河川木材輸送

マスター:きりん

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/05/25 09:00
完成日
2018/05/28 10:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●村から村へ
 その村の近くには、大きな川が流れている。
 かなり流れが速い川で、深さもかなりあるようだ。
 所々に傾斜があり、流れが加速している箇所もあれば、大きな岩が障害物として突き出ている箇所もある。
 途中で大きな滝があり、いつも爆音を立てて水を降らせている。
 幸い真っ直ぐに下る川であったが、とにかく流れが凄い。加速と滅茶苦茶な方向転換を繰り返し、滝から落ち、急流を下っていった下流には、もう一つ同じ川の恵みを受ける村があった。
 村から男たちが協力して材木を担いで現れた。
 余分な枝を打ち払われた材木を、男たちは手際よくロープで繋いでいき、急流下り用のいかだに仕立てていく。
 これは、材木を輸出する際の労力を軽減するために編み出された知恵だった。
 急流ばかりの川だけあって、その周りの川岸も険しく、そもそも川の上流にあるということは、男たちが住む村も標高が高い山の中にあるということにもなる。
 重い大木を持って険しい道を下るのは現実的ではなく、急流を利用するというアイデアは、とても理にかなったものだった。
 男たちはいかだから伸びるロープを川岸の近くの林に生えている木のうちの一本に結びつけると、協力していかだを川に浮かべた。
 いかだの上に、いかだが浮かぶ許容量のぎりぎりまで、木材を並べ、ロープで固定していく。
 全ての木材を固定し終えると、男たちは次々にいかだに乗り込んだ。
「出発するぞ! 乗り込め!」
「命綱は付けたか!?」
「落ちるなよ、落ちたら最悪死ぬぞ!」
「早くしろ!」
 怒鳴り合いながら、男たちが出発の準備を進めていく。
 一人は先頭に立って先導役を務め、左右に三人ずつ、川面を見張るとともに、バランスを取る男たちがいかだの端に並び、一番後ろに一人、いかだの背後を警戒する役目を帯びた男が立つ。
「縄を解けええええええええ!」
 先導役の男が叫び、残っていた村の人間が縄を解くと、いかだに乗り込んでいる男たちのうち、一番後ろの男が手早く縄を巻き取る。
 重たげにのろのろと動き出したいかだは、すぐに急流に乗り、見送る村の人間たちの視界から見えなくなった。

●急流川下り
 木材を運んでいく川下りは、陸路に比べれば遥かにマシとはいえ、決して楽な仕事ではない。
 出発して十秒もすればいかだの速度は馬が全力で走る速度と同程度に達し、さらにゆっくりと加速していく。
「速度、落とせえええええ!」
 急流の音にも負けない先導役の男の怒声が響き渡る。
 先導役の男の目は、前方の浅瀬に突き出す大きな岩の頭を無数に捉えていた。
 浅瀬の位置は川幅のほぼ真ん中。直進すれば、いかだが岩に当たる位置だ。
 川幅は十メートルほどで、幅が四メートル程度のいかだならば、ぎりぎり回避することができる。
 男の声に合わせていかだの左右に張っていた六人が構えたのは、木材に加工する木を伐採した際に打ち払った枝を利用して作った櫂だった。
 一斉流れに逆らって男たちが櫂を漕ぎ、いかだの速度が目に見えて下がった。
「ひだりいいいいいい!」
 再び先導役の男の怒声が響き渡る。
 右側の三人が櫂を漕ぐ手を止め、いかだがゆっくりと右に曲がっていく。
「直進、戻せええええええええええ!」
 すぐに先導役の男が号令を出し、今度は右側三人の男たちが激しく流れに逆らって櫂を漕ぎ出す。
 その間、左側の男たち三人は、力を緩めていかだの向きを正面に戻すのだ。
 熟練の連携だった。
 いくつもの岩を避けて進むと、やがて速度が緩み水流は穏やかに変わった。
 しかし、まだ男たちの苦難は続く。
「来たぞおおおおお! 構ええええええ!」
 川の表面にいくつもの小さな影を走るのを見つけた先導役の男が、形相を変えて叫んだ。
 左右の男たちが、今度は櫂よりも細い木の枝で作った銛を手にする。
「迎撃いいいいいいい!」
 水中から小さな何かがいくつも飛び上がり、いかだに乗る男たちに襲い掛かる。
 対応を仲間に任せ、自分はひたすら前を見つめる先導役の男に、そのうちの一匹が狙いをつけて飛び掛かった。
 しかし到達する前に、横にいた男たちによって水面に叩き落される。
 水中に沈んでいく際にちらりと見えたのは、鋭く尖った歯を無数に持つ肉食魚だ。
 恐ろしいことに、川下りをするこの川には、肉食魚が群れをなして生息している箇所もあるのである。
「またくるぞおおおおお!」
 怒号はひっきりなしに飛ぶ。
 先を見据える先導役の男は、文字通り目の役割を果たしていた。
 肉食魚はとてもしつこく、縄張りを抜けるまで何度も何度も男たちに襲い掛かってくる。
 男たち本人だけではなく、ロープを食い破っていかだそのものを壊そうとする個体までいるので、とてもではないが気が抜けない。
 不幸中の幸いなのは、肉食魚が生息できている環境だからか、障害物も無く注意を払う必要があるのは肉食魚だけということだろうか。
 肉食魚たち追撃を振り切って進むいかだは、この川下りにおいて一番の難所に差し掛かった。
 滝である。
「しがみ付けええええええ!」
 先導役の男が叫び、一斉に男たちが木材にしがみ付く。
 いかだが滝から飛び出し、宙を舞った。
 男たちにとって、永遠にも感じられる浮遊感は、実質的には数秒に過ぎない。
 大きな衝撃と水しぶき、波紋を撒き散らして、いかだは滝つぼへと着水する。
 すぐ側では滝の轟音。ちょっとやそっとの物音ではかき消されてしまう。
 それを知っているからこそ、男たちは絶叫した。
 まずは先導役の男。
「点呼おおおおお! いちいいいいいい!」
「にいいいいいい!」
「さんんんんんん!」
「しいいいいいい!」
「ごおおおおおお!」
「ろくううううう!」
「ななあああああ!」
「はちいいいいい!」
 人数分の点呼が響き渡ると、男たちは今度こそ、歓喜の絶叫を上げた。
 喜ぶ男たちは、その先の川の途中に木や泥でダムが作られていることをまだ知らなかった。
 激突するまで、後数分。

●ハンターズソサエティ
「というわけでして、事件です」
 いつものごとく冷徹な表情でやってきた受付嬢を見て、どういうわけなんだとハンターたちは思った。
「ある村の住人たちが、川にダムが作られているのを発見しました。作ったのはビーバーが転化した三体の雑魔です。至急討伐に向かってください」
 受付嬢にしては珍しく、何ということはない依頼だ。何人かのハンターたちが腰を上げた。
「ですが」
 不吉な区切り方をした受付嬢は、にこりと笑った。とても綺麗な営業スマイルだった。
「発見者の男たちはダムに激突し全員重傷を負っていまして、自分たちの代わりに材木の輸送を行いながら討伐を行って欲しいとのことです」
 いつも通り面倒くさい依頼だった。腰を上げたハンターたちはさりげなく椅子に座り直した。
「それではよろしくお願いします」
 日和見をしたハンターを軽く睨みつつ、受付嬢はお辞儀をして話を締め括った。

リプレイ本文

●乗り込めー!
 集まったハンターたちは、村人の案内で自分たちが使ういかだの前までやってきた。
「川下り! 楽しそうだね!」
 夢路 まよい(ka1328)はいかだを前にして好奇心で目をキラキラと無邪気に輝かせている。
 まよいは最初こそ皆と一緒に櫂を漕ぐつもりだが、敵が出れば迎撃に回る予定だった。
 肉食魚の撃退はまるでシューティングゲームみたいになるだろうし、雑魔の討伐も彼女にとってはハンターとしての使命というよりも、一種の遊びに等しいからだ。
「あんたたち、いいんですかその格好で」
 事前に入念に服装から準備してきたGacrux(ka2726)は、回りの面々を見て呆れた表情を浮かべた。
 肉食魚に噛み付かれた時のことを考えてウェットスーツを着込んで肌の露出を減らし、いかだから投げ出される可能性を踏まえ浮力を得やすいパイレーツコートを羽織り、命綱までつけた選択は間違っていないはずなのに、そうしたのは自分だけだったのである。
「皆さんを信頼してますから」
 そう言って遠慮がちにはにかんだのは、ミオレスカ(ka3496)だ。
 猟撃士であるミオレスカの役目は、敵が出た際の遠距離火力である。弓と銃による狙撃で、出て来た敵を迎撃するのが仕事だ。
 しかし彼女自身は、最近暑い日が続いていたこともあり、この川下り自体が少し楽しみでもあった。
「私達は何でも屋じゃないんだが……いや、ほぼ同然か」
 前回は草むしり、今回は急流下りと妙な依頼ばかり斡旋してくる受付嬢の名をそろそろ知っておくべきかと、レイア・アローネ(ka4082)は思い始めていた。
 遡れば下水道の掃除、長期間に渡る街道の調査など、よくよく考えればあの受付嬢は面倒な依頼ばかり寄こしてきている。警戒した方がいいかもしれない。
「ルンルン忍法とカードの力、見せちゃいます!」
 元気いっぱい、テンション高く叫んだのはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)だ。
 双眼鏡を持ってきているルンルンは、今回櫂の漕ぎ手、いかだの先導、戦闘など多種多様な役割を担う。だがしかし、一番の仕事は先導役になるだろう。
 何をするにもまずいち早く前方の状況を把握すること。今回の依頼は全てそれが前提になっている。
「いかだですか。懐かしいですね」
 多由羅(ka6167)が目を細め、優しい表情を浮かべている。普段から戦意を漲らせている彼女にしては珍しい状態だ。
 どうやら、いかだ繋がりで、川が多い故郷で同じように使っていたことを思い出したらしい。
 いかだという限定された空間内で振るうことを考えて、大太刀の中では小さめのものを用意している。
 ハンターたちは六人でいかだを押して川に浮かべると、一気にいかだの上に飛び乗った。
 材木とハンターたちを乗せて、いかだは急流に乗って急加速して流れていく。
 さあ、依頼の始まりだ!

●急流川下り
 流れに乗ったいかだは、かなりの速度で川を下っていく。
 積まれている材木を中心に、前方に一人、後方に一人、そして両側に二人ずつ配置についている。
 前方を担当するのはルンルンだ。
 双眼鏡を覗いていたルンルンは、振り返って皆に叫んだ。
「浅瀬地帯を発見しました! 距離三十メートルほど! 岩が多いから避けた方がいいかもです! 皆さん漕ぐ準備をお願いします!」
 ルンルン自らも櫂を手に取り、備える。
「わ、分かりました! それにしても、風が涼しくて気持ちいいし、水しぶきは冷たいし、暑い日にはちょうどいいですね、川下り!」
 一番最初に反応したのはミオレスカだ。
 彼女は後方に陣取り、射撃の他に後方の警戒も行う。
 近付いていく前方とは違い、後方は敵が出てきても離れていくので、遠距離攻撃が得意なミオレスカが適任なのだ。
「よし、それじゃあ右に避けますよ! 三人とも、櫂を持ってください! 俺に息を合わせてくださいねえ! 一、二の、三でいきますよ!」
 Gacruxが号令を発し、自らも櫂を手に取り、タイミングを揃えていつでも漕げるように備える。
 いかだのバランスを考え、Gacruxは右舷の一番目に陣取っていた。
 この場所なら先導役のルンルンに何かがあってもすぐに対応できる。
「いつでもいいよ! 楽しい! 面白い! わあ、今身体が浮いたよ! ねえ見て見て! 景色があんなに早く流れてる!」
 素早く櫂を手に取ったまよいだったが、いかだの浮き沈みや回りの風景に気を取られているようだ。
 そんなまよいは左舷二列目にポジションを取っていた。
 この場所ならどこに敵が現れても魔法を撃ちやすい。
「落ち着け。協力してしっかり漕がないと、いかだが想定通りに動いてくれないぞ。気をつけて、力を合わせよう。何かあれば私が守る」
 はしゃぐまよいを、レイアが窘める。
 冷静なレイアは櫂を持って川の状況を見ながら、同時に仲間の動向も把握していた。
 器用にするべきことをこなすレイアの位置はまよいの対面、そしてGacruxの後ろである右舷二列目だ。
「回避し切れないようなら、私が道を切り開きましょう。文字通り、真っ二つに。この際斬れればそれが岩でも文句は言わないことにします」
 多由羅は片手で櫂を持ち、もう片方、つまり利き手でいつでも大太刀を抜けるようにしていた。
 立ち位置は左舷一列目。つまりまよいの前である。
 後々まよいが戦闘に回ることを考えると、腕力がある多由羅がまよいと同じ列になった方が良いとの判断だ。
 ルンルンとミオレスカ以外のまよい、Gacrux、レイア、多由羅の四人が一斉に櫂を漕ぎ出した。
 六人を乗せたいかだはハンターたちの並外れた力によって急激に進路を変え、岩が突き出す浅瀬地帯を避けた。
 しかしそれで終わりではない。
 今度は右へと傾いた進路を戻さなければ、そのままいかだは右へ右へと流れ続けてしまうし、流れに負けて制御不能になり転覆する可能性が出てくる。
 進路を元に戻すにはどうすればいいか。簡単だ。先ほどと逆をやればいい。
 再び協力して櫂が漕がれ、いかだは向きを戻した。

●肉食魚と戯れる
 ある程度進むと、あれほど激しかった流れが急に穏やかになった。
 そして、水面下で蠢く影を、先頭に立つルンルンは見逃さない。
「そろそろ肉食魚地帯です! 皆さん迎撃準備をお願いします!」
 皆に注意を促すと同時に、ルンルン自身も符を引き抜いて警戒する。
「いかだの操縦は任せてくださいねえ! しっかりやりますよ!」
 Gacruxは櫂を漕ぐ手を緩めず、むしろさっさと抜けてしまおうと漕ぐ速度を上げた。
 さすがはハンターというべきか、その速度は急流を下っていた時とほぼ変わらない速度にまで上昇する。
「足元もさっきより落ち着いていますし、狙いは外しませんよ!」
 後部に陣取るミオレスカは前方を見据えつつ、弓を構える。
 同時に背後への警戒も怠らない。そちらから襲ってくるならば銃で応戦するつもりだ。
「いざとなれば私が引き付けるから、遠距離組は遠慮なくやってくれ!」
 しっかり速度の変化に対応し、レイアも櫂を漕ぐ手を早めた。
 頼りない足元も、マテリアルを身体に巡らすことで地面と変わらずしっかり接地させている。
「私を狙ってくれば斬れる……。いえ、今はいかだの操縦に集中しなければ」
 じわりと殺気混じりの戦意を滲ませつつも、多由羅は本分に集中して櫂を片手で握ったままだ。
 利き手がそわそわと大太刀の柄を撫でているのはご愛嬌だろう。
「ふっふっふ。ここは私の独壇場だよ!」
 左舷二列目。多由羅の後ろに位置取りするまよいは、意気揚々と肉食魚の撃退準備を始める。
 数でいえば圧倒的にハンター側の劣勢だろうが、対多数戦は、まよいにとっては得意分野だ。
 そして、ついに一匹目の肉食魚が飛び出てきた。
 狙われたのは、先頭に立つルンルンだ。
「予想済み! ジュゲームリリカル……ルンルン忍法金剛陣!」
 素早く符をばら撒いたルンルンは、それによって自分を中心とする結界を展開し、肉食魚を迎え撃つ。
 次々と群がってくる肉食魚たちだったが、ルンルンが展開した結界により上昇した防御力を突破することができずに水中へと戻ろうとする。
「させません! これでも喰らってください!」
 その隙を見逃さず、素早く射撃体勢に入っていたミオレスカが放った一射は、鋭角かつ不規則的な軌道を描き、過たず肉食魚たちを纏めて貫いた。
 群がってくるのならば、むしろ一度に殲滅する良い機会。ミオレスカはそう考えたのだ。
「残りの肉食魚は、私が貰うね! 串刺しになっちゃえ!」
 ハイテンションにはしゃぎながら、まよいは十本もの魔法の矢を空中に生み出し、肉食魚たちに向けて解き放つ。
 魔法の矢は過たず肉食魚に突き刺さり、彼らをいかだに叩き付けた。
 僅かに残った肉食魚たちが逃げようとするそこへ、ルンルンの符が展開され眩く輝く光の結界が肉食魚たちを焼く。
 その直前、多由羅が肉食魚に謎の粉末を振りかけていた。
「……何やってるんですかあんた。いきなり全力ダッシュなんてして。急にいかだが回りだしたからびっくりしたじゃないですか」
 呆れた表情で尋ねてくるGacruxに、多由羅は一仕事終えたとでもいうように額の汗を拭って答えた。
「見ての通りです。焼かれる前に滑り込んで、塩を振り掛けました。間に合ってよかった。ほら、お陰であんなに美味しそうな焼き魚に」
 既に多由羅は定位置に戻っており、櫂を漕ぐのを再開している。
「ううむ、その反射神経を褒めるべきか、いかだの操舵を一瞬とはいえ放り出したことを叱るべきか、判断に困るな」
 とりあえず塩焼きと化した肉食魚と、絶命したばかりの新鮮な肉食魚を回収したレイアは、ひとまず濡れないように材木と材木の間に肉食魚たちを放り込んでおく。
「皆さん、もうすぐ滝ですよー!」
 緩みかけていた雰囲気を締め直すかのように、前方からルンルンの声が飛んだ。
 ルンルンは最前線で前を見据えている。
「わあ! 一大イベントだね! 楽しまなきゃ!」
 無邪気故の気楽さで、まよいが両手を振り上げていかだの上で器用に飛び跳ねる。
 そんなことをしていても、足を滑らせないのはさすがハンターというべきか。
「おっと、もうそんなところまで来たんですねえ」
 我に返ったGacruxが手早くいかだのロープが損傷していないか確認する。問題ない。
 同時に、いかだの速度が漕がずとも少しずつ上昇していくのに気がつく。滝が近いのだ。
「ちょっと、ドキドキします……!」
 放り出されないようにしっかりといかだに捕まったミオレスカが、どこか緊張とワクワクが交じり合った様子で落下の瞬間を待つ。多少の恐怖はあるが、期待もそれなりに大きい。
「おまえたち、もう少し緊張感を持ってだな……」
 苦情を挟みかけたレイアは途中で口を噤んだ。
 暢気そうに見えても、油断しているわけではないことに気付いたからだ。これでも皆腕利きのハンターである。
「ああ、美味です。皆さんも如何ですか?」
 多由羅はさっそく肉食魚の塩焼きの味を堪能している。普段は戦闘にしか目が無い彼女であるが、今回ばかりは違うようだ。そんな彼女も新鮮である。
 浮遊感が、ハンターたち六人を包み込む。
 数秒の滞空後いかだは着水し、滝の音に負けないくらい大音量の水音が響いた。

●雑魔ビーバーは引き篭もり
 滝を抜けると、木や泥で作られたダムがある。
 ダムの一部を破壊して中に入ると、同じく木や泥で作られた巨大な建造物に出迎えられた。
「ありました。雑魔の巣です。どうしますか? このまま突入します? それとも何か試します?」
 双眼鏡で確認したルンルンが、振り返って皆に報告する。
 しかし、巣から雑魔が出てくる様子はない。
 水面に波紋なども無いことから、水の中にいるわけでもないようだ。どうやら巣の中にいるらしい。
「空から範囲魔法で巣ごと一掃できないか試してみるね。無理でも驚いて出てくるかも」
 まよいが錬金杖に乗って空中に浮き上がり、飛行して巣の真上から魔法で生み出した重力波を撃ち込む。
 しかし、巣の中から雑魔が慌てふためいて出てくる気配はない。
 巣もよほど頑丈に作られているのか、それとも別の理由でもあるのか、破壊するまでに至らなかった。
 ならば、ずっと今まで櫂を漕いでいた近接戦闘組の出番だ。
「突入するのが手っ取り早そうですかねえ」
 Gacruxが水に飛び込む準備を始める。
「そうみたいですね。私達は援護に回りますね」
 これからは今までとは逆にミオレスカたちがフォローに回ることになる。
「いかだの操縦に特化して準備してきたが、幸い味方を庇うことはできる。護衛は任せてくれ」
 レイアも巣に突入すべく装備の点検をする。
「肉も悪くは無いですね……」
 物欲しそうな表情で、多由羅が謎の台詞を口にしていた。

 逃走を防ぎ確実に倒すため、二手に別れて巣に突入する。
 広めに作られているといえど、雑魔ビーバーの姿を見落とすほどではなく、彼らはあっさりと見つかった。
「俺からいきますかねえ!」
 走り出すGacruxが狙う雑魔ビーバーは、逃げれないことを悟ると逆に向かってきた。
「援護します! 狙いは、外しません!」
 しかし、その動きはミオレスカの射撃によって出鼻を挫かれる。
 その隙に魔法を武器に付与したGacruxは、渾身の一撃を雑魔ビーバーに叩き込んだ。
 打撲箇所を大きく凹ませた雑魔ビーバーが力なく地面に転がり、その形を崩して消えていく。
「負けていられませんね……参ります!」
 仲間の奮戦に触発されて戦意を漲らせ、殺気を振り撒きつつ多由羅が優雅に、かつ鋭く動いて間合いを詰める。
 飛び掛ってきた雑魔ビーバーを引き抜いた大太刀の一振りで打ち払うと、喜悦の笑みを浮かべて大太刀を地面に擦りつけ、発火させて剣筋の赤い軌跡を描き、一刀の元に両断した。
「この流れで行くと、残る一匹を始末するのは私の役目なのか?」
 そのまま消滅する二匹目のビーバーを見ながら、レイアは呟いた。
「私たちは、肉食魚で活躍させてもらいましたし?」
「そういうことで、私達も行こう! ほらほら!」
 何だか思っていた展開と違うと思いつつも、ルンルンとまよいのお膳立てを受けて、レイアは走る。
 ルンルンとまよいが重力波魔法と稲妻を生み出す符術を牽制とばかりにぶっ放し、爆音と轟音、そして重力波の紫と稲妻の黄色の光が乱舞する中、レイアの剣が最後の一匹である雑魔ビーバーを塵に返した。
 この後は下流村側のダムを破壊して通り道を作ったり、到着前に岸辺で肉食魚を調理して皆で味わったりとハンターたちはつかの間のレジャーを楽しんだのだが、まあ余談である。

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重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 秘剣──瞬──
    多由羅(ka6167
    鬼|21才|女性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 作業詰所(相談卓)
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/05/25 02:57:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/25 01:18:33