ゲスト
(ka0000)
思い込みの激しいホラ吹き少年
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/14 12:00
- 完成日
- 2018/05/15 11:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●襲撃
それは突然、夜明け前に始まった。
異常を知らせる村の鐘が盛んに鳴らされる音でアルステフが目覚めて家を飛び出した時には、既に彼が生まれた村は炎に包まれていた。
見慣れた風景は見る影も無く、いつも歩く道には見知った人間が倒れている。
「大丈夫ですか!?」
近所に住んでいた村人の顔をその中に見つけて駆け寄ったアルステフは、既にその村人が絶命していることを知った。
「何が……あったんだ……」
死体を前に放心するアルステフの元へ、両親が慌てた様子で走ってくる。
「アルステフ!」
「外は危険よ、早くこっちへ!」
両親たちはアルステフを地下の食料庫に避難させると、再び外に出て行こうとする。
「父さんと母さんは村を守らねばならん。村長がハンターズソサエティに使いを送った。お前は事が収まるまで隠れていろ!」
「ぼくだってもう十六だ! 守られるだけの子どもじゃない! それにこういう時こそ、騎士は人のために戦うものだろ!」
「まだそんなホラ話を信じてるのか! ええい、時間がない、とにかくじっとしているんだぞ!」
結局アルステフは食料庫に押し込められ、両親を止めることができなかった。
外からは、争う物音や誰かの悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる。
まるでその悲鳴が両親のもののように聞こえるのが恐ろしくて、それらがぴたりと止み、静寂が戻ってきても、アルステフは動けなかった。
あんなに威勢の良い事をいったのに、アルステフは恐怖を克服して食料庫を飛び出すということが、どうしてもできなかった。
狭い食料庫に潜むアルステフの耳には、もう異常な物音は何も聞こえない。
しばらくしてようやく決心がついたアルステフは食料庫を出た。
家の一階は荒れ果てている。
誰かが大立ち回りをしたのか、家族皆で使っていたテーブルが真っ二つに割れ、椅子もばらばらになってただの木屑と化していた。
荒れ果てた室内には、アルステフを守ろうと抵抗した両親の死体。その側に、見慣れぬ剣が突き刺さっていた。
●少年の夢
いくつも並んだ墓標を前に、アルステフは佇んでいた。
全て、アルステフが埋葬した。
ハンターは間に合わなかった。
村の生き残りはアルステフだけ。惨劇を知る者はまだ、アルステフの他に誰もいないのかもしれない。
独りであることを自覚する。
アルステフには夢があった。
没落した家を再興し、再び騎士となることだ。
「ぼくは、騎士になる」
墓前でまるで自らに誓うかのように、アルステフは呟いた。
「誰が見ても恥ずかしくないような、立派な騎士になってやる。そして、村を滅ぼした犯人を見つけ出す。絶対に」
当然、アルステフの決意に意味はない。
祖父も父もアルステフも、生まれた頃から平民だった。
騎士の家系だったのは、家系図を遡っても分からないくらい、遠い昔だと聞いている。
そもそもアルステフが聞いたのも口伝で、うちのご先祖様は騎士だったかもしれないと語り継ぐだけの、証拠も何もない与太話。
──騎士になるなんて、できるはずがない。いつまで夢を見てるんだ。自分の身の程を弁えろ。
かつて父親にそう諭されたことがった。
「違う」
──平民も悪いもんじゃないぞ。
幼い頃、存命だった祖父にそう頭を撫でられたことがあった。
「知ってるさ」
──平凡に生きなさい。夢ばかり見たって、いいことはないわ。
「……それで、ぼくは結局誰も守れなかったじゃないか」
ぽたりと、地面に雫が落ちる。
たちまち雫は増えていった。
腰に佩くのは、両親を殺めた、顔も分からぬ輩が置いていった敵の剣。
仇の剣に命を預け、張りぼての自称少年騎士は往く。
●思い込みの果てに
過去を語った少年は、村が滅ぼされたにも関わらず、何故か自慢げな表情だった。
「というわけなんです」
少年は丸々と太っていて、とてもではないが凄惨な過去があった直後とは思えない、のほほんとした顔立ちをしている。
というか、あなたたちはその滅んだ村で死んだはずの彼の両親の依頼で、ハンターズソサエティからやってきたのだ。
実際、村を訪れた際に対面して頼まれている。ホラ吹き癖があって思い込みの強い息子が一人で村を出て、森に出かけてしまった。どうか危険な目に遭う前に連れ戻して欲しい、と。
いたって平和なとても長閑な村だった。
一体どういうことなのか。
案の定少年はゴブリンの群れに襲われており、助けがなければ死んでいただろう。
まさに間一髪だった。
「ぼくは騎士になりたいんです。あなたたちってハンターですよね。ぼくと戦って下さい」
あなたたちは断った。
手合わせなどせずとも、勝敗は分かりきっている。あなたたちはハンターで、彼は一般人だ。両者の差は埋め難い差となって隔絶しているのだから。
「特に何かを指導する必要はありません。ぼくは天才なんです。報酬はこれくらいでどうでしょう」
懐からアルステフが取り出したのは、いくばくかの貨幣。世界中に流通しているのと同じ、ごく一般的な通貨だ。
少ない額とはいえ、特に準備をすることなくこの場で行う依頼としては、妥当な値段ではあった。
彼を連れ戻さなければならないのだが、どうもこのままでは梃子でも動かなさそうな様子だ。
無理やり連れ戻すべきだろうか。いや、へそを曲げられるのも面倒くさい。
それに、依頼二つ分の報酬を一度に受け取れると考えれば、決して悪い依頼でもない。
場所はどこにするか相談を始めるあなたたちに、アルステフはここで今すぐ始めたいと述べた。
今あなたたちがいる場所は、深い森の中。
どうしてこんな場所に来たのかとあなたたちが問うと、彼はふんぞり返った。
「天才ですから。自分を追い込めば追い込むほど早く、強くなれるんです」
当然、そんな事実はない。
幸い、一箇所だけ木々が開けた場所があった。
日が当たる分下草が生い茂っていたが、手早く刈ってみるとちょうどいい天然の闘技場になる。
大体広さは二十メートルほどの円形で、一般人であるアルステフが戦うには十分な広さだ。
誰からアルステフと戦うか決める段になって、アルステフが不思議そうな顔をする。
「一度に全員と戦うのでは駄目なのですか?」
思わずあなたたちは苦笑いした。さすがにハンターを舐めすぎだ。
順番を決めて、あなたたちのうち最初の一人がアルステフと相対する。
「ぼくの本気を見せてあげます。あなたも本気で戦って下さい。手加減なんてしたら承知しませんよ」
腰の剣を引き抜き、アルステフが構える。
当然仇の剣などではない、ただの剣である。
木々と動物たちを観客に、あなたたちの奇妙な戦いが始まった。
それは突然、夜明け前に始まった。
異常を知らせる村の鐘が盛んに鳴らされる音でアルステフが目覚めて家を飛び出した時には、既に彼が生まれた村は炎に包まれていた。
見慣れた風景は見る影も無く、いつも歩く道には見知った人間が倒れている。
「大丈夫ですか!?」
近所に住んでいた村人の顔をその中に見つけて駆け寄ったアルステフは、既にその村人が絶命していることを知った。
「何が……あったんだ……」
死体を前に放心するアルステフの元へ、両親が慌てた様子で走ってくる。
「アルステフ!」
「外は危険よ、早くこっちへ!」
両親たちはアルステフを地下の食料庫に避難させると、再び外に出て行こうとする。
「父さんと母さんは村を守らねばならん。村長がハンターズソサエティに使いを送った。お前は事が収まるまで隠れていろ!」
「ぼくだってもう十六だ! 守られるだけの子どもじゃない! それにこういう時こそ、騎士は人のために戦うものだろ!」
「まだそんなホラ話を信じてるのか! ええい、時間がない、とにかくじっとしているんだぞ!」
結局アルステフは食料庫に押し込められ、両親を止めることができなかった。
外からは、争う物音や誰かの悲鳴がひっきりなしに聞こえてくる。
まるでその悲鳴が両親のもののように聞こえるのが恐ろしくて、それらがぴたりと止み、静寂が戻ってきても、アルステフは動けなかった。
あんなに威勢の良い事をいったのに、アルステフは恐怖を克服して食料庫を飛び出すということが、どうしてもできなかった。
狭い食料庫に潜むアルステフの耳には、もう異常な物音は何も聞こえない。
しばらくしてようやく決心がついたアルステフは食料庫を出た。
家の一階は荒れ果てている。
誰かが大立ち回りをしたのか、家族皆で使っていたテーブルが真っ二つに割れ、椅子もばらばらになってただの木屑と化していた。
荒れ果てた室内には、アルステフを守ろうと抵抗した両親の死体。その側に、見慣れぬ剣が突き刺さっていた。
●少年の夢
いくつも並んだ墓標を前に、アルステフは佇んでいた。
全て、アルステフが埋葬した。
ハンターは間に合わなかった。
村の生き残りはアルステフだけ。惨劇を知る者はまだ、アルステフの他に誰もいないのかもしれない。
独りであることを自覚する。
アルステフには夢があった。
没落した家を再興し、再び騎士となることだ。
「ぼくは、騎士になる」
墓前でまるで自らに誓うかのように、アルステフは呟いた。
「誰が見ても恥ずかしくないような、立派な騎士になってやる。そして、村を滅ぼした犯人を見つけ出す。絶対に」
当然、アルステフの決意に意味はない。
祖父も父もアルステフも、生まれた頃から平民だった。
騎士の家系だったのは、家系図を遡っても分からないくらい、遠い昔だと聞いている。
そもそもアルステフが聞いたのも口伝で、うちのご先祖様は騎士だったかもしれないと語り継ぐだけの、証拠も何もない与太話。
──騎士になるなんて、できるはずがない。いつまで夢を見てるんだ。自分の身の程を弁えろ。
かつて父親にそう諭されたことがった。
「違う」
──平民も悪いもんじゃないぞ。
幼い頃、存命だった祖父にそう頭を撫でられたことがあった。
「知ってるさ」
──平凡に生きなさい。夢ばかり見たって、いいことはないわ。
「……それで、ぼくは結局誰も守れなかったじゃないか」
ぽたりと、地面に雫が落ちる。
たちまち雫は増えていった。
腰に佩くのは、両親を殺めた、顔も分からぬ輩が置いていった敵の剣。
仇の剣に命を預け、張りぼての自称少年騎士は往く。
●思い込みの果てに
過去を語った少年は、村が滅ぼされたにも関わらず、何故か自慢げな表情だった。
「というわけなんです」
少年は丸々と太っていて、とてもではないが凄惨な過去があった直後とは思えない、のほほんとした顔立ちをしている。
というか、あなたたちはその滅んだ村で死んだはずの彼の両親の依頼で、ハンターズソサエティからやってきたのだ。
実際、村を訪れた際に対面して頼まれている。ホラ吹き癖があって思い込みの強い息子が一人で村を出て、森に出かけてしまった。どうか危険な目に遭う前に連れ戻して欲しい、と。
いたって平和なとても長閑な村だった。
一体どういうことなのか。
案の定少年はゴブリンの群れに襲われており、助けがなければ死んでいただろう。
まさに間一髪だった。
「ぼくは騎士になりたいんです。あなたたちってハンターですよね。ぼくと戦って下さい」
あなたたちは断った。
手合わせなどせずとも、勝敗は分かりきっている。あなたたちはハンターで、彼は一般人だ。両者の差は埋め難い差となって隔絶しているのだから。
「特に何かを指導する必要はありません。ぼくは天才なんです。報酬はこれくらいでどうでしょう」
懐からアルステフが取り出したのは、いくばくかの貨幣。世界中に流通しているのと同じ、ごく一般的な通貨だ。
少ない額とはいえ、特に準備をすることなくこの場で行う依頼としては、妥当な値段ではあった。
彼を連れ戻さなければならないのだが、どうもこのままでは梃子でも動かなさそうな様子だ。
無理やり連れ戻すべきだろうか。いや、へそを曲げられるのも面倒くさい。
それに、依頼二つ分の報酬を一度に受け取れると考えれば、決して悪い依頼でもない。
場所はどこにするか相談を始めるあなたたちに、アルステフはここで今すぐ始めたいと述べた。
今あなたたちがいる場所は、深い森の中。
どうしてこんな場所に来たのかとあなたたちが問うと、彼はふんぞり返った。
「天才ですから。自分を追い込めば追い込むほど早く、強くなれるんです」
当然、そんな事実はない。
幸い、一箇所だけ木々が開けた場所があった。
日が当たる分下草が生い茂っていたが、手早く刈ってみるとちょうどいい天然の闘技場になる。
大体広さは二十メートルほどの円形で、一般人であるアルステフが戦うには十分な広さだ。
誰からアルステフと戦うか決める段になって、アルステフが不思議そうな顔をする。
「一度に全員と戦うのでは駄目なのですか?」
思わずあなたたちは苦笑いした。さすがにハンターを舐めすぎだ。
順番を決めて、あなたたちのうち最初の一人がアルステフと相対する。
「ぼくの本気を見せてあげます。あなたも本気で戦って下さい。手加減なんてしたら承知しませんよ」
腰の剣を引き抜き、アルステフが構える。
当然仇の剣などではない、ただの剣である。
木々と動物たちを観客に、あなたたちの奇妙な戦いが始まった。
リプレイ本文
●フェリアvsアルステフ
「では、私からね。よろしくお願いします。フェリアと申します。魔術師です」
フェリア(ka2870)が自らのクラスを告げたのは彼女自身の礼儀と、客観的に見ての彼我実力差判断からだ。
「先手は譲って差し上げましょう。どうぞ打ち込んできてください」
「余裕ですね。では、その余裕を打ち砕いてあげます!」
繰り出された平凡な一撃を、フェリアは盾剣を使うまでもなく一歩退いて回避した。
その直後にアルステフに対して即死級の一撃を打ち込める隙を見つけつつも、それを行ってしまっては元も子もないのであえて見逃す。
「危ないところでした。何て鋭い一撃なのでしょう」
平坦に紡がれた台詞はどこか棒読みだったが、フェリア自身が普段から積極的に感情を表に出す方ではないので、違いに気付いたのは親しい仲間たちくらいだろう。
少なくとも、アルステフは気付いていない。
なおも斬りかかってくるアルステフを観察し、フェリアは今度は避けずに盾剣で受ける。
やろうと思えば全て回避しきることも可能だが、少しは戦いらしい戦いにした方が嬉しかろうというフェリアの気遣いだった。
「では反撃ですね」
冷静な表情のまま、フェリアは炎の矢を放つ。
放たれた炎の矢は狙い通りに命中した。
際どくアルステフを掠め、その足元に。
「あら。上手く避けましたね」
無論わざとだ。露骨に外しては怪しまれるので、決して当たらないように注意しながら、脅しも兼ねてぎりぎりを見極めている。
「まさかハンターに挑んでおいて剣だけの戦いだと思っていた、なんて甘い事を口にはしませんよね?」
トドメににこりと微笑んでやると、アルステフは顔を青くする。
「こ、これくらいにしておいてあげましょう!」
アルステフは戦略的撤退に出た。
●多由羅vsアルステフ
(ほほう……天才少年ハンター……面白い。腕が鳴ります……いいでしょう……命を賭けましょう……!)
依頼の趣旨を理解していない多由羅(ka6167)は、全力で戦う気満々だった。
順番も二番目という好条件を獲得し、早くも多由羅の戦意は高まっている。ついでに殺気も溢れている。
(先鋒はフェリア様ですか)
戦いが始まり、隠れもせずに堂々と観戦した多由羅は、怪訝そうに眉をひそめた。
(む……? どうしたことです? 威勢の割には彼の動きはまるで素人。だがそんな彼にフェリア様は互角の戦いをしている……?)
一見すると良い戦いをしているように見えるが、節穴のアルステフの目は誤魔化せても根っからの戦闘狂である多由羅の目は決して誤魔化せない。
その時多由羅は雷鳴が迸るがごとく閃いた。
(ま、まさか、彼の能力は相手の身体能力やスキルを封じ込め低下させるというのですか……!? なるほど……これは強敵……戦い甲斐があります……)
うっとりとした表情で自分の番になった際に起きるであろう死闘を想像し、多由羅は悦に浸った。
かなり危ない表情を浮かべているが、ある意味平常運転である。
自分の番になり愛刀祢々切丸を抜き放ち前に出たところで、心配そうな表情のセレスティア(ka2691)に制止される。
「依頼の趣旨? わかっておりますとも。彼を依頼人の下に返す事でしょう? 力づくで!!」
自信満々に答えた多由羅だったが、返ってきたのは返事ではなく、セレスティアの青褪めた表情だった。
そして鳩尾に強烈な衝撃を感じると共に多由羅の意識は暗転し、気付けば何故か申し訳なさそうな表情のセレスティアに膝枕されている。
「はっ!? ……ここは……意識がない……そうか……私は敗れたのですね……。まだまだ未熟……彼の名は忘れません。そうだ、再戦の約束を……セ、セティ? 何故止めるのです?」
結局アルステフの実力を誤解したまま、多由羅の戦いは始まる前に終わった。
●セレスティアvsアルステフ
念のため、武器を抜いた多由羅にセレスティアは尋ねた。
「あの……多由羅? 依頼の趣旨は理解してますか?」
多由羅の返事を聞いて、セレスティアは唖然とした。
「ぜんっぜんっ、理解してないじゃないですか! 殺すつもりですか!」
叫ぶと同時に、セレスティアは多由羅の鳩尾にボディーブローをねじ込み、気絶させる。
呆気に取られた表情のアルステフに、セレスティアはにっこりと微笑む。
「えっと……彼女は危険だからいなかった、って事じゃダメですか? 代わりに私がお相手しますので」
反対しなかったアルステフだったが、しかし戦う前になって、セレスティアは気付いた。
フェリアとの戦いで、既にアルステフは負傷していた。
手加減してなお、アルステフにとっては危険な戦いだったのである。
それだけ実力差がある証でもあった。
治療したいが、さすがにこの状況でするのはアルステフとて気付くだろうし、そもそも今から森の中に身を隠すのでは怪しすぎる。
(……仕方ありません)
セレスティアは即座に決断し星剣の柄でアルステフの顎をはね上げる。
脳を揺らされ、白目をむいて倒れたアルステフだったが、死んではいない。セレスティアの活人の技が、アルステフを生かしたまま気絶させたのだ。
そして治療し、アルステフが目を覚ましたところで仕切り直す。
「大丈夫? 痛いところはありませんか?」
女神のように慈しむ表情を浮かべているが、行っているのはどう見てもマッチポンプである。
自分でも展開に無理があることを悟っているセレスティアは、勢いに任せることにして、有無をいわさず盾で殴ってアルステフを前後不覚にさせ、剣の刃を立てないようにして再びアルステフを殴り倒す。
気絶したアルステフを膝枕し、セレスティアは再び治療を始めた。
目覚めて不思議そうな表情を浮かべるアルステフは記憶が飛んでいるようで、それを確認したセレスティアが微笑む。
「きっと、前の戦いで疲れていたんですよ」
記憶が曖昧なのをいいことに、セレスティアは己の所業を全力でしらばっくれた。
●レイアvsアルステフ
ばれないように治療が行われている間、レイア・アローネ(ka4082)は不機嫌そうな様子を隠さなかった。
そしてそれは、自らがアルステフと戦う番になっても変わらない。
(この少年を親元へ返す、それが依頼だった筈。この幸せいっぱいなふくよかな容姿でナニを言っておるのだこやつは……?)
基本生真面目な性格のレイアにとって、アルステフの世の中を舐めきった態度は怒りを抱かせるのに十分だったようだ。
そしてアルステフの言動がさらに火に油を注ぐ。
「ふふふ、一戦目は際どいところでしたが攻撃を全て回避した僕の勝利。二戦目は不戦勝、三戦目は何故かあまり覚えていませんが、あんな優しいお方が僕より強いわけないのでやっぱり僕の勝利でしょう」
「フェリア……こやつ斬っていいか?」
額に青筋を浮かべたレイアは静かにフェリアに許可を求めた。
どうやらまだ辛うじて自制しているようだ。
「さあ、この調子で貴女も僕が倒して差し上げますよ」
「もういいよな? こいつ斬ろう! 手足斬って親元へ返せば二度と家出もせずに済むだろう!?」
フェリアに嘆願するも、対するフェリアからは落ち着くようにとジェスチャーが送られ、何やら紙に何かを書いてアルステフには見えないようにレイアに見せてくる。
『素人ですからね? 後遺症が残るような大怪我させちゃ駄目ですよ?』
「……仕方ない」
親友であるフェリアに免じ、怒りを静めて協力することにしたレイアだが、剣による衝撃破を紙一重で当たらないように放つなど接戦を演出するレイアに対し、空気を読まないアルステフがまたしてもレイアの神経を逆撫でした。
「ふっ。この程度ですか?」
「殺す」
『ステイステイ!』
掲げるフェリアの紙はもはやレイアのためのカンニングペーパーと化している。
演劇ができるほどレイアは芸達者なわけでもないので、武器を振り回す姿は様になっていても台詞回しは大根役者で、剣筋にはちょっぴり本気の殺意が滲んでいたりもしたが、かえってその殺意のおかげでアルステフは気付かなかったようだ。
「……私の一撃を食らって耐えるとは……正直予想外だったぞ……」
「ふっ。貴女も中々の強敵でした」
勝負が着いた頃には、まるで芝居を共にしたかのような、不思議な連帯感が生まれていたとかいなかったとか。
●南護 炎vsアルステフ
アルステフの治療が行われ、南護 炎(ka6651)が戦う番になった。
炎の目的は達人同士の戦いを演出し、なおかつそれに勝利することだ。
「俺は南護 炎。リアルブルー生まれで、舞刀士だ。達人よ。いざ尋常に勝負を申し込む」
「クリムゾンウエスト生まれのアルステフ。ふっ。受けましょう」
名乗りを上げるのはハンデなどではなく、それが決闘の作法だからだ。お互いが名乗りを上げたうえでの一騎討ち。ロマンである。
(ハンターの現実を教えてやろうか。それで心が折れなければ、剣術くらい教えてやってもいいが)
真剣な表情を保ちつつも、炎は内心こんなことを考えている。
大した役者っぷりである。
両者の間で空気が張り詰めていて、とてもそれらしい。
「達人同士の勝負は一瞬でつく……。分かっているな? 達人相手ならば俺も手加減できない……。『制御不能の一撃』、受けてもらうぞ!!」
精神統一後に雄々しく叫び、炎は鋭く踏み込む。
迫真の演技だった。
「俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
手首の捻りを利用して振るわれた二連撃がアルステフに襲い掛かる。
当然だが、アルステフは全く反応できない。
活人の技によって致命ダメージこそ回避したものの、アルステフはぶっ倒れた。
それきり反応がない。
「しまったやり過ぎたか!? 治療を頼む!」
気絶したアルステフの治療が行われ、テイクツーの準備が始まった。
復活した当のアルステフは何が何やら分からない様子だったが、何事もなかったかのように振る舞うハンターたちを見て、気にしないことにしたらしい。
ふっと気障ったらしく笑うと、再び剣を構えた。演技が似合っていなかった。
そして始まるテイクツー。
今度はアルステフが捌ききれない炎の攻撃をきっちりこっそり木々の陰から仲間が魔法で障壁を張って防ぎ、激しい斬り合いが行われる。
決着は苛烈さを増した炎の一撃が仲間の防御を抜けたことによってついた。
「さすがだな、アルステフ。紙一重の勝負だった。俺の踏み込みが後一瞬でも遅れていたら倒れていたのは俺のほうだった……。あと二年いや、一年後には間違いなく追い越されているだろう……」
「すぐに追い越してあげますよ!」
アルステフは己の敗北という結果に大いに口惜しがった。
●ユウvsアルステフ
治療タイムが終わるまでの間、ユウ(ka6891)は思案に耽っていた。
(無事に見つけられてよかったけど、何だかおかしな事態になっちゃった。心配するご両親の為にも早く連れて帰りたいけど、騎士になりたいアルステフさんの想いの手伝いもしてあげたいな)
いざアルステフと相対すると、おもむろにユウは跪き、龍園の故郷に伝わる決闘前の祈りを行う。
「真剣勝負である以上、何が起こるか判りません。その為にも祈ることを許して下さい」
「……いいでしょう」
厳かな雰囲気が伝わってか、アルステフの態度もどこか大人しい。
「よろしくお願いします。ユウといいます。龍園出身のハンターです」
軽く自己紹介しつつ、油断なくユウは身構える。
そして仕掛けた。
行うのは機動力を生かした高速戦闘だ。
もちろん、ユウとて自分の動きにアルステフがついてこれるとは思っていない。
だが、ハンターとしての自分の実力を見せることで、何かアルステフの役に立てるならばという思いだった。
「はっ、速い!?」
残像すら纏って移動するユウの動きに、アルステフはついていけていない。
完全に見当違いの方向を向いている。
「こっちです!」
わざと声をかけることで自らの位置を知らせ、ユウは振り向いたアルステフに向けて俊敏な豹のごとく襲い掛かる。
回避を試みるならば紙一重で浅く切り込む位置を狙い、剣で受けようとするなら腕に、正確にいえば握られている剣に変更する。
武器破壊、あるいは武器を落とすのを狙っているのだ。
「く、くそ!」
アルステフが反応した時には、彼が握っていた剣は宙を舞っていた。
素早く距離を取ったユウは、今度は真正面から物凄い速度で走り込んでアルステフの喉元に剣を突きつけた。
「……私の勝ちですね」
歯軋りして口惜しがるアルステフに、ユウは微笑みかけた。
「騎士になれるといいですね。応援してます」
ハッとした表情になったアルステフに背を向け、ユウは意気揚々と仲間たちの下へと凱旋した。
●ミリアvsアルステフ
最後に相手をするミリア・ラスティソード(ka1287)はこっそり治療されるアルステフのことを生暖かい眼差しで見つめていた。
「いやー可愛い奴だよなうん。だけどあのノリで外に出てくと死んじゃうしな……」
いざ前に出てきたアルステフは表情が変わっていた。
どうやら、先に六人と戦って心境に変化があったらしい。
(怖がらせるしかないと思ってたけど、これは中々……)
ひっそりと、ミリアは予定していた作戦を少し修正する。
「もしかして、僕は弱いですか?」
「そうだね。お世辞にも強いとはいえないかな。口惜しいかい? なら、その気持ちを忘れないことだ。……手加減はするけど、容赦はしない。ボクのことはゴリラか何かだと思え」
「素手で、ですか。僕なんてそれで十分だと」
「違うね。お互いの実力を知るのにボクにはコレが一番なんだよ。構えな。両肩を地面に仰向けで抑えこんで三つ数えたらボクの勝ち。一撃でも入れられたらキミの勝ちだ」
歯を噛み締めて、アルステフが斬りかかってくるのを、ミリアは素手で弾いた。
普通なら怪我をするようなことでも、ハンターであるミリアならば何の問題もない。
あえて回避せずに全て受け止め、その性能差を意識させる。
「どうした、その程度かい? 根性見せてみなよ!」
打撃をわざとかすらせ恐怖を煽りながら、言葉でもミリアはアルステフを煽る。
一回の攻撃につき、一回の反撃を。
投げ技や締め技も交えつつ、ミリアは剣で戦うアルステフに対し、素手で手玉に取っていく。
一見すると異様な光景だが、ハンターと一般人という関係で見れば当たり前の光景だった。
それでも、アルステフは諦めずに喰らいついていく。
しかし最後には地面に転がされ馬乗りになったミリアに両肩を押さえられ、ゆっくり三カウントが経過した。
「残念キミはクマに食べられてしまった、外に出るにはまだ早そうだぞ?」
唇を引き結んだアルステフは、続いて告げられた台詞に顔を上げる。
「……頑張れよ、男の子」
おどけて軽く噛み付く仕草をしたミリアが笑った。
「では、私からね。よろしくお願いします。フェリアと申します。魔術師です」
フェリア(ka2870)が自らのクラスを告げたのは彼女自身の礼儀と、客観的に見ての彼我実力差判断からだ。
「先手は譲って差し上げましょう。どうぞ打ち込んできてください」
「余裕ですね。では、その余裕を打ち砕いてあげます!」
繰り出された平凡な一撃を、フェリアは盾剣を使うまでもなく一歩退いて回避した。
その直後にアルステフに対して即死級の一撃を打ち込める隙を見つけつつも、それを行ってしまっては元も子もないのであえて見逃す。
「危ないところでした。何て鋭い一撃なのでしょう」
平坦に紡がれた台詞はどこか棒読みだったが、フェリア自身が普段から積極的に感情を表に出す方ではないので、違いに気付いたのは親しい仲間たちくらいだろう。
少なくとも、アルステフは気付いていない。
なおも斬りかかってくるアルステフを観察し、フェリアは今度は避けずに盾剣で受ける。
やろうと思えば全て回避しきることも可能だが、少しは戦いらしい戦いにした方が嬉しかろうというフェリアの気遣いだった。
「では反撃ですね」
冷静な表情のまま、フェリアは炎の矢を放つ。
放たれた炎の矢は狙い通りに命中した。
際どくアルステフを掠め、その足元に。
「あら。上手く避けましたね」
無論わざとだ。露骨に外しては怪しまれるので、決して当たらないように注意しながら、脅しも兼ねてぎりぎりを見極めている。
「まさかハンターに挑んでおいて剣だけの戦いだと思っていた、なんて甘い事を口にはしませんよね?」
トドメににこりと微笑んでやると、アルステフは顔を青くする。
「こ、これくらいにしておいてあげましょう!」
アルステフは戦略的撤退に出た。
●多由羅vsアルステフ
(ほほう……天才少年ハンター……面白い。腕が鳴ります……いいでしょう……命を賭けましょう……!)
依頼の趣旨を理解していない多由羅(ka6167)は、全力で戦う気満々だった。
順番も二番目という好条件を獲得し、早くも多由羅の戦意は高まっている。ついでに殺気も溢れている。
(先鋒はフェリア様ですか)
戦いが始まり、隠れもせずに堂々と観戦した多由羅は、怪訝そうに眉をひそめた。
(む……? どうしたことです? 威勢の割には彼の動きはまるで素人。だがそんな彼にフェリア様は互角の戦いをしている……?)
一見すると良い戦いをしているように見えるが、節穴のアルステフの目は誤魔化せても根っからの戦闘狂である多由羅の目は決して誤魔化せない。
その時多由羅は雷鳴が迸るがごとく閃いた。
(ま、まさか、彼の能力は相手の身体能力やスキルを封じ込め低下させるというのですか……!? なるほど……これは強敵……戦い甲斐があります……)
うっとりとした表情で自分の番になった際に起きるであろう死闘を想像し、多由羅は悦に浸った。
かなり危ない表情を浮かべているが、ある意味平常運転である。
自分の番になり愛刀祢々切丸を抜き放ち前に出たところで、心配そうな表情のセレスティア(ka2691)に制止される。
「依頼の趣旨? わかっておりますとも。彼を依頼人の下に返す事でしょう? 力づくで!!」
自信満々に答えた多由羅だったが、返ってきたのは返事ではなく、セレスティアの青褪めた表情だった。
そして鳩尾に強烈な衝撃を感じると共に多由羅の意識は暗転し、気付けば何故か申し訳なさそうな表情のセレスティアに膝枕されている。
「はっ!? ……ここは……意識がない……そうか……私は敗れたのですね……。まだまだ未熟……彼の名は忘れません。そうだ、再戦の約束を……セ、セティ? 何故止めるのです?」
結局アルステフの実力を誤解したまま、多由羅の戦いは始まる前に終わった。
●セレスティアvsアルステフ
念のため、武器を抜いた多由羅にセレスティアは尋ねた。
「あの……多由羅? 依頼の趣旨は理解してますか?」
多由羅の返事を聞いて、セレスティアは唖然とした。
「ぜんっぜんっ、理解してないじゃないですか! 殺すつもりですか!」
叫ぶと同時に、セレスティアは多由羅の鳩尾にボディーブローをねじ込み、気絶させる。
呆気に取られた表情のアルステフに、セレスティアはにっこりと微笑む。
「えっと……彼女は危険だからいなかった、って事じゃダメですか? 代わりに私がお相手しますので」
反対しなかったアルステフだったが、しかし戦う前になって、セレスティアは気付いた。
フェリアとの戦いで、既にアルステフは負傷していた。
手加減してなお、アルステフにとっては危険な戦いだったのである。
それだけ実力差がある証でもあった。
治療したいが、さすがにこの状況でするのはアルステフとて気付くだろうし、そもそも今から森の中に身を隠すのでは怪しすぎる。
(……仕方ありません)
セレスティアは即座に決断し星剣の柄でアルステフの顎をはね上げる。
脳を揺らされ、白目をむいて倒れたアルステフだったが、死んではいない。セレスティアの活人の技が、アルステフを生かしたまま気絶させたのだ。
そして治療し、アルステフが目を覚ましたところで仕切り直す。
「大丈夫? 痛いところはありませんか?」
女神のように慈しむ表情を浮かべているが、行っているのはどう見てもマッチポンプである。
自分でも展開に無理があることを悟っているセレスティアは、勢いに任せることにして、有無をいわさず盾で殴ってアルステフを前後不覚にさせ、剣の刃を立てないようにして再びアルステフを殴り倒す。
気絶したアルステフを膝枕し、セレスティアは再び治療を始めた。
目覚めて不思議そうな表情を浮かべるアルステフは記憶が飛んでいるようで、それを確認したセレスティアが微笑む。
「きっと、前の戦いで疲れていたんですよ」
記憶が曖昧なのをいいことに、セレスティアは己の所業を全力でしらばっくれた。
●レイアvsアルステフ
ばれないように治療が行われている間、レイア・アローネ(ka4082)は不機嫌そうな様子を隠さなかった。
そしてそれは、自らがアルステフと戦う番になっても変わらない。
(この少年を親元へ返す、それが依頼だった筈。この幸せいっぱいなふくよかな容姿でナニを言っておるのだこやつは……?)
基本生真面目な性格のレイアにとって、アルステフの世の中を舐めきった態度は怒りを抱かせるのに十分だったようだ。
そしてアルステフの言動がさらに火に油を注ぐ。
「ふふふ、一戦目は際どいところでしたが攻撃を全て回避した僕の勝利。二戦目は不戦勝、三戦目は何故かあまり覚えていませんが、あんな優しいお方が僕より強いわけないのでやっぱり僕の勝利でしょう」
「フェリア……こやつ斬っていいか?」
額に青筋を浮かべたレイアは静かにフェリアに許可を求めた。
どうやらまだ辛うじて自制しているようだ。
「さあ、この調子で貴女も僕が倒して差し上げますよ」
「もういいよな? こいつ斬ろう! 手足斬って親元へ返せば二度と家出もせずに済むだろう!?」
フェリアに嘆願するも、対するフェリアからは落ち着くようにとジェスチャーが送られ、何やら紙に何かを書いてアルステフには見えないようにレイアに見せてくる。
『素人ですからね? 後遺症が残るような大怪我させちゃ駄目ですよ?』
「……仕方ない」
親友であるフェリアに免じ、怒りを静めて協力することにしたレイアだが、剣による衝撃破を紙一重で当たらないように放つなど接戦を演出するレイアに対し、空気を読まないアルステフがまたしてもレイアの神経を逆撫でした。
「ふっ。この程度ですか?」
「殺す」
『ステイステイ!』
掲げるフェリアの紙はもはやレイアのためのカンニングペーパーと化している。
演劇ができるほどレイアは芸達者なわけでもないので、武器を振り回す姿は様になっていても台詞回しは大根役者で、剣筋にはちょっぴり本気の殺意が滲んでいたりもしたが、かえってその殺意のおかげでアルステフは気付かなかったようだ。
「……私の一撃を食らって耐えるとは……正直予想外だったぞ……」
「ふっ。貴女も中々の強敵でした」
勝負が着いた頃には、まるで芝居を共にしたかのような、不思議な連帯感が生まれていたとかいなかったとか。
●南護 炎vsアルステフ
アルステフの治療が行われ、南護 炎(ka6651)が戦う番になった。
炎の目的は達人同士の戦いを演出し、なおかつそれに勝利することだ。
「俺は南護 炎。リアルブルー生まれで、舞刀士だ。達人よ。いざ尋常に勝負を申し込む」
「クリムゾンウエスト生まれのアルステフ。ふっ。受けましょう」
名乗りを上げるのはハンデなどではなく、それが決闘の作法だからだ。お互いが名乗りを上げたうえでの一騎討ち。ロマンである。
(ハンターの現実を教えてやろうか。それで心が折れなければ、剣術くらい教えてやってもいいが)
真剣な表情を保ちつつも、炎は内心こんなことを考えている。
大した役者っぷりである。
両者の間で空気が張り詰めていて、とてもそれらしい。
「達人同士の勝負は一瞬でつく……。分かっているな? 達人相手ならば俺も手加減できない……。『制御不能の一撃』、受けてもらうぞ!!」
精神統一後に雄々しく叫び、炎は鋭く踏み込む。
迫真の演技だった。
「俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
手首の捻りを利用して振るわれた二連撃がアルステフに襲い掛かる。
当然だが、アルステフは全く反応できない。
活人の技によって致命ダメージこそ回避したものの、アルステフはぶっ倒れた。
それきり反応がない。
「しまったやり過ぎたか!? 治療を頼む!」
気絶したアルステフの治療が行われ、テイクツーの準備が始まった。
復活した当のアルステフは何が何やら分からない様子だったが、何事もなかったかのように振る舞うハンターたちを見て、気にしないことにしたらしい。
ふっと気障ったらしく笑うと、再び剣を構えた。演技が似合っていなかった。
そして始まるテイクツー。
今度はアルステフが捌ききれない炎の攻撃をきっちりこっそり木々の陰から仲間が魔法で障壁を張って防ぎ、激しい斬り合いが行われる。
決着は苛烈さを増した炎の一撃が仲間の防御を抜けたことによってついた。
「さすがだな、アルステフ。紙一重の勝負だった。俺の踏み込みが後一瞬でも遅れていたら倒れていたのは俺のほうだった……。あと二年いや、一年後には間違いなく追い越されているだろう……」
「すぐに追い越してあげますよ!」
アルステフは己の敗北という結果に大いに口惜しがった。
●ユウvsアルステフ
治療タイムが終わるまでの間、ユウ(ka6891)は思案に耽っていた。
(無事に見つけられてよかったけど、何だかおかしな事態になっちゃった。心配するご両親の為にも早く連れて帰りたいけど、騎士になりたいアルステフさんの想いの手伝いもしてあげたいな)
いざアルステフと相対すると、おもむろにユウは跪き、龍園の故郷に伝わる決闘前の祈りを行う。
「真剣勝負である以上、何が起こるか判りません。その為にも祈ることを許して下さい」
「……いいでしょう」
厳かな雰囲気が伝わってか、アルステフの態度もどこか大人しい。
「よろしくお願いします。ユウといいます。龍園出身のハンターです」
軽く自己紹介しつつ、油断なくユウは身構える。
そして仕掛けた。
行うのは機動力を生かした高速戦闘だ。
もちろん、ユウとて自分の動きにアルステフがついてこれるとは思っていない。
だが、ハンターとしての自分の実力を見せることで、何かアルステフの役に立てるならばという思いだった。
「はっ、速い!?」
残像すら纏って移動するユウの動きに、アルステフはついていけていない。
完全に見当違いの方向を向いている。
「こっちです!」
わざと声をかけることで自らの位置を知らせ、ユウは振り向いたアルステフに向けて俊敏な豹のごとく襲い掛かる。
回避を試みるならば紙一重で浅く切り込む位置を狙い、剣で受けようとするなら腕に、正確にいえば握られている剣に変更する。
武器破壊、あるいは武器を落とすのを狙っているのだ。
「く、くそ!」
アルステフが反応した時には、彼が握っていた剣は宙を舞っていた。
素早く距離を取ったユウは、今度は真正面から物凄い速度で走り込んでアルステフの喉元に剣を突きつけた。
「……私の勝ちですね」
歯軋りして口惜しがるアルステフに、ユウは微笑みかけた。
「騎士になれるといいですね。応援してます」
ハッとした表情になったアルステフに背を向け、ユウは意気揚々と仲間たちの下へと凱旋した。
●ミリアvsアルステフ
最後に相手をするミリア・ラスティソード(ka1287)はこっそり治療されるアルステフのことを生暖かい眼差しで見つめていた。
「いやー可愛い奴だよなうん。だけどあのノリで外に出てくと死んじゃうしな……」
いざ前に出てきたアルステフは表情が変わっていた。
どうやら、先に六人と戦って心境に変化があったらしい。
(怖がらせるしかないと思ってたけど、これは中々……)
ひっそりと、ミリアは予定していた作戦を少し修正する。
「もしかして、僕は弱いですか?」
「そうだね。お世辞にも強いとはいえないかな。口惜しいかい? なら、その気持ちを忘れないことだ。……手加減はするけど、容赦はしない。ボクのことはゴリラか何かだと思え」
「素手で、ですか。僕なんてそれで十分だと」
「違うね。お互いの実力を知るのにボクにはコレが一番なんだよ。構えな。両肩を地面に仰向けで抑えこんで三つ数えたらボクの勝ち。一撃でも入れられたらキミの勝ちだ」
歯を噛み締めて、アルステフが斬りかかってくるのを、ミリアは素手で弾いた。
普通なら怪我をするようなことでも、ハンターであるミリアならば何の問題もない。
あえて回避せずに全て受け止め、その性能差を意識させる。
「どうした、その程度かい? 根性見せてみなよ!」
打撃をわざとかすらせ恐怖を煽りながら、言葉でもミリアはアルステフを煽る。
一回の攻撃につき、一回の反撃を。
投げ技や締め技も交えつつ、ミリアは剣で戦うアルステフに対し、素手で手玉に取っていく。
一見すると異様な光景だが、ハンターと一般人という関係で見れば当たり前の光景だった。
それでも、アルステフは諦めずに喰らいついていく。
しかし最後には地面に転がされ馬乗りになったミリアに両肩を押さえられ、ゆっくり三カウントが経過した。
「残念キミはクマに食べられてしまった、外に出るにはまだ早そうだぞ?」
唇を引き結んだアルステフは、続いて告げられた台詞に顔を上げる。
「……頑張れよ、男の子」
おどけて軽く噛み付く仕草をしたミリアが笑った。
依頼結果
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作戦相談&順番希望 ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/05/13 22:36:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/13 19:38:22 |