手刀錬(しゅとーれん)

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~3人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2014/12/21 22:00
完成日
2014/12/29 00:52

みんなの思い出

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オープニング


 手刀錬(しゅとーれん)とは

 北狄南下の頃、リアルブルーより転移した武術家・周 闘蓮(しゅう とうれん)が、辺境よりこの地へ避難する村人の心を慰めるため伝えた冬の祭祀用菓子。
 
 貴腐なる果物を手刀で砕き
 熊の集めしクルミを奪い手刀で割り
 甘きパン生地へ手刀をもって練り込み
 オーブンで焼き錬成したのち
 来る祭祀の日まで、日々、わずかづつ手刀にて削ぎとり食す
 安堵の心にてその祝日をまつための保存食
 安堵弁当(あどべんと)である

 なお、クルミの入手に難がある場合に代用の栗を割り入れる事で済ますことが許されており、これがクリスマスの語源になった事は、周 闘蓮がとある少女との会話中に洩らした秘密中の秘密である。

 ──疎開の旅路に書かれた手記「クーゲルシュライバー支給せよ」より



「なぁ。最近ハンターオフィスには気軽な依頼も出せるようになったっていうじゃないか。なんだか冬眠から起きた熊がうろついてるらしいし、害獣退治をしないといかんのだけども、ついでにアレ……あの菓子を作るのにいい機会だと思うんだ?」
 とある村の冬支度のまっ只中、そういえばと思い出したように一人の村民が村長に提案した。
 今冬はなぜか今なお餌を求めた熊が山中で目撃され、僅かに木へ残した筈の栗や果樹までもが根こそぎ採られている。異常な食物への執着。生態系への影響が深刻になる前に、なにより村や畑に被害が広がる前に、その熊を何とかしなければならなかった。

 依頼の中には、クリスマス準備の手伝いもあるというから、害獣対策ついでにウチの村に伝わる伝説のあのお菓子を作る手伝いを追加しちゃってよいんじゃなかろうか? ハンターの中にもお菓子作りが得意な人もいるだろう。なにより、菓子作りの最初の行程。材料集めが最難関だったじゃないか。こんな時じゃないとあれは一般人の手には負えない。

「手記に記されている、周 闘蓮殿は、そういえばハンターであったと聞く……」
「ハンターが材料を集めさえすれば、伝説のレシピであの菓子が蘇るのか!」
「もう。もう何十年も、我々は栗で済ますクリスマスを送ってきた。もう一度、ばぁさんが生きているうちに本物を味あわせてやりたい!」
「子供たちだって、俺たちだって、本物を知りたい!」
 先達の苦難の道の末、縁戚を頼りたどりついたこの村。ぜひ、手記に記された菓子で道中を偲び先達を想おう。
 あれよあれよと冬支度に集まった村民らの満場一致で、村長はオフィスへ出願する依頼書をしたためる事になる。



 翌日、どこかのハンターオフィス地方出張所。
 受付嬢は小さな山をはさんで隣合った村から出された2枚の依頼申請書を並べ、比べ、重ねて思案したあげく、クリップでパチンとまとめて依頼を出した。

「雑魔討伐と菓子作り。正反対の依頼のようにみえるんだが?」
 俺は菓子作りはちょっとなぁ、と回れ右仕掛けた男性ハンターが詳細に混じる「討伐アリ」のスタンプに首を傾げる。
 ああ、それはね。受付嬢が2つの依頼をニコイチにした理由を説明する。

 材料を暴れ熊を討伐して奪ってパンを焼く、ハタ迷惑な依頼だったんだけどね、その熊、山挟んで隣村の猟師がいうには、歪虚に汚染されてるんじゃないかって。
 冬眠から起き出しては、木の実とか小動物を漁っては巣穴に持ち替えるんだって。そして寝てまた起きて、の繰り返し。人は今のところ襲ってないけれど、荒らした作物、そうとう溜め込んでるみたい。巣穴の周囲に食料はみ出てたってんだから。猟師さん、近くで見てた野生パルム連れてここ……オフィスに駆け込んだわけ。ほら、画像がこれ。雑魔になってるわよね? ショボいけど。
 依頼、ニコイチにするわよね、しちゃうわよね。

(そりゃ俺だって、熊退治依頼の対象が余所の情報で雑魔らしいってんなら、情報統合して討伐するけどさぁ……)
 ハンターは詳細を表示して顔をしかめる。
「変なレシピのほうは、手刀使って作れば結局なんでもいいみたいよ? 避難民の村の、単なる伝統儀礼らしいから」
 って、いくら怪しげな文書に書かれたレシピだって、適当すぎやしまいか。

 まぁ俺は受けないんだけどね。
 ハンターは首をすくめると、後輩ハンターに依頼詳細をよこしてみせた。

リプレイ本文


「そっか。怖かったよね」
 キルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300)が野生のパルムを抱いて相槌をうつ。皆でオフィス出張所の資料を見て隣村の猟師に事情を聞いたとき、道案内ついでに元の住処へ戻してやってくれと保護されていたのを預かったのだ。
「元の行動から急に逸脱してますね。ほら、爪跡が高く深くなってます」
 ここ。と、狩猟に詳しいミネット・ベアール(ka3282)が指をさす。欲望のまま抉った様な新しい木肌の傷。獣道は既存のものを延長して使っているが、荒れ方が酷い。人の生活圏まであとわずか。危なかった。
 傷がこの位置だから、倒す時はこう。ミネットはバンテージを巻いた掌を、そこに熊が居るかのように振るう。何事も練習です。並ぶシオン・アガホ(ka0117)が大きく頷き、拙者には厳しいからこそ、なお、練習あるのみと、同じく山道に残る傷跡目掛けて手刀を振るう。
「全力をもって相対するで……くぉぉぉっ!?」
 掌を押さえて蹲るシオン。格別に固い瘤に思いきりぶつけたらしい。
「傷口洗いましょうか?」
 巣の近隣にあると聞いた水源を探し当ててきたアミグダ・ロサ(ka0144)への問いに、擦りむいただけと笑う。少し口調が乱れたけれど。
「巣の前の空き地と林の境界にある、低木の藪、潜伏に使っても大丈夫そう?」
 リューリ・ハルマ(ka0502)がアミグダの環境検証と、パルムの情報をつき合わせて戦域を確定する。縋る目のパルムが可愛い。居てよかった、案内人。

 足跡を調べていたミネットが、熊雑魔が巣に居ることを宣言した。
 ならば、誘引トラップを仕掛けましょうかと、クラベジーナ・フロラシオン(ka0334)は干し肉と紐を取り出し、策定された境界へ向かう。イイ感じの枝か根に括りつけ、捕食に手間取っているところを狙うのだ。
「それじゃあ……」
「空き地から肉までの道も作ってしまうね!」
 リューリとキルシッカが、持参のナッツを点々と地面に撒きにかかる。
 熊は意外と鈍感だから素早くこっそりやれば大丈夫。ミネットが忍び足の二人にアドバイスを送る。強襲配置に就けたら状況開始します、と、アミグダがポテトチップの袋と風向きの最終確認を済ませる。


 ──果たして。
 熊雑魔がハンター達に瞬殺される様子を、のちにパルムの記録を閲覧した村民が感慨深げに語っている。
 普通の熊のはずが雑魔だったと聞き、慌てて礼状を言付けにオフィス出張所に出向いた移民世代の老人が涙した。周 闘蓮殿の再来、と。

「さすがお嬢様のお気に入りコンソメポテチです……肉々しい」
「うわっ! 見事に全部ひっかかってる」
「全ては美味しいお菓子のため!」
 アルミ袋の開封音からすぐがさつく雑音が映像に混じり、矢の風切りが重なった。
 ミネットの射撃で干し肉と枝に掌を縫いつけられた熊の前後挟撃に、クラベジーナとリューリが躍り出た。キルシッカはシオンを庇い、シオンはキルシッカの横撃を支援する。
「サクッといくよ! ぐーぱぁんち!」
「手刀錬のため! おやすみなさい!」
「かの地のサムライは得物を我が体の延長のように闘いこなしたと聞く……。喰らうがよい。我が渾身の、岩・鉄・砕ぃぃぃぃっ」
 さあぁぃぃっ! さあぁぃぃっ! さあぁぃぃっ!
 こだまのなか──炎のエンチャントを纏った近接攻撃と石つぶてが四方から熊雑魔を襲い、ふっと消えた。
「熊雑魔、消滅確認」
 アミグダが見届けるなか、ミネットが食物連鎖から外れてなお欲に囚われていた熊雑魔へ、片手を上げ伏し拝む。

 ああ、あの技は。あの仕草は。
 感涙にむせぶ老人に、一緒に記録をみた男性ハンターが聞く。知っているのか、老人。
 周 闘蓮殿もよく技にほにゃらら砕と名付け叫ばれていた。ぐーと言いながらぱーで殴っていた。獲物を豪快に倒しては回向を拝んでいた。
 男性ハンターと受付嬢が顔を見合わせ、ツッコんだら負けと頷き合ったのは、これから数日後の話である。


 ──時を戻して……
 ハンター達は巣の前に積み重なった物量に愕然としていた。
「力仕事には自信があるんだけどこれ全部はむりだから、よいのとわるいのと、まず、わけちゃおう……」
「なら、まず私が食物とそれ以外を、状態見てわけます。本能で! 冴え渡る直感で!」
 キルシッカのひらがな的発音が加速して、クラベジーナの本能が炸裂する。
「レシピで必要なのはクルミだけれど、他の木の実も探してみるね!」
「すぐそこに水場がございます。分別しましたものを洗うついでに、腐敗以外の虫食いなども選別いたしましょう」
 リューリが重なった枝の中にハシバミの葉を見つける。多分、他の木の実も期待できる。本来は虫や小動物たちを養っていた山の恵みだ。アミグダの選別に洩れたとしても、元の山の住人の手に戻すだけ。
 くんくんっ!
 餌の山の高さが半減した頃、キルシッカの嗅覚が甘い臭いを捕らえた。
「この木……なかにあまいの、つまってる?」
 恐るべき野生の嗅覚──
 袋詰めを行ったミネットが心配するほどの分量のハチの巣を抱え、おいしいのたくさんっ! とごきげんのキルシッカに、巣穴一帯の清掃を終えたシオンが転ばないようにと呼びかける。埋めた実も胚が生きていれば芽が出ますからと、アミグダに言い含められたパルムが、下山する一行に喜色満面で小さい手を振る。
 避難民の村はもうすぐだ。



「さて、いよいよ手刀錬の本番、じゃな」
 村共同のパン焼き石窯と隣接する広場は村民とハンター達で賑わっている。
 本物のハンターの手刀で幻のレシピが甦るのだ。シオンが見回すまでもなく、ほぼ全員の村民が集まっている。
「灰汁ヌキや下茹での必要なものはこちらへ」
「薪ならまかせてー! どんどん割るから」
 アミグダが広場に据えた鍋に湯を満たす。キルシッカが薪割りに手を上げる。当然のように手刀で。なんの疑いも無く手刀で。流石に太い木の根を割ろうとしたときは止められたけれど、細い追い炊き用の小枝は山のように必要だ。アミグダがピュアウォーターで湯換えの手間を軽減しているけれど、物量が物量すぎて複数の鍋が必要だった。
 ここまで集めるとはすごいな。熊。いや、熊雑魔。

「それでは、山の恵み畑の恵み、熊の恵みに感謝して……いただきます!」
 周 闘蓮殿は調理と食事の前に感謝の祈りを手刀に込めていた。村民の語りを元に、ミネットが最初の一刀を祈りと共に振り下ろす。
「てぇぇええいっ!」
 見よ。この鍛錬の成果!
 オフィスで依頼詳細を見て、山に向かい、熊雑魔を倒し、荷物を村に運ぶまで、手刀を振ってきたのである。これがッ! これこそがッ! 食へのッ! 執念ッ!
 キラリと光るものは涙か、微笑みに覗く白い歯の輝きか。
 それを皮切りに、広場と石窯前の調理台で手刀の乱舞が始まった。

「初めてのお菓子ですから、レシピをしっかり覚えて帰りたいんです」
 クラベジーナが口伝と手記とおかんの知恵をあまさず網羅せんと、メモ片手に材料を台に置いていく。お菓子作りの基本は計量に始まり計量に終わる。家庭向けレシピから、村全体の祝祭向けのレシピまで、クルミをクマすレシピもクリで済ますレシピも、全てこの村の歴史の賜物。
 クリで済ます予定もあったことを鑑みて、いっそ両方のレシピで作っちゃおうと大雑把な方針が即席で決められていたのだが、クラベジーナの女子力の前には大した問題ではなかった。
「小麦粉は鉢に2杯、スパイスは一掴み、フルーツとナッツはそれぞれ丼3杯……このスパイスも砕けばいいんですよね? 手刀で」
 えいっ! えいっ! えいっ!
 愛らしく女子力の高い掛け声が響く。ゴスッ! ガスッ! と鈍い音が混ざる。時折、調理台が軋む。
「おさとうの代わりにハチミツをつかうから、ドンブリになんばいいるか、きいてみて!?」
 薪割りを終えたキルシッカが、今度はハチの巣の粉砕にかかる。ナッツとは違うから、工夫しないといけないわよね。などと、試行錯誤に余念がない。木のウロの中に何層にも重なった巣を手刀で割り、蜜蓋も手刀で剥ぎ取る。
 コキャ!
「あまいにおい、いっぱいするね」
 ハチミツの採取方法はいくつかあるが、キルシッカは圧搾法を選んだようだ。
 蜜蝋は蝋燭に使ってもいいし、化粧品も作れるよね。と、クラベジーナとキルシッカが素敵なプランを村民の奥様達と相談しはじめる。甘い匂いの保湿クリームとか石鹸とか、素敵よねぇ。ロマンチックよねぇ。美容にもいいんですって、でも、若いんだから神経質になることないわよ。あら、ちょうど丼に必要なだけ貯まったわ。キャッキャウフフ。
 ゴスッ! ガスッ! コキャッ! グシュッ!
 軽快なBGMとともに丼勘定は進み、女子力は高まるばかりである。

 ……すぅはぁ。
 シオンは調理台を前に手刀を正眼に構え、呼吸を整える。
 サムライであるならば正眼で臨むべきであるとの結論に達した故である。目前には、軸を下に据え、合わせ目を天にむけた殻付のクルミ。静かに睨むシオンの髪が濡羽に輝き、オーラじみた気を背に放つ。
「クルミよ……主に罪は無けれど覚悟めされい!」
 気合一閃! ぅおりゃぁっ! と雄々しく吼え──
「うにゃぁああああああっっっ!」
 猫型哺乳類の大型と小型を一気に駆け抜ける。
「だ……大丈夫ですか?」
 ミネットが慌てて駆け寄る。記憶を辿れば数時間前、ぴょんぴょんしながらシオンが掌を押さえている部位は、思いっきり固い木の瘤にインパクトした場所ではなかったか?
(はぁう! 手刀道は果てしなき遠くでござるよ)
(また固いところを狙い撃ちしちゃってるじゃないですか。あのですね、私、何度か試してみて、ちょっとコツ見つけたかもしれません)
(……なんと! して如何に?)
 ほらここ。固いところと脆いところがあるじゃないですか? 斜めに少し浮かした状態で、手刀でクルミ同士か台に叩きつけるんです。すると、脆いトコに集中的に衝撃が加わってですね……
 ならば一人が浮かしてセットし、一人が手刀で打つ、と…
 シオンとミネットが相談を始める。クルミは山積みなのだ。これは効率化を図って然るべき案件である。儀礼的意味が強いが手刀を使っていれば手刀錬の条件は満たされる。分業による飛躍的向上。何かに似ている構図であるが、シオンはサムライ文化の応用性に更なる感服を深めるだけだったので、特に問題はなかった。
「拙者たちは登り始めたばかりじゃからの。この手刀道を……な」
 格好良くクルミの山に向かうシオン。
 リズミカルな掛け声と打撃音は、リアルブルーの日本人なら餅つきを思い出すに違いない。

「このアーモンドも下茹でお願いできますか?」
 リューリが見つけた木の実類に、マジパンに使えるアーモンドがあった。
 もし用意できたら、というユルい条件だったけれど手刀錬の心材にマジパンを使うレシピもあるらしい。
 アミグダは快諾するともうひとつ、リューリが持つ鍋を見て首をかしげる。
「ハチミツのおかげで砂糖に余裕ができたんです。ナッツもいっぱいあるから、飴掛けとタフィーが作れるかな? って」
「ならば、フルーツを砕くついでにアーモンドの擂り潰しまでを引き受けますから、村民の子供たちと飴作りにかかるとよいでしょう」
 と、アミグダがコンロの火口をひとつ空ける。
 わっと子供たちが寄ってきて、クルミとヘーゼルナッツのかけらを飴に混ぜいれる。手刀は冷ましてからね。笑ってリューリが掬った飴を鉄板の上に落とす。クリスマスモチーフに形を作るが、子供のやることだ。クリーチャーが鉄板に描かれる。手刀で割りやすいようにね。と、柔らかいうちに隠し包丁で筋をつけるのだが、小さな口に合わない大きさで筋をつけようと必死だ。
「手刀……」
 アミグダは微笑ましげに子供たちを見ると、目の前の材料と大包丁とアースグローブに対峙する。
 ゴリッ!
 やはり包丁とは違う……いや、手開きや手捏ねとも違う。
 料理はお嬢様のために極めたつもりだったが、リアルブルーの料理は斬新だ。
 なにか深遠なる理由があるに違いない。
 ゴリッ! ゴリッ! ゴリッ!
 村民の奥様方が、甘いパン生地に練り合わせるためアミグダを呼ぶ。
「ああ。表面が荒れて不揃いだと、味がしみて生地と絡んで食感が楽しい。と……そういうことでしたか!」
 練り合わせてわかる料理の科学。なるほど、これは応用できる。──肉料理に。
 お嬢様のためのスイーツ探しのつもりだったけれど、この豪快さは肉に似合う。

 赤子の産着のように楕円に、横から見て凸型に。
 整形のための手刀をいれ、手刀錬の生地は石窯に納められた。



 手刀錬の焼ける匂いがたちこめはじめる。

「安堵弁当とは……大変だったのですね?」
 アミグダの言葉をうけた村民の問わず語りに、ハンター達は耳を傾ける。
 寒村だったこの村に辿り着いた時、季節は冬。取り急ぎ家畜小屋に間借りをし、生活を立て直す険しさに追われていた中に、赤ん坊が生まれようとしていた。不安に怯える母親に、故郷の祝い菓子だとありあわせの材料で作ってくれた。それが手刀錬。
 武道に明け暮れた自分が、名前が似ているからと覚えた菓子。由来通りに誕生を祝福できて良かった。と、周 闘蓮は笑ったのだという。
「故郷に帰りたい?」
 誰かが聞く。いいえ、と答える。こここそが私達の故郷だと。

 しんみりとした空気を吹き飛ばすように、焼きあがった手刀錬が運ばれてくる。
 バターと粉砂糖を纏い、本来の由来の通りに産着の幼子のように。

 きらきらと目を輝かせたキルシッカが、村長の音頭で一刀をいれる。
 全員に行き渡るのをじっと待つ。
「これが出来上がり……美味しいでござる! 噛むたびに複雑な味が口に広がるでござる!」
 シオンがもちゅっと一口。崩れる相好。あとは止まらなかった。
「……美味しい。これが手刀錬……」
 焼きたてでこれなら、熟成したらどうなっちゃうんだろう?
 クラベジーナはメモったレシピを家でも作ろうと思い立つ。試さずにはいられない。
「え? おかわりOKですか? クリで済ませたほうもあるんですか? 美味しいです。全部美味しいです!」
 ミネットが差し出される手刀錬を削っては口に運ぶ。
「じぶんのてでつくったおかしって……」
「癖になりそう。ね!」
 キルシッカとリューリが顔を見合わせ笑う。

「まだ材料はあるのじゃろう? 幸せを祈り祝福する焼き菓子じゃ。みな、もっともっと日々折々に幸せにならねばならん」
 シオンが追加の菓子作りを呼びかけ皆が賛同する。
 後日──
 また手記に新たな1ページが加わった。



 節句(せっく)とは──

 四季折々の節目に、日々の感謝と幸せを想い作り味わう焼き菓子(せっく)。
 手刀錬作りに賛同したハンター達が作った安堵弁当である。

 なお、本当に弁当箱に詰めた物を御節、と呼ぶのはリアルブルーの秘伝である。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • THE SAMURAI
    シオン・アガホ(ka0117
    エルフ|15才|女性|魔術師
  • 荊の果実
    アミグダ・ロサ(ka0144
    人間(紅)|24才|女性|魔術師
  • 豪腕パティシエール
    クラベジーナ・フロラシオン(ka0334
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 野生の嗅覚
    キルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300
    エルフ|13才|女性|霊闘士
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/21 01:18:55
アイコン 相談卓
クラベジーナ・フロラシオン(ka0334
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/12/21 01:28:05