ゲスト
(ka0000)
招かざる客の狂詩曲
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/12 12:00
- 完成日
- 2018/05/19 04:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●オフィス職員の優雅な休日
やあ、こんにちは。僕はハンターオフィスで受付と依頼の説明をしている職員さ。もしかしたら知ってる人もいるかな? 教会の雑魔討伐とか、雨漏り店舗解体とか、麦畑の依頼とか斡旋してたんだけど。
僕だっていつもオフィスに缶詰めって訳じゃない。たまには休暇を取って旅行することもある。人間気分転換が大切だからさ。
まあ、旅行先で雑魔に囲まれるってことも想定しないといけないんだけどね。
正確に言えば、最初は雑魔じゃなくて強盗だった。繁盛している宿に押し入って、ロビーにいる客を刃物で脅しに掛かったのだ。覚醒者じゃないことは一目瞭然だ。覚醒者なら、魔導銃をぶっ放すなり、スキルで花瓶でも割って見せれば誰も逆らわない。少なくとも僕は投降する。そうしないと言うことは扱えないと言うことだ。
とはいえ、ほとんどが一般人で、戦いの経験もないような客と宿の従業員では、刃物だけでも十分な脅威だ。お客様の中にハンターか、せめて覚醒者の方はいらっしゃいませんか? やけっぱちになって叫びたいくらいだった。その時だった。
裏口から悲鳴がした。
●招かざる客
強盗たちの顔色が変わって、一人が裏口に走った。すぐに彼は戻ってきて、裏口を見張っていた仲間の一人が、そこで死んでいることを伝えた。死体は切り裂かれたような状態であること、動物らしき血の足跡が宿の周りについていることを伝える。
それからは、面白いように強盗の数は減っていった。外の様子を見てくる、と言って出た奴は皆帰らぬ人になった。断末魔だけは聞こえてくるから、そいつらが無事でないことは全員が悟った。
やがて、最初に五人いた強盗は、最後の一人になった。ボスだった彼は真っ青になっている。いつの間にか、客と彼の間には、奇妙な連帯感が生まれていた。
「もう、やめろ」
宿の主人が言う。
「あんた、死ぬとわかって行くことはねぇ。これだけ悲鳴があがってるんだ。町の人間がハンターオフィスに通報してる」
「し、しかし……皆可愛い弟分なんだ……それを放っとけってのか」
「弔いはことが済んだあとだ」
主人はそう言うと、壁に掛けてあった剣を取った。
「ハンターが駆けつけるまで、俺がここを守る。お客人方、すまないが、もう少し辛抱してくれたまえ」
「え、ご主人覚醒者?」
僕が思わず尋ねると、主人はにやっと笑って見せた。
「ああ。本業はこっちだがな。暇な時期はハンター稼業で糊口をしのいでる。素人相手に覚醒者が打って掛かったんじゃ死にかねないと思って黙ってたんだが……」
強盗を見ると、彼は真っ青になってうなだれていた。なんと言うか、運が良いのか悪いのかわからない男だ。覚醒者のいる宿に強盗して、雑魔に囲まれて、でも覚醒者の宿だからそれなりに安心できるっていうのが……。
「ちょっと様子を見てくるとしよう」
「待ってよ。ご主人まで死んじゃうよ」
僕が止めると、彼は片目をつぶって上を指した。
「二階からさ。むざむざ死ぬような真似はしないよ」
「じゃ、じゃあ俺は戸締まりを……」
「そうしてくれたまえ」
そうして、宿の主人は二階へ、強盗のボスはふらふらと裏口に向かって行った。誰も止めなかった。逃げ出したら彼の運の尽きだから、逃げることはないと踏んでいたのだ。
しかし、そこからが本番だった。悲鳴が上がって、僕たちは身構えた。女の子が泣き出すのを、母親がなだめる。
「うわああ! うわああ!!!」
強盗は走って戻ってきた。
「あ、あいつは!?」
「まだ二階だけど」
僕が言うと、強盗は信じられないことを言う。
「あ、足跡が……血の足跡が中に入ってるんだよ!」
できるものなら気絶したかった。
●血の足跡
「三匹だ」
宿の主人は二階から戻ってきて、僕たちに告げた。
「四匹だよ……」
強盗が言って、主人はため息を吐いた。
「入っていたか……客人方、すまないが二階にあがって欲しい。一階は危険だ」
「それは了解したけど、どんな見た目か教えて欲しい」
僕が言うと、主人は簡単にその特徴をまとめて聞かせた。いわく、それはダチョウに似ていたが、足にかぎ爪らしきものがついていたこと。いわく、羽に金属光沢があること。いわく、外には三匹いること。いわく、三匹とも血まみれだったこと。
強盗によれば、足跡の主は裏口から玄関に入ると、厨房の中に入った。そっと覗いたところ、厨房の入り口に置いてあるマットに血は付いており、どうやらそこで拭き取られてしまっているので、その後の足跡は追えなかったそうだ。
「ようし、全員二階に上がりたまえ」
「ご主人、無茶はするなよ」
「わかってるよ。おい、お前もだ」
「お、俺も……!?」
言われた強盗が驚いて主人を見る。
「このクソ狭いところで闘狩人が雑魔と戦ってみろ。巻き添え食って死ぬぞ」
「彼の言うとおりだ。お前も僕たちと一緒だよ」
僕も申し添えると、強盗はうろたえたように僕と主人を見た。そして、頷いた。
「わ、わかった……」
「よし、決まりだ。全員上がれ」
「ご主人、あなたも危なくなったら上がれよ。残りが入ってこない保証もない」
「もちろんそうするさ。だが、俺はあの一匹はうっかり入ってきたって公算が高いと思うね。本来なら外に出てきた獲物を襲うんだろう」
「馬鹿ってほんと迷惑」
僕が吐き捨てると、主人は笑った。
●ハンターオフィスにて
「ハンターがやってる宿に強盗が入ったが、後から来た雑魔によって全滅したそうだ」
オフィスの中年の職員はやれやれと首を横に振った。
「ハンターじゃなくて、雑魔に命を取られたと言うのが涙を誘うね。凶暴なダチョウのような姿をしたのが四匹視認されていたが、あとで三匹になったそうだ。中に入ったのか、はたまた主人にやられたのかはわからない。足に鋭いかぎ爪、羽はなんだかナイフのようだったそうだよ。充分気をつけてくれ」
そして、彼はオフィスの中を振り返った。休暇中なのか、人が座っていない、片付いた席がある。
「……あいつが旅行に行ったの、確かこの町じゃなかったかなぁ……ま、そうタイミング良くオフィス職員が事件に巻き込まれてるなんて、小説みたいなことはないよな、はは」
事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。
やあ、こんにちは。僕はハンターオフィスで受付と依頼の説明をしている職員さ。もしかしたら知ってる人もいるかな? 教会の雑魔討伐とか、雨漏り店舗解体とか、麦畑の依頼とか斡旋してたんだけど。
僕だっていつもオフィスに缶詰めって訳じゃない。たまには休暇を取って旅行することもある。人間気分転換が大切だからさ。
まあ、旅行先で雑魔に囲まれるってことも想定しないといけないんだけどね。
正確に言えば、最初は雑魔じゃなくて強盗だった。繁盛している宿に押し入って、ロビーにいる客を刃物で脅しに掛かったのだ。覚醒者じゃないことは一目瞭然だ。覚醒者なら、魔導銃をぶっ放すなり、スキルで花瓶でも割って見せれば誰も逆らわない。少なくとも僕は投降する。そうしないと言うことは扱えないと言うことだ。
とはいえ、ほとんどが一般人で、戦いの経験もないような客と宿の従業員では、刃物だけでも十分な脅威だ。お客様の中にハンターか、せめて覚醒者の方はいらっしゃいませんか? やけっぱちになって叫びたいくらいだった。その時だった。
裏口から悲鳴がした。
●招かざる客
強盗たちの顔色が変わって、一人が裏口に走った。すぐに彼は戻ってきて、裏口を見張っていた仲間の一人が、そこで死んでいることを伝えた。死体は切り裂かれたような状態であること、動物らしき血の足跡が宿の周りについていることを伝える。
それからは、面白いように強盗の数は減っていった。外の様子を見てくる、と言って出た奴は皆帰らぬ人になった。断末魔だけは聞こえてくるから、そいつらが無事でないことは全員が悟った。
やがて、最初に五人いた強盗は、最後の一人になった。ボスだった彼は真っ青になっている。いつの間にか、客と彼の間には、奇妙な連帯感が生まれていた。
「もう、やめろ」
宿の主人が言う。
「あんた、死ぬとわかって行くことはねぇ。これだけ悲鳴があがってるんだ。町の人間がハンターオフィスに通報してる」
「し、しかし……皆可愛い弟分なんだ……それを放っとけってのか」
「弔いはことが済んだあとだ」
主人はそう言うと、壁に掛けてあった剣を取った。
「ハンターが駆けつけるまで、俺がここを守る。お客人方、すまないが、もう少し辛抱してくれたまえ」
「え、ご主人覚醒者?」
僕が思わず尋ねると、主人はにやっと笑って見せた。
「ああ。本業はこっちだがな。暇な時期はハンター稼業で糊口をしのいでる。素人相手に覚醒者が打って掛かったんじゃ死にかねないと思って黙ってたんだが……」
強盗を見ると、彼は真っ青になってうなだれていた。なんと言うか、運が良いのか悪いのかわからない男だ。覚醒者のいる宿に強盗して、雑魔に囲まれて、でも覚醒者の宿だからそれなりに安心できるっていうのが……。
「ちょっと様子を見てくるとしよう」
「待ってよ。ご主人まで死んじゃうよ」
僕が止めると、彼は片目をつぶって上を指した。
「二階からさ。むざむざ死ぬような真似はしないよ」
「じゃ、じゃあ俺は戸締まりを……」
「そうしてくれたまえ」
そうして、宿の主人は二階へ、強盗のボスはふらふらと裏口に向かって行った。誰も止めなかった。逃げ出したら彼の運の尽きだから、逃げることはないと踏んでいたのだ。
しかし、そこからが本番だった。悲鳴が上がって、僕たちは身構えた。女の子が泣き出すのを、母親がなだめる。
「うわああ! うわああ!!!」
強盗は走って戻ってきた。
「あ、あいつは!?」
「まだ二階だけど」
僕が言うと、強盗は信じられないことを言う。
「あ、足跡が……血の足跡が中に入ってるんだよ!」
できるものなら気絶したかった。
●血の足跡
「三匹だ」
宿の主人は二階から戻ってきて、僕たちに告げた。
「四匹だよ……」
強盗が言って、主人はため息を吐いた。
「入っていたか……客人方、すまないが二階にあがって欲しい。一階は危険だ」
「それは了解したけど、どんな見た目か教えて欲しい」
僕が言うと、主人は簡単にその特徴をまとめて聞かせた。いわく、それはダチョウに似ていたが、足にかぎ爪らしきものがついていたこと。いわく、羽に金属光沢があること。いわく、外には三匹いること。いわく、三匹とも血まみれだったこと。
強盗によれば、足跡の主は裏口から玄関に入ると、厨房の中に入った。そっと覗いたところ、厨房の入り口に置いてあるマットに血は付いており、どうやらそこで拭き取られてしまっているので、その後の足跡は追えなかったそうだ。
「ようし、全員二階に上がりたまえ」
「ご主人、無茶はするなよ」
「わかってるよ。おい、お前もだ」
「お、俺も……!?」
言われた強盗が驚いて主人を見る。
「このクソ狭いところで闘狩人が雑魔と戦ってみろ。巻き添え食って死ぬぞ」
「彼の言うとおりだ。お前も僕たちと一緒だよ」
僕も申し添えると、強盗はうろたえたように僕と主人を見た。そして、頷いた。
「わ、わかった……」
「よし、決まりだ。全員上がれ」
「ご主人、あなたも危なくなったら上がれよ。残りが入ってこない保証もない」
「もちろんそうするさ。だが、俺はあの一匹はうっかり入ってきたって公算が高いと思うね。本来なら外に出てきた獲物を襲うんだろう」
「馬鹿ってほんと迷惑」
僕が吐き捨てると、主人は笑った。
●ハンターオフィスにて
「ハンターがやってる宿に強盗が入ったが、後から来た雑魔によって全滅したそうだ」
オフィスの中年の職員はやれやれと首を横に振った。
「ハンターじゃなくて、雑魔に命を取られたと言うのが涙を誘うね。凶暴なダチョウのような姿をしたのが四匹視認されていたが、あとで三匹になったそうだ。中に入ったのか、はたまた主人にやられたのかはわからない。足に鋭いかぎ爪、羽はなんだかナイフのようだったそうだよ。充分気をつけてくれ」
そして、彼はオフィスの中を振り返った。休暇中なのか、人が座っていない、片付いた席がある。
「……あいつが旅行に行ったの、確かこの町じゃなかったかなぁ……ま、そうタイミング良くオフィス職員が事件に巻き込まれてるなんて、小説みたいなことはないよな、はは」
事実は小説より奇なりとはよく言ったものである。
リプレイ本文
●到着アナウンス
現場に到着すると、ハンターたちの目についたのは、依頼の情報通り、背の高いダチョウの形をした三体の雑魔であった。クエエ、と鳴き声を上げながら、宿を囲んでいる。
「さて、これは正面突破でしょうかね?」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が魔導バイク・Grand Kingsに跨がりながら、ゴースロン種の馬に乗ったアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)を見上げる。エラの援護で、彼女が中に突入する手筈になっていた。
「そうですね。エラさん、寄ってきたのは手筈通りお任せしますね。マリィアさんも援護をお願いします」
「いえ、このまま正面突破だと怪我をする可能性が高い……音で釣るから少し待って」
マリィア・バルデス(ka5848)はそう言うと、魔導バイク・バビエーカーと大型銃オイリアンテMk3を少し離れたところに移動させた。彼女は拡声器を取り出すと、宿全体に向かって声を掛ける。
「宿泊中の皆さん、宿の従業員の皆さん! 救助に来ました! 今からハンターが突入しますので、合図があるまでもう暫く部屋の中に立てこもっていて下さい! 掃討が終わるまで安全な部屋の中から出ないで下さい!」
「マリィア!」
二階の窓が開いて、見知った顔の男性が乗り出した。目が輝いている。ハンターの到着に勇気づけられているようだ。恐らく、オフィスで言っていた「休暇中でこの町に旅行に来ている職員」とは彼の事だろう。
「合図があるまで立てこもっていて下さい!」
マリィアが再び拡声器で指示すると、鳩時計の様に彼は戻っていく。
「くええ?」
「さあ何匹来るかしら」
二匹が、てくてくとこちらに近寄ってくる。彼女は黄金拳銃の装填も確認してから、Mk3に手を掛けた。
一匹は依然、宿の近くにとどまっていた。一匹くらいならエラとアデリシアには大した敵ではないだろう。
Mk3の射程は長い。バイクのエンジン音に、こちらへ向かっていた一匹が反応した。マリィアはそれに向かって発砲する。馬とバイクが走り出した。
●ダチョウの残念賞レース
「行きましょう、エラさん」
アデリシアは手綱を引いた。エラも、アクセルを回して発進する。蹄の音と、バイクのエンジン音が轟いた。それに反応する一匹には、マリィアが発砲して気を逸らした。背後で銃声が立て続けに響く。
「くええ」
残っていた一匹が、アデリシアの方から駆け寄ってくる。エラは馬上のアデリシアに向かって声を上げた。
「割り込みます」
「お願いします」
エラは速度を落とすと、アデリシアの後ろを通って雑魔と馬の間に割り込んだ。拾撃を用いて、跳び蹴りをこちらに向かわせる。
「はい、残念賞」
攻性防壁が展開された。雑魔の足がそこに触れた瞬間、電撃の様な光が走る。
「ギエエエエエ!」
雑魔は吹き飛ばされた。転がって、砂埃が立つ。エラはミラーでその後の動きを注視しながら、再びアデリシアに並ぶ。宿の正面玄関に近づくにつれ、中から戦闘の音がするのがわかった。
「やっぱり、一匹は入っていたようですね」
アデリシアが馬の速度を上げた。エラも加速する。正面に着くと、エラは周囲の警戒を、アデリシアは馬から降りて玄関からの侵入を試みる。鍵は開いていた。
「では行ってきますね」
「ええ、お気を付けて」
ドアが閉まった。エラは、二階に向かって呼びかけた。
「今ハンターが一人入りました」
再び窓が開いて、若い男性が顔を出した。先ほどの彼だ。オフィスで、何度か彼から依頼の斡旋を受けたことがある。
「エラ、君も来てくれてたのか!」
「やはり巻き込まれていましたか。マリィアさんの声は聞こえてましたよね。アデリシアさんも来てますよ」
「ヒュウ! 素敵なメンバーだ。鳥頭に明日はないね。ところで、一人強盗が残ってて、使命感に燃えてるけど使う?」
「おや、生き残りがいましたか。そうですね、何ができるんですか?」
「弓が使えるって」
「では」
エラは軍用双眼鏡を二階に放り投げた。
「上手くやってくれれば、減刑を私からも申し出ましょう。監視結果を周知してくれるように伝えてください。私たちの背後から援軍が来ないかとかですね。それと、気が向いたらで結構ですので援護を」
「わかった。おい、聞こえてたな? まっとうな仕事だぞ。頑張れよ」
オフィス職員に激励されて、一人の柄の悪そうな男が弓を持って窓から身を乗り出したのが見えた。どこか思い詰めた顔だ。
「落ちないように」
エラはそれだけ申し渡して、自分が先ほど弾き飛ばした雑魔に銃を向けた。
●招かざる客の狂詩曲
マリィアは撃った。撃って、撃って、撃ちまくった。アデリシアを送り届けたエラが、正面玄関前に陣取り、自分の受け持ち雑魔を相手にしつつも援護をしてくれているが、それでも釣った雑魔は、手近にいるマリィアに注意が向いている。クイックリロードを用いて弾幕を張り、弾切れは起こさない。近づき過ぎた雑魔には、黄金拳銃で一発をお見舞いした。そちらもリロードは忘れない。
翼に弾丸が当たって、重い金属音が鳴る。銃声に気を取られた雑魔にエラが三烈を、それに気を取られたものにマリィアが銃撃を、と言う形で、二人は順調に雑魔の体力を削いで行く。重魔導バイクを銃架にして大型魔導銃を使う以上、マリィアはどうしても身動きが取れないが、それで不利を取ることはなかった。
何回目かのクイックリロードを終えたところで、何故か宿の二階から、一本の矢が飛んできて、雑魔の翼に当たる。マリィアが二階を見上げると、青くなった、人相の悪い男が弓を構えて雑魔をにらんでいた。首からは、エラが準備していた軍用双眼鏡がぶら下がっている。どうやらエラが協力を要請したらしい。おそらく、彼は件の強盗の一人だろう。生き残りがいたのか。
「……強盗は全滅って聞いたのに」
どうやら、情報が不十分だった様だが、今は敵ではなさそうだ。
「今のところ他は来てねぇぞ!」
「くえーっ!」
やる気に満ちてはいるが、強盗は一般人だ。その弓は強くない。足止めを食らった雑魔が二階に向かって威嚇した。マリィアは、別の一匹が駆け出そうとするのに向かって発砲する。
「こちらベル。宿前にいたのは倒しました。本格的に援護します」
エラのバイクと繋いであった魔導スマホから、彼女の声がする。そちらを見れば、宿の前にいるエラの、覚醒した蒼い瞳と視線が合う。マリィアはリロードしてから、返事をした。
「こちらバルデス。了解した。一気に片付けよう」
高く鳴き声を上げるダチョウに、マリィアは弾丸を放つ。反動で、胸元のペンダントが跳ねた。Mk3から飛び出した薬莢が、それに倣うように宙を舞い、彼女の肩を越え、乾いた音を立てて地面を転がった。
●ロビーの戦い
アデリシアが玄関から突入すると、一人の男性が、ダチョウの蹴りを食らって目の前を横切るようにして吹き飛んだ。階段で背中を打った様だが、すぐに起き上がる。
「やるじゃねぇか鳥頭」
そこにアデリシアは割り込んだ。髪の毛にグラデーションがかかる。覚醒状態だ。雑魔は、新手の登場に警戒して、後ずさる。彼女は、背後で驚いている主人に声を掛けた。
「ご主人、ハンターです。通報がありましたので討伐に参りました」
「早いな。いや、助かったよ。ご覧の通りでね。いやはや、普段着で戦うものじゃない」
アデリシアはすぐさまアンチボディを主人に施した。蹴られた拍子に受けたらしい腕の傷がふさがっていく。アデリシアは、再び雑魔に向かおうとする主人を押しとどめた。
「二階を守ってください」
「承知した。援護がいりそうなら言ってくれたまえ」
すでに、主人からいくばくかのダメージは受けていたようで、雑魔はあちこちに切り傷がついていた。だが、暴れたせいで興奮しているのか、闘志だけはみなぎっているようである。
大人数で暴れ回るには狭いロビーだが、一対一で戦うには困る広さではない。アデリシアは、メイスを握りしめ、間合いを計りながら相手の攻撃を待つ。雑魔は、アデリシアが仕掛けてこないのを見ると、跳躍して蹴りを加えてきた。
ホーリーヴェールと、ディスターブの防御壁を展開して受け止めると、シールドバッシュの要領で押し込んだ。蹴りの勢いで押し倒すつもりだったらしい雑魔に、それは予想外の反撃だったようである。
「くけっ、けっ、けっ」
片足立ちになっていたダチョウは、それでバランスを崩した。けんけんしながら後ずさる。今が好機だ。
「食らえ!」
アデリシアは、フォースクラッシュで威力を高めた、メイスによる一撃を、その長い首に叩き込んだ。確かな手応えを感じる。
「ぐえっ!」
憐れみを誘う悲鳴だが、同情する者は誰もいない。受け身の取れない体は派手な音を立てて倒れた。木の床に、ナイフのような翼が刺さる。ますます身動きが取れなくなったようだ。
「くえーッ! くえっ!」
「私たちが来た時点で、貴様の命運は尽きている」
メイスを振り上げる。威嚇するように叫ぶ雑魔の頭に、彼女はフォースクラッシュを乗せた一撃を振り下ろした。
●掃討完了
ひとまず、外の雑魔は殲滅した。が、エラとマリィアは依然周囲を警戒している。マリィアは少し考えてから、バイクに跨がった。
「来たら迎撃をお願いよ」
彼女はそう言って、エンジンを吹かしながら宿の周りを一周した。その道中で、雑魔の餌食になったとおぼしき強盗たちの死体を発見する。安全が確保されたら埋葬することになるだろう。
陽動に引っかかる雑魔はいなかった。これで討伐は完了したと言って良いだろう。マリィアはそれをエラに告げる。二人は宿の中に入った。
客たちは、恐る恐ると言った様子で下に降りてきていた。どうやら、アデリシアも中の雑魔を片付けていたらしい。宿泊客たちは、ハンターを見て、何か囁き合っている。なんだろう、と思っていたら、どうやらかっこいい、素敵、と言うことで熱いまなざしを送っているようだ。
「なんだか変な気分だわ」
マリィアは肩をすくめると、持参したマシュマロを子どもたちに与える。
「怖かったでしょう。よく頑張ったわね」
旅行が怖い経験になってはならない。楽しい思い出で上書きしなくては、この後の人生に影が落ちる。子どもたちは喜んでマシュマロを食べた。
「おねえちゃんにあーんしてあげる!」
「あら、私も良いの? ありがとう」
マシュマロを差し出してくる子どもに、マリィアは笑って口を開いた。
「お疲れ様、君たち」
休暇中の職員が安心した顔でやって来る。この依頼の説明をした職員は、彼が現場にいたことを知ったら何て言うだろう。
「最初はどうなるかと思ったけど、ほんと助かったよ。普段僕はオフィスにいるから、なかなかこういうことってなくてね」
「オフィスでも、あなたが休暇でここに来てると言うのは聞いていたのよ。本当に巻き込まれてるとは、オフィスでも思ってなかったけど」
「事実は小説より奇なり、ということですね」
マリィアとアデリシアが言う。そのアデリシアの肩を、宿の主人が叩いた。
「ありがとう。少々張り切りすぎて相手の間合いに入ってしまってね。無様なところを見せた」
「いいえ。間に合って良かったです。お怪我は大丈夫ですか?」
「あんたのアンチボディのおかげでどうにかね。これからも特に支障はないだろう」
恐怖から解放されて、明るくなった客たちとは対象的に、強盗は階段に座ってぼんやりとその様子を眺めていた。かなり張り切って援護していたが、どうやら緊張の糸が切れたらしい。強盗は失敗、仲間も失い、これからのことを考えているようでもあった。
「彼は、どうするの?」
マリィアが言うと、エラが顔を上げた。
「減刑を嘆願します。それでなくても仲間を亡くしていますし、ここで粗雑に扱えば世を恨んで歪虚の側に付くこともあり得るでしょう」
「そうね……人質を取るようであれば、威嚇の一つでもしようかと思ったけど。実際には反対に援護してくれたわけだし、それくらいはしてあげても良いわね」
「ええ、私もそう思います。今も逃亡のおそれなし、ですし、特別強く罰する必要もないでしょう」
アデリシアも頷いた。
「では、その方向で動きますね。ちょっと彼に話してきます」
エラはそう言って、強盗に歩み寄った。それなりに長いこと話し込んで、強盗はなにやら恐縮した様子も見せていた。けれど、会話の内容は誰も知らない。
●後日談
「やぁ、皆お疲れ様」
中年の職員が、ハンターたちの前にふらっと現れる。その後ろからは、あの現場にいた職員もやって来ていた。今日は出勤らしい。笑顔でハンターたちに手を振ると、カウンターについて、他のハンターに依頼を説明し始めた。
「彼はあの通りだ。なんだかとても元気だったから、君たちさぞ活躍してくれたんだろうね?」
「最善は尽くしました」
アデリシアが穏やかに頷いた。
「そういえば、強盗の彼はどうなりました?」
エラが尋ねると、職員はしばらくエラを見つめてから、微笑んで答える。
「いたく反省していたからね。君たちからの活躍報告もあったから、情状酌量、執行猶予、というところだ。また、たいそうエラの気遣いに感謝していたよ」
職員は知らない。エラが内密に、葬儀費用と、再出発費用として強盗に数万ゴールドを渡していることを。けれど、現実主義のエラが、文字通りの気遣いだけで済ませるわけがないことは職員もわかっている。何か、実用的な援助をしているであろうことは容易に想像がついた。だが、それはハンターオフィスが取り締まることではない。それはエラが今回請け負った依頼の中で、妥当と判断して実行した「仕事」なのだ。
「ああ、そうそう。それから君たち四人にそれぞれファンが何人か発生したようだ。かっこよかったってね」
「何よ、それ」
マリィアが吹き出した。アデリシアは笑みを深め、エラは肩を竦めた。
現場に到着すると、ハンターたちの目についたのは、依頼の情報通り、背の高いダチョウの形をした三体の雑魔であった。クエエ、と鳴き声を上げながら、宿を囲んでいる。
「さて、これは正面突破でしょうかね?」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が魔導バイク・Grand Kingsに跨がりながら、ゴースロン種の馬に乗ったアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)を見上げる。エラの援護で、彼女が中に突入する手筈になっていた。
「そうですね。エラさん、寄ってきたのは手筈通りお任せしますね。マリィアさんも援護をお願いします」
「いえ、このまま正面突破だと怪我をする可能性が高い……音で釣るから少し待って」
マリィア・バルデス(ka5848)はそう言うと、魔導バイク・バビエーカーと大型銃オイリアンテMk3を少し離れたところに移動させた。彼女は拡声器を取り出すと、宿全体に向かって声を掛ける。
「宿泊中の皆さん、宿の従業員の皆さん! 救助に来ました! 今からハンターが突入しますので、合図があるまでもう暫く部屋の中に立てこもっていて下さい! 掃討が終わるまで安全な部屋の中から出ないで下さい!」
「マリィア!」
二階の窓が開いて、見知った顔の男性が乗り出した。目が輝いている。ハンターの到着に勇気づけられているようだ。恐らく、オフィスで言っていた「休暇中でこの町に旅行に来ている職員」とは彼の事だろう。
「合図があるまで立てこもっていて下さい!」
マリィアが再び拡声器で指示すると、鳩時計の様に彼は戻っていく。
「くええ?」
「さあ何匹来るかしら」
二匹が、てくてくとこちらに近寄ってくる。彼女は黄金拳銃の装填も確認してから、Mk3に手を掛けた。
一匹は依然、宿の近くにとどまっていた。一匹くらいならエラとアデリシアには大した敵ではないだろう。
Mk3の射程は長い。バイクのエンジン音に、こちらへ向かっていた一匹が反応した。マリィアはそれに向かって発砲する。馬とバイクが走り出した。
●ダチョウの残念賞レース
「行きましょう、エラさん」
アデリシアは手綱を引いた。エラも、アクセルを回して発進する。蹄の音と、バイクのエンジン音が轟いた。それに反応する一匹には、マリィアが発砲して気を逸らした。背後で銃声が立て続けに響く。
「くええ」
残っていた一匹が、アデリシアの方から駆け寄ってくる。エラは馬上のアデリシアに向かって声を上げた。
「割り込みます」
「お願いします」
エラは速度を落とすと、アデリシアの後ろを通って雑魔と馬の間に割り込んだ。拾撃を用いて、跳び蹴りをこちらに向かわせる。
「はい、残念賞」
攻性防壁が展開された。雑魔の足がそこに触れた瞬間、電撃の様な光が走る。
「ギエエエエエ!」
雑魔は吹き飛ばされた。転がって、砂埃が立つ。エラはミラーでその後の動きを注視しながら、再びアデリシアに並ぶ。宿の正面玄関に近づくにつれ、中から戦闘の音がするのがわかった。
「やっぱり、一匹は入っていたようですね」
アデリシアが馬の速度を上げた。エラも加速する。正面に着くと、エラは周囲の警戒を、アデリシアは馬から降りて玄関からの侵入を試みる。鍵は開いていた。
「では行ってきますね」
「ええ、お気を付けて」
ドアが閉まった。エラは、二階に向かって呼びかけた。
「今ハンターが一人入りました」
再び窓が開いて、若い男性が顔を出した。先ほどの彼だ。オフィスで、何度か彼から依頼の斡旋を受けたことがある。
「エラ、君も来てくれてたのか!」
「やはり巻き込まれていましたか。マリィアさんの声は聞こえてましたよね。アデリシアさんも来てますよ」
「ヒュウ! 素敵なメンバーだ。鳥頭に明日はないね。ところで、一人強盗が残ってて、使命感に燃えてるけど使う?」
「おや、生き残りがいましたか。そうですね、何ができるんですか?」
「弓が使えるって」
「では」
エラは軍用双眼鏡を二階に放り投げた。
「上手くやってくれれば、減刑を私からも申し出ましょう。監視結果を周知してくれるように伝えてください。私たちの背後から援軍が来ないかとかですね。それと、気が向いたらで結構ですので援護を」
「わかった。おい、聞こえてたな? まっとうな仕事だぞ。頑張れよ」
オフィス職員に激励されて、一人の柄の悪そうな男が弓を持って窓から身を乗り出したのが見えた。どこか思い詰めた顔だ。
「落ちないように」
エラはそれだけ申し渡して、自分が先ほど弾き飛ばした雑魔に銃を向けた。
●招かざる客の狂詩曲
マリィアは撃った。撃って、撃って、撃ちまくった。アデリシアを送り届けたエラが、正面玄関前に陣取り、自分の受け持ち雑魔を相手にしつつも援護をしてくれているが、それでも釣った雑魔は、手近にいるマリィアに注意が向いている。クイックリロードを用いて弾幕を張り、弾切れは起こさない。近づき過ぎた雑魔には、黄金拳銃で一発をお見舞いした。そちらもリロードは忘れない。
翼に弾丸が当たって、重い金属音が鳴る。銃声に気を取られた雑魔にエラが三烈を、それに気を取られたものにマリィアが銃撃を、と言う形で、二人は順調に雑魔の体力を削いで行く。重魔導バイクを銃架にして大型魔導銃を使う以上、マリィアはどうしても身動きが取れないが、それで不利を取ることはなかった。
何回目かのクイックリロードを終えたところで、何故か宿の二階から、一本の矢が飛んできて、雑魔の翼に当たる。マリィアが二階を見上げると、青くなった、人相の悪い男が弓を構えて雑魔をにらんでいた。首からは、エラが準備していた軍用双眼鏡がぶら下がっている。どうやらエラが協力を要請したらしい。おそらく、彼は件の強盗の一人だろう。生き残りがいたのか。
「……強盗は全滅って聞いたのに」
どうやら、情報が不十分だった様だが、今は敵ではなさそうだ。
「今のところ他は来てねぇぞ!」
「くえーっ!」
やる気に満ちてはいるが、強盗は一般人だ。その弓は強くない。足止めを食らった雑魔が二階に向かって威嚇した。マリィアは、別の一匹が駆け出そうとするのに向かって発砲する。
「こちらベル。宿前にいたのは倒しました。本格的に援護します」
エラのバイクと繋いであった魔導スマホから、彼女の声がする。そちらを見れば、宿の前にいるエラの、覚醒した蒼い瞳と視線が合う。マリィアはリロードしてから、返事をした。
「こちらバルデス。了解した。一気に片付けよう」
高く鳴き声を上げるダチョウに、マリィアは弾丸を放つ。反動で、胸元のペンダントが跳ねた。Mk3から飛び出した薬莢が、それに倣うように宙を舞い、彼女の肩を越え、乾いた音を立てて地面を転がった。
●ロビーの戦い
アデリシアが玄関から突入すると、一人の男性が、ダチョウの蹴りを食らって目の前を横切るようにして吹き飛んだ。階段で背中を打った様だが、すぐに起き上がる。
「やるじゃねぇか鳥頭」
そこにアデリシアは割り込んだ。髪の毛にグラデーションがかかる。覚醒状態だ。雑魔は、新手の登場に警戒して、後ずさる。彼女は、背後で驚いている主人に声を掛けた。
「ご主人、ハンターです。通報がありましたので討伐に参りました」
「早いな。いや、助かったよ。ご覧の通りでね。いやはや、普段着で戦うものじゃない」
アデリシアはすぐさまアンチボディを主人に施した。蹴られた拍子に受けたらしい腕の傷がふさがっていく。アデリシアは、再び雑魔に向かおうとする主人を押しとどめた。
「二階を守ってください」
「承知した。援護がいりそうなら言ってくれたまえ」
すでに、主人からいくばくかのダメージは受けていたようで、雑魔はあちこちに切り傷がついていた。だが、暴れたせいで興奮しているのか、闘志だけはみなぎっているようである。
大人数で暴れ回るには狭いロビーだが、一対一で戦うには困る広さではない。アデリシアは、メイスを握りしめ、間合いを計りながら相手の攻撃を待つ。雑魔は、アデリシアが仕掛けてこないのを見ると、跳躍して蹴りを加えてきた。
ホーリーヴェールと、ディスターブの防御壁を展開して受け止めると、シールドバッシュの要領で押し込んだ。蹴りの勢いで押し倒すつもりだったらしい雑魔に、それは予想外の反撃だったようである。
「くけっ、けっ、けっ」
片足立ちになっていたダチョウは、それでバランスを崩した。けんけんしながら後ずさる。今が好機だ。
「食らえ!」
アデリシアは、フォースクラッシュで威力を高めた、メイスによる一撃を、その長い首に叩き込んだ。確かな手応えを感じる。
「ぐえっ!」
憐れみを誘う悲鳴だが、同情する者は誰もいない。受け身の取れない体は派手な音を立てて倒れた。木の床に、ナイフのような翼が刺さる。ますます身動きが取れなくなったようだ。
「くえーッ! くえっ!」
「私たちが来た時点で、貴様の命運は尽きている」
メイスを振り上げる。威嚇するように叫ぶ雑魔の頭に、彼女はフォースクラッシュを乗せた一撃を振り下ろした。
●掃討完了
ひとまず、外の雑魔は殲滅した。が、エラとマリィアは依然周囲を警戒している。マリィアは少し考えてから、バイクに跨がった。
「来たら迎撃をお願いよ」
彼女はそう言って、エンジンを吹かしながら宿の周りを一周した。その道中で、雑魔の餌食になったとおぼしき強盗たちの死体を発見する。安全が確保されたら埋葬することになるだろう。
陽動に引っかかる雑魔はいなかった。これで討伐は完了したと言って良いだろう。マリィアはそれをエラに告げる。二人は宿の中に入った。
客たちは、恐る恐ると言った様子で下に降りてきていた。どうやら、アデリシアも中の雑魔を片付けていたらしい。宿泊客たちは、ハンターを見て、何か囁き合っている。なんだろう、と思っていたら、どうやらかっこいい、素敵、と言うことで熱いまなざしを送っているようだ。
「なんだか変な気分だわ」
マリィアは肩をすくめると、持参したマシュマロを子どもたちに与える。
「怖かったでしょう。よく頑張ったわね」
旅行が怖い経験になってはならない。楽しい思い出で上書きしなくては、この後の人生に影が落ちる。子どもたちは喜んでマシュマロを食べた。
「おねえちゃんにあーんしてあげる!」
「あら、私も良いの? ありがとう」
マシュマロを差し出してくる子どもに、マリィアは笑って口を開いた。
「お疲れ様、君たち」
休暇中の職員が安心した顔でやって来る。この依頼の説明をした職員は、彼が現場にいたことを知ったら何て言うだろう。
「最初はどうなるかと思ったけど、ほんと助かったよ。普段僕はオフィスにいるから、なかなかこういうことってなくてね」
「オフィスでも、あなたが休暇でここに来てると言うのは聞いていたのよ。本当に巻き込まれてるとは、オフィスでも思ってなかったけど」
「事実は小説より奇なり、ということですね」
マリィアとアデリシアが言う。そのアデリシアの肩を、宿の主人が叩いた。
「ありがとう。少々張り切りすぎて相手の間合いに入ってしまってね。無様なところを見せた」
「いいえ。間に合って良かったです。お怪我は大丈夫ですか?」
「あんたのアンチボディのおかげでどうにかね。これからも特に支障はないだろう」
恐怖から解放されて、明るくなった客たちとは対象的に、強盗は階段に座ってぼんやりとその様子を眺めていた。かなり張り切って援護していたが、どうやら緊張の糸が切れたらしい。強盗は失敗、仲間も失い、これからのことを考えているようでもあった。
「彼は、どうするの?」
マリィアが言うと、エラが顔を上げた。
「減刑を嘆願します。それでなくても仲間を亡くしていますし、ここで粗雑に扱えば世を恨んで歪虚の側に付くこともあり得るでしょう」
「そうね……人質を取るようであれば、威嚇の一つでもしようかと思ったけど。実際には反対に援護してくれたわけだし、それくらいはしてあげても良いわね」
「ええ、私もそう思います。今も逃亡のおそれなし、ですし、特別強く罰する必要もないでしょう」
アデリシアも頷いた。
「では、その方向で動きますね。ちょっと彼に話してきます」
エラはそう言って、強盗に歩み寄った。それなりに長いこと話し込んで、強盗はなにやら恐縮した様子も見せていた。けれど、会話の内容は誰も知らない。
●後日談
「やぁ、皆お疲れ様」
中年の職員が、ハンターたちの前にふらっと現れる。その後ろからは、あの現場にいた職員もやって来ていた。今日は出勤らしい。笑顔でハンターたちに手を振ると、カウンターについて、他のハンターに依頼を説明し始めた。
「彼はあの通りだ。なんだかとても元気だったから、君たちさぞ活躍してくれたんだろうね?」
「最善は尽くしました」
アデリシアが穏やかに頷いた。
「そういえば、強盗の彼はどうなりました?」
エラが尋ねると、職員はしばらくエラを見つめてから、微笑んで答える。
「いたく反省していたからね。君たちからの活躍報告もあったから、情状酌量、執行猶予、というところだ。また、たいそうエラの気遣いに感謝していたよ」
職員は知らない。エラが内密に、葬儀費用と、再出発費用として強盗に数万ゴールドを渡していることを。けれど、現実主義のエラが、文字通りの気遣いだけで済ませるわけがないことは職員もわかっている。何か、実用的な援助をしているであろうことは容易に想像がついた。だが、それはハンターオフィスが取り締まることではない。それはエラが今回請け負った依頼の中で、妥当と判断して実行した「仕事」なのだ。
「ああ、そうそう。それから君たち四人にそれぞれファンが何人か発生したようだ。かっこよかったってね」
「何よ、それ」
マリィアが吹き出した。アデリシアは笑みを深め、エラは肩を竦めた。
依頼結果
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MVP一覧
- 世界は子供そのもの
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/05/10 10:40:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/09 03:44:50 |