ゲスト
(ka0000)
よさげな物件ないですか
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/06/03 19:00
- 完成日
- 2018/06/09 13:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●辺境・タホ郷
カチャはタホ郷に戻っていた。農作業を手伝うために。
タホ郷は冷涼な山岳地帯にあるので春が遅い。今がちょうど作付けの時期なのだ。
以下はその作業中、母ケチャと彼女との間に交わされた会話である。
「カチャ、あなた例の彼女と結婚する気なのよね?」
「えっ、はい、その、はい、そうです一応……」
「そう。じゃあそれ、来年の春にしてくれない?」
「えっ」
「えっ、て。結婚するんでしょう?」
「それはまあいつかはその、でも、なんでいきなりそんな具体的に時期を設定してくるのかなってその」
「丁度いいからよ。あなたここ数年ずっと郷に住んでないから詳しく知らないでしょうけど、来年の春はタホ郷、結婚ラッシュなの。うちの近所だけでも3件。アブンさんのところの娘さんに、ツエペさんのところの息子さん、イマさんのところの息子さん。郷全体だと9件にもなってね。全部を別々にやると時間も手間も取られてしまうから、合同でやったらどうかっていう話になって――この間の総会で。だから、ついでにあなたのも一緒にしたらいいんじゃないかと思ってね。どう?」
「どうって言われても、相手のあることだし私の一存じゃ決められないし」
「あらそう。まあ、まだ春までに十分時間があるから、明日あさってに結論を出さなくてもいいけど……考えてはおきなさい?」
●冒険都市リゼリオ
(……新しい部屋探そうかな。結婚のことがあってもなくても、いつまでもアレックスさんにお世話になり続けるわけにもいかないし。私もう成人してるし、1人でだって部屋を借りられないことはないはず……)
つらつら考えながらカチャは、リゼリオのアパートに戻ってくる。
すると後見人兼同居人であるアレックスに、意外なことを言われた。
「なあカチャ、お前この部屋に住み続ける気はあるか。もしあるなら、譲ってもいいと思うんだけどよ。俺は来年の春には、ここを出て行くことにしようと思うから」
「えっ。な、なんですいきなり。どうしてです?」
「いやな……ジュアンと結婚することになってな……来年の春。そんでさ、一緒に住むことになって。そうじゃないと承知しねえってあいつが脅――言うからな」
初耳であるが寝耳に水という感じはしない。
なんとなくそういう流れになるんじゃないかなという気はしていたのだ。この間過去の恋人の件でジュアンともめ倒していた時点で。
「そうですか。おめでとうございます。でもそれなら、お二人で一緒にここに住まわれたらどうです? 実は私もここを出て、別の部屋を借りようかなって思ってるんです」
と言ってカチャはアレックスに、故郷での一件を伝えた。
「そうか。いや、でも俺な、ジェオルジに越す予定でな……だからどっちみちこの部屋、いらなくなるんだよ」
「ジュアンさんはリゼリオに来てくれないんですか?」
「ない」
これは相当強く相手から言われているなということを、アレックスの語調から感じとるカチャ。話題を変える。
「そういえばジェオルジ支局、モンキチに吹き飛ばされたと聞きましたけど――その後どうなってるんですかね」
「ああ、あれなら数日後に仮営業所が建ったぜ。マリーとジュアンはそこで仕事してる」
●ジェオルジ
ハンターオフィス・ジェオルジ支局があった場所では、再建工事が行われていた。
歪虚の攻撃によって吹き飛ばされた場所にまず土を盛り神霊樹の分樹を植え直す。
それから、改めて四方に土台を築いて行く。完全復旧まで一月はかかるそうだ。
その工事現場かの近くには真四角の建物が2棟並んでいる。色は砂色。
右の一軒には『ハンターオフィス・ジェオルジ支局臨時営業所』の表札、左の一軒には『臨時コボちゃんハウス』の表札がかけられている。
支局職員のマリーとジュアンは工事現場のすぐ横にある仮設オフィスの窓から、工事の進捗具合を眺めている。
「早く出来るといいんだけどねー」
「そうだね。まあ、こうやって仮営業所がすぐ来たから仕事自体には支障ないんだけどさ」
と言いながらジュアンは、壁の掲示板を見た。
数々の依頼に交じってそこには、一枚のポスターが貼られている。
緑の島がいろんな角度から撮影された写真と、以下の文字。
『ユニゾン島・市民募集中。詳細は窓口に置いてあるパンフレットをご覧ください』
首をクルリと反対方向に回す。
そこには応接ソファに座りのんべんだらりしているナルシスがいる。
オフィス支局が歪虚の襲撃にあって吹き飛んだ後、彼の姉のニケが商会を通じてマゴイに連絡を取り、急遽この仮設住宅を借り受けてきたのだそうだ。先方には『ユニオンを広く世間に知ってもらういい機会になりますよ』とか言いくるめたらしい(そのお陰であのポスターがついてきたのだ。ついでにパンフレットも)。
この手の打ち方の早さ。弟を養ってくれている相手に失職されては困るという強固な意志の現れだろうか。
それにしても四角い。四角すぎて家というより箱の中にいる感じがしなくもない。何事も慣れではあろうが何故マゴイは、というかユニオンは、こんなにも四角形を偏愛するのであろうか。
「そういえば今度の春郷祭、ユニゾン島も参加するんだってね」
「うん、どうもそうみたい。何を持ってくるのか謎だけど。それはそれとしてジュアン、あんた、新しい転居先探してるんだって?」
「うん。春までには決めたいなって。アレックスと一緒に住むには、今の借家じゃ手狭だからね」
「結局向こうをこっちに呼ぶんだ?」
「当然だよ。目が届かないと何をするか分からないしねアレックスは」
●冒険都市リゼリオ
カチャはひとまず、不動産屋で賃貸物件を見て回ることにした。
(とりあえず、リゼリオから出たくはないかなー。町中の方が便利だし)
毎月返済しなければならないローンも背負っているので、なるべく可能な限り穏当な家賃がいいのだが……と思案しながら張り紙を見て回る。
カチャはタホ郷に戻っていた。農作業を手伝うために。
タホ郷は冷涼な山岳地帯にあるので春が遅い。今がちょうど作付けの時期なのだ。
以下はその作業中、母ケチャと彼女との間に交わされた会話である。
「カチャ、あなた例の彼女と結婚する気なのよね?」
「えっ、はい、その、はい、そうです一応……」
「そう。じゃあそれ、来年の春にしてくれない?」
「えっ」
「えっ、て。結婚するんでしょう?」
「それはまあいつかはその、でも、なんでいきなりそんな具体的に時期を設定してくるのかなってその」
「丁度いいからよ。あなたここ数年ずっと郷に住んでないから詳しく知らないでしょうけど、来年の春はタホ郷、結婚ラッシュなの。うちの近所だけでも3件。アブンさんのところの娘さんに、ツエペさんのところの息子さん、イマさんのところの息子さん。郷全体だと9件にもなってね。全部を別々にやると時間も手間も取られてしまうから、合同でやったらどうかっていう話になって――この間の総会で。だから、ついでにあなたのも一緒にしたらいいんじゃないかと思ってね。どう?」
「どうって言われても、相手のあることだし私の一存じゃ決められないし」
「あらそう。まあ、まだ春までに十分時間があるから、明日あさってに結論を出さなくてもいいけど……考えてはおきなさい?」
●冒険都市リゼリオ
(……新しい部屋探そうかな。結婚のことがあってもなくても、いつまでもアレックスさんにお世話になり続けるわけにもいかないし。私もう成人してるし、1人でだって部屋を借りられないことはないはず……)
つらつら考えながらカチャは、リゼリオのアパートに戻ってくる。
すると後見人兼同居人であるアレックスに、意外なことを言われた。
「なあカチャ、お前この部屋に住み続ける気はあるか。もしあるなら、譲ってもいいと思うんだけどよ。俺は来年の春には、ここを出て行くことにしようと思うから」
「えっ。な、なんですいきなり。どうしてです?」
「いやな……ジュアンと結婚することになってな……来年の春。そんでさ、一緒に住むことになって。そうじゃないと承知しねえってあいつが脅――言うからな」
初耳であるが寝耳に水という感じはしない。
なんとなくそういう流れになるんじゃないかなという気はしていたのだ。この間過去の恋人の件でジュアンともめ倒していた時点で。
「そうですか。おめでとうございます。でもそれなら、お二人で一緒にここに住まわれたらどうです? 実は私もここを出て、別の部屋を借りようかなって思ってるんです」
と言ってカチャはアレックスに、故郷での一件を伝えた。
「そうか。いや、でも俺な、ジェオルジに越す予定でな……だからどっちみちこの部屋、いらなくなるんだよ」
「ジュアンさんはリゼリオに来てくれないんですか?」
「ない」
これは相当強く相手から言われているなということを、アレックスの語調から感じとるカチャ。話題を変える。
「そういえばジェオルジ支局、モンキチに吹き飛ばされたと聞きましたけど――その後どうなってるんですかね」
「ああ、あれなら数日後に仮営業所が建ったぜ。マリーとジュアンはそこで仕事してる」
●ジェオルジ
ハンターオフィス・ジェオルジ支局があった場所では、再建工事が行われていた。
歪虚の攻撃によって吹き飛ばされた場所にまず土を盛り神霊樹の分樹を植え直す。
それから、改めて四方に土台を築いて行く。完全復旧まで一月はかかるそうだ。
その工事現場かの近くには真四角の建物が2棟並んでいる。色は砂色。
右の一軒には『ハンターオフィス・ジェオルジ支局臨時営業所』の表札、左の一軒には『臨時コボちゃんハウス』の表札がかけられている。
支局職員のマリーとジュアンは工事現場のすぐ横にある仮設オフィスの窓から、工事の進捗具合を眺めている。
「早く出来るといいんだけどねー」
「そうだね。まあ、こうやって仮営業所がすぐ来たから仕事自体には支障ないんだけどさ」
と言いながらジュアンは、壁の掲示板を見た。
数々の依頼に交じってそこには、一枚のポスターが貼られている。
緑の島がいろんな角度から撮影された写真と、以下の文字。
『ユニゾン島・市民募集中。詳細は窓口に置いてあるパンフレットをご覧ください』
首をクルリと反対方向に回す。
そこには応接ソファに座りのんべんだらりしているナルシスがいる。
オフィス支局が歪虚の襲撃にあって吹き飛んだ後、彼の姉のニケが商会を通じてマゴイに連絡を取り、急遽この仮設住宅を借り受けてきたのだそうだ。先方には『ユニオンを広く世間に知ってもらういい機会になりますよ』とか言いくるめたらしい(そのお陰であのポスターがついてきたのだ。ついでにパンフレットも)。
この手の打ち方の早さ。弟を養ってくれている相手に失職されては困るという強固な意志の現れだろうか。
それにしても四角い。四角すぎて家というより箱の中にいる感じがしなくもない。何事も慣れではあろうが何故マゴイは、というかユニオンは、こんなにも四角形を偏愛するのであろうか。
「そういえば今度の春郷祭、ユニゾン島も参加するんだってね」
「うん、どうもそうみたい。何を持ってくるのか謎だけど。それはそれとしてジュアン、あんた、新しい転居先探してるんだって?」
「うん。春までには決めたいなって。アレックスと一緒に住むには、今の借家じゃ手狭だからね」
「結局向こうをこっちに呼ぶんだ?」
「当然だよ。目が届かないと何をするか分からないしねアレックスは」
●冒険都市リゼリオ
カチャはひとまず、不動産屋で賃貸物件を見て回ることにした。
(とりあえず、リゼリオから出たくはないかなー。町中の方が便利だし)
毎月返済しなければならないローンも背負っているので、なるべく可能な限り穏当な家賃がいいのだが……と思案しながら張り紙を見て回る。
リプレイ本文
●リゼリオ
不動産屋前で張り紙を見ていたカチャは前方にのめり、壁に額をぶつけた。
リナリス・リーカノア(ka5126)が助走をつけ、背後から飛び掛ってきたのだ。
「なにしてるのっ♪」
「リナリスさん、危ないですって!」
リナリスはテヘ、と舌を出しカチャの赤くなった額を撫でた。
「ねえねえ、式の予定とか、家族の方と相談してきてくれた? あたしの家はいつでも大丈夫だってママが♪」
「あ、そのことなら、ええとですね、母は来年の春に式を挙げるようにしてくれたらって言ってきたんですけど……リナリスさんはそれでいいですか?」
「やったー♪ もちろんOKだよっ♪」
正面から抱き着かれ、今度は壁で後頭部を打つカチャ。
レイア・アローネ(ka4082)がそこに通りがかった。
小耳に挟んだ2人の会話に興味がわいたので、係わりあいになってみることにする。
「ちょっと尋ねるが、お前はカチャ・タホか?」
「あ、はいそうです。あの、あなたは?」
「私はレイア・アローネだ、宜しく。お前の噂は色々と聞いている」
「……あのー、どういう噂ですか?」
「とにかく色々だ」
というやり取りを交わしている所、天竜寺 舞(ka0377)と天竜寺 詩(ka0396)がやってきた。
「あれ? カチャじゃない。不動産屋の前でどうしたの?」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
パンフレットを読んだルベーノ・バルバライン(ka6752)は溜め息をついた。
「エネルギー問題解決前にユニゾンの市民を増やすのか? 大丈夫なのか、マゴイ……」
ソファにいるナルシスが、肩をすくめて彼に言う。
「大丈夫でしょ。それ読んで市民増志願者になる奴、まずいないから」
そうかも知れない。
パンフレットの前半部分は衣食住完備、労働条件の良好さといったことが書かれているのだが、後半部分は丸々ユニオンの理念解説――私的所有の禁止、家族制度の否定、胎外生殖等々――に費やされている。
これを読んだ上で『なるほど素晴らしい。市民になろう』と思える人間は、恐らくほとんど存在しないだろう。
とはいえルベーノはやはり心配だ。
「ところでマリー、ジュアン。ユニゾン島にオフィスの事務所を作ってもらうにはどうしたらいい――」
●リゼリオ
カチャから新居捜しの経緯を聞いたリナリスは、チャンスとばかり押しまくる。
「……ねぇ、一緒に住まない? ううん、一緒に住もうよ。結婚するんだもん、その方が自然じゃない?」
カチャに拒む理由はなかった。
「……そうですね。ええと、じゃあ……一緒に住みましょ。新居が決まったら」
詩は素直に他者の幸福を喜び、拍手する。
「そっかー。式を挙げる時には是非呼んでね」
「はい、それはもちろん。ところでその、詩さんは新しく部屋を借りるとき、どんなでしたか? 私これまでやったことがないんで、正直やり方がよく分からないんですが……」
との質問には眉を下げ、舞の方をちらり。
「私もお姉ちゃんも自分で部屋を借りた事ないからなぁ」
舞も困り顔で頭をかく。
「詩の言う通りリアルブルーではまだ学生で実家暮らしだったし、こっちに来た時はロッソの人が手続きしてくれた気が――」
それを横で聞いていたレイアはカチャに対し、こんな疑問をぶつけた。
「そもそも今のアパートに継続して住む訳にはいかんのか? 同居人も引っ越して譲ってくれるんだろう。お相手と住めばいいのでは?」
「ええその、それも一応検討してはいたんですけど……どうせならこの機会に心機一転したいかなって。よくよく考えたら今のアパート、マゴイさんに場所が割れてるんですよ。いつでも鏡面訪問されかねない潜在的リスクを鑑みると、やっぱり新しい場所に移った方がいいかなって」
「そ、そうか……済まなかった……まあだとすると新居探しはやはり相方と話し合わなければな?」
レイアから視線を向けられたリナリスは、何度も頷いてみせた。
「カチャに任せると、周りにマフィアの親分とシリアルキラーと百合の王子様が住んでて地縛霊が1ダース位憑り付いてる物件に当たっちゃいそう♪ ねえカチャ、家賃折半しよ♪ そうすれば新居のランク上げられるし♪」
「それが妥当だろうな。リナリスはいくら貯めているのだ?」
「んー、カチャよりは確実に多いよ♪」
「そうか。ならいっそ、頭金を出してしまうのもいいかもしれんな」
そこで新たな人間が場に入ってくる。
マルカ・アニチキン(ka2542)とエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
まずマルカがカチャに言った。
「カチャさんには色々お世話になっておりますので、微力ながらお手伝いさせていただきたいかと……」
「あ、ありがとうございます」
続けてリオン。
「賃貸物件を探されているとお聞きしました。この前のお礼に手伝わせてください」
「この前……ああ、あの結婚申し込み話ですか。どうなったんです、あの後」
「誠心誠意、説得したら、穏便に断ることが出来ました」
「そうですか。よかった。気になってたんですよ、私がアドバイスしたことで、かえってこじれていやしないかって」
胸を撫で下ろすカチャ。
リオンは彼女に聞こえないほどの小声で呟く。
「箱入り娘でしたから、陥落させるのは楽でしたね」
それから常識的な提案を行う。
「とりあえず、ハンターズギルドへ行って不動産屋を紹介してもらいませんか? いきあたりばったりに不動産店を巡るより、そちらの方が安全性が高いと思いますから」
舞と詩は場を離れることにした。これだけ人が集まったなら、自分たちは退場して差し支えないだろう、と。
「ま、ゆっくり2人で考えなよ」
「リナリスさんとお幸せにね」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
「――知らぬから軋轢が生まれるなら、知り合ってしまえばどうということはあるまい」
「……あのね、住民が何人いるとかいう以前にユニゾン島って現在、どこにも属してないでしょ? 公的に認められた国でも町でも村でもないでしょ? スペックが異様に高いとしても。そんな所に支局開設なんて無理よ。どうしてもやりたいなら……同盟に参加して都市国家としての立場を得ることから始めないと」
「僕もそう思う……支部じゃなくて、オフィスへの依頼窓口を設ける程度にしておいたらどう? それなら転移門のための植樹も本部からの人員派遣も必要ないから、認可されると思うけど。開設した後維持費も、ほとんどかからないし」
という会話が3者の間で交わされている中、外から声が聞こえてきた。
「これ、ユニオンの簡易宿泊所?」
「あ、ユニオン製か。なるほどね。形からしてなんかそれっぽい」
扉を開けて入ってきたのは……舞と詩だ。
「あら、揃って来るのは珍しいわね」
というマリーに舞がチョコ餅を渡す。ソファでだらけるナルシスに見下げ果てたような一瞥を向けて。
「詩がお見舞いに行きたいってからさ。これ、よかったら食べてよ」
詩はジュアンにブランデーを渡す。姉がナルシスに向ける視線には気づかなかったふりをして。
「マリーさん、ジュアンさん、大変だったね。でも無事でよかった。カチャに聞いたけど結婚するんだって? これお姉ちゃんと私からのお祝い」
●リゼリオ
「――あと防音もしてあった方がいいかな、カチャってたまに大きな声「リナリスさんっ!」
プライベートを暴露するリナリスの口を手で押さえるカチャ。
ハンターギルド推薦の不動産屋は彼女らのやり取りに顔色ひとつ変えず、幾つもの物件を提示してきた。
カチャ、リナリス、並びにそれを取り巻く人々は、早速内見に向かう。
最初に訪れた物件は、商店の集う一角にある一戸建。一階が店舗スペース、二階が住居スペース。
広さ、日当たり申し分なし。風呂つき庭付き壁厚し。
「わー、すごーい、おっきいっ」
「リナリスさん、あんまりあちこち触っちゃ駄目ですよ。まだ借りるって決まったじゃないんですから」
カチャたちの姿を眺めレイアは苦笑する。いくらかの羨ましさも交えて。
「ふぅむ……女同士というのも珍しいが…どうあれこれから生活を共にする二人を見るのはなかなか微笑ましいものだ……」
不動産屋は恵比須顔で、物件アピール。
「いかがです? 借りますか借りませんか?」
カチャはだいぶ心動かされた。
しかし舞たちから事故物件について聞かされ、マルカからその手の怪談話も聞かされで、多少用心深くはなっている。
「あのー……ここで行方不明者が出たとか事件が起きたとかこの場所自体が異次元だとかそういうことはないですか?」
「ご安心ください、そういうことはありませんよ」
リオンも聞いた。壁の具合を拳で確かめながら。
「泥棒に入られたとかはありませんか?」
「いいえ、そういうことも全然ありません。ただ、ちょっとしたジンクスがあるだけです。けれども、お客様がたには何の支障もございません」
との言葉に、レイアが突っ込む。
「ジンクスとは?」
「この場所で商売を始めた人間は必ず失敗するというジンクスです。私の知る限りでも20人の商人がこのジンクスに挑み、敗れ去って行きました。ですが店舗としてではなく住居としてのみ使うなら、ジンクスも発生しようがないはず。大丈夫ですよ」
それを聞いてマルカは、カチャにそっと破魔矢を手渡した。
「これをどうぞ。備えあれば憂いなしと言いますから……」
再度不動産屋がカチャに質問をする。
「で、借りますか借りませんか?」
破魔矢を握ったカチャは、散々考えた後言った。
「き……キープでお願いします」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
「ね、コボちゃん、新しいお家はどんなのがいい? コボちゃんとお話出来るようになったし意見を聞かせて欲しいな」
「まぁこの四角い家が気に入ってるならそれでもいいけど、前みたいな家がいいならそう言いな。なるべく希望に沿うようにするからさ」
舞の干し肉を食べたコボちゃんは詩の求めに応じ、クレヨンでスケブに絵を描いた。
そこにあるのは以前と同じく切り株を模した家。
よっぽど前の住居が気に入っていたらしい。
「このうち、かたすぎ。つめとげない、ふべん」
恨めしそうに仮小屋を見るコボちゃんの頭を、舞はぐしゃぐしゃ撫でる。
「分かった、じゃ、そのうちまた新しいの作ってやるよ」
コボちゃんは喜び、ぴょんぴょん撥ねる。
そこへルベーノがやってきた。
「コボ、おまえの家も当分は仮設なのだろう? 俺と一緒にユニゾンの仲間に会いに行くか? 気分転換に」
コボはぴっと耳を立て、手を上げた。
「こぼ、ゆく!」
●リゼリオ
夕暮れ。一通り物件を見て回ったカチャたちは、帰路についている。
「まだ転居まで時間あるから焦らずじっくり探そ。ね、あたし結婚式までにカチャの部族の一員になる方がいいのかな? それとも結婚式と同時?」
「えーと、同時です」
「じゃあ、刺青はいつ入れようか? 部族に刺青を施す役目の人がいるのかもしれないけど、出来れば、カチャにあたしの刺青彫って欲しいな♪ 全部じゃなくていいから♪」
「ええ? 私素人ですから、私がすると余計痛くなりますよ?」
「カチャになら痛くされても大丈夫♪ たとえ一刺しだけでも……ね?」
「……分かりました。じゃあ……一刺しだけですよ」
彼女らの後ろを歩くレイアは、横にいるリオンに聞いた。
「お前には恋人がいるか?」
「いいえ、今のところは。レイアさんはおられるんですか?」
「いいや、いない。ああいうのはどうやったら出来るものだろうな」
「そうですね……一番手っ取り早いのは、来るもの拒まずの姿勢を貫くことでしょうか」
「……」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
マルカは手土産のヒカヤ紅茶をすすりながら、マリーたちと世間話。
「――というわけで、今コボちゃんいないのよ。ルベーノとユニゾン島行ってて。そうそう、ルベーノね、もし支局が出来たら移住して支局長になる気はないかって、ジュアンに聞いてたわ。そしたら、アレックスの浮気封じになるんじゃないかって」
「ジュアンさん、承知されたんですか?」
「まさか。やだよ僕は。ユニオンって目移り公認の社会体制でしょ? ところで、カチャも結婚するんだって?」
「はい。今リナリスさんと新居を探しておられます……」
マルカは遠くない未来に思いを馳せる。
するとどうしたことだろう、アレックスの新たな浮気問題発生やら女傑有志によるカチャタホ争奪戦勃発やらといったろくでもない光景ばかりが浮かんできた。
人知れず絶望の表情を浮かべ、ぐっと唇を噛む。
(恐らく、どちらの悲劇も止められない。その時、私にできることはただ被害を最小に留められるよう全力を尽くすのみ、です……!)
彼女のパルムはテーブルの片隅に座っている。
そのあたりで拾った葉っぱを使い、折り紙。出来上がったのは真四角なおうち。
なかなか器用なパルムである。
●ユニゾン島
船が島に入港したときには、日が落ちかけていた。
「マゴイ。コボルド……元気だったか?」
『……元気よ……あなたも元気そうで何より……』
マゴイは白いリースをふわふわ頭上に浮かせ目を細め、コボルドたちはコボちゃんと一緒にドッグフードを漁る。
両者ルベーノのお土産に満足しているようだ。
「市民を増やしたいという要望があると聞いてな、手伝いと調査に来たぞ」
から始めてルベーノはマゴイに、マリーたちから得た情報を伝える。その上でこう付け加える。
「お前たちの名付けのとおり、ここはクリムゾンウエストに存在するユニオンだ。ならばクリムゾンウエストの人間が安心できる施設と共存する方が人が集まりやすいかもしれん」
マゴイは少し考え、こう述べた。
『……外部者宿泊所敷地内になら……外部者の施設を置くことは可能……』
窓口設置は出来るようだ。
よかったと思いながらルベーノは、イクシード・プライムとイクシード・フラグメントを差し出した。
「……これがウテルスの稼働に使えるか確かめに来た」
『………サンプルの提供感謝するわ……ちょうどマテリアル炉の……模型が出来たところ……その実験に使いましょう……』
「何、もうそんなものを作り上げたのか?」
『……ええ……模型程度なら作るのは簡単………あなたは外部者だけど……ユニオンのよい理解者だと思うので……実験を見ていってもいい……』
マゴイはコボルドたちと共にルベーノも、島の砂州に連れて行った。そこにはこの間南方大陸から運んできた簡易住宅が、横一列に隙間なく並べられていた。
その後彼女は一旦地下に潜り、透明な小箱を携えて戻ってきた。
箱の上方を開けイクシードを入れ込み、閉め、砂の上に置く。
イクシードが箱の中で光の粉を吹き始める。箱から銀色の管が伸び簡易住宅の壁に張り付く。
その途端全ての住宅に明かりが灯る。
『……出力が弱いけど……実験成功……』
マゴイは、嬉しそうに微笑んでいた。
不動産屋前で張り紙を見ていたカチャは前方にのめり、壁に額をぶつけた。
リナリス・リーカノア(ka5126)が助走をつけ、背後から飛び掛ってきたのだ。
「なにしてるのっ♪」
「リナリスさん、危ないですって!」
リナリスはテヘ、と舌を出しカチャの赤くなった額を撫でた。
「ねえねえ、式の予定とか、家族の方と相談してきてくれた? あたしの家はいつでも大丈夫だってママが♪」
「あ、そのことなら、ええとですね、母は来年の春に式を挙げるようにしてくれたらって言ってきたんですけど……リナリスさんはそれでいいですか?」
「やったー♪ もちろんOKだよっ♪」
正面から抱き着かれ、今度は壁で後頭部を打つカチャ。
レイア・アローネ(ka4082)がそこに通りがかった。
小耳に挟んだ2人の会話に興味がわいたので、係わりあいになってみることにする。
「ちょっと尋ねるが、お前はカチャ・タホか?」
「あ、はいそうです。あの、あなたは?」
「私はレイア・アローネだ、宜しく。お前の噂は色々と聞いている」
「……あのー、どういう噂ですか?」
「とにかく色々だ」
というやり取りを交わしている所、天竜寺 舞(ka0377)と天竜寺 詩(ka0396)がやってきた。
「あれ? カチャじゃない。不動産屋の前でどうしたの?」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
パンフレットを読んだルベーノ・バルバライン(ka6752)は溜め息をついた。
「エネルギー問題解決前にユニゾンの市民を増やすのか? 大丈夫なのか、マゴイ……」
ソファにいるナルシスが、肩をすくめて彼に言う。
「大丈夫でしょ。それ読んで市民増志願者になる奴、まずいないから」
そうかも知れない。
パンフレットの前半部分は衣食住完備、労働条件の良好さといったことが書かれているのだが、後半部分は丸々ユニオンの理念解説――私的所有の禁止、家族制度の否定、胎外生殖等々――に費やされている。
これを読んだ上で『なるほど素晴らしい。市民になろう』と思える人間は、恐らくほとんど存在しないだろう。
とはいえルベーノはやはり心配だ。
「ところでマリー、ジュアン。ユニゾン島にオフィスの事務所を作ってもらうにはどうしたらいい――」
●リゼリオ
カチャから新居捜しの経緯を聞いたリナリスは、チャンスとばかり押しまくる。
「……ねぇ、一緒に住まない? ううん、一緒に住もうよ。結婚するんだもん、その方が自然じゃない?」
カチャに拒む理由はなかった。
「……そうですね。ええと、じゃあ……一緒に住みましょ。新居が決まったら」
詩は素直に他者の幸福を喜び、拍手する。
「そっかー。式を挙げる時には是非呼んでね」
「はい、それはもちろん。ところでその、詩さんは新しく部屋を借りるとき、どんなでしたか? 私これまでやったことがないんで、正直やり方がよく分からないんですが……」
との質問には眉を下げ、舞の方をちらり。
「私もお姉ちゃんも自分で部屋を借りた事ないからなぁ」
舞も困り顔で頭をかく。
「詩の言う通りリアルブルーではまだ学生で実家暮らしだったし、こっちに来た時はロッソの人が手続きしてくれた気が――」
それを横で聞いていたレイアはカチャに対し、こんな疑問をぶつけた。
「そもそも今のアパートに継続して住む訳にはいかんのか? 同居人も引っ越して譲ってくれるんだろう。お相手と住めばいいのでは?」
「ええその、それも一応検討してはいたんですけど……どうせならこの機会に心機一転したいかなって。よくよく考えたら今のアパート、マゴイさんに場所が割れてるんですよ。いつでも鏡面訪問されかねない潜在的リスクを鑑みると、やっぱり新しい場所に移った方がいいかなって」
「そ、そうか……済まなかった……まあだとすると新居探しはやはり相方と話し合わなければな?」
レイアから視線を向けられたリナリスは、何度も頷いてみせた。
「カチャに任せると、周りにマフィアの親分とシリアルキラーと百合の王子様が住んでて地縛霊が1ダース位憑り付いてる物件に当たっちゃいそう♪ ねえカチャ、家賃折半しよ♪ そうすれば新居のランク上げられるし♪」
「それが妥当だろうな。リナリスはいくら貯めているのだ?」
「んー、カチャよりは確実に多いよ♪」
「そうか。ならいっそ、頭金を出してしまうのもいいかもしれんな」
そこで新たな人間が場に入ってくる。
マルカ・アニチキン(ka2542)とエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
まずマルカがカチャに言った。
「カチャさんには色々お世話になっておりますので、微力ながらお手伝いさせていただきたいかと……」
「あ、ありがとうございます」
続けてリオン。
「賃貸物件を探されているとお聞きしました。この前のお礼に手伝わせてください」
「この前……ああ、あの結婚申し込み話ですか。どうなったんです、あの後」
「誠心誠意、説得したら、穏便に断ることが出来ました」
「そうですか。よかった。気になってたんですよ、私がアドバイスしたことで、かえってこじれていやしないかって」
胸を撫で下ろすカチャ。
リオンは彼女に聞こえないほどの小声で呟く。
「箱入り娘でしたから、陥落させるのは楽でしたね」
それから常識的な提案を行う。
「とりあえず、ハンターズギルドへ行って不動産屋を紹介してもらいませんか? いきあたりばったりに不動産店を巡るより、そちらの方が安全性が高いと思いますから」
舞と詩は場を離れることにした。これだけ人が集まったなら、自分たちは退場して差し支えないだろう、と。
「ま、ゆっくり2人で考えなよ」
「リナリスさんとお幸せにね」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
「――知らぬから軋轢が生まれるなら、知り合ってしまえばどうということはあるまい」
「……あのね、住民が何人いるとかいう以前にユニゾン島って現在、どこにも属してないでしょ? 公的に認められた国でも町でも村でもないでしょ? スペックが異様に高いとしても。そんな所に支局開設なんて無理よ。どうしてもやりたいなら……同盟に参加して都市国家としての立場を得ることから始めないと」
「僕もそう思う……支部じゃなくて、オフィスへの依頼窓口を設ける程度にしておいたらどう? それなら転移門のための植樹も本部からの人員派遣も必要ないから、認可されると思うけど。開設した後維持費も、ほとんどかからないし」
という会話が3者の間で交わされている中、外から声が聞こえてきた。
「これ、ユニオンの簡易宿泊所?」
「あ、ユニオン製か。なるほどね。形からしてなんかそれっぽい」
扉を開けて入ってきたのは……舞と詩だ。
「あら、揃って来るのは珍しいわね」
というマリーに舞がチョコ餅を渡す。ソファでだらけるナルシスに見下げ果てたような一瞥を向けて。
「詩がお見舞いに行きたいってからさ。これ、よかったら食べてよ」
詩はジュアンにブランデーを渡す。姉がナルシスに向ける視線には気づかなかったふりをして。
「マリーさん、ジュアンさん、大変だったね。でも無事でよかった。カチャに聞いたけど結婚するんだって? これお姉ちゃんと私からのお祝い」
●リゼリオ
「――あと防音もしてあった方がいいかな、カチャってたまに大きな声「リナリスさんっ!」
プライベートを暴露するリナリスの口を手で押さえるカチャ。
ハンターギルド推薦の不動産屋は彼女らのやり取りに顔色ひとつ変えず、幾つもの物件を提示してきた。
カチャ、リナリス、並びにそれを取り巻く人々は、早速内見に向かう。
最初に訪れた物件は、商店の集う一角にある一戸建。一階が店舗スペース、二階が住居スペース。
広さ、日当たり申し分なし。風呂つき庭付き壁厚し。
「わー、すごーい、おっきいっ」
「リナリスさん、あんまりあちこち触っちゃ駄目ですよ。まだ借りるって決まったじゃないんですから」
カチャたちの姿を眺めレイアは苦笑する。いくらかの羨ましさも交えて。
「ふぅむ……女同士というのも珍しいが…どうあれこれから生活を共にする二人を見るのはなかなか微笑ましいものだ……」
不動産屋は恵比須顔で、物件アピール。
「いかがです? 借りますか借りませんか?」
カチャはだいぶ心動かされた。
しかし舞たちから事故物件について聞かされ、マルカからその手の怪談話も聞かされで、多少用心深くはなっている。
「あのー……ここで行方不明者が出たとか事件が起きたとかこの場所自体が異次元だとかそういうことはないですか?」
「ご安心ください、そういうことはありませんよ」
リオンも聞いた。壁の具合を拳で確かめながら。
「泥棒に入られたとかはありませんか?」
「いいえ、そういうことも全然ありません。ただ、ちょっとしたジンクスがあるだけです。けれども、お客様がたには何の支障もございません」
との言葉に、レイアが突っ込む。
「ジンクスとは?」
「この場所で商売を始めた人間は必ず失敗するというジンクスです。私の知る限りでも20人の商人がこのジンクスに挑み、敗れ去って行きました。ですが店舗としてではなく住居としてのみ使うなら、ジンクスも発生しようがないはず。大丈夫ですよ」
それを聞いてマルカは、カチャにそっと破魔矢を手渡した。
「これをどうぞ。備えあれば憂いなしと言いますから……」
再度不動産屋がカチャに質問をする。
「で、借りますか借りませんか?」
破魔矢を握ったカチャは、散々考えた後言った。
「き……キープでお願いします」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
「ね、コボちゃん、新しいお家はどんなのがいい? コボちゃんとお話出来るようになったし意見を聞かせて欲しいな」
「まぁこの四角い家が気に入ってるならそれでもいいけど、前みたいな家がいいならそう言いな。なるべく希望に沿うようにするからさ」
舞の干し肉を食べたコボちゃんは詩の求めに応じ、クレヨンでスケブに絵を描いた。
そこにあるのは以前と同じく切り株を模した家。
よっぽど前の住居が気に入っていたらしい。
「このうち、かたすぎ。つめとげない、ふべん」
恨めしそうに仮小屋を見るコボちゃんの頭を、舞はぐしゃぐしゃ撫でる。
「分かった、じゃ、そのうちまた新しいの作ってやるよ」
コボちゃんは喜び、ぴょんぴょん撥ねる。
そこへルベーノがやってきた。
「コボ、おまえの家も当分は仮設なのだろう? 俺と一緒にユニゾンの仲間に会いに行くか? 気分転換に」
コボはぴっと耳を立て、手を上げた。
「こぼ、ゆく!」
●リゼリオ
夕暮れ。一通り物件を見て回ったカチャたちは、帰路についている。
「まだ転居まで時間あるから焦らずじっくり探そ。ね、あたし結婚式までにカチャの部族の一員になる方がいいのかな? それとも結婚式と同時?」
「えーと、同時です」
「じゃあ、刺青はいつ入れようか? 部族に刺青を施す役目の人がいるのかもしれないけど、出来れば、カチャにあたしの刺青彫って欲しいな♪ 全部じゃなくていいから♪」
「ええ? 私素人ですから、私がすると余計痛くなりますよ?」
「カチャになら痛くされても大丈夫♪ たとえ一刺しだけでも……ね?」
「……分かりました。じゃあ……一刺しだけですよ」
彼女らの後ろを歩くレイアは、横にいるリオンに聞いた。
「お前には恋人がいるか?」
「いいえ、今のところは。レイアさんはおられるんですか?」
「いいや、いない。ああいうのはどうやったら出来るものだろうな」
「そうですね……一番手っ取り早いのは、来るもの拒まずの姿勢を貫くことでしょうか」
「……」
●ハンターオフィス・ジェオルジ支局(仮)
マルカは手土産のヒカヤ紅茶をすすりながら、マリーたちと世間話。
「――というわけで、今コボちゃんいないのよ。ルベーノとユニゾン島行ってて。そうそう、ルベーノね、もし支局が出来たら移住して支局長になる気はないかって、ジュアンに聞いてたわ。そしたら、アレックスの浮気封じになるんじゃないかって」
「ジュアンさん、承知されたんですか?」
「まさか。やだよ僕は。ユニオンって目移り公認の社会体制でしょ? ところで、カチャも結婚するんだって?」
「はい。今リナリスさんと新居を探しておられます……」
マルカは遠くない未来に思いを馳せる。
するとどうしたことだろう、アレックスの新たな浮気問題発生やら女傑有志によるカチャタホ争奪戦勃発やらといったろくでもない光景ばかりが浮かんできた。
人知れず絶望の表情を浮かべ、ぐっと唇を噛む。
(恐らく、どちらの悲劇も止められない。その時、私にできることはただ被害を最小に留められるよう全力を尽くすのみ、です……!)
彼女のパルムはテーブルの片隅に座っている。
そのあたりで拾った葉っぱを使い、折り紙。出来上がったのは真四角なおうち。
なかなか器用なパルムである。
●ユニゾン島
船が島に入港したときには、日が落ちかけていた。
「マゴイ。コボルド……元気だったか?」
『……元気よ……あなたも元気そうで何より……』
マゴイは白いリースをふわふわ頭上に浮かせ目を細め、コボルドたちはコボちゃんと一緒にドッグフードを漁る。
両者ルベーノのお土産に満足しているようだ。
「市民を増やしたいという要望があると聞いてな、手伝いと調査に来たぞ」
から始めてルベーノはマゴイに、マリーたちから得た情報を伝える。その上でこう付け加える。
「お前たちの名付けのとおり、ここはクリムゾンウエストに存在するユニオンだ。ならばクリムゾンウエストの人間が安心できる施設と共存する方が人が集まりやすいかもしれん」
マゴイは少し考え、こう述べた。
『……外部者宿泊所敷地内になら……外部者の施設を置くことは可能……』
窓口設置は出来るようだ。
よかったと思いながらルベーノは、イクシード・プライムとイクシード・フラグメントを差し出した。
「……これがウテルスの稼働に使えるか確かめに来た」
『………サンプルの提供感謝するわ……ちょうどマテリアル炉の……模型が出来たところ……その実験に使いましょう……』
「何、もうそんなものを作り上げたのか?」
『……ええ……模型程度なら作るのは簡単………あなたは外部者だけど……ユニオンのよい理解者だと思うので……実験を見ていってもいい……』
マゴイはコボルドたちと共にルベーノも、島の砂州に連れて行った。そこにはこの間南方大陸から運んできた簡易住宅が、横一列に隙間なく並べられていた。
その後彼女は一旦地下に潜り、透明な小箱を携えて戻ってきた。
箱の上方を開けイクシードを入れ込み、閉め、砂の上に置く。
イクシードが箱の中で光の粉を吹き始める。箱から銀色の管が伸び簡易住宅の壁に張り付く。
その途端全ての住宅に明かりが灯る。
『……出力が弱いけど……実験成功……』
マゴイは、嬉しそうに微笑んでいた。
依頼結果
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相談卓 マルカ・アニチキン(ka2542) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/02 21:16:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/02 21:11:55 |