ゲスト
(ka0000)
【幻兆】Endless Spiral
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/15 22:00
- 完成日
- 2018/05/18 22:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「うぉぉぉ! 大丈夫か?」
自称魔導機導師のテルル(kz0218)が大声で叫ぶ。
だが、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)とハンター達の耳に届くのは微かな声だ。
テルルとヴェルナーの間には厚く巨大な壁が立ちはだかっている。
「これは、困りましたね」
その口調からはヴェルナーに困っているような素振りがまったく見られない。
まさに平常運転なのだが、同行するハンターの中には不安を隠せない者もいる。
●
始まりは、テルルからチュプ大神殿へ呼び出された事だった。
「実はよ、困った事があってよ」
「困った事、ですか」
ヴェルナーとハンターの前方を行くテルル。
歩幅の違いから普通に走っては追い抜かれてしまう為、愛用のローラーシューズでチュプ大神殿の北通路を進んでいく。
「ここは、確かピリカが大量に発見されたのでしたね」
「おうよ。今、ドワーフの連中の急ピッチで調査を進めてるぜ」
ピリカ。
古代文明時代に製造された魔導アーマーの亜種と思しき兵器であり、小型幻獣もピリカに乗って戦う事ができる。昆虫の形を模した物が多く、テルルが騎乗する通称『カマキリ』と呼ぶ機体もピリカに属する物だ。
先日の探索でピリカを大量に発見する事ができたのは部族会議にとって大きな出来事だ。現在、調査を行いながら各機体の破損状況をチェックしている。
「何しろ古いもんでよ。ドワーフの連中も苦労しているみたいなんだ。
それでよ、困ったっていうのはそのピリカの事だ」
「まさか、稼働できない物が大半という事でしょうか」
ヴェルナーは最悪の回答を予想した。
ヴェルナーはこのチュプ大神殿に眠る幻獣強化システム『ラメトク』とピリカを対ビックマー戦に投入するよう手配を進めていた。
巨大な体躯を誇る怠惰王、ビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
ハンターがCAMや幻獣で挑む事は想定内だが、さらにハンターの支援としてピリカ部隊を創設。ハンターの助ける手筈を進めていたのだ。今更、大半が動かないという報告はヴェルナーにとっても聞きたくない内容だ。
「いや、それ以前なんだよ」
「というと?」
「ピリカっつーのは古代兵器なんだよ。言ってみりゃ、誰でも扱えるもんじゃねぇ。天才の俺っちでさえもカマキリを動かすのに数ヶ月って時間がかかっているんだ」
ピリカの戦力投入をする事は、操縦する幻獣達の操縦訓練は避けて通れない。
テルルによれば、誰でも簡単に操縦できるかと言えばそうではない。
CAM同様パイロットの向き不向きは存在する。更にいえば古代兵器相手の操縦となれば、システム上不明確な機能は操縦者にとって不安要素になりかねない。
「操縦マニュアルが必要、という事でしょうか?」
「ああ。それも俺っちが触って作る代物じゃねぇ。ここあったピリカの操縦マニュアルが必要だ」
テルルが見渡した視界には、居並ぶピリカ。
すべてが昆虫を模した機体だ。マニュアルが一つとは限らない上、これから一台一台調べるとなればかなり骨が折れる。マニュアルだけでも数種類は必要になるだろう。
「なるほど。もし、古代の人々がここにピリカを隠すなら、後の世の為に操縦マニュアルを残している可能性がある……そう仰りたいのでしょうか」
「そうだ。で、怪しいのがここだ」
ヴェルナーとハンターの前で立ち止まるテルル。
そこには他の壁同様青白く光る壁があった。
「ここですか」
ヴェルナーが壁の前に立つ。
次の瞬間、壁の石が自動的に動き出して通路らしき場所が現れる。
30メートル程の細長い通路。
入り口が開いたと同時に通路の壁に青白い光が灯り始める。
「どうよ? 明らかに怪しい道だろう。マニュアルがあるとすりゃ……って、おいっ! 無視するなよ!」
どや顔で胸を張るテルルを無視して先に進むヴェルナーとハンター。
入り口で一人怒り始めるテルル。
だが、ここで思わぬ出来事は発生する。
「おや?」
ハンターが通路に入った瞬間、入り口が塞がってしまったのだ。
灯り代わりに壁が青白く光っている為、暗闇ではないが、帰り道を塞がれては大神殿の外へ出る事もできない。
「ヴェルナーさん。もしかして、閉じ込められました?」
ハンターの一人がヴェルナーへ問いかける。
危機的状況と称するべきなのだろうが、当のヴェルナーはいつものように優しい笑顔を浮かべる。
「どうやら、そのようですね」
●
脱出路を探すハンターとヴェルナー。
早速、入り口のすぐ右側にメッセージを発見した。
「すいませんが、読み上げていただけますか?」
「ああ」
ヴェルナーに促され、ハンターの一人が書かれたメッセージを読み上げる。
「えーと……『抗う者を示せ』とあるだけだ。その下には文字を入力できるボタンがあるな」
ハンターの視界に飛び込んできたのは読み上げたメッセージとキーボードのようなボタン。そこにはアルファベットらしきものが刻まれている。
「どうやら、また謎解きのようですね」
「おーい、こっちにもあったぞ!」
左側の壁を調査していたハンターも同様の声を上げる。
ハンターによれば、メッセージの内容はまったく異なっているようだ。
「こっちは……よく分からない事が書いてあるわ」
『私は常に見ている――。
あなたの傍らで見守る時もあれば、遠く離れた場所からこっそりと見守る事もある。
時にはのけ者にされ、時には必要とされる。
私が見た物は、親に送られて貯えられる。それは記録となり、蓄積されていく。
今日も私は放浪する。それが、私の役目だから』
「こちらにもボタンがあるという事は、何か当てろという事でしょうね」
ヴェルナーが指し示した場所には、右側と同じように左側にもキーボードが添えられている。
しかし、この場において目を惹くのは左右のメッセージだけではない。
「やっぱ怪しいのはこれだろ」
ハンターの一人が指し示したのは正面にあった台座だ。
操縦桿のようなレバーが二本。さらに台座には照準のような物が設置されている。
操縦桿の間にもメッセージが刻まれている。
『一番心の強き者のみが止められる』
「止められる? 何を……」
ハンターの一人がそう言い掛けた瞬間、通路の先に現れる巨大な二つの影。
小型ではあるが、ゴーレムのような存在。足が存在する上、踵にはローラーが装備されている。一体の右手には巨大な刀、もう一体の右手にはガトリング砲のようなものが見える。
「あれ、でしょうね。おそらく護衛兵のような存在でしょうか。
ハンターの皆さん。手分けを致しましょう。謎を解く方とあの護衛兵を止める方です。ですが、なるべく護衛兵も遺跡も壊さないようにして下さい。あくまでも足を止めるだけです」
自称魔導機導師のテルル(kz0218)が大声で叫ぶ。
だが、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)とハンター達の耳に届くのは微かな声だ。
テルルとヴェルナーの間には厚く巨大な壁が立ちはだかっている。
「これは、困りましたね」
その口調からはヴェルナーに困っているような素振りがまったく見られない。
まさに平常運転なのだが、同行するハンターの中には不安を隠せない者もいる。
●
始まりは、テルルからチュプ大神殿へ呼び出された事だった。
「実はよ、困った事があってよ」
「困った事、ですか」
ヴェルナーとハンターの前方を行くテルル。
歩幅の違いから普通に走っては追い抜かれてしまう為、愛用のローラーシューズでチュプ大神殿の北通路を進んでいく。
「ここは、確かピリカが大量に発見されたのでしたね」
「おうよ。今、ドワーフの連中の急ピッチで調査を進めてるぜ」
ピリカ。
古代文明時代に製造された魔導アーマーの亜種と思しき兵器であり、小型幻獣もピリカに乗って戦う事ができる。昆虫の形を模した物が多く、テルルが騎乗する通称『カマキリ』と呼ぶ機体もピリカに属する物だ。
先日の探索でピリカを大量に発見する事ができたのは部族会議にとって大きな出来事だ。現在、調査を行いながら各機体の破損状況をチェックしている。
「何しろ古いもんでよ。ドワーフの連中も苦労しているみたいなんだ。
それでよ、困ったっていうのはそのピリカの事だ」
「まさか、稼働できない物が大半という事でしょうか」
ヴェルナーは最悪の回答を予想した。
ヴェルナーはこのチュプ大神殿に眠る幻獣強化システム『ラメトク』とピリカを対ビックマー戦に投入するよう手配を進めていた。
巨大な体躯を誇る怠惰王、ビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
ハンターがCAMや幻獣で挑む事は想定内だが、さらにハンターの支援としてピリカ部隊を創設。ハンターの助ける手筈を進めていたのだ。今更、大半が動かないという報告はヴェルナーにとっても聞きたくない内容だ。
「いや、それ以前なんだよ」
「というと?」
「ピリカっつーのは古代兵器なんだよ。言ってみりゃ、誰でも扱えるもんじゃねぇ。天才の俺っちでさえもカマキリを動かすのに数ヶ月って時間がかかっているんだ」
ピリカの戦力投入をする事は、操縦する幻獣達の操縦訓練は避けて通れない。
テルルによれば、誰でも簡単に操縦できるかと言えばそうではない。
CAM同様パイロットの向き不向きは存在する。更にいえば古代兵器相手の操縦となれば、システム上不明確な機能は操縦者にとって不安要素になりかねない。
「操縦マニュアルが必要、という事でしょうか?」
「ああ。それも俺っちが触って作る代物じゃねぇ。ここあったピリカの操縦マニュアルが必要だ」
テルルが見渡した視界には、居並ぶピリカ。
すべてが昆虫を模した機体だ。マニュアルが一つとは限らない上、これから一台一台調べるとなればかなり骨が折れる。マニュアルだけでも数種類は必要になるだろう。
「なるほど。もし、古代の人々がここにピリカを隠すなら、後の世の為に操縦マニュアルを残している可能性がある……そう仰りたいのでしょうか」
「そうだ。で、怪しいのがここだ」
ヴェルナーとハンターの前で立ち止まるテルル。
そこには他の壁同様青白く光る壁があった。
「ここですか」
ヴェルナーが壁の前に立つ。
次の瞬間、壁の石が自動的に動き出して通路らしき場所が現れる。
30メートル程の細長い通路。
入り口が開いたと同時に通路の壁に青白い光が灯り始める。
「どうよ? 明らかに怪しい道だろう。マニュアルがあるとすりゃ……って、おいっ! 無視するなよ!」
どや顔で胸を張るテルルを無視して先に進むヴェルナーとハンター。
入り口で一人怒り始めるテルル。
だが、ここで思わぬ出来事は発生する。
「おや?」
ハンターが通路に入った瞬間、入り口が塞がってしまったのだ。
灯り代わりに壁が青白く光っている為、暗闇ではないが、帰り道を塞がれては大神殿の外へ出る事もできない。
「ヴェルナーさん。もしかして、閉じ込められました?」
ハンターの一人がヴェルナーへ問いかける。
危機的状況と称するべきなのだろうが、当のヴェルナーはいつものように優しい笑顔を浮かべる。
「どうやら、そのようですね」
●
脱出路を探すハンターとヴェルナー。
早速、入り口のすぐ右側にメッセージを発見した。
「すいませんが、読み上げていただけますか?」
「ああ」
ヴェルナーに促され、ハンターの一人が書かれたメッセージを読み上げる。
「えーと……『抗う者を示せ』とあるだけだ。その下には文字を入力できるボタンがあるな」
ハンターの視界に飛び込んできたのは読み上げたメッセージとキーボードのようなボタン。そこにはアルファベットらしきものが刻まれている。
「どうやら、また謎解きのようですね」
「おーい、こっちにもあったぞ!」
左側の壁を調査していたハンターも同様の声を上げる。
ハンターによれば、メッセージの内容はまったく異なっているようだ。
「こっちは……よく分からない事が書いてあるわ」
『私は常に見ている――。
あなたの傍らで見守る時もあれば、遠く離れた場所からこっそりと見守る事もある。
時にはのけ者にされ、時には必要とされる。
私が見た物は、親に送られて貯えられる。それは記録となり、蓄積されていく。
今日も私は放浪する。それが、私の役目だから』
「こちらにもボタンがあるという事は、何か当てろという事でしょうね」
ヴェルナーが指し示した場所には、右側と同じように左側にもキーボードが添えられている。
しかし、この場において目を惹くのは左右のメッセージだけではない。
「やっぱ怪しいのはこれだろ」
ハンターの一人が指し示したのは正面にあった台座だ。
操縦桿のようなレバーが二本。さらに台座には照準のような物が設置されている。
操縦桿の間にもメッセージが刻まれている。
『一番心の強き者のみが止められる』
「止められる? 何を……」
ハンターの一人がそう言い掛けた瞬間、通路の先に現れる巨大な二つの影。
小型ではあるが、ゴーレムのような存在。足が存在する上、踵にはローラーが装備されている。一体の右手には巨大な刀、もう一体の右手にはガトリング砲のようなものが見える。
「あれ、でしょうね。おそらく護衛兵のような存在でしょうか。
ハンターの皆さん。手分けを致しましょう。謎を解く方とあの護衛兵を止める方です。ですが、なるべく護衛兵も遺跡も壊さないようにして下さい。あくまでも足を止めるだけです」
リプレイ本文
「私は感嘆する。さすがは大神殿だ。太古の叡智が数多く眠っている」
雨を告げる鳥(ka6258)は、古代文明の遺物を前にしていた。
古代文明を生んだ人々が、雨を告げる鳥へ伝えるメッセージかもしれない。
「はい。私も興味深いです。
ですが、それはこの事態を乗り越えてからゆっくりと調べると致しましょう」
部族会議大首長補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、落ち着いた様子で雨を告げる鳥に視線を向けた。
北通路の奥で発見された通路。ハンター達が足を踏み入れた後、突如として封鎖されてしまった。
そして、通路の奥から動き出したのは二体の機導兵器。
手には刀やガトリング砲が装備してこちらへと迫っている。
敵意。ハンター達はそれを直感的に感じ取った。
「わふっ! 人形さんと遊ぶですー!」
突然迫る機導兵器――護衛兵を前に歓喜の声を上げるアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
だが、そのアルマに対してヴェルナーは釘を刺す。
「アルマさん。あなたがとても強いハンターである事は存じ上げています。ですが、あの機導兵器もこの遺跡の大切な遺物です。壊さないようにお願いします」
ヴェルナーは、迫る機導兵器にも何らかの意味があると考えていた。
あの機導兵器も遺跡の一部であるなら破壊は極力避けて調査対象と見なすべきである。
「わぅっ!? こ、壊したらダメって……」
慌てふためくアルマ。
壊すならば自慢の魔法攻撃を炸裂させればいい。
だが、壊してはいけないとなると話は変わってくる。
「ヴェルナーさん。では、どうすれば良いのでしょう?」
桜憐りるか(ka3748)とユグディラ『小太郎』は、ヴェルナーの傍らで小首を傾げる。
悩む素振りのりるかではあるが、実はヴェルナーには腹案があると予想して質問していた。
「良い質問ですね。
あの機導兵器を破壊するのではなく、足止めをして下さい。その間にこの通路の謎を解きます」
ヴェルナーは入り口を壁に描かれたメッセージを指差した。
入り口の左右に取り付けられたメッセージとキーボード。
そして、入り口正面に立つレバーが二本取り付けられた台座。
このあからさまな謎こそ、この窮地を脱する鍵に違いない。
「誰かが壁役になって護衛兵を止め、その間にすべての謎を解かなければならないのですね。
侵入者を排除って今更だとは思ってましたが、やるしかありません」
八島 陽(ka1442)はユキウサギ『マルティーリョ』とモフロウを連れて通路へ足を踏み入れていた。
そんな八島の脳裏にあったのは、一つの可能性。
もし、この通路が八島の予想通りであるのなら――。
夢と希望に胸を躍らせながら、ハンター達は通路の奥から迫る機導兵器と対峙した。
●
今回の謎で厄介な点は『襲ってくる機導兵器を破壊できない』事にある。
ヴェルナーが指摘したように未だ謎の多い大神殿である。
この機導兵器も調査の対象と考えれば、極力破壊する事は避けたい。
だが、それは謎を解くハンター達の盾役となって機導兵器を押し止める続けなければならない。
「こわさずにというのは容易ではないけど……近付けないようにお手伝いするの」
りるかは迫る機導兵器を前に身構えた。
予め小太郎には攻撃をしないように指示を出している。
あとは――。
「えいっ!」
りるかは機導兵器の目前でアースウォールを展開。機導兵器の行く手を阻んだ。
通路の床から伸びる土の壁。
二体の機導兵器が入り口に向かっている事を考えれば、アースウォールは悪い選択ではない。
しかし、機導兵器にも武器は搭載されている。
右腕の刀を大きく振って土の壁を破壊する。
一撃。どうやら、あの刀は見かけ倒しではないようだ。
「それでも……絶対に進ませ、ません。絶対に通さない」
りるかは機導兵器が繰り出した一撃を聖盾「コギト」で受け止めた。
再びアースウォールを展開する事もできたが、アースウォールの使用限度を超えてしまえば止める事は困難になる。使用タイミングを誤る訳にはいかない。
(これも、ヴェルナーさんの為……ですの)
りるかは唇を噛み締める。
今は、耐え忍ぶしかない。後方にいるヴェルナーと仲間達が謎を解くまで。
「小太郎さん、頑張って護衛兵さんをなんとか……しましょう。お願い、します」
りるかの声を受け、ユグディラは猫たちの挽歌を奏で始める。
実は先程も奏でてみたものの、はっきりとした効果は見受けられなかった。
だが、それでも一瞬躊躇する気配も感じ取れた。りるかは諦めず、機導兵器へ向かって行く。
一方、残る機導兵器には雨を告げる鳥が対峙していた。
「私は心得る。兵器を破壊せずに足止めする」
ガトリング砲を片手に迫る機導兵器を前に雨を告げる鳥は、落ち着いた面持ちでジャッジメントを放った。
光の杭が機導兵器の足を穿つ。ほんの僅かな時間ではあるが、機導兵器の移動を阻害する。その間に雨を告げる鳥は、呪文の詠唱を開始する。
「無形と有形を持つ大地の使いよ。広大なる世界からここに集え。何者も通さぬ不屈の壁となれ」
雨を告げる鳥の土精の守護。
足下に映し出された七芒星の頂点が輝き、光の粒が地面に吸い込まれる。
次の瞬間、巨大な土壁が眼前に立ちはだかる。
光の杭が壊れる頃には、機導兵器の眼前に通路を遮る巨大な壁が完成していた。
雨を告げる鳥の前にいた機導兵器は武器がガトリング砲。
この武器で巨大な土壁を穿つとなれば、相応の時間がかかるはずだ。
「私は気付く。これで時間を稼ぐ事ができた。後は……」
雨を告げる鳥は振り返る。
既に仲間達が謎解きを開始。キーボードを前に頭を悩ませるようすが雨を告げる鳥の目にも飛び込んできた。
現時点では土精の守護以外にも機導兵器の行く手を遮る術はある。
だが、あまり長時間耐え忍ぶ事は難しくなってくる。
「私は願う。一早くこの謎が解かれる事を」
土壁の向こうで連続した銃声鳴り響く。
機導兵器は土壁を強引に通り抜けるつもりのようだ。
霊杖「アルス・マギカ」の手にも力が込められる。
●
りるかと雨を告げる鳥が機導兵器の足止めを行っている裏では、入り口にあった謎にハンター達は取りかかっていた。
「わふぅー! 早速謎を解いて褒めてもらうですー」
アルマが立つのは左側のメッセージ。
壁に刻まれているのは――。
『私は常に見ている――。
あなたの傍らで見守る時もあれば、遠く離れた場所からこっそりと見守る事もある。
時にはのけ者にされ、時には必要とされる。
私が見た物は、親に送られて貯えられる。それは記録となり、蓄積されていく。
今日も私は放浪する。それが、私の役目だから』
メッセージの下にはキーボードが存在し、見る者に答えの入力を促している。
「ふふ、以前にもあった何者かを当てる謎ですね」
「わふ、分かったですー」
ヴェルナーの一言を受けたアルマは手早くキーボードに文字を入力していく。
入力した単語は――パルム。
神霊樹の世話役としても知られ、今回も八島が連れてきたキノコのような精霊である。
「そうですね。これはきっとパルムの事を指していると見るべきですね」
ヴェルナーは頷いた。
その答えが正解だったのだろう。メッセージは青白い光を帯びた後、床に向かって青白い光を走らせる。光は台座へと吸い込まれていき、台座の左半分は仄かに青白く輝き始める。
「お見事です、アルマさん」
「わふぅ……」
言葉で褒められたアルマであったが、何か物足りなさげな様子だ。
その様子を察したヴェルナーは、ひょいと帽子を持ち上げると残った右手でそっと頭を撫でる。
「よくできましたね。さすがはアルマさんです」
「わ、わ、わ、わふぅー!」
最大級の喜びを表現する為か、抱きつくアルマ。
勢いあまってヴェルナーはアルマと一緒に倒れ込んだ。
「ヴェルナー、さん」
声を上げるりるか。
その声を受けてヴェルナーは早々に立ち上がる。
「りるかさん、これはアルマさんが喜びを表現されて……」
「違います。八島さんが……」
アースウォールで機導兵器を足止めしていたりるかは、右側の壁に挑む八島を指差した。
そこには右の壁の前で頭を悩ませる八島の姿があった。
「これでもありませんか」
既に八島は何度も文字を入力している様子が窺える。
ヴェルナーはアルマと共に八島のいる右側の壁へと駆け寄った。
「八島さん、大丈夫ですか?」
「予想していた単語を入力はしているのですが……」
八島の前にある謎は、左側の壁と同様にメッセージが書かれている。
『抗う者を示せ』
その一言だけである。
メッセージの下にはキーボードが存在。アルファベットが配列され、何かを入力するのは間違いないようだ。
「八島さん、今まで入れた単語を教えていただけますか?」
「『GENJU』『げんじゅう』『ユキウサギ』……表現は変えてみたのですが、未だ正解にはなりません」
八島はある仮説を持って入力していた。
それはこの通路自体がピリカに乗る幻獣の教習シミュレーション装置と考えていたのだ。
この為、ピリカに騎乗するであろう幻獣の名前を中心に入力したのだが、メッセージが青白く光る様子が無い。
「幻獣達のピリカ教習シミュレーターですね。その推察は間違っていないと思います。私も大神殿の奥にこのような場所がある事に興味を抱いていました。おそらく後方を塞がれたのは……」
「試す為、だと思います」
ヴェルナーの言葉を続けるように、八島は口を開いた。
今までの謎もそうだった。システムを起動させる為には謎を解く必要がある。今回もおそらくそうに違いないのだが――。
「私は促す。入力は『イクシード』ではないか」
「わぅ! 僕もそう思います!」
「そうか!」
雨を告げる鳥とアルマの意見を受け、八島は言われるままにイクシードと入力する。
だが、入力できる桁数は五文字。
ユキウサギやユグディラを入力しようとした時と同様、桁数が溢れてしまう。
「ヴェルナーさん。何とか、なりませんか?」
機導兵器の刀を再び聖盾「コギト」で受け止めるりるか。
その願いを聞き入れたか、ヴェルナーはメッセージを前に思案する。
「覚醒者が神霊樹であるならば、幻獣はパルム……その関係性を考えたなら、このシミュレーターは覚醒者と共に幻獣が扱う事になります。答えは覚醒者……しかし、イクシードでは入りきらない……」
「私は求める。早急に謎を解いて欲しい。護衛兵が力を溜めている」
雨を告げる鳥は振り返る事無く、土精の守護で土壁を再生する。
明らかに壁の破壊が早くなっている。発射音が鳴り響くまでに時間がかかっている事は気付いていた。力を溜めてから発射しているのは間違いないだろう。
「入れるべき答え、思い付きましたか?」
「八島さん。あなたは確か機導師でしたね?」
問いかける八島に対して、唐突な質問で返すヴェルナー。
促されるまま、八島は頷いた。
その答えを受け、ヴェルナーは『A』のキーを押した。
「アルマさん、あなたは……」
「わふぅ! 機導師ですー」
アルマの元気な答えを受け、再び『A』のキーを押すヴェルナー。
その瞬間、雨を告げる鳥がある事に気付く。
「私は気付く。入力すべきはクラスの頭文字」
「はい。この場にいる覚醒者のクラスを入力するのではないでしょうか。おそらく覚醒者が一人であれば一桁。三人ならば三桁を入力するのでしょう」
そう言いながら、ヴェルナーは次々とキーを入力する。
魔術師であるりるかの『M』。
同じく魔術師である雨を告げる鳥の『M』。
そしてヴェルナー自身のクラス疾影士の『S』。
その瞬間、メッセージは輝き出す。
左側の壁同様、青白い光が台座へと届く。
「どうやら正解のようですね」
ヴェルナーの言葉通り、台座全体が青白く輝く。
これで台座が完全に起動したと考えて良いだろう。
「ここまで来れば……マルくん!」
八島はユキウサギのマルティーリョ――通称マルくんを台座の前に座らせた。
台座に刻まれたメッセージは『一番心の強き者のみが止められる』――。
「心の強き者、つまりあの護衛兵の正面から立った者。台座の照準を護衛兵に向けて。ただし、なるべく惹き付けてから」
マルくんにそっと指示を出す八島。
それに合わせてりるかは後方へ下がる。
破壊される土の壁。その向こうから機導兵器の姿が見える。
「今です!」
八島の指示を受け、機導兵器に照準を合わせるマルくん。
次の瞬間、機導兵器は全身を停止する。そしてマルくんのレバー操作に合わせて動き始める。
「すごい、です。マルくんに、早速残る敵を攻撃してほしい、です」
りるかの言葉を聞いた八島は、マルくんに指示を出す。
レバー操作で感覚的に動かしてはいるが、その動作は大きく通路いっぱいに刀が振る舞わされる。
そして、強烈な一撃が機導兵器の胴体を捉えた。
激しい衝撃音と共に機導兵器は吹き飛ばされ、後方へと投げ出される。
「やりましたね」
ヴェルナーの一言と共に残る機導兵器は、その活動を停止した。
●
「いやー、やっぱさすがだよ。お前等は」
その後、通路の出口が開きテルル(kz0218)と再会したハンター達。
一時はどうなるかと心配していたようだが、問題もなく脱出できたようだ。
「無事、脱出できてよかったです」
「ええ。りるかさんの仰る通りです」
りるかの言葉に小さく頷くヴェルナー。
その後の調査で通路の奥から操縦マニュアルらしきものも発見。
解読が進めば、ピリカの戦力投入は可能だろう。
「ピリカの戦う準備が整えば、後は……」
八島は、マルティーリョの顔を見下ろした。
幻獣達が大神殿のピリカを操縦できるようになれば、怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイル討伐が現実化してくるだろう。
「わぅ! そしたら、みんなでピリカに乗れるですー」
ピリカと聞いてテンションを上げるアルマ。
操縦席の大きさからみてハンターが乗るには小さすぎる。さすがにハンターが乗るのは困難なようだ。
「残念ですが、ハンターの皆さんは乗れないと思います。ピリカは幻獣の森から出られなかった力の弱い幻獣でも操縦できるでしょう。私は彼らが一緒に戦う意志があるのなら、ピリカは彼らに貸し出したいと思っています」
「私は問う。ピリカの眠るこの大神殿の防衛は問題ないのか」
雨を告げる鳥はしゃがみ込んでテルルに問いかけた。
太古の叡智を今に伝える大神殿。歪虚からの襲撃に備えて然るべきだ。
だが、テルルからの答えは意外なものであった。
「いやー、それがよぉ。ドワーフの連中に防衛を頼んだんだけど、まったく現れねぇんだよ。おっかしーよなぁ」
テルルが言うには、青木燕太郎(kz0166)が現れて以降、大神殿周辺で見かける歪虚の数は日に日に減っているのだ。
その理由は、今も分からない。
部族会議としては大神殿の調査も進められて良い傾向なのだが、不気味さがあるのも事実だ。
脳天気なテルルを見つめるヴェルナー。
その様子はいつもの笑顔とは異なり、少し暗さが感じ取れる。
「何か、起こっているのかもしれません。何かが……」
ヴェルナーは、沈黙の後でそう呟いた。
●
「ラッパの天使。今は自由を謳歌するのです。騎士が迎えに来るその時まで」
大神殿の北にブラッドリー(kz0252)は立っていた。
足下には焼け焦げたサイクロプスの亡骸。おそらくビックマーの指示を受けて大神殿へ向かっていたのだろう。だが、ブラッドリーの襲撃を受けてサイクロプスは黒焦げと化す。
漆黒の亡骸は崩れ、残ったのは一つの光球。
光球は宙に漂いながら、ブラッドリーの周囲を回り始める。
ビックマーが知れば立腹どころではないだろう。しかし、ブラッドリーにとっては『些末な事』に過ぎない。
「かつて蒼のマリアンヌが象徴となった変革。それは赤でも起こります。騎士が導いた変革の後、終末がやってきます。
天使達……今は、力を蓄えるのです。いずれ、それが騎士を助けることになります」
ブラッドリーは踵を返す。
辺境に広がる森に、夜の帳が落ち始めていた。
雨を告げる鳥(ka6258)は、古代文明の遺物を前にしていた。
古代文明を生んだ人々が、雨を告げる鳥へ伝えるメッセージかもしれない。
「はい。私も興味深いです。
ですが、それはこの事態を乗り越えてからゆっくりと調べると致しましょう」
部族会議大首長補佐役のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、落ち着いた様子で雨を告げる鳥に視線を向けた。
北通路の奥で発見された通路。ハンター達が足を踏み入れた後、突如として封鎖されてしまった。
そして、通路の奥から動き出したのは二体の機導兵器。
手には刀やガトリング砲が装備してこちらへと迫っている。
敵意。ハンター達はそれを直感的に感じ取った。
「わふっ! 人形さんと遊ぶですー!」
突然迫る機導兵器――護衛兵を前に歓喜の声を上げるアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
だが、そのアルマに対してヴェルナーは釘を刺す。
「アルマさん。あなたがとても強いハンターである事は存じ上げています。ですが、あの機導兵器もこの遺跡の大切な遺物です。壊さないようにお願いします」
ヴェルナーは、迫る機導兵器にも何らかの意味があると考えていた。
あの機導兵器も遺跡の一部であるなら破壊は極力避けて調査対象と見なすべきである。
「わぅっ!? こ、壊したらダメって……」
慌てふためくアルマ。
壊すならば自慢の魔法攻撃を炸裂させればいい。
だが、壊してはいけないとなると話は変わってくる。
「ヴェルナーさん。では、どうすれば良いのでしょう?」
桜憐りるか(ka3748)とユグディラ『小太郎』は、ヴェルナーの傍らで小首を傾げる。
悩む素振りのりるかではあるが、実はヴェルナーには腹案があると予想して質問していた。
「良い質問ですね。
あの機導兵器を破壊するのではなく、足止めをして下さい。その間にこの通路の謎を解きます」
ヴェルナーは入り口を壁に描かれたメッセージを指差した。
入り口の左右に取り付けられたメッセージとキーボード。
そして、入り口正面に立つレバーが二本取り付けられた台座。
このあからさまな謎こそ、この窮地を脱する鍵に違いない。
「誰かが壁役になって護衛兵を止め、その間にすべての謎を解かなければならないのですね。
侵入者を排除って今更だとは思ってましたが、やるしかありません」
八島 陽(ka1442)はユキウサギ『マルティーリョ』とモフロウを連れて通路へ足を踏み入れていた。
そんな八島の脳裏にあったのは、一つの可能性。
もし、この通路が八島の予想通りであるのなら――。
夢と希望に胸を躍らせながら、ハンター達は通路の奥から迫る機導兵器と対峙した。
●
今回の謎で厄介な点は『襲ってくる機導兵器を破壊できない』事にある。
ヴェルナーが指摘したように未だ謎の多い大神殿である。
この機導兵器も調査の対象と考えれば、極力破壊する事は避けたい。
だが、それは謎を解くハンター達の盾役となって機導兵器を押し止める続けなければならない。
「こわさずにというのは容易ではないけど……近付けないようにお手伝いするの」
りるかは迫る機導兵器を前に身構えた。
予め小太郎には攻撃をしないように指示を出している。
あとは――。
「えいっ!」
りるかは機導兵器の目前でアースウォールを展開。機導兵器の行く手を阻んだ。
通路の床から伸びる土の壁。
二体の機導兵器が入り口に向かっている事を考えれば、アースウォールは悪い選択ではない。
しかし、機導兵器にも武器は搭載されている。
右腕の刀を大きく振って土の壁を破壊する。
一撃。どうやら、あの刀は見かけ倒しではないようだ。
「それでも……絶対に進ませ、ません。絶対に通さない」
りるかは機導兵器が繰り出した一撃を聖盾「コギト」で受け止めた。
再びアースウォールを展開する事もできたが、アースウォールの使用限度を超えてしまえば止める事は困難になる。使用タイミングを誤る訳にはいかない。
(これも、ヴェルナーさんの為……ですの)
りるかは唇を噛み締める。
今は、耐え忍ぶしかない。後方にいるヴェルナーと仲間達が謎を解くまで。
「小太郎さん、頑張って護衛兵さんをなんとか……しましょう。お願い、します」
りるかの声を受け、ユグディラは猫たちの挽歌を奏で始める。
実は先程も奏でてみたものの、はっきりとした効果は見受けられなかった。
だが、それでも一瞬躊躇する気配も感じ取れた。りるかは諦めず、機導兵器へ向かって行く。
一方、残る機導兵器には雨を告げる鳥が対峙していた。
「私は心得る。兵器を破壊せずに足止めする」
ガトリング砲を片手に迫る機導兵器を前に雨を告げる鳥は、落ち着いた面持ちでジャッジメントを放った。
光の杭が機導兵器の足を穿つ。ほんの僅かな時間ではあるが、機導兵器の移動を阻害する。その間に雨を告げる鳥は、呪文の詠唱を開始する。
「無形と有形を持つ大地の使いよ。広大なる世界からここに集え。何者も通さぬ不屈の壁となれ」
雨を告げる鳥の土精の守護。
足下に映し出された七芒星の頂点が輝き、光の粒が地面に吸い込まれる。
次の瞬間、巨大な土壁が眼前に立ちはだかる。
光の杭が壊れる頃には、機導兵器の眼前に通路を遮る巨大な壁が完成していた。
雨を告げる鳥の前にいた機導兵器は武器がガトリング砲。
この武器で巨大な土壁を穿つとなれば、相応の時間がかかるはずだ。
「私は気付く。これで時間を稼ぐ事ができた。後は……」
雨を告げる鳥は振り返る。
既に仲間達が謎解きを開始。キーボードを前に頭を悩ませるようすが雨を告げる鳥の目にも飛び込んできた。
現時点では土精の守護以外にも機導兵器の行く手を遮る術はある。
だが、あまり長時間耐え忍ぶ事は難しくなってくる。
「私は願う。一早くこの謎が解かれる事を」
土壁の向こうで連続した銃声鳴り響く。
機導兵器は土壁を強引に通り抜けるつもりのようだ。
霊杖「アルス・マギカ」の手にも力が込められる。
●
りるかと雨を告げる鳥が機導兵器の足止めを行っている裏では、入り口にあった謎にハンター達は取りかかっていた。
「わふぅー! 早速謎を解いて褒めてもらうですー」
アルマが立つのは左側のメッセージ。
壁に刻まれているのは――。
『私は常に見ている――。
あなたの傍らで見守る時もあれば、遠く離れた場所からこっそりと見守る事もある。
時にはのけ者にされ、時には必要とされる。
私が見た物は、親に送られて貯えられる。それは記録となり、蓄積されていく。
今日も私は放浪する。それが、私の役目だから』
メッセージの下にはキーボードが存在し、見る者に答えの入力を促している。
「ふふ、以前にもあった何者かを当てる謎ですね」
「わふ、分かったですー」
ヴェルナーの一言を受けたアルマは手早くキーボードに文字を入力していく。
入力した単語は――パルム。
神霊樹の世話役としても知られ、今回も八島が連れてきたキノコのような精霊である。
「そうですね。これはきっとパルムの事を指していると見るべきですね」
ヴェルナーは頷いた。
その答えが正解だったのだろう。メッセージは青白い光を帯びた後、床に向かって青白い光を走らせる。光は台座へと吸い込まれていき、台座の左半分は仄かに青白く輝き始める。
「お見事です、アルマさん」
「わふぅ……」
言葉で褒められたアルマであったが、何か物足りなさげな様子だ。
その様子を察したヴェルナーは、ひょいと帽子を持ち上げると残った右手でそっと頭を撫でる。
「よくできましたね。さすがはアルマさんです」
「わ、わ、わ、わふぅー!」
最大級の喜びを表現する為か、抱きつくアルマ。
勢いあまってヴェルナーはアルマと一緒に倒れ込んだ。
「ヴェルナー、さん」
声を上げるりるか。
その声を受けてヴェルナーは早々に立ち上がる。
「りるかさん、これはアルマさんが喜びを表現されて……」
「違います。八島さんが……」
アースウォールで機導兵器を足止めしていたりるかは、右側の壁に挑む八島を指差した。
そこには右の壁の前で頭を悩ませる八島の姿があった。
「これでもありませんか」
既に八島は何度も文字を入力している様子が窺える。
ヴェルナーはアルマと共に八島のいる右側の壁へと駆け寄った。
「八島さん、大丈夫ですか?」
「予想していた単語を入力はしているのですが……」
八島の前にある謎は、左側の壁と同様にメッセージが書かれている。
『抗う者を示せ』
その一言だけである。
メッセージの下にはキーボードが存在。アルファベットが配列され、何かを入力するのは間違いないようだ。
「八島さん、今まで入れた単語を教えていただけますか?」
「『GENJU』『げんじゅう』『ユキウサギ』……表現は変えてみたのですが、未だ正解にはなりません」
八島はある仮説を持って入力していた。
それはこの通路自体がピリカに乗る幻獣の教習シミュレーション装置と考えていたのだ。
この為、ピリカに騎乗するであろう幻獣の名前を中心に入力したのだが、メッセージが青白く光る様子が無い。
「幻獣達のピリカ教習シミュレーターですね。その推察は間違っていないと思います。私も大神殿の奥にこのような場所がある事に興味を抱いていました。おそらく後方を塞がれたのは……」
「試す為、だと思います」
ヴェルナーの言葉を続けるように、八島は口を開いた。
今までの謎もそうだった。システムを起動させる為には謎を解く必要がある。今回もおそらくそうに違いないのだが――。
「私は促す。入力は『イクシード』ではないか」
「わぅ! 僕もそう思います!」
「そうか!」
雨を告げる鳥とアルマの意見を受け、八島は言われるままにイクシードと入力する。
だが、入力できる桁数は五文字。
ユキウサギやユグディラを入力しようとした時と同様、桁数が溢れてしまう。
「ヴェルナーさん。何とか、なりませんか?」
機導兵器の刀を再び聖盾「コギト」で受け止めるりるか。
その願いを聞き入れたか、ヴェルナーはメッセージを前に思案する。
「覚醒者が神霊樹であるならば、幻獣はパルム……その関係性を考えたなら、このシミュレーターは覚醒者と共に幻獣が扱う事になります。答えは覚醒者……しかし、イクシードでは入りきらない……」
「私は求める。早急に謎を解いて欲しい。護衛兵が力を溜めている」
雨を告げる鳥は振り返る事無く、土精の守護で土壁を再生する。
明らかに壁の破壊が早くなっている。発射音が鳴り響くまでに時間がかかっている事は気付いていた。力を溜めてから発射しているのは間違いないだろう。
「入れるべき答え、思い付きましたか?」
「八島さん。あなたは確か機導師でしたね?」
問いかける八島に対して、唐突な質問で返すヴェルナー。
促されるまま、八島は頷いた。
その答えを受け、ヴェルナーは『A』のキーを押した。
「アルマさん、あなたは……」
「わふぅ! 機導師ですー」
アルマの元気な答えを受け、再び『A』のキーを押すヴェルナー。
その瞬間、雨を告げる鳥がある事に気付く。
「私は気付く。入力すべきはクラスの頭文字」
「はい。この場にいる覚醒者のクラスを入力するのではないでしょうか。おそらく覚醒者が一人であれば一桁。三人ならば三桁を入力するのでしょう」
そう言いながら、ヴェルナーは次々とキーを入力する。
魔術師であるりるかの『M』。
同じく魔術師である雨を告げる鳥の『M』。
そしてヴェルナー自身のクラス疾影士の『S』。
その瞬間、メッセージは輝き出す。
左側の壁同様、青白い光が台座へと届く。
「どうやら正解のようですね」
ヴェルナーの言葉通り、台座全体が青白く輝く。
これで台座が完全に起動したと考えて良いだろう。
「ここまで来れば……マルくん!」
八島はユキウサギのマルティーリョ――通称マルくんを台座の前に座らせた。
台座に刻まれたメッセージは『一番心の強き者のみが止められる』――。
「心の強き者、つまりあの護衛兵の正面から立った者。台座の照準を護衛兵に向けて。ただし、なるべく惹き付けてから」
マルくんにそっと指示を出す八島。
それに合わせてりるかは後方へ下がる。
破壊される土の壁。その向こうから機導兵器の姿が見える。
「今です!」
八島の指示を受け、機導兵器に照準を合わせるマルくん。
次の瞬間、機導兵器は全身を停止する。そしてマルくんのレバー操作に合わせて動き始める。
「すごい、です。マルくんに、早速残る敵を攻撃してほしい、です」
りるかの言葉を聞いた八島は、マルくんに指示を出す。
レバー操作で感覚的に動かしてはいるが、その動作は大きく通路いっぱいに刀が振る舞わされる。
そして、強烈な一撃が機導兵器の胴体を捉えた。
激しい衝撃音と共に機導兵器は吹き飛ばされ、後方へと投げ出される。
「やりましたね」
ヴェルナーの一言と共に残る機導兵器は、その活動を停止した。
●
「いやー、やっぱさすがだよ。お前等は」
その後、通路の出口が開きテルル(kz0218)と再会したハンター達。
一時はどうなるかと心配していたようだが、問題もなく脱出できたようだ。
「無事、脱出できてよかったです」
「ええ。りるかさんの仰る通りです」
りるかの言葉に小さく頷くヴェルナー。
その後の調査で通路の奥から操縦マニュアルらしきものも発見。
解読が進めば、ピリカの戦力投入は可能だろう。
「ピリカの戦う準備が整えば、後は……」
八島は、マルティーリョの顔を見下ろした。
幻獣達が大神殿のピリカを操縦できるようになれば、怠惰王ビックマー・ザ・ヘカトンケイル討伐が現実化してくるだろう。
「わぅ! そしたら、みんなでピリカに乗れるですー」
ピリカと聞いてテンションを上げるアルマ。
操縦席の大きさからみてハンターが乗るには小さすぎる。さすがにハンターが乗るのは困難なようだ。
「残念ですが、ハンターの皆さんは乗れないと思います。ピリカは幻獣の森から出られなかった力の弱い幻獣でも操縦できるでしょう。私は彼らが一緒に戦う意志があるのなら、ピリカは彼らに貸し出したいと思っています」
「私は問う。ピリカの眠るこの大神殿の防衛は問題ないのか」
雨を告げる鳥はしゃがみ込んでテルルに問いかけた。
太古の叡智を今に伝える大神殿。歪虚からの襲撃に備えて然るべきだ。
だが、テルルからの答えは意外なものであった。
「いやー、それがよぉ。ドワーフの連中に防衛を頼んだんだけど、まったく現れねぇんだよ。おっかしーよなぁ」
テルルが言うには、青木燕太郎(kz0166)が現れて以降、大神殿周辺で見かける歪虚の数は日に日に減っているのだ。
その理由は、今も分からない。
部族会議としては大神殿の調査も進められて良い傾向なのだが、不気味さがあるのも事実だ。
脳天気なテルルを見つめるヴェルナー。
その様子はいつもの笑顔とは異なり、少し暗さが感じ取れる。
「何か、起こっているのかもしれません。何かが……」
ヴェルナーは、沈黙の後でそう呟いた。
●
「ラッパの天使。今は自由を謳歌するのです。騎士が迎えに来るその時まで」
大神殿の北にブラッドリー(kz0252)は立っていた。
足下には焼け焦げたサイクロプスの亡骸。おそらくビックマーの指示を受けて大神殿へ向かっていたのだろう。だが、ブラッドリーの襲撃を受けてサイクロプスは黒焦げと化す。
漆黒の亡骸は崩れ、残ったのは一つの光球。
光球は宙に漂いながら、ブラッドリーの周囲を回り始める。
ビックマーが知れば立腹どころではないだろう。しかし、ブラッドリーにとっては『些末な事』に過ぎない。
「かつて蒼のマリアンヌが象徴となった変革。それは赤でも起こります。騎士が導いた変革の後、終末がやってきます。
天使達……今は、力を蓄えるのです。いずれ、それが騎士を助けることになります」
ブラッドリーは踵を返す。
辺境に広がる森に、夜の帳が落ち始めていた。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 真実を見通す瞳
八島 陽(ka1442)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 雨を告げる鳥(ka6258) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/05/15 12:33:37 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/11 13:39:50 |