ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】GloomyHound
マスター:風亜智疾
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/08 22:00
- 完成日
- 2018/06/16 01:21
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■わらわら
「……用心棒?」
「あぁ。頼まれてくれんか」
年老いた村人の頼みに、ディーノ・オルトリーニ(kz0148)は眉を寄せた。
表情だけ見れば不機嫌なのか、それとも嫌なのか。といった雰囲気だが。
実際はその逆で。
「元々俺は、そういう契約でここに居るはずだが」
そう。ディーノは現在、この村に移り住んだとある男の護衛や雑用請負の任務を単独で請け負っている。
つまり、用心棒はその延長線ではないだろうか、という認識なのだ。
しかしそうではない、と村人は言った。
「今度、この村で取れた果物を郷祭に出す喫茶店で使う、という話になったらしくてな」
つまり、積み荷と同行する村人の護衛を頼みたいということらしい。
「構わんが……そんなにヤバいやつが出るのか」
「いや、なんというかな。聞いた話なんだが……」
ひたすらに、小さくて多いらしい。
■確かにわらわら
下見に出たディーノは、それを確認するや否や大きく溜息を吐いた。
「……確かにな……」
確かに多い。そして小さい。
が。が、だ。
「小型犬か……?」
そう。偵察しているディーノの眼前にいるのは、わらわらと群れを成している小型犬サイズの狼たち。
その数12体。
「いや、多すぎだろう……」
確かに多すぎである。
■
「というわけで、ディーノから依頼が来たんだが」
バルトロが苦笑いで辺りを見回した。
「小型犬サイズの狼型雑魔。その数12体。どうやら親にあたるような個体がどこかに潜んでいるようだが、それはまぁ小さいのを倒せば出てくるだろうっつーことだ」
そいつらがいる限り、村特産の果物が郷祭に到着しない。
到着しないと依頼人が怖い。
いや、依頼人はまぁ、笑顔で怖いタイプなので、メンタルに来る怖さなのだが。
「今回の報酬は村に果物を頼んだ商社の方から出るから、安心してくれ」
敵が出るポイント近辺まで行けば、あとは隠れているディーノが案内してくれるらしい。
「村に行くまでに倒して、あとは村から荷物を持ってくるときに念のために護衛してくれ」
簡単な依頼だが、気をつけるにこしたことはない。
バルトロは苦笑いのまま、そう告げるのだった。
「……用心棒?」
「あぁ。頼まれてくれんか」
年老いた村人の頼みに、ディーノ・オルトリーニ(kz0148)は眉を寄せた。
表情だけ見れば不機嫌なのか、それとも嫌なのか。といった雰囲気だが。
実際はその逆で。
「元々俺は、そういう契約でここに居るはずだが」
そう。ディーノは現在、この村に移り住んだとある男の護衛や雑用請負の任務を単独で請け負っている。
つまり、用心棒はその延長線ではないだろうか、という認識なのだ。
しかしそうではない、と村人は言った。
「今度、この村で取れた果物を郷祭に出す喫茶店で使う、という話になったらしくてな」
つまり、積み荷と同行する村人の護衛を頼みたいということらしい。
「構わんが……そんなにヤバいやつが出るのか」
「いや、なんというかな。聞いた話なんだが……」
ひたすらに、小さくて多いらしい。
■確かにわらわら
下見に出たディーノは、それを確認するや否や大きく溜息を吐いた。
「……確かにな……」
確かに多い。そして小さい。
が。が、だ。
「小型犬か……?」
そう。偵察しているディーノの眼前にいるのは、わらわらと群れを成している小型犬サイズの狼たち。
その数12体。
「いや、多すぎだろう……」
確かに多すぎである。
■
「というわけで、ディーノから依頼が来たんだが」
バルトロが苦笑いで辺りを見回した。
「小型犬サイズの狼型雑魔。その数12体。どうやら親にあたるような個体がどこかに潜んでいるようだが、それはまぁ小さいのを倒せば出てくるだろうっつーことだ」
そいつらがいる限り、村特産の果物が郷祭に到着しない。
到着しないと依頼人が怖い。
いや、依頼人はまぁ、笑顔で怖いタイプなので、メンタルに来る怖さなのだが。
「今回の報酬は村に果物を頼んだ商社の方から出るから、安心してくれ」
敵が出るポイント近辺まで行けば、あとは隠れているディーノが案内してくれるらしい。
「村に行くまでに倒して、あとは村から荷物を持ってくるときに念のために護衛してくれ」
簡単な依頼だが、気をつけるにこしたことはない。
バルトロは苦笑いのまま、そう告げるのだった。
リプレイ本文
■
「うーん……親子、とかはないですよね」
雑魔は生殖機能を持たないといわれている。ならば、今回の雑魔騒ぎは親子ということはないのだろう。
けれど、見た目はそう見えるかもしれない。
魔導バイクを走らせながら、クオン・サガラ(ka0018)はふと思案する。
田舎の村からここまでの道のりを確認する意を込めて先行する彼の視線は、思案とまた別に道の注意箇所を細かくチェックしていた。
スムーズに荷馬車を通すための障害はなにも雑魔だけではない。
轍や石、泥濘。それらもまた、大きさや規模によっては荷馬車を容易には通さないものになるだろう。
一方、神代 誠一(ka2086)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)を先頭に残りのメンバーも現場へと向かっていた。
自身の前を歩く二人がどこか楽し気に会話をしている姿を見つつ、浅緋 零(ka4710)はふと何かに気付く。
(せんせいとクィーロ……身長同じ……)
ぼんやりそんなことを考えている零の事に気付いているのかいないのか。
前を行く二人は戦闘前だというのにリラックスしている。横を歩くのが相棒だから、なのだろう。
「…………」
ふと零の脳裏に、自身と同じバレッタを使う飴色の髪の誰かが浮かんで。
ふるりと零は首を軽く振ってそれを打ち消した。
「アサヒさん、どうかされましたか?」
マリア(ka6586)が首を傾げて問いかけるが、零は小さく首を振って何事もないのだと返すだけ。
「何もないのなら良いですけど、無理はしないでくださいね?」
「うん……ありがとう、マリア」
く、と。軽く左胸のあたりを握ってみる。けれど、零の胸中はまだ親友の瞳のような空の色が広がることはなかった。
そんな全員を一番後ろから眺めつつ、ルスティロ・イストワール(ka0252)はふと宙を見上げる。
「カーバンクル、君もお祭り楽しみかい?」
前を行くのは同じ『どうぶつ』の仲間たちがほとんど。
長い耳の兎が書きあげていく今回の物語の登場人物たちは、一体どんな物語を紡いでくれるのだろう。
お祭りよりも少し先だけれどそれは、ルスティロにとっての楽しい物語の始まりだ。
■
現場付近で待機していたディーノと、先行して先に合流していたクオンの元へとメンバーが合流してから徒歩で3分ほど歩いて。
現場に着いて目視し、まず真っ先に口を開いたのはマリアだった。
「……可愛いっ」
「まぁ、見た目だけいえば可愛くはないですけど……」
「かわいくても、あれは敵、だから……」
「雑魔には違いないですから、何とも言い難い部分があるかなぁ」
上からマリア、クオン、零、誠一の順だ。
サイズ的には確かに小型犬サイズ。見た目3kg程度で数は12。ただし、雑魔なので見た目と重さは比例しない場合もあるので、そこは注意するとして。
なんてそんなことを考えている誠一だったが、その後ろにのそりと立ったディーノが小さく首を振った。
「……見た目通りだ」
「え」
振り返った先のディーノは、首に巻いた古いストール越しに小さく息を吐く。溜息だろうか。
「見た目通り、軽い。強くはない。……このメンバーなら、間違いがなければ、軽く斃せるだろうな」
それでもディーノが単独で攻撃をしなかった理由。それは。
「数が多い……一人だと面倒になる」
「ディーノさん……」
「まぁ、うん……それは確かに」
隠すことないディーノの表情に、誠一とクィーロは苦笑を零すしかなかった。
さてそれでは、雑魔相手に軽い準備運動を致しましょうか。
■
まず真っ先に敵陣へと飛び込んだのはクィーロだった。
火の鳥のようにオーラを纏った彼を確認した雑魔たちは、一気に彼へと群がっていく。
真っ先に駆けて噛みつこうとした1体の口を太刀の柄でいなすように受けとめ、押し返しつつその刃を一閃させる。
甲高い鳴き声と共に斃れる雑魔に、クィーロは残念そうに目を細めた。
「数ばっかか……。まあいい誠一、ちゃんと働けよ?」
次にクィーロへと近づき爪を翻す雑魔は、彼に傷を与えられると確信し――。
「人遣いが荒いっつーの!」
横っ面から閃いたナイフの連撃によってその腹部を引き裂かれ息絶える。
背後から迫る次の敵の爪を手にしたナイフでいなしつつ、誠一はにやりと笑った。
「有難う、これでもう一回動ける」
逆の手から放たれた赤閃が、雑魔の小さな急所を貫く。
「おーおー、誠一がきびきび動いてくれるから俺は適当にしておくぜ」
「そう言いつつ動いてくれるんだよなぁクィーロは」
「いやいや、誠一の出番を取るわけにはいかないだろ?」
軽口を叩きつつも、その場の安心感たるや。
周囲の警戒を担当することにしたディーノが、ストールに隠しつつも口角を上げていたことを、彼らは知らない。
獲物の反撃を確認して逃げ出そうとした数匹の雑魔を確認して、クオンは構えたアサルトライフルから制圧の弾雨を降り注ぐ。
「逃げられるのは困りますからね。すみませんが、動きを制させてもらいます」
同じくクオンの弾雨から逃れるように逆サイドを抜けようとした雑魔たちを縫い留めたのは、零の落とす雹のような矢だ。
「……『待て』」
金に濡れる弦が弾く余韻を響かせつつ、紅の鬼子はそっと呟く。
2人の射手の手による制圧射撃を受けた雑魔たちに向けて、手にした極彩色の魔杖を翳したルスティロが声を上げた。
「僕の力、少し試させてもらうね」
放たれた魔の矢は、彼にとっては久しぶりの「己の魔力」自身を使用した攻撃で。
動けない体に注がれた逃れようのない幻矢によって穿たれた5体の雑魔が斃れる。
「ふぅ、杖の感触はまだ慣れないねぇ……」
クィーロと誠一のコンビで3体。今、クオンと零によって足止めされルスティロが仕留めたのが5体。
「残りは4体ですね」
「3かな」
「2だろ!」
かすり傷を与えられ一気に敵が密集しそうになるクィーロへと治癒を施しつつ残りを確認するマリアと、相棒を傷つけた敵を斃す誠一。その背後から更に寄る敵の攻撃をいなし返り討ちにしたクィーロが数を着実に減らしていく。
「それじゃ、これで残り0で!」
咄嗟に範囲上から前衛たちを逸らしたクオンが放った炎の魔扇が、残る2体を一気に斃し切って。
「……順調そのもの、だな」
周辺警戒のディーノが姿を現したところで、前半戦が終了となった。
■
村に到着したハンターたちは、次の任務である護衛のため、荷馬車の準備を待っていた。
村人たちは集まったハンターたちをやや遠巻きに見ていた。
田舎のせいだろうか、あまりハンターを間近で見た事がないらしい。
だがそれも恐らく長くは続かないだろう。
敵意も害成すこともないと穏やかな雰囲気と明るい会話でアピールするハンターたちに、少しずつだが空気が和らいでいく。
「さっきマリアさんがヒールで治してくれたから」
「これは雑魔からの攻撃じゃないしね」
「……俺はいい」
クィーロとルスティロ、そしてディーノの3人の前に立った零が、持参した救急セットを持って半眼で口を開いた。
「ダメ、です」
じぃと相手を見つめる瞳は、常のぼんやりとした雰囲気を纏いながらもどこか芯の強さを宿している。
「手当、するから……」
それ以降はもう無言の圧だ。
傷の内に入らないような細かい傷まで、零によってきっちりと手当てされていく。
そんな教え子の姿を見て笑いつつ(とはいっても、彼自身も治療された後なのだが)誠一は比較的早く自分たちに好意的になってくれた村人へと、持参した別の救急セットを差し出した。
「よかった使って下さい。きちんと補充されていますし、あって困ることはないですからね」
「あぁ、助かるよ。街から遠いとなかなか買いに行けなくてな」
今は、ディーノが何かしら買いに出てはくれるが、村人は仕事のため村からは離れられないのだ。
「そういえば、ディーノさん」
「……? なんだ」
零による治療が終わって一息ついたところで、ふとクィーロがディーノへと声をかけた。
接点となる出来事が少なかったため、あまり話しかける内容がないな、と思っていたところに、ふと浮かんだことがあった。
じっと自分を見る濃赤の瞳を見返しつつ、クィーロは小さく笑う。
「ヴェロニカさんは元気です? あの森以降会ってないので」
「……森……あぁ。手紙が、来ていたな」
ふむと顎に手をやりつつ、灰色狼と呼ばれ、今再び呼ばれる事となっている中年男は口を開いた。
「体調面なら元気だ。まぁ……」
ふと視線を全員に順に移して、再度クィーロへと戻したディーノは確かに口角を上げていた。
「……問題があっても、お前たちがいる。問題はない」
「あっても、ないんですか?」
苦笑したクィーロの肩を軽く叩き、男はふらりと背を向ける。おそらく荷馬車の最終確認に行くのだろう。
「……俺は、回数は関係ないと思う。お前が『緋の鳥』と呼ばれた時点で、お嬢はお前を認めてる」
荷馬車へと歩を進めるディーノの少し前を、救急セットを抱えた零がぼんやりしつつ通り過ぎる。
「足元に気をつけろ」
「……ディーノ」
声をかけられてふと顔を上げた零を見て、微かにディーノが首を傾げた。
何かあるのだろうか。しかし自分が聞いてもいいものなのだろうか。
逡巡し、そして無言のままやや不躾に零を見やってしまったのは、恐らくは彼にとって零が、というより、彼の庇護してきた絵本作家が、零の親友だから。
お互いに無言のまま見つめ合うこと数秒。
困ったように頭を掻いたディーノの様子に、零が小さく笑った。
息を整え、場の空気を整え。語り始めたのは、ひとつのお話だ。
「ディーノなら……どうする……?」
語られたのは楽しかった二年前の祭と、つい先日起きた戦いの後に自分が焼いた大切なもの。
どうしても、そうせざるを得なかった。
行ったそれ自体に、悔いなどあるはずがない。いや、あってはならないはずだった。
それなのに、胸を裂く痛みが確かにある。
「参考には、ならんだろうが」
聞き役に徹していたディーノが、ゆっくりと口を開く。
「もう一度、描いてもらうな」
それはつまり、真実を述べるということ。それはつまり、自身の行動を明らかにするということ。
「そうして痛みを、共有してこその友だと……俺は思うがな」
だがそれは彼の考えであって、誰もそれを零に強要はしない。零には零の想いと行動があるのだから。
軽く零の頭を宥める様に叩いて、今度こそ彼は荷馬車の元へと歩いていくのだった。
――そうして荷馬車と共に、ハンターたちは復路を往く。
■
ディーノに荷馬車の護衛を任せ、今度は祭の会場へと向かう。
先にクオンが確認した道の注意点を伝えつつ、荷馬車は比較的スムーズに道を進んでいた。
祭の会場まであと三分の一程度になったときのこと。
「……とまって」
遠方を見つつ歩いていた零の言葉に、全員が足を止めた。
荷馬車を庇う様にディーノを除く全員がその前に展開する。
「荷馬車はこちらが引き受けます」
マリアが荷馬車の前方を守るのならばと、ディーノは後部へ移動していく。その直後。
勢いよく駆けてきたのは、前半戦ったそれよりやや大きなサイズの雑魔。
「親、ということはないでしょうけど」
「さぁカーバンクル! 今度は君の力も借りるよ!」
降る弾丸はクオンの制圧の雨。低い体勢でそれを避けた雑魔を確認して次に動いたのはルスティロだ。
「君の爪より、僕らの爪の方が鋭いよ?」
グローブに纏わせた柘榴色の鋭爪での攻撃を、ギリギリ前脚を犠牲にして雑魔が数歩後ろへ下がる。
そこに縫い止める氷結の一矢が残る後ろ足へと突き刺さった。
「おいたは、ダメ……だよ」
氷点下の炎は、やがて灼熱の痛みへ。
「おっと! もう自由にはさせないよ」
ルスティロの伸ばす紅の尾が、雑魔をしっかりと捕えた。
もがく雑魔を追走するのは、先駆ける赤き閃きと結ばれた新緑の糸に引かれるように駆け抜ける誠一と、強く緋色に輝く鳥を胸に抱くクィーロだ。
一足先に敵の眼前へと駆け込んだ誠一が、形を変化させた刃で首を掻き切ろうと振り切る。
「荷物もある事だ、さっさと退場願おうか!」
致命傷を避ける程度に身をよじり瀕死の雑魔へと、命すらも力に変えたクィーロの渾身の一撃が雑魔の胴を真っ二つに叩き切り。
地に斃れ動きを止めた雑魔のその眼前で、2名は笑みを浮かべハイタッチを交わすのだった。
■
少し前方で、祭が楽しみだと力説するマリアの声や、一体どんなことが行われるのかと問うクィーロの声がする。
何か話があるのだろう、と。敢えて自らに寄らなかった誠一を呼んで馬車の後方へと移動したディーノへと、誠一は苦笑を一つ零した。
もう随分長く付き合っている互いの関係から、一歩前へとそう思った切欠は恐らく『彼女』だろう。
誠一が提案した親しみを込めた呼び方を快く了承したディーノと並んで歩きつつ、誠一は口を開く。
彼以上に長い間『彼女』を見守り、共に戦ってきた戦友のディーノにどうしても筋を通しておきたいと。
「……以前よりも、近い場所にいたいと思ってる」
今まで悩んだ姿しか、見せたことがなかったから。と。
そう言って自身を見る誠一に、ディーノは無言でその先を促した。
誰との距離の話なのか。何の距離の話なのか。それは言わずとも、察することが出来た。
「俺は依存も庇護も望んでない。互いに想いを向けながらも、成長を促しあえるような。そんな関係なんだ」
ぐっと握ったグローブ越しの手に、重なった小さく暖かな手を覚えている。
守りたいし、救いたい。けれど、囲み覆いたいわけではない。
時に引っ張り上げ、時に引っ張られ。そうして並んで歩いていけたら。
「お嬢は……ヴェラは、根深いぞ」
端的に告げられるそれは、核心。常にハンデのある彼女は、自身の弱点となる思いを決して誰にも見せたがらない。
実際、ディーノが彼女の――ヴェロニカの本心を聞いたのはたったの。
彼女が足を不自由にした切欠となった怪我。その怪我によって高熱に浮かされた時の、魘され泣きながらの言葉、たった一度の一言だけなのだから。
「……それでも。俺に向き合ってくれたヴェラだから」
だから今度は自分の番。家族のように見守るディーノとは違う立場で、彼女が直向きに隠す闇。そこから引き上げたいのだと。
そう告げて、誠一は眼鏡の奥の瞳に強い意志を乗せた。
「だから、灰色狼も一緒に」
出された手と誠一を見比べて、嘗てそう呼ばれ、今またそう呼ばれる男は。
珍しく穏やかに、笑んでみせた。
荷馬車から微かに零れる甘い香り。
前方から聞こえる楽しげな声と、後方で中年男が小さく目を輝かせる酒の話と。
馬上で道程を物語として紡いでいく詩人と。
全員の想いを乗せて、ゴトゴトと荷馬車は往く。
END
「うーん……親子、とかはないですよね」
雑魔は生殖機能を持たないといわれている。ならば、今回の雑魔騒ぎは親子ということはないのだろう。
けれど、見た目はそう見えるかもしれない。
魔導バイクを走らせながら、クオン・サガラ(ka0018)はふと思案する。
田舎の村からここまでの道のりを確認する意を込めて先行する彼の視線は、思案とまた別に道の注意箇所を細かくチェックしていた。
スムーズに荷馬車を通すための障害はなにも雑魔だけではない。
轍や石、泥濘。それらもまた、大きさや規模によっては荷馬車を容易には通さないものになるだろう。
一方、神代 誠一(ka2086)とクィーロ・ヴェリル(ka4122)を先頭に残りのメンバーも現場へと向かっていた。
自身の前を歩く二人がどこか楽し気に会話をしている姿を見つつ、浅緋 零(ka4710)はふと何かに気付く。
(せんせいとクィーロ……身長同じ……)
ぼんやりそんなことを考えている零の事に気付いているのかいないのか。
前を行く二人は戦闘前だというのにリラックスしている。横を歩くのが相棒だから、なのだろう。
「…………」
ふと零の脳裏に、自身と同じバレッタを使う飴色の髪の誰かが浮かんで。
ふるりと零は首を軽く振ってそれを打ち消した。
「アサヒさん、どうかされましたか?」
マリア(ka6586)が首を傾げて問いかけるが、零は小さく首を振って何事もないのだと返すだけ。
「何もないのなら良いですけど、無理はしないでくださいね?」
「うん……ありがとう、マリア」
く、と。軽く左胸のあたりを握ってみる。けれど、零の胸中はまだ親友の瞳のような空の色が広がることはなかった。
そんな全員を一番後ろから眺めつつ、ルスティロ・イストワール(ka0252)はふと宙を見上げる。
「カーバンクル、君もお祭り楽しみかい?」
前を行くのは同じ『どうぶつ』の仲間たちがほとんど。
長い耳の兎が書きあげていく今回の物語の登場人物たちは、一体どんな物語を紡いでくれるのだろう。
お祭りよりも少し先だけれどそれは、ルスティロにとっての楽しい物語の始まりだ。
■
現場付近で待機していたディーノと、先行して先に合流していたクオンの元へとメンバーが合流してから徒歩で3分ほど歩いて。
現場に着いて目視し、まず真っ先に口を開いたのはマリアだった。
「……可愛いっ」
「まぁ、見た目だけいえば可愛くはないですけど……」
「かわいくても、あれは敵、だから……」
「雑魔には違いないですから、何とも言い難い部分があるかなぁ」
上からマリア、クオン、零、誠一の順だ。
サイズ的には確かに小型犬サイズ。見た目3kg程度で数は12。ただし、雑魔なので見た目と重さは比例しない場合もあるので、そこは注意するとして。
なんてそんなことを考えている誠一だったが、その後ろにのそりと立ったディーノが小さく首を振った。
「……見た目通りだ」
「え」
振り返った先のディーノは、首に巻いた古いストール越しに小さく息を吐く。溜息だろうか。
「見た目通り、軽い。強くはない。……このメンバーなら、間違いがなければ、軽く斃せるだろうな」
それでもディーノが単独で攻撃をしなかった理由。それは。
「数が多い……一人だと面倒になる」
「ディーノさん……」
「まぁ、うん……それは確かに」
隠すことないディーノの表情に、誠一とクィーロは苦笑を零すしかなかった。
さてそれでは、雑魔相手に軽い準備運動を致しましょうか。
■
まず真っ先に敵陣へと飛び込んだのはクィーロだった。
火の鳥のようにオーラを纏った彼を確認した雑魔たちは、一気に彼へと群がっていく。
真っ先に駆けて噛みつこうとした1体の口を太刀の柄でいなすように受けとめ、押し返しつつその刃を一閃させる。
甲高い鳴き声と共に斃れる雑魔に、クィーロは残念そうに目を細めた。
「数ばっかか……。まあいい誠一、ちゃんと働けよ?」
次にクィーロへと近づき爪を翻す雑魔は、彼に傷を与えられると確信し――。
「人遣いが荒いっつーの!」
横っ面から閃いたナイフの連撃によってその腹部を引き裂かれ息絶える。
背後から迫る次の敵の爪を手にしたナイフでいなしつつ、誠一はにやりと笑った。
「有難う、これでもう一回動ける」
逆の手から放たれた赤閃が、雑魔の小さな急所を貫く。
「おーおー、誠一がきびきび動いてくれるから俺は適当にしておくぜ」
「そう言いつつ動いてくれるんだよなぁクィーロは」
「いやいや、誠一の出番を取るわけにはいかないだろ?」
軽口を叩きつつも、その場の安心感たるや。
周囲の警戒を担当することにしたディーノが、ストールに隠しつつも口角を上げていたことを、彼らは知らない。
獲物の反撃を確認して逃げ出そうとした数匹の雑魔を確認して、クオンは構えたアサルトライフルから制圧の弾雨を降り注ぐ。
「逃げられるのは困りますからね。すみませんが、動きを制させてもらいます」
同じくクオンの弾雨から逃れるように逆サイドを抜けようとした雑魔たちを縫い留めたのは、零の落とす雹のような矢だ。
「……『待て』」
金に濡れる弦が弾く余韻を響かせつつ、紅の鬼子はそっと呟く。
2人の射手の手による制圧射撃を受けた雑魔たちに向けて、手にした極彩色の魔杖を翳したルスティロが声を上げた。
「僕の力、少し試させてもらうね」
放たれた魔の矢は、彼にとっては久しぶりの「己の魔力」自身を使用した攻撃で。
動けない体に注がれた逃れようのない幻矢によって穿たれた5体の雑魔が斃れる。
「ふぅ、杖の感触はまだ慣れないねぇ……」
クィーロと誠一のコンビで3体。今、クオンと零によって足止めされルスティロが仕留めたのが5体。
「残りは4体ですね」
「3かな」
「2だろ!」
かすり傷を与えられ一気に敵が密集しそうになるクィーロへと治癒を施しつつ残りを確認するマリアと、相棒を傷つけた敵を斃す誠一。その背後から更に寄る敵の攻撃をいなし返り討ちにしたクィーロが数を着実に減らしていく。
「それじゃ、これで残り0で!」
咄嗟に範囲上から前衛たちを逸らしたクオンが放った炎の魔扇が、残る2体を一気に斃し切って。
「……順調そのもの、だな」
周辺警戒のディーノが姿を現したところで、前半戦が終了となった。
■
村に到着したハンターたちは、次の任務である護衛のため、荷馬車の準備を待っていた。
村人たちは集まったハンターたちをやや遠巻きに見ていた。
田舎のせいだろうか、あまりハンターを間近で見た事がないらしい。
だがそれも恐らく長くは続かないだろう。
敵意も害成すこともないと穏やかな雰囲気と明るい会話でアピールするハンターたちに、少しずつだが空気が和らいでいく。
「さっきマリアさんがヒールで治してくれたから」
「これは雑魔からの攻撃じゃないしね」
「……俺はいい」
クィーロとルスティロ、そしてディーノの3人の前に立った零が、持参した救急セットを持って半眼で口を開いた。
「ダメ、です」
じぃと相手を見つめる瞳は、常のぼんやりとした雰囲気を纏いながらもどこか芯の強さを宿している。
「手当、するから……」
それ以降はもう無言の圧だ。
傷の内に入らないような細かい傷まで、零によってきっちりと手当てされていく。
そんな教え子の姿を見て笑いつつ(とはいっても、彼自身も治療された後なのだが)誠一は比較的早く自分たちに好意的になってくれた村人へと、持参した別の救急セットを差し出した。
「よかった使って下さい。きちんと補充されていますし、あって困ることはないですからね」
「あぁ、助かるよ。街から遠いとなかなか買いに行けなくてな」
今は、ディーノが何かしら買いに出てはくれるが、村人は仕事のため村からは離れられないのだ。
「そういえば、ディーノさん」
「……? なんだ」
零による治療が終わって一息ついたところで、ふとクィーロがディーノへと声をかけた。
接点となる出来事が少なかったため、あまり話しかける内容がないな、と思っていたところに、ふと浮かんだことがあった。
じっと自分を見る濃赤の瞳を見返しつつ、クィーロは小さく笑う。
「ヴェロニカさんは元気です? あの森以降会ってないので」
「……森……あぁ。手紙が、来ていたな」
ふむと顎に手をやりつつ、灰色狼と呼ばれ、今再び呼ばれる事となっている中年男は口を開いた。
「体調面なら元気だ。まぁ……」
ふと視線を全員に順に移して、再度クィーロへと戻したディーノは確かに口角を上げていた。
「……問題があっても、お前たちがいる。問題はない」
「あっても、ないんですか?」
苦笑したクィーロの肩を軽く叩き、男はふらりと背を向ける。おそらく荷馬車の最終確認に行くのだろう。
「……俺は、回数は関係ないと思う。お前が『緋の鳥』と呼ばれた時点で、お嬢はお前を認めてる」
荷馬車へと歩を進めるディーノの少し前を、救急セットを抱えた零がぼんやりしつつ通り過ぎる。
「足元に気をつけろ」
「……ディーノ」
声をかけられてふと顔を上げた零を見て、微かにディーノが首を傾げた。
何かあるのだろうか。しかし自分が聞いてもいいものなのだろうか。
逡巡し、そして無言のままやや不躾に零を見やってしまったのは、恐らくは彼にとって零が、というより、彼の庇護してきた絵本作家が、零の親友だから。
お互いに無言のまま見つめ合うこと数秒。
困ったように頭を掻いたディーノの様子に、零が小さく笑った。
息を整え、場の空気を整え。語り始めたのは、ひとつのお話だ。
「ディーノなら……どうする……?」
語られたのは楽しかった二年前の祭と、つい先日起きた戦いの後に自分が焼いた大切なもの。
どうしても、そうせざるを得なかった。
行ったそれ自体に、悔いなどあるはずがない。いや、あってはならないはずだった。
それなのに、胸を裂く痛みが確かにある。
「参考には、ならんだろうが」
聞き役に徹していたディーノが、ゆっくりと口を開く。
「もう一度、描いてもらうな」
それはつまり、真実を述べるということ。それはつまり、自身の行動を明らかにするということ。
「そうして痛みを、共有してこその友だと……俺は思うがな」
だがそれは彼の考えであって、誰もそれを零に強要はしない。零には零の想いと行動があるのだから。
軽く零の頭を宥める様に叩いて、今度こそ彼は荷馬車の元へと歩いていくのだった。
――そうして荷馬車と共に、ハンターたちは復路を往く。
■
ディーノに荷馬車の護衛を任せ、今度は祭の会場へと向かう。
先にクオンが確認した道の注意点を伝えつつ、荷馬車は比較的スムーズに道を進んでいた。
祭の会場まであと三分の一程度になったときのこと。
「……とまって」
遠方を見つつ歩いていた零の言葉に、全員が足を止めた。
荷馬車を庇う様にディーノを除く全員がその前に展開する。
「荷馬車はこちらが引き受けます」
マリアが荷馬車の前方を守るのならばと、ディーノは後部へ移動していく。その直後。
勢いよく駆けてきたのは、前半戦ったそれよりやや大きなサイズの雑魔。
「親、ということはないでしょうけど」
「さぁカーバンクル! 今度は君の力も借りるよ!」
降る弾丸はクオンの制圧の雨。低い体勢でそれを避けた雑魔を確認して次に動いたのはルスティロだ。
「君の爪より、僕らの爪の方が鋭いよ?」
グローブに纏わせた柘榴色の鋭爪での攻撃を、ギリギリ前脚を犠牲にして雑魔が数歩後ろへ下がる。
そこに縫い止める氷結の一矢が残る後ろ足へと突き刺さった。
「おいたは、ダメ……だよ」
氷点下の炎は、やがて灼熱の痛みへ。
「おっと! もう自由にはさせないよ」
ルスティロの伸ばす紅の尾が、雑魔をしっかりと捕えた。
もがく雑魔を追走するのは、先駆ける赤き閃きと結ばれた新緑の糸に引かれるように駆け抜ける誠一と、強く緋色に輝く鳥を胸に抱くクィーロだ。
一足先に敵の眼前へと駆け込んだ誠一が、形を変化させた刃で首を掻き切ろうと振り切る。
「荷物もある事だ、さっさと退場願おうか!」
致命傷を避ける程度に身をよじり瀕死の雑魔へと、命すらも力に変えたクィーロの渾身の一撃が雑魔の胴を真っ二つに叩き切り。
地に斃れ動きを止めた雑魔のその眼前で、2名は笑みを浮かべハイタッチを交わすのだった。
■
少し前方で、祭が楽しみだと力説するマリアの声や、一体どんなことが行われるのかと問うクィーロの声がする。
何か話があるのだろう、と。敢えて自らに寄らなかった誠一を呼んで馬車の後方へと移動したディーノへと、誠一は苦笑を一つ零した。
もう随分長く付き合っている互いの関係から、一歩前へとそう思った切欠は恐らく『彼女』だろう。
誠一が提案した親しみを込めた呼び方を快く了承したディーノと並んで歩きつつ、誠一は口を開く。
彼以上に長い間『彼女』を見守り、共に戦ってきた戦友のディーノにどうしても筋を通しておきたいと。
「……以前よりも、近い場所にいたいと思ってる」
今まで悩んだ姿しか、見せたことがなかったから。と。
そう言って自身を見る誠一に、ディーノは無言でその先を促した。
誰との距離の話なのか。何の距離の話なのか。それは言わずとも、察することが出来た。
「俺は依存も庇護も望んでない。互いに想いを向けながらも、成長を促しあえるような。そんな関係なんだ」
ぐっと握ったグローブ越しの手に、重なった小さく暖かな手を覚えている。
守りたいし、救いたい。けれど、囲み覆いたいわけではない。
時に引っ張り上げ、時に引っ張られ。そうして並んで歩いていけたら。
「お嬢は……ヴェラは、根深いぞ」
端的に告げられるそれは、核心。常にハンデのある彼女は、自身の弱点となる思いを決して誰にも見せたがらない。
実際、ディーノが彼女の――ヴェロニカの本心を聞いたのはたったの。
彼女が足を不自由にした切欠となった怪我。その怪我によって高熱に浮かされた時の、魘され泣きながらの言葉、たった一度の一言だけなのだから。
「……それでも。俺に向き合ってくれたヴェラだから」
だから今度は自分の番。家族のように見守るディーノとは違う立場で、彼女が直向きに隠す闇。そこから引き上げたいのだと。
そう告げて、誠一は眼鏡の奥の瞳に強い意志を乗せた。
「だから、灰色狼も一緒に」
出された手と誠一を見比べて、嘗てそう呼ばれ、今またそう呼ばれる男は。
珍しく穏やかに、笑んでみせた。
荷馬車から微かに零れる甘い香り。
前方から聞こえる楽しげな声と、後方で中年男が小さく目を輝かせる酒の話と。
馬上で道程を物語として紡いでいく詩人と。
全員の想いを乗せて、ゴトゴトと荷馬車は往く。
END
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/04 23:02:15 |
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相談卓 神代 誠一(ka2086) 人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/06/07 14:00:09 |