ゲスト
(ka0000)
草刈りも命懸け
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/18 15:00
- 完成日
- 2018/05/21 19:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●こんなに放っておいたから……
久しぶりに屋敷を見に来た男は想像していた以上の荒れ果て具合に酷く驚いた。
建物の傷みもそうだが、それ以上に回りの草が物凄い大きさに育っている。
いくら雑草といっても、何十年も放置されて、しかもそれが日当たりがとてもいい場所となれば、こうなるのは当然の理だった。
伸びた雑草はクリムゾンウエストの成人男性としてはやや低めである男の身長を大きく超えている。
「これを私一人で刈るのは、無理があるな……」
屋敷は幼少時代を男が過ごした家であり、成人して家を出てからは数えるほどしか帰っておらず、三十年前に両親が他界してからは惰性で男が所有し続けていた。
当然その間一度も実際に訪れたこともなく、この金食い虫の資産を何とかしてしまおうとやってきてみれば、ごらんの有様である。
敷地を隔てる塀や正面の門のアーチには蔦がびっしりと絡まっており、それだけで年月を感じさせる。
「それにしても、この村も随分人が減ったものだ」
嘆く男は、記憶に残っている幼少の頃の村と、現在の村の落差に驚いている。
男が覚えている村は、子ども自体は少なかったものの、それなりの人数が住んでいてもっと活気があった。
それがどうしたことか。
村全体でも多くの家々が男の屋敷と同じように空き家となり、長らく人の手を離れてゆっくりと自然に返っていこうとしている。
少なくとも、かつてのご近所さんたちは軒並み空き家になっていて、道に人が出歩いている姿も、男は村の入り口から屋敷に着くまで一人も見かけなかった。
やはり、もうこの村に住んでいた人間は絶えて久しいらしい。
多くは男のようにもっと利便性のある場所に移り住み、残った老人などもこの三十年で皆死んでしまったのだろう。
村落の多くがハンターズソサエティ支部がある場所や本部があるリゼリオ周辺に集まっている以上、少し離れた位置にあるこの村が寂れていくのは仕方のないこと。
「これが、時の流れというものか。歳は取りたくないものだなぁ」
それでも胸に物悲しい感傷を感じながら、男は屋敷を取り壊す手配を始めた。
●巨大で強暴な蜂はそれだけで怖い
屋敷を取り壊すためには、まずは邪魔な草を取り除かなくてはならない。
そうしなくてはならない理由としてはまず、草の中に何がいるのか分からないという点が挙げられる。
一番可能性が高いのは虫だ。
いうまでもなく、伸びに伸びた雑草は成長しすぎて潜んでいる虫の姿を完全に隠してしまっている。
無害な虫だったらいいが、そうでない虫がいる可能性はもちろんある。
例えば蜂だ。
働き蜂が単体で潜んでいるなどということはほとんどなく、蜂がいる場合当然巣もある。
巣があるということは、作業をすれば刺激してしまうということであり、攻撃態勢に入った蜂の集団に襲われる可能性は、実はそれほど低くない。
「というわけでしてね。しばらく人気がなくなってここまで伸びてしまったら、危険過ぎてちょっとやれないですね」
「なんですと?」
男が業者に依頼したところ、断られてしまった。
理由は、長い間放置された場所は不法投棄されたゴミだらけになっている場合が多く、錬金術研究が盛んな帝国という国柄、その中に錬金術の研究で出るゴミが含まれていないとは言い切れないからだ。
「ただの蜂の巣ならまだ私どもでも対処できるんですが、万が一中の蜂が雑魔になっていればどうにもなりませんよ。最悪全員死にます。たかが雑魔だと舐めちゃいけません。元の蜂が凶悪ですから。数の暴力っていうのはそれだけで怖いもんです」
もちろん雑魔の存在を常識として男は知っていたが、まさか自分が昔住んでいた屋敷の庭にいるかもしれないと言われて、驚きを隠せなかった。
「というわけで、ハンターの護衛が必要です。ハンターズソサエティに依頼をしてください」
男の屋敷が片付くのは、もう少し先になりそうだ。
●ハンターズソサエティにて
本日もハンターズソサエティはいつも通り、受付嬢が仕事に励み、ハンターが依頼を受け、あるいは依頼を見繕っている。
当然ハンターにも依頼の好き嫌いというものがあり、基本的に危険度が高すぎるもの、拘束時間が長すぎるもの、精神的な苦痛を多々受けるもの、掛かりそうな手間の割に報酬が安すぎるものなどは、敬遠される場合がある。
基本的にはハンターたちの依頼選択にハンターズソサエティとしては口を出すことはせず、ハンターたちの自由意志に任せているのだが、あまりに残り続けると受付嬢が斡旋という名の処理をしようとハンターたちに押し付けてくるらしい。
受付嬢の多くは邪魔な依頼を処理するためにハンターを利用しようなどという気持ちはこれっぽっちもないのであるが、一部の受付嬢の内面まではさすがに分からない。
内心黒いことを考えている受付嬢がいる可能性もないとはいえなかった。
「ハンターの皆さん、護衛依頼ですよ」
受付嬢の一人が、依頼の斡旋をしにハンターたちを見定めに来た。
「除草作業員の護衛です。作業員は全部で六名。いつどのタイミングで何が出てくるか分からないため、つきっきりで護衛をしていただきます」
地味な割に面倒そうな依頼だと、ハンターたちが思ったかどうかは分からない。
「蜂が襲ってくる危険性が高いそうです。強暴な蜂がさらに雑魔になっている可能性もあるとのことです。雑魔になれば繁殖力はなくなるので、ただの蜂ほど数は多くないでしょうが、それでも巣の蜂が丸々雑魔化していた場合、かなりの数になることが予測されます。ハンターの皆様はくれぐれも気をつけて作業員の方々を守ってください」
受付嬢は冷静に説明を続ける。
「作業順番ですが、正門から正面玄関まで真っ直ぐ道が伸びておりまして、その両脇に花壇が三つずつあります。もちろん現在は全て人間とほぼ同じ大きさの草が生い茂っていますので、まずここを作業員たちが手による草むしりと手鎌で除草をします。それが終わると裏庭一面の除草作業に入ります。ここも茂り具合はほぼ同じで、面積自体は屋敷正面の花壇六つを合わせたよりも広く、当然それだけ時間が掛かるでしょう。これらの場所さえ終われば残りは危険な虫が隠れられるほど生い茂った場所はないということですので、皆様の仕事も終了となります」
ハンターたちは、この依頼が残っていた理由を薄々察していた。
いかにも一般人にとっては重労働そうな作業の数々。
そのくせ、作業をする人間はたったの六人。
作業の進捗状況によっては、自分たちも手伝わされるかもしれない。
久しぶりに屋敷を見に来た男は想像していた以上の荒れ果て具合に酷く驚いた。
建物の傷みもそうだが、それ以上に回りの草が物凄い大きさに育っている。
いくら雑草といっても、何十年も放置されて、しかもそれが日当たりがとてもいい場所となれば、こうなるのは当然の理だった。
伸びた雑草はクリムゾンウエストの成人男性としてはやや低めである男の身長を大きく超えている。
「これを私一人で刈るのは、無理があるな……」
屋敷は幼少時代を男が過ごした家であり、成人して家を出てからは数えるほどしか帰っておらず、三十年前に両親が他界してからは惰性で男が所有し続けていた。
当然その間一度も実際に訪れたこともなく、この金食い虫の資産を何とかしてしまおうとやってきてみれば、ごらんの有様である。
敷地を隔てる塀や正面の門のアーチには蔦がびっしりと絡まっており、それだけで年月を感じさせる。
「それにしても、この村も随分人が減ったものだ」
嘆く男は、記憶に残っている幼少の頃の村と、現在の村の落差に驚いている。
男が覚えている村は、子ども自体は少なかったものの、それなりの人数が住んでいてもっと活気があった。
それがどうしたことか。
村全体でも多くの家々が男の屋敷と同じように空き家となり、長らく人の手を離れてゆっくりと自然に返っていこうとしている。
少なくとも、かつてのご近所さんたちは軒並み空き家になっていて、道に人が出歩いている姿も、男は村の入り口から屋敷に着くまで一人も見かけなかった。
やはり、もうこの村に住んでいた人間は絶えて久しいらしい。
多くは男のようにもっと利便性のある場所に移り住み、残った老人などもこの三十年で皆死んでしまったのだろう。
村落の多くがハンターズソサエティ支部がある場所や本部があるリゼリオ周辺に集まっている以上、少し離れた位置にあるこの村が寂れていくのは仕方のないこと。
「これが、時の流れというものか。歳は取りたくないものだなぁ」
それでも胸に物悲しい感傷を感じながら、男は屋敷を取り壊す手配を始めた。
●巨大で強暴な蜂はそれだけで怖い
屋敷を取り壊すためには、まずは邪魔な草を取り除かなくてはならない。
そうしなくてはならない理由としてはまず、草の中に何がいるのか分からないという点が挙げられる。
一番可能性が高いのは虫だ。
いうまでもなく、伸びに伸びた雑草は成長しすぎて潜んでいる虫の姿を完全に隠してしまっている。
無害な虫だったらいいが、そうでない虫がいる可能性はもちろんある。
例えば蜂だ。
働き蜂が単体で潜んでいるなどということはほとんどなく、蜂がいる場合当然巣もある。
巣があるということは、作業をすれば刺激してしまうということであり、攻撃態勢に入った蜂の集団に襲われる可能性は、実はそれほど低くない。
「というわけでしてね。しばらく人気がなくなってここまで伸びてしまったら、危険過ぎてちょっとやれないですね」
「なんですと?」
男が業者に依頼したところ、断られてしまった。
理由は、長い間放置された場所は不法投棄されたゴミだらけになっている場合が多く、錬金術研究が盛んな帝国という国柄、その中に錬金術の研究で出るゴミが含まれていないとは言い切れないからだ。
「ただの蜂の巣ならまだ私どもでも対処できるんですが、万が一中の蜂が雑魔になっていればどうにもなりませんよ。最悪全員死にます。たかが雑魔だと舐めちゃいけません。元の蜂が凶悪ですから。数の暴力っていうのはそれだけで怖いもんです」
もちろん雑魔の存在を常識として男は知っていたが、まさか自分が昔住んでいた屋敷の庭にいるかもしれないと言われて、驚きを隠せなかった。
「というわけで、ハンターの護衛が必要です。ハンターズソサエティに依頼をしてください」
男の屋敷が片付くのは、もう少し先になりそうだ。
●ハンターズソサエティにて
本日もハンターズソサエティはいつも通り、受付嬢が仕事に励み、ハンターが依頼を受け、あるいは依頼を見繕っている。
当然ハンターにも依頼の好き嫌いというものがあり、基本的に危険度が高すぎるもの、拘束時間が長すぎるもの、精神的な苦痛を多々受けるもの、掛かりそうな手間の割に報酬が安すぎるものなどは、敬遠される場合がある。
基本的にはハンターたちの依頼選択にハンターズソサエティとしては口を出すことはせず、ハンターたちの自由意志に任せているのだが、あまりに残り続けると受付嬢が斡旋という名の処理をしようとハンターたちに押し付けてくるらしい。
受付嬢の多くは邪魔な依頼を処理するためにハンターを利用しようなどという気持ちはこれっぽっちもないのであるが、一部の受付嬢の内面まではさすがに分からない。
内心黒いことを考えている受付嬢がいる可能性もないとはいえなかった。
「ハンターの皆さん、護衛依頼ですよ」
受付嬢の一人が、依頼の斡旋をしにハンターたちを見定めに来た。
「除草作業員の護衛です。作業員は全部で六名。いつどのタイミングで何が出てくるか分からないため、つきっきりで護衛をしていただきます」
地味な割に面倒そうな依頼だと、ハンターたちが思ったかどうかは分からない。
「蜂が襲ってくる危険性が高いそうです。強暴な蜂がさらに雑魔になっている可能性もあるとのことです。雑魔になれば繁殖力はなくなるので、ただの蜂ほど数は多くないでしょうが、それでも巣の蜂が丸々雑魔化していた場合、かなりの数になることが予測されます。ハンターの皆様はくれぐれも気をつけて作業員の方々を守ってください」
受付嬢は冷静に説明を続ける。
「作業順番ですが、正門から正面玄関まで真っ直ぐ道が伸びておりまして、その両脇に花壇が三つずつあります。もちろん現在は全て人間とほぼ同じ大きさの草が生い茂っていますので、まずここを作業員たちが手による草むしりと手鎌で除草をします。それが終わると裏庭一面の除草作業に入ります。ここも茂り具合はほぼ同じで、面積自体は屋敷正面の花壇六つを合わせたよりも広く、当然それだけ時間が掛かるでしょう。これらの場所さえ終われば残りは危険な虫が隠れられるほど生い茂った場所はないということですので、皆様の仕事も終了となります」
ハンターたちは、この依頼が残っていた理由を薄々察していた。
いかにも一般人にとっては重労働そうな作業の数々。
そのくせ、作業をする人間はたったの六人。
作業の進捗状況によっては、自分たちも手伝わされるかもしれない。
リプレイ本文
●顔合わせ
軽く自己紹介をした後、作業員たちを交えて作業開始前の安全ミーティングを行うことになった。
作業員たちは六名。六つある正面側の花壇を一人一つの割り当てで刈った後、全員で裏庭を刈るという。
ハンターの役割は刈る前の危険場所の確認と害虫がいた場合の駆除だ。
本来ならば、危険場所の確認も作業員の仕事なのだが、ただの蜂ならばともかく雑魔がいる可能性がある中でやるのは無謀なのでハンターの役目になっている。
「私とマリエルで一足先に裏庭に行って、雑魔蜂の巣が無いか探しておくわね。壊せるなら壊しておくから」
「雑魔蜂が出ても、なるべく花壇の方には向かわせないようにしますので」
若干警戒している様子の七夜・真夕(ka3977)と、裏庭で雑魔が出た時の騒ぎが正面玄関側花壇にまで飛び火することを気にするマリエル(ka0116)は連れ立って裏庭へ向かった。
「怪我人を出さねーように、確りとわたくし達が守らねぇとですっ」
「暑そうだったのでこの鎧にしましたが、蜂に刺されやすいかもですね、これ……」
ふんすっと意気込むシレークス(ka0752)と、自分の姿を悩ましげに見るサクラ・エルフリード(ka2598)が、六つの花壇のうち右側の花壇中央を囲むよう上下に配置についた。
「あの娘の斡旋する依頼には碌なものがないな……。それはともかく、私も作業員の護衛に回ろう」
「この格好でする仕事じゃないが、下水に潜るよりはだいぶマシだな、うん」
レイア・アローネ(ka4082)とエメラルド・シルフィユ(ka4678)の二人は、愚痴をこぼしつつ左側中央花壇を守るよう上下に配置につく。
自分達を送り出した際に受付嬢が浮かべた営業スマイルが、無駄に輝かし過ぎたせいかもしれない。
「えっと、私は蜂の巣を探しながら、作業員さんたちの方に蜂が行かないよう注意します」
「私も蜂の巣の捜索に回りましょう。蜂も見つけ次第駆除。巣の発見など進展があれば連絡します」
おどおどと自信なさそうに自分の行動を伝えるルカ(ka0962)に対し、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はビジネスライクな冷静沈着さで、できるキャリアウーマンを思わせるかのような余裕がある。
事前に決めた役割分担に従い、ハンターたちが散っていく。
さあ、依頼の始まりだ!
●蜂の巣探し
自分達の背丈近い大きさの雑草が鬱蒼と生い茂る正面玄関前に出たルカとエラは、しばらく無言で立ち尽くしていた。
「で、どこにあるんですか? 花壇。全面草しか見えませんが」
「た、多分草の下にあるんじゃないでしょうか」
ここまで放置されていた現状に少々呆れた様子を見せるエラに、人見知りの毛があるルカはどこかビクビクしながら自らの意見を伝える。
(無策で踏み込むのはやや無謀、か? まずは蜂の存在の確認と、いるならばどこから来るのか調べて、巣の場所を特定する必要がある)
思案していたエラに、同行者のルカが提案する。
「あ、あの、私、誘引剤を作ろうと思って準備してきたんです。これで巣を特定できないでしょうか」
「それはいい考えですね。でも、おびき寄せた蜂が作業員の方に向かわないとも限りませんよ?」
「大丈夫です。作業員の人から離れた塀の上に置きますし、誘導用に黒い布も持ってきてありますから」
作業員に先に塀に絡みついた蔦を取り払ってもらい、ルカは誘引剤を作り塀によじ登って塀の上に設置する。
塀のすぐ脇にはエラが立ち、作業員のところに蜂が飛んでいかないよう黒い布を塀に吊り下げて蜂がどこから来るのか見定める。
しばらくすると、特徴的な羽音と共に蜂が一匹飛んできた。
ミツバチの類ではなく、もっと獰猛な種だ。
リアルブルー出身であるルカとエラの脳裏には、『オオスズメバチ』という単語が盛んに飛び交っていた。
何しろ、そっくりなのである。いや、大きさだけでいえばこっちの方が大きいかもしれない。
飛んできた蜂は誘引剤に向かって最初は飛んでいたが、黒い布に気付くと一直線に飛んでいき、噛んだり尾針を刺したりして攻撃している。
どうやら姿だけでなく、攻撃性もオオスズメバチと似たり寄ったりらしい。
そしてぽつぽつと増援が現れ、それほど時間が経たないうちに黒い布には蜂がびっしり集っていた。
十匹を軽く超える数である。少なくとも二十匹以上はいそうだ。
しかしおかげでどこから飛んできたのか、大体の当たりをつけることはできたので、ルカが魔法で光の波動を放射し、エラも魔法を用いて三条の光線を蜂に向けて照射して、黒い布に集る蜂たちを始末する。
「これでよし。蜂がこれだけとも思えませんので、草の中に踏み込んでさっさと巣を破壊してしまいましょう」
「は、はい! 頑張ります! じゃあ、巣の位置が特定できてこれから壊しにいきますって皆さんに連絡しますね!」
慌てて魔導スマートフォンを操作するルカを先導し、エラは礼儀正しさを崩さず歩き出した。
●作業員護衛
草刈り作業は比較的穏やかに始まった。
手作業なので進行が遅い代わりに、作業で蜂を刺激することもその分少ないらしい。
もしクリムゾンウエストにエンジン式の刈り払いや草刈り機があれば、エンジンの大きな音に刺激された蜂の群れが今頃大挙して辺りを飛び回っていたかもしれない。
とはいえクリムゾンウエストでは石油資源がないので可能性でいえば魔導式になるだろうが、開発や製造にかかる費用を考えれば、わざわざ草刈り用の魔導機械など作ろうとは誰も思わないだろう。
「サクラ! そっち行きやがりました! 気をつけやがれです!」
「こっちは潰しました! でもシレークスの方にまた新手が出てますよ!」
声を掛け合いながら、シレークスとサクラは作業員を守るため奔走する。
オオスズメバチにそっくりといえど、それでもハンターならば恐れるような敵ではなく、攻撃が掠るだけでもあっさり倒せるのだが、戦い始めると草むらのあちこちから次から次へと出てきて途切れる気配がない。
作業員の方に向かわないよう注意しているため彼らが狙われることは少ないが、その代わり守る側であるハンターたちに蜂が殺到している。
「鬱陶しいんじゃあ! クソ蜂がぁ! いい加減にしやがれ!」
「お淑やかに! 気持ちは分かりますけど、淑女としてお淑やかにしてください!」
なまじ敵が大量で小さいため、作業感が漂ってきた戦いに辟易してシレークスが切れ、サクラが慌ててシレークスの言葉遣いを正す。
シレークスが苛立つ理由は、武器の違いでシレークスの方が蜂を潰す感触をより生々しく感じるからかもしれない。実際、サクラはシレークスに対しては慌てた表情をするものの、蜂を倒す際の表情は涼やかだ。
「今のところ被害は出ていないからいいものの、これではいくら潰してもきりが無いな」
「蜂が出るたびに作業が中断するから草刈り自体も全然進んでいないぞ!」
命中率重視の攻撃で飛んでいる蜂を斬り捨てながらぼやくレイアに、同じく蜂を斬り捨てながらエメラルドが作業中の作業員たちを見る。
作業員たちは蜂が出てくるたびに警戒して殺虫スプレーを構えていた。
備えがあるのは構わないのだが、そのせいでいちいち手が止まるのはいただけない。とはいえ、当たり前だが自衛するなともいえない。
「……時間通りに終わるのか? これ。怪しい気がしてきたんだが」
「私もだ。というか、全然進んでないのに既にゴミの量が凄いな!」
今にもため息が出そうなほどテンションが低下しているレイアに比べ、エメラルドはまだ余裕がありそうだ。でもやけになっているだけかもしれない。
まだ草刈りは手をかけたという表現が相応しい程度の進捗なのだが、既に作業員たちが持ってきた袋だけで足りるか怪しい。
草の一本一本がとても長いため、嵩張ってスペースを取られるのだ。
四人がうんざりしながら蜂を撃退していると、ルカとエラから連絡が入った。
どうやら、全ての花壇で蜂の巣の位置を特定し、破壊することに成功したらしい。
既に外に出ている蜂はどうしようもないが、巣の中にいた蜂は無事一網打尽にできたようだ。
「よっしゃあ! 畳み掛けやがりますよ! 気張っていきやがりますですかっ!」
「作業員さんの護衛は入れ替わりでルカさんとエルさんが務めてくださるそうです!」
「了解した! ついてこいエメラルド! 遅れた分を取り戻すいい機会だ!」
「今度はこちらから攻めるんだな! たかが蜂とはいえ、心が躍るぞ!」
それまで作業員を守ることに集中していたシレークス、サクラ、レイア、エメラルドの四名が一斉に草むらの中に突入した。
潜んでいた蜂が驚いて飛び立つ側から、次々に倒されていく。
ぽつんと孤立している蜂はシレークスやレイアが猛然と踏み込んで叩き潰し、あるいは叩き斬る。
集団で固まっている蜂はサクラとエメラルドが光の波動による衝撃で広範囲を攻撃し地面に叩き落す。
四人を無視して作業員に向かおうとする蜂がいても、そこにはルカとエルが待ち構えており、ただの蜂には防衛陣形を突破することはできず、彼女たちの持つ銃や魔法によって撃ち落とされていく。
それでも数に任せて防御を抜けてきた蜂には、戻ってきたシレークスとレイアが磐石の守りでもって立ち塞がる。
「おらぁっ! わたくしの目が黒いうちは、好きにはさせねぇですよ!!」
「蜂風情に、私たちを出し抜けるとは思わないでもらいたいな!」
手が届く範囲ならば、彼女二人を相手にして生き残れる蜂などこの場には存在しなかった。
そして、逃げ出そうとする蜂に対しても、サクラとエメラルドが後詰に回り待ち構えている。
「シレークスたちが上手く誘導してくれましたね……! いきますよ!」
「こっちも準備はできている! いつでもいいぞ! 私が合わせよう!」
二人が放った光の波動が、惑うように飛ぶ蜂の集団を挟み込むように押し潰し、仕留めた。
●裏庭にあるもの
一方その頃、マリエルと真夕の二人は裏庭で雑魔蜂の群れに追いかけられていた。
「ひえええええ、倒しても倒しても次から次へとおかわりが出てきます!」
「誰よ、錬金術の廃棄物なんか不法投棄したバカは! よりにもよって巣と一体化しちゃってるじゃない!」
二人は雑魔化した蜂にはすぐに遭遇していた。
長らく放置されていたとはいえ、それだけで蜂が雑魔になるとは考え難い。
ならば他に原因があるはずだと思い捜索していたのだが、案の定あったのだ。
誰かがこっそり捨てたと思われる錬金術の廃棄物が。
しかも蜂がその廃棄物を巻き込むように巣を設営していて、そのせいで巣の中の群れ全部が雑魔化してしまっている。
生前の習性が残っていることを期待した真夕は眠りを誘うガスを魔法で生み出してみたが、雑魔化して既に久しく睡眠を取る必要性が薄くなっているのか、それとも雑魔蜂が集団で鳴らす羽音の騒音や、閉所故の雑魔蜂同士の衝突で眠ったとしてもすぐ目覚めてしまうのか、全く大人しくなる素振りがない。
「ま、真夕さん、これからどうしましょうか! 雑魔蜂たち、物凄くしつこいんですけど!」
「とりあえず皆に連絡入れといて! 二人だけでやるような作業じゃないわ、これ!」
「わ、分かりました! やってみます! その間は雑魔蜂の対処、お願いしますね!」
「任せておきなさい! こんな雑魔程度、私の魔術で蹴散らしてあげる!」
マリエルがトランシーバーで通信を試す間、真夕は魔法の矢を五本生み出し、雑魔蜂の群れに向かって解き放つ。
矢は五本とも命中し、雑魔蜂を射抜くことに成功したが、ごっそり減ったように見えた雑魔蜂は即座に現れた新手によって元の規模に戻ってしまう。
そのまま自分目掛けて肉薄してくる雑魔蜂に対し、真夕は素早く魔術で自分の回りに風を巻き起こし、雑魔蜂の攻撃の軌道を逸らす形で波状攻撃をを回避する。
「繋がりました! 花壇の方も粗方片付いたので、皆さんすぐに来てくださるそうです!」
「よし、じゃあもう一踏ん張りね! もっと数を減らしておくわよ! その方が後で楽になるわ!」
通信を終えたマリエルも戦闘に復帰し、魔法で作り出した無数の刃で雑魔蜂の群れを串刺しにしてその場に縫い止め、光の波動による衝撃で纏めて叩き落とした。
そうして二人が時間を稼いでいる間に、連絡を受けて急行したシレークス、ルカ、サクラ、エラ、レイア、エメラルドの六名が裏庭に到着する。
無数の雑魔蜂を内包する巨大な巣といえど、八人のハンターが総出でかかれば敵ではない。
巣はマリエル、ルカ、サクラ、エメラルドが放つ範囲攻撃の嵐によって中の雑魔蜂ごと粉砕され、巣の破壊に巻き込まれなかった雑魔蜂もエラと真夕に的確に狙われ各個撃破される。
中には作業のために裏庭にやってきた作業員たちを狙おうとする雑魔蜂も少なくない数がいたが、シレークスとレイアが周囲にマテリアルを漲らせて感覚を拡張し、強引に空間を捻じ曲げて割り込んだため、二人を攻撃せざるを得ず、打撃と薙ぎ払いによる一撃で一掃された。
●後始末
蜂と巣の駆除が終わり、廃棄物も回収すると、作業員たちの作業効率は目に見えて上がった。
それでも予定よりは遅れ気味なので、ハンターたち全員で山のように出た草を片付けることになった。
「で、これどうやって片付ければいいんでしょう」
「作業員がくれやがりました! この上に草を目いっぱい乗っけて運びやがるです!」
首を傾げるマリエルに、シレークスが畳まれた布を見せる。
「た、確かにいい考えかも……。私たちなら普通の人が持てないような重さでも持てますし……」
「あ、あのー、結構重いんですけど。量ったらどのくらいの重さになるんでしょうか」
ルカが消極的に賛成を示し、広げた布の上に草を乗せて運ぶ途中、サクラが苦笑を浮かべる。
「考えない方がよろしいかと。作業に集中することを提案いたします」
「重いけど、運べなくもない重さなのが複雑ね……」
涼しい顔を崩さないエラとは対照的に、真夕の表情は引き攣っている。
「良い鍛錬代わりになるな、これは。程好い運動になる」
「こういう作業もたまにするなら悪くないな!」
身体を動かすこと自体は嫌いではないのか、レイアもエメラルドも機嫌は悪くない。
運んだ草を手分けして作業員が持ってきていた袋の中に詰めていく。
次々と袋の中に草がたまっていくが、途中で袋がいっぱいになってしまう。
作業員に尋ねると、足で草を踏みつけ、空いたスペースにさらに詰めるのだという。
最終的には袋に全ての草を詰め終えられた。
ただし、常人では絶対に持ち運びできない重さになってしまったので、処分場所まで運ぶ羽目になった。
ちなみに、その際シレークスの怪力が大いに活躍したのだが、余談である。
こうして、全ての作業は終了した。
軽く自己紹介をした後、作業員たちを交えて作業開始前の安全ミーティングを行うことになった。
作業員たちは六名。六つある正面側の花壇を一人一つの割り当てで刈った後、全員で裏庭を刈るという。
ハンターの役割は刈る前の危険場所の確認と害虫がいた場合の駆除だ。
本来ならば、危険場所の確認も作業員の仕事なのだが、ただの蜂ならばともかく雑魔がいる可能性がある中でやるのは無謀なのでハンターの役目になっている。
「私とマリエルで一足先に裏庭に行って、雑魔蜂の巣が無いか探しておくわね。壊せるなら壊しておくから」
「雑魔蜂が出ても、なるべく花壇の方には向かわせないようにしますので」
若干警戒している様子の七夜・真夕(ka3977)と、裏庭で雑魔が出た時の騒ぎが正面玄関側花壇にまで飛び火することを気にするマリエル(ka0116)は連れ立って裏庭へ向かった。
「怪我人を出さねーように、確りとわたくし達が守らねぇとですっ」
「暑そうだったのでこの鎧にしましたが、蜂に刺されやすいかもですね、これ……」
ふんすっと意気込むシレークス(ka0752)と、自分の姿を悩ましげに見るサクラ・エルフリード(ka2598)が、六つの花壇のうち右側の花壇中央を囲むよう上下に配置についた。
「あの娘の斡旋する依頼には碌なものがないな……。それはともかく、私も作業員の護衛に回ろう」
「この格好でする仕事じゃないが、下水に潜るよりはだいぶマシだな、うん」
レイア・アローネ(ka4082)とエメラルド・シルフィユ(ka4678)の二人は、愚痴をこぼしつつ左側中央花壇を守るよう上下に配置につく。
自分達を送り出した際に受付嬢が浮かべた営業スマイルが、無駄に輝かし過ぎたせいかもしれない。
「えっと、私は蜂の巣を探しながら、作業員さんたちの方に蜂が行かないよう注意します」
「私も蜂の巣の捜索に回りましょう。蜂も見つけ次第駆除。巣の発見など進展があれば連絡します」
おどおどと自信なさそうに自分の行動を伝えるルカ(ka0962)に対し、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はビジネスライクな冷静沈着さで、できるキャリアウーマンを思わせるかのような余裕がある。
事前に決めた役割分担に従い、ハンターたちが散っていく。
さあ、依頼の始まりだ!
●蜂の巣探し
自分達の背丈近い大きさの雑草が鬱蒼と生い茂る正面玄関前に出たルカとエラは、しばらく無言で立ち尽くしていた。
「で、どこにあるんですか? 花壇。全面草しか見えませんが」
「た、多分草の下にあるんじゃないでしょうか」
ここまで放置されていた現状に少々呆れた様子を見せるエラに、人見知りの毛があるルカはどこかビクビクしながら自らの意見を伝える。
(無策で踏み込むのはやや無謀、か? まずは蜂の存在の確認と、いるならばどこから来るのか調べて、巣の場所を特定する必要がある)
思案していたエラに、同行者のルカが提案する。
「あ、あの、私、誘引剤を作ろうと思って準備してきたんです。これで巣を特定できないでしょうか」
「それはいい考えですね。でも、おびき寄せた蜂が作業員の方に向かわないとも限りませんよ?」
「大丈夫です。作業員の人から離れた塀の上に置きますし、誘導用に黒い布も持ってきてありますから」
作業員に先に塀に絡みついた蔦を取り払ってもらい、ルカは誘引剤を作り塀によじ登って塀の上に設置する。
塀のすぐ脇にはエラが立ち、作業員のところに蜂が飛んでいかないよう黒い布を塀に吊り下げて蜂がどこから来るのか見定める。
しばらくすると、特徴的な羽音と共に蜂が一匹飛んできた。
ミツバチの類ではなく、もっと獰猛な種だ。
リアルブルー出身であるルカとエラの脳裏には、『オオスズメバチ』という単語が盛んに飛び交っていた。
何しろ、そっくりなのである。いや、大きさだけでいえばこっちの方が大きいかもしれない。
飛んできた蜂は誘引剤に向かって最初は飛んでいたが、黒い布に気付くと一直線に飛んでいき、噛んだり尾針を刺したりして攻撃している。
どうやら姿だけでなく、攻撃性もオオスズメバチと似たり寄ったりらしい。
そしてぽつぽつと増援が現れ、それほど時間が経たないうちに黒い布には蜂がびっしり集っていた。
十匹を軽く超える数である。少なくとも二十匹以上はいそうだ。
しかしおかげでどこから飛んできたのか、大体の当たりをつけることはできたので、ルカが魔法で光の波動を放射し、エラも魔法を用いて三条の光線を蜂に向けて照射して、黒い布に集る蜂たちを始末する。
「これでよし。蜂がこれだけとも思えませんので、草の中に踏み込んでさっさと巣を破壊してしまいましょう」
「は、はい! 頑張ります! じゃあ、巣の位置が特定できてこれから壊しにいきますって皆さんに連絡しますね!」
慌てて魔導スマートフォンを操作するルカを先導し、エラは礼儀正しさを崩さず歩き出した。
●作業員護衛
草刈り作業は比較的穏やかに始まった。
手作業なので進行が遅い代わりに、作業で蜂を刺激することもその分少ないらしい。
もしクリムゾンウエストにエンジン式の刈り払いや草刈り機があれば、エンジンの大きな音に刺激された蜂の群れが今頃大挙して辺りを飛び回っていたかもしれない。
とはいえクリムゾンウエストでは石油資源がないので可能性でいえば魔導式になるだろうが、開発や製造にかかる費用を考えれば、わざわざ草刈り用の魔導機械など作ろうとは誰も思わないだろう。
「サクラ! そっち行きやがりました! 気をつけやがれです!」
「こっちは潰しました! でもシレークスの方にまた新手が出てますよ!」
声を掛け合いながら、シレークスとサクラは作業員を守るため奔走する。
オオスズメバチにそっくりといえど、それでもハンターならば恐れるような敵ではなく、攻撃が掠るだけでもあっさり倒せるのだが、戦い始めると草むらのあちこちから次から次へと出てきて途切れる気配がない。
作業員の方に向かわないよう注意しているため彼らが狙われることは少ないが、その代わり守る側であるハンターたちに蜂が殺到している。
「鬱陶しいんじゃあ! クソ蜂がぁ! いい加減にしやがれ!」
「お淑やかに! 気持ちは分かりますけど、淑女としてお淑やかにしてください!」
なまじ敵が大量で小さいため、作業感が漂ってきた戦いに辟易してシレークスが切れ、サクラが慌ててシレークスの言葉遣いを正す。
シレークスが苛立つ理由は、武器の違いでシレークスの方が蜂を潰す感触をより生々しく感じるからかもしれない。実際、サクラはシレークスに対しては慌てた表情をするものの、蜂を倒す際の表情は涼やかだ。
「今のところ被害は出ていないからいいものの、これではいくら潰してもきりが無いな」
「蜂が出るたびに作業が中断するから草刈り自体も全然進んでいないぞ!」
命中率重視の攻撃で飛んでいる蜂を斬り捨てながらぼやくレイアに、同じく蜂を斬り捨てながらエメラルドが作業中の作業員たちを見る。
作業員たちは蜂が出てくるたびに警戒して殺虫スプレーを構えていた。
備えがあるのは構わないのだが、そのせいでいちいち手が止まるのはいただけない。とはいえ、当たり前だが自衛するなともいえない。
「……時間通りに終わるのか? これ。怪しい気がしてきたんだが」
「私もだ。というか、全然進んでないのに既にゴミの量が凄いな!」
今にもため息が出そうなほどテンションが低下しているレイアに比べ、エメラルドはまだ余裕がありそうだ。でもやけになっているだけかもしれない。
まだ草刈りは手をかけたという表現が相応しい程度の進捗なのだが、既に作業員たちが持ってきた袋だけで足りるか怪しい。
草の一本一本がとても長いため、嵩張ってスペースを取られるのだ。
四人がうんざりしながら蜂を撃退していると、ルカとエラから連絡が入った。
どうやら、全ての花壇で蜂の巣の位置を特定し、破壊することに成功したらしい。
既に外に出ている蜂はどうしようもないが、巣の中にいた蜂は無事一網打尽にできたようだ。
「よっしゃあ! 畳み掛けやがりますよ! 気張っていきやがりますですかっ!」
「作業員さんの護衛は入れ替わりでルカさんとエルさんが務めてくださるそうです!」
「了解した! ついてこいエメラルド! 遅れた分を取り戻すいい機会だ!」
「今度はこちらから攻めるんだな! たかが蜂とはいえ、心が躍るぞ!」
それまで作業員を守ることに集中していたシレークス、サクラ、レイア、エメラルドの四名が一斉に草むらの中に突入した。
潜んでいた蜂が驚いて飛び立つ側から、次々に倒されていく。
ぽつんと孤立している蜂はシレークスやレイアが猛然と踏み込んで叩き潰し、あるいは叩き斬る。
集団で固まっている蜂はサクラとエメラルドが光の波動による衝撃で広範囲を攻撃し地面に叩き落す。
四人を無視して作業員に向かおうとする蜂がいても、そこにはルカとエルが待ち構えており、ただの蜂には防衛陣形を突破することはできず、彼女たちの持つ銃や魔法によって撃ち落とされていく。
それでも数に任せて防御を抜けてきた蜂には、戻ってきたシレークスとレイアが磐石の守りでもって立ち塞がる。
「おらぁっ! わたくしの目が黒いうちは、好きにはさせねぇですよ!!」
「蜂風情に、私たちを出し抜けるとは思わないでもらいたいな!」
手が届く範囲ならば、彼女二人を相手にして生き残れる蜂などこの場には存在しなかった。
そして、逃げ出そうとする蜂に対しても、サクラとエメラルドが後詰に回り待ち構えている。
「シレークスたちが上手く誘導してくれましたね……! いきますよ!」
「こっちも準備はできている! いつでもいいぞ! 私が合わせよう!」
二人が放った光の波動が、惑うように飛ぶ蜂の集団を挟み込むように押し潰し、仕留めた。
●裏庭にあるもの
一方その頃、マリエルと真夕の二人は裏庭で雑魔蜂の群れに追いかけられていた。
「ひえええええ、倒しても倒しても次から次へとおかわりが出てきます!」
「誰よ、錬金術の廃棄物なんか不法投棄したバカは! よりにもよって巣と一体化しちゃってるじゃない!」
二人は雑魔化した蜂にはすぐに遭遇していた。
長らく放置されていたとはいえ、それだけで蜂が雑魔になるとは考え難い。
ならば他に原因があるはずだと思い捜索していたのだが、案の定あったのだ。
誰かがこっそり捨てたと思われる錬金術の廃棄物が。
しかも蜂がその廃棄物を巻き込むように巣を設営していて、そのせいで巣の中の群れ全部が雑魔化してしまっている。
生前の習性が残っていることを期待した真夕は眠りを誘うガスを魔法で生み出してみたが、雑魔化して既に久しく睡眠を取る必要性が薄くなっているのか、それとも雑魔蜂が集団で鳴らす羽音の騒音や、閉所故の雑魔蜂同士の衝突で眠ったとしてもすぐ目覚めてしまうのか、全く大人しくなる素振りがない。
「ま、真夕さん、これからどうしましょうか! 雑魔蜂たち、物凄くしつこいんですけど!」
「とりあえず皆に連絡入れといて! 二人だけでやるような作業じゃないわ、これ!」
「わ、分かりました! やってみます! その間は雑魔蜂の対処、お願いしますね!」
「任せておきなさい! こんな雑魔程度、私の魔術で蹴散らしてあげる!」
マリエルがトランシーバーで通信を試す間、真夕は魔法の矢を五本生み出し、雑魔蜂の群れに向かって解き放つ。
矢は五本とも命中し、雑魔蜂を射抜くことに成功したが、ごっそり減ったように見えた雑魔蜂は即座に現れた新手によって元の規模に戻ってしまう。
そのまま自分目掛けて肉薄してくる雑魔蜂に対し、真夕は素早く魔術で自分の回りに風を巻き起こし、雑魔蜂の攻撃の軌道を逸らす形で波状攻撃をを回避する。
「繋がりました! 花壇の方も粗方片付いたので、皆さんすぐに来てくださるそうです!」
「よし、じゃあもう一踏ん張りね! もっと数を減らしておくわよ! その方が後で楽になるわ!」
通信を終えたマリエルも戦闘に復帰し、魔法で作り出した無数の刃で雑魔蜂の群れを串刺しにしてその場に縫い止め、光の波動による衝撃で纏めて叩き落とした。
そうして二人が時間を稼いでいる間に、連絡を受けて急行したシレークス、ルカ、サクラ、エラ、レイア、エメラルドの六名が裏庭に到着する。
無数の雑魔蜂を内包する巨大な巣といえど、八人のハンターが総出でかかれば敵ではない。
巣はマリエル、ルカ、サクラ、エメラルドが放つ範囲攻撃の嵐によって中の雑魔蜂ごと粉砕され、巣の破壊に巻き込まれなかった雑魔蜂もエラと真夕に的確に狙われ各個撃破される。
中には作業のために裏庭にやってきた作業員たちを狙おうとする雑魔蜂も少なくない数がいたが、シレークスとレイアが周囲にマテリアルを漲らせて感覚を拡張し、強引に空間を捻じ曲げて割り込んだため、二人を攻撃せざるを得ず、打撃と薙ぎ払いによる一撃で一掃された。
●後始末
蜂と巣の駆除が終わり、廃棄物も回収すると、作業員たちの作業効率は目に見えて上がった。
それでも予定よりは遅れ気味なので、ハンターたち全員で山のように出た草を片付けることになった。
「で、これどうやって片付ければいいんでしょう」
「作業員がくれやがりました! この上に草を目いっぱい乗っけて運びやがるです!」
首を傾げるマリエルに、シレークスが畳まれた布を見せる。
「た、確かにいい考えかも……。私たちなら普通の人が持てないような重さでも持てますし……」
「あ、あのー、結構重いんですけど。量ったらどのくらいの重さになるんでしょうか」
ルカが消極的に賛成を示し、広げた布の上に草を乗せて運ぶ途中、サクラが苦笑を浮かべる。
「考えない方がよろしいかと。作業に集中することを提案いたします」
「重いけど、運べなくもない重さなのが複雑ね……」
涼しい顔を崩さないエラとは対照的に、真夕の表情は引き攣っている。
「良い鍛錬代わりになるな、これは。程好い運動になる」
「こういう作業もたまにするなら悪くないな!」
身体を動かすこと自体は嫌いではないのか、レイアもエメラルドも機嫌は悪くない。
運んだ草を手分けして作業員が持ってきていた袋の中に詰めていく。
次々と袋の中に草がたまっていくが、途中で袋がいっぱいになってしまう。
作業員に尋ねると、足で草を踏みつけ、空いたスペースにさらに詰めるのだという。
最終的には袋に全ての草を詰め終えられた。
ただし、常人では絶対に持ち運びできない重さになってしまったので、処分場所まで運ぶ羽目になった。
ちなみに、その際シレークスの怪力が大いに活躍したのだが、余談である。
こうして、全ての作業は終了した。
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/05/18 12:52:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/18 01:49:59 |