ゲスト
(ka0000)
Fake to Gamble
マスター:DoLLer
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
人工的に作られた灯りの数々が、多数の色ガラスを通して、七色に輝く。
下を向けば巨大なホールに、無数の灯り、それから人、人、人。その通路には見栄えだけの石像などのオーナメントが並び、広場には赤と黒のコントラストが鮮やかなルーレット台や、羅紗とマホガニーに作られたカード台。音楽隊の熱狂的な音楽が作り出す波と共に、歓声と悲鳴、またくすくす笑い、また談笑の囁きが、異様な熱気を作り出していた。
「ここを使わせてほしいの」
そんなホールを一望できる一等高い部屋の窓枠に座ってドレスに大きく入ったスリットを使いながら足を組み替えつる女に、ここのオーナーは大きな葉巻をくゆらせながら渋い顔をしてねめつけた。
「何が目的だ、人形使い」
「最近さ、ヴルツァライヒとは別の組織が活動し始めてんの。名前はギュント。兵士の皮被ってるけど、どうも反政府組織のニューウェイブみたい」
「ははぁ、また胆の座った奴が出てきたもんだな」
人形使いも全くだ。とオーナーに同意した。兵士をやってれば、皇帝を始め帝国師団長の人間離れした力を目の当たりにしているだろうし、ハンターとの実力差、歪虚の恐ろしさ、もしくは『自分たち』の暴虐など、さまざまなものを見ているだろうし、刷り込まれてもいるはずだ。
その上でヴルツァライヒとシマ争いをするような商売を画策しようというのだから、大バカ者かそれとも相当の切れ者かのどちらかだということになる。
「んで調べてみたら、シングスピラのあたりで積極的に移民と産業について調べているのがわかったの。……お客さんいるっしょ? シングスピラ周辺に住んでる大富豪さん」
「接触しようってか。感心せんなぁ……人形使いにしてはなんとも下手な動きじゃあないか」
接触すれば思惑が漏れる。
思惑が漏れれば素性が漏れる。
素性が割れれば周辺も割れる。
オーナーとてそんなものに手を貸せばどうなるかわかったものではない。
「やだなぁ、だからこの賭場を貸せってお願いしてるのよ。お客さんを借金漬けにすれば首輪をつけられる。ギュントもそこにつけこむから狙いも絞りやすくなる。あたしは巻き上げたお金でさらに罠を張れる」
オーナーは笑いと共に、ふっ。と濃い紫煙を噴き出し、葉巻を太い指にはさんで持ち上げて、首輪付きの女にそれを見せつけた。
「さすがだなぁ。だがね、いい金ヅルを残らず刈り取られちゃあ、俺の仕事にならんよ。いいか、客ってのは最後まで甘い夢を見せつつ、ゆっくりゆっくり、滓になるまで絞っていくもんだ」
オーナーは短くなった葉巻をゆっくりゆっくりと力を入れて、人形使いの前で真っ二つに曲げていく。
そして一気に力を入れると、葉巻は真っ二つに折れて足元に散らばった。
「一気に力をいれたら、汚れるばっかだ」
「もう使えないくらいに金貯めこんでるくせして、まだ欲しいワケ? 暴食だねぇ」
人形使いがお道化るようにけらけらと笑っていると、オーナーは葉巻を踏みつけそのまま、人形使いの腕を引き寄せた。
「そりゃあ、金ってのは腐らねぇからね。お前みたいな美人を抱くのにも使える」
周りから視線が漂う。
人形使いを封じるために潜んでいる用心棒が出番かと様子をうかがっているのだろう。普通の女ならオーナーをつきとばす。そしてそれが用心棒の出番の合図となる。
が。
「そういうのは嫌いじゃないけど、あたしの言葉をしっかり理解できる頭がほしいわー」
次の瞬間、オーナーの頭が吹き飛んだ。
様子をうかがっていた用心棒の頭も。
「ま、聞く耳がないなら、葉巻を吸う口も、理解できる頭もなくていーや。勝手に使わせてもらうから」
人形使いはヒラヒラと手を振って部屋から退室した。
●
「反対だ! 全部の産業に手を打つとなれば買収資金がいくらかかると思っているんだ。いくらワシの金でも無理がある」
クリームヒルトの金庫番であるベント伯はアミィの意見を聞いて顔を真っ赤にして怒鳴ったが、アミィはそれでも折れなかった。
「でもさ、あの怪しいギュントの行動を先回りして、封じ込めるにはこれが一番なんだって。それにあいつ頭良さそうだし、仕事成功させたら、そのリターンももれなくこっちのもんよ。首根っこ掴みながら、金まで貰えるんだからやるべきだって。7億くらいなんとかなるでしょ」
「なるかっ!!」
噛みつくように言われ、さすがのアミィも顔を引き下げたが、目の光は諦めた様子ではなかった。
「アミィ。そんな荒唐無稽なことを言い出す人じゃないと思っているんだけど、何か策があるのよね?」
クリームヒルトの言葉にアミィはニコニコ笑うと歩いていた足をピタリと止め、大きな屋敷の扉の前に立った。舞踏会の会場だろうかと思うような古風で豪奢な建物だ。そしてアミィが振り返ると同時に、屋敷の門衛が畏まって扉を開いた。
中に覗くは赤い絨毯、人工的に作られた灯りの数々が、多数の色ガラスを通して、七色に輝く。
下を向けば巨大なホールに、無数の灯り、その通路には見栄えだけの石像などのオーナメントが並び、広場には赤と黒のコントラストが目を引くルーレット台や、羅紗とマホガニーに作られたカード台。
「ようこそ、アミィ様!」
イケメンの燕尾服の男たち、色気たっぷりのバニーガールが整列して迎え入れてくれる姿に、一同は開いた口がふさがらなかった。
「か、カジノ……」
「というわけで、カジノのディーラーとしてなら、稼げそうじゃない? イカサマ、八百長、なんでもありの裏カジノ。ヴルツァライヒ時代のお仲間がやってんだけどさ。一日だけ使ってもいいようお願いしてきたんだ」
「姫様。危険です。止めましょう」
「ベント伯はディーラーがいいかなあ。姫様はバニーちゃん……いやぁ、色気ないから無理か。サクラでお客のお嬢様しててよ。大丈夫、相手はシングスピラ周辺の大富豪。どいつも極悪非道の手段で成りあがって人の金で遊ぶのが大好きな奴らだから。そいつらに甘い夢を見せつつ、滓まで絞り切れば、7億もいらず、相手の地盤を奪えるよ」
テミスが元来た道を帰ろうと引っ張るのも無視して、アミィは笑って説明を続けた。
「それは……人のためになるのね? アミィ」
「もっちろん」
しばらく沈黙が続いたが、それでもクリームヒルトはゆっくりとアミィと共にカジノへの門をくぐったのであった。
●
「あいつも変なのに惑わされているようだ。まったく……僕には人の運ってものがないのかな」
クセのない金髪を白手袋をつけた手でくしゃりとなでつけて、男はため息をついた。
そして前髪に隠れた目は何も語らなかったが、口元はしばらくするとこれでもないくらいに楽しそうにした。
「まあいいか。少し楽しませてもらおうかな♪ どんな顔をするか楽しみだ」
下を向けば巨大なホールに、無数の灯り、それから人、人、人。その通路には見栄えだけの石像などのオーナメントが並び、広場には赤と黒のコントラストが鮮やかなルーレット台や、羅紗とマホガニーに作られたカード台。音楽隊の熱狂的な音楽が作り出す波と共に、歓声と悲鳴、またくすくす笑い、また談笑の囁きが、異様な熱気を作り出していた。
「ここを使わせてほしいの」
そんなホールを一望できる一等高い部屋の窓枠に座ってドレスに大きく入ったスリットを使いながら足を組み替えつる女に、ここのオーナーは大きな葉巻をくゆらせながら渋い顔をしてねめつけた。
「何が目的だ、人形使い」
「最近さ、ヴルツァライヒとは別の組織が活動し始めてんの。名前はギュント。兵士の皮被ってるけど、どうも反政府組織のニューウェイブみたい」
「ははぁ、また胆の座った奴が出てきたもんだな」
人形使いも全くだ。とオーナーに同意した。兵士をやってれば、皇帝を始め帝国師団長の人間離れした力を目の当たりにしているだろうし、ハンターとの実力差、歪虚の恐ろしさ、もしくは『自分たち』の暴虐など、さまざまなものを見ているだろうし、刷り込まれてもいるはずだ。
その上でヴルツァライヒとシマ争いをするような商売を画策しようというのだから、大バカ者かそれとも相当の切れ者かのどちらかだということになる。
「んで調べてみたら、シングスピラのあたりで積極的に移民と産業について調べているのがわかったの。……お客さんいるっしょ? シングスピラ周辺に住んでる大富豪さん」
「接触しようってか。感心せんなぁ……人形使いにしてはなんとも下手な動きじゃあないか」
接触すれば思惑が漏れる。
思惑が漏れれば素性が漏れる。
素性が割れれば周辺も割れる。
オーナーとてそんなものに手を貸せばどうなるかわかったものではない。
「やだなぁ、だからこの賭場を貸せってお願いしてるのよ。お客さんを借金漬けにすれば首輪をつけられる。ギュントもそこにつけこむから狙いも絞りやすくなる。あたしは巻き上げたお金でさらに罠を張れる」
オーナーは笑いと共に、ふっ。と濃い紫煙を噴き出し、葉巻を太い指にはさんで持ち上げて、首輪付きの女にそれを見せつけた。
「さすがだなぁ。だがね、いい金ヅルを残らず刈り取られちゃあ、俺の仕事にならんよ。いいか、客ってのは最後まで甘い夢を見せつつ、ゆっくりゆっくり、滓になるまで絞っていくもんだ」
オーナーは短くなった葉巻をゆっくりゆっくりと力を入れて、人形使いの前で真っ二つに曲げていく。
そして一気に力を入れると、葉巻は真っ二つに折れて足元に散らばった。
「一気に力をいれたら、汚れるばっかだ」
「もう使えないくらいに金貯めこんでるくせして、まだ欲しいワケ? 暴食だねぇ」
人形使いがお道化るようにけらけらと笑っていると、オーナーは葉巻を踏みつけそのまま、人形使いの腕を引き寄せた。
「そりゃあ、金ってのは腐らねぇからね。お前みたいな美人を抱くのにも使える」
周りから視線が漂う。
人形使いを封じるために潜んでいる用心棒が出番かと様子をうかがっているのだろう。普通の女ならオーナーをつきとばす。そしてそれが用心棒の出番の合図となる。
が。
「そういうのは嫌いじゃないけど、あたしの言葉をしっかり理解できる頭がほしいわー」
次の瞬間、オーナーの頭が吹き飛んだ。
様子をうかがっていた用心棒の頭も。
「ま、聞く耳がないなら、葉巻を吸う口も、理解できる頭もなくていーや。勝手に使わせてもらうから」
人形使いはヒラヒラと手を振って部屋から退室した。
●
「反対だ! 全部の産業に手を打つとなれば買収資金がいくらかかると思っているんだ。いくらワシの金でも無理がある」
クリームヒルトの金庫番であるベント伯はアミィの意見を聞いて顔を真っ赤にして怒鳴ったが、アミィはそれでも折れなかった。
「でもさ、あの怪しいギュントの行動を先回りして、封じ込めるにはこれが一番なんだって。それにあいつ頭良さそうだし、仕事成功させたら、そのリターンももれなくこっちのもんよ。首根っこ掴みながら、金まで貰えるんだからやるべきだって。7億くらいなんとかなるでしょ」
「なるかっ!!」
噛みつくように言われ、さすがのアミィも顔を引き下げたが、目の光は諦めた様子ではなかった。
「アミィ。そんな荒唐無稽なことを言い出す人じゃないと思っているんだけど、何か策があるのよね?」
クリームヒルトの言葉にアミィはニコニコ笑うと歩いていた足をピタリと止め、大きな屋敷の扉の前に立った。舞踏会の会場だろうかと思うような古風で豪奢な建物だ。そしてアミィが振り返ると同時に、屋敷の門衛が畏まって扉を開いた。
中に覗くは赤い絨毯、人工的に作られた灯りの数々が、多数の色ガラスを通して、七色に輝く。
下を向けば巨大なホールに、無数の灯り、その通路には見栄えだけの石像などのオーナメントが並び、広場には赤と黒のコントラストが目を引くルーレット台や、羅紗とマホガニーに作られたカード台。
「ようこそ、アミィ様!」
イケメンの燕尾服の男たち、色気たっぷりのバニーガールが整列して迎え入れてくれる姿に、一同は開いた口がふさがらなかった。
「か、カジノ……」
「というわけで、カジノのディーラーとしてなら、稼げそうじゃない? イカサマ、八百長、なんでもありの裏カジノ。ヴルツァライヒ時代のお仲間がやってんだけどさ。一日だけ使ってもいいようお願いしてきたんだ」
「姫様。危険です。止めましょう」
「ベント伯はディーラーがいいかなあ。姫様はバニーちゃん……いやぁ、色気ないから無理か。サクラでお客のお嬢様しててよ。大丈夫、相手はシングスピラ周辺の大富豪。どいつも極悪非道の手段で成りあがって人の金で遊ぶのが大好きな奴らだから。そいつらに甘い夢を見せつつ、滓まで絞り切れば、7億もいらず、相手の地盤を奪えるよ」
テミスが元来た道を帰ろうと引っ張るのも無視して、アミィは笑って説明を続けた。
「それは……人のためになるのね? アミィ」
「もっちろん」
しばらく沈黙が続いたが、それでもクリームヒルトはゆっくりとアミィと共にカジノへの門をくぐったのであった。
●
「あいつも変なのに惑わされているようだ。まったく……僕には人の運ってものがないのかな」
クセのない金髪を白手袋をつけた手でくしゃりとなでつけて、男はため息をついた。
そして前髪に隠れた目は何も語らなかったが、口元はしばらくするとこれでもないくらいに楽しそうにした。
「まあいいか。少し楽しませてもらおうかな♪ どんな顔をするか楽しみだ」
リプレイ本文
●赤い賭場
扉をくぐったのはでっぷりとした肉の塊を高級な布で丁寧にくるんだような男に対して、二人のバニーが声を揃えた。
「「いらっしゃいませー♪」なの♪」
リリア・ノヴィドール(ka3056)と高瀬 未悠(ka3199)だ。リリアはエルフの繊細な体をピンクのバニー衣装で包み、しなやかな脚を強烈なハイレグで見せつけた格好。未悠はベーシックな燕尾がついたバニー衣装に網タイツと大人の雰囲気を醸し出し対照的であった。
「可愛いバニーじゃないか。新入りか?」
「はい♪ 可愛がってくださいね」
などと言ったせいかもしれないが、男は堂々と未悠を抱き寄せ、なんなら熟れた胸に手をやりながらカジノのイロハと自分がいかに素晴らしいか説きながら歩き始めた。
「なにあれ、さいてー!」
客に紛れてポーカー台で様子を見ていたクリームヒルトがあからさまに顔をしかめ、文句の一つでもつけてこようかと動き出そうとしたものだから、ディーラーに扮したリュー・グランフェスト(ka2419)がすかさずそちらにカードを配ってよこした。
「なによ、こんな時にゲームなん……て」
それはトランプに見せかけた押し花のカードだった。スズランの。
「愚痴は聞いてやるから、とりあえず仲間を信頼しろ」
「そんな場合じゃないでしょ」
クリームヒルトは胸元からカードを取り出してリューに投げ返した。そういう辺りがギャンブルに慣れていないところを感じさせ、リューは言い返そうと思ったが、その言葉はカードを見て止まってしまった。
同じスズランの押し花だった。
「なんだありゃあ」
「それはねー、きっと、あの人貴方に興味があるっていう顔してるからなの」
さすがに視線に気づいたのか鬱陶しそうに見返す男に、すかさずリリアが身体を密着させて高いヒールから更に背伸びしてこっそり話しかける。
「あの人、あれでも借金まみれなの! そろそろお客としてみれない、なの」
リリアの言葉に男はほほうと頷き、視線が固定される。
その瞬間を見計らって未悠は視界の外で壁に鬱憤を晴らし、神楽(ka2032)はリリアにしか見えないようにカンペを提示していた。
「だからパーティーしようって思うのよ」
一人を徹底的に吊るし上げる。全員でむしりとる。パーティーはそんな隠語だと気づくと男の顔はさらに邪悪に染まった。
「取り分はあれだけか?」
賞品がほしいらしい男に対して、そっと戻ってきた未悠は艶然と笑ってリリアと同じように体を密着させ、リリアと反対側からささやく。
「私たちと……最も優秀な方にはあちらもどうぞ」
未悠が言葉で示した先には音羽 美沙樹(ka4757)のベリーダンスショー。普段見せないエトファリカ人特有のきめの細かい肌を薄衣を幾重にも羽織って隠しただけの姿で、下腹部をうねるように回して一心不乱に踊る姿。
「ほしいね」
「ほしいわ」
男とは離れた場所で、淑女もまた同じ言葉を美沙樹に向かって投げかけていた。若く、静かな澄ました立ち居振る舞いは場にそぐわない清楚さであるのに。薄く閉じた瞼の向こうにはどす黒い目をしていた。
「でもお高いのでしょう。わたくし自信がないわ」
「はは、あなたのような美女ならすぐ勝てると思いますけどね。皆が放っておかない」
いつもぼさぼさの髪型の金目(ka6190)は髪をオールバックに決めて、彼女の傍に立った。
「あら、本当?」
「ほら、あそこでお酒を召し上がりながら、回している御仁。彼についていれば大丈夫」
金目に紹介された劉 厳靖(ka4574)はとびきり高級なブランデーのグラスを掲げて挨拶すると同時に、周りから歓声が上がった。山と積まれたチップが彼の元に押し出されたからだ。ルーレットは大当たり。
「なんだ? 情報を売れってのかよ」
「好きでしょう」
「好きだけどさ」
二人そろって意味深な会話を淑女に聞こえるように話すと、彼女はそれを真に受けて微笑んだ。
「あら、信じていいのかしら」
「信じていいっすよ。なんならこいつもつけてやるっす」
二人にはもったいないと神楽が割り込み、淑女にパルムを差し出して、にんまりと笑った。
「ルーレットのディーラーはこいつとオレっす。つまりどこについても結果は保証するっすよ。合図はこいつがしてくれるっす」
そして有無を言わせず淑女の胸元にパルムを押し込んだ。温かく柔らかい感触に小鼻が膨らんだが、きっと淑女は見えていない。
「まあ……お代はきっちりいただくわよ」
「それではまいります」
メアリ・ロイド(ka6633)は男とクリームヒルトを見ながらカードを配った。
さっきから負け続けのクリームヒルトは緊迫した顔で自分の手札しか見ていないが、男の方はこちらの大きく開けた胸元ばかりだ。
……スケベ感情とはわかりやすいものなのでしょうか。確かに好きなものを追う動きは分かりやすい……そして見苦しい。
「お嬢様も負けた手を取り返すことができるかもしれません。レートを上げますか? 今はちょうど10:00。レートの最大値を1000倍にする特別な時間とさせていただきます」
時間など視線上にあるものを見れば一目瞭然だが、わざと腰元付けたペンダントに時計が付いているように動き、無防備に胸元や、網タイツのはいた脚がタイトスカートのスリットから見えるように動くと、男の首はまるで亀のように伸びるのがわかる。
……もしかして私も感情が豊かになったらあんな風になンのかなー。でも好きでたまらない時って無意識でああなるのかな。
メアリが動くたびに視線がぐりぐり動く、頭の悪い男をコントロールしながら自分のことを考えていた。
「ここまで負けたら、確率的に次は絶対いけちゃうなの!」
「うう、でも……負けたらもう払えない」
尻ごむクリームヒルトにリリアはめいっぱい明るい声で応援する。
「幸運の女神が振り向くまで、お手伝いするのもやぶさかではありませんよね」
「そうだな、ここでは敵同士だが、外を出れば同じ帝国民として助けてやろうじゃないか」
未悠にのせられる形で男もうなずく。それはクリームヒルトを手籠めにする第一歩であるのは間違い。心の中では一歩外に出たら即縛り上げてあげるわ。という言葉をのみ込んだ甲斐はあった。
「わ、わ、わかりました……では最終勝負で」
「姫様、がんばってくださいませ」
借入で得た大量のコインを運ぶ美沙樹がクリームヒルトの頬にキスをしてコインを渡した。
その横では未悠がポーカー台にしなだれかかり、男とクリームヒルトの間を阻んで声をかける。
「賭けちゃう? 人生の一生分。私とリリアと、隣の女と賞品の東洋人。全部ほしいんでしょう。四人の一生分、賭けてくれるのよね」
「む……」
さすがに一瞬男に冷静さが戻った。
リリアと未悠がずっと色仕掛けをしていたとしてもさすがに不味いと思ったのだろうか。
「げんせーさーん。ちょっと奇跡、奇跡の起こし方教えてあげてなの。この人、今大勝ち中で、もしかしたら4人の人生変えてくれるかもなの」
「へぇ、なんだこのカジノの歴史を塗り替える大勝ち具合じゃないか」
厳靖はグラスをもって移動してくると、すぐにバーボンが美沙樹から注がれる。それは特別な人間を装わせるに十分な動きであった。
「情報屋か……」
「ま、そんなとこだ。例えば……ほら、向こうのポーカー台。右から順番に、ワンペア、ワンペア、フラッシュ、役なし、スリーカード。親が様子見。3人が降りたらスリーカード。乗ってきたらフラッシュに変えるぜ」
ディーラーをしているリューの卓を指さしながら話す厳靖の言葉はすぐにその通りとなった。
「な。まあだいたい見りゃわかる。酒一杯奢ってくれりゃ一回だけサービスしてやるよ」
「ふ、ふふふ。よし乗ろう」
「よしわかった。おーい、アシエンダ・ラ・カピリャくれ……なんだ大したことない味だな。まあいいや」
ダイヤモンドのついたテキーラボトルを口飲みしながら、厳靖は男の横に座る。
「それでは参ります」
「お嬢ちゃんはストレートかな。親は交換してフラッシュだ。巻き上げにきてんねぇ。あんたはストレートフラッシュが狙える。4枚交換だ」
「4枚……交換だ!」
「よろしいのですか?」
メアリが微笑みを崩さず尋ね返す。だが耳から垂れ落ちる髪を気にして眼鏡に引っ掛け直すのが特徴的だった。
「焦ってんぜ。カードの配置が全部ずれるからな。親に来るべきカードがあんたんとこに来る」
その言葉に男は乗って、チェンジを申請すると、メアリは黙ったままカードを投げてよこした。ストレートフラッシュだ。
軽くため息をつくメアリはカードに目ぎらつかせる男の下で服の袖を軽く振り、手元のカードを台の下、自分の足元に滑り落とす。
「では、明かします。旦那様、ストレートフラッシュ」
「はははははっ!!」
「親の私はフォーカード」
「お嬢様、ロイヤルストレートフラッシュです。レートは1000倍。ロイヤルストレートフラッシュは×500、フォーカードは×400です。あらお客様、借入限度額となったようですね。大変残念ですがゲームセットです」
意地の悪い愉悦が体を駆け巡る時、嘲笑うことが的確ということをメアリは理解した。
●黒い裏側
「な、なによ、これ……」
厳靖がリリアに呼ばれて席を立ったのは別に仕事放棄ではない。すでに仕事が終わっていたからだ。
淑女は真っ青になってルーレット台に突っ伏していた。
「どうするなの?」
リリアの問いかけに鬼気迫る顔の女はすぐさま顔を上げて、その喉を締め上げる勢いで向かい合った。
「もう一勝負いくわ。こんなので下がってられないわ」
「まあいいですが……帰れなくなりますよ」
薄暗い箱の中で生きることになっても?
金目は睨む女の顔を笑顔で受けたが、内心は憐れに思う気持ちでいっぱいだった。自分のような経験はしたことがないに違いないし、自分はそんな物とは無縁であると語っているようなものだ。
「早く振りなさい。赤よ」
「仕方ないなぁ。じゃあ、僕も赤で賭けてあげよう」
いよいよタマを振る段になって、金目の言葉を代弁するようにして、女の隣に見覚えのある優男が座り、コインを一枚投げてよこした。
「シグルド!!!?」
バニーの未悠が悲鳴を上げて、先程までのミステリアスな仮面が軒並み引っぺがされる。
それが災いしたか、金目の背筋が何かしら寒くなった瞬間、タマが手元からこぼれた。
「ハンターっていうのは、本当になんでもするねぇ」
「何の用だよ」
フォローするようにリューがシグルドに問いかけるが、彼は何も答えなかった。
タマはリリースを外し、正直、どこに行くかわからない。胸が潰れそうになりながら金目は手元を見た。ディーラー側にはタマが特定のポケットに入らないように仕掛けがある。
動かすか。動かさないか。女はこの賭けでもう降りてもらうしかないが……。
旅空の下、突如、下駄の鼻緒が切れたエアルドフリスは首を傾げた。
「縁起悪いねぇ。誰かに悪いことが起こらなきゃいいんだが」
イカサマのボタンから手を離し、金目は成り行きを見守った。危険な感じが何かを呼び止められた気になったからだ。
天に任せたタマは……黒。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! イカサマよ、こんなのイカサマだわっ」
今まで一度もイカサマされていることに気づいていないのに、こんな時だけそう叫ぶ女はなんとも滑稽だった。それでいてまだ気づかない女は錯乱して金目に飛びかかろうとする。
「お客様。それは運がなかっただけなの。見苦しいの」
自分の胸のふくらみを僅かに隠すバニースーツの胸元からチャクラムを取り出すと、リリアは女を後ろから締め上げ、刃を喉元に突きつける。
「鬼畜どもがっ、地獄に落ちろっ!」
「おいおい、それ、自分が言われたことじゃねぇのか。花を買いに行くとき聞いたぜ……」
狂乱して口汚くののしる女をリューが押さえつけて諭す中、シグルドは賭けたコインを一枚金目に投げてよこして笑った。
「いやぁ、イカサマの現場を捕まえずにすんだよ。今日は仕事でね」
「!」
まずい。
シグルドはそのまま金目の肩を叩いて、そのままオーナー室へと歩いていく。
「待って、シグルド!! こ、今度は驚いて止まっちゃうことしちゃうから、ねぇ、聞いてってば」
未悠が慌てて立ちはだかると、シグルドは一瞬だけ足を止めてリューに振り返った。
「そんなに怖い事をするつもりはないさ、高瀬君。今日はオーナーに通達しにきただけだよ。後でゆっくり話は聞いてあげるから大人しくしてくれないかな」
憧れた彼の笑顔はいつも綺麗だ。未悠は真っ赤に濡れた唇に手をやりながら、震えてしまいそうになる。
だが、それは自分が守られる側でいた時の顔。自分と異なる立場にいる彼は殺人人形のような美しい残酷さがあった。
オーナー室は血なまぐさいままだった。最初に足を踏み入れたのは神楽だ。
「これ、ここのオーナーっすよね。アミィ、お前がやったんすか」
「違いまーす」
ふん、と鼻を鳴らして神楽は覚醒すると、本来のオーナーである死体に手を当てた。
「霊闘士は死体から情報とれるスよ。首輪付きが殺人はアウトっすよ」
神楽に深淵の声で呼び出される光景は……
ああ、やはりアミィだ。オーナーはアミィを抱き寄せていた。両腕をしっかり腕の中によせて……そして意識が飛んだ。アミィはただ笑うだけ。魔法を使っている様子もない。
そうだ、アミィに最初に嵌められた時もそうだ。彼女は覚醒者のような自分の力で何かを為さない。だから人形使いなのだ。
真意を確かめようとするよりも早く、シグルドが踏み込んだ。覚醒してまで引きとどめる未悠をそのまま引きずってくるあたり、尋常な力ではない。
「おやまぁ、事件だね」
「あたしじゃありませーん。神楽っちが確認してくれましたー」
「みたいっすー。細かくは犯人の姿は映ってないっすね」
アミィの言葉に、神楽も相槌をうち、「貸しにしとくっす」と目線で合図した。
「アミィではないとすると……犯人は突き止める必要があるね。まあとりあえずイカサマだらけの賭場を開いていたのはクリームヒルトの意志ということでいいかな」
「はーい、いいでーす」
あっさり売りやがったっす。
神楽は笑顔ながら堂々と付き従うアミィの後ろを見つめるしかなかった。
一生かかっても払いきれない借金を背負った男女が退店した後、クリームヒルトはシグルドによって連行された。
扉をくぐったのはでっぷりとした肉の塊を高級な布で丁寧にくるんだような男に対して、二人のバニーが声を揃えた。
「「いらっしゃいませー♪」なの♪」
リリア・ノヴィドール(ka3056)と高瀬 未悠(ka3199)だ。リリアはエルフの繊細な体をピンクのバニー衣装で包み、しなやかな脚を強烈なハイレグで見せつけた格好。未悠はベーシックな燕尾がついたバニー衣装に網タイツと大人の雰囲気を醸し出し対照的であった。
「可愛いバニーじゃないか。新入りか?」
「はい♪ 可愛がってくださいね」
などと言ったせいかもしれないが、男は堂々と未悠を抱き寄せ、なんなら熟れた胸に手をやりながらカジノのイロハと自分がいかに素晴らしいか説きながら歩き始めた。
「なにあれ、さいてー!」
客に紛れてポーカー台で様子を見ていたクリームヒルトがあからさまに顔をしかめ、文句の一つでもつけてこようかと動き出そうとしたものだから、ディーラーに扮したリュー・グランフェスト(ka2419)がすかさずそちらにカードを配ってよこした。
「なによ、こんな時にゲームなん……て」
それはトランプに見せかけた押し花のカードだった。スズランの。
「愚痴は聞いてやるから、とりあえず仲間を信頼しろ」
「そんな場合じゃないでしょ」
クリームヒルトは胸元からカードを取り出してリューに投げ返した。そういう辺りがギャンブルに慣れていないところを感じさせ、リューは言い返そうと思ったが、その言葉はカードを見て止まってしまった。
同じスズランの押し花だった。
「なんだありゃあ」
「それはねー、きっと、あの人貴方に興味があるっていう顔してるからなの」
さすがに視線に気づいたのか鬱陶しそうに見返す男に、すかさずリリアが身体を密着させて高いヒールから更に背伸びしてこっそり話しかける。
「あの人、あれでも借金まみれなの! そろそろお客としてみれない、なの」
リリアの言葉に男はほほうと頷き、視線が固定される。
その瞬間を見計らって未悠は視界の外で壁に鬱憤を晴らし、神楽(ka2032)はリリアにしか見えないようにカンペを提示していた。
「だからパーティーしようって思うのよ」
一人を徹底的に吊るし上げる。全員でむしりとる。パーティーはそんな隠語だと気づくと男の顔はさらに邪悪に染まった。
「取り分はあれだけか?」
賞品がほしいらしい男に対して、そっと戻ってきた未悠は艶然と笑ってリリアと同じように体を密着させ、リリアと反対側からささやく。
「私たちと……最も優秀な方にはあちらもどうぞ」
未悠が言葉で示した先には音羽 美沙樹(ka4757)のベリーダンスショー。普段見せないエトファリカ人特有のきめの細かい肌を薄衣を幾重にも羽織って隠しただけの姿で、下腹部をうねるように回して一心不乱に踊る姿。
「ほしいね」
「ほしいわ」
男とは離れた場所で、淑女もまた同じ言葉を美沙樹に向かって投げかけていた。若く、静かな澄ました立ち居振る舞いは場にそぐわない清楚さであるのに。薄く閉じた瞼の向こうにはどす黒い目をしていた。
「でもお高いのでしょう。わたくし自信がないわ」
「はは、あなたのような美女ならすぐ勝てると思いますけどね。皆が放っておかない」
いつもぼさぼさの髪型の金目(ka6190)は髪をオールバックに決めて、彼女の傍に立った。
「あら、本当?」
「ほら、あそこでお酒を召し上がりながら、回している御仁。彼についていれば大丈夫」
金目に紹介された劉 厳靖(ka4574)はとびきり高級なブランデーのグラスを掲げて挨拶すると同時に、周りから歓声が上がった。山と積まれたチップが彼の元に押し出されたからだ。ルーレットは大当たり。
「なんだ? 情報を売れってのかよ」
「好きでしょう」
「好きだけどさ」
二人そろって意味深な会話を淑女に聞こえるように話すと、彼女はそれを真に受けて微笑んだ。
「あら、信じていいのかしら」
「信じていいっすよ。なんならこいつもつけてやるっす」
二人にはもったいないと神楽が割り込み、淑女にパルムを差し出して、にんまりと笑った。
「ルーレットのディーラーはこいつとオレっす。つまりどこについても結果は保証するっすよ。合図はこいつがしてくれるっす」
そして有無を言わせず淑女の胸元にパルムを押し込んだ。温かく柔らかい感触に小鼻が膨らんだが、きっと淑女は見えていない。
「まあ……お代はきっちりいただくわよ」
「それではまいります」
メアリ・ロイド(ka6633)は男とクリームヒルトを見ながらカードを配った。
さっきから負け続けのクリームヒルトは緊迫した顔で自分の手札しか見ていないが、男の方はこちらの大きく開けた胸元ばかりだ。
……スケベ感情とはわかりやすいものなのでしょうか。確かに好きなものを追う動きは分かりやすい……そして見苦しい。
「お嬢様も負けた手を取り返すことができるかもしれません。レートを上げますか? 今はちょうど10:00。レートの最大値を1000倍にする特別な時間とさせていただきます」
時間など視線上にあるものを見れば一目瞭然だが、わざと腰元付けたペンダントに時計が付いているように動き、無防備に胸元や、網タイツのはいた脚がタイトスカートのスリットから見えるように動くと、男の首はまるで亀のように伸びるのがわかる。
……もしかして私も感情が豊かになったらあんな風になンのかなー。でも好きでたまらない時って無意識でああなるのかな。
メアリが動くたびに視線がぐりぐり動く、頭の悪い男をコントロールしながら自分のことを考えていた。
「ここまで負けたら、確率的に次は絶対いけちゃうなの!」
「うう、でも……負けたらもう払えない」
尻ごむクリームヒルトにリリアはめいっぱい明るい声で応援する。
「幸運の女神が振り向くまで、お手伝いするのもやぶさかではありませんよね」
「そうだな、ここでは敵同士だが、外を出れば同じ帝国民として助けてやろうじゃないか」
未悠にのせられる形で男もうなずく。それはクリームヒルトを手籠めにする第一歩であるのは間違い。心の中では一歩外に出たら即縛り上げてあげるわ。という言葉をのみ込んだ甲斐はあった。
「わ、わ、わかりました……では最終勝負で」
「姫様、がんばってくださいませ」
借入で得た大量のコインを運ぶ美沙樹がクリームヒルトの頬にキスをしてコインを渡した。
その横では未悠がポーカー台にしなだれかかり、男とクリームヒルトの間を阻んで声をかける。
「賭けちゃう? 人生の一生分。私とリリアと、隣の女と賞品の東洋人。全部ほしいんでしょう。四人の一生分、賭けてくれるのよね」
「む……」
さすがに一瞬男に冷静さが戻った。
リリアと未悠がずっと色仕掛けをしていたとしてもさすがに不味いと思ったのだろうか。
「げんせーさーん。ちょっと奇跡、奇跡の起こし方教えてあげてなの。この人、今大勝ち中で、もしかしたら4人の人生変えてくれるかもなの」
「へぇ、なんだこのカジノの歴史を塗り替える大勝ち具合じゃないか」
厳靖はグラスをもって移動してくると、すぐにバーボンが美沙樹から注がれる。それは特別な人間を装わせるに十分な動きであった。
「情報屋か……」
「ま、そんなとこだ。例えば……ほら、向こうのポーカー台。右から順番に、ワンペア、ワンペア、フラッシュ、役なし、スリーカード。親が様子見。3人が降りたらスリーカード。乗ってきたらフラッシュに変えるぜ」
ディーラーをしているリューの卓を指さしながら話す厳靖の言葉はすぐにその通りとなった。
「な。まあだいたい見りゃわかる。酒一杯奢ってくれりゃ一回だけサービスしてやるよ」
「ふ、ふふふ。よし乗ろう」
「よしわかった。おーい、アシエンダ・ラ・カピリャくれ……なんだ大したことない味だな。まあいいや」
ダイヤモンドのついたテキーラボトルを口飲みしながら、厳靖は男の横に座る。
「それでは参ります」
「お嬢ちゃんはストレートかな。親は交換してフラッシュだ。巻き上げにきてんねぇ。あんたはストレートフラッシュが狙える。4枚交換だ」
「4枚……交換だ!」
「よろしいのですか?」
メアリが微笑みを崩さず尋ね返す。だが耳から垂れ落ちる髪を気にして眼鏡に引っ掛け直すのが特徴的だった。
「焦ってんぜ。カードの配置が全部ずれるからな。親に来るべきカードがあんたんとこに来る」
その言葉に男は乗って、チェンジを申請すると、メアリは黙ったままカードを投げてよこした。ストレートフラッシュだ。
軽くため息をつくメアリはカードに目ぎらつかせる男の下で服の袖を軽く振り、手元のカードを台の下、自分の足元に滑り落とす。
「では、明かします。旦那様、ストレートフラッシュ」
「はははははっ!!」
「親の私はフォーカード」
「お嬢様、ロイヤルストレートフラッシュです。レートは1000倍。ロイヤルストレートフラッシュは×500、フォーカードは×400です。あらお客様、借入限度額となったようですね。大変残念ですがゲームセットです」
意地の悪い愉悦が体を駆け巡る時、嘲笑うことが的確ということをメアリは理解した。
●黒い裏側
「な、なによ、これ……」
厳靖がリリアに呼ばれて席を立ったのは別に仕事放棄ではない。すでに仕事が終わっていたからだ。
淑女は真っ青になってルーレット台に突っ伏していた。
「どうするなの?」
リリアの問いかけに鬼気迫る顔の女はすぐさま顔を上げて、その喉を締め上げる勢いで向かい合った。
「もう一勝負いくわ。こんなので下がってられないわ」
「まあいいですが……帰れなくなりますよ」
薄暗い箱の中で生きることになっても?
金目は睨む女の顔を笑顔で受けたが、内心は憐れに思う気持ちでいっぱいだった。自分のような経験はしたことがないに違いないし、自分はそんな物とは無縁であると語っているようなものだ。
「早く振りなさい。赤よ」
「仕方ないなぁ。じゃあ、僕も赤で賭けてあげよう」
いよいよタマを振る段になって、金目の言葉を代弁するようにして、女の隣に見覚えのある優男が座り、コインを一枚投げてよこした。
「シグルド!!!?」
バニーの未悠が悲鳴を上げて、先程までのミステリアスな仮面が軒並み引っぺがされる。
それが災いしたか、金目の背筋が何かしら寒くなった瞬間、タマが手元からこぼれた。
「ハンターっていうのは、本当になんでもするねぇ」
「何の用だよ」
フォローするようにリューがシグルドに問いかけるが、彼は何も答えなかった。
タマはリリースを外し、正直、どこに行くかわからない。胸が潰れそうになりながら金目は手元を見た。ディーラー側にはタマが特定のポケットに入らないように仕掛けがある。
動かすか。動かさないか。女はこの賭けでもう降りてもらうしかないが……。
旅空の下、突如、下駄の鼻緒が切れたエアルドフリスは首を傾げた。
「縁起悪いねぇ。誰かに悪いことが起こらなきゃいいんだが」
イカサマのボタンから手を離し、金目は成り行きを見守った。危険な感じが何かを呼び止められた気になったからだ。
天に任せたタマは……黒。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! イカサマよ、こんなのイカサマだわっ」
今まで一度もイカサマされていることに気づいていないのに、こんな時だけそう叫ぶ女はなんとも滑稽だった。それでいてまだ気づかない女は錯乱して金目に飛びかかろうとする。
「お客様。それは運がなかっただけなの。見苦しいの」
自分の胸のふくらみを僅かに隠すバニースーツの胸元からチャクラムを取り出すと、リリアは女を後ろから締め上げ、刃を喉元に突きつける。
「鬼畜どもがっ、地獄に落ちろっ!」
「おいおい、それ、自分が言われたことじゃねぇのか。花を買いに行くとき聞いたぜ……」
狂乱して口汚くののしる女をリューが押さえつけて諭す中、シグルドは賭けたコインを一枚金目に投げてよこして笑った。
「いやぁ、イカサマの現場を捕まえずにすんだよ。今日は仕事でね」
「!」
まずい。
シグルドはそのまま金目の肩を叩いて、そのままオーナー室へと歩いていく。
「待って、シグルド!! こ、今度は驚いて止まっちゃうことしちゃうから、ねぇ、聞いてってば」
未悠が慌てて立ちはだかると、シグルドは一瞬だけ足を止めてリューに振り返った。
「そんなに怖い事をするつもりはないさ、高瀬君。今日はオーナーに通達しにきただけだよ。後でゆっくり話は聞いてあげるから大人しくしてくれないかな」
憧れた彼の笑顔はいつも綺麗だ。未悠は真っ赤に濡れた唇に手をやりながら、震えてしまいそうになる。
だが、それは自分が守られる側でいた時の顔。自分と異なる立場にいる彼は殺人人形のような美しい残酷さがあった。
オーナー室は血なまぐさいままだった。最初に足を踏み入れたのは神楽だ。
「これ、ここのオーナーっすよね。アミィ、お前がやったんすか」
「違いまーす」
ふん、と鼻を鳴らして神楽は覚醒すると、本来のオーナーである死体に手を当てた。
「霊闘士は死体から情報とれるスよ。首輪付きが殺人はアウトっすよ」
神楽に深淵の声で呼び出される光景は……
ああ、やはりアミィだ。オーナーはアミィを抱き寄せていた。両腕をしっかり腕の中によせて……そして意識が飛んだ。アミィはただ笑うだけ。魔法を使っている様子もない。
そうだ、アミィに最初に嵌められた時もそうだ。彼女は覚醒者のような自分の力で何かを為さない。だから人形使いなのだ。
真意を確かめようとするよりも早く、シグルドが踏み込んだ。覚醒してまで引きとどめる未悠をそのまま引きずってくるあたり、尋常な力ではない。
「おやまぁ、事件だね」
「あたしじゃありませーん。神楽っちが確認してくれましたー」
「みたいっすー。細かくは犯人の姿は映ってないっすね」
アミィの言葉に、神楽も相槌をうち、「貸しにしとくっす」と目線で合図した。
「アミィではないとすると……犯人は突き止める必要があるね。まあとりあえずイカサマだらけの賭場を開いていたのはクリームヒルトの意志ということでいいかな」
「はーい、いいでーす」
あっさり売りやがったっす。
神楽は笑顔ながら堂々と付き従うアミィの後ろを見つめるしかなかった。
一生かかっても払いきれない借金を背負った男女が退店した後、クリームヒルトはシグルドによって連行された。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
イカサマカジノ質問所 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/05/06 10:43:56 |
|
![]() |
【相談卓】ディーラー控室 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/05/07 21:52:19 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/03 00:17:17 |