ゲスト
(ka0000)
思い出の花畑に招かれざるもの
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2018/06/02 15:00
- 完成日
- 2018/06/07 16:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ガラスの様に澄んだ青空に、ポッカリと浮かぶ綿あめの様な雲。
涼やかな風に乗って運ばれた草花の優しい香りが鼻腔をくすぐる。
ここは王国の片隅。
私は広い平原と広い森を統治するグランツ領の領主屋敷で、侍女長を務めるマリーと申します。
私が仕えるのは、先代領主であるお父上を失ったばかりの若い女性である、レイナ様。
レイナ様は、急遽先代領主の後を継ぐことになりとても頑張っていらっしゃいます。
慣れない執務に、領内の巡回、治安維持に苦情の対応……と、毎日とても忙しく、先日も夜遅くまで執務室の明かりがついていましたし、机に突っ伏したまま朝を迎える事もしばしば。
たまにはゆっくりと休んで頂きたいと思い声をお掛けすると、逆に私達の心配をしてくださる有様。
これはもう、強引にお休みを取って頂こうと私達はある計画を立てました。
机の上に散乱した書類をまとめながら、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は大きな欠伸を噛み殺した。
爽やかな朝だと言うのに、レイナは少し眠そうだ。
最近は立て続けに急ぎの仕事が入り、ゆっくりと休むことも出来なかった。
しかし、その甲斐あって領民の不便、不満が無くなったことが嬉しく、レイナの気持ちは晴れやかだ。
今日は残りの仕事をしようと気合を入れ、椅子に深く腰掛けた。直後、コンコンっと軽快な音を立て扉が叩かれる。
「どうぞ」
レイナが声を掛けると、ゆっくりと扉が開き執事のジルと侍女長のマリーが顔を覗かせた。
「お嬢様、失礼致します」
「マリー、どうしたの?」
ジルと一緒に部屋を訪ねたマリーに首を傾げると、マリーは楽しげにレイナに歩み寄る。
「レイナ様、本日は私達とピクニックに出掛けて下さいませんか?」
「ピクニックですか?」
その予想外の提案に、ポカンと口を開けた。
「はい、本日は天気もいいですし、絶好のピクニック日和です」
「ですが、まだ仕事が……」
レイナが眉を下げて呟くと、
「お嬢様、急ぎの仕事はすべて終わっております。少しはお体を休めませんと」
ジルが窘めるように言う。
「……そうですね。心配を掛けてしまったみたいでごめんなさい」
レイナは目を細め微笑んだ。
「良かったですわ。もう料理長にはピクニック用のランチを作ってもらっているんです」
「っ!!」
その言葉にレイナは目を見張った。
それが計画されたものだと気付くも、皆の心使いが嬉しくレイナの顔には大きな笑みが浮かぶ。
「では、お出掛けの準備をしてまいりますね」
マリーはそう言うと、いそいそと部屋を出て行った。
「レイナ様とピクニックに行けると、皆喜ぶでしょう」
ジルもどこか嬉しそうに口元を緩めた。
「サイファーもお休みですか?」
レイナがジルに尋ねると、
「ええ、俺もご一緒致します」
サイファーが開いた扉からひょっこり顔を覗かせた。
「まあ、よかったわ。……そう言えば、何処まで行くのかしら?」
大輪の花の様に微笑んだ顔は、直ぐに疑問の表情に変わる。
そのコロコロと変わる表情を微笑ましそうに見つめ、サイファーが口を開いた。
「蝶の花丘です」
蝶の花丘―――、それは、グランツの屋敷から少し離れた場所にある花畑。
色取り取りの花が咲き乱れ、ひらひらと蝶が舞うとても景色のいい丘で、領民の憩いの場ともなっている。
その名を聞いたレイナの顔にまた花の様な笑顔が戻った。
「まあ、懐かしいわね! 子供の頃、よくお父様に連れて行ってもらったわ」
「ええ、そうですね」
レイナが懐かしさに目を細めると、同調するようにサイファーも頷いた。
「サイファーはいつもあの花畑で、私に花冠を作ってくれましたね。あの頃からとても器用だったわ」
レイナが楽しそうに口を開くと、サイファーは僅かに頬を染め、
「そうでしたか?」
と誤魔化すように呟いた。
その二人のやり取りを優しく見つめていたジルは声を掛ける。
「ただ今、兵士の1人が場所の確認に出ております。戻り次第出発いたしますので、ご準備を」
ジルはそう言うと小さく頭を下げ、部屋を後にした。
暫らくすると、館の外が騒がしくなった。ピクニックに出掛けるにしては張り詰められた声……何事かと、レイナが駆け付けると、
「蝶の花丘と呼ばれる花畑に蜂型の雑魔が出現、その数……10匹ほど」
息を切らした兵士が引きつる顔で報告する。
「蜂型の雑魔!?」
レイナの表情が強張った。
花畑は、領民にとっても憩いの場だ。もし雑魔と鉢合わせしてしまったら、大変な事になる。
息を飲んだレイナは直ぐに凛とした声で指示を出した。
「すぐにハンターオフィスに連絡を」
「はい」
その声で、兵士の1人が馬に飛び乗り駆け出した。
(お父様とサイファーとの思い出が詰まった花畑……絶対に守らなきゃ。……それに皆が私の為に計画してくれたピクニックだもの……)
レイナは手を握り締めると、今しがた兵士が駆けて行った方角を見据え、
「私達もオフィスに行きましょう」
そう力強く言葉を放った。
涼やかな風に乗って運ばれた草花の優しい香りが鼻腔をくすぐる。
ここは王国の片隅。
私は広い平原と広い森を統治するグランツ領の領主屋敷で、侍女長を務めるマリーと申します。
私が仕えるのは、先代領主であるお父上を失ったばかりの若い女性である、レイナ様。
レイナ様は、急遽先代領主の後を継ぐことになりとても頑張っていらっしゃいます。
慣れない執務に、領内の巡回、治安維持に苦情の対応……と、毎日とても忙しく、先日も夜遅くまで執務室の明かりがついていましたし、机に突っ伏したまま朝を迎える事もしばしば。
たまにはゆっくりと休んで頂きたいと思い声をお掛けすると、逆に私達の心配をしてくださる有様。
これはもう、強引にお休みを取って頂こうと私達はある計画を立てました。
机の上に散乱した書類をまとめながら、レイナ・エルト・グランツ(kz0253)は大きな欠伸を噛み殺した。
爽やかな朝だと言うのに、レイナは少し眠そうだ。
最近は立て続けに急ぎの仕事が入り、ゆっくりと休むことも出来なかった。
しかし、その甲斐あって領民の不便、不満が無くなったことが嬉しく、レイナの気持ちは晴れやかだ。
今日は残りの仕事をしようと気合を入れ、椅子に深く腰掛けた。直後、コンコンっと軽快な音を立て扉が叩かれる。
「どうぞ」
レイナが声を掛けると、ゆっくりと扉が開き執事のジルと侍女長のマリーが顔を覗かせた。
「お嬢様、失礼致します」
「マリー、どうしたの?」
ジルと一緒に部屋を訪ねたマリーに首を傾げると、マリーは楽しげにレイナに歩み寄る。
「レイナ様、本日は私達とピクニックに出掛けて下さいませんか?」
「ピクニックですか?」
その予想外の提案に、ポカンと口を開けた。
「はい、本日は天気もいいですし、絶好のピクニック日和です」
「ですが、まだ仕事が……」
レイナが眉を下げて呟くと、
「お嬢様、急ぎの仕事はすべて終わっております。少しはお体を休めませんと」
ジルが窘めるように言う。
「……そうですね。心配を掛けてしまったみたいでごめんなさい」
レイナは目を細め微笑んだ。
「良かったですわ。もう料理長にはピクニック用のランチを作ってもらっているんです」
「っ!!」
その言葉にレイナは目を見張った。
それが計画されたものだと気付くも、皆の心使いが嬉しくレイナの顔には大きな笑みが浮かぶ。
「では、お出掛けの準備をしてまいりますね」
マリーはそう言うと、いそいそと部屋を出て行った。
「レイナ様とピクニックに行けると、皆喜ぶでしょう」
ジルもどこか嬉しそうに口元を緩めた。
「サイファーもお休みですか?」
レイナがジルに尋ねると、
「ええ、俺もご一緒致します」
サイファーが開いた扉からひょっこり顔を覗かせた。
「まあ、よかったわ。……そう言えば、何処まで行くのかしら?」
大輪の花の様に微笑んだ顔は、直ぐに疑問の表情に変わる。
そのコロコロと変わる表情を微笑ましそうに見つめ、サイファーが口を開いた。
「蝶の花丘です」
蝶の花丘―――、それは、グランツの屋敷から少し離れた場所にある花畑。
色取り取りの花が咲き乱れ、ひらひらと蝶が舞うとても景色のいい丘で、領民の憩いの場ともなっている。
その名を聞いたレイナの顔にまた花の様な笑顔が戻った。
「まあ、懐かしいわね! 子供の頃、よくお父様に連れて行ってもらったわ」
「ええ、そうですね」
レイナが懐かしさに目を細めると、同調するようにサイファーも頷いた。
「サイファーはいつもあの花畑で、私に花冠を作ってくれましたね。あの頃からとても器用だったわ」
レイナが楽しそうに口を開くと、サイファーは僅かに頬を染め、
「そうでしたか?」
と誤魔化すように呟いた。
その二人のやり取りを優しく見つめていたジルは声を掛ける。
「ただ今、兵士の1人が場所の確認に出ております。戻り次第出発いたしますので、ご準備を」
ジルはそう言うと小さく頭を下げ、部屋を後にした。
暫らくすると、館の外が騒がしくなった。ピクニックに出掛けるにしては張り詰められた声……何事かと、レイナが駆け付けると、
「蝶の花丘と呼ばれる花畑に蜂型の雑魔が出現、その数……10匹ほど」
息を切らした兵士が引きつる顔で報告する。
「蜂型の雑魔!?」
レイナの表情が強張った。
花畑は、領民にとっても憩いの場だ。もし雑魔と鉢合わせしてしまったら、大変な事になる。
息を飲んだレイナは直ぐに凛とした声で指示を出した。
「すぐにハンターオフィスに連絡を」
「はい」
その声で、兵士の1人が馬に飛び乗り駆け出した。
(お父様とサイファーとの思い出が詰まった花畑……絶対に守らなきゃ。……それに皆が私の為に計画してくれたピクニックだもの……)
レイナは手を握り締めると、今しがた兵士が駆けて行った方角を見据え、
「私達もオフィスに行きましょう」
そう力強く言葉を放った。
リプレイ本文
●蝶の花丘
「折角の読書日和なのに連れ出されるなんて……。まあ、いいわ。今回はどんな物語を見せてくれるのかしら?」
幼馴染を横目にため息を吐いたエルティア・ホープナー(ka0727)は、目を細めて丘の上を見据える。
「たまには運動も必要だろう?」
そのエルティアを書庫から引っ張り出したシルヴェイラ(ka0726)は、小さな笑みを浮かべて隣に立った。
「お花畑に、大きな蜂さん……、ほんまやったら花粉を運んでくれるはずやのに。可哀想やけど、ここからは退いてもらいましょ」
春日(ka5987)が唇を尖らせて呟くと、
「本当ですわ。自然を害する事も、蜂さんの姿を模す事も……何もかも虫唾が走りますわね」
ネフライト=フィリア(ka3255)は静かに、だが確かな憎悪と怒りを滲ませ相槌を打つ。
「レイナさんの大切な思い出の場所なのです。絶対に守ってみせるのです」
カティス・フィルム(ka2486)はキュッと唇を引き結び、眼鏡の奥の瞳に力強い意思を映す。
「ええ、大切な思い出の場所を乗っ取っちゃうなんて許さないのだわ。大切な思い出の場所……それは過去の物でも未来の物でもあるの。だから出来るだけ綺麗な状態で追い払えたらいいわね」
スフィル・シラムクルム(ka6453)は皆を鼓舞するように、大きく頷いた。
「行きましょう!」
ネフライトの力強い声が響くと、ハンター達は散るように駆け出した。
丘の上は色とりどりの花が咲き乱れていた。その上を飛ぶのは、大きな蜂の雑魔。
ハンター達は囲い込むように広がり、合図と共に一斉に飛び出した。
その姿に気付いた蜂は威嚇するように更に羽音を響かせる。
「凍てつく氷の刃よ、敵を貫け! アイスボルトーー!」
四方へ散ろうとする蜂に向かいカティスが呪文を叫ぶと、凍てつく氷に羽を貫かれた蜂の身体が、白い霜に覆われ凍り始める。
その隙を見逃さずランアウトで踏み込んだスフィルのモートルがギラリと鋭く光り、蜂を切り裂く。
「シルヴェイラ様、援護致します」
そう言ってネフライトが結界術を展開すると、少し離れた場所の春日もエルティアの周りに結界術を展開した。
「助かります」
「ありがとう」
シルヴェイラとエルティアの声は重なり、盾を掲げ蜂に踏み込んだシルヴェイラはブレイドダンサーを握り締める。
エルティアがソウルトーチで炎のオーラを纏うと、同時に春日の声が響いた。
「左前方に地縛符を仕掛けるさかい。巻き込まれんよぉに、注意してな」
その見えない牢獄に誘うかのように、エルティアは蜂達の気を強く引きつけ動き回る。
上手く誘い込んだ蜂達が地縛符によって動きを止めた――その瞬間、シルヴェイラのブレイドダンサーが唸り、エルティアの星弓の弦が波打ち、スフィルのモートルが一閃する。
蜂は次々に塵へと変わると、それは風に乗って彼方へと飛ばされていく。
「これで終わりじゃないのよ」
スフィルがいまだに花の上を飛び回る蜂を睨み付けると、カティスは集中とグリムリリースで魔力を引き上げたアイスボルトを再び放ち援護する。
しかし、蜂は素早く身体を翻しその攻撃を避け、少し離れた所を飛んでいた蜂が鋭い針を飛ばす。
ナイフの如く鋭い大きな針はエルティアを掠めた。
「エアッ!!」
途端、シルヴェイラの吃驚の声が響く。
「シーラ、これくらい何ともないわ」
シルヴェイラの心配を一蹴するように、エルティアは不敵に唇の端を持ち上げた。
その表情に安堵すると、シルヴェイラは針を飛ばした蜂をキッと睨み付け、照準を合わせた。
引き金を引こうとトリガーに指を掛けようとすると、
「我が氷の刃に身を貫かれ、氷塊と化せ! アイスボルト!」
ネフライトの凛とした声が羽音を裂いて響く。
パキパキと霜が張り付き動きを止めた瞬間、ブレイドダンサーから飛び出た弾丸は蜂雑魔を粉砕した。
「エアを傷付けて、これくらいで済むと思うな……」
シルヴェイラは酷く低く呟くと、再びブレイドダンサーの照準を合わせた。
「ほな、もう一回地縛符を仕掛けるさかい。今度は右前方や」
手にしたお札を投げると、目に見えない結界が出来上がり、ハンター達に威圧された蜂が入り込む。
「誰かの思い出を汚そうだなんて……そんな物語は好きではないわ。悲しみを乗り越えた先の幸せを邪魔するなんて、無粋にも程がある!」
怒りを滲ませ呟いたエルティアは星弓を強く引き絞った。
風を切って飛んだ矢は、地縛符で動けなくなっている蜂を貫き地面に刺さる。
1匹また1匹と仲間を失った蜂は、怒った様に羽を震わせ縦横無尽に飛び回り始めた。
その動きになかなか狙いが定まらない……。
カティスが呪文を唱えると目の前に光の矢が姿を現す。刹那飛んだ光の矢は寸分の狂いもなく胴体を貫き、蜂を塵へと変えた。
「わたくしも、引導を渡してさしあげますわ」
ネフライトは1枚の札を高く投げ上げる。お札は宙で翻り、その姿を稲妻に変えチカチカと輝いた。雷鳴と共に宙を駆けると直下にいた蜂の姿が――、一瞬にして地面に焼けついた。
アクロバティックな動きで蜂の攻撃を避けたスフィルは一度飛び退くとモートルを握り直し、ランアウトで踏み込む。
「逃がさないんだからねーー!」
スラッシュエッジで威力を高めたスフィルの一撃が、蜂の羽を切り刻む。
「うちの五色光符陣に入ってしもうたら、終いや」
春日は素早く五色光符陣を展開し、旋回しながらゆるりと降下していく蜂を目が眩むほどの激しい光で焼き尽した。
光りが段々と弱くなると、そこにはもう―――蜂の姿は無い。
心地よい風がハンターの頬を撫で、草花を揺らして行く。
招かれざる者が居なくなり花たちは嬉しそうに揺れた。
「終いやろか?」
「はい、そうみたいです」
春日が呟くと、ホッとしたようにスフィルが頷いた。
「お花さんも喜んでいますわね」
「ほんまやね、影響も少なく済んでよかったわ」
ネフライトが瞳を細めて微笑むと、春日は春花のような髪を揺らし嬉しそうに口を開いた。
「では、周辺を少し見回って報告に戻ろうか?」
「ええ、そうしましょう!」
シルヴェイラが皆を見回し小さく頷くと、スフィルは元気よく手を上げ応えた。
●思い出は今まさに
オフィスには今回の依頼主であるレイナ・エルト・グランツ(kz0253)が、心配そうな面持ちでハンター達の帰りを待っていた。
「レイナ様、雑魔の討伐は終わりました」
ネフライトがそう声を掛けると、レイナはホッと肩を撫で下ろす。
「ありがとうございます。皆さん、お怪我はありませんか?」
僅かに眉を寄せてレイナが尋ねると、
「ええ、これくらい何ともないわ!」
エルティアはフッと笑って見せた。
小さく息を吐いたレイナは、再びハンターに頭を下げた。
「私にとって、あの花畑は大切な思い出の場所です。守って下さって本当に、ありがとうございました」
少し潤んだ瞳を細めレイナは続けて口を開く。
「私達、これからあの花畑でピクニックをするのですが、よろしければ皆さんも来て下さいませんか?」
「これは、思わぬお誘いですね! 喜んで」
シルヴェイラは銀糸の髪をサラリと揺らし、小さくお辞儀した。
「わぁ! 嬉しいわぁ! ピクニック大好きさかい」
「本当に素敵なお誘いですわ」
ハンター達の顔に笑みが浮かぶと、
「嬉しいです、皆さんと一緒に過ごせるなんて」
それを見たレイナも嬉しそうに微笑んだ。
花畑に着くと、屋敷の者たちは直ぐさま敷物を敷き、お茶の準備を始めた。
「あ、わたしお茶を持っているのです」
そう言ってカティスがジルに紅茶の缶を渡すと、
「おや? これは以前お嬢様が頂いた……。私も一緒にご馳走になりました。とても美味しかったです。ありがとうございます」
ジルは皺の深い顔をクシャリとさせて微笑んだ。
「いいえ、喜んで頂けて嬉しいのです。あ、わたしもお手伝いするのです」
カティスは籠の中に重ねてあったティーカップを、トレイの上に並べる手伝いを始めた。
風に乗り芳醇な紅茶の香りが漂い始めた。敷物に腰を下ろすハンター達に、ジルがティーカップを手渡していく。
「私、カティスさんのお茶大好きなの! とっても美味しいのよ?」
スフィルが胸いっぱいに紅茶の香りを吸い込むと、幸せそうな笑みを浮かべた。
「ええ、本当に! カティスさんのお茶は美味しいですわ」
ネフライトも瞳を閉じ、紅茶の香りを楽しんでいる。
その間にも、料理長や侍女長のマリーがランチの用意を進めていた。
敷物の上に置かれたテーブルには、食べやすい大きさのサンドウィッチにスコーン、小さなカップに入ったサラダ、ジューシーなローストビーフなどなど、花のように彩り鮮やかな料理が並んだ。
スフィルがひと口頬張ると、
「んーー! 美味しい」
ほっぺたを押さえ歓喜の声を上げる。
その隣で、シルヴェイラは小皿に料理を盛り付けエルティアに渡した。
「はい、エア。溢さないように気を付けて」
「ありがとう、シーラ」
皿を受け取ったエルティアは小さな笑みを浮かべながら、それをフォークで刺し口に運ぶ。
「っん! シーラ、これ凄く美味しいわ」
エルティアが指差すそれを、シルヴェイラも口に運んだ。
「本当だ、ローストビーフのソースが、凄くいい味をしてる。……あとで料理長に作り方を聞いてみよう」
目を見開いたシルヴェイラはポツリと呟いた。
(覚えて帰って、今度作った時にエアに食べさせてあげよう)
その時の様子を思い浮かべ、シルヴェイラは頬を緩めた。
「風が気持ちええねー。料理も美味しいし、幸せやわぁ」
花が綻んだような笑顔を見せる春日は、今にも陽気に歌い出しそうだ。
その楽しそうな様子に、ネフライトは小さな笑みを浮かべる。
(豊かな自然と美味しい料理、皆の楽しい話と笑い声、笑顔が生み出されるこの時間こそ――正に至福)
それを噛み締める様に、ネフライトは深く息を吸い込んだ。
「スフィルさん、これも美味しいですよ」
そう言ってサイファーがパステルカラーの可愛いマカロンを手渡す。
「わぁ! 可愛い。ありがとう」
皿の上からマカロンを摘み上げ、スフィルは嬉しそうに頬張った。
「っん! 最高です!」
満面の笑みを浮かべ、甘―い余韻を味わう。その無邪気な顔にサイファーは小さく笑った。
「綺麗な場所なのです」
カティスはレイナと共にお茶を飲みながらお話を楽しむ。
「子供の頃、よくお父様に連れてきてもらいました。いつもサイファーが花冠を作ってくれたわ」
「わあ! 素敵なのです」
思い出に浸るように目を細めるレイナに、少し悪戯に唇を引き上げカティスが耳打ちした。
「レイナさん。……えと、サイファーさんの頭に冠、乗せてみません?」
その言葉に目を見開いたレイナは、次の瞬間楽しそうな声を上げる。
「素敵! ……でも、私に作れるかしら?」
「わたしも花冠作るお手伝い、するのですよー」
そう言って2人は立ち上がり、花畑の中へと走って行った。
「ここを束ねて……そうなのです」
カティスのお手本を見ながら、摘みたての花を編み上げていく。
「レイナはん、何してはりますの?」
すると頭上からのんびりとした声が降り注いだ。
「春日さん! 一緒に花冠を作りませんか? カティスさんに教えて頂いているの」
「まあ! 楽しそうやね」
ヒラリと服をなびかせて座ると、自分の髪と同じ春色の花を摘み取り束ね始めた。
周りを見回せば、ハンター達の穏やかで楽しそうな顔が目に入る。
ネフライトは花畑に座り込み、指先に止まる蝶と戯れ、その姿をみたスフィルも真似て指先を差しだすと、自身のドレスと同じ色を羽に持つ蝶がフワリと止まり、
「キャァーー! すごーい!」
と感激の声を上げた。
エルティアは大きな樹にもたれ、木漏れ日の中本を広げる。
ページをめくる指先が動きを止めると、それに合わせる様にシルヴェイラが紅茶を差しだした。
「出来ました。あまり上手くないですが……」
歪な形ではあるが、ちゃんと輪になった花冠をレイナが掲げてみせると、カティスと春日は小さく拍手をする。
「あとは、サイファーさんの頭に乗せるだけなのですよ」
「どんな反応しはるか、楽しみやわ」
後押しされるように言葉を掛けられ、レイナは屋敷の皆とお茶を楽しんでいるサイファーの背後からそっと近づいた。
チラリと後ろを振り返りカティスの顔を見れば、カティスはコクリと頷き合図を送る。レイナは花冠を握り締めると、ポンッとサイファーの頭の上に花冠を乗せた。
ビックリしたサイファーが勢いよく振り返り、頭の上の花冠を押さえる。見開いた目を瞬くと、その顔は見る見る真っ赤に染まっていく。
会話は聞こえないが、サイファーが驚いてるの確認をしたカティスと春日は、上手くいったね! とハイタッチして喜んだ。
「ヒトの国の割に良い場所ね……この樹も嬉しそう、ねぇ、シーラ?」
樹の幹をなぞっていた視線が後ろに佇むシルヴェイラへと移された。
「ねえ、蒼の地の本で見たのだけれど、タイムカプセル、試してみない?」
「タイムカプセル?」
シルヴェイラはエルティアの言葉に首を傾げた。
「そう、ちょっとした物でも、未来の誰かへの手紙でも……箱に入れて穴に埋めるのよ」
「へえ、いいね。やってみよう」
(埋めるならば……やはり彼女への手紙か。……何年後かに平和になった世界にいる未来の彼女に思うままに書き連ねよう。これを読む未来でも、きっと変わらず私は君を思っているだろうと……)
エルティアの提案で樹の根元にタイムカプセルを埋めることになった。
用意されたクッキーが入っていた缶に、一人づつ入れていく。
ジルは手紙と共にカフスを入れていた。
「サイファーは何を書いたのですか?」
何気なくレイナが尋ねると、サイファーは再び顔を赤くし、秘密です! と声を震わせた。
レイナも、……未来の自分に……その時共に居てくれるであろう、サイファーやジルへの言葉と共に綴り、缶の中に入れた。
春日は摘んだ花を押し花にして、カティス、スフィルは可愛く畳んだ手紙を入れた。
ネフライトは髪を留めていた天然石の花飾りを外すと、それを手で包み込んだ。
(今日という日の思い出が未来でも枯れず咲き誇りますように)
そう願いを込めると、ゆっくりと手を開く。
陽の光を受けた石は、今日の出来事を記録したと言わんばかりに眩く光った。
細くしなやかな指先でそれ摘み上げ缶の中に入れると、髪留めは誇らしそうに、カタッと鳴った。
シルヴェイラ宛ての手紙を書いたエルティアが、缶の蓋を閉じる。
この蓋を再び開ける『その時』を楽しみに、ハンター達は花畑を見守る大樹の根元に――それを埋めたのだった。
「折角の読書日和なのに連れ出されるなんて……。まあ、いいわ。今回はどんな物語を見せてくれるのかしら?」
幼馴染を横目にため息を吐いたエルティア・ホープナー(ka0727)は、目を細めて丘の上を見据える。
「たまには運動も必要だろう?」
そのエルティアを書庫から引っ張り出したシルヴェイラ(ka0726)は、小さな笑みを浮かべて隣に立った。
「お花畑に、大きな蜂さん……、ほんまやったら花粉を運んでくれるはずやのに。可哀想やけど、ここからは退いてもらいましょ」
春日(ka5987)が唇を尖らせて呟くと、
「本当ですわ。自然を害する事も、蜂さんの姿を模す事も……何もかも虫唾が走りますわね」
ネフライト=フィリア(ka3255)は静かに、だが確かな憎悪と怒りを滲ませ相槌を打つ。
「レイナさんの大切な思い出の場所なのです。絶対に守ってみせるのです」
カティス・フィルム(ka2486)はキュッと唇を引き結び、眼鏡の奥の瞳に力強い意思を映す。
「ええ、大切な思い出の場所を乗っ取っちゃうなんて許さないのだわ。大切な思い出の場所……それは過去の物でも未来の物でもあるの。だから出来るだけ綺麗な状態で追い払えたらいいわね」
スフィル・シラムクルム(ka6453)は皆を鼓舞するように、大きく頷いた。
「行きましょう!」
ネフライトの力強い声が響くと、ハンター達は散るように駆け出した。
丘の上は色とりどりの花が咲き乱れていた。その上を飛ぶのは、大きな蜂の雑魔。
ハンター達は囲い込むように広がり、合図と共に一斉に飛び出した。
その姿に気付いた蜂は威嚇するように更に羽音を響かせる。
「凍てつく氷の刃よ、敵を貫け! アイスボルトーー!」
四方へ散ろうとする蜂に向かいカティスが呪文を叫ぶと、凍てつく氷に羽を貫かれた蜂の身体が、白い霜に覆われ凍り始める。
その隙を見逃さずランアウトで踏み込んだスフィルのモートルがギラリと鋭く光り、蜂を切り裂く。
「シルヴェイラ様、援護致します」
そう言ってネフライトが結界術を展開すると、少し離れた場所の春日もエルティアの周りに結界術を展開した。
「助かります」
「ありがとう」
シルヴェイラとエルティアの声は重なり、盾を掲げ蜂に踏み込んだシルヴェイラはブレイドダンサーを握り締める。
エルティアがソウルトーチで炎のオーラを纏うと、同時に春日の声が響いた。
「左前方に地縛符を仕掛けるさかい。巻き込まれんよぉに、注意してな」
その見えない牢獄に誘うかのように、エルティアは蜂達の気を強く引きつけ動き回る。
上手く誘い込んだ蜂達が地縛符によって動きを止めた――その瞬間、シルヴェイラのブレイドダンサーが唸り、エルティアの星弓の弦が波打ち、スフィルのモートルが一閃する。
蜂は次々に塵へと変わると、それは風に乗って彼方へと飛ばされていく。
「これで終わりじゃないのよ」
スフィルがいまだに花の上を飛び回る蜂を睨み付けると、カティスは集中とグリムリリースで魔力を引き上げたアイスボルトを再び放ち援護する。
しかし、蜂は素早く身体を翻しその攻撃を避け、少し離れた所を飛んでいた蜂が鋭い針を飛ばす。
ナイフの如く鋭い大きな針はエルティアを掠めた。
「エアッ!!」
途端、シルヴェイラの吃驚の声が響く。
「シーラ、これくらい何ともないわ」
シルヴェイラの心配を一蹴するように、エルティアは不敵に唇の端を持ち上げた。
その表情に安堵すると、シルヴェイラは針を飛ばした蜂をキッと睨み付け、照準を合わせた。
引き金を引こうとトリガーに指を掛けようとすると、
「我が氷の刃に身を貫かれ、氷塊と化せ! アイスボルト!」
ネフライトの凛とした声が羽音を裂いて響く。
パキパキと霜が張り付き動きを止めた瞬間、ブレイドダンサーから飛び出た弾丸は蜂雑魔を粉砕した。
「エアを傷付けて、これくらいで済むと思うな……」
シルヴェイラは酷く低く呟くと、再びブレイドダンサーの照準を合わせた。
「ほな、もう一回地縛符を仕掛けるさかい。今度は右前方や」
手にしたお札を投げると、目に見えない結界が出来上がり、ハンター達に威圧された蜂が入り込む。
「誰かの思い出を汚そうだなんて……そんな物語は好きではないわ。悲しみを乗り越えた先の幸せを邪魔するなんて、無粋にも程がある!」
怒りを滲ませ呟いたエルティアは星弓を強く引き絞った。
風を切って飛んだ矢は、地縛符で動けなくなっている蜂を貫き地面に刺さる。
1匹また1匹と仲間を失った蜂は、怒った様に羽を震わせ縦横無尽に飛び回り始めた。
その動きになかなか狙いが定まらない……。
カティスが呪文を唱えると目の前に光の矢が姿を現す。刹那飛んだ光の矢は寸分の狂いもなく胴体を貫き、蜂を塵へと変えた。
「わたくしも、引導を渡してさしあげますわ」
ネフライトは1枚の札を高く投げ上げる。お札は宙で翻り、その姿を稲妻に変えチカチカと輝いた。雷鳴と共に宙を駆けると直下にいた蜂の姿が――、一瞬にして地面に焼けついた。
アクロバティックな動きで蜂の攻撃を避けたスフィルは一度飛び退くとモートルを握り直し、ランアウトで踏み込む。
「逃がさないんだからねーー!」
スラッシュエッジで威力を高めたスフィルの一撃が、蜂の羽を切り刻む。
「うちの五色光符陣に入ってしもうたら、終いや」
春日は素早く五色光符陣を展開し、旋回しながらゆるりと降下していく蜂を目が眩むほどの激しい光で焼き尽した。
光りが段々と弱くなると、そこにはもう―――蜂の姿は無い。
心地よい風がハンターの頬を撫で、草花を揺らして行く。
招かれざる者が居なくなり花たちは嬉しそうに揺れた。
「終いやろか?」
「はい、そうみたいです」
春日が呟くと、ホッとしたようにスフィルが頷いた。
「お花さんも喜んでいますわね」
「ほんまやね、影響も少なく済んでよかったわ」
ネフライトが瞳を細めて微笑むと、春日は春花のような髪を揺らし嬉しそうに口を開いた。
「では、周辺を少し見回って報告に戻ろうか?」
「ええ、そうしましょう!」
シルヴェイラが皆を見回し小さく頷くと、スフィルは元気よく手を上げ応えた。
●思い出は今まさに
オフィスには今回の依頼主であるレイナ・エルト・グランツ(kz0253)が、心配そうな面持ちでハンター達の帰りを待っていた。
「レイナ様、雑魔の討伐は終わりました」
ネフライトがそう声を掛けると、レイナはホッと肩を撫で下ろす。
「ありがとうございます。皆さん、お怪我はありませんか?」
僅かに眉を寄せてレイナが尋ねると、
「ええ、これくらい何ともないわ!」
エルティアはフッと笑って見せた。
小さく息を吐いたレイナは、再びハンターに頭を下げた。
「私にとって、あの花畑は大切な思い出の場所です。守って下さって本当に、ありがとうございました」
少し潤んだ瞳を細めレイナは続けて口を開く。
「私達、これからあの花畑でピクニックをするのですが、よろしければ皆さんも来て下さいませんか?」
「これは、思わぬお誘いですね! 喜んで」
シルヴェイラは銀糸の髪をサラリと揺らし、小さくお辞儀した。
「わぁ! 嬉しいわぁ! ピクニック大好きさかい」
「本当に素敵なお誘いですわ」
ハンター達の顔に笑みが浮かぶと、
「嬉しいです、皆さんと一緒に過ごせるなんて」
それを見たレイナも嬉しそうに微笑んだ。
花畑に着くと、屋敷の者たちは直ぐさま敷物を敷き、お茶の準備を始めた。
「あ、わたしお茶を持っているのです」
そう言ってカティスがジルに紅茶の缶を渡すと、
「おや? これは以前お嬢様が頂いた……。私も一緒にご馳走になりました。とても美味しかったです。ありがとうございます」
ジルは皺の深い顔をクシャリとさせて微笑んだ。
「いいえ、喜んで頂けて嬉しいのです。あ、わたしもお手伝いするのです」
カティスは籠の中に重ねてあったティーカップを、トレイの上に並べる手伝いを始めた。
風に乗り芳醇な紅茶の香りが漂い始めた。敷物に腰を下ろすハンター達に、ジルがティーカップを手渡していく。
「私、カティスさんのお茶大好きなの! とっても美味しいのよ?」
スフィルが胸いっぱいに紅茶の香りを吸い込むと、幸せそうな笑みを浮かべた。
「ええ、本当に! カティスさんのお茶は美味しいですわ」
ネフライトも瞳を閉じ、紅茶の香りを楽しんでいる。
その間にも、料理長や侍女長のマリーがランチの用意を進めていた。
敷物の上に置かれたテーブルには、食べやすい大きさのサンドウィッチにスコーン、小さなカップに入ったサラダ、ジューシーなローストビーフなどなど、花のように彩り鮮やかな料理が並んだ。
スフィルがひと口頬張ると、
「んーー! 美味しい」
ほっぺたを押さえ歓喜の声を上げる。
その隣で、シルヴェイラは小皿に料理を盛り付けエルティアに渡した。
「はい、エア。溢さないように気を付けて」
「ありがとう、シーラ」
皿を受け取ったエルティアは小さな笑みを浮かべながら、それをフォークで刺し口に運ぶ。
「っん! シーラ、これ凄く美味しいわ」
エルティアが指差すそれを、シルヴェイラも口に運んだ。
「本当だ、ローストビーフのソースが、凄くいい味をしてる。……あとで料理長に作り方を聞いてみよう」
目を見開いたシルヴェイラはポツリと呟いた。
(覚えて帰って、今度作った時にエアに食べさせてあげよう)
その時の様子を思い浮かべ、シルヴェイラは頬を緩めた。
「風が気持ちええねー。料理も美味しいし、幸せやわぁ」
花が綻んだような笑顔を見せる春日は、今にも陽気に歌い出しそうだ。
その楽しそうな様子に、ネフライトは小さな笑みを浮かべる。
(豊かな自然と美味しい料理、皆の楽しい話と笑い声、笑顔が生み出されるこの時間こそ――正に至福)
それを噛み締める様に、ネフライトは深く息を吸い込んだ。
「スフィルさん、これも美味しいですよ」
そう言ってサイファーがパステルカラーの可愛いマカロンを手渡す。
「わぁ! 可愛い。ありがとう」
皿の上からマカロンを摘み上げ、スフィルは嬉しそうに頬張った。
「っん! 最高です!」
満面の笑みを浮かべ、甘―い余韻を味わう。その無邪気な顔にサイファーは小さく笑った。
「綺麗な場所なのです」
カティスはレイナと共にお茶を飲みながらお話を楽しむ。
「子供の頃、よくお父様に連れてきてもらいました。いつもサイファーが花冠を作ってくれたわ」
「わあ! 素敵なのです」
思い出に浸るように目を細めるレイナに、少し悪戯に唇を引き上げカティスが耳打ちした。
「レイナさん。……えと、サイファーさんの頭に冠、乗せてみません?」
その言葉に目を見開いたレイナは、次の瞬間楽しそうな声を上げる。
「素敵! ……でも、私に作れるかしら?」
「わたしも花冠作るお手伝い、するのですよー」
そう言って2人は立ち上がり、花畑の中へと走って行った。
「ここを束ねて……そうなのです」
カティスのお手本を見ながら、摘みたての花を編み上げていく。
「レイナはん、何してはりますの?」
すると頭上からのんびりとした声が降り注いだ。
「春日さん! 一緒に花冠を作りませんか? カティスさんに教えて頂いているの」
「まあ! 楽しそうやね」
ヒラリと服をなびかせて座ると、自分の髪と同じ春色の花を摘み取り束ね始めた。
周りを見回せば、ハンター達の穏やかで楽しそうな顔が目に入る。
ネフライトは花畑に座り込み、指先に止まる蝶と戯れ、その姿をみたスフィルも真似て指先を差しだすと、自身のドレスと同じ色を羽に持つ蝶がフワリと止まり、
「キャァーー! すごーい!」
と感激の声を上げた。
エルティアは大きな樹にもたれ、木漏れ日の中本を広げる。
ページをめくる指先が動きを止めると、それに合わせる様にシルヴェイラが紅茶を差しだした。
「出来ました。あまり上手くないですが……」
歪な形ではあるが、ちゃんと輪になった花冠をレイナが掲げてみせると、カティスと春日は小さく拍手をする。
「あとは、サイファーさんの頭に乗せるだけなのですよ」
「どんな反応しはるか、楽しみやわ」
後押しされるように言葉を掛けられ、レイナは屋敷の皆とお茶を楽しんでいるサイファーの背後からそっと近づいた。
チラリと後ろを振り返りカティスの顔を見れば、カティスはコクリと頷き合図を送る。レイナは花冠を握り締めると、ポンッとサイファーの頭の上に花冠を乗せた。
ビックリしたサイファーが勢いよく振り返り、頭の上の花冠を押さえる。見開いた目を瞬くと、その顔は見る見る真っ赤に染まっていく。
会話は聞こえないが、サイファーが驚いてるの確認をしたカティスと春日は、上手くいったね! とハイタッチして喜んだ。
「ヒトの国の割に良い場所ね……この樹も嬉しそう、ねぇ、シーラ?」
樹の幹をなぞっていた視線が後ろに佇むシルヴェイラへと移された。
「ねえ、蒼の地の本で見たのだけれど、タイムカプセル、試してみない?」
「タイムカプセル?」
シルヴェイラはエルティアの言葉に首を傾げた。
「そう、ちょっとした物でも、未来の誰かへの手紙でも……箱に入れて穴に埋めるのよ」
「へえ、いいね。やってみよう」
(埋めるならば……やはり彼女への手紙か。……何年後かに平和になった世界にいる未来の彼女に思うままに書き連ねよう。これを読む未来でも、きっと変わらず私は君を思っているだろうと……)
エルティアの提案で樹の根元にタイムカプセルを埋めることになった。
用意されたクッキーが入っていた缶に、一人づつ入れていく。
ジルは手紙と共にカフスを入れていた。
「サイファーは何を書いたのですか?」
何気なくレイナが尋ねると、サイファーは再び顔を赤くし、秘密です! と声を震わせた。
レイナも、……未来の自分に……その時共に居てくれるであろう、サイファーやジルへの言葉と共に綴り、缶の中に入れた。
春日は摘んだ花を押し花にして、カティス、スフィルは可愛く畳んだ手紙を入れた。
ネフライトは髪を留めていた天然石の花飾りを外すと、それを手で包み込んだ。
(今日という日の思い出が未来でも枯れず咲き誇りますように)
そう願いを込めると、ゆっくりと手を開く。
陽の光を受けた石は、今日の出来事を記録したと言わんばかりに眩く光った。
細くしなやかな指先でそれ摘み上げ缶の中に入れると、髪留めは誇らしそうに、カタッと鳴った。
シルヴェイラ宛ての手紙を書いたエルティアが、缶の蓋を閉じる。
この蓋を再び開ける『その時』を楽しみに、ハンター達は花畑を見守る大樹の根元に――それを埋めたのだった。
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【相談卓】想いの花園 エルティア・ホープナー(ka0727) エルフ|21才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/06/02 09:54:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/01 00:16:01 |