• 羽冠

【羽冠】絶望の世界

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/13 19:00
完成日
2018/06/17 19:43

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●傲慢襲来
 王都内に傲慢歪虚が多数出現。多くの市民が犠牲になっていると通報が入り、紡伎 希(kz0174)も魔導剣弓を手に出撃した。
 機導師としての力で支部との連絡を取りながら、市民を救い、衛兵らをフォローする。
「……そちらの地区から再び歪虚が出現ですか!? 分かりました。急行します」
 支部からの連絡によると、一度、傲慢歪虚を倒した地区に再び傲慢歪虚が現れたらしい。
 時間差で敵が現れる……その理由を希は解らなかった。
 だが、やらなければならない事は変わらない。傲慢歪虚を倒し、多くの人々を守る事だ。
 近道である細い路地を駆け抜けていたその時だった。
「負のマテリアル?」
 路地の交差点で希は“それ”に気が付いた。
 立ち止まって見上げると、四角い立札が、壁に垂直に立っているのだ。
 立札に書かれていた文字に希は見覚えがあった。
「あれが……傲慢歪虚を出現させている立札!」
 魔導剣弓の機構を作動させ、弓状態にすると、素早く矢を番える。
 狙いをつけるよりも早く、立札が壁から外れて落下した。落下しながら、それは、幼い少女の姿となる。
「見つかっちゃった。お姉さん、王都には来ない方が良いって言ったのに」
「……この前、林の中で出会った時と比べて、負のマテリアルが強くない……まさか……」
「そう。分体だよ。全てはイヴ様の為に、ね」
 幼女が笑顔を向ける。
 無邪気な笑顔だ。それなのに、傲慢歪虚を出現させてくるのだ。
「なぜ、こんな事をするのですか? 多くの人々を苦しませて」
 油断なく矢を番えたまま、希は言った。
 ここで倒しておかなければいけない。一方、幼女は首を傾げた。
「だって、何度も絶望して苦しむより、一回だけで良いんだよ」
「人は何度だって、希望を持てるのです」
「そして、何度も絶望するんだよね! だから、イヴ様じゃないといけない。イヴ様なら、歪虚も人も、導いてくれる!」
 踊るように跳ねる幼女がそう告げると、次の瞬間、唐突に消え去った。
 恐らく、瞬間移動したのだろう。
「私は何を……」
 静かに魔導剣弓を降ろす。
 折角の討伐の機会を失ったのだ。あの分体が新たな傲慢歪虚を出現させる前に、ハンター達や騎士によって討伐される事を祈るしかない。
 通信機から応援を呼ぶ声が聞こえ、希は首を振って気持ちを入れ替えると、路地へと消えて行った。

●リゼリオにて
 “ミュール”というキーワードをハンター達が調べ、色々と分かってきた事があった。
 まず、王国騎士や有名人ではないという事。
 次に、少なくとも最近の時代ではないという事。
 そして、閉鎖的な地方によっては、混血の子や取り換え児の存在も迫害の対象になる場合もあり、雄のロバと雌のウマの混血になぞらえて、ミュールと呼ぶ地方もあるらしい事。
「これらの情報に、私が目撃した少女の姿もキーワードに加えて、神霊樹ネットワークで該当する記録がないか探してみました」
 希の傍にはぐったりとしたパルムが幾体か転がっている。
 記録捜しを手伝ったのか、はたまた、単なる昼寝なのかは分からないが……。
「今回は神霊樹ネットワークのライブラリにアクセスしたいと思います」
 ハンター達が“飛ぶ”過去は、現代からおおよそ、数百年以上前の事だという。
 正確な年代や場所が不明という記憶としては断片的だが、だからこそ、何かあるのではないかと希は思っている。
「記録が完全ではないのは、現地で何かあったとしか思えないのです。それも分かれば、何か手掛かりになるかもしれません」
 ミュールなる人物の詳細を調べるにはこの方法以外、困難だろう。
 人物像が分かれば、今後の事件も追いやすくなる可能性はあるし、何か弱点なども見つかるかもしれない。
「私はここで皆様のフォローを致しますので、よろしくお願い致します」
 そう言って、希は床に転がっているパルムを無慈悲にも叩き起こしていくのであった。

 ライブラリにアクセスしたハンター達は、とある村へと降り立った。
 まず、目に入ってきたのは周囲の異様な光景だった。どこまでも続くはずの風景は空間が崩れて漆黒の世界となっていたのだ。
 『記録が断片的』というのはこういう事なのだろう。
「やぁ、旅人さんかい。珍しい。何もない村だがゆっくりしていってくれ」
 農作業から帰って来た農民が話し掛けてきた。
 根菜類が沢山入った籠を背負っている。
「そうだ。この村には宿は無いから、泊まるんなら、早めに決めた方がいい」
 農民はハンター達にそう告げると籠を背負い直した。
「残念ながら、俺の家は無理だ。いやよ、歓迎してやりたい所だが……家が狭いからよ」
 苦笑を浮かべて農民は立ち去っていった。
 ハンター達はお互いの顔を見合わす。とりあえず、まずは何をすべきだろうか……アクセスしている時間制限の為、少なくとも、宿を探す必要はなさそうではあるが――。

リプレイ本文


 アティニュス(ka4735)は、目的の村ではなく、周囲の地形を一人で確認していた。
 村の周辺自体は荒地であった。村の傍を通る川はあるが、水量は多くないようにも見える。
(まさか、もっと昔だとは思いませんでした……果たして、今は『何時』なのでしょうか)
 彼女の目に映る風景は不可思議の一言であった。遠くの風景は、まるで、ガラスが割れたようになっており、ヒビも見える。
 割れた箇所は漆黒の闇となっていた。これはライブラリに残された記録が不完全だったり、なんらかの事情によるものという。
(一夜にして滅びた、という割に情報がなさすぎますからね……)
 その『情報』を持ち帰った人物がいるのだろうか。
 あるいは、この『記録』自体、ライブラリが自作した空想なのか。
 村の周辺では、これ以上の情報は、今は集められないと思い、アティニュスは村へ向かう事にした。
 きっと今頃、“仲間達”が村に入って情報を集めている所だろうから。

 ハンター達は村長の屋敷に集まっていた。目的は村での滞在許可を貰う為だ。
「旅の疲れを少し癒させて欲しい」
 そう告げたのはヴァイス(ka0364)だった。
 恰幅が良い体形をしている村長は笑みを浮かべる。
「どうぞ、旅の巫女様とあらば、我らも断る理由はありません」
「ありがとうございます」
 丁寧に頭を下げる巫女――Uisca Amhran(ka0754)――は内心、ホッとしていた。
 これで、打ち合わせ通り、村の中で情報収集できるだろうから。
 そこへお茶を持ってきたのは、年配の女性であった。
「よろしければ、外の世界の事。息子に教えてやって下さい」
 その口ぶりから、どうやら村長の母親のようだ。
 表情はにこやかだが、どことなく厳しい目をしている。厳格というべきか。
「そうですね。話も長くなるので、せめて、巫女様だけでもここに泊まれませんか?」
 ヴァイスの何気ない言葉に、村長とその母親の表情が強張った。
 だが、それも一瞬の事。申し訳なさそうに村長が頭を下げる。
「申し訳ない。ちょうど、他にも親戚が滞在しておりまして、部屋に空きがないのです。村の中で探して頂ければと」
「大丈夫ですよ、村長さん」
「いや、本当に申し訳ない」
 その視線は巫女と同行していたエルフ――アイシュリング(ka2787)――にも向けられる。
 アイシュリングは巫女が旅の途中に保護した記憶喪失のはぐれエルフという設定だからだ。
「広場で……泊まらせて頂ける方を……探してもよろしいですか?」
「勿論です。こういうご時世ですから、村人らの悩みも聞いて頂けると、助かります」
「それでは、行きましょうか。巫女様」
 荷物を持って鳳城 錬介(ka6053)が立ち上がる。
 錬介もヴァイス同様、巫女の護衛役という立場だ。村長も立ち上がるとハンター達に言った。
「村には酒場もありますから、もし、泊まる場所が見つからなかったら、そこで一晩過ごせるかもしれません」
 その場合、朝まで飲み続ける事になりそうだが。
 部屋から立ち去る間際、部屋の隅に遊戯盤が置いてあるのをUiscaは見かけた。
 駒の形はチェスではない……それだけは確認が出来た。


 村の広場でUiscaは巫女としての力を使っていた。占いや浄化、回復などを行う。
「旅の者の方が話しやすい事もあると思ったのですが……思った以上に、皆さん、普通ですね」
 一息ついた所で、Uiscaはそんな感想を口にした。
 村人らに特に変わったところはみられない。ミュールと名乗った少女と似た少女もいなかった。
「俺の方でも少女の姿を探しましたが……」
 錬介もまた聞き取りや広場を観察していた。
 この村の人口はそれほど多くない。たまたま広場には居なかった可能性もあるが。
「それにしても、ここはどこでしょうかね。西方諸国のどこかまでは分かりましたが」
「辺境より南側なのは確実だと思います。建物の作り的に東方でない……それなのに、海が東側という事は」
 それらは錬介が聞き取った内容だった。
 ちなみに、次の村までは徒歩で数日掛かるという。
「歪虚や野党も多いという話ですし……そういえば、アティニュスさんの方は何か分かりましたか?」
 村の周囲を調べていたアティニュスも情報収集の為、村の中に入っていた。
 アティニュスは食料品などの調達がてら、聞き取りを行っていたのだ。特に行商からは情報が得られやすいと踏んでいた。
「遠くにエルスという街があるという事は分かりましたが、この村の名前には聞き覚えはありませんでした」
「やっぱり、そうですか……」
「それに、この似顔絵の少女も知っている人はいませんでしたね」
 紙に描かれていたのはミュールだった。だが、村人の中に知っている人は居なかった。
「ただ、興味深い事を答えた人は居ました。『昔、面影がある人を見た気がする』と……」
 アティニュスの言葉にUiscaが首を傾げる。
「面影……ですか」
「少女の絵で面影……ますます、謎が深まりましたね」
 苦笑を浮かべる錬介であった。

 ヴァイスとアイシュリングの二人は仲間達よりも一足早く酒場に来ていた。
「これは良い酒だな。初めて見る銘柄だが、素晴らしい!」
 カウンターでドワーフの店主が試飲しながら叫んだ。背にはドワーフ面したパルムが乗っている。
 買い取って貰えないかとヴァイスが持参した酒だった。
「気に入ったなら安値で譲るが」
「いやいや、これほど旨い酒だ。遠慮せず、受け取れ。あぁ、なんだったら、宿を探しているといったな。ホールで良ければ幾らだって泊まってもいい」
 硬貨を渡しながらドワーフ店主が豪快な笑顔を見せた。
 ヴァイスが受け取った硬貨は初めて見るものだった。少なくとも、現在、王国で流通しているものではない。
「記憶喪失のエルフの娘が居ても、儂は気にせんからな」
 店主がアイシュリングの前に果実で味付けした飲み物を出す。
 それを受け取りながら彼女は尋ねた。
「今はいつ、何月何日……?」
「なんじゃい。そんなのも分からんのか、今はの――」
 店主から告げられた年号も年月日の名前も初めて聞いたものだった。
 今の王国歴とは数え方が違う、この地方独特のものかもしれない。
 どうやら、正確な年代や場所を把握するのは困難なようだ。ライブラリに残された記憶の限界……なのかもしれない。
 少しでも何か得られればと思い、次の質問をするアイシュリング。
「今、村の外や村の中では、どんなことが話題になっているの?」
「少しでも巫女様に危険が及ばないように俺も、何か聞きたいな」
 ヴァイスが頷きながら追随する。
 店主はドワーフらしい立派な髭に手をやりながら答えた。
「まぁ、いつだって、世の中は物騒だからなー」
 そうこうしているうちに、酒場に村人らが集まってきた。
 同時に、ハンター達も集まった。一先ずはここで情報共有と――腹ごしらえだろうか。


 結局、ミュールという少女の手掛かりは見つけられなかった。
 もっとも、情報が全くのゼロという訳でもない。ミュールの似顔絵に面影があったという人物が居た事や、恐らく、西方世界である事は分かったのだから。
 ヴァイスらは酒場の片隅で集めた情報を共有しつつ、最後に聞き取った事を全員に告げる。
「ミュールという言葉に聞き覚えがあるかどうか聞いたのだが……」
 少し言い難そうな前置きだった。
 途中で言葉を区切り、咳払いすると、声を潜めて言った。
「『表向きは旅の巫女で、裏では買い取り屋か』と村人の一人から言われたんだ」
「それは……どういう意味なのでしょうか」
 疑問を感じたのはアイシュリングだけではないはずだ。
 混血の子や取り換え児の存在も迫害の対象になる場合もあり、雄のロバと雌のウマの混血になぞらえて、ミュールと呼ぶ地方もある――というのは、これまでの調査で分かっている。
「迫害や虐待をされていたら、人買いに売られるという可能性もあるのでしょうか?」
 錬介がテーブルについた肘の手で頭を支えながら呟く。
「それなら、あり得そうですね」
 アティニュスが頷いた。
 かなり古い時代であれば、人買いの文化があっても違和感はない。
「混血の子や取り換え児……迫害されていた、ということかしら」
 ミュールは『何度も絶望して苦しむより、一回だけで良いんだよ』と言ったらしい。
 それは、何度も何度も絶望して苦しんだ事があったからこそ、そんな言葉が出たのではないかとアイシュリングは思っていた。
 怪訝な表情を浮かべるヴァイス。
「迫害や虐待があるのなら、情報を集めた時に何かしら耳に入ってくると思うが……それが無いという事は」
「そうした事を表沙汰にしていないから、聞き取りしても、そうした情報は出てこなかった」
 ヴァイスの言葉を続けるようにUiscaが言った。
 それが分かっただけでも今回の調査は意味があっただろう。次回の調査ではそこを踏まえて調査方法を変えればいい。

 次へと展望が繋がったので、ホッとした時だった。突然の轟音と振動が酒場に、いや、村全体に広がった。
 武器を掴み、酒場の外に飛び出る。
「なん……ですか、あれは」
 錬介が絶句する。
 一行の視線の先、爆発炎上する家の灯りに映るのは、黒い靄に包まれた影。
「これが記録が不完全な原因です。きっと、だからあの姿が正確に映っていないのです」
 大切な杖をギュッと掴むUisca。
 こちらに迫ってくる影の存在が強大に感じたからだ。
「なんという負のマテリアル。間違いなく歪虚ですね」
 アティニュスが仕込杖から刃を出現させる。影からは歪虚王にも匹敵する負のマテリアルを感じた。
 不明瞭な存在を明らかにするのも、今回の調査で大事な事であるはずだ。異常を感じて村人らが慌てて酒場や家から出てきた。
 その様子にヴァイスが芝居掛かった動きで巨大な槍を振り上げた。
「村の人達の避難は私達が……巫女様は急いで逃げて下さい」
 一瞬、えっという顔になったUiscaだったが、すぐに理解した。
「誰かが観測のために見届けた方がいいってことですね……」
「ライブラリだからな」
 対峙している影からは圧倒的な負のマテリアルを感じる。
 倒せるという保証が無い以上、誰かが結末を見届ける必要があるだろう。
 茨の力を行使してから駆け出したUiscaの背を守るようにアイシュリングが前に進むと聖書を高々と掲げる。刹那、聖書の頁が結界のように展開した。
「空高く輝く星々よ……」
 唱えたのは魔術師が扱える魔法の中でも極めて高位の魔法であるメテオスウォームだ。
 その圧倒的な火力は並みの歪虚であれば十分にダメージを与える事ができる……はず。
 先ほどの轟音とは遜色ない爆発が起こった。だが、黒い靄に包まれた影は何事も無かったように平然と進んでくる。
「歪虚だとは分かりました。次は眷属の確認です」
 影に向かってアティニュスが駆け寄る。
 だが先に、影が動いた。腕のようなものを無造作に上げると何かを呟く。
 それは、短く「死ね」と聞こえたと思った次の瞬間、圧倒的な範囲を負のマテリアルが襲った。
「【強制】……つまり、傲慢――」
 と思った時には、アティニュスは自身の心臓に仕込杖を突き立てていた。
 辛うじて【強制】に耐えきったアイシュリングの腕をドワーフ店主が掴むと、酒場の中に引きこんだ。
 既に村人らはそれぞれが自死する方法を見つけ、次々に果てていく地獄絵図となっていた。
「あんたの魔法は通じない。逃げた方が良い。この辺りは地下空洞が広がっていて、それ利用して地下室を作ってる家もあるんだ」
「アイシュリング。ここは俺達に任せて脱出するんだ!」
 ヴァイスが扉越しに叫ぶと、槍を構えて影に向かって突撃する。
 その後ろを錬介が付いていく。
「どんな災厄であろうとも……見届けます、最後まで」
 影は向かってくる人間に対して構える事も無かった。
 避ける様子もない。確かな手応えを槍の穂先から感じたヴァイス。直後、負のマテリアルが無数の刃となって彼を襲った。
「これは……【懲罰】か!」
 傲慢歪虚特有のカウンター能力だ。
 無数の刃をヴァイスは避ける事が出来なかったが、ダメージに合わせ、錬介が回復魔法を唱えた。
「そう簡単には倒れさせませんよ」
 影を睨む錬介。
 言葉通り、ヴァイスと錬介はすぐに倒れなかった。だが、戦闘は一方的に影が有利だった。
 二人の攻撃はまるで通じず、逆に、影は圧倒的な炎の攻撃を繰り出してくるからだ。
「まるで、話にならないようだな」
「これほどまでの存在だと、考えられるのは……」
 激しく肩で息をする二人。ヴァイスも錬介も、ハンターとしては歴戦の強者である。
 その二人にとって、ベリアルやメフィストも強敵ではあったが、それでも対峙できない訳ではなかった。
 だが、眼前の存在は、それを超える。しかも、影は明らかに手を抜いているようにも思えた。まるで、珍しい玩具でも手に入れたかのように。
「回復魔法も尽きました」
「なら、行くか。俺達の全力をぶつけ、実力を測る!」
 二人の突撃に影は強大な炎の渦を作り上げた。
 それは、全力で向かってきたヴァイスと錬介の二人を周囲の建物ごと、灰と化すほどの猛烈な力だった。


 一部始終を村からやや離れた場所でUiscaは見守っていた。
 これはライブラリが見せているものではあり、現実ではない。だが、仲間が倒される光景を見るのは耐え難いものであった。
「歪虚になってしまうまでのミュールさんの絶望……どんなものか知らないとっ」
 それに、仮想であっても死ぬことで恋人を心配させたくないというのもある。
 村があった場所は真っ平になっていた。建物などの構造物は全て灰となったか吹き飛んだようだ。
「記録に不都合が生じていた理由は、この襲撃だったのは確実ですね……あの歪虚が、もしかして、イヴさん……?」
 歪虚王にも匹敵する程の強大な負のマテリアルを持つ歪虚に襲撃されたのだ。
 ライブラリに不都合が生じても不思議ではない。
 その時だった。真っ平になった村の地面の一角が崩れたのは。
 付近を通る影は気にした様子無く、そのまま進むが、崩れた地面から、誰かが出てきた。
「……あれは、ミュールさん!?」
 驚くUisca。
 服装や髪型など知っている少女の姿と違うが、確かに、あの少女だった。
 正体を確認しようと駆け出すよりも早く、ライブラリの制限時間を迎え、Uiscaは現実の光の中で目を覚ました。

 地下道を通り、アイシュリングは地上へと出た。
 村からやや離れた場所だろうか。村があった場所を、ただ呆然と見つめるドワーフ店主の背中を見ながら彼女は思った。
(ライブラリに記録が残っていたのは……この店主の……)
 一夜で村が滅んだという記録が残されたのは、この生存者が居たからなのだろう。
 店主に声を掛けるよりも先に、彼女もまた現実へと引き戻されるのであった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 未来を想う
    アイシュリング(ka2787
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • 世界に示す名
    アティニュス(ka4735
    人間(蒼)|16才|女性|舞刀士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/13 18:31:36
アイコン 【相談卓】絶望の世界へ
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/13 18:32:48