ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】Dear Mermaid
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/08 19:00
- 完成日
- 2018/06/23 02:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
人間の少女は微笑んだ。
『ねぇ、一緒に行きましょう? みんなでいっしょに踊ったり、楽しい宴よ』
しかし人魚は、悲しい顔をした。
『いいえ、私は行けないわ』
『だって私には……、あなたのような足がないもの』
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
春郷祭は今年もちゃんと開催するようだ。
その報せを聴いてほっと胸を撫でおろしているのが、メロマーヌの魔女・ドローレ(kz0184)。
彼女は此度の開催の決定について、
「本当によかったわ。最近同盟の各地で事件が起きているからって歪虚を警戒して、中止になっちゃうんじゃないかと心配していたもの」
――と、しれっとした表情でコメントする。
「お前もその事件起こしてる歪虚の内の一人だけどな…ッ」
そうツッコミを入れたのが、ヴァレーリオ(kz0139)。
農耕推進地域「ジェオルジ」にあるフェリチタ村の村長・アレッサンドロの息子であり、陸軍の一般兵である青年だ。
「ドローレ…。どうしてもうちの伝統行事に参加してぇみてぇだが、別にそんな変わった行事でもなんでもないんだぞ」
「いいの」
「規模も小せぇし、ただ村人が何が楽しいのか笑顔でぐるぐる回ってるだけのダンス大会みたいなもんだし…」
「それがいいのよ」
「ともかく、なんでたって、こんな事をしてまで……」
「だって……。普通にお願いしたって……。貴方達人間は、歪虚を受け入れたりなんかしないでしょう?」
悲しい顔をしてそう零すドローレを見て――
ヴァレーリオは困ったように、溜息を漏らすのだった。
●
農耕推進地域「ジェオルジ」にあるフェリチタ村では、村長会議の期間中に――ささやかな伝統恒例行事があった。
それは、フェリチタ村の音楽家がアイリッシュ風のケルト曲を演奏し、フェリチタの村人皆が民族衣装を着てダンスを踊る宴――村人同士の親睦をより深める目的もある、まさに村人の為の、村人の伝統ダンスだ。
故に元々領外への招待状は少なく、ゲストとして呼ばれるのは村人にとって親しい人だけ。
かと言って、見知らぬ誰かが居るからって、その者を警戒したりはしない。
自分にとっては知らない誰かでも、村人の誰かの親しい人なのだ、と思うからだ。
故に薔薇を愛する令嬢・ロザリーナ・アナスタージ(kz0138)に対しても同じだ。彼女は村長・アレッサンドロ及び、息子のヴァレーリオの友人として毎年招待されているが――村人に不審に思われた事は一度もない。いつだって、この宴に自然と溶け込んでいる。
そしてそんな彼女の手を取るのは、桃色の髪の三つ編みの少女。
ロザリーナは彼女にどこか見覚えがあるような気がしたけれど、特に気に留めることはなかった。
「あら。一緒に踊ってくれるの?」
「…」こくこく。
「そう! うれしいわ♪」
ロザリーナは桃色の髪の少女の手を取ると、音楽に合わせステップを踏み、盛り上がるタイミングで、くるくるーと回した。
その様子を窺っていたのは――ロザリーナの弟、ギアン・アナスタージ(kz0165)。
彼は知っていた。
姉と踊る少女…彼女の正体を。
(アレッサンドロ殿も、ヴァレーリオも…。厄介なことに巻き込まれたな。今のところは特に混乱もないようだが…)
ギアンも姉と同じ、招待客だった。
しかし先程、アレッサンドロに個人的に呼び出され、助けを求められていた。
“ヴァレーリオを人質に取られた。歪虚の要求は、この宴に招待すること…。要求を拒めば、それこそ、村に被害が出てしまうのは確実で、ヴァレーリオも…どうなってしまうか分からない。ハンター達にも協力を要請したけれど、助けて欲しい…!”
(メロマーヌの魔女・ドローレ。彼女は歪虚としては変わり者で、現状一般人やハンターに敵意を向けていないと聞く…。故に、要求を呑むことが、最も被害を生みださない手段で、このような状況になっているのか。さて、どうしたものか……)
するとギアンは、ヴァレーリオが一人で佇んでいるのを発見した。
人質に取られていると聞いたが・・・
案外、結構自由の身なんだな。
――と、ギアンは想った。
しかし、
「……まぁ、ノーマークって訳じゃあ流石に無えみてぇ。見ろよ、これ」
「うわっ」
ギアンはヴァレーリオの民族衣装の布の内側に隠れている、小型の白クマのぬいぐるみと目が合った。
「なんだこれは。目が合ったぞ……」
「今んとこ何もされてねぇし、痛くはねぇんだけどよ。結構動くんだよ、こいつ。ちょっとむず痒い・・・」
「ふむ・・・」
ヴァレーリオとギアンは難しい顔をしながら、白クマを凝視する。
一方、その頃。
ハンターとして呼ばれていた内の一人、ジャンルカ・アルベローニ(kz0164)は隣に居た青年に話しかけていた。
「ドローレがなんもしねぇってなら、俺も下手に手を出さない方がいいっていうわけか……。シルヴェストちゃんはどうするんの?」
その青年――シルヴェストは、民族衣装を身に纏っている為、雰囲気がいつもと違って周りからは気付かれにくいが、海軍のシルヴェスト大佐であった。
彼は休暇の日であったが、ハンターソサエティからドローレの情報を得て、駆け付けてきたようである。
「そうだな。ドローレとの接触は控えるよ。だから万が一が起きた時の、村人の皆が安全に避難誘導と――ドローレに対抗する一助となれるよう、待機しているつもりだ」
「そっかぁ。ま、俺もそんな感じかなぁ」
そんなふうに話していると、彼らに近付く村の少女が一人。
少女は頬を赤く染めながら、勇気を振り絞って声を掛ける。
「あの…。一緒に踊ってくれませんか?」
恥ずかしそうに少女が手を差し出したお相手は勿論、――シルヴェスト・ロマーノ(kz0197)。
シルヴェストは少しの間を空けて、
厳格な雰囲気を和らげ、微笑みを浮かべた。
「もちろんですよ。僕でよろしければ、ぜひ」
そして優しくて温厚な紳士として少女をエスコートする――
その背中を眺めていたジャンルカは、
「…モテるねぇ」
と、呟くのだった。
くるり、
くるり。
今日は楽しい宴。
とある人魚がずっと楽しみにしていた宴。
あなたと踊ろうと、
桃髪の少女・ドローレが手を差し伸べる――。
人間の少女は微笑んだ。
『ねぇ、一緒に行きましょう? みんなでいっしょに踊ったり、楽しい宴よ』
しかし人魚は、悲しい顔をした。
『いいえ、私は行けないわ』
『だって私には……、あなたのような足がないもの』
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
春郷祭は今年もちゃんと開催するようだ。
その報せを聴いてほっと胸を撫でおろしているのが、メロマーヌの魔女・ドローレ(kz0184)。
彼女は此度の開催の決定について、
「本当によかったわ。最近同盟の各地で事件が起きているからって歪虚を警戒して、中止になっちゃうんじゃないかと心配していたもの」
――と、しれっとした表情でコメントする。
「お前もその事件起こしてる歪虚の内の一人だけどな…ッ」
そうツッコミを入れたのが、ヴァレーリオ(kz0139)。
農耕推進地域「ジェオルジ」にあるフェリチタ村の村長・アレッサンドロの息子であり、陸軍の一般兵である青年だ。
「ドローレ…。どうしてもうちの伝統行事に参加してぇみてぇだが、別にそんな変わった行事でもなんでもないんだぞ」
「いいの」
「規模も小せぇし、ただ村人が何が楽しいのか笑顔でぐるぐる回ってるだけのダンス大会みたいなもんだし…」
「それがいいのよ」
「ともかく、なんでたって、こんな事をしてまで……」
「だって……。普通にお願いしたって……。貴方達人間は、歪虚を受け入れたりなんかしないでしょう?」
悲しい顔をしてそう零すドローレを見て――
ヴァレーリオは困ったように、溜息を漏らすのだった。
●
農耕推進地域「ジェオルジ」にあるフェリチタ村では、村長会議の期間中に――ささやかな伝統恒例行事があった。
それは、フェリチタ村の音楽家がアイリッシュ風のケルト曲を演奏し、フェリチタの村人皆が民族衣装を着てダンスを踊る宴――村人同士の親睦をより深める目的もある、まさに村人の為の、村人の伝統ダンスだ。
故に元々領外への招待状は少なく、ゲストとして呼ばれるのは村人にとって親しい人だけ。
かと言って、見知らぬ誰かが居るからって、その者を警戒したりはしない。
自分にとっては知らない誰かでも、村人の誰かの親しい人なのだ、と思うからだ。
故に薔薇を愛する令嬢・ロザリーナ・アナスタージ(kz0138)に対しても同じだ。彼女は村長・アレッサンドロ及び、息子のヴァレーリオの友人として毎年招待されているが――村人に不審に思われた事は一度もない。いつだって、この宴に自然と溶け込んでいる。
そしてそんな彼女の手を取るのは、桃色の髪の三つ編みの少女。
ロザリーナは彼女にどこか見覚えがあるような気がしたけれど、特に気に留めることはなかった。
「あら。一緒に踊ってくれるの?」
「…」こくこく。
「そう! うれしいわ♪」
ロザリーナは桃色の髪の少女の手を取ると、音楽に合わせステップを踏み、盛り上がるタイミングで、くるくるーと回した。
その様子を窺っていたのは――ロザリーナの弟、ギアン・アナスタージ(kz0165)。
彼は知っていた。
姉と踊る少女…彼女の正体を。
(アレッサンドロ殿も、ヴァレーリオも…。厄介なことに巻き込まれたな。今のところは特に混乱もないようだが…)
ギアンも姉と同じ、招待客だった。
しかし先程、アレッサンドロに個人的に呼び出され、助けを求められていた。
“ヴァレーリオを人質に取られた。歪虚の要求は、この宴に招待すること…。要求を拒めば、それこそ、村に被害が出てしまうのは確実で、ヴァレーリオも…どうなってしまうか分からない。ハンター達にも協力を要請したけれど、助けて欲しい…!”
(メロマーヌの魔女・ドローレ。彼女は歪虚としては変わり者で、現状一般人やハンターに敵意を向けていないと聞く…。故に、要求を呑むことが、最も被害を生みださない手段で、このような状況になっているのか。さて、どうしたものか……)
するとギアンは、ヴァレーリオが一人で佇んでいるのを発見した。
人質に取られていると聞いたが・・・
案外、結構自由の身なんだな。
――と、ギアンは想った。
しかし、
「……まぁ、ノーマークって訳じゃあ流石に無えみてぇ。見ろよ、これ」
「うわっ」
ギアンはヴァレーリオの民族衣装の布の内側に隠れている、小型の白クマのぬいぐるみと目が合った。
「なんだこれは。目が合ったぞ……」
「今んとこ何もされてねぇし、痛くはねぇんだけどよ。結構動くんだよ、こいつ。ちょっとむず痒い・・・」
「ふむ・・・」
ヴァレーリオとギアンは難しい顔をしながら、白クマを凝視する。
一方、その頃。
ハンターとして呼ばれていた内の一人、ジャンルカ・アルベローニ(kz0164)は隣に居た青年に話しかけていた。
「ドローレがなんもしねぇってなら、俺も下手に手を出さない方がいいっていうわけか……。シルヴェストちゃんはどうするんの?」
その青年――シルヴェストは、民族衣装を身に纏っている為、雰囲気がいつもと違って周りからは気付かれにくいが、海軍のシルヴェスト大佐であった。
彼は休暇の日であったが、ハンターソサエティからドローレの情報を得て、駆け付けてきたようである。
「そうだな。ドローレとの接触は控えるよ。だから万が一が起きた時の、村人の皆が安全に避難誘導と――ドローレに対抗する一助となれるよう、待機しているつもりだ」
「そっかぁ。ま、俺もそんな感じかなぁ」
そんなふうに話していると、彼らに近付く村の少女が一人。
少女は頬を赤く染めながら、勇気を振り絞って声を掛ける。
「あの…。一緒に踊ってくれませんか?」
恥ずかしそうに少女が手を差し出したお相手は勿論、――シルヴェスト・ロマーノ(kz0197)。
シルヴェストは少しの間を空けて、
厳格な雰囲気を和らげ、微笑みを浮かべた。
「もちろんですよ。僕でよろしければ、ぜひ」
そして優しくて温厚な紳士として少女をエスコートする――
その背中を眺めていたジャンルカは、
「…モテるねぇ」
と、呟くのだった。
くるり、
くるり。
今日は楽しい宴。
とある人魚がずっと楽しみにしていた宴。
あなたと踊ろうと、
桃髪の少女・ドローレが手を差し伸べる――。
リプレイ本文
七夜・真夕(ka3977)は、見送ってくれた親友を想い出す。
(今回私は別の依頼でいけないが… まあ楽しんでこい。序でになんだ、他の者も楽しませることが出来れば何よりだ)
そんな彼女の言葉が、温かく、真夕の背中を押して。
「いいわ、踊りましょ。ドローレ」
真夕は、差し出されていたドローレの手を取った。
「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃソンソン、ってね。せっかくの機会だもの。うんと楽しみましょう♪」
真夕が笑顔で言うと、ドローレは嬉しそうに微笑んでいた。
(被害を出さず、参加したいだけっていうならいいわ。最後まで参加出来るように、手を尽くしてあげる。それに、私もこういうイベント大好きだしね!)
実家の巫女装束の姿で踊りながらリズムに合わせて鈴を鳴らせば、ドローレの目がきらりと煌く。
「綺麗な音ね!」
「そう?」
「真夕、もっと聴かせて」
真夕は、くすりと笑った。
(わかってはいたけど…ほんと、変わった歪虚よね)
祭の音楽に合わせて鳴る鈴と共に、真夕の2人のフェアリーも一緒にリズムを刻んで、楽しく踊る。
「全く、仕方のない子だね…。まぁ…立場的にはこうでもしないとってトコか…」
カフカ・ブラックウェルがドローレの様子を窺いながら呟くと、隣に居たミィナ・アレグトーリア(ka0317)が、ほんわり微笑んだ。
「ドローレさんのことはまだよう分からんけど、仲ようしてくれるなら、それが一番なのん。これも食べて貰えるかなぁ?」
ミィナが持ってきたのは、村の食材で作ったレモンのムースレアチーズタルト。
するとその匂いに誘われてドローレが顔を出す。
「これは何の匂い?」
「うちが作ったお菓子なんよ~。良かったら食べてみてほしいのん」
「いいの?」
タルトの美味しさに感激するドローレを見て、ほのぼのとするミィナ。
「そうそう。お名前そのままはバレちゃうから、ドロシーさんって呼んでええ?」
「どろしー?」
ドローレは首を傾げた。
カフカは微笑みを浮かべ、
「そうだ。君にまだ名乗っていなかったよね。僕の名はカフカだよ。ダンスのお相手を願えるかな?」
「そう。カフカね」
彼が手を差し出すと、魔女はその手を取った。
その頃。央崎 遥華は、きょとんとしていた。
「ねぇ、リンちゃん。浴衣のお祭って聞いてたんだけど……あれれ?」
周りを見渡したところ、皆が着ているのは異国風の民族衣装。浴衣を着ているのは自分達だけのようで……。
『民族衣装で踊る宴』と聞き、遥華を誘う際も「全員浴衣」――と伝えた張本人、大伴 鈴太郎(ka6016)は、水色地に菖蒲柄で爽やかな初夏を感じさせる浴衣を着ており、パチンっと自分の両手を合わせた。そして勢いよくぺこりと頭を下げる。
「ワリィ、ハルカ! 勘違いしちまった!!」
カイン・シュミート(ka6967)が、村から渡されたのはレーダーホーゼンだった。――ハイソックスが用意されていた事に、カインは密かに感謝する。
すると、フロースが鼻先を擦り付けてカインに甘えだし、更にネヌーファルとカトライアも寄ってきて……。
眉を下げ、撫でつつ、
「お前らも楽しめ。仲良くしろよ?」
と、穏やかな声で言った。
そんな彼らを眺めるのは、左側にリボンを結んだグリーンのディアンドル姿のリーベ・ヴァチン。
「仲良く…」
「ん?」
「いや、なんでもない」
「?」
カインはどうやら気付いていないらしい。
彼の可愛いペット達――もといヒロイン達が、背後で火花を散らし合っているのを……。
「ま、よく分かんねぇけど、今は楽しむのが一番だろ?」
「…そうだな」
リーベはカインの言葉に賛成し、頷いた。ヒロイン達からのヤキモチの視線が刺さるが、見なかった事にして。
そうしてカインとリーベは音楽に乗りながら、手と手を取り合った。
「ヴァレーリオさーん!」
「わっ!?」
ミィナは背後から勢いよくヴァレーリオに抱き着いて、すりすりした。
「…また逢えて、うれしい」
ミィナの言葉も、背中から伝わる温もりも。
ヴァレーリオにとって心の癒しだった――しかし同時に、胸に甘い痛みも覚えている。
この気持ちを口にしてしまえば、もう今迄通りにはいかないのだろう。
それが怖かった。
ずっと彼女と共に居たいから。
「俺も…」
だからこそ、ヴァレーリオはミィナに振り返るが、想いは心の隅へと押し込めて、頭を優しく撫でる。
心地よさそうに微笑むミィナの顔を眺めながら目を細め、――可愛いなぁなんて想いながら。
その時。
「「あ」」 「あ」
ミィナとヴァレーリオは、固まった。赤面している鈴太郎と目が合ったからだ。
「も、もしかして、見てたのん…っ!?」
「み、みみみ、見てねぇよッ!? お、オレはただ、ヴァレサンにドローレのヤツがどーゆーつもりなンか聴きたかっただけで…! い、いや、すまん! …ちょっと見ちまった!」
「わーんっ、見られちゃったの~~んっ!」
ミィナは恥ずかしさを誤魔化す為に、鈴太郎にぐいぐいとお菓子を押し付けるようにプレゼントする。
「お、おい」
ヴァレーリオが二人に声を掛けた瞬間。ひょこり、と小さな白クマが顔を出した。
隠れていた人質の監視役は、警戒しながら彼女達を睨む。
しかし…。
「あ、動くくまさん! 初めましてなのん~♪」
「か、可愛っっ」
笑顔で握手するミィナと、めろめろの鈴太郎の反応を見て、白クマ――耳に花飾りを着けた白色のテディは首を傾げた。
そして何かされる訳ではないと察すると警戒心を解く。
だが法被にねじり鉢巻きのお祭りスタイルのくまごろーと目が合った瞬間――お互いに対抗意識がメラメラと燃え上がり、バチバチの火花が散りだした。
これはもう、今にも“クマちゃんどっちが可愛いかバトル”が勃発しそうな勢いであった。……が。
「このくまさんはお熱出したりせんの?」
「熱?」
ミィナの問いに首を傾げる鈴太郎とヴァレーリオ。
「うちがお家で過ごしてた時おとーちゃんが作ってくれたん。でも煙が出るような熱がでてから動いてくれんようになって――」
そんな話を聞いて、今度は仲良くぷるぷると震えているくまごろーと白クマなのであった。
真夕はロザリーナを見つけると手を振った。
「あら! こんにちは。プロデューサー。久しぶり♪ 楽しんでる?」
「まぁっ、真夕ちゃん? 久しぶりねーっ! ええ、凄く楽しんでるわよっ」
「どう? この衣装。リアルブルーの神職の服なんだけど」
「リアルブルーの服なのね! 真夕ちゃんにとてもよく似合っているわっ」
そして二人は、踊りを楽しむ。
「恋しょこ、今度の活動はいつになる? 私は準備万端よ♪ 巡業とかもアリじゃないかしら?」
「私もまた皆とアイドル活動したいと思っているわ! でも皆の予定が合うのは難しいのかなぁ、とも思っていて。8人全員揃ってこそ、恋しょこだものね。でも真夕ちゃんがソロやユニットで活動する時も、喜んでプロデュースするわよっ!」
と、食い入るように真夕を見つめるロザリーナ。
すると…。
「なになに? また新しいプロデュースをするの? ロザリーナ」
「え?」
ロザリーナは桃髪の少女に話しかけられ、戸惑った。
“どうして私の名を?”
先程は特に気に留めなかったが――どこか見覚えのある少女の顔をじっくり見、何かを思い出しかけていた。
その時である。
「わーいロゼさんだーーーっ!」
遥華がロザリーナに走り寄り、嬉しそうにぎゅーっとハグをする。
「きゃーっ、遥華ちゃん!? 遥華ちゃんも遊びに来てたのねっ」
ロザリーナもとても感激して、ぎゅーっと抱きしめ返した。
その喜びで、思い出しそうだった何かは、すっかり抜けてしまう。
そんな彼女の前にスーツ姿で登場したのは……
「もしかして…クレールちゃん!?」
「はい、プロデューサー! これ、男性の曲もできるように練習中なんです! 似合います?」
「似合う! 似合ってるわ! かっこいい…っ」
クレール・ディンセルフの男装姿に思わずメロメロになるロザリーナ。
「そんな訳で、今日は男役で踊ります! さあドロシーさん、お手をどうぞ」
「…私?」
ドローレが首を傾げると、その背中を真夕が押した。
「さっ、楽しんでらっしゃい♪」
そしてクレールはドローレをエスコートし、ダンスへと連れ出す。
「ローゼさーん!」
「あっ、ミィナちゃーん♪」
ミィナがぎゅーっと抱きしめて挨拶すると、ロザリーナもぎゅっとして挨拶する。
「今日、一緒に来た人がおるんよ! ロゼさんにお相手お願いしたいのん!」
そう言って、ミィナは同行者を紹介した。
「ロゼ、久しぶり。会いたかったよ」
「カフカくんっ!」
「良ければ一曲、踊ってくれる?」
「勿論よっ♪」
カフカが微笑みを浮かべて手を差し出し、彼女を護衛すると共に踊った。
そこでロザリーナは素敵な報せを知る事になる。
彼の妹が、結婚したのだと。
遥華は、ロザリーナも、ドローレも、楽しそうに踊っているのを見て、ほっとしていた。
(なんとか、ロゼ姉にバレずに済んだみたい?)
そして魔女を見つめて、想う。
(純粋にお祭りを楽しみたいならそれを拒む理由はないよね。彼女が「楽しい」と感じることで、また一緒に楽しめたり……するといいな)
しかしピンチは時に連続して起こるものだ。
「さっき、偶然聞いたんだけどよ。この村に魔女が紛れ込んでるんだってよ…」
「魔女だって?」
そんな村人達の噂を耳にした遥華は……。
「私のことかな?」
「「え?」」
遥華は、小さな火の球<リトル・ファイア>を生みだし、続いて、トランプを使った手品も披露する。
「なんだ。嬢ちゃんの事だったのか…」
そのおかげで村人達もすっかり安心したらしい。
おまけに、遥華の手品見たさに人々が集まり、より一層、宴が盛り上がる。
(ドローレ…ただ、楽しむ為に…)
クレールはドローレと共に踊りながら、ずっと考えていた。
(彼女は、よくわからない。歪虚のドローレではなく、個人のドローレさんに聞いた、今でも)
ドローレはこうして見ると、人らしい面があった。そして敵だとは思えぬ程に敵意が無く――寧ろ好意のようなものさえ、感じられる時もある。
「楽しいわね、クレール」
「…えぇ。ドローレ」
けれど、覚醒者として感じるものもあった。
彼女は、強い。
本気を出せば、村の一つ、簡単に潰してしまえる位。
( さあ踊りましょう 貴女のことをもっと知りたい 踊りをもって語りましょう )
――自分は、人類は、世界は、この魔女と、どう向き合い、選択するのか。
先の事は分からない。
だが、もっと知りたいと思う。
メロマーヌの魔女のことを。
ドローレはクレールと踊れて、楽しそうに微笑んでいた。
♪Magh Mell Magh Mell Tir Taimigiri
豊穣の地はいずこにか
陽の光輝く黄金思い
雨を願って踊る
Magh Mell Magh Mell Tir Taimigiri♪
カインは懐かしき歌を口ずさむ。
傍にいたリーベは、少し驚いていた。
「こういうのも、できたんだな」
「…まぁ、死んだばーちゃんの収穫手伝いに行った時、皆、歌って踊ってたからな」
歌も、踊りも。
普段の生活の中で覚えたものなのだろう。
そう察した時だった。
「ねぇ、それは何の曲なの?」
と、声を掛けられ、二人が息を飲んだのは。
(…ソルシエール ドゥ メロマーヌ、ねぇ)
カインはいつの間にか此処に居たドローレに、侮れなさを感じていた。
そしてどうやら魔女は歌に誘われて来たらしい。
「ばーちゃんが歌ってたからよく知らね。作詞作曲ばーちゃん説とばーちゃんより先に死んだじーちゃん説がある」
「そうなの。素敵な歌だったわ」
「音楽が好きなんだってな。好きなジャンルはあるのか?」
「なんでも好きよ!」
カインの問いに、答えるドローレ。
そしてリーベも問う。
「音楽を好きになったきっかけはあるのか?」
「きっかけは…思い出せないわ。音楽はずっと、私の傍にあったもの」
「そういうものか」
「ねぇ、もっと聴かせて!」
思わぬリクエストに、目を見開くカイン。その時、アコーディオンが目に入って――。
「じゃあ、今度は歌唱じゃなくて演奏ってことで。踊りに来たんだろ? 良ければ一曲、付き合って貰えるか? 最後まで楽しまなかったらつまんねぇだろ!」
ドローレは、ぱちり、と瞬きした。
「と、いう訳でだ。私の相手は楽師に転向したのでな。音楽好きのプリンシア、一曲お相手願えるかな?」
リーベが言うと、ドローレは首を傾げた。
「私、プリンシアなの?」
「おまえが歪虚であろうと、今はプリンシア。何もしなければ、何もしないさ」
そうして手を差し伸べられたドローレは、ほんのり頬を赤く染めながらその手を取った。
カフカは、魂を込め馨しき春を寿ぐ音色を奏で、
人々は、
その音色に聴き惚れていた。
ミィナもその一人。
そんな彼女にヴァレーリオが、話し掛ける。
「踊らねぇのか?」
「え?」
手を差し出す彼の頬は、真っ赤に染まっていた。
「なぁ、その服って、俺の村の…?」
「そうなんよ! うちらお揃いみたいやね」
「…っ」
くるり、くるり。
踊る彼女達を見て、カフカは微笑みを浮かべる。
「おーい! ドロ…ドロシー! おめーだよ! おめー!」
鈴太郎はドローレを呼び掛けた。
…が。
「私、ドローレよ。また間違えてる」
「や、今度は名前忘れてねぇよ! そのまま呼ぶワケにいかねーだろ。つか、人間の振りすンなら踊りっぱも変だかンな。休憩だ休憩」
「う~」
「ほら、これでも食っとけって」
ドローレは渋々納得し、貰った綿飴をもぐもぐしていた。
そんなドローレを見つめ、鈴太郎は困ったように眉を下げる。
さっきヴァレーリオから聞いていたからだ。
――彼女が零していた、言葉を。
「なぁ。お、おめーさ。ヒトの輪に入りてぇの…? でもよ…こんなやり方じゃダメなコトくらいワカってンだろ?」
「このやり方以外、思いつかなかったわ」
ドローレがそう言って落ち込んでいる様子を見、鈴太郎の胸がちくりと痛む。
(とはいえ、コイツの言い分もワカる…じゃあ、どうすりゃいンだ)
考えて、悩んで。
それでも答えは出てこず、
「だあああ! もういい! ワリかった! 今のナシ! オレはリン。大伴鈴太郎ってンだ。今日は思っきし踊って楽しむンだろ? ほら、行こうぜ!」
鈴太郎はドローレの手を引いた。
(依頼の為なンか、この風変りな歪虚の為なンか、オレ自身まだよくワカンねぇけど…。コイツがもう悪さしねぇってンなら、これからもこうして手ぇ取ってやれンのかな?)
ドローレは目を見開いていた。
鈴太郎が歪虚たる自分を人の輪へと導こうとしたからだ。
「リン、」
ドローレは嬉しかった
こうして人の輪に連れて行ってくれる人が居るなんて、もう誰も、居ないと思っていたから――
「…ありがとう」
(今回私は別の依頼でいけないが… まあ楽しんでこい。序でになんだ、他の者も楽しませることが出来れば何よりだ)
そんな彼女の言葉が、温かく、真夕の背中を押して。
「いいわ、踊りましょ。ドローレ」
真夕は、差し出されていたドローレの手を取った。
「踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊らにゃソンソン、ってね。せっかくの機会だもの。うんと楽しみましょう♪」
真夕が笑顔で言うと、ドローレは嬉しそうに微笑んでいた。
(被害を出さず、参加したいだけっていうならいいわ。最後まで参加出来るように、手を尽くしてあげる。それに、私もこういうイベント大好きだしね!)
実家の巫女装束の姿で踊りながらリズムに合わせて鈴を鳴らせば、ドローレの目がきらりと煌く。
「綺麗な音ね!」
「そう?」
「真夕、もっと聴かせて」
真夕は、くすりと笑った。
(わかってはいたけど…ほんと、変わった歪虚よね)
祭の音楽に合わせて鳴る鈴と共に、真夕の2人のフェアリーも一緒にリズムを刻んで、楽しく踊る。
「全く、仕方のない子だね…。まぁ…立場的にはこうでもしないとってトコか…」
カフカ・ブラックウェルがドローレの様子を窺いながら呟くと、隣に居たミィナ・アレグトーリア(ka0317)が、ほんわり微笑んだ。
「ドローレさんのことはまだよう分からんけど、仲ようしてくれるなら、それが一番なのん。これも食べて貰えるかなぁ?」
ミィナが持ってきたのは、村の食材で作ったレモンのムースレアチーズタルト。
するとその匂いに誘われてドローレが顔を出す。
「これは何の匂い?」
「うちが作ったお菓子なんよ~。良かったら食べてみてほしいのん」
「いいの?」
タルトの美味しさに感激するドローレを見て、ほのぼのとするミィナ。
「そうそう。お名前そのままはバレちゃうから、ドロシーさんって呼んでええ?」
「どろしー?」
ドローレは首を傾げた。
カフカは微笑みを浮かべ、
「そうだ。君にまだ名乗っていなかったよね。僕の名はカフカだよ。ダンスのお相手を願えるかな?」
「そう。カフカね」
彼が手を差し出すと、魔女はその手を取った。
その頃。央崎 遥華は、きょとんとしていた。
「ねぇ、リンちゃん。浴衣のお祭って聞いてたんだけど……あれれ?」
周りを見渡したところ、皆が着ているのは異国風の民族衣装。浴衣を着ているのは自分達だけのようで……。
『民族衣装で踊る宴』と聞き、遥華を誘う際も「全員浴衣」――と伝えた張本人、大伴 鈴太郎(ka6016)は、水色地に菖蒲柄で爽やかな初夏を感じさせる浴衣を着ており、パチンっと自分の両手を合わせた。そして勢いよくぺこりと頭を下げる。
「ワリィ、ハルカ! 勘違いしちまった!!」
カイン・シュミート(ka6967)が、村から渡されたのはレーダーホーゼンだった。――ハイソックスが用意されていた事に、カインは密かに感謝する。
すると、フロースが鼻先を擦り付けてカインに甘えだし、更にネヌーファルとカトライアも寄ってきて……。
眉を下げ、撫でつつ、
「お前らも楽しめ。仲良くしろよ?」
と、穏やかな声で言った。
そんな彼らを眺めるのは、左側にリボンを結んだグリーンのディアンドル姿のリーベ・ヴァチン。
「仲良く…」
「ん?」
「いや、なんでもない」
「?」
カインはどうやら気付いていないらしい。
彼の可愛いペット達――もといヒロイン達が、背後で火花を散らし合っているのを……。
「ま、よく分かんねぇけど、今は楽しむのが一番だろ?」
「…そうだな」
リーベはカインの言葉に賛成し、頷いた。ヒロイン達からのヤキモチの視線が刺さるが、見なかった事にして。
そうしてカインとリーベは音楽に乗りながら、手と手を取り合った。
「ヴァレーリオさーん!」
「わっ!?」
ミィナは背後から勢いよくヴァレーリオに抱き着いて、すりすりした。
「…また逢えて、うれしい」
ミィナの言葉も、背中から伝わる温もりも。
ヴァレーリオにとって心の癒しだった――しかし同時に、胸に甘い痛みも覚えている。
この気持ちを口にしてしまえば、もう今迄通りにはいかないのだろう。
それが怖かった。
ずっと彼女と共に居たいから。
「俺も…」
だからこそ、ヴァレーリオはミィナに振り返るが、想いは心の隅へと押し込めて、頭を優しく撫でる。
心地よさそうに微笑むミィナの顔を眺めながら目を細め、――可愛いなぁなんて想いながら。
その時。
「「あ」」 「あ」
ミィナとヴァレーリオは、固まった。赤面している鈴太郎と目が合ったからだ。
「も、もしかして、見てたのん…っ!?」
「み、みみみ、見てねぇよッ!? お、オレはただ、ヴァレサンにドローレのヤツがどーゆーつもりなンか聴きたかっただけで…! い、いや、すまん! …ちょっと見ちまった!」
「わーんっ、見られちゃったの~~んっ!」
ミィナは恥ずかしさを誤魔化す為に、鈴太郎にぐいぐいとお菓子を押し付けるようにプレゼントする。
「お、おい」
ヴァレーリオが二人に声を掛けた瞬間。ひょこり、と小さな白クマが顔を出した。
隠れていた人質の監視役は、警戒しながら彼女達を睨む。
しかし…。
「あ、動くくまさん! 初めましてなのん~♪」
「か、可愛っっ」
笑顔で握手するミィナと、めろめろの鈴太郎の反応を見て、白クマ――耳に花飾りを着けた白色のテディは首を傾げた。
そして何かされる訳ではないと察すると警戒心を解く。
だが法被にねじり鉢巻きのお祭りスタイルのくまごろーと目が合った瞬間――お互いに対抗意識がメラメラと燃え上がり、バチバチの火花が散りだした。
これはもう、今にも“クマちゃんどっちが可愛いかバトル”が勃発しそうな勢いであった。……が。
「このくまさんはお熱出したりせんの?」
「熱?」
ミィナの問いに首を傾げる鈴太郎とヴァレーリオ。
「うちがお家で過ごしてた時おとーちゃんが作ってくれたん。でも煙が出るような熱がでてから動いてくれんようになって――」
そんな話を聞いて、今度は仲良くぷるぷると震えているくまごろーと白クマなのであった。
真夕はロザリーナを見つけると手を振った。
「あら! こんにちは。プロデューサー。久しぶり♪ 楽しんでる?」
「まぁっ、真夕ちゃん? 久しぶりねーっ! ええ、凄く楽しんでるわよっ」
「どう? この衣装。リアルブルーの神職の服なんだけど」
「リアルブルーの服なのね! 真夕ちゃんにとてもよく似合っているわっ」
そして二人は、踊りを楽しむ。
「恋しょこ、今度の活動はいつになる? 私は準備万端よ♪ 巡業とかもアリじゃないかしら?」
「私もまた皆とアイドル活動したいと思っているわ! でも皆の予定が合うのは難しいのかなぁ、とも思っていて。8人全員揃ってこそ、恋しょこだものね。でも真夕ちゃんがソロやユニットで活動する時も、喜んでプロデュースするわよっ!」
と、食い入るように真夕を見つめるロザリーナ。
すると…。
「なになに? また新しいプロデュースをするの? ロザリーナ」
「え?」
ロザリーナは桃髪の少女に話しかけられ、戸惑った。
“どうして私の名を?”
先程は特に気に留めなかったが――どこか見覚えのある少女の顔をじっくり見、何かを思い出しかけていた。
その時である。
「わーいロゼさんだーーーっ!」
遥華がロザリーナに走り寄り、嬉しそうにぎゅーっとハグをする。
「きゃーっ、遥華ちゃん!? 遥華ちゃんも遊びに来てたのねっ」
ロザリーナもとても感激して、ぎゅーっと抱きしめ返した。
その喜びで、思い出しそうだった何かは、すっかり抜けてしまう。
そんな彼女の前にスーツ姿で登場したのは……
「もしかして…クレールちゃん!?」
「はい、プロデューサー! これ、男性の曲もできるように練習中なんです! 似合います?」
「似合う! 似合ってるわ! かっこいい…っ」
クレール・ディンセルフの男装姿に思わずメロメロになるロザリーナ。
「そんな訳で、今日は男役で踊ります! さあドロシーさん、お手をどうぞ」
「…私?」
ドローレが首を傾げると、その背中を真夕が押した。
「さっ、楽しんでらっしゃい♪」
そしてクレールはドローレをエスコートし、ダンスへと連れ出す。
「ローゼさーん!」
「あっ、ミィナちゃーん♪」
ミィナがぎゅーっと抱きしめて挨拶すると、ロザリーナもぎゅっとして挨拶する。
「今日、一緒に来た人がおるんよ! ロゼさんにお相手お願いしたいのん!」
そう言って、ミィナは同行者を紹介した。
「ロゼ、久しぶり。会いたかったよ」
「カフカくんっ!」
「良ければ一曲、踊ってくれる?」
「勿論よっ♪」
カフカが微笑みを浮かべて手を差し出し、彼女を護衛すると共に踊った。
そこでロザリーナは素敵な報せを知る事になる。
彼の妹が、結婚したのだと。
遥華は、ロザリーナも、ドローレも、楽しそうに踊っているのを見て、ほっとしていた。
(なんとか、ロゼ姉にバレずに済んだみたい?)
そして魔女を見つめて、想う。
(純粋にお祭りを楽しみたいならそれを拒む理由はないよね。彼女が「楽しい」と感じることで、また一緒に楽しめたり……するといいな)
しかしピンチは時に連続して起こるものだ。
「さっき、偶然聞いたんだけどよ。この村に魔女が紛れ込んでるんだってよ…」
「魔女だって?」
そんな村人達の噂を耳にした遥華は……。
「私のことかな?」
「「え?」」
遥華は、小さな火の球<リトル・ファイア>を生みだし、続いて、トランプを使った手品も披露する。
「なんだ。嬢ちゃんの事だったのか…」
そのおかげで村人達もすっかり安心したらしい。
おまけに、遥華の手品見たさに人々が集まり、より一層、宴が盛り上がる。
(ドローレ…ただ、楽しむ為に…)
クレールはドローレと共に踊りながら、ずっと考えていた。
(彼女は、よくわからない。歪虚のドローレではなく、個人のドローレさんに聞いた、今でも)
ドローレはこうして見ると、人らしい面があった。そして敵だとは思えぬ程に敵意が無く――寧ろ好意のようなものさえ、感じられる時もある。
「楽しいわね、クレール」
「…えぇ。ドローレ」
けれど、覚醒者として感じるものもあった。
彼女は、強い。
本気を出せば、村の一つ、簡単に潰してしまえる位。
( さあ踊りましょう 貴女のことをもっと知りたい 踊りをもって語りましょう )
――自分は、人類は、世界は、この魔女と、どう向き合い、選択するのか。
先の事は分からない。
だが、もっと知りたいと思う。
メロマーヌの魔女のことを。
ドローレはクレールと踊れて、楽しそうに微笑んでいた。
♪Magh Mell Magh Mell Tir Taimigiri
豊穣の地はいずこにか
陽の光輝く黄金思い
雨を願って踊る
Magh Mell Magh Mell Tir Taimigiri♪
カインは懐かしき歌を口ずさむ。
傍にいたリーベは、少し驚いていた。
「こういうのも、できたんだな」
「…まぁ、死んだばーちゃんの収穫手伝いに行った時、皆、歌って踊ってたからな」
歌も、踊りも。
普段の生活の中で覚えたものなのだろう。
そう察した時だった。
「ねぇ、それは何の曲なの?」
と、声を掛けられ、二人が息を飲んだのは。
(…ソルシエール ドゥ メロマーヌ、ねぇ)
カインはいつの間にか此処に居たドローレに、侮れなさを感じていた。
そしてどうやら魔女は歌に誘われて来たらしい。
「ばーちゃんが歌ってたからよく知らね。作詞作曲ばーちゃん説とばーちゃんより先に死んだじーちゃん説がある」
「そうなの。素敵な歌だったわ」
「音楽が好きなんだってな。好きなジャンルはあるのか?」
「なんでも好きよ!」
カインの問いに、答えるドローレ。
そしてリーベも問う。
「音楽を好きになったきっかけはあるのか?」
「きっかけは…思い出せないわ。音楽はずっと、私の傍にあったもの」
「そういうものか」
「ねぇ、もっと聴かせて!」
思わぬリクエストに、目を見開くカイン。その時、アコーディオンが目に入って――。
「じゃあ、今度は歌唱じゃなくて演奏ってことで。踊りに来たんだろ? 良ければ一曲、付き合って貰えるか? 最後まで楽しまなかったらつまんねぇだろ!」
ドローレは、ぱちり、と瞬きした。
「と、いう訳でだ。私の相手は楽師に転向したのでな。音楽好きのプリンシア、一曲お相手願えるかな?」
リーベが言うと、ドローレは首を傾げた。
「私、プリンシアなの?」
「おまえが歪虚であろうと、今はプリンシア。何もしなければ、何もしないさ」
そうして手を差し伸べられたドローレは、ほんのり頬を赤く染めながらその手を取った。
カフカは、魂を込め馨しき春を寿ぐ音色を奏で、
人々は、
その音色に聴き惚れていた。
ミィナもその一人。
そんな彼女にヴァレーリオが、話し掛ける。
「踊らねぇのか?」
「え?」
手を差し出す彼の頬は、真っ赤に染まっていた。
「なぁ、その服って、俺の村の…?」
「そうなんよ! うちらお揃いみたいやね」
「…っ」
くるり、くるり。
踊る彼女達を見て、カフカは微笑みを浮かべる。
「おーい! ドロ…ドロシー! おめーだよ! おめー!」
鈴太郎はドローレを呼び掛けた。
…が。
「私、ドローレよ。また間違えてる」
「や、今度は名前忘れてねぇよ! そのまま呼ぶワケにいかねーだろ。つか、人間の振りすンなら踊りっぱも変だかンな。休憩だ休憩」
「う~」
「ほら、これでも食っとけって」
ドローレは渋々納得し、貰った綿飴をもぐもぐしていた。
そんなドローレを見つめ、鈴太郎は困ったように眉を下げる。
さっきヴァレーリオから聞いていたからだ。
――彼女が零していた、言葉を。
「なぁ。お、おめーさ。ヒトの輪に入りてぇの…? でもよ…こんなやり方じゃダメなコトくらいワカってンだろ?」
「このやり方以外、思いつかなかったわ」
ドローレがそう言って落ち込んでいる様子を見、鈴太郎の胸がちくりと痛む。
(とはいえ、コイツの言い分もワカる…じゃあ、どうすりゃいンだ)
考えて、悩んで。
それでも答えは出てこず、
「だあああ! もういい! ワリかった! 今のナシ! オレはリン。大伴鈴太郎ってンだ。今日は思っきし踊って楽しむンだろ? ほら、行こうぜ!」
鈴太郎はドローレの手を引いた。
(依頼の為なンか、この風変りな歪虚の為なンか、オレ自身まだよくワカンねぇけど…。コイツがもう悪さしねぇってンなら、これからもこうして手ぇ取ってやれンのかな?)
ドローレは目を見開いていた。
鈴太郎が歪虚たる自分を人の輪へと導こうとしたからだ。
「リン、」
ドローレは嬉しかった
こうして人の輪に連れて行ってくれる人が居るなんて、もう誰も、居ないと思っていたから――
「…ありがとう」
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 16人 |
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ドローレの正体を隠せ ミィナ・アレグトーリア(ka0317) エルフ|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/08 15:17:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/07 01:31:09 |
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質問卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/06/08 00:42:13 |