ゲスト
(ka0000)
【虚動】受け継がれる腐れた系譜
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/21 07:30
- 完成日
- 2014/12/29 04:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
第二師団都市カールスラーエ要塞の東大扉はハンター達の活躍により無事に開門を果たし、帝国皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)と錬魔院院長ナサニエル・カロッサ(kz0028)、そしていくつかの魔導エンジンを乗せたトラックの車列が都市を抜け辺境へと向かう。その護衛を務めるのは、第二師団の面々と、雇われたハンター達だ。
師団長であるシュターク・シュタークスン(kz0075)、副団長の老兵ハルクス・クラフト。そして、師団内でも精鋭となる兵長や上等兵など、合計すれば百は下らない兵士の群れが陣形を組み十のトラックに別れて行軍する物々しさは、この先に待つものが歴史の分水嶺だと暗示しているようだった。
「んで、キャム? この箱の中身がそんなに強えのか?」
車列の中心を務める、一際大きく厳重な装甲に覆われたトラックの荷台で、シュタークは胡散臭げにエンジンの入ったコンテナをゴンゴンと叩いている。時折、あ、凹んだ、などと聞こえるのは気のせいだろうか。
「まあ、君に説明しても時間と労力と酸素の無駄でしょうねぇ。というか、あんまり触らないで貰えます? これは繊細なものなのですよ、君と違ってねぇ」
ナサニエルは荷台の隅に座って、薄笑いを浮かべ嫌味たらしくシュタークを諌める。
「この中身だけでは何も変わらんさ、実際に取り付けてみないことにはな。……しかし、この眺めとスピード感、悪くないな」
ヴィルヘルミナは、コンテナの上に立って楽しそうに遠くを眺めていた。余り整備のされていない道の上に車体が大きく揺れる中、強風に煽られて尚も微動だにしないのは、流石といったところか。
「……私は車内でぬくぬくしたいですねぇ」
身を切る風に、ナサニエルが体を震わせる。
「馬鹿者、御老人がいらっしゃるのだ。若人がこの程度で音を上げてどうする」
「そうそう、涼しくて丁度いいじゃねえか」
シュタークの快活な笑い声を聞き流し、ナサニエルはこれ見よがしにため息を吐いた。
●
そうしてトラックに揺られることしばらく、木々が薄れ荒涼とした大地が見え始める頃に、
「……ん?」
シュタークが、唐突に空を見上げた。
「どうかしたか?」
ヴィルヘルミナが目聡く、その様子に気づき、尋ねる。
「いや、何か臭えぞ」
言うが早いか、シュタークはトラックの屋根に飛び乗っていた。背負った大剣の柄に手を添え、その目は一直線に前方を睨みつける。
「ふむ、何かしらの襲撃は想定内だが」
だからこその、この車列だ。いざという時のために、エンジンも分散して積載してある。
「しかし臭いとは、犬ですか君は」
ナサニエルがうふふと笑いを漏らす。
「ああ。結構鼻が利くんだ、あたしは」
シュタークが、身長ほどもある大剣を抜き放ち、片手に構えた。
その内に、空の向こうに小さな点が二つ現れた。それは徐々に大きくなり、その形を露わにしていく。
「おい、ありゃドラゴンってやつか?」
大きな翼をバサバサと上下させ、優雅に宙を滑ってこちらに向かってくる。そのシルエットは、トカゲに似ていた。
「いや、あれは――」
しかし、その姿には、異質な点がいくつも見て取れた。近づくほどに違和感は増し、有り得ないその形状は見る者に嫌悪感を抱かせる。
溶け崩れた表皮。
露わになった肋骨。
口の端からはだらんと舌が垂れ、色の悪い唾液がだらだらと流れ出している。
「おや、リンドヴルムですかねぇ」
その両肩に鋼鉄の機銃を乗せ、尾に巨大な刃を携えたドラゴン型のゾンビは、帝都を襲った彼の剣機に酷似する姿で以って目の前に現れた。
しかし、
「小さいな」
ヴィルヘルミナは呟く。
空を覆うほどに巨大だったそれとは、比べ物にならない。半分か、それよりも小さく見える。
「嵩張る機能をオミットした、低コスト低燃費の量産型……といったところでしょうかねぇ」
「……何言ってるかよく分かんねえが、敵ってことでいいんだな?」
「ああ、間違いないよ」
シュタークはそれだけ聞くと、向かってくる二つの影に向き直る。
「んじゃ、お仕事と行きますか!」
次の瞬間、獰猛な笑みを浮かべ、シュタークは膨大なオーラに包まれた。
額には天を衝く二本の角が現れ、犬歯は牙のように伸び、片目の赤い瞳だけを残して白目が闇夜のような黒に染まる。全身には真紅の文様が浮かび上がり、その様相を鬼と呼ぶに相応しい物へと変貌させる。
「手伝おうか?」
ヴィルヘルミナが尋ねる。
「いやいや、この程度で大将が出張ることもねえだろ。ヴィル……何とかは、ドライブでも楽しんでてくれや」
「ああ、ならばそうしよう。では――」
ヴィルヘルミナは、トラックの後方にちらと目をやる。
「――後ろの二体は、ハンターに任せるとしようか」
計四体の量産型リンドヴルムが、同時に咆哮を上げた。
●
ズドンとトラックの屋根を蹴り飛ばし、シュタークが砲弾のように飛び上がる。その衝撃は凄まじく、重装甲のトラックが反動で潰れんばかりのものだった。
コンテナの上から飛び出さなかったのは、先ほどのナサニエルの言葉が効いていたからなのだろうか。
「……乱暴ですねぇ」
しかし、それでもトラックはコントロールを失って大きく揺れる。運転手の類まれな技術がなければ、大事故に発展していたかもしれない。
「何、あれくらい元気でなければ師団長など務まらんさ」
愉快そうに、ヴィルヘルミナが笑みを浮かべる。
「それにしても」
ナサニエルが、リンドヴルムと交差しその翼を一撃のもとに斬り落とすシュタークの姿を見て呟く。その様子は、どこか楽しげだ。
「身体強化系の術式は、視力以外に施されていないはずですよねぇ。それも失敗に終わったはずですし……ウフ、どうやったらあそこまで育つのやら」
「ほう、まだ殴り足りなかったか?」
「嫌だなぁ、何もやましいことなんて考えていませんよ」
軽く拳を固めるヴィルヘルミナを前に、ナサニエルはわざとらしく肩を竦めた。
師団長であるシュターク・シュタークスン(kz0075)、副団長の老兵ハルクス・クラフト。そして、師団内でも精鋭となる兵長や上等兵など、合計すれば百は下らない兵士の群れが陣形を組み十のトラックに別れて行軍する物々しさは、この先に待つものが歴史の分水嶺だと暗示しているようだった。
「んで、キャム? この箱の中身がそんなに強えのか?」
車列の中心を務める、一際大きく厳重な装甲に覆われたトラックの荷台で、シュタークは胡散臭げにエンジンの入ったコンテナをゴンゴンと叩いている。時折、あ、凹んだ、などと聞こえるのは気のせいだろうか。
「まあ、君に説明しても時間と労力と酸素の無駄でしょうねぇ。というか、あんまり触らないで貰えます? これは繊細なものなのですよ、君と違ってねぇ」
ナサニエルは荷台の隅に座って、薄笑いを浮かべ嫌味たらしくシュタークを諌める。
「この中身だけでは何も変わらんさ、実際に取り付けてみないことにはな。……しかし、この眺めとスピード感、悪くないな」
ヴィルヘルミナは、コンテナの上に立って楽しそうに遠くを眺めていた。余り整備のされていない道の上に車体が大きく揺れる中、強風に煽られて尚も微動だにしないのは、流石といったところか。
「……私は車内でぬくぬくしたいですねぇ」
身を切る風に、ナサニエルが体を震わせる。
「馬鹿者、御老人がいらっしゃるのだ。若人がこの程度で音を上げてどうする」
「そうそう、涼しくて丁度いいじゃねえか」
シュタークの快活な笑い声を聞き流し、ナサニエルはこれ見よがしにため息を吐いた。
●
そうしてトラックに揺られることしばらく、木々が薄れ荒涼とした大地が見え始める頃に、
「……ん?」
シュタークが、唐突に空を見上げた。
「どうかしたか?」
ヴィルヘルミナが目聡く、その様子に気づき、尋ねる。
「いや、何か臭えぞ」
言うが早いか、シュタークはトラックの屋根に飛び乗っていた。背負った大剣の柄に手を添え、その目は一直線に前方を睨みつける。
「ふむ、何かしらの襲撃は想定内だが」
だからこその、この車列だ。いざという時のために、エンジンも分散して積載してある。
「しかし臭いとは、犬ですか君は」
ナサニエルがうふふと笑いを漏らす。
「ああ。結構鼻が利くんだ、あたしは」
シュタークが、身長ほどもある大剣を抜き放ち、片手に構えた。
その内に、空の向こうに小さな点が二つ現れた。それは徐々に大きくなり、その形を露わにしていく。
「おい、ありゃドラゴンってやつか?」
大きな翼をバサバサと上下させ、優雅に宙を滑ってこちらに向かってくる。そのシルエットは、トカゲに似ていた。
「いや、あれは――」
しかし、その姿には、異質な点がいくつも見て取れた。近づくほどに違和感は増し、有り得ないその形状は見る者に嫌悪感を抱かせる。
溶け崩れた表皮。
露わになった肋骨。
口の端からはだらんと舌が垂れ、色の悪い唾液がだらだらと流れ出している。
「おや、リンドヴルムですかねぇ」
その両肩に鋼鉄の機銃を乗せ、尾に巨大な刃を携えたドラゴン型のゾンビは、帝都を襲った彼の剣機に酷似する姿で以って目の前に現れた。
しかし、
「小さいな」
ヴィルヘルミナは呟く。
空を覆うほどに巨大だったそれとは、比べ物にならない。半分か、それよりも小さく見える。
「嵩張る機能をオミットした、低コスト低燃費の量産型……といったところでしょうかねぇ」
「……何言ってるかよく分かんねえが、敵ってことでいいんだな?」
「ああ、間違いないよ」
シュタークはそれだけ聞くと、向かってくる二つの影に向き直る。
「んじゃ、お仕事と行きますか!」
次の瞬間、獰猛な笑みを浮かべ、シュタークは膨大なオーラに包まれた。
額には天を衝く二本の角が現れ、犬歯は牙のように伸び、片目の赤い瞳だけを残して白目が闇夜のような黒に染まる。全身には真紅の文様が浮かび上がり、その様相を鬼と呼ぶに相応しい物へと変貌させる。
「手伝おうか?」
ヴィルヘルミナが尋ねる。
「いやいや、この程度で大将が出張ることもねえだろ。ヴィル……何とかは、ドライブでも楽しんでてくれや」
「ああ、ならばそうしよう。では――」
ヴィルヘルミナは、トラックの後方にちらと目をやる。
「――後ろの二体は、ハンターに任せるとしようか」
計四体の量産型リンドヴルムが、同時に咆哮を上げた。
●
ズドンとトラックの屋根を蹴り飛ばし、シュタークが砲弾のように飛び上がる。その衝撃は凄まじく、重装甲のトラックが反動で潰れんばかりのものだった。
コンテナの上から飛び出さなかったのは、先ほどのナサニエルの言葉が効いていたからなのだろうか。
「……乱暴ですねぇ」
しかし、それでもトラックはコントロールを失って大きく揺れる。運転手の類まれな技術がなければ、大事故に発展していたかもしれない。
「何、あれくらい元気でなければ師団長など務まらんさ」
愉快そうに、ヴィルヘルミナが笑みを浮かべる。
「それにしても」
ナサニエルが、リンドヴルムと交差しその翼を一撃のもとに斬り落とすシュタークの姿を見て呟く。その様子は、どこか楽しげだ。
「身体強化系の術式は、視力以外に施されていないはずですよねぇ。それも失敗に終わったはずですし……ウフ、どうやったらあそこまで育つのやら」
「ほう、まだ殴り足りなかったか?」
「嫌だなぁ、何もやましいことなんて考えていませんよ」
軽く拳を固めるヴィルヘルミナを前に、ナサニエルはわざとらしく肩を竦めた。
リプレイ本文
ヴィルヘルミナの指示を受け、トラックに揺られながらハンター達は背後に目をやる。そこには、異様な姿の竜が見て取れた。
空に穴を穿つ二つの影は、強烈な威圧感を以って見る者の脳裏にその脅威を浮かび上がらせる。
俄に車列は速度を増し、左右に広がる荒野が飛ぶように過ぎていく。しかし、量産型リンドヴルムと称された二個体は、それでも徐々にこちらへ近づいているように見えた。
「運んでいる物が物なので、護衛も楽じゃないかなとは思っていたのですが……まさか剣機とは」
リリティア・オルベール(ka3054)は、思わず腰の刀に手を添えていた。
物々しい警備に似合う大物だ。背筋を襲う緊張感に目を細める。
「剣機って言っても、前にやり合った機械の半身より小さいよ。ま、取り敢えずさっさとやっちまおうぜ」
「劣化品といえども、それなりに楽しめる相手であるだろう。……ふはははっ、あの竜と戦えなんだ燻りに、再び火を点ける機会が来ようとは!」
フェルム・ニンバス(ka2974)はあくまで淡々と杖を取り出し、既に戦闘準備を整えていた。以前に戦った本物の剣機の動きを、頭に思い浮かべる。
その横でバルバロス(ka2119)はニヤリと大きな笑みを浮かべると、短弓を手にする。槍で直接殴りたいのはやまやまだが、とにかく空中にいられたのでは手の出しようがない。
八城雪(ka0146)も同じく、歯噛みする。
「シュタークみてーに、ジャンプできりゃ、飛び掛れんのに、です」
オリジナルの止めを取られた事を思い出しながら、徐々に近づいてくる影を睨みつけることしか出来ない。
「お呼びじゃない追っかけは、お帰り願わないとね」
手にした拳銃に弾丸を装填し、オキクルミ(ka1947)は盾と共にそれを構える。
「二匹は面倒だねぇ。とりあえず、片方を集中攻撃して引きずり下ろそうか」
そう言ってヒース・R・ウォーカー(ka0145)が取り出すのは、小さな刃が円状に幾つも並んだ投擲武器、手裏剣だ。
「……見たところ、肩に銃が埋め込まれているな。早いとこ潰したいところだ」
ザレム・アズール(ka0878)の手にした弓は、多少の距離ならば気にならない性能を持っている。既に彼は、焦げた弓身に矢を番えようと腐った肉の塊を見据えていた。
「みんな、無茶はしないでね」
金の髪を靡かせ、シェール・L・アヴァロン(ka1386)が心配そうに呟く。
彼我の距離は順調に縮まっていき、ハンター達は運転手に断ってトラックの荷台から荒野へと飛び降りた。
車列は次々と、唸りを上げて彼らを追い越す。
そうして、トラックが背後の景色に溶けて消える頃。バサバサという羽音と共に、二体の腐竜はもっとも手近な生物――ハンター達に、濁った眼球をぐるりと向けた。
●
機銃の口腔が、黒い闇を孕んでいるのを見た。
咄嗟に、ハンター達は道の両脇に点在する岩の陰へと走った。その直後、彼らの影を撃ち抜くように無数の擦過音が甲高く耳朶を叩く。
岩陰に滑り込んで振り返れば、数えきれない弾丸が地面に穴を穿っていくところだった。弾雨はハンター達を追って移動し、彼らの隠れる岩を叩く。
「射程は、あんまり長くないみたいだねぇ」
ヒースの言う通り、地面に開いた穴の間隔は非常に広く、こちらを狙ったにしてはお粗末な集弾性だ。その証拠に、今の攻撃で負傷した者はいない。
「経口は小さく銃身は短い、しかも安定しない空中からの射撃だ。滅多には当たらないだろうが……」
対して機導師のザレムは、自身の知識から敵の武器を分析する。
「とにかく、空中にいられては面倒だ」
そして言うが早いか、ザレムは岩陰から飛び出していた。腐竜の滑空に合わせ、引き絞った矢を放つ。矢は炎を纏い、空気を焦がしながら竜の前足に突き刺さった。
「まずは、片方を地に落としてやらねばな!」
敵が二体いるのならば、まず一体を確実に倒す。
そのために次いでバルバロスも同じ敵の翼を狙い、その豪腕で弓を引く。矢は大きく広げられた翼の皮膜を見事に貫いた。
しかし、敵は怯みもしない。薄紫の体液を口から垂れ流し、二体の竜はハンター達の隠れた岩にひたすら弾丸を撃ち込んでいる。
「降りてこないと当てられないじゃないですかー!!」
リリティアの叫びは、ここにいる全員の共通する思いだ。順調にこちらに近づいてきているものの、決定打となる人員がいない。敵は巨大故に鈍感なのか、ダメージが通っていようが、矢が刺さった程度では気にも止めていないらしい。
「さて、そろそろ届くかな」
三番目に射程が長いのは、フェルムの魔法攻撃だ。敵の位置を見て杖にマテリアルを込めながら、盾を構えて岩から顔を出す。
杖の先端に風が巻くと同時に、盾にバチバチといくつかの弾丸がぶつかった。しかしフェルムはそれを気にも留めず、魔法を解き放つ。逆巻く風が刃となって、翼に小さくない裂傷を作る。
その瞬間、片方の竜がぐらりと体勢を崩した。
「効いてきてん、です?」
竜は僅かに高度を下げたものの、若干ふらつきながらまだ浮かんでいる。しかし、このまま攻撃を続ければ、落とすことはできそうだ。
敵の姿が更にこちらに近づいた。
引っ切り無しに火を噴く機銃に気をつけながら、オキクルミが拳銃の引き金を引き、ヒースは素早く腕を振って手裏剣を投げ放つ。
最も効果の高かったのは、シェールのホーリーライトだ。
光に弱い性質でも持つのか、光球が胸元で炸裂すれば苦悶の唸りを上げて竜が長い首を振る。同時に、左右の翼の動きがちぐはぐになったかと思うと、一気に体勢が崩れた。
空中でばたばたともがくも、矢や弾丸で無数に穴を開けられた皮膜は上手く空気を掴むことが出来ないらしい。
「落ちるわよ、全員気をつけて!」
攻撃を受け続けた片側の竜が錐揉み、一直線にこちらに落ちてくる。
もう一体は、眼前で落ちていく仲間の背中に弾が当たることも気にせず、未だにこちらに向けて機銃を撃ち続けていた。
「ようやく届く位置まで来ましたね……!」
ダメ押しは、リリティアの投げナイフだ。投擲されたそれは真っ直ぐに空気を裂き、ほんの少しだけ残った翼の揚力を奪い取った。
●
これから厄介になるのは、もう一体の元気な方だ。事前に打ち合わせ通り、防御班のヒース、シェール、オキクルミが、その一体を引き離しに掛かる。
「さぁて、お前はこっちだよ」
ヒースの投げる手裏剣が、健在な竜の翼に突き刺さる。
「目か口の中に行けばご喝采っと」
岩を盾に機銃の掃射から逃げつつ走り回るオキクルミの拳銃も、既に敵を射程内に捉えている。たとえ小さな銃弾だとしても、次々に命中し銃創を増やしていけば間違いなくダメージとなる――はずだった。
「ちょっと、予定と違うんだけど!」
「まいったね、思ったよりも鈍感みたいだ」
「こっちに、弾も飛んでこないなんて……」
盾を構えたシェールが、遮蔽物のない場所に陣取っても竜はこちらを見もしなかった。
幾度も引き金を引き、幾振りもの手裏剣が肉を裂いても、三人を気にも留めない。単純に、数の問題なのだろうか。攻撃に気付いてもいないかのような反応に、予定は狂いを生む。
そして、三人が敵を引き離せなければ、残る五人の負担は当然増えていく。
「攻撃班の皆、注意して!」
竜が頭上で旋回し、機銃の先を五人に向けた様子を察知し、シェールが叫ぶ。
同時に、彼女は手にしたサーベルに光を灯していた。光は収縮し、球をかたどる。
そして放たれた光球が、竜の鼻先を掠めた。目を焼く聖なる光を前に、竜は悲鳴のような咆哮を上げる。
――次の瞬間、ぐるりと乳白色の目がシェールを見た。
「あら、怒らせちゃったかしら」
シェールは、迫り来る弾幕を前に笑みを浮かべた。
●
地面を抉り取るようにして、大質量の竜が墜落する。その巨体は土砂を巻き上げ、グシャリという生々しい音を響かせてそのまま岩に激突した。
「さて、これで倒れてくれれば上々だが――」
ザレムが呟く。彼も防御班に入るつもりではあったが、三人もいれば充分だと判断しこちらへ赴いていた。
だが、竜はそんな希望など知った事かと、僅かな時間だけをおいて起き上がる。
「そー上手くは、行かねー、です」
真っ先に飛び出したのは雪だった。
竜は既に、再び飛び立つ体勢に入りつつあった。それが可能かはともかく、まずは翼を潰しておくべきだ。
「まだ、シュタークみてーには、ジャンプできねー、です。けど――」
地面を強く蹴り飛ばせば、その体は大きく跳ね上がる。大上段に構えたハンマーは、マテリアルを蓄えて淡く光を放つ。
「オレにも、これくれーは、できる、です……!」
振り下ろされた一撃は、過たず翼へと吸い込まれる。
ズドンと、肉が潰れる音を置き去りに、竜の骨格とハンマーの衝突により生じた轟音が大気を揺らす。
だが、竜も黙ってはいない。雪に向けて、思い切り前足が振り上げられた。
「ぐぅっ!」
雪はハンマーの柄で以ってそれを防ぐが、強烈な衝撃に体ごと弾き飛ばされる。
「雪さん!」
「良くやった、雪よ!」
ボールのように宙を舞う雪を、リリティアとバルバロスが上手く受け止める。
「機銃が来るぞ!」
ザレムの声に前を見れば、片翼を不自然にだらりとぶらさげた竜がこちらを睨みつけていた。機銃は唸りを上げ始めている。
「ち、しぶとい奴だな!」
ザレムとフェルムは、近くの岩へと走りながら機銃へ攻撃を仕掛ける。
安定した地面の上で、竜の体の上下もなく距離も近い。ザレムの銃弾とフェルムの石弾が、共に機銃へと殺到し――直後、歪む銃身の中で炸薬に着火したのか、小爆発が竜の肩を舐める。
その衝撃で竜の体勢が崩れ、もう片側の機銃が虚空に銃弾を吐き出していく。
「今です!」
そこを狙い、リリティアが地を駆ける。
「爪が来るぞ!」
「……っ!」
そんな声が聞こえた瞬間、彼女は思い切り前に転がった。その頭上を、空間を削り取るような凶刃が薙ぎ払う。
まともに喰らえば半身が吹き飛ぶだろう一撃だ。空を切った衝撃でさえも、体がバラバラに砕けそうになる。
「腐っても剣機、竜ですか……だとしても、この太刀なら!」
石を切る。そんな名を冠した刀身は酷く薄い。その刀を、彼女はマテリアルを潤滑させた体で閃かせる。
白刃が深く竜の首を裂く。濁った薄紫の体液が宙を舞った。
「ふはははっ、皆よくやるものだ! ワシも見習わねばなるまいて!」
次いで突撃を仕掛けていたバルバロスの体にも、マテリアルが満ちている。それは、暴力的な意味合いを持ってその力を携えた槍へと伝える。
祖霊の力を込めた一撃は、竜の爪にも劣らぬ迫力で以って振るわれ――ゴギンと、竜の首を猛烈に弾き捻じ曲げた。
普通の生物なら息絶えている、そんな状態だ。しかし、
「まだ動くか!」
未だ地面を踏みしめる両足が交差し、竜の体が大きく回転する。
振るわれるのは、尾に縫い付けられた巨大な刃だ。
凶音を伴い、切っ先が迫る。バルバロスはそれを、獰猛な笑みで迎え撃った。
●
「弾に対しては斜めに装甲を構えるべし、だっけ?」
遮蔽物で躱し切れない銃弾を、オキクルミは器用に受け流していく。しかし、量を受ければ良くない事態となりそうだ。
岩の陰に隠れ、隙を見て銃撃を浴びせかけるも、なかなか当たらない。上空を自由に飛び回る今では、状況が変わっていた。
とはいえ、敵も流石に焦れてきたらしい。時折低空を飛んでは、こちらに直接攻撃を行うようになってきた。
「そっちから来てくれるとはねぇ」
好都合だと、ヒースは笑みを浮かべる。
振り回される巨大な刃は、足元を通り過ぎていった。掻き乱された空気が爆風となり、跳び上がった体を襲う。
ほんの一瞬、行動が遅れていれば足の一本でも持っていかれたかもしれない。それとも、命そのものが。
ひりつく空気に喉を焼かれながら、ヒースは恐怖に生を感じ、なおも笑みを浮かべる。
「……こんなところで、ボクは死ねないんでねぇ」
着地と同時に襲い来る機銃を転がって躱しながら、髪を結ぶリボンに軽く指を滑らせた。
振り回される尾は強烈で、それを盾で受けたオキクルミは弾き飛ばされ、背中から岩に叩きつけられた。
「オキクルミさん!」
シェールの悲鳴が響く。オキクルミの行動は、敵の気を引き銃弾を一身に受けてしまったシェールを庇うものだった。
「大丈夫、自分から飛んだから見かけほどじゃないよ。シェール君の防御魔法もあったしね」
慌てて回復を行ってくれるシェールに笑みを見せ、オキクルミは立ち上がる。
しかし、ダメージは小さくない。
「この程度じゃ、ボクは倒れないよ!」
それでも、オキクルミは強い眼光を竜へと向ける。
「古の盟約により歪虚滅ぶべし。その不出来な翼、フクロウの爪がもぎ取ってあげるよ」
挑戦的に紡がれる口上は奇しくも、遠く上がる勝鬨と重なった。どうやら、攻撃班が討伐に成功したらしい。
オキクルミは、ぷっと小さく吹き出した。
「これで、片翼はもぎ取れたかな?」
●
「なんだ、もう終わっちまってるじゃねえか」
シュタークがやってきたのは、ハンター達が転がる鉄屑の検分を始めた頃だった。
「あれを、一人で倒したのですか……」
リリティアが感心したように呟く。
シュタークは荒く息を吐いているものの、目立って大きな傷は負っていない。褐色の肌はより紅潮し、ようやくエンジンが掛かってきたと言わんばかりだ。
「あんたが来る前に、切り良く終わっちまったよ」
「ぬはは、ぬしの力を借りるまでもなかったわ!」
フェルムがふんと鼻を鳴らせば、地面に座り込んだバルバロスが大きく笑う。
「劣化コピーっつっても、中々やり応えがあった、です。久々に、楽しめた、です」
「あっはっは、楽しめるのか! 何か見どころあんじゃねえの、うちの団に入らねえか?」
「それは、遠慮しとく、です」
雪は、道中の筋肉ダルマ軍団を思い出し、きっぱりと首を横に振った。
「……どうやら、こいつが作られたのは最近のようだ」
ザレムが機銃の残骸を手に、シュタークへ声をかける。とはいえ、ひとまずサンプルを持ち帰ってみることで合意する。
「やっぱり、何か作意があるわけだ。向こうにも技術者みたいなのが居るのか……」
フェルムの呟きに、ザレムが頷く。それは、終わりの見えない戦いが、これからも続くことを意味していた。
「で、終わったのはいいんだけどさ。ひょっとしてボク達ここから歩き?」
気分を変えるように、オキクルミが尋ねる。
「いんや、あっちから迎えが来るはず……お、流石ヴィル何とかだ。タイミングばっちりじゃねえの」
シュタークの言葉どおりに、しばらくして遠くに魔導トラックの姿が見えた。
ひとまず戦いは終わった。ハンター達は体を休め、次の戦いへと赴いていく。
空に穴を穿つ二つの影は、強烈な威圧感を以って見る者の脳裏にその脅威を浮かび上がらせる。
俄に車列は速度を増し、左右に広がる荒野が飛ぶように過ぎていく。しかし、量産型リンドヴルムと称された二個体は、それでも徐々にこちらへ近づいているように見えた。
「運んでいる物が物なので、護衛も楽じゃないかなとは思っていたのですが……まさか剣機とは」
リリティア・オルベール(ka3054)は、思わず腰の刀に手を添えていた。
物々しい警備に似合う大物だ。背筋を襲う緊張感に目を細める。
「剣機って言っても、前にやり合った機械の半身より小さいよ。ま、取り敢えずさっさとやっちまおうぜ」
「劣化品といえども、それなりに楽しめる相手であるだろう。……ふはははっ、あの竜と戦えなんだ燻りに、再び火を点ける機会が来ようとは!」
フェルム・ニンバス(ka2974)はあくまで淡々と杖を取り出し、既に戦闘準備を整えていた。以前に戦った本物の剣機の動きを、頭に思い浮かべる。
その横でバルバロス(ka2119)はニヤリと大きな笑みを浮かべると、短弓を手にする。槍で直接殴りたいのはやまやまだが、とにかく空中にいられたのでは手の出しようがない。
八城雪(ka0146)も同じく、歯噛みする。
「シュタークみてーに、ジャンプできりゃ、飛び掛れんのに、です」
オリジナルの止めを取られた事を思い出しながら、徐々に近づいてくる影を睨みつけることしか出来ない。
「お呼びじゃない追っかけは、お帰り願わないとね」
手にした拳銃に弾丸を装填し、オキクルミ(ka1947)は盾と共にそれを構える。
「二匹は面倒だねぇ。とりあえず、片方を集中攻撃して引きずり下ろそうか」
そう言ってヒース・R・ウォーカー(ka0145)が取り出すのは、小さな刃が円状に幾つも並んだ投擲武器、手裏剣だ。
「……見たところ、肩に銃が埋め込まれているな。早いとこ潰したいところだ」
ザレム・アズール(ka0878)の手にした弓は、多少の距離ならば気にならない性能を持っている。既に彼は、焦げた弓身に矢を番えようと腐った肉の塊を見据えていた。
「みんな、無茶はしないでね」
金の髪を靡かせ、シェール・L・アヴァロン(ka1386)が心配そうに呟く。
彼我の距離は順調に縮まっていき、ハンター達は運転手に断ってトラックの荷台から荒野へと飛び降りた。
車列は次々と、唸りを上げて彼らを追い越す。
そうして、トラックが背後の景色に溶けて消える頃。バサバサという羽音と共に、二体の腐竜はもっとも手近な生物――ハンター達に、濁った眼球をぐるりと向けた。
●
機銃の口腔が、黒い闇を孕んでいるのを見た。
咄嗟に、ハンター達は道の両脇に点在する岩の陰へと走った。その直後、彼らの影を撃ち抜くように無数の擦過音が甲高く耳朶を叩く。
岩陰に滑り込んで振り返れば、数えきれない弾丸が地面に穴を穿っていくところだった。弾雨はハンター達を追って移動し、彼らの隠れる岩を叩く。
「射程は、あんまり長くないみたいだねぇ」
ヒースの言う通り、地面に開いた穴の間隔は非常に広く、こちらを狙ったにしてはお粗末な集弾性だ。その証拠に、今の攻撃で負傷した者はいない。
「経口は小さく銃身は短い、しかも安定しない空中からの射撃だ。滅多には当たらないだろうが……」
対して機導師のザレムは、自身の知識から敵の武器を分析する。
「とにかく、空中にいられては面倒だ」
そして言うが早いか、ザレムは岩陰から飛び出していた。腐竜の滑空に合わせ、引き絞った矢を放つ。矢は炎を纏い、空気を焦がしながら竜の前足に突き刺さった。
「まずは、片方を地に落としてやらねばな!」
敵が二体いるのならば、まず一体を確実に倒す。
そのために次いでバルバロスも同じ敵の翼を狙い、その豪腕で弓を引く。矢は大きく広げられた翼の皮膜を見事に貫いた。
しかし、敵は怯みもしない。薄紫の体液を口から垂れ流し、二体の竜はハンター達の隠れた岩にひたすら弾丸を撃ち込んでいる。
「降りてこないと当てられないじゃないですかー!!」
リリティアの叫びは、ここにいる全員の共通する思いだ。順調にこちらに近づいてきているものの、決定打となる人員がいない。敵は巨大故に鈍感なのか、ダメージが通っていようが、矢が刺さった程度では気にも止めていないらしい。
「さて、そろそろ届くかな」
三番目に射程が長いのは、フェルムの魔法攻撃だ。敵の位置を見て杖にマテリアルを込めながら、盾を構えて岩から顔を出す。
杖の先端に風が巻くと同時に、盾にバチバチといくつかの弾丸がぶつかった。しかしフェルムはそれを気にも留めず、魔法を解き放つ。逆巻く風が刃となって、翼に小さくない裂傷を作る。
その瞬間、片方の竜がぐらりと体勢を崩した。
「効いてきてん、です?」
竜は僅かに高度を下げたものの、若干ふらつきながらまだ浮かんでいる。しかし、このまま攻撃を続ければ、落とすことはできそうだ。
敵の姿が更にこちらに近づいた。
引っ切り無しに火を噴く機銃に気をつけながら、オキクルミが拳銃の引き金を引き、ヒースは素早く腕を振って手裏剣を投げ放つ。
最も効果の高かったのは、シェールのホーリーライトだ。
光に弱い性質でも持つのか、光球が胸元で炸裂すれば苦悶の唸りを上げて竜が長い首を振る。同時に、左右の翼の動きがちぐはぐになったかと思うと、一気に体勢が崩れた。
空中でばたばたともがくも、矢や弾丸で無数に穴を開けられた皮膜は上手く空気を掴むことが出来ないらしい。
「落ちるわよ、全員気をつけて!」
攻撃を受け続けた片側の竜が錐揉み、一直線にこちらに落ちてくる。
もう一体は、眼前で落ちていく仲間の背中に弾が当たることも気にせず、未だにこちらに向けて機銃を撃ち続けていた。
「ようやく届く位置まで来ましたね……!」
ダメ押しは、リリティアの投げナイフだ。投擲されたそれは真っ直ぐに空気を裂き、ほんの少しだけ残った翼の揚力を奪い取った。
●
これから厄介になるのは、もう一体の元気な方だ。事前に打ち合わせ通り、防御班のヒース、シェール、オキクルミが、その一体を引き離しに掛かる。
「さぁて、お前はこっちだよ」
ヒースの投げる手裏剣が、健在な竜の翼に突き刺さる。
「目か口の中に行けばご喝采っと」
岩を盾に機銃の掃射から逃げつつ走り回るオキクルミの拳銃も、既に敵を射程内に捉えている。たとえ小さな銃弾だとしても、次々に命中し銃創を増やしていけば間違いなくダメージとなる――はずだった。
「ちょっと、予定と違うんだけど!」
「まいったね、思ったよりも鈍感みたいだ」
「こっちに、弾も飛んでこないなんて……」
盾を構えたシェールが、遮蔽物のない場所に陣取っても竜はこちらを見もしなかった。
幾度も引き金を引き、幾振りもの手裏剣が肉を裂いても、三人を気にも留めない。単純に、数の問題なのだろうか。攻撃に気付いてもいないかのような反応に、予定は狂いを生む。
そして、三人が敵を引き離せなければ、残る五人の負担は当然増えていく。
「攻撃班の皆、注意して!」
竜が頭上で旋回し、機銃の先を五人に向けた様子を察知し、シェールが叫ぶ。
同時に、彼女は手にしたサーベルに光を灯していた。光は収縮し、球をかたどる。
そして放たれた光球が、竜の鼻先を掠めた。目を焼く聖なる光を前に、竜は悲鳴のような咆哮を上げる。
――次の瞬間、ぐるりと乳白色の目がシェールを見た。
「あら、怒らせちゃったかしら」
シェールは、迫り来る弾幕を前に笑みを浮かべた。
●
地面を抉り取るようにして、大質量の竜が墜落する。その巨体は土砂を巻き上げ、グシャリという生々しい音を響かせてそのまま岩に激突した。
「さて、これで倒れてくれれば上々だが――」
ザレムが呟く。彼も防御班に入るつもりではあったが、三人もいれば充分だと判断しこちらへ赴いていた。
だが、竜はそんな希望など知った事かと、僅かな時間だけをおいて起き上がる。
「そー上手くは、行かねー、です」
真っ先に飛び出したのは雪だった。
竜は既に、再び飛び立つ体勢に入りつつあった。それが可能かはともかく、まずは翼を潰しておくべきだ。
「まだ、シュタークみてーには、ジャンプできねー、です。けど――」
地面を強く蹴り飛ばせば、その体は大きく跳ね上がる。大上段に構えたハンマーは、マテリアルを蓄えて淡く光を放つ。
「オレにも、これくれーは、できる、です……!」
振り下ろされた一撃は、過たず翼へと吸い込まれる。
ズドンと、肉が潰れる音を置き去りに、竜の骨格とハンマーの衝突により生じた轟音が大気を揺らす。
だが、竜も黙ってはいない。雪に向けて、思い切り前足が振り上げられた。
「ぐぅっ!」
雪はハンマーの柄で以ってそれを防ぐが、強烈な衝撃に体ごと弾き飛ばされる。
「雪さん!」
「良くやった、雪よ!」
ボールのように宙を舞う雪を、リリティアとバルバロスが上手く受け止める。
「機銃が来るぞ!」
ザレムの声に前を見れば、片翼を不自然にだらりとぶらさげた竜がこちらを睨みつけていた。機銃は唸りを上げ始めている。
「ち、しぶとい奴だな!」
ザレムとフェルムは、近くの岩へと走りながら機銃へ攻撃を仕掛ける。
安定した地面の上で、竜の体の上下もなく距離も近い。ザレムの銃弾とフェルムの石弾が、共に機銃へと殺到し――直後、歪む銃身の中で炸薬に着火したのか、小爆発が竜の肩を舐める。
その衝撃で竜の体勢が崩れ、もう片側の機銃が虚空に銃弾を吐き出していく。
「今です!」
そこを狙い、リリティアが地を駆ける。
「爪が来るぞ!」
「……っ!」
そんな声が聞こえた瞬間、彼女は思い切り前に転がった。その頭上を、空間を削り取るような凶刃が薙ぎ払う。
まともに喰らえば半身が吹き飛ぶだろう一撃だ。空を切った衝撃でさえも、体がバラバラに砕けそうになる。
「腐っても剣機、竜ですか……だとしても、この太刀なら!」
石を切る。そんな名を冠した刀身は酷く薄い。その刀を、彼女はマテリアルを潤滑させた体で閃かせる。
白刃が深く竜の首を裂く。濁った薄紫の体液が宙を舞った。
「ふはははっ、皆よくやるものだ! ワシも見習わねばなるまいて!」
次いで突撃を仕掛けていたバルバロスの体にも、マテリアルが満ちている。それは、暴力的な意味合いを持ってその力を携えた槍へと伝える。
祖霊の力を込めた一撃は、竜の爪にも劣らぬ迫力で以って振るわれ――ゴギンと、竜の首を猛烈に弾き捻じ曲げた。
普通の生物なら息絶えている、そんな状態だ。しかし、
「まだ動くか!」
未だ地面を踏みしめる両足が交差し、竜の体が大きく回転する。
振るわれるのは、尾に縫い付けられた巨大な刃だ。
凶音を伴い、切っ先が迫る。バルバロスはそれを、獰猛な笑みで迎え撃った。
●
「弾に対しては斜めに装甲を構えるべし、だっけ?」
遮蔽物で躱し切れない銃弾を、オキクルミは器用に受け流していく。しかし、量を受ければ良くない事態となりそうだ。
岩の陰に隠れ、隙を見て銃撃を浴びせかけるも、なかなか当たらない。上空を自由に飛び回る今では、状況が変わっていた。
とはいえ、敵も流石に焦れてきたらしい。時折低空を飛んでは、こちらに直接攻撃を行うようになってきた。
「そっちから来てくれるとはねぇ」
好都合だと、ヒースは笑みを浮かべる。
振り回される巨大な刃は、足元を通り過ぎていった。掻き乱された空気が爆風となり、跳び上がった体を襲う。
ほんの一瞬、行動が遅れていれば足の一本でも持っていかれたかもしれない。それとも、命そのものが。
ひりつく空気に喉を焼かれながら、ヒースは恐怖に生を感じ、なおも笑みを浮かべる。
「……こんなところで、ボクは死ねないんでねぇ」
着地と同時に襲い来る機銃を転がって躱しながら、髪を結ぶリボンに軽く指を滑らせた。
振り回される尾は強烈で、それを盾で受けたオキクルミは弾き飛ばされ、背中から岩に叩きつけられた。
「オキクルミさん!」
シェールの悲鳴が響く。オキクルミの行動は、敵の気を引き銃弾を一身に受けてしまったシェールを庇うものだった。
「大丈夫、自分から飛んだから見かけほどじゃないよ。シェール君の防御魔法もあったしね」
慌てて回復を行ってくれるシェールに笑みを見せ、オキクルミは立ち上がる。
しかし、ダメージは小さくない。
「この程度じゃ、ボクは倒れないよ!」
それでも、オキクルミは強い眼光を竜へと向ける。
「古の盟約により歪虚滅ぶべし。その不出来な翼、フクロウの爪がもぎ取ってあげるよ」
挑戦的に紡がれる口上は奇しくも、遠く上がる勝鬨と重なった。どうやら、攻撃班が討伐に成功したらしい。
オキクルミは、ぷっと小さく吹き出した。
「これで、片翼はもぎ取れたかな?」
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「なんだ、もう終わっちまってるじゃねえか」
シュタークがやってきたのは、ハンター達が転がる鉄屑の検分を始めた頃だった。
「あれを、一人で倒したのですか……」
リリティアが感心したように呟く。
シュタークは荒く息を吐いているものの、目立って大きな傷は負っていない。褐色の肌はより紅潮し、ようやくエンジンが掛かってきたと言わんばかりだ。
「あんたが来る前に、切り良く終わっちまったよ」
「ぬはは、ぬしの力を借りるまでもなかったわ!」
フェルムがふんと鼻を鳴らせば、地面に座り込んだバルバロスが大きく笑う。
「劣化コピーっつっても、中々やり応えがあった、です。久々に、楽しめた、です」
「あっはっは、楽しめるのか! 何か見どころあんじゃねえの、うちの団に入らねえか?」
「それは、遠慮しとく、です」
雪は、道中の筋肉ダルマ軍団を思い出し、きっぱりと首を横に振った。
「……どうやら、こいつが作られたのは最近のようだ」
ザレムが機銃の残骸を手に、シュタークへ声をかける。とはいえ、ひとまずサンプルを持ち帰ってみることで合意する。
「やっぱり、何か作意があるわけだ。向こうにも技術者みたいなのが居るのか……」
フェルムの呟きに、ザレムが頷く。それは、終わりの見えない戦いが、これからも続くことを意味していた。
「で、終わったのはいいんだけどさ。ひょっとしてボク達ここから歩き?」
気分を変えるように、オキクルミが尋ねる。
「いんや、あっちから迎えが来るはず……お、流石ヴィル何とかだ。タイミングばっちりじゃねえの」
シュタークの言葉どおりに、しばらくして遠くに魔導トラックの姿が見えた。
ひとまず戦いは終わった。ハンター達は体を休め、次の戦いへと赴いていく。
依頼結果
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シェール・L・アヴァロン(ka1386)
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/16 22:15:11 |
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相談卓ですよー リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/12/21 00:53:52 |