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【RH】命がけのハイ・アンド・シーク

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/05/25 07:30
完成日
2018/06/08 10:30

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「ったくさ、なんだっつーのな。崑崙で任務だって来たのに、速攻帰れって言われるとかさ」
 統一地球連合宙軍の本拠地である崑崙から、ほぼ強制的にシャトルへと押し込まれた兵士が頬を膨らませる。
 総勢で1000人を越えるシャトル内。その9割が強化人間達で埋まっている。
 今回のこの唐突な移動は宙軍上部から『戦力の配置転換のため』という名目が掲げられていたが、その裏に『地球で起きた強化人間による反乱対策』があることは想像に難くない。
 さらにいえば、例の財団からそのような指示が出た、という噂もある。
 ドロシー(kz0230)は、ただ無言を貫き、地球を睨むように見つめていた。

『間もなく、大気圏に突入します。機体が揺れますので、着席し、シートベルトを着用して下さい』

 機会音声によるアナウンスが流れる。
 ぐだぐだとくだを巻いていた兵士達も大人しく着席し、シートベルトを締めたようだ。
 不自然に重苦しい沈黙の中、衝撃と共にシャトルは地球へと侵入を開始した。


 このシャトルで地球へと帰り着いた強化人間のうち、その約7割が反乱があったというイギリスへと移動となった。
 長期の移動に不満の声を上げつつも、やはり地球を故郷と思う者は多く、光と水に溢れ自然な空気を吸えるというのはそれだけで開放感がある。
 イギリスに到着すると今度はすぐに班ごとに分けられ、それぞれに隊長クラスから命令書が渡された。
 ドロシーの所属する隊はかき集められた強化人間がおおよそ100名。
 そのほかに協力団体として地元警察、民間の警備会社の名が連なる中で、ブライトン市中の警備に充てられていた。
「警備、とは言うが要するに不審者の早期発見と報告が君たちの主な役割だ。また、各ブロック毎に複数名のハンターの協力も取り付けた。異変時には彼らと共闘し、被害を最小限に抑えて欲しい」
 地図を見る。
 87.5平方キロメートルの広さを持つ1つの都市を、1000にも満たない人間でどうやって守れというのだろうか。
 だが、それに等しいことをハンター達はやってのけるのだ。その実力差は、残酷なまでに大きい。
「『敵』を発見したら速やかな報告をすること。また、被害を最小限に留めるための手段は問わない」
 上官の言葉に、ドロシーはため息を無理矢理飲み込んだ。
「『敵』は我らと同等、またはそれ以上の能力で襲いかかってくる。くれぐれも妙な慈悲など起こすなよ? 以上だ」
 ドロシーら一般強化兵達は一斉に足を揃える。
 上官の姿が消え、足音が消えるたっぷり1分以上を敬礼の形で見送った。




 五月のブライトンと言えば、ブライトン・フェスティバルと呼ばれる英国でも最大規模の芸術祭が開かれる。
 しかし、この強化人間達の反乱からフェスティバルは当然中止となり、天気の良い日はビーチに日光浴に訪れる人々やアミューズメントパークに訪れる観光客で賑わうのが常であるのに、厳重警備が敷かれてからはまるで廃墟のような人気のない場所へと変わっていた。
「……というわけで、私たちはこの桟橋の上の遊園地を中心とした約5km範囲の警備が担当デス」
 ドロシーの眉が八の字に歪む。
「折角、イギリス屈指のアミューズメントパークに来たって言うのに、ヒト気はないわ、仕事だわで、ホンと嫌になっちゃう」
 ハンター達に向けて、戯けるように両肩を竦めて見せると、空を仰いだ。
 青い空だが、雲も多い。この時期のイギリスの平均的な空模様だった。
 ドロシーは気を取り直すように地図を広げ、西側の海岸から北を強化人間10人+民間人、桟橋を渡り遊園地内から北側の駅までをドロシーとハンター達が。東の海岸から北を強化人間10人+民間人という区分けで巡回するスケジュールを説明する。
「緊急時に備えての団体行動が必須デス。迷子にならないよーに。途中で何か異変があって応援要請があればそちらへ移動するからこの辺は臨機応変ね」
 神妙な顔で頷くハンター達にドロシーは空元気とも取れる笑顔を向けた。
「観光するわけにはいかないけど、見回る必要はあるので、この際だから警戒はしつつも、怒られない程度に行きまショ」


「流石に海風はチョットまだ寒いねー」
 桟橋の上に立つ遊園地という特殊な地形。
 道中には沢山の飲食店やお土産屋と思われる店舗があるが、そのどれもがシャッターが降りている。
 人気もなく、ちょっとしたゴーストタウンの有様だった。
「経済効果としてどのくらいの損失なんだろうねー?」
 桟橋の1番奥、動かないジェットコースターを眺めながら、その向こうに広がる大海を望む。

 その時、ドロシーの持つ特殊無線から声が響いた。

『テムズ川河口に敵影! 如意輪観音と思しき機体と巨大潜水艦がテムズ川を遡上中!』

「はぁっ!? なにそれ!?」
 想定の斜め上を行く速報に瞠目したドロシーがインカム越しに叫んだ。
「ドロシー!」
 ハンターの1人が叫び、ドロシーが顔を上げる。指差された大海。そこには、見た事も無い小型の戦艦が群れを成して猛スピードで迫ってくるのが見て取れた。
「Cazzo! ちょっと、索敵どうなってんの!?」
『広範囲にレーダージャミングが発生中。さらに、周辺海洋サーモに変化ありませんでした』
「熱光学迷彩……? まさか空間歪曲型とか!? あー! もぅ、全員一時撤退!! このままじゃあっちが避けてくれない限りこっちにぶつかっちゃう!」」
 ドロシーとハンター達は慌てて海岸へ向かって走り出したが、数メートルも行かないうちに響いた銃声に身を屈めた瞬間、酷い衝撃と共に足元が大きく揺れた。
 ひしゃげたジェットコースター乗り場の向こう、急速旋回したために桟橋に右舷から体当たりするような形になった船体が見える。そこから、続々とフルフェイスヘルメットに黒いボディスーツを纏った兵士達が銃を片手に降りてくる。
「こちら3班ドロシー。桟橋上にて敵戦艦と遭遇、現在交戦中。敵数不明! 応援を要請します、どうぞ」
『こちら本部。30分持ち堪えろ! 今空母から増援を向かわせる』
「Cazzo!」
 忌々しげにドロシーは叫ぶと、手にした拳銃を構え、ハンター達を見ながらインカムを操作する。
「みんな、聞こえた? 今から30分耐えろって。といってもここにいても数の暴力で負けそうだから、ひとまず全員ブライトン駅で合流しまショ」
 銃弾が飛び交う中、ドロシー達は顔を見合わせると生き残りを賭けて走り出した。



 海岸に降りた『敵』は躊躇無く観光客とみられる男女の首を刎ねた。
 犬の散歩をしていた婦人の白いドレスが朱に染まり、犬の悲痛な叫び声が銃声に掻き消された。
「お前ら……!」
 人々を助けようと、強化人間達は連携を取って『敵』へと弾幕を浴びせた。
「……効いてない……!? 特殊防弾スーツ?!」
 隣に居た仲間の頭部が爆ぜた。
「……班長、逃げて、生き延びろ」
 男からの通信は、そこで、途絶えた。

リプレイ本文

●180秒
 銃弾から逃れる為、5人は身を屈めながら一斉にフードコートの入ったテナントの陰に飛び込んだ。
「……っ!!」
「ドロシーさん?」
 インカムを付けた耳に手をやったまま眉間にしわを寄せ、下唇を噛み締めたドロシー(kz0230)を見てカール・フォルシアン(ka3702)が思わず声を掛ける。
 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が生み出した王者の果実が接近してきていた敵兵を圧壊させたが、その術を逃れた敵兵が再び銃を構えるのを見た蜜鈴が軽く肩を竦めた。
「敵の方が一枚上手じゃった様じゃのう」
「いやはやこれは……彼らはパーティー会場を間違えているのではないですかね」
 普段滅多なことでは軽口など叩かないマッシュ・アクラシス(ka0771)のげんなりとした言葉に思わず蜜鈴は笑みと共に紫煙を吐き出すと、手にしていた煙管から、ぽん、と灰を落とした。
 ソフィア =リリィホルム(ka2383)は鞄をごそごそと漁りながら己に加護符を付与する。鞄の口を塞ぎ、陰から銃で牽制し隙を作ると、手にした二本の発煙手榴弾を転がした。
 水色とピンク色の煙が勢いよく噴出する。
「わたし等もさっさと逃げんぞ!」
 ソフィアのかけ声と共に一同は再び走り出す。
 下唇を噛み締めたままのドロシーの手を取って、カールは走る。
「悔しいですが、今は自分たちが生き残ることを考えないと……」
「……うん、分かってる」
 ドロシーの声はともすれば冷ややかにも聞こえるような低いもので、それは彼女が感情を押し殺しているのだろうことを推察させるに足る物だった。

 発煙手榴弾により出来た足止めは数秒だけだった。
 爆発性の物では無いと分かった敵兵達はすぐにそれを乗り越え、煙の外へと飛び出て行く。
 しかし、5人はこの数秒の間に距離を稼ぐ事に成功していた。
「壊せないかな、これ」
 シャッターの閉まった露天が並ぶ隠れる場所のない直線の桟橋。
 飛び交うおびただしい量の弾丸を躱し、武器や盾で弾きながら走り続ける中、ソフィアの発言に一同視線を床へと移した。
「……ふむ? 面白い事を考えよるのう」
 蜜鈴が微笑を浮かべ頷く一方でマッシュは首を傾げた。
「正直、全力全速で抜けたいところではありますな。ここでもたついて入口から別部隊の敵との挟撃になっては元も子もないでしょう」
 その時、海岸沿いで自動車が爆発したと思しき爆発音と共に黒煙が上がった。
「……皆で一斉に攻撃したら壊せれば……いいなーなんて」
「わかりました。皆で一斉に攻撃して破壊出来たらもうけもの、出来なかったら拘らずに市街地に向かうの優先ってことで1回だけやってみましょうか」
「そうこなくっちゃ!」
 カールの折衷案にソフィアが指を鳴らして強気に笑む。
 ゲーム機器が入ったアミューズメント施設の横を駆け抜け、がらんどうのファストフード店の並んだ道となる。
 桟橋入口の時計台のそびえるゲートが5人の目に入った。
「ゲートを抜ける瞬間に、せーの、で!」
 ソフィアの声に各々声を出して返事を返すと、一目散にゲートへと向かう。
 3つあるゲートは中央以外閉められており、5人はそこに身を滑らせるように突入すると、一斉に背後を振り返った。
「せーの!」

 ――次々に光と音が爆ぜた。

 瞬時に店舗の壁に身を寄せたり、床に伏せた敵兵達は、その攻撃が自分達を狙った物では無いと気付いた瞬間から反撃に入る。
「何とも難儀じゃのう……面倒じゃ」
「畜生っ、やっぱり無理かーっ!」
 ソフィアが思わず吐いた悪態と同時に5人は再び走り出した。
 そもそも戦艦がぶつかった時、ジェットコースターのレーンは残念な事にひしゃげていたが、桟橋は大きく揺れただけで済んでいた。そのくらい頑丈に作られていた桟橋であったため、5人の術を用いても僅かな傷が入ったのみで、とても壊せるほどのダメージは入れられなかったのだった。

「……っ! 右側からも敵が来てます!」
 カールの声に咄嗟に5人は飛んで来る銃弾を避けるために身を伏せ、近くにあった自動車の陰や売店の陰へと飛び込んだ。
「マッシュさん! 蜜鈴さん!」
 売店の陰に身を潜めた2人の名をカールは呼んだ。
「行って下さいっ! 合流場所に変更は無いですね? 私達は私達で向います!」
「妾の術は全てを巻きこむ。少人数の方がやりやすい」
 不敵に微笑む蜜鈴はマッシュと目を合わせ頷き合うと、ゲートを抜けて出てくる敵兵へ向けて荘厳を唱えた。
 ソフィアは駐輪場に駐めたままのバイクの存在を思い出したが、2人の顔を見てそのまま残していくことにした。
「……行こう」
 3人は一気に車道へと駆けるとジェットブーツを使ってホテルの二階のテラスへと飛び移って行った。



●600秒――ソフィア、カール、ドロシー
 細い路地を走る。
 ソフィアとカールはドロシーを連れてブライトン駅へと向かい続けた。
 走りながら、すれ違う人々の驚いた顔、肩が、腕がぶつかって迷惑そうな顔、「そんなに急いでどこに行くんだい?」と暢気に声をかける店主の顔が、流れる風景の中でやけにハッキリと目に留まる。
 そして、ついに銃声と悲鳴が背後から迫ってきた事に気付いたソフィアは最後のジェットブーツを使って白い箱形アパートメントの屋根へと飛び上がった。
「極力戦わずに行きたいです」
 カールの希望、そしてドロシーから見れば元は同じ強化人間として軍にいた者達であることから、ソフィアはその提案を受け入れ駅へと向かう。
「よし、こっちから行けそうだよ!」
 屋根に登れば、周囲にある背の高い建造物は広い道路沿いに集中していることが分かる。
 銀行、ホテル、役所、学校など。もちろんいくつかの大手企業などの入ったテナントビルもあるが、一端路地へと入り込めばそこは車一台が通れる程度の幅しかなく、そういった路地に面している建物は高くても三階建てまでだった。
 しかし、このブライトンという街並みは町中へ行けば行くほどブロック毎に綺麗に区画整理されており、直線の道が増える。
「逃げ場が少ないですね……」
 ドロシーと共に飛び上がったカールもまた、その風景にこの街が計画的に作られた場所である事を知る。
 その時、3人の頭上に弾丸の雨が降り注いだ。
「ぐ……っ! フォールシュート!? どこから……? ともかく走るよ!」
「ドロシーさん!」
 カールがドロシーの手を引く。
 銃弾の雨の中、3人は屋根の上を走り、そして細い路地へと飛び降りると再び身を潜めた。

『敵3人ロスト。攻撃止め。敵は北上中。目的地は駅か教会の可能性があります』
『了解。βは引き続き監視を続けろ』
『了解』
 大通りに面したところに背の高い建造物が多いということは、監視役をそこに置けば逃げる敵の姿を捕らえやすい。
 ソフィアは路地で敵と遭遇した時に手元に残っていた発煙手榴弾を妨害に使った。
 それもまた、高所から索敵をしていた敵にはこれ以上ない目印となった。
『敵の物と思われる発煙をノースロード西側にて確認、敵の目的地は駅である可能性が高い』
『了解』

「大丈夫ですか? ドロシーさん」
 交戦の最中、背後から現れた疾影士系の強化人間にドロシーが襲われた。
 カールとソフィアはその後それらを撃退することに成功はしたが、ドロシーの傷は深かった。
 医療センター向かいの廃屋に逃げ込んだ3人は、ひっきりなしになる救急車のサイレンと喧噪を壁一枚向こうに聞く。
 ヒールを施しても塞がらない傷から脈打つ度に溢れ出る血液を止める為に、カールは救急セットから取り出した包帯でドロシーの右腕を縛り上げた。
 ドロシーは痛みに顔をしかめるが、その顔色はどんどんと色を失っていく。
 救援が来るまであとまだ15分以上ある。
 15分、逃げ切るためにどうしたらいいのか。
 繋がらないトランシーバーを握りしめ、カールとソフィアは分かれたマッシュと蜜鈴の無事を祈った。



●600秒――マッシュ、蜜鈴
「兎に角抜け出ない事には始まりませんな」
 ホテルの二階にあるテラスへと飛び上がっていく3人を視界の端に捉えつつ、マッシュが魔導剣を構えた。
「さて、此処からはより、本腰を入れねばならぬのう」
 東から向かってくる敵を引き付けるために、2人は一度西へと走り始めた。
「時に、マッシュ。此れ等の目的とはなんであろうな?」
「分かりません……が、確かに虐殺だけが目的とも思えませんね」
 海岸沿いの道を走り始めたが、追ってくる敵の気配はすれど、前方から追ってくる敵の姿は見えない。
 大きなホテルを抜けた時、その奥の路地から悲鳴が上がったのを聞き留めた2人は、打ち合わせもなく進路を悲鳴の方向へと変えた。
 そこには、品の良さそうな婦人が倒れた死体を見て震えていた。
「建物の中へと入って身を潜めなさい」
 マッシュの言葉に婦人は驚いた様に視線を向けた。
 後ろに迫った敵の気配に蜜鈴は呪を唱え、路上駐車された車の後部に接するように歩道に2m四方の壁を打ち立てると、婦人の手を取って近くにあった『BEAUTY SALON』と書かれた店内へと婦人を押し込む。
「この先は先ほどの道に戻るか、北上するしか無さそうですね」
 マッシュは車の脇を抜けて来た敵を薙ぎ払いながら、背後の丁字路を顎で指し、蜜鈴は迷うこと無く自身の魔腕へと飛翔能力を付与した。
「これはいかん。多勢に無勢とは良う言うたものじゃ」
 敵を斬り伏せ終わったマッシュのフォトンバインダーにも飛翔能力を付与すると、2人は上空へと飛び上がった。
「……どうやら敵の目的地はここだったようですね」
 上空へ上がり、進む毎に視界は広がり、被害状況が見て取れるようになる。
 被害は海岸からマッシュと蜜鈴のいた場所から数メートルも離れていないある建物に向かって出ていることが分かった。

 ――クリムゾンウェスト出身の2人にはこの施設が何なのか最初分からなかったが、後にここが市庁舎だったことを知る。

 飛翔する2人はどうしても目立つ。暫くすると容赦無く銃弾が2人を襲うようになった。
 マッシュが盾を構え、マテリアルをみなぎらせると、その攻撃の殆どがマッシュへと向かう。
 だが、ガウスジェイルは範囲攻撃まで全て引き寄せる訳では無い。
 2人は市庁舎からある程度離れたところで地上へと降りると、駅へと向かって走り出した。
「ところで、蜜鈴さん」
「なんじゃ?」
「あの3人との連絡手段、お持ちですか?」
「魔導スマートフォンならあるが……そういえば打ち合わせしとらなんだの」
 蜜鈴の返答に「ですよね」という言葉を飲み込んで、マッシュは前を向いたまま走り続けた。
「……まぁ、駅に辿り着ければ逢えるでしょう」



●合流までの480秒
 ドロシーが重体となってしまった事は、ソフィアとカールにとって痛恨の出来事だった。
「置いていって」
「出来ません」
 そんな押し問答がカールとドロシーの間でなされ、その間ソフィアは外へと視線を向け式符を使って警戒し続けていた。
「……ドロシーさん、他の班との連絡はどうなってます?」
 ソフィアの問いに、ドロシーはインカムのマイクスイッチを入れた。
「こちら3班ドロシー。各班応答願います、どうぞ」
 ドロシーの問いかけの後、暫くして東側にいた班から連絡が入った。
「生存者何名なのか。戦闘状況はどうなのか聞いて貰える?」
 ソフィアの問いにドロシーは頷くとその通りに問う。
「……生存者は5名。現在はクイーンズパーク西部にて身を潜めているって……敵は海岸沿いで戦った後、市街に散開して、目につく一般市民を殺戮しながら北上していたみたい」
「西とは連絡が取れない?」
「……最初に通信が切れて以降、応答ナイです」
「……そう。そろそろ移動しないと危ないかも。アイツら、病院を襲い始めやがった」
「そんな……!!」
 カールがソフィアが覗いていた窓からそっと外を窺うと、病院の廊下一面に張られた窓ガラスにはおびただしい血痕が飛び散っているのが見えた。
「酷い……!」
「私たちを誘き出そうとしているか……そういう作戦だったのか。どちらにせよ、西側の敵が病院内に集まっているなら今のうちに移動しよう」
「彼らを見殺しにするんですか!?」
 医師を目指す者としてカールは耐えられないと首を横に振る。が、ソフィアの顔を見て、ドロシーを見て、顔を歪めると、頷くように顔を伏せた。
「あと15分、生き残ろう。救援が来れば戦況が変わる。そうすれば反撃も可能になる。ね?」

 廃屋からそっと外へと出ると、カールが前に立って走り始める。
 ドロシーを背に負ったソフィアは加護符を付与し、発煙手榴弾をベルトに挟み、接敵に警戒しながらカールの後に続く。

『敵3人キャッチ。駅へ向かっています』
『ε、ζ、駅へ急行せよ』
『了解』

 敵の関節を砕く形で戦意と行動力を奪いながら北上していたマッシュと蜜鈴は前方、屋根と屋根の間から黄色く色づいた煙が立ち上ったのを発見した。
「あの煙は……」
「発煙手榴弾の様ですね、急ぎましょう」

 駅へ近付くにつれ、敵が増え、ソフィアとカールも疲弊を隠せない。
 それでもソフィアの射撃で反撃を試みながら、駅へと走り続けた。
「……東側にいた班が駅の北側に辿り着いたって」
 そんな中、ソフィアの背中越しにドロシーが伝えた吉報は2人を鼓舞した。
 弾丸が飛び交う中走り続け、その前方に見慣れた2人の影を見つけたカールが破顔した。
「マッシュさん、蜜鈴さん」
 マッシュがかざした腕からは符が舞い上がり、稲妻となって3人の背後を穿った。
「てっきり皆さんの方が早いと思っていましたが」
「これではどちらが囮役だったか分からぬのう」
 合流するや否や、蜜鈴の銃が稲妻の洗礼から間逃れた敵を撃ち抜いた。
「なんじゃ、おんし酷い怪我じゃのう……妾の術でも癒やせぬぞこれは」
 ドロシーの血まみれの右腕を見て、蜜鈴が思わず口元を扇で覆った。
「大丈夫よ、2人が無事で本当に良かった」
 その笑みに、マッシュは呆れたようにため息をつき、蜜鈴は扇で軽くドロシーの額を小突くと、構内の物陰にドロシーを隠した。
「さあ、応援くるまで踏ん張んぞ!」
 ソフィアのかけ声に、3人は深く頷き、駅周辺の鎮圧へと向かって行った。


 その後、到着した増援部隊と無事合流した5人は、マッシュやソフィア達が見た状況を伝えた。
 その結果、敵の目的が『市庁舎の占拠からの市の制圧』であったことを見抜き、その速やかな奪還に成功。
 市中に残っていた敵強化兵も一掃されたという。
 また時を同じくして、ロンドン市内の暴動の鎮圧にも成功したとの報告が入った。

「摘んだ命は背負いて生きよう……そしておんし等の詩を……」
 蜜鈴は凪いだ海に向かい、救えなかった命全てに想いを馳せ、そっと目を閉じた。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • はじめての友達
    カール・フォルシアン(ka3702
    人間(蒼)|13才|男性|機導師
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カール・フォルシアン(ka3702
人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/05/24 23:37:35
アイコン 質問所
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2018/05/21 00:00:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/20 00:00:29