ゲスト
(ka0000)
沼地に潜むモノ
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/18 12:00
- 完成日
- 2018/06/20 15:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●沼地の村
その村は、沼地の上で暮らす者たちが集まってできた村だった。
木の杭と板を使って足場を作り、その足場が道や家の土台となる。
家は原始的な作りの家で、沼地でいくらでも手に入る泥を固めて壁にしている。
当然、沼地の上では農耕は行えない。
代わりに村の人間たちは、沼地に棲む生き物や、その回りの動物たちを狩り、他の村に出向いて農作物と交換することで暮らしていた。
ある日、いつもと同じはずの沼地に異変が起きた。
「ううむ……獲物が見つからんな……何故だ?」
狩りに出た村の戦士たちは、普段よりも獲物がはるかに少ないことに、不思議がっている。
普段ならばナマズや魚、貝などが取れるのだが、小さな獲物が残っているだけで、大きな獲物が姿を消しているのだ。
たまに現れる沼地を渡る動物も、こんな日に限って現れない。
戦士の一人が沼の上の足場を歩き、沼を観察する。
いつも通り透明度の低い水は、生物がいたとしても中々分からない。
しかし沼地での狩りに慣れている彼らならば、生き物を見つけるのは難しくなかった。
普段ならば。
「うおっ」
戦士たちの一人が、急に焦った声をあげてたたらを踏み、よろめいた。
「どうした?」
仲間の一人に、よろめいた男は何でもないとジェスチャーで示す。
「足場の板が一つ外れただけだ」
「だけではないだろう。他にもボロボロ外れては困る。調べる必要があるな」
「沼に真っ逆さま、なんて未来は避けたいよ、俺は」
「補強が必要か?」
「それをこれから調べるんだよ」
どうやら今日は狩りではなく、足場の修繕作業になりそうだ。
これも大事な仕事である。疎かにしていると足場が壊れ、道や建物まで崩れてしまう。
「おい、みろ。シマウマの群れが沼地を渡ろうとしてるぞ」
「準備しろ! 一匹狩るぞ!」
「足場はどうするんだよ!」
「そんなものは後だ後! 狩りが優先だ!」
男たちが動こうとした矢先にそれは起きた。
シマウマたちが一斉に一方を向き、渡る速度を上げ始める。
「なんだ?」
「向こうに何かいるのか?」
「見ろ! 何かいるぞ」
水面に、よく見ると細長い大きな棒のようなものが浮いている。
いや、それは目の錯覚だ。
棒のようなものは、鰐の顔だった。
鰐の鼻から目の部分だけが、水面に顔を出している。
「待て、かなり大きくないか?」
男のうちの一人が、水面に出ている顔の一部を見て全体の大きさを逆算し、その結果に青くなる。
次の瞬間、不運にも鰐の目の前を気付かずに横切ってしまったシマウマが、素早く襲い掛かった鰐に一瞬で捕食されてしまった。
五トンを超える力で噛み付かれたシマウマは、新たに現れた二匹目の鰐に噛み付かれ、さらに水中で身体を捻る鰐たちのデスロールによって、身体を引き千切られ完全に絶命した。
仲良く二つになった肉を分け合うように同じ仕草で飲み込む鰐は少しユニークだったが、目撃した男たちにとってはそんな感想など抱いている場合ではない。
「くそ、鰐かよ。どこから入ってきたんだ」
「いや、よく見ろ。ありゃ雑魔だ」
「とにかく、排除しないと危険過ぎて狩りができんぞ」
「ハンターズソサエティに頼むのはどうだ?」
「それがいい。そうしよう」
あまり他の地域に行った経験がない男たちだったが、それでもハンターズソサエティのことは知っている。
自分たちの手に負えない雑魔鰐の駆除を、ハンターズソサエティに依頼することにしたのだった。
●ハンターズソサエティ
普段のように依頼を整理していた受付嬢ジェーン・ドゥは、ある依頼に目を留めた。
特に優先するべきでもなければ、敬遠されているというわけでもない、ごく普通の依頼だった。
本来なら放っておくジェーンだったが、幸いといっていいのかその日は手が空いていたため、ハンターたちに回すことに決めた。
「依頼です」
お得意のフレーズとともに現れたジェーンを、ハンターたちが迎える。
「沼地の村に出没した巨大鰐の雑魔を退治してください。数は二匹。その強暴さと大きさ、そこそこ大きい野生動物をあっさりと殺す戦闘力の高さから、村の人間たちはかなりの脅威を感じているようです」
ジェーンは依頼内容をよどみなく説明していく。
「村は沼地の上に建てられた木製の足場でできており、木の板を張って作った道で建物と建物が繋がれています。村を囲むように道が外側を走り、さらに東西南北に分断するように斜めに延びています。ちょうど空から見ると、四角の中にバツがあるように見える道ですね。建物は道の隙間を埋めるように建てられています」
ペンを手に取ったジェーンは、紙に□と×の記号を書いてみせる。
営業スマイルを顔いっぱいに浮かべて愛想を振り撒いたジェーンは、頃合と感じ話を締め括りにかかった。
「沼地の移動は村の小船が利用できます。別の方法を考えるのもいいでしょう。ハンターの皆様の参加を期待しております」
最後に、ジェーンは深く頭を下げた。
その村は、沼地の上で暮らす者たちが集まってできた村だった。
木の杭と板を使って足場を作り、その足場が道や家の土台となる。
家は原始的な作りの家で、沼地でいくらでも手に入る泥を固めて壁にしている。
当然、沼地の上では農耕は行えない。
代わりに村の人間たちは、沼地に棲む生き物や、その回りの動物たちを狩り、他の村に出向いて農作物と交換することで暮らしていた。
ある日、いつもと同じはずの沼地に異変が起きた。
「ううむ……獲物が見つからんな……何故だ?」
狩りに出た村の戦士たちは、普段よりも獲物がはるかに少ないことに、不思議がっている。
普段ならばナマズや魚、貝などが取れるのだが、小さな獲物が残っているだけで、大きな獲物が姿を消しているのだ。
たまに現れる沼地を渡る動物も、こんな日に限って現れない。
戦士の一人が沼の上の足場を歩き、沼を観察する。
いつも通り透明度の低い水は、生物がいたとしても中々分からない。
しかし沼地での狩りに慣れている彼らならば、生き物を見つけるのは難しくなかった。
普段ならば。
「うおっ」
戦士たちの一人が、急に焦った声をあげてたたらを踏み、よろめいた。
「どうした?」
仲間の一人に、よろめいた男は何でもないとジェスチャーで示す。
「足場の板が一つ外れただけだ」
「だけではないだろう。他にもボロボロ外れては困る。調べる必要があるな」
「沼に真っ逆さま、なんて未来は避けたいよ、俺は」
「補強が必要か?」
「それをこれから調べるんだよ」
どうやら今日は狩りではなく、足場の修繕作業になりそうだ。
これも大事な仕事である。疎かにしていると足場が壊れ、道や建物まで崩れてしまう。
「おい、みろ。シマウマの群れが沼地を渡ろうとしてるぞ」
「準備しろ! 一匹狩るぞ!」
「足場はどうするんだよ!」
「そんなものは後だ後! 狩りが優先だ!」
男たちが動こうとした矢先にそれは起きた。
シマウマたちが一斉に一方を向き、渡る速度を上げ始める。
「なんだ?」
「向こうに何かいるのか?」
「見ろ! 何かいるぞ」
水面に、よく見ると細長い大きな棒のようなものが浮いている。
いや、それは目の錯覚だ。
棒のようなものは、鰐の顔だった。
鰐の鼻から目の部分だけが、水面に顔を出している。
「待て、かなり大きくないか?」
男のうちの一人が、水面に出ている顔の一部を見て全体の大きさを逆算し、その結果に青くなる。
次の瞬間、不運にも鰐の目の前を気付かずに横切ってしまったシマウマが、素早く襲い掛かった鰐に一瞬で捕食されてしまった。
五トンを超える力で噛み付かれたシマウマは、新たに現れた二匹目の鰐に噛み付かれ、さらに水中で身体を捻る鰐たちのデスロールによって、身体を引き千切られ完全に絶命した。
仲良く二つになった肉を分け合うように同じ仕草で飲み込む鰐は少しユニークだったが、目撃した男たちにとってはそんな感想など抱いている場合ではない。
「くそ、鰐かよ。どこから入ってきたんだ」
「いや、よく見ろ。ありゃ雑魔だ」
「とにかく、排除しないと危険過ぎて狩りができんぞ」
「ハンターズソサエティに頼むのはどうだ?」
「それがいい。そうしよう」
あまり他の地域に行った経験がない男たちだったが、それでもハンターズソサエティのことは知っている。
自分たちの手に負えない雑魔鰐の駆除を、ハンターズソサエティに依頼することにしたのだった。
●ハンターズソサエティ
普段のように依頼を整理していた受付嬢ジェーン・ドゥは、ある依頼に目を留めた。
特に優先するべきでもなければ、敬遠されているというわけでもない、ごく普通の依頼だった。
本来なら放っておくジェーンだったが、幸いといっていいのかその日は手が空いていたため、ハンターたちに回すことに決めた。
「依頼です」
お得意のフレーズとともに現れたジェーンを、ハンターたちが迎える。
「沼地の村に出没した巨大鰐の雑魔を退治してください。数は二匹。その強暴さと大きさ、そこそこ大きい野生動物をあっさりと殺す戦闘力の高さから、村の人間たちはかなりの脅威を感じているようです」
ジェーンは依頼内容をよどみなく説明していく。
「村は沼地の上に建てられた木製の足場でできており、木の板を張って作った道で建物と建物が繋がれています。村を囲むように道が外側を走り、さらに東西南北に分断するように斜めに延びています。ちょうど空から見ると、四角の中にバツがあるように見える道ですね。建物は道の隙間を埋めるように建てられています」
ペンを手に取ったジェーンは、紙に□と×の記号を書いてみせる。
営業スマイルを顔いっぱいに浮かべて愛想を振り撒いたジェーンは、頃合と感じ話を締め括りにかかった。
「沼地の移動は村の小船が利用できます。別の方法を考えるのもいいでしょう。ハンターの皆様の参加を期待しております」
最後に、ジェーンは深く頭を下げた。
リプレイ本文
●戦闘開始
沼地の村は俄然騒がしくなっていた。
銛を持った村の戦士たちが、雑魔鰐を倒そうと小船で沼地に漕ぎ出そうとしているのだ。
彼らの危険な無謀行為を止めて村の防衛を頼んだハンターたち一行は、事前に話し合っていた通りに動き出す。
警戒する戦士たちで騒がしい村とは対照的に、沼地は静まり返っている。
張り詰めた空気が漂っていることから、どこかに雑魔鰐が潜んでいるのは確かなようだ。
「村の付近で戦うのは危険だ! 村から離れて陸地に誘い出すぞ!」
一番に、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が走り出した。
「なるべく時間稼いでおいて。その間に射撃のベストポジション、見つけておくから」
アルトとは別の方向に、マリィア・バルデス(ka5848)も移動を始めた。
「水上でも移動できるよう魔法で援護します! 転ばなければ噛み付かれても踏ん張れるはずです!」
アシェ-ル(ka2983)はアルトとマリィアに水上を陸地のように動くことを可能とする魔法をかけた。
「私は村の人たちに鰐の目撃地点と浅瀬になってそうな場所を聞いてきます!」
踵を返し、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は戦士たちを追いかけて村へ戻っていく。
「鰐が見つかって皆の準備ができたら突入します。それまでは待機しています」
「いつでも飛び立つ準備はできています。おびき出せたら空中から合わせますよ」
セレスティア(ka2691)とフェリア(ka2870)はひとまず鰐が見つかるまで待ち構えるつもりのようだ。
「短期決戦でいきましょう。ところで皆さん、肝心の誘引方法を考えているのでしょうか」
ビジネスライクに思考をしながら首を傾げるエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)に対し、ミモザ・エンヘドゥ(ka6804)が礼儀正しく答えた。
「肉を持った人が走って陸地まで鰐に追いかけられればいいのではないかと」
つまり、そういうことになった。
さあ、戦いの始まりだ!
●雑魔鰐を陸地におびき出す
アシェールに魔法をかけてもらい、水上歩行を可能にしたアルトは、まずは集落の周囲を一周し鰐の姿がないことを確認した。
水中に隠れているなら分からないが、それでもアルトを狙って寄ってはくるだろう。
鰐の注意を引けるように適度に加減して走りながら、 魔導ワイヤーで携帯した肉を縛り、適当に水面に投げ入れる。
「私自身と、この肉。どちらかに食いついてくれるといいが」
そんな怖いことをいうアルトは、当然自分が狙われても食いつかせるつもりは毛頭ない。
回避して、そのまま誘導する腹積もりだった。
狙撃者たるマリィアも、大型魔導銃を担いで真っ直ぐ陸地へと向かっていた。
普通に考えて、射撃中に安定した姿勢を保つという意味でも、射撃に適した場所は地面の上しかあり得ない。あとは見晴らしが良くて、現れた雑魔鰐を狙いやすい場所がいい。
「……正確な場所は、鰐の居場所が確定してから決めることにしよう」
今はとにかく移動が必要だと考え、マリィアは足を動かす。
水上なのに、まるで地上のようなしっかりとした感触が、靴越しの足の裏にある。
彼女の場合はアルトのように走る速度を加減する必要はない。
鰐の不意討ちを警戒する意味もこめて、マリィアは沼地を疾走する。
村では、ルンルンが戦士たちから目撃場所と沼地が浅瀬になっている場所を無事聞き出すことに成功していた。
聞きに来た理由を戦士たちに尋ねられ、ルンルンはこう告げた。
「陸地まで誘き寄せられればいいけど、無理な時は浅瀬も利用しようかなと思って」
戦士たちはルンルンの目の付け所を褒め称えた。
ルンルンはとてもいい気分である。ルンルン忍法の使い手に決してウカツなどない。
ドヤ顔のままルンルンは皆の下へ合流しに行った。
魔導短伝話を使うような距離でもなく、いちいち連絡するよりもさっさと戻った方が早かったのである。
雑魔鰐が出るまで、アシェールにはあまりやることがなかった。
魔法で水上を歩けるようにするのも、タイミングを考えなければ途中で効果が切れて水中に落ちる危険性があるし、そもそも水上に出ること自体が不確定要素に繋がるため、囮を務めるアルトにとって邪魔になる。
なので、アシェールは村の足場の上から沼地を観察していた。
沼地の水は濁っていて、底が見えない。これでは浮上するまで鰐の姿も見えないだろう。
そんな状態だということは、水が泥を含んでいることを意味している。
「間違っても泥まみれにならないように気を付けないと」
一瞬リアルブルーの概念である『フラグ』という単語が頭に浮かんだが、アシェールは気にしないことにした。
セレスティアはフェリアとともに付近の警戒を続けていた。
雑魔鰐は二匹いるのだし、油断した隙に村の真下に潜られて村の土台を叩き壊されれば大惨事になる。
とはいえ、水中は濁って見えないし、水面に顔を近付けるような行為もいきなり鰐が飛び出してくることを考えると危険なので行えない。
そのため、セレスティアは雑魔鰐が出てから取る行動を確認している。
彼女の仕事は怪我人の回復と味方の護衛が優先だ。
「住まう人にとっては大変な事ですよね。被害を出さずに倒せればいいですけど……」
早く鰐の姿が確認できることをセレスティアは願った。
何だかそわそわしている様子のセレスティアを、フェリアは微笑みながら見やる。
フェリアの方はあまり意識していないが、セレスティアはフェリアの妹弟子に当たる。
セレスティアは王国、フェリアは帝国と家柄こそ違うが、同じクリムゾンウエスト生まれで仲が良い二人。
非常時の連携はもちろん、普段の関係も良好だ。
「危ないですから、水面から離れてください」
先ほどから、フェリアは興味本位で水辺に近付こうとする村人たちを帰らせている。
そうしていながらも、いつでも盾に飛行魔法を施して飛び乗ることは可能だった。
村の中からエラが出てきた。どうやら彼女も、ルンルンと同じく待機時間を利用して聞き込みを行っていたようだ。
特に知りたかったのは獲物に襲い掛かる際の様子、襲来の事前兆候があるかどうか、鰐たちの行動原理の有無などである。
これらの情報には値千金の価値がある。
満足そうな表情を見ると、欲しい情報は得られたらしい。
歩く動作にも迷いは見られない。
「……見つかり次第私も出ましょうか」
連絡を取りながら、エラは一人ごちた。
故郷の習慣に従い、ミモザは跪いて祈りを捧げている。
歪虚の侵攻が比較的少ない地の生まれだが、過去の大規模な侵攻では戦士として戦ったこともああり、神官としては敬虔な女性である。
神官といっても教会に勤めるような神官ではなく、どちらかといえば辺境の部族で祭事を執り行う神官にイメージとしては近い。
実際、辺境にあるエルフの集落生まれなのでそう間違ってもいないはずだ。
「……機は熟したようです。皆さん、ご準備を」
ミモザが立ち上がると同時に、遠くで水しぶきが上がった。
ついに巨大鰐が出たのだ。
●巨大鰐との戦い
噛み付きを余裕の表情で回避したアルトは、背後から飛び出してきた顎門に目を丸くした。
「……おいおい、よく見たらもう一匹いるじゃないか。仲良しだね。それとも私が人気者なのかな」
軽口を叩きつつ、二匹目の噛み付きを避けて距離を取るアルトの動作は普段通り華麗なものだ。
どうやら雑魔鰐たちは小さい肉よりも食べ応えがありそうなアルトの方が気に入ったらしい。
しかし、肉の方にも意識を多少向けている様子だ。
ワイヤーの肉に雑魔鰐が噛み付けば、ワイヤーが引っ張られ動きを阻害されるので今のように余裕を持って回避するのは難しくなるだろう。
そのことを本能で悟っているのかもしれない。
しかしそれも、噛み付くことができればの話。
海のように常時波が立っているわけでもない沼地ならば、足を取られる心配は少なく、巨大鰐に近付きすぎなければ水面はいたって穏やかで走るのに不都合はない。
アルトは味方の援護もあり、無事に二匹とも地上に誘導することに成功した。
ただ成功するだけでなく、自分でも適度に攻撃を加えて雑魔鰐を興奮させ、おびき寄せやすくしている。
これなら一人でも上手くいっていたかもしれない。さすがである。
そして、最初に盛大に雑魔鰐が水しぶきを上げた時点で、他の面々は行動を開始している。
タイミングを見逃すルンルンではなかった。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術! ……符を伏せてターンエンドです」
誘導先の陸地に先回りしていたルンルンが、雑魔鰐の進行方向に仕掛けておいたのだ。
ルンルンの目論見通り、符は効果を発揮する。
一匹がそれに引っかかり、展開された結界の効果で動けなくなって苛立たしげに身体をくねらせ、尻尾を振り回す。
闇雲に抜けようとする雑魔鰐だが、ルンルンの符はそう簡単に獲物を逃がすものではない。足を止める、文字通りのトラップカードなのである。
符の結界に阻まれ、雑魔鰐はもう動けない。
無事なもう一匹へ、今度は自然の風だけではない風でマントをはためかせたアシェールがちょっかいをかけた。
「ここまで来て逃がしたりしませんからね!」
アシェールが魔法で生み出した光の杭が、もう一匹の雑魔鰐を地面に縫い止める。
雑魔鰐の虚を突いた見事な一撃だった。
何しろ、アシェールは雑魔鰐の背後から水面を走ってやってきたのだ。
まさに雑魔鰐にしてみれば青天の霹靂、完全なる死角からの攻撃である。
しかも反転されて噛み付かれる可能性も考え、マントの篭められた力を解放しておく用意周到振りだ。
これで、もう一匹も動けなくなった。
続いてセレスティアが陸地に辿り着く。
「二匹とも罠に掛かったのは意外ですけど、警戒しなくていい分ラッキーですね」
当然のように彼女も水面を駆けてきた。どちらかの仕業かは分からないが、アシェールとルンルンがピースして意思表示している。
セレスティアは闇の刃を駄目押しとばかりに打ち込み移動封じをおかわりし、思いがけないタイミングで雑魔鰐が暴れても対処できるように身構えた。
もはや雑魔鰐には万が一のチャンスもない。まな板の上の鯉も同然である。
そういう意味では、もがく雑魔鰐二匹は水揚げされた魚のように見えるかもしれない。
まあ、大きさのスケールが違い過ぎるけれども。
盾にお嬢様座りし、フェリアが飛行してやってくる。自分がいた場所や村の足場にも警戒を向けていたため移動するのが遅れたようだ。
二匹が別々のタイミングに襲ってくるのを予想していたので、簡単に終わりそうな結果を見てどことなく嬉しそうである。
面倒なことになるよりも、単純に済む方がいい。
フェリアまで来たことで、もう雑魔鰐は二匹とも死ぬまで一生動けないのが決定した。
「何事もなく終わりそうで何よりです」
微笑んだフェリアが、雑魔鰐の一匹にワンドを突きつけ氷の矢を打ち込み行動を阻害したので、奇跡の反撃すら芽が無くなった。
小船でエラもやってきた。
皆のために、水上歩行魔法の中継地点として小船を出して守っていたのだ。
「アルト様は雑魔鰐に好かれるオーラでも出ているのでしょうか? それとも肉の効果?」
オーラ云々はともかく、囮として突出していたのと、肉の所持は理由としての信頼性は高そうである。
当然、エラはまだ滅んでいない雑魔鰐に対しての警戒は解かない。
いつでも機導術を放てるよう魔導機械に手を添えたままだ。
一匹には移動不能と行動阻害。もう一匹には移動不能のみ。となれば、エラのやることは決まっている。
わざと噛み付きを誘って雷撃を伴う光の障壁を攻勢防壁として展開し、その行動を阻害して噛み付きすら封じた。
一連の動作を終え、エラは満足そうに微笑んだ。
最後にやってきたミモザがえい、と雑魔鰐二匹の口を踏ん付ける。
「噛み付かれても困りますし、口を押さえておきましょうか」
それだけで、雑魔鰐の抵抗が驚くほど弱くなった。
踏んだのが常人なら、鰐とはいえど雑魔なのだから抵抗できただろうが、ハンターならばこの結果も仕方ない。
どうやら雑魔になっても身体の構造は元とそれほど変わらないらしい。
踏まれた挙句ミモザに魔法の矢で苛められる雑魔鰐の姿は巨大なだけにどこか哀愁を誘う。
エラがイヤリングの通信機能を使い、マリィアに連絡を入れ始める。
そしてエラ以外の全員が、一方向に視線を向けた。
視線の先、遥か向こうには、マリィアがいる。
準備は全て整っている。
通信が終了した。
一人、ひたすら機会が来るのを待っていたマリィアは、不意にぶるりと身体を奮わせる。
恐怖ではなく武者震いだ。
「……良いとこ取りで申し訳ない気もするが、せっかくのお膳立てだ。盛大に撃たせてもらうよ」
地面に伏せて射撃体勢を取っていたマリィアが呟き、満を持して長距離狙撃を敢行する。
銃声は轟音となり、轟音は獣の咆哮を思わせた。
放たれた銃弾が、味方を避けて正確に雑魔鰐に突き刺さる。
衝撃とともに肉と骨を貫いて反対側に抜けた弾丸は二匹目の雑魔鰐にも着弾し、二匹の肉片を盛大にばら撒きながら地面を穿ち、砂煙を上げた。
覚醒者用の武装とはいえ、とんでもない威力である。
まるで砲弾を受けたかのように大穴を穿たれ、衝撃でほぼ真っ二つに千切れかけた二匹の雑魔鰐は、ゆっくりと塵になって消滅した。
●戦闘終了
どうせついでなので、事後警戒がてら壊れそうな村の足場を補修して帰ることになった。
「思ったより楽させてもらったからね。構わないよ」
恐縮する村民たちに、アルトが笑う。
淡々と釘にトンカチを打ち付けながらも、マリィアは平然としている。
「ぶっ放してスカッとしたし、いいわよこれくらい」
「肉、残りませんでした……。成り立てじゃなかったみたいです。残念」
期待が外れたアシェールは可愛らしく拗ねている。
「村人さん達の大切な足場を守るのも、正義のニンジャの勤めですからっ!」
ルンルンはむしろ楽しそうだ。
「これもアフターサービスの一環ですので、お気になさらず」
言いだしっぺらしく、セレスティアは率先して作業をしている。
「たまにはいいですね、こういうのも」
大工染みたことをしていてもどこか優雅なのは、フェリアがお嬢様だからだろうか。
「ふむ。このメンバーならすぐ終わらせられるな」
進行状況を見たエラは、猛然と作業の速度を上げた。彼女は残業したくないので倍速する主義である。
「これで最後ですね」
ミモザが最後の補修を終える。
村の足場はすぐにも崩れそうだった箇所が無くなったので、これならば後は村民だけで何とかなるだろう。
今度こそ全てが終わり、ハンターたちは帰途に着いた。
沼地の村は俄然騒がしくなっていた。
銛を持った村の戦士たちが、雑魔鰐を倒そうと小船で沼地に漕ぎ出そうとしているのだ。
彼らの危険な無謀行為を止めて村の防衛を頼んだハンターたち一行は、事前に話し合っていた通りに動き出す。
警戒する戦士たちで騒がしい村とは対照的に、沼地は静まり返っている。
張り詰めた空気が漂っていることから、どこかに雑魔鰐が潜んでいるのは確かなようだ。
「村の付近で戦うのは危険だ! 村から離れて陸地に誘い出すぞ!」
一番に、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が走り出した。
「なるべく時間稼いでおいて。その間に射撃のベストポジション、見つけておくから」
アルトとは別の方向に、マリィア・バルデス(ka5848)も移動を始めた。
「水上でも移動できるよう魔法で援護します! 転ばなければ噛み付かれても踏ん張れるはずです!」
アシェ-ル(ka2983)はアルトとマリィアに水上を陸地のように動くことを可能とする魔法をかけた。
「私は村の人たちに鰐の目撃地点と浅瀬になってそうな場所を聞いてきます!」
踵を返し、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は戦士たちを追いかけて村へ戻っていく。
「鰐が見つかって皆の準備ができたら突入します。それまでは待機しています」
「いつでも飛び立つ準備はできています。おびき出せたら空中から合わせますよ」
セレスティア(ka2691)とフェリア(ka2870)はひとまず鰐が見つかるまで待ち構えるつもりのようだ。
「短期決戦でいきましょう。ところで皆さん、肝心の誘引方法を考えているのでしょうか」
ビジネスライクに思考をしながら首を傾げるエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)に対し、ミモザ・エンヘドゥ(ka6804)が礼儀正しく答えた。
「肉を持った人が走って陸地まで鰐に追いかけられればいいのではないかと」
つまり、そういうことになった。
さあ、戦いの始まりだ!
●雑魔鰐を陸地におびき出す
アシェールに魔法をかけてもらい、水上歩行を可能にしたアルトは、まずは集落の周囲を一周し鰐の姿がないことを確認した。
水中に隠れているなら分からないが、それでもアルトを狙って寄ってはくるだろう。
鰐の注意を引けるように適度に加減して走りながら、 魔導ワイヤーで携帯した肉を縛り、適当に水面に投げ入れる。
「私自身と、この肉。どちらかに食いついてくれるといいが」
そんな怖いことをいうアルトは、当然自分が狙われても食いつかせるつもりは毛頭ない。
回避して、そのまま誘導する腹積もりだった。
狙撃者たるマリィアも、大型魔導銃を担いで真っ直ぐ陸地へと向かっていた。
普通に考えて、射撃中に安定した姿勢を保つという意味でも、射撃に適した場所は地面の上しかあり得ない。あとは見晴らしが良くて、現れた雑魔鰐を狙いやすい場所がいい。
「……正確な場所は、鰐の居場所が確定してから決めることにしよう」
今はとにかく移動が必要だと考え、マリィアは足を動かす。
水上なのに、まるで地上のようなしっかりとした感触が、靴越しの足の裏にある。
彼女の場合はアルトのように走る速度を加減する必要はない。
鰐の不意討ちを警戒する意味もこめて、マリィアは沼地を疾走する。
村では、ルンルンが戦士たちから目撃場所と沼地が浅瀬になっている場所を無事聞き出すことに成功していた。
聞きに来た理由を戦士たちに尋ねられ、ルンルンはこう告げた。
「陸地まで誘き寄せられればいいけど、無理な時は浅瀬も利用しようかなと思って」
戦士たちはルンルンの目の付け所を褒め称えた。
ルンルンはとてもいい気分である。ルンルン忍法の使い手に決してウカツなどない。
ドヤ顔のままルンルンは皆の下へ合流しに行った。
魔導短伝話を使うような距離でもなく、いちいち連絡するよりもさっさと戻った方が早かったのである。
雑魔鰐が出るまで、アシェールにはあまりやることがなかった。
魔法で水上を歩けるようにするのも、タイミングを考えなければ途中で効果が切れて水中に落ちる危険性があるし、そもそも水上に出ること自体が不確定要素に繋がるため、囮を務めるアルトにとって邪魔になる。
なので、アシェールは村の足場の上から沼地を観察していた。
沼地の水は濁っていて、底が見えない。これでは浮上するまで鰐の姿も見えないだろう。
そんな状態だということは、水が泥を含んでいることを意味している。
「間違っても泥まみれにならないように気を付けないと」
一瞬リアルブルーの概念である『フラグ』という単語が頭に浮かんだが、アシェールは気にしないことにした。
セレスティアはフェリアとともに付近の警戒を続けていた。
雑魔鰐は二匹いるのだし、油断した隙に村の真下に潜られて村の土台を叩き壊されれば大惨事になる。
とはいえ、水中は濁って見えないし、水面に顔を近付けるような行為もいきなり鰐が飛び出してくることを考えると危険なので行えない。
そのため、セレスティアは雑魔鰐が出てから取る行動を確認している。
彼女の仕事は怪我人の回復と味方の護衛が優先だ。
「住まう人にとっては大変な事ですよね。被害を出さずに倒せればいいですけど……」
早く鰐の姿が確認できることをセレスティアは願った。
何だかそわそわしている様子のセレスティアを、フェリアは微笑みながら見やる。
フェリアの方はあまり意識していないが、セレスティアはフェリアの妹弟子に当たる。
セレスティアは王国、フェリアは帝国と家柄こそ違うが、同じクリムゾンウエスト生まれで仲が良い二人。
非常時の連携はもちろん、普段の関係も良好だ。
「危ないですから、水面から離れてください」
先ほどから、フェリアは興味本位で水辺に近付こうとする村人たちを帰らせている。
そうしていながらも、いつでも盾に飛行魔法を施して飛び乗ることは可能だった。
村の中からエラが出てきた。どうやら彼女も、ルンルンと同じく待機時間を利用して聞き込みを行っていたようだ。
特に知りたかったのは獲物に襲い掛かる際の様子、襲来の事前兆候があるかどうか、鰐たちの行動原理の有無などである。
これらの情報には値千金の価値がある。
満足そうな表情を見ると、欲しい情報は得られたらしい。
歩く動作にも迷いは見られない。
「……見つかり次第私も出ましょうか」
連絡を取りながら、エラは一人ごちた。
故郷の習慣に従い、ミモザは跪いて祈りを捧げている。
歪虚の侵攻が比較的少ない地の生まれだが、過去の大規模な侵攻では戦士として戦ったこともああり、神官としては敬虔な女性である。
神官といっても教会に勤めるような神官ではなく、どちらかといえば辺境の部族で祭事を執り行う神官にイメージとしては近い。
実際、辺境にあるエルフの集落生まれなのでそう間違ってもいないはずだ。
「……機は熟したようです。皆さん、ご準備を」
ミモザが立ち上がると同時に、遠くで水しぶきが上がった。
ついに巨大鰐が出たのだ。
●巨大鰐との戦い
噛み付きを余裕の表情で回避したアルトは、背後から飛び出してきた顎門に目を丸くした。
「……おいおい、よく見たらもう一匹いるじゃないか。仲良しだね。それとも私が人気者なのかな」
軽口を叩きつつ、二匹目の噛み付きを避けて距離を取るアルトの動作は普段通り華麗なものだ。
どうやら雑魔鰐たちは小さい肉よりも食べ応えがありそうなアルトの方が気に入ったらしい。
しかし、肉の方にも意識を多少向けている様子だ。
ワイヤーの肉に雑魔鰐が噛み付けば、ワイヤーが引っ張られ動きを阻害されるので今のように余裕を持って回避するのは難しくなるだろう。
そのことを本能で悟っているのかもしれない。
しかしそれも、噛み付くことができればの話。
海のように常時波が立っているわけでもない沼地ならば、足を取られる心配は少なく、巨大鰐に近付きすぎなければ水面はいたって穏やかで走るのに不都合はない。
アルトは味方の援護もあり、無事に二匹とも地上に誘導することに成功した。
ただ成功するだけでなく、自分でも適度に攻撃を加えて雑魔鰐を興奮させ、おびき寄せやすくしている。
これなら一人でも上手くいっていたかもしれない。さすがである。
そして、最初に盛大に雑魔鰐が水しぶきを上げた時点で、他の面々は行動を開始している。
タイミングを見逃すルンルンではなかった。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル、ルンルン忍法土蜘蛛の術! ……符を伏せてターンエンドです」
誘導先の陸地に先回りしていたルンルンが、雑魔鰐の進行方向に仕掛けておいたのだ。
ルンルンの目論見通り、符は効果を発揮する。
一匹がそれに引っかかり、展開された結界の効果で動けなくなって苛立たしげに身体をくねらせ、尻尾を振り回す。
闇雲に抜けようとする雑魔鰐だが、ルンルンの符はそう簡単に獲物を逃がすものではない。足を止める、文字通りのトラップカードなのである。
符の結界に阻まれ、雑魔鰐はもう動けない。
無事なもう一匹へ、今度は自然の風だけではない風でマントをはためかせたアシェールがちょっかいをかけた。
「ここまで来て逃がしたりしませんからね!」
アシェールが魔法で生み出した光の杭が、もう一匹の雑魔鰐を地面に縫い止める。
雑魔鰐の虚を突いた見事な一撃だった。
何しろ、アシェールは雑魔鰐の背後から水面を走ってやってきたのだ。
まさに雑魔鰐にしてみれば青天の霹靂、完全なる死角からの攻撃である。
しかも反転されて噛み付かれる可能性も考え、マントの篭められた力を解放しておく用意周到振りだ。
これで、もう一匹も動けなくなった。
続いてセレスティアが陸地に辿り着く。
「二匹とも罠に掛かったのは意外ですけど、警戒しなくていい分ラッキーですね」
当然のように彼女も水面を駆けてきた。どちらかの仕業かは分からないが、アシェールとルンルンがピースして意思表示している。
セレスティアは闇の刃を駄目押しとばかりに打ち込み移動封じをおかわりし、思いがけないタイミングで雑魔鰐が暴れても対処できるように身構えた。
もはや雑魔鰐には万が一のチャンスもない。まな板の上の鯉も同然である。
そういう意味では、もがく雑魔鰐二匹は水揚げされた魚のように見えるかもしれない。
まあ、大きさのスケールが違い過ぎるけれども。
盾にお嬢様座りし、フェリアが飛行してやってくる。自分がいた場所や村の足場にも警戒を向けていたため移動するのが遅れたようだ。
二匹が別々のタイミングに襲ってくるのを予想していたので、簡単に終わりそうな結果を見てどことなく嬉しそうである。
面倒なことになるよりも、単純に済む方がいい。
フェリアまで来たことで、もう雑魔鰐は二匹とも死ぬまで一生動けないのが決定した。
「何事もなく終わりそうで何よりです」
微笑んだフェリアが、雑魔鰐の一匹にワンドを突きつけ氷の矢を打ち込み行動を阻害したので、奇跡の反撃すら芽が無くなった。
小船でエラもやってきた。
皆のために、水上歩行魔法の中継地点として小船を出して守っていたのだ。
「アルト様は雑魔鰐に好かれるオーラでも出ているのでしょうか? それとも肉の効果?」
オーラ云々はともかく、囮として突出していたのと、肉の所持は理由としての信頼性は高そうである。
当然、エラはまだ滅んでいない雑魔鰐に対しての警戒は解かない。
いつでも機導術を放てるよう魔導機械に手を添えたままだ。
一匹には移動不能と行動阻害。もう一匹には移動不能のみ。となれば、エラのやることは決まっている。
わざと噛み付きを誘って雷撃を伴う光の障壁を攻勢防壁として展開し、その行動を阻害して噛み付きすら封じた。
一連の動作を終え、エラは満足そうに微笑んだ。
最後にやってきたミモザがえい、と雑魔鰐二匹の口を踏ん付ける。
「噛み付かれても困りますし、口を押さえておきましょうか」
それだけで、雑魔鰐の抵抗が驚くほど弱くなった。
踏んだのが常人なら、鰐とはいえど雑魔なのだから抵抗できただろうが、ハンターならばこの結果も仕方ない。
どうやら雑魔になっても身体の構造は元とそれほど変わらないらしい。
踏まれた挙句ミモザに魔法の矢で苛められる雑魔鰐の姿は巨大なだけにどこか哀愁を誘う。
エラがイヤリングの通信機能を使い、マリィアに連絡を入れ始める。
そしてエラ以外の全員が、一方向に視線を向けた。
視線の先、遥か向こうには、マリィアがいる。
準備は全て整っている。
通信が終了した。
一人、ひたすら機会が来るのを待っていたマリィアは、不意にぶるりと身体を奮わせる。
恐怖ではなく武者震いだ。
「……良いとこ取りで申し訳ない気もするが、せっかくのお膳立てだ。盛大に撃たせてもらうよ」
地面に伏せて射撃体勢を取っていたマリィアが呟き、満を持して長距離狙撃を敢行する。
銃声は轟音となり、轟音は獣の咆哮を思わせた。
放たれた銃弾が、味方を避けて正確に雑魔鰐に突き刺さる。
衝撃とともに肉と骨を貫いて反対側に抜けた弾丸は二匹目の雑魔鰐にも着弾し、二匹の肉片を盛大にばら撒きながら地面を穿ち、砂煙を上げた。
覚醒者用の武装とはいえ、とんでもない威力である。
まるで砲弾を受けたかのように大穴を穿たれ、衝撃でほぼ真っ二つに千切れかけた二匹の雑魔鰐は、ゆっくりと塵になって消滅した。
●戦闘終了
どうせついでなので、事後警戒がてら壊れそうな村の足場を補修して帰ることになった。
「思ったより楽させてもらったからね。構わないよ」
恐縮する村民たちに、アルトが笑う。
淡々と釘にトンカチを打ち付けながらも、マリィアは平然としている。
「ぶっ放してスカッとしたし、いいわよこれくらい」
「肉、残りませんでした……。成り立てじゃなかったみたいです。残念」
期待が外れたアシェールは可愛らしく拗ねている。
「村人さん達の大切な足場を守るのも、正義のニンジャの勤めですからっ!」
ルンルンはむしろ楽しそうだ。
「これもアフターサービスの一環ですので、お気になさらず」
言いだしっぺらしく、セレスティアは率先して作業をしている。
「たまにはいいですね、こういうのも」
大工染みたことをしていてもどこか優雅なのは、フェリアがお嬢様だからだろうか。
「ふむ。このメンバーならすぐ終わらせられるな」
進行状況を見たエラは、猛然と作業の速度を上げた。彼女は残業したくないので倍速する主義である。
「これで最後ですね」
ミモザが最後の補修を終える。
村の足場はすぐにも崩れそうだった箇所が無くなったので、これならば後は村民だけで何とかなるだろう。
今度こそ全てが終わり、ハンターたちは帰途に着いた。
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/06/18 08:37:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/16 10:13:42 |