ゲスト
(ka0000)
つまりなんかもう面倒くさい
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/08 19:00
- 完成日
- 2018/06/11 06:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
思うんだがお前は俺と居て面倒くさいとは思わないのか、という質問自体がもう絶望的に面倒くさいな、と思った。こんなもの口に出した瞬間面倒くささが人間性を上回る。言う前に気が付けただけ辛うじてまだ面倒くさいよりは人間でいられただろうか。まあ思い付いてる段階で相当面倒くさいよなと凹むことには変わらないわけだが。面倒くさい。
こんな風に考えていた辺りが大体拗らせのピークでここまで来てしまえばあとは時間と共に徐々に落ち着きを取り戻していくだけだった。
(まあ、あいつに何か言うような事ではないんだよな)
気にして何かすべき、変えるべきなのは自分のほうだけだ。その責任も結果を負う立場なのも自分だけのことなのだから。
腹に軽く疼くような痛みを覚える。これはつまり、自覚だった。雑音に惑わされている。思い出しながら、つまりまあ、これが結局自分なのだと納得する。傍目に馬鹿らしかろうが、自分はこういう風にしか出来ない。雑音にいちいち足元を確かめて、一歩ずつ進む。
……それで今回のこれはどうなのか。どうするにせよ、今足を止める程ではない程度の雑音ではある。ただそれでも己の矜持の深いところに刺さるものだっただけに、捨て置けなかっただけ。
雑魔を一体切り伏せ、動かなくなったのを確認すると、伊佐美 透(kz0243)は一呼吸して、ずっとまとわりついてるこの散漫な思考ももうそろそろやめにしよう、と思い始めた。気にすることではないと思っても割りきれないことを、気にしたんだからもう気が済むべきだ。あとは時間なりなんなりで気分を切り替えるだけ。
結論して、眼前に広がる森、考えながらもずっと意識から外していたわけではないその景色を、意識してずっと奥の方まで見やる。
森といってさほど鬱蒼としている訳ではない。こんがらがった今の気分にぴったりと言うほどでは。
……依頼中なのだ。
大した内容ではない。辺境の森で確認されたという雑魔の退治。
始めに数体相手にして、さほどの相手ではないと、そこからは効率化のためにバラけて行動している。そんな最中だった。
──血の匂いがする。
雑魔が徘徊していた森だ。不幸にも殺害された動物も居るだろう……が、経験と本能が、向こう側から感じるものにこれまで以上の警戒を抱かせる。
刀を抜き、魔導短伝話を手に進む。
まず見つけたのは──見つけてしまったのは──やはりというか、動物の遺体だった。狢のような四足動物。血に染まった地面に横たわっている。
雑魔の手によるものではない、と直感したのは、その破れた腹が『食い荒らされた』といった様相ではなかったからだろう。解剖のお手本かと思うように、綺麗に縦に割かれてから、開かれている。遺体は、こちらを向くように横向きに置かれていた。
そこから零れる内臓もまた意図を感じさせるような整えられ方だった。となると、右の眼球が飛び出して垂れているのも自然ではなく作為的だろうか。
好きでじっくり眺めたかったわけではない。眺められるくらいにはこういうのにも慣れてしまったから検分しただけ。
そうして感じたこの『作品』の意図は、『いかにも想像しそうな動物の死体、あるいはゾンビ』といった風に思えた。想像上、創作の記号として描かれるような動物の死体の在り方。現実はこんなに如何にもな整い方はしていないが、つまり死というものを感じさせ受け止めさせようとしているような。
とは言えパッと見の感想だ。慣れたとはいえゆっくり見たいものではないし、その余裕も無かった。
男が居る。
コート姿に帽子を被ったの中年の男だった。透とは死体を挟む形でその向こう側に、無造作に立っている。あからさまに剣呑な空気、そして負のマテリアルを感じた。武器の類いは手にしていない。今は垂らしている腕、その右手の指先から血が滴っている。
「何やら悩める様子だな、青年」
男はゆっくりと両腕を上げて、友好的に見える態度、声で話しかけてくる。
「これは幸運な出会いだよ。私は救うべき相手を求めていた。そこに救われるべき君が来た。違うかね?」
「……いえ、俺の悩みなら先程わりと自己解決が見えてたところですが」
透は明らかに関わるのはごめん被るとばかりに、それでも一応律儀に応えていた。
「私はね……多くの人を救うべく悩みを聞いて回っていたのだよ……多くの……多くのだ……中々に報われぬ道だった……だがある日、とうとう一つの真理に至った!」
透の返事は聞いていないように見えた。そもそも話が通じる相手でもないのかもしれない。何せ……この辺りでもはや、男の身から感じる負のマテリアルは隠せぬものになっている。
急ぎ別れた仲間たちに連絡すべきだ。透は手にしたままの短伝話を意識する。
「人間、死に瀕すれば大体の悩みなどそれどころでは無くなる」
「急に雑だなオイ」
「それから私はこの身の全てを救済に捧ぐことにしたのだ。そう、全てを……もはや名も忘れた。今の私はそう、流れのブッ殺セラピスト」
「……いやそれももう慣れてるけどな。ツッコミ間に合わない系の手合い」
「と言うわけだ青年。遠慮せず受け止めろ我がブッ殺セラピー」
それで、言うべき事は終えたのだろう。男が繰り出してきた指先二本、何も持たぬ生身のそれを、透は迷うことなく抜いたままの刀で弾いた。やけに硬く重い手応えのその攻撃は受け止めきれず、軽く腕を裂かれる。その痛みを認識する間もなく、左脚の攻撃が来る。一撃目以上に避けられそうにない連撃をこれまた何とか衝撃に耐えながら受ける。格闘士の動きに近いと思った。歪虚となる前はハンターだったのかもしれない。
「済まない緊急事態だ! 歪虚兵の襲撃を受けてる!」
叫ぶように言って短伝話を離し両手で刀を構え直す。……返す一撃は避けられた。
「恐れることはないぞ、多少手加減を間違えて死んだところでそれはそれで悩みは無くなる」
「うんあんたそもそも瀕死を狙う気無いよな」
再度、辛うじて相手の攻撃を捌きながら、これも言っても仕方ないと分かりつつもぼやいていた。反撃──
「……!?」
「成程中々だ。君の救済には、もう一工夫要るものと認識した」
刃を、避けようとしない相手の動きに動揺を覚えながらも止められない。今急に止めたらそれはそれで大きな隙を生む。いっそ振りきるしかない──理解しつつあったが。格闘士。似た所かそのものと言っていい動き、技。左腕で食い止められた刃から流れる力が相手の内部を巡っていくと認識する。それから……。
予想通り、次の一撃は更なる鋭い物となった。肩から血飛沫が上がる。
ふざけた相手だが気を抜くことは許されなかった。仲間が来るまでの時間、凌ぐことを全力で考えねばならない。
──つまり。
(いや、有効だとは認めないぞこのブッ殺セラピー)
これで余計な思考は最後にしようと思いつつ、言い聞かせずには居られなかった。
こんな風に考えていた辺りが大体拗らせのピークでここまで来てしまえばあとは時間と共に徐々に落ち着きを取り戻していくだけだった。
(まあ、あいつに何か言うような事ではないんだよな)
気にして何かすべき、変えるべきなのは自分のほうだけだ。その責任も結果を負う立場なのも自分だけのことなのだから。
腹に軽く疼くような痛みを覚える。これはつまり、自覚だった。雑音に惑わされている。思い出しながら、つまりまあ、これが結局自分なのだと納得する。傍目に馬鹿らしかろうが、自分はこういう風にしか出来ない。雑音にいちいち足元を確かめて、一歩ずつ進む。
……それで今回のこれはどうなのか。どうするにせよ、今足を止める程ではない程度の雑音ではある。ただそれでも己の矜持の深いところに刺さるものだっただけに、捨て置けなかっただけ。
雑魔を一体切り伏せ、動かなくなったのを確認すると、伊佐美 透(kz0243)は一呼吸して、ずっとまとわりついてるこの散漫な思考ももうそろそろやめにしよう、と思い始めた。気にすることではないと思っても割りきれないことを、気にしたんだからもう気が済むべきだ。あとは時間なりなんなりで気分を切り替えるだけ。
結論して、眼前に広がる森、考えながらもずっと意識から外していたわけではないその景色を、意識してずっと奥の方まで見やる。
森といってさほど鬱蒼としている訳ではない。こんがらがった今の気分にぴったりと言うほどでは。
……依頼中なのだ。
大した内容ではない。辺境の森で確認されたという雑魔の退治。
始めに数体相手にして、さほどの相手ではないと、そこからは効率化のためにバラけて行動している。そんな最中だった。
──血の匂いがする。
雑魔が徘徊していた森だ。不幸にも殺害された動物も居るだろう……が、経験と本能が、向こう側から感じるものにこれまで以上の警戒を抱かせる。
刀を抜き、魔導短伝話を手に進む。
まず見つけたのは──見つけてしまったのは──やはりというか、動物の遺体だった。狢のような四足動物。血に染まった地面に横たわっている。
雑魔の手によるものではない、と直感したのは、その破れた腹が『食い荒らされた』といった様相ではなかったからだろう。解剖のお手本かと思うように、綺麗に縦に割かれてから、開かれている。遺体は、こちらを向くように横向きに置かれていた。
そこから零れる内臓もまた意図を感じさせるような整えられ方だった。となると、右の眼球が飛び出して垂れているのも自然ではなく作為的だろうか。
好きでじっくり眺めたかったわけではない。眺められるくらいにはこういうのにも慣れてしまったから検分しただけ。
そうして感じたこの『作品』の意図は、『いかにも想像しそうな動物の死体、あるいはゾンビ』といった風に思えた。想像上、創作の記号として描かれるような動物の死体の在り方。現実はこんなに如何にもな整い方はしていないが、つまり死というものを感じさせ受け止めさせようとしているような。
とは言えパッと見の感想だ。慣れたとはいえゆっくり見たいものではないし、その余裕も無かった。
男が居る。
コート姿に帽子を被ったの中年の男だった。透とは死体を挟む形でその向こう側に、無造作に立っている。あからさまに剣呑な空気、そして負のマテリアルを感じた。武器の類いは手にしていない。今は垂らしている腕、その右手の指先から血が滴っている。
「何やら悩める様子だな、青年」
男はゆっくりと両腕を上げて、友好的に見える態度、声で話しかけてくる。
「これは幸運な出会いだよ。私は救うべき相手を求めていた。そこに救われるべき君が来た。違うかね?」
「……いえ、俺の悩みなら先程わりと自己解決が見えてたところですが」
透は明らかに関わるのはごめん被るとばかりに、それでも一応律儀に応えていた。
「私はね……多くの人を救うべく悩みを聞いて回っていたのだよ……多くの……多くのだ……中々に報われぬ道だった……だがある日、とうとう一つの真理に至った!」
透の返事は聞いていないように見えた。そもそも話が通じる相手でもないのかもしれない。何せ……この辺りでもはや、男の身から感じる負のマテリアルは隠せぬものになっている。
急ぎ別れた仲間たちに連絡すべきだ。透は手にしたままの短伝話を意識する。
「人間、死に瀕すれば大体の悩みなどそれどころでは無くなる」
「急に雑だなオイ」
「それから私はこの身の全てを救済に捧ぐことにしたのだ。そう、全てを……もはや名も忘れた。今の私はそう、流れのブッ殺セラピスト」
「……いやそれももう慣れてるけどな。ツッコミ間に合わない系の手合い」
「と言うわけだ青年。遠慮せず受け止めろ我がブッ殺セラピー」
それで、言うべき事は終えたのだろう。男が繰り出してきた指先二本、何も持たぬ生身のそれを、透は迷うことなく抜いたままの刀で弾いた。やけに硬く重い手応えのその攻撃は受け止めきれず、軽く腕を裂かれる。その痛みを認識する間もなく、左脚の攻撃が来る。一撃目以上に避けられそうにない連撃をこれまた何とか衝撃に耐えながら受ける。格闘士の動きに近いと思った。歪虚となる前はハンターだったのかもしれない。
「済まない緊急事態だ! 歪虚兵の襲撃を受けてる!」
叫ぶように言って短伝話を離し両手で刀を構え直す。……返す一撃は避けられた。
「恐れることはないぞ、多少手加減を間違えて死んだところでそれはそれで悩みは無くなる」
「うんあんたそもそも瀕死を狙う気無いよな」
再度、辛うじて相手の攻撃を捌きながら、これも言っても仕方ないと分かりつつもぼやいていた。反撃──
「……!?」
「成程中々だ。君の救済には、もう一工夫要るものと認識した」
刃を、避けようとしない相手の動きに動揺を覚えながらも止められない。今急に止めたらそれはそれで大きな隙を生む。いっそ振りきるしかない──理解しつつあったが。格闘士。似た所かそのものと言っていい動き、技。左腕で食い止められた刃から流れる力が相手の内部を巡っていくと認識する。それから……。
予想通り、次の一撃は更なる鋭い物となった。肩から血飛沫が上がる。
ふざけた相手だが気を抜くことは許されなかった。仲間が来るまでの時間、凌ぐことを全力で考えねばならない。
──つまり。
(いや、有効だとは認めないぞこのブッ殺セラピー)
これで余計な思考は最後にしようと思いつつ、言い聞かせずには居られなかった。
リプレイ本文
アルマ・A・エインズワース(ka4901)のモノクルが淡く蒼い燐光を散らした。
彼の身につけるそのモノクル、及び機導籠手にはその機能についても由来にいても語るべきことはいくらもあった。が、今言及しておくべきことはこれのみに留めておく。それらの効能もあって、彼の魔法威力は突き抜けている。こと今の依頼が雑魔退治であることを鑑みると──馬鹿げてると言いたくなるほどに。
「……遊んでもすぐじゅってなるです……」
その威力、命を消し去る音としてはあまりにささやかであっけの無い音。だが現実に結果としてそれだけで彼の目の前の雑魔は無に帰した。負のマテリアルの影響を受けた生き物は死後その存在を崩壊させるというプロセスすら必要とせず。
物足りなさそうにアルマは呟く。ここまでの依頼は彼にとって遊びにすらなっていなかった。ただ行って戻るだけの使いと変わらない。
──事態は、そんな折の横で、進行していた。
「頼む、無事でいてくれ……!」
連絡を受けて、鞍馬 真(ka5819)は森の中を全力で駆け抜けている。己の方向感覚を信じ、最短と思われるルートを瞬脚で突き進む。
たどり着いた先に見えたのは負傷する透の姿だった。
瞬間。湧き上がる激情は、手にした槍に込めた。平常心と冷静を言い聞かせる。
(夢を叶え始めたばかりなのに、こんな所で死ぬなんて許さないよ!)
歪虚を牽制するように槍を投擲した。そのまま透の隣に並び立つ。
「……まだ戦えそう?」
「正直、これほど早く来てくれるとは思ってなかったよ」
予測より、透の声は元気だ。真は少しほっとして敵のことを尋ねると、透はこれまでのことを手短に伝えた。
(話を聞く限りいきなり全力で斬るのは不味そうか)
真は愛用の剣は抜かず槍のまま戦うことにした。互いに死角を補うように立ち回る。
「君も受け入れてはみまいかね? 我がブッ殺セラピー」
「……。ハッ、要は迷いの先送りだろう?」
真の反応は、一応のツッコミ返し、程度のつもりだった。
「いいや。むしろ開放にして覚醒だよ。死の瞬間に在るのは己が純然と抱くものそれだけになる。興味は無いか青年。君の空虚の奥に何が残るのかを」
……ざらっと、嫌なところを撫でられた心地がした。が、次いで聞こえた銃声が思考を遮断してくれる。
「おかしな新興宗教の教祖の如き戯言を抜かしおって……まずは貴様自身から楽にしてやる……!」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の到着だった。チィ=ズヴォーもほぼ同じくらいに到達する。
彼女もまた以前の依頼で透に関わったことはある。いささか厄介な男であることは承知しているが、歪虚が現在進行形で脅威を振るっている以上彼の協力を惜しんでいる暇はない。
通信で敵の情報を共有済みのコーネリアは、やはり不用意に高火力は出すべきではないと考えた。前衛が立ちはだかる中、狙撃の位置から時間をかけてマテリアルを収束させていく。粉雪を思わせるオーラが、彼女の周囲に舞い始めた。それらはやがて、銃口へと集まっていく。
胴へと命中したその一撃は、着弾点から氷となって広がって……行くかと思いきや、それらは途中で弾け散った。行動阻害を狙った技はしかし、ある程度の脅威を持つこの歪虚に通じるには強度が足りないようだった。
……冷静に、見込みが低いと認めるや否や、手足を狙う作戦に切り替える。機動力のある相手だ。特定箇所を狙うのは普通に撃つより難易度が上がる上に、知性のある相手には読まれやすくなる。それでも、意識させ技のキレを低下させるという目的ならば機能した。
我慢比べだ。こちらも大きな攻撃には出られない。だが、前衛三人が互いに知己である状態で気を使いながら戦っているため、致命の一撃を貰う事もない。手刀による連撃は避けきれないが、真の毒刃も狙い通り相手の体力を蝕んでいる。
……しかし、だ。
「他の皆は!?」
そろそろ何でも、という頃合いで、真がつい声を上げる。
コーネリアが答えたのは。ゾファル・G・初火(ka4407)とは、トランシーバーで連絡が付いた、というものだった。……その声には、流石に若干の苦みを交えて。
あらかじめ連結通話でも仕込んでいない限り、魔導単伝話とトランシーバーの間に通信互換性は無い。故に状況を訝しんだコーネリアがトランシーバーで改めて連絡した。
それに反応があったのもゾファルのみ。
つまり。
よりによって回復が出来る人間二人ともと連絡が取れない。この状況で。
……いや。
仕方なくは、あるのだろう。
こんな状況はそもそも、想定外、だったのだ。この依頼はただの雑魔退治で、そして、それはこのメンバーであれば何ら問題は無い筈だった。
だから。
(……不用意に接触した、俺のせい、か……)
気付いた時点で近づかず引き返して報告すべきだったか──戻った時には居なくなっていて、そうして別の場所で被害を出していた可能性も勿論、有ったわけだが。
やっぱり、今更言っても仕方ないことを考えながら、思い詰めた顔で透はさらに一歩前に出る。……そうして、そんな彼にも慣れてきている真は常に彼を庇える位置に立つ。
……ゾファルが到着するまでの間、それでも、何とか四人で凌いでいることは出来た。そして、
「てめぇがぶっ殺セラピーならさしずめ俺様ちゃんは頭突きのぶっ殺―ズセラヴィーってとこだな」
遅参に関わらず敵がさほど深手を負っていないことに、ゾファルは何処か陽気ではあった。
バトルジャンキーの彼女にしてみれば雑魚退治にすっかり退屈を持て余していた所にスーパー面白歪虚のご登場と言うところである。
「ふむ、君は……」
「おーおーいいねそのなんだか面倒くさそうな手合い。俺様ちゃん大好物」
歪虚が何か言いかけた、その口上はどうでもよさそうに遮り、腹も減ってるし晩飯にちょうどいい、とゾファルは敵めがけて突っ込んでいく……別に頭突きではなかったが。
「聞いたとこだと、敵ちゃんの性能は『風来縷々』の物理版ってとこカー?」
拳を振り上げる。まさに拳をそのまま巨大化させたような武骨な拳鎚、飛び上がり振り下ろしたそれを目にしたとき、歪虚の瞳に初めて大きな変化が現れた。
「要は受けられ無きゃいいんだろ?」
眼前に迫る瞬間、歪虚が見た拳は更に巨大化して見えたかもしれない。ひたすら攻め気な彼女の自信がそのまま威圧となって歪虚の心を貫き、身体を硬直させる。構えも取らせずに右の拳。そのまま二刀流の要領で左の拳。からの
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
超高速の、乱打!
拳の残像がオーラを象り衝撃波となって後ろの地面すらも抉っていく。おそらく泣いて謝っても殴るのをやめない勢いだろう。歪虚の身体が大きく仰け反る、それはこの戦いで初めて相手にきっちり入った一撃だった。
なおも威圧の影響から復帰できない歪虚を、彼女は更に一歩踏み込んで、足の甲を踏み潰して逃げられないように固定──しようとするが。
「……成程君は迷いがない。しかし私止められるわけにもいかない」
続き発せられる声は。
落ち着き払っていた。
重ねられ、上から力を掛けられる足を、歪虚はまず横に払う。
……普通に考えてやはり、歪虚というのは人間より強靭な存在なのだ。彼女が、ハンターの中でも実力者であるというのは異論はないが。それでも、元ハンターではないかと推測されそこに歪虚としての力が加わった存在を。一人で、スキルの補助などもなく、力のみで抑え込もうというのは厳しかった。
ベクトルの違う、強力な力の流れの上に自ら乗る形になって彼女の身体が崩れる。そこに……歪虚は、これまで見せていた手刀の連撃とは違う構えを見せていた。
拳が。彼女の腹にめり込んで──そして、込められた気功が彼女の意識を飛ばす。焦点の合わない瞳でゾファルはそのまま仰向けに倒れた。起き上がろうとする。動けない。
焦るハンターたちが歪虚に攻撃を仕掛けるが、構わず敵は動けぬゾファルに連撃を叩き込んだ。彼女の身体から高く血飛沫が上がる。
「……何、ですかこの状況!?」
ここで、星野 ハナ(ka5852)がやっとの登場となる。雑魔を一通り退治し終えて、なしのつぶてな現状に違和感を覚えてエクウスで森を駆けまわった、末の。
「君は必要かな。我がブッ殺セラピー」
通信機を持たなかった彼女には何が起きたのかは分からない。ただ、その言葉。そして傷つけられた仲間は即座に認識する。
「歪虚のクセにブッコロとか生意気ですぅ、全ゴロシにしてあげますよぅ」
放った符が五色の光となって降り注ぐ。目のくらむようなその瞬きは……しかし、この歪虚を止めるにはやはり強度が足りない。歪虚は攻撃の手を止めず、再びゾファルの身体が跳ねる。
流石にどうにもならない。チィが彼女の身体を抱え上げてこの場を離脱する。……その辺において戻るというのも出来ず事実上ここで二名の戦線離脱だった。
迷った末、真はここで槍を収め二剣を抜き放った。脱落者が出た以上、これまで通りの削り合いでは押し負ける。全力の連撃……から、アスラトゥーリの追撃!
歪虚が身構えた。真の一撃は歪虚の防御を超えて受け止めた腕を斬り割く、が、やはり、力が相手のその身を巡っていくのを悟る──やはり、金剛不壊も使えたか──覚悟の上だ。避ければいい。そう思ったが。
「アンタの力がなくても通じるものか試してみればいいですぅ」
離れた位置からハナの声がした。符が黒い輝きを帯び歪虚の力を抑え込んでいく。……が。その代償。それは、いくら何でも。
「透さんは来るなですよぉ!」
そうして。
先んじて、ハナは叫んだ。
「……役者が無駄に傷作ってどうするんですぅ! これ以上玉のお肌に傷つけるならぁ、ぺろぺろはぁはぁくんかくんか付きのセクハラヒーリングしますからねぇ! 嫌なら怪我は最小限且つ見えない所オンリーにして下さいぃ!」
それは。
間違っているとも言えないが、本来なら、今この場で言えた義理ではないのだろう。そして透は本来、それでも、目の前の無謀を見過ごせる性質ではない。……本来なら。
冗談のつもりで用意していたのだろう言葉は、しかし今は必死さを誤魔化すための物だった。浮かぶ苦悩、後悔が、透に下手に彼女を庇うことを躊躇わせる。つまりこれは、彼女の落とし前なのだろうから。
でも……でも、それは結局、つまり。
「は……ははははは! 生きるのはかくも辛いなあ、青年!」
歪虚が、勝ち誇ったように笑い声を上げる。ハナが睨み付ける先で、それは続ける。
「女性よ。君が投げかけているものがどういうことか分かるかね。『身体を見捨てるか心を踏みにじるか選べ』だよ」
……そんな。
そんなつもりじゃなかったし、筈じゃなかった。
こうなったのはただ──単純にして致命なミス、それだけの、事。だった、のに。
こんな。こいつは。ただの馬鹿げた手合いじゃないのか。
決断は。
銃声が、させた。
「呆けてる暇があるか。今こそ総力で攻撃だ。それしかない」
コーネリア。この場において彼女は自分が成すべき役割として、極めて冷徹に状況を分析した。脱落者が出た上、ゾファルを失神させた……おそらく白虎神拳に類する技、あれは不味い。回復できない現状今までの削り合いを続けてあれで動けない人員がもう一人出たらアウトだ。
ならここでハナを見捨てて短期決戦に出る方が可能性はある。
ただ一発の銃声と一言でそれを皆に伝えると……ハナは、儚げに、でも、感謝の笑みをコーネリアに向ける。
歪虚が地を蹴る。黒曜符の射程を、機敏なこの敵は一気に詰めてきた。封印してもそれまでに使用したスキルは有効だ。真が与えたダメージを上乗せした攻撃がそのままハナに叩き込まれて、その身体が傾ぐ。
苦い思いを噛みしめながら、真は再び、全てを込めた連撃を放つ。透も、苦しい表情でそれに続く。
「さっき死ねば楽になれるとかほざいてたよな? 今も傷が痛むだろう? 苦しいだろう? ならば貴様自身がその苦しみから逃れられるかどうか、実験してみるか?」
怒涛の攻撃にコーネリアが淡々と告げる。が。
「無論だとも! 死が迫るこの段階にこそ余分なものが削ぎ落され、純化した己の想いのみとなるのだから!」
嗤って、それは返して見せた。
……アルマが、この時漸くこの場に到着した。事態はよく分からない。だが、同行したハンターたちが全力で攻撃する、その存在、そして、言葉。
「なんだかそこのお兄さん、面白そうなヒトですー?」
彼は、彼だからこそ。デルタレイの一筋で歪虚を貫きながら。何となく理解する。これは志ある中で一度死を迎えた。そうしてこうなって。
「……救われたかったのはお兄さんです?」
にこ、と笑ってアルマが問いかけたのと、ハナが倒れたのは同時だった──言いたいことの半分も言えぬまま。
歪虚はまだ、消滅していない。
「くっ……!」
真がもう一撃、ここに全力で踏み込む。それはまた、気功で受け止められて──
ギリギリの歪虚は、透に目を向けた。せめて初志は貫徹して立ち去ろうとでも言わんばかりに。
歪虚の指先が伸びる。真はそれに、その身を投げ捨てるようにしてでも割り込んだ。ゾファルを除けばやはり、この場で一番削られていたのは透だ。
刃の如き歪虚ろの指先が真の身体に触れて。
苦痛が。
……来なかった。
「──……すまない」
背後から低く、詫びる声。どうしようもなく真は悟った。闘狩人。何より、そういう人だったと。彼も分かっていて、それでも許容できるのはハナが限界だったんだろう。
力場がねじ曲がり、護るはずだった人の元へと流れていく。真はそれを見送るしかない──自分が敵に転化させた力を?
「……え」
透が呟いた。
(漸く望ンでた舞台に帰れたってのに……せめて無事を祈るくらいは許してくれるよな……トール?)
彼に向かっていく破滅は。突如、彼の内から湧き上がるように溢れてきた力に、半分、弾かれる。
死すら覚悟した威力が透を貫いた後、彼は倒れずにいた。
歪虚は驚いた顔で……そして、そのまま後方に飛びのくように距離を取ろうとする。完全に頭に血が上った真が思わず追いかけようとして……そして、コーネリアがそれを制した。今回は戦闘データを持ち帰るに留めるべきだと。
真は、一つ息を吐いた。そうだ……自分がこの戦いで目標としたのは、全員死なずに帰る事のはずだった。
重体二名を出し、敵は逃がした。それでも、戦友は……いや、護れたといえるのだろうか、この場合。真がようやくゆっくりと視線を向けると、透は胸に手を当てて何か考え込んでいた。
(マテリアルリンク……だよな。今度礼を言わないと……──)
思いながら。
あの時、浮かんだ顔が、なんだか寂しげだったことに、傷とは違う痛みを透は覚えていた。
彼の身につけるそのモノクル、及び機導籠手にはその機能についても由来にいても語るべきことはいくらもあった。が、今言及しておくべきことはこれのみに留めておく。それらの効能もあって、彼の魔法威力は突き抜けている。こと今の依頼が雑魔退治であることを鑑みると──馬鹿げてると言いたくなるほどに。
「……遊んでもすぐじゅってなるです……」
その威力、命を消し去る音としてはあまりにささやかであっけの無い音。だが現実に結果としてそれだけで彼の目の前の雑魔は無に帰した。負のマテリアルの影響を受けた生き物は死後その存在を崩壊させるというプロセスすら必要とせず。
物足りなさそうにアルマは呟く。ここまでの依頼は彼にとって遊びにすらなっていなかった。ただ行って戻るだけの使いと変わらない。
──事態は、そんな折の横で、進行していた。
「頼む、無事でいてくれ……!」
連絡を受けて、鞍馬 真(ka5819)は森の中を全力で駆け抜けている。己の方向感覚を信じ、最短と思われるルートを瞬脚で突き進む。
たどり着いた先に見えたのは負傷する透の姿だった。
瞬間。湧き上がる激情は、手にした槍に込めた。平常心と冷静を言い聞かせる。
(夢を叶え始めたばかりなのに、こんな所で死ぬなんて許さないよ!)
歪虚を牽制するように槍を投擲した。そのまま透の隣に並び立つ。
「……まだ戦えそう?」
「正直、これほど早く来てくれるとは思ってなかったよ」
予測より、透の声は元気だ。真は少しほっとして敵のことを尋ねると、透はこれまでのことを手短に伝えた。
(話を聞く限りいきなり全力で斬るのは不味そうか)
真は愛用の剣は抜かず槍のまま戦うことにした。互いに死角を補うように立ち回る。
「君も受け入れてはみまいかね? 我がブッ殺セラピー」
「……。ハッ、要は迷いの先送りだろう?」
真の反応は、一応のツッコミ返し、程度のつもりだった。
「いいや。むしろ開放にして覚醒だよ。死の瞬間に在るのは己が純然と抱くものそれだけになる。興味は無いか青年。君の空虚の奥に何が残るのかを」
……ざらっと、嫌なところを撫でられた心地がした。が、次いで聞こえた銃声が思考を遮断してくれる。
「おかしな新興宗教の教祖の如き戯言を抜かしおって……まずは貴様自身から楽にしてやる……!」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の到着だった。チィ=ズヴォーもほぼ同じくらいに到達する。
彼女もまた以前の依頼で透に関わったことはある。いささか厄介な男であることは承知しているが、歪虚が現在進行形で脅威を振るっている以上彼の協力を惜しんでいる暇はない。
通信で敵の情報を共有済みのコーネリアは、やはり不用意に高火力は出すべきではないと考えた。前衛が立ちはだかる中、狙撃の位置から時間をかけてマテリアルを収束させていく。粉雪を思わせるオーラが、彼女の周囲に舞い始めた。それらはやがて、銃口へと集まっていく。
胴へと命中したその一撃は、着弾点から氷となって広がって……行くかと思いきや、それらは途中で弾け散った。行動阻害を狙った技はしかし、ある程度の脅威を持つこの歪虚に通じるには強度が足りないようだった。
……冷静に、見込みが低いと認めるや否や、手足を狙う作戦に切り替える。機動力のある相手だ。特定箇所を狙うのは普通に撃つより難易度が上がる上に、知性のある相手には読まれやすくなる。それでも、意識させ技のキレを低下させるという目的ならば機能した。
我慢比べだ。こちらも大きな攻撃には出られない。だが、前衛三人が互いに知己である状態で気を使いながら戦っているため、致命の一撃を貰う事もない。手刀による連撃は避けきれないが、真の毒刃も狙い通り相手の体力を蝕んでいる。
……しかし、だ。
「他の皆は!?」
そろそろ何でも、という頃合いで、真がつい声を上げる。
コーネリアが答えたのは。ゾファル・G・初火(ka4407)とは、トランシーバーで連絡が付いた、というものだった。……その声には、流石に若干の苦みを交えて。
あらかじめ連結通話でも仕込んでいない限り、魔導単伝話とトランシーバーの間に通信互換性は無い。故に状況を訝しんだコーネリアがトランシーバーで改めて連絡した。
それに反応があったのもゾファルのみ。
つまり。
よりによって回復が出来る人間二人ともと連絡が取れない。この状況で。
……いや。
仕方なくは、あるのだろう。
こんな状況はそもそも、想定外、だったのだ。この依頼はただの雑魔退治で、そして、それはこのメンバーであれば何ら問題は無い筈だった。
だから。
(……不用意に接触した、俺のせい、か……)
気付いた時点で近づかず引き返して報告すべきだったか──戻った時には居なくなっていて、そうして別の場所で被害を出していた可能性も勿論、有ったわけだが。
やっぱり、今更言っても仕方ないことを考えながら、思い詰めた顔で透はさらに一歩前に出る。……そうして、そんな彼にも慣れてきている真は常に彼を庇える位置に立つ。
……ゾファルが到着するまでの間、それでも、何とか四人で凌いでいることは出来た。そして、
「てめぇがぶっ殺セラピーならさしずめ俺様ちゃんは頭突きのぶっ殺―ズセラヴィーってとこだな」
遅参に関わらず敵がさほど深手を負っていないことに、ゾファルは何処か陽気ではあった。
バトルジャンキーの彼女にしてみれば雑魚退治にすっかり退屈を持て余していた所にスーパー面白歪虚のご登場と言うところである。
「ふむ、君は……」
「おーおーいいねそのなんだか面倒くさそうな手合い。俺様ちゃん大好物」
歪虚が何か言いかけた、その口上はどうでもよさそうに遮り、腹も減ってるし晩飯にちょうどいい、とゾファルは敵めがけて突っ込んでいく……別に頭突きではなかったが。
「聞いたとこだと、敵ちゃんの性能は『風来縷々』の物理版ってとこカー?」
拳を振り上げる。まさに拳をそのまま巨大化させたような武骨な拳鎚、飛び上がり振り下ろしたそれを目にしたとき、歪虚の瞳に初めて大きな変化が現れた。
「要は受けられ無きゃいいんだろ?」
眼前に迫る瞬間、歪虚が見た拳は更に巨大化して見えたかもしれない。ひたすら攻め気な彼女の自信がそのまま威圧となって歪虚の心を貫き、身体を硬直させる。構えも取らせずに右の拳。そのまま二刀流の要領で左の拳。からの
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
超高速の、乱打!
拳の残像がオーラを象り衝撃波となって後ろの地面すらも抉っていく。おそらく泣いて謝っても殴るのをやめない勢いだろう。歪虚の身体が大きく仰け反る、それはこの戦いで初めて相手にきっちり入った一撃だった。
なおも威圧の影響から復帰できない歪虚を、彼女は更に一歩踏み込んで、足の甲を踏み潰して逃げられないように固定──しようとするが。
「……成程君は迷いがない。しかし私止められるわけにもいかない」
続き発せられる声は。
落ち着き払っていた。
重ねられ、上から力を掛けられる足を、歪虚はまず横に払う。
……普通に考えてやはり、歪虚というのは人間より強靭な存在なのだ。彼女が、ハンターの中でも実力者であるというのは異論はないが。それでも、元ハンターではないかと推測されそこに歪虚としての力が加わった存在を。一人で、スキルの補助などもなく、力のみで抑え込もうというのは厳しかった。
ベクトルの違う、強力な力の流れの上に自ら乗る形になって彼女の身体が崩れる。そこに……歪虚は、これまで見せていた手刀の連撃とは違う構えを見せていた。
拳が。彼女の腹にめり込んで──そして、込められた気功が彼女の意識を飛ばす。焦点の合わない瞳でゾファルはそのまま仰向けに倒れた。起き上がろうとする。動けない。
焦るハンターたちが歪虚に攻撃を仕掛けるが、構わず敵は動けぬゾファルに連撃を叩き込んだ。彼女の身体から高く血飛沫が上がる。
「……何、ですかこの状況!?」
ここで、星野 ハナ(ka5852)がやっとの登場となる。雑魔を一通り退治し終えて、なしのつぶてな現状に違和感を覚えてエクウスで森を駆けまわった、末の。
「君は必要かな。我がブッ殺セラピー」
通信機を持たなかった彼女には何が起きたのかは分からない。ただ、その言葉。そして傷つけられた仲間は即座に認識する。
「歪虚のクセにブッコロとか生意気ですぅ、全ゴロシにしてあげますよぅ」
放った符が五色の光となって降り注ぐ。目のくらむようなその瞬きは……しかし、この歪虚を止めるにはやはり強度が足りない。歪虚は攻撃の手を止めず、再びゾファルの身体が跳ねる。
流石にどうにもならない。チィが彼女の身体を抱え上げてこの場を離脱する。……その辺において戻るというのも出来ず事実上ここで二名の戦線離脱だった。
迷った末、真はここで槍を収め二剣を抜き放った。脱落者が出た以上、これまで通りの削り合いでは押し負ける。全力の連撃……から、アスラトゥーリの追撃!
歪虚が身構えた。真の一撃は歪虚の防御を超えて受け止めた腕を斬り割く、が、やはり、力が相手のその身を巡っていくのを悟る──やはり、金剛不壊も使えたか──覚悟の上だ。避ければいい。そう思ったが。
「アンタの力がなくても通じるものか試してみればいいですぅ」
離れた位置からハナの声がした。符が黒い輝きを帯び歪虚の力を抑え込んでいく。……が。その代償。それは、いくら何でも。
「透さんは来るなですよぉ!」
そうして。
先んじて、ハナは叫んだ。
「……役者が無駄に傷作ってどうするんですぅ! これ以上玉のお肌に傷つけるならぁ、ぺろぺろはぁはぁくんかくんか付きのセクハラヒーリングしますからねぇ! 嫌なら怪我は最小限且つ見えない所オンリーにして下さいぃ!」
それは。
間違っているとも言えないが、本来なら、今この場で言えた義理ではないのだろう。そして透は本来、それでも、目の前の無謀を見過ごせる性質ではない。……本来なら。
冗談のつもりで用意していたのだろう言葉は、しかし今は必死さを誤魔化すための物だった。浮かぶ苦悩、後悔が、透に下手に彼女を庇うことを躊躇わせる。つまりこれは、彼女の落とし前なのだろうから。
でも……でも、それは結局、つまり。
「は……ははははは! 生きるのはかくも辛いなあ、青年!」
歪虚が、勝ち誇ったように笑い声を上げる。ハナが睨み付ける先で、それは続ける。
「女性よ。君が投げかけているものがどういうことか分かるかね。『身体を見捨てるか心を踏みにじるか選べ』だよ」
……そんな。
そんなつもりじゃなかったし、筈じゃなかった。
こうなったのはただ──単純にして致命なミス、それだけの、事。だった、のに。
こんな。こいつは。ただの馬鹿げた手合いじゃないのか。
決断は。
銃声が、させた。
「呆けてる暇があるか。今こそ総力で攻撃だ。それしかない」
コーネリア。この場において彼女は自分が成すべき役割として、極めて冷徹に状況を分析した。脱落者が出た上、ゾファルを失神させた……おそらく白虎神拳に類する技、あれは不味い。回復できない現状今までの削り合いを続けてあれで動けない人員がもう一人出たらアウトだ。
ならここでハナを見捨てて短期決戦に出る方が可能性はある。
ただ一発の銃声と一言でそれを皆に伝えると……ハナは、儚げに、でも、感謝の笑みをコーネリアに向ける。
歪虚が地を蹴る。黒曜符の射程を、機敏なこの敵は一気に詰めてきた。封印してもそれまでに使用したスキルは有効だ。真が与えたダメージを上乗せした攻撃がそのままハナに叩き込まれて、その身体が傾ぐ。
苦い思いを噛みしめながら、真は再び、全てを込めた連撃を放つ。透も、苦しい表情でそれに続く。
「さっき死ねば楽になれるとかほざいてたよな? 今も傷が痛むだろう? 苦しいだろう? ならば貴様自身がその苦しみから逃れられるかどうか、実験してみるか?」
怒涛の攻撃にコーネリアが淡々と告げる。が。
「無論だとも! 死が迫るこの段階にこそ余分なものが削ぎ落され、純化した己の想いのみとなるのだから!」
嗤って、それは返して見せた。
……アルマが、この時漸くこの場に到着した。事態はよく分からない。だが、同行したハンターたちが全力で攻撃する、その存在、そして、言葉。
「なんだかそこのお兄さん、面白そうなヒトですー?」
彼は、彼だからこそ。デルタレイの一筋で歪虚を貫きながら。何となく理解する。これは志ある中で一度死を迎えた。そうしてこうなって。
「……救われたかったのはお兄さんです?」
にこ、と笑ってアルマが問いかけたのと、ハナが倒れたのは同時だった──言いたいことの半分も言えぬまま。
歪虚はまだ、消滅していない。
「くっ……!」
真がもう一撃、ここに全力で踏み込む。それはまた、気功で受け止められて──
ギリギリの歪虚は、透に目を向けた。せめて初志は貫徹して立ち去ろうとでも言わんばかりに。
歪虚の指先が伸びる。真はそれに、その身を投げ捨てるようにしてでも割り込んだ。ゾファルを除けばやはり、この場で一番削られていたのは透だ。
刃の如き歪虚ろの指先が真の身体に触れて。
苦痛が。
……来なかった。
「──……すまない」
背後から低く、詫びる声。どうしようもなく真は悟った。闘狩人。何より、そういう人だったと。彼も分かっていて、それでも許容できるのはハナが限界だったんだろう。
力場がねじ曲がり、護るはずだった人の元へと流れていく。真はそれを見送るしかない──自分が敵に転化させた力を?
「……え」
透が呟いた。
(漸く望ンでた舞台に帰れたってのに……せめて無事を祈るくらいは許してくれるよな……トール?)
彼に向かっていく破滅は。突如、彼の内から湧き上がるように溢れてきた力に、半分、弾かれる。
死すら覚悟した威力が透を貫いた後、彼は倒れずにいた。
歪虚は驚いた顔で……そして、そのまま後方に飛びのくように距離を取ろうとする。完全に頭に血が上った真が思わず追いかけようとして……そして、コーネリアがそれを制した。今回は戦闘データを持ち帰るに留めるべきだと。
真は、一つ息を吐いた。そうだ……自分がこの戦いで目標としたのは、全員死なずに帰る事のはずだった。
重体二名を出し、敵は逃がした。それでも、戦友は……いや、護れたといえるのだろうか、この場合。真がようやくゆっくりと視線を向けると、透は胸に手を当てて何か考え込んでいた。
(マテリアルリンク……だよな。今度礼を言わないと……──)
思いながら。
あの時、浮かんだ顔が、なんだか寂しげだったことに、傷とは違う痛みを透は覚えていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/06/04 22:48:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/04 22:45:39 |