嘘つきな羊飼い……と呼ばないで

マスター:一要・香織

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
5~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2018/05/13 19:00
完成日
2018/05/19 11:59

みんなの思い出

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オープニング

 波の様に揺れる草原に、ポツリポツリと白い毛玉が―――。
 カサカサと葉が擦れあう音に混じり、メー、メーと鳴き声が聞こえる。
 その白い毛玉の正体は、羊。
 グランツ領西部に位置する村は綿羊の畜産が盛んで、この村の羊毛は領内のみならず評判が高い。

 若きグランツの領主、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は、近くの川の橋修繕工事の視察に出掛けていたのだが、領主に就任してから一度も顔を出していなかったこの村の様子を見に立ち寄った。
「アポイントも取らずに来てしまい申し訳ありません。後日改めて視察に窺いますが、何か要望があればまとめておいて頂こうと思い、寄らせていただきました」
 村長に向かい小さく頭を下げたレイナに、
「ああ、そうでしたか。わざわざありがとうございます。ではそれまでにまとめておきましょう」
 目尻を下げた村長は、豊かな顎髭を撫でつけ頷いた。
「4日後の予定が空いていますので、その日がよろしいかと」
 ドアの前に立った私兵のサイファーが口を開くと、
「わかりました。私もその日を空けておきましょう」
 村長が応える。
「それでは、よろしくお願いいたします」
 レイナは深く頭を下げると、背を向けた。
「あ、それから、少しだけ村の中を見てもよろしいでしょか?」
「ええ、構いません」
 振り向いたレイナが尋ねると、村長は大きな笑みを浮かべ答えた。

 レイナは村の中を散策し始めた。
 途中、村の外で待機する兵士たちに呼ばれ、サイファーがレイナの側を離れると、華やかな男の物の貴族服を身に着けたレイナに、村人たちの視線が集まった。
 その視線に気まずさを覚えながら歩いていると……、前方から話し声が聞こえてきた。
「いい迷惑だよね」
「貴族だからってお高くとまって、たいして可愛くもないのに!」
「ホント、ホント!ティアの方が何倍も可愛いし!」
「やだー! ありがと」

 2人の女の子たちの会話に、レイナの足が止まった。
『貴族だから……』その言葉からすると、レイナの事を話しているのか……。
「でもさ、あんな頼りなさそうなのが領主って私達終わりだよね……」
「うん、アイザック様の時は良かったよねー」
 その言葉に、心臓がドクリと大きく鳴り、彼女たちに見つからないようレイナは建物の陰に隠れた。
「……っ」
 それでも彼女たちの会話は耳に届く。
「サイファーさんはなんであんな女の側に居るのかしらね?」
「大金貰ってるんじゃないのー?」
「サイファーさんカッコいいから、うちの村の自警団になってくれたらいいのに」
「ホント、そう思う!」
 心を抉る様な言葉の数々に、唇を強く噛みしめ、俯いた時だった――――、
「レイナ様?」
 心配そうなサイファーの声が頭上から降った。
「っ! サイファー!」
「どうされました?」
「っい、いえ。何でも……ありません」
 先程の彼女たちの話がサイファーに聞こえていなかったのだと小さく安堵し、レイナは村の入り口へと駆けて行った。
「…………」
 サイファーはレイナの悲しそうな背中を見つめ、そしてレイナの陰口を言っていた女の子達の背中へと視線を移し、鋭く睨みつけた。


 レイナが帰った数時間後、村は騒然たる雰囲気に包まれた。
「歪虚だーーーー! 歪虚が出た!」
 そう大声を出したのは、村の特産品である羊たちの飼い主。
 放牧していた羊たちの近くに歪虚が出没したことに気が付き、村長の元に駆け込んだ。
「助けてくれ、羊たちが……羊たちが……」
「わかった。すぐにハンターに来てもらおう」
 村長は直ぐにオフィスに依頼を出し、間もなくハンター達が歪虚の出た草原へと駆けて行った。
 しかし―――――
「おいおい……歪虚なんていなかったぞ……」
 ハンターの一人がボリボリと頭を掻きながら村長に報告した。
「なんだって?」
「いや、俺は見たぞ! 確かに歪虚が居たんだ」
「そうは言っても、付近の捜索もしたが見つからなかった」
 ハンターは気怠そうに、息を吐く。
「そんなはずは……」
 言葉を詰まらせる羊飼いに構わず、ハンターは大きなため息を残して帰っていった。

 それから4日の時が経ち、再び村にレイナがやってきた。
「すみませんね、どうもバタバタしてしまって」
 村長は困った様に眉を下げた。
「お忙しい所すみません」
 レイナが謝ると、
「いやいや、私よりあなたの方が忙しいと言うのに……いやぁ、申し訳ない」
 村長は散らばった机の上をガサガサと掻き回し、書類の束を手に取った。
「何か問題でもあったのですか?」
 レイナが心配そうに尋ねると、村長は大きなため息を吐き口を開いた。
「それがですね……じつは、歪虚が出たと嘘をついて騒ぎ立てる者が居りましてね」
「えっ!?」
 予想外の言葉にレイナは目を見開いた。
「3日連続ですよ……その度にハンターを呼んだのですが、結局歪虚の姿はなく……。もうハンターオフィスも相手にしてくれません」
 村長はやれやれ……といった具合に嘲笑した。
 その時――――――、バンッとドアが開き女の子が血相を変えて飛び込んで来た。
「村長、歪虚が出たの! 助けて」
 真っ青な顔で、村長に縋った。
「ティア……父親の次は君か……」
 村長は呆れた様に呟き首を振る。
「そんな嘘はもうたくさんだ……。いい加減にしなさい」
 冷たく突き放すような言葉を口にすると、
「本当なの。本当に狼の歪虚が出たのよ」
 涙を流しながら、ティアと呼ばれた女の子は叫んだ。
「っ!」
 レイナはその声と名前にハッとした。
(この前の、女の子だ……)
 その姿を見つめゴクリと唾を飲むと、レイナに気が付いたティアが駆け寄り、
「ねえ、あなた領主でしょ? 助けてよ!」
 脅すようにレイナに迫った。
 その瞬間、サイファーがサッとその間に立つ。
「…………」
 サイファーが制するようにティアの顔を睨みつけると、ティアの顔が強張った。
 温度を持たない冷たいサイファーの瞳に、ティアが息を飲むと、
「わかりました。私がオフィスに掛け合ってみます」
 レイナの凛とした声が部屋に響いた。
「しかし……」
 サイファーは振り返り眉を顰める。
 きつく掌を握ったレイナは、
「急ぎましょう」
 ティアの瞳をジッと見つめ、急ぎ部屋を後にした。

●ハンターオフィス
「またその話ですか? もう3回も依頼を受けてますけど、歪虚の姿はなかったと……」
 受付の女性は、呆れた様に息を吐きだした。
「お願いします。もう一度、もう一度だけ……」
 レイナは真摯な顔で、何度も頭を下げた。
「また嘘なんじゃないですか? 悪戯で私達を揶揄ってるんですよ」
 女性が唇を尖らせ呟くと、
「私の領民に、その様な者は居りません」
 怒った様にレイナは語気を強めて叫んだ。
「っ……、わかりました」
 その声に驚いた女性は、眉を顰めたまましぶしぶ頷いた。

リプレイ本文

 ハンターオフィスの受付嬢は何とも言えない気まずそうな面持ちで、ハンターに書類を見せた。
「これで4度目の依頼になるのですが……村の平原に出た歪虚狼の討伐依頼です」
「4度目?」
 アリア・セリウス(ka6424)は眉を顰めて聞き返した。
「はい。歪虚が出たと依頼を受けたのですが、討伐に向かったハンターの話では、歪虚の姿はなかったそうです」
 受付嬢は、まったく……と呟きそうな勢いでため息を吐く。
「既にハンターが3度無駄足を踏んでる、か……」
 その事態に思案する様にジャック・エルギン(ka1522)は呟いた。
「今回も、本物だった場合……」
「ああ、狙って偽装してきたなら、随分と小狡い事をするものだ」
 クオン・サガラ(ka0018)の言葉に頷きロニ・カルディス(ka0551)も口を開いた。
「レイナが嘘を言っているとは考えにくいし、彼女に訴え出た人の必死さも考えれば……」
 無道(ka7139)は書類から視線を上げ呟く。
「まったく……苦労の絶えない娘だな……。が、実直な人間には人が集まるものだ」
「はい。だから今、私たちはここに居るのです」
 レイア・アローネ(ka4082)が苦笑いすると、対照的にカティス・フィルム(ka2486)は優しい笑みを浮かべ力強く頷いた。
「ハッハッハッ! まあ、いっちょ派手にやってやろうぜ」
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)が不敵に唇を引き上げると、
「それでは、ハンターの皆様、よろしくお願い致します」
 受付嬢は深く頭を下げた。

●揺らめく草原の隙間から
 村の近くの草原からハンター達は双眼鏡を使って辺りを見回した。
 白い毛玉が若草の絨毯の上に、ポツリポツリと絵具を垂らしたように存在している。
 その羊たちから離れた場所に、群れる狼の歪虚。
「今まで狼が目撃されたのも、大体この辺りだった。ハンターの姿を確認し直ぐに隠れることが出来る場所―――、すなわち奥の森と考えられる」
 双眼鏡のから見える光景に目を細めたジャックがそう言うと、
「私も同じ意見よ」
 アリアは静かに頷き、草原へと視線を移した。
「この程度の知恵で良かったと思うべきなのかは分かりませんが、いずれにしても人里に出てきた時点で人間を恐れない故に、迅速に退治しなければいけませんね。頑張っていきましょう」
 クオンはそう呟くとスターナーAACを掲げてみせた。
 ジャックは愛馬のゴースロン・トランブルに跨ると手綱を引く。ゴースロンはジャックの覇気に呼応する様に数度足踏みをした。
 遅れることなくアリアも愛馬のエクエスに跨り、優しくエクエスの背中を叩くと嬉しそうに鼻を鳴らした。
「そんじゃロニ、手はず通り頼むぜ」
 ジャックの掛け声と共に、ジャック、レイア、カティス、アリアが馬に乗り狼のいる平原を周り込むように、退路となる森側の方へと向かった。
「歪虚を追立てるのは大得意だ。だが……」
 ルベーノは犬達を呼び寄せ屈み込むと、その柔らかい毛むくじゃらの背を撫でながら口を開いた。
「今から大きな音を立てて歪虚を追うが、どうにも羊たちが邪魔でな? だからお前たちに羊を小屋まで追立ててほしいのだ。スタンピードを起こす前から追い始めればある程度方向はコントロールできよう。期待しているぞ……行け!」
 優しく犬達を見詰め合図を出すと、犬達は音もなく踵を返し走っていった。
「では俺達も行こう」
 ロニが声を掛けると、
「ああ、ハンターの姿を見ればすぐに逃げてしまう。出来る限り引きつけないと」
 無道はエーギルの下に隠れた瞳で鋭く前を見据えた。
 1匹も漏れることなく囲うように広がりハンター達はジワジワと距離を詰めて行った。
 クオン、ロニ、ルベーノ、無道は村側から狼へと近付く。
 ロニのトランシーバーにレイアからの連絡が届いた。
 位置に着いた――――と。
 その言葉を聞いたルベーノが、
「ハーーッハッハ、逃げろ逃げろおーー! 逃げねば全て叩き潰してやるぞ、ハーッハッハ」
 雄叫びの様な声を上げる。その声を合図にしたように、犬達が一斉に羊たちを逃がす為追立て始めた。
 いきなり現れたハンターの姿に慄いた狼は、瞬時に森へと駆け出していく。
 クオンが跨る軍用馬は勇ましく足を踏み鳴らし存在を主張した。
 森とは別の方向へ向かい走り出す1匹の狼の足を、ロニが止める。
 駿馬に跨ったロニは鋭く狼を睨み付け圧力をかけると、尻込みした狼は直ぐに飛び退り他の狼たちの方へと駆け出した。
 スラリと村雨丸を抜き放った無道は、一歩一歩ゆっくりと距離を詰める。
 ソウルトーチで炎の様なマテリアルを纏い、包囲から飛び出そうとする狼の気を一気に引き、姿勢を低くした狼は一拍の後無道へと飛び掛かった。
 鋭い牙から涎を垂らし、大口を開けて飛び掛かる狼をメテオライトシールドで受けると素早く村雨丸を振り上げ、強打の一撃を与えた。
「あまりハンターを見くびらないほうがいい!」
 狼は顔を歪ませたかと思うと、弾けるように塵へと変わり――消えた。

 森側で狼を待ち受けるハンター達の目に狼達の姿が映る。
 ハンターの姿に驚いたように駆けてくる狼達は、隠れ家である森へと逃げ込もうとしているようだ。
「それでは、いきましょうか。真っ直ぐに、想いを貫く為に」
 少し憂いを滲ませた瞳を僅かに細め、アリアがカオスウィースの柄を握り締めると、まるでその心に呼応するように柄はアリアの手に吸い付いた。
 エクエスの腹を一度蹴ると、エクエスは了解した! と言わんばかりに跳躍し、狼の群れへと向かって行く。
 驚きながらも待ち構えた狼の数匹がアリアに噛みついた。
 陽の光を反射して抜き放たれた刃は、アリアの夢と希望を宿し鋭く舞う。
 ヒラリ……季節外れの雪を思わせる白い影が視界を過ぎる。
 それはアリアのスキル、龍雪により生み出された幻影の桜吹雪だ。桜は狼達の周りを揺蕩い、一枚一枚を龍の鱗の様に翻らせ包み込んだ。
 直後繰り出された斬刃は狼達を切り刻み、桜を赤く染め上げ、桜吹雪が消えると同時に、塵となった狼の姿も風に攫われた。

 桜吹雪から逃れた数匹の狼は、怯えたように姿勢を低くした。
 その隙を逃す訳もなく、ダブルシューティングとクイックリロードで弓を番えたジャックが、細めた目を光らせ矢を放った。
 風を切って飛んだ矢は狼たちに突き刺さり、狼の身体がビクリと飛び跳ねる。
 刹那、馬から降り踏み込んだレイアの刃が振り抜かれる。
 マテリアルをため込んだ斬撃は衝撃波となり、弓の刺さった狼達を襲った。
 キャンッ、と悲鳴のような鳴き声を上げると地面に倒れ、ボロボロと崩れ出す。
 森へと逃げようとした狼がその横が勢いよく走り抜けた。
「そうは行かないのですよ」
 声を上げたカティスの、集中とグリムリリース付きのマジックアローが狼の足に突き刺さる。
 バランスを崩して倒れ込みそうになった狼は、何とか体制を立て直し眼前のレイアに噛みつこうと大口を開く。牙はレイアを掠め、眉を顰めたレイアの鋭い一撃が狼を塵に変えた。
「私の刃から逃げられると思うな」
 自身の剣の様に鋭い声が、消えゆく狼を追った。
 しかし――森へ逃げ込もうとする狼は1匹ではない。
「あっ、ダメです」
 隙をついた狼がカティスの脇を走りぬけようとした。
 魔法では間に合わない!! そう瞬時に理解したカティスは勢いよくロッドを振り回した。
 ロッドは小気味いい音をさせ、狼の頬を殴打する。
 野球のボールの様に跳ね飛ばされた狼は地面の上を転がった。
「あぅ。姉さんの真似をするとは思わなかったのですよぅ……壊れてないといいのですが」
 ロッドを握り直しオロオロするカティスを視界の端に捕え、レイアは小さな笑みを浮かべながら地面に転がった狼に剣を突き立てた。
 その少し先では不敵に笑みを湛えたジャックが、薙ぎ払いの一閃を放つ。
 その殺気に身体を揺らした狼は飛び退き斬撃をかわした。
 しかし、村から追立てていたクオンのスターナーAACから飛び出した弾丸が、狼に直撃する。直後、その狼を巻き込みルベーノの放った青龍翔咬波が直線状の狼を一掃した。
 ハンターと狼の距離が近くなると、
「ワォーーーーーーン」
 1匹の狼が合図するように遠吠えした。すると、狼達は一斉にハンターに飛び掛かった。
「彼奴がボスか?」
 鋭く1匹の狼を睨みつけたロニが、
「暗黒で鍛えられし刃よ、我が敵を貫け」
 プルガトリオを唱えると、生み出されし無数の刃は狼に突き刺さりその足を地面に縫い付けた。
 同時に、カティスが先程の打撃で壊れていないか心配していたロッドを掲げる。
「紫なる重き光りよ、狼達を押し潰すのです」
 カティスの声に呼応した様にカーキ色の正四面体のマテリアル鉱石に彫られた守護天使が、大丈夫だよと微笑むように赤く発光し、ロッドから紫の光が放たれた。
 見えない天井に押し潰されるかの如く、狼達は次々に地面へと倒れていく。
 その紫の光から逃れた狼は、クルリと一度その場で回った後クオンを睨み走り出した。
「まったく……何を考えてるかは知りませんが、厄介ですね」
 呆れたようにポツリと呟き、クオンはファイアスローワーで薙ぎ払うと、扇状の火炎は狼を包み込み燃え上がる。
 ぷすぷすと黒煙が燻るが、狼の姿は既に跡形も残っていなかった。
 その黒煙を掻き消すように草原に一陣の風が吹く。
 草を揺らし、カサカサと音を生み出す風は、ハンター達の髪を揺らし頬を撫でた。
 揺れる草に姿を隠そうと姿勢を低くした狼は、風が消える前にハンターに飛び掛かった。
 おそらくこの狼たちのボスとみられる、知恵の働く1匹。そして……、
「奇襲とは、考えたもんだぜ」
 ボス狼と同時に飛び出したもう1匹の狼をジャックの剣が受け止めるが、ナイフのような爪がジャックを掠めた。剣に噛みつく狼を鋭くジャックが睨み付けると、
「茶番はもう十分だ」
 静かなレイアの声が響き、ジャックが抑える狼にソウルエッジで強化した鋭い一撃を放った。
 ポツンと……仲間を失ったボス狼は、ハンター達の輪の中に居る。
「死んだらお前らの毛皮でマントを作ってやろう、ハーッハッハッハ」
 高笑いしながら、ルベーノが終焉を伝える。
「花と雪、そして月の剣を葬送に。悪い狼は散りなさい」
 一歩前に出たアリアが呟くと、手向けと言わんばかりの桜吹雪が狼を包み込み、カオスウィースとナラク・アグニがギラリと光った。

●穏やかな草原には白い毛玉を
 再びハンターの頬を撫でた優しい風は、緑の匂いを纏う。
 遠くの方から小さくメーメーという羊たちの声が聞こえる。
「これで全部倒せたでしょうか?」
 クオンが呟くと、
「異常が見当たらない時ほど、異常を疑わねばならない事は教訓になったな」
 ロニが頷きながら口を開いた。
「もう少し周りを捜索してから村に報告に行くのです」
「そうだな、用心に越したことはない」
 カティスの提案に、レイアが力強く頷いた。

 ハンター達はその後森の中も捜索し、狼の姿が無いことを確認して村に戻った。


「狼の討伐は完了しました。村人の報告通り、狼は居ましたよ?」
 クオンが村長にそう告げると、村長はバツが悪そうに、
「そうでしたか……」
 と、だけ呟いた。
 羊たちを安全なところまで誘導した犬達は、ルベーノの足に頭を擦りつけてる。
 そんな犬達の頭を撫でながら、
「人と犬でさえ信頼して事を成すのに、人同士が信頼せんでどうする。歪虚にも知恵がある、我慢比べで負けてどうする」
 そう言ってルベーノは眉を顰めた。
「まあ、今回は最初に依頼を受けた段階で歪虚を見つけられなかった、我々ハンターにも責はある」
 慰める様にロニが呟いた。
「いえ……」
 村長は視線を落としたまま応える。
「新しい領主を信頼してやって欲しい。まだ力不足かも知れないが、志は前領主と同じだ」
 無道の優しい声が部屋に響いた。
「私の領民にその様な者は居りません!! ってな、オフィスの受付もタジタジさ。大した度胸だろ?」
 その時のレイナの様子を真似て話すと、誰からともなくクスリと笑いが起こった。
「レイナさんはとても優しい人なのです。どんな事でもきっと力になってくれるのですよ」
 カティスが眼鏡の下の目を優しく細めると、
「わかりました。我々もレイナ様の力になれるよう努めます。本当に、どうもありがとうございました」
 村長は深く深く頭を下げた。
 村長の部屋の隅で一緒に報告を聞いていた羊飼いとその娘のティアも、ハンター達に頭を下げた。帰っていくハンター達を見送りながら、ティアは複雑そうに顔を歪め、唇を噛み締めた。


 報告するためにオフィスに戻ったハンターは、俯いて祈るように手を組むレイナの姿を見つけた。
「レイナ、討伐は終わったぜ」
 ジャックが明るくそう言うと、ハッと顔を上げたレイナの顔に安堵の表情が浮かぶ。
「……良かった……」
 そう呟いたレイナの声は震えていた。
 ずっと気を張っていたのだろう。
「村人を信じ抜いたレイナの勝ちだな」
「ああ、本当に」
 無道が笑みを浮かべ口を開くと、クオンも頷く。
「みなさん、本当にありがとうございました」
 レイナは深く頭を下げ、ハンターに視線を戻した。
「少しだけ、複雑そうな顔ね」
 アリアが、如何したのかと言葉を掛けると、レイナは驚いたように目を見開いた。
 そんな顔に出ているのだろうか……と手で顔を押さえる。
「どうした? 村人に何か言われたのか? ……ならば何か言ってもいいんだぞ?」
 レイアがそう目を細めて言った。
「いいえ―――」
 レイナはそう一言呟き、優しい笑みを湛えながら首を振る。
(まあ、言わないだろうとは思っていたがな……まったく、そんな役回りだな……)
 レイアはそんな事を想いながら苦笑を漏らす。
「このまま領民を信頼して、彼らが少しでも幸せになれるような統治をしてくれ」
 無道の無骨だが優しい声がレイナを応援した。
「はい。もっともっと、頑張ります」
「清すぎるのは、少し問題でしょうけど」
「……?」
 この先の苦労を想い眉を下げたアリアは独言る。
 それに首を傾げたレイナに、なんでもないわと首を振った。
「あんま難しい顔ばっかしてんなよ」
「何かあったらまた呼んでくれ。君には我々がついている」
 明るく声を掛けたジャックは、レイナを励ますようにポンと肩を叩いた。
 それに続くようにレイアが声を掛ける。
「ありがとうございます」

 ハンター達の優しい心に微笑んだレイナを見て、ハンター達も――優しく微笑んだのだった。

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    ジャック・エルギンka1522
  • 乙女の護り
    レイア・アローネka4082
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバラインka6752

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ティーマイスター
    カティス・フィルム(ka2486
    人間(紅)|12才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 優しき孤高の騎士
    無道(ka7139
    鬼|23才|男性|闘狩人

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ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/05/12 19:56:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/12 07:44:47