ゲスト
(ka0000)
【羽冠】縁談騒動と第七街区
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/14 19:00
- 完成日
- 2018/05/21 17:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
マーロウ大公が自身の孫と王女システィーナとの政略結婚を強引に推し進めている── その事実がヘルメス情報局にすっぱ抜かれて以降、王国各地で多発していた民間運動は、遂に王都イルダーナにまで波及した。
王女を敬愛し、大公の強硬的な手法に異を唱え。或いは、貴族派の勝利により専横的な領主たちの圧政が強まることを懸念する王女支持派──
王女の早期女王就任と世継ぎの誕生──即ち、政治的安定を求めて。或いは、この難局に、大公の政治的手腕を期待して大公支持派──
双方の支持者が列を成し、自分たち臣民の声なき声を王女や大公に届ける為に、古都から、商都から、農村から、開拓村から、森から、山から、平地から──農民、商人、職人、難民、身分の別なく、王国各地から王都へ集う。
彼らの想いは純朴だ。共に王女を慕い、王国を愛し、より良き未来を希求するべく、故郷の皆を代表し、その意思を表明する為、長い旅路の果てに王都へ来た。
ただ一つ、意見を異にするのは、それを誰が担うべきかということ──
●
王都第七街区ドゥブレー地区──『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーの『自治』の下、復興を果たしてきたこの町にも、王国各地から次々とやって来る民間運動の影響が出始めていた。
「第五、第六街区で宿を取れなかった連中がこちらにも溢れて来ています。路地裏で野宿して財布をすられたり荷物を強奪された、なんてのが頻繁に事務所に押しかけ、通常業務に影響が……」
「食糧配給の列に紛れ込む余所者どもがいやがって、貰い損ねちまう街の者がいるんで何とかしてくれって陳情がひっきりなしに……」
「繁華街で酔っ払い同士の喧嘩が頻発していやす。多くは余所者同士か、或いは余所者と地元のもんらの喧嘩なんですが、よほど感情的になったのか、奴ら、棒やら角材やらまで持ち出す始末で、仲裁に入ったクラークとジェイミーが大怪我を……」
「目抜き通りの宝飾店と新規開店したばかりの大型店が略奪されました。下手人は余所者だと思われますが、情けないことに地元の連中まで便乗する始末で……」
……次々と上がって来る報告に、ドニはげんなりとした表情で頭を抱える。
「……ここだって元は難民街。元々、お上品な街なんかじゃねぇけどよ? 掘っ立て小屋に住んでた頃よりむしろ柄が悪ぃってのはどういうことだい」
「とにかく、余所者が流入してきて人が増えてやがるんです。若い衆に怪我人も続出していて、とてもじゃないが手が回らない」
腹心アンドルー・バッセルの言葉にドニは大きく溜め息を吐いた。最近は景気も良くなってきて事務所の人手も増やし、人手不足もようやく解消され始めたとこだってのに……
「失礼します! 裏通り商店街を警邏中のザックとジムが暴漢に襲われました!」
「……何?」
「路地裏で蹲って苦しがっている人を見掛けて声を掛けたところ、いきなり物陰から飛び出してきた連中に囲まれて問答無用でボコられたとか」
更に……
「ドニさん!」
「今度は何だ!?」
「第二事務所教会で朝の説法中だったシスター・メレーヌが余所者に襲われました!」
その報告を聞いた瞬間、アンドルーの顔が蒼白になった。教会に併設した第二事務所の責任者は彼である。
「シスターは!? 無事なのか?!」
「はい。絡んできた暴漢どもは、朝のお祈りに来ていた老人たちが睨みを聞かせて追い返したと……今も教会に残り、半ベソになったシスターを慰めてくれているとか」
アンドルーはホッと息を吐くと、ドニに対して向き直った。
「戻ります」
「ああ。念のため、一班連れていけ」
礼を言い、急ぎ足で部屋から出て行くアンドルー。ドニは、報告しに来た部下に警戒態勢を上げるよう指示を出すと、机の上に俯いて思考をフル回転させた。
(せいぜいがフーリガンみたいな連中だと思っていたら…… 教会のシスターを……? 奴ら正気か?)
かつて同じ『地域の実力者』であるノエル・ネトルシップのシマを奪う形となった時、ノエルの事務所への反撃を封じる為に、シスター・マリアンヌに頼み込んで教会を併設させたのはドニだった。かつて故郷を捨てての逃避行の際、父の後を継いで若くして難民たちの精神的支柱となったマリアンヌは難民たちからカリスマ的な支持を受けており、ノエルと言えどもそう易々と手を出せる者ではなかった。
そのマリアンヌから預かったシスター・メレーヌは若いというよりまだ幼いと形容できるような純朴な娘で、皆に愛されている。もし、彼女の身に何かあったら、面目が立たない。
(……いや、やはりおかしい。余所者とは言え、エクラ教徒が教会のシスターに手を出すか?)
王国の人々の信仰心は篤い。一般の人々が何の脈絡もなく朝の説法中のシスターに因縁をつけるとは考え難い。
(……これは、地域の『警察力』を担う俺たち、ドゥブレーファミリーを狙い撃ちにした攻撃と見るべきか)
ノエル一家の仕業? それにしてはどうにもやり口の毛色が違う気もするが……
調査が行われた。
骨を折られる等の重傷者こそいたものの、幸い身内に使者は無く、襲撃者の身体的特徴が聞き出せた。地元の店舗とはみかじめ的に密接なつきあいを保っており、目撃情報にも事欠かなかったのも幸いした。
やがて、襲撃犯と思われるグループの者らの定宿と思しき宿屋が判明した。彼らはそこを拠点に何らかの活動をしているようだった。
「その活動の一つが俺らに対する攻撃ってわけだ。……ノーサム商会出資の宿であるのは偶然か?」
ノーサム商会はドゥブレー地区に進出している商人たちの連合体の筆頭だ。新興商人たちの中では比較的大資本であり、これまでにも商売の独占を狙って後ろ暗い活動に手を出していた節がある。
「どうも連中の手口とも毛色が違う気がするが…… ま、何にせよ、調べりゃ分かる」
夜── ドニは集めた部下らを前に、据わった目で静かに檄を飛ばした。
「カチコむぞ。自治区長なんてもんに収まってからは随分とお上品にやって来たが、喧嘩を売られたとなりゃ話は別だ」
●
同刻、夜半。シスター・マリアンヌ・エルフェのジョアニス教会、近くの物陰──
月明りが落とした建物の陰の闇の中。潜んだ複数の人影が、教会の方を窺いながら小声で言葉を交わしていた。
「いいか。誰にも気づかれずに侵入し、シスター・マリアンヌの身柄を押さえる。お前たちは孤児院と教会に火を放て。そのどさくさに紛れて脱出する」
「へっへっへっ…… 旦那ァ、確認しやすが……他のシスターどもの身柄は確保しなくて良いんでげすね?」
「……。お前たちの好きにしろ。ただし、目標には絶対に手を出すな。彼女はこの地区の長に対する人質なんだからな」
王女を敬愛し、大公の強硬的な手法に異を唱え。或いは、貴族派の勝利により専横的な領主たちの圧政が強まることを懸念する王女支持派──
王女の早期女王就任と世継ぎの誕生──即ち、政治的安定を求めて。或いは、この難局に、大公の政治的手腕を期待して大公支持派──
双方の支持者が列を成し、自分たち臣民の声なき声を王女や大公に届ける為に、古都から、商都から、農村から、開拓村から、森から、山から、平地から──農民、商人、職人、難民、身分の別なく、王国各地から王都へ集う。
彼らの想いは純朴だ。共に王女を慕い、王国を愛し、より良き未来を希求するべく、故郷の皆を代表し、その意思を表明する為、長い旅路の果てに王都へ来た。
ただ一つ、意見を異にするのは、それを誰が担うべきかということ──
●
王都第七街区ドゥブレー地区──『地域の実力者』ドニ・ドゥブレーの『自治』の下、復興を果たしてきたこの町にも、王国各地から次々とやって来る民間運動の影響が出始めていた。
「第五、第六街区で宿を取れなかった連中がこちらにも溢れて来ています。路地裏で野宿して財布をすられたり荷物を強奪された、なんてのが頻繁に事務所に押しかけ、通常業務に影響が……」
「食糧配給の列に紛れ込む余所者どもがいやがって、貰い損ねちまう街の者がいるんで何とかしてくれって陳情がひっきりなしに……」
「繁華街で酔っ払い同士の喧嘩が頻発していやす。多くは余所者同士か、或いは余所者と地元のもんらの喧嘩なんですが、よほど感情的になったのか、奴ら、棒やら角材やらまで持ち出す始末で、仲裁に入ったクラークとジェイミーが大怪我を……」
「目抜き通りの宝飾店と新規開店したばかりの大型店が略奪されました。下手人は余所者だと思われますが、情けないことに地元の連中まで便乗する始末で……」
……次々と上がって来る報告に、ドニはげんなりとした表情で頭を抱える。
「……ここだって元は難民街。元々、お上品な街なんかじゃねぇけどよ? 掘っ立て小屋に住んでた頃よりむしろ柄が悪ぃってのはどういうことだい」
「とにかく、余所者が流入してきて人が増えてやがるんです。若い衆に怪我人も続出していて、とてもじゃないが手が回らない」
腹心アンドルー・バッセルの言葉にドニは大きく溜め息を吐いた。最近は景気も良くなってきて事務所の人手も増やし、人手不足もようやく解消され始めたとこだってのに……
「失礼します! 裏通り商店街を警邏中のザックとジムが暴漢に襲われました!」
「……何?」
「路地裏で蹲って苦しがっている人を見掛けて声を掛けたところ、いきなり物陰から飛び出してきた連中に囲まれて問答無用でボコられたとか」
更に……
「ドニさん!」
「今度は何だ!?」
「第二事務所教会で朝の説法中だったシスター・メレーヌが余所者に襲われました!」
その報告を聞いた瞬間、アンドルーの顔が蒼白になった。教会に併設した第二事務所の責任者は彼である。
「シスターは!? 無事なのか?!」
「はい。絡んできた暴漢どもは、朝のお祈りに来ていた老人たちが睨みを聞かせて追い返したと……今も教会に残り、半ベソになったシスターを慰めてくれているとか」
アンドルーはホッと息を吐くと、ドニに対して向き直った。
「戻ります」
「ああ。念のため、一班連れていけ」
礼を言い、急ぎ足で部屋から出て行くアンドルー。ドニは、報告しに来た部下に警戒態勢を上げるよう指示を出すと、机の上に俯いて思考をフル回転させた。
(せいぜいがフーリガンみたいな連中だと思っていたら…… 教会のシスターを……? 奴ら正気か?)
かつて同じ『地域の実力者』であるノエル・ネトルシップのシマを奪う形となった時、ノエルの事務所への反撃を封じる為に、シスター・マリアンヌに頼み込んで教会を併設させたのはドニだった。かつて故郷を捨てての逃避行の際、父の後を継いで若くして難民たちの精神的支柱となったマリアンヌは難民たちからカリスマ的な支持を受けており、ノエルと言えどもそう易々と手を出せる者ではなかった。
そのマリアンヌから預かったシスター・メレーヌは若いというよりまだ幼いと形容できるような純朴な娘で、皆に愛されている。もし、彼女の身に何かあったら、面目が立たない。
(……いや、やはりおかしい。余所者とは言え、エクラ教徒が教会のシスターに手を出すか?)
王国の人々の信仰心は篤い。一般の人々が何の脈絡もなく朝の説法中のシスターに因縁をつけるとは考え難い。
(……これは、地域の『警察力』を担う俺たち、ドゥブレーファミリーを狙い撃ちにした攻撃と見るべきか)
ノエル一家の仕業? それにしてはどうにもやり口の毛色が違う気もするが……
調査が行われた。
骨を折られる等の重傷者こそいたものの、幸い身内に使者は無く、襲撃者の身体的特徴が聞き出せた。地元の店舗とはみかじめ的に密接なつきあいを保っており、目撃情報にも事欠かなかったのも幸いした。
やがて、襲撃犯と思われるグループの者らの定宿と思しき宿屋が判明した。彼らはそこを拠点に何らかの活動をしているようだった。
「その活動の一つが俺らに対する攻撃ってわけだ。……ノーサム商会出資の宿であるのは偶然か?」
ノーサム商会はドゥブレー地区に進出している商人たちの連合体の筆頭だ。新興商人たちの中では比較的大資本であり、これまでにも商売の独占を狙って後ろ暗い活動に手を出していた節がある。
「どうも連中の手口とも毛色が違う気がするが…… ま、何にせよ、調べりゃ分かる」
夜── ドニは集めた部下らを前に、据わった目で静かに檄を飛ばした。
「カチコむぞ。自治区長なんてもんに収まってからは随分とお上品にやって来たが、喧嘩を売られたとなりゃ話は別だ」
●
同刻、夜半。シスター・マリアンヌ・エルフェのジョアニス教会、近くの物陰──
月明りが落とした建物の陰の闇の中。潜んだ複数の人影が、教会の方を窺いながら小声で言葉を交わしていた。
「いいか。誰にも気づかれずに侵入し、シスター・マリアンヌの身柄を押さえる。お前たちは孤児院と教会に火を放て。そのどさくさに紛れて脱出する」
「へっへっへっ…… 旦那ァ、確認しやすが……他のシスターどもの身柄は確保しなくて良いんでげすね?」
「……。お前たちの好きにしろ。ただし、目標には絶対に手を出すな。彼女はこの地区の長に対する人質なんだからな」
リプレイ本文
その日の夜半── ドニらとハンターたちは月夜の住宅街を抜け、件の宿屋の近くに集結していた。
「宿は二階建て。1階、2階共に廊下は回廊状で、外壁側に客室が並んでいます。1階は正面入り口から入ってすぐエントランスとロビーと上り階段、建物中央部は食堂、奥に裏口と厨房、従業員部屋が。2階中央部は大部屋となっています。客室は全て木窓と木扉で、共に木製の閂が掛けられる造りです」
事前に潜入させていた部下が見取り図を広げながら説明し。J・D(ka3351)がそれを見下ろしながら内部構造を頭に刻み込む。
「悪党共にもいろいろあるが、女子供をダシに使う連中は放っておけねえ。とっ捕まえてキッチリと落とし前をつけさせてやるさ」
「王都を騒がせる人たちを放っておけません!」
J・Dに続き(小声で)気合を示すUisca Amhran(ka0754)。その横で、メイム(ka2290)は桜型妖精を飛ばして宿に見張りがいないことを確認すると、自身も宿の周囲をグルっと回って、鼾や寝息、物音等で、室内に人がいないか、起きているかを『超聴覚』で確認する。
「ここと、ここと、ここの部屋の人はもう眠っているわ。他の部屋には人の気配がない…… 食堂か大部屋に集まっているのかも」
メイムの報告にドニが渋い顔をした。情報によれば客は40人以上──部屋に閉じこもってくれる分には問題はないのだが、ぶっちゃけ、襲撃犯どもと一般客の判別はできてない。
「まさか十把一絡げで制圧する気だったのかい? 乱暴だねぇ」
ドニの言葉を聞いたフワ ハヤテ(ka0004)が飄々と笑いながら提案をした。
「人手を割いて一般客と思われる客室の前に待機させておいて欲しい。巻き込まれるのを避ける為と、説明役と、見張りを兼ねて」
「あと、勝手口にも人を回して封鎖しておいてもらえると助かるかな。戸口にひも掛けて綴じるとか、角材で軽く固定するくらいで大丈夫だから!」
メイムの要請に、ドニは勝手口と外──建物の周りにも人員を配置した。窓からの逃走を見張る為だ。
「……見つかるまで、隠密行動でいきます。なるべく音は立てないように……」
皆の先頭に立ったUiscaがこっそりと扉を開けて、「おじゃましまーす……」と中を伺う。
壁掛けのランプの炎の揺れる、薄暗い吹き抜けのエントランス──無人であることを確認し、カチコミ勢が手際よく宿の中へと入り込む。
だが、直後。突然、2階の張り出し廊下に複数の人影が身を起こし。弩による射撃をこちらに浴びせかけて来た。
「待ち伏せ!?」
そう、敵はこちらの襲撃を直前で看破していた。スキル持ちの覚醒者が混じっていたからだ。
起きてたのはそういうわけか── ドニの部下たちに身を隠すよう声を掛けつつ、Uiscaは盾を掲げて矢を防ぎながら階段へ向けて走り。それを見たメイムが敢えて前に出、大音声で宣った。
「ふりぃぃず! ドゥブレー一家だ! 御用改めである! 神妙に縛につけーい!」
「マジかよ……」
その宣言は無線を通じ、別行動を取っていた(『壁歩き』で宿の外壁を上っていたのだ)J・Dもすぐに突入を開始した。
雨どいに左手を掛け、右手の散弾銃で二階の木窓を破壊し、蹴破る。同時に、中で待ち受けていた男たちが、水際で阻止すべく剣やハンガースタンドを手に襲い掛かって来た。J・Dは散弾銃の制圧射撃でその足を止めつつ、身体を振り子の様に振って中へ突入。リボルバーと拳銃とナイフを引き抜いた。銃を封じるべく間髪入れずに切りかかって来る敵2人──J・Dはナイフでそれを受けつつ、敵の太腿へ向け拳銃を発砲する……
一方、玄関──
「……強襲か。あまりこういった荒事は得意ではないんだけどね…… 仕方ない」
体内のマテリアルを循環させたハヤテが『スリープクラウド』を発動させ。瞬間、張り出し廊下の上にいた弓手たちがバタバタと倒れ、敵火力が一気に減退する。
「ッ! 魔術師がいるぞ!」
「捕縛、頼みます!」
Uiscaは一気に階段を駆け上がって倒れた弓手たちを跳び越えると、慌てて後詰にやって来た敵の只中へと得物も抜かずに飛び込んだ。
「怖くない……怖くないよ。私は敵じゃない。だから……」
「うっ……」
Uiscaの放った『慈愛の祈り』に著しく闘争心を減退させる男たち。そこへ後続してきたドニの部下らがそんな彼らを容赦なく殴る蹴るで無力化していき…… 効果範囲外にいた敵の一人が慌てて駆け戻ろうとして、それをUiscaが放った光の杭が床へと縫い付ける。
「二階の大部屋に多数の足音が集まっている……! 気を付けて!」
1階廊下──激しい物音に何事かと寝ぼけ眼で廊下を覗いて、慌てて引っ込む一般客に「ご迷惑をおかけしてま~す」と頭を提げつつ、『超聴覚』で2階の敵の動きを知ったメイムが無線で皆に報せる。
2階に上がったハヤテが廊下の角から奥を伺い、その事実を確認した。どうやら敵は大部屋に立て籠もることに決めたようだ。
時を移さず、一行は合流したJ・Dの散弾銃で大扉の蝶番を吹き飛ばし、完成する前のバリゲードを蹴散らして中へと突入する。同時に後列から放たれるハヤテの再度の『スリープクラウド』──敢えて強度を抑えて使用した眠りの雲に2人の男が抵抗し。以って、ハヤテは彼らを覚醒者と推定する。
「気を付けて。恐らくはその二人が覚醒者だ」
応じて、Uiscaは本気を出した。内なる龍の力を呼び覚まし、杖ではなく額のサークレットを発動体として、敵の周囲の空間へ闇色をした無数の龍牙や龍爪を現出させる。
「そこの二人っ! ちゃんと『受け』てください。さもないと……死んじゃいますよ!」
その力に、顔面を蒼白にした男たちが慌てて防御態勢を取り。それを確認したUiscaが術を発動。敵を空間に串刺しにして縫い付け、無力化する。
大部屋の制圧は、ハンターたちの力によって瞬く間に終了した。
1階で捕り物の終わりを一般客に告げて回っていたメイムは、しかし、二階の窓が開く音を『超聴覚』によって捉えた。──一般客が外の様子を伺う為に開けたのか? だが、次の瞬間、彼女は何か重いものがその窓の下に(落ちた、ではなく)着地した音を聞く。そして、そちらへ放たれる、ドニの部下たちが上げる誰何の声──
「Jさん!」
無線に叫ぶメイム。2階の他の部屋にも潜んでいた敵がいた。恐らくはお偉いさん。大部屋を囮とし、立て籠もっている間に二階の窓から護衛に連れられ、逃げ出した──!
「マジかよ……!」
J・Dは舌を打つと大部屋から駆け出し、部屋の窓から銃を突き出した。
「届くか……ッ!」
狙い澄ましての、銃撃──! その銃弾が、逃げる2人組の1人の脚の肉を削ぎ落し。倒れた護衛を見殺しにして逃げていくリーダーらしき男を追って、ドニの部下たちが追っていく……
ドニや一行の長い夜はまだ終わらない。宿の地下室から大量の油と武器が発見されたのだ。
「……なんだって『客室でもねえ宿屋の地下に』こんな物騒なブツがありやがる」
「ドゥブレーファミリーさんたちを落とし入れる為にしては、少々大掛かりですね…… 王都で大規模な反乱を企てる一派がいる……?」
つくづく危なっかしいモンだぜ、この街ゃァ── Uiscaと顔を見合わせながら、J・Dが大きく息を吐いた。
●
カチコミとほぼ時を同じくして── 遠く離れたジョアニス教会にも、黒尽くめの男たちによる襲撃が行われようとしていた。
音もなく敷地内に侵入し、無人の聖堂の窓を破って中から居住棟へと進行していく男たち…… だが、シスターたちが寝泊まりしているはずの大部屋は何故か無人で…… 焦りを隠し、手分けして捜索を始めた彼らは、しかし、自分たちのターゲットだけはその場に残っていたのを知って安堵した。
部屋の主の人格を忍ばせる質素な、この建物で個室── 寝台の上に寝ていた女性は、物音に目を覚ましたのか既に上半身を起こしていた。
「マリアンヌ様……」
その身体に抱きつき、震える少女。……付き人だろうか? 或いは、そういった関係の……?
「お前がシスターマリアンヌか」
男たちの一人がヅカヅカと歩み寄り、シスターが付けたウィンブルと毛布を剥ぎ取った。月光の下にシスターの素顔と寝間着姿に包まれた身体のラインが露となり、男たちが小さく下品な口笛を吹く。
「あ、あなたたちは神を恐れないのですか!? 教会を襲うなんて……!」
「……他のシスターたちはどこだ?」
怯えた少女の問いを無視して男が訊ねた。今日は孤児院で子供たちと寝ている、との答えに、男たちから失望の声が上がった。
男たちは2人を後ろ手に縛ると、集合場所である聖堂へと引っ張っていった。そこには既に、いかにも場違いな痩身の男と……いかにも凄腕といった感じの男がいた。二人は連れて来られた修道女の顔を見て、その目を大きく見開いた。
「違う。この女はシスターマリアンヌじゃない……!」
男が呟いた瞬間。か弱いはずのシスターがブチィッ、とロープを引き千切った。そして、それを保持していた男を拳でぶん殴ると、傍らの付き人の拘束を解いた。
「体型的にマリアンヌさんとは違うところもありましたが……どうやら上手くいったようで何よりです」
手首をさすりながらシスターの豊かな胸部をジト目で見やりつつ、付き人──サクラ・エルフリード(ka2598)がやれやれと息を吐いた。
驚く男たちに、替え玉役のシレークス(ka0752)がニヤリと極悪な笑みを返して、告げる。
「光よ、憐れみ給えです…… てめぇら、五体満足でここから出られると思うなです」
数日前の昼の事。ジョアニス教会も襲われる可能性を危惧したドニに頼まれて警護に来たハンターたちは、シレークス持参のクッキーを土産に紅茶の席を囲んでいた。
「……ここが襲われるとしたら……狙いは私でしょうね」
物憂げに目を伏せるマリアンヌ。ディーナ・フェルミ(ka5843)とサクラが告げる。
「……荒事になる可能性が高いと思うの。その時、子供達がパニックを起こして怪我したら目も当てられないの……」
「なので、可能であればシスターや子供たちには同じ建物で寝起きをして貰いたいのです」
ハンターたちの説得をマリアンヌは受け入れた。そして、子供たちを孤児院から教室に移し、そこで寝泊まりさせることにした。
「最近歪虚騒動がいろんな町で起きてるの。だからちょっと避難訓練してみましょうなの」
ディーナは子供たちを年長と年少、2人組のバディを組ませて、言った。──一人で行動しない事。ペアの子が見つからない時はシスターに報告すること──良くできたらみんなにおやつを上げるとディーナが続け、子供たちから歓声が上がる。
「これは真面目な話、ちゃんと先生たちや年下の子たちを守るんだぞ……?」
子供らの布団を幾つか纏めて担ぎながら、クルス(ka3922)が年長組の子らの目を見て、しっかり見ているよう言い聞かせた。年下の子らの面倒や戸締りの徹底、何かあったらすぐに大人を呼ぶこと等々──年長組の子らはその信頼に応えるべく大人びた瞳で大きく頷く。
そして、襲撃当夜──
孤児院の屋根の上に腹這いになって周囲を警戒していたディーナは、月下、孤児院へ向かって縦列で駆けて来る黒尽くめの男らに気付いてそちらに双眼鏡を向けると、敷地内の見回りから戻ったばかりのクルスに無線を入れた。
「4人、孤児院に向かって来るの。裏庭側の生垣沿い。一人は大きな樽を背負っているの」
子供たちが誰も夜中に抜け出さず、ちゃんと言うことを聞いてくれたことに安堵しつつ仮眠用のベッドに潜り掛けていたクルスは、寝入りばなの襲撃に舌を打つと得物を手に部屋を飛び出す。
教会の替え玉組からは無線機をON・OFFするカチカチッという音だけが返って来た。どうやら居住棟にも敵が侵入したようだ。教室の方には……向かっていないらしく、ディーナはホッと息を吐く。
……進行してきた男たちは孤児院の傍で樽を下ろすと、その中身を孤児院の壁に向かって掛け始めた。そして、全員分の松明に火を点けると、液体を掛けた壁へと近づいて……
「何をしているの!?」
屋根の上から降り落ちて来た声に、男たちは仰天し、硬直した。思わず声を上げてしまったディーナが屋根から飛び降り、建物と男たちの間に割り込むように着地する。
「放火だと……? いやいや、流石にそれは不味いだろ。教会に手を出すのも不味い。常識的に考えて」
駆けつけ、呆れた様に告げるクルス。男たちが剣を抜き、二手に分かれてハンターたちに斬りつけて来る。
「……そう、何が不味いって、お前らの身の安全が不味い」
言うなり、クルスは切りかかって来た一撃を籠手で受け止めると、逆に押し込んで転倒させて。切りかかって来たもう一人の右腕を戦槌で逆薙ぎに殴打した。骨を折られて悲鳴を上げる男の顎へ石突叩き込んで気絶させ、残る一人が立ち上がる前に柄頭を突きつけ、降伏させる。
クルスが片を付けた頃には、ディーナもまた賊たちを無数の闇の刃で拘束していた。2人は賊らの無力化を済ませた上で孤児院の一室へと閉じ込めると、サクラとシレークスを援護する為、教会へと駆け向かう。
「逃しませんよ……? 筋肉の光に魅入られてください……!」
「ぎゃああぁぁ……!」
サクラの筋肉がポージングと共に唸りを上げて光を放ち、それを浴びた男たちが悶絶し。そこへ踏み込んだシレークスがフンッ、と肝臓に抉り込む様な拳を突き入れる。寝間着姿のシスター2人に武器を持った男たちが蹴散らされる様は……何と言うか地獄絵図だった。
ご愁傷様、と心中で呟くクルス。そこへお偉いさんらしき貧相な男を庇った凄腕らしき男が聖堂の中から飛び出して来た。
「……あんたは手加減しなくてよさそうだな」
クルスが笑みもなく呟き、前に出ると、戦士は背後に庇った男に告げた。
「……失敗です。逃げてください」
「そんな! 何とかしろ! 私の面子が立たぬではないか!」
……クルスとディーナは敵覚醒者に心底同情しつつ戦闘に入った。すぐに聖堂からサクラとシレークスも飛び出して来て……襲撃者たちは全員、生きたまま捕らえられた。
「どうやら宿屋の制圧も上手くいったようだ」
夜明け前── 走って来た伝令からそれを知らされたクルスが仲間たちを振り返り、報告する。
ディーナは襲撃者たちの怪我をヒーリングスフィアで癒している。……その襲撃者たちは皆、サクラの手によって亀甲縛りにされていた。
尋問が始まった。
男たちは何も知らなかった。覚醒者は何も喋らなかった。
リーダーの男もまた同様に。しかし、どこぞの貴族のものと思しき紋章の入ったブツを所持しており……
「これはいったいどういうことか……」
ハンターたちは互いに顔を見合わせた。
「宿は二階建て。1階、2階共に廊下は回廊状で、外壁側に客室が並んでいます。1階は正面入り口から入ってすぐエントランスとロビーと上り階段、建物中央部は食堂、奥に裏口と厨房、従業員部屋が。2階中央部は大部屋となっています。客室は全て木窓と木扉で、共に木製の閂が掛けられる造りです」
事前に潜入させていた部下が見取り図を広げながら説明し。J・D(ka3351)がそれを見下ろしながら内部構造を頭に刻み込む。
「悪党共にもいろいろあるが、女子供をダシに使う連中は放っておけねえ。とっ捕まえてキッチリと落とし前をつけさせてやるさ」
「王都を騒がせる人たちを放っておけません!」
J・Dに続き(小声で)気合を示すUisca Amhran(ka0754)。その横で、メイム(ka2290)は桜型妖精を飛ばして宿に見張りがいないことを確認すると、自身も宿の周囲をグルっと回って、鼾や寝息、物音等で、室内に人がいないか、起きているかを『超聴覚』で確認する。
「ここと、ここと、ここの部屋の人はもう眠っているわ。他の部屋には人の気配がない…… 食堂か大部屋に集まっているのかも」
メイムの報告にドニが渋い顔をした。情報によれば客は40人以上──部屋に閉じこもってくれる分には問題はないのだが、ぶっちゃけ、襲撃犯どもと一般客の判別はできてない。
「まさか十把一絡げで制圧する気だったのかい? 乱暴だねぇ」
ドニの言葉を聞いたフワ ハヤテ(ka0004)が飄々と笑いながら提案をした。
「人手を割いて一般客と思われる客室の前に待機させておいて欲しい。巻き込まれるのを避ける為と、説明役と、見張りを兼ねて」
「あと、勝手口にも人を回して封鎖しておいてもらえると助かるかな。戸口にひも掛けて綴じるとか、角材で軽く固定するくらいで大丈夫だから!」
メイムの要請に、ドニは勝手口と外──建物の周りにも人員を配置した。窓からの逃走を見張る為だ。
「……見つかるまで、隠密行動でいきます。なるべく音は立てないように……」
皆の先頭に立ったUiscaがこっそりと扉を開けて、「おじゃましまーす……」と中を伺う。
壁掛けのランプの炎の揺れる、薄暗い吹き抜けのエントランス──無人であることを確認し、カチコミ勢が手際よく宿の中へと入り込む。
だが、直後。突然、2階の張り出し廊下に複数の人影が身を起こし。弩による射撃をこちらに浴びせかけて来た。
「待ち伏せ!?」
そう、敵はこちらの襲撃を直前で看破していた。スキル持ちの覚醒者が混じっていたからだ。
起きてたのはそういうわけか── ドニの部下たちに身を隠すよう声を掛けつつ、Uiscaは盾を掲げて矢を防ぎながら階段へ向けて走り。それを見たメイムが敢えて前に出、大音声で宣った。
「ふりぃぃず! ドゥブレー一家だ! 御用改めである! 神妙に縛につけーい!」
「マジかよ……」
その宣言は無線を通じ、別行動を取っていた(『壁歩き』で宿の外壁を上っていたのだ)J・Dもすぐに突入を開始した。
雨どいに左手を掛け、右手の散弾銃で二階の木窓を破壊し、蹴破る。同時に、中で待ち受けていた男たちが、水際で阻止すべく剣やハンガースタンドを手に襲い掛かって来た。J・Dは散弾銃の制圧射撃でその足を止めつつ、身体を振り子の様に振って中へ突入。リボルバーと拳銃とナイフを引き抜いた。銃を封じるべく間髪入れずに切りかかって来る敵2人──J・Dはナイフでそれを受けつつ、敵の太腿へ向け拳銃を発砲する……
一方、玄関──
「……強襲か。あまりこういった荒事は得意ではないんだけどね…… 仕方ない」
体内のマテリアルを循環させたハヤテが『スリープクラウド』を発動させ。瞬間、張り出し廊下の上にいた弓手たちがバタバタと倒れ、敵火力が一気に減退する。
「ッ! 魔術師がいるぞ!」
「捕縛、頼みます!」
Uiscaは一気に階段を駆け上がって倒れた弓手たちを跳び越えると、慌てて後詰にやって来た敵の只中へと得物も抜かずに飛び込んだ。
「怖くない……怖くないよ。私は敵じゃない。だから……」
「うっ……」
Uiscaの放った『慈愛の祈り』に著しく闘争心を減退させる男たち。そこへ後続してきたドニの部下らがそんな彼らを容赦なく殴る蹴るで無力化していき…… 効果範囲外にいた敵の一人が慌てて駆け戻ろうとして、それをUiscaが放った光の杭が床へと縫い付ける。
「二階の大部屋に多数の足音が集まっている……! 気を付けて!」
1階廊下──激しい物音に何事かと寝ぼけ眼で廊下を覗いて、慌てて引っ込む一般客に「ご迷惑をおかけしてま~す」と頭を提げつつ、『超聴覚』で2階の敵の動きを知ったメイムが無線で皆に報せる。
2階に上がったハヤテが廊下の角から奥を伺い、その事実を確認した。どうやら敵は大部屋に立て籠もることに決めたようだ。
時を移さず、一行は合流したJ・Dの散弾銃で大扉の蝶番を吹き飛ばし、完成する前のバリゲードを蹴散らして中へと突入する。同時に後列から放たれるハヤテの再度の『スリープクラウド』──敢えて強度を抑えて使用した眠りの雲に2人の男が抵抗し。以って、ハヤテは彼らを覚醒者と推定する。
「気を付けて。恐らくはその二人が覚醒者だ」
応じて、Uiscaは本気を出した。内なる龍の力を呼び覚まし、杖ではなく額のサークレットを発動体として、敵の周囲の空間へ闇色をした無数の龍牙や龍爪を現出させる。
「そこの二人っ! ちゃんと『受け』てください。さもないと……死んじゃいますよ!」
その力に、顔面を蒼白にした男たちが慌てて防御態勢を取り。それを確認したUiscaが術を発動。敵を空間に串刺しにして縫い付け、無力化する。
大部屋の制圧は、ハンターたちの力によって瞬く間に終了した。
1階で捕り物の終わりを一般客に告げて回っていたメイムは、しかし、二階の窓が開く音を『超聴覚』によって捉えた。──一般客が外の様子を伺う為に開けたのか? だが、次の瞬間、彼女は何か重いものがその窓の下に(落ちた、ではなく)着地した音を聞く。そして、そちらへ放たれる、ドニの部下たちが上げる誰何の声──
「Jさん!」
無線に叫ぶメイム。2階の他の部屋にも潜んでいた敵がいた。恐らくはお偉いさん。大部屋を囮とし、立て籠もっている間に二階の窓から護衛に連れられ、逃げ出した──!
「マジかよ……!」
J・Dは舌を打つと大部屋から駆け出し、部屋の窓から銃を突き出した。
「届くか……ッ!」
狙い澄ましての、銃撃──! その銃弾が、逃げる2人組の1人の脚の肉を削ぎ落し。倒れた護衛を見殺しにして逃げていくリーダーらしき男を追って、ドニの部下たちが追っていく……
ドニや一行の長い夜はまだ終わらない。宿の地下室から大量の油と武器が発見されたのだ。
「……なんだって『客室でもねえ宿屋の地下に』こんな物騒なブツがありやがる」
「ドゥブレーファミリーさんたちを落とし入れる為にしては、少々大掛かりですね…… 王都で大規模な反乱を企てる一派がいる……?」
つくづく危なっかしいモンだぜ、この街ゃァ── Uiscaと顔を見合わせながら、J・Dが大きく息を吐いた。
●
カチコミとほぼ時を同じくして── 遠く離れたジョアニス教会にも、黒尽くめの男たちによる襲撃が行われようとしていた。
音もなく敷地内に侵入し、無人の聖堂の窓を破って中から居住棟へと進行していく男たち…… だが、シスターたちが寝泊まりしているはずの大部屋は何故か無人で…… 焦りを隠し、手分けして捜索を始めた彼らは、しかし、自分たちのターゲットだけはその場に残っていたのを知って安堵した。
部屋の主の人格を忍ばせる質素な、この建物で個室── 寝台の上に寝ていた女性は、物音に目を覚ましたのか既に上半身を起こしていた。
「マリアンヌ様……」
その身体に抱きつき、震える少女。……付き人だろうか? 或いは、そういった関係の……?
「お前がシスターマリアンヌか」
男たちの一人がヅカヅカと歩み寄り、シスターが付けたウィンブルと毛布を剥ぎ取った。月光の下にシスターの素顔と寝間着姿に包まれた身体のラインが露となり、男たちが小さく下品な口笛を吹く。
「あ、あなたたちは神を恐れないのですか!? 教会を襲うなんて……!」
「……他のシスターたちはどこだ?」
怯えた少女の問いを無視して男が訊ねた。今日は孤児院で子供たちと寝ている、との答えに、男たちから失望の声が上がった。
男たちは2人を後ろ手に縛ると、集合場所である聖堂へと引っ張っていった。そこには既に、いかにも場違いな痩身の男と……いかにも凄腕といった感じの男がいた。二人は連れて来られた修道女の顔を見て、その目を大きく見開いた。
「違う。この女はシスターマリアンヌじゃない……!」
男が呟いた瞬間。か弱いはずのシスターがブチィッ、とロープを引き千切った。そして、それを保持していた男を拳でぶん殴ると、傍らの付き人の拘束を解いた。
「体型的にマリアンヌさんとは違うところもありましたが……どうやら上手くいったようで何よりです」
手首をさすりながらシスターの豊かな胸部をジト目で見やりつつ、付き人──サクラ・エルフリード(ka2598)がやれやれと息を吐いた。
驚く男たちに、替え玉役のシレークス(ka0752)がニヤリと極悪な笑みを返して、告げる。
「光よ、憐れみ給えです…… てめぇら、五体満足でここから出られると思うなです」
数日前の昼の事。ジョアニス教会も襲われる可能性を危惧したドニに頼まれて警護に来たハンターたちは、シレークス持参のクッキーを土産に紅茶の席を囲んでいた。
「……ここが襲われるとしたら……狙いは私でしょうね」
物憂げに目を伏せるマリアンヌ。ディーナ・フェルミ(ka5843)とサクラが告げる。
「……荒事になる可能性が高いと思うの。その時、子供達がパニックを起こして怪我したら目も当てられないの……」
「なので、可能であればシスターや子供たちには同じ建物で寝起きをして貰いたいのです」
ハンターたちの説得をマリアンヌは受け入れた。そして、子供たちを孤児院から教室に移し、そこで寝泊まりさせることにした。
「最近歪虚騒動がいろんな町で起きてるの。だからちょっと避難訓練してみましょうなの」
ディーナは子供たちを年長と年少、2人組のバディを組ませて、言った。──一人で行動しない事。ペアの子が見つからない時はシスターに報告すること──良くできたらみんなにおやつを上げるとディーナが続け、子供たちから歓声が上がる。
「これは真面目な話、ちゃんと先生たちや年下の子たちを守るんだぞ……?」
子供らの布団を幾つか纏めて担ぎながら、クルス(ka3922)が年長組の子らの目を見て、しっかり見ているよう言い聞かせた。年下の子らの面倒や戸締りの徹底、何かあったらすぐに大人を呼ぶこと等々──年長組の子らはその信頼に応えるべく大人びた瞳で大きく頷く。
そして、襲撃当夜──
孤児院の屋根の上に腹這いになって周囲を警戒していたディーナは、月下、孤児院へ向かって縦列で駆けて来る黒尽くめの男らに気付いてそちらに双眼鏡を向けると、敷地内の見回りから戻ったばかりのクルスに無線を入れた。
「4人、孤児院に向かって来るの。裏庭側の生垣沿い。一人は大きな樽を背負っているの」
子供たちが誰も夜中に抜け出さず、ちゃんと言うことを聞いてくれたことに安堵しつつ仮眠用のベッドに潜り掛けていたクルスは、寝入りばなの襲撃に舌を打つと得物を手に部屋を飛び出す。
教会の替え玉組からは無線機をON・OFFするカチカチッという音だけが返って来た。どうやら居住棟にも敵が侵入したようだ。教室の方には……向かっていないらしく、ディーナはホッと息を吐く。
……進行してきた男たちは孤児院の傍で樽を下ろすと、その中身を孤児院の壁に向かって掛け始めた。そして、全員分の松明に火を点けると、液体を掛けた壁へと近づいて……
「何をしているの!?」
屋根の上から降り落ちて来た声に、男たちは仰天し、硬直した。思わず声を上げてしまったディーナが屋根から飛び降り、建物と男たちの間に割り込むように着地する。
「放火だと……? いやいや、流石にそれは不味いだろ。教会に手を出すのも不味い。常識的に考えて」
駆けつけ、呆れた様に告げるクルス。男たちが剣を抜き、二手に分かれてハンターたちに斬りつけて来る。
「……そう、何が不味いって、お前らの身の安全が不味い」
言うなり、クルスは切りかかって来た一撃を籠手で受け止めると、逆に押し込んで転倒させて。切りかかって来たもう一人の右腕を戦槌で逆薙ぎに殴打した。骨を折られて悲鳴を上げる男の顎へ石突叩き込んで気絶させ、残る一人が立ち上がる前に柄頭を突きつけ、降伏させる。
クルスが片を付けた頃には、ディーナもまた賊たちを無数の闇の刃で拘束していた。2人は賊らの無力化を済ませた上で孤児院の一室へと閉じ込めると、サクラとシレークスを援護する為、教会へと駆け向かう。
「逃しませんよ……? 筋肉の光に魅入られてください……!」
「ぎゃああぁぁ……!」
サクラの筋肉がポージングと共に唸りを上げて光を放ち、それを浴びた男たちが悶絶し。そこへ踏み込んだシレークスがフンッ、と肝臓に抉り込む様な拳を突き入れる。寝間着姿のシスター2人に武器を持った男たちが蹴散らされる様は……何と言うか地獄絵図だった。
ご愁傷様、と心中で呟くクルス。そこへお偉いさんらしき貧相な男を庇った凄腕らしき男が聖堂の中から飛び出して来た。
「……あんたは手加減しなくてよさそうだな」
クルスが笑みもなく呟き、前に出ると、戦士は背後に庇った男に告げた。
「……失敗です。逃げてください」
「そんな! 何とかしろ! 私の面子が立たぬではないか!」
……クルスとディーナは敵覚醒者に心底同情しつつ戦闘に入った。すぐに聖堂からサクラとシレークスも飛び出して来て……襲撃者たちは全員、生きたまま捕らえられた。
「どうやら宿屋の制圧も上手くいったようだ」
夜明け前── 走って来た伝令からそれを知らされたクルスが仲間たちを振り返り、報告する。
ディーナは襲撃者たちの怪我をヒーリングスフィアで癒している。……その襲撃者たちは皆、サクラの手によって亀甲縛りにされていた。
尋問が始まった。
男たちは何も知らなかった。覚醒者は何も喋らなかった。
リーダーの男もまた同様に。しかし、どこぞの貴族のものと思しき紋章の入ったブツを所持しており……
「これはいったいどういうことか……」
ハンターたちは互いに顔を見合わせた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 12人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/12 21:31:58 |
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相談です・・・ サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/05/14 17:42:11 |