ゲスト
(ka0000)
提案・村祭り!
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2018/05/17 22:00
- 完成日
- 2018/05/29 00:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「退屈だわ……」
閑散とした食堂にポツリと響く声。そう、響くのだ。小さな声が、石造りの古い古い城の食堂広間に反響するからだ。
「そうだね」
『なぁ〜……』
リタの膝に乗ったゆぐでぃんも、どうしようもなくやる気のない声で応える。いや欠伸かこれは。
「退屈というのは、暇ということね」
「そうだね、暇だね」
「お客さんも何人かはいるけどね、あたしたにできる仕事ないわね」
このどうしようもなく実りのない会話を成立させているのは、リタとエマの姉妹。田舎からハンター志望でリゼリオに出てから、とある老夫婦にくっついてやって来たこの土地で、忘れられていた古城を整備して、今ここに住み着いている。
その古城、姉妹がたどり着いた時にはゴブリンどもの住処になっていて、村人は村を放棄して避難、廃村の危機に陥っていたのだ。そんな村放棄してしまえば良かったのだが、そうもいかなかった。この村は彼女たちを連れて来た(正確には彼女たちが付いて来た)老夫婦の生まれ故郷だったからだ。古城をねぐらにしているゴブリンたちは、村の畑やすでに逃げ出し空っぽになった村人の家を好き放題に荒らしまくっていた。
リタは持ち前の責任感とお節介、無謀な行動力で妹のエマを従えて、ハンターを集い、ゴブリン退治に乗り出した。参加してくれたハンター達の見事な活躍で、古城に潜むゴブリン、そしてコボルトを殲滅した。さらにリタが提案したのは、この古城を宿泊施設として開放することだった。
姉妹の場違いなほどに明るいテンションとアイディア、行動力に触発された村人達が、荒れ放題だった古城の修繕に乗り出した。近隣の町に避難していた村人達も徐々に戻り、荒れ果てた畑や水路の整備、さらには新しく家まで建てて、元のように住める状態にまで戻してしまった。……人間の行動力ってすごい。
そして古城の整備は滞りなく終わった(はず……)。いくつかある古城の部屋は、宿泊で利用することさえできるまでに整備されている。経営のノウハウなど持っていない彼女たちにしては、頑張っている方だと思う。
ただ経営の素人だ。部屋ごとにグレードを設定して、宿泊料金を決定しているのだが、客の満足度が低い。……そりゃそうだろう。専門家ではないのだから。
●
「ここを通過する旅人さんとか、噂を聞いて来てくれた旅の人とかは何人かいるけど、パッとしないのよねぇ」
リタが言うのは、古城をより利用しやすくするための改定案のことだ。お客さんの反応を見て改善すべきところを模索しているのだ。だがパッとしたアイディアが出ていないのが現状だった。
「それが退屈っていうのに繋がるんだね。で? 何か案があるの?」
話を進めようと、エマが聞いてみる。
木々の緑が眩しい季節。これからどんどん深みを増して、実りの秋のために貪欲に栄養を蓄積させるための、緑の時期。
「ふっ……よく聞いてくれたわねっ!」
がたあぁんっ! と、勢いよく椅子を蹴飛ばし立ち上がると、いつものように片手で握り拳を振り上げて、自信満々言い切った。
「祭りよ!」
「お祭りぃ?」
エマの声が素っ頓狂に響き渡った。その瞬間に彼女たちの後ろから気配もなくイル婆特製のゆぐでぃらまん(通称ゆぐまん。他にもゴブまんがある。美味しい)が振舞われた。慣れた様子で、姉妹はナチュラルに手を出してそれとお茶を受け取り、何の躊躇いもなく口に運ぶ。
「お祭りって言ったって……故郷の田舎でやってたやつのことでしょ?」
「そうよ! これからの季節、畑の豊穣と人々の健康を願って行う祭り! この村に必要なのは活気よ! そうすれば人も集まるし、宿泊施設を経営する才能を持った人もきっと出てくるわ。それから、集まってくれた人たちの意見とかも聞いて、もっと過ごしやすい古城ホテルに改革することもできるのよっ!」
あらぬ方向を見つめながら握りこぶしを振りかざすいつものポーズで、いつものごとく自信満々に言い切った。……リタが言い出したことは、これまでの経験からほとんど必ずと言っていいほど実現してしまう。
「……って言っても、田舎でやってたお祭りって、ただ獲ってきた食材とか村人が持ち寄った食材を使ってお料理作ったり、簡単な音楽に合わせて踊ったりするくらいのものだったよね」
「そうよ。それをこの村風にアレンジして、周辺で取れる食材を使った料理とか、屋台出してもいいかもしれないし、なんなら普段解放してない古城の武器庫なんかも解放してもいいかもね」
ふうむなるほど……と、エマはこの一瞬で今できる祭りの準備をはや具体的にシミュレートしていた。
「ほほう……祭りか」
「ガーゴ爺ちゃん!」
やはり気配もなしに近づいてきていたガーゴ爺が、興味深そうな声で参加してくる。この分だと、ガーゴ爺さんが参加してくれるのも時間の問題だろう。そして、彼らの共通の友人、リブ爺もなかなかの戦力として数に入れておこう。
●
「まずは周りにお祭りのことを宣伝するのよっ! 当然ハンターオフィスにもチラシ貼ってくるわね! この際だから、いろんな世界を見てるハンターさんとか、ハンターさんの地元の料理なんかもできたら面白いわよね」
うきうきしているのはリタもエマも一緒だった。
「シメはやっぱり月夜のダンスパーティーよねっ! これは屋上で決定ね!」
「お姉ちゃん、地味に上手だもんね」
「あなたは音痴だったかしら」
「……それは言わないで」
それはともかく、心機一転、古城を取り囲むこの村に、一つの風習とも呼べるものが誕生しつつあった。
「退屈だわ……」
閑散とした食堂にポツリと響く声。そう、響くのだ。小さな声が、石造りの古い古い城の食堂広間に反響するからだ。
「そうだね」
『なぁ〜……』
リタの膝に乗ったゆぐでぃんも、どうしようもなくやる気のない声で応える。いや欠伸かこれは。
「退屈というのは、暇ということね」
「そうだね、暇だね」
「お客さんも何人かはいるけどね、あたしたにできる仕事ないわね」
このどうしようもなく実りのない会話を成立させているのは、リタとエマの姉妹。田舎からハンター志望でリゼリオに出てから、とある老夫婦にくっついてやって来たこの土地で、忘れられていた古城を整備して、今ここに住み着いている。
その古城、姉妹がたどり着いた時にはゴブリンどもの住処になっていて、村人は村を放棄して避難、廃村の危機に陥っていたのだ。そんな村放棄してしまえば良かったのだが、そうもいかなかった。この村は彼女たちを連れて来た(正確には彼女たちが付いて来た)老夫婦の生まれ故郷だったからだ。古城をねぐらにしているゴブリンたちは、村の畑やすでに逃げ出し空っぽになった村人の家を好き放題に荒らしまくっていた。
リタは持ち前の責任感とお節介、無謀な行動力で妹のエマを従えて、ハンターを集い、ゴブリン退治に乗り出した。参加してくれたハンター達の見事な活躍で、古城に潜むゴブリン、そしてコボルトを殲滅した。さらにリタが提案したのは、この古城を宿泊施設として開放することだった。
姉妹の場違いなほどに明るいテンションとアイディア、行動力に触発された村人達が、荒れ放題だった古城の修繕に乗り出した。近隣の町に避難していた村人達も徐々に戻り、荒れ果てた畑や水路の整備、さらには新しく家まで建てて、元のように住める状態にまで戻してしまった。……人間の行動力ってすごい。
そして古城の整備は滞りなく終わった(はず……)。いくつかある古城の部屋は、宿泊で利用することさえできるまでに整備されている。経営のノウハウなど持っていない彼女たちにしては、頑張っている方だと思う。
ただ経営の素人だ。部屋ごとにグレードを設定して、宿泊料金を決定しているのだが、客の満足度が低い。……そりゃそうだろう。専門家ではないのだから。
●
「ここを通過する旅人さんとか、噂を聞いて来てくれた旅の人とかは何人かいるけど、パッとしないのよねぇ」
リタが言うのは、古城をより利用しやすくするための改定案のことだ。お客さんの反応を見て改善すべきところを模索しているのだ。だがパッとしたアイディアが出ていないのが現状だった。
「それが退屈っていうのに繋がるんだね。で? 何か案があるの?」
話を進めようと、エマが聞いてみる。
木々の緑が眩しい季節。これからどんどん深みを増して、実りの秋のために貪欲に栄養を蓄積させるための、緑の時期。
「ふっ……よく聞いてくれたわねっ!」
がたあぁんっ! と、勢いよく椅子を蹴飛ばし立ち上がると、いつものように片手で握り拳を振り上げて、自信満々言い切った。
「祭りよ!」
「お祭りぃ?」
エマの声が素っ頓狂に響き渡った。その瞬間に彼女たちの後ろから気配もなくイル婆特製のゆぐでぃらまん(通称ゆぐまん。他にもゴブまんがある。美味しい)が振舞われた。慣れた様子で、姉妹はナチュラルに手を出してそれとお茶を受け取り、何の躊躇いもなく口に運ぶ。
「お祭りって言ったって……故郷の田舎でやってたやつのことでしょ?」
「そうよ! これからの季節、畑の豊穣と人々の健康を願って行う祭り! この村に必要なのは活気よ! そうすれば人も集まるし、宿泊施設を経営する才能を持った人もきっと出てくるわ。それから、集まってくれた人たちの意見とかも聞いて、もっと過ごしやすい古城ホテルに改革することもできるのよっ!」
あらぬ方向を見つめながら握りこぶしを振りかざすいつものポーズで、いつものごとく自信満々に言い切った。……リタが言い出したことは、これまでの経験からほとんど必ずと言っていいほど実現してしまう。
「……って言っても、田舎でやってたお祭りって、ただ獲ってきた食材とか村人が持ち寄った食材を使ってお料理作ったり、簡単な音楽に合わせて踊ったりするくらいのものだったよね」
「そうよ。それをこの村風にアレンジして、周辺で取れる食材を使った料理とか、屋台出してもいいかもしれないし、なんなら普段解放してない古城の武器庫なんかも解放してもいいかもね」
ふうむなるほど……と、エマはこの一瞬で今できる祭りの準備をはや具体的にシミュレートしていた。
「ほほう……祭りか」
「ガーゴ爺ちゃん!」
やはり気配もなしに近づいてきていたガーゴ爺が、興味深そうな声で参加してくる。この分だと、ガーゴ爺さんが参加してくれるのも時間の問題だろう。そして、彼らの共通の友人、リブ爺もなかなかの戦力として数に入れておこう。
●
「まずは周りにお祭りのことを宣伝するのよっ! 当然ハンターオフィスにもチラシ貼ってくるわね! この際だから、いろんな世界を見てるハンターさんとか、ハンターさんの地元の料理なんかもできたら面白いわよね」
うきうきしているのはリタもエマも一緒だった。
「シメはやっぱり月夜のダンスパーティーよねっ! これは屋上で決定ね!」
「お姉ちゃん、地味に上手だもんね」
「あなたは音痴だったかしら」
「……それは言わないで」
それはともかく、心機一転、古城を取り囲むこの村に、一つの風習とも呼べるものが誕生しつつあった。
リプレイ本文
●
つい先日まで閑散としていた古城の食堂広間。テーブル席は全て埋まり、立ち見の者もいる。……この村こんなに人口多かったんだ……。
「ほらお姉ちゃん、説明お願い」
エマに言われて、リタがちょっとばかり緊張した様子で進み出る。咳払いをして、リタは集まった人々の視線の前に立つ。
「挨拶って苦手だから早速本題に入るけど、3日後の満月の日に村祭りを開催しようと思っているの。あたしたちの故郷では、豊穣と健康を願う行事になっていたわ。実はすでにハンターさんも応援も来てくれてるのよ!」
言ってテーブルの一つを示す。今度はハンターたちが立ち上がった。
「こちら、レイア・アローネ(ka4082)さん」
「ハンターオフィスのビラを見て手伝えないかと思って来たんだ。ハンターで剣士のレイアだ。宜しく」
村人たちの注目が集まる中、少々照れくさそうに自己紹介するレイア。拍手の後、エマが順に紹介していく。
「神紅=アルザード(ka6134)です。お祭り楽しそうね! 腕振るっちゃうわよ!」
「ボクは紅咬 暮刃(ka6298)紅咬 暮刃。こちらこそ宜しくね。この古城も村もなかなか面白そうだね」
キョロキョロと城内を見渡し、ワクワクムードの真紅と暮刃。
「無道(ka7139)だ。うむ、こういうのもハンターの大事な仕事。頑張って盛り上げようか」
彼もまたやる気十分だった。
村人も一様にそわそわした空気に包まれていた。すでに彼女の思いつき発案から始まる行事は村の日常と化していた。少なからず楽しんでいる。
「まずは具体的に何をするかを決めていくわよ!」
「なんといっても呼び込みね! たくさんの人に集まってもらいたいし、頑張っちゃうわよ!」
神紅の提案は最も重要なポイントだ。お客がいなければ内輪だけの催し物になってしまう。
「お、それならボクも便乗しちゃおうかな」
乗り気だったのは暮刃だ。
「料理にもこの村らしい感じを出したいな。食料調達はどうしているのだ?」
確かに、地域に根ざした料理がメインの一つになるのは間違いない。
「食材は畑で採れたものとか、森や湖で獲れたものを使っていますね。村の食材で足りないものは隣町に買いに行ったりとかして調達してますけど」
エマが補足する。
「ならば森への狩りは私が行こう」
レイアが狩りを提案すると、無道が同行することになった。
「村の人にも同行してもらった方がいいでしょうか」
「ああ、案内役がいると助かる。狩りの技量はレイアの方が上だからな。俺はサポートに回ろう」
「それならあたしも同行し」
「ダメよ!」
食い気味にエマが止めに入る。エマの勢いに圧倒されるハンターたちだったが、姉妹とは初顔合わせとなる彼らには知らなければならないことがある。もはや超人の域に達しているリタの方向音痴っぷりだ。エマが説明すると、レイアや無道は固まった。
「お姉ちゃんは留守番!」
「ええー」
「ええーじゃない」
「リタさんは残って村や城の飾り付けの監修をしてもらおうかの」
宥めるように間に入ったのは、いつの間にやってきたのかガーゴ爺さんだった。彼がいるということは、当然イル婆さんもどこかにいるはず。……気がつくとテーブルにはお茶とユグディラ饅頭が配られていた。
「この饅頭うまいな」
いつの間にか置かれていた饅頭だったが、それを恐る恐る口に運んだ無道が声を上げる。
「当然よ! イル婆ちゃんのゆぐまん、ゴブまんは絶品よ!」
リタの興味の矛先はすぐ移る。
「私も、呼び込みが終わったら料理を手伝うわ。チーズがあるならグラタンとかどうかしら」
料理のアイディアを出した神紅に、レイアもノッてくる。
「いいな、グラタンか。よし、食材調達は任せておけ」
「森へ行くなら山菜や木の実もお願いしますね。彩り豊かな方が楽しい気分になるし」
家で楽しむものとは違い、外で、食べ歩きできるもの、品数を多く食べられるように工夫したものなど、様々なアイディアが出された。
当然、村人やハンターたちに人気のユグディラ饅頭(通称ゆぐまん)は、ご婦人方とレシピを共有して、村の至る所で販売することになった。
合わせて必要食材のリストが上がってくる。
使う食材を思い描きながら、狩りへの期待が高まるレイア。すでに料理スキルを発動させそうな無道も、村のご婦人方と打ち解けている。
「そうだ、この古城を名物にしたいんだよね? ゴブリンがいたんだって?」
「そうなの! 廃村寸前だったのをあたしたちが奪還したのよ!」
「……ちょっと盛ってるけど」
「どうだろう? むしろそこをウリに出来ないかな? ゴブリンを全滅させた時のこととかネタにしてさ」
「ふむ、それなら武器庫を開放しても良いかもしれんな」
古城を名物にしようというのは当初からの目標だ。しかしどうやって宣伝していいかわからなかったのも事実。暮刃の提案にノッてきたのはガーゴ爺さんと、これまたいつの間にか背後に回っていたリブ爺さんだった。
「その時のことを記録したものがあるぞい。開放した武器庫にその時の様子を描いた絵でも貼ってみるかの」
「…………武器庫……ちょっとグロい感じになっちゃわないかなぁ……」
エマが不安そうな声を上げるが、男性陣はノリノリだった。暮刃がフォローしてくれることを願おう。
「改めて色々掃除したり、手を加えたりも必要そうだね」
ガーゴ爺さんが持ってきた古城の見取り図を手に、暮刃。ついでとばかりにリブ爺さんが村の簡単な地図も持ってきた。
「どんなことをするのかっていうのも宣伝しないといけないし、呼び込みは大切よね。この地図に村の出店とかを書き込んで、素敵なビラを作りましょう!」
神紅は村人たちと意気投合。誰がどんな店を出したいか要望を募り、村祭りマップを作り上げるようだ。
料理を出す店に限らず、村人の趣味の手工芸品を出す店など、様々な要望が出されていた。
「それなら私も一つ提案があるのだが……」
少々控えめながら、レイアが提案したのは腕試し大会だった。
「私から一本取る事が出来れば賞金、ということでどうだろうか?」
「レイアは腕試しか。それなら……」
「お、無道もやってみるか? 賞金は自費で用意することになるが」
「構わない。いきなり『かかってこい』でもいけないだろうから、イベント前に二人で見本……剣舞を披露するのはどうだろうか」
「それは面白そうだな」
レイアも無道の提案に賛成のようだ。二人ならば息のあった剣の舞が見られそうだ。
「腕試し大会なら、男の人はもちろん子供達も集まりそうですね。お二人の剣舞なら見応えありそうですし」
レイアと無道の腕試し大会も、神紅の手にかかって村祭りマップに組み込まれていく。
「村人の屋台の準備に腕試しの会場設営もしなきゃですね」
神紅の言葉には村の男衆が野太い声で応じた。力仕事なら任せておけ、と。当然、そこにはレイアの声も混じっている。
「あとは最後のダンスパーティーよ! 祭り当日は満月なの! 城の屋上を会場にして、楽器ができる人を集めて、月明かりの下で踊るのよ!」
「それ楽しみだよね。ボクも琴と歌で盛り上げちゃうよ」
言って暮刃がウインク一つ。中性的な魅力。
準備1日目。内容を決める話し合いは、和気藹々とした雰囲気の中で着々と進み、内容ぎっしりのお知らせビラも量産された。
そして準備2日目に突入する。
●
古城の一角にある衣装部屋。以前は古い遺物のような衣装しかなかったはずだが、今は何故か真新しい衣装がぎっしりと詰められていた。
「あれ……ここってこんなにお洋服あったっけ……?」
部屋の様子を見て、エマが間の抜けた声を出す。
そもそも何故衣装部屋なのか。それは神紅が提案したビラ配り用の衣装を探すためだ。彼女が提案してきたのはリアルブルーで流行っているというバニーガールの衣装だった。田舎者ゆえ、姉妹はその存在を知らなかったのだ。が、神紅が説明してくれたものをイメージしているうち、リタが『そういうの見たことあるかも!』と言って走り出したのですぐに捜索隊が結成されるという一幕があって、エマを引き連れて改めてやってきたのである。
同行したのは神紅と暮刃。
「昔のは古すぎて損傷が激しかったのよね。だからほとんどは処分しちゃったのよ。だけどお城で着るようなドレスって綺麗じゃない? 村のおばさま方が趣味で作ったのを置いてるのよ」
……どうやら、エマやガーゴ爺さんたちが知らない間に、リタは村のご婦人方と新しいことを始めていたようだ。
古い文献などから集められた情報を元に、この城が繁栄していた頃の衣装を手作りしていたらしい。様々なデザインのドレスが飾られている。そして、その中でも一際異彩を放っているもの……
「これですよ! これなら目を引くし、どうせならリタちゃんやエマちゃんもどお?」
テンション高めにそれを取り出し、自分の身体に当てがっているのは、言わずと知れた神紅。
「レイアさんも似合いそうよね!」
露出度が高く身体にフィット。合わせるのはハイヒールで、お尻には小さくてふわふわの尻尾。そう、バニーガールだ。セットにはウサギの耳付きのカチューシャ。
「うん、やめた方がいいかもね。祭りにいらない期待を持たせそうだよ」
冷静に真顔で対処するのは暮刃。きっとレイアも無道も同じような眼差しを神紅に向けるだろうと思われる。
「うっ……」
言葉を詰まらせつつ、リタとエマに視線を移す神紅。
「わ、私なんかより神紅さんみたいな大人な女の人の方が似合うんじゃ……」
エマには過激すぎるらしく、真っ赤になっていた。
「に、似合うと思うわよ……可愛いし……!」
「カチューシャは可愛いわよね! せくしーなのは神紅さんに任せるわっ!」
リタが珍しく遠慮している。……神紅やレイアとは違う、己の未熟さを思い知らされたらしい。カチューシャだけは気に入ったようで、何やら別のアイディアが生まれているようだが。
「くすん……いいもん……一人で着るもん……」
諦めきれない神紅は、それでも自分用にその衣装は確保した。
「じゃあボクはこれにしようかな」
「え……それって女性用ですよ……?」
「うん、似合うと思わない? ほらこうやってリボンつけてさ」
暮刃がノリノリで選んでいるのは、紛うことなく女性用のドレスである。置いてある小物の中からバスケットをチョイス。
「これにビラを入れて配りに行こうと思うんだ」
「まあ、可愛らしいですね。暮刃さん」
「でしょー?」
……うん、目を引くというなら間違いない。
片や露出度の高いセクシーなバニーガール。片やドレスを身に纏ったスレンダー美少女。そういえば、神紅が作っていたビラにバニーガールのことも書いてあったような気がする。……当日もきっとこの格好でいくんだろうな。
「コンセプトは大事よね……そうね、城からお忍びで村にやってきたお姫様! これよ! きっと村人たちはそれを知ってるんだけど、知らないふりをしてお姫様たちをもてなすの!」
『なるほど……』
リタの思いつき、祭りの始まりエピソードが捏造されたところで、衣装を着込んでビラ配りに繰り出すことになったのだった。……バニーガールだけ妙に浮いているような気がするが、気にしないことにしよう。
一方その頃。森では、狩る者と狩られる者の真剣勝負が繰り広げられていた。
村人が連れている猟犬にも引けを取らない研ぎ澄まされた感覚で、レイアと無道が獲物を追い詰めていた。
「無道、そちらから援護を頼む」
「わかった」
獲物に集中しながら、レイアの指示通りに動く無道。
がさり。
木の陰から姿を現したのは、一匹の猪。木々の陰で日が当たらないために、茶色く見える地面と同化しているように見える。無道と正面から目を合わせるかたちになっていたが、猟犬に負けず劣らずの威嚇ぶりで猪の動きを止める無道。そして、その隙に後ろから近づいたレイアが一気にカタをつける。
猪の他にも鹿や野ウサギ、野鳥までも仕留めている。村人たちとともに踏み込んだ森の中で、二人は凄まじい連携プレーで次々と獲物を狩っていた。
レイアも無道も、この森に入るのはもちろん初めてのことだ。だが、レイアのサバイバル技術や無道の狩猟知識は初めての場所でも効果を発揮する。狙うのが一般的な獲物だったからという理由はあるにしろ、村人たちとも上手く連携が取れている。
「この森はなかなかに豊かだな」
「うむ。獲物も多いし、神紅に頼まれていた山菜も調達できそうだ」
獲った獲物を満足そうに眺めながら、レイアと無道は自然の豊かさを感じていた。幸いにも、この森には小川が流れている。古城の裏に広がる湖に注いでいる川だが、少し手を加えてやれば、獲物を冷やしたり血抜きをするのに最適な支流を作り出すこともできるのだ。
「レイアさん、無道さん、そろそろ引き上げますか? これ以上は持てないですよ」
若い猟師が苦笑いでそう言ってくる。
「ああ、そうだな。これから解体しないといけないしな」
「これらの下処理も大変だぞ」
大変と言いつつ楽しそうな空気を含んだ無道の声。村人から借りていたカゴには、大量の山菜が詰め込まれている。
「獲物の解体までは私も手伝うか。山菜の処理の方は無道に任せて、私は力仕事に向かうかな」
「それがいいだろう。俺も終わり次第出店の準備に参加するが、下ごしらえも大切だからな」
二人とも、村祭りを盛り上げるため縁の下の力持ちになる覚悟のようだ。何より、祭りのメインとなる料理においても下準備という手間は外すことができない重要ポイントであることを知っている。これらを怠れば、せっかくの料理が台無しになってしまうからだ。
「それよりも、無道。何をたくさん採ったのだ?」
改めて無道が抱えているカゴの中を覗き込んで、レイアが問う。レイアもまた、サバイバル技術を持っているので、食べられる野草などはよく知っているのだろう。
「これは……すごいな。煮ても焼いてもいいし、衣をつけて揚げるという料理もリアルブルーでは鉄板といわれているな」
考えただけでもよだれが出てきそうだ。この時期を代表する山と森の恵が大量に詰め込まれていた。
「ああ、アク抜きなんかの処理も大切だが、いろいろな料理で楽しめるぞ」
無道も大量の山菜を眺めて満足げな声で答える。
「さあみんな、夜までには全ての下処理を終えなければならないからな。森を出よう」
レイアの一声で、村の猟師たちもまた村への道を辿る。後ろからカゴを抱えた無道のウキウキとした声が聞こえてきた。
「さって、下ごしらえ下ごしらえ……」
その時、皆が密かに思ったことが一致した。
『無道さん、お料理好きなんですね』
そしてほっこりした気分になったことは、本人には内緒だ。
森に来ているチームの他、古城裏手にある湖にも魚担当のチームが向かっているはずだ。森が豊かなら、湖に棲まう魚も豊かに違いない。
こうして、村祭りの料理の材料は着々と集められていった。
狩猟チームが村に戻ると、ビラ配りチームが隣町に繰り出すところに出くわした。
「……神紅」
「はい?」
「本当にその格好で行くのか?」
神紅の衣装から目が離せないまま、レイアが問う。レイアに直接バニーガールを勧めなかったことは正しい判断だったようだ。……自分に刺さる視線が痛い。
隣にいるのは頭にリボンをつけた可愛らしい少女。……だがレイアは知っている。その正体を。
「村のお祭りを盛り上げるにはたくさんの人に来てもらいたいじゃないですか。なら目を引く格好は必然! なのでこれで良いのです」
突き刺さる視線を跳ね返す、にこやかな笑顔で答えるバニーガール。隣のスレンダー美少女は、ビラを詰めたバスケットを持ってくるりと回って美少女ぶりを見せつける。中身は暮刃だが。
「これでボクたちは結構注目されると思うんだよね。村祭りの成功も間違いなしさ」
言って可愛くウインク一つ。
「……あ、ああ、頼んだぞ。俺たちは料理の下ごしらえと会場設営に回っておく」
少しばかり躊躇った様子の無道が、なんとか彼女らを送り出した。神紅と暮刃以外に村人も何人か同行するので、妙な誤解はされないだろうが……。
昼下がり。村人も総出で祭り会場の設営に勤しんでいた。
「あ、レイアさん、無道さん、お帰りなさい!」
「リタにエマ。ただいま」
「ただいま。結構な収穫だったぞ」
本日の成果を見せ、早速下準備に取り掛かるのは無道。レイアは獲物を無道に任せると、設営の方を手伝うと言って向かって行った。
猟の帰りを待っていた村のご婦人方が、腕を振るって下準備に取り掛かる。和気藹々とした雰囲気に溶け込んでいる無道。当日振る舞う予定の料理について、情報提供をしながら作業を進めていく。
人手があるとはいえ、かなりの時間を要していた。
日がだいぶ傾いた頃、バニーガールとスレンダー美少女が戻ってきた。持っていたビラは全て無くなり、成果は上々だったようだ。
「あら、もう結構進んでいるんですね。私も料理の方お手伝いしますね」
バニーガールの格好のまま包丁を振るう神紅の図。誰の目にも斬新なスタイルに写っていたに違いない。
「ビラ配り、反応はどうだった?」
山菜の下処理をしながら、無道が問う。
「とっても良かったですよ! どんな祭りになるか期待してますって」
……そりゃそうだろう。バニーガールの格好なんてしてたら、変な意味で期待してしまうではないか。思ったが言わないでいる無道だった。
村の広場では、腕試し大会のための会場設営が進んでいた。木を切り出してきた板や丸太で周辺を囲い、一段高いところに板を並べてステージを設けている。
村の男衆に負けない活躍を見せたのはレイアだ。女性とはいえ、かなり頼もしかったに違いない。
「レイアさん、やるなぁ」
「はは、そうかい? なんならおまえも腕試しにかかってくるかい?」
そんな話をしながら、腕試し大会への期待も高まる。
「へえ、ここがダンスパーティの会場になるんだね」
古城の屋上。ひび割れや崩れた箇所こそないが、何の飾り気もないただの広場だ。ここに来たのは暮刃とリタ、そしてエマ。
「あの辺りに音楽隊の人を集めて、こっちの広場で踊るのよ!」
リタが大きな身振り手振りでイメージを伝える。
「月明かりだけじゃやっぱり寂しいかな」
「周りにキャンドルで明かりをつければいいわ! ほら、薄い色をつけた紙とかでキャンドルの周りを覆って……」
「うん、それならちょっと幻想的な雰囲気になるね」
リタがイメージしたことを伝えると、即座に暮刃がそれを飲み込んでアイディアをまとめてくれた。暮刃たちがビラ配りに行っている間、村人と姉妹で掃除や椅子などは運び込んでいたので、あとはここを如何に素敵なパーティ会場にするかだ。
「月明かりだけでも幻想的だけど、それよりもっといい感じになりそうだ」
村人と姉妹、そして有能なハンターたちの協力を得て、村祭り準備はいよいよ大詰めだ。
●
「さあ、今日も張り切ってビラ配りに行ってくるわね!」
「ばっちり客引きしてくるから、楽しみにしててよ」
例によってバニーガールとスレンダー美少女が村人を引き連れて隣町に繰り出して行った。
「行ってらっしゃーい! さ、あたしたちは会場の仕上げに入るわよっ!」
「そうだな。力仕事ももう一息だ。村の屋台を完成させてこよう」
「では俺は料理の下準備を済ませてしまおうかな。ご婦人方、よろしく頼む」
無道の言葉に、村のご婦人方のやや黄色い声が上がったような気がする。見た目に反して(と言ったら失礼だろうか)器用な無道の料理技術や、少々ぶっきらぼうだが温和な性格が人気らしい。
「明日、隣の村でお祭りが開かれるので、ぜひ遊びに来てくださいねー!」
「当日は美味しいユグディラ饅頭やゴブリン饅頭、その他にも自然の恵みたっぷりの美味しいお料理を作ってお待ちしてまーす!」
「古城の武器庫も開放するので、村をゴブリンから奪還した時の様子も分かるかもー!」
神紅と暮刃の呼び込みは凄まじかった。手慣れているとしか思えない話術で、すれ違う人々をことごとく足止めしてはビラを渡し、宣伝もばっちりだ。……ただ、よってくる相手の大半が男だったことをここに記しておく。
「当日は現役ハンターさんの華麗な剣舞がお披露目される予定でーす! 女性なら目を奪われること間違いなしの格好いいハンターさん! これだけでも一見の価値はありますよー」
「ご家族連れで美味しいものを食べて、迫力の剣舞を見て、そしてお父さんは腕試しなんてどうでしょうか?」
……とまあ、こんな感じで道ゆく人々からその家族へ、そして買い物ついでにそのお店の人にも声をかけるという徹底ぶり。
「村の屋台はこんなものでいいだろうか?」
汗を拭いながら、レイアが一息つく。作った料理を並べておけるスペースに、出来立てを提供するために運び込んだのは簡易かまど。途中で火を絶やすことのないように、十分な薪を用意した。
料理以外を提供する屋台にも一工夫。大きさに合わせて見栄えの良い棚まで作り上げていた。
「完璧っす! レイアさん!」
何故か下っ端のようにレイアを慕うようになった村人もいる。
「ふむ、下味付けはこんなものでどうだろうか、ご婦人方」
「完璧よ、無道さん!」
ご婦人方と意気投合していた無道の方も、料理の下ごしらえは完璧。あとは当日、火を入れて完成させるだけとなった。
神紅や暮刃のビラ配りで呼び込みは完璧。噂が噂を呼んで、一日限りの村祭りではあるが、集客は期待できそうだ。無道も頑張った料理の下ごしらも完璧で、色々なところで食べ歩くこともできるし、古城の食堂ではイル婆や神紅が腕を振るうだろう。腕試し大会の舞台も作られた。レイアと無道の剣舞なら、集まった者の目を引くことは明らかだし、きっと挑戦者も現れてくれるに違いない。
いよいよ明日、この村初の祭りが開催される。
●
早朝から村人たちの活気ある声が響き渡り、早くから料理を仕上げる良い香りがそこここに立ち上っている。
綺麗に掃除された古城の正面にも、控えめながら季節の花で作られた装飾が施され、やって来た客人を迎え入れる。
「さあ、村祭りの幕開けよっ!」
一際大きな声を張り上げて、リタが開催を宣言する。宣言と共に隣町の住民をはじめとしお客様がどんどんやってきた。受け取ったビラを持ち、マップを頼りに思い思いの場所に向かっていく。
「ふふっ、ビラ配りは大成功ですね」
詐欺広告になってはいけない、と、神紅はやはりバニーガール。暮刃も、頭にリボンをつけてドレス着用でスレンダー美少女続行である。
「リタ、エマ」
「?」
古城の入り口付近から村を見下ろすように眺めていた姉妹に声をかけてきたのはレイアだった。後ろには無道もいる。
「そんなところにいても退屈だろう。行って楽しんでくるといい」
「でも、もしものために様子を見てないと……」
エマが遠慮がちに答える横では、リタもキリッとした顔で祭りの様子を観察していた。
「現場に行ってもそれはできる。城ではガーゴ殿やリブ殿、イル殿もいることだし、楽しんでおいで」
「ふふ、無道、良いことを言うな」
「一番の功労者が楽しめなくてはな」
レイアと無道の言葉に、ソワソワ感が隠しきれなくなってしまった。
「ありがとう、レイアさん、無道さん!」
言うなりダッシュで村に駆けていく姉妹を見送り、二人も腕試し会場に向かうべく歩き出す。
古城の食堂では、村と景色を眺めながら絶品料理を味わえるとあって、朝から客が途絶えることがない。ここではイル婆さんを筆頭に、村の料理自慢と神紅が腕を振るっていた。神紅が提案したグラタンも、彩り鮮やかな料理とともに大人気で、熱々を頬張る幸せそうな声が響く。
素敵な笑顔で対応してくれる綺麗なバニーガール……そんな噂もすぐに広まり、村の屋台で食べ歩いて来た者さえも最後はここで素敵なジビエ料理とデザートのゆぐまん、ゴブまんを堪能していくのだ。
「あ、お姉ちゃん何食べてるの?」
村の会場で、いつの間にか何かを頬張っている。
「これね、ローストした薄いお肉と野菜のサンドイッチよ。ちょっと苦味があるのがアクセントね」
そう、村の会場は屋台がぎっしりと並んでいた。様々あるが、どこでも買えるのがゆぐまんとゴブまん。これはレシピを共有しているので、イル婆のと同じ味で楽しめる。
「じゃあ私はこれにしよう」
エマが選んだのは、湖で獲れた魚を使った揚げ物のようだ。一口サイズで、歩きながらでも食べやすい。出来たてを食べられるように、かまどをそばに置いているからできる芸当。
祭りの熱気とかまどの熱気が合わさって、村中の温度が心地よく上昇していく。
「さあ、ご覧あれ! 現役ハンターさんの剣舞だ! これを見て、チャレンジしたいと思ったら誰でも舞台に登って来てくれ! 一本取れたら賞金が出るぞー!」
威勢のいい声が響いてきた。
広場に作られた舞台上には、装飾の施された美しい剣を手にしたレイアと無道。合図とともにレイアが構えからの攻撃!
沸き起こるどよめき。レイアが上段を薙ぎ払えば、無道は身を低くして躱し、素早く体制を入れ替えてからの袈裟懸け。身を翻してそれを受け止め、受け流すと突きを繰り出すレイア。
鮮やかな剣舞は集まった客の目を引いた。舞台上であることを意識した美しい動きに、観客は魅了されていた。
そして剣舞の後では挑戦者を募るのだ。現役ハンターと戦えるチャンスとあって、村の血の気の多い若者たちがこぞって挑戦しにくる。
「私たちは武器を持たないが、丸腰でも十分に戦えるぞ。全力でかかってこい」
軽く挑発するレイアに、木剣を持ってかかっていく村人たち。手加減はしているのだろうが、やはり戦いのプロともなるとそのいなし方も流石の腕前。それでも、中には多少腕の立つ者もいて、レイアと無道から一本取った村人が3名ほど。
「なかなかやるな……鍛えれば相当な腕前になるぞ」
無道にかけられた言葉でその気になった若者もいたようだ。
「わあ、腕試し大会も盛り上がってるみたいね!」
「そうだね。レイアさんたち頑張ってくれてるし……って、お姉ちゃん頭に何つけてるの?」
エマが発見したのは、いつの間にかリタの頭の上のカチューシャだ。猫耳の飾りがついている。
「ふふん、可愛いでしょ? バニーガールの衣装を見たときに思いついて、村のおばちゃんたちに提案したのよ! 色違いとか、うさ耳のもあるのよ」
「そ、そうなんだ……はっ、よく見たら周りの子たちもつけてるし……あれはゴブリンのお面?」
「ふっ、気づいたわね。この村はゴブリンの支配から奪還したことで少しは有名になってるはずよ! ユグディラの騒動もあったし、こういうお手軽なグッズなら身につけやすいし、可愛いじゃない?」
「お姉ちゃんの思いつきもそうそう悪いものじゃないんだね」
「どういう意味よ」
「あ、ほらあそこにも猫耳カチューシャつけてる人……って、あれ、暮刃さん? と、神紅さん」
「あ、エマじゃないか。この饅頭美味しいね」
「あら、そのカチューシャ可愛いわね」
ゆぐまんを頬張りながら、バニーガール美女とスレンダー美少女が猫耳カチューシャをつけて愛想を振りまきながら歩いていた。神紅はともかく、暮刃はあまりに馴染みすぎて普通に女の子にしか見えない。そのルックスで、今夜のダンスパーティの宣伝しているのだ。
参加者の腹が十分に満たされ、出店者も満足。余興として開催された腕試し大会も成功と言えるだろう。
残すはダンスパーティーだ。
陽はゆっくりと傾き、屋上から見える絶景は、青からオレンジ、そして闇色への交代劇を見せている。
皆思い思いのドレスを見にまとい、男性は少しばかりかしこまって女性を誘っている。
楽器の演奏に覚えがある者が集まり、ゆったりとした音楽を奏で始めた。その中には、ドレス姿のままの暮刃もいる。琴を手に、即興で美しい旋律を奏で、歌声まで披露している。
うっとりするような音楽の中で、ポツリポツリとキャンドルに火がともされる。
優しいキャンドルの光に、天空から降り注ぐ月光。流れる音楽に身を任せれば、自然と身体が動き出す。
「レイア、一曲どうだ?」
「え、あ、ああ……構わない……が」
思わぬ所からの誘いに、レイアは少々照れ臭そうに無道の手を取った。レイアはいつもの格好からドレスに着替えている。先ほど腕試し大会で戦っていた時の姿からは想像もできないような淑やかさ。そんなレイアを、無道が優しくリードする。
一方で、村の男から誘いを受けていたのは女装姿のままの暮刃。演奏が一区切りしたところで声をかけられたらしい。仲間内の視線に気づくと、口元に人差し指を当てて『しーっ』とジェスチャー。仲間は苦笑いを堪えつつ、ゆったりとした空気に身をまかせる。
ドレスに着替えた神紅もまた、村の男に誘われてダンスに興じている。
徐々に闇色が濃くなっていく。月光はますます明るく彼らを照らし、キャンドルが温かさを感じさせる。
「エマ、あなたもこっちに来なさいよ!」
「でも……こういうの苦手なんだよ……私」
リタと一緒に、4人のハンターたちもエマを誘う。半ば引きずられるようにして、リタと共に会場の中央へ。
今回の村祭りを提案したのはリタだが、エマもまた十分に貢献したということだろう。ハンターや参加者に囲まれて、優しい音楽が流れる柔らかい空間に身を委ねる。
穏やかな空間で、時間を忘れて踊り明かしたのであった。
つい先日まで閑散としていた古城の食堂広間。テーブル席は全て埋まり、立ち見の者もいる。……この村こんなに人口多かったんだ……。
「ほらお姉ちゃん、説明お願い」
エマに言われて、リタがちょっとばかり緊張した様子で進み出る。咳払いをして、リタは集まった人々の視線の前に立つ。
「挨拶って苦手だから早速本題に入るけど、3日後の満月の日に村祭りを開催しようと思っているの。あたしたちの故郷では、豊穣と健康を願う行事になっていたわ。実はすでにハンターさんも応援も来てくれてるのよ!」
言ってテーブルの一つを示す。今度はハンターたちが立ち上がった。
「こちら、レイア・アローネ(ka4082)さん」
「ハンターオフィスのビラを見て手伝えないかと思って来たんだ。ハンターで剣士のレイアだ。宜しく」
村人たちの注目が集まる中、少々照れくさそうに自己紹介するレイア。拍手の後、エマが順に紹介していく。
「神紅=アルザード(ka6134)です。お祭り楽しそうね! 腕振るっちゃうわよ!」
「ボクは紅咬 暮刃(ka6298)紅咬 暮刃。こちらこそ宜しくね。この古城も村もなかなか面白そうだね」
キョロキョロと城内を見渡し、ワクワクムードの真紅と暮刃。
「無道(ka7139)だ。うむ、こういうのもハンターの大事な仕事。頑張って盛り上げようか」
彼もまたやる気十分だった。
村人も一様にそわそわした空気に包まれていた。すでに彼女の思いつき発案から始まる行事は村の日常と化していた。少なからず楽しんでいる。
「まずは具体的に何をするかを決めていくわよ!」
「なんといっても呼び込みね! たくさんの人に集まってもらいたいし、頑張っちゃうわよ!」
神紅の提案は最も重要なポイントだ。お客がいなければ内輪だけの催し物になってしまう。
「お、それならボクも便乗しちゃおうかな」
乗り気だったのは暮刃だ。
「料理にもこの村らしい感じを出したいな。食料調達はどうしているのだ?」
確かに、地域に根ざした料理がメインの一つになるのは間違いない。
「食材は畑で採れたものとか、森や湖で獲れたものを使っていますね。村の食材で足りないものは隣町に買いに行ったりとかして調達してますけど」
エマが補足する。
「ならば森への狩りは私が行こう」
レイアが狩りを提案すると、無道が同行することになった。
「村の人にも同行してもらった方がいいでしょうか」
「ああ、案内役がいると助かる。狩りの技量はレイアの方が上だからな。俺はサポートに回ろう」
「それならあたしも同行し」
「ダメよ!」
食い気味にエマが止めに入る。エマの勢いに圧倒されるハンターたちだったが、姉妹とは初顔合わせとなる彼らには知らなければならないことがある。もはや超人の域に達しているリタの方向音痴っぷりだ。エマが説明すると、レイアや無道は固まった。
「お姉ちゃんは留守番!」
「ええー」
「ええーじゃない」
「リタさんは残って村や城の飾り付けの監修をしてもらおうかの」
宥めるように間に入ったのは、いつの間にやってきたのかガーゴ爺さんだった。彼がいるということは、当然イル婆さんもどこかにいるはず。……気がつくとテーブルにはお茶とユグディラ饅頭が配られていた。
「この饅頭うまいな」
いつの間にか置かれていた饅頭だったが、それを恐る恐る口に運んだ無道が声を上げる。
「当然よ! イル婆ちゃんのゆぐまん、ゴブまんは絶品よ!」
リタの興味の矛先はすぐ移る。
「私も、呼び込みが終わったら料理を手伝うわ。チーズがあるならグラタンとかどうかしら」
料理のアイディアを出した神紅に、レイアもノッてくる。
「いいな、グラタンか。よし、食材調達は任せておけ」
「森へ行くなら山菜や木の実もお願いしますね。彩り豊かな方が楽しい気分になるし」
家で楽しむものとは違い、外で、食べ歩きできるもの、品数を多く食べられるように工夫したものなど、様々なアイディアが出された。
当然、村人やハンターたちに人気のユグディラ饅頭(通称ゆぐまん)は、ご婦人方とレシピを共有して、村の至る所で販売することになった。
合わせて必要食材のリストが上がってくる。
使う食材を思い描きながら、狩りへの期待が高まるレイア。すでに料理スキルを発動させそうな無道も、村のご婦人方と打ち解けている。
「そうだ、この古城を名物にしたいんだよね? ゴブリンがいたんだって?」
「そうなの! 廃村寸前だったのをあたしたちが奪還したのよ!」
「……ちょっと盛ってるけど」
「どうだろう? むしろそこをウリに出来ないかな? ゴブリンを全滅させた時のこととかネタにしてさ」
「ふむ、それなら武器庫を開放しても良いかもしれんな」
古城を名物にしようというのは当初からの目標だ。しかしどうやって宣伝していいかわからなかったのも事実。暮刃の提案にノッてきたのはガーゴ爺さんと、これまたいつの間にか背後に回っていたリブ爺さんだった。
「その時のことを記録したものがあるぞい。開放した武器庫にその時の様子を描いた絵でも貼ってみるかの」
「…………武器庫……ちょっとグロい感じになっちゃわないかなぁ……」
エマが不安そうな声を上げるが、男性陣はノリノリだった。暮刃がフォローしてくれることを願おう。
「改めて色々掃除したり、手を加えたりも必要そうだね」
ガーゴ爺さんが持ってきた古城の見取り図を手に、暮刃。ついでとばかりにリブ爺さんが村の簡単な地図も持ってきた。
「どんなことをするのかっていうのも宣伝しないといけないし、呼び込みは大切よね。この地図に村の出店とかを書き込んで、素敵なビラを作りましょう!」
神紅は村人たちと意気投合。誰がどんな店を出したいか要望を募り、村祭りマップを作り上げるようだ。
料理を出す店に限らず、村人の趣味の手工芸品を出す店など、様々な要望が出されていた。
「それなら私も一つ提案があるのだが……」
少々控えめながら、レイアが提案したのは腕試し大会だった。
「私から一本取る事が出来れば賞金、ということでどうだろうか?」
「レイアは腕試しか。それなら……」
「お、無道もやってみるか? 賞金は自費で用意することになるが」
「構わない。いきなり『かかってこい』でもいけないだろうから、イベント前に二人で見本……剣舞を披露するのはどうだろうか」
「それは面白そうだな」
レイアも無道の提案に賛成のようだ。二人ならば息のあった剣の舞が見られそうだ。
「腕試し大会なら、男の人はもちろん子供達も集まりそうですね。お二人の剣舞なら見応えありそうですし」
レイアと無道の腕試し大会も、神紅の手にかかって村祭りマップに組み込まれていく。
「村人の屋台の準備に腕試しの会場設営もしなきゃですね」
神紅の言葉には村の男衆が野太い声で応じた。力仕事なら任せておけ、と。当然、そこにはレイアの声も混じっている。
「あとは最後のダンスパーティーよ! 祭り当日は満月なの! 城の屋上を会場にして、楽器ができる人を集めて、月明かりの下で踊るのよ!」
「それ楽しみだよね。ボクも琴と歌で盛り上げちゃうよ」
言って暮刃がウインク一つ。中性的な魅力。
準備1日目。内容を決める話し合いは、和気藹々とした雰囲気の中で着々と進み、内容ぎっしりのお知らせビラも量産された。
そして準備2日目に突入する。
●
古城の一角にある衣装部屋。以前は古い遺物のような衣装しかなかったはずだが、今は何故か真新しい衣装がぎっしりと詰められていた。
「あれ……ここってこんなにお洋服あったっけ……?」
部屋の様子を見て、エマが間の抜けた声を出す。
そもそも何故衣装部屋なのか。それは神紅が提案したビラ配り用の衣装を探すためだ。彼女が提案してきたのはリアルブルーで流行っているというバニーガールの衣装だった。田舎者ゆえ、姉妹はその存在を知らなかったのだ。が、神紅が説明してくれたものをイメージしているうち、リタが『そういうの見たことあるかも!』と言って走り出したのですぐに捜索隊が結成されるという一幕があって、エマを引き連れて改めてやってきたのである。
同行したのは神紅と暮刃。
「昔のは古すぎて損傷が激しかったのよね。だからほとんどは処分しちゃったのよ。だけどお城で着るようなドレスって綺麗じゃない? 村のおばさま方が趣味で作ったのを置いてるのよ」
……どうやら、エマやガーゴ爺さんたちが知らない間に、リタは村のご婦人方と新しいことを始めていたようだ。
古い文献などから集められた情報を元に、この城が繁栄していた頃の衣装を手作りしていたらしい。様々なデザインのドレスが飾られている。そして、その中でも一際異彩を放っているもの……
「これですよ! これなら目を引くし、どうせならリタちゃんやエマちゃんもどお?」
テンション高めにそれを取り出し、自分の身体に当てがっているのは、言わずと知れた神紅。
「レイアさんも似合いそうよね!」
露出度が高く身体にフィット。合わせるのはハイヒールで、お尻には小さくてふわふわの尻尾。そう、バニーガールだ。セットにはウサギの耳付きのカチューシャ。
「うん、やめた方がいいかもね。祭りにいらない期待を持たせそうだよ」
冷静に真顔で対処するのは暮刃。きっとレイアも無道も同じような眼差しを神紅に向けるだろうと思われる。
「うっ……」
言葉を詰まらせつつ、リタとエマに視線を移す神紅。
「わ、私なんかより神紅さんみたいな大人な女の人の方が似合うんじゃ……」
エマには過激すぎるらしく、真っ赤になっていた。
「に、似合うと思うわよ……可愛いし……!」
「カチューシャは可愛いわよね! せくしーなのは神紅さんに任せるわっ!」
リタが珍しく遠慮している。……神紅やレイアとは違う、己の未熟さを思い知らされたらしい。カチューシャだけは気に入ったようで、何やら別のアイディアが生まれているようだが。
「くすん……いいもん……一人で着るもん……」
諦めきれない神紅は、それでも自分用にその衣装は確保した。
「じゃあボクはこれにしようかな」
「え……それって女性用ですよ……?」
「うん、似合うと思わない? ほらこうやってリボンつけてさ」
暮刃がノリノリで選んでいるのは、紛うことなく女性用のドレスである。置いてある小物の中からバスケットをチョイス。
「これにビラを入れて配りに行こうと思うんだ」
「まあ、可愛らしいですね。暮刃さん」
「でしょー?」
……うん、目を引くというなら間違いない。
片や露出度の高いセクシーなバニーガール。片やドレスを身に纏ったスレンダー美少女。そういえば、神紅が作っていたビラにバニーガールのことも書いてあったような気がする。……当日もきっとこの格好でいくんだろうな。
「コンセプトは大事よね……そうね、城からお忍びで村にやってきたお姫様! これよ! きっと村人たちはそれを知ってるんだけど、知らないふりをしてお姫様たちをもてなすの!」
『なるほど……』
リタの思いつき、祭りの始まりエピソードが捏造されたところで、衣装を着込んでビラ配りに繰り出すことになったのだった。……バニーガールだけ妙に浮いているような気がするが、気にしないことにしよう。
一方その頃。森では、狩る者と狩られる者の真剣勝負が繰り広げられていた。
村人が連れている猟犬にも引けを取らない研ぎ澄まされた感覚で、レイアと無道が獲物を追い詰めていた。
「無道、そちらから援護を頼む」
「わかった」
獲物に集中しながら、レイアの指示通りに動く無道。
がさり。
木の陰から姿を現したのは、一匹の猪。木々の陰で日が当たらないために、茶色く見える地面と同化しているように見える。無道と正面から目を合わせるかたちになっていたが、猟犬に負けず劣らずの威嚇ぶりで猪の動きを止める無道。そして、その隙に後ろから近づいたレイアが一気にカタをつける。
猪の他にも鹿や野ウサギ、野鳥までも仕留めている。村人たちとともに踏み込んだ森の中で、二人は凄まじい連携プレーで次々と獲物を狩っていた。
レイアも無道も、この森に入るのはもちろん初めてのことだ。だが、レイアのサバイバル技術や無道の狩猟知識は初めての場所でも効果を発揮する。狙うのが一般的な獲物だったからという理由はあるにしろ、村人たちとも上手く連携が取れている。
「この森はなかなかに豊かだな」
「うむ。獲物も多いし、神紅に頼まれていた山菜も調達できそうだ」
獲った獲物を満足そうに眺めながら、レイアと無道は自然の豊かさを感じていた。幸いにも、この森には小川が流れている。古城の裏に広がる湖に注いでいる川だが、少し手を加えてやれば、獲物を冷やしたり血抜きをするのに最適な支流を作り出すこともできるのだ。
「レイアさん、無道さん、そろそろ引き上げますか? これ以上は持てないですよ」
若い猟師が苦笑いでそう言ってくる。
「ああ、そうだな。これから解体しないといけないしな」
「これらの下処理も大変だぞ」
大変と言いつつ楽しそうな空気を含んだ無道の声。村人から借りていたカゴには、大量の山菜が詰め込まれている。
「獲物の解体までは私も手伝うか。山菜の処理の方は無道に任せて、私は力仕事に向かうかな」
「それがいいだろう。俺も終わり次第出店の準備に参加するが、下ごしらえも大切だからな」
二人とも、村祭りを盛り上げるため縁の下の力持ちになる覚悟のようだ。何より、祭りのメインとなる料理においても下準備という手間は外すことができない重要ポイントであることを知っている。これらを怠れば、せっかくの料理が台無しになってしまうからだ。
「それよりも、無道。何をたくさん採ったのだ?」
改めて無道が抱えているカゴの中を覗き込んで、レイアが問う。レイアもまた、サバイバル技術を持っているので、食べられる野草などはよく知っているのだろう。
「これは……すごいな。煮ても焼いてもいいし、衣をつけて揚げるという料理もリアルブルーでは鉄板といわれているな」
考えただけでもよだれが出てきそうだ。この時期を代表する山と森の恵が大量に詰め込まれていた。
「ああ、アク抜きなんかの処理も大切だが、いろいろな料理で楽しめるぞ」
無道も大量の山菜を眺めて満足げな声で答える。
「さあみんな、夜までには全ての下処理を終えなければならないからな。森を出よう」
レイアの一声で、村の猟師たちもまた村への道を辿る。後ろからカゴを抱えた無道のウキウキとした声が聞こえてきた。
「さって、下ごしらえ下ごしらえ……」
その時、皆が密かに思ったことが一致した。
『無道さん、お料理好きなんですね』
そしてほっこりした気分になったことは、本人には内緒だ。
森に来ているチームの他、古城裏手にある湖にも魚担当のチームが向かっているはずだ。森が豊かなら、湖に棲まう魚も豊かに違いない。
こうして、村祭りの料理の材料は着々と集められていった。
狩猟チームが村に戻ると、ビラ配りチームが隣町に繰り出すところに出くわした。
「……神紅」
「はい?」
「本当にその格好で行くのか?」
神紅の衣装から目が離せないまま、レイアが問う。レイアに直接バニーガールを勧めなかったことは正しい判断だったようだ。……自分に刺さる視線が痛い。
隣にいるのは頭にリボンをつけた可愛らしい少女。……だがレイアは知っている。その正体を。
「村のお祭りを盛り上げるにはたくさんの人に来てもらいたいじゃないですか。なら目を引く格好は必然! なのでこれで良いのです」
突き刺さる視線を跳ね返す、にこやかな笑顔で答えるバニーガール。隣のスレンダー美少女は、ビラを詰めたバスケットを持ってくるりと回って美少女ぶりを見せつける。中身は暮刃だが。
「これでボクたちは結構注目されると思うんだよね。村祭りの成功も間違いなしさ」
言って可愛くウインク一つ。
「……あ、ああ、頼んだぞ。俺たちは料理の下ごしらえと会場設営に回っておく」
少しばかり躊躇った様子の無道が、なんとか彼女らを送り出した。神紅と暮刃以外に村人も何人か同行するので、妙な誤解はされないだろうが……。
昼下がり。村人も総出で祭り会場の設営に勤しんでいた。
「あ、レイアさん、無道さん、お帰りなさい!」
「リタにエマ。ただいま」
「ただいま。結構な収穫だったぞ」
本日の成果を見せ、早速下準備に取り掛かるのは無道。レイアは獲物を無道に任せると、設営の方を手伝うと言って向かって行った。
猟の帰りを待っていた村のご婦人方が、腕を振るって下準備に取り掛かる。和気藹々とした雰囲気に溶け込んでいる無道。当日振る舞う予定の料理について、情報提供をしながら作業を進めていく。
人手があるとはいえ、かなりの時間を要していた。
日がだいぶ傾いた頃、バニーガールとスレンダー美少女が戻ってきた。持っていたビラは全て無くなり、成果は上々だったようだ。
「あら、もう結構進んでいるんですね。私も料理の方お手伝いしますね」
バニーガールの格好のまま包丁を振るう神紅の図。誰の目にも斬新なスタイルに写っていたに違いない。
「ビラ配り、反応はどうだった?」
山菜の下処理をしながら、無道が問う。
「とっても良かったですよ! どんな祭りになるか期待してますって」
……そりゃそうだろう。バニーガールの格好なんてしてたら、変な意味で期待してしまうではないか。思ったが言わないでいる無道だった。
村の広場では、腕試し大会のための会場設営が進んでいた。木を切り出してきた板や丸太で周辺を囲い、一段高いところに板を並べてステージを設けている。
村の男衆に負けない活躍を見せたのはレイアだ。女性とはいえ、かなり頼もしかったに違いない。
「レイアさん、やるなぁ」
「はは、そうかい? なんならおまえも腕試しにかかってくるかい?」
そんな話をしながら、腕試し大会への期待も高まる。
「へえ、ここがダンスパーティの会場になるんだね」
古城の屋上。ひび割れや崩れた箇所こそないが、何の飾り気もないただの広場だ。ここに来たのは暮刃とリタ、そしてエマ。
「あの辺りに音楽隊の人を集めて、こっちの広場で踊るのよ!」
リタが大きな身振り手振りでイメージを伝える。
「月明かりだけじゃやっぱり寂しいかな」
「周りにキャンドルで明かりをつければいいわ! ほら、薄い色をつけた紙とかでキャンドルの周りを覆って……」
「うん、それならちょっと幻想的な雰囲気になるね」
リタがイメージしたことを伝えると、即座に暮刃がそれを飲み込んでアイディアをまとめてくれた。暮刃たちがビラ配りに行っている間、村人と姉妹で掃除や椅子などは運び込んでいたので、あとはここを如何に素敵なパーティ会場にするかだ。
「月明かりだけでも幻想的だけど、それよりもっといい感じになりそうだ」
村人と姉妹、そして有能なハンターたちの協力を得て、村祭り準備はいよいよ大詰めだ。
●
「さあ、今日も張り切ってビラ配りに行ってくるわね!」
「ばっちり客引きしてくるから、楽しみにしててよ」
例によってバニーガールとスレンダー美少女が村人を引き連れて隣町に繰り出して行った。
「行ってらっしゃーい! さ、あたしたちは会場の仕上げに入るわよっ!」
「そうだな。力仕事ももう一息だ。村の屋台を完成させてこよう」
「では俺は料理の下準備を済ませてしまおうかな。ご婦人方、よろしく頼む」
無道の言葉に、村のご婦人方のやや黄色い声が上がったような気がする。見た目に反して(と言ったら失礼だろうか)器用な無道の料理技術や、少々ぶっきらぼうだが温和な性格が人気らしい。
「明日、隣の村でお祭りが開かれるので、ぜひ遊びに来てくださいねー!」
「当日は美味しいユグディラ饅頭やゴブリン饅頭、その他にも自然の恵みたっぷりの美味しいお料理を作ってお待ちしてまーす!」
「古城の武器庫も開放するので、村をゴブリンから奪還した時の様子も分かるかもー!」
神紅と暮刃の呼び込みは凄まじかった。手慣れているとしか思えない話術で、すれ違う人々をことごとく足止めしてはビラを渡し、宣伝もばっちりだ。……ただ、よってくる相手の大半が男だったことをここに記しておく。
「当日は現役ハンターさんの華麗な剣舞がお披露目される予定でーす! 女性なら目を奪われること間違いなしの格好いいハンターさん! これだけでも一見の価値はありますよー」
「ご家族連れで美味しいものを食べて、迫力の剣舞を見て、そしてお父さんは腕試しなんてどうでしょうか?」
……とまあ、こんな感じで道ゆく人々からその家族へ、そして買い物ついでにそのお店の人にも声をかけるという徹底ぶり。
「村の屋台はこんなものでいいだろうか?」
汗を拭いながら、レイアが一息つく。作った料理を並べておけるスペースに、出来立てを提供するために運び込んだのは簡易かまど。途中で火を絶やすことのないように、十分な薪を用意した。
料理以外を提供する屋台にも一工夫。大きさに合わせて見栄えの良い棚まで作り上げていた。
「完璧っす! レイアさん!」
何故か下っ端のようにレイアを慕うようになった村人もいる。
「ふむ、下味付けはこんなものでどうだろうか、ご婦人方」
「完璧よ、無道さん!」
ご婦人方と意気投合していた無道の方も、料理の下ごしらえは完璧。あとは当日、火を入れて完成させるだけとなった。
神紅や暮刃のビラ配りで呼び込みは完璧。噂が噂を呼んで、一日限りの村祭りではあるが、集客は期待できそうだ。無道も頑張った料理の下ごしらも完璧で、色々なところで食べ歩くこともできるし、古城の食堂ではイル婆や神紅が腕を振るうだろう。腕試し大会の舞台も作られた。レイアと無道の剣舞なら、集まった者の目を引くことは明らかだし、きっと挑戦者も現れてくれるに違いない。
いよいよ明日、この村初の祭りが開催される。
●
早朝から村人たちの活気ある声が響き渡り、早くから料理を仕上げる良い香りがそこここに立ち上っている。
綺麗に掃除された古城の正面にも、控えめながら季節の花で作られた装飾が施され、やって来た客人を迎え入れる。
「さあ、村祭りの幕開けよっ!」
一際大きな声を張り上げて、リタが開催を宣言する。宣言と共に隣町の住民をはじめとしお客様がどんどんやってきた。受け取ったビラを持ち、マップを頼りに思い思いの場所に向かっていく。
「ふふっ、ビラ配りは大成功ですね」
詐欺広告になってはいけない、と、神紅はやはりバニーガール。暮刃も、頭にリボンをつけてドレス着用でスレンダー美少女続行である。
「リタ、エマ」
「?」
古城の入り口付近から村を見下ろすように眺めていた姉妹に声をかけてきたのはレイアだった。後ろには無道もいる。
「そんなところにいても退屈だろう。行って楽しんでくるといい」
「でも、もしものために様子を見てないと……」
エマが遠慮がちに答える横では、リタもキリッとした顔で祭りの様子を観察していた。
「現場に行ってもそれはできる。城ではガーゴ殿やリブ殿、イル殿もいることだし、楽しんでおいで」
「ふふ、無道、良いことを言うな」
「一番の功労者が楽しめなくてはな」
レイアと無道の言葉に、ソワソワ感が隠しきれなくなってしまった。
「ありがとう、レイアさん、無道さん!」
言うなりダッシュで村に駆けていく姉妹を見送り、二人も腕試し会場に向かうべく歩き出す。
古城の食堂では、村と景色を眺めながら絶品料理を味わえるとあって、朝から客が途絶えることがない。ここではイル婆さんを筆頭に、村の料理自慢と神紅が腕を振るっていた。神紅が提案したグラタンも、彩り鮮やかな料理とともに大人気で、熱々を頬張る幸せそうな声が響く。
素敵な笑顔で対応してくれる綺麗なバニーガール……そんな噂もすぐに広まり、村の屋台で食べ歩いて来た者さえも最後はここで素敵なジビエ料理とデザートのゆぐまん、ゴブまんを堪能していくのだ。
「あ、お姉ちゃん何食べてるの?」
村の会場で、いつの間にか何かを頬張っている。
「これね、ローストした薄いお肉と野菜のサンドイッチよ。ちょっと苦味があるのがアクセントね」
そう、村の会場は屋台がぎっしりと並んでいた。様々あるが、どこでも買えるのがゆぐまんとゴブまん。これはレシピを共有しているので、イル婆のと同じ味で楽しめる。
「じゃあ私はこれにしよう」
エマが選んだのは、湖で獲れた魚を使った揚げ物のようだ。一口サイズで、歩きながらでも食べやすい。出来たてを食べられるように、かまどをそばに置いているからできる芸当。
祭りの熱気とかまどの熱気が合わさって、村中の温度が心地よく上昇していく。
「さあ、ご覧あれ! 現役ハンターさんの剣舞だ! これを見て、チャレンジしたいと思ったら誰でも舞台に登って来てくれ! 一本取れたら賞金が出るぞー!」
威勢のいい声が響いてきた。
広場に作られた舞台上には、装飾の施された美しい剣を手にしたレイアと無道。合図とともにレイアが構えからの攻撃!
沸き起こるどよめき。レイアが上段を薙ぎ払えば、無道は身を低くして躱し、素早く体制を入れ替えてからの袈裟懸け。身を翻してそれを受け止め、受け流すと突きを繰り出すレイア。
鮮やかな剣舞は集まった客の目を引いた。舞台上であることを意識した美しい動きに、観客は魅了されていた。
そして剣舞の後では挑戦者を募るのだ。現役ハンターと戦えるチャンスとあって、村の血の気の多い若者たちがこぞって挑戦しにくる。
「私たちは武器を持たないが、丸腰でも十分に戦えるぞ。全力でかかってこい」
軽く挑発するレイアに、木剣を持ってかかっていく村人たち。手加減はしているのだろうが、やはり戦いのプロともなるとそのいなし方も流石の腕前。それでも、中には多少腕の立つ者もいて、レイアと無道から一本取った村人が3名ほど。
「なかなかやるな……鍛えれば相当な腕前になるぞ」
無道にかけられた言葉でその気になった若者もいたようだ。
「わあ、腕試し大会も盛り上がってるみたいね!」
「そうだね。レイアさんたち頑張ってくれてるし……って、お姉ちゃん頭に何つけてるの?」
エマが発見したのは、いつの間にかリタの頭の上のカチューシャだ。猫耳の飾りがついている。
「ふふん、可愛いでしょ? バニーガールの衣装を見たときに思いついて、村のおばちゃんたちに提案したのよ! 色違いとか、うさ耳のもあるのよ」
「そ、そうなんだ……はっ、よく見たら周りの子たちもつけてるし……あれはゴブリンのお面?」
「ふっ、気づいたわね。この村はゴブリンの支配から奪還したことで少しは有名になってるはずよ! ユグディラの騒動もあったし、こういうお手軽なグッズなら身につけやすいし、可愛いじゃない?」
「お姉ちゃんの思いつきもそうそう悪いものじゃないんだね」
「どういう意味よ」
「あ、ほらあそこにも猫耳カチューシャつけてる人……って、あれ、暮刃さん? と、神紅さん」
「あ、エマじゃないか。この饅頭美味しいね」
「あら、そのカチューシャ可愛いわね」
ゆぐまんを頬張りながら、バニーガール美女とスレンダー美少女が猫耳カチューシャをつけて愛想を振りまきながら歩いていた。神紅はともかく、暮刃はあまりに馴染みすぎて普通に女の子にしか見えない。そのルックスで、今夜のダンスパーティの宣伝しているのだ。
参加者の腹が十分に満たされ、出店者も満足。余興として開催された腕試し大会も成功と言えるだろう。
残すはダンスパーティーだ。
陽はゆっくりと傾き、屋上から見える絶景は、青からオレンジ、そして闇色への交代劇を見せている。
皆思い思いのドレスを見にまとい、男性は少しばかりかしこまって女性を誘っている。
楽器の演奏に覚えがある者が集まり、ゆったりとした音楽を奏で始めた。その中には、ドレス姿のままの暮刃もいる。琴を手に、即興で美しい旋律を奏で、歌声まで披露している。
うっとりするような音楽の中で、ポツリポツリとキャンドルに火がともされる。
優しいキャンドルの光に、天空から降り注ぐ月光。流れる音楽に身を任せれば、自然と身体が動き出す。
「レイア、一曲どうだ?」
「え、あ、ああ……構わない……が」
思わぬ所からの誘いに、レイアは少々照れ臭そうに無道の手を取った。レイアはいつもの格好からドレスに着替えている。先ほど腕試し大会で戦っていた時の姿からは想像もできないような淑やかさ。そんなレイアを、無道が優しくリードする。
一方で、村の男から誘いを受けていたのは女装姿のままの暮刃。演奏が一区切りしたところで声をかけられたらしい。仲間内の視線に気づくと、口元に人差し指を当てて『しーっ』とジェスチャー。仲間は苦笑いを堪えつつ、ゆったりとした空気に身をまかせる。
ドレスに着替えた神紅もまた、村の男に誘われてダンスに興じている。
徐々に闇色が濃くなっていく。月光はますます明るく彼らを照らし、キャンドルが温かさを感じさせる。
「エマ、あなたもこっちに来なさいよ!」
「でも……こういうの苦手なんだよ……私」
リタと一緒に、4人のハンターたちもエマを誘う。半ば引きずられるようにして、リタと共に会場の中央へ。
今回の村祭りを提案したのはリタだが、エマもまた十分に貢献したということだろう。ハンターや参加者に囲まれて、優しい音楽が流れる柔らかい空間に身を委ねる。
穏やかな空間で、時間を忘れて踊り明かしたのであった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
村祭り運営委員会 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/05/17 21:57:33 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/16 22:17:27 |