ゲスト
(ka0000)
【CF】泣きじゃくる歌姫
マスター:十野誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/21 15:00
- 完成日
- 2014/12/26 22:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
12月、リアルブルーでは多くの街がどこもかしこもクリスマスに染まるこの時期、クリムゾンウェストでもまた同じようにクリスマスムードに包まれる。
それはここ、崖上都市「ピースホライズン」でも変わらない。
むしろどこもかしこも華やかに、賑やかにクリスマス準備が進められていて。
リアルブルーの街に輝くという電飾の代わりに、ピースホライズンを彩るのは魔導仕掛けのクリスマス・イルミネーション。
立ち並ぶ家や街の飾りつけも、あちらこちらが少しずつクリスマスの色に染まっていく。
特に今年は、去年の秋に漂着したサルヴァトーレ・ロッソによって今までになく大量に訪れたリアルブルーからの転移者たちが、落ち着いて迎えられる初めてのクリスマス。
ハンターとして活躍している者も多い彼らを目当てにしてるのか、少しばかり変わった趣向を凝らす人々もいるようで。
果たして今年はどんなクリスマスになるのか、楽しみにしている人々も多いようだった。
●
教会に音が響く。
大オルガンからはき出される音にあわせて歌われるのは、少年や少女らの合唱曲だ。
繊細な年代の子らの口から紡がれる歌声は、教会の中で響き渡り、更なる広がりを示す。
オルガンの音が更に盛り上がりに連れ、少年少女の声が盛り上がらんとしたところで――指揮棒を振っていた青年が大きく手を振り、その歌声を中断させる。
「あぁ、もう駄目だ! そこの左から3番目の子! もっと出せるだろう!? それに全体的に右につられてる!」
ダメ出しを受けた子らは、沈んだ顔もちを見せつつも、指揮者の声に耳を傾ける。
「いいかい? キミらはこの教会の一員として、リアルブルーの人達と迎えるクリスマスで合唱を披露するんだ。もっと集中しないと。はい、それじゃあ第2節の……」
教会における合唱曲は、その道に携わる者にとり特別とも言える。
特にクリスマスの合唱はその年の締めくくりを飾る一幕でもあり、一般の人に向けた大きな舞台でもある。この日ばかりは日頃教会に足を運ばない者も足を向け、司祭の言葉に耳を傾けるからだ。
この教会では、少年や少女らを広く集めて日頃から訓練を行い、合唱の研鑽を積んできていた。
歌声は響く。先ほど注意された者も、大きく歌い上げ、整った合唱を作り上げる。が。
「ストーップ!」
指揮者の青年は再び腕を振り、彼らの歌声を止めさせた。
「あー、すこし休憩しよう。それぞれで気分転換してくれ」
彼の言葉に子供達は散らばり、それぞれがおしゃべりに興じ始める。
そんな中、青年のもとにオルガンを演奏していた教会のシスターが歩み寄る。
「みんな十分に出来ていると思いますよ? やり過ぎては……」
「分かってる、分かってるんだ。だけど」
「あの子ですか」
彼女の言葉に、青年は口を閉じ、苦い笑みを浮かべる。
「そうだね――彼女と、キミは二人でもあの子らよりも歌えていたんだから」
「なら、そう言って上げれば……」
「そうも行かない。この教会で演るのは合唱だ。あの子がいては、皆がよりかかってしまう」
けれど、と言う青年に、シスターはそっと笑みを浮かべる。
「心配性なんですね、貴方は」
「――また突拍子も無いことを言うね?」
「そうですね、貴方の教え子がライバルになる、なんて事になったら心配しなくても良いでしょうか?」
「また突拍子も無いことをいうね?!」
「ついでにオルガン奏者も……」
「そいつは勘弁してくれ!」
●
ピースホライズン内の住宅街の一角。
そこから聞こえる若いながらも豊かな高い音の歌声は、近くの住人の心を和ませていた。
聞くものの心に残り続けるその歌は、ここ数日はめっきり鳴りを潜めている。
「あの子、大丈夫かしら……」
「なんでも、合唱団を……」
「勿体無いことをするなぁ、あの子の歌を聞きにいってたのに……」
その住宅の中。一人の少女が拗ねた顔でうずくまっている。
「わたしは、歌いたかっただけなのに……」
もっとたくさんの人の前で。
色んな人に聞いてもらいたかった。
だから、教会の合唱団に入ったし、リアルブルーの人達も来ると言う今度の舞台では張り切っていた。
それなのに。
皆と共に歌うはずだった曲――それを歌おうとしたところで、彼女の耳に数日前に指揮者の言葉がよみがえる。
『ごめん。キミがいると合唱にならない。今度は外れてくれないか』
「もう、歌わないもん」
少女の口からは、歌声ではなく。圧し殺した泣き声があがっていた。
●
「皆様、今回はお世話になります」
依頼の詳しい話を聞こうと言うハンター達の前に立つ年若いシスターは、そう言って深くお辞儀をする。
「皆様にご依頼するのは――そうですね。まとめて言うと、傷ついた女の子を慰めて、共に教会の合唱団に勝って欲しい、と言う事ですね」
シスターはにっこりと笑顔を浮かべる。
「あの分からず屋――失礼。頑固な――もとい。頭の固い指揮者に、少しばかり思いやりを覚えさせないといけません」
その為には、かの指揮者が率いる合唱団に勝つ必要があるのだと言う。
とは言え、歌での勝ち負けなど判断が難しい話だ。採点をする人次第で、いくらでも変わってしまう。
小さく咳払いをすると、シスターは改めて話し始める。
「正しくは、あの子が合唱を出来るのだと。彼が指揮者としてもったいない判断をしたのだと。彼にそう感じさせるような曲を披露していただきたい、と言うことです」
それを機に、女の子が再び合唱を出来るようになればなにより。そうでなくても、彼女が歌を唄う事をやめてほしくないのだと、シスターは言葉を続けた。
「女の子の歌声はかなりのものです。単独で歌っても、合唱団が彼女の添え物になるほどです……あの男は、それが問題だと思ったようですが……」
うっすらと浮かんだ青筋は、すぐに再び浮かぶ笑みに隠される。
「私はあちらで演奏をしないといけませんので、演奏も皆様にお願いさせていただきます。楽器はある程度こちらで用意いたします。リアルブルーの方達の使うような楽器――ええと、えれきぎたー、でしたか?そう言ったものはありませんが……」
リアルブルーで言う電子楽器を除く、古くからあるような楽器ならば教会に存在しているとの事だ。
「あぁ、それともう一点。指揮も皆様の内のどなたかにお願いさせていただいても良いでしょうか? そのうえで、教会で用意された曲以外を演りたいと言うのであれば、そちらも問題ありません」
もしかすると、その方が彼女の気分転換になるかもしれないと言い、シスターは懐かしむような顔を浮かべる。
彼女は、元気な歌声をあげ、回りの人に聞いてもらうのが何より好きだったのだと。新しい譜面を渡すと、喜んで勉強をはじめ、少しでも早く歌えるようになろうとしたのだと、シスターは語る。
「余談が過ぎましたね。失礼致しました。もし、よろしければ。皆様、御協力のほどよろしくお願い致します」
それはここ、崖上都市「ピースホライズン」でも変わらない。
むしろどこもかしこも華やかに、賑やかにクリスマス準備が進められていて。
リアルブルーの街に輝くという電飾の代わりに、ピースホライズンを彩るのは魔導仕掛けのクリスマス・イルミネーション。
立ち並ぶ家や街の飾りつけも、あちらこちらが少しずつクリスマスの色に染まっていく。
特に今年は、去年の秋に漂着したサルヴァトーレ・ロッソによって今までになく大量に訪れたリアルブルーからの転移者たちが、落ち着いて迎えられる初めてのクリスマス。
ハンターとして活躍している者も多い彼らを目当てにしてるのか、少しばかり変わった趣向を凝らす人々もいるようで。
果たして今年はどんなクリスマスになるのか、楽しみにしている人々も多いようだった。
●
教会に音が響く。
大オルガンからはき出される音にあわせて歌われるのは、少年や少女らの合唱曲だ。
繊細な年代の子らの口から紡がれる歌声は、教会の中で響き渡り、更なる広がりを示す。
オルガンの音が更に盛り上がりに連れ、少年少女の声が盛り上がらんとしたところで――指揮棒を振っていた青年が大きく手を振り、その歌声を中断させる。
「あぁ、もう駄目だ! そこの左から3番目の子! もっと出せるだろう!? それに全体的に右につられてる!」
ダメ出しを受けた子らは、沈んだ顔もちを見せつつも、指揮者の声に耳を傾ける。
「いいかい? キミらはこの教会の一員として、リアルブルーの人達と迎えるクリスマスで合唱を披露するんだ。もっと集中しないと。はい、それじゃあ第2節の……」
教会における合唱曲は、その道に携わる者にとり特別とも言える。
特にクリスマスの合唱はその年の締めくくりを飾る一幕でもあり、一般の人に向けた大きな舞台でもある。この日ばかりは日頃教会に足を運ばない者も足を向け、司祭の言葉に耳を傾けるからだ。
この教会では、少年や少女らを広く集めて日頃から訓練を行い、合唱の研鑽を積んできていた。
歌声は響く。先ほど注意された者も、大きく歌い上げ、整った合唱を作り上げる。が。
「ストーップ!」
指揮者の青年は再び腕を振り、彼らの歌声を止めさせた。
「あー、すこし休憩しよう。それぞれで気分転換してくれ」
彼の言葉に子供達は散らばり、それぞれがおしゃべりに興じ始める。
そんな中、青年のもとにオルガンを演奏していた教会のシスターが歩み寄る。
「みんな十分に出来ていると思いますよ? やり過ぎては……」
「分かってる、分かってるんだ。だけど」
「あの子ですか」
彼女の言葉に、青年は口を閉じ、苦い笑みを浮かべる。
「そうだね――彼女と、キミは二人でもあの子らよりも歌えていたんだから」
「なら、そう言って上げれば……」
「そうも行かない。この教会で演るのは合唱だ。あの子がいては、皆がよりかかってしまう」
けれど、と言う青年に、シスターはそっと笑みを浮かべる。
「心配性なんですね、貴方は」
「――また突拍子も無いことを言うね?」
「そうですね、貴方の教え子がライバルになる、なんて事になったら心配しなくても良いでしょうか?」
「また突拍子も無いことをいうね?!」
「ついでにオルガン奏者も……」
「そいつは勘弁してくれ!」
●
ピースホライズン内の住宅街の一角。
そこから聞こえる若いながらも豊かな高い音の歌声は、近くの住人の心を和ませていた。
聞くものの心に残り続けるその歌は、ここ数日はめっきり鳴りを潜めている。
「あの子、大丈夫かしら……」
「なんでも、合唱団を……」
「勿体無いことをするなぁ、あの子の歌を聞きにいってたのに……」
その住宅の中。一人の少女が拗ねた顔でうずくまっている。
「わたしは、歌いたかっただけなのに……」
もっとたくさんの人の前で。
色んな人に聞いてもらいたかった。
だから、教会の合唱団に入ったし、リアルブルーの人達も来ると言う今度の舞台では張り切っていた。
それなのに。
皆と共に歌うはずだった曲――それを歌おうとしたところで、彼女の耳に数日前に指揮者の言葉がよみがえる。
『ごめん。キミがいると合唱にならない。今度は外れてくれないか』
「もう、歌わないもん」
少女の口からは、歌声ではなく。圧し殺した泣き声があがっていた。
●
「皆様、今回はお世話になります」
依頼の詳しい話を聞こうと言うハンター達の前に立つ年若いシスターは、そう言って深くお辞儀をする。
「皆様にご依頼するのは――そうですね。まとめて言うと、傷ついた女の子を慰めて、共に教会の合唱団に勝って欲しい、と言う事ですね」
シスターはにっこりと笑顔を浮かべる。
「あの分からず屋――失礼。頑固な――もとい。頭の固い指揮者に、少しばかり思いやりを覚えさせないといけません」
その為には、かの指揮者が率いる合唱団に勝つ必要があるのだと言う。
とは言え、歌での勝ち負けなど判断が難しい話だ。採点をする人次第で、いくらでも変わってしまう。
小さく咳払いをすると、シスターは改めて話し始める。
「正しくは、あの子が合唱を出来るのだと。彼が指揮者としてもったいない判断をしたのだと。彼にそう感じさせるような曲を披露していただきたい、と言うことです」
それを機に、女の子が再び合唱を出来るようになればなにより。そうでなくても、彼女が歌を唄う事をやめてほしくないのだと、シスターは言葉を続けた。
「女の子の歌声はかなりのものです。単独で歌っても、合唱団が彼女の添え物になるほどです……あの男は、それが問題だと思ったようですが……」
うっすらと浮かんだ青筋は、すぐに再び浮かぶ笑みに隠される。
「私はあちらで演奏をしないといけませんので、演奏も皆様にお願いさせていただきます。楽器はある程度こちらで用意いたします。リアルブルーの方達の使うような楽器――ええと、えれきぎたー、でしたか?そう言ったものはありませんが……」
リアルブルーで言う電子楽器を除く、古くからあるような楽器ならば教会に存在しているとの事だ。
「あぁ、それともう一点。指揮も皆様の内のどなたかにお願いさせていただいても良いでしょうか? そのうえで、教会で用意された曲以外を演りたいと言うのであれば、そちらも問題ありません」
もしかすると、その方が彼女の気分転換になるかもしれないと言い、シスターは懐かしむような顔を浮かべる。
彼女は、元気な歌声をあげ、回りの人に聞いてもらうのが何より好きだったのだと。新しい譜面を渡すと、喜んで勉強をはじめ、少しでも早く歌えるようになろうとしたのだと、シスターは語る。
「余談が過ぎましたね。失礼致しました。もし、よろしければ。皆様、御協力のほどよろしくお願い致します」
リプレイ本文
●教会の歌声
入口をくぐると、ハンターの二人は、教会のホールに響く少年少女の歌声にその身を包まれた。
響く大オルガンの音に流されないように。音に逆らわずに歌の中で曲を奏でられるように。子供達は精一杯の歌声を張り上げている。
「――あら? 貴方達は……みんな、ごめんね。ちょっと休憩していて」
子供達の合唱は、二人のハンターに気がついたシスターの一言と共に中断される。
ホールの中ほどまで近寄っていたオイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304)とアシェ・ブルゲス(ka3144)の元に走り寄ると、シスターは深々とお辞儀をする。
「申し訳ありません。気がつくのが遅れて」
「気にせずともよいぞ、むしろ今日はお願いと」
「少し聞きたいことがあって、来させてもらったんだ。ちょっといいかな?」
その言葉にシスターは依頼のことだと悟り、背筋を伸ばす。
「どのようなご用件でしょう? あの子の為で、私に出来る事があれば、お手伝いさせていただきます」
シスターの言葉に、アシェが口を開く。
「知りたいのは、女の子が好きな曲かな? どんな歌が好きなんだろう?」
「好きな曲、ですか……」
シスターは眉を寄せて考え込む素振りを見せる。
「……そうですね。1つだけ心当たりがあります。確か……リアルブルーの人から聞いた曲と言っていました」
それはアイドルと言う人が歌う曲だという。
その他の歌は、教会で歌い覚えた曲となるため、適当ではないだろう、とシスターは語る。
頷きを見せるアシェの横から、ニィナが口を開く。
「良いかの? では妾からもお願いがあるのじゃ」
なんでしょうか、と聞くシスターに、ニィナは言葉を続ける。
「パイプオルガン、じゃったか。あれの弾き方を教えてもらえんかの?」
その言葉に、シスターは満面の笑みと共に言葉を返す。
「もちろんです。空いた時間でとなりますが、よろしくお願いしますね」
●説得
教会に向かわず、直接女の子の家へと向かったハンター達は、その母親の案内のもと、彼女の自室の前に立つ。
ドアに傷は無く、鍵らしきものも無い。だが
――――! ―――!!
ドア越しに、泣き声が繰り返し聞こえていた。
そんな中、時音 ざくろ(ka1250)が口を開く。
「クリスマスの舞台で歌うの楽しみにしてたんだよね、ざくろ達も力になるから、一緒に歌おうよ……辛い気持ちもわかるけど、歌ってもっと楽しいものだよ、だから一緒に楽しもうよ」
ざくろの言葉に続くのは、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
「合唱ができないって、どうして思い込むのん? 歌だっていっぱい練習して上手に歌えるようになったはずなのん。だったら練習して上手くなるんよ」
二人の言葉は、ドアの向こうに届いたのだろうか。
動く様子を見せないドアに、エステル・L・V・W(ka0548)がドアに手をかける。
その時。家の入口から、教会に行っていた二人が顔を出した。
そして。
部屋の中でうずくまっていた女の子は、外から聞こえてくる涼やかな音に顔を上げた。
懐かしい音。外での練習の時にシスターが演奏していた音。
音に続いて聞こえるのは、透明感のある声やそれを支える声。主旋律を奏でるソプラノボイスに、元気に溢れた青年の歌声。
歌詞は、悲しいことがあって落ち込んでいる子に、顔をあげて、と語りかける。
女の子は知ることは無いが、それはアシェから話を聞いたざくろが、その場で皆に教えた曲だった。
楽しそうなその曲に、女の子の口からはなぞるようにメロディが漏れ出す。
曲が終わってもなお続くメロディに、歌っていたエステルがドアを一気に開く。
「歌いたいのね? なら! やったりましょう! 貴女は諦めたくないのでしょう? やりたい気持ちに嘘はない! ホントのことにはパワーが宿るの!」
その声に驚いたように、女の子は口ずさんでいたメロディを止めて彼女の方を見る。
「即ち! 貴女はやるべきなのです!」
びしぃっと腕を振り上げて語るエステルに、女の子はぽかん、とした顔を向けた。
「俺は鈴木ゆーし。よろしくね。キミは名前は?」
進み出た鈴木悠司(ka0176)が、柔らかな口調で話しかける。
「今日から少しだけだけど、一緒に……キミの音、聞かせて欲しいな。」
「えっと。ちょっと待って……何をしに来たの?」
不審そうな顔を見せる女の子に、鍵盤ハーモニカを吹いていたニィナが声をかける。
「そなたと共に、クリスマスで歌いに来たのじゃよ」
「クリスマスって……」
「……本当は歌いたくて仕方がない。そんな顔をなさっています」
考え込む女の子を見ながら、ルシン(ka0453)が言う。
「歌いたくないならそれも良いでしょう……後悔が永遠に続くだけ」
「後悔、なんて。したいわけないじゃないっ!」
淡々とした言葉に、女の子は弾かれたようにルシンに向き直り叫んだ。
歌いたいのだ、と。大事で、特別なあのクリスマスの場所で歌いたかったのだと。
「なら……私達と歌いませんか?」
自分も歌を愛していると。メトロノーム・ソングライト(ka1267)は言う。
涼やかな声で、心から女の子の事を思い、メトロノームは言葉を続ける。
人を説得するのは得意と思わない彼女だが、その言葉に込められた思いに、女の子は口を閉じる。
「ちゃんと説明すると、こんな感じよ」
考え込む顔を見て、エステルが受けた依頼についての説明をはじめた。
「そも、依頼を出したのはあのシスターじゃよ」
エステルの説明を聞く女の子に、ニィナがこっそりと耳打ちをする。
「シスターって……教会の!?」
「そうじゃ、そなたのために、怒ってくれる人も、悲しんでくれる人もおるのじゃよ」
目を丸くして驚く女の子に、ニィナはそう言って笑みを浮かべた。
「――貴方達となら、歌えるのね?」
話を聞き終えると、女の子は涙のあとを拭き、答えを返す。
「なら。お願いします。みっともないところを見せてごめんなさい。名前、だったわね。私はエリーザ。エリーザ・カペルよ。よろしくお願いします」
曇りの晴れた顔の中で、凛とした目が光を放った。
●2Week
本番までの二週間。その練習は、まず曲を作るところから始められた。
ベースとする曲は、教会で歌われる讃美歌。そこに、ハンター達が曲のアレンジを加え、エリーザに歌詞を書いてもらう段取りだ。
歌うばかりで書いたことは無いと言う彼女を囲み、ハンター達はそれぞれがアドバイスを言う。
「お歌は、直接的な歌詞じゃない方がいいと思うんよ」
いろんな人に分かってもらえるように、あえて抽象的な言葉を使って歌詞を作るのはどうかと、ミィナが言えば、
「合唱は調和が大切だと思います」
音は重なり合い、響き合う事で、更なる音の広がりを見せるのだと。自らの覚醒が奏でる旋律を披露しながら、メトロノームは言う。
「歌が好きって気持ちを直接ぶつけてみるのはどうかな?」
先に出来上がった曲の指揮を練習しているアシェはそう言葉をかける。
彼の目の前に置かれているのは、前衛的な形をした謎の人形。その人形は理解できないものの、彼の言葉は理解できると、エリーザは頷きを見せた。
「俺が歌うときは、心に響く、そんな音を出して……誰かに聞いて貰って、少しでもその人に何かが残れば、なんてそんな事を思いながら歌っているかな」
バンドをやっているという悠司は、演奏の時の思いを告げる。
「悩んでしまうなら、外で公園でも散歩しにいかない? 自然の音を……風や、空や、木々の音を聴きに行くのも、良い刺激になるよ」
優しい口調で言う悠司に、エリーザは困ったような顔を向ける。
「ゴメン。まだちょっと……」
外に出れば、期待をしてくれた街の人にあうだろう。そして、きっと言葉をかけてくれるだろう。
けれども、それが怖い。
歌詞を書くのも、教会以外の人と歌うのも、これが初めてだ。
もし。期待に応えられなかったら――それを思うと、なかなか踏み出せないでいた。
「頑張り過ぎないでね? ざくろ達も力になるから!」
ざくろは、にこっと笑顔を浮かべると、そうだ、と思い出したように言う。
「曲には使えないだろうけど、ざくろ達の世界の曲を教えてあげるよっ」
歌は楽しいのが一番だと言って、ざくろはリアルブルーのアイドルの曲をエリーザに教えていった。
その日の曲作りと練習が終わり、家を出ていく中で、ルシンがそっとエリーザに近づいて声をかけた。
「貴女は、歌で皆をどうしたいですか?」
「歌、で――?」
きょとん、とした顔を見せるエリーザに、ルシンは考えてほしいと言って、その場を去る。
「歌で――皆を……」
ルシンの背中でそんな言葉が呟かれ、12月の冷たい空気の中に溶けていった。
●当日
クリスマスの飾り付けが行われた教会にて、ハンター達とエリーザは自分たちの出番を待っていた。
教会のホールからは、教会の合唱隊の歌声が響いている。
二週間前に、ニィナとアシェが耳にした時よりも声がそろい、少年少女合唱の教本に準じつつ、生き生きとした子供達の声があふれている。
「けど、指揮者はダメダメね!」
合唱の邪魔にならないようにしつつ、小声でエステルは憤りの声をあげる。
合唱に大事なのはノリとテンションと考える彼女にとり、子供達をただ楽譜通りに歌わせるように聞こえるその指揮には、異議があるのだと。
(彼なりの考えがあるのでしょうけれど……)
心の中でそんな思いを浮かべるのはメトロノームだ。
歌を愛する子から、それを取り上げた指揮者は許しがたいものがある。
彼女はそんな思いを浮かべながら、本番に臨んでいた。
「き、緊張して喉から変なものが出そうなのん……!」
ミィナの声は少し引きつり気味だ。練習の成果を見せたいと張り切るが、少し張り切り過ぎなのかもしれない。
「大丈夫、ざくろもついているから!」
ざくろは明るく笑い、励ましの言葉をかける。
アイドルの力を見せつけると言う彼のテンションは、十分といったところだ。
その一方で。
教会の合唱隊の歌声と、かの指揮者の姿に先日の出来事を思い出したのか、エリーザは硬い表情を浮かべていた。
そんな彼女の手を、悠司がそっと握り、暖かな笑みを彼女に向ける。
「音楽は何処でも、誰にでも響くから」
だから、心配することはないと。思うように歌うといいと言う彼に、エリーザはぎこちないながらも、微笑みを返す。
「ありがとう、ゆーし君には、助けられてばかりね」
2週間の間自らを心配し、支えてくれた青年に、彼女は心からの礼を述べる。
彼は、練習の時に、コーラスパートだけではなく、彼女のソロパートにも声をあわせていた。自らのパートだけでも苦労をするところを、他の人のパートまで歌いこなすにはどれほど大変だっただろう。
悠司はそんな苦労を一切見せることなく、エリーザを支えていた。
なにかもっと、と言うように焦りを見せるエリーザに、悠司は彼女の手を暖かく包んで答えた。
そんな中に、ルシンが声をかける。
「貴女は、歌で皆をどうしたいですか?」
ルシンはそれを忘れないで、と言って、エリーザの頭に音符の意匠が設えられたベレー帽を被せる。
エリーザは、ハッ、と息を飲むと、ルシンに凛とした顔を向けた。
「そうね……思い出させてくれてありがとう、ルシンさん。後で答えを言うわね」
「さぁ、そろそろだね」
教会の少年少女らの歌が終わる様子を見て、アシェが皆に声をかけた。
「いい合唱にする為、一緒に頑張ろう!」
●本番
ハンター達とエリーザは、パートに分かれるように立ち、指揮者であるアシェの前に並ぶ。
大オルガンの前に座るのはニィナだ。彼女がオルガンを本格的に練習したのは、今回が始めてとなる。本来、その技術は道に長く携わる者からすれば不安もあるところだろう。しかし、この2週間にうけたシスターの教えと、自身の懸命な練習で、今回の曲を披露するには十分なほどに上達していた。
アシェはニィナは目配せをすると、指揮棒を上に掲げ、演奏の始まりを告げる。
指揮棒に合わせ、ニィナは一心に鍵盤の上で指を踊らせる。
溢れ出す音。讃美歌にアレンジを加えた、ハンター達の曲が奏でられる。
その音に合わせ、初めに口を開くのはエリーザだ。
ルシンから渡されたベレー帽の下から強い眼差しを覗かせながら彼女は歌いはじめる。
(妾はそなたには負けぬ。じゃから、もっともっと力強く歌うがいい!)
ニィナはそんな思いのもとに、歌声に負けないように鍵盤を力強くひく。
「そうか……そうなってしまったか……」
そんな中、舞台袖で青年指揮者が呟く。
エリーザの歌声をメインに据える手法は、考えなかったわけではないと。
だが。
「――!?」
舞台の上の次の動きに、青年は息を飲む。
新たな歌声があがる。
エリーザの歌と重なるように響く、伸びやかなソプラノボイスで、エステルが歌に加わる。
その歌声はエリーザのそれを支えるだけではない。調和をもって更なる音の広がりを見せる。
続いて、悠司、メトロノーム、ざくろ、ルシン、ミィナが一人ずつ歌に加わる。
一人増える毎に広がる音。つられるものも、自分の音を出せない者もいない。
高らかに歌われるその歌声が教会のホールをうめつくす。
「こんな、こんなやり方が……!」
「静かにしてください。まだ曲の途中ですよ?」
声を上げる青年を、そっとシスターはおさえる。
「失礼……キミは、知っていたのか?」
それなら、とでも言う彼にシスターは静かに首を横にふる。
「ただ、あの人達ならなんとかしてくれる――そう信じただけです」
「信じ、た……」
がく然とする青年から向き直り、シスターはまぶしそうに舞台の上を見る。
(あの子を託して、本当に良かった……)
舞台の上では一曲目が終わり、二曲目が始まろうとしていた。
●その後
クリスマスの舞台は大盛況のもとに幕をおろした。
歌を終え、舞台から降りたハンター達とエリーザの元には、青年指揮者が顔を見せ、皆に向けて頭を下げた。
悪かった。自分の考えが狭かった、そして、戻って欲しいと。
そう語る彼に、エリーザは満面の笑みで答える。
「おことわりよっ!」
「そうだね、僕はキミにひどいことを……」
「あら、それは違うわ。私はもっと素敵なことをしないといけないの!」
エリーザは後ろに立つハンター達の顔を見ていき、大きく頷く。
「みんなにたくさんもらったもの。それなら、私はたくさんの人に行ってお返ししないといけないじゃないっ!」
ルシンに返したベレー帽を見ながら、エリーザはそう言って満面の笑みを浮かべる。
「みんなの前で。他の街で大勢の前で歌って、たくさんの人を喜ばせようと思うの。
笑顔になってくれる人を増やせたら、素敵だと思うから!」
それを聞いた貴方は――どうするだろう。
――泣きじゃくる歌姫 了――
入口をくぐると、ハンターの二人は、教会のホールに響く少年少女の歌声にその身を包まれた。
響く大オルガンの音に流されないように。音に逆らわずに歌の中で曲を奏でられるように。子供達は精一杯の歌声を張り上げている。
「――あら? 貴方達は……みんな、ごめんね。ちょっと休憩していて」
子供達の合唱は、二人のハンターに気がついたシスターの一言と共に中断される。
ホールの中ほどまで近寄っていたオイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304)とアシェ・ブルゲス(ka3144)の元に走り寄ると、シスターは深々とお辞儀をする。
「申し訳ありません。気がつくのが遅れて」
「気にせずともよいぞ、むしろ今日はお願いと」
「少し聞きたいことがあって、来させてもらったんだ。ちょっといいかな?」
その言葉にシスターは依頼のことだと悟り、背筋を伸ばす。
「どのようなご用件でしょう? あの子の為で、私に出来る事があれば、お手伝いさせていただきます」
シスターの言葉に、アシェが口を開く。
「知りたいのは、女の子が好きな曲かな? どんな歌が好きなんだろう?」
「好きな曲、ですか……」
シスターは眉を寄せて考え込む素振りを見せる。
「……そうですね。1つだけ心当たりがあります。確か……リアルブルーの人から聞いた曲と言っていました」
それはアイドルと言う人が歌う曲だという。
その他の歌は、教会で歌い覚えた曲となるため、適当ではないだろう、とシスターは語る。
頷きを見せるアシェの横から、ニィナが口を開く。
「良いかの? では妾からもお願いがあるのじゃ」
なんでしょうか、と聞くシスターに、ニィナは言葉を続ける。
「パイプオルガン、じゃったか。あれの弾き方を教えてもらえんかの?」
その言葉に、シスターは満面の笑みと共に言葉を返す。
「もちろんです。空いた時間でとなりますが、よろしくお願いしますね」
●説得
教会に向かわず、直接女の子の家へと向かったハンター達は、その母親の案内のもと、彼女の自室の前に立つ。
ドアに傷は無く、鍵らしきものも無い。だが
――――! ―――!!
ドア越しに、泣き声が繰り返し聞こえていた。
そんな中、時音 ざくろ(ka1250)が口を開く。
「クリスマスの舞台で歌うの楽しみにしてたんだよね、ざくろ達も力になるから、一緒に歌おうよ……辛い気持ちもわかるけど、歌ってもっと楽しいものだよ、だから一緒に楽しもうよ」
ざくろの言葉に続くのは、ミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
「合唱ができないって、どうして思い込むのん? 歌だっていっぱい練習して上手に歌えるようになったはずなのん。だったら練習して上手くなるんよ」
二人の言葉は、ドアの向こうに届いたのだろうか。
動く様子を見せないドアに、エステル・L・V・W(ka0548)がドアに手をかける。
その時。家の入口から、教会に行っていた二人が顔を出した。
そして。
部屋の中でうずくまっていた女の子は、外から聞こえてくる涼やかな音に顔を上げた。
懐かしい音。外での練習の時にシスターが演奏していた音。
音に続いて聞こえるのは、透明感のある声やそれを支える声。主旋律を奏でるソプラノボイスに、元気に溢れた青年の歌声。
歌詞は、悲しいことがあって落ち込んでいる子に、顔をあげて、と語りかける。
女の子は知ることは無いが、それはアシェから話を聞いたざくろが、その場で皆に教えた曲だった。
楽しそうなその曲に、女の子の口からはなぞるようにメロディが漏れ出す。
曲が終わってもなお続くメロディに、歌っていたエステルがドアを一気に開く。
「歌いたいのね? なら! やったりましょう! 貴女は諦めたくないのでしょう? やりたい気持ちに嘘はない! ホントのことにはパワーが宿るの!」
その声に驚いたように、女の子は口ずさんでいたメロディを止めて彼女の方を見る。
「即ち! 貴女はやるべきなのです!」
びしぃっと腕を振り上げて語るエステルに、女の子はぽかん、とした顔を向けた。
「俺は鈴木ゆーし。よろしくね。キミは名前は?」
進み出た鈴木悠司(ka0176)が、柔らかな口調で話しかける。
「今日から少しだけだけど、一緒に……キミの音、聞かせて欲しいな。」
「えっと。ちょっと待って……何をしに来たの?」
不審そうな顔を見せる女の子に、鍵盤ハーモニカを吹いていたニィナが声をかける。
「そなたと共に、クリスマスで歌いに来たのじゃよ」
「クリスマスって……」
「……本当は歌いたくて仕方がない。そんな顔をなさっています」
考え込む女の子を見ながら、ルシン(ka0453)が言う。
「歌いたくないならそれも良いでしょう……後悔が永遠に続くだけ」
「後悔、なんて。したいわけないじゃないっ!」
淡々とした言葉に、女の子は弾かれたようにルシンに向き直り叫んだ。
歌いたいのだ、と。大事で、特別なあのクリスマスの場所で歌いたかったのだと。
「なら……私達と歌いませんか?」
自分も歌を愛していると。メトロノーム・ソングライト(ka1267)は言う。
涼やかな声で、心から女の子の事を思い、メトロノームは言葉を続ける。
人を説得するのは得意と思わない彼女だが、その言葉に込められた思いに、女の子は口を閉じる。
「ちゃんと説明すると、こんな感じよ」
考え込む顔を見て、エステルが受けた依頼についての説明をはじめた。
「そも、依頼を出したのはあのシスターじゃよ」
エステルの説明を聞く女の子に、ニィナがこっそりと耳打ちをする。
「シスターって……教会の!?」
「そうじゃ、そなたのために、怒ってくれる人も、悲しんでくれる人もおるのじゃよ」
目を丸くして驚く女の子に、ニィナはそう言って笑みを浮かべた。
「――貴方達となら、歌えるのね?」
話を聞き終えると、女の子は涙のあとを拭き、答えを返す。
「なら。お願いします。みっともないところを見せてごめんなさい。名前、だったわね。私はエリーザ。エリーザ・カペルよ。よろしくお願いします」
曇りの晴れた顔の中で、凛とした目が光を放った。
●2Week
本番までの二週間。その練習は、まず曲を作るところから始められた。
ベースとする曲は、教会で歌われる讃美歌。そこに、ハンター達が曲のアレンジを加え、エリーザに歌詞を書いてもらう段取りだ。
歌うばかりで書いたことは無いと言う彼女を囲み、ハンター達はそれぞれがアドバイスを言う。
「お歌は、直接的な歌詞じゃない方がいいと思うんよ」
いろんな人に分かってもらえるように、あえて抽象的な言葉を使って歌詞を作るのはどうかと、ミィナが言えば、
「合唱は調和が大切だと思います」
音は重なり合い、響き合う事で、更なる音の広がりを見せるのだと。自らの覚醒が奏でる旋律を披露しながら、メトロノームは言う。
「歌が好きって気持ちを直接ぶつけてみるのはどうかな?」
先に出来上がった曲の指揮を練習しているアシェはそう言葉をかける。
彼の目の前に置かれているのは、前衛的な形をした謎の人形。その人形は理解できないものの、彼の言葉は理解できると、エリーザは頷きを見せた。
「俺が歌うときは、心に響く、そんな音を出して……誰かに聞いて貰って、少しでもその人に何かが残れば、なんてそんな事を思いながら歌っているかな」
バンドをやっているという悠司は、演奏の時の思いを告げる。
「悩んでしまうなら、外で公園でも散歩しにいかない? 自然の音を……風や、空や、木々の音を聴きに行くのも、良い刺激になるよ」
優しい口調で言う悠司に、エリーザは困ったような顔を向ける。
「ゴメン。まだちょっと……」
外に出れば、期待をしてくれた街の人にあうだろう。そして、きっと言葉をかけてくれるだろう。
けれども、それが怖い。
歌詞を書くのも、教会以外の人と歌うのも、これが初めてだ。
もし。期待に応えられなかったら――それを思うと、なかなか踏み出せないでいた。
「頑張り過ぎないでね? ざくろ達も力になるから!」
ざくろは、にこっと笑顔を浮かべると、そうだ、と思い出したように言う。
「曲には使えないだろうけど、ざくろ達の世界の曲を教えてあげるよっ」
歌は楽しいのが一番だと言って、ざくろはリアルブルーのアイドルの曲をエリーザに教えていった。
その日の曲作りと練習が終わり、家を出ていく中で、ルシンがそっとエリーザに近づいて声をかけた。
「貴女は、歌で皆をどうしたいですか?」
「歌、で――?」
きょとん、とした顔を見せるエリーザに、ルシンは考えてほしいと言って、その場を去る。
「歌で――皆を……」
ルシンの背中でそんな言葉が呟かれ、12月の冷たい空気の中に溶けていった。
●当日
クリスマスの飾り付けが行われた教会にて、ハンター達とエリーザは自分たちの出番を待っていた。
教会のホールからは、教会の合唱隊の歌声が響いている。
二週間前に、ニィナとアシェが耳にした時よりも声がそろい、少年少女合唱の教本に準じつつ、生き生きとした子供達の声があふれている。
「けど、指揮者はダメダメね!」
合唱の邪魔にならないようにしつつ、小声でエステルは憤りの声をあげる。
合唱に大事なのはノリとテンションと考える彼女にとり、子供達をただ楽譜通りに歌わせるように聞こえるその指揮には、異議があるのだと。
(彼なりの考えがあるのでしょうけれど……)
心の中でそんな思いを浮かべるのはメトロノームだ。
歌を愛する子から、それを取り上げた指揮者は許しがたいものがある。
彼女はそんな思いを浮かべながら、本番に臨んでいた。
「き、緊張して喉から変なものが出そうなのん……!」
ミィナの声は少し引きつり気味だ。練習の成果を見せたいと張り切るが、少し張り切り過ぎなのかもしれない。
「大丈夫、ざくろもついているから!」
ざくろは明るく笑い、励ましの言葉をかける。
アイドルの力を見せつけると言う彼のテンションは、十分といったところだ。
その一方で。
教会の合唱隊の歌声と、かの指揮者の姿に先日の出来事を思い出したのか、エリーザは硬い表情を浮かべていた。
そんな彼女の手を、悠司がそっと握り、暖かな笑みを彼女に向ける。
「音楽は何処でも、誰にでも響くから」
だから、心配することはないと。思うように歌うといいと言う彼に、エリーザはぎこちないながらも、微笑みを返す。
「ありがとう、ゆーし君には、助けられてばかりね」
2週間の間自らを心配し、支えてくれた青年に、彼女は心からの礼を述べる。
彼は、練習の時に、コーラスパートだけではなく、彼女のソロパートにも声をあわせていた。自らのパートだけでも苦労をするところを、他の人のパートまで歌いこなすにはどれほど大変だっただろう。
悠司はそんな苦労を一切見せることなく、エリーザを支えていた。
なにかもっと、と言うように焦りを見せるエリーザに、悠司は彼女の手を暖かく包んで答えた。
そんな中に、ルシンが声をかける。
「貴女は、歌で皆をどうしたいですか?」
ルシンはそれを忘れないで、と言って、エリーザの頭に音符の意匠が設えられたベレー帽を被せる。
エリーザは、ハッ、と息を飲むと、ルシンに凛とした顔を向けた。
「そうね……思い出させてくれてありがとう、ルシンさん。後で答えを言うわね」
「さぁ、そろそろだね」
教会の少年少女らの歌が終わる様子を見て、アシェが皆に声をかけた。
「いい合唱にする為、一緒に頑張ろう!」
●本番
ハンター達とエリーザは、パートに分かれるように立ち、指揮者であるアシェの前に並ぶ。
大オルガンの前に座るのはニィナだ。彼女がオルガンを本格的に練習したのは、今回が始めてとなる。本来、その技術は道に長く携わる者からすれば不安もあるところだろう。しかし、この2週間にうけたシスターの教えと、自身の懸命な練習で、今回の曲を披露するには十分なほどに上達していた。
アシェはニィナは目配せをすると、指揮棒を上に掲げ、演奏の始まりを告げる。
指揮棒に合わせ、ニィナは一心に鍵盤の上で指を踊らせる。
溢れ出す音。讃美歌にアレンジを加えた、ハンター達の曲が奏でられる。
その音に合わせ、初めに口を開くのはエリーザだ。
ルシンから渡されたベレー帽の下から強い眼差しを覗かせながら彼女は歌いはじめる。
(妾はそなたには負けぬ。じゃから、もっともっと力強く歌うがいい!)
ニィナはそんな思いのもとに、歌声に負けないように鍵盤を力強くひく。
「そうか……そうなってしまったか……」
そんな中、舞台袖で青年指揮者が呟く。
エリーザの歌声をメインに据える手法は、考えなかったわけではないと。
だが。
「――!?」
舞台の上の次の動きに、青年は息を飲む。
新たな歌声があがる。
エリーザの歌と重なるように響く、伸びやかなソプラノボイスで、エステルが歌に加わる。
その歌声はエリーザのそれを支えるだけではない。調和をもって更なる音の広がりを見せる。
続いて、悠司、メトロノーム、ざくろ、ルシン、ミィナが一人ずつ歌に加わる。
一人増える毎に広がる音。つられるものも、自分の音を出せない者もいない。
高らかに歌われるその歌声が教会のホールをうめつくす。
「こんな、こんなやり方が……!」
「静かにしてください。まだ曲の途中ですよ?」
声を上げる青年を、そっとシスターはおさえる。
「失礼……キミは、知っていたのか?」
それなら、とでも言う彼にシスターは静かに首を横にふる。
「ただ、あの人達ならなんとかしてくれる――そう信じただけです」
「信じ、た……」
がく然とする青年から向き直り、シスターはまぶしそうに舞台の上を見る。
(あの子を託して、本当に良かった……)
舞台の上では一曲目が終わり、二曲目が始まろうとしていた。
●その後
クリスマスの舞台は大盛況のもとに幕をおろした。
歌を終え、舞台から降りたハンター達とエリーザの元には、青年指揮者が顔を見せ、皆に向けて頭を下げた。
悪かった。自分の考えが狭かった、そして、戻って欲しいと。
そう語る彼に、エリーザは満面の笑みで答える。
「おことわりよっ!」
「そうだね、僕はキミにひどいことを……」
「あら、それは違うわ。私はもっと素敵なことをしないといけないの!」
エリーザは後ろに立つハンター達の顔を見ていき、大きく頷く。
「みんなにたくさんもらったもの。それなら、私はたくさんの人に行ってお返ししないといけないじゃないっ!」
ルシンに返したベレー帽を見ながら、エリーザはそう言って満面の笑みを浮かべる。
「みんなの前で。他の街で大勢の前で歌って、たくさんの人を喜ばせようと思うの。
笑顔になってくれる人を増やせたら、素敵だと思うから!」
それを聞いた貴方は――どうするだろう。
――泣きじゃくる歌姫 了――
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相談の卓、です メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/12/21 12:06:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/16 19:59:49 |