ゲスト
(ka0000)
【港騒】無法者相手のトッカータ
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/19 07:30
- 完成日
- 2018/05/28 03:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●『金色のカモメ亭』にて
同盟第一の港湾都市との呼び名も高いポルトワールには、美味い魚介料理を出す店がひしめいている。
そんな店が集まる一角に、『金色のカモメ亭』という店があった。
店主の名はジャン=マリア・オネスティという。三十前のがっしりした体格の男で、派手なフリルのエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしてカラフルなおリボンを結んでいるのが店でのスタイルだ。
まだ開店したばかりの時間とあって、テーブルに散った数人の客もおとなしく、店主は隅の席に座る客と小声で話し込んでいた。
「……それで、何か心当たりでもあるんじゃないかと思ってね」
その人物の顔はフードの陰になっていてよくわからないが、声は女のものだ。
ジャンはわずかに目を細めた。
「なんで? アタシはただの酒場のマスターなのヨ?」
「ははっ、このダウンタウンで、私が知らないことなんかあると思うのかい?」
女は不敵な笑い声を漏らす。
「キミの前歴だって知らない訳じゃない。その知識で何か心当たりはないかって話さ」
ジャンは大げさなしぐさで天を仰ぐ。
「ま、気にしておくワ。分かったことは知らせるわヨ、それは約束するから」
「頼んだよ」
そのとき、扉が開いて新しい客が姿を見せた。
ジャンが反射的に顔を向け、野太い声で明るく挨拶する。
「あ~らご無沙汰ネ、メリンダ。いらっしゃ~い♪」
ジャンが立ち上がると、相手の女はちらりと戸口を見て、さりげなくフードの陰に顔を伏せる。
「お邪魔するわね。ちょうどこちらに用事があったから」
同盟軍報道官のメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、基本的には本部のあるヴァリオスにいるのだが、ここポルトワールへ出張する任務も多い。
そして出張の後、時間が許せば必ず立ち寄るのがこの店である。
さすがにオフとあって私服姿だが、報道官という仕事上、顔を見て分かる者もいるだろう。
いつも通りにカウンターの席へ座ると、いくつかの料理を注文する。
そこで事件が起きた。
乱暴に扉を開けて、5人の男が大声で入ってきたのだ。
年齢は20代から30代後半、見るからに素行の良くなさそうな連中である。
「しかし相変わらずロクな店がねえな、この辺りは」
「まあ飲めりゃどこでもいいや。おい酒だ酒! おっなかなかの別嬪じゃねえか。ねえちゃん、一緒に飲まねえか?」
「……」
ねえちゃんと呼ばれたメリンダは、酔っぱらいの戯言を無視した。
だが酔っぱらいのほうが無視してくれない。
「なあ、おひとりさまも退屈だろ? 俺らがおごってやるからこっち来いよ」
20代と思しき赤毛の男が、メリンダの間近に手をついてにやにや笑っている。
ジャンがカウンターの下に隠した得物を掴みながら、男を制止した。
「ちょっとあんたたち、お客さんに迷惑かけんじゃないわヨ!」
「あぁ? カマは黙ってろ、お客サマ相手にごちゃごちゃいうんじゃねえよ」
そう言いながら、男はメリンダの腕を乱暴に掴んで引っ張った。
「ほらこっち来いって言って……なっ!?」
男の顔は一瞬でカウンターに押し付けられ、何が起こったのかわからない様子だ。
メリンダが男の腕を背中にひねり上げ、そのままカウンターの上に押さえつけたのだ。
「いい加減にしてください、軍を呼びますよ!」
よく通る声が店内に響く。
だが仲間の男たちは、ゲラゲラと笑い出した。
「ひゃははは、軍だとさ! いいねえ、ここで乱闘パーティーだ」
「ねえちゃん、そいつが好みじゃないのか? じゃあ俺と遊ぼうぜ」
別の30ぐらいの黒髪の男が、ふらふらしながら近づく。
「メリンダ、逃げなさいッ!!」
カウンターの中からジャンが、男の顔めがけてロッドを繰り出す。が、ふらついているように見えた男は、軽い動作でそれを避けた。
「あーあ、お客サマに暴力はいけねえなあ?」
「チッ」
ジャンがカウンターを飛び超えようとした瞬間、鋭い制止の声。
「動くんじゃねえ! このねえちゃんの顔に傷がつくぜ?」
へらへら笑う男は、メリンダの頬にダガーの切っ先を突き付けていた。
「得物をカウンターの上に置いて、3歩下がりな」
ジャンの瞳は怒りに燃えていたが、ひとまず男の言葉に従うよりなかった。
「ちょっといいかい?」
隅の席にいたはずのフードの女が囁く。
いつの間にか席を立って、固唾をのんで成り行きを見守る他の客にまぎれていたのだ。
「見たところ、キミもハンターなんだろう? あいつらを捕まえてみないかい?」
フードの陰から除く青い瞳が、こちらを値踏みするように輝いた。
同盟第一の港湾都市との呼び名も高いポルトワールには、美味い魚介料理を出す店がひしめいている。
そんな店が集まる一角に、『金色のカモメ亭』という店があった。
店主の名はジャン=マリア・オネスティという。三十前のがっしりした体格の男で、派手なフリルのエプロンをつけ、背中まである金髪を1本みつあみにしてカラフルなおリボンを結んでいるのが店でのスタイルだ。
まだ開店したばかりの時間とあって、テーブルに散った数人の客もおとなしく、店主は隅の席に座る客と小声で話し込んでいた。
「……それで、何か心当たりでもあるんじゃないかと思ってね」
その人物の顔はフードの陰になっていてよくわからないが、声は女のものだ。
ジャンはわずかに目を細めた。
「なんで? アタシはただの酒場のマスターなのヨ?」
「ははっ、このダウンタウンで、私が知らないことなんかあると思うのかい?」
女は不敵な笑い声を漏らす。
「キミの前歴だって知らない訳じゃない。その知識で何か心当たりはないかって話さ」
ジャンは大げさなしぐさで天を仰ぐ。
「ま、気にしておくワ。分かったことは知らせるわヨ、それは約束するから」
「頼んだよ」
そのとき、扉が開いて新しい客が姿を見せた。
ジャンが反射的に顔を向け、野太い声で明るく挨拶する。
「あ~らご無沙汰ネ、メリンダ。いらっしゃ~い♪」
ジャンが立ち上がると、相手の女はちらりと戸口を見て、さりげなくフードの陰に顔を伏せる。
「お邪魔するわね。ちょうどこちらに用事があったから」
同盟軍報道官のメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、基本的には本部のあるヴァリオスにいるのだが、ここポルトワールへ出張する任務も多い。
そして出張の後、時間が許せば必ず立ち寄るのがこの店である。
さすがにオフとあって私服姿だが、報道官という仕事上、顔を見て分かる者もいるだろう。
いつも通りにカウンターの席へ座ると、いくつかの料理を注文する。
そこで事件が起きた。
乱暴に扉を開けて、5人の男が大声で入ってきたのだ。
年齢は20代から30代後半、見るからに素行の良くなさそうな連中である。
「しかし相変わらずロクな店がねえな、この辺りは」
「まあ飲めりゃどこでもいいや。おい酒だ酒! おっなかなかの別嬪じゃねえか。ねえちゃん、一緒に飲まねえか?」
「……」
ねえちゃんと呼ばれたメリンダは、酔っぱらいの戯言を無視した。
だが酔っぱらいのほうが無視してくれない。
「なあ、おひとりさまも退屈だろ? 俺らがおごってやるからこっち来いよ」
20代と思しき赤毛の男が、メリンダの間近に手をついてにやにや笑っている。
ジャンがカウンターの下に隠した得物を掴みながら、男を制止した。
「ちょっとあんたたち、お客さんに迷惑かけんじゃないわヨ!」
「あぁ? カマは黙ってろ、お客サマ相手にごちゃごちゃいうんじゃねえよ」
そう言いながら、男はメリンダの腕を乱暴に掴んで引っ張った。
「ほらこっち来いって言って……なっ!?」
男の顔は一瞬でカウンターに押し付けられ、何が起こったのかわからない様子だ。
メリンダが男の腕を背中にひねり上げ、そのままカウンターの上に押さえつけたのだ。
「いい加減にしてください、軍を呼びますよ!」
よく通る声が店内に響く。
だが仲間の男たちは、ゲラゲラと笑い出した。
「ひゃははは、軍だとさ! いいねえ、ここで乱闘パーティーだ」
「ねえちゃん、そいつが好みじゃないのか? じゃあ俺と遊ぼうぜ」
別の30ぐらいの黒髪の男が、ふらふらしながら近づく。
「メリンダ、逃げなさいッ!!」
カウンターの中からジャンが、男の顔めがけてロッドを繰り出す。が、ふらついているように見えた男は、軽い動作でそれを避けた。
「あーあ、お客サマに暴力はいけねえなあ?」
「チッ」
ジャンがカウンターを飛び超えようとした瞬間、鋭い制止の声。
「動くんじゃねえ! このねえちゃんの顔に傷がつくぜ?」
へらへら笑う男は、メリンダの頬にダガーの切っ先を突き付けていた。
「得物をカウンターの上に置いて、3歩下がりな」
ジャンの瞳は怒りに燃えていたが、ひとまず男の言葉に従うよりなかった。
「ちょっといいかい?」
隅の席にいたはずのフードの女が囁く。
いつの間にか席を立って、固唾をのんで成り行きを見守る他の客にまぎれていたのだ。
「見たところ、キミもハンターなんだろう? あいつらを捕まえてみないかい?」
フードの陰から除く青い瞳が、こちらを値踏みするように輝いた。
リプレイ本文
●
張り詰めた空気が店内に満ちる。
中の客達は厄介ごとなどごめんだとばかりに席を立ったが、入り口をふさぐならず者達の姿を目にして、無意識のうちに距離を取って店の奥に固まっていた。
「ついてねぇな、ホントに」
トルステン=L=ユピテル(ka3946)はかすかに呻く。
少しばかりの空腹を覚えて、目についた店に入ればこの始末。
とはいえ、おそらく裏口はあるだろう。本気になれば自分だけが逃げることは可能、だが――。
(あれはほっとけねーし。最近同盟があちこちキナ臭いらしーけど関係あんのかな)
おそらく一般人の女性が、覚醒者らしい男に捕まっているのだ。
クールになり切れない自分に半ば呆れながら、あたりを窺うトルステン。
おそらくは彼自身、あまりにも「落ち着きすぎて」いたのだろう。
女の囁き声が耳に届いた。
「見たところ、キミもハンターなんだろう?」
どうやら覚醒者にだけ聞こえる囁きらしい。
トルステンは沈黙でそれに応え、状況の把握に努める。
(ホントはすぐ助けに入りたいけど。この状況で無策はヤバイってのは判るしな)
ふと気づくと、ほかにも何人か、怯えとはほど遠い様子の者がいた。彼らと共闘できれば、なんとかなるかもしれない。
そのひとり、シバ・ミラージュ(ka2094)がトルステンに寄りかかる振りをして耳打ちした。
「人質交換を試みます。……こういうとき、自分の命を差し出す覚悟は出来てますから」
トルステンはわずかに視線を移し、シバの横顔を盗み見る。どうやら本気らしい。
「わかった」
小さく答えると、成り行きを見守る。
そのとき、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)はお財布を取り出しかけた手を止めて、目をぱちくりさせていた。
(え、何々!? なんで彼女を捕まえて……え? 彼はどうするの!?)
これまた、予定の前にたまたま食事に立ち寄ったところで、会計を済ませようとカウンター近くまで来たところだった。
(とりあえず、メリンダさんっていうの? あのお姉さんを救出しないと)
きょろきょろとあたりを見渡すと、こちらを探るように見る視線がいくつか。
ほかの一般人客がひとまずは安全な場所にいることを確認し、マチルダは扉や窓までの距離を目で測った。
(黒髪の仲間は扉の前に大きな人、テーブルにも2人だね)
そのとき、すぐ近くのテーブルに悠々と掛けていた男が、ゆらりと立ち上がるのに気付いた。
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は笑みを湛えながら、件の男たちにゆっくりと近づいていく。
テーブルについていたゴーグルの男が顔を向けた。
「んだよオッサン、遊んでほしいのかよ」
ポケットに突っ込んだ手には、何か得物を持っているのは間違いない。
ヴァージルはそれに気づかないふりで、にやにや笑いながら、黒髪の男を顎でしゃくる。
「なあ、なんだか楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」
「ハァ? 何言ってんだこのオッサン」
ゴーグルが椅子から立ち上がろうとして身構えた。
「いや俺はさ、気の強い女が好きでな。しかもせっかくの別嬪さんだろう、傷なんかつけたら勿体ない。俺は面食いなんだ」
黒髪の男の隣にいるメリンダを値踏みするように眺めると、メリンダは無表情のままで視線を逸らす。
実際のところ、ヴァージルにとってちょっとした暇つぶしのつもりの参戦だったが、お約束通りの反応を返す一同の様子が楽しくなってきたのだ。
「いいね、こういうタイプは力でねじ伏せるよりも、会話から楽しみたいもんだ」
そう言いながら、よろめいたふりでそこらの椅子をわざと蹴っ飛ばした。
赤毛以外のならず者達がどっと笑う。
「オッサン、女を口説いてる場合じゃねえぜ。もう足腰が立たねえのか?」
さらに下卑た笑い声。
それをかき消したのは、凛と響く若い声だった。
「あのっ。その人と私を交換して頂けませんか?」
まだ若い顔に涼しげな銀色の瞳が無垢に輝く。すらりと細身に、銀色の長い髪が美しい。
シバが胸の前で手を組んで、おずおずと男たちのほうへ近づいてきたのだ。
男たちは目を細め、シバの頭の先から足の先までを眺めまわす。
「なんだぁ? オマエは」
「軍の将校のお年を召された愛人さんよりは、話が面倒なことにはならないでしょう?」
シバは自分をにらみつける、冷たく鋭い視線を嫌というほど感じていた。
(ごめんなさいメリンダさん、やむを得ない嘘なんです)
心の中で謝りつつ、シバはそちらをあえて見ないようにした。
黒髪の男が口の端をわずかに持ち上げ、メリンダの顎にナイフを添えた。
「へえ。どっかで見たことがある顔だとは思ったんだがな。で、ボーヤにはそれで何の得があるんだ?」
どうやらこの黒髪がリーダーらしく、油断ならない。
だがそこで反応したのは、虹色の髪の男だった。
「ボーヤだとぅ!?」
あ、騙されやすいのがひとり。
「……いいかも」
ぼそりとつぶやいたのは、扉をふさいで立つ大男。シバ、大ピンチ。
ヴァージルが大声で笑う。
「清楚な感じで、なかなか楽しめるんじゃないか? 俺は多少トウが立ってても女のほうがいいがな」
そこで緩い声が混ざってきた。役犬原 昶(ka0268)はシバが警戒されているのに気づき、話題を逸らそうと試みる。
「なんだなんだ? 面白い事でもしてるのか? なら俺も入れてくれよ」
大柄で筋肉質な男だが、どこか愛嬌のある大型犬のような黒い瞳が、興味津々という様子で輝いている。
「俺、このあたりあんまり詳しくなくてな。誰か飲み相手探してたんだ」
ならず者達が3人に気を取られている隙に、トルステンはフードの女に囁く。
「あの5人の素性トカ、知ってんのか?」
「いや。ここらじゃ見かけない顔だね」
「ふーん?」
別の街から来たのかもしれない。
あの自信に満ちた態度からみて、おそらくは覚醒者なのだろう。
それも、かなり腕に覚えがあるようだ。
(それに武装を見せてない3人が不気味だぜ。黒髪の奴も何か他に隠し持ってるかもしれねぇ)
トルステンはいつでも銃を取り出せるように手だけを緊張させながら、少しずつ入り口方向へとにじり寄って行った。
●
その頃、店の外ではルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がぷんぷんしていた。
「ルンルン忍法花占いで、今日の食事は『金色のカモメ亭』って決めたのに!」
店の扉は固く閉まり、人々が食事を楽しむ様子は感じられない。
「でも人がいる気配はあります。貸切パーティーだったら看板は出してないですよね」
そこで式符を使い、明り取りの窓から中の様子を覗き見る。
「サプライズパーティー……ではないんですね?」
ルンルンはしばらく考え込む。
見るからに人相の悪い連中扉のあたりにいて、店の奥で身を寄せ合っている人々は緊張の面持ちだ。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……」
戸口にしゃがみこんだルンルンは、小声で呪文を唱えると、扉の外に不可視の結界を展開。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術! 符を場に伏せてターンエンドです」
壁で隔てられた店内には届かない術だが、店の扉から逃げ出した奴がいた場合に邪魔することはできるだろう。ただし、10分間だ。
「んー、こういうお店はきっと裏口がありますね。そこから忍び込んじゃいましょう」
隠密行動はお手の物。ルンルンは店の裏側に出そうな路地へと姿を消した。
一方店内では、奇妙な膠着状態が続いていた。
だがそれも長くは続かなかった。リーダーと思われる黒髪の男は、声をかけてきた全員を『怪しい』と思ったらしい。
黒髪はナイフをメリンダに向けたままで、赤毛とゴーグルに声をかけた。
「おいスー。お前はこの女を捕まえとけ。それからアイン、お前はその銀髪のボーヤだ」
ふたりはそれぞれ指示された相手に近づく。赤毛はメリンダを不穏な目つきで睨んでいた。
だがここで膠着状態は破られた。
トルステンと昶にマチルダが素早く目配せを送る。
そして意識を集中させると、眠りを誘う青白いガスを、戸口に向かって送り込んだ。
「In loco aprico, iucundissima somnia♪ ――陽だまりの中、良い夢を♪」
まずメリンダの体ががくりと揺れ、そのまま崩れ落ちるように膝をついた。
黒髪の男はメリンダを放り出し、近くに立ったまま動かない無毛の男の横面を殴りつける。
「お前が寝てんじゃねえ、結界張れ! こいつらハンターだ!」
どうやら無毛の男は魔術師だったらしい。尚、深い意味を考えてはいけない。
「あーくそっ、間に合え!」
トルステンは猛然と距離を詰め、メリンダをホーリーヴェールで守る。
とはいえ、一般人にどれだけ効果があるかは未知数だ。
「それでもないよりはマシだろ」
「よし、届くぜ!」
昶がファントムハンドの幻影の腕でメリンダを捕まえると、自分のほうへ引き寄せる。
「ゲット!」
だが目を覚ました赤毛が、歯をむき出して向かってきた。意外にも早い。
「別嬪さんは預かろう」
昶は姿勢を低くして構え、男が足に力を込めた瞬間を狙って、威嚇の大声を上げた。
「わ!」
赤毛のメリケンサックが空を切る。だがすぐに体勢を整えると、今度は正確に昶の頬をめがけて拳を繰り出してきた。
どうやらメリンダに対しては、舐めてかかっていたようだ。そこで思わぬ反撃を受けた訳だから、逆恨みとはいえ逆上しているのは間違いない。
昶は目を輝かせて全身に力をみなぎらせる。
「手加減の必要はないみたいだな、久々に暴れるぜ!」
赤毛を自分にひきつけつつ、昶は黒髪の様子を窺っていた。
(あいつが一番面倒そうだぜ)
黒髪は次々と仲間をたたき起こすと、指示を飛ばしていたのだ。
●
メリンダが確保されたのを確認し、シバはアースウォールを展開する。赤毛だけが壁のこちら側で昶と殴り合っていることになる。
万が一、連中が飛び道具を持っていた場合、他のお客や店の設備に被害が及ぶかもしれないのだ。
マテリアル壁は敵を閉じ込め、味方を守るのに一番使い勝手がいい。
虹色の髪の男が悲鳴のような声を上げる。
「サリム兄貴ぃ!」
だが相手も覚醒者、もしくはハンター崩れの場合は、歪虚相手とは勝手が違った。
「馬鹿野郎、攻撃しろ! 壁は逃げねえ、殴り放題だぜ!!」
指示するのは黒髪の声だ。実際、ハンターが本気で攻撃すれば、アースウォールは壊せるのだ。しかも壊されるまで、シバが次の壁を作ることはできない。
そこにマチルダが並び、シバの作り出した壁をさらに補強するように新たな壁を展開する。
「こうやって交互に作ればなんとかなるよね」
頼もしい壁だが、術者が自身の目の前に作り出すことしかできない。仮に破られれば、真っ先に攻撃を受けるのはシバとマチルダだろう。
今しも1枚目の壁が崩れ落ちる。
興奮にギラつく目がこちらを見ていた。
「次を作ればいいんだろ。あいつらを疲れさせりゃなんとかなる」
トルステンはシバに声をかけると、壁の脇から覗く顔に向けて聖なる銃弾を撃ち込む。
疲れさせる。こちらにかなわないと思わせる。
だが男たちはどこか異様だった。
「くそ~、酒飲んでから遊んでたらサイコーだったのによお」
「ひゃはははは、だがよ、おもっきし暴れんのもいいもんだぜぇ」
2枚、3枚。壁を叩き壊し、男たちはそれを楽しんでいたのだ。
その間に、昶が赤毛を確保。
「なかなかいい運動になったぜ! マスター、ロープかなんかないか?」
昶の頬には血が流れていたが、実にいい笑顔でジャンを呼んで一緒に赤毛を縛り上げた。
ヴァージルがシバとマチルダに低く囁く。
「壁を壊すたびに、連中の動ける範囲が広がっている。今のが破れたら仕掛けるぞ」
「それで、可能なら全員捕縛だな」
トルステンが静かに付け加えた。ここまでやらかした以上、責任を取らせねばならない。
壁が崩れ落ちた。
ハンドガンを手にしたゴーグルと、メイスを構えた虹髪。無毛は六角棍のような杖を持っていた。黒髪は腕に魔導機械らしきものを装着していた。
「お前ら、そいつら片づけたら厨房の酒かっぱらってこい」
不敵な笑みを浮かべる黒髪の男と、歓声を上げるならず者達。
ヴァージルは仲間を制し、黒髪の男の目前に姿をさらす。
「いいことを教えてやろう。女を口説くにはもっとスマートにな」
黒髪の男は鼻で笑って一瞥すると、不意に腕を突き出した。魔導機械から扇状に炎が広がる。
「やれやれ。ずいぶんと青臭い連中だな」
ヴァージルは盾を構えていた。光の障壁で黒髪の男の攻撃を単身受け止めたのだ。多少の怪我は覚悟の上だ。
「ハッ、さすが真っ当なハンターサマは、色んな術を使うぜ」
黒髪の男が笑っていた。
その間に、ほかの連中が飛び出していた。
一番面倒そうなゴーグルを、昶がファントムハンドで抑え込んだ。
すれ違いざまに飛び出した虹髪と無毛が、カウンターの脇から厨房へ入ろうとする。
「いい加減にしなさいヨ!!」
ジャンが立ちふさがると、虹髪がメイスを振り上げた。と思うと、短い呻きとともに得物を放り出す。
みれば、きっと眉を寄せた少女が、符を構えてポーズをとっていた。
「ご飯の恨みをシュリケンに込めました!」
裏口から入ったルンルンは、ならず者の退路を塞ぐべく様子を見ていたのだった。
「助かるワ、後でおなか一杯ごちそうするわネ!!」
「がんばっちゃいます! やっぱり花占いでお店を決めて正解でした」
ルンルンの投げ上げた符が稲妻と化して、ふたりのならず者を同時に貫く。
残る黒髪は――。
「兄貴ぃ!!」
「サリム、あんたの本気見せてくれよ!」
仲間の声にほんの僅かだけ口角を上げた男は、突然踵を返すと魔導機械を装着した腕を扉に向けた。
「逃げんのかよ!」
その意味に気づいたトルステンが、腕を狙って撃つ。
だがわずかの差で遅く、黒髪の男は扉を破壊して外へ飛び出していったのだった。
●
店内はひどい状態だった。
それでも突然の出来事の中で4人を確保したのだから、上々である。
「もう逃げられませんよ!」
ルンルンが4人を見回す。が、さっきまで大暴れしていた男たちは、どういうわけか別人のように大人しかった。
ほかの客は逃げるように出ていき、ジャンはメリンダを休ませるため店の2階へ連れていった。
後にはハンターたちとフードの女が残された。
ヴァージルが口元に笑みを浮かべて話しかける。
「なあ。まさかタダ働きってわけじゃないよな? 飲みに付き合ってくれるかい?」
女は小さく笑うと、被っていたフードを脱いだ。
猫のように輝く青い目が、ハンターたちを見渡す。
「ヴァネッサだよ。キミ達の対応能力は確認させてもらった。で、だ。軽く飲みながら次の仕事の話なんてどうだい?」
ポルトワールで始まった『仕事』の行き着く先を、まだこの場の誰ひとり知る由はなかった。
<続>
張り詰めた空気が店内に満ちる。
中の客達は厄介ごとなどごめんだとばかりに席を立ったが、入り口をふさぐならず者達の姿を目にして、無意識のうちに距離を取って店の奥に固まっていた。
「ついてねぇな、ホントに」
トルステン=L=ユピテル(ka3946)はかすかに呻く。
少しばかりの空腹を覚えて、目についた店に入ればこの始末。
とはいえ、おそらく裏口はあるだろう。本気になれば自分だけが逃げることは可能、だが――。
(あれはほっとけねーし。最近同盟があちこちキナ臭いらしーけど関係あんのかな)
おそらく一般人の女性が、覚醒者らしい男に捕まっているのだ。
クールになり切れない自分に半ば呆れながら、あたりを窺うトルステン。
おそらくは彼自身、あまりにも「落ち着きすぎて」いたのだろう。
女の囁き声が耳に届いた。
「見たところ、キミもハンターなんだろう?」
どうやら覚醒者にだけ聞こえる囁きらしい。
トルステンは沈黙でそれに応え、状況の把握に努める。
(ホントはすぐ助けに入りたいけど。この状況で無策はヤバイってのは判るしな)
ふと気づくと、ほかにも何人か、怯えとはほど遠い様子の者がいた。彼らと共闘できれば、なんとかなるかもしれない。
そのひとり、シバ・ミラージュ(ka2094)がトルステンに寄りかかる振りをして耳打ちした。
「人質交換を試みます。……こういうとき、自分の命を差し出す覚悟は出来てますから」
トルステンはわずかに視線を移し、シバの横顔を盗み見る。どうやら本気らしい。
「わかった」
小さく答えると、成り行きを見守る。
そのとき、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)はお財布を取り出しかけた手を止めて、目をぱちくりさせていた。
(え、何々!? なんで彼女を捕まえて……え? 彼はどうするの!?)
これまた、予定の前にたまたま食事に立ち寄ったところで、会計を済ませようとカウンター近くまで来たところだった。
(とりあえず、メリンダさんっていうの? あのお姉さんを救出しないと)
きょろきょろとあたりを見渡すと、こちらを探るように見る視線がいくつか。
ほかの一般人客がひとまずは安全な場所にいることを確認し、マチルダは扉や窓までの距離を目で測った。
(黒髪の仲間は扉の前に大きな人、テーブルにも2人だね)
そのとき、すぐ近くのテーブルに悠々と掛けていた男が、ゆらりと立ち上がるのに気付いた。
ヴァージル・チェンバレン(ka1989)は笑みを湛えながら、件の男たちにゆっくりと近づいていく。
テーブルについていたゴーグルの男が顔を向けた。
「んだよオッサン、遊んでほしいのかよ」
ポケットに突っ込んだ手には、何か得物を持っているのは間違いない。
ヴァージルはそれに気づかないふりで、にやにや笑いながら、黒髪の男を顎でしゃくる。
「なあ、なんだか楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」
「ハァ? 何言ってんだこのオッサン」
ゴーグルが椅子から立ち上がろうとして身構えた。
「いや俺はさ、気の強い女が好きでな。しかもせっかくの別嬪さんだろう、傷なんかつけたら勿体ない。俺は面食いなんだ」
黒髪の男の隣にいるメリンダを値踏みするように眺めると、メリンダは無表情のままで視線を逸らす。
実際のところ、ヴァージルにとってちょっとした暇つぶしのつもりの参戦だったが、お約束通りの反応を返す一同の様子が楽しくなってきたのだ。
「いいね、こういうタイプは力でねじ伏せるよりも、会話から楽しみたいもんだ」
そう言いながら、よろめいたふりでそこらの椅子をわざと蹴っ飛ばした。
赤毛以外のならず者達がどっと笑う。
「オッサン、女を口説いてる場合じゃねえぜ。もう足腰が立たねえのか?」
さらに下卑た笑い声。
それをかき消したのは、凛と響く若い声だった。
「あのっ。その人と私を交換して頂けませんか?」
まだ若い顔に涼しげな銀色の瞳が無垢に輝く。すらりと細身に、銀色の長い髪が美しい。
シバが胸の前で手を組んで、おずおずと男たちのほうへ近づいてきたのだ。
男たちは目を細め、シバの頭の先から足の先までを眺めまわす。
「なんだぁ? オマエは」
「軍の将校のお年を召された愛人さんよりは、話が面倒なことにはならないでしょう?」
シバは自分をにらみつける、冷たく鋭い視線を嫌というほど感じていた。
(ごめんなさいメリンダさん、やむを得ない嘘なんです)
心の中で謝りつつ、シバはそちらをあえて見ないようにした。
黒髪の男が口の端をわずかに持ち上げ、メリンダの顎にナイフを添えた。
「へえ。どっかで見たことがある顔だとは思ったんだがな。で、ボーヤにはそれで何の得があるんだ?」
どうやらこの黒髪がリーダーらしく、油断ならない。
だがそこで反応したのは、虹色の髪の男だった。
「ボーヤだとぅ!?」
あ、騙されやすいのがひとり。
「……いいかも」
ぼそりとつぶやいたのは、扉をふさいで立つ大男。シバ、大ピンチ。
ヴァージルが大声で笑う。
「清楚な感じで、なかなか楽しめるんじゃないか? 俺は多少トウが立ってても女のほうがいいがな」
そこで緩い声が混ざってきた。役犬原 昶(ka0268)はシバが警戒されているのに気づき、話題を逸らそうと試みる。
「なんだなんだ? 面白い事でもしてるのか? なら俺も入れてくれよ」
大柄で筋肉質な男だが、どこか愛嬌のある大型犬のような黒い瞳が、興味津々という様子で輝いている。
「俺、このあたりあんまり詳しくなくてな。誰か飲み相手探してたんだ」
ならず者達が3人に気を取られている隙に、トルステンはフードの女に囁く。
「あの5人の素性トカ、知ってんのか?」
「いや。ここらじゃ見かけない顔だね」
「ふーん?」
別の街から来たのかもしれない。
あの自信に満ちた態度からみて、おそらくは覚醒者なのだろう。
それも、かなり腕に覚えがあるようだ。
(それに武装を見せてない3人が不気味だぜ。黒髪の奴も何か他に隠し持ってるかもしれねぇ)
トルステンはいつでも銃を取り出せるように手だけを緊張させながら、少しずつ入り口方向へとにじり寄って行った。
●
その頃、店の外ではルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がぷんぷんしていた。
「ルンルン忍法花占いで、今日の食事は『金色のカモメ亭』って決めたのに!」
店の扉は固く閉まり、人々が食事を楽しむ様子は感じられない。
「でも人がいる気配はあります。貸切パーティーだったら看板は出してないですよね」
そこで式符を使い、明り取りの窓から中の様子を覗き見る。
「サプライズパーティー……ではないんですね?」
ルンルンはしばらく考え込む。
見るからに人相の悪い連中扉のあたりにいて、店の奥で身を寄せ合っている人々は緊張の面持ちだ。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……」
戸口にしゃがみこんだルンルンは、小声で呪文を唱えると、扉の外に不可視の結界を展開。
「ルンルン忍法土蜘蛛の術! 符を場に伏せてターンエンドです」
壁で隔てられた店内には届かない術だが、店の扉から逃げ出した奴がいた場合に邪魔することはできるだろう。ただし、10分間だ。
「んー、こういうお店はきっと裏口がありますね。そこから忍び込んじゃいましょう」
隠密行動はお手の物。ルンルンは店の裏側に出そうな路地へと姿を消した。
一方店内では、奇妙な膠着状態が続いていた。
だがそれも長くは続かなかった。リーダーと思われる黒髪の男は、声をかけてきた全員を『怪しい』と思ったらしい。
黒髪はナイフをメリンダに向けたままで、赤毛とゴーグルに声をかけた。
「おいスー。お前はこの女を捕まえとけ。それからアイン、お前はその銀髪のボーヤだ」
ふたりはそれぞれ指示された相手に近づく。赤毛はメリンダを不穏な目つきで睨んでいた。
だがここで膠着状態は破られた。
トルステンと昶にマチルダが素早く目配せを送る。
そして意識を集中させると、眠りを誘う青白いガスを、戸口に向かって送り込んだ。
「In loco aprico, iucundissima somnia♪ ――陽だまりの中、良い夢を♪」
まずメリンダの体ががくりと揺れ、そのまま崩れ落ちるように膝をついた。
黒髪の男はメリンダを放り出し、近くに立ったまま動かない無毛の男の横面を殴りつける。
「お前が寝てんじゃねえ、結界張れ! こいつらハンターだ!」
どうやら無毛の男は魔術師だったらしい。尚、深い意味を考えてはいけない。
「あーくそっ、間に合え!」
トルステンは猛然と距離を詰め、メリンダをホーリーヴェールで守る。
とはいえ、一般人にどれだけ効果があるかは未知数だ。
「それでもないよりはマシだろ」
「よし、届くぜ!」
昶がファントムハンドの幻影の腕でメリンダを捕まえると、自分のほうへ引き寄せる。
「ゲット!」
だが目を覚ました赤毛が、歯をむき出して向かってきた。意外にも早い。
「別嬪さんは預かろう」
昶は姿勢を低くして構え、男が足に力を込めた瞬間を狙って、威嚇の大声を上げた。
「わ!」
赤毛のメリケンサックが空を切る。だがすぐに体勢を整えると、今度は正確に昶の頬をめがけて拳を繰り出してきた。
どうやらメリンダに対しては、舐めてかかっていたようだ。そこで思わぬ反撃を受けた訳だから、逆恨みとはいえ逆上しているのは間違いない。
昶は目を輝かせて全身に力をみなぎらせる。
「手加減の必要はないみたいだな、久々に暴れるぜ!」
赤毛を自分にひきつけつつ、昶は黒髪の様子を窺っていた。
(あいつが一番面倒そうだぜ)
黒髪は次々と仲間をたたき起こすと、指示を飛ばしていたのだ。
●
メリンダが確保されたのを確認し、シバはアースウォールを展開する。赤毛だけが壁のこちら側で昶と殴り合っていることになる。
万が一、連中が飛び道具を持っていた場合、他のお客や店の設備に被害が及ぶかもしれないのだ。
マテリアル壁は敵を閉じ込め、味方を守るのに一番使い勝手がいい。
虹色の髪の男が悲鳴のような声を上げる。
「サリム兄貴ぃ!」
だが相手も覚醒者、もしくはハンター崩れの場合は、歪虚相手とは勝手が違った。
「馬鹿野郎、攻撃しろ! 壁は逃げねえ、殴り放題だぜ!!」
指示するのは黒髪の声だ。実際、ハンターが本気で攻撃すれば、アースウォールは壊せるのだ。しかも壊されるまで、シバが次の壁を作ることはできない。
そこにマチルダが並び、シバの作り出した壁をさらに補強するように新たな壁を展開する。
「こうやって交互に作ればなんとかなるよね」
頼もしい壁だが、術者が自身の目の前に作り出すことしかできない。仮に破られれば、真っ先に攻撃を受けるのはシバとマチルダだろう。
今しも1枚目の壁が崩れ落ちる。
興奮にギラつく目がこちらを見ていた。
「次を作ればいいんだろ。あいつらを疲れさせりゃなんとかなる」
トルステンはシバに声をかけると、壁の脇から覗く顔に向けて聖なる銃弾を撃ち込む。
疲れさせる。こちらにかなわないと思わせる。
だが男たちはどこか異様だった。
「くそ~、酒飲んでから遊んでたらサイコーだったのによお」
「ひゃはははは、だがよ、おもっきし暴れんのもいいもんだぜぇ」
2枚、3枚。壁を叩き壊し、男たちはそれを楽しんでいたのだ。
その間に、昶が赤毛を確保。
「なかなかいい運動になったぜ! マスター、ロープかなんかないか?」
昶の頬には血が流れていたが、実にいい笑顔でジャンを呼んで一緒に赤毛を縛り上げた。
ヴァージルがシバとマチルダに低く囁く。
「壁を壊すたびに、連中の動ける範囲が広がっている。今のが破れたら仕掛けるぞ」
「それで、可能なら全員捕縛だな」
トルステンが静かに付け加えた。ここまでやらかした以上、責任を取らせねばならない。
壁が崩れ落ちた。
ハンドガンを手にしたゴーグルと、メイスを構えた虹髪。無毛は六角棍のような杖を持っていた。黒髪は腕に魔導機械らしきものを装着していた。
「お前ら、そいつら片づけたら厨房の酒かっぱらってこい」
不敵な笑みを浮かべる黒髪の男と、歓声を上げるならず者達。
ヴァージルは仲間を制し、黒髪の男の目前に姿をさらす。
「いいことを教えてやろう。女を口説くにはもっとスマートにな」
黒髪の男は鼻で笑って一瞥すると、不意に腕を突き出した。魔導機械から扇状に炎が広がる。
「やれやれ。ずいぶんと青臭い連中だな」
ヴァージルは盾を構えていた。光の障壁で黒髪の男の攻撃を単身受け止めたのだ。多少の怪我は覚悟の上だ。
「ハッ、さすが真っ当なハンターサマは、色んな術を使うぜ」
黒髪の男が笑っていた。
その間に、ほかの連中が飛び出していた。
一番面倒そうなゴーグルを、昶がファントムハンドで抑え込んだ。
すれ違いざまに飛び出した虹髪と無毛が、カウンターの脇から厨房へ入ろうとする。
「いい加減にしなさいヨ!!」
ジャンが立ちふさがると、虹髪がメイスを振り上げた。と思うと、短い呻きとともに得物を放り出す。
みれば、きっと眉を寄せた少女が、符を構えてポーズをとっていた。
「ご飯の恨みをシュリケンに込めました!」
裏口から入ったルンルンは、ならず者の退路を塞ぐべく様子を見ていたのだった。
「助かるワ、後でおなか一杯ごちそうするわネ!!」
「がんばっちゃいます! やっぱり花占いでお店を決めて正解でした」
ルンルンの投げ上げた符が稲妻と化して、ふたりのならず者を同時に貫く。
残る黒髪は――。
「兄貴ぃ!!」
「サリム、あんたの本気見せてくれよ!」
仲間の声にほんの僅かだけ口角を上げた男は、突然踵を返すと魔導機械を装着した腕を扉に向けた。
「逃げんのかよ!」
その意味に気づいたトルステンが、腕を狙って撃つ。
だがわずかの差で遅く、黒髪の男は扉を破壊して外へ飛び出していったのだった。
●
店内はひどい状態だった。
それでも突然の出来事の中で4人を確保したのだから、上々である。
「もう逃げられませんよ!」
ルンルンが4人を見回す。が、さっきまで大暴れしていた男たちは、どういうわけか別人のように大人しかった。
ほかの客は逃げるように出ていき、ジャンはメリンダを休ませるため店の2階へ連れていった。
後にはハンターたちとフードの女が残された。
ヴァージルが口元に笑みを浮かべて話しかける。
「なあ。まさかタダ働きってわけじゃないよな? 飲みに付き合ってくれるかい?」
女は小さく笑うと、被っていたフードを脱いだ。
猫のように輝く青い目が、ハンターたちを見渡す。
「ヴァネッサだよ。キミ達の対応能力は確認させてもらった。で、だ。軽く飲みながら次の仕事の話なんてどうだい?」
ポルトワールで始まった『仕事』の行き着く先を、まだこの場の誰ひとり知る由はなかった。
<続>
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ご相談 マチルダ・スカルラッティ(ka4172) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/05/18 22:39:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/14 23:28:12 |
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質問卓 トルステン=L=ユピテル(ka3946) 人間(リアルブルー)|18才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/05/16 22:56:15 |