アンナの訓練日誌2

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/05/22 09:00
完成日
2018/06/06 00:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 その日の演習場は晴天に恵まれていた。
 生い茂る葉の間から太陽がのぞいて、薄暗い森林に温かな光が差し込む。
「整列! ……よし、全員揃っているな」
 目の前に並んで敬礼をする3人の若い兵士を前に、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)もまた礼を返す。
「全員揃うのも久しぶりね~」
 おっとりとした笑顔でフィオーレが手を打って、他2人の男性隊員を見やる。
 服の間から見える全身に火傷や生傷の絶えないピーノに、昔に比べて随分と筋肉量が落ちてほっそりとしたバン。
 エスト隊の新兵3名――いや、その呼び方も間もなく終わる。
「長らくご迷惑をおかけしました、隊長」
「いや、無事に戻って来てくれて嬉しく思う。あなたもだ、バン」
 深く頭を下げたピーノに静かに首を振って、アンナはバンへと視線を投げた。
「いや……こっちこそ、長いこと悪かったな」
 バンはふいと視線を逸らして、決まりが悪そうに頭を掻く。
 ここ最近顔つきが精悍になってきたピーノと違って、彼の表情はどこか影が差している。
「……気に病む必要はない。あの事件は不可抗力だ。お前に責任はない」
「それで遣りきれるかよ……」
 気を使って声を掛けたつもりのピーノだったが、バンは余計に顔を曇らせた。
「俺は今月一杯で軍をやめるぜ」
「ああ、届けは既に貰っている。私としても引き留めるわけにもいかない」
 アンナは静かに頷き返す。
「そ、それでいいの? 妹さんの生活費だって」
「金を稼ぐ方法はなんだってある。ガラじゃねぇが地道に働いたって……とにかく、道は1つじゃねぇだろうさ」
「道は1つじゃない……か」
 言葉を反芻するように、アンナはぽつりとつぶやく。
 その姿を目で追って、ピーノは彼女の方へと向き直った。
「隊長、そろそろ始めましょう。ハンターの方々もお待ちのようですし」
「ああ……そうだな」
 意識を切り替えて表情に気を張り直したアンナは、新兵たちの表情をもう一度ひとしきり見渡す。
「あなた達と出会って、早くも多くの月日が流れた。この練成小隊ももうすぐその役割を終えることとなる。今後は皆それぞれに必要とされる場所に配属ないし、別の道へと進んでいくことになる。今日はそのための集大成だ」
 彼女は傍らに並んだハンター達へと目配せをする。
「覚えているだろうか。私があなたたちと出会ったとき、その性根を叩きなおそうと模擬戦を設定した。もちろんコテンパンにノされた記憶は残っているだろうが――今回もまた同様に、オフィスを通して数名のハンターに協力を依頼した」
 そして、1人ずつハンター達の事を紹介していくアンナ。
 前回のそれとはうって変わって、新兵たちも挨拶1つ1つに向き直り、敬礼を返す。
 それだけでも十分に社会性としての成長を感じられるものだが、その本懐はもっと別のところにある。
 ひとしきりの紹介を終え、アンナは締めくくるようにハンター達へと礼を向けた。
「今回は私も指揮官として、そして1人の兵士として戦闘に加わります。ハンターの皆には協力に感謝するとともに、胸を借りる気持ちで全力で取り組みます。もちろん――勝たせて貰うつもりで」
 そして道端の小さな花を見つけた時のように、ほんの僅かに笑みを浮かべてみせた。
「立会人はフェリーニ大尉が引き受けてくださった。評価役も兼ねているので、それぞれ無様な醜態を晒さぬように。今後の給与査定や、退職金にも響くかもしれない事を肝に銘じてほしい」
「ははっ、死人に鞭打つように手厳しいこって。いいぜ、これが最後だ。病み上がりが言い訳にならねぇところをどこかのモヤシに見せてやるよ」
「減らず口は相変らずで安心したよ。そっちこそ、苦手な戦場だってことは十分意識してくれ」
「もう~、閉じたはずの傷口開いても知らないわ~」
 トゲのある言葉を交わし合うバンとピーノに、フィオーレはどこかハラハラしつつ、だけど楽しそうに言葉を添える。
 その様子を慈しむように見守って、アンナは澄んだ声で言い放った。
「それではハンターの皆さんも配置についてください。大尉の空砲の音を合図に、作戦を開始する――」
 エスト隊、最後の訓練が始まる。


【解説】
▼目的
エスト隊と模擬戦

▼概要
皆さんは模擬戦の相手として呼ばれたハンターです。
新兵練成小隊であるエスト隊は今月一杯で任期を終え、隊員たちは今後それぞれの力が求められる部署へと配属されていきます。
今回はこれまで統括として企画されたもので、これまでの彼らの成長をトータルで評価するためのものとなります。

参加可能人数の差は軍側の設定したハンデです。
少数ゆえに常に連携を意識して訓練を行ってきた同隊は、戦闘ルールで設定されている「連携サポート」及び「自動連係サポート」が十二分に発揮される状態にあると考えてください。

▼ルール
場所は陸軍が所有する山間の演習場の一部で、広さは1辺が200m。
木や背の高い雑草が多く、有効視界は基本50m。
長くても100mに満たないほどの鬱蒼とした森林地帯。
西から東に掛けてなだらかな傾斜になっているのが特徴です。

リプレイ本文


 森を微かな風が薙いだ。
 木の葉を撫でるかのような優しい風。
 その中に、風によるものとは違った“音”が混じっているのを耳にしてジャック・エルギン(ka1522)が声を張る。
「来るぞ……!」
 作戦開始から西を目指したハンター達は、会敵することなく坂の上部に隊を敷くことができていた。
 途中何度かフィオーレの狙撃を受けていたが当てるつもりは感じられず、牽制としての意味合いが強い。
 罠の存在も意識しながら慎重に北へ進路を向ける中、ついに動きはあった。
 ジャックが弓に矢を番えるのと同時に、その頭上を人影が高速で飛び抜ける。
 ブーツからマテリアルの光を靡かせて、地上へ大型パイルの切っ先を向けるアンナ=リーナ・エスト(kz0108)だった。
 咄嗟に防御や回避の姿勢を取ったハンター達を、発せられた熱線の放射が包み込む。
 先頭のキヅカ・リク(ka0038)が盾でそれを受け止めると、その背後から転がり出たクリス・クロフォード(ka3628)が距離を詰めた。
 着地する瞬間を狙って放たれたクリスの拳を彼女はクロスした腕で受け止める。
 瞬間、光の障壁が2人の間を隔てて展開。
 クリスは障壁の反動で弾き飛ばされる。
 アンナも吹き飛ばされつつ、雑草をなぎ倒しながら着地した。
「あー、効くぅ……初っ端からあなたが来るのは想定外だったわ」
 全身を駆け巡るマテリアルの電流にクリスは思わず顔をしかめる。
 アンナはすぐさまマテリアルを噴出して、急加速と共に宙を横切る。
 飛び上がった彼女へジャックが矢を引き絞ったが、遠巻きに銃声が聞こえて横っ飛びに転がっていた。
「良い位置取るなあ……流石に手慣れてやがるぜ」
 咄嗟に照準を変えて、倒れたまま遠方の木の上に陣取ったフィオーレへと矢を放つ。
 彼女は幹から飛び降りてそれを回避すると、ガサリと背の高い雑草群の中に姿を消す。
 その間にも距離を詰めるアンナを、横から入ったレイピアのひと突きが霞める。
 彼女は眉を潜めながら身を丸めてクリスの頭上を通り過ぎた。
 細剣を突き出したイルム=ローレ・エーレ(ka5113)は刃を懐へ引き寄せる。
「せっかく手に入れた高低差だから、利用はしていかないとね」
「なら、そのさらに上を取るだけですよ」
 頭上の幹が大きく揺れて、飛び降りたピーノが刃を抜き放つ。
 イルムはその一撃を切っ先で弾いて、トンと距離を空けた。
「直前に声を上げなければ百点満点といったところかな?」
「それはどうも」
 着地したピーノはそのまま踵を返して全速力で掛けていく。
 同時にアンナもジェットブーツを吹かして、全く逆の方向へと飛び立った。
 2方向に分かれたことに一瞬驚いたハンター達だったが、ここでそれぞれを見逃す由もない。
「俺とジャック、それからイルムさんはピーノの方向を! 他の3人はアンナさんをお願いします!」
「分かりました!」
 アンナの速度に追いすがるようにテノール(ka5676)が急加速で地を駆け、その後をクリスとリーベ・ヴァチン(ka7144)が追いかけていった。


 慣れた様子で森を駆け抜けていくアンナを、ハンター達も音や気配を元になんとか追いすがってはいた。
 しかし、錯綜する木々の間に入られれば視覚的に一瞬見失ってしまうことも多々ある。
「まるで誘い込んでいるようですね――」
 口にした矢先、頭上の幹がミシリと揺れたのを察知してテノールは大きく半身を開く。
 その鼻先を分厚く大きな刃が掠めて、前髪がはらりと宙を舞う。
「何があった!」
 咄嗟にリーベが頭上見上げるも、残るのは「そこに人が居た」であろう痕跡を残して激しくしなる枝葉の姿だけ。
 難を逃れたテノールも、すぐさまファイティングポーズに移る。
「バン君……なのか?」
 彼のテリトリーに誘い込まれたということなのだろうか。
 意識を巡らせた矢先に、クリスの号が飛ぶ。
「――伏せてっ!」
 直後に熱線が戦場を薙ぐ。
 木陰から身を乗り出して放たれたアンナの一撃をハンター達は地に伏せて躱し、彼女は再び幹の裏へと隠れてしまう。
 数の利はある。
 だが地の利を取られている状況に、3人の意識はより詰められていく。

 一方で、ピーノは北へ北へと歩みを進める。
「合流するつもりだろうな。そう言えばさっきから狙撃がねぇ」
 ジャックが口にしたのはフィオーレのことだ。
 慎重に狙っているのか、それとも――その時、別動隊から連絡が入る。
 バンらしき人影が現れたらしい。
「6対4よりは……ということなのかな?」
「どちらにしろ、合流される前にピーノは押さえておきたいね」
 リクのブーツがマテリアルを吹いて、ピーノとの距離を一気に詰める。
 反撃の銃弾を盾で受け止めると、そのままマテリアルの炎を纏って真正面から彼に肉薄した。
「お互いあれから強くなった。だから――手加減はなしだ」
「それは僕も同感だ」
 バックステップで距離を維持しながら、ピーノは不敵に笑った。
 リクの陰から狙うジャックの矢が彼を襲う。
 それをレイピアの切っ先で弾いたが、側面からイルムの刃が迫った。
 今度は銃床でそれを払う。
 がら空きになった身体にリクのタックルが抉りこんで、ピーノの身体は木の幹に叩きつけられていた。
「かはっ……!」
 衝撃に思わず膝をつく。
「……まだまだヒットにならないぞ」
「だけど君が考えなしにこんなことをしてるとも思えなくってね」
 イルムの微笑みを、彼は霞んだ瞳で見上げた。
「こういう役回りは……2度とゴメンだな」
 自嘲するように浮かべた笑み。
 同時に頭上の枝がガサリと大きく揺れ、大きな影がリクへと飛びかかっていた。
 大ぶりの刃が迫って、咄嗟に盾を傘にする。
「――2度と同じことはねぇだろうよ」
「バンか……!?」
 リクが盾で押し退くと、バンは逆らうことなく大きく距離を取る。
 入れ違いにピーノがレイピアを突き出して、それを遮ってイルムが結界を張り巡らせる。
 不可視の壁に阻まれて彼の刃はリクへ届く前に弾かれた。
「あっちにもこっちにもバン君バン君、面白い状況だね!」
「いや、どう見てもあいつが本物だろっ!」
 ジャックも弓を構えると、既にバンが二太刀目を踏み込んでいた。

「――別動隊にもバン? じゃあ、こっちのは……」
 通信を受け取ったクリスは眉を潜めながら、不意に目の前に現れた大剣をあえて手甲で受け止める。
 見た目よりも軽々と留めた一撃。
 弾くように押し返したその大きな刃は目の前でみるみると収縮していき、草葉の中へと消えていった。
「もう、十分だな」
 同時に、木の上からアンナがひらりと舞い降りる。
 そして手に持った小ぶりのナイフをブーツの隙間に滑り込ませた。
「超重錬成。1人芝居ということか」
「おかげでかなりの手札は切らされた。そうでもしなければ、この状況を構築できないのでな」
 リーベが呆れたような感心したような様子で刀を構える。
 アンナは茂みにカモフラージュしたパイルを取り上げると、ベルトで肩に担いで3人を見やる。
「この状況って――ああ、なるほど」
 腑に落ちたテノールが思わず空を仰ぐと、片手に通信機を握りしめる。
 アンナは特に邪魔をするでもなくその様子を見送って、代わりに手にした筒のピンを引き抜いた。
「――気を付けてください、フィオーレ軍曹もそちらです」
 真っ白な煙幕が辺り一帯を包み込む。


 上段から放たれたバンの一撃を、間に入ったジャックが抜きざまのバスタードソードで受け止める。
「病み上がりにしちゃ根性あるじゃねえか!」
「ナメられるのが一番嫌いでなッ!」
 その間にリクが結界を回り込んで、黒剣の斬撃から熱線を放つ。
 ピーノは飛び上がって頭上の枝を掴んでかわすと、そのままブランコから飛び降りるようにして距離を詰め寄った。
「状況をよく見てる。君はいい戦士になるよ」
「望むのは兵士だけれどね」
 振り下ろされたレイピアの一閃をリクは身じろぎもせずに機剣で受け止める。
 刹那、競り合った鍔の間に光が走り、ピーノの身体を弾き飛ばす。
 電流を受けたようにぎこちない動作で起き上がろうとして、ふらりとその足が縺れた。
「まだ、ヒットコールはないぞ?」
「だからこれでヒットだ」
 眉間に突きつけられた黒い刃。
 同時にヒットを告げる空砲が1つ――続けざまにもう1つ上がった。
「たった今、通信を貰ったんだけどねぇ……ちょっと遅かったよ」
 肩を竦めるイルムの視線の先で、リクの後頭部に銃口を突きつけるフィオーレの姿。
 べったりと土を塗り付けてなお上品な表情で、疲れ切ったように溜息をついた。
「いやぁ……全く気配を察知できなかったよ、まいったね」
「頑張って這って来たの~。もう、服も髪もどろどろよ~」
 戦域から離脱するピーノとリクを見送って結界を解除すると、イルムは一歩の間合いでフィオーレに肉薄する。
「前線に出てきてくれるのは好都合さ!」
 手始めにと放ったレイピアの正中突き。
 しかしながらその一撃は彼女の意思に反して、バンの大剣目がけて踏み込み、突き放たれていた。
「これ以上、仲間に手ぇ出させねぇぜ?」
 その背後でフィオーレが全力でエリアから離脱しようとして、弓に持ち替えたジャックが矢継ぎ早の3連射をその背に放つ。
「よそ見しているヒマはねぇぜ!」
 迫るバンの大剣を、ジャックは身を低くしてやり過ごす。
 だが振り向きざまに放ったフィオーレの銃弾が肩を染液で染めると、彼は煙幕弾の一本を彼女の逃げた方向へと転がすように投げた。
「これで射線は通らねぇはずだ!」
「――距離を開けているのならな」
 煙幕の中から飛び込んできたアンナが、パイルの切っ先をジャックへと打ち下ろす。
 ジャックはその射線から転がり出ると、入れ違いにクリスが射程へ飛び込んだ。
 放たれた拳をアンナはブーツの底で受け止める。
 そして開いた脚の間からパイルを構えなおすと、クリスは滑るように距離を取った。
「隊長、援護に!」
「そうはさせませんよ?」
 放たれたテノール拳が大剣の厚刃を横から襲い、衝撃で地面に叩きつける。
 バンの間合いのはるかに外から、距離を詰められたことに気づくよりも先にその拳は刃を捉えていた。
「何ぃ……!?」
 目を見開いて事実を視認するバンに、次いでリーベの刀が閃く。
 バンは慌てて振り上げた刃でそれを受け止め、脱落は免れる。
「なーに辛気臭い顔してんの……よっ」
 一方、再度踵を返したクリスのストレートがアンナの眼前に唸った。
 彼女はパイルの頑丈な銃身でそれを受け止めて、いぶかし気に首をかしげる。
「辛気臭い……私が?」
「他に誰が居るのよ?」
 展開した光の障壁でクリスを弾き飛ばしたアンナは、追撃に向かうことなくその場に倒れ伏すとパイルを空へ向けて掲げ上げた。
 頭上をレイピアが突き抜けて、ちょうど切っ先を向けた先にイルムの笑顔がちらつく。
「ヒットだ」
「お見事っ」
 コールが響き、アンナは飛び起きてクリスに意識を戻す。
 しかし彼の姿は既にそこにはなく、代わりに頭上から飛び込んでくる影がひとつあるだけだった。
「迷う暇があるなら、一歩を踏み出しなさいよ」
 拳が幾重にも飛び交い、時に受け止め、時に躱し応対するアンナ。
「迷って……いるのか、私は?」
「どれだけ同じ死線くぐってると思ってるのよ」
 どこか腑に落ちない様子ながらもわずかに動揺を見せる彼女に、クリスは息を吐かせず猛攻を続ける。
 同様にテノールの拳もまた、神速の域でバンに迫った。
「手加減できるほど、余裕があるつもりもないんです」
「ぐっ……くそっ!」
 はじめは追いすがろうとしたバンも、次第に速度についていけず受け残しの拳が肩やわき腹に入り始める。
 そんな中に真っすぐ忠実なリーベの一閃が光れば、彼が膝を折るのもそう遅くはなかった。
「最後まで立ち続ける意志は見事だ。その覚悟があれば、どのような地でも生き抜くことができるだろう」
「それ、人に切っ先向けながら言うセリフかよ……?」
 刃を突き付ける彼女に両手を上げて降参を示し、コールが響く。
「バンも落ちたか……」
「あの子はもう、覚悟決まってるじゃないの」
 アンナの熱線をあえて拳で受け止め、まっすぐにクリスが間合いを詰めた。
「沢山身体動かして……少しは気が晴れたかしら?」
 突き出された拳はパイルの切っ先を激しく強打する。
 直後に銃身が乾いた音と共に弾けて、破損したパーツが視界を舞っていた。
「パイルが……!?」
 咄嗟にアンナは残骸を投げ捨て、ホルスターへ手を伸ばす。
 だが抜き放とうとした瞬間、詰め寄ったテノールにその手を抑えられ、彼女は小さく息を吐いた。
「昔からさ、暗い顔してもらいたくない性質でね。とりわけ好きな人には」
 口にしながら、クリスの指がアンナの額をトンと叩く。
 5回目のコール音が森に響いていた。


「――って、お前まだヒットしてないだろ?」
 作戦後のミーティングで詰め寄ったジャックにフィオーレはぐったりと座り込みながら、ぱたぱたと手を振ってみせた。
「1人っきりなら流石に降参よ~」
「それに関しては少しはバンを見習ってもらいたいものだな……」
 リーベが横目で捉えた少年の姿。
 その傍にはリクが静かに肩を並べていた。
「気持ちはわかるよ。僕も……同じだったから、さ」
 語り掛けるリクの言葉には答えず、バンはただ軍服から剥がした隊章を握りしめる。
「だから探したんだ。同じように。そして……僕はたどりついた」
 彼に言葉が聞こえていようといまいと、リクはただ語る。
 それはどこか自らへも言い聞かせているかのようで、思わず間に割って入りたくなったのをジャックはぐっとこらえた。
「僕は戦い続けることにした。それしかなかったから……僕は、世界が救われるその日まできっと戦い続ける。ピーノ達だって、これからも戦い続ける。その時……君がどうしたいのか」
「俺は……」
 かすかに口にして、バンは再び唇をきつく結んだ。
「リスタートでなくってリベンジ――きっと、できるはず」
 それを察してリクは後押しするように、一言だけ付け加えると彼の傍を離れる。
 きっともう少し考える時間が必要だ。
 その事は、誰よりもリク自身がよく分かっていることだった。
「うん、本当にお疲れ様だね4人とも」
 感慨深く口にしたイルムの声が、辺りに響く。
「隊は解散しても、きっと絆は続いていく。困ったときに頼れる『仲間』の存在は大きいものだよ。もちろん、ボクたちもその一員のつもりさっ」
「そうだな。それこそ同盟にいりゃ、また会うこともあるだろ」
 ジャックが同意すると、釣られるように頷きが返ってくる。
「ああ! そ・れ・と……デートのお誘いはいつでも歓迎するよ!」
 一瞬居を突かれながらも、苦笑に近い溜息がふっと場に漏れた。
 冗談めかさぬイルムの笑顔は、葉の間から差し込む木漏れ日に照らされて宝石のように輝いて見えた。

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MVP一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522
  • ―絶対零度―
    テノールka5676

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォード(ka3628
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 負けない強さを
    リーベ・ヴァチン(ka7144
    ドラグーン|22才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/05/19 23:18:05
アイコン 相談卓
クリス・クロフォード(ka3628
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/05/22 00:56:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/19 20:19:07