ゲスト
(ka0000)
噂を信じなかった薬師
マスター:ザント

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2018/05/22 07:30
- 完成日
- 2018/05/28 03:32
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「お大事に!」
少女が常連らしき客を笑顔で見送ると、雑談をしている男性二人に目を向ける。
「それでこの村近くの森にでっけぇ猫が居るって噂があってよ」
「そんな噂が……もし本当なら薬草採りの時は護衛を雇わないと危ないですね」
だが、少女の視線に気づかずに二人はそのまま雑談を続ける。
「はははっただの噂だよ。この村の近くででかい猫なんて聞いたことねぇだろ?」
「確かに、聞いたこと無いですね」
「結局、噂は噂ってことさ」
「師匠!」
二人の雑談の間を狙い、少女が怒鳴り声に近い声を上げた。
「おっと長話しちまったな。それじゃ」
「はい。また来てくださいね」
その声で雑談を切り上げた男性が帰り、師匠と言われた男性は少女を見る。
「ごめんね、シャール。つい話に夢中になってね」
「いつもの事ですよね」
「うっ」
シャールと呼ばれた少女のジト目に言葉に詰まる男性。
男性はオックスといい、ジェオルジにある村の救護所で働いている薬師で、シャールはオックスに弟子入りした薬師見習いだ。
「ま、まぁ交流も薬師としてのだね」
「そうですか」
「ざ、在庫! 材料の在庫を確認してきてくれるかな」
シャールの平坦な声にオックスは顔を引きつらせ、逃げる為に話題を変えた。
「それなら確認しましたよ。幾つか少なくなっていたので、近い内に採りに行かないといけません」
「そ、そう。じゃあ、明日にでも行こうか」
優秀な弟子だと思いながら、オックスは弟子のご機嫌取りを始めた。
翌日、在庫が少なくなった薬草を採取をする為に、二人はジェオルジ近くの森に来ていた。
「ふんふんふふーん」
林道から少し外れた森の中で、シャールは鼻歌交じりに薬草を摘んで籠へと入れていた。
そして必要な分を採り終えたシャールは立ち上がると軽く伸びをする。
「ん~っふぅ……」
「お疲れ」
「ひゃっ」
シャールが驚きの声を上げて振り返ると、そこには予想通りにオックスがおり、シャールは口を尖らせて文句を言う。
「師匠、居たのなら言ってくださいよ」
「集中してたのか、声はかけたんだけど返事がなくてね」
「だからといって、後ろに無言で立っているのはダメですよ」
「それはすまないね……それで、どのくらい集まったんだい?」
「これくらいです」
「うん。私が集めた分も合わせればもう十分かな」
「これ位あれば少しは持ちますね」
お互いの籠を見て二人共頷いた。
「それじゃあ、時間があるし歩いて帰ろうか」
「はいっ」
籠を持ち、オックスとシャールは街へと足を向けた。
「ん?」
「どうかしたかい、シャール」
その道中、シャールがそれを見つけた。
「師匠。あの爪跡って何の爪跡ですかね?」
シャールが指差した木には、動物のものだろうか、大きな爪痕が大人の男性二人分ほどの高さの場所にあった。
「う~ん、見たことない爪跡だね……」
オックスは困ったように唸るが、薬を作るのが薬師であるので、薬師は生物については一般人と同じ知識量しかない。
オックスもその例には漏れず。いくら考えても分からないものは分からない。
「もしかしたら大きな猫かもしれませんね」
冗談っぽく笑うシャールだが、それを聞いたオックスは昨日の噂を思い出す。
その直後、少し遠くの茂みが揺れる音を耳にしてオックスの背筋に冷たいものが走った。
「……シャール」
「なんですか、師匠?」
「薬草を置いて走るよ」
「え?」
「早く!」
「は、はい!」
オックスの言葉でシャールが走り出し、オックス自身もその後ろを走る。
「いきなりどうしたんですか、師匠!」
「私たちは狙われている!」
「えっ」
走りながらシャールが周りを見ると、ガサガサガサッと茂みの揺れが二人を追う様に近づいて来ているのを見つけた。
「だ、誰が!」
「雑魔だ!」
オックスの怒鳴り声に近い返答を聞き、シャールは目を見開く。
薬師は薬を作るだけで戦闘能力は皆無に等しく、薬草の採取などで使うナイフを持ってはいるが、ほとんど役に立たたないだろう。
「ど、どう」
「足を動かせ!」
喋ろうとするシャールを怒鳴りつけ、オックスはそのまま走り続ける。
既に二人の耳には、先程まで聞こえていなかった獣の息遣いが聞こえてくる。
(こ、このままじゃ私だけじゃなくて師匠もっ)
思考による隙は一瞬だったが、相手にはその一瞬の隙で十分。
シャールへと向かって、何かが飛びかかった。
「シャール!」
オックスの叫び声が聞こえたと思ったら、気付けばシャールは地面を転がっていた。
オックスが後ろから突き飛ばしたのだと理解し、シャールは起き上がってオックスの方を見て固まった。
「グルルル」
見たこともない程の大きい緑色をした猫が、そこに居た。
そんな大きな猫と対峙しながらオックスは叫ぶ。
「早く逃げるんだ!」
「でも、師匠が!」
「私は自分で何とかする!」
「でもっ」
「早く行け!」
「っ……ぅ、ぅううう!」
オックスの怒鳴り声にシャールは体を震わせると、泣きながら、脇目も降らずに街へと走り出した。
「お前の相手は私だ!」
「グルァ!」
後ろから聞こえてきた声にも振り返らずに。
「緊急の依頼です。ジェオルジにある村近くの森で雑魔が発見されました。目撃情報からフォレストパンサーだと思われます」
ハンターオフィスの女性職員は元ハンターとして冷静に、だが焦りからか早口で敵と敵の情報を伝えてきた。
「フォレストパンサーは森に生息している肉食の雑魔です。特徴としては鋭く尖った爪と牙。群れを成さず、森で紛れるのに適した緑色の毛並みを持ち、移動速度が凄まじく速く走ることが出来ます。これらの特徴を活かし、茂みなどに隠れて獲物を待ち伏せ、そして凄まじい速さで駆けて獲物に襲いかかり獲物を仕留めます。本来はジェオルジ周辺にはおらず、獲物も小動物などを襲うはずですが……いえ、原因を考える時間はありませんね」
思考の海に出かけた職員は頭を振ると、依頼内容を説明し始めた。
「依頼主は薬師見習いのシャールさん。依頼主の話では森の林道を通っている途中で襲われたということですので、林道付近に潜伏しているい可能性が高いと思われます。依頼主はオックスさんの救出を最優先にして貰いたいとの事で、それには我々も同意見です。なので、今回はオックスさんの救出を最優先。フォレストパンサーの討伐はオックスさんの無事を確認してからでお願いします」
説明を終えた職員は村の大人に寄り添われて泣き疲れて眠っているシャールを見て。
「オックスさんが亡くなっていた場合は……ご遺体だけでも連れて帰って来てあげてください」
と、静かに呟いた。
少女が常連らしき客を笑顔で見送ると、雑談をしている男性二人に目を向ける。
「それでこの村近くの森にでっけぇ猫が居るって噂があってよ」
「そんな噂が……もし本当なら薬草採りの時は護衛を雇わないと危ないですね」
だが、少女の視線に気づかずに二人はそのまま雑談を続ける。
「はははっただの噂だよ。この村の近くででかい猫なんて聞いたことねぇだろ?」
「確かに、聞いたこと無いですね」
「結局、噂は噂ってことさ」
「師匠!」
二人の雑談の間を狙い、少女が怒鳴り声に近い声を上げた。
「おっと長話しちまったな。それじゃ」
「はい。また来てくださいね」
その声で雑談を切り上げた男性が帰り、師匠と言われた男性は少女を見る。
「ごめんね、シャール。つい話に夢中になってね」
「いつもの事ですよね」
「うっ」
シャールと呼ばれた少女のジト目に言葉に詰まる男性。
男性はオックスといい、ジェオルジにある村の救護所で働いている薬師で、シャールはオックスに弟子入りした薬師見習いだ。
「ま、まぁ交流も薬師としてのだね」
「そうですか」
「ざ、在庫! 材料の在庫を確認してきてくれるかな」
シャールの平坦な声にオックスは顔を引きつらせ、逃げる為に話題を変えた。
「それなら確認しましたよ。幾つか少なくなっていたので、近い内に採りに行かないといけません」
「そ、そう。じゃあ、明日にでも行こうか」
優秀な弟子だと思いながら、オックスは弟子のご機嫌取りを始めた。
翌日、在庫が少なくなった薬草を採取をする為に、二人はジェオルジ近くの森に来ていた。
「ふんふんふふーん」
林道から少し外れた森の中で、シャールは鼻歌交じりに薬草を摘んで籠へと入れていた。
そして必要な分を採り終えたシャールは立ち上がると軽く伸びをする。
「ん~っふぅ……」
「お疲れ」
「ひゃっ」
シャールが驚きの声を上げて振り返ると、そこには予想通りにオックスがおり、シャールは口を尖らせて文句を言う。
「師匠、居たのなら言ってくださいよ」
「集中してたのか、声はかけたんだけど返事がなくてね」
「だからといって、後ろに無言で立っているのはダメですよ」
「それはすまないね……それで、どのくらい集まったんだい?」
「これくらいです」
「うん。私が集めた分も合わせればもう十分かな」
「これ位あれば少しは持ちますね」
お互いの籠を見て二人共頷いた。
「それじゃあ、時間があるし歩いて帰ろうか」
「はいっ」
籠を持ち、オックスとシャールは街へと足を向けた。
「ん?」
「どうかしたかい、シャール」
その道中、シャールがそれを見つけた。
「師匠。あの爪跡って何の爪跡ですかね?」
シャールが指差した木には、動物のものだろうか、大きな爪痕が大人の男性二人分ほどの高さの場所にあった。
「う~ん、見たことない爪跡だね……」
オックスは困ったように唸るが、薬を作るのが薬師であるので、薬師は生物については一般人と同じ知識量しかない。
オックスもその例には漏れず。いくら考えても分からないものは分からない。
「もしかしたら大きな猫かもしれませんね」
冗談っぽく笑うシャールだが、それを聞いたオックスは昨日の噂を思い出す。
その直後、少し遠くの茂みが揺れる音を耳にしてオックスの背筋に冷たいものが走った。
「……シャール」
「なんですか、師匠?」
「薬草を置いて走るよ」
「え?」
「早く!」
「は、はい!」
オックスの言葉でシャールが走り出し、オックス自身もその後ろを走る。
「いきなりどうしたんですか、師匠!」
「私たちは狙われている!」
「えっ」
走りながらシャールが周りを見ると、ガサガサガサッと茂みの揺れが二人を追う様に近づいて来ているのを見つけた。
「だ、誰が!」
「雑魔だ!」
オックスの怒鳴り声に近い返答を聞き、シャールは目を見開く。
薬師は薬を作るだけで戦闘能力は皆無に等しく、薬草の採取などで使うナイフを持ってはいるが、ほとんど役に立たたないだろう。
「ど、どう」
「足を動かせ!」
喋ろうとするシャールを怒鳴りつけ、オックスはそのまま走り続ける。
既に二人の耳には、先程まで聞こえていなかった獣の息遣いが聞こえてくる。
(こ、このままじゃ私だけじゃなくて師匠もっ)
思考による隙は一瞬だったが、相手にはその一瞬の隙で十分。
シャールへと向かって、何かが飛びかかった。
「シャール!」
オックスの叫び声が聞こえたと思ったら、気付けばシャールは地面を転がっていた。
オックスが後ろから突き飛ばしたのだと理解し、シャールは起き上がってオックスの方を見て固まった。
「グルルル」
見たこともない程の大きい緑色をした猫が、そこに居た。
そんな大きな猫と対峙しながらオックスは叫ぶ。
「早く逃げるんだ!」
「でも、師匠が!」
「私は自分で何とかする!」
「でもっ」
「早く行け!」
「っ……ぅ、ぅううう!」
オックスの怒鳴り声にシャールは体を震わせると、泣きながら、脇目も降らずに街へと走り出した。
「お前の相手は私だ!」
「グルァ!」
後ろから聞こえてきた声にも振り返らずに。
「緊急の依頼です。ジェオルジにある村近くの森で雑魔が発見されました。目撃情報からフォレストパンサーだと思われます」
ハンターオフィスの女性職員は元ハンターとして冷静に、だが焦りからか早口で敵と敵の情報を伝えてきた。
「フォレストパンサーは森に生息している肉食の雑魔です。特徴としては鋭く尖った爪と牙。群れを成さず、森で紛れるのに適した緑色の毛並みを持ち、移動速度が凄まじく速く走ることが出来ます。これらの特徴を活かし、茂みなどに隠れて獲物を待ち伏せ、そして凄まじい速さで駆けて獲物に襲いかかり獲物を仕留めます。本来はジェオルジ周辺にはおらず、獲物も小動物などを襲うはずですが……いえ、原因を考える時間はありませんね」
思考の海に出かけた職員は頭を振ると、依頼内容を説明し始めた。
「依頼主は薬師見習いのシャールさん。依頼主の話では森の林道を通っている途中で襲われたということですので、林道付近に潜伏しているい可能性が高いと思われます。依頼主はオックスさんの救出を最優先にして貰いたいとの事で、それには我々も同意見です。なので、今回はオックスさんの救出を最優先。フォレストパンサーの討伐はオックスさんの無事を確認してからでお願いします」
説明を終えた職員は村の大人に寄り添われて泣き疲れて眠っているシャールを見て。
「オックスさんが亡くなっていた場合は……ご遺体だけでも連れて帰って来てあげてください」
と、静かに呟いた。
リプレイ本文
●
「起きて下さいぃ」
「うぅん……」
ハンターオフィスで、星野 ハナ(ka5852)が眠っていたシャールから情報を聞き出すため、揺り起こしていた。
「誰……?」
寝ぼけ眼のシャールの鼻を摘まみ、ハナはニッコリと笑う。
「こんにちはぁ、お寝坊さん? 貴女の話を聞きに来ましたぁ。さぁ、一緒にオックスさんを助けましょぉ?」
「ハンターさん、ですか?」
「そうやで」
鼻を摘まれながら、尋ねるシャールに対し、埜月 宗人(ka6994)が肯定すると一気に覚醒したのか大きな声を上げる。
「し、師匠をっ師匠を助けて下さい!」
「もちろんです。俺たちはその為に来たのですから」
「絶対に助けます」
シャールの叫ぶような願いを聞き、Gacrux(ka2726)が微笑み、マリエル(ka0116)は力強く頷いた。
それを見てシャールは安心したように顔を綻ばせる。
「それじゃあ、まずは地図を描きたいので森とオックスさんと別れた場所を教えてくれますかぁ?」
「は、はい」
「俺も作らせて貰おか」
ハナと宗人はマッピングセットを取り出し、シャールから聞きながら簡単にだが森の地図を描き上げた。
「ほな、俺たちは先に行っとるで」
「はい。私たちもすぐに行きます」
Gacruxと宗人はハンターオフィスを出ると、連れてきていた馬に乗って森へと先行する。
「オックスさんの物は何かありませんかぁ? 共用していた物でもいいんですけどぉ」
「師匠の……あ、これ」
何かを思い出したようにシャールは肩から下げていたバッグを探り、一対の木のコップを取り出した。
「たまに師匠がハーブティーを作るんですけど、いっつもコップは持って来ないので……これでいいですか?」
「十分ですぅ。お借りしますねぇ」
シャールからコップを借ると、ハナの目が蒼く輝き、風もないのに髪がゆらゆらと広がる。
そしてハナは取り出した札にマテリアルを込めると、占いでダウジングを始めた。
「どうですか?」
ダウジングを終えたハナにマリエルが尋ねると、ハナは地図の左上辺りを指差す。
「この辺りって出ましたぁ」
「分かりました。私たちも向かいましょう」
マリエルが頷き、先行した二人にもハナが手に入れた情報を伝えている間、ハナはシャールを軽くハグすると笑顔でポンポンと背中を叩いた。
「それじゃすぐにオックスさんを連れて戻ってくるのでぇ、貴女はオックスさんが好きなもの作って待っていて下さいぃ。大丈夫、オックスさんは無事ですよぅ」
「は、い……師匠を。お願いします……!」
恐怖がぶり返してきたのか、涙を流しだしたシャールを付き添いの大人に任せ、二人も先行する二人に少し遅れて森へと馬を走らせた。
●
「ここですね」
「みたいやな」
先行していた宗人とGacruxは森に辿り着くと拡声器を取り出し、森にいるオックスに向けて『ハンターの救援が今から向かう事』と『雑魔の注意を此方に引き付ける』の二つを伝え、最後に生き延びるように鼓舞した。
「そんじゃ、始めよか」
「えぇ、捜索を始めましょう」
そう言うやいなや、Gacruxが纏うように炎のようなオーラが現れる。
それから通信機を使い、後から来る二人に今から捜索を始めることを伝え、宗人とGacruxは森の中へと入る。
「ハナの占いだと地図の左上……ここから北西の方に居るって出たらしいで」
「では、北西の方を中心に捜索をしましょう」
Gacruxは方位磁針を確認しながら周囲の異変に意識を払い、宗人は作った地図で方角を確認しつつ周囲の音を聞きつつ痕跡を探しながら北西へと向かう。
そして森の中央付近に来た所で、不意にGacruxが止まった。
「何か見つけたんか?」
「あそこの枝が折れています。そこから少し離れた枝も折れている……方向としては北西でしょうか」
少し遠くにある折れている枝を見つけて宗人に伝えると、宗人は無言で頷き、Gacruxに従って進行方向を修正してそちらへと向かった。
森に着いた二人は馬から降りると、森に入る前に捜索準備を始める。
ハナは上からの襲撃に備えるため、頭上に強く光る水晶玉を浮かせてから借りてきたコップを狛犬に、マリエルは薬草を柴犬に、それぞれが連れてきていた犬に匂いを覚えさせる。
「犬さん、これ以外にも人や血のにおいもお願いします」
「私からもお願いしますねぇ」
二人の言葉を聞いた犬たちは走り出し、二人は馬に乗ってそれを追いかける。
「宗人さん、Gacruxさん。マリエルです。私たちも森に着きましたので犬さんと馬に乗って捜索を始めます」
魔導短伝話から了解の言葉が聞こえ、マリエルはそのまま新たに得た情報を聞いてハナに伝える。
「ハナさん。折れた枝から、ハナさんが絞り込んだ方向に何かが向かった痕跡を見つけたらしいです」
「それがオックスさんだったらいいんですけどぉ」
犬を追う形で馬を走らせているが、幸いというべきか進行方向は宗人たちが向かっている方角だ。
「ワンッ!」
「犬さんが何か見つけたみたいです!」
突然、マリエルの犬が吠え、走る速度が上がって一直線に向かい出す。
それに合わせ、二人も馬を速度を上げて急行した。
(木が邪魔で見通しが悪いですね……)
(自然の音以外、何も聞こえんなぁ)
痕跡らしき折れた枝が示す方向へと向かっていた宗人とGacruxだが、周りは草木に囲まれており、Gacruxの目には痕跡のような物は見当たらず、宗人の耳には風で木がざわめく音しか聞こえない。
(痕跡が無いということは、この周辺に痕跡を残した何かがいるということですが……)
Gacruxがそう考えていると、宗人が眉をひそめていることに気づいた。
「どうしました?」
「変な匂いしぃひんか」
「変な匂い? 特に感じませんが……」
Gacruxがそう答えた時、ざぁっと風が吹いて森を撫でて抜けていった。
それにより、二人にはっきりとそれは届いた。
「こっちや!」
宗人が大声を上げると走り出し、Gacruxもそれに続く。
進むにつれ、どんどんと匂いが強くなって来て、そこまで来てようやく何の匂いか理解した。
薬草の匂いだ。
何種類もの薬草の匂いが混じって酷いことになっているが、間違いない。
匂いを辿り、宗人とGacruxはそれを見つけた。
赤黒く変色した地面に横たわる一人の男性を……。
「おい! しっかりしろや!」
宗人はすぐさま男性に駆け寄ると体を揺すると、男性は力なく目を開けた。
「オックス君やな!」
「は、い」
「助けに来たハンターや!」
宗人は幾つかある傷の中で最も重傷だと分かる未だに血が流れる右腕を見る。
傷口らしき場所には黒緑色の物体が付いていて、宗人は自分が知らない生物か何かかと思ったが、すぐにオックスによって否定された。
「自分で、薬草で、出来るだけ……やって、みたんで、すが」
「大丈夫や! すぐに手当するから待っとき!」
宗人が勇気づけている間にGacruxはマリエルたちに連絡をする。
「薬師を見つけました。占い通りでしたよ。えぇ、救急セットだけでは足りないかもしれませんのですぐに来てください」
マリエルたちが急行する旨を通信機越しに聞き、Gacruxは救急セットを取り出してオックスの傷口を消毒や包帯で縛って止血などの応急処置を行う。
「これで良し」
「ひとまずは安心やな」
応急処置では完全に治すことは出来ないので、治療が出来るマリエルたちが来るまでフォレストパンサーに対して警戒する必要はあるが、オックスがこれ以上酷くなるようなことはないだろう。
そう判断し、宗人とGacruxは多かれ少なかれ、安堵して隙が出来た。
生まれながらのハンターは、その瞬間を待っていた。
茂みから飛び出し、爪と牙を剥いてGacruxへと襲い掛かる影。
「っ!」
「ギャッ!」
Gacruxはそれに反応して鎧の胸部分で受け止めると、全力で反撃した。
影は短い悲鳴を上げると、すぐに飛んでGacruxから距離を取った。
その影の正体は緑色の体毛をした大きな豹……フォレストパンサーだ。
それを確認した宗人は、フォレストパンサー発見をマリエルたちに伝え、フォレストパンサーとオックスの間に入ってフォレストパンサーの気を引かないようにオックスを移動させ始めた。
「グルルルル……」
喉を鳴らすフォレストパンサーは、ソウルトーチのおかげかGacruxに注目しており、オックスと宗人の行動には気づいていない。
それに対してGacruxは少し顔をしかめていた。
「……強烈ですね」
近くに来るまで気づかなかったが、オックスを見つけた要因である薬草の匂いがフォレストパンサーから……いや、フォレストパンサーの方が強烈だ。
(周囲からする薬草の匂いとオックスを助けるために集中していたから気づかなかったのでしょうが、フォレストパンサーから匂いがするのは……)
Gacruxは途中で思考を断ち切ると意識を切り替えてフォレストパンサーを睨みつけた。
「こちらから行きますよ!」
黒の目バリがGacruxの目を囲み、大きく切れ上がったブルーの紋様が目の上に走ると、Gacruxはフォレストパンサーに対して威圧感を与えた。
そして武器を槍に持ち換えると大きく踏み込みながら武器を突き出す。
威圧感と予想以上の攻撃だからか、フォレストパンサーは動きが遅れて槍がその肩へと突き刺さった。
「グギャアアアアアア!」
痛みから咆哮のような叫びを上げるフォレストパンサーを冷静に見ながら、Gacruxは槍から元の武器へと持ち替える。
「オックスさんは何処ですか!」
「こっちや!」
Gacruxの攻撃のすぐ後にマリエルたちが合流した。
二人は歯を剥き出しにしているフォレストパンサーに警戒しながらオックスの下へ向かい、ハナは特殊な符と自分の生命力を使って式神を召喚するとオックスを守るように指示する。
マリエルが祈りを捧げると、マリエルの手元にキーボードの様なものが現れた。
祈りながらその鍵盤を叩く様に操作するとオックスの傷が癒え、オックスを包み込むようにオーラ状の障壁が現れる。
「歩けそうか?」
「いえ……すみま、せん」
「気にしなくてえぇんやで。肩を貸してやるさかい、安全な場所に移動するで」
傷は癒えたが、血を流して貧血を起こしたのかフラフラとするオックスに、宗人はオックスに肩を貸して安全な場所へと移動を始めると同時にフォレストパンサーが身を屈めるとハナへと飛びかかった。
「させません!」
マリエルが叫ぶと同時にハナの前に光の防御壁が出現し、フォレストパンサーの攻撃を防御壁が防いだ。
「ありがとうございますぅ」
燐光を残しながら消滅する防御壁を見ながら、ハナをお礼を言う。
「あんたの相手は俺ですよ!」
「ギャォオオオオオ!」
そこへ先程の攻撃と同じ戦法を使い、Gacruxは後ろから槍をフォレストパンサーへと突き立て、鮮血が舞う。
「さっきは驚きましたよぅ。たかが豹が私に勝とうとかぁ……バカにしてますぅ?」
ハナは距離を取り、数枚の符を使ってフォレストパンサーを覆うように結界を張ると結界内が光り輝きフォレストパンサーを焼く。
「グルォオオオオオオオ!」
「今なら……!」
マリエルが仲間を巻き込まないと判断すると鍵盤を叩く。
「擬似接続開始。コード『ロキ』。イミテーション・ミストルティン!」
「ガゴォオオオオオオオオオ!」
無数の刃がフォレストパンサーへと殺到し、串刺しにすると一瞬で消えるが、フォレストパンサーはまるでその場所に縫い付けられているかのように動きを止めた。
動けないフォレストパンサーへとGacruxが追い打ちの威圧感をかけ、槍の刺突を放った。
「ガッ……ゴ……ォ」
槍はフォレストパンサーの腹部に深々と突き刺さり、フォレストパンサーは口から血を吐き出しながら短い断末魔を上げて倒れ伏すと、それ以降はもう二度と動かなかった。
●
「これで良しですよぉ」
フォレストパンサー討伐後にハナはオックスに水を渡すと、身体に傷一つないように回復させていた。
ハナいわく、シャールが泣かないようにだそうだ。
マリエルが回復させて傷は治ってはいたのだが、念のためだそうだ。
「オックスさん、シャールが心配していましたよ」
「シャールが……無事に逃げ切れたんですね。良かった」
体調がある程度回復したオックスは笑みを浮かべ、宗人に肩を借りながら立ち上がる。
「では、帰りますか」
「はい。早くシャールに私が無事だって知らせないと……泣きながら怒られそうですけど。あはは……」
「連れて帰ったら俺も一言言わせて貰うで。火のない所煙は立たぬてなぁ」
困ったように笑うオックスに宗人がそう言うとオックスは苦笑した。
その後、無事オックスをハンターオフィスまで連れて帰った。
オックスを見たシャールは涙を流しながらオックスを叱り、そして最後は抱き着いて大声を上げて泣いた。
「オックス君。今度からは用心する様に……自分の事大事に思てる人間が、すぐ近くに居るんやから」
「……はい」
「じじょぉ~!」
「あぁ、はいはい。ごめんね、シャール」
「あ、そうでしたぁ。シャールさん」
「ヒック……ばい……?」
オックスが泣き続けているシャールの頭を撫でてあやしていると、ハナが毛皮を差し出した。
「森を嫌いにならないよう毛皮はシャールさんにプレゼントですぅ」
フォレストタイガーを倒した後、その死体は消えずに残っていた。
普通は雑魔の死体は残らないが、どうやらフォレストパンサーは憑依型の雑魔だったようで死体が残っていたため、ハナが持ってきていたサバイバルダガーで血抜き&捌いて手に入れたフォレストタイガーの毛皮だ。
「グスッ……あり、が、どう、ございます……」
シャールはしゃくりあげながら毛皮を受け取ると、オックスは深く頭を下げた。
「改めて、私を助けていただきありがとうございました」
「し、師匠をヒック……助けて、くれてっありが、とうございました!」
それに続いてシャールも頭を下げたのを見て、四人は顔を見合わせるとマリエルが代表して返事をした。
「無事でよかったですね」
「はいっ……!」
その時のシャールの笑顔は涙や何やらだらけではあったが、四人にはとても輝いて見えた。
「起きて下さいぃ」
「うぅん……」
ハンターオフィスで、星野 ハナ(ka5852)が眠っていたシャールから情報を聞き出すため、揺り起こしていた。
「誰……?」
寝ぼけ眼のシャールの鼻を摘まみ、ハナはニッコリと笑う。
「こんにちはぁ、お寝坊さん? 貴女の話を聞きに来ましたぁ。さぁ、一緒にオックスさんを助けましょぉ?」
「ハンターさん、ですか?」
「そうやで」
鼻を摘まれながら、尋ねるシャールに対し、埜月 宗人(ka6994)が肯定すると一気に覚醒したのか大きな声を上げる。
「し、師匠をっ師匠を助けて下さい!」
「もちろんです。俺たちはその為に来たのですから」
「絶対に助けます」
シャールの叫ぶような願いを聞き、Gacrux(ka2726)が微笑み、マリエル(ka0116)は力強く頷いた。
それを見てシャールは安心したように顔を綻ばせる。
「それじゃあ、まずは地図を描きたいので森とオックスさんと別れた場所を教えてくれますかぁ?」
「は、はい」
「俺も作らせて貰おか」
ハナと宗人はマッピングセットを取り出し、シャールから聞きながら簡単にだが森の地図を描き上げた。
「ほな、俺たちは先に行っとるで」
「はい。私たちもすぐに行きます」
Gacruxと宗人はハンターオフィスを出ると、連れてきていた馬に乗って森へと先行する。
「オックスさんの物は何かありませんかぁ? 共用していた物でもいいんですけどぉ」
「師匠の……あ、これ」
何かを思い出したようにシャールは肩から下げていたバッグを探り、一対の木のコップを取り出した。
「たまに師匠がハーブティーを作るんですけど、いっつもコップは持って来ないので……これでいいですか?」
「十分ですぅ。お借りしますねぇ」
シャールからコップを借ると、ハナの目が蒼く輝き、風もないのに髪がゆらゆらと広がる。
そしてハナは取り出した札にマテリアルを込めると、占いでダウジングを始めた。
「どうですか?」
ダウジングを終えたハナにマリエルが尋ねると、ハナは地図の左上辺りを指差す。
「この辺りって出ましたぁ」
「分かりました。私たちも向かいましょう」
マリエルが頷き、先行した二人にもハナが手に入れた情報を伝えている間、ハナはシャールを軽くハグすると笑顔でポンポンと背中を叩いた。
「それじゃすぐにオックスさんを連れて戻ってくるのでぇ、貴女はオックスさんが好きなもの作って待っていて下さいぃ。大丈夫、オックスさんは無事ですよぅ」
「は、い……師匠を。お願いします……!」
恐怖がぶり返してきたのか、涙を流しだしたシャールを付き添いの大人に任せ、二人も先行する二人に少し遅れて森へと馬を走らせた。
●
「ここですね」
「みたいやな」
先行していた宗人とGacruxは森に辿り着くと拡声器を取り出し、森にいるオックスに向けて『ハンターの救援が今から向かう事』と『雑魔の注意を此方に引き付ける』の二つを伝え、最後に生き延びるように鼓舞した。
「そんじゃ、始めよか」
「えぇ、捜索を始めましょう」
そう言うやいなや、Gacruxが纏うように炎のようなオーラが現れる。
それから通信機を使い、後から来る二人に今から捜索を始めることを伝え、宗人とGacruxは森の中へと入る。
「ハナの占いだと地図の左上……ここから北西の方に居るって出たらしいで」
「では、北西の方を中心に捜索をしましょう」
Gacruxは方位磁針を確認しながら周囲の異変に意識を払い、宗人は作った地図で方角を確認しつつ周囲の音を聞きつつ痕跡を探しながら北西へと向かう。
そして森の中央付近に来た所で、不意にGacruxが止まった。
「何か見つけたんか?」
「あそこの枝が折れています。そこから少し離れた枝も折れている……方向としては北西でしょうか」
少し遠くにある折れている枝を見つけて宗人に伝えると、宗人は無言で頷き、Gacruxに従って進行方向を修正してそちらへと向かった。
森に着いた二人は馬から降りると、森に入る前に捜索準備を始める。
ハナは上からの襲撃に備えるため、頭上に強く光る水晶玉を浮かせてから借りてきたコップを狛犬に、マリエルは薬草を柴犬に、それぞれが連れてきていた犬に匂いを覚えさせる。
「犬さん、これ以外にも人や血のにおいもお願いします」
「私からもお願いしますねぇ」
二人の言葉を聞いた犬たちは走り出し、二人は馬に乗ってそれを追いかける。
「宗人さん、Gacruxさん。マリエルです。私たちも森に着きましたので犬さんと馬に乗って捜索を始めます」
魔導短伝話から了解の言葉が聞こえ、マリエルはそのまま新たに得た情報を聞いてハナに伝える。
「ハナさん。折れた枝から、ハナさんが絞り込んだ方向に何かが向かった痕跡を見つけたらしいです」
「それがオックスさんだったらいいんですけどぉ」
犬を追う形で馬を走らせているが、幸いというべきか進行方向は宗人たちが向かっている方角だ。
「ワンッ!」
「犬さんが何か見つけたみたいです!」
突然、マリエルの犬が吠え、走る速度が上がって一直線に向かい出す。
それに合わせ、二人も馬を速度を上げて急行した。
(木が邪魔で見通しが悪いですね……)
(自然の音以外、何も聞こえんなぁ)
痕跡らしき折れた枝が示す方向へと向かっていた宗人とGacruxだが、周りは草木に囲まれており、Gacruxの目には痕跡のような物は見当たらず、宗人の耳には風で木がざわめく音しか聞こえない。
(痕跡が無いということは、この周辺に痕跡を残した何かがいるということですが……)
Gacruxがそう考えていると、宗人が眉をひそめていることに気づいた。
「どうしました?」
「変な匂いしぃひんか」
「変な匂い? 特に感じませんが……」
Gacruxがそう答えた時、ざぁっと風が吹いて森を撫でて抜けていった。
それにより、二人にはっきりとそれは届いた。
「こっちや!」
宗人が大声を上げると走り出し、Gacruxもそれに続く。
進むにつれ、どんどんと匂いが強くなって来て、そこまで来てようやく何の匂いか理解した。
薬草の匂いだ。
何種類もの薬草の匂いが混じって酷いことになっているが、間違いない。
匂いを辿り、宗人とGacruxはそれを見つけた。
赤黒く変色した地面に横たわる一人の男性を……。
「おい! しっかりしろや!」
宗人はすぐさま男性に駆け寄ると体を揺すると、男性は力なく目を開けた。
「オックス君やな!」
「は、い」
「助けに来たハンターや!」
宗人は幾つかある傷の中で最も重傷だと分かる未だに血が流れる右腕を見る。
傷口らしき場所には黒緑色の物体が付いていて、宗人は自分が知らない生物か何かかと思ったが、すぐにオックスによって否定された。
「自分で、薬草で、出来るだけ……やって、みたんで、すが」
「大丈夫や! すぐに手当するから待っとき!」
宗人が勇気づけている間にGacruxはマリエルたちに連絡をする。
「薬師を見つけました。占い通りでしたよ。えぇ、救急セットだけでは足りないかもしれませんのですぐに来てください」
マリエルたちが急行する旨を通信機越しに聞き、Gacruxは救急セットを取り出してオックスの傷口を消毒や包帯で縛って止血などの応急処置を行う。
「これで良し」
「ひとまずは安心やな」
応急処置では完全に治すことは出来ないので、治療が出来るマリエルたちが来るまでフォレストパンサーに対して警戒する必要はあるが、オックスがこれ以上酷くなるようなことはないだろう。
そう判断し、宗人とGacruxは多かれ少なかれ、安堵して隙が出来た。
生まれながらのハンターは、その瞬間を待っていた。
茂みから飛び出し、爪と牙を剥いてGacruxへと襲い掛かる影。
「っ!」
「ギャッ!」
Gacruxはそれに反応して鎧の胸部分で受け止めると、全力で反撃した。
影は短い悲鳴を上げると、すぐに飛んでGacruxから距離を取った。
その影の正体は緑色の体毛をした大きな豹……フォレストパンサーだ。
それを確認した宗人は、フォレストパンサー発見をマリエルたちに伝え、フォレストパンサーとオックスの間に入ってフォレストパンサーの気を引かないようにオックスを移動させ始めた。
「グルルルル……」
喉を鳴らすフォレストパンサーは、ソウルトーチのおかげかGacruxに注目しており、オックスと宗人の行動には気づいていない。
それに対してGacruxは少し顔をしかめていた。
「……強烈ですね」
近くに来るまで気づかなかったが、オックスを見つけた要因である薬草の匂いがフォレストパンサーから……いや、フォレストパンサーの方が強烈だ。
(周囲からする薬草の匂いとオックスを助けるために集中していたから気づかなかったのでしょうが、フォレストパンサーから匂いがするのは……)
Gacruxは途中で思考を断ち切ると意識を切り替えてフォレストパンサーを睨みつけた。
「こちらから行きますよ!」
黒の目バリがGacruxの目を囲み、大きく切れ上がったブルーの紋様が目の上に走ると、Gacruxはフォレストパンサーに対して威圧感を与えた。
そして武器を槍に持ち換えると大きく踏み込みながら武器を突き出す。
威圧感と予想以上の攻撃だからか、フォレストパンサーは動きが遅れて槍がその肩へと突き刺さった。
「グギャアアアアアア!」
痛みから咆哮のような叫びを上げるフォレストパンサーを冷静に見ながら、Gacruxは槍から元の武器へと持ち替える。
「オックスさんは何処ですか!」
「こっちや!」
Gacruxの攻撃のすぐ後にマリエルたちが合流した。
二人は歯を剥き出しにしているフォレストパンサーに警戒しながらオックスの下へ向かい、ハナは特殊な符と自分の生命力を使って式神を召喚するとオックスを守るように指示する。
マリエルが祈りを捧げると、マリエルの手元にキーボードの様なものが現れた。
祈りながらその鍵盤を叩く様に操作するとオックスの傷が癒え、オックスを包み込むようにオーラ状の障壁が現れる。
「歩けそうか?」
「いえ……すみま、せん」
「気にしなくてえぇんやで。肩を貸してやるさかい、安全な場所に移動するで」
傷は癒えたが、血を流して貧血を起こしたのかフラフラとするオックスに、宗人はオックスに肩を貸して安全な場所へと移動を始めると同時にフォレストパンサーが身を屈めるとハナへと飛びかかった。
「させません!」
マリエルが叫ぶと同時にハナの前に光の防御壁が出現し、フォレストパンサーの攻撃を防御壁が防いだ。
「ありがとうございますぅ」
燐光を残しながら消滅する防御壁を見ながら、ハナをお礼を言う。
「あんたの相手は俺ですよ!」
「ギャォオオオオオ!」
そこへ先程の攻撃と同じ戦法を使い、Gacruxは後ろから槍をフォレストパンサーへと突き立て、鮮血が舞う。
「さっきは驚きましたよぅ。たかが豹が私に勝とうとかぁ……バカにしてますぅ?」
ハナは距離を取り、数枚の符を使ってフォレストパンサーを覆うように結界を張ると結界内が光り輝きフォレストパンサーを焼く。
「グルォオオオオオオオ!」
「今なら……!」
マリエルが仲間を巻き込まないと判断すると鍵盤を叩く。
「擬似接続開始。コード『ロキ』。イミテーション・ミストルティン!」
「ガゴォオオオオオオオオオ!」
無数の刃がフォレストパンサーへと殺到し、串刺しにすると一瞬で消えるが、フォレストパンサーはまるでその場所に縫い付けられているかのように動きを止めた。
動けないフォレストパンサーへとGacruxが追い打ちの威圧感をかけ、槍の刺突を放った。
「ガッ……ゴ……ォ」
槍はフォレストパンサーの腹部に深々と突き刺さり、フォレストパンサーは口から血を吐き出しながら短い断末魔を上げて倒れ伏すと、それ以降はもう二度と動かなかった。
●
「これで良しですよぉ」
フォレストパンサー討伐後にハナはオックスに水を渡すと、身体に傷一つないように回復させていた。
ハナいわく、シャールが泣かないようにだそうだ。
マリエルが回復させて傷は治ってはいたのだが、念のためだそうだ。
「オックスさん、シャールが心配していましたよ」
「シャールが……無事に逃げ切れたんですね。良かった」
体調がある程度回復したオックスは笑みを浮かべ、宗人に肩を借りながら立ち上がる。
「では、帰りますか」
「はい。早くシャールに私が無事だって知らせないと……泣きながら怒られそうですけど。あはは……」
「連れて帰ったら俺も一言言わせて貰うで。火のない所煙は立たぬてなぁ」
困ったように笑うオックスに宗人がそう言うとオックスは苦笑した。
その後、無事オックスをハンターオフィスまで連れて帰った。
オックスを見たシャールは涙を流しながらオックスを叱り、そして最後は抱き着いて大声を上げて泣いた。
「オックス君。今度からは用心する様に……自分の事大事に思てる人間が、すぐ近くに居るんやから」
「……はい」
「じじょぉ~!」
「あぁ、はいはい。ごめんね、シャール」
「あ、そうでしたぁ。シャールさん」
「ヒック……ばい……?」
オックスが泣き続けているシャールの頭を撫でてあやしていると、ハナが毛皮を差し出した。
「森を嫌いにならないよう毛皮はシャールさんにプレゼントですぅ」
フォレストタイガーを倒した後、その死体は消えずに残っていた。
普通は雑魔の死体は残らないが、どうやらフォレストパンサーは憑依型の雑魔だったようで死体が残っていたため、ハナが持ってきていたサバイバルダガーで血抜き&捌いて手に入れたフォレストタイガーの毛皮だ。
「グスッ……あり、が、どう、ございます……」
シャールはしゃくりあげながら毛皮を受け取ると、オックスは深く頭を下げた。
「改めて、私を助けていただきありがとうございました」
「し、師匠をヒック……助けて、くれてっありが、とうございました!」
それに続いてシャールも頭を下げたのを見て、四人は顔を見合わせるとマリエルが代表して返事をした。
「無事でよかったですね」
「はいっ……!」
その時のシャールの笑顔は涙や何やらだらけではあったが、四人にはとても輝いて見えた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/20 20:53:58 |
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相談卓 埜月 宗人(ka6994) 人間(リアルブルー)|28才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/05/22 04:04:56 |