逢った気が致しますね…?」
「え? ええ? そ、そうですか?」
●贈答
リザードマンのリーダーは調査を終え戻って来たハンターたちを集落に呼び、重々しく告げた。
『会議ノ結果、オ前達ニモ列席ヲユルスコトトシタ。ツイテハオ前タチニ、部族ノ名ヲ与エルコトトスル」
まずマルカが命名される。
「飛ブ者」
次に詩。
「光ル翼」
メイム。
「鈍色ノ鎖」
リオン。
「赤イ花」
多由羅。
「猛ル剣」
ルベーノ。
「岩ノ拳」
マゴイ。
「白イ精霊」
カチャ。
「荷ヲ運ブ者」
「ちょっ、私だけ何かすんごい適当じゃないですか!?」
「ソンナコトハナイ。皆祖霊ニ伺イヲ立テ決メタ名前。トコロデ――」
言葉を切ってリーダーは、集落近くに置かれた3つの簡易住宅を見やる。
「コレハ何カ?」
マゴイは説明する。
『……あなたがたに……これを進呈する……この中に卵を入れておけば……今回のような事が起きても安心安全……たとえ攻撃されても……』
その言葉を受け、ルベーノが拳を壁にたたき込む。多由羅が次元斬で縦横無尽に切りつける。リオンがファイアーボールと風雷陣を炸裂させる。
轟音と衝撃波と閃光と爆風が過ぎさった後簡易住宅は――平然と場に立っていた。ひびも入っていなければ、凹みもしていない。
『……この通り……』
メイムが一言付け加える。
「『祓いしもの』で浄化したしパルムに確認もさせたから、衛生面も大丈夫だよ」
リザードマンたちは驚嘆の声を上げた。
リーダーは感に堪えない様子で両瞼を閉じ、言った。
「ヨイ贈リ物……感謝スル」
●葬送
リザードマンたちはハンターたちを伴い、新しく出来た海岸線に出た。
リーダーが小さな舟に乗せた卵の欠片を、水面に浮かせる。
寄せては返す波がそれをさらい沖へと運んで行く。
リオンは自分が渡した酒が死者へのはなむけとして海に撒かれることを、惜しく感じた。
あれはカチャに飲ませたかったのだがと思いながら、そのカチャの横顔を眺める。
妙な空想が沸き起こってきたので、視線をそらす。
(……私最近、ちょっと変ですね)
そこに雪が降り始めた。いや、雪の幻影が降り始めた。
マルカがスノーホワイトを使ったのである。
真っ青な海と降りしきる雪――相反する要素をない交ぜにして、生まれてこられなかった者たちへの弔いは静かに進行していく。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/08 09:50:42 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/05/10 16:05:39 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/05/09 21:21:42 |