• 羽冠

【羽冠】義、とは ネヴァ双丘施設攻防戦

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~9人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/05/21 19:00
完成日
2018/05/29 00:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 時間が、迫ってきていた。
 凄まじい口渇感が、緊張が、喉を引き攣らせる。ともすれば浅くなる呼吸を無理矢理に整える。
 まだだ。落ち着け。

 "合図"は、まだなのだから。
 具体的な運びを意識するだけで、視界が明滅する。意識を手放すことができれば。その間に、全てが終わっていれば……どれほど、楽だろうか。

 ――家族は、無事だろうか。
 そうであってくれ、と願うほかない。アリスン。シャロン。リジー。カーソン。妻よ。子供たちよ。生きていてくれ。そして、エクラよ。

「ああ……」
 思わず呟いて、膝をついた。エクラよ……この罪を、お赦しください。

 私はこれより、王家に仇をなす。


 皮肉にも、合図が聞こえたのは、その時だ。
『時間だ』
 身近な、通話の魔法。それを聞いて、仕掛けを作動させたのち、動きだす。
 開門装置に取り付くまで、そう時間はかからない。
 しかし、そこで、意表を突かれた。
 人影がもうひとり、迫っていた。焦りに瞠目していると。

『協力者は君ともうひとりいる。速やかに事をなせ』
 耳を疑うような、冷たい声だった。彼らは、私に為した非道を他の"騎士"にまで及ばせていたのだ。非番姿の騎士が、こちらを見ている。ああ、おそらく、私も同じ表情をしていたことだろう。悲痛に歪んだそこには、確かに安堵があった。

 ――共犯者の存在は、私の心を軽くした。

 先程よりは幾分か滑らかに、手が動く。
 再び、祈りを捧げた。

 ああ。せめて……"うまく、いってくれ"。



 完璧な夜襲。完璧な奇襲であった。門衛に立っていた騎士が突然の開門に気を取られている間に、遠距離から"射殺"。即座に浸透。音を立てぬように軽装だが、万全の騎士と真っ向から立ち会うような戦ではない。
 殺害は、最小限であれば許可されていることが幸いして、立案は容易だった。寝込みを襲われた騎士であれば、無力化はたやすい。
「状況は」
『残るは上級騎士のみです。協力者含め、確保完了しました』
「よろしい。そいつらは殺すなよ。我々は大義をもって此処にいるのだから」
 足を止める。視線の先に、彼がいた。
「……貴様ら、何者だ。歪虚の手合では、ないな」
「……」
 上級騎士、レイール・フェイランド。自然と、頬が釣り上がる。剣こそ備えているとはいえ、具足は不十分。夜目も効かず、そして――。
「……騎士科での立ち会いでは、貴様から一本も取ることはできなかったが」
 歪虚との戦いにときを費やしたお前と違い、こちらは。
「今は違うぞ、レイール」
「貴様……!?」
 人との戦いは、慣れている。背負うものも、違う……!
 疾駆した。

 ―・―

 襲撃の完遂まで、半時間も要さなかった。
 王国地下水路に魔導機構によって供水している施設が、陥落するまでの時間である。
 慢性的な騎士不足に悩まされる現在においても上級の騎士が一名、低位〜中位が十五名、それぞれの従士があわせて四十名を詰めていた施設が、である。
 成果に、ほくそ笑む。あとは『協力者』を引き起こして、定時連絡を偽装させれば――と、そこで。
「班長!」
「どうした」
 駆け込んできた部下に、思索を妨げられた。
「やつら、やりがやった。狼煙です……!」
 ――鼬のなんとやら、か。
 胸中で言い捨てて、声を張る。
「……やるしかない。籠城戦の備えを! 急げよ!」



 ハンター達とともに呼び集められた黒の隊所属騎士、アカシラ(kz0146)の表情は、凄まじく渋い。
「……オイ、こいつぁどういうことだい、爺?」
「騎団長相手だぞ。"騎士"というのなら、口の聞き方くらいはそろそろ覚えろ」
「なら、敬われる程度にちゃんと情報を寄越すことさね。んでもってこの、『殺害禁止』の文言も解きな。手並み手管を考えな。そんな生ぬるい相手じゃないだろ?」
 あえて歯を剥くようにして言うアカシラに睨み返され、ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトは息を吐く。こんな輩も騎士なのだと思うと同時に、そんな輩が、かつてもいたことが思い返されたのだ。
「……一応、聞いておこうか」
「あ?」
「"踏み込むならば"、根拠を寄越せと言っておる。……どうせ貴様のことだ。当て推量でも、道中でハンター達に喋り散らすのだろう。その次第によっては、考えてもいい」
「……ちっ」
 アカシラは、赤い髪をがさつにかき乱しながら、吐き捨てる。勢いが弱まったのは、そういう組み立ては苦手な領域からである。
 兎角、告げる。
「まず、アタシら……と、こいつらが呼ばれた理由さね。自前の騎士を出さないのは、今回の件に"内通者"が疑われているから。ここまでは?」
「正しい。続けろ」
「騎士に内通者を作れるほど、ヒトの事情に通じる歪虚は考えにくい。となりゃァ相手は、"騎士"に明るい"人間"だ。アタシの見立てじゃ、貴族の誰かの手駒、ってとこさね」
「…………」
 ゲオルギウスは、やはり、と慨嘆する。こういうデリカシーに欠けていることが予想できたから、事前に聞いたのだ。政治色の薄さ、地盤の乏しさ、そしてなにより"対人戦に慣れている"点で最適な人選だったが、制御の効かなさは如何ともしがたい。
「アタシらは、危うく完封されるところだった。どこぞの誰かが狼煙をあげてなきゃ、この事態すら見逃していた可能性すらある。事前の準備を含め、夜襲って分を差っ引いても、敵は十二分に手練さね。けど、そうとすりゃ目的がわからない。何故、アイツらは施設を抑えるだけで――」
「……もういい。十分だ、アカシラ」
 右手を掲げたゲオルギウスは瞑目し、遮った。
「それだけ理解しているのならば、殺害禁止の理由も思い至ろうよ。奴らはそのまま、"こちら"の手札になり得る。精兵を使い潰すつもりにしても、生かすことで目論見を潰すこともできよう」
「ハ。……で、あっちの目的は?」
「急かすな。施設を押さえたこと盾にした脅迫――否、"交渉"、であろうよ。故に、奴らは今も施設に引きこもっているのだろう。
 仮に貴族の手のものであれば民意を損なうような真似をする可能性は低いが、追い詰めたときどうなるかは判らん。早急な奪還と、情報源の生存は"可能な限り"両立すべき条件だった」
 政争の域を越えた強硬手段に出た"先方"の意向は、ゲオルギウスにとっても想定外だ。敵として討つには至らぬまでも、好機には違いない。
 しかし、多くの場合において拙速は巧緻に勝るのだ。この局面を乗り切るためには、可及的早い施設の奪還は必須と見る。
 上が交渉に呑まれてからでは、遅い。
 ――託してみるか。
 歯噛みする。王都と包む未曾有の混乱に、身動きの取れない自分自身に。
 苦さを噛み締めながら、老騎士は、こう結んだのだった。
「アカシラ。貴様に権限をやる」

リプレイ本文


 飛ばしに飛ばして、正午にはたどり着いた。グラズヘイム王国においては珍しく、湿気った風が辺りを撫でている。
「ケッ」
 男の舌打ちが、風の中に響いた。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)の口元には、太い笑みがあった。しかし、その目は不快げに細められている。
「守りてぇモンを守るために人と戦えってか……はっ、最高にクソッタレじゃねえか!」
「化け物より人間相手の方がやりやすいケドねえ」
 相槌をうったフォークス(ka0570)は気負いもない軽い口ぶり。横目にジャックを伺う視線には、昏い光が乗っている。心の底に疼くものがあった。お高い生まれの人間が、欲をぶつけあって消耗していくのは心地よい。それは勿論――ジャックの有り様も然り、で。
「さて、どうなるかナ」

「やぁ、きみが噂のアカシラ君か!」
「……あ?」
 霧島 百舌鳥(ka6287)の大仰な声に、アカシラが振り返る。
「いや失礼! 僕のこれは見にくくてね。ほら」
 龍の意匠が描かれた帽子を上げ、ついと指し示す。
「なんだい、同族かい」
 如実にアカシラの表情が曇ったが、百舌鳥は大笑した。
「そんなに構えないでくれよ! ボクはむしろ感謝してるのさ! 謎を探しに"外"に出れたんだ。こんなに……こんなに素敵なことはない。だから――」
「そうかねえ」
 遮ったアカシラの視線の先。百舌鳥の額には、至極短い――角の痕、とも呼ぶべきものがある。アカシラはしばし、それを眺めていたが。
「……まあ、アンタがそう言うならそれでイイさ」
 百舌鳥のそんなやりとりを、仙堂 紫苑(ka5953)は茫と眺めながら、
(相変わらず舌の周りが凄まじいな……)
 と、深く関わらないようにしていたのだった。仲間ではあるが、徒に首を突っ込むとろくなコトにならないと知っているのだ。

「ど~してこんな面倒なことを王国の人どうしで……」
 バイクに跨った夢路 まよい(ka1328)は器用にバランスを取りながら、小首をかしげた。言葉は純然たる疑問で占められ、喜怒哀楽といった感情の色はない。
「……嘆かわしいですね。大敵を退けたとは言え安寧には遠く、人同士で争っている場合ではないというのに」
 対して、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)の声は苦い。踏み越えてきた道行きを蔑ろにするような暴挙に、心が曇る。ふと想起されるのは、"二人"の顔だった。
 ――なればこそ、殿下やあの方がこのような事で心煩わす前に決着を付けなければいけませんね。
 心を決めた視線の先。二つの見張り塔を有する無骨な建物の姿が見えてきた。



「……想像はしていたけど、やっぱり嫌な塔ね」
 マリィア・バルデス(ka5848)は遠く、塔を眺めながら慨嘆する。猟撃士にとって"安全な高所"は流涎もののアドバンテージだ。翻って我が身は、となると、十分な遮蔽もなく、圧倒的不利を突きつけられることとなる。
 マリィアは悲嘆を懐きつつも、百舌鳥が飛ばした使い魔のカラスが迂回しつつ高度を取り、飛翔していくのを眺めていた。そのまま目測していると、距離一二〇ほどでカラスが墜落していった。
「矢、かしら。サブウェポンかもしれないけど準備がいいこと」
「……ふう。そうだね」
 集中を解いた百舌鳥に視線が集まる。
「向かって左に、弓使い。右側には一人立っている。得物は不明だった。どっちも、置物……? で遮蔽が補強されてるね」
「屋上はどうじゃった?」
「塔の影は遮蔽で見れなかったけね。今の所、屋上には敵はいないみたいだった……けど」
 紅薔薇(ka4766)の問いに、百舌鳥は笑んだ。
「僕たちのことには、気づかれてそうだね」



 異様な光景であった。ハンターたちと、アカシラを始めとした鬼たちは、いずれも魔導バイクや馬、魔導ママチャリなどに騎乗している。
 作戦はシンプル極まる。突撃し、開門し、突入する。想定される障害への備えはしてきた。あとは、それらが伸るか反るか。だ。
「どんな理想があるのか知りませんが……インフラを使って脅迫するつもりならば容赦は不要ですね」
「一応、言っとくが、ガワはともかく中身はキチっとしねェと、アタシらが賊扱いになっちまうからね?」
「ええ、大丈夫です。ちゃんと加減しますから」
 最も苛烈な手段を用意してきた者の一人、エルバッハ・リオン(ka2434)の言葉は――アカシラへの返答をとっても――不穏極まるものだった、が。

 同時に、疾駆、あるいは駆動する。
 全力での移動は、瞬く間に距離を食いつぶしていく。140メートル。大凡、敵の射程限界と見たところだが――すぐに、それが来た。
 最前をいく紅薔薇は、まっすぐに塔を見つめていた。左右の塔。特に、"弓使い"がいた左方を。
 そこから、強烈なマズルフラッシュが咲いた。狙いは――。


「わわっ、大丈夫!?」
「私は大丈夫です。でも……」
 射撃は、紅薔薇よりも後側方に流れていった。そちらには、まよいやエルバッハがバイクで移動していたが、到達を待っていたかのような狙撃だった。
 あわやエルバッハに直撃というところだった弾丸は、"それ"を危惧していたヴァルナのガウスジェイルに捕らわれ、ヴァルナの身を撃ち貫いていた。
「――――っ、大丈夫、です。いけます」
 問われたヴァルナの傷は、重い。鎧や盾に、スキルを使って身を固めて、これだ。マリィアの妨害射撃はスキルの都合上避けることは叶わなかったとしても、当たりどころが悪いわけでもない。ただ、強力な一射だったのだ。
「足を止めないで。次が来ます……!」


「ち、やっぱりか……」
「…………目立ちすぎたかのぅ?」
 後側方からのフォークスのつぶやきに、紅薔薇が少しばかり悲しげにつぶやく、と。
「や、アッチが、かな」
 馬を失速させながら、振りかざしたのは自らの銃。紅薔薇と、すばやく狙いを定めるフォークスとの距離が開いていく。
「得物でバレたんだろうね……」
 そんな声を遠くに聞きながら、「あぁー……」っと、可愛らしい嘆息の声が、戦場に落ちた。

「彼女らには悪いが、急ごう、紫苑くん!」
「ああ……っ!」
 方や、これ幸いと周りには目もくれずに全速力で往く百舌鳥と紫苑。
 "敵"の手数は限られている。優先目標を適切に狙う相手だとわかったのは幸いだ。なにせ、彼ら二人は――紅薔薇と同じく――優先的に狙われるような得物をもっていない。筋力に任せて後衛職すらも武者鎧を着込んでムキムキマッチョの巣窟と化しているアカシラ隊の面々も同様だ。攻略は"後方"に任せて、門へのとっつきを急ぐこととする。

 後方、速度を落としたフォークスとマリィアは、それぞれに同じ銃を構えている。大型魔導銃「オイリアンテMk3」。超火力が売りの、対大型歪虚用の巨銃。
「……チッ」
「見たかしら?」
「ああ、見たよ。そう来たかぁ」
 エイムしていた二人、フォークスとマリィアは吐き捨てた。微かにしか覗かぬ銃口は想定通りだが、その側面にあるもののほうが問題だ。狙撃手を覆う"壁――否、タワーシールドか。
 狙撃手の傍らに、盾をもって駆けつけた"もう一人"がいる。どうやら敵は、正しく籠城の備えをしていたらしい。
 引き金に指を掛けたマリィアに、葛藤が生まれる。今なら狙われるのは魔術師組だ。ヴァルナは倒れるかもしれないが、最悪、アカシラ隊の誰かが拾ってくれるはず。その意味で、超難度の狙撃のための無駄弾の一発程度なら許容されるかもしれない。
 ――ナンセンスね。けど、撃つしか無い。
 幸い、高火力に活路を見出すことはできる。と、そこで。
「悪いケド、加減してる場合じゃないネ!」
 慎重さをかなぐり捨てて、フォークスはマテリアルを弾丸に叩き込むと同時、引き金を引く。
 装填されていたクリスタルバレットの蒼い光条が走った。まっすぐに塔を貫くと思われた弾丸は、衝突の寸前、軌道が不自然にねじ曲がった。狙撃手がいるであろうところから、"盾"の方へと。ヴァルナ同様に、こちらもガウスジェイルを用いたか。
 もっとも、その盾すらも避けて食らいついていく軌道は、"トリガーエンド"だからこそ為せる技だった。
「XXXXッ!」
 フォークスの罵声が響く。殺しもやむ無しと放った一射だったが、まんまと食われた。撃ち抜いた闘狩人が健在かどうかはもはや知る由もないが、フォークスは声を張る。
「マリィア!」
 言われるまでもないとばかりに銃声が即応。高加速射撃が、揺らいだ盾の隙間から覗いた狙撃手の肩を食い破った。



「二人、塔から飛び降りたやつがいる!」
 向かって右の塔の動きをみて、ジャック。塔から屋根上と飛び出した身のこなしからは、疾影士だろうか。
「野郎、クソ根性みせやがった! もう一撃くる!!」
 フォークスの怒声とともに、前後から同時に射撃音が響いた。後方からは銃撃とは思えぬ軌道で塔の中に飛び込んでいく。フォークスの"トドメ"の一射だろう。その直後に、大地を叩く鈍い音が届いた。
「ヴァルナ……っ!」
 予感とともに振り向いてみれば、再びガウスジェイルを使用したヴァルナが衝撃で落馬していた。次弾に備えていたアカシラ隊の治療手が治療を施したことで致命傷にはいたらなかったが――。
「てめぇらは先にいけ!」
 心配げに振り向くまよいとエルバッハに叩きつけながら、ジャックはバイクを走らせて、すくい上げる。
 エルバッハは魔術を放たんとしていたが、もし射撃が続いた場合は誰も対応できない。まよいは先行しており、足並みを崩すこともためらわれた。さらには屋上の敵も視認できていない現状、仮に魔法を放っていたとしても盲目的に過ぎる。
「……お願いします」
 一瞬の逡巡の末にそう言い置いて、少女はバイクを加速させた。
「生きてるか?」
「だい、じょうぶ、でした、か……?」
「アイツらはな」
 役割とはいえ、結果として最も危険な役回りを押し付けた形になったことは心苦しい。しかし、互いに覚悟の上でここにいる以上、そこに泥を塗るのは筋違いだ。
「……飛ばすぜ! 続きの治療はあとで受けろよ!」
 手の感触から意識をそらすべく言い放ち、急ぐ。魔術師組は門前にたどり着いたことで銃撃からは逃れられるようになったが、そこだって屋根上の脅威に晒される。息をつく暇もないとはこのことだった。

 ―・―

 最初に門にたどり着いたのは紅薔薇、紫苑、百舌鳥の3名だった。
 フォークスとマリィアは後方で狙撃手への対応にあたっており、後続としてはまよい、エルバッハがもう間もなく到着、というところ。ヴァルナを拾ったジャックはバイクを走らせるが、動きとしてはやや鈍り、合流までには時間がいる。アカシラ隊は見張り塔からの死角に取り付いた上で、手早く周囲を見張るものと、ジャックたちの合流を待って治療の備えをするものに別れた。彼らを率いるアカシラは頭上を警戒していた。
 さて。門である。重厚そうな面構えを前に、紫苑は逡巡。押して開く類のものでも鍵孔がある類のものでもなさそうなことはひと目で分かった。ヴァルナを――そしてその回復を――待つのは現実的ではない。
 となれば、往こう。紫苑が覚悟を決めたところで、
「おっ」
「……」
 にんまりと笑ってそう言った百舌鳥に、紫苑は嫌な予感を覚えた。耳を澄まし、鼻を効かせている百舌鳥の反応だ。おそらく、多分、きっと、良くない知らせだろうと思う。まだ身を固めるほどの動作もしていないことから、猶予はある――と信じたい。
「紅薔薇さん、行けるか?」
「うむ」
 手早く紅薔薇のほうに聞いたのは、百舌鳥に聞くと時間が掛かりそうだったからだ。尤も、そのことにも気づいているのか百舌鳥の笑みが深くなったことは苦い。

 ――。

 その葛藤ごと断ち切るように、凄烈な一閃だった。絶たれた扉の下方を蹴りのけるようにして空けた隙間めがけ、ジェットブーツで加速。観音開きになった扉の成れの果てを尻目に、通路の角をめざす。事前情報から、屋内の構造は把握している。シミュレーション通りに踏み込めたのは百舌鳥の注意がなかったからだ。偏った享楽的人物ではあるが、こういった場面では進んで間違いを犯しはしないと信用していた。
 直近には敵は居ないと判断したが――まず先に飛び込んできたのは、視界の暗さ。
「……嫌になるね」
 入り口のクリアリングを行いながら、暗順応を待つ。視界が効かない状況で進んで、トラップに引っかかっては元も子もない。

 ――轟音が響いたのは、その時のことだった。



 紫苑を追って門をくぐり抜けようとしている百舌鳥は右手で上を指し示しながら、
(だいぶ近づいてるね。あと10秒ほどだ)
 と小声で告げ、そそくさと潜り込んでいった。
「ふぅむ」
 その場に残る形になった紅薔薇は唸る。たとえば鬼たちの助力を得て屋根上に登ったとして、疾影士二名と立ち回るのは悪手だろう。とはいえ、このまま突入するのも今後の展開を思えば美味くはない。
 そこに。
「じゃ、やっちゃおうか?」
「ええ」
 極めて軽く添えられたまよいとエルバッハの言葉は、決して穏当ではない手段の提示と同義であった。敵にとって優先目標であったであろう彼女たちの安全圏への到着は、実質的には戦術的な勝利と言ってもいい。
「うむ、頼む!」
 故に、紅薔薇にとっても否やはない。政治的な問題だということに筋は通っているので理解は示すが、行いそのものを赦す道理は、この鬼子にはありはしないのだ。
 二人がぎりぎり屋根上が見える程度に後退し、詠唱を開始した頃に後方からバイクが突入してきた。
「コイツを頼む!」
 ヴァルナを抱えたジャックだ。合流するや否やヴァルナを手近な鬼に預けると、すぐさま銃を抜きつつ屋根上を睨んだ。疾影士の襲撃が予想される現状、まよいとエルバッハを守護できるのは自分しかいない。
 果たして、その役目はすぐに果たせた。
 屋根上から顔を出した敵が短刀を投擲するのと、二人の魔術師が狙いを定めるのはほぼ同時のことだった。

 ――結果は、至極対照的であった。
 二振りの短刀はジャックの盾に阻まれ、弾かれた。
 方や、降り落ちはじめた炎球が屋上と塔へと降り注いでいく。その数、実に十と二つ。
 当然、屋根の縁に立っていた疾影士は目先の脅威として屋根そのものを破壊しつつ入念に灼かれた。命中確認は視界の都合上困難であったが――。

「やっべえ……」
「見事なのじゃ!」
 ジャックと紅薔薇の反応も実に対照的であった。方や苦い顔で、方や満面の笑み。
 視線の先。今まさに崩れ落ち、落下してくる塔の上部が自然法則に則り、自由落下の末に轟音を立てて屋根上に散った。
「……確かにあっちは制御施設はないがよ」
 起こってしまったものは仕方ない、のだが。
「ここに詰めてた騎士たち、どこにいるんだろうな……?」
「「「…………」」」
「まぁ、ギリギリ大丈夫さ……このぐらい、爺だって覚悟してるはずさね……多分ね」
 アカシラは遠くを見ながら呟いた。まよいも、エルバッハも主に落とす位置という意味で加減はしていたが、景気のよい結果が全てだった。

 ―・―

「何をぼさっとしてるの?」
 マリィアとフォークスが追いつくと、我に返った面々はそれぞれの戦場へと向かった。
「私も、必ず参りますから……!」
 ヴァルナは治療後に合流すると伝え、見送る形。
 ヴァルナとマリィア以外ではただ一人残った紅薔薇は、崩落した屋根を足場に屋根上へ登っていこうとしてアカシラに呼び止められている。マリィアが周囲を警戒していると、「ぉぅ……」という紅薔薇のうめき声が聞こえた。見れば、かぶりを振ったアカシラが近くの鬼を呼びつけている。
「シシド。アンタ、測るのは得意だろう? 嬢ちゃんについていって、測量してきな」
 事情を察し、マリィアは苦笑した。たしかに、正確な見取り図があったとしても紅薔薇の仕事にはそれだけでは片手落ちだった。軍属だったマリィアには、近代兵器には精確な照準が不可欠なことは身に染みている。
「気づいていれば指摘もできたかしらね……」
 と、彼らの見送ってすぐに――異音を察知した。

 響き始めた、屋根上からの戦闘音。
 すぐに、駆け出した。




『紅薔薇は敵残党と交戦中。すぐには援護に入れないわ』
 マリィアからの知らせが入った後、紫苑たちはすぐに浸透を開始。覚醒者を仕留められるほどの備えができなかったためだろうか、デストラップの類は仕掛けられていなかったが、細かなブービートラップや鳴子の処理には時間を取られた。
「……よし」
 解除に励む紫苑とて罠そのものが時間稼ぎだとは解っているが、油断してドカン、は避けたい。
 かくしてたどり着いた制御施設の扉の前には、紅薔薇を除いたハンターたち――治療を終えたヴァルナも合流している――が8人とアカシラ。アカシラ隊の面々は施設内の各所の制圧に動いている。
(中は相当騒がしいね。おかげで細かな位置取りはわからないや)
 壁に耳を当てていた百舌鳥の囁き声に、一同はうなずきを返す。紫苑が扉を開けると同時に、エルバッハが放った式神がふよふよと宙を舞い、突入。
「……っ」
 しかし、間髪入れずに放たれた短刀に貫かれ、式が滅びる。
「目立つからねえ、それは……」
 言いつつも、同じく鼠を操って送り込もうとしていた百舌鳥の動きが止まる。残るはこの一匹だけ。無駄打ちは避けたい。
「拉致があかねえな。行くぞ!」
 ジャックが咆哮とともに突入した。すぐにアカシラが続き。ついで紫苑、ヴァルナ、中後衛としてフォークス、まよい、エルバッハが突入。
 なお、自称"荒事が苦手"な百舌鳥は遅れての突入となったが、悪びた顔一つしない。
 入ってすぐに気づいたのは――
「煩いなあ……!」
 配管周囲の機構音がとにかくやかましかった。
 ――おっと、そうじゃなかった。
 戦闘を本領としないあまりに、現状を見失いかけていた。否、想定通りだったので重要視していなかった。
 "敵"は、バリケードを複数張ってこちらに備えていた。こちらの編成も正しく伝わっているはずで、銃撃しながら突進してくるジャックやジェットブーツで三次元的軌道で迫る紫苑に対しても至極冷静に対処してくるだろう、というのが百舌鳥の見込み。
 ――ほら。
「数、7! 手前に5、奥に2。得物は剣、鎚……っと……!」
 飛び上がった紫苑に追いすがるように、軽装の剣使いが配管を伝うようにして突撃。高所の利を潰すべく打ち下ろされた一撃を躱しきれず、紫苑はそのまま配管上での一対一の形へとなだれ込んでいく。
「おォ……っ!」
 格上と見た紫苑が全身に紫電を奔らせ、巨大化させた武器を振りかざしている。大事な仲間ではあるのだが、百舌鳥には援護は不可能な位置なので武運を祈るほかない。同時に、アカシラに対して切り込んでいく剣士が一名。百舌鳥の目には凄腕に見えるが、こちらも無視。
 残り、5。
「果てなき夢路に――迷え、ドリームメイズ!」
 まよいが放った魔術が、敵一団を包みこんだ。幻夢のごとき迷宮に囚われたもののうち、一人が昏睡しかけ、すぐに隣の人間に叩き起こされて目を覚ます。精強だ。あれを食らったのがただ一人、とは!
「ああ、もう……!」
 なお、地団駄を踏むまよいは大層可愛らしい。おまけに、大いに注意をひいてくれたおかげで、"鼠"を仕込むことができたのも大変よろしい。隘路を進ませる限りにおいて、鼠の安全は確保され得るだろう。ましてや、このような状況であれば。百舌鳥は前線を味方に任せることとして配管に身を預け、意識を凝らす。
 ――さぁ、て。どうなってるかな。



 ――らしくなってきたネ。
 ハンターとしての暮らしもすっかり長くなったが、フォークスとしては、"こちら"のほうが肌に馴染む戦場だった。近代戦というには、飛び交う得物がやや原始的ではあるとしても。
 先方はこういう手管には不慣れなことも実に良い。配管を遮蔽に取りながら、鼻歌交じりでバリケードに向かってプラズマボムを投げ込む。爆風範囲と周囲への被害を考えれば落とせる場所に制限が掛かるが――。
「GO!」
 ――効果は、抜群だ。
 言葉と同時、想定通りのタイミングで爆破。遮蔽ごと爆風に呑まれた敵前衛3名が、バリケードの体裁を為している間にと後退を開始した。
 同時に、爆風での損耗を補填するように後衛の1名が法術を紡ぐのを確認。視線を巡らせると、まよいとエルバッハからの視線が返ってくる。"アタリ"だ。
「おっしゃァ……!!」「――参りますっ!」
 言いつつ、ジャックとヴァルナが突進。ジャックが残っているバリケードを力ずくで押しのけて道を作ると、ヴァルナが滑り込む。数的不利を恐れることなく、剣と盾を構えて後退途中の前衛3名へと肉薄していく。
 それは――。
「……もう一回……っ!」
 最後の、『ドリームメイズ』の呼び水となった。ヴァルナの眼前に、再び幻影の迷路が沸き起こる。敵前衛全員と、治療のために残る形となった聖導師を巻き込んで。
「これで――」
 前衛一名が眠りに落ちたのを確認したエルバッハは残る敵影に符を投擲。それらは瞬く間に迅雷となり、奔る。先程の"衝撃"が記憶に新しい前衛達は、高威力を厭うて回避を択んだ。
 結果、敵間の距離が空き――。
「一人、確保です」


 エルバッハの宣言と、同時のことだった。
『――紅薔薇じゃ。屋上に残っておった疾影士は自害しおった』



 マリィアと、シシド、紅薔薇の三者から攻め立てられた疾影士は――よくこらえた。そういうべきだろう。片腕を紅薔薇が断ち、マリィアの銃弾が両膝を撃ち抜き、彼女たちが確保を――と動いたところで、
「これまでか」
 男はそう言うと自ら舌を咬み、血に溺れて絶息した。
「……」
 それは、忠義の類なのだろうか。
 紅薔薇にはわからない。まだ熱の残る肉の塊を見下ろす少女には。
 ただ。
「馬鹿なのか? こやつらは。歪虚の脅威が消えたわけでも無いのに人同士で争うなど……」
 冷たく響く声だけが、死体に添えられた。



 ――格上、だが。
 機剣とパリィグローブを匠みに使いながらも、紫苑は押されていることを自覚する。
 敵は機動力を厭うて前にでた。バリケードや配管を無視した行動は守兵にとっての急所になると。
 ――死兵、だな。どこまでも付いてくる。
 押し上げるジャックらの前線とは入れ違いになるように、紫苑は緩やかに後退を続けていた。マテリアルアーマーに強化術式を併用しながらの戦闘には、明確な時間制限がある。
「……っ!」
 雄叫びとともに巨大化した機剣を横薙ぎにして距離を取り、通路に着地した。真正面、半身に構える疾影士の姿勢には、未だ余力があるように見える。
「システィーナ様も、騎士の中に裏切りが出たと知ればさぞ悲しむだろうな?」
「……?」
 紫苑の軽口に、茶髪の男は怪訝そうな顔をした。そして。
「俺たちが、騎士? 騎士だと?」
 目を細めた男は、口の端を釣り上げ、まっすぐに疾走。
「はっ、やはりお目出度い奴らだ……!!」
 ――騎士では、ないのか。
 そんなことを考えながらも、身体は自然と敵の斬撃をあえて受け止めるように動く。同時。

「今だ」

 後方から、紫苑のよく知った声。同時に、紫苑の眼前を黄色い花弁が覆う。
「な、……」
 一辺三メートルにも及ぶそれは、今まさに切り結ばんとしていた男を包み込むには十分な大きさで――瞬後には、幻影の消失とともに生まれた斬撃に呑まれ、血の華を咲かせた。
「な、に、を……」
 一撃で致命傷を受けた疾影士は、自らの身に起こったこと理解できないでいた。
「悪いが、格上相手は結構慣れているんだ。利用できるものは何でも使う」
 言いながら、自害されぬようにロープを轡とする。
「はは、上手くやったじゃないか!」
「……」
 気楽げな百舌鳥の言葉に、紫苑は渋い顔をした。
 のうのうと笑顔で手を振っている姿を見てのアドリブだったが、どうにも釈然としない。先程の紅薔薇の次元斬も、百舌鳥の誘導のおかげだとは解ってはいるのだが……。
「にしても、騎士が相手じゃないのなら口撃も意味なさそうだねえ」
「それは……そうだな」
 泰然と言ってのける百舌鳥に、諦めた顔で応じる紫苑だった。ついでに、戦況を尋ねる愚は侵さなかった。"わかりきったこと"を聞こうものなら、万の言葉が返ってきそうだったからだ。



「ン"ン"ン"ン"……ッ!」
「ぐあ……っ!」
 ジャックがマッスルポーズを取るや否や、黄金の薔薇吹雪とともにビニパン姿のマッチョの幻影を顕す。同時、相対していた敵が残さず吹き飛んでいった。
 ――スキルが使えなくなった敵を追い詰めていくのは容易だった。
 そも、懐に入れるようになった時点で、ともいえようか。バリケードを崩され、睡眠で手早く数を減らされ、バリケードを想定外の手段で崩されたのが響いた。
 配管に叩きつけられた男たちを追うようにフォークス、まよい、エルバッハが銃撃と魔術、符術で追撃。ビニパンマッチョが趨勢を決めたことには同情も憐憫もないまま、戦闘力を奪っていく。筋肉に魅せられた男達は、最後まで知性を喪った顔で呆然としていた。
「……うーん、この人たち、結局なんだったの……?」
 汚物に対する手付きで男たちを拘束するまよいの問いを認識する余裕もなかったのは、彼らにとっては幸いだったのかもしれない。
 ――それは。
「これから、解りますよ」
 氷のような声色で告げるエルバッハの言葉に対しても、同様であったのだろう。



「ふぅ」
 アカシラは、眼前の男を見る。上品なお顔立ちだが、昏い目をしている男を。
「あっちは方が付いたみたいだね。アンタはどうする?」
「……そうだな」
 男は言いざま、手を掲げる。手に握られた筒状のものを見て、アカシラは目を細めた。
「正気かい、アンタ?」
「――正気さ。お前らと違ってな。お前らも武器を置け! この施設がどうなるか――」
 男が張った声に。
「どーにもなりませんよねえ!」
 声が、重なった。
「制御施設、でしたっけ。あそこにはなーんにも、怪しいものはなかったですよ? ええ、この"目"で確かめましたとも!」
 遠方、百舌鳥が上げた手には一匹の鼠。
「………、……ッ」
 それを見て、男の目に赫怒が灯る。しかし、身動きはとれない。三方をジャック、アカシラ、ヴァルナに抑えられ、ジェットブーツで戦場を飛び回っていた紫苑が備えている。更には、頭上の"何者か"。絶望と、激情に挟まれた男は、
「……………………ッ!!!」
「どーせ、時間を稼ごうって腹だよネ? 雇い主からの連絡とかを待ってるなら、無駄じゃない?」
 ひたと銃を向けたフォークスの言葉が、文字通り引き金となったか。あるいは、迫り来る三人が決め手となったか。男の右手が、迅雷となって奔る。頸部へと差し込まれようとしていた腕が――。
「……させねえよ。俺の前では、死なせねえ」
 くるりと、返った。同じ勢いで突き出された剣が、ジャックの肩に突き立てられる。
 ――ガウスジェイル。マテリアルの結界が、自死の意図を握りつぶしたのだ。
「俺は未だ非力だ。……けどよ、いつかはお前ら全員纏めて最高に笑える国に俺がしてやる」
「やめろ……やめろォォォ……!」
 自死すらも、赦されぬ。一切の自由を奪われた男の悲憤の絶叫の中、即応したハンターとアカシラは一斉に男を押し倒し、拘束する。
「お、お、お、オオオォォォォォオオオオオ……ッ!」

 ――叫喚は、いつまでも止むことはなかった。



 種々の作業や安全確認が行われていた。
 騎士たちは別働隊が救出することができたようだった。一部瓦礫に埋もれていたため時間は掛かり治療を要したものも居たが、命に別状があるものはなかった。
「よかったぁ……」
「そうですね……」
 まよいとエルバッハがそれぞれに安堵の息を零す中、ヴァルナは厳しい視線を救助された騎士たちに送っている。
「……この扉は、内通者無しには開放できませんよね。怪しい人物に心当たりはありませんか? 非番の者が出歩いていたとか……」
「やめときなよ、ヴァルナ」
 その中のひとりに詰め寄ったヴァルナを、アカシラが止めた。
「けれど……不意を突かれるかもしれませんし」
「………………」
「多分、だけど」
 言葉を呑んだまま何も言わぬアカシラの代わりに、周囲を警戒したままのマリィアが応じた。
「裏切り者なら、もう死んでると思うわ。内通者を生かしておく理由がないもの。拘束した連中はアカシラ隊で運ばせ、騎士には見張りを立てておきましょう。……そのうち、遺体が見つかると思う。裏切り者だけではないでしょうけど」
「それは……」
 ヴァルナはしばし、逡巡していたが……最終的には、受け容れざるを得なかった。戦闘中ならいざしらず、今この時であれば、現場レベルで十分対応できるというのには頷けた。追求や調査は、追々行われればそれでよい。確かに、そうだ。
「――解りました」
「うちのからも、騎士たちに見張りは立てておくさ。アリガトよ、ヴァルナ」
「いえ……」
 けれど、それ以上追求できなかったのはそれだけではなかった。
 ――アカシラの痛ましげな表情が、それ以上の言葉を押し留めた。裏切りの末路は、どこか、アカシラの来歴と重なるところがある。
 去っていくアカシラの背に、なんと言葉を掛ければいいのか。心優しい少女は、ただただ見送るしか、なかった。



 ――こうして、ネヴァ双丘施設攻防戦は幕を下ろす。
 死者は騎士六名、従者八名。詳細は、後に明らかになることだろう。
 それに見合うだけの血は、流れたはず。
 それに見合うだけの危険に、王国の民は曝されたはず。




 ああ。しかし、だからこそ。
 ――この事態が、ただ今この時をもって収束するはずもない。真実が、必要なときに用意されるはずもない。

 なぜなら、そう。
 もう、賽は投げられたのだから。

依頼結果

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MVP一覧

  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴka1305
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 不破の剣聖
    紅薔薇ka4766

重体一覧

参加者一覧

  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 大局を見据える者
    仙堂 紫苑(ka5953
    人間(紅)|23才|男性|機導師
  • 怪異の芯を掴みし者
    霧島 百舌鳥(ka6287
    鬼|23才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
仙堂 紫苑(ka5953
人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/05/20 10:30:35
アイコン 相談卓
仙堂 紫苑(ka5953
人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/05/21 18:48:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/19 09:37:06