ゲスト
(ka0000)
メルティ・グリーン
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/26 19:00
- 完成日
- 2018/05/30 01:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●緑のスライム
リゼリオにあるハンターオフィスの少し離れたところで、職員の彼は煙草を吸っていた。休憩時間である。もちろん、灰皿は忘れていない。喫煙者としてのマナーである。単に、火事が怖いと言うのもあるが。良い感じに雑草のないところを見付けることも忘れない。
歪虚との戦闘が激化していることを、彼はオフィスにいながらその依頼の多さで感じ取っていた。実際に戦うわけではない。リゼリオは比較的治安が良い。こんな歪虚が出るのか。そう驚くことも多くあった。
歪虚のせいでそこまで危ない目に遭ったことはない。五十年弱生きていて、それはとてもありがたいことであった。
三本ほど煙草を灰にして、彼はオフィスに戻ろうとした。そして目を剥いた。
ぺったんぺったんと、雑草を溶かしながら、緑色のスライムがこちらに寄ってきているのだ。
「――っ!?」
全身の血が逆流するような驚愕と、焦燥と、恐怖感。スライムと言うと、あまり人命的に大事にならないことの方が多いが、それでも中には人を殺しているものもある。と言うか、得体の知れない物は殺しに来る思っておいた方が安全である。スライムは、彼の事には気付いていないようだった。彼は息を殺しながら、そろそろとスライムと反対方向への逃走を試みる。オフィスにさえたどり着いてしまえば、そこにいるハンターに頼んで退治してもらえば良いのだ。
どれくらいの移動速度だろうか。どれくらい離れれば、気付かれても走って逃げられるだろうか。彼はスライムを凝視しながらじりじりと遠ざかり、足下の石につまづいた。
「うわっ!」
尻餅をつく。しまったと思った時には遅かった。スライムは彼に気付き、ムチの様に触手を伸ばす。首と、胴を捕まえられた。
「うっ!」
首に巻き付いた方は、殺すつもりはないようで、強く締めてくるようなことはなかった。その代わり、胴の方は、もぞもぞとジャケットの中に入ってくる。何かを探しているようでもある。何だ? 何を探している? 彼は息を詰めて、痛みに備えた。しかし、スライムはシャツの上を這い回るだけで切り裂いたり刺してくるようなことはなかった。だからと言って、解放してくれる様子もない。彼は思いついて、ジャケットの内ポケットからマッチを取り出した。震える手でどうにか火を付けて、触手を炙る。
ヤカンが沸騰をしらせるような甲高い音を上げながら、スライムは彼を解放した。むせるほど締められていない。地面に転がりながら、相手との距離を確認して逃げようとした彼は、仕返しだと言わんばかりに頭を強くひっぱたかれて気を失った。
●ハンターオフィスにて
「本人の皮膚は無事、ウール製のジャケットも無事、シルク製のネクタイも無事、コットン製のシャツだけ酷い有様だ」
オフィスにて、青年職員と、眼鏡にお下げの職員が並んで事情を説明した。そのテーブルの上には、襲われた職員の服が並べられている。
「お腹のあたりごそごそされたって言ってましたねぇ。あと首を掴まれたとも言っていましたぁ。一致します」
ジャケットとネクタイは粘液にまみれているだけだが、問題はシャツだ。胴の部分と、襟の首回りの部分が溶けてしまっている。これを着用していた職員の皮膚は無事であった。
本人は病院である。今のところ、襲われたショックが一番の被害であるようだ。頭を殴られた影響はまだ出ていない。恐らく命に別状はないだろうと言うのが医者の見立てだ。
「また、現場周辺の雑草も溶けてた。以上のことを総合すると、このスライムは植物由来のものだけ溶かすと言うことになる。リアルブルー出身者が、ナイロンって言うの? 植物じゃない布にこの粘液を付けてみたけど、溶けなかった。コットンとナイロンの混紡はスカスカになった。そう言うことだと思う」
「これだけ聞くと、人畜無害に聞こえるんですけどぉ、木も作物も溶かします。長期的に危険です。今のうちにどうにかしないと」
●同僚たちの心配事
ハンター達が意見を交換する前で、お下げの職員はため息を吐いた。
「後で肉を腐らせる、なんてことはないと良いんですけど」
「そういうこと言うなよ」
青年職員が彼女を見下ろして言った。
「だって心配じゃないんですか」
「心配してるよ。僕だって嫌だよ、見舞いに行って、彼が胴体からぼろんて真っ二つになったら」
「あー! あー! やめてくださぁい! 想像させないでぇ!」
彼女は耳を塞いでテーブルに突っ伏した。
「でも、大丈夫だよ。緑色をしていたってことは、草を取り込んでるって事だと思うし、元々狙ってたのも植物性繊維のシャツだけみたいだし。遅効性で肉に効くってことは……ないと思いたいけど……」
二人は黙り込んだ。
リゼリオにあるハンターオフィスの少し離れたところで、職員の彼は煙草を吸っていた。休憩時間である。もちろん、灰皿は忘れていない。喫煙者としてのマナーである。単に、火事が怖いと言うのもあるが。良い感じに雑草のないところを見付けることも忘れない。
歪虚との戦闘が激化していることを、彼はオフィスにいながらその依頼の多さで感じ取っていた。実際に戦うわけではない。リゼリオは比較的治安が良い。こんな歪虚が出るのか。そう驚くことも多くあった。
歪虚のせいでそこまで危ない目に遭ったことはない。五十年弱生きていて、それはとてもありがたいことであった。
三本ほど煙草を灰にして、彼はオフィスに戻ろうとした。そして目を剥いた。
ぺったんぺったんと、雑草を溶かしながら、緑色のスライムがこちらに寄ってきているのだ。
「――っ!?」
全身の血が逆流するような驚愕と、焦燥と、恐怖感。スライムと言うと、あまり人命的に大事にならないことの方が多いが、それでも中には人を殺しているものもある。と言うか、得体の知れない物は殺しに来る思っておいた方が安全である。スライムは、彼の事には気付いていないようだった。彼は息を殺しながら、そろそろとスライムと反対方向への逃走を試みる。オフィスにさえたどり着いてしまえば、そこにいるハンターに頼んで退治してもらえば良いのだ。
どれくらいの移動速度だろうか。どれくらい離れれば、気付かれても走って逃げられるだろうか。彼はスライムを凝視しながらじりじりと遠ざかり、足下の石につまづいた。
「うわっ!」
尻餅をつく。しまったと思った時には遅かった。スライムは彼に気付き、ムチの様に触手を伸ばす。首と、胴を捕まえられた。
「うっ!」
首に巻き付いた方は、殺すつもりはないようで、強く締めてくるようなことはなかった。その代わり、胴の方は、もぞもぞとジャケットの中に入ってくる。何かを探しているようでもある。何だ? 何を探している? 彼は息を詰めて、痛みに備えた。しかし、スライムはシャツの上を這い回るだけで切り裂いたり刺してくるようなことはなかった。だからと言って、解放してくれる様子もない。彼は思いついて、ジャケットの内ポケットからマッチを取り出した。震える手でどうにか火を付けて、触手を炙る。
ヤカンが沸騰をしらせるような甲高い音を上げながら、スライムは彼を解放した。むせるほど締められていない。地面に転がりながら、相手との距離を確認して逃げようとした彼は、仕返しだと言わんばかりに頭を強くひっぱたかれて気を失った。
●ハンターオフィスにて
「本人の皮膚は無事、ウール製のジャケットも無事、シルク製のネクタイも無事、コットン製のシャツだけ酷い有様だ」
オフィスにて、青年職員と、眼鏡にお下げの職員が並んで事情を説明した。そのテーブルの上には、襲われた職員の服が並べられている。
「お腹のあたりごそごそされたって言ってましたねぇ。あと首を掴まれたとも言っていましたぁ。一致します」
ジャケットとネクタイは粘液にまみれているだけだが、問題はシャツだ。胴の部分と、襟の首回りの部分が溶けてしまっている。これを着用していた職員の皮膚は無事であった。
本人は病院である。今のところ、襲われたショックが一番の被害であるようだ。頭を殴られた影響はまだ出ていない。恐らく命に別状はないだろうと言うのが医者の見立てだ。
「また、現場周辺の雑草も溶けてた。以上のことを総合すると、このスライムは植物由来のものだけ溶かすと言うことになる。リアルブルー出身者が、ナイロンって言うの? 植物じゃない布にこの粘液を付けてみたけど、溶けなかった。コットンとナイロンの混紡はスカスカになった。そう言うことだと思う」
「これだけ聞くと、人畜無害に聞こえるんですけどぉ、木も作物も溶かします。長期的に危険です。今のうちにどうにかしないと」
●同僚たちの心配事
ハンター達が意見を交換する前で、お下げの職員はため息を吐いた。
「後で肉を腐らせる、なんてことはないと良いんですけど」
「そういうこと言うなよ」
青年職員が彼女を見下ろして言った。
「だって心配じゃないんですか」
「心配してるよ。僕だって嫌だよ、見舞いに行って、彼が胴体からぼろんて真っ二つになったら」
「あー! あー! やめてくださぁい! 想像させないでぇ!」
彼女は耳を塞いでテーブルに突っ伏した。
「でも、大丈夫だよ。緑色をしていたってことは、草を取り込んでるって事だと思うし、元々狙ってたのも植物性繊維のシャツだけみたいだし。遅効性で肉に効くってことは……ないと思いたいけど……」
二人は黙り込んだ。
リプレイ本文
●蓬仙霞の悪巧み?
「すぐには倒さずしっかり調べ尽くしてから倒さないといけない様子ですね」
不安げな職員たちを前にして、フェリア(ka2870)が言った。
「そうね、どちらかというと風評被害のが大きそう……しっかり調べてから退治しましょう」
七夜・真夕(ka3977)も頷いた。二人の言葉に、フィロ(ka6966)も賛同する。
「襲われてその場で消化吸収されなかったということは、逆説的にその能力がないという証明になると思いますが……そうですね、思われるという言葉だけで不安を解消していただくのは確かに難しいかも知れません。動物性の物は処理できないのかどうか、合わせて確認してまいります」
「え……? そこまでしてくれるの? わかるんだったらそれに越したことはないけど……」
青年職員はやや困惑したように一同を見た。オフィスの公式な依頼内容はスライム討伐だ。人体への影響は、あくまで同僚たちが一個人としてそれぞれ心配しているに過ぎない。
「え、じゃあ私も一緒にぃ……」
お下げの職員が席を立とうとするのを、蓬仙 霞(ka6140)が押しとどめた。
「できれば、仲間以外には席を外してほしいかな」
「何でですかぁ?」
「何でって……流石に……恥ずかしいから……」
「霞、あなた無茶なこと考えてない?」
真夕が霞の顔を覗き込む。青年職員も、怪訝そうな顔をして彼女の顔を見た。
「霞、きみ、優しい奴なのは知ってるけど、無茶はしてくれるなよ」
「大丈夫、多分大丈夫だと思うから……それより、金属は溶けたのかな?」
「今のところ大丈夫そうですぅ。ネクタイピンは無事でした」
お下げの職員がそう言って、粘液にまみれたまま原型を留めているネクタイピンを見せると、霞は納得したように頷いた。
●真夕とフェリア、空の追跡
討伐するにせよ、スライムの特性を証明するにせよ、まずは現物がないとなんとも言えない。幸いと言うべきか、スライムは粘液と、それによる植物の溶解跡という結構な道しるべを残して行った。
「じゃあ、私とフェリア姉さんが空から探すわね。見付けたら誘導するから、そこを囲い込んでお肉とか試しましょうか」
「私も、ナッツと干し肉をご用意しています」
フィロがそう言って用意したものを見せる。フェリアは、オフィスが喜んで用意した植物性の布とラード、自前の牛乳を持ってきてある。
一方、霞は、「服だけ溶けて、人体が無事であることを証明する」と言って木綿の着物を着用してきていた。近接戦闘を行なう舞刀士だからこそできる作戦だが、いささか無茶ではある。
「下着は絹だから……仮説通りなら全裸にはならないはず」
「もう、やっぱり無茶なこと考えてた」
真夕が呆れたような顔をする。
「でも、良いわ。あなたがあんまり危ないようなら、レクイエムで動きを鈍らせる。あなたのやりやすいようにしてあげるわ」
「ありがとう真夕。金属は溶けないみたいだから、刀はそのままでよさそう」
さて、魔術師の二人は各々の杖にマジックフライトをかけて、空を飛んだ。フェリアが双眼鏡で、真夕は少しばかり人よりも良い目で、互いの見たものを報告し合い、マッピングセットに書き付けていけば、スライムの行き先は自ずと判明した。
「粘液の量や、軌道の数から判断するに、三体はいそうですね。真夕、おびき出しには充分気をつけて。私は上から見ています」
「ええ、よろしくねフェリア姉さん」
真夕は判明したスライムの居場所に向かう。思った通り三体だ。手を叩き、呼びかけてそれらの気を引いた。何かいるっぽいぞ。そう思ったようで、スライムは何も疑問に思わずのったんのったん、ぺったらぺったらと真夕の方に寄ってくる。
上空からの索敵結果とナビゲートは、フェリアがエレメンタルコールで伝えてくれた。やはり、この三体だけで間違いないらしい。
鈍足のスライムを、見晴らしの良いところまで引っ張り出すのには、流石に時間が掛かったが、ついに三体とも、広い場所に引っ張り出せた。人がいないことも、すでにフェリアから伝えられている。
「良いわよ!」
真夕が声を掛ける。作戦開始だ。
●フィロの対照実験
フィロが干し草とナッツを、フェリアが布を持って駆け寄ってくる。作業中に攻撃されても良いように、真夕がウィンドガストを施す。
「えい!」
彼女は500gのブロック肉を、目の前の一体に向かって放り込んだ。どぼん、と水っぽい音がして、肉がスライムの緑の体に飲み込まれる。フィロはナッツと干し肉を別の一体に、更に別の一体には、フェリアがそっと布を落とした。
三人はそのままスライムの攻撃範囲外まで下がって、各々が放り込んだものを観察した。フィロは魔導スマートフォンで、その様子を撮影する。ナッツと布はすぐに溶けた。肉だけがいつまで経っても溶けない。
「次、行きますね」
フェリアが、ラードを染み込ませた布を持って駆け寄った。真夕がレクイエムを歌い、動きを止めている間に布を放り込む。
「溶けませんね」
フィロが冷静にその様子を観察している。戻ってきたフェリアも、双眼鏡で観察するが、やがて頷いた。
「完璧に油が行き渡っているわけではありませんので、染みてないところだけ溶けていますね」
最後は牛乳を染み込ませた布だ。こちらは油の布よりは溶けたが、何もない布ほどは溶けない。染み込んでいる牛乳が邪魔しているのだろう。
その間も、フィロは自分が対照実験としてナッツと干し肉を与えたスライムの写真を撮り続けている。フェリアも双眼鏡で確認した。干し肉が溶けている様子はない。
「そろそろ良いかな?」
木綿の着物に着替えた霞が立ち上がった。
「これだけ験せば、肉を溶かさない証左になるでしょう」
フェリアが頷く。
「でも霞、あなた自分の身で試すんでしょう? フォローするわ」
「ありがとう、真夕」
その代わり、後でお説教よ。真夕は内心で独りごちた。
●メルティ・グリーン
霞は刀を持ってスライムに近づいた。本人の希望で、ウィンドガストはない。スライムは自由に獲物を吟味することが可能だった。
炙られて、スライムは職員を殴ったと言う。ならば、こちらから仕掛ければ、あちらの攻撃を誘発できるかもしれない。
それには攻撃が当たらなくてはならない。真夕がレクイエムを歌って、スライムの動きを妨げている。霞は剣心一如で呼吸を整えると、疾風剣で斬りつけた。甲高い笛のような音を出して、スライムがもごもごと動く。
どうやら怒っているらしい。仲間が攻撃されたのを受けて、他のスライムも、蠢いて霞を囲む。斬られた一体が、触手を伸ばしてぺちんぺちんと霞の肩を叩いた。他のスライムも、霞の腕や足に触手を巻き付けたり、叩いたりしている。
「これは……」
霞は、その攻撃に何か感じるものがあったように目を見開いた。
「蓬仙様」
その様子を見てフィロが立ち上がり、真夕もN=Fシグニスを起動させて声を掛ける。
「霞、動かないで! 今蒼機剣で……」
「待って、待って、真夕……」
「どうしたの? 大丈夫?」
「このスライムたち……覇気がない」
●スライムだって生きている
「覇気、とは……」
フィロが首を傾げた。フェリアが思いついた様に顔を上げる。
「消化不良で、思うように力が出ないのね?」
「胃もたれってこと?」
「多分、そう。ボクは今覚醒してるから多少抵抗できるのもあるけど、一般人でも、今このスライムに叩かれて気絶するとはとても」
「と言うことは……やはり肉は消化できないということでしょうか」
「間違いないと思う」
霞が言いながら、スライムの触手を払いのけると、溶けた着物の一部を引きずりながらスライムは離れた。言われてみれば、人を気絶させる殴打ができそうには見えない。
「消化ができないなら、その肉や虫などは最終的にどうなるのでしょうか? そのままではないと思うのですが」
フィロの疑問に、一同は顔を見合わせる。
「確かにそうよ! だってそのままなら、虫で一杯になっちゃう!」
真夕が声を上げる。フェリアも思案しながら頷いた。
「どこかで吐き出している可能性はありますね」
「まだ倒せない、かな?」
霞が、残っている袖を肩に引き上げながら後ろに下がる。
「その通り。真夕、止めましょう」
「わかったわ!」
フェリアがアースウォールを呼び出し、真夕がレクイエムを歌い上げる。土壁と、この世ならざるものを阻む歌、そして推定胃もたれにより、スライムはのったんのったん、ぺったんぺったんと悶えるように転がり回る。
「具合悪くて逃げたいのに、邪魔されたら苦しいよね」
「気持ちは察するにあまりあるのですが、スライムに気持ちはあるのでしょうか」
「どうだろう……」
「見て!」
歌うのをやめた真夕が声を上げた。スライムは、四人がまだ見ていない動きを始めている。ぶるぶると細かく震え、体の一部に穴を空けたのだ。そこから、空気の混ざったスライムの軟体が、震えに合わせて激しい音を立てる。
そして、その穴から、フィロの与えた干し肉が勢いよく吐き出された。それはアースウォールに叩きつけられ、粘液にまみれたまま地面に落ちた。
残りの二体も、その様子を見て真似したのか、あるいは吐き気を催したのか、それぞれ、真夕の与えたブロック肉、フェリアが油を染み込ませた布、その他取り込んでいた虫などを噴出する。
「吐いた! 吐いたわ! やっぱり肉は消化できないのよ。だって、後からでも溶かせるんだったら吐く必要ないもの」
真夕が歓声を上げる。フィロも、その様子を撮影しながら頷いた。
「消化できるものでも、食べ過ぎの可能性はありますが、常に草を取り込んでいるなら、段階的に消化された虫が点在すると考えられます。三体全てにその様子は見られませんでした」
「良かった……人体に害はなさそうだね」
「オフィスに良い報告ができそう。わかったからには倒してしまいましょう」
「そうだね」
「蓬仙様」
再び出ようとする霞を、フィロがそっと押しとどめた。
「フィロ?」
「今度は私が。先の戦いで、装備が溶けていらっしゃいます。肉を吐き出した今、スライムの攻撃力が戻っているかもしれません。その薄着では少々危険です」
「薄着……」
絹の下着こそは無事だったが、それは下着であって、そもそも、着てきた木綿の着物も、本来なら戦闘用の装備ではない。今回彼女は装備の面でかなり無茶をしているのである。フェリアが近づいて、自分の上着を掛けた。
「その格好で更に動くのは、少々はしたないわ」
「後方支援をお願いします」
フィロはそう言うと、スライムに向かいながら、体内のマテリアルを練り上げた。真夕がウィンドガストをかける。
「フィロ、その一体をお願いよ。私と姉さんで残りの二体を片付けるわ」
「はい。お任せ下さい、七夜様、フェリア様」
そしてフィロは、練り上げたマテリアルを一気に放出した。目の前の敵をひっぱたこうとしたスライムは、その触手ごと、青龍翔咬波に食いちぎられた。
強烈なマテリアルの気配を感じた残りの二体も、マジックアローとアイスボルトに倒れ伏し、討伐は完了した。
●お見舞い
オフィスに戻ると、依頼を説明した二人の職員は病院に見舞いに行っていると言うことだった。残っていた職員から、「先に説明してあげて」と言われて、一行は病院に向かう。
二人は、病室の前で及び腰になってうろうろしていた。どうやら心底怖がっているらしい。
「何してるの?」
真夕が声を掛けると、二人はびくっと肩を震わせて振り返る。
「あっ、真夕さぁん」
お下げの職員が情けない声を上げて真夕にすがりついた。
「お見舞いに来たは良いんだけど、その……怖くて……」
青年職員の方も口ごもる。これは、残った職員たちが、先に説明を聞かせようとするのもわかる気がする。
「じゃあ先に報告としましょうか。待合に行きましょう」
フェリアの提案で、六人は待合室に移る。
「皆でお肉を与えたら、消化不良を起こして最終的に吐き出したわ」
真夕がそう告げると、二人は顔を見合わせた。
「やっぱり、オフィスの見立て通り、動物性のものに影響は出ないと考えて良さそうです。牛乳とラードを染み込ませた布も試しました。ラードの染みた布は、油でコーティングされていたせいかなかなか溶けませんでしたね。牛乳の方は普通の布より溶けるのが遅い、と言う感じです」
フェリアが丁寧に説明すると、二人の顔が少し明るくなる。
「木綿の着物、絹の下着、金属の刀で戦ったよ」
肩の出た普段着の霞が、自分の露出した肌を指して言う。
「組み付かれたけど、やっぱり溶けたのは着物だけだった。ほら、なんともないでしょう?」
「もう! 霞さん、そんな無茶までしたんですかぁ!」
「ほんとよ。女の子なんだから身体をもっと大事にしなさいよね!」
お下げの職員が泣きそうな顔で言うと、真夕も腕を組んで軽く睨む。
「ナッツと干し肉を吸収できるか試した写真と、吐き出した時の写真が此方です。また、草を取り込んだときに巻き込んだ虫も混ざっていましたが、いずれも原型を保っていました。段階的な消化は見られず、徐々に溶かすと言うこともなさそうです」
フィロがそう言って撮った写真を見せる。二人は長い息を吐きながら待合室の椅子にぐったりともたれた。
「よ、良かったですぅ……ありがとうございますぅ」
「ありがとう……ほんと、部屋開けて胴体から真っ二つだったらどうしようってずっと怯えてたんだ……」
安堵に悶える二人を前に、ハンターたちは顔を見合わせて微笑んだ。
「え? 何だい君たち、そんなことまで心配してたのかい?」
病室に入り、事情を説明すると、被害職員はぽかんとして同僚たちを見た。
「余計な心配をするなぁ。私は殴られた頭の方が心配だったよ」
「うるさいな! 心配したんだから!」
青年職員が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「彼女なんて泣いてたんだぞ!」
「泣いてませぇん!」
「本人が心配してないなら良いけど、なんにせよこれで安心よね」
「後はオフィスに正式な報告をしましょう。皆さんも心配されていましたよ」
「どういう形であれ、皆の心配がないならこれで良いのかな?」
「きちんと納得して頂いて不安が解消されたなら、それは喜ばしいことと思います」
「いやぁ、君たちすまなかったね。大分無理をさせたようで」
被害職員は、ハンターたちがあの手この手で不安を解消しようとしてくれたことには非常に恐縮した。ただし、同僚たちの不安は「大袈裟」と言って笑い飛ばすのだから、なんと言うか、オフィスでの力関係が見える。
こうして、オフィスの一角を騒がせたスライム事件は、笑い話になって幕を閉じた。歪虚事件で多くの命が失われる中、今回の件がこのような形で終わったことは幸いと言えるだろう。
その後、報酬の支給の時、霞には木綿の着物が、オフィス一同から贈られたのだがそれはまた別の話。
「すぐには倒さずしっかり調べ尽くしてから倒さないといけない様子ですね」
不安げな職員たちを前にして、フェリア(ka2870)が言った。
「そうね、どちらかというと風評被害のが大きそう……しっかり調べてから退治しましょう」
七夜・真夕(ka3977)も頷いた。二人の言葉に、フィロ(ka6966)も賛同する。
「襲われてその場で消化吸収されなかったということは、逆説的にその能力がないという証明になると思いますが……そうですね、思われるという言葉だけで不安を解消していただくのは確かに難しいかも知れません。動物性の物は処理できないのかどうか、合わせて確認してまいります」
「え……? そこまでしてくれるの? わかるんだったらそれに越したことはないけど……」
青年職員はやや困惑したように一同を見た。オフィスの公式な依頼内容はスライム討伐だ。人体への影響は、あくまで同僚たちが一個人としてそれぞれ心配しているに過ぎない。
「え、じゃあ私も一緒にぃ……」
お下げの職員が席を立とうとするのを、蓬仙 霞(ka6140)が押しとどめた。
「できれば、仲間以外には席を外してほしいかな」
「何でですかぁ?」
「何でって……流石に……恥ずかしいから……」
「霞、あなた無茶なこと考えてない?」
真夕が霞の顔を覗き込む。青年職員も、怪訝そうな顔をして彼女の顔を見た。
「霞、きみ、優しい奴なのは知ってるけど、無茶はしてくれるなよ」
「大丈夫、多分大丈夫だと思うから……それより、金属は溶けたのかな?」
「今のところ大丈夫そうですぅ。ネクタイピンは無事でした」
お下げの職員がそう言って、粘液にまみれたまま原型を留めているネクタイピンを見せると、霞は納得したように頷いた。
●真夕とフェリア、空の追跡
討伐するにせよ、スライムの特性を証明するにせよ、まずは現物がないとなんとも言えない。幸いと言うべきか、スライムは粘液と、それによる植物の溶解跡という結構な道しるべを残して行った。
「じゃあ、私とフェリア姉さんが空から探すわね。見付けたら誘導するから、そこを囲い込んでお肉とか試しましょうか」
「私も、ナッツと干し肉をご用意しています」
フィロがそう言って用意したものを見せる。フェリアは、オフィスが喜んで用意した植物性の布とラード、自前の牛乳を持ってきてある。
一方、霞は、「服だけ溶けて、人体が無事であることを証明する」と言って木綿の着物を着用してきていた。近接戦闘を行なう舞刀士だからこそできる作戦だが、いささか無茶ではある。
「下着は絹だから……仮説通りなら全裸にはならないはず」
「もう、やっぱり無茶なこと考えてた」
真夕が呆れたような顔をする。
「でも、良いわ。あなたがあんまり危ないようなら、レクイエムで動きを鈍らせる。あなたのやりやすいようにしてあげるわ」
「ありがとう真夕。金属は溶けないみたいだから、刀はそのままでよさそう」
さて、魔術師の二人は各々の杖にマジックフライトをかけて、空を飛んだ。フェリアが双眼鏡で、真夕は少しばかり人よりも良い目で、互いの見たものを報告し合い、マッピングセットに書き付けていけば、スライムの行き先は自ずと判明した。
「粘液の量や、軌道の数から判断するに、三体はいそうですね。真夕、おびき出しには充分気をつけて。私は上から見ています」
「ええ、よろしくねフェリア姉さん」
真夕は判明したスライムの居場所に向かう。思った通り三体だ。手を叩き、呼びかけてそれらの気を引いた。何かいるっぽいぞ。そう思ったようで、スライムは何も疑問に思わずのったんのったん、ぺったらぺったらと真夕の方に寄ってくる。
上空からの索敵結果とナビゲートは、フェリアがエレメンタルコールで伝えてくれた。やはり、この三体だけで間違いないらしい。
鈍足のスライムを、見晴らしの良いところまで引っ張り出すのには、流石に時間が掛かったが、ついに三体とも、広い場所に引っ張り出せた。人がいないことも、すでにフェリアから伝えられている。
「良いわよ!」
真夕が声を掛ける。作戦開始だ。
●フィロの対照実験
フィロが干し草とナッツを、フェリアが布を持って駆け寄ってくる。作業中に攻撃されても良いように、真夕がウィンドガストを施す。
「えい!」
彼女は500gのブロック肉を、目の前の一体に向かって放り込んだ。どぼん、と水っぽい音がして、肉がスライムの緑の体に飲み込まれる。フィロはナッツと干し肉を別の一体に、更に別の一体には、フェリアがそっと布を落とした。
三人はそのままスライムの攻撃範囲外まで下がって、各々が放り込んだものを観察した。フィロは魔導スマートフォンで、その様子を撮影する。ナッツと布はすぐに溶けた。肉だけがいつまで経っても溶けない。
「次、行きますね」
フェリアが、ラードを染み込ませた布を持って駆け寄った。真夕がレクイエムを歌い、動きを止めている間に布を放り込む。
「溶けませんね」
フィロが冷静にその様子を観察している。戻ってきたフェリアも、双眼鏡で観察するが、やがて頷いた。
「完璧に油が行き渡っているわけではありませんので、染みてないところだけ溶けていますね」
最後は牛乳を染み込ませた布だ。こちらは油の布よりは溶けたが、何もない布ほどは溶けない。染み込んでいる牛乳が邪魔しているのだろう。
その間も、フィロは自分が対照実験としてナッツと干し肉を与えたスライムの写真を撮り続けている。フェリアも双眼鏡で確認した。干し肉が溶けている様子はない。
「そろそろ良いかな?」
木綿の着物に着替えた霞が立ち上がった。
「これだけ験せば、肉を溶かさない証左になるでしょう」
フェリアが頷く。
「でも霞、あなた自分の身で試すんでしょう? フォローするわ」
「ありがとう、真夕」
その代わり、後でお説教よ。真夕は内心で独りごちた。
●メルティ・グリーン
霞は刀を持ってスライムに近づいた。本人の希望で、ウィンドガストはない。スライムは自由に獲物を吟味することが可能だった。
炙られて、スライムは職員を殴ったと言う。ならば、こちらから仕掛ければ、あちらの攻撃を誘発できるかもしれない。
それには攻撃が当たらなくてはならない。真夕がレクイエムを歌って、スライムの動きを妨げている。霞は剣心一如で呼吸を整えると、疾風剣で斬りつけた。甲高い笛のような音を出して、スライムがもごもごと動く。
どうやら怒っているらしい。仲間が攻撃されたのを受けて、他のスライムも、蠢いて霞を囲む。斬られた一体が、触手を伸ばしてぺちんぺちんと霞の肩を叩いた。他のスライムも、霞の腕や足に触手を巻き付けたり、叩いたりしている。
「これは……」
霞は、その攻撃に何か感じるものがあったように目を見開いた。
「蓬仙様」
その様子を見てフィロが立ち上がり、真夕もN=Fシグニスを起動させて声を掛ける。
「霞、動かないで! 今蒼機剣で……」
「待って、待って、真夕……」
「どうしたの? 大丈夫?」
「このスライムたち……覇気がない」
●スライムだって生きている
「覇気、とは……」
フィロが首を傾げた。フェリアが思いついた様に顔を上げる。
「消化不良で、思うように力が出ないのね?」
「胃もたれってこと?」
「多分、そう。ボクは今覚醒してるから多少抵抗できるのもあるけど、一般人でも、今このスライムに叩かれて気絶するとはとても」
「と言うことは……やはり肉は消化できないということでしょうか」
「間違いないと思う」
霞が言いながら、スライムの触手を払いのけると、溶けた着物の一部を引きずりながらスライムは離れた。言われてみれば、人を気絶させる殴打ができそうには見えない。
「消化ができないなら、その肉や虫などは最終的にどうなるのでしょうか? そのままではないと思うのですが」
フィロの疑問に、一同は顔を見合わせる。
「確かにそうよ! だってそのままなら、虫で一杯になっちゃう!」
真夕が声を上げる。フェリアも思案しながら頷いた。
「どこかで吐き出している可能性はありますね」
「まだ倒せない、かな?」
霞が、残っている袖を肩に引き上げながら後ろに下がる。
「その通り。真夕、止めましょう」
「わかったわ!」
フェリアがアースウォールを呼び出し、真夕がレクイエムを歌い上げる。土壁と、この世ならざるものを阻む歌、そして推定胃もたれにより、スライムはのったんのったん、ぺったんぺったんと悶えるように転がり回る。
「具合悪くて逃げたいのに、邪魔されたら苦しいよね」
「気持ちは察するにあまりあるのですが、スライムに気持ちはあるのでしょうか」
「どうだろう……」
「見て!」
歌うのをやめた真夕が声を上げた。スライムは、四人がまだ見ていない動きを始めている。ぶるぶると細かく震え、体の一部に穴を空けたのだ。そこから、空気の混ざったスライムの軟体が、震えに合わせて激しい音を立てる。
そして、その穴から、フィロの与えた干し肉が勢いよく吐き出された。それはアースウォールに叩きつけられ、粘液にまみれたまま地面に落ちた。
残りの二体も、その様子を見て真似したのか、あるいは吐き気を催したのか、それぞれ、真夕の与えたブロック肉、フェリアが油を染み込ませた布、その他取り込んでいた虫などを噴出する。
「吐いた! 吐いたわ! やっぱり肉は消化できないのよ。だって、後からでも溶かせるんだったら吐く必要ないもの」
真夕が歓声を上げる。フィロも、その様子を撮影しながら頷いた。
「消化できるものでも、食べ過ぎの可能性はありますが、常に草を取り込んでいるなら、段階的に消化された虫が点在すると考えられます。三体全てにその様子は見られませんでした」
「良かった……人体に害はなさそうだね」
「オフィスに良い報告ができそう。わかったからには倒してしまいましょう」
「そうだね」
「蓬仙様」
再び出ようとする霞を、フィロがそっと押しとどめた。
「フィロ?」
「今度は私が。先の戦いで、装備が溶けていらっしゃいます。肉を吐き出した今、スライムの攻撃力が戻っているかもしれません。その薄着では少々危険です」
「薄着……」
絹の下着こそは無事だったが、それは下着であって、そもそも、着てきた木綿の着物も、本来なら戦闘用の装備ではない。今回彼女は装備の面でかなり無茶をしているのである。フェリアが近づいて、自分の上着を掛けた。
「その格好で更に動くのは、少々はしたないわ」
「後方支援をお願いします」
フィロはそう言うと、スライムに向かいながら、体内のマテリアルを練り上げた。真夕がウィンドガストをかける。
「フィロ、その一体をお願いよ。私と姉さんで残りの二体を片付けるわ」
「はい。お任せ下さい、七夜様、フェリア様」
そしてフィロは、練り上げたマテリアルを一気に放出した。目の前の敵をひっぱたこうとしたスライムは、その触手ごと、青龍翔咬波に食いちぎられた。
強烈なマテリアルの気配を感じた残りの二体も、マジックアローとアイスボルトに倒れ伏し、討伐は完了した。
●お見舞い
オフィスに戻ると、依頼を説明した二人の職員は病院に見舞いに行っていると言うことだった。残っていた職員から、「先に説明してあげて」と言われて、一行は病院に向かう。
二人は、病室の前で及び腰になってうろうろしていた。どうやら心底怖がっているらしい。
「何してるの?」
真夕が声を掛けると、二人はびくっと肩を震わせて振り返る。
「あっ、真夕さぁん」
お下げの職員が情けない声を上げて真夕にすがりついた。
「お見舞いに来たは良いんだけど、その……怖くて……」
青年職員の方も口ごもる。これは、残った職員たちが、先に説明を聞かせようとするのもわかる気がする。
「じゃあ先に報告としましょうか。待合に行きましょう」
フェリアの提案で、六人は待合室に移る。
「皆でお肉を与えたら、消化不良を起こして最終的に吐き出したわ」
真夕がそう告げると、二人は顔を見合わせた。
「やっぱり、オフィスの見立て通り、動物性のものに影響は出ないと考えて良さそうです。牛乳とラードを染み込ませた布も試しました。ラードの染みた布は、油でコーティングされていたせいかなかなか溶けませんでしたね。牛乳の方は普通の布より溶けるのが遅い、と言う感じです」
フェリアが丁寧に説明すると、二人の顔が少し明るくなる。
「木綿の着物、絹の下着、金属の刀で戦ったよ」
肩の出た普段着の霞が、自分の露出した肌を指して言う。
「組み付かれたけど、やっぱり溶けたのは着物だけだった。ほら、なんともないでしょう?」
「もう! 霞さん、そんな無茶までしたんですかぁ!」
「ほんとよ。女の子なんだから身体をもっと大事にしなさいよね!」
お下げの職員が泣きそうな顔で言うと、真夕も腕を組んで軽く睨む。
「ナッツと干し肉を吸収できるか試した写真と、吐き出した時の写真が此方です。また、草を取り込んだときに巻き込んだ虫も混ざっていましたが、いずれも原型を保っていました。段階的な消化は見られず、徐々に溶かすと言うこともなさそうです」
フィロがそう言って撮った写真を見せる。二人は長い息を吐きながら待合室の椅子にぐったりともたれた。
「よ、良かったですぅ……ありがとうございますぅ」
「ありがとう……ほんと、部屋開けて胴体から真っ二つだったらどうしようってずっと怯えてたんだ……」
安堵に悶える二人を前に、ハンターたちは顔を見合わせて微笑んだ。
「え? 何だい君たち、そんなことまで心配してたのかい?」
病室に入り、事情を説明すると、被害職員はぽかんとして同僚たちを見た。
「余計な心配をするなぁ。私は殴られた頭の方が心配だったよ」
「うるさいな! 心配したんだから!」
青年職員が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「彼女なんて泣いてたんだぞ!」
「泣いてませぇん!」
「本人が心配してないなら良いけど、なんにせよこれで安心よね」
「後はオフィスに正式な報告をしましょう。皆さんも心配されていましたよ」
「どういう形であれ、皆の心配がないならこれで良いのかな?」
「きちんと納得して頂いて不安が解消されたなら、それは喜ばしいことと思います」
「いやぁ、君たちすまなかったね。大分無理をさせたようで」
被害職員は、ハンターたちがあの手この手で不安を解消しようとしてくれたことには非常に恐縮した。ただし、同僚たちの不安は「大袈裟」と言って笑い飛ばすのだから、なんと言うか、オフィスでの力関係が見える。
こうして、オフィスの一角を騒がせたスライム事件は、笑い話になって幕を閉じた。歪虚事件で多くの命が失われる中、今回の件がこのような形で終わったことは幸いと言えるだろう。
その後、報酬の支給の時、霞には木綿の着物が、オフィス一同から贈られたのだがそれはまた別の話。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/25 22:07:26 |
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ドル〇ーガの塔一階(相談卓) 蓬仙 霞(ka6140) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/05/26 17:40:55 |