愛しのポンコツ姉上

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2018/05/11 19:00
完成日
2018/05/16 06:23

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「うーん?」
 ふと気がついて、鍛錬を止める。
 姿勢を正し、ぐるりと首を巡らせて、時間を確認。
「可愛い妹ちゃんの帰りが遅くないかなー?」
 彼女はそう一人ごちてから、考えるような仕草をする……が、実際そうして考えていたのは、数秒程度だった。
「迎えに行ってあげようか。ハンターオフィスに行ったのは分かってるんだし」
 そうして彼女は、のんびりとした仕草で、彼女と妹の暮らす部屋を出ていく。



 ……許せねえ……ハンターの連中を、オレは絶対に許さねえ……。
 ハンターオフィスのあるこの街にやって来た男の顔は、暗く澱んでいた。
 いや、男、というには若い。少年と言っても良かった。
 擦り切れた服装と、やせ細った手足が、日々の暮らしを想像させる。
(アニキ……アニキが居なくなったのはハンターのせいだ……)
 所謂、ストリートチルドレンである。彼がアニキと呼ぶ存在は実査の血の繋がりがあるわけでは無く、しかしそれ以上の繋がりで日々を支え合ってきたと、思っている。
 その『アニキ』は、かっぱらいを働こうとしたところで居合わせたハンターに取り押さえられ、犯罪者として連行されていった。
 狭く、暗い世界しか知らなかった彼にとってそれは、全てを失ったに等しい絶望だったのだ。
(復讐してやる……ハンターたちに……恵まれて、力振りかざしていい気になってるだけの何も知らない連中に……思い知らせてやる……)
 思いながら、彼はふらふらと街を彷徨い。
「……すみません。ハンターオフィスは……どちらですか……?」
 その辺を歩いていた、己の姿も特に気に留めないような呑気そうな雰囲気の人間を捕まえて話しかける。
「ん? ハンターオフィスなら丁度私もこれから向かおうとしていた所だ。それなら一緒に行こう」
「……ありがとうございます……助かります……」



「姉上! 遅くなってすまなかった……姉上ぇぇぇぇぇ!?」
 ハンターオフィスでの用事が書類に不備があったとかで予想以上に手間取ってしまった彼女は、それでも急いで帰った部屋に誰も居ないことに悲鳴を上げていた。
「遅くなった時点でもしやと思ったが案の定だ! 何故大人しくしててくれとあれほど言ったのに姉上はぁぁぁ! ……いや、こうしている場合ではないな!?」
 彼女は慌ててきた道を引き返す。ハンターオフィスから戻ってきたのだから、引き返せば辿り着くのは当然ハンターオフィスである。
 そうして彼女は、一応、とばかりにオフィス内をぐるりと見まわして、まあ、居るわけがないよな、と彼女にとっては当たり前のことを確認して……そうして、叫んだと言っていいほどの声で、その辺の者に声をかけた。
「すまない! どなたか! 姉上を探すのを手伝ってはもらえないだろうか!?」
 何人かのお人好しが、何々、どうしたの、という様子でそれでも彼女に近づいてきた。
 お姉さんが行方不明? どんな人? 心当たりは? 慌てた言葉の中からそれでも状況を探り当てて、整理のための質問をする。
「う、うむ。姉上はな。我が家に代々継がれる流派の舞刀士で、才能とそれに奢らぬたゆまぬ鍛錬により一流の剣士となった、強いうえに美しい、それはそれは自慢の姉上なのだが」
 順番の質問に、彼女は口調を落ち着けて一つ一つ答え始める。落ち着いたのは口調だけなような感じもするが。
「とかく剣一筋に生きることを家も本人も是としてきた故にな。それ以外の……つまり家事だとかそれ以前の生活能力だとかその辺がだな……いや、それはいいんだ。尊敬する姉上の補佐が出来ることは私にとって誉ですらある、が」
 彼女はここで、それだけはとばかりにぐっとこぶしを握り締め、肩を震わせて言った。
「今の問題はだ! 中でも特に、方向感覚についてはどうしてそうなる!? と言いたくなるほどに壊滅的なのだ! 姉上は! その上それを全く自覚してくれないのだ!」
 はあーっと溜息が彼女から零れた。先ほどの「尊敬する姉上」と言ってからのこの表情の落差である。苦労がしのばれた。
「というわけで心当たりだったな! 状況的にここで事務手続きが遅れた私を迎えに来ようとここに向かおうとしたことは間違いない! だがそんな先入観は捨ててくれ! この辺に居るなどとは思わない方がいい! むしろここに向かおうとして何故それを目指す!? と思う方向を探した方がまだ見込みがある!」
 ……どんだけだ。
 彼女の力説には、不安しかなかった。



「あの……本当にこっちで……合ってます……?」
 どれほど歩いたのだろう。広い街だが、果たしてこんなに歩くものだろうか。
「んー。大丈夫大丈夫。妹と何回も行った事あるんだし。うん。この景色は見覚えあるし、間違いないよ」
 男が声をかけた女性は、そう言って迷いのない足取りで歩いていく。
 見覚えのある景色。男にも見覚えがあった。さっき通った気がするという意味で。
 ……もはや、街の入り口に戻る道すら分からない。男には女性の言葉を信じるしか無かった。
 不安が、疲労を加速させる。
 ──果たして、オフィスにたどり着いたころ、暴れる体力が自分に残っているのだろうか。
 伸し掛かる疑問を、彼は復讐の心を燃やすことで振り払おうとしていた。

リプレイ本文

「姉上……か……」
 自身の姉を思い浮かべながらウェグロディ(ka5723)が呟く。
(例え本人以上にしっかりした姉だとしても、この依頼者は変わらず心配するのだろうね)
 女性の必死な気持ちが彼には痛々しいほどに理解できた。先立って物騒な事件も起きたようだし、殊更心配だろうと思う。
「特徴知りたいけど、よかやか。どげん外見やろ?」
 七窪 小鈴(ka0811)もまた、女性に声をかける。
 更には初月 賢四郎(ka1046)や雀舟 玄(ka5884)等も、協力の意志のあるような視線を女性へと向けていた。
 まずは、姉妹の名前を賢四郎が尋ねる。姉の名は朝霞、自分は夕霧だと女性は答える。
 そこから、髪の色や長さ、衣服などの特徴。おおよその雰囲気や、一目でわかるような──アクセサリーといった──特徴があるかなどが質問されていく。
「うむ。姉上は私と同じ黒髪黒目だ。服もこういう東方で良くあるもので……」
 夕霧が一つ一つ答えていくのを、忘れたらマズイけん、と小鈴が聞いた端からしっかりとメモに取っていく。
 その横で、手掛かりがないなら一先ずの指針になれればと、玄が運命札を取り出して占いを始めていた。
「……むぅ」
 そうして、引いた札をどう読み解いたものかと、玄は小さく声を漏らす。
 カード占いで正確に『何処』と行くとは思ってはいなかったが、これは……。
「日常、安定などを指し示しているように思えますね。賑やかな通りではなく、閑静な住宅街とか……?」
 一先ず彼女は出たカードから感じるものをそのまま、忠実に皆に伝えた。ただ……。
「完全に住宅が並んでいる方だとすれば……随分と離れている気がするけどね」
 ウェグロディが肩を竦めて感想を述べる。
 ……そんな様子を、夢路 まよい(ka1328)が、少し遠巻きにして眺めていた。
(いくらなんでも、そのうちにはここに着くんじゃない?)
 方向感覚持ちの彼女には、方向音痴でたどり着けない、という感覚が今一つ理解できていないらしい。
「オフィスで待ってりゃいいよ、そんなの……」
「さっそく捜索開始ばい! お姉さんを無事見つけられるよう気張るけんね!!」
 まよいなりに忠告の口を挟もうとしたところで、小鈴が勢いよく立ち上がった。
「あ~あ……みんな行っちゃった」
 そして、飛び出すように出ていった小鈴を追うように連れ立っていく一行。
 まよいは、まあいいか自分はオフィスで待ち構えていればいいやと、座っていたソファに更に深く腰を落ち着けるのだった。

 そうしてオフィスを出ていったのは小鈴、ウェグロディ、賢四郎、玄の四名……だけではなかった。
「探すより来させる様にした方が良いでしょう」
 そう言って賢四郎はその場で人探しイベントだと設定しさらに周囲の人間に呼びかける。
 賞金も出す、と賢四郎が言うと、数名の人間が動いたのである。
 夕霧が、なぜ貴方がそこまで? と視線で問う。
「まあ……貴女の状況というか立場的に感ずるところが、ですかね」
 胃痛枠的な不憫さに、というところは敢えて濁して答えた。が、それ故に夕霧には今一つピンと来ていないようだ。
「それで納得できなければお節介の気紛れとでも思って下さい」
 そう言って、賢四郎は苦笑した。

 街に出た小鈴はまず目撃情報を探そうと、出店の者や休憩している者を探しては話しかける。
 そうすぐに成果は出なかった。捜索範囲が絞り込めないというのはもちろんあるが……。
 他に話しかけられそうな人は居ないかと、小鈴は周囲を見回して……そして、僅かに身を強張らせる。
 男性に話しけられない、という問題があった。彼女にとって異性は緊張を覚える存在だから。見かけても半ば逃げるように距離を取り、他の当てを探して別の通りを行く。
 それでも、女性や、男女二人連れなどを見かけると小鈴は特徴が似ていないか観察し、あるいは情報を求めて話しかける。そのうち、そういえばそれらしい人を見たかも、といった話を得られることもあった。
「そーやか。親切にありがとーばい」
 小鈴は礼を言って軽やかに歩き去っていき……。
「……そっちじゃないけどいいのかしら?」
 そして、教えた場所から真逆の方向へと歩いていく小鈴に、教えた女性は首をかしげるのだった。
 ──そう、小鈴もまた残念な方向感覚の持ち主であった。
「ちょっとここで一服するばい。少しお腹も減ったし」
 やがて歩き疲れた彼女は、目についた甘味処で一服し始める。……二次遭難の危険があると見えて、何故かこうした店にはきっちりとたどり着く彼女である。
「これとこれと……お願いすると」
 それじゃあ一先ずはと着席して、弾んだ声であれこれと注文を始める小鈴。すっかり腰を落ち着ける感じの注文量だが、現状を完全に忘れ去っているというわけでもないらしい。
「まさかこげん場所には居らんやろ。オフィスへ向かってる聞ぃーたし……なぁ」
 一応万が一を考えて、店内を見る……が、やはり、居ない。
 それならばと、窓際の席を選んで座る。外に行き交う人を見られるようにと。偶然でも、この店の前を通るかもしれない。
 やがて運ばれてきた甘味に舌鼓を打ちながら、暫くそうして彼女は窓の外を眺めていた。
 程なくして、収穫はなく彼女は席を立つ。
 結局この後も、たどり着くは喫茶店か甘味処ばかりでこの後彼女が目的の女性を見つけることもオフィスに戻ることもなかった……のは、ご愛敬である。

 ……まあつまり、もともとそんなに義理のある話でも、ましてや義務のある話でもないわけだ。
 占いを終えてオフィスを出た玄はだから、涼みに行こう、くらいの気持ちで外に出た。いい天気、歩くにはもってこいだと。
 常識にとらわれるなというのであればいっそ何処とは考えずに気ままに歩くのもありだろう。
 夏に備えて涼のとれる日用品でも探してみようか。丁度いいので和物の装飾品を扱う店なんかも……。
 本当に、思いつくままにとりとめもなく歩いて。それでも、人探しを忘れているわけでは無い。
 道行く人々に視線を送って……。
「あら」
「……やあ」
 見つけたのは、目的の女性、ではなく、同時に女性を探しに出て、一旦は別行動になったはずのウェグロディだった。
「君の占術だと、この辺かなって思ったんだけどね?」
 肩を竦めてウェグロディ。確かに、札から感じたような雰囲気の住宅街だった。なんだかんだで無意識に玄も自身の占いの結果を意識していたのかもしれない。
 だが、彼の様子からするに、現状芳しい成果は得られていないらしい。
「丁度良かった。女性の脚とはいえ酷い方向音痴とのことだからね。雀舟殿に占ってもらいながら探した方がいいかもしれない、と思って」
「ええ、それは構いませんよ。休憩がてら、一度そちらの店に入っても?」
 札を広げるならテーブルがいる。歩き疲れた頃合いでもあった。喫茶店を指し示すと、ウェグロディは頷く。
 そうして、玄が札を再び展開していくのを、ウェグロディは真剣なまなざしで見ていた。
「随分、熱心になるのですね」
 所詮、今日行き会っただけの相手の他人事、ではある。玄とて突き放しているわけでは無いが、つい、興味を持って尋ねる。
「ボクにも姉がいるからね。気持ちは想像できる気がするんだ」
 彼の答えに玄が成程、と頷き──かける前に。
「ボクは姉と離れることは無かったから、実際に依頼人のような心配をしたことは無いのだけど……けれど、そうだね……想像しただけで胸が引き裂かれそうな程の恐怖だよ」
 会えない。
 何処にいるのか、分からない。
 その間に姉の身に何が起きているのかも。
 想像してみて、ウェグロディは自然、胸元に手を当てて小さく息を吐いていた。
 零れる吐息には真実、彼がその想像を本気で怖れているのだろう痛ましさがあって。
「ええと……」
 玄の頷きと微笑みが、途中で固まる。姉、というからには彼が言う対象は彼より年上のはずで。
 それに対してこれは、ちょっとアレなそれじゃないかしら。感じながらそれを、思うだけで表には出さずにとどめる。
 微笑むウェグロディには、多少なりとも自覚はあるようだった。その上で、隠したり悪びれたりするつもりは微塵もないようだ。逆に清々しくすらある。
「無事に見つけられると良いのだけどね」
 彼はそう言って苦笑して見せた。玄はそれにただ、こくりと頷く。
 そうして、札の導き、その意味を再び考えながら二人は歩き始めた。情報交換をし、時折、賢四郎の呼びかけで同じように探している人も見つけては、それならと違う方向に向かう。
 そして。
「……あ」
 聞いた風な特徴を持つ女性が、角を曲がって歩いてきたのに鉢合わせる。ただ、聞いてはいなかった男と同行していたが。
「もしかして、朝霞さん、でしょうか?」
 玄が話しかける。
「うん? 確かに私は朝霞だけど」
「ああ良かった! 妹さんが探しておいでですよ!」
 女性の返事に、ウェグロディが感極まった声で答えた。
「ところで、そちらの男性は……?」
「ああうん、彼もオフィスに行きたいってことなんだ。それで一緒にね」
 成程、とウェグロディが頷く。
「それならお疲れのようだし、戻ってお茶の一杯でも出してもらおう」
 かくして、男と一緒にオフィスに戻ることにしたのだった。

「姉上!」
 戻ってきた朝霞に、夕霧が駆け寄っていく。無事に再会できてよかったと、事態の収束にホッと一息ついて……。
「ここが……ハンターオフィス……」
 ぼそりと、朝霞が連れてきた男が呟いた。そういえば彼の用事は何なのだろう、と何気なく何名かが振り向いて。
「偶々もらった力で……恵まれていい気になってる奴らの……此処が!」
 叫ぶなり男は手近なものを掴んで、傍に居たものに躍りかかり──
「な……あ……!?」
 そして急に動きを止めて、驚愕の声を上げた。
 ──この時、男の眼前には広大な迷路が広がっていた。漸くの思いでたどり着いたオフィスだったはずの場所から、どこか神秘的な迷宮にと、一瞬で景色が変わっていて。
『果てなき夢路に迷え……ドリームメイズ!』
 無邪気な少女のような声が、迷宮に反響する。
「なん……だ、これ……」
 男は呆然と、目の前に現れた道を進むしかなく。そうして、迷宮の奥に魂を吸い込まれていくように意識が遠ざかっていく……──
 そんな、男が見た一連の幻は。
 オフィスにいた者たちには、当然分からない。
 戦いなれたハンターたちは、それでも気配で、男が暴れようとしたところまでは察知していただろう──玄などは、まず一般人などに被害が行かないようにと咄嗟に瑞鳥符を構えていた。
 だが結局、男は突然驚きの声を上げ、そして突如倒れた。まるで訳が分からない……
「おやすみなさい、いい夢を~」
 ただ、術を仕掛けたまよいを除いては。
 色々な意味での急展開にぽかんとする一行を、少女はきょとん、と見まわして。
「なんか、暴れそうだったから咄嗟に眠らせたけど。問題だった?」
 そうして、心底不思議そうにそう尋ねる。
「ああいえ。周りも、その男も無事ですし……問題ないですね。今回は」
 ──今回は?
 答えながらごく自然にそう付け足していた──事実、彼女の今の行動はほぼ最適解だったと思うのだが。
「しかし、なんだろこれ。若い人の考えることはよくわからないね」
 それをあからさまに少女の君が言うか。
 男の傍にしゃがみ込み、ツンツンとつついている少女の姿を、賢四郎が何となくしばらく見降ろしていたのは、それだけではない気がしたが。

「……根っからの悪人や狂人とは思えないな。何があったのか話してみないか」
 揺り起こした少年に、宥め、あるいは脅すような文言も交えて賢四郎が問いただす。やがて語られた少年の事情に、賢四郎は小さく「他人だと見捨てるには目覚めが悪いな」と呟く。
 他の者は、手を貸さないし非難もしない。ただ、何か面白いことが始まるのかな? と興味深そうに視線を向けるのみだ。
 賢四郎は語る。
「現実は理不尽で不条理塗れ。問題は複雑、選択肢は無慈悲で時間制限付き──それを成り行きで生き延びていくなら運しか頼れんよ?」
 彼が朝霞と出会い、成り行きで賢四郎とこうして話すことになったのは幸運と言えるだろう。だが、それは続かない。
 非情な現実を説かれ、少年は悔しげに俯くのみだ。
「配られた手札で勝負するしか無い。が……それで真っ向勝負する必要は無いと思うがね」
 合法非合法を問わなければ、賢四郎に思いつく手段はあった。
「例えば一度どうにかして大金を手に入れて、そこから生活基盤を立て直す、だな」
「何か……デカい犯罪でも起こせってか。アニキみてえに」
 少年は暗い自嘲を浮かべた。兄より愚鈍な自分に何が出来るというのか。
「非合法な手段というのは直接他人を害するだけじゃない。例えば密輸。毒性物質の運搬や処分。新薬や新製品の実験台。知恵が無ければそれすらも不当に搾取されかねないが、交渉なら手を貸そうか」
 物騒極まりない話に、少年は青ざめた顔で、それでも真っ直ぐ、賢四郎を見ていた。
「俺は……でも……それならアニキも……?」
 自分の犠牲で、兄貴分も救えるなら。少年の瞳はそう訴えていて……賢四郎は、内心で溜息を吐いた。あるいは己のお人好しさに。
「……学が無いというのは、実際、それでもその後は厳しいだろうな。街での暮らしから離れることも考えてみたらどうだ?」
 読み書きや算術が覚束なくとも、単純に男性の労働力というだけで評価される場所はある。あとは受け入れてくれる場所が思いつくかだ。
 例えば。賢四郎はオフィスのある場所へと目を向ける。
「……へえ? 手前どもになんか質問ですかい?」
 辺境民族出身の受付嬢、アン=ズヴォーが答える。
 ──……例えば、自由を謳う遊牧民族。
「兄貴分とやらが出てくるまで、時間はあるのだろう? 辺境への旅費くらいなら、危険を伴わない仕事でいい。信頼のある人間が紹介するなら見つかるだろう」
「そんな当てがありゃ今まで……!」
 ここで、賢四郎は再度、今日一番深いため息をついた。やれやれ。やはり、理解は遅いな。
「……君が憎んだハンターという奴はね。その性質、実績から、信頼を寄せる者は多いんだよ」

(絶望したくなる程度に現実は把握してるさ)
 偶々目に付いたから助けただけ。結果が出るのはこれからで、良くなればいいがそうでなければ……仕方ないのだろう。
 全てを救えるほど楽観的でも善人でも無いとは分かっていて。
(だが、まだ諦めはつかないな……)
 だから足掻いた。目の前の理不尽に対し自分が何が出来るのかを。
(最悪の中で最善を希求する──それだけさ)

 後日。辺境方面に向かう乗合馬車に乗って旅立つ、二人の男がいた。
 一人の女性のはた迷惑な迷子騒動から始まったこの一件は、ハンターたちの手により、そんな結末を迎えるのだった。

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MVP一覧

  • 月下氷人
    七窪 小鈴ka0811
  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎ka1046

重体一覧

参加者一覧

  • 月下氷人
    七窪 小鈴(ka0811
    人間(蒼)|12才|女性|聖導士
  • 矛盾に向かう理知への敬意
    初月 賢四郎(ka1046
    人間(蒼)|29才|男性|機導師
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師

  • ウェグロディ(ka5723
    鬼|18才|男性|格闘士
  • 和歌纏う者
    雀舟 玄(ka5884
    人間(蒼)|11才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/05/11 00:18:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/09 23:16:24