甜言蜜語の行く先は

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/02 22:00
完成日
2018/06/07 01:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●花の町にひびく悲鳴
 ある町には、園芸を得意とするエルフが移り住んでいた。名前はサンドラ。彼女は、この町で大昔に一度会ったきりの少女との思い出を大切にしてここに引っ越してきており、今は老人施設に入ってしまった彼女の家を借りて済んでいる。

 思い出を大切にするがあまり、移り住む前にこっそりと様子を見に来ていたのが不審者扱いされてハンターオフィスに通報までされていたのだが、それはまた別の話である。

 かつての庭は、家主が施設に移る前に全て処分してしまったが、サンドラがまた一から作り直していた。
 この日も、サンドラは鋏を片手に一生懸命作業にいそしんでいる。施設にいる彼女に面会するときに、うんと綺麗な花を持って行ってやろう。そう思って手入れには余念がない。

 ふと、囁き声が聞こえて、サンドラは振り返った。十四、五歳の少女が二人、こちらを見て何かを囁き合っている。その視線に悪意やさげすみはないが、どうも視線に熱がこもっている気がしてならない。サンドラは困惑した。とりあえず挨拶しよう。にっこり笑って手を振ると、少女たちは顔を見合わせた。
「きゃーっ!」
 そうして二人とも、顔を覆って明後日の方向に走り去ってしまったのである。
「な、なんだお前たち!? 私に手を振られるのがそんなに嫌だったのか!? それとも鋏を持ったままだったのが嫌だったのか!?」
 サンドラは唖然として少女たちの背中を見送る。二人の背中が見えなくなると、彼女は再びしゃがみ込んで作業を再開した。

 その背中はしょんぼりとしていた。

●ハンターオフィスにて
「と、言うことが度々あったんだ……わかる限りでは六人。女が四人、男が二人だ」
「何か心当たりはあるのかな?」
 ハンターオフィスにサンドラは相談に来ていた。中年の職員に尋ねられて、彼女は首を横に振る。
「何も……たまに、うちに遊びに来てよくおしゃべりをしていってくれた子たちなんだ……優しい子たちで、元々不審者だった私にもなんの屈託もなく接してくれていた。花冠を乗せてあげたら本当に喜んでくれたのに……」
「うん、今なんて?」
「元々不審者だった私にも」
「いやその後」
「花冠を乗せてあげたら」
「その時のこと聞かせてくれるかな?」
「うん? 構わないけど……」

●真っ赤なアイリス
 その少女は……仮に名前をアイリスとしよう。アイリスは学校で嫌なことがあったと言ってサンドラの所に来た。お花を見て癒やされたい。サンドラさんのお庭は本当に綺麗だから、と言う彼女を、サンドラは喜んで通した。
 サンドラは、落ち込むアイリスのために、その時丁度見頃だったシロツメクサの花を摘んで来た。目の前で解説しながら花冠を作り、完成品をアイリスの頭に乗せる。そして言った。
「可愛いぞ、アイリス。ちょっと、神さまがお前の美しさに嫉妬して意地悪しただけだよ。こんなに可愛いお前を泣かせるなんて、神さまも冷たい奴だ」
 指先で涙を拭ってやると、アイリスは耳まで真っ赤になって礼を述べた。

「嫌なことがあると具合が悪くなるって言うじゃないか……熱が出たんだろう。可哀想に。だから私は彼女をすぐに家に帰した」
「そういうところじゃないのか……そういうことを、他の子には……?」
「ボタンホールに小さな薔薇を差してやったらとても似合っていたのでそのことを伝えた。押し花が欲しいと言うので、庭で一番そいつに似合う花で作ってどう似合うのか一生懸命説明した。ああ、たまたま綺麗に咲いていた花があったから髪に挿してやったこともある。皆、花が好きな良い子たちだからそれくらいするだろう?」
 ハンターオフィス内の視線の三割くらいがサンドラに集まっていた。ひそひそ、と囁き声がする。その内容は、天然タラシ、生まれる性別を間違えた、いやむしろ女に生まれて良かった、男だったら重婚している、私もちょっと今危なかった、などなど。
「私を褒めてくれるとしたら何て言うかね?」
 職員が自らの顔を指すと、サンドラはじっとその顔を見て、やがてふっと微笑んだ。
「そうだな、お前は収穫前の麦のような落ち着きがある。実り豊かで落ち着いた姿がそっくりだ」
「そういうところだぞ」
「何がだ? そういえば、司祭には悔い改めなさいって言われた……やっぱり私が悪いのか?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ。うーん、これはハンターの出番と言うよりも、君がちゃんとその子たちと話し合ってだね」
「嫌だ! 本当に嫌われていたらどうするんだ! それでなくても私はあの町では不審者出身だと言うのに」
「なんだいそのパワーワードは。まあ、お望みならハンターを募集するけど……」
「ありがとう! やっぱりお前は豊かな麦畑のような奴だ! 陽に当たって優しく黄金色に光るようだよ!」
「うーん、これはなんというか」
 サンドラにカウンター越しに抱きしめられて、職員は半笑いになった。

●そういうところだぞサンドラ
「と言うわけで、彼女に、そういうところだぞサンドラ、って言ってやるだけの依頼になりそうなんだけど、乗ってくれる人いるかね?」
 サンドラが「お茶とお菓子を用意して待っている! 本当にありがとう!」と言って帰宅すると、中年の職員は半笑いのまま募集を掛けた。
「人命的に火急の案件ではないが、サンドラがあのままでは可哀想なので誤解だけでも解いてくれるとありがたい。そういうことがある度に、オフィスに来て口説かれちゃたまったもんじゃないよ」
 職員はやれやれと首を横に振る。舌の根が乾かぬうちに本音が出ていることに気付いていない。
「まあ、思春期の女の子と男の子だから、ハンターさんたちがちょっとかっこいいところ見せても黄色い悲鳴を上げそうな気はするけどね……まあ、そう言うゆるい感じで良いからとにかく誰か行ってくれ。私には妻子がいるんだ」

リプレイ本文

●会うは仕事のはじめなり
 半笑いの職員がかけた募集に集まったのは、四人のハンターたちだった。
「わかります。とってもわかります。そんな事言われたら、キュンってしちゃいますよね」
 エステル・クレティエ(ka3783)がうんうんと頷きながら職員を見上げた。
「私も言われてみた……っ……是非効果を実体験してみたくっっ」
「ミイラ取りがミイラにならないでくれよ」
「でもぉ、実際に聞いてからじゃないとサンドラさんも納得しないと思いますしぃ、私はまず堪能してこようと思いますぅ」
 エステルの後ろに続いた星野 ハナ(ka5852)がもっともらしく言うと、同じように興味を惹かれたらしいユメリア(ka7010)がくすりと小さく笑みを溢した。
「そう言うところが素敵なところでもあるのでしょうね。ええ、私もお手伝いさせていただきます」
「わふ、まちがわれてるのはよくないですー。でも僕のお友達にもそう言う人いるです」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)には、周辺の人間関係にも覚えがあるらしい。彼ならミイラ取りにならなくて済みそうだ。職員はほっとしながらも、彼の言葉にしみじみと頷く。
「どこにでもいるもんだね……さて、他にはいないかな? まあそんなにぞろぞろ行っても仕方ない。よろしく頼むよ」
 さて、依頼を受けた四人は、行動について打ち合わせを行なった。少年少女を誘ってくるのはエステルとアルマ、サンドラと直に話をしてみるのはハナとユメリアと言うチーム分けだ。ユメリアが希望したアロマセットの購入を済ませると、一同は町に向かった。

●すきはいいこと
「こんにちは」
 教えられた家に行くと、作りかけの、手入れのされた庭で、一人のエルフがせっせと茶会の準備をしている。彼女は、エステルの声に反応すると、ぱっと顔を上げて四人を出迎えた。
「お前たちが依頼を受けてくれたハンターか!」
 四人をまとめて抱きしめんばかりの勢いで、サンドラは喜んだ。自己紹介を済ませると、エステルが花を分けて欲しいと申し出る。
「サンドラさんが仰っていた子どもたちに、花を添えて招待状をお渡しします」
「来てくれるだろうか……」
 自信なさげに俯くサンドラに、エステルが満面の笑みで頷いて見せる。
「大丈夫ですよ! だってお花が好きな子たちなんでしょう? サンドラさんが張り切って準備してたって聞いたら来てくれますって。あとは私とアルマさんに任せてください」
「皆さんをつれてくるですー! 」
 犬のしっぽのごとく耳を動かす同族を、サンドラはまじまじと見つめた。
「ありがとう……ところで、お前の耳、器用だな……」
「わふ!」
「よしよし」
「そうだ、サンドラさん、ドレスとスーツ、着るならどっちか考えておいてくださいね」
「……え?」

 ハナとユメリアを残して、エステルとアルマは子どもたちを探した。イーリス、ベル、フラゴラ、サルビア、オレアンドロ、バジリコ、と言うのが彼らの名前らしい。大体の特徴も聞いてある。一人ずつ声をかけるつもりでいた二人だったが、その手間は大きく省かれた。六人がサンドラの家から少し離れたところで、庭の方をうかがっているのである。間違いない。あれが件の六人だろう
「わふ! 初めましてですー。僕、アルマって言いますっ」
 アルマが声を掛けると、六人はぎょっとして身構えた。アルマは背も高く、好青年然とした身なりをしている。そんな彼が、無邪気な調子で声を掛けてきたのだから、ギャップに驚くのも当然と言える。
「こ、こんにちは……」
「こんにちは。私はエステルです。どうかしたんですか?」
「えっ、あっ、いえ、その、なんでもないです……」
「もしかして、サンドラさんにご用だったですか?」
 屈託なく尋ねると、目に見えて少年少女はうろたえた。図星だ。
「そうだと思いました。はい、こちらサンドラさんからの招待状です」
 エステルが、花を添えた招待状を差し出すと、子どもたちはざわめいた。
「しょ、招待、ですか?」
「皆さんはサンドラさんがすき、ですよね?」
 アルマが直球で問いかけると、彼女らは顔を真っ赤にして俯いた。それを返事と受け取って、先を続ける。
「すき、はいいことですー!」
「は、はい……」
「でも、きゃーってにげたらだめです。きらい、とまちがわれてるです。だめですー」
「えっ」
 一人の少女が顔を上げた。
「ち、違います……! 私たちそんなつもりは……!」
「わかってますー。気付いてないのはサンドラさんだけですー」
 彼女にひょいとくっついて、アルマは言った。
「ですから、お茶会来て欲しいですー! いやです?」
 そう言って小首を傾げてみせる。言われた少女は口を覆った。にやけているようだ。
「か、かわいい……あ、はい……そういうことなら行きます……」
「で、でもイーリス、サンドラさんには何て言うんだよ」
「そうだよ。サンドラさんの夢女子ですなんて言えるわけないじゃん……」
「な、何よバジリコもベルも……サンドラさんに誤解させる方が嫌じゃん」
「それに関しては大丈夫です」
 エステルには策があった。彼女は今回、ドレスとスーツを持参してきているのである。それでサンドラを着飾り、アイドルさながらにお披露目すればさぞや黄色い悲鳴があがることだろう。そこで、悲鳴の正体はこれであるとサンドラに知らしめる、と言うのが彼女の作戦だ。
「皆さんの素直な真っ直ぐな反応が、サンドラさんの心を救うんです」
 エステルは一人ずつ、招待状を手渡して行く。オレアンドロであろう少年の手に自分の手を重ねると、少年は眩しさからか俯いた。
「どうか恥ずかしがらないで……」
 後にフラゴラであることがわかる少女にも同じように。彼女は口元を空いた片手で押さえた。喉から悲鳴が出かかっている。
「皆さん達をもっと虜にしますから」
 ベルの手を握った。そう告げる彼女の表情は、慈愛に満ちている。もともと整った顔立ちの彼女の煌めくその微笑みは、眩しい。サンドラであれば、
「お前の瞳は晴れた空と、鮮やかな緑を映した湖水のようだ。透き通り、それでいて生きる喜びを見る者にも与える」
 などと言ってべらぼうに褒めちぎることであろう。と言うか褒めちぎろうとしたが時間がなかったのである。
 ベルを皮切りに、その場で黄色い悲鳴が上がったのは言うまでもない。
「じゃあ、私は先に戻ってサンドラさんのお支度をしてきますね! 皆さん、アルマさんと仲良く来て下さいね」
「わふ! 皆さんと仲良く行くです!」
 自分に興味を持ったイーリスにひっつきながら、アルマはエステルを見送った。

●甜言蜜語の行く先は
 エステルとアルマが出て行ってから、ユメリアはサンドラから許可を取ってアロマポットをセットした。ベルガモットのオイルを、パッケージに書かれている適正量よりも少し多めに垂らし、キャンドルに火を灯す。
「初めましてぇ、星野ハナと申しますぅ。先に現状を確認したくてお話を伺いに来ましたぁ」
「ユメリアと申します。オフィスからも簡単に聞いていますが、サンドラ様からも改めてお伺いしたく存じます」
「忙しいのに悪かったな……だが私も困ってるんだ……」
 そして、サンドラは語った。子どもたちが悲鳴を上げて逃げていってしまうことと、その子どもたちとのエピソードを。ここでは割愛するが、ハナが唸り、ユメリアが穏やかに微笑むような美辞麗句甜言蜜語巧言令色。
 そこでどう脱線したか、サンドラは目の前のハンター二人も褒めちぎり始めた。ユメリアには、
「夏の木陰に吹く風の様な涼やかさ。お前の竪琴はきっと夏には汗を引かせて冬には心を温めるものだろう。調和と言うものをよく守ってるんだなって思うよ」
 ハナに対しては、
「琥珀糖みたいな子だな。賢くて凜々しいけどどこか甘く愛らしい。あれは表面を結晶化させるためにしばらく置かないといけないから、きっとお前の賢さも今までの中で培われてきたものなんだろう」
 等々。
「堪能しましたぁ。厨二殺しの二つ名を贈呈しますぅ」
 ハナはむふふと満足そうに笑う。ユメリアも照れたようだった。彼女は竪琴を取り出すと、その細い指先でつま弾く。
 「言葉は潺のように澱むことなく心地好く、その手が生み出す花々は百花繚乱にて心躍らせる」
 吟遊詩人であると言うユメリアの竪琴と言葉は、初夏の少し暑くなり始めた庭に、さわやかに響いた。弦の震えが余韻の様に揺蕩う。サンドラはほっと息を吐いた。
「やはりお前の言葉も歌も涼しい。寒いのではなく、心地良さを招いてくれる」
「ありがとうございます」
「というか、その……照れる」
 サンドラはそう言ってやや俯いた。
「私もやはりエルフであるから、吟遊詩人まで行かなくても、思ったことを言葉で表現するのは好きだし、それを誉められるのは嬉しい」
「それなら幸いです」
「ところで、これ一旦止めても良いか?」
 サンドラはそう言って、ユメリアが用意したアロマポットを指した。ベルガモットの香りが大分強い。
「良い香りと言えど、強い匂いでは遠くにおいておきたくなるでしょう」
「うん」
「言葉も同じです。良いものでも刺激が強すぎることがあります」
 サンドラはきょとんとしてユメリアを見てから、ハナを見た。彼女は、たとえばの話ですけどぉ、と前置きをしてから、
「お前の耳は尖ってるな、って言葉は大抵の人には唯の形而の指摘ですから、それが何か?
って反応になりますけどぉ、いつも耳を引っ張られて苛められてた人にとってはこの人も耳を引っ張って苛める人かって警戒されますぅ。同じ言葉でも相手によって全然反応が変わるわけですぅ……ここまでは分かりますぅ?」
「う、うん」
「お前の唇は真珠のように輝いて麗しい、って言葉も、男性に襲われたばかりの人にとってはそれを思い出させる恐怖の言葉ですしデート前の女の子にはお化粧成功褒められてうれしいですし全然手入れしてなかった人には目でも腐ってんの嫌味なの、になりますぅ」
「……もしかして、あいつら私が誉めたのが嫌だったと言うことか……?」
「いえ、そういうことではありません」
 ユメリアは、キャンドルの火を消し止めた。広まった香りは、やがて薄まり、心地良いものになるだろう
「貴女は相手の良い所を口にしますのでぇ、人生経験のまだ少ない子供達は褒められたと喜んじゃったんですぅ。次は何て言って貰えるかなもっと綺麗にして来たらもっと褒めて貰えるかなって期待が高まり過ぎて出直したくなっちゃったんですぅ」
「あ! そ、そういうことか!? 私が元・不審者だから逃げてたとかじゃなくて!?」
「そういう事ですぅ。ていうかそういうところですぅ」
 サンドラは真っ赤になって撃沈した。テーブルに突っ伏している。
「そ、そうだったのか……」
「そうだったんですぅ」
「サンドラ様の輝くばかりのお言葉、お人柄は眩しく、とても好ましいです。それを最大限に活かすには、他に知れぬよう囁く、または目線や仕草で示されてはいかがでしょう」
「それと、貴女からどんどん会いに行ってどんどん子供達を褒めて幸せな気分にしてあげて下さいぃ……子供達にとって貴女は幸せをくれる女神さまなんですよぅ」
「め、女神……うう、そんな柄じゃない……」
「戻りましたー!」
 サンドラがごろごろと上半身だけで転げ回っていると、エステルが帰ってきた。
「もうすぐアルマさんが子どもたちを連れてきます」
「ありがとうございますエステルさん。こちらもお話できました。サンドラ様も、皆さんの気持ちについては了解頂きました」
「じゃあ、もっと虜にしちゃいましょう。スーツとドレス、どっちにするか決まりましたか?」
「えっ、まさかなんだ、私をリアルブルーのアイドルみたいにしてライブ会場は大入り満員飛び交う怒号、煌めくペンライトみたいなことに……!?」
「怒号は飛び交わないと思いますぅ」
「でも、大体そんな感じです」
「……わかった。私もエルフだ。観念しよう。ドレスにする」
「じゃあお着替えしましょう。ユメリアさん、ハナさん、アルマさんたちが戻ってきたらお願いします」

●拈華微笑はもう少し
「アルマさん、この上着すごい似合ってるね!」
「ありがとうございますー。これは、頑張ったご褒美ですー!」
 それがハンターとしての激しい戦いのご褒美であるとは露ほども知らない子どもたちは、涼しげに煌めく銀の刺繍がされた上着を物珍しげに眺める。高そうだしあまりひっついて汚れたら申し訳ない、と遠慮する子どもたちだが、当のアルマがひっついてくるのだから遠慮は要らないようだ。彼の距離の近さも相まって、段々少年少女も頭を撫でたり抱きついたりし始める。
「アルマさんかわいいよぉ……」
「サルビアさんありがとうございますー」
 この短時間で、彼は全員の名前を把握していた。ちゃんと名前を覚えてもらった彼らは、それでますます親しみを覚えた様だ。
 大型犬を撫で回して可愛がる子どもたちのごとく、少年少女はアルマにひっつきながらサンドラの家に到着する。家主と仲間の不在に、アルマは首を傾げた。
「あれ? サンドラさんとエステルさんはどこか行っちゃった、ですか?」
 その様子を見て、少年少女の表情がでろん、ととろけた。完全に虜にされた顔である。
「お着替えに行っています」
「お色直しですぅ。楽しみにしててくださぁい」
 ユメリアとハナが口々に言う。
「あっ、アルマさんお帰りなさい」
 そこへ、エステルがサンドラの手を引いて戻ってきた。まずエステルを見て笑顔を見せた少年少女たちは、その後ろのサンドラを見ると、黄色い悲鳴を上げてアルマの後ろに引っ込んだ。
「ユメリアとハナが言ったことはよーくわかったぞ……」
 ごにょごにょと言うサンドラは、エステルから借りたドレス・ナイトスカイを纏ってたいそう雰囲気を変えていた。普段は白系統のワンピースが多い。黒っぽいドレスはそれだけで別人の様に見える。
「わぅーっ。サンドラさん、アイドルさんみたいです?」
「アイドル……今日は私のライブに来てくれてありがとう、と言うやつか。最前列の仔犬のお兄さん……仔犬のお兄さん?」
 ワンフレーズで盛大な矛盾である。サンドラは、子どもたちがくっついているアルマの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「私よりお前の方がよっぽどアイドルだ。向こうから歩み寄らせるなんてよっぽどだぞ。桃李は自然と人を寄せると言うが、お前の魅力はそれに近いんだろう」
「そういうとこですー」
 エステルとハナに誘導されて、アルマと子どもたちも各々席に就く。エステルが、ポットを持って紅茶を注いだ。サンドラに、それを配るように耳打ちする。サンドラは言われた通りにした。その姿を見て、少年少女が口々に、しどろもどろに誉める。サンドラは赤くなった。
 その様子を眺めながら、ユメリアが竪琴を鳴らす。
 初夏の風に乗って、それは庭に涼やかな気配をもたらした。

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重体一覧

参加者一覧

  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/02 07:09:28
アイコン 拈華微笑の境地へと(相談卓)
ユメリア(ka7010
エルフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/02 07:13:07