心、響かせて 1

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/13 07:30
完成日
2018/06/20 16:02

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 彼女はきらきらしていた。
 太陽よりも鮮やかに、世界の中で輝いていた。
「ねえ、僕もあの人みたいになれるかなあ」
 当時、僕はすでに合唱団に所属していたけれど、熱心には取り組んでいなかった。
 けれど、この日から僕は変わった。
 真面目に歌に向き合って、もっと上手くなろうとした。
 もっと広い音域が出せるよう訓練した。
 幸い、僕の声はとてもきれいだと島では評判だった。
 でも、ああ、でも。
 あれが全てを奪っていったんだ。
 いや、思えばあれが真のはじまりだ。
 僕は生まれ変わった。歪虚として。
 だから──、もう一度、歌を響かせよう。

●まずは帝国歌舞音曲部隊の一室にて
「アイドルをはじめましょう!」
 アラベラ・クララ(kz0250)の声が響き渡った。
「えーと、一体なんです?」
 帝国歌舞音曲部隊長クレーネウス・フェーデルバール兵長が困惑を隠さず、闖入者アラベラに問いかける。
「アイドルをはじめるのです! さあ、すぐに、いますぐに!」
「いや、そうは言いましても、ライブをするにも段取りが……」
「妾が言っているのはそのようなことではありません」
 クレーネウスの言葉を斬り捨てるようにアラベラは言った。
 そして、部屋のとあるデスクで仕事をしているひとりの少女グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)の前にアラベラは立ちはだかった。
「もう一度歌いましょう、グリューエリン!」
「……」
 グリューエリンは緑色の宝石のような瞳で、静かにアラベラを見据えた。
「仕事中です。出ていってください」
「君は軍属アイドルでしょう? 歌ったり踊ったりするのが仕事のはずです」
「今は違うんです」
「ねえ、グリューエリン。どうして歌わなくなってしまったのです?」
 アラベラは真っ直ぐな言葉でグリューエリンに問いかけた。

 約2年半前、ある戦いがあった。
 そこに駆り出されたのが帝国のアイドル、グリューエリンとブレンネ・シュネートライベン(kz0145)だった。
 彼女達は戦場で歌を歌い、兵士を鼓舞した。
 結果……兵士たちは戦場で多大なる傷を負った。
 歌で鼓舞することで、ある種盲目的なまでに兵士を戦場へと駆り立ててしまったのだ。
 死んでしまった兵士がいた。もう元には戻らない傷を負った兵士がいた。
 そして、グリューエリンは歌にそんな恐ろしい力があるなんて、その時まで思ってもみなかった。
 歌のせいで、人を傷つけてしまった。歌で人が傷つくなんて思ってもみなかった。
 それ以来、グリューエリンは自分が歌うことに疑問を抱くようになった。
「私、歌って良いの?」
「私なんかが歌って良いの?」
「人を傷つけた私の歌を、響かせて良いの?」
 それでもライブを続けていたけれど、そんな疑いを抱いた状態ではパフォーマンスも冴え渡らず、次第に客は減っていった。
 そして、約1年前グリューエリンは歌うのを、やめた。

「それがどうしたというのです」
 しかし、アラベラは事情を知ってなお、そんなことは歯牙にも掛けず言ってのけた。
「歌いたいなら、歌えばいいのです」
「……私のような人間は歌うべきではなかったんです」
「でも、まだ君はアイドルをやめてはいないのでしょう?」
 歌わなくなっても、グリューエリンはまだ軍属アイドルだった。
「じゃあ、歌いましょう。もちろん妾も一緒に歌います」
「帰ってください!」
 硝子細工のように繊細なグリューエリンの声が怒号となって一室に響いた。
「私は歌うべきではなかったのです」
「じゃあ、どうしてまだアイドルの肩書きを持っているのです」
「それは……」
 逃げたくない。ただそれだけの理由だった。グリューエリンはまだアイドルを捨て去ることは出来なかった。けれど……。
「アラベラ殿には関係のないことです」
「そうですか。じゃ、そこのクレーネウスとか言いましたね。妾と一緒にアイドル活動をしましょう」
「……いえ、お断りします」
 クレーネウスは悲痛な瞳でグリューエリンを見てから言った。
「我々はあくまで帝国歌舞音曲部隊……軍人です。この所属アイドルが歌いたくないと言っているのなら、我々にも無理強いは出来ませんし、英霊とはいえ軍人ではないあなたの補佐をすることもできません」
「なんだか、難しい問題……いえ、問題を難しくしている感がありますね。歌いたいなら歌えばいいじゃないですか」
 やはりアラベラはそんな悩みなぞ痛痒しないというように言う。
「貴女にはわからないんです」
 そこへ、グリューエリンの振り絞るような、かすれた声が聞こえた。
「華やかな伝承に彩られた貴女には、私の悩みなんてわからないんです」

●続いてハンターオフィスにて
「と、いうわけなんです」
 やってくるなり、アラベラはグリューエリンとのことを説明した。
「妾としては、彼女たちが活動を再開しない限りアイドルになることは難しいようなので、ぜひ帝国歌舞音曲部隊の再開させたいのです。しかし、そのためにはグリューエリンという少女の悩みを解決しなければならないようです」
 そしてアラベラは腕を組んで考え始めた。
「歌いたいなら歌えばいいのに、何を悩んでいるのでしょうか?」
 絶火の騎士アラベラ・クララは行きたいように生き、好きなように振る舞い、やりたいことだけやって死んだ。彼女の生涯に悩みも悔いもなかった。
 そして英霊になってから自分にアイドルの適正があるかどうかについて少しは悩んだが、それも瞬間的に解決してしまった。
 だから、グリューエリンのように長い間悩み苦しむものの気持ちは、アラベラにはわからないのだ。
「アイドルとは人に勇気や夢を与える存在だと聞きました。でも、妾の言葉はグリューエリンには届かない。妾は彼女に対しどうすればいいかわからない。ですから、あなたたちハンターに助けて欲しいのです」
 そう言ってアラベラは頭を下げた。
「苦悩する美少女というのも絵になりますが、今回のはよろしくありません。どうか、よろしくお願いします」
 アラベラはアラベラなりに、グリューエリンのことを心配しているのであった。

リプレイ本文

「皆様……」
 グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)が、帝国歌舞音曲部隊のための一室を訪れたハンター達に声をかける。
「エリンちゃん、久しぶり」
 キヅカ・リク(ka0038)が片手をあげて挨拶した。
「失礼ですが、ここでグリューエリン様のためにお茶会を開いても……?」
 キヅカの後ろにいたユメリア(ka7010)が、クレーネウス・フェーデルバールに提案した。
「もちろんです」
 クレーネウスは部下達に指示して、お茶会を開くためのスペースを設けさせる。
 そんなクレーネウスにフューリト・クローバー(ka7146)が声を掛ける。
「兵長さんー、今まで病院への慰問とかしたー?」
「いえ、特には……」
「そっか。ありがとー」
 それを聞くと、フューリトはアラベラ・クララ(kz0250)の方へ駆け寄った。
 グリューエリンはハンターとともにやってきたアラベラを見ていた。しかしその視線をキヅカが遮る。
「エリンちゃん、ふたりだけで話せないかな?」


 キヅカとグリューエリンは部屋の片隅で椅子に座り向かい合った。
「アラベラさんっていい人だよね」
「そう……でしょうか」
「エリンちゃん、これを聴いて欲しいんだ」
 キヅカが取り出したのは蓄音機だ。
 それを再生すると、流れ出したのはアラベラの声。それはハンターオフィスで録音された、今回の依頼をハンター達に告げる時のものだ。
「アラベラさんもアラベラさんなりにエリンちゃんを心配しているんだよ」
 そして、キヅカは切り出した。
 4年前、はじめて彼らが出会ったときのこと。
 下水道を浄化するために歌を歌ったこと。
「最初はどうしようかと思ったよ。……なんだっけ、こんな感じだっけ」
 そうして、キヅカはその時のメロディーを歌い出した……が、ころり、と転ぶように音を外してしまった。
 それを聴いて、グリューエリンは柔らかく笑い。
「確か、あの時のメロディーはこうでしたわね」
 とキヅカの声と重なるように、メロディーを紡ぎ出した。
 しかし、ふとグリューエリンは『あの戦場』を思い出したのであろう。急に歌うのをやめてしまった。
「……闇光作戦、僕も参加してたんだ。色んな所で闘って、護れなかった。傷つけた」
 偶に思う、とキヅカは言う。
 また誰かを護れなかったら、と。
 でも。
「僕は今も戦ってる。それは……こんな僕でも護れたものがあったから。何より今、生きているから」
「生きている……?」
「そうなんだ。この世界は残酷で、そこははっきりしている。僕は、僕達は生きている。そして、その権利を行使するかは自分次第。エリンちゃん、だけど、このことだけは覚えていて」
 そこでキヅカは言葉を区切った。
「君の歌、“良かったよ”」


「アラベラさんが話ややこしくしたよねー」
「ものの見事に地雷踏んだみたいじゃない」
 フューリトは笑顔で、クリス・クロフォード(ka3628)はやれやれと言った感じでアラベラ・クララに言った。
 アラベラは顎に指を当てて自分の言動を振り返っていた。
「だいたいさ、アラベラさん、グリューさんの話聞いてないじゃん。それがどうしたとかさ、理解する気ゼロじゃん。話しても無駄って解るー」
「なるほど。そういうものですか」
 フューリトの口調は柔らかいが、言葉は鋭い。
 しかし、それらを浴びてなお、アラベラは涼しい顔をしていた。
「ふーん、気分悪くしないんだ?」
「妾はアラベラ・クララですよ? 賞賛も羨望も嫉妬に罵声、そして嫌悪だって、妾に向けられる感情はいかなるものでも歓迎こそすれ、気分を悪くすることなんてありませんわ」
「まー、すごい英霊だけあるってかんじだねー」
 フューリトはそのアラベラの言葉ものんびりと受け止め、話の本題に入った。
「問題にしてる箇所違うよねー。歌った後の結果を問題にしてるグリューさんに歌うって行動の話してもねぇ。この差大きいよー?」
「時間がかかるのは間違いないわ。無理に誘えば逆効果」
 クリスがアラベラに諭すように言う。
「だから、あの子が自分で歌いたいって言い出すまで、待ってあげてくれないかしら……でなきゃ、きっとつまらないわよ?」


「久しぶり!」
 にっこり笑って、時音 ざくろ(ka1250)が言った。
「最近あんまり話し聞かないから、少し心配になって……最近はどう?」
「ざくろ殿、ご心配おかけして申し訳ありませんわ。私は……その」
「じゃあ、ざくろの話、してもいいかな?」
 長い黒髪を揺らして、ざくろが提案する。
「ざくろも最近アイドル活動は全然で……そういう依頼がないのもあるし、仲間達と一緒に冒険をしてるのが楽しくて……でも、嬉しい事があったりすると歌を口ずさんだりはしてるよ」
 グリューエリンはざくろの歌う姿を想像して、微笑んだ。
「……あっ、ごめんね、そのひとつだけ聞いても良い?」
 しかし、ざくろは、少し気まずげに、頬をかきながら言葉を紡ぐ。
「自分には資格があるとか別にして、歌を歌う事嫌いになっちゃったかな?」
「……もし嫌いになっていたら、こんなに悩まないと思うのです」
「……うん、そうだね。好きだから悩むんだ」
「私は歌が好き、なのでしょうか?」
 グリューエリンの第一目標はあくまで家名復興だ。アイドルとしてスカウトされて歌ってきた。必要だから歌ってきた、とも言えなくない。
「私……私がわかりません。でも歌うことを手放しちゃいけない気がするんです」
 本当にどうでもいいことなら、悩んだりしない。何らかの感情を抱いたりなんてしないのだから。
「それが今の気持ちなんだね。もし、グリューエリンが歌うことにどんな感情を抱いているとしても、ざくろは今でも、グリューエリンの歌大好きだよ」
 蕾がほころぶような微笑で、ざくろは言った。


「久しぶりね、元気してた?」
 少女のような顔と格好をした少年、クリスがグリューエリンに声を掛ける。
「話は聞いたわ。大変だったみたいね」
 2年半前の戦場で、グリューエリンは心に傷を負った。
「歌う気ないならないでいいんじゃないかしら。やりたくないものやらされたって……ねぇ?」
 そう言いつつも、クリスは彼女の反応を見る。
 グリューエリンは、「私は……」と言ったきり、言葉を失ってしまった。
 これを見て、クリスは見込みありと判断し、真面目な調子で話を変えた。
「で、私思うわけよ。2年以上悶々としてるものを今すぐ受け入れろとは言わないわ。それだけ重要なことなんだし。ただし、これだけは覚えておきなさい」
 クリスは、グリューエリンの胸に刻み付けるように、言った。
「錬魔院のアホが仕組んだことだとしても、アンタの歌で傷ついた人も、死んだ人もいる。それは事実よ。どんなに時間かかっても受け入れるしかない」
 グリューエリンの脳裏に蘇るあの日の戦場の惨状。
「だけど、当然その逆もあるわ」
 クリスはここで声を和らげて、話を続けた。
「グリューエリン、あなたの歌に勇気をもらった人、癒された人もいる」
「私の歌で……?」
「そうよ。東方で何が出来たか、それを思い出して」
 かつて慰問に行った地での思い出。グリューエリンの頭の中で、戦場の記憶とそれが拮抗していた。
「グリューエリン、あなたはマイナスの面ばかり見ている。確かにそれは無視してはいけないでしょう。けれど、プラスの面も確かにあったはず。それを忘れちゃダメよ。どっちも、受け入れるしか、ないのよ」
 いままで、戦場の思い出だけを抱えて生きていた。けれど、この時、グリューエリンは、ようやく自分の歌で笑顔になった人たちのことを思い出せた。
「こんな大事なことを、忘れていたなんて……」
 グリューエリンの緑の瞳から、透明な涙が溢れ出した。
 クリスは彼女の肩にそっと手を添えてやる。
「……歌は好き? 自分が歌うかどうかは別にして、歌そのものがってことなんだけど」
「嫌いになれるはずありません。歌が私達を繋いでくれたんですから」
「そっか。そうだよね。……今は思う存分泣いていいよ。そばにいてあげるからさ」


 グリューエリンが泣き止んだ頃、お茶会の準備ができた。
 ハンター達が席に着く。
 まず口火を切ったのはフューリトだ。
「ねー、帝国軍って戦えなくなった人に興味ないの? ごめんなさいを言うの放置してない? そこからじゃなーい? 病院への慰問とか、してないんだよね?」
 フューリトは言う。アイドルとしてまた歌うことより人として辛くても責任感じることに向き合えるお手伝いが先だ、と。
「でも……、私が私たちがしたことは謝って済むものじゃありません」
「違うよ、グリューさん。自分が悪いと思うから謝るんだよ。許される為とかそういうのナシ。……僕は聴いてくれてありがとうって言われた方がうれしーけどねー」
 怖い、グリューエリンはそう思った。かつて傷つけてしまった人たちの前に出ることが怖い。
 それでも、フューリトの言う通りだと思った。
「私、やってみますわ」
 震える体を抑えて、グリューエリンはそう、口にした。
「きっと大丈夫だよ。それに歌いたくなったら歌えばいいよー。心から伝えたい想いを歌いたくなった時自分を否定しなければいーんじゃない?」
「……グリューエリン様」
 続いて静かに切り出したのはユメリアだ。
「時に刃となり、時に薬にもなる。グリューエリン様、あなたは歌に備わる力の両面を知ったのです。様々な経験を経たあなたの歌は、誰よりも心に響くでしょう」
 ユメリアは吟遊詩人だ。悲しい結末を迎えることも多かったが、それでもヒトの力によって幸せな結末を起こすことができると信じて、歌い、旅を続けている。
「私も歌の恐ろしさと空しさを感じることがあります。歌は人を縛り、そして虚ろにさせる。歌うことは欺瞞を広げるばかりと思うこともありました。でもその歌が救いとなる人もいるのは事実です。私もまた……歌を聴けて良かった、心動かされた。そんな人の為に私は今日も歌っています。」
「……貴女様もまた、悩みながら歌う者のひとりなのですね」
 つまり、この言葉は、グリューエリン自身もまた悩みを抱きながらも歌うことに向き合うという決意の言葉だった。
 それを察したユメリアは微笑をたたえて、リュートを取り出した。
 そして、苦しみを分かち合うことで軽く、喜びは分かち合うことで増えるような、静かでありながら力強い、歌を歌った。
「グリューエリン様、今日集まった方々をご覧ください。在りし日の、あなたの輝いた姿を見て、集まっているのですよ」
 あなたの行いは無駄ではないと、ユメリアは述べるのだった。


「つまり、ここで仕切り直しってことだ」
 椅子に偉そうに座ったデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が言った。
「グリりん、オメーさんはこの俺様がプロデュースするアイドルだ。つまり、波乱万丈じゃなくちゃいけねぇし、生半可な馴れ合いをしてもらっちゃ困る。そこのアラベラとは夕焼け眩しい河原でガチンコの殴り合いをするくらいじゃねぇとダメだ」
「「そうなんですの?」」
 グリューエリンとアラベラが同時に疑問を口にした。
 デスドクロは鷹揚に頷いた。
「グリりん、最近はライブもしてねぇみてぇじゃねぇか」
 グリューエリンは約1年前から歌うことをやめていた。
「ライブ以外でも、歌っていねぇのか? ……ま、それは聞いてみりゃ即座にわかる」
 そしてデスドクロはギター「ジャガーノート」を取り出した。
「軽くレッスンしようや」
「歌を歌う、のですか……?」
「レッスンだからな。でも、レッスンだからこそ、客もいらなきゃ、聞きかせる相手も必要ねぇ。誰かの為じゃなく、自分の為ですらなく、ただシンプルに技術の向上を目指す目的の声出しだ」
 軽く、弦の調律をすると、デスドクロは早速定番の一曲を奏ではじめた。
「でも……でも、私……」
「言っただろ、今回はただのレッスンだ。体を整えるためのもんだ。難しいこと考えずに声出してみな」
 室内に響き渡るギターの旋律は、声の到来を待っている。
 しかし、グリューエリンが歌わないのを見ると、デスドクロは一旦ギターを止めた。
「なあ、グリりん。まだ歌うことに目的なんざもたせなくて構わねぇ。鳥が囀るのと一緒で、歌はただの会話だ」
「会話、ですか?」
「そうだ。深い意味も意義も必要ねぇ。ただ、今のグリりんの声を聞かせてくれや」
 今までのグリューエリンだったら、断っただろう。けれど、キヅカの、ざくろの、クリスの、フューリトの、ユメリアの言葉を聞いて少しだけれど変わりつつあった。
「そういうことなら……やってみますわ」
「よし、もう一度行くぞ」
 再びデスドクロがギターを鳴らす。
 その旋律にグリューエリンの声が重なった。
 震えている、怯えている。でも必死に鳴こうとしているカナリヤのような、か細い声だった。
「なるほど、レッスン、サボってたなグリりん」
「すみません。どうしても怖かったんです……」
「まあいい。これから歌うつもりがあるなら、調律するためだと思って歌ってみな。何にも考える必要はねぇ。ただ、歌うんだ」
「ありがとう存じます、デスドクロ殿。人前で歌うことは難しくても、それならできそうです……やってみますわ」


 さて、こうしてハンター達の話は一通り終わった。
 あとはゆっくりお茶の時間。グリューエリンはクッキーをひとつつまみ上げ、口へ運んだ。
 その様をフューリトがにまにまして見ていた。
「実はねグリューさん。そのクッキー、アラベラさんが作ったんだよー」
 アラベラはふふん、と自信ありげに笑い、胸を張った。
「やっぱ、仲良くなるためにはお菓子だって思ったから作ってもらったんだー」
「どうです、グリューエリン、美味しいですか!?」
「ええ……美味しゅうございます」
「……」
「……」
「アラベラ殿……」「グリューエリン?」
 ふたりの言葉がぶつかった。しかし、グリューエリンがアラベラに先を促した。
「ごめんなさい、グリューエリン。君には悪いことをしました」
 出会い頭に、歌うことを求めたことを、アラベラは謝ったのだ。
「フューリトも言っていたでしょう? 悪いと思ったら謝るのだと。妾、自分の行いに後悔はありませんが、善悪の観念が全くないわけでもありません。君の気持ちも考えず強引なことをしてしまいましたわ。本当にごめんなさい」
 アラベラは深々と頭を下げた。
「頭を上げてくださいアラベラ殿」
 グリューエリンが今度は言った。
「私ひとりではずっと暗闇の中にいたに違いありません。けれど、アラベラ殿がこうして皆様を呼んでくださったから、私は、まだ、ここにいられそうです」
 グリューエリンは緑色の瞳に新たなる決意の色がにじんでいる。
「私は──もう、逃げません」
 過去からも、未来からも。
 かくして、グリューエリンは覚悟を決めたのであった。
 

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参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォード(ka3628
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • 寝る子は育つ!
    フューリト・クローバー(ka7146
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/08 22:08:55
アイコン 心の傷を乗り越えて[相談卓]
ユメリア(ka7010
エルフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/12 21:45:03