ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】オートマトンは人ですか?
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2018/06/14 19:00
- 完成日
- 2018/06/24 02:45
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ジェオルジ名物、各村郷が集い競っての一大イベント――春郷祭が今年も始まる。
●
朝。なだらかな牧草地帯に設えられた春郷祭会場。
出店ブースの一番端は、からっぽだ。他の場所はすべてテントが張られ、売り子もスタンバイしているのに。
うさぐるみ英霊のぴょこはそわそわと、その前を歩き回る。刑務所屋台前に控えているスペットに話しかける。
『マゴイ遅いのう。遅いのう。もうすぐ祭りが始まってしまうのじゃ』
「なーθ、あいつほんまに来るいうたんか?」
『言うたのじゃ。マゴイ、店を出すことに乗り気であったぞ。ユニオンのことをもっと広く知ってもらえれば、市民が増えるかも知れないというてな。今回はコボルドたち、全員連れてくるらしいぞよ。去年の視察により、この催しがワーカーにとって危険なものではないと確認出来たから、じゃと』
「全員て、確か40匹はおったな。このスペースに入るんか?」
そんなことを話している間に、祭り開催の時刻が来てしまう。
軽快な笛の音。そしてアナウンス。
<皆さん、大変長らくお待たせいたしました。只今よりジェオルジ春郷祭、開催いたします>
その時である。ぴょことスペットの目の前にある空間がぺろんと剥げ、サイコロのごとき建造物が現れた。
入り口から出て来たのは――もちろんマゴイ。白い日傘を持っている。
その後ろからわふわふしながらコボルドたちの集団が出て来た。皆白いネクタイを身につけている。
『おー、来たか来たかマゴイよ、そしてコボルドたちよ。もしかして祭りのこと忘れておるのではないかと、心配しておったぞよ』
『……忘れていないわ……昨日から店舗はこちらに送っていたし……』
「は? ほんまかいな。なんで隠してたんや」
『……開催日時は今日……開催時刻は今この時間……そう決められている……ならぴったりに合わせなければ……ワーカーに時間外労働をさせてはならない……』
「お前らしい理屈やな。しかしその傘はなんやねんな」
『……またこの祭りに行くということでワーカーたちが……この前預けた傘を私に持っていってほしいと言ってね……私としては特に必要はないのだけど……』
コボルドたちはマゴイが日傘を手にしているのを見て、満足げに尻尾を振っていた。
自分たちがあげたものを彼女が使ってくれているというのが、うれしいのだろう。
「わし、わし!」
耳慣れた声が聞こえて来た。
コボちゃんである。仲間が来るというので、急遽遊びに来たのだ。コボルドたちは喜んで彼を迎えた。
「うう、わん!」「うぉー」「わん!」
●
ジェオルジ春郷祭。カチャは仲間とともにそぞろ歩きしている。
「今年はマゴイさんたちも出店してるらしいですよ」
「へー。どこにあるのかな」
「あ、あれじゃないですか?」
「間違いない。あれだな」
その出店は他の店とはスタイルにおいて一線を画していた。平たく言って四角である。箱である。
窓の部分には外側に向けラックがかかっており、白い花の植わったコップが並んでいた。
そして正面入り口にはこんな但し書きが張り付けてあった。
《営業時間9:00~12:00-13:00~16:00 *12:00~13:00は休憩時間のため営業を休止いたします。店内へのオートマトン持ち込みは禁止されています。必ずご遠慮ください。》
「……マゴイさんらしいというか何というか……」
「昼時なんか、一番の稼ぎ時だと思うんだがなー。終わるのも早すぎないか?」
「売上にはこだわってないんですよ、多分。競争原理の真逆を目指してるのがユニオンですし」
口々に評しつつ中に入ってみたハンターたちは、一様に戸惑った。
なんだか妙に奥行きがある。ウナギの寝床といった感じ……。
一度外に出て、もう一度中に入ってみる。
やっぱり、見た目と中の広さが違う。
折よく近くにマゴイがいたので、聞いてみる。すると、以下の答え。
『……空間操作をしているのよ……ワーカーを無理なく収容出来るように……』
店舗内部は低い壁でいくつかの区画に仕切られていた。それぞれに食器類、食品、花が並べてあり、コボルドが売り子をしている。
そのうちの一つに、テーブルと椅子が並んだ休憩所とおぼしきものがあった。
そこに眼鏡をかけ、黒髪を一つに束ねている娘が腰掛けている。
カチャはその人物に見覚えがあった。ので、早速近づき挨拶をする。
「あ、ニケさん。こんにちは」
「ああ、これはカチャさん。こんにちは」
「郷祭へ遊びに来られたんですか?」
「いえ、仕事です。マゴイさんとちょっとした商談をね、していたんですよ」
彼女らがそんな会話を交わしていたとき、店舗の前を、2人連れが通りがかった。
1人は人間の男性。ルーカス・ルーズベルト。
もう1人は男性――型オートマトン。ジョン・L。
ルーカスは店の中にいるニケの姿を見て、足を止める。
「あれ、グリーク商会さんとこのニケ嬢? この間はどうも――」
と言いながら店内に入ろうとした。
その直後、彼の隣にいたジョンが猛烈な勢いで店外へ弾き出される。マゴイが作った障壁によって。
マゴイの長い髪は、毛先が軽く持ち上がっていた。出し抜けに犬と遭遇した猫が毛を逆立てるみたいに。
実際彼女の心境はそれに近かった。忌避警戒するのが正しいと定義づけられている対象が、いきなり目の前に出てきたのだ。表情にはあまり出ないが、動揺している。
弾き飛ばされたジョンは何が起きたのか分からず、目を丸くしている。
ルーカスは当事者ではないだけに、今起きた出来事の原因がマゴイであることが分かった。なので、抗議する。
「おい、何だいきなり――」
『……オートマトンは店内持ち込み禁止……ちゃんとそう掲示してあるのに……何故読まないの……』
「は?」
ニケが立ち上がりルーカスに歩み寄った。そして、隅の方へ連れて行った。声を低めて話し始めた。
「ルーカスさん、マゴイさんは――」
一通り彼女から事情説明を受けたルーカスは、渋面を作る。
「じゃあ何か、ジョンはこの場にいることも許されないっていうのか?」
「端的に言えばそういうことになりますね」
「そこまでオートマトンを嫌う理由はなんなんだよ」
「さあ。そこは本人に聞いてみませんと。でもとりあえずジョンさんには、店の外で待っていただいた方がいいと思いますよ」
●
朝。なだらかな牧草地帯に設えられた春郷祭会場。
出店ブースの一番端は、からっぽだ。他の場所はすべてテントが張られ、売り子もスタンバイしているのに。
うさぐるみ英霊のぴょこはそわそわと、その前を歩き回る。刑務所屋台前に控えているスペットに話しかける。
『マゴイ遅いのう。遅いのう。もうすぐ祭りが始まってしまうのじゃ』
「なーθ、あいつほんまに来るいうたんか?」
『言うたのじゃ。マゴイ、店を出すことに乗り気であったぞ。ユニオンのことをもっと広く知ってもらえれば、市民が増えるかも知れないというてな。今回はコボルドたち、全員連れてくるらしいぞよ。去年の視察により、この催しがワーカーにとって危険なものではないと確認出来たから、じゃと』
「全員て、確か40匹はおったな。このスペースに入るんか?」
そんなことを話している間に、祭り開催の時刻が来てしまう。
軽快な笛の音。そしてアナウンス。
<皆さん、大変長らくお待たせいたしました。只今よりジェオルジ春郷祭、開催いたします>
その時である。ぴょことスペットの目の前にある空間がぺろんと剥げ、サイコロのごとき建造物が現れた。
入り口から出て来たのは――もちろんマゴイ。白い日傘を持っている。
その後ろからわふわふしながらコボルドたちの集団が出て来た。皆白いネクタイを身につけている。
『おー、来たか来たかマゴイよ、そしてコボルドたちよ。もしかして祭りのこと忘れておるのではないかと、心配しておったぞよ』
『……忘れていないわ……昨日から店舗はこちらに送っていたし……』
「は? ほんまかいな。なんで隠してたんや」
『……開催日時は今日……開催時刻は今この時間……そう決められている……ならぴったりに合わせなければ……ワーカーに時間外労働をさせてはならない……』
「お前らしい理屈やな。しかしその傘はなんやねんな」
『……またこの祭りに行くということでワーカーたちが……この前預けた傘を私に持っていってほしいと言ってね……私としては特に必要はないのだけど……』
コボルドたちはマゴイが日傘を手にしているのを見て、満足げに尻尾を振っていた。
自分たちがあげたものを彼女が使ってくれているというのが、うれしいのだろう。
「わし、わし!」
耳慣れた声が聞こえて来た。
コボちゃんである。仲間が来るというので、急遽遊びに来たのだ。コボルドたちは喜んで彼を迎えた。
「うう、わん!」「うぉー」「わん!」
●
ジェオルジ春郷祭。カチャは仲間とともにそぞろ歩きしている。
「今年はマゴイさんたちも出店してるらしいですよ」
「へー。どこにあるのかな」
「あ、あれじゃないですか?」
「間違いない。あれだな」
その出店は他の店とはスタイルにおいて一線を画していた。平たく言って四角である。箱である。
窓の部分には外側に向けラックがかかっており、白い花の植わったコップが並んでいた。
そして正面入り口にはこんな但し書きが張り付けてあった。
《営業時間9:00~12:00-13:00~16:00 *12:00~13:00は休憩時間のため営業を休止いたします。店内へのオートマトン持ち込みは禁止されています。必ずご遠慮ください。》
「……マゴイさんらしいというか何というか……」
「昼時なんか、一番の稼ぎ時だと思うんだがなー。終わるのも早すぎないか?」
「売上にはこだわってないんですよ、多分。競争原理の真逆を目指してるのがユニオンですし」
口々に評しつつ中に入ってみたハンターたちは、一様に戸惑った。
なんだか妙に奥行きがある。ウナギの寝床といった感じ……。
一度外に出て、もう一度中に入ってみる。
やっぱり、見た目と中の広さが違う。
折よく近くにマゴイがいたので、聞いてみる。すると、以下の答え。
『……空間操作をしているのよ……ワーカーを無理なく収容出来るように……』
店舗内部は低い壁でいくつかの区画に仕切られていた。それぞれに食器類、食品、花が並べてあり、コボルドが売り子をしている。
そのうちの一つに、テーブルと椅子が並んだ休憩所とおぼしきものがあった。
そこに眼鏡をかけ、黒髪を一つに束ねている娘が腰掛けている。
カチャはその人物に見覚えがあった。ので、早速近づき挨拶をする。
「あ、ニケさん。こんにちは」
「ああ、これはカチャさん。こんにちは」
「郷祭へ遊びに来られたんですか?」
「いえ、仕事です。マゴイさんとちょっとした商談をね、していたんですよ」
彼女らがそんな会話を交わしていたとき、店舗の前を、2人連れが通りがかった。
1人は人間の男性。ルーカス・ルーズベルト。
もう1人は男性――型オートマトン。ジョン・L。
ルーカスは店の中にいるニケの姿を見て、足を止める。
「あれ、グリーク商会さんとこのニケ嬢? この間はどうも――」
と言いながら店内に入ろうとした。
その直後、彼の隣にいたジョンが猛烈な勢いで店外へ弾き出される。マゴイが作った障壁によって。
マゴイの長い髪は、毛先が軽く持ち上がっていた。出し抜けに犬と遭遇した猫が毛を逆立てるみたいに。
実際彼女の心境はそれに近かった。忌避警戒するのが正しいと定義づけられている対象が、いきなり目の前に出てきたのだ。表情にはあまり出ないが、動揺している。
弾き飛ばされたジョンは何が起きたのか分からず、目を丸くしている。
ルーカスは当事者ではないだけに、今起きた出来事の原因がマゴイであることが分かった。なので、抗議する。
「おい、何だいきなり――」
『……オートマトンは店内持ち込み禁止……ちゃんとそう掲示してあるのに……何故読まないの……』
「は?」
ニケが立ち上がりルーカスに歩み寄った。そして、隅の方へ連れて行った。声を低めて話し始めた。
「ルーカスさん、マゴイさんは――」
一通り彼女から事情説明を受けたルーカスは、渋面を作る。
「じゃあ何か、ジョンはこの場にいることも許されないっていうのか?」
「端的に言えばそういうことになりますね」
「そこまでオートマトンを嫌う理由はなんなんだよ」
「さあ。そこは本人に聞いてみませんと。でもとりあえずジョンさんには、店の外で待っていただいた方がいいと思いますよ」
リプレイ本文
●お祭り開始
トラウィス(ka7073)と深守・H・大樹(ka7084)は警備巡回と言う名の見学をしている。
所狭しと立ち並ぶ屋台。リンゴ飴、チョコバナナ、綿菓子、ワッフル、フライドポテト、ハンバーグ、ホットドッグ……暑い季節に向かう時期柄、レモネードやアイスキャンデー、かき氷といったものもある。
「賑やかですね、大ちゃん様」
「そうだね、トラちゃんくん。あ、岩塩アイスだって。後で買って行こうかなー」
「おや、あそこで猫が店番を」
「わ、本当だ」
「猫ちゃうスペットや!」
「……あの四角いの何かな。あんまり店っぽく見えないけど」
「休憩所かも知れませんね」
好奇心をそそられ足を向けた店舗には、張り紙が貼ってあった。
読んでみる。
《営業時間9:00~12:00-13:00~16:00 *12:00~13:00は休憩時間のため営業を休止いたします。店内へのオートマトン持ち込みは禁止されています。必ずご遠慮ください。》
「えっと……僕たちの店内持ち込み禁止ってつまりどういうことかな?」
困惑顔の大樹にトラウィスは、表情ひとつ変えず言う。
「オートマトンは中に入らないで欲しい――という意味ではないでしょうか?」
そこに蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が歩いてきた。扇でゆったり顔を仰ぎながら。
彼女もまた、張り紙を読む。
(ユニゾン島の出店か……ふむ……マゴイと言うたか……ちと変わり者じゃと聞くが……覗いてみよるか……)
星野 ハナ(ka5852)は普段よりゆっくりした足取りで歩く。直近の依頼によって受けたダメージが回復し切っていなかったので。だがそういう状態であっても、祭をエンジョイする気は満々だ。
「今年も春郷祭を楽しまなきゃですぅ」
どれから手をつけようかと出店を物色していたところ、奇妙な建造物を見つける。窓に花が飾られた――箱。
「なんだか変わったお店見つけちゃましたぁ」
張り紙を読んでいるトラウィスと大樹の横を通り過ぎ、中に入る。
雑貨のブースに、ティーセットと花の種を持った天竜寺 詩(ka0396)がいるのが見えた。コボルドコボちゃんを介し、店員コボルドと会話している。
「え? 代金いらないの?」
「ない。ここのたな、おためし。ただ」
『ただ』という単語がハナの心に火をつけた。
最強生物おばちゃんの片鱗を遺憾なく発揮し、雑貨のブースへ直行。
「え、試供品が貰えるんですぅ? それなら全種類1品ずつ下さいぃ」
レイア・アローネ(ka4082)は食料品のブースで、キノコや果物を物色している。
(ま、友人へのいい土産だ)
そこに、ルベーノ・バルバライン(ka6752)、カチャ、リナリス・リーカノア(ka5126)が入ってきた。
ニケにカチャが話しかける。ニケが答える。
続けてルーカスとジョンが入ってきた。
マゴイがすっと立ち上がる。ジョンが勢いよく外へ弾き出される。
ペリニョン村の出店。
元祖ラビィ♂をリスペクトして生まれたニューラビット――まるごとうさぎを装着したマルカ・アニチキン(ka2542)が、英霊ぴょこと客引きをしている(ちなみに店の飾り付けもやった)。
『皆の衆、見て行ってたも。ペリニョン村では新製品続々登場じゃー』
「バシリア刑務所とのコラボ企画、岩塩アイスをどうぞー。さっぱり味でこれからの季節にぴったり、おいしいですよー」
6月の日差しは侮れない。着ぐるみの中は熱帯だ。
ぴょこと違って肉体のあるマルカは内部各所に冷えぴたんを貼り、対策を施している。
(マゴイさんのお店、どうなっていますかね)
接客の合間合間に彼女は、ちらちら四角い店舗を見やる――ユニゾンの出店は、ペリニョン、並びにバシリア刑務所のブースに近い所にあるのだ。
店の入り口からジョンが、猛烈な勢いで弾き飛ばされてきた。
「えっ!?」
マルカは売り場をひとまず置いて、急ぎ様子を見に行く。
「相も変わらずこの催しは賑やかじゃのう」
ディヤー・A・バトロス(ka5743)は祭り会場の各所に設けられている休憩所にいた。
買ったクレープをほお張りつつ、偶然隣に座った空蝉(ka6951)と会話している。
「のう、目を開けてないと不便ではないか? ものにぶつかったとかつまづいたりとか」
「いいえ、特にそういうことはございません。視覚が塞がれていてもその他のセンサーによって外部情報を収集し分析することが出来ますので」
「なんじゃ、空蝉殿はオートマトンじゃったのか」
「はい」
そこに、ざわざわという声が聞こえてきた。
「何じゃ騒ぎか?」
ディヤーは声が聞こえてくる方に向かう。
空蝉もそちらに向かう。ディヤーと違って好奇心につき動かされたのではない。元衛兵としてのプログラムが働いたのだ。
不規則な騒ぎが起こっているとなると、怪我人などが出ているかもしれない。人間の無事を確認しなければならない……。
●騒動の後で
ジョンが店外へ弾き出された。店内にいた一般客は何事かと、マゴイたちの方を振り向いた。
(マゴイのオートマトンに対する認識は相変わらずかー)
詩はため息をつく。マゴイに近寄り、声をかける。
「ねぇ、マゴイ。私前に言ったよね? マゴイが今立っている場所は此処だって。此処ってのは単にユニゾン島の事だけじゃないよ」
マゴイは詩に返事をしない。それどころではなかったのだ。トラウィス、大樹、それから空蝉のオートマトン3人が入り口近くにいるのを確認したので。
オートマトンに対する拒否感が髪を波打たせる。鋭い声を出させる。
『……オートマトンは入ってはいけない……!』
トラウィスは彼女の拒絶を受けても動揺しなかった。感情起伏に対する制御プログラムが組み込まれていることもあるが、第一に『歪虚を倒すこと、人々の安寧を守ること』というオーダーに抵触する言葉でなかったからである。
彼はいつでも自分自身に対し、おおむね無頓着なのだ。
「了解しました。では他の方々及び不審者が寄り付かぬよう警備を強化致します」
空蝉もマゴイの反応について、特に思うところはない。
彼はそもそも疑似感情プログラムを持っていない。仮にこの場でマゴイがより強い差別的言動を行ったとしても理解出来ず、その故に傷つかなかったことだろう。
穏やかな微笑みを絶やさぬまま、ジョンに言う。同族だと認識した上で。
「不具合は起きませんでしたか」
ちなみに言うとジョンもマゴイの行動に対し、取り立てて憤慨してはいない。オートマトンならではの冷静さで受け止めている。
「ああ、はい。今のは私にとってはさほどの衝撃ではありませんでしたので。ちょっと驚きはしましたが」
結果的に最も感情回路が発達している大樹だけが、心理的負担を受ける形となっている。
「オートマトン入店禁止なんだ……残念だね」
柴犬のリアンとリオンはしょんもりしてしまった大樹を慰めようと、尻尾を振り手を嘗める。
その様子に詩は心を痛め、語気を強める。
「マゴイがオートマトンを嫌ってるのは知ってるし、今すぐ好きになれって言ってもそれは無理だよね。でもこのクリムゾンウェストではオートマトンは人権を保障されてるし不当な扱いをする事は禁止されてるの。この世界で生きる以上この世界のルールは守るべきだよ。自宅ならともかく公共に開かれたこういう場所ではね」
リナリスも横から入ってきて、注意した。
「オートマトンの皆さんはハンターズソサエティに人権を保障されているので、人格を認めず排斥するのはただの差別だよ。ユニオンの悪評が広まると思うんだけど。聡明なマゴイらしくないよ?」
『……そもそもオートマトンと人間を同じものだと見なすこと自体が間違っている……あなたがたがそういうふうに考え行動していることについて私は干渉しない……だけれども……この店内はユニオン法が適用される……オートマトンは入ってはいけない……』
マゴイはあくまでも主義主張を貫くつもりらしい。聡明さ。=物分かりのよさ。というわけには必ずしもいかないようだ。
カチャはニケに言った。
「あのー、ニケさんもマゴイさんに注意した方がいいんじゃないですか?」
「注意って、何を?」
「オートマトンに対しての態度をもうちょっと和らげるようにとか」
「そう言われましてもね……彼女なりの理屈があるわけですし」
アリアはこめかみを押さえる。面倒なことになってきた、と。
(ううむ……この手の問題は正しい間違ってるで量れるようなものじゃないからな……)
壁によりかかっていた蜜鈴が扇をパチンと畳み、マゴイに歩み寄った。直接本人に疑問をぶつけようと。
「オートマトンは入店禁止というのは、何故じゃ?」
『……市民に対して危険だから……』
「エルフやドワーフは良いのかの?」
『……もちろん良い……人間だもの……』
ルーカスが肩を怒らせマゴイに詰め寄る。
「おい、危険ってなんだ。ジョンは爆弾かなんかか」
『……そう爆弾ではない……もっと恐るべきもの……とにかく店内持ち込みはしないでちょうだい……』
このままでは話がこじれるばかりだと、ルベーノが割って入る。ルーカスをなだめる。
「すまん、ちょっと待ってくれ。ただ責めるだけでは価値観の変更がしにくくなる。マゴイはこの世界におけるオートマトンがなんなのか、まだよく分かっておらんのだ」
そして、マゴイに向き直る。
「μ。人を受け入れられぬ者は人にも受け入れられん。俺がμとこの世界で共存できるかもしれんと思ったのは、コボルド達がμを受け入れたからだ。ユニゾンは今後精霊の恩寵のイクシードを必要とする。核に精霊が使われ、精霊の別形態と言っても差し支えないオートマトンを排除するのは、ユニゾンの未来を閉ざすに等しいのではないか」
『……ルベーノ……オートマトンはエレメントをエネルギ-コアとして使っている機械であって……エレメントそのものではない……オートマトンの存在はむしろ……エレメントにとって害となる……』
貰った試供品の分だけは忠告をしておこうと、口を挟むハナ。
「試供品を配るってことは知って欲しいってことですよねぇ? だったらもっと妥協というものが必要だと思いますよ」
注意深く成り行きを見ていたディヤーは、マゴイの説得ではなく沈静化に重点を置くことにした。
まず説得をしているルベーノたちに言う。一般客たちを指さして。
「のう。皆、春郷祭を楽しみに来ておる。邪魔してはならん。話をするなら場所を変えてはどうじゃ?」
続けてマゴイに提案。
「というか『店内』でなければオートマトンもいてよいのじゃろ? その場所、作れるかの? このように中が拡げられるなら、外を縮めてテラスを設けることも可能なのではないか?」
言葉を切って彼は、マゴイが一番聞く耳を持つであろう理由づけをした。
「仕事時間でもワーカー達に外気でリラックスできる機会を作るべきじゃろ?」
アリアも横から口を出す。
「問題の解決は一旦置くとしてだな、良ければ何故お前がオートマトンを嫌悪するのか、そこから聞かせてはくれないか? 理由が分かればこちらが味方出来ることもあるかも知れない。お前自身考えを口にすることで、気持ちも整理出来るのではないか?」
マゴイはしばし押し黙った。それから外に出て行く。店舗に手をかざす。
まるで手品みたいに建物の幅が狭まっていく、縦へ伸びて行く。
最終的に店舗は幅半分、高さ2倍という形になった。しかし店舗内部の奥行きは何一つ変わっていない。天井の高さも。
「おー、すげー」
「どういう魔法だ?」
騒ぐやじ馬。
コボルドたちが椅子とテーブルを外へ持ち出し、あっというまに屋外席を作る。
ディヤーは確認を取る。
「ここには、オートマトン持ち込み許可ということでいいのじゃな?」
マゴイは、とても気乗りし無さそうに言った。
『……許可する……店舗に入る際はオートマトンをここに待機させておくことを……所有者に求める……』
ひとまず存在だけは認めてもらえたようなので、大樹は少し気を取り直す。リアンとリオンの頭を撫でる。
そこに木琴を叩くような音が聞こえてきた。続けて店内放送。
【只今より当店舗は休憩時間です。休憩時間の間は全てのレジが閉じられます。清算は出来ません。ご了承ください。】
コボルトたちがぞろぞろ中から出てきて、出入り口に『ただ今休憩中』の立て札を置く。
店舗が一時休業するなら警備を緩めても大丈夫だろう。そう思ったトラウィスはペリニョン村の出店へ行き、岩塩アイスを買うことにした。お疲れ気味の友人と、それから自分の分を。
●お昼休み。
ハンターとマゴイは屋外スペースにて、オートマトン同席のもと、オートマトンについての話をすることになった。
その間コボルドたちはめいめい好きなところに腰掛け、お揃いの弁当を食べたり昼寝したり。
蜜鈴は椅子の背もたれに体重を預け煙管を一服してから、口火を切る。
「さて、話してくれるかの。おんしが何故オートマトンを拒否するのか」
ディヤーはマゴイの話に耳を傾ける。師匠から昔言われた言葉――『無知に留まることが無恥厚顔』――を脳裏に過らせながら。
『……ユニオンがオートマトンを拒否する理由は主に2つ……理由その1はエレメントの使用によりマテリアル天然資源の過剰消費を招くこと……エレメントは環境の保全にとても有益な存在……しかるにオートマトンは……1機体に1体のエレメントを必ず必要とする……しかも一度組み込まれたエレメントは元の状態に戻すことが出来ない……これは天然資源の無駄遣い……』
「のう、おんし。エレメントというのは、精霊の別称と解してよいかえ?」
『……そう……この世界では精霊と呼ばれているもの……』
「するとおんしも英霊と言う名の精霊である以上、天然資源の一つということになるような気がするのじゃが……自分のことをそう解釈しているのかえ?」
『……ええ、そう……なので私は私を無駄遣いしないため、オートマトンになることなど断固拒否する……』
ルベーノは随分前、彼女に「オートマトンに入ってみないか」と提案したことを思い出した。
その際彼女は強烈な拒絶反応を示した。あの反応にはオートマトンに対する嫌悪感だけでなく、こういう理由も潜んでいたらしい。
カチャがリナリスと囁きあう。
「そういえばユニオンでは、死者の亡骸も資源となるんでしたっけね」
「うん、そうだったね。リサイクル至上主義国家♪」
レイアは続きを促す。
「2つ目の理由は何だ?」
『……理由その2は人間の労働を奪うこと……オートマトンは人間がやるべきことを際限なくやってしまう……それによって人間を不幸にする……』
「お前はつまり、オートマトンによって人間の職が奪われることを懸念しているのか?」
『……そう……オートマトンは人間から労働を奪う……社会に悲惨を招く……』
エバーグリーンについての知識を持っているディヤーは、マゴイの言葉に違和感を覚えた。
ユニオンは例外としてエバーグリーンのスタンダードな社会構造は、『全ての労働を機械とオートマトンに任せ、人間は毎日悠々自適に過ごす』というものだったはず。
なるほどそれは『働くことはいいことだ』というユニオンの考え方からすれば、否定してしかるべき状態だろう。
だが、だとしても「悲惨」という表現は当たらないのでは。退廃とか堕落とか腐敗とかいう単語を当てるのが適切なのでは。
そう思った彼は、それをそのままマゴイに伝えた。するとマゴイは首を振った。
『……いいえ、悲惨……オートマトンが労働市場へ浸透して行くに従い……労働者の待遇は……加速度的に悪化して行く……雇用者はオートマトンに人間並の働きを求めるのではなく、人間にオートマトン並の働きを求めるようになる……超過勤務と低賃金が常態化し……経済格差は底無し……圧倒的多数の労働者は底辺に追いやられ……物理的に消えて行く……あなたが知っているエバーグリーンの社会は……その段階を経て建設されたもの……』
マルカは、終始穏やかに微笑んでいる空蝉に顔を向けた。
「あの、あなたもオートマトンですよね?」
「是」
「マゴイさんのおっしゃられていることをどう思われますか? あなたがたは傷つけられれば痛みを感じるし……死んでしまいもする。ヒト以外の何物でもないと私は思うのですが」
それは、オートマトンという存在の根幹にかかわる質問だった。
疑似感情プログラム回路を持たない彼は、自己矛盾をいい意味で誤魔化すことが出来ない。自我の崩壊を防ぐため回避行動を取る。それ以上の会話を遮断するという形で。
「対不起。わたくしは存じませぬ」
にべもない言い切りに窮したマルカは、代わってトラウィスに同じことを尋ねた。
「あなたがたは、ヒトですよね?」
彼は起伏の少ない声で言った。特に腹を立てた様子もなく。
「この世界におけるオートマトンは「人」にカテゴライズされていますが、元来人の為に作られしものであるという自覚もあります。故に彼女の言い分を否定することはできません。ただ彼女と祭りを楽しむ「人」の為尽くすことが、私のオーダーに合致する行為と判断致します」
さてジョンはというと――これもまたトラウィスと似たような感じに冷静だった。むしろパートナーであるルーカスの方が、感情的になっている。
「そうですね、オートマトンが生物としての人のカテゴリーに入るかどうかということならば……答えはNOですね」
「お前は俺にとって人以外の何物でもねえよ」
ディヤーはそんな彼に尋ねた。
「のうルーカス殿、マゴイ殿がやらかしたことが気に入らないのはよく分かるが、それに対しどういう風に落とし前つけて欲しいのかの? とりあえず謝罪を要求するということでええのか?」
「そりゃそうしたいのは山々だがな、さっきから話聞いてると、あいつ何が問題なのか全く分かってないだろ。まずそこを改めてもらいたいね。じゃないと謝罪したって意味ないだろ」
岩塩アイスを嘗めていた大樹は、小さくため息をついた。彼はとある夫婦から『家族』として扱われている。それだけに、マゴイの言動や行動が悲しく思えたのだ。
「ヒトや道具の考え方は人によって違うと思うけど……僕はそういう考えが悲しいかな。まぁ僕は何も憶えてないからよく判らないのかも。でも、折角のお祭りだし、周囲の人が聞いていて悲しそうなことがないことを願いたいな。僕は一番大事なのってそこだと思うよ」
蜜鈴は綴じた扇で手のひらを叩く。
「ふむ……世界が違う以上、以前におんしの生きた世界と同じ条件下でオートマトンが生きて居るとは限らぬと思うがのう? 蒼の地でエルフやドワーフが幻想生物で在る様に、翠の地でのオートマトンは紅の地では一つの命で在ると認識されて居る」
『……オートマトンはオートマトン……ただ動力となるエレメントがこの世界のものであるというだけで……その性能も意味合いもエバーグリーンの時と変わることはない……』
「オートマトンの全てを許せ等とは言わぬが、全てを拒絶するは……悲しい事じゃ。せめて武装解除を徹底した者だけでも、入り口近くに席を設けてやってはもらえぬか?」
『……中に入らないならいてもよい……ただし入ってこないよう、所有者はきちんと監視をしてもらわないと……』
リナリスが声を上げる。
「この世界の人間は、オートマトンに全ての労働を肩代わりしてもらおうなんて思っちゃいないよ。それでもオートマトンは排斥すべき脅威なの?」
『……エバーグリーンでもオートマトンが作られた初期には……そういうことを言っていた……彼らに全ての労働を任せるのではない、特殊な職種に限って使用されると……だけど……結局すべての労働に対しオートマトンが使用されることになった……法で全面禁止しているユニオン以外は……そして最終的にベアトリクスなどというものを生み出すことに……』
たまりかねたようにマルカが割りこんだ。
「オートマトンの方々にも人と同じく、記憶や想いがありますよ」
『……それは……まあ……機体によってはそうでしょう……疑似感情機能を搭載しているから……』
「いいえ、あの方たちの感情は紛い物じゃありません」
オートマトンの内面性に言及しても、マゴイは納得しそうにない。
そう悟った詩は、別の面からの説得を試みる。
「ねえマゴイ、蜜鈴さんが今言ったように、この世界におけるオートマトンはエバーグリーンにおけるオートマトンは違うと思う。まず第一にね、この世界のオートマトンに所有者はいないの」
『……そんなはずはない……所有者がいなければオートマトンは動けない……』
「はずはないって言っても、実際そうなの。調べてみたら?」
『……ウォッチャー……』
地面から黒い箱が出てきた。
『……このオートマトン4体を……スキャンしなさい……』
【了解しました、マゴイ】
オートマトンたちは一瞬、何かが体の中を通り抜ける感覚を覚えた。
箱の表面に数字と文字が浮かび上がってくる。
マゴイはそれを見て、驚いた様子を示した。首を傾け考え込み始める。
『……所有者が登録されていない……?……それなのにこのオートマトンたちは作動している……?……』
マルカはごそごそとMARUGOTO ModelA-Kを持ち出してきた。
「マゴイさん、これを是非着用してみていただけませんか」
『……これは生きてないので入ると動けなくなる……不便……』
ルベーノがMARUGOTO ModelA-Kを軽々背中に負ぶった。
「案ずるな、俺が運んでやろう」
『……』
マゴイの姿がすうっと消えた。MARUGOTO ModelA-Kの額に目玉模様が浮き出る。
『……重い……』
と零す着ぐるみの肩を、レイアがぽんと叩く。
「もし良ければ改めて自分の目で彼らを見定めて欲しいものだ。決して強制する訳ではないがな。無理して変わる必要はない、けれど変わってくれたら、嬉しい人もいるかもな」
●午後の部。
拡声器にて響き渡る、ぴょことマルカの声。
『ペリニョン村特別講演、もこふわ武道大会はーじまーるぞーい! 我はと思うものは挑戦するがよい!』
『優勝者にはペリニョン村の燻製セットをプレゼントしまーす!』
会場に特設された四角いリング。そこで戦っているのは青いうさぎと赤いうさぎ。
青はカチャ、赤はリナリス。
「きぐるみ超暑いね♪」
「ですね! っとおお!」
足をつまづかせたカチャはそのままの勢いで回転し体勢立て直し。リングロープの反動を利用したリナリスが赤い弾丸となって飛びかかってくる。
「今、あたしの速度は3倍っ!」
寝技、四の地固め。返し技で外そうと試みるカチャ。
「ふぎゃあ!?」
「そうそう、カチャここが弱いんだったよね!」
「ひゃは、は、なにやってんですかくすぐったいひゃははは!」
多少危なげなくんずほぐれつをしても姿形がうさぎなので、ほほえましきじゃれあいに見える。
観客席からはやんやの拍手喝采。蜜鈴、レイア、ハナもそこに交じって観戦している。
「若いとはいいことじゃのう」
「そこだ、締めて落とすんだ!」
「ああっ、手が、手が短すぎて届いてませぇん」
ルベーノに負ぶわれながらマゴイは、変わらず店の外で警備しているトラウィスと大樹、そして屋外席に腰掛け茶を飲んでいる空蝉を眺める。
『……所有者のいないオートマトンが……自立行動をしている……あれを……』
声が横から聞こえてきたので、ルベーノはそちらに顔を向ける。するとそこに、いつものマゴイが立っていた。どうやら着ぐるみの中は具合が悪かったらしい。
『……法的にどう位置付けたらいいのかしら……彼らの行動について誰が責任を引き受けるとしたらいいのかしら……製造元はもう存在しなくなっているのだし……』
悩んでいるところに詩が来て、言う。
「本人が本人の責任を引き受けるってことでいいんじゃないの?」
『……オートマトンが?……オートマトンの行動の責任を引き受ける……?』
そんな馬鹿なとでも言いたげなマゴイをルベーノは、懇々と諭した。
「生まれ育つ上で身に付けた価値観を変えることは難しいしストレスになるが。ウテルスを動かし新しいステーツマンやマゴイ、ソルジャーを産み出すためにはこの世界ではオートマトンの協力がいる。考えてみてくれないか」
それらの話を耳の端に挟みつつディヤーは、ニケに言う。
「エバーグリーンにも色々問題あったのじゃな」
「どの世界も一緒ですよ。多分ね。じゃあ私別の商談がありますので、お先に失礼いたします」
「さよか。忙しいのう」
試合は引き分け、時間切れで終わった。
カチャとリナリスはまるごとうさぎを脱いで次の参加者に渡す。
「ふぇえ、暑っー」
じっとり汗で濡れた髪を気持ち悪そうにかきあげたカチャは、同じ状態にあるリナリスに言う。
「私たちも塩アイス食べに行きましょうか」
ひそかにカチャの汗の匂いに興奮しているリナリスは、満面の笑み。
「そだね♪ でもその前に着替えよっか? 下着までべったべただし」
「着替えるところってありましたかね」
「あるある。あたしここに来る途中でいい茂み見つけておいたんだー」
●営業終了。
午後4時。
まだまだ明るいが、ユニオンの出店は終了である。彼らが島に帰るということで、ぴょことスペットも見送りに来た。
「どうしたんやリナリス。カチャ見るからによれよれやぞ」
「あはっ、ちょっとだけ場外乱闘張り切っちゃったんだー♪」
『疲労回復にはなまたまごじゃ。さあ、飲むがええカチャ。ぐぐっと、ぐぐっとな』
「いやあのそれもういいですきっついです勘弁してくだs」
「おい止めえθ、あんまし飲ませたら吐くで」
マゴイは帰る前にMARUGOTO ModelA-Kをマルカに戻そうとしたが、彼女はこう言って断った。
「それ、お譲りします。時々は使ってみてください。オートマトンの方々の気持ちになりきれるかもです」
『……いや……なりきれないと思う……』
いまいち懐疑的なマゴイだったが、とりあえずMARUGOTO ModelA-Kは預かるとしたらしい。店の中へ運んでいった。
その時コボルドが中から出てきた。花の種の袋を3つ持って、マゴイにくんくん鳴きかける。
『……あら……余ったの……』
マゴイはハンターたちを見回す。
『……まだ支給品を渡していない人は……』
「あ、私はもう貰ってるよ」
と、詩。
「私もです」
マルカ。
「妾もじゃ」
蜜鈴。
「私もだ」
レイア。
「私もですぅ」
ハナ。
「私も♪」
リナリス。
「ワシも」
ディヤー。
「俺ももう貰っているぞ、マゴイ」
ルベーノ。
カチャの返事がないのは、生卵の逆流を防ごうと口を両手で押さえているからだ。
『……では……いないということで……』
言いかけたマゴイの視線は、トラウィス、大樹、空蝉のところで止まる。
彼女は眉間にしわを寄せたいそう考え込んでから、言った。
『……あなたたちは……人ではないけど……オートマトンだとしても何か変……』
コボルドは花の種を3人に渡した。
大樹は顔を明るくして、礼を言う。
「ありがとう」
トラヴィスは淡々と礼を述べる。
「ありがとうございます」
空蝉は変わらぬ微笑みを浮かべたまま、一礼。
「謝謝」
マゴイとコボルドは店の中へ引っ込んで行く。
「わっしっしー」
『秋の郷祭にも来るのじゃぞー』
ぴょことコボちゃんが手を振る前で四角い店舗が薄れ、消えた。
ハナはさて、と手を叩く。
「お祭りはまだまだ続きますからね、まだまだ楽しみますよー」
トラウィス(ka7073)と深守・H・大樹(ka7084)は警備巡回と言う名の見学をしている。
所狭しと立ち並ぶ屋台。リンゴ飴、チョコバナナ、綿菓子、ワッフル、フライドポテト、ハンバーグ、ホットドッグ……暑い季節に向かう時期柄、レモネードやアイスキャンデー、かき氷といったものもある。
「賑やかですね、大ちゃん様」
「そうだね、トラちゃんくん。あ、岩塩アイスだって。後で買って行こうかなー」
「おや、あそこで猫が店番を」
「わ、本当だ」
「猫ちゃうスペットや!」
「……あの四角いの何かな。あんまり店っぽく見えないけど」
「休憩所かも知れませんね」
好奇心をそそられ足を向けた店舗には、張り紙が貼ってあった。
読んでみる。
《営業時間9:00~12:00-13:00~16:00 *12:00~13:00は休憩時間のため営業を休止いたします。店内へのオートマトン持ち込みは禁止されています。必ずご遠慮ください。》
「えっと……僕たちの店内持ち込み禁止ってつまりどういうことかな?」
困惑顔の大樹にトラウィスは、表情ひとつ変えず言う。
「オートマトンは中に入らないで欲しい――という意味ではないでしょうか?」
そこに蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が歩いてきた。扇でゆったり顔を仰ぎながら。
彼女もまた、張り紙を読む。
(ユニゾン島の出店か……ふむ……マゴイと言うたか……ちと変わり者じゃと聞くが……覗いてみよるか……)
星野 ハナ(ka5852)は普段よりゆっくりした足取りで歩く。直近の依頼によって受けたダメージが回復し切っていなかったので。だがそういう状態であっても、祭をエンジョイする気は満々だ。
「今年も春郷祭を楽しまなきゃですぅ」
どれから手をつけようかと出店を物色していたところ、奇妙な建造物を見つける。窓に花が飾られた――箱。
「なんだか変わったお店見つけちゃましたぁ」
張り紙を読んでいるトラウィスと大樹の横を通り過ぎ、中に入る。
雑貨のブースに、ティーセットと花の種を持った天竜寺 詩(ka0396)がいるのが見えた。コボルドコボちゃんを介し、店員コボルドと会話している。
「え? 代金いらないの?」
「ない。ここのたな、おためし。ただ」
『ただ』という単語がハナの心に火をつけた。
最強生物おばちゃんの片鱗を遺憾なく発揮し、雑貨のブースへ直行。
「え、試供品が貰えるんですぅ? それなら全種類1品ずつ下さいぃ」
レイア・アローネ(ka4082)は食料品のブースで、キノコや果物を物色している。
(ま、友人へのいい土産だ)
そこに、ルベーノ・バルバライン(ka6752)、カチャ、リナリス・リーカノア(ka5126)が入ってきた。
ニケにカチャが話しかける。ニケが答える。
続けてルーカスとジョンが入ってきた。
マゴイがすっと立ち上がる。ジョンが勢いよく外へ弾き出される。
ペリニョン村の出店。
元祖ラビィ♂をリスペクトして生まれたニューラビット――まるごとうさぎを装着したマルカ・アニチキン(ka2542)が、英霊ぴょこと客引きをしている(ちなみに店の飾り付けもやった)。
『皆の衆、見て行ってたも。ペリニョン村では新製品続々登場じゃー』
「バシリア刑務所とのコラボ企画、岩塩アイスをどうぞー。さっぱり味でこれからの季節にぴったり、おいしいですよー」
6月の日差しは侮れない。着ぐるみの中は熱帯だ。
ぴょこと違って肉体のあるマルカは内部各所に冷えぴたんを貼り、対策を施している。
(マゴイさんのお店、どうなっていますかね)
接客の合間合間に彼女は、ちらちら四角い店舗を見やる――ユニゾンの出店は、ペリニョン、並びにバシリア刑務所のブースに近い所にあるのだ。
店の入り口からジョンが、猛烈な勢いで弾き飛ばされてきた。
「えっ!?」
マルカは売り場をひとまず置いて、急ぎ様子を見に行く。
「相も変わらずこの催しは賑やかじゃのう」
ディヤー・A・バトロス(ka5743)は祭り会場の各所に設けられている休憩所にいた。
買ったクレープをほお張りつつ、偶然隣に座った空蝉(ka6951)と会話している。
「のう、目を開けてないと不便ではないか? ものにぶつかったとかつまづいたりとか」
「いいえ、特にそういうことはございません。視覚が塞がれていてもその他のセンサーによって外部情報を収集し分析することが出来ますので」
「なんじゃ、空蝉殿はオートマトンじゃったのか」
「はい」
そこに、ざわざわという声が聞こえてきた。
「何じゃ騒ぎか?」
ディヤーは声が聞こえてくる方に向かう。
空蝉もそちらに向かう。ディヤーと違って好奇心につき動かされたのではない。元衛兵としてのプログラムが働いたのだ。
不規則な騒ぎが起こっているとなると、怪我人などが出ているかもしれない。人間の無事を確認しなければならない……。
●騒動の後で
ジョンが店外へ弾き出された。店内にいた一般客は何事かと、マゴイたちの方を振り向いた。
(マゴイのオートマトンに対する認識は相変わらずかー)
詩はため息をつく。マゴイに近寄り、声をかける。
「ねぇ、マゴイ。私前に言ったよね? マゴイが今立っている場所は此処だって。此処ってのは単にユニゾン島の事だけじゃないよ」
マゴイは詩に返事をしない。それどころではなかったのだ。トラウィス、大樹、それから空蝉のオートマトン3人が入り口近くにいるのを確認したので。
オートマトンに対する拒否感が髪を波打たせる。鋭い声を出させる。
『……オートマトンは入ってはいけない……!』
トラウィスは彼女の拒絶を受けても動揺しなかった。感情起伏に対する制御プログラムが組み込まれていることもあるが、第一に『歪虚を倒すこと、人々の安寧を守ること』というオーダーに抵触する言葉でなかったからである。
彼はいつでも自分自身に対し、おおむね無頓着なのだ。
「了解しました。では他の方々及び不審者が寄り付かぬよう警備を強化致します」
空蝉もマゴイの反応について、特に思うところはない。
彼はそもそも疑似感情プログラムを持っていない。仮にこの場でマゴイがより強い差別的言動を行ったとしても理解出来ず、その故に傷つかなかったことだろう。
穏やかな微笑みを絶やさぬまま、ジョンに言う。同族だと認識した上で。
「不具合は起きませんでしたか」
ちなみに言うとジョンもマゴイの行動に対し、取り立てて憤慨してはいない。オートマトンならではの冷静さで受け止めている。
「ああ、はい。今のは私にとってはさほどの衝撃ではありませんでしたので。ちょっと驚きはしましたが」
結果的に最も感情回路が発達している大樹だけが、心理的負担を受ける形となっている。
「オートマトン入店禁止なんだ……残念だね」
柴犬のリアンとリオンはしょんもりしてしまった大樹を慰めようと、尻尾を振り手を嘗める。
その様子に詩は心を痛め、語気を強める。
「マゴイがオートマトンを嫌ってるのは知ってるし、今すぐ好きになれって言ってもそれは無理だよね。でもこのクリムゾンウェストではオートマトンは人権を保障されてるし不当な扱いをする事は禁止されてるの。この世界で生きる以上この世界のルールは守るべきだよ。自宅ならともかく公共に開かれたこういう場所ではね」
リナリスも横から入ってきて、注意した。
「オートマトンの皆さんはハンターズソサエティに人権を保障されているので、人格を認めず排斥するのはただの差別だよ。ユニオンの悪評が広まると思うんだけど。聡明なマゴイらしくないよ?」
『……そもそもオートマトンと人間を同じものだと見なすこと自体が間違っている……あなたがたがそういうふうに考え行動していることについて私は干渉しない……だけれども……この店内はユニオン法が適用される……オートマトンは入ってはいけない……』
マゴイはあくまでも主義主張を貫くつもりらしい。聡明さ。=物分かりのよさ。というわけには必ずしもいかないようだ。
カチャはニケに言った。
「あのー、ニケさんもマゴイさんに注意した方がいいんじゃないですか?」
「注意って、何を?」
「オートマトンに対しての態度をもうちょっと和らげるようにとか」
「そう言われましてもね……彼女なりの理屈があるわけですし」
アリアはこめかみを押さえる。面倒なことになってきた、と。
(ううむ……この手の問題は正しい間違ってるで量れるようなものじゃないからな……)
壁によりかかっていた蜜鈴が扇をパチンと畳み、マゴイに歩み寄った。直接本人に疑問をぶつけようと。
「オートマトンは入店禁止というのは、何故じゃ?」
『……市民に対して危険だから……』
「エルフやドワーフは良いのかの?」
『……もちろん良い……人間だもの……』
ルーカスが肩を怒らせマゴイに詰め寄る。
「おい、危険ってなんだ。ジョンは爆弾かなんかか」
『……そう爆弾ではない……もっと恐るべきもの……とにかく店内持ち込みはしないでちょうだい……』
このままでは話がこじれるばかりだと、ルベーノが割って入る。ルーカスをなだめる。
「すまん、ちょっと待ってくれ。ただ責めるだけでは価値観の変更がしにくくなる。マゴイはこの世界におけるオートマトンがなんなのか、まだよく分かっておらんのだ」
そして、マゴイに向き直る。
「μ。人を受け入れられぬ者は人にも受け入れられん。俺がμとこの世界で共存できるかもしれんと思ったのは、コボルド達がμを受け入れたからだ。ユニゾンは今後精霊の恩寵のイクシードを必要とする。核に精霊が使われ、精霊の別形態と言っても差し支えないオートマトンを排除するのは、ユニゾンの未来を閉ざすに等しいのではないか」
『……ルベーノ……オートマトンはエレメントをエネルギ-コアとして使っている機械であって……エレメントそのものではない……オートマトンの存在はむしろ……エレメントにとって害となる……』
貰った試供品の分だけは忠告をしておこうと、口を挟むハナ。
「試供品を配るってことは知って欲しいってことですよねぇ? だったらもっと妥協というものが必要だと思いますよ」
注意深く成り行きを見ていたディヤーは、マゴイの説得ではなく沈静化に重点を置くことにした。
まず説得をしているルベーノたちに言う。一般客たちを指さして。
「のう。皆、春郷祭を楽しみに来ておる。邪魔してはならん。話をするなら場所を変えてはどうじゃ?」
続けてマゴイに提案。
「というか『店内』でなければオートマトンもいてよいのじゃろ? その場所、作れるかの? このように中が拡げられるなら、外を縮めてテラスを設けることも可能なのではないか?」
言葉を切って彼は、マゴイが一番聞く耳を持つであろう理由づけをした。
「仕事時間でもワーカー達に外気でリラックスできる機会を作るべきじゃろ?」
アリアも横から口を出す。
「問題の解決は一旦置くとしてだな、良ければ何故お前がオートマトンを嫌悪するのか、そこから聞かせてはくれないか? 理由が分かればこちらが味方出来ることもあるかも知れない。お前自身考えを口にすることで、気持ちも整理出来るのではないか?」
マゴイはしばし押し黙った。それから外に出て行く。店舗に手をかざす。
まるで手品みたいに建物の幅が狭まっていく、縦へ伸びて行く。
最終的に店舗は幅半分、高さ2倍という形になった。しかし店舗内部の奥行きは何一つ変わっていない。天井の高さも。
「おー、すげー」
「どういう魔法だ?」
騒ぐやじ馬。
コボルドたちが椅子とテーブルを外へ持ち出し、あっというまに屋外席を作る。
ディヤーは確認を取る。
「ここには、オートマトン持ち込み許可ということでいいのじゃな?」
マゴイは、とても気乗りし無さそうに言った。
『……許可する……店舗に入る際はオートマトンをここに待機させておくことを……所有者に求める……』
ひとまず存在だけは認めてもらえたようなので、大樹は少し気を取り直す。リアンとリオンの頭を撫でる。
そこに木琴を叩くような音が聞こえてきた。続けて店内放送。
【只今より当店舗は休憩時間です。休憩時間の間は全てのレジが閉じられます。清算は出来ません。ご了承ください。】
コボルトたちがぞろぞろ中から出てきて、出入り口に『ただ今休憩中』の立て札を置く。
店舗が一時休業するなら警備を緩めても大丈夫だろう。そう思ったトラウィスはペリニョン村の出店へ行き、岩塩アイスを買うことにした。お疲れ気味の友人と、それから自分の分を。
●お昼休み。
ハンターとマゴイは屋外スペースにて、オートマトン同席のもと、オートマトンについての話をすることになった。
その間コボルドたちはめいめい好きなところに腰掛け、お揃いの弁当を食べたり昼寝したり。
蜜鈴は椅子の背もたれに体重を預け煙管を一服してから、口火を切る。
「さて、話してくれるかの。おんしが何故オートマトンを拒否するのか」
ディヤーはマゴイの話に耳を傾ける。師匠から昔言われた言葉――『無知に留まることが無恥厚顔』――を脳裏に過らせながら。
『……ユニオンがオートマトンを拒否する理由は主に2つ……理由その1はエレメントの使用によりマテリアル天然資源の過剰消費を招くこと……エレメントは環境の保全にとても有益な存在……しかるにオートマトンは……1機体に1体のエレメントを必ず必要とする……しかも一度組み込まれたエレメントは元の状態に戻すことが出来ない……これは天然資源の無駄遣い……』
「のう、おんし。エレメントというのは、精霊の別称と解してよいかえ?」
『……そう……この世界では精霊と呼ばれているもの……』
「するとおんしも英霊と言う名の精霊である以上、天然資源の一つということになるような気がするのじゃが……自分のことをそう解釈しているのかえ?」
『……ええ、そう……なので私は私を無駄遣いしないため、オートマトンになることなど断固拒否する……』
ルベーノは随分前、彼女に「オートマトンに入ってみないか」と提案したことを思い出した。
その際彼女は強烈な拒絶反応を示した。あの反応にはオートマトンに対する嫌悪感だけでなく、こういう理由も潜んでいたらしい。
カチャがリナリスと囁きあう。
「そういえばユニオンでは、死者の亡骸も資源となるんでしたっけね」
「うん、そうだったね。リサイクル至上主義国家♪」
レイアは続きを促す。
「2つ目の理由は何だ?」
『……理由その2は人間の労働を奪うこと……オートマトンは人間がやるべきことを際限なくやってしまう……それによって人間を不幸にする……』
「お前はつまり、オートマトンによって人間の職が奪われることを懸念しているのか?」
『……そう……オートマトンは人間から労働を奪う……社会に悲惨を招く……』
エバーグリーンについての知識を持っているディヤーは、マゴイの言葉に違和感を覚えた。
ユニオンは例外としてエバーグリーンのスタンダードな社会構造は、『全ての労働を機械とオートマトンに任せ、人間は毎日悠々自適に過ごす』というものだったはず。
なるほどそれは『働くことはいいことだ』というユニオンの考え方からすれば、否定してしかるべき状態だろう。
だが、だとしても「悲惨」という表現は当たらないのでは。退廃とか堕落とか腐敗とかいう単語を当てるのが適切なのでは。
そう思った彼は、それをそのままマゴイに伝えた。するとマゴイは首を振った。
『……いいえ、悲惨……オートマトンが労働市場へ浸透して行くに従い……労働者の待遇は……加速度的に悪化して行く……雇用者はオートマトンに人間並の働きを求めるのではなく、人間にオートマトン並の働きを求めるようになる……超過勤務と低賃金が常態化し……経済格差は底無し……圧倒的多数の労働者は底辺に追いやられ……物理的に消えて行く……あなたが知っているエバーグリーンの社会は……その段階を経て建設されたもの……』
マルカは、終始穏やかに微笑んでいる空蝉に顔を向けた。
「あの、あなたもオートマトンですよね?」
「是」
「マゴイさんのおっしゃられていることをどう思われますか? あなたがたは傷つけられれば痛みを感じるし……死んでしまいもする。ヒト以外の何物でもないと私は思うのですが」
それは、オートマトンという存在の根幹にかかわる質問だった。
疑似感情プログラム回路を持たない彼は、自己矛盾をいい意味で誤魔化すことが出来ない。自我の崩壊を防ぐため回避行動を取る。それ以上の会話を遮断するという形で。
「対不起。わたくしは存じませぬ」
にべもない言い切りに窮したマルカは、代わってトラウィスに同じことを尋ねた。
「あなたがたは、ヒトですよね?」
彼は起伏の少ない声で言った。特に腹を立てた様子もなく。
「この世界におけるオートマトンは「人」にカテゴライズされていますが、元来人の為に作られしものであるという自覚もあります。故に彼女の言い分を否定することはできません。ただ彼女と祭りを楽しむ「人」の為尽くすことが、私のオーダーに合致する行為と判断致します」
さてジョンはというと――これもまたトラウィスと似たような感じに冷静だった。むしろパートナーであるルーカスの方が、感情的になっている。
「そうですね、オートマトンが生物としての人のカテゴリーに入るかどうかということならば……答えはNOですね」
「お前は俺にとって人以外の何物でもねえよ」
ディヤーはそんな彼に尋ねた。
「のうルーカス殿、マゴイ殿がやらかしたことが気に入らないのはよく分かるが、それに対しどういう風に落とし前つけて欲しいのかの? とりあえず謝罪を要求するということでええのか?」
「そりゃそうしたいのは山々だがな、さっきから話聞いてると、あいつ何が問題なのか全く分かってないだろ。まずそこを改めてもらいたいね。じゃないと謝罪したって意味ないだろ」
岩塩アイスを嘗めていた大樹は、小さくため息をついた。彼はとある夫婦から『家族』として扱われている。それだけに、マゴイの言動や行動が悲しく思えたのだ。
「ヒトや道具の考え方は人によって違うと思うけど……僕はそういう考えが悲しいかな。まぁ僕は何も憶えてないからよく判らないのかも。でも、折角のお祭りだし、周囲の人が聞いていて悲しそうなことがないことを願いたいな。僕は一番大事なのってそこだと思うよ」
蜜鈴は綴じた扇で手のひらを叩く。
「ふむ……世界が違う以上、以前におんしの生きた世界と同じ条件下でオートマトンが生きて居るとは限らぬと思うがのう? 蒼の地でエルフやドワーフが幻想生物で在る様に、翠の地でのオートマトンは紅の地では一つの命で在ると認識されて居る」
『……オートマトンはオートマトン……ただ動力となるエレメントがこの世界のものであるというだけで……その性能も意味合いもエバーグリーンの時と変わることはない……』
「オートマトンの全てを許せ等とは言わぬが、全てを拒絶するは……悲しい事じゃ。せめて武装解除を徹底した者だけでも、入り口近くに席を設けてやってはもらえぬか?」
『……中に入らないならいてもよい……ただし入ってこないよう、所有者はきちんと監視をしてもらわないと……』
リナリスが声を上げる。
「この世界の人間は、オートマトンに全ての労働を肩代わりしてもらおうなんて思っちゃいないよ。それでもオートマトンは排斥すべき脅威なの?」
『……エバーグリーンでもオートマトンが作られた初期には……そういうことを言っていた……彼らに全ての労働を任せるのではない、特殊な職種に限って使用されると……だけど……結局すべての労働に対しオートマトンが使用されることになった……法で全面禁止しているユニオン以外は……そして最終的にベアトリクスなどというものを生み出すことに……』
たまりかねたようにマルカが割りこんだ。
「オートマトンの方々にも人と同じく、記憶や想いがありますよ」
『……それは……まあ……機体によってはそうでしょう……疑似感情機能を搭載しているから……』
「いいえ、あの方たちの感情は紛い物じゃありません」
オートマトンの内面性に言及しても、マゴイは納得しそうにない。
そう悟った詩は、別の面からの説得を試みる。
「ねえマゴイ、蜜鈴さんが今言ったように、この世界におけるオートマトンはエバーグリーンにおけるオートマトンは違うと思う。まず第一にね、この世界のオートマトンに所有者はいないの」
『……そんなはずはない……所有者がいなければオートマトンは動けない……』
「はずはないって言っても、実際そうなの。調べてみたら?」
『……ウォッチャー……』
地面から黒い箱が出てきた。
『……このオートマトン4体を……スキャンしなさい……』
【了解しました、マゴイ】
オートマトンたちは一瞬、何かが体の中を通り抜ける感覚を覚えた。
箱の表面に数字と文字が浮かび上がってくる。
マゴイはそれを見て、驚いた様子を示した。首を傾け考え込み始める。
『……所有者が登録されていない……?……それなのにこのオートマトンたちは作動している……?……』
マルカはごそごそとMARUGOTO ModelA-Kを持ち出してきた。
「マゴイさん、これを是非着用してみていただけませんか」
『……これは生きてないので入ると動けなくなる……不便……』
ルベーノがMARUGOTO ModelA-Kを軽々背中に負ぶった。
「案ずるな、俺が運んでやろう」
『……』
マゴイの姿がすうっと消えた。MARUGOTO ModelA-Kの額に目玉模様が浮き出る。
『……重い……』
と零す着ぐるみの肩を、レイアがぽんと叩く。
「もし良ければ改めて自分の目で彼らを見定めて欲しいものだ。決して強制する訳ではないがな。無理して変わる必要はない、けれど変わってくれたら、嬉しい人もいるかもな」
●午後の部。
拡声器にて響き渡る、ぴょことマルカの声。
『ペリニョン村特別講演、もこふわ武道大会はーじまーるぞーい! 我はと思うものは挑戦するがよい!』
『優勝者にはペリニョン村の燻製セットをプレゼントしまーす!』
会場に特設された四角いリング。そこで戦っているのは青いうさぎと赤いうさぎ。
青はカチャ、赤はリナリス。
「きぐるみ超暑いね♪」
「ですね! っとおお!」
足をつまづかせたカチャはそのままの勢いで回転し体勢立て直し。リングロープの反動を利用したリナリスが赤い弾丸となって飛びかかってくる。
「今、あたしの速度は3倍っ!」
寝技、四の地固め。返し技で外そうと試みるカチャ。
「ふぎゃあ!?」
「そうそう、カチャここが弱いんだったよね!」
「ひゃは、は、なにやってんですかくすぐったいひゃははは!」
多少危なげなくんずほぐれつをしても姿形がうさぎなので、ほほえましきじゃれあいに見える。
観客席からはやんやの拍手喝采。蜜鈴、レイア、ハナもそこに交じって観戦している。
「若いとはいいことじゃのう」
「そこだ、締めて落とすんだ!」
「ああっ、手が、手が短すぎて届いてませぇん」
ルベーノに負ぶわれながらマゴイは、変わらず店の外で警備しているトラウィスと大樹、そして屋外席に腰掛け茶を飲んでいる空蝉を眺める。
『……所有者のいないオートマトンが……自立行動をしている……あれを……』
声が横から聞こえてきたので、ルベーノはそちらに顔を向ける。するとそこに、いつものマゴイが立っていた。どうやら着ぐるみの中は具合が悪かったらしい。
『……法的にどう位置付けたらいいのかしら……彼らの行動について誰が責任を引き受けるとしたらいいのかしら……製造元はもう存在しなくなっているのだし……』
悩んでいるところに詩が来て、言う。
「本人が本人の責任を引き受けるってことでいいんじゃないの?」
『……オートマトンが?……オートマトンの行動の責任を引き受ける……?』
そんな馬鹿なとでも言いたげなマゴイをルベーノは、懇々と諭した。
「生まれ育つ上で身に付けた価値観を変えることは難しいしストレスになるが。ウテルスを動かし新しいステーツマンやマゴイ、ソルジャーを産み出すためにはこの世界ではオートマトンの協力がいる。考えてみてくれないか」
それらの話を耳の端に挟みつつディヤーは、ニケに言う。
「エバーグリーンにも色々問題あったのじゃな」
「どの世界も一緒ですよ。多分ね。じゃあ私別の商談がありますので、お先に失礼いたします」
「さよか。忙しいのう」
試合は引き分け、時間切れで終わった。
カチャとリナリスはまるごとうさぎを脱いで次の参加者に渡す。
「ふぇえ、暑っー」
じっとり汗で濡れた髪を気持ち悪そうにかきあげたカチャは、同じ状態にあるリナリスに言う。
「私たちも塩アイス食べに行きましょうか」
ひそかにカチャの汗の匂いに興奮しているリナリスは、満面の笑み。
「そだね♪ でもその前に着替えよっか? 下着までべったべただし」
「着替えるところってありましたかね」
「あるある。あたしここに来る途中でいい茂み見つけておいたんだー」
●営業終了。
午後4時。
まだまだ明るいが、ユニオンの出店は終了である。彼らが島に帰るということで、ぴょことスペットも見送りに来た。
「どうしたんやリナリス。カチャ見るからによれよれやぞ」
「あはっ、ちょっとだけ場外乱闘張り切っちゃったんだー♪」
『疲労回復にはなまたまごじゃ。さあ、飲むがええカチャ。ぐぐっと、ぐぐっとな』
「いやあのそれもういいですきっついです勘弁してくだs」
「おい止めえθ、あんまし飲ませたら吐くで」
マゴイは帰る前にMARUGOTO ModelA-Kをマルカに戻そうとしたが、彼女はこう言って断った。
「それ、お譲りします。時々は使ってみてください。オートマトンの方々の気持ちになりきれるかもです」
『……いや……なりきれないと思う……』
いまいち懐疑的なマゴイだったが、とりあえずMARUGOTO ModelA-Kは預かるとしたらしい。店の中へ運んでいった。
その時コボルドが中から出てきた。花の種の袋を3つ持って、マゴイにくんくん鳴きかける。
『……あら……余ったの……』
マゴイはハンターたちを見回す。
『……まだ支給品を渡していない人は……』
「あ、私はもう貰ってるよ」
と、詩。
「私もです」
マルカ。
「妾もじゃ」
蜜鈴。
「私もだ」
レイア。
「私もですぅ」
ハナ。
「私も♪」
リナリス。
「ワシも」
ディヤー。
「俺ももう貰っているぞ、マゴイ」
ルベーノ。
カチャの返事がないのは、生卵の逆流を防ごうと口を両手で押さえているからだ。
『……では……いないということで……』
言いかけたマゴイの視線は、トラウィス、大樹、空蝉のところで止まる。
彼女は眉間にしわを寄せたいそう考え込んでから、言った。
『……あなたたちは……人ではないけど……オートマトンだとしても何か変……』
コボルドは花の種を3人に渡した。
大樹は顔を明るくして、礼を言う。
「ありがとう」
トラヴィスは淡々と礼を述べる。
「ありがとうございます」
空蝉は変わらぬ微笑みを浮かべたまま、一礼。
「謝謝」
マゴイとコボルドは店の中へ引っ込んで行く。
「わっしっしー」
『秋の郷祭にも来るのじゃぞー』
ぴょことコボちゃんが手を振る前で四角い店舗が薄れ、消えた。
ハナはさて、と手を叩く。
「お祭りはまだまだ続きますからね、まだまだ楽しみますよー」
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春郷祭での過ごし方について マルカ・アニチキン(ka2542) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/10 21:47:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/10 22:35:29 |