ゲスト
(ka0000)
【羽冠】王都第六城壁戦余聞 機動砲兵の乱
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/13 22:00
- 完成日
- 2018/06/21 19:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
Volcanis部隊を率いる士官候補生を育成するグラズヘイム王立学園機動砲兵科──その第三班長リズ・マレシャルは、その日、いつもの様に予鈴ギリギリで飛び込んだ教室で、生徒たちの余りの少なさに思わず立ち止まっていた。
(なにこれ…… いつもの半分くらいしかいないじゃない……)
荒い息を吐きながら廊下に顔を出し、ここがいつもの自分の教室──機動砲兵科の教室であることを確認する。
小首を傾げていると、リズと同じ元魔術科の女生徒たちが不安そうに話し掛けてきた。
彼女らは言った。登校して来ないのはいずれも、今回の王家の縁談騒動で大公を支持していた学生たちだ、と。リズは嫌な予感にその表情をより一層引き締めた。件の縁談騒動以降、王立学園の学生たちは王女支持派と大公支持派に真っ二つに分かれ、それぞれ支持を求めて署名活動やデモ行進、或いは、相手派閥への『妨害工作』などで騒然とした空気に包まれていたからだ。
(何か大変なことが起こっている……?)
リズのその予感は教室にいる学生たちも等しくするものだった。本鈴から既に5分──いつもならとっくに来ているはずの先生たちの気配もない……
そこへ、職員室へ様子を窺いに行っていた男子学生がひどく慌てた様子で駆け戻って来た。教卓で息を整える彼の周りに学生たちが自然と集まる。
「どうした、いったい何があったんだ……?」
「ゼイ、ゼイ…… っは、教師たちが話していたんだ。大公支持派の学生たちが、自分たちの意思を表明する為、大挙して第六城壁に向かったって……」
……ここ最近、大勢の両派支持者が王国各地から王都に集まっているという話は聞いていた。彼らは純粋に王国の未来を憂い、それぞれが支持する王女と大公を応援する気持ちで王都に集まって来ているのだ。だが……
「王立学校の、それも武を担う騎士科や砲兵科の学生がそれをやっちゃあいかんだろう…… 軍人は政治的に中立たれ。俺たちだって、軍属だ」
「そ、それだけじゃあないんだ…… 連中、軍馬やゴーレムを…… Volcaniusを持ち出した、って」
「はあっ!?」
リズたちは素っ頓狂な声を上げた。それって……
「反乱!?」
違う。彼らはあくまで自分たちが大公を支持していることを表明する為に行動している。いわばパレード──武威を示しているだけのつもりだろう。
だが、Volcaniusuを持ち出してしまってはそうと取られてしまっても仕方がない。少なくとも言い訳はできない。そんなことも分からぬ程に、彼らは騒動の熱に当てられてしまったというのだろうか。
「こいつは大問題になる。参加した学生たちもただでは済まんぞ」
同刻、同学園職員室──
教師たちが蒼い顔をして額に汗を滲ませ、告げる。
「いや。彼らが演習場の敷地を出る前に、止める事さえできれば、言い訳はどうとでも──」
歩兵にゴーレムは止められない。学園にそれだけの兵力も残っていない。
となれば、王国とは関係のない第三者── ハンターたちの駆るCAMにそれを止めてもらう他はない。
リズと同じ三班に属するハーマンが、そっとリズの腕を取って廊下へ引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと何……?」
「ナイジェルとトムの機体が無い」
「……ッ! それって……」
元騎士大砲科のナイジェルと元騎士歩兵科のトムはリズらと同じ第三班員。共にVolcaniusの操作手を担当している。
「それだけじゃない。副班長のリュシアンも姿が見えない」
「……!?」
その頃、王都へ向けて『進軍』中のVolcanius部隊の末席── 礼服に身を包んで先頭を進む騎士科生徒らの後に続いてゴーレムを歩かせながら。最後尾を行くトムは人知れず「どうしてこんなことに」と繰り返し呟いていた。
同じ操作手である友人、ナイジェルから、この日の行進に参加する旨、告げられた。それを聞かされた時、そこまで思い詰めていたのかと思い知らされた。
ナイジェルはホロウレイドの戦いの後、失陥するリベルタース地方から逃れて来た過去がある。歪虚を討つ為に挙国一致体制を整えるという大公の主張を支持していたのも知っている。だが……
「しかし、まさか君が参加してくれるとはね、トム。君の実家は商家だから、大公閣下の主張には賛同していただけないと思っていたのだけれど……」
そう訊ねてきたのはリュシアンだった。ナイジェルは行進開始後、ずっと無言で何かを考えこんだままだ。
「……実家のことは関係ないよ。友達を放っておけなかった。それだけだよ。……それより僕は、君が参加していることの方が驚きだよ、リュシアン。君は元芸術科──こういった話とは無縁だと思っていた」
「……色々とあるのさ。僕にも、芸術科にも……」
リュシアンは透明感のある表情で儚げな笑みを浮かべると、静かに手を振って列の先へと戻っていった。
本来、操作手ではないはずのリュシアンには、学園に配属されたばかりの新式のVolcaniusが与えられていた。未だ実戦配備されていない試作段階の最新砲や刻令術が惜しげもなく投入された実験機であり、その恩恵はこの行進に参加しているVolcanius各機にも、新型砲弾の配備といった形でもたらされている。
(ただ行進して行って、第六城壁の外に整列するだけなのに……?)
ある可能性に、トムの気分が重くなっていく。愛機が一歩踏み出すごとに。
ナイジェルもずっと無言のまま…… トムと同じ表情で、友人をチラと振り返る。
「……あなたはついて行かなかったのね。元騎士科で、貴族の子弟なのに……」
学園、廊下── リズに問われたハーマンは、仏頂面のまま、ふいと顔を背けて答えた。
「……少し思うところがあってな。俺はマーロウ大公を尊敬しているが、それと政治の話はまた別なのだと最近、考えるようになった」
そう言うハーマンは以前、臨時教官であるハンターたちと話す機会があった。彼らと会話の中に、何か彼の中で琴線に触れるものがあったのかもしれない。
「ふぅん…… また随分と素直になったものね」
混ぜっ返すようなリズの口調にカチンと来てハーマンが振り返ると、彼女は存外、真面目な表情で彼のことを見つめていた。一瞬、鼓動を跳ね上げたハーマンに、リズが悪戯っぽい瞳で笑って、訊く。
「ハーマン、あなた、自分の馬を持ってたわよね?」
「そ、そりゃ元騎士科だからな。演習で乗っているのも俺の愛馬だ」
ハーマンが答えると、リズはYes、と拳を握った。そして、馬のところまで案内しなさいと彼の腕を引っ張った。
「お、お前……いったい何をするつもりだ!?」
「決まってるわ。今から追っかけていって、リュシアンとナイジェルとトムを連れ戻すのよ! ……このままじゃ退学になっちゃう。そうなる前になんとしても説得しないと!」
(なにこれ…… いつもの半分くらいしかいないじゃない……)
荒い息を吐きながら廊下に顔を出し、ここがいつもの自分の教室──機動砲兵科の教室であることを確認する。
小首を傾げていると、リズと同じ元魔術科の女生徒たちが不安そうに話し掛けてきた。
彼女らは言った。登校して来ないのはいずれも、今回の王家の縁談騒動で大公を支持していた学生たちだ、と。リズは嫌な予感にその表情をより一層引き締めた。件の縁談騒動以降、王立学園の学生たちは王女支持派と大公支持派に真っ二つに分かれ、それぞれ支持を求めて署名活動やデモ行進、或いは、相手派閥への『妨害工作』などで騒然とした空気に包まれていたからだ。
(何か大変なことが起こっている……?)
リズのその予感は教室にいる学生たちも等しくするものだった。本鈴から既に5分──いつもならとっくに来ているはずの先生たちの気配もない……
そこへ、職員室へ様子を窺いに行っていた男子学生がひどく慌てた様子で駆け戻って来た。教卓で息を整える彼の周りに学生たちが自然と集まる。
「どうした、いったい何があったんだ……?」
「ゼイ、ゼイ…… っは、教師たちが話していたんだ。大公支持派の学生たちが、自分たちの意思を表明する為、大挙して第六城壁に向かったって……」
……ここ最近、大勢の両派支持者が王国各地から王都に集まっているという話は聞いていた。彼らは純粋に王国の未来を憂い、それぞれが支持する王女と大公を応援する気持ちで王都に集まって来ているのだ。だが……
「王立学校の、それも武を担う騎士科や砲兵科の学生がそれをやっちゃあいかんだろう…… 軍人は政治的に中立たれ。俺たちだって、軍属だ」
「そ、それだけじゃあないんだ…… 連中、軍馬やゴーレムを…… Volcaniusを持ち出した、って」
「はあっ!?」
リズたちは素っ頓狂な声を上げた。それって……
「反乱!?」
違う。彼らはあくまで自分たちが大公を支持していることを表明する為に行動している。いわばパレード──武威を示しているだけのつもりだろう。
だが、Volcaniusuを持ち出してしまってはそうと取られてしまっても仕方がない。少なくとも言い訳はできない。そんなことも分からぬ程に、彼らは騒動の熱に当てられてしまったというのだろうか。
「こいつは大問題になる。参加した学生たちもただでは済まんぞ」
同刻、同学園職員室──
教師たちが蒼い顔をして額に汗を滲ませ、告げる。
「いや。彼らが演習場の敷地を出る前に、止める事さえできれば、言い訳はどうとでも──」
歩兵にゴーレムは止められない。学園にそれだけの兵力も残っていない。
となれば、王国とは関係のない第三者── ハンターたちの駆るCAMにそれを止めてもらう他はない。
リズと同じ三班に属するハーマンが、そっとリズの腕を取って廊下へ引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと何……?」
「ナイジェルとトムの機体が無い」
「……ッ! それって……」
元騎士大砲科のナイジェルと元騎士歩兵科のトムはリズらと同じ第三班員。共にVolcaniusの操作手を担当している。
「それだけじゃない。副班長のリュシアンも姿が見えない」
「……!?」
その頃、王都へ向けて『進軍』中のVolcanius部隊の末席── 礼服に身を包んで先頭を進む騎士科生徒らの後に続いてゴーレムを歩かせながら。最後尾を行くトムは人知れず「どうしてこんなことに」と繰り返し呟いていた。
同じ操作手である友人、ナイジェルから、この日の行進に参加する旨、告げられた。それを聞かされた時、そこまで思い詰めていたのかと思い知らされた。
ナイジェルはホロウレイドの戦いの後、失陥するリベルタース地方から逃れて来た過去がある。歪虚を討つ為に挙国一致体制を整えるという大公の主張を支持していたのも知っている。だが……
「しかし、まさか君が参加してくれるとはね、トム。君の実家は商家だから、大公閣下の主張には賛同していただけないと思っていたのだけれど……」
そう訊ねてきたのはリュシアンだった。ナイジェルは行進開始後、ずっと無言で何かを考えこんだままだ。
「……実家のことは関係ないよ。友達を放っておけなかった。それだけだよ。……それより僕は、君が参加していることの方が驚きだよ、リュシアン。君は元芸術科──こういった話とは無縁だと思っていた」
「……色々とあるのさ。僕にも、芸術科にも……」
リュシアンは透明感のある表情で儚げな笑みを浮かべると、静かに手を振って列の先へと戻っていった。
本来、操作手ではないはずのリュシアンには、学園に配属されたばかりの新式のVolcaniusが与えられていた。未だ実戦配備されていない試作段階の最新砲や刻令術が惜しげもなく投入された実験機であり、その恩恵はこの行進に参加しているVolcanius各機にも、新型砲弾の配備といった形でもたらされている。
(ただ行進して行って、第六城壁の外に整列するだけなのに……?)
ある可能性に、トムの気分が重くなっていく。愛機が一歩踏み出すごとに。
ナイジェルもずっと無言のまま…… トムと同じ表情で、友人をチラと振り返る。
「……あなたはついて行かなかったのね。元騎士科で、貴族の子弟なのに……」
学園、廊下── リズに問われたハーマンは、仏頂面のまま、ふいと顔を背けて答えた。
「……少し思うところがあってな。俺はマーロウ大公を尊敬しているが、それと政治の話はまた別なのだと最近、考えるようになった」
そう言うハーマンは以前、臨時教官であるハンターたちと話す機会があった。彼らと会話の中に、何か彼の中で琴線に触れるものがあったのかもしれない。
「ふぅん…… また随分と素直になったものね」
混ぜっ返すようなリズの口調にカチンと来てハーマンが振り返ると、彼女は存外、真面目な表情で彼のことを見つめていた。一瞬、鼓動を跳ね上げたハーマンに、リズが悪戯っぽい瞳で笑って、訊く。
「ハーマン、あなた、自分の馬を持ってたわよね?」
「そ、そりゃ元騎士科だからな。演習で乗っているのも俺の愛馬だ」
ハーマンが答えると、リズはYes、と拳を握った。そして、馬のところまで案内しなさいと彼の腕を引っ張った。
「お、お前……いったい何をするつもりだ!?」
「決まってるわ。今から追っかけていって、リュシアンとナイジェルとトムを連れ戻すのよ! ……このままじゃ退学になっちゃう。そうなる前になんとしても説得しないと!」
リプレイ本文
王都のデモに参加する為、大公派学生たちが持ち出したVolcaniusを演習場から出る前に阻止して欲しい── 王立学園砲兵科の講師たちから無線でそう依頼内容を告げられたハンターたちは、まずそれを『二度見』した後、それぞれの表情で息を吐いた。
「ったく、砲戦ゴーレムをたくさん引き連れてとか……考え無しか!」
「なんというかまあ……軍ってのは暇なんだねぇ」
エクスシア『紅龍』のコクピットで拳を打つリュー・グランフェスト(ka2419)。一方、デュミナス『ゼーヴィント』を駆るレベッカ・アマデーオ(ka1963)は冷めた調子で皮肉を零す。
「正確にはまだ『軍人』ではないですけどね。まあ、考え無しという点は完全に同意ですが」
R7『ウィザード』を見上げながら淡々と訂正を入れるエルバッハ・リオン(ka2434)の横で、飛竜に餌をやっていたレイア・アローネ(ka4082)は、相変わらず山の外は複雑で分かりにくい、と心の中で頭を振る。
そんな面々に、ハンス・ラインフェルト(ka6750)は実力行使に移る前に私に説得の時間を頂きたい、と頭を下げた。彼は臨時講師として砲兵科の学生たちと関わったことがある。
「馬鹿な子ほど可愛いと言うじゃありませんか。出来うる限り『若気の至り』で済ませてやりたいのです」
王都へ向けて演習場の平野を進むVolcanius隊の前に、ハンターたちのCAMと飛竜が堂々とその姿を現した。
途中、王女派から何らかの妨害が入るとは思っていたが──まさかの機甲戦力の登場に大公派の学生たちがザワつく。
「落ち着け! 全機、鶴翼陣形に展開。砲撃体勢はまだ取るな」
先行偵察も出してなかった騎士科の暢気さに悪態を吐きつつ、手早く指示を出す大公派学生リーダー。その傍らでリュシアンが無言でハンターたちを見やる。
そうこうしている内に1機のデュミナスが単騎でこちらに進み出た。固唾を飲んで見守る学生たちの視線の先でコクピットハッチが開き……中から出て来たパイロットが拡声器で呼び掛ける。
男はハンス・ラインフェルトと名乗った。臨時講師として見た顔だった。彼はまず自身を大公派だと宣言すると、湧き起る学生たちの歓声を手で制し、大公派の先達として諸君らに伝えたいことがあると告げた。
「君たちが身一つで大公様に会いに行こうと考えるなら、私は止めません。むしろ大いにやりなさい。……しかし、Volcaniusを含む兵装を持ち出すのは許しません」
生徒たちの歓声が戸惑いに変わった。先生は自分たちに加勢に来たのではないのか、と。
「このまま演習場の外に出れば、その瞬間、君たちは『軍の兵器を私的に使用する』ことになる──除籍処分どころか反乱と見做されて廃嫡や処刑すらあり得る大罪です。大公派の名を汚す恥晒しです! ……学生諸君。私は大公様の名を貶めようとする騙り者たちを許しません。このまま進んで謀反人の汚名を着るか、踵を返して学園に戻るか……今すぐ決めなさい」
学生たちは動揺した。彼らの多くがそこまで考えが至っていなかったのだ。
そんな中、学生リーダーは冷静に傍らのリュシアンに訊ねた。
「……どう思う?」
「なるほど、ラインフェルト教官の仰る通りでしょうね。……ですが、王都の近くにハンターたちのユニット戦力が集められているという情報も確かにあります。王女派の手配でしょうね。その理由までは私には分かりかねますが……」
リーダーは考え込んだ。──王女派が武威を誇示しようとしているのか……? だとしたら、我々も何としても王都に向かわねば……
「全機、砲撃体勢を取れ!」
リーダーの指示にどよめく学生たち。──どういうことだ? Volcaniusはあくまでデモンストレーションの為に持ち出したのではなかったのか?
「我々大公派にも戦力がある事を王女派に示さねばならぬ。ハンターたちは王国の内政に干渉する外部勢力だ。攻撃しても王国に弓引く事には能わない!」
そうなのか? と次々と指示に従い始める学生たち。CAMのカメラで観察していたレベッカが「……あれが『頭』か」と唇を舐める……
放たれる砲撃指示。それに従おうとしたナイジェルをトムが「ダメだ!」と叫んで制した。
「前に言われたじゃないか! 自分たちの意見が通らなければ殴り合ってでもそれを通すのか、って。それは内乱への道だって…… 流石にこれはやり過ぎだ!」
だが、砲撃を止めたのはナイジェルとトムの2人だけだった。砲声が鳴り轟き……ギリギリまで生徒の返答を待っていたハンスが厳しい表情で操縦席へと戻る。
「……こうなった以上、制圧するしかないですね」
淡々とコンソールを操作して戦闘モードを立ち上げるエル。依頼主からゴーレムを破壊する許可は出ている。……予算的になるべく壊さないでくれるとありがたいとも言ってはいたが。
「仕方ねえ…… けど相手は人間だ。なるべく無傷で抑えよう」
「……ま、生徒たちになるべく傷をつけるな、って条件だからねぇ。……でも、荒事である以上、事故は事故って割り切って貰わないと」
釘を刺すリューに答えながら、後半、通信機内臓のイヤリングを受信状態にして呟くレベッカ。機体のウィングフレームを威嚇するように大きく展開させつつ、ハイパーブーストを焚いて側面から回り込むように敵左翼──こちら側から見て右翼側へと物凄いスピードで地上を突進して行く。同時に、正面からはハンスのR6が同様にハイパーブーストを焚き、逃げ惑う騎兵たちには目もくれずに最短距離を──
「なんだ!? やたらと速い奴らがいるぞ!」
「落ち着け。鶴翼に展開したのは何の為だ。左翼は右翼に来る敵を、右翼は中央に来る敵に砲撃を集中しろ!」
迫るCAMたちに向けて放たれる42ポンド砲の一斉射撃── レベッカに続いて側方へ移動していたエルがその砲声を聞き、機体に輝く魔法の風を纏わせつつ、操縦桿を傾ける。
スラスターを噴射して回避運動を取る『ウィザード』。余裕をもって回避したはずのその砲弾は、しかし、地上に激突する前に機体の傍で炸裂した。
「近接信管!? しかし、接近するまで砲撃に晒されるのは覚悟の上です……!」
マテリアルカーテンを展開しつつ前進を継続するエル機。レベッカ機は高速で地上をすっ飛びつつ手にした30mm突撃砲を構えて牽制射撃。そこへ24ポンド砲も射撃を開始し、敢えて砲弾を散らして全周から包み込む様に破片を浴びせる……
「こちらも気を引き締めて行くぞ、リュー。犠牲者を出さない為にも学生たちを止める。勿論、彼ら自身の為にもだ」
騎乗したワイバーンに指示を出し、高度を取りつつ進むレイア──本人は帯剣しているものの、飛竜自体は非武装だった。ゴーレムの無力化は仲間に託し、自身は囮役に徹するつもりだ。
「無理すんなよ、レイア!」
同時にソウルトーチを焚き、左右両翼左に分かれてそれぞれ砲撃の誘引を図るリューとレイア。前方の空より降り来る砲弾を見上げながら、リューは自身のマテリアルを機体に巡らし、その感覚を一体化させつつ叫ぶ。
「いいぜ、派手めの演習戦だ。俺を止められるなら止めてみやがれええ!」
瞬間、リューの魂が乗り移ったかのように紅龍がまるで生き物の様な動きで加速する。炸裂した砲弾が撒き散らす破片の豪雨を、しかし、リューはスロットルを噴かせて後置した。空中に幾つも咲く炸裂の華──降り注ぐ破片の暴風雨をリューは節々の痛みと引き換えに悉く躱し切る……
そのリューの視界の端に、砲撃を受けて墜落するレイアと飛竜の姿が映った。一瞬、動きを硬直させた紅龍を砲弾の破片が掠める。
(こいつも試作砲弾か……!)
心中に呟くレイアが喰らったのは、機導式近接信管と同様にハルトフォート工廠が試作中の新式砲弾だった。込められた風の魔力を暴風として周囲へ解き放ち、対象を墜落させる特殊な対空砲弾だ。
失速した相棒の手綱を操作し、レイアは飛竜を飛行状態へと戻した。だが、そこに続けざまに炸裂弾が集中し……躱し切れなかった分を鎧の最も厚い部分で受け止めて。レイアは一旦、旋回して敵砲の射程から逃れると、失われた高度を回復しつつ、自身と相棒の状態を確認した。
●
演習場で戦闘が始まる少し前── 学園を抜け出そうとしたリズとハーマンの二人は、敷地内の見回りをしていたハンターたちに見つかった。
「あ、リズさんにハーマン君」
厩舎に向かおうとしていた2人を見掛けて、おーい、と手を振るパール(ka2461)。リズとハーマンはビクリと振り返り……目を見合わせると同時に厩舎の方へとダッシュする。
「ええっ!? なんで?!」
「ちょっ、そこの2人、どこに行くつもり?! すぐに教室に戻りなさい!」
八原 篝(ka3104)が慌てて追いかけ、厩舎で馬に鞍を乗せたばかりの2人を捕まえる。
何をするつもりだったのかと訊ねる篝に、リズがシュンともせずに答えた。Volcaniusを持ち出した同じ班の仲間たちを説得し、連れ戻しに行くのだと──
「本気なの? 既にハンターたちが対応に入っている。戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれないのよ?」
「彼らは私の班員です。共に厳しい演習を潜り抜けてきた『戦友』です。放ってはおけません」
きっぱりと言い切るリズをハーマンが意外そうに見返した。元々の彼女は自身の成績にしか興味がないタイプの班長だったのだが……
「……若さとは素晴らしきものであるな」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はそう感嘆の吐息を漏らした。リズといい、大公派の学生たちと言い、行動力と熱量がまるで違う。……かつては自分にも確かに存在したもの。いつの間にか失くしてしまったもの── ハンター適正を得てまだまだ若いと自分では思っていたが、このように若者たちの『暴走』を目の当たりにするにつけ、やはり自分も年を取ったのであるな、と痛感させられる……
「だが、連中がいかに自分の正義を唱えようと、武威を以って恫喝しようとした時点でやはり暴挙と言わざるを得ん。その授業料は高くつく。行けばお前たちにも及ぶかもしれんぞ?」
それでも、と決意の瞳を向けるリズにミグは改めて嘆息した。そして、厩舎の横にとめてあった自身の魔導バイクに歩み寄ると、彼女に向かって予備のヘルムを放り渡す。
「……え?」
「私たちも一緒に行くってことですよー! 先生たちからは、Volcaniusが演習場から出なければ何とか取り繕ってみせるとの言質を頂いていますから!」
両肩の前で拳をギュッと握りながら、笑顔で片目を瞑って見せるパール(←ウィンクと呼ぶにはぎこちない)
ミグとパールが同時に同僚を振り返り。篝は大きく、大きく息を吐いた。
「はあ……わかったわよ。覚悟が揺らがないというなら止められないしね。……私が先行して進路の安全を確認する。本当に危なくなったら逃げなさいよ?」
かくして、リズとハーマンはハンター3人と共に出発した。
地面に残されたゴーレムの足跡を追い…… やがて、遠雷の如く轟く砲声を聞き、状況を確認するべく小高い丘へと進路を変える。
「あれは……近接信管ですか? これはまた面倒そうな……」
「陣形は鶴翼か…… 互いに死角を補い、正面の敵に攻撃を集中する為、ね。その工夫だけは認めるわ」
既に戦闘は中盤に差し掛かっていた。上空を旋回する飛竜の情報支援の下、両翼の隊列にCAMが2機ずつ喰い込んでいた。生徒たちは工夫を凝らして『接近されたら何もできない』砲戦機の短所に対応してはいたが、こうも彼我が入り乱れると面制圧という長所も発揮できない。
「時間はもうあまりないわよ。あの陣形だと指揮官は中央にいるはずだけど……」
「見よ。戦場の端っこに動かぬゴーレムがおる。まずはあれらから口説き落としていくのがよかろう」
篝やミグの言を受け、一行は一気に丘を下った。CAMの激しい攻勢に晒されている為か、こちらに気付く者はなかった。
「クッキー! あなたはここで周辺警戒を。『有事』の際には紅水晶を敷設した後、ボクの方まで下がってください」
動いてないゴーレムと本隊の間に割り込み、愛馬を棹立ちにして止めたパールがそう指示を出し。渋い表情で頷いたユキウサギのクッキーがピョンと馬から飛び降りて、苦無と杖を手に「ここから一歩も進ませない」と言った風情でその場に佇立する。
武力行使をしてなかった2台のゴーレムの操作手はナイジェルとトムだった。転げるようにミグのバイクから降りたリズが2人に走り寄る。
「リズ!? どうしてここへ……?!」
「あなたたちを迎えに来たに決まっているじゃない!」
その様子を見てこっちは大丈夫そうだと判断したハンターたちは、他の操作手たちの説得に向かった。
CAMとの戦闘中に突然、間近に入り込まれて驚愕する操作手たち。反撃をする間もあればこそ、あっという間に身柄を押さえられてしまう。
「学生のクセに酔っ払ってんじゃないわよ。目ぇ醒ましなさい! アンタ等のやろうとしているのは、大勢の人々を人質にとって脅迫するって事でしょうがッ!」
操作手の腕を後ろ手に捻り上げ、地面に押さえつけて無力化しながら、篝がぺしっと生徒の頭を叩く。
「せ、先生、それは違う! 僕たちはただ大公閣下を支持する者たちがここにもいると示そうと……!」
「違わないわよ。いえ、どちらにせよあなたたちは処罰される。居場所もなくなってしまうかもしれない」
え? と身体を固まらせる生徒たちに、パールが代わって説明した。
「皆の主張がどうあれ、演習場を出た瞬間にその行動は武力蜂起と見做される、ってことですよう。せっかく新設されたばかりの砲兵科も取り潰しになりかねない……」
「そなたらが今回の事で不満なのは理解しよう。だが、これはいけない。自分たちの言葉に重みを持たせる為の示威行動であろうが、意志を押し通す為に武力を持ち出した時点でデモという域を超えてしまった」
ミグは背後のゴーレムに親指を向けて続ける。
「案山子のつもりだったとしても、あれは歴とした兵器だ。ほんの些細なきっかけで事態が暴動に発展したら、取り返しのつかないことになる。そして、そのような事態は意外と簡単に起こり得る。実際、こうして起こってしまった」
●
魔術師然とした外装のCAMが突っ込んでくるのを見て、操作手は「わわ……ッ!」と慌ててゴーレムにキャニスター弾を装填させた。
突進して来る敵に砲口を向け、水平射撃で近接戦用の散弾をぶっ放す。しかし、そのR7──『ウィザード』のパイロット・エルは敵の有効射程に入る直前でスラスターを逆噴射して機を停止させた。装甲の表面に弾ける金属音──機体前面に魔法陣を展開したウィザードが『アースバレット』を投射して、岩の礫で以ってゴーレムの頭部を砕き割る。
「くそおぉぉ……!」
敵を射程に入れるべく、操作手が石の巨兵を突進させると同時に、エルもまたスラスターを噴射して機体を前へと飛び出させた。カウンターで瞬く間に縮まる距離──操作手が「え?」と呟いた時には時すでに遅かった。退がられぬよう敵の足を踏み付けて、エル機が振るった錬機剣の光の刃でゴーレムの砲身とそれを支える右腕部とを斬り飛ばす……
「右翼のVolcanius全ての沈黙を確認。残った機体は……なぜか戦闘を放棄しています」
エル機が武装を突撃砲へと変更しながらサブカメラをズーム。止まったゴーレムの足元にミグ、パール、篝の姿を映す……
「大義の為なら命なんて、とか思ってんのかもしんないけどさ。もっと自分の事を大事にしなさいよ」
「今ひとたび矛を収め、基本に立ち返るがよい」
篝とミグの説得を受けて、項垂れた生徒たちがゴーレムの操作を放棄する。
「お前たち……裏切るのか!?」
少し離れた場所にいた別の操作手がそれに気づき、砲口をこちらへ向けた。その瞬間、彼我の間に弾ける紅水晶の赤い光──待機していたクッキーが間髪入れず、紅水晶を展開して視線と射線を遮断したのだ。
「ゴーレムを盾にしつつ後退。急いで!」
「クッキー!」
叫ぶ篝の横をすり抜け、ユキウサギの元まで戻ったパールが相棒の名を呼んで……赤光の中から戻って来たその姿に手を伸ばして馬上へ引っ張り上げる。
「逃がすかよ……!」
叫ぶ操作手に向かってパールは長弓を振り向けて、馬上から立て続けに矢を放ってその頭を抑えつつ、その場からの離脱を図る。
「クッキー、紅水晶を連続展開!」
走るその背にポツポツと展開される赤き遮蔽。構わず砲撃を放とうとしたゴーレムは、しかし、側面から突っ込んで来たエル機の体当たりを受けて轟音と共に転倒する……
「レイアより全機。敵鶴翼中央部の一部が戦場からの離脱を図っている。直ちに急行されたし」
最初の突撃以降、上空からの観測に徹していたレイアがその動きに真っ先に気が付いた。上空──神の視点から戦場の全てを見下ろす観測機の存在は、敵の動きに対して一歩も二歩も早く味方の対応を可能とする。素早く観測に方針を転換したレイアの功だ。
飛竜の背から眼下を見下ろし、地上の味方を敵軍へと誘導するレイア。唯一、即応が可能であったレベッカ機が再びのハイパーブーストで弾ける様にそちらへ迫る。
「行ってください。ここは私が抑えます!」
それに気づいたリュシアンが、残る味方と学生リーダーを逃がす為に殿軍に残った。意気に感じたもう1機もその場に残り、迫るレベッカ機へ向けて文字通りの弾幕を張る……
「……やむを得ない。少々手荒にいくぞ」
レイアは飛竜の首に手を置いてそう言うと、逃げる敵の前方に回り込むよう指示を出した。そして上空から逆落としで地上すれすれまで降下すると、敵の操作手のすぐ頭の上をフライパス。羽ばたきによる風圧で地面へ転がしつつ後ろへと飛び抜ける……
「レイア、あいつ、また無茶をして……!」
再び上昇へと転じる飛竜に向かって放たれる砲撃──それを見やってリューが唸る。
「行ってください。ここは私一人で抑えられます」
同じく敵左翼でゴーレムと戦うハンスがリューに対して宣言した。同時に、大剣『獄門刀』を正眼に構えてピタリと動きを止めるハンスの機体── 戦場には似つかわしくない、水を打った様な静寂に、戸惑っていた2機のゴーレムが同時にキャニスター弾を撃ち放ち。直後、円を描く様なすり足でそれを躱したハンス機が瞬く間に2機の間に肉薄。目にも止まらぬ剣閃で以って2機の砲を、肩を、肘関節を立ちどころに叩き折る。その機動は正に『縦横無尽』──一級の操縦士でなければ再現不可能な剣戟だ。
「っ! 分かった。ここは任せた!」
返し、敵リーダーたちに向かって一目散に駆け出すリュー機。その背部カメラに、砕けた2機を後置し次の敵へと向かったハンス機が、その『操作手たちに』対して先と同じく『縦横無尽』な斬撃を浴びせ掛ける光景が映し出された。
「ちょ、何やってんのお!?」
「安心してください」
「何をっ!?」
「峰打ちですよ」
「峰って何!?」
そんな大剣ぶち当てておいて……と言いかけたリューは目を瞠った。地面に転がされて呻く操作手たちは……その全員が生きていた。
24ポンド砲を構えた眼前のゴーレムを、レベッカ機が縦薙ぎに振るった大鎌が真一文字に斬り裂いた。
砲を固定した右肩口から脇の下へ掛けての半ばまで── 断ち割れんばかりに斬り裂いたその鎌の柄を、しかし、『瀕死』のゴーレムの右手が掴み…… 直後、その背後から回り込んで来たリュシアン機が真横から手持ち式の試製20ポンド施条砲をゼロ距離射撃でぶっ放す。
「ハッ! やる……とでも言わせる気かよ!」
柄を掴んだゴーレムの半身ごとそれを引き断ちつつ、その勢いのままリュシアン機に向き直るレベッカ機──
その動きが一瞬、止まった。リュシアンは地上ではなくゴーレムの肩に乗っていた。彼はハンターたちの『縛り』に気付いていた。生徒たちを傷つけられないという依頼上の制約を──
「しゃらくさい!」
レベッカは止まらなかった。発砲する敵の長砲身を大鎌の柄で跳ね上げて。そのままクルリと回した石突きでもってゴーレムの喉を突き上げる。
ゆらり、と倒れるゴーレムから飛び降り、受け身を取って転がって……身を起こして操作しようとしたリュシアンの、そのゴーレムの上半身の表面を、一足早く踏み込んだレベッカ機が踏み砕く。
「まだやるか!? これ以上の手加減はできないぞ!」
暴れるゴーレムを足の下に置いたR6にそう大鎌を突きつけられて。リュシアンは微苦笑で嘆息しつつ、両手を上げて降伏の意を示した。
一方、リュー機──
威力を抑えて精度を高めた斬艦刀による一撃が、学生リーダー機の膝関節を叩き割った。ズシン、と横から崩れ落ちるVolcanius…… 残った最後の健在な1機に向けてリューが告げる。
「皆、脚を潰させてもらった。これで王都へは行けないぞ」
降伏を促すリュー。しかし、パニックに陥った操作手は震える指でゴーレムを操作して……
向けられた砲口に、リューはハッと背後を見た。そちらには今しがた無力化したばかりのゴーレムと……その操作手たるリーダーがいる。
「──っ!」
機をリーダーに多い被らせるリュー。直後、放たれた散弾が装甲板を激しく乱打する。直後、リューは機体を反転させると砲撃したゴーレムに飛び掛かった。発砲する砲を左手で押し上げ、押し倒し。拳で大砲を殴り潰すと、全ての学生たちに向かって叫ぶ。
「この馬鹿野郎どもが! 守るべき国の中で武力を誇示しようなんざ愚の骨頂だぜ! 武威は自国の民に安堵を与える為のもんだ。威嚇し、萎縮させる為のもんじゃ、断じてない!」
かくして、全てのゴーレムが無力化され、大公派学生たちによる『演習』は終結した。
無傷のまま投降したVolcaniusは5台。11台が半壊し、その中にはリュシアンが使った試作砲装備の高レベル機が含まれる。
「ハーマン君、漢を上げましたねー。トム君は……善人ですー」
「え? それって褒められてます……?」
生徒たちの無事を喜び、或いは叱るパールらハンターたち。それを見ながら篝は思った。
(これだけのゴーレムと試作段階の実弾を持ち出せたという事実── 学生の他に手引きをしたヤツがいるわね)
「ったく、砲戦ゴーレムをたくさん引き連れてとか……考え無しか!」
「なんというかまあ……軍ってのは暇なんだねぇ」
エクスシア『紅龍』のコクピットで拳を打つリュー・グランフェスト(ka2419)。一方、デュミナス『ゼーヴィント』を駆るレベッカ・アマデーオ(ka1963)は冷めた調子で皮肉を零す。
「正確にはまだ『軍人』ではないですけどね。まあ、考え無しという点は完全に同意ですが」
R7『ウィザード』を見上げながら淡々と訂正を入れるエルバッハ・リオン(ka2434)の横で、飛竜に餌をやっていたレイア・アローネ(ka4082)は、相変わらず山の外は複雑で分かりにくい、と心の中で頭を振る。
そんな面々に、ハンス・ラインフェルト(ka6750)は実力行使に移る前に私に説得の時間を頂きたい、と頭を下げた。彼は臨時講師として砲兵科の学生たちと関わったことがある。
「馬鹿な子ほど可愛いと言うじゃありませんか。出来うる限り『若気の至り』で済ませてやりたいのです」
王都へ向けて演習場の平野を進むVolcanius隊の前に、ハンターたちのCAMと飛竜が堂々とその姿を現した。
途中、王女派から何らかの妨害が入るとは思っていたが──まさかの機甲戦力の登場に大公派の学生たちがザワつく。
「落ち着け! 全機、鶴翼陣形に展開。砲撃体勢はまだ取るな」
先行偵察も出してなかった騎士科の暢気さに悪態を吐きつつ、手早く指示を出す大公派学生リーダー。その傍らでリュシアンが無言でハンターたちを見やる。
そうこうしている内に1機のデュミナスが単騎でこちらに進み出た。固唾を飲んで見守る学生たちの視線の先でコクピットハッチが開き……中から出て来たパイロットが拡声器で呼び掛ける。
男はハンス・ラインフェルトと名乗った。臨時講師として見た顔だった。彼はまず自身を大公派だと宣言すると、湧き起る学生たちの歓声を手で制し、大公派の先達として諸君らに伝えたいことがあると告げた。
「君たちが身一つで大公様に会いに行こうと考えるなら、私は止めません。むしろ大いにやりなさい。……しかし、Volcaniusを含む兵装を持ち出すのは許しません」
生徒たちの歓声が戸惑いに変わった。先生は自分たちに加勢に来たのではないのか、と。
「このまま演習場の外に出れば、その瞬間、君たちは『軍の兵器を私的に使用する』ことになる──除籍処分どころか反乱と見做されて廃嫡や処刑すらあり得る大罪です。大公派の名を汚す恥晒しです! ……学生諸君。私は大公様の名を貶めようとする騙り者たちを許しません。このまま進んで謀反人の汚名を着るか、踵を返して学園に戻るか……今すぐ決めなさい」
学生たちは動揺した。彼らの多くがそこまで考えが至っていなかったのだ。
そんな中、学生リーダーは冷静に傍らのリュシアンに訊ねた。
「……どう思う?」
「なるほど、ラインフェルト教官の仰る通りでしょうね。……ですが、王都の近くにハンターたちのユニット戦力が集められているという情報も確かにあります。王女派の手配でしょうね。その理由までは私には分かりかねますが……」
リーダーは考え込んだ。──王女派が武威を誇示しようとしているのか……? だとしたら、我々も何としても王都に向かわねば……
「全機、砲撃体勢を取れ!」
リーダーの指示にどよめく学生たち。──どういうことだ? Volcaniusはあくまでデモンストレーションの為に持ち出したのではなかったのか?
「我々大公派にも戦力がある事を王女派に示さねばならぬ。ハンターたちは王国の内政に干渉する外部勢力だ。攻撃しても王国に弓引く事には能わない!」
そうなのか? と次々と指示に従い始める学生たち。CAMのカメラで観察していたレベッカが「……あれが『頭』か」と唇を舐める……
放たれる砲撃指示。それに従おうとしたナイジェルをトムが「ダメだ!」と叫んで制した。
「前に言われたじゃないか! 自分たちの意見が通らなければ殴り合ってでもそれを通すのか、って。それは内乱への道だって…… 流石にこれはやり過ぎだ!」
だが、砲撃を止めたのはナイジェルとトムの2人だけだった。砲声が鳴り轟き……ギリギリまで生徒の返答を待っていたハンスが厳しい表情で操縦席へと戻る。
「……こうなった以上、制圧するしかないですね」
淡々とコンソールを操作して戦闘モードを立ち上げるエル。依頼主からゴーレムを破壊する許可は出ている。……予算的になるべく壊さないでくれるとありがたいとも言ってはいたが。
「仕方ねえ…… けど相手は人間だ。なるべく無傷で抑えよう」
「……ま、生徒たちになるべく傷をつけるな、って条件だからねぇ。……でも、荒事である以上、事故は事故って割り切って貰わないと」
釘を刺すリューに答えながら、後半、通信機内臓のイヤリングを受信状態にして呟くレベッカ。機体のウィングフレームを威嚇するように大きく展開させつつ、ハイパーブーストを焚いて側面から回り込むように敵左翼──こちら側から見て右翼側へと物凄いスピードで地上を突進して行く。同時に、正面からはハンスのR6が同様にハイパーブーストを焚き、逃げ惑う騎兵たちには目もくれずに最短距離を──
「なんだ!? やたらと速い奴らがいるぞ!」
「落ち着け。鶴翼に展開したのは何の為だ。左翼は右翼に来る敵を、右翼は中央に来る敵に砲撃を集中しろ!」
迫るCAMたちに向けて放たれる42ポンド砲の一斉射撃── レベッカに続いて側方へ移動していたエルがその砲声を聞き、機体に輝く魔法の風を纏わせつつ、操縦桿を傾ける。
スラスターを噴射して回避運動を取る『ウィザード』。余裕をもって回避したはずのその砲弾は、しかし、地上に激突する前に機体の傍で炸裂した。
「近接信管!? しかし、接近するまで砲撃に晒されるのは覚悟の上です……!」
マテリアルカーテンを展開しつつ前進を継続するエル機。レベッカ機は高速で地上をすっ飛びつつ手にした30mm突撃砲を構えて牽制射撃。そこへ24ポンド砲も射撃を開始し、敢えて砲弾を散らして全周から包み込む様に破片を浴びせる……
「こちらも気を引き締めて行くぞ、リュー。犠牲者を出さない為にも学生たちを止める。勿論、彼ら自身の為にもだ」
騎乗したワイバーンに指示を出し、高度を取りつつ進むレイア──本人は帯剣しているものの、飛竜自体は非武装だった。ゴーレムの無力化は仲間に託し、自身は囮役に徹するつもりだ。
「無理すんなよ、レイア!」
同時にソウルトーチを焚き、左右両翼左に分かれてそれぞれ砲撃の誘引を図るリューとレイア。前方の空より降り来る砲弾を見上げながら、リューは自身のマテリアルを機体に巡らし、その感覚を一体化させつつ叫ぶ。
「いいぜ、派手めの演習戦だ。俺を止められるなら止めてみやがれええ!」
瞬間、リューの魂が乗り移ったかのように紅龍がまるで生き物の様な動きで加速する。炸裂した砲弾が撒き散らす破片の豪雨を、しかし、リューはスロットルを噴かせて後置した。空中に幾つも咲く炸裂の華──降り注ぐ破片の暴風雨をリューは節々の痛みと引き換えに悉く躱し切る……
そのリューの視界の端に、砲撃を受けて墜落するレイアと飛竜の姿が映った。一瞬、動きを硬直させた紅龍を砲弾の破片が掠める。
(こいつも試作砲弾か……!)
心中に呟くレイアが喰らったのは、機導式近接信管と同様にハルトフォート工廠が試作中の新式砲弾だった。込められた風の魔力を暴風として周囲へ解き放ち、対象を墜落させる特殊な対空砲弾だ。
失速した相棒の手綱を操作し、レイアは飛竜を飛行状態へと戻した。だが、そこに続けざまに炸裂弾が集中し……躱し切れなかった分を鎧の最も厚い部分で受け止めて。レイアは一旦、旋回して敵砲の射程から逃れると、失われた高度を回復しつつ、自身と相棒の状態を確認した。
●
演習場で戦闘が始まる少し前── 学園を抜け出そうとしたリズとハーマンの二人は、敷地内の見回りをしていたハンターたちに見つかった。
「あ、リズさんにハーマン君」
厩舎に向かおうとしていた2人を見掛けて、おーい、と手を振るパール(ka2461)。リズとハーマンはビクリと振り返り……目を見合わせると同時に厩舎の方へとダッシュする。
「ええっ!? なんで?!」
「ちょっ、そこの2人、どこに行くつもり?! すぐに教室に戻りなさい!」
八原 篝(ka3104)が慌てて追いかけ、厩舎で馬に鞍を乗せたばかりの2人を捕まえる。
何をするつもりだったのかと訊ねる篝に、リズがシュンともせずに答えた。Volcaniusを持ち出した同じ班の仲間たちを説得し、連れ戻しに行くのだと──
「本気なの? 既にハンターたちが対応に入っている。戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれないのよ?」
「彼らは私の班員です。共に厳しい演習を潜り抜けてきた『戦友』です。放ってはおけません」
きっぱりと言い切るリズをハーマンが意外そうに見返した。元々の彼女は自身の成績にしか興味がないタイプの班長だったのだが……
「……若さとは素晴らしきものであるな」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はそう感嘆の吐息を漏らした。リズといい、大公派の学生たちと言い、行動力と熱量がまるで違う。……かつては自分にも確かに存在したもの。いつの間にか失くしてしまったもの── ハンター適正を得てまだまだ若いと自分では思っていたが、このように若者たちの『暴走』を目の当たりにするにつけ、やはり自分も年を取ったのであるな、と痛感させられる……
「だが、連中がいかに自分の正義を唱えようと、武威を以って恫喝しようとした時点でやはり暴挙と言わざるを得ん。その授業料は高くつく。行けばお前たちにも及ぶかもしれんぞ?」
それでも、と決意の瞳を向けるリズにミグは改めて嘆息した。そして、厩舎の横にとめてあった自身の魔導バイクに歩み寄ると、彼女に向かって予備のヘルムを放り渡す。
「……え?」
「私たちも一緒に行くってことですよー! 先生たちからは、Volcaniusが演習場から出なければ何とか取り繕ってみせるとの言質を頂いていますから!」
両肩の前で拳をギュッと握りながら、笑顔で片目を瞑って見せるパール(←ウィンクと呼ぶにはぎこちない)
ミグとパールが同時に同僚を振り返り。篝は大きく、大きく息を吐いた。
「はあ……わかったわよ。覚悟が揺らがないというなら止められないしね。……私が先行して進路の安全を確認する。本当に危なくなったら逃げなさいよ?」
かくして、リズとハーマンはハンター3人と共に出発した。
地面に残されたゴーレムの足跡を追い…… やがて、遠雷の如く轟く砲声を聞き、状況を確認するべく小高い丘へと進路を変える。
「あれは……近接信管ですか? これはまた面倒そうな……」
「陣形は鶴翼か…… 互いに死角を補い、正面の敵に攻撃を集中する為、ね。その工夫だけは認めるわ」
既に戦闘は中盤に差し掛かっていた。上空を旋回する飛竜の情報支援の下、両翼の隊列にCAMが2機ずつ喰い込んでいた。生徒たちは工夫を凝らして『接近されたら何もできない』砲戦機の短所に対応してはいたが、こうも彼我が入り乱れると面制圧という長所も発揮できない。
「時間はもうあまりないわよ。あの陣形だと指揮官は中央にいるはずだけど……」
「見よ。戦場の端っこに動かぬゴーレムがおる。まずはあれらから口説き落としていくのがよかろう」
篝やミグの言を受け、一行は一気に丘を下った。CAMの激しい攻勢に晒されている為か、こちらに気付く者はなかった。
「クッキー! あなたはここで周辺警戒を。『有事』の際には紅水晶を敷設した後、ボクの方まで下がってください」
動いてないゴーレムと本隊の間に割り込み、愛馬を棹立ちにして止めたパールがそう指示を出し。渋い表情で頷いたユキウサギのクッキーがピョンと馬から飛び降りて、苦無と杖を手に「ここから一歩も進ませない」と言った風情でその場に佇立する。
武力行使をしてなかった2台のゴーレムの操作手はナイジェルとトムだった。転げるようにミグのバイクから降りたリズが2人に走り寄る。
「リズ!? どうしてここへ……?!」
「あなたたちを迎えに来たに決まっているじゃない!」
その様子を見てこっちは大丈夫そうだと判断したハンターたちは、他の操作手たちの説得に向かった。
CAMとの戦闘中に突然、間近に入り込まれて驚愕する操作手たち。反撃をする間もあればこそ、あっという間に身柄を押さえられてしまう。
「学生のクセに酔っ払ってんじゃないわよ。目ぇ醒ましなさい! アンタ等のやろうとしているのは、大勢の人々を人質にとって脅迫するって事でしょうがッ!」
操作手の腕を後ろ手に捻り上げ、地面に押さえつけて無力化しながら、篝がぺしっと生徒の頭を叩く。
「せ、先生、それは違う! 僕たちはただ大公閣下を支持する者たちがここにもいると示そうと……!」
「違わないわよ。いえ、どちらにせよあなたたちは処罰される。居場所もなくなってしまうかもしれない」
え? と身体を固まらせる生徒たちに、パールが代わって説明した。
「皆の主張がどうあれ、演習場を出た瞬間にその行動は武力蜂起と見做される、ってことですよう。せっかく新設されたばかりの砲兵科も取り潰しになりかねない……」
「そなたらが今回の事で不満なのは理解しよう。だが、これはいけない。自分たちの言葉に重みを持たせる為の示威行動であろうが、意志を押し通す為に武力を持ち出した時点でデモという域を超えてしまった」
ミグは背後のゴーレムに親指を向けて続ける。
「案山子のつもりだったとしても、あれは歴とした兵器だ。ほんの些細なきっかけで事態が暴動に発展したら、取り返しのつかないことになる。そして、そのような事態は意外と簡単に起こり得る。実際、こうして起こってしまった」
●
魔術師然とした外装のCAMが突っ込んでくるのを見て、操作手は「わわ……ッ!」と慌ててゴーレムにキャニスター弾を装填させた。
突進して来る敵に砲口を向け、水平射撃で近接戦用の散弾をぶっ放す。しかし、そのR7──『ウィザード』のパイロット・エルは敵の有効射程に入る直前でスラスターを逆噴射して機を停止させた。装甲の表面に弾ける金属音──機体前面に魔法陣を展開したウィザードが『アースバレット』を投射して、岩の礫で以ってゴーレムの頭部を砕き割る。
「くそおぉぉ……!」
敵を射程に入れるべく、操作手が石の巨兵を突進させると同時に、エルもまたスラスターを噴射して機体を前へと飛び出させた。カウンターで瞬く間に縮まる距離──操作手が「え?」と呟いた時には時すでに遅かった。退がられぬよう敵の足を踏み付けて、エル機が振るった錬機剣の光の刃でゴーレムの砲身とそれを支える右腕部とを斬り飛ばす……
「右翼のVolcanius全ての沈黙を確認。残った機体は……なぜか戦闘を放棄しています」
エル機が武装を突撃砲へと変更しながらサブカメラをズーム。止まったゴーレムの足元にミグ、パール、篝の姿を映す……
「大義の為なら命なんて、とか思ってんのかもしんないけどさ。もっと自分の事を大事にしなさいよ」
「今ひとたび矛を収め、基本に立ち返るがよい」
篝とミグの説得を受けて、項垂れた生徒たちがゴーレムの操作を放棄する。
「お前たち……裏切るのか!?」
少し離れた場所にいた別の操作手がそれに気づき、砲口をこちらへ向けた。その瞬間、彼我の間に弾ける紅水晶の赤い光──待機していたクッキーが間髪入れず、紅水晶を展開して視線と射線を遮断したのだ。
「ゴーレムを盾にしつつ後退。急いで!」
「クッキー!」
叫ぶ篝の横をすり抜け、ユキウサギの元まで戻ったパールが相棒の名を呼んで……赤光の中から戻って来たその姿に手を伸ばして馬上へ引っ張り上げる。
「逃がすかよ……!」
叫ぶ操作手に向かってパールは長弓を振り向けて、馬上から立て続けに矢を放ってその頭を抑えつつ、その場からの離脱を図る。
「クッキー、紅水晶を連続展開!」
走るその背にポツポツと展開される赤き遮蔽。構わず砲撃を放とうとしたゴーレムは、しかし、側面から突っ込んで来たエル機の体当たりを受けて轟音と共に転倒する……
「レイアより全機。敵鶴翼中央部の一部が戦場からの離脱を図っている。直ちに急行されたし」
最初の突撃以降、上空からの観測に徹していたレイアがその動きに真っ先に気が付いた。上空──神の視点から戦場の全てを見下ろす観測機の存在は、敵の動きに対して一歩も二歩も早く味方の対応を可能とする。素早く観測に方針を転換したレイアの功だ。
飛竜の背から眼下を見下ろし、地上の味方を敵軍へと誘導するレイア。唯一、即応が可能であったレベッカ機が再びのハイパーブーストで弾ける様にそちらへ迫る。
「行ってください。ここは私が抑えます!」
それに気づいたリュシアンが、残る味方と学生リーダーを逃がす為に殿軍に残った。意気に感じたもう1機もその場に残り、迫るレベッカ機へ向けて文字通りの弾幕を張る……
「……やむを得ない。少々手荒にいくぞ」
レイアは飛竜の首に手を置いてそう言うと、逃げる敵の前方に回り込むよう指示を出した。そして上空から逆落としで地上すれすれまで降下すると、敵の操作手のすぐ頭の上をフライパス。羽ばたきによる風圧で地面へ転がしつつ後ろへと飛び抜ける……
「レイア、あいつ、また無茶をして……!」
再び上昇へと転じる飛竜に向かって放たれる砲撃──それを見やってリューが唸る。
「行ってください。ここは私一人で抑えられます」
同じく敵左翼でゴーレムと戦うハンスがリューに対して宣言した。同時に、大剣『獄門刀』を正眼に構えてピタリと動きを止めるハンスの機体── 戦場には似つかわしくない、水を打った様な静寂に、戸惑っていた2機のゴーレムが同時にキャニスター弾を撃ち放ち。直後、円を描く様なすり足でそれを躱したハンス機が瞬く間に2機の間に肉薄。目にも止まらぬ剣閃で以って2機の砲を、肩を、肘関節を立ちどころに叩き折る。その機動は正に『縦横無尽』──一級の操縦士でなければ再現不可能な剣戟だ。
「っ! 分かった。ここは任せた!」
返し、敵リーダーたちに向かって一目散に駆け出すリュー機。その背部カメラに、砕けた2機を後置し次の敵へと向かったハンス機が、その『操作手たちに』対して先と同じく『縦横無尽』な斬撃を浴びせ掛ける光景が映し出された。
「ちょ、何やってんのお!?」
「安心してください」
「何をっ!?」
「峰打ちですよ」
「峰って何!?」
そんな大剣ぶち当てておいて……と言いかけたリューは目を瞠った。地面に転がされて呻く操作手たちは……その全員が生きていた。
24ポンド砲を構えた眼前のゴーレムを、レベッカ機が縦薙ぎに振るった大鎌が真一文字に斬り裂いた。
砲を固定した右肩口から脇の下へ掛けての半ばまで── 断ち割れんばかりに斬り裂いたその鎌の柄を、しかし、『瀕死』のゴーレムの右手が掴み…… 直後、その背後から回り込んで来たリュシアン機が真横から手持ち式の試製20ポンド施条砲をゼロ距離射撃でぶっ放す。
「ハッ! やる……とでも言わせる気かよ!」
柄を掴んだゴーレムの半身ごとそれを引き断ちつつ、その勢いのままリュシアン機に向き直るレベッカ機──
その動きが一瞬、止まった。リュシアンは地上ではなくゴーレムの肩に乗っていた。彼はハンターたちの『縛り』に気付いていた。生徒たちを傷つけられないという依頼上の制約を──
「しゃらくさい!」
レベッカは止まらなかった。発砲する敵の長砲身を大鎌の柄で跳ね上げて。そのままクルリと回した石突きでもってゴーレムの喉を突き上げる。
ゆらり、と倒れるゴーレムから飛び降り、受け身を取って転がって……身を起こして操作しようとしたリュシアンの、そのゴーレムの上半身の表面を、一足早く踏み込んだレベッカ機が踏み砕く。
「まだやるか!? これ以上の手加減はできないぞ!」
暴れるゴーレムを足の下に置いたR6にそう大鎌を突きつけられて。リュシアンは微苦笑で嘆息しつつ、両手を上げて降伏の意を示した。
一方、リュー機──
威力を抑えて精度を高めた斬艦刀による一撃が、学生リーダー機の膝関節を叩き割った。ズシン、と横から崩れ落ちるVolcanius…… 残った最後の健在な1機に向けてリューが告げる。
「皆、脚を潰させてもらった。これで王都へは行けないぞ」
降伏を促すリュー。しかし、パニックに陥った操作手は震える指でゴーレムを操作して……
向けられた砲口に、リューはハッと背後を見た。そちらには今しがた無力化したばかりのゴーレムと……その操作手たるリーダーがいる。
「──っ!」
機をリーダーに多い被らせるリュー。直後、放たれた散弾が装甲板を激しく乱打する。直後、リューは機体を反転させると砲撃したゴーレムに飛び掛かった。発砲する砲を左手で押し上げ、押し倒し。拳で大砲を殴り潰すと、全ての学生たちに向かって叫ぶ。
「この馬鹿野郎どもが! 守るべき国の中で武力を誇示しようなんざ愚の骨頂だぜ! 武威は自国の民に安堵を与える為のもんだ。威嚇し、萎縮させる為のもんじゃ、断じてない!」
かくして、全てのゴーレムが無力化され、大公派学生たちによる『演習』は終結した。
無傷のまま投降したVolcaniusは5台。11台が半壊し、その中にはリュシアンが使った試作砲装備の高レベル機が含まれる。
「ハーマン君、漢を上げましたねー。トム君は……善人ですー」
「え? それって褒められてます……?」
生徒たちの無事を喜び、或いは叱るパールらハンターたち。それを見ながら篝は思った。
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/13 14:19:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/12 19:01:02 |